【第五十号】かんさいハートセンター

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 【第五十号】かんさいハートセンター
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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猛暑が続きますが皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

外来でも腎臓の機能が春ごろより若干低下した方が少なくないのは、皆さん脱

水傾向にあるのも一因かと思い、そのつどお話しをしています。

以前にも熱中症や脱水の解説をしたことがあります。

こちらをご参照ください。油断して熱中症でいのちの危険にさらされることのな

いように、お願いします。

人間、誰でもある程度の年齢になりますと、渇きのセンサーが弱り、脱水にな

ってもそうと感じにくくなるのです。そのためいのちにかかわるほどの脱水に

なっていても、水を飲む気になれず、毎日多数の方々が倒れ、少なからぬ数の

方々がいのちを落とされています。まことに残念なことです。私はいろんな場

を借りて、きちんと水を飲もうというキャンペーンをしています。皆さんもぜ

ひご協力ください。

さて私、両親が歳をとって地元関西ににもどることになりました。その機会に

ご縁あって、奈良市にある高の原中央病院のなかに「かんさいハートセンター

」を立ち上げることにいたしました。

これまでのハートセンターつまり心臓専門病院の良さと、総合病院の良さを兼

ね備えた、患者目線の運営がしっかりできる病院を目指しています。もちろん

地元の病院や大学、医院、そして名古屋ハートセンター、豊橋ハートセンター

はじめ各地の病院と連携を取りながら進めて参ります。

10月1日開設へ向けて、鋭意準備中です。

まずは心臓血管外科部門がスタートし、スタッフの充実を待って循環器内科部

門もスタートします。循環器内科の弁膜症や心不全の専門家による外来などは

心臓外科と同時期にスタートし、順次整えて参ります。

ハートセンターは単に心臓部門が協力して病気の治療にあたるだけではありま

せん。

たとえばコオディネーターと呼ばれる専門職をおいて、患者さんの外来が一回

で方針が立つようにして負担を減らしたり、

また心臓血管手術が365日いつでもできるようにして、患者さんの状態に合

わせて予定も緊急も入れられるようにします。

さらに循環器内科部門も冠動脈カテーテル治療PCIだけでなく、弁膜症や心不全

、心エコー、心臓リハビリといった現代の重要課題を専門とする医師を含めた

バランス良いチームを造りつつあります。。

ナース、MEさんらをはじめとしたコメディカルも心臓専門のチームをつくり、

技術と経験の蓄積が着実にできるような仕組みになります。

そして何より、目的意識とプロ根性をもった一枚岩のチームワークです。

交通の便も比較的便利な場所を選びました。

新幹線京都駅から近鉄に乗れば乗り換えなしで30分あまりですし、関西空港

や伊丹空港からも直行バスが近くまで出ています。三重県からは高速道路と近

鉄も使えますし、大阪・和歌山や岐阜・愛知からはJR・近鉄や高速道路も

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第二回国際先端生物学・医学・工学会議にて

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この7月27日ー28日に名古屋で行われた会議に参加しました。

この会議は名古屋大学革新ナノバイオデバイス研究センターと国際先端生物学・医学・工学科学院の主催で、愛知県と日本生命倫理学会の後援にておこなわれる集学的な会議で、企画は医療・環境・再生研究機構(MERRO)という、医工連携のための国際会議です。

私はこれまで京都大学心臓血管外科で再生医科学研究所の田畑泰彦教授との共同研究で進めて来た、再生医療、とくに成長因子の徐放治療を患者さんの治療という観点からお話ししました。最近やっている海外の幹細胞移植とのコラボをもとに、ノーベル賞の山中伸弥教授のiPS細胞を視野に入れたお話しもさせて頂きました。

会議では愛知県知事の大村秀章さんや愛知がんセンター名誉総長の二村雄次先生、国立長寿医療研究センター理事長総長である大島伸一先生、さらに愛知がんセンター総長の木下平先生ら錚々たる方々のご挨拶から始まりました。

会議のサブタイトルが「夢の医療技術の構想(グランドチャレンジ)3大疾病の克服」が示すように、日本の優れた医学、工学技術を医療の中に活かし、かつ産業として成立するようなさまざまな努力が紹介されました。

ある種のカブトムシの産卵時の精緻な作業の解析から始まりサイエンスの盲点や考え方を面白く解説されたり、がんに対する分子標的治療薬の開発のお話しや、ヒトゲノム解読のさまざまなエピソードや貢献、韓国におけるゲノム医学の展開などなど、普段心臓手術や患者さんと向きあう生活に没頭している私にはひさびさの世界的視野のサイエンスの話の数々で、新鮮な刺激を頂きました。ロボットや医療用機器の進歩にもめざましいものがありますが、まだ世に出ていない試作品の中にも優れたものが多くあることもわかりました。

かつて京大医学部にてお世話になった放射線治療学の平岡真寛教授の産官学連携による医療機器開発のお話しもスケールの大きなものでした。なかでも乳がんの画像診断やさまざまな癌に対する放射線治療のレベルが格段に上がる最新のテクノロジーのお話しは心臓血管など他の領域にもインパクトのある素晴らしいものでした。日本の大学の制約過多のなかをこれだけ頑張っておられることにも感心しました。

私は上述のように、これまで遺伝子治療や細胞移植で一定の成果はありながら、それ以上に展開定着しなかった歴史のなかで、成長因子の徐放治療が副作用なく着実に効くことをお話ししました。ここまで15年近い検討のなかで、もっとも効率的で、しかも副作用が少ない方法であることが時間の経過とともに示されつつあるのは次のステップに向けて喜ばしいことと思います。

さらに日本と違って規制が比較的緩い開発途上国での胎児幹細胞移植で倫理性、安全性と有効性が示されつつあることを畏友Benetti(アルゼンチン)のデータをもとにお話ししました。さらにこれまでの基礎実験のデータからこの胎児幹細胞移植がbFGF徐放とセットすることで効率がさらに上がる可能性を示しました。

