事例: 慢性大動脈解離への自己弁温存式大動脈基部再建手術(デービッド手術)

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慢性大動脈解離つまり大動脈解離のあと、手術を受けても月日が経って、手術以外の部位が膨らんで瘤(大動脈瘤)になることがあります。

いくつかのパタンがありますが、いずれにせよ、瘤が破れれば死亡しますし、そうでなくとも、場所によっては大動脈弁が瘤の影響を受けて弁膜症さえ合併することがあります。

つぎの心臓手術の事例はそうした慢性大動脈解離のケースです。

胸部XP
患者さんは51歳男性で、8年前、急性大動脈解離のため、近くの病院で上行大動脈置換術を受けられました。

それからはお元気に生活しておられましたが、徐々に大動脈基部つまり大動脈の一番根本の部分が拡張し瘤になったためハートセンターの米田外来へ来院されました。

胸部X線写真(右写真)ではかつての解離の跡かたで弓部大動脈大動脈がやや突出して見えましたが他には異常所見ありませんでした。

PreopCT2造影CT(左写真)にて以前手術を受けられた部位つまり上行大動脈は人工血管で安定していましたが、その根本の、大動脈基部とくにバルサルバ洞と呼ばれるふくらみ部分が直径60mmと異常に拡大し、破れそうになっていました。

さらにその基部の拡張のため、そこに付いている大動脈弁が閉じられなくなり、大動脈遮閉鎖不全症つまり逆流が発生し始めていました。

そこでガイドラインに沿って、瘤の破裂や弁膜症を防ぐため手術をすることになりました。

手術では以前の手術で人工血管が使われているため、その人工血管と周囲の組織との癒着が強く、そのままでは心臓や大動脈の中に入れないため、丁寧に剥離を進めました。あとで出血しやすい状況のため、入念に止血しながら進めました。

AvalveOKそして体外循環という、一種の人工心臓を回して安全確保ののち、心臓を止めて、大動脈と心臓の中に入りました。

まだ51歳とお若いご年齢のため、人工弁をもちいるベントール手術ではなく、患者さんご自身の大動脈弁を温存・修復してきれいな形にまとめつつ、大動脈を人工血管でとりかえるデービッド手術を行いました(写真右)。

米田の恩師・デービッド先生に直伝して戴いた方法にその後の磨きをかけた方法で手術を進めました。

PostOpCT無事、人工血管の中に患者さんの大動脈弁が入り、逆流なくきれいに開閉し、かつ左右冠動脈の根本部分も人工血管につないで修復は完成しました。

術後のCTでは大動脈基部はきれいに安定し、もはや破れる心配は消えました。大動脈弁の逆流も解消し、心機能も良好でした(写真左)。

手術後10日でお元気に退院されました。

術後まる2年が経ちましたがお元気に定期健診のため外来へ来られます。

この手術のおかげで、ワーファリンは無しで、かつ長期間の安定が期待でき、再手術の見込みはかなり低いと考えられます。

つまり機械弁をもちいたベントール手術では大動脈基部の安定は図れても、ワーファリンが一生必要ですし、生体弁をもちいたベントール手術では基部の安定やワーファリン無しはできても、10年あまり後に再手術が必要となります。

やはり親からもらった自然の弁を活かしつつ、大動脈のみ人工血管に代える手術が望ましいわけです。

今は外来に定期健診にてお元気な顔を拝見するのが楽しみなこのごろです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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慢性大動脈解離の治療ガイドライン

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大動脈解離つまり大動脈の壁が内外に裂けて血液がその隙間に流れ込む病気では、タイプによって緊急手術しなければまもなく死亡することが多くあります。

いわゆる急性大動脈解離のA型と呼ばれる、主に上行大動脈が解離で壊れるときですね。

その一 Aortic Dissect方、B型といわれる、下行大動脈が解離する病気では通常手術ではなく、点滴やお薬で治します。

 

しかしいずれの場合でも、その後時間が経って、解離した大動脈や手術した以外の部位 の大動脈が膨らんできて破れそうになれば、つまり慢性大動脈解離の状態になれば手術が必要がことがあります。

