6) ステントグラフト治療とは?―体にやさしい画期的な治療法【2025年最新版】

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更新日:2025年9月29日
執筆:福田総合病院 心臓血管外科専門医 米田正始

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これまでの手術にステントグラフトを追加した時の姿です。瘤が新たにできたときなどに、患者さんに負担が少ない治療ができます◆ステントグラフト治療とは?

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ステントグラフト治療(EVAR:Endovascular Aneurysm Repair)は、大動脈瘤を従来よりも小さな負担で治療できる画期的な方法です。

従来の手術では胸やお腹を大きく切開し、瘤の部分を人工血管で置き換える必要がありました。これに対しステントグラフトは、カテーテルを使って折りたたんだ人工血管を動脈の中で広げて固定します。

そのため、

  • 人工心肺装置が不要

  • 体温を下げる必要がない

  • 輸血がほとんど不要
    といったメリットがあり、高齢者や合併症を持つ患者さんに特に有効です。

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◆適している大動脈瘤の部位

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AoAneuLocation

  • 下行大動脈瘤
    ステントグラフト治療が最も行いやすい部位です。大きな分枝が少ないため、人工血管を内側から張り付けやすく、術後の脊髄麻痺もほとんど起こりません。

  • 腹部大動脈瘤
    腹部大動脈でも広く用いられるようになり、開腹せずに治療できるケースが増えています。(手術事例1手術事例2をご参照ください)。

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一方で、上行大動脈や弓部大動脈は大切な枝が多いため、そのままではステントグラフト治療が難しい領域です。

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◆進化する治療法 ― ハイブリッド手術とデブランチ法

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最近は、ステントグラフト単独では治療が難しい症例に対して、外科手術と組み合わせた「ハイブリッド手術」が発展しています。

  • デブランチ法:大動脈の枝を先にバイパスでつなぎ直し、その後ステントグラフトで安全に瘤を覆う方法

  • 二期的手術:エレファントトランク手術後にステントグラフトを追加して補強

これにより、かつては困難だった弓部大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の治療にも成功例が増えています。

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◆ステントグラフト治療の課題と今後

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  • 長期耐久性はまだ研究途上で、特に若い患者さんへの適応には今後の検証が必要です。

  • 瘤の形や場所によっては、ステントグラフトだけでは治療できず、外科手術と組み合わせる必要があります。

それでも、体への負担が少ない大動脈瘤治療法として大きな成果を上げており、今後さらに改良と普及が期待されています。

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◆まとめ

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  • ステントグラフト(EVAR)は、大動脈瘤を体にやさしく治療できる革新的な方法です。

  • 特に高齢者や全身状態が弱い患者さんに大きなメリットがあります。

  • ハイブリッド手術やデブランチ法の進歩で、より広い症例に対応できるようになっています。

  • 将来的には、長期成績の安定とともに若い世代への応用も進むと考えられます。

👉 大動脈瘤の治療法について不安や疑問がある方は、早めに心臓血管外科専門医へご相談ください。

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7) 大動脈のハイブリッド治療の実例をしめしてくださいへ進む

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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7) 大動脈のハイブリッド治療の実例をしめしてください

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ステントグラフト(略称EVARTEVAR)は比較的あたらしい治療法ですが、近年さまざまな展開があります。

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Ilm01_ba04080-sたとえば手術単独でもステントグラフト単独でも治せない、

あるい は危険性が高すぎる末期重症患者さんとくに胸腹部大動脈瘤 なかでも破裂性のものに対して、

外科手術とステントグラフ ト(EVAR)を組み合わせたハイブリッド治療 を開始しました。前任地にて2004年から開始しています。

当時はあまりにも斬新すぎて学会で発表しても皆さん唖然としておられ、質問も反論さえもでなかったのを覚えています。

認められなくても良い、患者さんが元気になればそれでよいと開き直っていました。

 .

京大病院時代には6人の絶体絶命、超重症の患者さんをいずれも生還させています。

今後の強力な救命手段になるで しょう(手術事例 3)。

 .

