腋窩下部(前腋窩線)MICSとは――より進んだ安全な方法 【2021年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

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◾️ミックス(MICS)の進化

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低侵襲心臓手術(MICS)は主に僧帽弁形成術などの僧帽弁手術を右第四肋間での小開胸で行う形で進歩して来ました。

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その開胸は一般には右前方で行われることが多いです。前側方開胸MICS

写真右は一般的な前側方右開胸MICSによる僧帽弁形成術の傷跡です。

後述のLSH法のため傷の数も最小限で患者さんの満足度は高いです。

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◾️次のステップ、腋窩下部ミックス

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私たちは大動脈弁手術をMICSで行うときに前腋窩(えきか)線の近く、つまり以前よりさらに背中側で体の真横側に近い、腕をおろせば隠れるほどの位置つまり腋窩下部に切開を移動して来ました。

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そうした経験の中で、この腋窩下部アプローチで僧帽弁形成術も十分安全にできることを見出しました。

そうするとASD(心房中隔欠損症)はじめ様々なMICS手術に腋窩下部アプローチが良いという判断になり、現在そのようにしています。

前腋窩線MICS.

写真右はこの前腋窩線アプローチMICSでの弁膜症手術の傷跡です。

より見えにくく、より高機能、といったところでしょうか。

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◾️腋窩下部法、他の方法との比較

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この新しいアプローチと従来のMICSつまり前側方開胸そして胸骨正中切開とを比較してみますと、

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                        腋窩下部アプローチ   従来法(前側方開胸)        胸骨正中切開

大胸筋   まったく切らない   一部切る        まったく切らない

ケロイド  起こりにくい     やや起こりやすい    よく起こる

傷跡    見えにくい      やや見えにくい     よく見える

痛み    軽い         軽い          強い

クルマの運転 退院後すぐに可   退院後すぐに可     退院後2-3か月

僧帽弁手術 可能         可能          可能

大動脈弁手術 可能        困難          可能

追加自己負担 ない        ない          ない

 

およそこういう結果になります。腋窩下部アプローチがぴったり来ない患者さん以外ではできるだけこれを用いる意義がお判りいただけるものと存じます。

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◾️なるべく少ない副次創で

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私たちの弁膜症手術のMICSは腋窩下部(前腋窩線)アプローチで、それも副次創が1つしかないLSH法で、目立たないきれいな傷跡の手術でこころの傷も小さくします。

内視鏡も適宜併用していますが、現時点で完全内視鏡をもちいる利点があまりないと思われるため、まだ補助的な活用にとどめています。

ロボット(ダビンチ)を使うと副次創が多くできるのに加えて多額の追加出費を患者さんにお願いする必要があるのに、患者さんに益するというデータがないためまだ様子見の状態です。

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◾️大切なこと

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こうしてMICSは年々進化しています。

しかし大切なことは心内操作つまり心臓の中での手術操作の質的向上です。

これを一義的に考え、ついで美容や早い職場復帰などを考慮するのが良いと考えています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第七十一号】大動脈解離と自動車事故

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いい心臓・いい人生 【第七十一号】大動脈解離と自動車事故
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:米田正始
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拝啓

明日から3月、三寒四温の言葉どおり、寒さと温かさが交互するこの頃ですが、皆様いかがお過

ごしでしょうか。

さて最近また悲惨な交通事故が大阪で起こりました。

当初はいったん止まったクルマが暴走したことから、事故というより事件を思わせたのですが、

結局運転者の方が大動脈解離を起こしてまもなく心臓の周りに血液が貯まり、心臓を圧迫して心

臓が動けない状態つまり心タンポナーデになられたためと判明しました。

こんな恐ろしい病気がいつ自分に起こるか心配だし、ましてクルマの運転中に起これば多数の人

たちにご迷惑をおかけすることになる、そう考えられた方も少なくないと思います。

またこの2月初めのスキー場衝突事故で女児が亡くなった原因が衝撃による大動脈解離と心タン

ポナーデであったという記事を想いだされた方もおられることでしょう。

大動脈解離は毎年多数の方々を襲う病気です。年間数千人以上の方が解離になるとも言われてい

ます。つまり他人事ではないのです。

奇しくも私が昨年秋から勤務しております野崎徳洲会病院では弁膜症や狭心症その他に対する心

臓手術に加えて、連日、大動脈解離の患者さんが来院され、緊急手術を行っています。そしてそ

のほとんどをお助けしています。そうした経験の中であと少し早く病院へ来て下されば助けられ

たのに、というケースもあります。今回のクルマの事故も同様で、あと一瞬早く対応されれば事

故にならずに済んだのに、と思うところがあります。

ということでこの大動脈解離による自動車事故を、どのようにして予防するか、あるいはせめて

悲劇を防ぐかをオールアバウトの健康欄に載せました。

大動脈解離は早期発見できないのか?―大阪・暴走事故

ご高覧いただけましたら幸いです。

なおこのメールマガジン「いい心臓、いい人生」70号でご紹介しました、上述のスキー事故もご

参照ください。

スキー場事故で女児の命を奪った心タンポナーデとは?

