第二回Mitral Conclave(僧帽弁手術の研究会)

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5月2日、3日にアメリカはニューヨークで開かれたMitral Conclaveという学会に行って参りました。いつものことながら、学会印象記は一般の方々にはわかりづらいと思いますので、こんな汗を流しているのだという程度に読み流して頂ければ幸いです。若い先生方には海外の学会の雰囲気を知ったり勉強のきっかけになればと思います。

この会はアメリカ胸部外科学会(略称AATS)という心臓血管外科では世界の頂点に立つ学会が、僧帽弁手術にテコ入れするために2年前から始めた会です。

さすがにAATSの分科会だけあって、僧帽弁手術については世界の権威のほとんどが参加し、勉強や情報交換の場としてこれ以上のものはないという印象です。実質的に僧帽弁手術のサミットのようになっています。

MitralConclave2013bそのディレクターつまり日本でいう会長はニューヨークのDavid Adamsアダムズ先生で、プログラム委員会には畏友Michael Borger(ボーガー、ドイツのライプチヒ)、元AATS会長のIrving Kron(クローン、アメリカのシャーロットビル)、恩師でもあるD.Craig Miller(ミラー、アメリカのスタンフォード)、Tomislav Mihaljevic(ミハルジェビック、アメリカのクリーブランド)はじめ錚々たる顔ぶれです。いずれも何らかの機会にお世話になった方々でうれしいことです。

2年前の第一回のときにも参加し、ポスターで発表しましたが、今回は口演の機会を与えられ、少しレベルアップしたというところです。

僧帽弁手術の中心はなんといっても僧帽弁形成術で、これがさまざまな視点からじつに詳細に論じられました。

たとえばミックス手術(創が小さい手術)、再弁形成術、こどもの弁形成、手術のコツ、後尖の形成、前尖の形成、正しい手術適応、ロボット手術、などなどが一日目の午前中に論じられました。

分科会ではカテーテルによる僧帽弁クリップ手術(Mクリップ)のディベートを拝聴しました。Mクリップのもとになっているアルフィエリ法という手術は僧帽弁輪形成術とセットで行って初めて威力が発揮される(だからMクリップではダメ)というアルフィエリ先生のは、さすがにこの方法の本家本元のお言葉だけに大変重く、効きました。やはり逆流本当に治すべきときには外科手術の僧帽弁形成術が必要であり、カテーテルを使うMクリップは手術できないときだけ、というのが現実のようです。アルフィエリ先生は以前からお世話になっている先生なのでお礼を言っておきました。

午後にも同じテーマの発表が続き、休憩をはさんで特別講演がありました。

僧帽弁手術の領域で歴史に残る功績のあった方が講演をされるセッションですが、第一回目は言わずと知れたパイオニア・フランスのカーパンチエ先生で、今回はニューヨークのRobert Frater(フレーター)先生でした。僧帽弁についての多大な業績のある先生ですが、ゴアテックス人工腱索を実用化にまで完成させられ、今日のハイレベルの僧帽弁形成術の礎を築かれた先生です。その講演のなかで私の仕事まで紹介して下さったのは驚きで光栄な限りでした。思えば多くの先達のご指導でここまでやって来れたとあらためて感謝のかたまりになっていました。

そのあと分科会で私はミックスのセッションに参加しました。日頃やっているポートアクセス手術がどういう位置づけにあるかを知るために参加しましたが、手術成績や創のきれいさではすでに良いところにつけており、これから装備を充実したく思いました。

2日目は早朝7:15から始まるというアメリカらしいスタートで、参加したい分科会はいくつもありましたが、そこは午後に発表するのと同じテーマである心不全への僧帽弁手術に参加しました。移植が多数できない日本ではこの領域の心臓手術が進化しているという印象をこれまで以上に持ちました。なんだか数年前に自分たちがやっていた苦労を今頃やってるよという印象でした。

それからもう一人の恩師であるTirone E. David(デービッド、カナダのトロント)が胸骨正中切開による僧帽弁形成術を、さらに畏友Borger(ボーガー、ドイツのライプチヒ)がポートアクセス法による僧帽弁形成術をディベート風に論じました。

ディベートということもあって、Borgerは若いだけにDavidや他の大物から散々批判されちょっと気の毒でしたが、多くの批判を跳ね返すことでポートアクセス法がより大きなものに成長する、良い機会とも思えました。狭い視野で行う手術が、僧帽弁形成術としての成績をいささかでも落とすことが無いように、というご意見に対して、堂々と、手術の質は落としたり妥協したりしていない、こう言えることが大切と思いました。

翌日、Borgerにポートアクセス法だからこそ僧帽弁形成術としての質が上がるポイントを言うべきだよと進言しておきました。しかし若いのに多数のベテランにひとりで対抗したのは立派でした。

そのあとも実用的なセッションが続き、失敗例の検討や虚血性僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁輪の石灰化(いわゆるMACと呼ばれる状態)、などで知識のまとめや経験の交換ができました。