 

以下はその慢性の大動脈解離の患者さんのための治療ガイドライン(抜粋・要約)です。

 

◆大動脈解離における亜急性期および慢性期治療の適応

 

クラスI つまりつよくお勧めできる場合は

 

大動脈の破裂、大動脈径の急速な拡大(6か月間で5mmを超える)にたいする心臓血管手術

大動脈径の拡大(60mm以上)をもつ大動脈解離例に対する心臓血管手術

そのいっぽう、大動脈の最大径50mm未満で合併症や急速な拡大のない大動脈解離には内科治療(つまり点滴やお薬など)が強く勧められます

 

クラスIIa つまりお勧めできるのは

 

お薬によりコントロールできない高血圧をもつ偽腔開存型大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径55-60mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径50mm以上のマルファン症候群に合併した大動脈解離に対する心臓血管手術

 

クラスIIb つまりお勧めできるかどうかは微妙、ケースバイケースなのは

大動脈最大径50-55mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

 

詳細は日本循環器学会のホームページなどのガイドラインの項をご参照ください

 

定期検診(健診)は大切ですなおステントグラフト(略称EVAR)は複雑に偽腔(解離腔)が入り込む慢性解離には使えないことが多いです。また大動脈基部などにも使えません。将来の展開は期待されますが。

 

ともあれ大動脈解離は急性期を無事乗り切ってお元気になられたあとも、定期健診を受けて、安全を確保することが安全上必要な病気です。

ゆめゆめ油断されることのないように、お願いします。

 

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急性大動脈解離の治療ガイドライン

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急性大動脈解離、つまり大動脈の壁が急に内外に裂ける病気はタイプによっては急速に死に至る大変な病気です。

しかし現代の心臓血管外科・循環器内科・救急救命科の水準は高くなり、熟練したチームなら急性大動脈解離の大半を救命できるようになりました。

 

そこでもガイドラインが活躍しています。

日本循環器学会のガイドラインは、大動脈疾患のエキスパートが多数集まって、十分な検討のうえで作成された指針です。

これを踏まえることで、個々の患者さんやその病院の特徴を加味して正しい治療法が選択しやすくなっています。

 

◆スタンフォードA型急性大動脈解離の治療ガイドライン(抜粋要約)

SUtypeAdissectクラスI つまり強くお勧めできる治療は

偽腔が開存しているときの緊急の心臓血管手術

偽腔の破裂、再解離、心タンポナーデ、脳循環障害、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、腸管虚血、四肢血栓塞栓症などがあるときの心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療は

血圧コントロール、疼痛に対する薬物治療に抵抗性のときの心臓血管手術

 

◆スタンフォードB型急性大動脈解離の治療ガイドライン(抜粋要約)

SUtypeBdissectクラスI つまり強くお勧めできる治療は

合併症のない偽腔開存型および偽腔閉塞B型解離に対する内科治療

偽腔の破裂、再解離、心タンポナーデ、脳循環障害、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、腸管虚血、四肢血栓塞栓症などの場合の心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療は

血圧コントロール、疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する心臓血管手術

血圧コントロールに対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する内科治療

 

詳細はガイドラインをご参照ください。日本循環器学会HPなどで見ることができます。

 

急性大動脈解離のA型は最初の2日間に半分の患者さんが亡くなる恐ろしい病気で心臓血管手術が緊急で必要ですし、B型も通常は内科治療つまり点滴やお薬で行けますが、心臓血管手術が必要となることがあるわけです。

Ilm22_ba01054-sなおステントグラフト(略称EVAR)は前もって人工血管をデザインし作成する必要から、現時点では緊急手術が多い急性大動脈解離には使えないことが多いです。

 

ともあれ、大動脈解離と言われれば至急、経験豊かなエキスパートに相談するのが理想的でしょう。

 

メモ: かつて急性大動脈解離の患者さんが、やや時間が経ってから病院へ来られ、緊急手術の準備中に死亡されたことがあります。

あと1時間早く来て下されば救命できたのに、という悔いが残っています。

こうしたことが起こらないように、強烈な胸痛や背部痛が突然起こればすぐ病院へ行きましょう。

 