これからいよいよ患者さんに役立つ再生医療をまず海外ついで国内で進めて行ければと思いました。

シンポジウムではこうした先端医療をどう実用化するかについて文科省、経産省、名古屋大学、学会などの観点からの講演がありました。日本には優れた技術やシーズがあり、学問レベルでは大きなポテンシャルがあるのに、それを実用化するのにはさまざまな非効率な仕組みがあり、ポテンシャルの多くがそこで消えている現実をあらためて感じました。政府も大学も産業界もそれぞれに努力しているというのになぜ日本だけうまく行かないのか、その答えは日々の仕事環境を見ればわかるのではないかと感じました。一見丁寧で当たり障りのない保身主義、それをリーダークラスの大物が堅持している限り、進歩の芽の多くは摘まれてしまうと思います。自分の任期中は何も起こらないように、となるとチャレンジはないことになり、新たなものは生まれないことになります。こうした問題は大学や研究所だけでなく市中病院その他の組織でも見られます。最近は一般企業でも同様と言う意見も聞きました。

山中伸弥教授のiPS細胞研究の初期のころ、慧眼をもって支援した一部の指導者の存在がなければあの才能も研究もそのまま埋没したのではないかと言われます。産業化には研究以上のバリアーが存在します。個人が破ることは極めて難しいものです。

そういう環境で人生を浪費するよりは少なくとも社会貢献できる医療現場で患者さんと向き合いながら心臓手術でがんばって汗を流すほうが確実な道という考えが頭をもたげてしまいます。毎日心臓手術のあとで患者さんの笑顔を見るたびにハートセンターに来てよかったなあと思ってしまいます。

高い技術を誇ったシャープの沈没に代表されるように、この国の経済がいよいよ成り立たなくなればなりふり構わず産業振興、停滞の払拭から何もしない保身主義の人たちを新たな挑戦を行える人材に交換する、このぐらい切羽詰まった状況になるまで真の改革はないのかと、少々暗い気持ちになりました。

保身主義の指導者がどう悪いかという実例を示します。たとえば社内に無法者がいてわがまま放題の行動を続けるとき、それが経営者と多少のつながりがある、つまりその人物を叩くのは損と知ると指導もせず放置し、被害を受けている職員が辞めることで「解決」とする、その後同じ問題がまた起こっても同様の対応をする、いつまでも問題は解決しないがその指導者の首はつながっているのです。これは有意な人材を消耗し続けているという意味でも会社の機能が損なわれているという意味でも社会的に損失と思います。

このあたりで若い世代からの大きなブレイクスルー、ターニングポイントが起こることを念じるとともに、とりあえず日々目の前の患者さんを助けることだけ考えて、できる努力をしようと思いました。今回のすばらしい会議にこうした後ろ向きの意見で申し訳ないのですが、頑張っただけ報われない日本の若手研究者のことを想い、ちょっとぐちを言わせて戴きました。

それにしても日本には有為の人材が多い、もっと社会や組織の仕組みを改善すれば世界の一流国としてもっと繁栄するのではないかと思った一日でした。

この機会を下さった関係の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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名古屋ハートセンターにて米田正始の手術を受けて下さった患者さんたちへ

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最終更新日 2020年3月8日

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皆さん、いかがお過ごしでしょうか。ことしの夏は猛暑が厳しく、多数の方々が熱中症などで体調を崩しておられます。どうぞご自愛ください。

A335_004さて名古屋ハートセンターが開設されたのは2008年10月でした。

 

ハートセンターは大学の学閥や政府自治体などのいわゆるコネとは関係のない、いわば庶民出身の病院です。

 

それだけに名古屋という比較的古風な風土では、患者さんを紹介して下さる病院も少なく、ほとんど展開しないだろうと言われていました。

 

こころある友人は皆、先生、気を悪くしないでね、名古屋ってそういう土地なんだから、じっくりゆっくりやって行こうよ、となぐさめて下さったものです。

 

しかし患者さん中心の仕事をすればそのうち必ずわかって頂けるだろう、今は患者力(かんじゃりょく)というのがあって、患者さんのご希望のまえには学閥も官僚も逆らえないという意見を下さった友人もあり、私もそれを信じて名古屋ハートセンターを皆とともに立ち上げました。

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ふたを開けてみると、1年目で心臓大血管手術で130例を超え、一人前の施設の仲間入りを果たしました。2年目のジンクスもそれなりに克服し200例に迫り、3年目、4年目と成長をつづけ300例に迫る、名古屋屈指の心臓血管外科施設になりました。

 

内科はそれ以上のスピードで展開し、カテーテル治療(PCI)ではすぐ名古屋のトップに立ちました。

 

これは患者中心の医療を日々実践し、それを患者さんや地域の病院医院の先生方が評価してくださった賜物と感謝しています。とくに患者さんのご支援には頭が上がりません。(患者さんの声のページをご参照ください)

 

128410265だけでなく、質的にも大きな展開がありました。

 

心臓大血管手術で、他で断られた患者さんや超緊急の患者さんもほぼ100%近い確率で受け容れ、そのほとんどを救命でき、お元気に退院戴きました。

 

また日本屈指の施設でもできないと言われた重症や難手術の患者さんも多数受け入れ、そのほとんどをお助けし軽快退院にまでもって行くことが出来ました。その成果は国内はもとより、国際学会や国際シンポジウムなどでも多数発信でき、名古屋ハートセンターを世界中から認識して戴けました。

 

全職員と患者さん、地域の先生方という大きなチームの絆を感じずにはおれません。心から感謝申しあげます。

 

私、米田正始は名古屋の地がすっかり気に入ってここで骨をうずめたく思っていましたが、残念ながら両親が歳をとりその面倒をみることになったため、実家のある関西に戻ることになりました。

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奈良にハートセンターを立ち上げしばらく勤務したあと大阪でさらにこの努力を続けることになりました。

