東京HOCMフォーラム2015にて

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恒例になったこのHOCMフォーラムに今年も参加して参りました。
4回目の今回は慶応大学循環器内科の前川裕一郎先生が当番幹事で開催されました。

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学会が多数でき、それぞれ内容のある学術集会が開かれている昨今ですIMG_1838が、この会のようにHOCMに特化してまる一日、さまざまな角度から深く掘り下げることができる機会はそうありません。

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参加して有意義な一日だったと思います。私なりに感じたところをざっとお書きします。

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まず教育セッションとしてHOCM診断や評価のためのCTを榊原記念病院の歌野原祐子先生が、心エコーを東京大学の大門雅夫先生が、HCMへの治療デバイスとしてICDを榊原記念病院の井上完起先生が概説されました。

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私は前日夜まで大阪で仕事していたため、朝一番で出発してもこのセッションには間に合いませんでしたが良い内容であったと聞きました。

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それから症例発表が行われました。
日本医大の厚見先生は不安定な潜在的HOCMに対して複数の圧格差誘発試験により高度な圧格差を証明し、PTSMAで軽快した一例を報告されました。

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安静時には圧格差が見えなくても負荷をかけると変動して圧格差が生じるケースは私も経験があり負荷エコーの有用性を示すものと思います。変動型のほうが軽症とはいうものの、体を動かせない、仕事ができないというのは重症と言ってよく、しっかり治療するのが正しいと再認識しました。

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心臓血管研究所の嘉納先生は症状の管理に難渋し、最終的に外科治療を要したHOCM症例を報告されました。
中隔枝がちょうど良いところに存在しないときはアブレーションには無理があり、外科治療の適応のひとつになります。とくに乳頭筋異常を伴えばより外科が役に立ちます。これらを確認できた報告でした。

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仙台厚生病院の伊澤先生は事前の心臓CTが焼灼する中隔枝の決定に有用であったHOCMの一例を報告されました。左室のCTと冠動脈CTを併せて考えるとより正確な位置決めができ有用です。画像診断の進歩は素晴らしいと思いました。

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国立循環器病研究センターの天木先生は僧帽弁形成術後に発生した僧帽弁閉鎖不全症に対してアブレーションが効いたS字状中隔のケースを報告されました。

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僧帽弁形成術が増えた現在、こうした難症例をときおり経験します。術後はすっかり元気になって頂いてこそ弁形成ですので、私は術中にSAM予防策をより徹底して行うか、そうでなければモロー手術を同時施行するようにしています。参考になった報告でした。

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ランチョンセミナーでは日本医大の天野先生はLGE(ガドリニウム遅延造影)だけではない、HCMの造影CMRを解説されました。

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LGEは主に心筋の瘢痕を見ているためDCMなどで問題となる線維化は良く見えません。また心筋の壊れはじめの状態を見つけることも難しいです。この点、T1マッピングはびまん性線維化の評価ができ、そして造影後シネ画像で梗塞と閉塞の同時評価ができ、これらを従来の検査法に加えれば診断精度はより上がるわけです。今後の展開が楽しみになりました。

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午後のセッションのトップバッターとして榊原記念病院の高梨秀一郎先生がSeptal Reduction Therapyのお話をされました。
HOCMの外科治療を積極的に行っている施設は少数で、この手術を経験したことのない心臓外科医が多数おられます。そうした中でこの治療を定着させようというご努力は立派と感心しました。
診断の進歩や病態の理解が進み、左室中部閉塞型が増えたこともあり、最近はかつての経大動脈アプローチだけでなく経心尖部アプローチが増えているとのことでした。MayoクリニックのSchaff先生の報告以来、この方法が理解され、今後伸びるものと思いました。

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私はMICS技術を応用し、経大動脈弁で左室中部閉塞までは十分対処でき、その場合皮膚切開も小さく傷跡を見えにくくできるため、左室をなるべく傷つけないという方針で進めて来ました。しかし心尖部にも病変があるケースが増えているため、左室心尖部アプローチが役立つときには積極的に使おうと思いました。左室形成術で100例以上の経験蓄積があり、この経験で心尖部アプローチは大変やりやすいためこれからより重症にも対応できることを期待しています。

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なおこの心尖部肥大型HCMは従来知られていたよりも予後が悪く、今後の治療の進歩で救われる患者さんが増えるものと感じました。

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引き続いて共催セミナーがありました。
慶応大学の湯浅先生はエンドセリン受容体拮抗薬を用いたHCM治療の可能性について講演されました。ノーベル賞のiPS細胞のおかげでHCMの病態の理解が進み、現在この病気はサルコメア構造遺伝子に異常がある、サルコメア病であることがわかっています。これまでの薬物では特異的なものがないため成果も不十分です。エンドセリンのひとつであるET1にはETAとETBの2つのレセプターがあり、このうちETAのブロッカーを使うことで心筋の乱れが減ることが分かったとのことで、今後の展開が楽しみです。

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それからまた症例発表が続きました。
その中で小倉記念病院の林先生の心不全を呈した重症AS・大動脈弁狭窄症合併のHOCM症例が目につきました。
86歳とご高齢のためなるべく侵襲を下げたい、しかし治療が中途半端ではかえって不利、ASとHOCMを順々に治すか、その場合どちらを先にするか、あるいは外科手術で両方同時に治すか、さまざまな議論がありました。
まさにケースバイケースで、しかし安全第一で、後悔を残さない治療が大切と思いました。