そのあと機能性僧帽弁閉鎖不全症への弁下組織(腱索や乳頭筋など)の形成というセッションで発表しました。

私の方法が一番進んでいるため(というより昔使っていた方法を他の先生らが使っているため)、皆さんいろいろ質問くださり、セッションのあとまで使いたいから教えてくれなどと言って下さり、光栄なことでした。東京医科歯科大学の荒井先生の発表もあり、そのデータが私の方法を支持する内容のものであったため日本ではこうした手術がはやっているのかと聞いて下さる方もあり、盛り上がっていました。

Facebookにもお書きしたのですが、私の発表のときの座長のひとりが恩師Miller先生で、彼は鋭い科学の眼をもつ辛口批評で有名なひとですので、何を言われるかわからないという心配をしていました。しかし意外に好評で、「今日の発表を聴いて君がやっていることが理解できた。これからさらに進めるように」と言っていただき、ほっとしているというのが正直なところです。しかし彼の厳しい眼をパスしたというのはこれからはずみがつくのではないかと少々元気モードです。

そのあとも三尖弁形成術や心房細動など、いろいろ相談したい内容のものが並んでおり、最後まで退屈しない学会でした。

日本から術者レベルの先生方はもちろん、若手の先生方もけっこう参加しておられ、中には懐かしい方々も複数あり、こうした会をきっかけに大展開してほしいと思いました。自分が初めてアメリカの学会に発表に行ったとき(1986年大昔!)には、未知との遭遇という不安と希望の混じった、しかし熱くなれる素晴らしい機会だと思いましたが、もし若い先生の心に火が付けばうれしいことです。

IMG_1722b一日目の夜、日本の先生方とカリフォルニア・サクラメントのFrank Slackman先生を囲んでの夕食会があり、Slackman先生がスタンフォードの先輩であることもあって、話がずいぶん進んで遅くまで遊び過ぎました。川崎医大の種本先生、大分医大の宮本先生、東京女子医大の津久井先生はじめ数名の先生方に申し訳なく思っていますが、若い先生方を激励した内容が受けたのか、何度もお礼を言っていただき、こちらこそありがたく思っています。Slackman先生が翌日、お礼のメールを下さり、はしゃぎ過ぎて無礼にまではなっていなかったようで安堵しました。写真では偉そうに真ん中に立っていますが、これはやや端にならぶつもりがたまたまこうなっただけで、やはりちょっと酔っ払い気味だったようです。

2日目の夕方はニューヨークの大渋滞の中を何とか空港に間に合い、そこから恩師Miller先生やクリーブランドで昔お世話になったGillinov先生らとゆっくり話しながら次の目的地ミネアポリスへと向かえてラッキーでした。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Keio Mini Mitralに参加して

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この4月27日に慶応大学にて行われましたKeio Mini-Mitral(慶応ミニマイトラル)という研究会に参加しました。

この会は2年前に第一回研究会が行われ、今回は2回目になります。

ポートアクセス法で僧帽弁形成術をおこなう施設は今なお少ないですが、これを日本では一番最初に導入し、今日まで発展させてこられた四津教授と慶応大学チームならではの企画で2年前にも参加いたしましたが、今回はライブ手術の司会という大役を仰せつかっての参加でした。

ポートアクセス法はスタンフォード大学で開発されました。私自身もスタンフォード大学に留学中の1993年ー1996年にこのポートアクセス法による心臓手術を学びましたが、その後、オフポンプ冠動脈バイパス手術や再生医療はじめ、さまざまなプロジェクトに忙殺されてポートアクセス法は封印状態でした。4年ほど前から名古屋ハートセンターにて本格的に開始し、内外の先生方のご支援をいただき、ポートアクセス手術を含めた100数十例のミックス手術を事故なく実施し、これまで手術が危険と言われたタイプのものまで安全手術ができるようになったというおまけまでついたという状況でした。

そこで日本のポートアクセス手術の安全で堅実な発展を願うという四津先生のお考えに全面的に賛同して、この会をもりあげるべく参加いたしました。

会は前回と同様、ポートアクセス法で僧帽弁形成術を慶応病院にて行われたものを、会場で皆さんと共に拝見しながら徹底したディスカッションを加え、さらに重要ポイントをミニレクチャーしていただき、それについてもディスカッションして、皆の経験や情報を共有するという形で進められました。

朝8時に集合して夕方6時の懇親会までの間の大半を、榊原記念病院の高梨秀一郎先生と私、米田正始で司会させて頂きながら、じつにいろいろな勉強や情報交換ができ、充実このうえない一日でした。会場は満席、隣の予備室も満席状態でこの領域への関心の高さをうかがわせるものでした。

ライブ手術では慶応大学の岡本先生や工藤先生が確たるルーチンにのっとって、開胸し準備を進められ、僧帽弁が見えるあたりから四津先生が登板されました。

僧帽弁は後尖のP2と呼ばれる真ん中部分の腱索という糸のような組織が切れ、そのため弁の逆流が起こり、時間とともにそのP2が伸びて大きくなりさらに逸脱し逆流を増やすという状態になっていました。

