いい心臓・いい人生 【第六十六号】ローカーボ食研究会・学術集会

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いい心臓・いい人生 【第六十六号】ローカーボ食研究会・学術集会
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:米田正始
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拝啓
皆様いかがお過ごしでしょうか。寒い日が続きますが風邪などめされてないでしょうか。

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心臓病や大動脈疾患は冬に多発します。最近は急性大動脈解離の患者さんが連日病院へ来られま

す。またVSP 心室中隔穿孔 などの患者さんも来院され緊急手術が続いています。

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平素の健康管理や心臓病の予防、そして早期発見といざという時の迅速な早期治療が患者さんの

いのちを救います。私のHPなどがご参考になれば幸いです。

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さてNPO法人日本ローカーボ食研究会の第6回学術集会が近づいて参りました。

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これまでの学術集会では糖質制限食の素晴らしさや注意点、弱点をさまざまな角度から発表、検

討して来ました。ただ痩せるだけでなく、がんを増やさない、動脈硬化も起こさない、健康に益

する、さらに長生きに役立つ、正しい糖質制限食を科学的に論じて参りました。

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つまり安全で安心な糖質制限食の普及に一役買ってきたものと思います。
またそこから心臓病、高血圧、腎臓病その他さまざまな病気の患者さんへの応用の道を切り拓い

て来ました。私個人は心臓外科、心臓手術の患者さん達にもお役に立つような糖質制限食も研究

し発表致しました。

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今回はそれとは一味ちがう企画で開催します。

糖質制限食だけでなく、糖尿病の治療のこれからあるべき姿を論じます。

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糖尿病の治療は2012年以後、大きく変化しました。

しかしまだまだ多くの臨床医はこれを知らず、昔ながらのHbA1c6.5%以下を目指し、たくさんの低

血糖発作が患者さんに起こっています。

低血糖発作が患者さんの認知症や死亡率を悪化させる重要因子であることが証明されているなか

で、これは大変不幸なことです。

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とういことでこうしたパラダイムシフト、新しい時代の新しい糖尿病の治療を啓蒙するために、

多くの医師・医療者・関心のある方々にご参加頂ければと思うのです。

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奮ってご参加ください。

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日時:2016年3月6日(日) 午前10時30分~午後4時30分

場所: 安保ホール 301号室 〒450-0002 名古屋市中村区名駅3-15-9
TEL 052-561-9831 JR名古屋駅 徒歩2分

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参加費:3000円(学生1000円)

主催 NPO法人日本ローカーボ食研究会

テーマ「糖尿病治療のパラダイムシフト」

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第一部 特別講演 10:30-12:30

特別講演1 司会 灰本元 (灰本クリニック内科)
「糖質・脂肪摂取、体重と総死亡リスク」
名古屋大学大学院医学研究科 予防医学教授 若井建志

特別講演2 司会 宇佐美範恭 (一宮市民病院呼吸器外科)
「HbA1cはどこまで下げるべきか~大規模介入試験のメタアナリシスから~」
むらもとクリニック 内科 村元秀行

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第二部 基調講演・症例検討・パネルディスカッション 13:30-16:30
司会:前田恵子(もくれんクリニック老年科)米田正始(野崎徳洲会病院心臓外科)

【基調講演】
「低血糖と総死亡」 村元秀行(むらもとクリニック内科)
「低血糖と認知症」 中村 了(名古屋逓信病院 老年科)

【症例検討】
・低血糖に関する症例① 梶 尚志(梶の木医院 内科)
・         ② 小早川裕之(小早川医院内科)
・         ③ 前田恵子 (もくれんクリニック老年科)
・         ④ 高守里香 (名古屋逓信病院管理栄養士)
・         ⑤ 渡邉志帆 (灰本クリニック管理栄養士)
【パネルディスカッション】
パネリスト:村元秀行、中村 了、梶 尚志、小早川裕之、高守里香、渡邉志帆

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それでは皆様、よろしくご参加のほどお願い申し上げます。

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敬具

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平成27年12月14日
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第六十五号】お知らせ2つ(阿藤快さんの胸部大動脈瘤と糖質制限食)

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いい心臓・いい人生 【第六十五号】お知らせ2つ
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編集・執筆:米田正始
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拝啓

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皆様いかがお過ごしでしょうか。

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さて本日は新着記事を2つばかりご紹介申し上げます。

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ひとつは俳優・阿藤快さん関連の記事です。

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阿藤さんの突然のご逝去のあと、その原因と伝えられる胸部大動脈脈の破裂に対するご質問をい

くつか頂いたため、オールアバウトに記事をUpしました。

オールアバウトの健康・医療のページの症状・病気のなかにある心臓・血管・血液の病気のとこ

ろをごらん下さい。「大動脈瘤が命を奪う時――阿藤快さんの一件から」という記事です

(http://allabout.co.jp/gm/gc/460521/)。

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胸部大動脈がこぶ状に膨らむ真性胸部大動脈瘤あるいは大動脈の壁が内外に裂けて起こる胸部大

動脈解離、いずれかが阿藤さんを襲ったと考えられます。阿藤さんが今年の9月ごろから背部痛

を訴えておられたと報道されているからです。

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真性胸部大動脈瘤でも胸部大動脈解離のどちらでも、CTの検査を受ければすぐ診断がつき、対策