またハイブリッド治療は胸部大動脈瘤でも活躍することが増え、

たとえば上記のようにエレファントトランクの安定化に活用することもありますし、

胸部大動脈を全部取り替える必要がある患者さんでは体の前からアプ ローチし、

上行大動脈と弓部大動脈を人工血管で治し、

下行大動脈以下はステントグラフト(TEVAR)で治すことで

手術侵襲つまり体への負担を軽くし、安全性を高めることができます。

IMG_2425b.

左図は大動脈基部拡張に対してデービッド手術(自己弁温存式基部再建)を施行したときに、併せて弓部大動脈の3本の枝にバイパスをつけた(デブランチと呼びます)ものです。

マルファン症候群の患者さんなどにこうした方法を用いることで、将来弓部大動脈が悪くなっても簡単にステントグラフト(TEVAR)が追加でき、胸の正中切開が不要となるのです。患者さんのリスクや苦痛を減らし、精神的ストレスを減らすのに役立っています。

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将来のステントグラフトは右図のようなIMG_2423b形で追加でき、それによって弓部大動脈あるいはそれ以遠の大動脈も守りやすくなります。

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このようにハイブリッド治療では外科手術とステントグラフトの特長を活かすようにしています。

弓部大動脈と下行大動脈さらに胸腹部大動脈、腹部大動脈との間にも同様の工夫ができるようになりました。

何度も手術したり、2つ3つ分の大きな手術をするといくらうまくやっても死亡率が多少とも上がります。

あるいは死亡しなくても、脊髄マヒなどの合併症が起こることもあります。

そうしたことをできるだけ避けるため、ハイブリッド治療を進化させているのです。

 .

ステントグラフト(EVAR)を活用したハイブリッド治療はハートチーム時代にふさわしい優れた方法です。

うまく活用すれば患者さんにとってはメリットが多く、 喜ばれています。

                                                  .                                                                                     .

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8) 大動脈瘤や大動脈解離の患者さんを助けるために大切なことは?へ進む

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執筆:米田 正始
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8) 大動脈瘤や大動脈解離の患者さんを助けるために大切なことは?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月23日

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Q: 大動脈瘤や大動脈解離の患者さんを救命するために大切なことは?

 

Ilm22_ba01054-s  大動脈瘤大動脈解離破裂して、病院へ来るまでにすでに血圧が出なくなり、つまりすでにお亡 くなりになっていた患者さんもあり、内科や開業医の先生方とさらに連携を強めて、「生きているうちに手術室 へ行こう、そうすれば勝ち目は十分」という啓蒙活動を行っています。

 .

とくに急性大動脈解離は時間単位で患者さんがお亡 くなりになるため、タイミングを逃さず診断し緊急手術することで患者さんを救命できます。

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なかでも血圧が低下しているときや、脳虚血の所見があるときは、まもなく急死する恐れがあり、急ぎます。(心臓手術事例:急性大動脈解離と大動脈弁閉鎖不全症

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Gum11_sy01045-sこのように大動脈瘤や大動脈解離は時間勝負という一面があります。そのために、患者さんというより市民の立場からは強い胸痛や背部痛があれば直ちに救急受け容れができる病院へ連絡することが命を救います。

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これによって死亡寸前であった患者さんが救命できることもしばしばあります。

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◼️マルファン症候群の方々には

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また解離を起こしやすい状況の方、たとえばマルファン症候群の方なども同様にいざというときの心の準備をしておくと役立ちます。

最近増えた患者さんの生きる知恵のひとつとして、「顔見世」受診があります。大変良いことと思います。つまりマルファン症候群や大動脈解離の既往などがあって、いざというときのために前もって来院し、カルテをつくり、血液型その他のデータを確認し、私たちと顔なじみになっておかれるのです。これはもしもの緊急事態には役に立つでしょう。どういう患者さんでどういう状態が正確に把握したうえでの緊急手術なら安全性も上がるからです。

 .