 

私にとって患者さんと医師の関係はいのちがけの戦いをともにした仲間と心得ています。名古屋に移動してからもかつて京都で手術させて頂いた患者さんのための勉強会を開いたり、名古屋まで診察や治療のためにお越し下さった患者さんは多数おられます。

 

同じことを名古屋の患者さんとも共有したく思います。

 

名古屋ハートセンター 145148731で米田正始の手術を受けて下さった患者さんにおかれましては、何かご心配やお困りのときには遠慮なく米田までメールかお手紙を下さい。お役に立てるかも知れません。

 

これは私なりの人生観や職業倫理にもとづくものですので、お代は不要です。中にはメールの送り方が判らないというかたもおありでしょう。その場合は周囲の若い方に聞いて頂ければ今は携帯からでもネットを見たり通信することができます。

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心臓手術のあとは内科の先生が外来などで治療を続けられることで患者さんの健康は維持できる場合が多いです。

 

しかし外科医がそれを応援する形で、定期健診すれば、さらに予後が改善することがいろいろな場面でございます。ようするにより心臓のパワーアップをし、より健康に、より長生きするのにお役に立てることがあるのです。

 

5年間にわたり、私(たち)を支えて下さった患者さんたちに、心から御礼を申し上げるとともに、今後も絆を持って頂けましたら職業人医師として大変うれしいことです。

 

平成27年7月吉日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り92: ポートアクセスで大動脈弁置換術を受けられた患者さん

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大動脈弁狭窄症は心臓の出口が狭くなるため、重症になれば突然出口がふさがった形となり心臓が止まることがある病気です。つまり突然死の恐れがあるのです。


A335_017しかし普段、休憩などしているときにはそう苦しいわけではありません。あまり無理をしなければ症状がないことが多いのです。だから患者さんは油断しがちで、突然何か驚くとかびっくりするとか、無理をすると心臓が止まるのです。

下記の患者さんはかなり進んだ大動脈弁狭窄症のためまえもってメールで相談され、まもなく私の外来へ来られました。

大事な発表会が終わってから手術を受けたいと言われましたが、発表会の緊張する場面や、その練習の段階で突然死などが起こる恐れがあったことと、すぐ手術すればゆうゆうと安全に発表会に臨めるタイミングでもあったため、手術をお勧めしました。

私たちがちからを入れているポートアクセス法という、ある種のMICS(ミックス)手術なら、一般の病院で行う心臓手術と違って、創も小さく見えにくく、かつ骨(胸骨)を全然切らずにすむため、回復が速く、発表会に間に合ううえに、安心して発表できるというおまけまでつくと判断したのです。

弁そのものは硬く変性していたため人工弁に代えるか、ご希望があれば自己心膜で弁を再建するかの選択枝がありましたが、患者さんのご希望にてポートアクセス法での人工弁(生体弁)手術つまり大動脈弁置換術に決定しました。

手術はスムースに進み、翌日から歩行や運動を開始され、まもなくお元気に退院されました。創は外からあまり見えず、まさか心臓手術を受けたとはだれも思えないほどでした。

以下はその患者さんからの感謝状です。

 

********** 患者さんからのお便り ********

 

米田正始先生

手術をしていただいてから一ヶ月がたちました。
お蔭様で、順調に回復し、7月21日のフラの発表会に向けて練習を始める事ができるようになりました。
初めて先生の外来でお会いして、発表会が終わってから手術をお願いしたいと申し上げた私に、先生は突然死の不安を抱えながらそれでいいの?早く手術をして、何の不安もなく、せいせいおどった方がいいでしょ、とおっしゃって、お忙しいスケジュールの中、5月13日の手術日を決めて下さいました。

私が大動脈弁狭窄症と診断されてから9年たちます。

六カ月ごとに市立病院で、心エコー、心電図、レントゲン、血液検査をしていただき、今年の2月の検診の時、そろそろ手術適応の範囲内に入ってきたので、4月にカテーテルをやる日を決めて、手術しましょうと言われました。

以前から、ネットで米田先生のウェブを見て、弁手術にはカテーテル検査は必要ないと書いてあったのが頭に残っていましたし、手術していただく時は、自分の身は自分で守りたいので、自分の納得する先生に手術をして頂きたいと思っていました。

思いきって、4月の検診日に主治医に名古屋ハートセンターの米田先生に紹介状を書いていただきたいとお願いしました。

紹介状をいただいたものの、スーパードクターにどのようにお伝えしたらいいのか?悩んだ末、思いきってメールをしました。たぶんお返事を頂けたにしても、何日もたってからだろうと思っていました。

その2~3時間後に、先生からメールをいただき、外来へいらっしゃいとの事。
あまりにも速く対応していただき、おどろきと嬉しさで涙があふれてきました。

4月17日、初めて病院へ行き、明るく、清潔で、病院とは思えない雰囲気で、先生、看護師さん、スタッフの皆さんが笑顔で優しく接して下さりほっとしました。

診察室に入り、米田先生にお会いして、丁寧な説明をしていただき、すべて、先生にお任せしようと決心しました。
それから手術日まで、不思議な位手術の不安はありませんでした。

無事に手術をしていただき、すばらしい先生、スタッフのみな様にお世話になって、普通なら一日も早く退院したいと思うでしょうが、そんな気持ちには全然なりませんでした。

そして、こんなに早くフラに復帰出来、家族の為に働けるのは、米田先生始め、すばらしいスタッフのみな様の愛ある医療のお陰と感謝しております。

先生、毎日御多忙だと存じますが、くれぐれもお身体ご自愛くださいませ。

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お便り91: 困難と言われた僧帽弁形成術をミックス法で

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医師と患者さんの人間関係、とくに信頼関係は極めて重要です。