を立てることができます。

たとえ手術になっても、熟練したチームでの手術ならほとんどの方は助かります。

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だからこそ阿藤さんの一件を残念に思いますし、今後同様の悲劇が起こらないように、対策をお

示ししたつもりです。

ぜひご参考にしてください。

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いまひとつは日本ローカーボ食研究会ホームページの世話人のブログ(http://low-carbo-

diet.com/blog/)の中にまもなくUp予定です。

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私は本職は心臓血管外科医で毎日心臓や血管の手術にいそしんでいますが、患者さんを真に守る

ためには手術や薬だけでなく、運動や食生活からも指導や支援ができることを必要と感じるよう

になり、こうした活動も行うようになりました。

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心臓病治療の中でローカーボ食つまり糖質制限食は患者さんの健康増進に大いに役立っています。

しかしその中で日々学ぶことも多く、考え方も進化を続けています。

こうしたことを最近感じたことというエッセイとしてお書きしました。

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心臓病の患者さんやメタボ・糖尿病・脂質異常症などの持病をお持ちの方々の参考になれば幸い

です。

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ご関心のおありの方々は、先日のメルマガにご案内いたしましたこのローカーボ食研究会の学術

総会にお立ち寄りください。(このHP右段から入れるメルマガバックナンバーのページをご参照

ください)

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それでは皆様、気候の変わり目ですのでご自愛ください。

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敬具

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平成27年11月28日
米田正始 拝

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元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第六十四号】日本ローカーボ食研究会学術集会(予告)

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いい心臓・いい人生 【第六十四号】日本ローカーボ食研究会学術集会
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:米田正始
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拝啓

冬の訪れを予感させるこのごろですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

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さて今日はいつもの心臓血管外科や心臓手術とは少しちがうお知らせです。

心臓手術のあと、患者さんの体調が良くなり、中には食べ過ぎでメタボになりそうな方もちょくちょくお見受けします。

いくら心臓が手術で良くなっても全身の健康を害するようなことがあれば、それは本末転倒です。

という考えで糖質制限食を日常診療にも取り入れて参りました。

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やはり手術だけでなく、アフターケアを含めたトータルなケアが大切と思うのです。

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名古屋で仕事をしていたころに知り合ったアカデミック開業医・灰本元先生のおかげで学ぶこと

ができた糖質制限食ですが、ずいぶん患者さんのお役に立ってきました。

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そこから進展してNPO法人日本ローカーボ食研究会を立ち上げ、毎年さまざまな活動を行って来ました

その一つ、定期学術総会が来年2016年3月に下記の要領で開催されます。

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主に医療者向けですが、日ごろ熱心に勉強している一般の方々にも参考にはなるものと思います。

なお私は今回は発表ではなく司会者としてできるだけ皆さんのご意見を集めるよう努力する所存です。

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******** 記 *********

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日時:2016 年 3 月 6 日(日) 午前10 時30 分~午後4 時30分
場所:安保ホール301 号室 〒450-0002 名古屋市中村区名駅3-15-9 TEL : 052-561-9831
参加費: 3,000 円(学生の方は1,000円)
主催: NPO 法人日本ローカーボ食研究会 ( http://low-carbo-diet.com/ )

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テーマ:「糖尿病治療のパラダイムシフト」

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〈第1 部 特別講演〉(10:30 ~ 12:30)

【特別講演1】
「HbA1cはどこまで下げるべきか ~大規模介入試験のメタアナリシスから~」
むらもとクリニック内科 村元秀行

【特別講演2】 「糖質・脂質摂取,体重と総死亡リスク」
名古屋大学大学院医学系研究科 予防医学教授 若井 建志

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〈第2 部 基調講演・パネルディスカッション〉(13:30 ~ 16:30)

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基調講演〈血糖と体重管理のパラダイムシフト〉

・低血糖と総死亡  むらもとクリニック内科 村元秀行
・低血糖と認知症  名古屋逓信病院老年科 中村 了

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症例検討

・低血糖に関する症例1  梶の木医院内科 梶 尚志
・低血糖に関する症例2  小早川医院内科 小早川裕之
・低血糖に関する症例3  もくれんクリニック老年科 前田 恵子

・低血糖に関する症例4  名古屋逓信病院管理栄養士 高守 里香
・低血糖に関する症例5  灰本クリニック管理栄養士 渡邉志帆

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パネルディスカッション

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(パネリスト)村元秀行、梶 尚志、中村 了、灰本 元、小早川裕之、高守里香、渡邉志帆
プログラムは若干の変更がある場合があります。

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それでは皆様、ふるってご参加下さい。

敬具

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平成27年11月20日
米田正始 拝

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いい心臓・いい人生 【第六十三号】NHK文化センター講演での御礼

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いい心臓・いい人生 【第六十三号】NHK文化センター講演での御礼
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編集・執筆:米田正始
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拝啓

紅葉が美しい季節になりました。
皆様お元気にお過ごしでしょうか

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さてNHK文化センターでの新しい試み、

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「病のぎもん解消!~心臓病と血管病~」の講演を
10月31日 土曜日 NHK文化センター梅田(大阪) と

11月8日 日曜日 NHK文化センター京都

にて開催させて頂きました。

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いずれも多数の方々にお越しいただき、厚く御礼申し上げます。健康への関心の