その一方、通常の大動脈瘤は定期健診たとえば胸部レントゲン写真などである程度早期発見できますし、疑えばCTスキャンで患者さんには苦痛なく確実に診断ができます。平素のコミュニケーションと信頼関係がいざというときに威力を発揮するのです。

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9) 大動脈炎症候群の患者さんでは手術できるのですか?へ進む

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9) 大動脈炎症候群の患者さんでは手術できるのですか?―組織が弱い!

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薬bn7-36bでも手術できます。

ただし縫った大動脈部分が通常より弱いことを 念頭においたアプローチが必要です。

補強をしたり通常より強度を高めた縫い方をします。

私たちは大動脈炎のときの大動脈には通常以上に強度を持たせるべく、テフロンフェルトを全周性にもちいて、2層の連続縫合を行い、必要に応じて外から補強を加えます。

少々のことでは縫合線が壊れないようにしています。

 

とくにステロイドのお薬を、中でも一日10mgを超えるほど多量に服用中の患者さんの場合は、組織の治りがゆっくりですので、それに対応できる手術をする必要がありますし、できればステロイドの量をうまく減らしてから手術するなどの工夫も有用です。

 

手術のあとも大動脈炎症候群その A316_010ものの進行を長期間抑えるよう、お薬でコントロールする必要があります。

プレドニンなどのステロイド剤では不十分なときには免疫抑制剤を使ってでも炎症を抑えます。もちろん落ち着き次第、これらのお薬は減量して行きます。

この点でも内科の先生方とのチームプレーを大切にします。

 

手術法につきまして、弁膜症とくに大動脈弁膜症を合併するときは 大動脈弁置換 大動脈基部置換(ベンタール手術など) を行います。

A313_003また弁形成がぜひ必要で、かつ弁尖が病変にやられていないケースでは大動脈弁形成・自己弁温存式基部再建、別名 reimplantation リインプランテーション(デービッド手術)を行うこともあります。

その際に、縫合線をしっかりと補強した縫い方や工夫をしています。

デービッド手術では通常の弁置換やベントール手術よりも、広い面で人工血管と大動脈壁が圧着されるため、強度では有利と考えます(手術事例:大動脈炎へのデービッド手術)。

また炎症がおこらない心膜な どを活用し、組織を補強することもあります。

(大動脈炎症候群 手術事例1)  

このことは大動脈炎症候群に冠動脈バイパス手術などを行うときも同様です。

つまり上行大動脈に直径1-2cmの穴を開けてそこへ自己心膜パッチを縫い付け、そこへバイパスグラフトを縫着するのです。

これによって大動脈炎はバイパスグラフトに悪い影響は与えなくなります。

末梢吻合つまり冠動脈との吻合は通常どおりで問題ありません。そこまで炎症が及んでいないからです。

 

さらに頸動脈その他の血管の病変があるときには、その状態に応じて内科と相談して治療方針を立てるようにしています。手術後の長期フォローでも同様にチーム医療を行っています。

 

メモ: 大動脈炎は日本はじめアジアで多い病気です。

日本地図b診断は大動脈造影で大動脈やその枝に拡張や狭窄があり、かつ炎症反応があればほぼ確定します。

また若い女性によく起こる傾向があり、治療に際してさまざまな注意が必要となります。

たとえば将来、妊娠出産できるような手術法を選ぶなどですね。

炎症はCRPや白血球、血沈などを指標とし、ステロイドをもちいて抑えます。

それで不十分あるいはステロイドが使えないときにはサイクロスポリン、サイクロフォスファマイド、メソトレキセートなどの免疫抑制剤をもちいます。

大動脈の枝が細くなっているときには抗血小板剤や血管拡張剤を使い、血流を改善します。

高血圧が合併するときには降圧剤を併用して血圧を正常化します。

弁膜症や心不全、高血圧やそこから合併する脳出血などを予防することが大切です。

 

(弁膜症の 大動脈弁のページ をご参照ください)

 