下記の患者さんは他府県から僧帽弁形成術をもとめて私の外来へ来られました。


Tutuji地元の大学病院でも形成は難しいと言われる、複雑な弁の壊れ方でした。

後尖、前尖とも後交連部で壊れていたからです。

さらに長期間の負担のためか、左房がひどく拡張し、そのため心房細動の不整脈も出ていました。

この状態になるとメイズ手術は歯が立ちません。そこで私たちが10年ほど前に開発した心房縮小メイズも併せ行いました。

僧帽弁も心房細動も治りましたが、同時にそれは小さい創でできました。いわゆるミックス手術ですね。

以下のお手紙はその患者さんからの礼状です。

遠方からお越し頂いただけの結果を出すことができ、それ以上にこうした絆をうれしく思います。またこれからも大切にして行きたく思います。


********患者さんからのお便り***********

 

米田 正始 先生

前略

僧帽弁形成手術及びMAZE手術を2012年11月8日に行っていただいた****です。
手術体験談のお話を受け、駄文ですが一筆記させていただきます。

小生が心臓に問題ありと診断されたのは2008年6月でした。そこから5年たち、状態は徐々に悪化してきて、ちょっと激しく体を動かしただけで動悸が激しく、休まないで行動ができなくなってきました。そこで地元の大学病院で診察していただいた結果、僧帽弁閉鎖不全症で手術が必要という結論となりました。

心臓にメスを入れることは、生命に直接関係すると思いましたので、自分自身が十分に納得した上で手術に望みたいとの気持ちが強くありました。そこでインターネットや近親者に、僧帽弁手術の事例や病院の対応に関する情報を集めた結果、名古屋ハートセンター・米田正始先生に執刀していただくことになったのですが、そういった決断を下すことになった主な理由は次の点です。

1. 心臓の手術は技能(症例数)が物を言う。そして、患者は医者を選ぶ権利がある。

米田先生のホームページ「心臓血管外科情報WEB(当時の名称)」に載っていた内容です。

特に外科手術では、執刀医の技術/技量がその成否に大きく影響することはよく知られていますが、最近の大学病院では、患者が医師を指名することまでは不可能と言って良いと思います。

外科手術の特性とご自身の豊富な経験に基づく自信とを、良く表している言葉と思いました。また、それを可能としている名古屋ハートセンターのシステムも素晴らしいと思いました。

2. 心エコー検査で「腱索断裂(少なくとも2本)」との所見が示された。

今まで受診した心エコー検査や経食道心エコー検査では、このように具体的な所見を示されたことはありませんでした。

画像の読影技術は重要であるとともに非常にむずかしいものであるとのお話は以前から知識としてありましたので、このように具体的な所見を示されたことは、名古屋ハートセンターのスタッフの技術が非常に高く、高度な診療を期待させるものでした。


3. 小生の僧帽弁閉鎖不全症は形成手術でなんとかいける。

今までの手術方法に関する説明では機械弁への置換手術が中心でした。ところが、米田先生から形成手術で多分大丈夫だろうとの診断を出していただいたことで、非常に安心したことを思い出します。

さらに、形成手術が不可能な場合でも、生活するうえで色々と問題のある血液抗凝固剤の服用をやめられる生体弁への置換という方法を示されたことです。

今、ドイツでは開胸せずに穿孔して生体弁の置換手術の事例が報告されており、生体弁の寿命のくるほぼ20年後では、ドイツの事例のような患者に負担をかけない手術が一般的になっているだろうとの、最新情報をもとにした方向づけを提示していただけました。

 以上の点に加え、地元の大学病院の医師も、米田先生を高く評価しており、安心して手術をお願いしたらどうかとのアドバイスもいただきました。

 こういった理由から、小生の場合なんの不安もなく手術に望むことができました。

今回は僧帽弁の形成手術、心臓縮小手術、心房細動に対するMAZE手術を施していただきましたが、全身麻酔でしたので気がついたら終わっていました。

次の曰には30mくらいでしたが、自分自身の足で集中治療室から個室に歩いて移ることができました。術後、気胸が発生しましたが、それも担当医の方の適切な処置で問題はありませんでした。

 さらに退院前の心エコー検査では僧帽弁の逆流も100%なくなっていることが確認できました。この時、「米田先生は、僧帽弁の手術が得意なんですよ。」と言った検査技師の言葉が今でも耳に残っています。

おかげさまで、仕事にも復帰できましたし、先日の6ヶ月検診も問題はありませんでした。

 手術という大きなイベントを抱えている時には、ちょっとしたことでも不安が増大してしまうものです。米田先生、名古屋ハートセンターが十分信頼の置けることを、手術前に自分自身で十分に確認/納得したことが、小生がなんの不安もなく手術に望むことが出来た大きな理由と思っております。

また、家族も患者本人が安心して手術に向かっている姿を見て、うろたえることなく平常心で手術に向かうことができました。


今回の入院も含めた治療では、米田先生をはじめ、佐藤先生、深谷先生、木村先生他スタッフの皆様に大変お世話になり、ありがとうございました。

 まだ、これからもよろしくお願いいたします。


敬具

2013年6月5日

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執筆:米田 正始
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【第四十九号】TIA(一過性脳虚血)とは

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 【第四十九号】TIA(一過性脳虚血)とは
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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空梅雨のあと少しは湿り気がでてきた最近ですが、皆さんいかがお過ごしでし