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同様の症例報告が慶応大学の秋田先生からもありました。とくに悪性リンパ腫が見つかったとなると、それを進行させないよう、なるべくカテーテル治療を優先させるのが賢明と思いました。
またこうした狭窄が複数ある症例では通常のドップラー計測ができず、カテーテルでも微妙な位置決めが必要で必ずしも容易ではありません。心エコーではプラニメトリーで眼で見ての評価が必要となり、より熟練が必要かと感じました。

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これにも関連して、公立陶生病院の浅野先生が心エコーによる加速血流評価が有効であった複合型HOCMの一例を報告されました。

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ついで教育セッションとして、
1. HCM診療における遺伝子診断の役割(愛媛大学の大木元明義先生)
2. 失神を示すHCMの評価(榊原記念病院の高見澤格先生)
3. 日本におけるHCM登録研究(高知大学の北岡裕章先生)
の講演がありました。

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S字状中隔によるHOCMでは遺伝子変異が10%にしかないのに、心室中隔全体の肥厚では80%に遺伝子変異がある、しかし心尖部型では30%程度というのは興味深いデータでした。

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失神の鑑別では1.心室性や上室性不整脈、2.徐脈性不整脈、3.左室流出路閉塞、4.自律神経の障害、5.心筋虚血と拡張障害の相互作用、などを総合的に勘案する必要があり、また最近6か月以内の原因不明の失神では突然死の危険性があるというのは重要なメッセージと思います。HCMでも30%の患者さんに失神が起こるというのも同様です。

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最後に共催セミナーII パネルディスカッションが開催されました。
高山守正先生とともに不肖私も座長として仕事させて戴きました。

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HCMの年代別治療というテーマで、
まず大阪大学の小垣先生が小児領域におけるHCM重症例への対策の現状を概説されました。HCMの多くは特発性つまり原因不明で、1歳未満で診断がついた患者さんは予後が悪く、2歳までに心不全死することが多いのですが、学齢期に達しても心臓突然死という問題があること、治療では代謝性のHCMでは欠乏する酵素を補うことで改善できるものの、そうした治療ができないタイプでは有効な治療が難しく心移植に頼る傾向があること、などなどをお話されました。

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ついで榊原記念病院の内藤先生が40歳未満のHCMに対する心筋切除術を解説されました。40歳未満のケースでは左室中部閉塞型が多いためか左室内圧格差が低く僧帽弁閉鎖不全症の合併が少なく突然死のリスクが高いこと、手術では心尖部アプローチが増えていることなどを報告されました。

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榊原記念病院の高見澤先生は成人HCMを内科の立場から検討されました。35歳がターニングポイントで若くして診断された患者さんは心臓突然死が多く左室肥大や乳頭筋異常が多いことを示されました。心不全、不整脈などの突然死、脳梗塞などを予防するトータルマネジメントの重要性を強調されました。外科的治療は若年者、より高度な肥厚、併存心疾患や乳頭筋異常などがある場合に適応になりやすいとまとめられました。

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最後に慶応大学の前川先生は高齢者HCMの治療を内科の立場からお話されました。高齢者では1.Fraility、2.Comorbidity、3.Disabilityなどに注意して治療を考える必要があること、高齢者や担癌患者ではPTSMAになりやすい、80歳以上についてはこれからEBMを蓄積する必要があることなどを示されました。

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全体のパネルディスカッションの中でHCMはHOCMよりも心臓突然死が多く注意が必要であることも示されました。

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これまで何となく手つかずであったHCMやHOCMに対してきめ細かい治療戦略ができつつあることを実感しました。

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帰りの電車の都合で懇親会には参加できませんでしたが、内容のあるディスカッションが十分にできた素晴らしいフォーラムであったと思います。前川先生、高山先生、お疲れ様でした。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心尖部肥大型心筋症 【2025年最新版】

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最終更新日  2025年9月9日

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◾️心尖部肥大型心筋症とは?【症状・原因】

肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)は、左室心筋が分厚くなる病気です。従来は予後良好とされていましたが、**心尖部に肥大や狭窄を伴うタイプ(心尖部肥大型心筋症:Apical HCM)**では、

  • 心不全の悪化

  • 致死性不整脈

  • 突然死

のリスクが高いことが近年の研究で明らかになっています【Mayo Clinic報告など】。

よくある症状

  • 息切れ(労作時呼吸困難)

  • 失神発作

  • 動悸・不整脈

これらがある場合、早期に専門医の診断が必要です。

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◾️心尖部肥大型心筋症の治療法【保存療法と手術】

保存的治療(内科的治療)

β遮断薬や抗不整脈薬が用いられますが、症状が強い場合や重症例では十分な効果が得られないこともあります。

外科的治療(手術)

  • 異常心筋切除術(モロー手術を応用)

  • 左室形成術(心尖部から左室に入り、狭窄や肥大を解除)

  • 必要に応じて大動脈弁側からのアプローチを併用

私たちは、100例を超える左室形成術・心尖部アプローチの実績を有し、世界的にも稀な症例に対応しています。米国を代表する施設であるメイヨクリニックとの交流も役に立っています。

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成績まとめ

  • 手術死亡はなし

  • 多くの患者さんが日常生活や仕事に復帰

ApicalHCMpreop.