高さをあらためて感じました。

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またかつて手術をさせて戴いた患者さんたちもご参加下さり、懐かしくうれしく

思いました。同窓会のような気持ちでした。

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この講演を通じて感じたことは、

皆さんが平素の病院・医院通いのなかでなかなか医師に物がいえず、疑問をその

まま持ち越しているということでした。

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現代の医療制度ではひとりの患者さんにあまりゆっくりと話を聴いたり語ったり

していると経営が成り立たなくなるという困った問題があります。そのために患

者さんと機械的な会話を交わすだけの人間関係になっているのではないかと思う

節が多々ありました。

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こうした講演会と言いますか、聞き語る会でご参加の皆様が日ごろのストレスを

発散し、疑問を解決し、健康管理に役立てる、そうしたお手伝いが多少でもでき

たのであれば、私たちにとって望外の喜びです。

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話題はさまざまで、両会場を合せますと、狭心症、ステント、冠動脈バイパス手

術、心臓リハビリ、コレステロール、血圧コントロール、不整脈、徐脈、ペース

メーカー、サプリ、慢性腎不全・血液透析、弁膜症、僧帽弁閉鎖不全症と僧帽弁

形成術、胸部大動脈瘤、弓部大動脈瘤、左室流出路狭窄など、盛りだくさんの内

容でした。

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時間の都合で十分にはお答え、お話できなかった項目もあるかと思いますが、疑

問解消へのヒントになれば幸いです。私のHPその他の参考資料も読みやすくわか

りやすくなるかも知れません。

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この「病のぎもん解消!~心臓病と血管病~」のシリーズはもう一回、名古屋に

て開催されます。

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2016年1月31日 日曜日 13:30-15:00
NHK文化センター名古屋
愛知県名古屋市東区東桜1丁目13ー3
電話 052-952-7330
https://www.nhk-cul.co.jp/school/nagoya/

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日ごろ心臓病や血管病で疑問や悩みをお持ちの皆様、あるいは心臓手術後の生活

をより良くしたい方々、奮ってご参加ください。

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ついでながら、私はこの10月から野崎徳洲会病院にて心臓手術を再開し、毎日目

が回るほど忙しくさせて戴いております。近くの仁泉会病院では外来を続けてお

り、態勢が整いつつあり、これまで以上にお役に立てるようになればと念じてお

ります。

また仁泉会病院にて術後リハビリ入院を開始し、循環器内科の先生方の

ご協力で患者さんのお役に立ちはじめています。大きな心臓手術のあと、ある程

度元気になれば退院となりますが、その後もしばらく3食リハビリ付きで体力と

自信をつけ、ゆうゆうとご自宅に帰還する、まもなく普通の生活にもどる、こう

したことも遠方の患者さんや一人暮らしの方などを中心に役立っています。

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理想の心臓血管外科と医療を求めて、これからも努力したく存じます。

皆様のご意見やご鞭撻をお願い申し上げます。

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敬具

平成27年11月11日

米田正始 拝
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元・京都大学医学部教授
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ループテクニックとは――初歩的な一面、しかし僧帽弁形成術にうまく活用【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月24日

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◾️まず僧帽弁形成術のためのゴアテックス人工腱索は

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僧帽弁形成術の方法のひとつにゴアテックス糸をもちいたGoaTex人工腱索人工腱索を取り付ける方法があります。

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ゴアテックス糸をもちいる時に、その長さの調整に心臓外科医の初心者は苦労をします。

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著者も駆け出しのころはそうでした。

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心臓を止めてその中へ入って僧帽弁形成術を行うのですが、止まっているだけに動いている状態とは違うのです。

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人工腱索の長さを決めても、心臓が動けば違っていた、という苦い経験さえ昔ありました。

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しかし弁形成を数百例もやり、さまざまな調整法に慣れると、人工腱索の長さは一瞬で決められるようになります。

一方、あまり僧帽弁形成術をやっていない術者ではそれは難しい方法となるのです。

Fred Mohr.

◾️初心者にも便利なループテクニック

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この問題に対してドイツ・ライプチヒ(当時)のFred Mohrモーア先生はループテクニックという方法を考案されました。

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これはまえもっておよその長さを決めておき、その長さのループをゴアテックス糸で造り、それを実際に乳頭筋と弁尖の間で使い、もし長すぎればループを横長に弁尖に縫い付けることで短くできるし、もし短すぎればもう一つループを弁尖に縫い付けてもとのループと連結すれば良いという便利な方法です。

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◾️ループテクニックの問題点

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しかしこのループテクニックの問題点として、Mohr' loop technique

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1.人工腱索1本を立てるところに2本が入る

2.ひとつずつ設置するため時間がかかる

3.多数の人工腱索が必要な場合、たとえば6本必要な状況なら12本ものゴアテックス糸を付けることになる。異物は少ない方が安全なのに。

4.手術前にエコーで腱索長を決めても、実際にはそれに何ミリか追加して手術するという報告もあり、術前検査の正確さに心配がある

5.そもそも僧帽弁形成術とは少数の熟練したエキスパートが行うべきもので、多数の心臓外科医がそれぞれわずかな数の手術を行うのには適しない治療法である。なぜ初心者用の方法を考えるのか