ょうか。

先日、人気デュオ「CHAGE and ASKA」のASKAさんが一過性脳虚

血のためライブを延期し、しばし治療に専念するというニュースが流れました

せっかくのライブをキャンセルしなければならないほどの病気・一過性脳虚血

(略称TIA(ティー・アイ・エー))とはどういう病気なのでしょうか。

こうしたご質問を何人かの方々から戴きましたので、例のAll About(オールア

バウト)に記事を載せました。こちらをご参照ください。

http://allabout.co.jp/gm/gc/420422/

TIAは短時間で治るのですが、まもなく脳梗塞という重大な病気が起こるまえぶ

れであることが多い、危険な警告症状なのです。

ゆめゆめ油断して、せっかくの警告を活かすことなく脳梗塞になってしまうと

いう悲劇はぜひ避けたいものです。

そうした気持ちで上記の記事をお書きしました。ご一読頂けましたら幸いです

さらにこの一過性脳虚血TIAは心臓病の方にやや起こりやすい傾向があります。

というのはTIAの原因のなかに、心臓由来の血栓などがあるからで、心臓病をも

っておられる方々はぜひ油断なく健康管理をして頂ければと思います。

このことは心臓手術を受けた方々にも多少は共通しており、まったくの健康人

よりも不整脈や血栓などがやや起こりやすくTIAが起こることが時にあるからで

す。

備えあれば憂いなし!で行きましょう。

敬具

平成25年6月26日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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乳頭筋最適化術(Papillary Head Optimization)とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月1日

1.乳頭筋ヘッド最適化手術とは?

乳頭筋のヘッドを糸で束ねて前方に吊り上げ、僧帽弁の逆流を止める手術です。略称はPHOです。
アメリカのKron先生の方法をもとにして、私たちが世界に先駆けて開発した術式です。虚血性僧帽弁閉鎖不全症などの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して威力を発揮します。
この領域の権威であられる産業医大循環器内科教授・学長の畏友・尾辻豊先生のご意見で命名しました。 以下もう少し詳しくご説明します。

2.虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症の手術で大切なことは

心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や特発性拡張型心筋症の機能性僧帽弁閉鎖不全症では前尖だけでなく後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引き込まれる現象をいかに治すかがカギとなります。

そのため前尖だけでなく後尖も治せるこのPHO法は当初、両尖最適化(Bileaflet Optimization)という名前で、より多くの患者さんたちにお役にたつものとして発表しました。しかし直接的には乳頭筋に手を加えて治すため、このPHOという名前が分かり易いと言われたのです。

PHOシェーマ

なるほど鋭いご指摘、さすがは尾辻先生と感心し、以後このPHO法という名前を発表のときには使っています(開発の歴史のページをご参照ください)。

3.従来の手術との成績の比較

これまでの手術法とくらべてこの乳頭筋最適化術(PHO法)はどのくらい良い結果を出せるのでしょうか。

まず現在まで標準術式と言われている僧帽弁輪形成術、つまりリングをもちいて僧帽弁の弁輪を締める方法(略称MAP)と比べてみると、
前尖のテザリングについてはMAPもそこそこは行けるもののPHO法が有利、とくに重症の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症でテザリングが高度なものではPHO法が断然有利です。

後尖については、MAPでは手術後は術前より悪化します。しかしPHO法をMAPに併用すれば悪化しません。有意に改善とまでは行きませんが良くなる傾向があります。つまりここでMAPだけの従来法にはない、大きなメリットが発生するわけです。

これらを合わせると、これまでのMAP法で治せなかった虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症をこの乳頭筋最適化術PHO法では治せる、その限界線が高くなったと言えそうです。

4.もう一つの手術法との比較では

PHOとPMA
この乳頭筋最適化術PHO法と、近年ある程度使われている乳頭筋接合術(PMA法)を比較しました。
PHOは乳頭筋先端を前方へ吊り上げるのに対してPMAでは両乳頭筋を寄せるのです(左図)。簡便な良い方法と思います。
すると前尖についてはどちらも善戦健闘するものの、PHO法のほうが有効性が高いという結果でした。後尖についてはPMA乳頭筋接合術では悪化したのに対してPHO法では悪化しませんでした。

心臓とくに大切なポンプである左室のサイズや動きパワーについてはPMAよりPHO法のほうが有利という結果でした。PMAも悪くはないのですが、PHOでは明らかに改善する項目が多かったのです。

総合的に判断すると、乳頭筋接合術PMAより乳頭筋最適化術PHO法のほうが有利という結果でした。ただしその差は前述のMAP法との差よりは小さく、PMAはかなりつけているとも言えましょう。後尖のテザリングがそうひどくなければどちらも使える方法だと思います。

こうした結果を、2012年のヨーロッパ心臓胸部外科EACTSと、2013年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁セッションともいえるMitral Conclaveなどで発表し、多くのご質問や前向きのコメントを頂きました。2017年にはアメリカ胸部外科学会の本会で発表でき、その効果が世界に知られるようになりました。

内外の学会でぜひ使いたいと言って下さった先生方も増え、光栄なことです。

5.乳頭筋最適化術(PHO)の限界は

ただしいかなる術式もそうであるように、このPHO法にも限界はあると思います。

そもそも左心室があまりにも壊れているケースでは、僧帽弁閉鎖不全症がきれいに消えても、それだけではパワー不足という大きな、かつ根底的問題が残ります。
何しろ、これらの手術が対象とする患者さんは、心臓の筋肉が大きく壊れたり失われた方々ですから、もとの出発点が厳しいのです。

しかし、だからこそ、少しでもパワーアップをという努力は大切と思います。PHO法が患者さんにとって有利で、かつ威力を発揮できるような使い方をすることが大切です。

パワーに関しては、ここまでの研究で、PHO法と同じ前方吊り上げによって、左室収縮機能が改善することが心不全の動物モデルで証明できています。これは手術前に僧帽弁閉鎖不全症をもたないモデルですので、弁の逆流を消したため左室機能が良くなったのではなく、PHOという操作自体が左室機能を良くしたことになります。
これは人間ではなかなか証明できない、実験研究ならではのメリットと考えています。

というのは人間の患者さんで、僧帽弁閉鎖不全症のないひとにこうした術式を行うことは倫理的に許されないからです。

それ以外にもPHO法が左室のパワーアップに役立つという傍証があります。それはコアプシスCoapsysという左室を前後に圧迫するデバイスで左室機能がある程度改善するというデータが実験でも患者さんの臨床データでも報告されています。PHO法で左心室を前後に圧迫するちからとかなり近いちからのかかり方です。そのため同法でも同様のパワーアップが期待しやすいのです。