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◾️手術事例と成績【症例報告】

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  • 症例:50代男性

    • 術前MRI:心尖部が異常心筋で閉塞 → 心不全進行

    • 術後MRI:心尖部まで血流が改善 → 駆出正常化ApicalHCMpostop

    • 経過:心不全消失、仕事復帰

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🔳SCO(収縮期閉塞腔型)とは?【心尖部HCMの亜型】

**SCO(Systolic Cavity Obliteration)**は心尖部HCMのサブタイプで、収縮期に左室腔が閉塞してしまう病型です。

  • 強い心不全

  • 致死性不整脈

  • これまで移植しかないとされてきた難治例

が対象となります。

当院では、手術により不整脈が消失し、社会復帰された患者さんも複数例経験しています。

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◾️よくある質問(Q&A)

Q1:心尖部肥大型心筋症は突然死のリスクがありますか?
→ はい。失神や強い息切れがある場合は特にリスクが高いとされています。

Q2:手術ができる病院はありますか?
→ 世界的にも手術実績は限られており、日本でも数施設のみ。私たちは心尖部からのアプローチ手術経験が豊富です。

Q3:薬だけで治せますか?
→ 軽症では薬で症状コントロール可能ですが、重症例では外科手術が根本的治療となります。

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◾️まとめ【チーム米田の特徴】

  • 世界標準術式(モロー手術、David-Komeda手術)の経験豊富

  • 100例を超える左室形成術・心尖部アプローチの実績

  • Mayo Clinic、Toronto General Hospitalなど海外の知見を応用

  • 緊急例を除き、手術成績はきわめて良好

「不治」と言われた患者さんが元気に社会復帰された例も少なくありません。
諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第六十一号】NHK文化センター講演のお知らせ

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 いい心臓・いい人生 【第六十一号】NHK文化センター講演のお知らせ
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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拝啓 

秋も深まって参りましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

私の方は大阪東部にある仁泉会病院にて心臓血管外科外来を7月に開始し、これ

までのおなじみの患者さんたちや新しい患者さん達に多数お越しいただき、うれ

しく思っております。

くわえてこの10月1日から近隣の野崎徳洲会病院にて心臓血管手術を開始いたし

ました。これまで多くの方々に手術をお待たせしご心配をおかけし申し訳ありま

せんでした。これからしっかりと取返し、またお役に立てればと存じます。


さて例年「心臓病と科学的ダイエット」「心臓手術と科学的ダイエット」などの

テーマで患者さんを始めとして一般の方々にも公開しておりますNHK文化センタ

ーでの講演につきまして、この秋からもう一つのテーマで講演することになりま

した。

「病のぎもん解消!~心臓病と血管病~」ということで、ご参加の皆様からご質

問をいただき、それへのお答えや、そこから話を広げて、皆様の健康管理に役立

てたく思っています。

ご案内チラシから: 増え続ける心臓病(狭心症や弁膜症、心不全など)や大動脈

瘤をはじめとする血管病。

予防・最新の治療法などの疑問に、心臓血管外科の名医として数多くのマス
コミにも取り上げられてきた医師が丁寧にお答えします。

皆様の健康増進、病気予防の一助になれば幸いです。 



10月31日土曜日10:30-12:00 NHK文化センター梅田

    大阪市北区角田町8-1
    梅田阪急ビルオフィスタワー17階
    電話 06-6367-0880 
    https://www.nhk-cul.co.jp/school/umeda/

11月8日 日曜日10:30-12:00 NHK文化センター京都

    京都市下京区四条通柳馬場西入ル
    立売中之町99四条SETビル3F 
    電話 075-254-8701
    https://www.nhk-cul.co.jp/school/kyoto/


にて行います。平素心臓や血管の病気で心配なことや疑問点などをお聞きいただ

ければ幸いです。

なおNHK文化センター名古屋校でも同様の企画を来年1月ごろに考えております

。
    愛知県名古屋市東区東桜1丁目13-3
    電話 052-952-7330
    https://www.nhk-cul.co.jp/school/nagoya/

詳しくはそれぞれのHPをご参照ください。
有意義なひとときになるよう、頑張ります。



							敬具


平成27年10月5日


米田正始 拝


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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
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執筆:米田 正始
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お便り118 東日本大震災と弁膜症を乗り越えて

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東日本大震災が発生したとき、私(米田正始)は新幹IMG_1535b線名古屋駅のホームの上に立っていました。

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ショルダーバッグが飛び跳ねて体に当たるので変だなと思い、周囲を見るといろんなものが揺れているのでこれは地震だとわかりました。

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まもなくそれは大震災とわかり、そしてあの津波をテレビで見て眼を疑いました。

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こんな恐ろしいことが起こるのかと。

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何かできることをしようと義援金を何度も送ったり、友人の中には支援のために現地に行ってくれた方もありました。

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病院は東北地方の方々を積極的に受け入れていました。遠方のためその人数は少なかったのですが、できるだけお役に立ちたく思ってのことでした。

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東北支援に行くまえに持病の弁膜症を治してからと、急ぎ心臓手術を受けられた方もありましたが、震災のために予定の手術ができないとのことで来院くださったかたもありました。

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下記はそうした患者さんのおひとりです。

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手術では僧帽弁のPCと呼ばれる部分が瘤化し逸脱していました。これを修復し弁の逆流は消えました。これを傷跡が小さく見えにくいMICSにて行いました。

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手術のあとまもなくお元気に帰郷され、仕事に復帰されたのを私たちもうれしく思っていました。

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あれから4年、まだまだ復興は進行中のようですが、お便りを下さいました。

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お元気でご活躍ください。ハーフマラソン楽しみですね。また時間ができましたら元気なお顔を見せてください。

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**********患者さんからのお便り**********

10月に診察予約を入れております、宮城の****です。
ご無沙汰をしております。

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(中略)

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最近は、手術後から始めたジョギングやスポーツジムで運動の成果で、お便り118
毎日体調良く過ごしており、11月には妻とハーフマラソンに出場予定です。

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 (体重は71kg前後を維持しております。)