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腹部大動脈瘤―切るべきか待つべきか。EVARの時代に

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腹部大動脈瘤の治療のなかで、外科手術またはEVAR(ステントグラフト)か、あるいは待つのが良いかを迷う方がおられます。

図1b大切なことはその患者さんの腹部大動脈瘤が破れるかどうか、です。いったん破れてしまえば治療は間に合わず死亡することが多いからです。

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瘤が小さい患者さんつまり直径 4.5 cm未満では手術のリスクより瘤破裂のリスクが小さいのですが、そうした患者さんでも瘤が大きくなる危険性があることは忘れてはなりません。

そこで瘤のサイズや形に応じたきめ細かい対応がいのちを救うともいえるでしょう。

 .

無症状の小さい瘤、つまり直径3cmから4.5cm未満では判断が微妙です。

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1.小さい腹部大動脈瘤の患者さんは、それが破れるまでに関連した病気で死亡することが少なくありません

2.直径4-5cmの瘤では、5年以内に手術またはEVAR(ステントグラフト)が必要となる確率は60-65%で、8年では70-75%にもなります

3.手術(またはEVAR)のメリットと手術の死亡リスクとどちらが大きいか、よく検討することが勧められます。

4.無作為割り付けによる臨床研究の結果(アメリカ):無症状の中サイズの腹部大動脈瘤(直径4.0-5.5cm、日本人サイズなら3.5-5.0cm相当でしょう)で、手術してもしなくても5-8年の死亡率は差がありませんでした。

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Ilm2007_01_0330-sイギリスの小型瘤研究では、直径4.0ー5.5cmの腹部大動脈瘤をもつ1090名の患者さんで、8年間のフォローでは、当初は手術群のほうが死亡率が高いのですが、3年で並び、8年では手術群のほうが低死亡率(4.3%対4.8%)となります。

フォロー中、瘤は年間0.33cmずつ大きくなり、破裂の確率は当初は毎年1.6%、のち毎年3.2%に上がりました。女性のほうが破裂する恐れが男性の4倍もありました。

 .

Ilm2007_01_0603-sこうした大規模臨床研究にもとづいて、2005年にアメリカ循環器学会ACCとアメリカ心臓学会AHAが出した腹部大動脈瘤のガイドラインはつぎのようです。

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■ 直径4.0-5.4cm(日本人サイズなら3.5-4.9cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では6-12か月ごとにエコーかCTでフォローすべき

■ 直径3.0-4.0cm(日本人サイズなら2.5-3.5cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では2-3年ごとにエコーでフォローすべき

■ そして直径5.5cm以上(日本人サイズなら5cm以上に相当でしょう)では外科手術(あるいはEVAR)が勧められています。

■ これらのガイドラインは平均的アメリカ人男性の場合であり、日本人とくに女性ではそれより一回りあるいは二回り小さい瘤でも注意が必要です。

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なお一般的に正常の大動脈または動脈の直径の2倍を超えるか、6か月で直径が0.5cm以上大きくなれば手術(あるいはEVAR)すべきとも言われています。

 .

メモ: 一般に、症状が強い病気の場合は患者さんも油断なく病院へ来られることが多いため、ある意味むしろ安全なのですが、症状が弱いあるいは無い病気の場合はどうしても油断が生じてしまいます。

腹部大動脈瘤もそのひとつです。

しかしこれまでのデータつまり教訓の蓄積を活かさない手はありません。

どうか油断なきようにお願いします。

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腹部大動脈瘤、どんなとき手術やEVARが必要に?