インフルエンザが流行っています。どうかお体を大切に
敬具
平成28年2月29日
米田正始 拝
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心臓外科医のブログ――くすのき・さつき 循環器カンファランス

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この2月27日に大阪府守口市で開催されたくすのき・さつき 循環器カンファランスに参加しました

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このカンファランスは大阪東部の循環器地域医療のために立ち上げられ、今年で10周年、今回で20回目となる、活発な研究会です。

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代表世話人の神谷匡昭先生(松下記念病院循環器内科)のお言葉を借りますと、

守口・門真(くすのき・さつきは両市の木と花です)を中心として、寝屋川・旭区や大東・四条畷まで北河内地域での循環器診療の向上を目指して発足されたそうです。これまでのべ1000名以上の先生方が参加されたということからその活発な内容が想像できます。

IMG_2135.

10周年記念誌も研究会の際に配布されました。代表世話人の神谷先生はじめ、各世話人の先生方のメッセージを拝見し、熱い想いが伝わってきました。

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くすのき・さつき循環器カンファランスの創設者であられる杉原洋樹先生のメッセージの一節につぎの文がありました。

「急性心筋梗塞や不整脈などに代表される心疾患は、突然発症し重篤な転帰に至る場合が少なくありません。迅速な診断と適切な治療が必要で、そのためには病診連携が極めて重要です。お互いの顔を知り、一緒に勉強し、情報交換することで、病診連携の充実を目指しています。」

これを拝見して参加して良かったと思いました。

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カンファランスは終始和やかで、しかし熱のこもった質疑がなされて勉強になりました。

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とくに松下記念病院の卒後1年目や2年目の研修医の先生らが頑張って発表され、それを皆でサポートしておられるのが素晴らしいと感心しました。

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重症の横紋筋融解の患者さんを病診連携で素早く診断、治療し事なきを得たケースや、僧帽弁逸脱症の患者さんで非定型的な拡張期余剰心音の検討など、プライマリケアに根ざした良い検討がされました。ただしこの患者さんは僧帽弁形成術の適応があるのに拒否されて経過観察になっているとのことで、これは私たちが力を入れている先進的MICSでの弁形成なら患者さんも受け容れやすいのではないかと思いました。

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またレフラー心内膜炎による左室内血栓で左室心尖部が充満した画像が供覧され、私はこうした病態に対する手術経験を多数持っているためコメントさせて戴きました。レフラーがらみの血栓だけであるか、あるいは心尖部肥大型心筋症左室緻密化障害が背景にあるかの鑑別もお願いしておきました。いずれも稀な病態ですが、たまたま私がまとまった数の経験を持っているため、研修医の先生方にも勉強して頂こうと思った次第です。いずれの場合でも外科手術で治せるというのも理由の一つです。

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話題提供のセッションでは松下記念病院のリハビリテーション科理学療法士の橋本先生が同病院での積極的な取り組みをお話されました。心臓内科のみならず、心臓外科の観点からもこれからますます発展して欲しい領域です。

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症例供覧のセッションでは我が野崎徳洲会病院心臓血管外科から王先生に弁膜症に対するMICS手術について講演して頂きました。とくに私がこれまで開発しちからを入れて来たLSH法や前腋窩切開のMICSを紹介して頂きました。有益なご質問やコメントを戴きありがとうございました。これからもっと多数の患者さんたちに少ない苦痛と早い仕事復帰、そして見えにくくきれいな傷跡で心臓手術を笑顔で受け容れて戴けるきっかけになればと願っています。

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同セッションでは大阪市立総合医療センター 心臓血管外科の佐々木康之先生が虚血性心筋症に対する左室形成術の手術経験(SAVE手術Dor手術)についてお話されました。こうした手術を100例以上経験して来た私なりにコメントしたいことがいくつかあったのですが、あまり専門的な話になると開業医の先生方のお役に立てない懸念があったためまたの機会にさせて戴こうと思いました。

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しかしいずれのご発表と討論も内容のある、学ぶことの多い、楽しいものでした。

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そして特別講演は国立循環器病研究センター研究所の斯波真理子先生の「脂質異常症治療最前線」でした。私は残念ながら所用のため途中から退席しましたが、コレステロールの研究者から多数のノーベル賞受賞者が生まれた歴史は、人類がコレステロールと闘って来た歴史を物語るものと、心に残るものがありました。また機会をみつけて同先生のお話をお聴きしたく思いました。