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手術後のリハビリの時は、病院のフロアを100メートル歩くのにも息切れしてい
たのですが、嘘のようです。
次はフルマラソンの完走を目指しております。

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早いもので名古屋ハートセンターでの手術から9月で4年になりました。
あの節は本当にお世話になりました。

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2011年は東日本大震災が発生し、私の周りでは津波で甚大な被害があり、ライフラインが遮断され、

普通に生活が出来ない状態が続き混乱していた中での病気の発覚でした。

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震災のこともあり、この病気とどのように向き合えば良いのか分からずにいた時に、

インターネットで 先生のこちらのサイトを見つける事ができ、

心臓手術や病気について何度もサイ トを拝見して思い切って先生に病気の相談させていただいたのを覚えています。

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正直なところ名古屋と宮城と距離は遠くて大丈夫なのか不安だらけでの診察でしたが、

本当に不安でいる私や家族が安心できるようなアドバイスをいただき、

すぐに手術の日程を決めていただきました。

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先生の診察を受ける前は手術への不安が大きかったのですが、

診察後は不安を解消する事ができて安心した気持ちで手術に臨むことが出来ました。

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先生が仁泉会病院に移られるとは知らず、6月末頃高の原中央病院に診察予約の電話をしたところ、本日で退職されると伺いました。

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昨年診察にお伺いした時に先生から「非常に優秀なスタッフを集めた医療体制を構築しています。」とお伺いしていたので、退職される伺った時は驚いたのですが、その後こちらのサイト等を拝見し事情を理解することができました。

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私は入院中、米田先生の患者さんを第一に考えていただく姿勢には、本当に安心する事が出来ました。

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正直な気持ち、はじめ心臓手術と聞いた時は不安な気持ちしかありませんでした。

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しかし先生から手術の説明を伺った後は、私も家族も「米田先生なら安心してお願い出来る」としか思えませんでした。

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今も家族も含めて本当に感謝しております。

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名古屋ハートセンターで入院中も私も含めて全国から多くの患者さんが先生の手術を受けに来られていたのを覚えています。

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これからも米田先生が目指される医療体制の実現と、心臓の病気で苦しんでいる皆さんが、

少しでも体調が回復できますようにご尽力されてください。

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米田先生の益々のご活躍を祈念いたします。

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執筆:米田 正始
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心膜嚢腫のMICS手術

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心膜嚢腫は心臓の周りにある袋状の構造物である心膜の一部が嚢腫となり起こります。

その中に水のようなものが貯まり徐々に大きくなることがあります。あまり大きくなって心臓を圧迫し、不整脈や心不全を合併すれば手術が必要となります。

また圧迫がなくても時間とともに大きくなり、悪性の疑いが出てくれば安全のため手術することもあります。

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通常はふつうの心臓手術と同様、胸骨正中切開にて前からアプローチし嚢腫を切除します。

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私たちはMICSの方法を活かして、胸骨を切らずに傷IMG_0229b2跡が小さく見えにくい方法で手術をしています。写真右はその一例です。僧帽弁形成術などとほぼ同じ傷跡で手術できます。

これなら右胸の乳腺の少し下、女性の場合なら乳房の陰に隠れるしわのところから胸の中にはいれます。

心膜の外側にある嚢腫を完全に切除して胸を閉じて手術を完了します。

肋間神経を一時ブロックするため術後の痛みはあまり無いことが普通です。骨も切らないため傷の治りが早く、1週間あまりで治ります。まもなく普通の仕事やスポーツもできます。

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MICS手術の場合大切なことは手術の質を落とさないことです。つまり完全切除できるケースにのみ用いるようにしています。

もし心膜嚢腫が心臓の左側にあれば、左胸からアプローチするかもしれませんし、下側つまりお腹側にあればお腹からアプローチするかもしれません。完全切除に多少でも心配がある場合は正中切開つまり真ん中からアプローチします。

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すべてのケースで原則オフポンプ、つまり人工心肺を使わないようにしています。

これによって体への負担が減り、より早い回復と快適な術後生活が得やすくなるのです。

 

こうした様々な工夫によって心膜嚢腫の手術はさらに進化しています。

心臓手術は大変だから嚢腫をそのままに放置する、そしてそのための被害をこうむるなどのないようにしたいものです。そのためには診断がつけばまず専門家に相談です。

 

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いい心臓・いい人生 【第六十号】真夏日や熱帯夜にご注意を

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いい心臓・いい人生 【第六十号】真夏日や熱帯夜にご注意を
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:米田正始
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拝啓

立秋を迎えましたが日々の暑さはまだまだ厳しいものがあります。皆様いかがお

過ごしでしょうか。

私は7月に大阪府大東市にある仁泉会病院へ異動し、さっそく心臓血管外科の外

来を開始いたしました。

お陰様で多数の患者さんが来てくださり、感謝に堪えません。せっかくお越しい

ただくからには何か患者さんにメリットがあるようにと日々努力しております。

たとえば早期がんや腎不全などをみつけ、直ちに地元の先生に連絡して対策を立

てるなどしました。お役に立ててうれしいことです。

心臓手術もまもなく大阪と東京エリアにて再開の見込みです。この間、お待ちく

ださった患者さんたちにお詫びと感謝を申し上げます。

医学的にお待ちいただくのに懸念のある患者さんたちには次善の策として他病院

をご紹介しました。安定すればまた私のほうで外来フォローできればと思います


さて今年の真夏日の厳しさは例年以上のものがあります。

私のHPである「心臓外科手術情報WEB」のお知らせのページに以前からご案内し

ていますように、

午前10時から午後3時の間は無用な外出とくに屋外での仕事やスポーツは避け、

外へ出る時や屋内でも暑い環境では十分に飲水をする

多量に汗をかいているときには塩分も大切、ポカリなどのスポーツ飲料も良い

喉の渇きはある程度の年齢になるとあてにならない、喉が渇かなくてもしっかり

と飲水を

などなどにご注意下さい。

本来死ななくても良い方々が熱中症で亡くなったり、そこまで行かずとも腎臓な

どを悪くしておられるのを見て残念に思うのです。

しっかり健康管理して楽しい夏をお過ごしください

体調がどうしてもおかしいと思えば近くのかかりつけ医あるいは心臓がらみで気

になる場合は私までご相談を
敬具
平成27年8月8日
米田正始 拝
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第20回日本冠動脈外科学会総会にて