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腹部大動脈瘤は直径5㎝にまで大きくなるか、6か月で5mm以上拡大すると何らかの手術が必要となります。腹痛や圧痛、背部痛あるいは塞栓症状などの症状があるときも同様です。

しかし心臓血管手術の場合、得られるメリットとよく比較検討することが大切です。欧米での腹部大動脈瘤手術の死亡率は2.7-5.8%と報告されています。日本ではもう少し低く1%程度でしょうか。私たちの経験では1%未満で、待機手術ならほぼゼロです。

手術が緊急になったり、高齢、腎不全、肝硬変、心臓や肺の病気などがあると死亡率は高くなります。

その一方、手術のリスクを下げるため、EVAR(ステントグラフト)は開発されました。

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欧米の主要な学会からのガイドラインは患者の状態に合わせたオーダーメイドな治療を勧めています。たとえば患者さんの年齢、リスクファクター、瘤の構造やサイズ、手術する外科医の経験量などが大切です。

全体としていえることは

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Person_0133b1.従来型の外科手術は手術が安全に行える若い患者さんによく勧められています

2.EVAR(ステントグラフト)は外科手術が危険でEVARに適した大動脈や瘤の形があるときに勧められます

3.EVARはそれに適した大動脈や瘤をもち、外科手術はそれほど危険ではないが長期間安定できないときに勧められます

 .

私たちの経験では、腹部大動脈瘤は確実に治せる病気になりました。そこで手遅れになることだけは避けて頂きたく考えています。

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EVARに適した腹部大動脈瘤とは?

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腹部大動脈瘤に対するEVAR(ステントグラフト内挿術)治療は患者さんにやさしい治療法として人気がありますが、EVARに適した腹部大動脈瘤とそうでないものがあります。

この点、その患者さんの瘤の特徴を把握し、もっとも適した治療法を選ぶことが患者さんの安全と安心につながります。

 .

EVARに適した腹部大動脈瘤の特徴とは次のものがあります。

 .

1.中枢側のネックの長さが15mm以上あること。

腎動脈より足側の、正常の腹部大動脈の長さがこれだけあれば、EVARの中枢側はしっかりと固定されるわけです。

このとき、ネック部の大動脈に血栓や強い石灰化がないことが重要です。

 .

2.瘤のサイズ。正しくサイズとくに直径を測定することが大切です。

EVARが小さすぎても大きすぎても問題が起こることがあります。

大きすぎると大動脈ネックが拡張してしまうこともあります。

 .

ここまでの報告では動脈瘤があまり大きすぎるとEVAR(ステントグラフト)の成功率は下がる傾向がみられます。

ヨーロッパのレジストリー(登録)データEUROSTAR registryでは瘤の直径が6.5㎝以上では治療後のさまざまな問題たとえば術後合併症や死亡率あるいは遠隔期の破裂などが増えると報告されています。

 .

3.角度: 身体の縦の線と大動脈のネックか動脈瘤がなす角度が60度以上あるとEVARは入りにくくなったり、折れ曲がったり、漏れたり、あとでグラフトがずれていく恐れがあります。

 .

4.腸骨動脈つまり遠位側の状態: 腹部大動脈瘤の多くは遠位側の大動脈が瘤となっているため腸骨動脈で固定する必要があります。

この腸骨動脈が拡張したり、良い部分が短かったするとEVARは入れづらくなります。

 .

ときに総腸骨動脈が使えず、外腸骨動脈を使う場合がありますが、リークが起こりやすく注意や工夫が必要となります。

 .

5.大腿動脈:EVARは大腿動脈から挿入するために、その直径は8mmは必要です。

大腿動脈が全体的に細かったり石灰化が強いとかなり困難となります。

必要に応じて後腹膜に剥離して腸骨動脈から入れることもあります。

 .

6.アクセサリー腎動脈: 患者さんの30%にアクセサリー腎動脈が見られます。

もしEVARがこれを閉塞させると腎梗塞になります。

 .

7.下腸間膜動脈: 腹部大動脈瘤の患者さんでは下腸間膜動脈がよく閉塞しています。

この場合はEVARを挿入しても問題ありません。

しかし下腸間膜動脈が開存し、かつ上腸間膜動脈に狭窄があれば、EVAR(ステントグラフト)が下腸間膜動脈を閉塞すると腸虚血となり危険です。

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腸骨動脈瘤の手術について 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月26日

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◆腸骨動脈瘤とは?