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次回のくすのき・さつき循環器カンファランスにも是非参加したく思いました。神谷先生、世話人の先生方、スポンサーさん、お疲れ様でした。

 

2016年2月28日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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心臓外科医のブログ 第46回日本心臓血管外科学会にて

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恒例の日本心臓血管外科学会に行って参りました。

今回は名古屋大学血管外科の古森公浩先生が会長を務められ、同先生のお人柄と名古屋の良さが感じられる学会総会でした。

今回のテーマは「アカデミックサージャンを目指して」というもので、研究マインドを常に持って血管外科を極めてこられた古森先生らしいものでした。

シンポジウム「近未来のCABGはどうあるべきか」ではここまで磨き上げられたCABGとくにオフポンプやスケルトン化された動脈グラフト、左小開胸のMICSなどを軸とした、より完成度の高いCABGと、薬や再生医療の併用などが発表されました。

20年ほど前にトロントで学んだCABGと比べてここまで進化したかという感慨がありましたが、同時に、カテーテルによるPCI治療の躍進ぶりと比較すると小さい進歩の積み重ねを超えず、もっと革新的なブレイクスルーが必要とも感じました。

もっともハートチームとして最良最適な心臓病治療を行うという意味では患者さんがお元気になり、ハートチームの個々のメンバーが張り切って仕事できておればそれで良く、その中で心臓外科医が新たな活躍の道を開拓して行けばという気もしました。

その後に講演されたKappetein先生(EACTS、ヨーロッパ心臓胸部外科の重鎮)の内容も同じ方向性であると感じました。

冠動脈の複雑病変例については新型ステントと比較してもまだまだCABGの優位性は続き心臓外科の貢献度が急に揺らぐことはなさそうですが、ハートチームとしての医療をより充実させていくことが大切なようです。

特別講演はノーベル賞受賞の赤崎勇先生の「青色発光ダイオード(LED)はいかに創られたか」でした。

世界のほとんどの研究者がギブアップしたこの研究を初志貫徹して成功された、その経過の一部を拝見し感動しました。

お話の中で「我ひとり荒野を行く」というくだりがありました。これこそパイオニアの心意気と感じ入っていたところ、口の悪い友人に「お前にそっくりや」と言われて光栄というよりお恥ずかしい限りで、今日頂いたエネルギーを患者さんの治療に向けることでもっと貢献したく思いました。

近年の医療事故の中で大動脈手術時の脳神経系合併症と心臓手術全般における心筋保護の知識の欠如が指摘されている中、この解決へ向けてのセッションがいくつかありました。

特別企画2 心大血管手術の中枢神経保護戦略はその一つで、大変有用なセッションでした。弓部全置換術での脳保護は低体温循環停止+逆行性脳灌流から選択的順行性脳灌流へと変遷し、ある程度の成績改善を見ましたがLeukoaraiosisやシャギー大動脈例などまだまだ課題は残ります。大動脈解離への外科治療も昔と比べれば長足の進歩を遂げた領域ですが、脳の灌流不全はまだ問題で、早期に脳灌流を確保することで一層の改善が見込まれます。rSO2などのモニターで覚醒遅延パタンをより詳細に調べればここでも成績の改善が可能でしょう。胸腹部大動脈の手術で最大の問題ともいえる脊髄対麻痺への対策はこれまで知られている多数の方法、たとえばAK動脈同定と保護、脳脊髄液ドレナージ、MEP、低体温、再建順序とストラテジー、肋間動脈再建や灌流、至適血圧の維持、良好な血行動態の維持などをさらに磨く必要があります。ただ脳脊髄液ドレナージひとつをとっても合併症がゼロではなく、さまざまな注意が必要です。MEPモニター所見に応じて麻酔薬プロポフォールの量を調整すること、MEPが良くても血圧が低いと脊髄麻痺が起こり得ること、脊髄灌流のStealを減らす努力、左心バイパス時に血圧コントロールが容易な閉鎖回路の利点、脳脊髄液ドレナージの押しどころと引きどころ、麻薬の適切な使い方、などなど盛りだくさんの内容でした。

もう一つの問題である心筋保護については、上田裕一先生の理事長講演でも解説がなされ、同先生をはじめ心臓血管外科学会で編集した心筋保護法の教科書が紹介されました。

脳保護にせよ、心筋保護にせよ私たちの世代は多大な時間とエネルギーを割いて研究し勉強したのですが、最近はそうした過去の大切な遺産を知ることなく、合併症を起こすという残念な事例が増えているようで、若い心臓外科医の先生方にはぜひこうした人類の英知を学んで頂きたく思いました。