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この学会はむかしから親しみのある学会です。節目にあたる20回総会に行って参りました。
今回は京都府立医科大学の夜久均教授が会長で12年ぶりの京都での開催となりました。

 

夜久先生は12年前のことを昨日のように覚え20thJACASていて感慨深いのものがあると仰っていましたが、私も当時府立医大の先生方と楽しく内容のある交流の場を増やすよう先代の故・北村信夫先生と一緒に努力していたため、鮮やかに覚えていました。

それもあって印象に残る学会になりました。

 

まず学会前日の理事会にてこの学会の立役者である瀬在幸安理事長が引退表明をされ、時代の流れを感じさせる、物悲しい始まりとなりました。日本の冠動脈外科の黎明期から頂上期までを牽引してこられただけに特別な存在であったからです。
意外に知られていないことですが、瀬在先生は学会長を市中病院の実力派からも選出するという、日本の学会では稀有なことを何度も行われ、その先進性をも教えて戴いたように思います。

 

 

さて学会は初日から内容のあるディスカッションが続き、充実していました。IMG_1637

左室形成術の世界のリーダーとも言えるMenicante先生(写真中、左は堀井先生です)、台湾のMICSの天才Kuan-Ming Chu先生、MICS CABGのトップとも言えるBob Kiaii先生、CABGエコーのリーダー畏友 Rune Haarberstad先生、つい最近アジア心臓血管胸部外科学会を開催された香港の Song Wanなどの先生が講演され、私はその全部は聴けませんでしたが皆さん大変勉強になったと思います。個人的にはかつてお世話になった先生揃いで内緒の論議も含めて楽しい二日間でした。

 

なかでもKiaii先生はダビンチというロボットをもちいてバイパス手術を長年にわたり積み重ねて来られました。久しぶりにゆっくり語ることができ参考になりました。日本ではロボットは患者さんに多額の負担を強いるため、ロボットを使わずにMICSバイパス手術をやっていることをお話したら少し複雑な表情でした。

 

日本は世界に遅れをとっている一方、国民皆保険で誰もが他国よりも安価な医療を受けられる、この兼ね合いが難しいことをお話しました。しかしカナダでは医療は全額国家負担のはずですので(少なくとも私がいたころはそうでした)工夫の余地があるかも知れないと思いました。

 

まずオフポンプバイパス手術いわゆるOPCABを検証するシンポジウムがありました。オンポンプバイパスと比較しての研究はこれまで多数なされ、なかなからちがあきません。おそらく重症例でしか差が出ないからでしょうが、重症例を無作為割り付けすることは倫理的にできないのです。と言ってしまうと重症例ではOPCABが有利ということになり、多くの心臓外科医は賛同すると思います。そこにこの研究の難しさがあるのです。

 

日本のデータベースでの研究から、手術の予想リスクが高い患者さんではOPCABでは実死亡率は増えないがオンポンプでは増えるというデータが示されていました。なるほどと思いました。これをどのようにして世界に納得していただくか、ですね。

 

昼前に瀬在幸安理事長の恒例の、しかし最後の理事長講演がありました。20年にわたりこうした地道なデータ集積と解析、発表を続けてこられたことに皆強い敬意を抱かれたことと思います。同先生には来年からも参加して教えてくださいとお願いしてしまいました。

 

会長要望演題として心室中隔穿孔VSPのセッションが複数あり、私自身の発表もあっため参加しました。25年以上前にトロントから発表した心筋梗塞除外術いわゆるDavid-Komeda法と呼んで頂いている方法ですが、成績向上のために皆さん改良を重ねて来られた成果を拝見しました。

 

流れは複数パッチを使うなどして結局大き目のパッチで縫合部を守りながらというところにあるようですが、なるべく早期に手術というこれまでの大方の方針が術前管理の進歩に支えられて数日間待つという施設もあり、やはり弱い心筋をもっとうまく扱えるよう術式の改善が必要とあらためて思いました。

 

右室から2枚のパッチでサンドイッチ式に閉鎖する方法は以前より減った感がありますが、私は適材適所で左室の状態を見てうまく活用すれば良いと思っています。実際、北里大学では前壁VSPに径左室のExclusion法、手術がやや複雑になる後壁VSPには径右室の2枚パッチという形で使い分けをしておられ、参考になったと思います。

 

私はこれまで発表して来たExclusion法の完成型(になるかも知れない方法)を供覧しました。縫合線に余分な張力がかからず、超急性期でも心筋が裂けない、運針そのものも2次元的で簡略な方法で、これなら若い先生らにも比較的短時間でマスターしていただけるのではないかと期待しています。もう1-2例経験したところではやくまとめて出したく思っています。

 

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術方針というワークショップがあり、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と私、米田正始で座長をやらせて頂きました。

 