などが指摘されています。

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◾️ループテクニックの問題を解決

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連続ループ法トロントのDavid先生もこれらに対して同感で、ループテクニック愛用の先生方と懇談の際に、なぜこんなかったるい方法を使うの、もっと良い方法があるでしょと言われて一同静かになったのを覚えています。現代の僧帽弁形成術の大御所であるAdams先生もこのループテクニックを採用していません。

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私個人はこのループテクニックは不要と考えていますが、その良いところだけ活用させて頂いています。

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基本的にDavid先生の連続縫合式つまり1本のゴアテックス糸で僧帽弁弁尖と乳頭筋の間を必要なだけ何往復かし、長さを合せてから結紮し固定しています。その際に乳頭筋の先端に小さいループを造り、ここへその都度糸を通すことで乳頭筋先端部を守るようにしているのです(左図)。

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連続GT術前連続GT術後この改良によってたとえば前尖全部が逸脱し、弁形成ができないと言われた患者さんの形成が確実になりました。

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上写真の左側は連続ループテクニック施行前、右側は施行後です。弁尖の形がきれいになり、逆流がとまっています。

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前尖と後尖のかなりの部分が壊れているとき、あるいは三尖弁で前尖と中隔尖が壊れたようなケースでも無事弁形成が完遂できています。しかもそれが短時間ででき、あとの余裕につながるのです。

.連続ループ法の改良型とベイビードッグ

◾️連続ループテクニック、さらなる展開

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連続縫合の良さを活かし、糸の長さを決めるときに仮結びしておいてこれを小さいブルドック鉗子で仮固定し(右図)、逆流試験で所見良好を確認してから本結紮しています。こうして高い再現性が達成でき、改良ループテクニックを若い先生方にも技術伝授しやすくなりました。

またAdams先生が近年提唱されている、自然腱索が適正長でも細くて将来壊れそうな場合、そこにも人工腱索を予防的に設置するという考えにも連続ループは向いています。余裕で悪い腱索、頼りない腱索とも治せるからです。

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しかもこうした複雑弁形成がMICSの、傷跡が見えにくい方法で、ほぼ全例できています(写真左下)。これは多くの患者さんたちにとって福音となっているようです。(患者さんからのお便りのページをご覧ください。)

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IMG_0826僧帽弁形成術の分野も日進月歩ですので、将来もっと良い方法がでればさらにそれへ移行するかもしれませんが、このループテクニックの連続縫合法で多数の患者さんの僧帽弁形成術をこれまで完遂できています。患者さんのお便りのページをご参照ください(お便り134その他)。すでにMitral Conclave始め海外でも発信を始めています。

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これからも多くの仲間たちと意見交換しながらより良いものを求めて行きたく思っています。

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若い心臓外科医の先生方で関心のある方はいちどご連絡ください

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Heart_dRR

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第一回 徳洲会心臓血管外科部会

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この10月18日、日本胸部外科学会の会期中DSCF0318bに神戸にて徳洲会病院の心臓血管外科部会が開催されました。

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世話人の大橋壮樹先生によれば、以前から構想はあったものの皆さん多忙でなかなか機会が造れず今に至ってしまいましたとのことで、野崎徳洲会病院での緊急手術の多さと忙しさを実際に体験して、うなずけました。

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今回の第一回集会は我が恩師・Tirone E. David先生(トロント大学心臓血管外科)を特別講師として呼んで頂き、私にとっては二重に楽しく有難い会になりました。

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DSCF0385b講演テーマは弁膜症治療をめぐってで、ここまで40年以上の経験をさまざまな文献的考察をまじえてお話されました。

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私にとっては留学まもない1988年ごろ、初めて見るゴアテックス糸人工腱索やバーロー症候群への複雑僧帽弁形成術、弁がぼろぼろに壊れた感染性心内膜炎IEをもとどおりきれいな弁に再建する手術などなど、忘れられない経験をもう一度プレイバックして頂けるような気持ちで拝聴しました。

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そのころ、同先生の指導にて担当した研究、硬性リングよりも軟性リングで僧帽弁形成術を行った方が、術後の運動時心機能が良いという研究成果(英語論文のページ、論文#11)も久しぶりに拝見でき、懐かしい限りでした。

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あれからまもなく30年、これほど永い時間が経ったことをしみじみ感じながら拝聴しました。

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大橋先生のご配慮で質疑応答の時間がたっぷりと取られましたが、皆さんシャイであまり質問されません。

DSCF0346.

そこで質問がない時や、あっても途切れるたびに、不肖私が弟子のひとりとして質問させて頂きました。質問といっても、サクラの質問ではなく、最近の手術の中で自分なりに疑問に思っていたことを順々にぶつけて率直なご意見を頂くという、得難い機会となりました。

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対しては新たな改良によって弁形成でき、かつ患者さんに大きなメリットがある、そうした状況があるのではないかという質問や、三尖弁形成術にも工夫すれば人工腱索は役に立つのではないか、あるいはループ法よりもメリットが大きいと考えられる連続式人工腱索設置法の方法の進化など、確認と勉強をさせて戴きました。

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講演のあとで若い先生方がDSCF0586b順番にツーショットでDavid先生と記念写真を撮っておられました。大変良いこととおもいます。これをきっかけに世界の一流の手術や病院システムに関心をもち、成長して頂ければと思いました。最近の若者は昔ほど留学熱がないと聞きましたが、広い世界に師を求めて学び、活躍して欲しいと願わずにはおれませんでした。