最近のトピックスのひとつである大動脈弁形成術についてパリのLansac先生が概説されました。STJとAVJがらみのeHの調整、シェーファーバンドなど弁形成おたくの間ではすでに常識化している内容でしたが、完成度をますます上げられているようで、興味深く拝聴しました。

森之宮病院の加藤先生のスタンフォードB型大動脈解離に対するTEVARのお話は大変明快でわかりやすく参考になりました。野崎徳洲会病院でも積極的にTEVARや外科治療を多数行っている領域だけに興味をもって拝聴しました。かつてはB型解離は保存治療と教えられたものですが、その長期成績は悪く、もっと積極的な治療が必要と思って来ました。偽腔が拡大するパタンを知り、早期治療で治してしまえば多くの患者さんたちに福音になると確信しました。

夕方の不整脈外科研究会では名古屋大学の碓氷先生の当番世話人で大動脈弁手術時の心房細動治療について議論が交わされました。

不整脈外科研究会は前半のみ参加させて頂き、後半は自己心膜等による大動脈弁再建術シンポジウムに参加しました。東邦大学大森病院の尾崎重之先生が開発された自己心膜大動脈弁再建法の報告を拝聴し参考になりました。

学会2日目には僧帽弁形成術の正中切開VS MICSのセッションがあり、経験の着実な蓄積を感じました。

弓部大動脈瘤のセッションでは川崎幸病院の多数の外科治療の経験が印象的でした。同時にZone 0や1でのハイブリッド治療の進歩も報告があり、Totalデブランチから部分デブランチまでさまざまなデブランチとTEVAR治療を組み合わせている私たちには大変興味深いセッションでした。なお弓部大動脈手術での低体温の安全性と有用性の発表もあり、昨今の安易な常温虚血への警鐘として良かったと思います。

大動脈弁形成術のUpdateというセッションでも上記Lansac先生のお話と同様、着実な進歩と蓄積が感じられました。大動脈弁輪形成リングもうまく使えば有用と思うのですが、現状ではシェーファーバンドが確実という印象を受けました。しかしリングも使い方や適応によっては利点があり、今後の展開を期待したく思いました。

ニューヨークのDavid Adams先生が僧帽弁形成術の講演をされました。これまで何度もお聴きしていますが、いつも何か得るものがあり今回も拝聴しました。

僧帽弁尖の強度を考えて、交連部のマジックSutureには心膜フェルトを使うべき、というくだりはきめ細かい提示で感心しました。逸脱部の隣の、どちらかと言えば低形成部の処理などもこれまで同様の経験がありなるほどと思いました。

近年の運動負荷エコーの進歩を受けて、ひとつ質問しました。従来の安静時エコーでは問題ない僧帽弁が運動エコーでは狭窄っぽくなるという報告があったため、今後は運動負荷エコーで術後評価し、それに合わせて弁形成も改訂すべきだろうかということをお聴きしました。するとこれは自分だけでは答えられないと、エコーの大家Martin Roberts先生にバトンを渡され、同先生はExcellent Questionと持ち上げながら、症状改善している普通のケースにはそう神経質になる必要はない旨のお答えでした。確かに運動能力の必要度に応じた対応で、アスリートのような患者さんなどに運動負荷エコーを行うので十分なのかも知れません。

私自身の発表は3日目に2つの会長要望演題の中で行いました。

ひとつは低心機能を伴う成人先天性心疾患のセッションで、肥大型閉塞性心筋症HOCM、修正大血管転位症cTGAに伴う三尖弁閉鎖不全症TR、左室緻密化障害、冠動脈ろうについて、ここまでの経験を報告しました。いずれも比較的稀な病態で経験の蓄積が少ない施設が多く、興味をもって聴いていただけたようです。最適なタイミングで手術をし、アフターケアも充実させ、心機能を低下させずに長期予後を改善するという努力を今後も続けたく思いました。

また有益なご質問をいただき、ありがたがく思いました。

今一つは午後の「虚血性心筋症+僧帽弁閉鎖不全症に対するMVPでは弁下組織への手術介入は必要か」のセッションでの発表でした。

私が開発したPHO(乳頭筋最適術)による僧帽弁形成術は生理的で、前尖のみならず後尖のテザリングも改善し、心機能も改善することをデータでお示ししました。

同じ患者さんで乳頭筋の吊り上げ前と後で弁のテザリングが取れ、弁逆流が消えることをお示しし、その意義を見て戴きました。座長の荒井先生も最近は理解が進んで議論がかみ合うようになりましたね、と語っておられたのが印象的でした。

PHOを採用して下さる施設が徐々に増え、世の中に広く貢献できればこれほどうれしいことはありません。そのために確実で効果的なやり方を発信し続けて行ければと思いました。