まず私が乳頭筋最適化による僧帽弁形成術、PHO法と呼んでいる手術の中期遠隔期の成績を発表しました。もっとも生理的、そして慣れれば簡便な術式として使って下さる先生が増えて感謝しています。弁を治すだけでなく、左室をできるだけ回復改善させる効果があり、カテーテルによるMクリップ時代にもお役に立ち続けることができるようにしたいものです。

 

北海道大学の新宮先生はLVSWIが20以上あるケースでは予後が良いことを示されました。こうした生理学的研究は極めて重要かつ有用と思いますが、現代の研究予算は分子生物学・遺伝子医学や再生医学関連でないとなかなか獲得できないため努力が必要です。工夫してぜひ研究を完成させて頂きたく思いました。

 

東京医科歯科大学の水野先生は乳頭筋吊り上げによってMRの再発が減り生存率も上がる傾向を示されました。MVRでは逆流はゼロになるのですが必ずしも成績が良くない、その点をこれからさらにDiscussionしたく思いました。

 

京都大学の西尾先生と国立循環器病研究センターの島原先生はそれぞれの視点から僧帽弁形成術と左室形成術を併用するメリットを論じられました。今後こうしたデータを早く全国規模で集積し、左室形成術がより多くの患者さんを救えるようにしたいとあらためて思いました。

 

Menicante先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症が心室の病気であるという観点から、左室形成術に重点を置いてお話をされました。左室形成については大変貴重な情報を頂けたと思いますが、僧帽弁形成術については我々ほどやっておられないため少し議論はかみ合いませんでした。日本はまだまだ心移植が少ないため僧帽弁形成術などの非移植医療ではすでに世界の最先端を行っているのではという印象を持ちました。

しかし全体として情報と示唆に富む、良いセッションだったと思います。荒井先生と共に納得いたしました。

 

 

引き続いて左室形成術の適応と術式という、虚血性僧帽弁閉鎖不全症と関連した重要テーマのワークショップがありました。北海道大学の松居喜郎先生と香川大学の堀井泰浩先生の座長で進められました。

 

東海大学の長先生は長年努力して来られたDor手術の101例での成績を検討されました。重症例を多数含むなかで10年生存率71%は立派でした。左室縮小の度合いは43%でおそらくこのあたりが最適かと感じました。もちろん対象によりますが。術前の僧帽弁閉鎖不全症の存在が長期生存に影響しなかったというのは左室形成術の威力ではないでしょうか。

 

京都府立医大の大平先生はELITE法という内側から直線閉鎖する左室形成術を検討されました。側壁などの形成には優れた方法と思います。

 

私は一方向性Dor手術と仮称するオリジナルな手術を発表しました。Dor手術の簡便さとSAVE手術のジオメトリー特性をもつ方法で、重症例ほどメリットが大きくなるものと思います。ただ世間一般とくに内科では左室形成そのものが冷え切っているため、まだまだ啓蒙活動が必要です。

 

Menicante先生は例のSTICHトライアルのあと症例数は少し減ったがいまは回復していることを示されました。左室形成術は長期生存率を高めるメリットがあること、左室拡張が著明なときには左室の形を整えることが大切と話されました。さすがは1000数百例を執刀した大御所と思いました。

 

虚血性心筋症のセッションでも興味深い発表が続きました。

 

済生会宇都宮病院の古泉先生は低左室機能症例に対するオンポンプ心拍動CABGはあまり良くないことを示されました。

 

私はこれは是非ご参考にと、スタンフォードで研究した内容をお話しました。つまり左室をUnloadしすぎると心内膜下虚血となり運が悪いと心機能を悪化させるのです。世間一般には左室はUnloadすればするほど良いという考えが多いですが、そうとは限らないことを動物実験で証明しジャーナルから発表したことをお話しました。

 

宮崎市郡医師会病院の古川貢之先生は術前左室拡張不全のLVR治療成績に与える影響について発表されました。そこで心尖部のConisity Indexが大きいと拡張機能不全が強くなり治療成績が悪化することを示されました。さすが強力なエコーチームと外科医との研究と感心しました。これまで感覚的に知っていたつもりのことを、客観的に数字で示していただき立派と感心しました。丸いSphericalな左室は拡張機能が悪い、ということで外科的に左室形成でうまく治せば、収縮機能のみならず拡張機能もある程度改善できればすごいと思いました。

 

私の施設からは小澤先生の代理として私が発表しました。ある大学病院で心移植適応と判定された患者さんが、左室形成を求めて私の病院へ来られ、一方向性Dor手術で見事に元気になられたことを報告しました。このようなケースがあることを内科の先生方にもっと知って頂き、ハートチームで心不全を治せればと思います。

 

2日目のお昼には夜久先生の会長講演を拝聴しました。OPCAB、虚血性心筋症に対する左室形成術、虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術、若手に対するチャレンジャーズライブなど、同じ時代に一緒に苦労し楽しんだという想いで敬意をもって拝聴しました。患者さんを多数救えば一流、新しい術式を 開発して歴史に名を残せば超一流というお話は、若手にモチベーションを与えてくれたものと思います。

 

2日目午後のMICS CABGのワークショップでは最近の進歩が発表されました。

 

大和成和病院の菊池先生は両側内胸動脈をもちいたMICS OPCABを示されました。すでに50例の経験を積まれ、ロボットを使わなくても質の高いMICS OPCABができることが示されたのは素晴らしいと思います。

 

町田市民病院の宮城先生も同様に両側ITAをもちいたMICS OPCABを発表されました。

 