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事例:大動脈炎症候群にベントール手術を

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患者さんは 57歳女性、大動脈炎症候群大動脈基部拡張大動脈弁閉鎖不全症AR、高血圧のため手術となりました。

手術前から大動脈炎に対して長年ステロイド剤を服用してこられました。

内科の先生のご尽力でステロイドは一日7.5mgまで減量されていました。

Photo 

 

手術では上行大動脈のなかほどから基部まで拡張著明でした(写真左)。

ARのため左室も拡張し機能低下していました。

全体に組織はぜい弱で少しの伸展で裂ける傾向が見られました。

大動脈の炎症のための拡張とステロイド剤の影響が考えられました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、離断しました。

Photo_2大動脈弁は3尖でいずれも肥厚と短縮が見られました(写真左)。

大動脈炎症候群では大動脈壁が炎症で壊れ、弁そのものは壊れにくいのですが、

この患者さんでは長期の弁逆流のため二次的に弁も壊れていました。そこで

これらをすべて切除し基部置換(ベントール手術・ベンタール手術)することにしました。

大動脈基部は拡張し、右冠尖バルサルバ洞の冠動脈入口部と弁輪の間に石灰化が見られました(写真左)。

                                                                                                                                    .

Photo_3弁をすべて切除し、さらに大動脈基部を剥離展開しました。

まずバルサルバ洞付きダクロン人工血管30mm径の内側にATS機械弁27mmを縫着したものを作 り、

この人工血管を大動脈弁輪に縫着しました。 

  .

弁輪が大動脈炎症候群で弱っている可能性を考え、大動脈の外からも糸をとおし、二重縫合とし一層の安全を図りました。

2  

 ここで左冠動脈入口部をボタン状にくりぬき、

上記のバルサルバ洞付き人工血管に

直径4mm程度の穴をあけて

縫合しました

(写真左)。

 

Photo_4同様に右冠動脈入口部もボタン状にくりぬき、

上記人工血管に直径5mmの穴をあけて縫合しました

(写真左)。

これによって、

大動脈壁は基部付近には事実上残さない形になり、

かつ冠動脈入口部付近のわずかな大動脈壁も

ほぼ人工血管で守られる形になりました。

Photo_5上行大動脈遠位部に人工血管を縫合し(写真左)、

146分で大動脈遮断を解除しました。

大動脈基部置換手術(ベンタール手術)完成です。

体外循環からの離脱はカテコラミンなしで容易に行えました(写真左)。

経食エコーにて大動脈弁や左室右室の機能良好、および左右冠動脈入口部の良い形態を確認しました。

術後は通常の基部置換よりは慎重に治療し概ね順調で、感染などのステロイド剤の副作用もなく、再開し3週間で元気に退院されました。

あれから3年以上が経ちますが、お元気に暮らしておられます。

大動脈炎の患者さんとくにステロイド服用中の患者さんは手術ができないと言われることがよくあるようですが、心臓外科の専門家の間では必ずしもそうではありません。まずは相談です。

さらに弁尖の破壊が軽ければ、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が可能です。やはり相談がたいせつです。

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事例 3 EVARを活用するハイブリッド治療 

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<手術前> 77歳女性、胸腹部大動脈瘤の破裂で重篤な状態で他病院からのご紹介で来院されました

全身の衰弱で状態が悪く、通常の手術は難しいということでステントグラフトEVAR)と従来型手術を組み合わせたハイブリッド治療を選択しました。

つまり腹部大動脈の重要な枝たとえば腎臓へ行く動脈や胃腸・肝臓へ行く動脈をバイパスし温存したうえで、大動脈にステントグラフトEVARを入れて瘤をつぶすようにしたわけです。

腹部血管のバイパス手術は腹部大動脈瘤手術に準じたリスク、つまりかなり低いリスクで安全に行えますし、

その後であればステントグラフトEVARで大動脈瘤を細くしてもそう危険ではありません。

手術もステントグラフトEVARも順調に行えました。

 

<手術後>

 

破裂性胸腹部大動脈瘤のCT写真です。体の半分近くが大動脈瘤または出血の血液という恐ろしい状態でした 32_2

 