さまざまなセッションの他に懐かしいあるいは仲良しの先生方と語る機会がいくつもあり、楽しい学会でした。

同時に若手と接する機会をより大切にして皆さんの展開に役立つような努力も続けて行こうと思いました。

会長の古森先生、立派な学会をありがとうございました。

 

2016年2月20日

米田正始

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第七十号】スキー場事故と心タンポナーデ

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いい心臓・いい人生 【第七十号】スキー場事故と心タンポナーデ
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:米田正始
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時間の経つのは速いものですでに2月を迎えました。

つい先日、広島県のスキー場で悲惨な事故が発生しました。

スキー教室で学んでいた12歳の小学生女児とスノーボードの30代男性が衝突し、女児はまもなく

死亡、男性も首の骨をおり四肢麻痺の状態という事故です。

女児の死因は衝突による大動脈の解離と、それに続発する心タンポナーデであると報道されてい

ます。

心臓血管外科・心臓手術とスキー場とは直接つながらないように見えるかもしれませんが、意外

なところで関連があるようです。

楽しいはずのスキー・スノーボードがこんなことになるとは誰も想像さえしなかったでしょう。

こうした事故が起こらないよう、関係者には皆安全に強い関心を持って頂きたいものです。

その一助にと、AllAboutに「スキー場事故で女児の命を奪った心タンポナーデとは?」という記

事をUpいたしました。

とくに胸や頭で衝突するというのは危険です。

本件のようにスピードが出ている場合はいっそう危険性が増します。

これらを踏まえて、安全で楽しいスキーにして頂ければ幸いです。
まだまだ寒さが続きます。

風邪など召されぬようご自愛ください。
敬具
平成28年2月5日
米田正始 拝
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いい心臓・いい人生 【第六十九号】 NHK名古屋の文化講座が近づきました

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いい心臓・いい人生 【第六十九号】NHK名古屋の文化講座が近づきました
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:米田正始
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ひところの暖冬とは打って変わって寒い日が続きます。

皆様風邪など召されておられないでしょうか。
さて恒例になりましたNHK名古屋文化センター講演が近づいて参りました。

これまでの心臓病や心臓手術関連のお話のときにも多数の方々から悩み相談や疑問解消のご質問

を多数いただきました。
そのため「病のぎもん解消!~心臓病と血管病~」という質問に特化した講演を昨年秋に大阪梅

田と京都のNHK文化センターにて開催させて頂きました。

好評を頂きましたので、名古屋地区でも同様の講座を開くことになりました。
これまでの話題は実に多種多様で、狭心症、心筋梗塞、ステント、冠動脈バイパス手

術、糖質制限食、心臓リハビリ、血圧コントロール、コレステロール、不整脈、ペースメーカー

、サプリ、慢性腎不全・血液透析、弁膜症、MICS、僧帽弁閉鎖不全症と僧帽弁形成術、

胸部大動脈瘤、弓部大動脈瘤、左室流出路狭窄、HOCMなど盛りだくさんでした。
昨年秋から野崎徳洲会病院にて心臓手術を行うようになってからまだ3か月ですが、すでに多数

の緊急手術や重症手術でお役に立つことができています。病院そのものが断らない救急病院とし

て有名であることもあって、これまでより社会貢献できているように感じています。

こうした経験の中からもお役に立てるお話や質疑応答ができればと思います。
このように2方向の、質疑応答でお互いに語る場ですので、心臓病関連でお悩みの方はぜひご参加

下さい。また質問したいことを簡略にメモにしておかれることをお勧めします。
それでは1月31日日曜日13:30にNHK名古屋放送センタービル7階(電話052-952-

7330)にてお待ちしております。

敬具
平成28年1月21日
米田正始 拝
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いい心臓・いい人生 【第六十八号】あけましておめでとうございます

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いい心臓・いい人生 【第六十八号】あけましておめでとうございます
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編集・執筆:米田正始
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皆様、新年あけましておめでとうござます。

今年もよろしくお願い申し上げます。
昨年は私にとって大変動の一年でした。

 

郷里にハートセンターを立ち上げて地元にご恩返しをと努力していたのですが、重症患者さんや

、大きな手術ができない状況となり、そこに居る意味がなくなったため異動いたしました。確か

に足腰が弱い病院ではいくら指導してもプロフェッショナルなひとたちばかりではなく、質の担

保ができないため、心臓手術はごく簡単なものに限る、あるいはやらないのが良いと思うように

なりました。その分、超急性期病院の熟練チームが引き受ければ患者さんのためになるからです

 