近年の僧帽弁形成術の進歩により、こうした病変の弁形成には何通りかの方法があり、適材適所で活用すればそのいずれでも良い結果を出せるのですが、この患者さんにとって何がベストかという観点から熱いディスカッションができました。東京医大の杭の瀬先生、新東京病院の山口先生、榊原記念病院の田端先生、榊原病院の坂口先生、大阪大学西先生はじめポートアクセス僧帽弁形成術に熱心な先生方はじめ循環器内科や麻酔科を含めた多くの先生方が内容の濃い討論をして下さいました。

手術は上記P2を三角切除し、あとの微調整をゴアテックス人工腱索で行い、きれいに決まりました。

このライブは同じ時期に開催された日本心エコー図学会の会場にも中継され、より開かれた情報公開や教育の場として多くの先生方やコメディカルの皆さんのお役に立てたようです。

私自身、ライブ手術はこれまで10回ほど経験があり、ライブの司会も同じぐらいの経験をもっておりますが、安全性を維持しつつ内容充実で楽しく盛り上がり、、という目標はなかなか難しく、あとでいろいろ反省しています。とにかく手術成功で盛会に無事完了し、四津先生はじめ関係の皆様にお役に立てたようですのでほっとしています。何か昔の結婚式で、仲人として長時間壇上にずっと座り続けていたのを想い出しました。

現代はチーム医療の時代です。これは医師同士、あるいは医師とコメディカル、さらに事務職員はじめ一般職の方々とのチームワークを示すことが多いのですが、病院や大学を超えたチーム同士の協力もまた含まれるものと思っています。今回のライブ研究会は一つの大きな目標を実現するために皆で協力する楽しみを与えてくれた会でもあったと思います。

四津先生、慶応大学の皆様、ご参加の皆様、ありがとうございました。

 

2013年4月29日

 

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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4) バチスタ手術とは?―奇跡の手術となり得ますが時と場合を選ぶ必要が 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月25日

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Dr. R Batista◆バチスタ手術とは?

バチスタ手術(正式名称:左室部分切除術 partial left ventriculectomy, PLV)は、**拡張型心筋症(DCM)**に対する外科治療の一つです。

拡張型心筋症は、お薬による治療だけでは予後(長期生存率)が厳しいことが知られていました。その中で1990年代、ブラジルの心臓外科医ランダス・バチスタ博士が「心臓の一部を切除して小さくする」手術を発表し、世界的に注目されました。

心臓の壁にかかる張力を物理学的に減らすことで機能回復を狙うこの方法は、「奇跡の手術」として話題になり、多くの重症心不全患者さんを救いました。

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◆バチスタ手術の限界と課題

114129862

当初は大きな期待を集めたものの、従来型のバチスタ手術は「効果が一定しない」「予測が難しい」といった問題があり、欧米では徐々に行われなくなりました。

さらに、欧米では重症心不全に対して人工心臓(補助循環装置)や心臓移植が広く普及しており、バチスタ手術の必要性が相対的に低下した事情もあります。
アメリカでは現在、保険適用もなく、ほとんど行われていません。

日本では須磨久善先生らが改良を重ね、一部の施設で一定の成果を上げてきました。

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◆改良型バチスタ手術とは?

朝日新聞バチスタ報道b

私たちは、従来の手術の課題を克服するため、心尖部(左室の先端)を残す改良型バチスタ手術を開発
しました。

心尖部は心臓の力を生み出す上で非常に重要です。これを温存することで、左室の形がより自然になり、術後の心機能が安定することがわかっています。

2002年、アメリカ胸部外科学会(AATS)で発表したところ、国際的にも注目を集めました。この改良型手術は、従来型より安定した良好な成績を示しています。当時の新聞・全国紙でも報道されました。

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故 Torrent Guasp先生。スペインの解剖学者で心臓は一本の筋肉ベルトからなっていることを示されました拡張型心筋症・事例1事例2。)

この改良型バチスタ手術はスペインの高名な解剖学者Torrent-Guasp先生(写真)の筋束学説(心臓全体が一本の筋束からできており、心尖部がその中央に位置し機能上、極めて重要である)を臨床応用しました。

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◆実績と臨床経験

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これまでに私たちは多数の患者さんに改良型バチスタ手術を行い、ほとんどの方が元気に社会復帰されています。成果は国際的な医学誌 Journal of Cardiac Surgery にも報告しました。(英語論文243番)

また、日本だけでなく、心臓移植が十分に行われていない東欧などでも、この手術は大きな希望となっています。

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◆バチスタ手術が有効なケース

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拡張型心筋症の左心室は単に大きく拡張するだけでなく、形が丸くなります。左心室にとって丸い形はパワーの上で不利であることが知られています

  • 左室が大きく拡張している重症心不全

  • 内科治療(薬)だけでは改善が難しい場合

  • 心尖部を温存できる解剖条件

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一方で、心筋が硬くなって拡張障害を起こしている場合や、肺高血圧を合併している場合は効果が限定的となるため、慎重な判断が必要です。