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講演のあとは懇親会で、鈴木隆夫理事長はじめ徳洲会の先生方とゆっくり懇談でき、新参者の私にとってはありがたい機会になりました。大橋先生、東上先生、樋上先生、曾根田先生、吉田先生はじめおなじみの心臓外科医の先生方とも楽しく歓談させて頂きました。

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若い先生方は私などにも熱心にご質問下さり、これから新しい術式や治療法を軸IMG_1928に共同研修や共同研究をやろうと盛り上がりました。かつての京大同門会での熱く楽しい想い出を彷彿とさせる、躍動感を感じるひとときでした。

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若い先生方に背中を押してもらえるというのは幸運なこととあらためて知りました。皆さんに大きく成長して頂けるよう、自分も頑張らねばと襟を正しました。

世話人の労をお取りくださった大橋先生、関係の皆様、ありがとうございました。

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AATS 大動脈シンポジウム 2015 in Kobe

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アメリカ胸部外科学会(AATS)は心臓血管外科の領域では世界で最も権威のある学会です。その医学的水準や見識、社会的信用、倫理的正当性や自浄作用、さらには政治力に至るまで極めて高いレベルにある学会です。心臓血管外科の領域で世界中の学会のお手本になっているといっても過言ではありません。そのAATSが20年ほど前から大動脈シンポジウムを2年に1度、ニューヨークで開催するようになり、すでに歴史のあるシンポジウムになっています。IMG_1860

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この分科会を日本で初めて、アジアでも初めて、神戸にて開催されました。会長の大北裕先生とSundt先生のご尽力に敬意を表したく思います。

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記念すべき会で、発表もあったため私も参加しました。

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海外から高名な先生方が参加されたことと、国内からも近年の大動脈外科の進歩を象徴するかのように力作の演題がならび、内容が充実するとともに、日本の大動脈外科が世界からより評価されることにつながるものと感じました。

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心に残った発表をいくつか紹介します。

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まず初めに大動脈基部再建のセッションがあり、我が恩師Tirone E. David先生(Toronto大学)が基部再建のテクニックを解説されました。昔、トロントでこの方法を開発したころは大動脈弁がそう壊れていないケースが多かったのですが、成績安定とともにより重症例を扱うようになり半分の患者さんで何らかの弁形成を併用しているとのことでした。やはり基本はしっかりとしたCoaptationが大切で、とくにCoaptation Heightの確保ということでしょうか。

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弁尖の開窓は組織の弱さを示し、あまりうれしい所見ではありませんが、細いゴアテックス糸2列でしっかりと補強し、成績改善に役立っているようです。同先生はこれを20年以上昔からやっていますが、やる価値はあるようです。Yacoub法つまりリモデリング法は老人の3尖が良い適応になりやすく、二尖弁ではDavid法つまりリインプランテーションを使うとのことでした。

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LuebeckのHans-Hinrich Sievers先生はご家族のご不幸のため来日できず、スカイプをもちいたネット講演になりました。二尖弁の大動脈は解離を起こすリスクが10倍というのは実感にあう数字でした。大動脈は形成より置換が良いというのもうなずけました。面白かったのは大動脈壁が黄白色になると、それは細血管がないためで、危険なサインという観察でした。そういう眼で今後しっかりと大動脈を見ようと思いました。

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MGH(マサチューセッツ総合病院)のThoralf M. Sundt先生は大動脈基部の再手術を解説されました。心臓血管手術の中で比較的難易度の高い手術で、いろいろと注意点も多く、参考になりました。癒着が危険レベルのときには慎重なアプローチが必要で、場合によってはバルブインバルブを活用し基部再手術を回避するというのは役立つことがあると思いました。基部再建時のLMTの剥離は最小限に、時にキャブロール法を活用、あるいはキャブロールバッフルで基部全体を包む形で危機を逃れるなどは、経験豊富な同先生ならではのメッセージでしょう。

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日本勢の健闘が目立ったのは急性大動脈解離弓部大動脈全置換関係の領域でした。

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東北大学の斉木佳克先生はAcute Aortic SyndromeでIntimal Defectの検出で治療に役立てることを、神戸大学の大北裕先生は大動脈解離の術前のMalperfusion対策の試みを、自治医大の岡村先生・安達秀雄先生らは弓部のエントリー遺残が以後の大動脈拡大に影響することを、国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生はSundt先生の低体温に対する中等度低体温での選択的脳灌流を、東京医大の荻野均先生は弓部全置換術の最近のテクニックについて、大阪大学の倉谷徹先生はTEVARを積極的に活用したハイブリッド治療について、それぞれ述べられました。いずれもおなじみの内容でしたが、この領域では世界をリードしつつあることを感じました。

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私自身もこれまでと違って毎日大動脈解離の患者さんが来られる施設に移動したため、これからこの領域でも貢献できればなどと思ってしまいました。

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イタリア・ボローニャのRoberto Di Bartolomeo先生のエレファントトランクの詳細についてのお話も興味深いものでした。