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腸骨動脈瘤とは、お腹の奥にある腸骨動脈がこぶのように膨らんでしまう病気です。
症状がないまま進行することも多いですが、破裂すると命に関わる危険な状態になるため注意が必要です。

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◆腸骨動脈瘤の治療方針

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図3b

  • 瘤が小さい場合(直径3cm未満):薬による内科的治療や定期的なCT検査・エコーでの経過観察が基本です。

  • 手術が必要な目安

    • 瘤の直径が 3cm以上

    • 6か月で 7mm以上拡大

    • 1年で 1cm以上拡大

    • 症状(お腹や腰の痛みなど)がある場合

これらに該当するときは、破裂予防のため手術が推奨されます。

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◆腸骨動脈瘤の手術方法

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  1. 人工血管置換術

    • 腸骨動脈の瘤の部分を切除し、人工血管で置き換えます。

    • 状況により、大腿動脈まで人工血管をつなげてバイパスを作ることもあります。

  2. 瘤閉鎖術

    • 内腸骨動脈瘤など、他の血流ルートが十分にある場合は、瘤を閉じて血流を遮断する方法をとることもあります。

  3. 腹部大動脈瘤を合併している場合

    • 腸骨動脈瘤に加えて腹部大動脈瘤(AAA)が直径2.5cm以上ある場合は、同時に手術を行います。

    • このときはY字型人工血管を用いて、大動脈と腸骨動脈をまとめて再建します。

現在では切開をできるだけ小さくする工夫が進み、従来よりも体への負担が少なく、安全な手術が可能になっています。

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腸骨動脈瘤は破れれば大動脈瘤に準じた危険性があり油断禁物です◆ステントグラフト(EVAR)による治療

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近年は**ステントグラフト内挿術(EVAR)**が大きく進歩しました。

  • お腹を大きく開けることなく、足の付け根からカテーテルを入れて人工血管を内側に留置する方法です。

  • 回復が早く、体への負担が少ないのが特徴です。

  • 腸骨動脈瘤が腹部大動脈瘤と同時にある場合にも有効です。

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◆腸骨動脈瘤は油断できない病気

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腸骨動脈瘤は「地味な病気」と思われがちですが、破裂すれば大動脈瘤と同様に致死的です。

  • 症状がある場合

  • 検査で瘤が大きくなっている場合

には、速やかに血管外科・心臓血管外科の専門医に相談することが大切です。

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◆まとめ

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  • 腸骨動脈瘤は症状がなくても進行する危険な病気です。

  • 直径や拡大スピードによっては人工血管置換術やステントグラフト治療が必要です。

  • 破裂を防ぐためには、早期発見と適切なタイミングでの手術が重要です。

「腸骨動脈瘤」と診断された方は、ぜひ専門医にご相談ください。

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腸骨動脈瘤とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月17日

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◆ 腸骨動脈瘤とは?

Iliac artery.

腸骨動脈瘤(ちょうこつどうみゃくりゅう) とは、骨盤内にある太い血管(腸骨動脈)がこぶのように膨らんでしまう病気です。

  • 総腸骨動脈瘤:全体の約70%

  • 内腸骨動脈瘤:約20%

  • 外腸骨動脈瘤:約10%

に発生します。

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腸骨動脈瘤は 腹部大動脈瘤(AAA) と合併することが多く、AAAの患者さんの 15〜40% に腸骨動脈瘤が見つかります。片側に腸骨動脈瘤があれば、もう一方にもできやすいため注意が必要です。

瘤の直径が 3cmを超えると急速に拡大 するリスクがあり、放置すると 破裂 → 致死的出血 に至る可能性があります。

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◆ 腸骨動脈瘤の症状

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小さいうちは 自覚症状がほとんどなく無症状 です。
しかし瘤が 6cm以上 に拡大すると次のような症状が出ることがあります:

  • 周囲の臓器や神経を圧迫 → 下腹部や腰の違和感

  • 血栓が飛ぶ → 下肢の血流障害(虚血やしびれ、冷感)

  • 破裂による突発的な腹痛・ショック

そのため、健康診断や他疾患の検査中に偶然発見されるケース が多いのも特徴です。

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◆ 診断方法

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  • エコー(超音波検査)