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◆まとめ ― バチスタ手術の未来

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  • バチスタ手術は「奇跡の手術」と呼ばれつつも、一部の課題により世界的には下火になりました。

  • しかし、改良型バチスタ手術により安全性と効果が高まり、再び注目を浴びています。

  • 特に60歳以上で移植や人工心臓が適応になりにくい患者さんにとって、大きな選択肢となり得ます。

拡張型心筋症にお悩みの方、バチスタ手術にご関心のある方は、ぜひ当院の心臓外科へご相談ください。

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◾️患者さんの想い出1

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◾️患者さんの想い出2

 

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【第四十五号】 ドクターズガイドに掲載されました

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 【第四十五号】 
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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春も爛漫となると思っていたら急に冷え込むこのごろですが、皆さま風邪など

ひいておられないでしょうか。

外来で血圧が急に上がる患者さんが少なからずあり、人間は自然の中で生きて

いることをあらためて実感しています。

さて最近、時事通信社の「ドクターズガイド」という医療ガイド本が出版され

ました。

さまざまな病気で困っている患者さんに、解決の道を示してくれる好評の本の

ようです。

私のホームページでは次のページをご参照ください。簡略ご紹介いたしました


https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/01/post-0f92.html

その狭心症のページにあの天皇陛下の冠動脈バイパス手術をした畏友・天野篤

先生や、これまでさまざまな形でお世話になったバチスタ手術の須磨久善先生

、あるいはロボット手術の渡邊剛先生らとともに私も紹介されました。

大病院ではなかなかできない患者目線の地域医療や、内外のエキスパートとタ

イアップして行って来た国際先進医療が評価されたのであれば、うれしいこと

です。

ひとつ申し訳ないのは、記載されている私の執刀数がちょっと古いデータで本

当はもっと多いのですが、まあ大きな問題ではないと思います。こうした情報

発信はこまめに改訂しなければと反省しています。

心臓以外のさまざまな領域でこのドクターズガイドはお役に立つと思います。

私は出版社の回し者ではありませんので、一度手に取って内容を見て頂ければ

と思います。

目標は、健康に、楽しく、長生きすることと思いますので、心臓はもとより、

からだとこころの健康まで関心を持っていただき、わからないことは調べ、さ

らにご相談いただくこと、これが大切かと思います。

敬具

平成25年4月21日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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お便り87: ミックス法で自己心膜の大動脈弁形成術(再建術)

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比較的お若い患者さんの大動脈弁閉鎖不全症大動脈弁狭窄症に対してはこれまで機械弁をもちいた大動脈弁置換術が一般的でした。

A335_007しかしそれでは一生涯、ワーファリンという血栓予防のお薬が不可欠で、毎月、一生涯病院に通って検査を受け、薬の量を調整する必要があります。

それを避けるため生体弁を若い患者さんに使うことは増えましたが、その場合は将来何度か再手術を受ける必要があるという問題が残っていました。

これを解決すべく開発されたのが自己心膜による大動脈弁形成術(別名・大動脈弁再建術)です。

以下の患者さんはこの自己心膜大動脈弁形成術を受けて元気になられたかたです。

それも小さい創のミックス法で行いました。

比較的遠方からお越し頂いただけのものが提供できてうれしく思います。

これから永い間、のびのびと楽しく、くらして頂ければ幸いです。

**********患者さんからのお便り**********


拝啓

先生 この度は色々お世話になりありがとうございました。

2月13日に手術して頂き、約40日経過し、主人も大分普段の生活に戻りつつあります。

入院中は皆様に本当に良くして頂き、名古屋ハートセンターに決断して、夫婦共々つくづく良かったと思っております。

2月22日の退院の時には出張されていて御礼を申し上げる事が出来ませんでしたが、3月19日の診察の時、お会いする事が出来、主人も喜んでおりました。

そして、9月頃より奈良高の原でハートセンター開院のお話しをして下さり、有難い限りです。

自宅からは車で一時間弱で行ける距離だと思いますので、是非高の原での診察を望んでおります。

次回、名古屋ハートセンターの予約は8月ですが、主人の体調さえ良ければ、9月に延ばしてでも先生に診て頂けたら有難いです。

これから先、先生の「心臓外科手術情報WEB」等、注意しながら見、診察予約できる日を確認したいと思っていますので、これからも引き続き宜しくお願い申し上げます。
一番最初の問い合わせメールの件、(一時間で返信して下さいました)そして今回、前もって高の原開院の件をお話しして下さった事を、先生の御実家近く?の**病院に職員として勤務している娘に話しましたら、本当に親切な先生だと感動していました。

勿論私達夫婦も感謝に堪えません。
では、9月頃に受診させて頂く日、楽しみにしております。

敬具
平成25年3月25日

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機械弁とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月4日

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◾️機械弁とは

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主要部分が金属やカーボンでできた人工弁のことを機械弁と呼びます。主要部が柔らかい生体組織でできた生体弁と両極をなす存在です。