今回のもうひとつの目玉企画として Korea-Japan Coronary Artery Surgery Summitがありましたが、韓国でMERSがまだ終息せず先生方の出国許可が下りないということで中止になりました。代えて日本側代表での座談会になりました。私は他用でこれは参加できませんでしたが、こうした企画を立てただけでも意義があったものと思います。

 

その他OPCABコンテストでも、朴社長の熱いご支援のもと、内容ある練習とコンテストがされたようで、日本の心臓外科発展への良いインパクトが期待されます。

 

盛りだくさんの内容で皆さん十分に楽しめた第20回学術集会になったと思います。夜久先生、教室の皆様、お疲れ様でした。

 

平成27年7月30日

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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高の原中央病院かんさいハートセンターで心臓手術を受けられた患者さんたちへ

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皆様その後お変わりないでしょうか。

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高の原中央病院にかんさいハートセンターをIMG_21082013年9月に立ち上げてから、多数の重症患者さんを含めた心臓病・血管病の患者さんたちを全国からお迎えし、その多くをお助けすることができました。

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心臓外科や集中治療の地盤のない、地方の一病院で突然ハートセンターを立ち上げていきなり全力投球状態で頑張って参りました。外来、検査、病棟、手術室、そして当初は存在もしていなかった集中治療室(ICU)、いずれも関係の皆さんの大変な努力で尽力いただき、救命実績を積みました。

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しかしそのなかで心機能や肺機能が極度に低下している方、再手術それも3回目ー5回目といった普通の病院では手がでない方々、有名な病院でも断られた方、さらにエホバの証人のような絶対無輸血が条件の方、90歳前後以上の超高齢の方、慢性腎不全と血液透析が高じて全身衰弱になっている方など、さまざまな患者さんを見放すわけには行かず救命努力したことがチームや病院を疲弊させてしまいました。

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昨今の安全管理の空気のなかではこうした重症例を避けるのが一般的になり、私もそれに従わねばならなくなりました。

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さらには週刊誌などで重症から逃げずに頑張り、多数扱っている良心的病院がひどく叩かれるという事態が2015年の4月に発生し、ますますこうしたケースの心臓手術に対する風当たりが強くなりました。

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そうした経緯でこれまで行って来た手術がやりづらくなり、せっかく病院機能の細部まで改良に改良を重ねて立ち上げたかんさいハートセンターに居る意味がなくなってしまいました。

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仁泉会病院
仁泉会病院で火曜日と木曜日の午後に外来をやっています。

私の手術を受けて下さった患者さんたちには誠に申し訳ないのですが、奈良の地でアフターケアができなくなってしまいました。ただ、できるだけご迷惑がかからぬようにと、奈良から比較的近い大阪東部の仁泉会病院にて外来を開始することができました。心臓手術の方は大阪市東淀川区にある医誠会病院にて行っております。

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患者さん各位におかれましては、経過が良好でお元気に暮らしておられても定期検診でがっちり健康を守るという作業はお忘れないようにお願いします。

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そのためにその患者さんの手術内容を熟知している執刀医である私の外来で検診を受けて戴くか、遠方で行きづらい場合はせめて心エコーや血液検査のデータを私までお送りいただき、かかりつけ医とのチームで安全安心を確保していただければと存じます。後者の場合は高の原中央病院循環器内科の畏友・太田剛弘先生らがしっかり患者さんを守ってくれますのでそちらの外来でもご相談ください。

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私も次第にベテランになっていくなかで、永いおつきあいのある患者さんが増え、家族のような親しみが一層増し、また執刀医ならではの入魂姿勢のおかげか、さまざまな問題を未然に防ぐという貢献ができたケースがさらに増えました。

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今後も心の絆を維持できましたらこの上なくうれしいことです。

繰り返しになり恐縮ですが、何かありましたらいつでもご相談下さい。

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平成27年8月吉日(平成28年10月追補)

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米田正始 拝

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MICS冠動脈バイパス術(MICS-CABG)【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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心臓外科領域では最近このMICS-CABGが話題です。要するに胸骨を切らず、小さい傷跡でできる冠動脈バイパス術です。

これは弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症などに対するMICS手術がある程度の広がりを見せていることに触発されての流れのようです。

人間だれしも傷跡が小さい方がうれしいというのはごく自然なことです。

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◾️さきがけはMIDCAB手術

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このMICS-CABGのさきがけはMIDCAB手術でした。

1996年ごろ、日本にも紹介され、一時関心を集めたものです。

ただこのMIDCAB手術は通常、左内胸動脈LITAを左前下降枝LADに付ける、一本バイパスであるため、あまり普及しませんでした。

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その後バイパスが必要な冠動脈でまずまずのサイズと性状のものならどれにでも付けられる正中大切開でのオフポンプバイパス手術・OPCABが隆盛となり現在に至ります。

このためMIDCABは中途半端な手術という印象をもたれ、すたれてしまったようです。

しかしその良さは一部専門家の間では一貫して評価されていました。

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たとえばカテーテルによる冠動脈形成術PCIとハイブリッドで使えば外科と内科の良い面を併せた治療になるなどの形で生き残って来ました。

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◾️そしてミックス冠動脈バイパス手術へ

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これが近年オタワのRuel先生やカナダ・ロンドンのKiaii先生らの発表に触発されて多枝バイパスできる左小開胸の冠動脈バイパス手術として展開を始めたのです。リバイバルというよりリノベーションでしょうか。

その背景には内視鏡手術の進歩に支えられたより便利な手術器械の出現や、冠動脈バイパスへの慣れ、そして必要ならPCIの追加などもできて安全面が確保されやすいなどの状況がありました。