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6.限界を打ち破る、最近の展開は

Apf1107-s

そうこうしながら、60名を超える患者さんにこのPHO法を行い、その前のバージョンである腱索転位法(トランスロケーション法)と併せると100例近い数になりました。

なかでも新しいPHO法で予想以上に活発な生活を送っておられる方が多いことが、実感のあるよろこびです。

こうした最近の成果を内外の主要学会のシンポジウムなどで発表し啓蒙に努めています。

参考:
いい心臓いい人生99号 第31回日本冠疾患学会(2017)にて。
いい心臓いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
いい心臓・いい人生96号 ソウルに行って参りました(第19回国際弁膜症シンポジウム
いい心臓・いい人生92号 アメリカでちょっと頑張りました(アメリカ胸部外科学会)

それともうひとつ、この方法にいったん慣れるとかなり短時間で手術操作が完了します。上記のように大きなメリットを患者さんに提供できるだけでなく、それがたかだかプラス10分あまりの時間でできてしまうという利点は今後に期待ができると考えています。短時間でできるということは、患者さんの体力を消耗せずにすむことであり、体力が落ちた重症患者さんにとって大きな利点となります。

PHO and others

私たちが開発したPHO手術(図の左)は、その効果の高さからご活用くださる施設が増え始め(図の右)、光栄なことです。医学研究のオリジナリティを守るため、私たちの原著を引用頂けると良いのですが、、、、

 

さらに新しい左室形成術(心尖部凍結型左室形成術と言います→もっと見る)で短時間で左室の修復が行えるようになり、アメリカのメジャージャーナルの表紙を飾りました(右図の赤矢印)。

Seminar

これまでPHOが使えなかった巨大な左室にも使えるようになり、盛り上がりを見せています。PHOと新しい左室形成術の併用効果は大きく(デュアル形成術)、2019年のアメリカ胸部外科学会・僧帽弁シンポジウムで発表し反響がありました。→→デュアル形成をもっと知る

それやこれや、こうした努力のメリットと限界とを常に考え、患者さんが損しないようにバランス感覚を磨きつつ、日々精進しています。またこれからこのPHO法を海外や国内の先生方にも安心して使って頂けるよう、啓蒙活動を行う予定です。

7.カテーテル治療・Mクリップとの比較では

近年循環器内科で話題のMクリップは、心臓外科手術のアルフィエリ法をカテーテルで行うものです。アルフィエリ法では僧帽弁前尖と後尖を真ん中にてつなぎ、僧帽弁を2つに分けて閉じやすくするものです。
良い方法なのですが、本質的に僧帽弁を治すものではなく、まして原因である左室を直せないため効果は限定しています。アルフィエリ法そのものが不十分治療である場合が多いため、そのコピーであるMクリップも同様と心臓外科医は考えています。ただMクリップはカテーテルでからだへの負担が少ないため試みる価値があるケースは存在すると思います。
これをやってみてダメなら上記の乳頭筋最適化手術(PHO)というのは一つの方法と思います。
Mクリップについて、さらに見るのはこちら
Mクリップが効かないときはこちら

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僧帽弁膜症のリンク

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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僧帽弁交連切開術とは: 古くて新しい形成術です【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️僧帽弁交連切開術とは?

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僧帽弁狭窄症などに対して行う手術で、交連部つまり弁尖のヒンジ部分が癒合している時にこれを切開し、弁尖が良く開くようにするものです。

以下もう少し詳しく解説します。

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リウマチ性の僧帽弁疾患では弁が分厚くなりヒンジつまり蝶番のところが癒合して開かなくなります。
いわゆる僧帽弁狭窄症ですね。

これは昔から、人工弁がまだまだ不完全だったころから、手術の努力が続けられた病気です。

要するに開かなくなった僧帽弁が開けば良いからです。

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◾️交連部切開術の草創期は

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OMC数十年前には人工心肺を使わずに、はさみのような形をした道具で心臓の中で盲目的にぐいっと広げて弁をある程度修復したものです。これは心臓を開けずに、つまり閉鎖して行うため閉鎖式僧帽弁交連切開術(略称CMC)と呼びます。腱索や乳頭筋などの弁下組織があまり壊れていないときに役立ちました。

現在のカテーテルによる僧帽弁形成術と似ています。盲目的ですから期待とちがうところが開いて、つまり弁が裂けたり、血栓のようなものが隠れておればそれがはずれて飛んだり、合併症はかなりあったそうです。

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◾️僧帽弁交連切開術の進歩

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その後体外循環の技術が進歩して、心臓を止めて眼でしっかり見ながら弁を広げる、直視下僧帽弁交連切開術(OMC)がひろくつかわれました。1960-70年代ごろでしょうか。私自身はまだ医師になっていないころですので、読んだ話、聞いた話だけですが、これによって治療成績はかなり進歩しました。

すべての弁形成術がそうであるように、うまくやればの話で、ここがポイントです。

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僧帽弁狭窄症その後リウマチ性弁膜症が減り、この僧帽弁交連切開術OMCを行う機会は減りました。

しかし近年、またこれが弁膜症専門家の間で話題になっています。

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◾️交連部切開術のリバイバル?