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かつてはこの機械弁が人工弁の主流を占めていました。

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◾️第一世代の機械弁・ボール弁

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機械弁は当初 BallValve、ボール型の閉塞子がラムネ玉のように前後して血液の逆流を防ぐという簡単な構造のボール弁からスタートしました(右図)。

ボール弁たとえばStar-Edwards弁はその簡単な構造のおかげで長持ちし、一世を風靡した感がありますが、血液の流れ方が不自然で、弁の材質も洗練されていなかったためか、血栓や塞栓が多発し、次第にディスク弁に置き換わって行きました。

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◾️第二世代の機械弁・ディスク弁

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ディスク弁はまず弁の開閉部が1枚のタイプが世に出ま BSvalveした。
その代表例がBjork-Shiley(ビジョロクシャイリ―弁)です(左図)。
ボール弁より高性能で血栓塞栓の合併も少なくなりましたが、
弁の開閉部が何かにひっかかると弁機能不全が起こりやすく、1枚のためその1枚がやられると命にかかわることもあり、
次第に次の二葉弁に代わって行きました。

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◾️第三世代の機械弁・二葉ディスク弁

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二葉のディスク弁の代表格はやはりSJM弁でしょう。
1970年代にアメリカで開発され、世界中を席巻した感がありました。リラハイ先生という僧帽弁手術のパイオニアが開発されました。

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何と言っても高 StJudeValve性能で血行動態が優れているだけでなく、ヒンジ部分での血液のよどみを巧みに回避するデザインで血栓塞栓症の頻度もうんと改善しました。

また僧帽弁位に植え込むときには左室内へ突出するのがわずかで、当時先端技術であった腱索乳頭筋温存する僧帽弁置換術にも適しており、世界中から受け入れられました。70年経った今見ても、なお先進的なデザインで、思わず脱帽してしまうほどの優れものです。しかも材質は当時の宇宙船にも採用されていたパイロライト・カーボンで血栓できにくく磨耗もしにくいという特長があります。

その後さまざまな改良を加えて二葉の機械弁が世にでて、現在まで機械弁の主流はこの二葉のディスク弁です。

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◾️機械弁の長所は

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機械弁は生体弁と比べて弁口面積(弁が開いたときの口の大きさ)が大きいため高性能です。
これは大動脈弁位に植え込むとき、その患者さんが狭小弁輪といって小さい弁輪しか持っていないときに特に有利です。
近年の人工弁は機械弁も生体弁も性能が向上しましたが、弁口面積という意味ではやはり機械弁に軍配があがります。

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こうした特性をうまく活かし、機械弁が患者さんに益するときには現在も機械弁が選択されます。

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◾️機械弁の短所は

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ワーファリン3332001F1024ただし機械弁は生体弁と違って血栓ができやすく、ワーファリンというお薬を一生飲む必要があります(左図)。

このためワーファリンが不利な状況の患者さんあるいはワーファリンを嫌う患者さんには生体弁を選択することがあります。
もちろん生体弁にはその弱点がありますので、それらの得失をよく勘案して決定します。

それから術後、長年にわたって患者さんをお守りする立場にある者としては、腕の見せ所でもあります。ワーファリンの丁寧なコントロールによって機械弁の長期成績が弁形成のそれに匹敵するというデータがあるからです。それには単に薬の調整だけでなく、生活、食事や食べ物の調整・指導が必須です。これを私たちは実践しています。

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◾️まとめ

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機械弁よりも生体弁よりも優れているもの、それは自然のままの、もとの弁です。
そこでもとの弁を修復し、長持ちする形で活用する弁形成が高い評価を受けているのです。
しかし形成できないほど壊れた弁ではやはり機械弁などの人工弁が必要で、まだまだ進歩改善の努力がなされるべき領域です。しっかりやればその努力は報われる可能性があるのです。

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【第四十四号】 文芸春秋に掲載されました

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 【第四十四号】
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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春の日差しが心地よいと思ったら、嵐のような強風が吹いたり、まだ冬の名残

を感じるこのごろですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

私のほうは相変わらずばたばたと落ち着かない毎日です。先日は沖縄からまた

患者さんが来て下さり、危篤状態から頑張って手術し、リハビリや栄養その他

さまざまな努力のすえ、笑顔で帰島して頂きました。

歴史的ないろいろなことから沖縄の方々にどんなことでもお役に立ちたいと思

っていた身には大変うれしいことでした。

こちらをご参照ください
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2013/04/casereredoimr.html

ところで文芸春秋の5月号に米田正始の記事が掲載されました。ご笑覧頂けま

したら幸いです。

そのさわりの部分は私のHPに載せました。
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/01/post-0f92.html