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京都大学の川東先生の弓部全置換術と枝付ステントグラフトの比較は、かつてその初期導入を担ったものとして懐かしく興味深いものでした。外科手術はやはり脳梗塞の回避などで安定したちからを持っており、枝付ステントグラフトはハイリスク例を中心に適応を絞るのが良いとあらためて思いました。

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午後の胸腹部大動脈瘤のセッションでも内容あるディスカッションが続きました。

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フィラデルフィアのJoseph E Bavaria先生のB型解離の扱いでは、Good patientかつbad anatomyのケースに外科手術、その他はTEVARか内科治療という棲み分けでそれぞれの特徴を良く反映したものと感じました。
浜松医大の椎谷紀彦先生は胸腹部大動脈瘤の外科手術において、肋間動脈などの再建をより確実に、かつ長期の開存率をより高くするための工夫を論じられました。参考になりました。

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Terry P. Carrel先生のウシ心膜をもちいたTubeグラフトのきれいな姿を示されました。感染に強いとのことで、今後もっと積極的に使いたいと思いました。私も大動脈基部膿瘍などでホモグラフトの代わりにこの方法を用いたことが何度かあり、その裏付けを頂いた気分でうれしく思いました。

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その他にも興味深い発表が続き、充実した一日でした。
ポスターも同様で、心臓血管研究所の國原孝先生の大動脈弁形成IMG_1837b術は完成度が高く、今度のスタンダードになるものとあらためて思いました。

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私はバルサルバ洞破裂に対する新しい手術を発表し、これまでの術式より安定度が良く、他院で失敗したケースの救命例複数も含めて、さまざまな状況に対応できるものと思いました。恩師Tirone E. David先生も私のポスターを見に来て下さり、良いコメントを頂きました。

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たっぷり丸一日勉強してもまだまだやることがあるといった印象ですが、アメリカの外でこうした機会が創られたことに大きな意義を感じます。大北先生、Sundt先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

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2015年10月20日

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米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第六十二号】NHK文化センター講演、第二報です

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いい心臓・いい人生 【第六十二号】NHK文化センター講演、第二報です
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:米田正始
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拝啓

冬の訪れが近いことを感じさせるこの頃です。皆様にはお変わりなくお元気にお

過ごしでしょうか。

私の方は仁泉会病院での心臓血管外科外来と近隣の野崎徳洲会病院での心臓血管

手術で毎日忙しくさせて戴いております。

この夏ごろに急な変化・移動で皆様にご迷惑をおかけして申し訳なく思っており

ます。これまでより格段に足腰が強く機能の高い病院で、社会貢献できておりま

す。毎日大動脈解離の患者さんが来られるのは心臓外科医として光栄かつ身が引

き締まる思いです。またこれまでどおり、遠方からさまざまな病気の患者さんが

お越し下さるのも光栄で同じ想いです。

つい昨日も地元の大型病院で弁形成も除細動も絶対無理と言われていた患者さん

の弁形成と除細動に成功し、ご期待に沿えて感無量の一日でした。
さて先日ご連絡いたしました、NHK文化センターでの新しい試み、

「病のぎもん解消!~心臓病と血管病~」につきまして、ご参加の皆様からご質

問をいただき、それをもとにして準備を進めております。

まだ席に多少の余裕があり、奮ってご参加ください。
名古屋教室の予定も決まりましたのでこちらもご利用下さい。
ご案内チラシから(抜粋): 増え続ける心臓病(弁膜症や心不全、狭心症その他)
や大動脈瘤その他。

さまざまな疑問に、心臓血管外科の名医として数多くのマス
コミにも取り上げられてきた医師が丁寧にお答えします。

皆様の健康増進、病気予防の一助になれば幸いです。

10月31日土曜日10:30-12:00 NHK文化センター梅田

大阪市北区角田町8-1
梅田阪急ビルオフィスタワー17階
電話 06-6367-0880
https://www.nhk-cul.co.jp/school/umeda/

11月8日 日曜日10:30-12:00 NHK文化センター京都

京都市下京区四条通柳馬場西入ル
立売中之町99四条SETビル3F
電話 075-254-8701
https://www.nhk-cul.co.jp/school/kyoto/

2016年1月31日 日曜日 13:30-15:00
NHK文化センター名古屋
愛知県名古屋市東区東桜1丁目13ー3
電話 052-952-7330
https://www.nhk-cul.co.jp/school/nagoya/

にて行います。平素心臓や血管の病気で心配なことや疑問点などをお聞きいただ

ければ幸いです。お申込みのときに、ぜひご質問をお寄せ下さい。
詳しくはそれぞれのHPをご参照ください。
有意義なひとときになるよう、頑張ります。

敬具
平成27年10月26日
米田正始 拝
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左室形成術とは【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月11日

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◾️左室形成術とは?