ただしMICS-CABGをやるにあたって大切なことがいくつかあると思います

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1.バイパス手術としての質を落としてはならない。つまり良好な長期成績とくにグラフト開存率を維持しなければならない。このためなるべく動脈グラフトとくに内胸動脈を多用したい。

2.全身の動脈硬化が進んだ患者さんが多いため、脳梗塞を合併させないようにする必要がある。

3.患者さんの苦痛の軽減、早いICU退室や退院、そして早い仕事復帰ができてこそ価値がある

4.もちろん手術死亡率を上げてはならない

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こうした条件を満たすのであれば体外循環の使用は大きな問題ではないとする考え方もあり、うまく使えば過渡期としては良い方策かもしれません。しかし脳梗塞その他の合併症を減らすという観点からできればオフポンプが望ましいとは言えましょう。ただ安全のためには熟練度の高さが求められ、たとえばOPCABを何とかこなせると言った程度の実力ではMICS-CABGは難しいでしょう。

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◾️ミックスバイパス、さまざまな工夫

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海外のこれまでの報告では右内胸動脈が使いづらいため上行大動脈を部分遮断して静脈グラフトを付けるケースも多いようですが、これは1.や2.から見てやや不利という印象です。術前にしっかり状態を評価して脳梗塞を起こさないという確信のもとにやるというのは許容されるように思えます。

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右内胸動脈が使えればこうした問題はかなり解決へ向かうということで、海外ではまずダビンチロボットをもちいて左小開胸から右胸にまでロボットのアームを伸ばして内胸動脈を剥離するという解決策が示されました。しかし誰もが比較的安価に医療を受けられるという日本の医療事情を考えると、ロボットに高額のお金を支払わねばならないという医療はなじみにくいものがあります。

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そこで新しいMICSの器械や方法を駆使して右内胸動脈を採る方法が研究されました。

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私たちも10数年も昔から必要のある患者さんにはこのMICSバイパスに準じた左開胸アプローチでの手術を行って来ました。たとえばエホバの証人の信者さんでしかも出血しやすい再手術例ですね、こちらをご覧ください。患者さんはすっかりお元気になられました。

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あるいは前回のバイパス手MICS-CABG後術での動脈グラフトが2本とも開存しており、うち一本が胃大網動脈GEAで、目的血管は回旋枝であるという状況で左開胸のMICS-CABGに準じた方法で虚血を解消しました。術後のCTを右図に示します。

このようにして実績を積み上げています。

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◾️ちょっと発想の転換も

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私たちは僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、心房細動に対するメイズ手術、心臓腫瘍、さらに収縮性心膜炎まで小さい開胸のMICSで手術している数少ないチームですので、MICSのバイパス手術にも自然と力が入ります。

同時に発想を変えて、術後速やかに仕事やクルマ運転復帰ができる冠動脈バイパス手術も行なっています。胸骨の再建法に工夫をしているのです。比較的ご高齢の患者さんが多いバイパス手術では傷跡の小ささといった美容面よりも、痛みや苦痛少なく、早く仕事や実生活に戻れる手術が望まれているからです。この点、10代ー30代に代表される若い患者さんが多い弁膜症や成人先天性心疾患とはニーズが違うと感じるこの頃です。→→→続きを見る

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ともあれ、これから患者さん目線で、しっかり心臓を直し、かつ仕事や運転にも早く戻れる、こうした冠動脈バイパス手術をMICS-CABGを中心に完成度を上げ、実現できればと思います。

 

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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INDEX

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■ 異動のお知らせです。

■ テレビ放映 3回分がUpされました メディアのページを。リンクもご参照ください

■ 通算アクセス数が300万を超えました(TypePad社データ)。感謝とともに今後の充実をお約束いたします(2014.11.19.)

■ 名称が心臓血管外科情報WEBから心臓外科手術情報WEBに変わりました(2013.2.2.)

■ EVAR(ステントグラフト)やミックス手術ポートアクセス手術などの低侵襲手術の項目を充実させました。(2011.12.)

■ かつて京都大学病院で米田正始の心臓血管手術を受けられた患者さんたちへご挨拶

■ 日本マルファン協会での講演と質疑応答を掲載いたしました

■ 「All About」の拙筆「心臓・血管・血液の病気」シリーズもご参照下さい

■ メールマガジン(右段)および心臓外科医の日記ブログ(左段)もご覧ください

■ 論文リスト ~英語~ ~日本語~ (ご参考になれば幸いです)

■ 心臓外科手術体験記 お便り1 うれしいニュースを戴きました。がんばって下さってありがとう

心臓外科手術体験記 お便り14 冠動脈バイパス手術と僧帽弁形成術から何年も経ち、なお絆が健在であることをうれしく思います

心臓外科手術体験記 お便り118 東日本大震災と心臓手術を乗り越えられた患者さんからです。MICSの僧帽弁形成術はここでも活躍できたようです

心臓外科手術体験記 お便り117 心尖部型肥大性心筋症への難手術を乗り切って見事に元気さを勝ち取られました

心臓外科手術体験記 お便り116 複雑な三尖弁形成術それもMICSで長年の心臓病を克服されました。遠方からご苦労様でした。

心臓外科手術体験記 お便り113  5回目の心臓手術と2つの内臓不全という大ハンデにもかかわらず、元気な生活を取り戻されました

心臓外科手術体験記 お便り111  世にも珍しい心臓腫瘍でしたがMICSで目立たない傷跡で内外ともきれいに治りました

心臓外科手術体験記 お便り110 心房中隔欠損症などがMICSできれいに治り、またお元気に社会復帰されました。この方のブログもご覧ください

 

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