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若いころにリウマチ熱にかかり、それ自体はまもなく薬で治るも、弁が少し傷み、それが何十年も経って、加齢性変化が加わり弁膜症になるというかたちです。これが増えています。

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また西日本とくに九州や沖縄、あるいは地方ではリウマチがやや多いと言われており、このエリアからリウマチ性僧帽弁狭窄症のため来院されることが増えました。

まだ40-50代の比較的お若い患者さんの場合は、機械弁での僧帽弁置換術MVRとなるのが一般的ですので、それを嫌ってのことのようです。

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こうした患者さんたちの僧帽弁はかつての交連切開のように弁尖だけを切り開くだけでは元通りのしなやかなきれいな弁には戻りにくいのです。左上の図のように弁も腱索も乳頭筋も一体化して硬くなり、そのままではとても弁とは言えない状態です。

僧帽弁形成術2そこでどうするか、です。

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◾️現代版、僧帽弁交連部切開術へ

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1.交連切開に加えて、

2.僧帽弁尖をピーリングあるいはスライシングと呼ばれる方法で薄く柔らかい、もとの状態に戻します。

3.また腱索がリウマチ変化のため一枚の板のようになっているため、これに窓をあけ、やわらかく動きやすいようにします。

4.必要があればこの板のような腱索を切除してゴアテックスの人工腱索をつけます。

5.さらに乳頭筋が硬く変化していることが多いため、これを切開して動きやすくします。

6.こうしたさまざまな合わせ技をしてもなお、弁が硬く、うまくフィットしない、つまり隙間から漏れるときには、心膜パッチで弁尖を形成してやわらかくフィットするようにします。

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健常な僧帽弁こうした40-50年間の僧帽弁形成術のノウハウを一堂に集めた手術をすることで、硬く石のようになった僧帽弁はしなやかな弁として蘇ります。

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◾️これからの展開

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もちろん時間との兼ね合いもあり、さらにこうした患者さんでは他の弁も壊れていたり、左房が巨大化してそれ自体の問題と、難治性心房細動も合併しています。

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そこでこれらもひとつひとつ治すことになり、時間の限界というもんだいが生じることがあります。できるだけ高い妥協点で、安全を確保しながら手術をまとめ上げることが大切と思います。

それによって、理想の姿、つまりワーファリンは不要または比較的少量で、ご自身の弁で、再手術の確率もひくく、血栓や脳梗塞・脳出血の心配も減り、普通にのびのびと永く楽しく暮らせる、こうした目標に大きく近づくことになります。

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昔の医学書では「リウマ Nurse_shockチ性弁膜症→人工弁(機械弁)これにて治療完成」のような記載を見たことがあります。

しかし現代の高いレベルから見れば、その治療の「完成」が患者さんの悩みの始まりとも言える一面があります。

できるだけワーファリン不要の自然な安全な生活を目指して頑張りたく思います。

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Nurse01_laugh
それと並行して、すでに機械弁の弁置換を受けておられる患者さんには、それを嘆くのではなく、ワーファリンの安全性を高めるコツなどをお知らせし、また災害時などの安全策などを勉強して戴くようにしています。

どこからでも立ち上がれる、良くできる、それが人間と思っています。

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◆ 患者さんの想い出はこちら:

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僧帽弁膜症のリンク

原 因 

閉鎖不全症 

狭窄症

リウマチ性

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(MICS, 低侵襲小切開手術、ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第四十八号】 糖質制限食 (ローカーボダイエット)

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 【第四十八号】 糖質制限食
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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いつしか6月に入って今年ももうすぐ半分が過ぎようとしています。

皆様方にはいかがお過ごしでしょうか。

私、心臓外科手術の片手間に新しい科学的ダイエットを趣味にしています。

たまたま名古屋ちかくの春日井市で開業されている灰本先生という学術肌でし

かも日本でも屈指の高血圧やメタボの患者さんの治療をしておられる先生と親

しくなり、そのなかで教えて頂いたのがこの科学的ダイエットでした。

糖質制限食(ローカーボダイエット)と呼ぶこの方法は、炭水化物を減らす

だけでなく、脂肪をうまく食べることで、ほどよくスリムに、そして糖尿病や

高脂血症などをグングン改善することができます。

自分自身、以前から良いダイエットがないかと模索して来ただけに、初めてこ

の方法をお聞きしたときは、まさに「眼からうろこ」といいますか、「眼が点

になる」ような新鮮な驚きでした。

この糖質制限食で自分で半年ほどの間に8kgほど体重を減らし、

なるほどと納得してから、心臓手術の患者さんや内科の患者さんたちにも適宜

お勧めするようになりました。

そうこうしているうちに、肥満のために心臓手術が受けられないような患者さ

んをスリムにして、それからゆうゆうと手術を安全に行うなどの実績が出

始めて、ますますちからが入っています。

あるいは、心臓手術のあと、ごはんがおいしい、体調が良いと次第にメタボに

なる患者さんがけっこう多いため、こうした人たちに楽しく減量しメタボ予防

をしていただくといった使い方もしています。

この糖質制限食をこれまでも私のHPで掲載はしてきましたが、目

立たないところにあってあまり活用されていなかったようです。

そこで今回、新たに章を立てて、記事も少しは充実して皆様のお役に立つよう

に改訂いたしました。以下をご覧ください。

https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2013/05/diet_lowcarb.html

なお上記の灰本先生と私を含めた熱心なグループで立ち上げた日本ローカーボ

食研究会のHPもご参照頂けましたら幸いです。URLは次のとおりです。

http://low-carbo-diet.com/

皆さんのお役に立てれば幸いです。なお最近巷で見かける糖質制限食のなかには

発がんや体の消耗など、行き過ぎたり誤った方向性のものもあり、ご注意ください。

私たちの推奨する糖質制限食はハーバード大学はじめ10万人規模の

データをもとにした科学的かつ安全なものです。根拠のない民間療法ではありま

せん。安心してご活用頂けると思います。

敬具

平成25年6月3日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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大和成和病院

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大和成和病院は以前からある地域貢献型の病院で、現理事長の金公一先生が着実に育て南淵先生てこられたと聞くが、現在の本格的循環器病院としては1996年に南淵明宏先生(現院長)が着任され、金先生―南淵先生の体制が確立してから大きな発展を遂げたようである。