異動先はいくつか候補地がありましたが、実家の都合でなるべく奈良県から近いところで、かつ

病院として機能が高い、患者さんを救命する超急性期病院にふさわしいところということで野崎

徳洲会病院にて手術することになりました。

 

野崎徳洲会の中川院長、平井部長はじめ関係の先生方に厚く御礼申し上げるとともに、野崎での

手術・勤務を勧めてくださった仁泉会病院の伊泊理事長にも感謝申し上げます。

 

これまで仁泉会病院で行っていた外来は火曜日と木曜日の午後に絞って続け、他の日時は野崎徳

洲会で手術や指導をすることになりました。
結果的には超急性期病院と、それよりややゆったりした急性期―慢性期病院とのコラボの形とな

り、それぞれの長所を活かして患者さんをお守りしやすくなりました。

 

野崎で仕事を始めて3か月が経ちますが、すでに急性大動脈解離や大動脈瘤破裂などを中心に多

数の緊急手術に関与し、さらにトップセンターでも断られた拡張型心筋症の患者さんも手術を乗

り切り、体力を回復させつつあります。また傷跡が目立たないMICS手術を僧帽弁形成術だけでな

く大動脈弁形成術などにも使えるように進化しました。一般に難しいと言われるMICSでの大動脈

弁置換術は当院ではすでにルーチン手術になりつつあります。左房粘液腫のMICSでの切除や巨大

左房に続発する血栓症や心房細動などもMICSで治すことができ、これからより多数の患者さんた

ちのお役に立てそうです。

 

以前の病院では実施できなかった下肢虚血ASOへの血管新生・再生医療も野崎徳洲会にて現在建設

中の研究棟がオープンする本夏から準備開始できそうです。時間はかかりましたが、結果的には

より多くの方々のお役に立てることになるでしょう。

 

一方、実家の米田医院が父の高齢化のため休院となりました。永い間この医院を支えて下さった

患者さんたちにご不便をおかけして誠に心苦しい限りですが、何かお困りの際にはご連絡頂けれ

ばお世話させて頂きます。一部の患者さんたちは仁泉会病院の私の外来へご相談に来ておられま

すが、やや遠方のためお越しになれない方々には手紙やメールなどでもご連絡を頂けましたら幸

いです。

 

このように私にとって大変動の一年でしたが、心臓外科につきましては結果的には大きな進歩を

果たした一年になりました。
この間、ご支援やご指導を賜った皆様方に厚く御礼申し上げます。

末筆ながら皆様方のご多幸とご健勝を祈り上げます。

 

敬具
平成28年1月1日
米田正始 拝
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お便り120: マレーシアから僧帽弁形成術のためお越し下さったエホバ証人の患者さん

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僧帽弁形成術は患者さんにとって弁置換術とくらべてメリット・利点があります。

このメリットはお若い患者さんの場合、とくに大きいものがあります。

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なかでもこの僧帽弁形成術をMICSつまり骨を切らない、傷跡が小さく見えにくIMG_1884い形で行うのは美容の向上や痛みの軽減に加えて心の傷まで小さくする利点があります。

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私たちのLSH(Less Satellite Hole)法はMICSの中でも創の数が最少で傷跡の面積が格段に小さく、海外からも引き合いがある方法です。世界一きれいとよく言われます。

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それらに加えて、意外に知られていないことですが、MICSの手術は無輸血が達成しやすい傾向があります。ただしうまくやればの話です。

というのは胸骨を切らないため骨髄からじわじわと出血し続けるという不確定要素がないからです。とくにLSHの場合、胸壁に開ける穴が最少のため、そこからの出血も少ないのです。そういう前向きの観点から、無輸血を達成するためのMICSとLSHを行うことがよくあります。

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以下の患者さんはエホバの証人の信者さんで、遠くマレーシアから私の外来へお越し下さいました。

まだ奈良の病院にいたころでした。

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私がその病院では重症やLSHなどの手術、あるいは絶対無輸血という過酷な条件のエホバの証人の信者さんなどの手術ができなくなり、これでは患者さんたちのご期待に沿えないと、大阪の病院へ異動した際に、一緒に移動して下さったばかりか、野崎徳洲会病院での私の心臓手術体制が整うまでの数か月間を我慢して待って下さったのでした。

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私にとっては恩人と言っても過言でないほど絆の強い患者さんたちのお一人でした。

その患者さんのご期待に沿う手術、つまり傷跡が見えにくいMICSでの僧帽弁形成術を絶対無輸血で行うことが安全に完遂できました。結果的には楽勝でしたが、注意に注意を重ねての慎重手術でした。

結果は何重にもうれしいことでした。

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以下はその患者さんが、心臓リハビリの病院を退院される日に、私の外来が長引いてご挨拶ができなかったことへのお詫びメールに対して送って下さったお返事です。