    • 低侵襲で安全に瘤の大きさを測定可能

    • ただし血管が蛇行している場合は不正確になることも

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  • CT検査

    • 正確な形状・範囲を評価できる

    • 造影剤や放射線被曝のデメリットあり

腸骨動脈瘤が疑われる場合は、エコーとCTを組み合わせて診断するのが一般的です。

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◆ 腸骨動脈瘤が破裂した場合のリスク

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腸骨動脈瘤が 一度破裂すると死亡率は非常に高く、30%前後 と報告されています。
診断が遅れるとさらに致死率は上がり、救命は困難です。

破裂を予防するためには、破裂前に計画的に治療を行うこと が何よりも重要です。

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◆ 腸骨動脈瘤の治療法

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● 経過観察

  • 瘤が小さい場合(3cm未満)や進行が遅い場合は定期的なエコー・CTで経過観察。

● 外科手術

  • 瘤を切除し人工血管に置き換える手術。

  • 確実性が高いが、体への負担も大きめ。

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ステントグラフト治療(EVAR

  • カテーテルを用いて血管内にステント付き人工血管を留置する低侵襲治療。

  • 高齢者や合併症のある方でも比較的安全に行える

  • 緊急破裂例でも救命率を高めることが報告されている

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◆ まとめ

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  • 腸骨動脈瘤は 放置すると破裂の危険がある命に関わる病気

  • 自覚症状が出る前に エコーやCTで早期発見 することが重要

  • 3cm以上で拡大傾向があれば手術やEVARを検討

  • 最新の低侵襲治療(ステントグラフト)により、より安全に治療可能

 .

腸骨動脈瘤の治療・手術へ進む

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胸部大動脈瘤へのTEVARの効果は?

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胸部大動脈瘤へのステントグラフト(TEVAR、EVAR)が注目を集めています。

これまでの心臓血管手術とちがって皮膚をほとんど切らず、患者さんにやさしい治療だからです。

その効果はどれほどあるのでしょうか。

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TEVARここまでにTEVARと従来型手術の正確な比較研究はありません。

いわゆる前向き無作為比較試験という、

公平な形での比較がないわけですね。

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それはTEVARよりも従来型手術の方が

より大きい胸部大動脈瘤を扱っていたり、

より全身状態の良い患者さんに使われていたり、

逆に、ステントグラフトができないような構造の胸部大動脈瘤に従来型手術が行われていたりするケースが多く、

比較しづらいからです。

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ここまでの研究で一番信頼できそうなものは、

2008年のメタ比較研究(これまでのいくつもの研究を比較検討する研究です)で、

17の研究を1109人のデータによって

ステントグラフトTEVARと従来型手術の成績を比較しています(J Vasc Surg 2008; 47:1094.)。

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それによれば、TEVARによって、治療による死亡率は0.36倍にまで低下し、

大きな脳神経障害も0.39倍まで減少していました。

しかも再治療の必要もとくに増えていませんでしたし、

病院やICU治療の期間も短縮できていました。

これらの利点はより安定した患者さんで見られました。

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その後の研究では次のようなものがあります。

1.単一施設での700例、後ろ向き研究で

ステントグラフトTEVARと従来型手術を比較し、

30日死亡率が5.7%対8.3%、

12か月死亡率が15.6%対15.9%と有意差がありませんでした。(Circulation 2008; 118:808.

.

2.やや小さいシリーズの研究で230例を検討。

周術期の死亡率はステントグラフトTEVARにて2.1%と低下するも、

従来型手術では11.7%と高かったのです。

術後30日でも1.9%対5.7%とステントグラフトが優位でした。

J Vasc Surg 2008; 47:247.J Thorac Cardiovasc Surg 2007; 133:369.

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3.小シリーズながら5年のフォローの報告(J Vasc Surg 2008; 47:912.)では、

瘤関連の死亡率はTEVAR2.8%と外科手術11.7%より低かったです。

外科手術の死亡の多くは周術期のものでした。

有害イベントたとえば

治療の長期化や新たな入院、大きな合併症、あるいは死亡でも

TEVARは58%で従来手術の79%より良好でした。

ただし生存率は68%と、従来手術の67%と差はありませんでした。

さらに再治療率でも3.6%と従来手術の2.1%と差は認められませんでした。

 .