 

 

 

 

 

ステントグラフトを入れたあとの姿です。もとの瘤はかなり落ち着きました

34_5

超重症の患者さんでしたが、

ハイブリッド手術の低侵襲性つまり体への負担が軽かったおかげで、元気に退院されました。 こうして腹部大動脈の重要枝にバイパスを付けてからステントグラフトを入れれば、低い侵襲で大きな治療ができ、体力の弱った患者さんに有利です。これこそ患者さんに優しい治療です

胸腹部大動脈瘤へのステントグラフト(EVAR)治療に先立ち、

 腹部動脈にバイパスをつけて内臓が守られるようにしたのが画像にて見ることができます(矢印1)。

これでステントグラフトEVARが遠慮なく力を発揮できます(矢印2)。

 

 

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事例 2 急性大動脈解離に対するヘミアーチ置換術 (73歳女性、AS、MR、大動脈解離)

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21_2手術事例2-1上行大動脈は解離のため膨れかつ青くなっています(矢印)。

破裂寸前の状態でした。

急性大動脈解離の手術では心膜を開けるときの対応が重要で、

ある程度以上タンポナーデになっているケースではそっと開けて血圧が急激に上昇しないよう注意が必要です。

ショック状態や心停止なくここまで来れば救命率は極めて高くなります。

 

22_2症例2-2低体温循環停止のもと、上行大動脈を切開しました。

解離腔が見えます(矢印)。

急性大動脈解離に対しては約8年前まではGRFグルーを使用し、実際有用で便利な道具ですが、その後組織を壊死させるという報告が出されたため個人的には使用はケースバイケースにしています。

吻合は外膜を活用し強度と止血を達成するようにしています。

Davidの方法で、グルーもプレジェットも使わないテレスコープ法(望遠鏡のような構造で人工血管が内側に入る)でプロレーンの連続縫合で一気に終わります。循環停止時間15分程度であれば脳保護の点でも有利です。


23_2症例2-3人工血管(矢印)を用いた遠位側吻合が完了しました。
循環再開しています。

適宜プレジェット付きプロレーンで吻合部を補強します。

テキサスのサフィー先生・コセリ先生のご推薦の方法です。この10年以上使って来ましたが、良い方法と思います。

日本では山本晋先生らも愛用しておられます。

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症例2-4 大動脈基部での吻合準備中。
24_2   解離がおよんでいるのが見えます(矢印)

この吻合も人工血管を内側におくテレスコープ法でとくにプレジェットを使いません。

なお大動脈基部に解離が及んでいる場合、冠動脈口とくに右冠動脈口の周囲をプレジェット付き糸で内外に補強(リベット打ちと呼んでいます)し、大動脈弁の3つの交連部も同様に補強し安全を期します。

GRFグルーは使わないか、使っても少量が良いと考えています。

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25症例2-5 大動脈弁(矢印)に狭窄と病変があったため、
通常とは異なり弁置換することにしました。

このように弁の破壊が進んでいるケースでは、患者さんの年齢によっては生体弁の方が有利なことがよくあります。

内容をしっかり吟味して方針を決めることが大切です。

急性大動脈解離でも高齢者の症例が増え、こうしたケースがよく見られるようになりました。

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26 症例2-6 僧帽弁(矢印)を観察すると弁輪形成が必要な
状況でした。

弁葉がやや短縮し、弁輪が広がり気味であることも加わり、弁葉が閉じられなくなったようです。

術後の心不全を防止し立ちあがりを促進するために僧帽弁輪形成術は有用なことが多々あります。

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27症例2-7 僧帽弁輪を形成しました。

矢印は形成用リング。

.