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**********患者さんからのお返事メール*********

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米田先生

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ご丁寧にメールをくださり、ありがとうございました。
こちらこそ、退院の日に何のご挨拶もしないまま帰ってしまい、申し訳ありませんでした。

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先生のおかげでこのような元気な身体で無事に退院の日を迎えることができ、感無量でした。
退院後も毎日リハビリを意識してできるだけ身体を動かしたり歩いたりと、元気に毎日を送っています。

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ところで、先生のホームページ上にメッセージを載せていただけるようで、大変光栄です。また後日改めて先日のメールへの追記の形でお便りを送らせていただいてよろしいでしょうか?少しお時間を頂けると助かります。

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退院して外の世界が随分と寒くなっているのに驚きました。先生もどうぞお大事になさってください。
またメールさせていただきます。

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それからしばらくして追記を頂きました。

マレーシアに戻られたら病気のことは忘れて仕事や遊びを楽しんでください。

また外来でお元気なお顔を見せてください。

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********患者さんからのお便り、その2**********

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米田先生

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先生に手術して頂いた日から約一ヶ月が経ちました。

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振り返ってみると、自分がほんの一ヶ月前に心臓の大手術に直面していたことが信じられないくらい元気で、友人たちにも びっくりされています。

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手術自体もMICS手術で、脇の下の部分をたった7センチほどの切開で手術していただきましたので、正面からはほとんど傷が見えず、また手術時より傷の色も目立たなくなってきています。

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心臓の手術なのだから傷跡が残るのは仕方ない、と覚悟していましたが、想像をはるかに超える小さな、そしてきれいな傷跡で本当にホッとしました。

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今後、今よりもさらに傷跡が小さくなるとのことで、半年後、一年後を楽しみにしています。

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さらに、MICS手術のおかげで骨を切らずに済んだので、術後すぐからほとんど運動制限がなくリハビリに専念できたことも早い回復につながったのでは、と思います。

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術後三日目には集中治療室の中で歩き回れるようになり、一週間ほどでエアロバイクをこいでのリハビリができるようになりました。

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そして一ヶ月経った今では遠くまで歩いたり、ショッピングセンターに買い物に出かけたり、階段を自由に上り下りできる位元気になりました。

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弁膜症と診断を受けた時や、手術が必要な時期にきているとお話があった時には、不安な気持ちや何とか手術を回避したい気持ちがありましたが、先生のじっくり時間をかけた丁寧なインフォームドコンセントを受け、徐々に不安は薄らいで、どちらかというと心臓が悪くなりすぎない段階で早めに治したい、という気持ちになっていきました。

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先生の的確な診断、そして手術のタイミングに関するアドバイスを信頼してお任せして大正解だったと思います。

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最後になりましたが、米田先生には、私の宗教上の信条を尊重した方法で手術や治療を施してくださったことに特に感謝しています。

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米田先生という素晴らしい外科医の先生に出会うことができ、また温かく親切な看護師や病院スタッフの方々に支えられて、本当に恵まれた環境の中で治療に専念することができました。

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これからもリハビリをがんばって、先生にきれいに治していただいた心臓を大切に使っていきたいと思います。

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定期検診の際には、より元気になった姿で先生にお会いできることを楽しみにしています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り119  心臓手術から10年が経ちました

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永いお付き合いのある患者さんとは絆が強くなるものです。

とくに手術前の危険な状態や大きな手術を乗り切った患者さんのばあいは絆も格別なものがあります。

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下記の患者さんはちょうど10年前、私がまだ京大病院で勤務しIMG_0212ていたころ、連合弁膜症それも巨大な脳梗塞を患われたあとで、しかも過去に心臓手術を受けられたあとの再手術でした。

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リウマチ性僧帽弁狭窄症のため弁形成術を受けられ長年経ってすっかり壊れた僧帽弁を人工弁で置換し、大動脈弁も同様に置換し、心房細動に対してメイズ手術を行いました。脳の保護には万全を期しました。

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リスク(危険性)はあっても是非元気になりたいという患者さんの想いをくんで、当時のチーム諸君は皆よく頑張り、患者さんもすっかりお元気に退院して行かれました。あまりリスクの高い手術はやらないようにという当時の一部の先生方のご意見はありがたかったのですが、こうした患者さんを見るたびに努力は報われるという想いを新たにしてしまいます。

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その後患者さんの会などにもご出席くださり、旧交を温めていました。

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つい最近、手術から10周年ということでお便りを頂きました。

そうか、もう10年も経つんだなあという感慨とお元気で楽しく暮らしておられることで皆の努力が報われたという喜びを頂きました。

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以下はその患者さんからお便りです。

またお元気なお顔を拝見する機会があればうれしいです。

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******** 患者さんからのお便り ************

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弁置換十年後の感謝状

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拝啓

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「庭先やノスタルジック石蕗黄なり」
お礼状を出したくて高の原ハートセンターにお聞き致しましたら御退官されたとおっしゃいました。
米田先生長い間おつかれさまでした。

お便り119.