左室形成術とは左室瘤拡張型心筋症その他の状態に対して左室の容量・サイズと形を整え調整することで左室の機能をできるだけ回復させる手術です。

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古典的なものとしては心筋梗塞のあとの左室IMG_0690b3瘤(右図、左室の一部がこぶのようにポコッと膨らみそれが左室機能を悪くしたり血栓ができて障害が起こる)に対しての瘤切除があり、多数の患者さんを救命して来ました。1990年代はまだこうした時代でした(英語論文 15番などをご参照ください)。

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その後カテーテル治療PCIやさまざまな薬の登場でいわゆる左室瘤が減ったものの、それに代わって虚血性心筋症という、左室全体が動かないタイプが増えました。

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図 梗塞後リモデリング

◾️この10-20年の流れ

これまでの左室瘤の手術では、左室の悪いところを切り取るために術後は良くなるのはある程度自明でしたが、虚血性心筋症となると左室の悪いところと良いところの差が小さく、良いところも切り取ってかえって悪くなるという心配がでてきたのです(左図)。

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さらにこうした患者さんたちは手術前から心不全のため内臓が壊れたり全身の体力が落ちていることも多々あり、手術はできても体がついて来ない、ということのないように、注意が必要なのです。

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それをさまざまな工夫をして左室機能を良くするような切り方としたのがバチスタ手術であり、セーブ手術ドール手術オーバーラッピング手術、エリート手術なのです。詳しくはそれぞれのページをごらんください。

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それぞれ特徴があり、長所と短所をもっているため、一概にこれがベストと言いづらいところがあります。

どの左室形成術が良いかを考えるよりも、どれがこの患者さんに一番ぴったりくるかを考える、これが大切と思います。

そのため私はこれらの左室形成術をすべて活用しており、適材適所で選ぶようにしています。

そしてこの数年間、より患者さんの負担を減らし効果をあげる心尖部凍結型左室形成術を考案し、成績を改善しつつあります。左室形成術で死亡する患者さんはほとんどない、というレベルに達しました。

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◾️もっと患者さんを救うために

心移植がまだまだ患者さんのニーズを満たすほどに普及していない現在、左室形成術はうまくやれば患者さんをお助けする奇跡の手術になり得ます。心移植の手前の段階での治療と位置付けられている補助循環つまり人工心臓は太いケーブルにつながれている不自由さとその感染症などの合併症の多さからQOL(生活の質)が低く、なかなかなじめないというのが現状です。プロモーションビデオでは補助循環をつけた形でゴルフなどしておられる一コマもありますが、では実際に1ラウンドし、その後皆でお風呂に入り、食事を楽しみ、、それも隣に監視の医療者がいない状況で、といった普通の楽しみができるかとなればかなり???マークがつくでしょう。

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あるいは年齢その他の医学的、社会的条件のため、心移植や補助循環が許可されない患者さんでは左室形成術は唯一の治療法となることさえあります。

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このように患者さんにとって極めて有用有益な左室形成術ですが、内科の先生方の評判はそれほど良くありません。というよりあまり知らないという先生が多いのです。

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それは左室形成術そのものがそう多数行われている手術ではないこと、その成果を見る機会が内科の先生方に少ないこと、さらに欧米で行われたSTICHトライアルという欠陥研究で左室形成術は効果がないという結論を出されたため、頭からこれが消えてしまっているという現実があることも理由のひとつです。

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しかし私たち左室形成術を得意とするグループはこの良さを科学的に数字で示そうと研究会(重症心不全外科研究会)を立ち上げてデータを蓄積しているところです。

また私たちは2017年の日本胸部外科学会と重症心不全研究会で改良型ドール手術と心尖部凍結型左室形成術を発表し、前向きのコメントを多くいただきました。2018年のアメリカ胸部外科学会でもこの成果を発表し、世界に問いかけました。

この10年ほどの間に補助循環(一種の人工心臓)が改良され、これまでの心移植へのつなぎ(ブリッジ)だけでなくDTつまり一生人工心臓で行くという治療が増えつつあります。といっても補助循環で長期間生きるのはまだまだ大変です。その中で、左室形成は補助循環へのつなぎ(ブリッジ)としての位置付けをもつケースが出て来ています。ともあれ皆の英知を結集して重症心不全の患者さんが一人でも多く、一年でも長く生きられる、それも楽しく生きられることを目指して努力したいものです。

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心不全でお悩みの患者さんにおかれましては左室形成術を熟知した医師に相談され、ベストの選択をされることをお勧めします。

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■ 患者さんの想い出はこちら:

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第四回 重症心不全外科研究会にて――左室形成術をめぐって

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第68回日本胸部外科学会の際にこの重症心不全外科研究会が開催されました。今回は自治医大さいたま医療センターの山口敦司先生が当番幹事つまり会長でした。

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この研IMG_1854究会はこれまで多数の患者さんたちを救命して来た左室形成術がSTICHトライアルという欠陥研究のため誤った過小評価を受け、そのために患者さんが左室形成術の恩恵が受けられなくなるという悲劇が発生しているのを何とかしようという趣旨で立ち上がったものです。

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これまでオーバーラッピング手術などで業績を上げて来られた北海道大学の松居喜郎先生が代表幹事として、その事務局機能を同大学の若狭哲先生が担って下さっているものです。左室形成術の大御所であられる北村惣一郎先生や須磨久善先生にも顧問としてご参加いただいている、この領域のオールニッポンともいえる集まりです。

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今回は山口先生のご配慮でこれまで以上に内容豊富な研究会になりました。

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まず須磨先生のご司会で松居先生が重症心不全外科研究会のおかれている立ち位置と今後の課題というテーマで概説されました。左室形成術が患者さんの予後改善に役立つという根拠を示す努力を紹介されました。