できるだけ患者さん自身の僧帽弁を活用するようにしています。

.工夫して左室内圧を高め、逆流試験にも合格です

 

28症例2-8 大動脈弁置換(AVR)完了しました。
矢印は生体弁です。

なお弁尖が柔軟に保たれている場合であれば、大動脈弁形成術David手術(自己弁温存式大動脈基部再建)を行います。

70歳以上の高齢者では自己弁と生体弁のどちらがその患者さんの長期予後に有利かを考慮して術式決定します。

この年齢であれば生体弁は確実に20年前後持つため有利なことが多いと思います。

 

 

29症例2-9 右冠動脈に静脈グラフトを吻合しているところ。

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.冠動脈をしっかり再建しておくことは、安全上からも、術後の患者さんの生活の質(QOL)を守る上からも大切です。

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.

 

 

210症例2-10 冠動脈バイパス手術の中枢側吻合が仕上がり、すべての操作が完了しました。

急性大動脈解離の手術の仕上がりです。

最初の写真と比べると、上行大動脈がかなり細く、正常のサイズに戻ったのが判ります

.

患者さんは元気に回復されました。

急性大動脈解離では手術しない場合のリスクは極めて高い(発症2日間で50%近い患者さんが死亡される)ですが、手術のリスクはそれよりはるかに低く(術前心停止などがなければ100%近い救命率)、手術はリスクベネフィット比が高い治療法の一つです。

 

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事例1 弓部大動脈全置換術 (79歳女性、ステップワイズ・アーチファースト法)

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11_2手術事例 1-1 まず体外循環で体温を冷やします。

79 歳女性でややご高齢のため脳と脊髄保護に特に注意して手術法を考えました。

矢印は弓部大動脈。

写真の左側が頭側です。

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12_2症例1-2 弓部大動脈を切開しました(矢印)。

血液が貯まっているところから奥が下行大動脈につながります。

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13_2症例1-3 弓部大動脈全置換を開始。まず第3枝(矢印A)を人工血管(矢印B)とつないでいます。

テレスコープ式プロレーン連続縫合で一気に縫いあげます。

この吻合は止血や確認も容易です。

なお吻合部はプラークのない、きれいな部位をもとめて末梢側に進み、そこで吻合します。

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14_2症例1-4 つぎに第2枝(矢印)を再建しています。

血管そのものはいじらず、もしも血管内にプラークなどのゴミがあっても逆行性脳灌流を適宜使用して洗い流し、脳梗塞等を予防します。

.

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15_2症例1-5 そして第1枝(矢印)をつなぎます。

逆行性脳灌流ついで巡行性灌流をもちいてエア抜きとゴミ取りを行います。

これで脳や上半身は循環再開できます。

20℃の低体温で20分台の脳虚血ですので余裕があり、術後の覚醒は良好です。

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16症例1-6 下行大動脈にもう一本の人工血管をつなぎます(矢印)。

ステップワイズ法 stepwise法を用いることで、深い場所ですが結構良く見えます。

吻合部全体を常に見ながら縫えるのは便利です。

またこの方法はステントグラフトを用いた追加治療が必要な時にも便利です。

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17症例1-7 これら2本の人工血管をつないで通常の体外循環を再開し、

心臓側の上行大動脈(矢印)とつないで弓部大動脈全置換術の完成です。

ここでもテレスコープ(望遠鏡)式の連続縫合を使います。

そのあと補強を行い止血します。十分な止血が有用です。

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18症例1-8 上行大動脈から弓部大動脈まで完全に人工血管で置き換えられ、瘤破裂の心配は消えました。

近年はこの方法をベースに、より体温を上げて、選択的脳灌流(脳を含む上半身に別回路から血液を送ります)が安全なケースではこれを活用し、スピードアップと低侵襲化(手術が短時間になるため患者さんへの体への負担が軽くなります)を図っています。

また針穴出血が少ない新型人工血管を使うことで今後一層出血が減り安全性が高まるものと期待されます

さまざまな有用な方法が使えるようになり、それらの適切な選択や併用などが重要になると思います。

これらにより弓部大動脈全置換術の成功率は95%レベルに達し、すでに安全な手術に入りつつあります。

近年急速に進歩をとげたステントグラフトを併用する、いわゆるハイブリッド手術も活躍を始めています。

 

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