素敵な奥様と素晴らしい時間をお過ごしになっていらっしゃる時に申し訳ありませんが感謝を申し上げたくてペンをとりました。

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2005年12月12日二つの弁置換、心房細動予防の処置をしていただき十年が経ちました。
この十年間、最も充実し安心して過ごせてまいりました。人生悲喜こもごもですが、毎朝めざめさせていただいていることが一番の大きなよろこびで、しあわせです。

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この間に、死にそこないの私にも初孫を授けて下さいました。今までしたくてもできなかった事、海外留学ニュージーランド、そして国内海外旅行もできました。国内はかつて私が倒れた時、五時間も見守ってくれていた柴犬キャロットと犬の泊まれるペンションでの旅も致しました。心臓手術前、倒れて死にたい死にたいと思っていた頃、娘の海外ホームステイで海外の素晴らしさを知りました。おかげさまにて手術の後は主要七カ国プラス五カ国を訪れることができました。

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忘れられない悲しみは私が病に倒れた時、見守ってくれていた犬のキャロットが十七才で永遠の旅立ちをした事です。

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2008年頃から不整脈が出てしまいこれまで体を酷使して来たからと反省致しました。四十九年前の手術の後十七才で体育会の百メートル走で十四秒四、一位を取ったのが人生最後の百メートル走でしたが、その後も走る練習は好きでした。料理の勉強もしたくて昼間近所の外科にて仕事をして育英会の返金をしつつ、月二回夜間の料理専門学校も通いました。

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こうして酷使したため残念ながら倒れてしまったのです。でもありがたい事に弁置換していただいた後は熊野古道中辺路も楽しみ歩かせていただきました。
不整脈のほうは本年八月二十四日京大病院にてカテーテルアブレーションをしていただきました。

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今は早朝里山の散歩より一日が始まります。筆舌に尽くし切れない感謝でございます。
夢と希望を持ち十一年目を父の分まで生きさせていただきたいと思います。

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「山眠る父の命日はるかなり」 二十才時死亡

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米田先生くれぐれも御自愛なさり素敵な時間をおすごし下さいませ。

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大変お世話になり助けていただいた**先生、**先生の住所がわからなくてとても残念です。
お礼を申し上げたかったのですが。
お元気でいらっしゃったらいいなと祈っています。

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2015年 12月12日         米田先生

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第六十七号】杉良太郎さんと大動脈弁狭窄症

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いい心臓・いい人生 【第六十七号】杉良太郎さんと大動脈弁狭窄症
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:米田正始
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拝啓
冬にしては温かい日と寒い日が交錯するこの頃です。

皆さんお元気にお過ごしでしょうか。

今日はもうクリスマス・イブで今年も残すところわずかになりました。

さて歌手で俳優の杉良太郎さんが先日、大動脈弁狭窄症に対する手術、大動脈弁置換術を受けら

れたことが報道されました。

それに対するご質問を頂いたため、All Aboutなどに解説記事を載せました。

http://allabout.co.jp/gm/gc/461132/ です。

ご高覧頂けましたら幸いです。

この大動脈弁狭窄症は重症になると突然死することもあるため、注意が必要です。

杉さんの場合も、ちからを入れておられたテレビドラマ「下町ロケット」の撮影終了後、すぐに

手術を受けられたようです。

緊迫感が伝わってくるような報道でした。

このドラマでの杉さんは重厚な演技をしておられましたが、何となく苦しそうに、かつ顔色が悪

く見えたのは私の思い過ごしでしょうか。

ともあれ、この病気は要注意です。しかし手術ですっかり元気になることができる、いわば「治

せる病気」でもあります。

予防はまだ難しいのですが、早期発見と、重症の場合は早期治療がいのちを救います。

早期発見には「胸痛」「息切れ」「失神発作」症状のひとつでもあれば、速やかにかかりつけ医

か循環器内科医にご相談頂くことが大切です。

あるいは私にご連絡いただいても良いかと存じます。診断は心エコーにて一発でつきます。

治せる病気でいのちを落とすのは残念なことです。読者の皆様におかれましては、上記の記事を

参照いただき、安全に暮らして頂ければと存じます。

なお「節約社長」のコラムにも同じテーマで解説を加え、ここではかかりつけ医の重要性やその

見つけるコツなども簡単にお示ししました。
ご参考になりましたら幸いです。

敬具
平成27年12月24日
米田正始 拝
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