高齢者の方々への医療については、世界的にも議論があります。

とくに国や社会が経済的に苦しいところでは、高齢者の医療費を削減しようと

する動きが絶えません。

たしかに医療費をある程度の範囲に抑えて、社会の足かせにならぬよう、さま

ざまな努力をやって来ましたし、今後もそうだと思います。

しかしもはや社会の役に立たなくなったからと言って、保険や福祉を打ち切る

のには抵抗を感じます。

私の恩師であるトロント大学・心臓外科のデービッド先生はかつて言われまし

た。

「年寄年寄と言うが、この人たちが何十年も税金を払い、家庭を支え、地域に

尽くし世の中に貢献して来たことを忘れて良いのか」と。

加えて高齢者を切り捨てる世の中になってしまうと、次に狙われるのは身体障

害者や難病の患者さんをはじめ、社会的弱者となるおそれがあります。

際限なく人間性を失い、孔子の言うケダモノ社会に堕ちて行くことを心配しま

す。

そういう気持ちもあって、心臓外科の立場から、高齢者でも生きたい方、また

ご家族から見て生きて欲しい方には分け隔てなく治療するのが筋と思っていま

す。

もちろん経済が破綻してはそれが成り立たなくなるため、皆で経済を守る努力

を続けるのも大切ですが。

文芸春秋の記事がこうしたことを考えるきっかけになれば幸いです。

敬具

平成25年4月11日

米田正始 拝

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お便り86: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の再々手術で

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞のあと心臓が次第に壊れて強い心不全になる病気です。

一般には心臓の力が心移植レベル近くまで落ちて、全身の体力も衰弱状態となれば、心臓手術も拒否、あとはお薬でなるべくそっと持たせた後、お見送りをするだけということが多いです。

つぎの患者さんもそのお一人です。

ある日、沖縄から一通のメールが届きました。

その方のお義父さん(80歳近いご年齢)が危篤状態で何とか助けて下さいとのことでした。

患者さんは大動脈弁置換術を昔受 A335_009け、その後何年も経ってからこんどは冠動脈バイパス手術を受けられました。さらにペースメーカーの植え込み術まで必要あって受けられ、心不全がいよいよ悪化して近くの病院に入院されました。

心臓のちからはひどく落ちていました。

もうあまり生きられない、しかし手術は危険、そもそも沖縄本島でもこの手術ができるところはない、かといって飛行機で本土まで行くことさえ危険すぎるという状況で、本土でも受け入れてくれる病院はわからないというなかで、思い余って私にメールを送ってこられたのでした。

これまでも同様の患者さん・ご家族と向き合ってきた経験から、現地の状況はよく理解できました。

沖縄の主治医の先生が送って下さったデータを拝見し、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症が悪化しており、しかもせっかくのペースメーカーもそのリード線が三尖弁を圧迫して高度の三尖弁閉鎖不全症を合併していました。すでに2度の心臓手術を受けておられ心臓は周囲の組織に癒着しており、かつ上行大動脈も拡張ぎみで、うかつに触れない状態でした。

このままでは死を待つだけの状態、しかしこの虚血性僧帽弁閉鎖不全症もペースメーカー三尖弁閉鎖不全症も再手術も私たちがちからを入れて来た病気で、手術そのものはできると考えました。

そこで当院の心臓外科医を沖縄まで派遣し、患者さんに随伴する形で守りながら名古屋までお越し頂きました。

治療戦略をチーム全員でとことん検討しました。冠動脈に新たな狭窄ができていたため、これをまず内科の先生がカテーテル治療(PCI)で応急治療してくれました。いわゆるハイブリッド治療ですね。

そして手術ではできるだけ体に負担をかけぬよう、ミックス手術を応用して右胸をやや小さ目に開け、これまでで最も有効と考えられる乳頭筋最適化術(PHO手術)を行い僧帽弁形成術としました。

さらに右房も開け、私たちの方法で三尖弁形成術を無事に完成しました。

手術前は強心剤の点滴なしでは血圧が十分には出せないほど重症でしたが、術後は次第にお元気になられ、毎日心臓リハビリで運動をこなし、栄養をつけ、心臓と全身の体力をつけて頂きました。

もとの状態よりはるかにお元気に退院され皆、うれしく思いました。

以下はその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

こうした重症になりますと、いつもうまく行くとは限りません。しかし多くの方々が元気に生還し長生きしておられるのも事実です。やはりネバーギブアップで、まず相談と思います。

お互い、一緒に考えてそんすることは何もないと思います。

 

********患者さんのご家族からのお便り********

 

米田先生へ

おかげさまで義父は孫と話したり、少し外を歩いたりと、元気に過ごしております。

もちろん以前のように苦しがって不安で夜中に病院に行くようなこともなく、家族みな安心しております。

これも米田先生はじめ、チームの先生方のおかげです。

わたくしが3か月前、一番初めに先生にメールでご相談したとき、先生はお忙しい身でありながら、しかも紹介でもない見ず知らずの私に、3時間後にすぐさまお返事くださいましたね。

あの時は涙が止まりませんでした。


そしてこちらの病院では、高齢で余病が多く三度目の手術になることと心臓の弱り方からして、空路で転院させるのも危険だと言われた状況下、名古屋からわざわざチームの先生が迎えに来ていただいたこと、無事に手術を成功させていただいたこと、元気に帰していただいたこと、本当に本当に感謝しております。

またこれまで長年にわたって義父を守り、米田先生のところまでいのちをつないで下さった地元の病院の先生や関係の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