Person_0196こうした結果からは、TEVARも従来手術もできるといったタイプの患者さんには

TEVARが良いのではないかという議論がでています。

 .

今後の展開が楽しみな治療法と言えましょう。

また胸部大動脈瘤のなかでも遠位部の下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤では従来手術のあとで脊髄マヒが起こることがあります。

これはもっとも恐るべき合併症のひとつですが、TEVARではこれがかなり起こりにくいのです。こうしたメリットもあるのです。

 .

また胸部大動脈瘤が広範囲に及ぶときや、複数あるときなどには従来の心臓血管手術とEVAR(ステントグラフト)を組み合わせたハイブリッド治療が患者さんに役立つことがあります(手術事例)。

こうした治療法は体力のない高齢者や他病をお持ちの患者さんでは威力を発揮します。

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いずれにせよ、胸部大動脈瘤は重い病気ですから注意深く治療する必要があります。

経験豊かなチームが治療にあたることが患者さんにとって大切であるのは確かです。

 .

AoDissect2質問: 胸部大動脈瘤のうち、慢性大動脈解離によるものではTEVARは使えるのでしょうか?

.

お答え: その解離の状態つまり解離腔と真腔の形や大きさ

あるいは腹部の重要臓器がどちらから潅流されているかなど、

さまざまな要素を検討してからのことにはなりますが、

慢性大動脈解離の場合はTEVARが使えないことが多々あります。

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やはり従来手術とTEVARの両方をうまく使い分け、

患者さんにベストの結果をもたらせるよう、努力を重ねることが大切です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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腹部大動脈瘤はどれくらい破裂しやすいの?【2020年最新版】

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図1b最終更新日 2020年2月22日

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◼️どんな腹部大動脈瘤が破れやすいの?

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腹部大動脈瘤の破裂しやすさは、

その瘤の形やサイズ、その他によって違います。

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早期に発見し、破れるまでに治療を完成することが、

命と生活を守ることにつながるのです。

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腹部大動脈瘤が小さい間、

たとえば直径4cm以下ではほとんど破裂することはありません。

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◼️瘤サイズと破れやすさの関係は

Cock01.

直径4.0cm未満 → 破れる確率は0.5%未満

直径4.0-4.9cm → 毎年0.5-5%

直径5.0-5.9cm → 毎年3-15%

直径6.0-6.9cm → 毎年10-20%

直径7.0-7.9cm → 毎年20-40%

直径が8cm以上   → 毎年30-50%

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◼️サイズと同じぐらい大切なこと

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サイズと同じぐらい大切なのは、瘤が大きくなる速度です。

腹部大動脈瘤は平均でも毎年3-4mmは大きくなるという方向がされています。

瘤が大きくなると加速度的に破裂しやすくなるのです。

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急速に大きくなる瘤たとえば6か月で5mm以上大きくなる場合は

破れる恐れが強いです。

なかにはサイズが長らく変わらず、

ある時突然大きくなるというやっかいなタイプもあります。

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◼️腹部大動脈瘤、破裂の盲点は

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なお直径5cmを超える大きな腹部大動脈瘤では

女性の方が男性より破裂しやすいのです。

その度合いは女性18%、男性12%です。

こうしたことを考え、腹部大動脈瘤が破裂するまでに外科手術ステントグラフトEVAR)で治しましょう。

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◼️腹部大動脈瘤の治療は安全か?

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その危険性は熟練チームならきわめて低く、

そのまま放置する場合よりはるかに安全です。

何しろ腹部大動脈瘤が破裂したら即死に近い状況となりかねませんので。

活気bn1-24d.

それぞれの治療法にはそれぞれの特長があり、

個々の患者さんの年齢や瘤の形、サイズ、性質その他を考えて選ぶことが大切です。

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とくに患者さんにやさしいステントグラフト(EVAR)ではその利点弱点を熟知して活用することが望ましいのです。

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