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医療現場では左室形成術の威力は知る人ぞ知る、おおきなものがありますが、この心臓手術は重症例に行うことが多く、患者さんの中には移植以外の何をやってもダメというほどに心臓が弱っている方も多く、これらの方々では左室形成術は効果なしという結論になりがちですし、逆に軽症すぎる方の場合は左室形成術をやらなくてもまあまあ元気ということも多々あります。このあたりのしっかりとして見極めが大切で、こうした方向の議論がなされました。

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この中で松居先生らのグループのSWI(Stroke Work Index、心筋の性能を知る有用な指標です)が20以上なら予後が良いという指標は今後の有力な参考になり得るものと思いました。

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ついで山口先生の司会で若狭先生がこれまでの本研究会での公表エビデンスをまとめて紹介されました。

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SURVIVEという名前のレジストリ―で1500例以上のデータの蓄積のなかから検討されました。その77%が虚血性でした。左室形成術は768例あり、そのうち40%に僧帽弁手術がなされていました。

左室駆出率40%未満の1093例を検討されました。左室形成術はちょうどその半分にされていました。

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その結果、Group2というESVIが71-96の範囲の中等度の左室機能不全例にて左室形成術は有意に予後を改善していました。左室はそれより大きいつまりより重症のグループでは明らかな予後改善効果に至っていませんでしたが、私の見たところ、それらのグループは拡張機能障害がない範囲内でもっと積極的に左室を縮小すれば心機能も生存率もさらに改善したのではないかと思いました。これからこうした細部を煮詰める必要があるものと感じました。

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研究会の広範はビデオプレゼンテーションで、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と京都府立医大の夜久均先生の座長で行われました。

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東京大学の小野稔先生は弓部大動脈瘤と虚血性心筋症の患者さんに対して左室形成術と僧帽弁形成術、CABGを行い、ついでデブランチTEVARで仕上げられたケースを報告されました。こうした複合疾患での一つの良い組み合わせ治療と思いました。

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国立循環器病研究センターの小林順二郎先生は機能性MRを合併したDCMの一例を報告されました。左室Dd65mmをバチスタ手術で積極的に45mmまで縮小し改善をみました。機能性僧帽弁閉鎖不全症を僧帽弁形成術で治すためにこうしたバチスタ手術は有用とあらためて感じました。ただここまで小さくすると拡張機能障害が出て困ることもあり、注意深く進める必要を感じました。

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東海大学の長泰則先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する左室形成術を報告されました。中等度以上のMRには弁置換をしているとのことでした。左室形成術はDor手術を使っておられますが、ジオメトリー維持のため工夫をしておられました。術後の心室頻拍VTを防ぐために積極的に左室の内膜切除を行っておられるのが印象的でした。

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名古屋大学の六鹿先生は40代のデュシャン型筋ジスDCM患者さんに心拍動下MVRとTAPなどを施行し、一旦改善していたものの6年経って心不全が進行したというケースを報告されました。私は多少とも似たケースを経験していたため、次のようにお勧めしました。まずこのタイプの筋ジスは心筋も侵すため油断はできない、しかしゆっくりと進むためまだ左室形成術で当分元気になる時間があるかも知れない、そこでその専門家と心筋の予後を十分検討されること、そしてDd89 EF12なら拡張機能障害がなければ左室形成術でかなりの改善が見込まれるため、前向きに検討して頂きたい。

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松居先生はEF8.8% Mild MRの虚血性心筋症に対するオーバーラップ手術と乳頭筋接合と吊り上げの一例を報告されました。Dd78は64へ、EF15は22へ改善したようで、これからさらに薬で改善を図って頂きたく思いました。MRIでのViabilityの有用性や乳頭筋接合の詳細も論じられました。

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私、米田正始はある大学病院で心移植候補と判定された患者さんに、ご希望によって左室形成術とPHO式僧帽弁形成術によって社会復帰された一例を報告しました。現在術後1年が経ちますがお元気でNYHA I度つまり心不全症状なく、ご家族の介護などで活躍しておられます。

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こうした超重症でも外科手術とくに左室形成術やPHOなどによって元気に社会復帰できる方が多いことをもっと多くの方々に、とくに内科の先生に知って頂きたく報告しました。

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移植センターの先生に聞いたところ、最近の循環器内科の先生方の傾向として、こうした心不全でβブロッカーが効かなくなれば即LVAS補助循環にという短絡が多いとのことでした。LVASは長足の進歩を遂げていますが、まだまだQOLは低く、やはり左室形成術などの通常治療で元気になれれば患者さんへのメリットは大きなものがある、こうしたことも論じました。

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山口先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋接合術の工夫を解説されました。カラーとMICSリトラクターをもちいると経僧帽弁的に乳頭筋が良く見え、手術がやりやすくなります。

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京都府立医大の山崎先生は広範囲の梗塞除外を行った左室形成術の一例を示されました。ELIET法と呼ばれる直線閉鎖にて心機能を改善されました。

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さまざまな症例から活発な議論ができました。最初のご講演と合せて熱い志の高い研究会でした。

なお幹事会でここまでの立派なデータの蓄積をうまく使って左室形成術の特徴を浮き彫りにするための努力工夫を論じました。私見ですが、中等度心不全で効果が出ている以上、中高度心不全や高度心不全では必ず効果のあるケースが存在するはずで、それらを検討することでより左室形成術の真価や限界が見えてくるものと思いました。

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