本来なら、そちらに出向きお礼を申し上げたいところですが、取り急ぎメールにて失礼いたします。

また近況報告させていただきます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第21回アジア心臓胸部外科学会ASCVTSにて

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IMG_1668この4月4日から7日までの4日間、神戸の国際会議場で第21回アジア心臓胸部外科学会(ASCVTS)が開催されました。そこでの見聞録です。

例によって学会での見聞録、印象記で一般の方々には専門的すぎるかと思います。現在の心臓血管外科ではこんな努力と展開があるのだと、読み流して頂ければ幸いです。

この学会は古瀬彰先生ら日本の心臓血管外科医が立ち上げられたアジアの学会ですが、早いもので20年が経ち、世界から評価される立派な学会に育ったことを感じさせてくれる学術集会でした。

私もかつては理事のひとりとして、どう盛り上げて発展させるかをアジアの仲間たちと考えていました。それを懐かしく想い出します。

今回の会長であられる高本眞一先生(三井記念病院院長)らが大いに努力され、あの伝統ある米国胸部外科学会(AATS)や欧州心臓胸部外科学会(EACTS)と並び立つ、国際的に評価される学会となったことは、よろこばしい限りです。

それを象徴するかのように、学会の前日に開催された卒後教育セミナーでは欧米の有名どころが多数講演されました。

私が参加した成人心臓血管外科関係では、アメリカのダミアノ先生(Dr. Ralph Damiano、セントルイスにあるワシントン大学)、カメロン先生(Dr. Duke Cameron、ジョンスホプキンス大学)、ラトーフ先生(Dr. Omar Lattouf、エモリー大学)、ヨーロッパのカパテイン先生(Dr. Peter Kappetein、オランダのエラスムス大学)、ノラート先生(Dr. George Daniel Andreas Nollert、ドイツのミュンヘン大学)、コール先生(Dr. Philippe H Kolh、ベルギー)や、アジアからはサン先生(Dr. Li Zhong Sun、中国)と、もちろん地元日本から多数の先生が講演されました。ロシアや中央アジアからも参加者があったのは時代の流れとうれしく思いました。

内容的に、冠動脈つまり狭心症や心筋こうそくの治療で内科のカテーテル治療PCIと外科の冠動脈バイパス手術の協力協調が求められるハートチームが浸透しつつあることを改めて感じました。これは重症例では冠動脈バイパス手術のほうがPCIより成績が良い、つまり患者さんが長生きできることが証明されたことを受けての変化です。

またそのハートチームが、TAVI(カテーテルで入れる生体弁)の進歩によって弁膜症の世界にも必須のものとして認識されるようになり、あわせて心エコーの重要性がひろく認められるようになりました。

同様に、大動脈の治療でもこれまで大きな成果を上げ治療成績のめざましい外科手術に加えてステントグラフト(EVAR、TEVAR)が一層進化し、両者をうまく組み合わせた治療体系が治療成績をさらに押し上げることを実感しました。

またHOCM(肥厚性閉塞性心筋症)あるいはIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症)の外科治療と内科カテーテル治療(PTSMA)の進化と協力についての講演もありました。私ごとながら、IHSSの治療はトロントのウィリアムズ先生直伝の方法(モローの手術の変法です)で多数の患者さんの治療にあたって参りましたが、日本全体の1割ちかくをこなしているのがわかり、努力の成果が少し形になって見えたような気持ちがしました。内科の治療では治しづらいものが外科手術で治せますので、今後も精進したく思いました。

それを象徴するものとして、ハイブリッド手術室(ハイブリッドOR)の最近の進展も紹介されました。外科医にとっては5感を倍増するような威力があり、内科医にとっては外科手術に大きな影響力をもつ、それぞれに役立つ、まさにハートチームのひとつのかたちです。手術室で3次元の構造が画像として把握できるDynaCTの進歩はうれしいことです。

 

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タイの畏友・タウィーサック先生と

4月5日からの学会でも同じ流れで心臓外科の上昇気流を感じる活発な議論が交わされました。

 

これからのリーダーがあるべき姿が欧米とアジアの視点から論じられました。リーダーつまり教育者を教育する重要性が近年強調され、欧米では時間をかけてこうしたセッションが行われていますが、アジアでも本格化した感があります。

この数年間ホットな心臓外科領域になった弁膜症では大動脈弁形成術、自己心膜をもちいた大動脈弁再建術それもこどもと成人のそれぞれに、そしてもちろん僧帽弁形成術では実にさまざまな方法が駆使されるようになり、その成果が示されました。なかでもかつて弁形成が困難と言われたリウマチ性僧帽弁膜症に対して果敢な努力と成果が遠隔成績として示されつつあり、さらにそれがリウマチ性弁膜症が多いアジアから主に発信されるところ新しい時代を感じました。

個人的には2つの発表(創がもっともきれいなポートアクセス法の僧帽弁形成術と、心不全で難しい機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい弁形成術)と2つの座長(ミックス手術と再生医療)が賑やかにでき、仲間とともに楽しく勉強できたことが何よりでした。