大和成和病院それからの大和成和病院の展開ぶりは目を見張るものがあり、年々心臓手術数を増やし、2008年、ついに冠動脈バイパス手術で日本一の座についた。南淵先生の実力やそれを支えた倉田篤先生の貢献、あるいは小坂眞一先生・藤崎浩行先生・武藤康司先生、深津より子看護師長をはじめとしたコメディカルや事務をはじめとしたチームの力量によるところが大きい。同時に大和成和病院の発展・展開は日本の心臓血管外科医療をとりまく環境の構造的変化と軌を一にしているように思える。

かつて心臓血管外科は大学病院やいわゆる基幹病院と言われるその地域を代表する総合 病院でスタートしたケースが多かった。1960年代から1970年代にかけてのことである。しかしこれらの施設は小回りが効かず、患者救命のためにはminute countつまり一刻を争う心臓血管外科には不利な面を内包していた。とくに大学病院のなかには労働組合と公務員制度の両方に遠慮してその後もこの問題を解決できずにいる施設が少なくない。若い医師は患者さんを治す実力をつける勉強をすべきです。しかし病院によっては雑用係にされてしまっているという現実があります

いわく、

手術日以外は手術できない、

手術日でも一日一例に限る、

一日に規定数を超えて入院はさせない、

午後5時になれば手術中でもナースが帰宅する、

緊急手術ができる場合でも待機手術一例を延期せよ、

夜間の薬局への使い走りやポータブルレントゲン撮影などの雑用は若手医師がやらねばならない、

手術が続けば麻酔医やナースが疲労して辞めてしまう、

他の科も我慢しているのに心臓外科だけ我慢が足りない、、などの逸話がよく聞かれた。

患者中心とは名ばかりで、本質は勤労者中心であるわけである。ちなみに1980年代に大きく成長した徳洲会が循環器内科と心臓血管外科を医療改革のターゲット領域としたのは、大学病院や基幹病院が最も苦手とする領域であったからと言われる。

医療を問い直す、新しい動きがでてきましたそうした旧制度から脱皮できない施設群を横目に、自由度の高い私的病院が心臓血管外科領域では1980年代から1990年代にかけて大きな展開を遂げた。

新東京病院、北海道大野病院、岸和田徳洲会病院、湘南鎌倉病院―葉山ハートセンター、豊橋ハートセンター、新葛飾病院、川崎幸病院そして大和成和病院などの新しい施設群である。

1970年代あたりまでは人工心肺装置が高価で、モニター類、人工呼吸器等も同様であったためサイズの小さい私的病院には重荷であったようだが、その後それらは比較的コストダウンできるようになり、むしろいつでも手術できるという小回りの良さと患者さん・紹介医の高い満足度、組合や公務員制度の制約が少なく、天下りがなく無用な出費が不要という効率の良さがキーになる時代に私的病院が展開したともいえよう。

著者は縁あって大和成和病院に2007年春から約1年間、半常勤ながら仕事をさせて頂いた。現在もスーパーバイザーとして関与させて戴いているが、その経験から大和成和病院を少し論じてみたい。

まず南淵先生をはじめとした心臓外科医の手術成績が良く、コメディカルの意識や熟練度も患者さんを治す、この一点に集中した努力ができるのは民間専門病院の良さです 優れている。そして病院職員の患者さんへの対応が温かい。さらに医療を行う立場からは仕事がしやすい。医学的に必要な手術はいつでもできる。麻酔科もナース・コメディカルも心臓治療にいのちをかけたプロの集まりであり、必要な手術を邪魔する人はいない。もちろん使えるリソースは有限であるため、ときに相談し、調整することもあるが、原則として患者中心が貫けるのである。

また適正サイズのため、院内のコミュニケーションが図りやすい。医師も看護師も技師も熟練度が高く、循環器診療に精通しており、普段からインテリジェントターミナルのように的確に動いてくれる。

著者(米田正始)の印象に残っているエピソードをひとつ紹介したい。

2007年の年末に術前左室駆出率 手術前は心臓がほとんど動きませんでした。でも患者さんやご家族、そしてチーム全員で頑張りました0%(シンプソン法での精密計算上、本当にゼロだった)の虚血性心筋症の若者(写真左、左室がほとんど動いていないのが見える)に新しい左室形成術を施行させて頂いた。

関東の一流施設でも手術を断られた患者だったが幸い治療戦略が功を奏し、チーム医療が有効に作用し、術後経過順調で左室駆出率も40%まで回復していた。不整脈もほとんどなく安定していた。

ところが術後しばらくして患者が面会の友人たちと病棟談話室で談笑中に前ぶれなく突然VF(心室細動、3分以内に解決しないと命にかかわる)になった。その瞬間、著者は仕事を終えて新幹線にて京都に帰りつつあるところだった。VF発症のあとの大和成和病院チームの迅速的確な治療ぶりはまさに循環器病院の名にふさわしい見事なものであった。

著者が翌朝一番で大和成和にもどった時にはすでに患者は危機を脱し回復途上にあった。このチーム力のお陰で患者はなんらの後遺症も残さず、元気に退院して行った。現在も元気に暮らしている。こうしたことがチーム熟練度の低いタイプの大学病院や基幹病院でどれだけできるだろうか、とも思った。

 

このように大和成和病院は現代の心臓血管外科医療を行うにはもっとも適した環境のひとつであり、冠動脈バイパス手術の例数が昨年日本一に輝いたのはうなづけることである。著者はその後名古屋ハートセンターの開設のため仕事場のほとんどを名古屋に移すことになったが、現在も大和成和病院のシステムを大いに参考にさせて頂いている。この優れた病院が今後も立派な手術・治療を展開し、この国の循環器医療の進歩に貢献して頂ければ幸いである。

2009.10.記

 

その後、大和成和病院では人事異動があり、南淵先生は東京ハートセンターへ移られ、代わって小坂先生が院長としてカムバックし、倉田先生が中心の手術チームが編成された。順天堂大学から若くとも手術のうまい菊地先生が入られ、若手が若干名参入し、新たなチームができあがった。益々の展開を期待したい。

 

 

11. 名古屋ハートセンターについて へもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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