また畏友、ペンシルバニア大学のJoseph Woo先生がその講演のなかで私たちが行って来た新しい僧帽弁形成術を紹介して下さったのも友情が感じられうれしいことでした。

IMG_7739b1日目夜のディナークルーズでは神戸港から明石大橋の近くまで行き、丁度適温で心地よい海風に吹かれての神戸の夜景はなかなかのものでした。アジアや欧米からの友人たちも楽しんでいたようでした。

2日目の全体のディナーでは由紀さおりのミニコンサートで比較的年配の私たち世代には思わず青春時代にもどるようなひとときでした。欧米アジアの代表がそろ IMG_1679bい踏みで、この学会が世界に認められる位置についたことを感じました。

3日目、つまり最終日もけっこう参加者があり、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症や大動脈基部のセッションは活発な議論が交わされました。

オーラスにアカデミックランチというのがあり、欧米アジアの学会の重鎮と若手が研修をめぐって懇談する場でした。私はペンシルバニア大学のWoo先生のテーブルで、若い先生らと語らうことができました。

いつものことながら、こうした学会活動以上に、アジアや欧米の旧友や元弟子と再会を楽しめたこと、いつまでも協力して仕事に打ち込めることを、このうえなくありがたく、感謝した4日間でした。皆さんまた会える機会を楽しみにしております。会長の高本先生、お疲れ様でした。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心臓外科はほんとうに若手医師に人気がないのだろうか

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近年、あちこちの心臓外科(心臓血管外科)医局で新入局者が少ない、人気がないという声を聞く。


Cpyo013-sなかにはそれほど人も減らず困ってもいない医局もあるようだが、大学によっては事態は深刻である。

何年かに1人しか入局がないといった話さえ耳にする。

しかし心臓外科を目指す若手がそれほど減ったのだろうか。

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たしかに現代の若者はあまり厳しいことは好きでない。昔のように患者を助けるために1か月病院に泊まり込んで治療したなどはもはやノスタルジアでしかないのかも知れない。

ひところ人気があった眼科や耳鼻科でさえ、最近はきつい、つらいと人気低下の傾向にあると聞く。若者気質がさらに高じていきつくところまで行ったのであろうか。

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私見ではあるが、心臓外科領域の若手を見ていると、以前より数は多少減ったかもしれないが、現在もある一定数、熱く高い志をもった若手が存在すると思うのである。というのは、医局を預かった経験や若手と接したところでは、忙しい施設で、日夜手術に入り、術前術後の管理をし、患者のために活躍する若手がその施設を辞めたいといった話をあまり聞いたことがない。若手が辞めたいというのは多くの場合、ヒマな施設なかでも執刀など手を動かす機会が少ない施設の場合である。

つまり心臓外科に来るほどの若手は、それが忙しいことぐらいは熟知した上のことであり、辞めたいというケースは修練内容の貧相さに失望しているだけと思うのである。

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病院この観点からは大学病院は大いに苦しく不利である。コメディカルや事務が雑用をやってくれないためおのずと若手医師にしわ寄せがくる。そのため雑用係りとしての若手医師を増やさざるを得ず、結果として1人当たりの症例数や経験数が減るのである。

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たとえばある国立大学病院では年間200例をこなすために医師が総数で15名も必要である。すなわち医師一人当たりの例数は13例にすぎない。その一方、民間市中病院である私の施設では年間300例以上の開心術を行う。医師は私を含めて4名である。そのため医師一人当たりの例数は75例に達する。実に5-6倍の開きである。

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このためかどうか、民間市中病院の私のところへは研修希望がちょくちょく来られる。数年に一人しか入局しない一部の医局と対照的である。

そうした中で、現代の若手医師は怠惰というよりも高い質と量を求めている、昔よりDemandingであるだけではないかと思うのである。

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ただ医局にいれば将来のポストがある程度約束されるなどの長期的メリットがあるという考えがむかしからある。それも一つの特長と思われる。しかし近年台頭しているのは、そのような遠い将来の、それもただポストだけが確保されていても内容が伴うかどうか不明な状況には頼りたくないという考え方である。

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これらを考えると心臓外科にもっと若手が参Ilm09_aj06012-s入してくれるようにするには何が必要か、おのずと見えてくると思われる。そして彼らの要求に応えることが、医学教育はもとより、医療の改革にもつながるのではないかと思うこのごろである。

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誤解のないように付記しておきたいのだが、これらは大学や医局を否定しているのではなく、大学病院と市中病院とくに自由度の高い私的病院がタイアップすればそれぞれの強みを発揮しやすくなることも強調したいのである。タイアップすることで経験量も増え、学会発表もやりやすくなり、収入も確保しやすくなる、このことは豪州などでは常識になっている。

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さまざまな工夫を凝らして修練がもっと面白くなれば心臓外科という領域はまだ若手を惹きつける魅力を十分に備えているように思うのは私だけであろうか。

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修練医募集、実力や業績をつけたい方へ.

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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