第25回日本不整脈外科研究会を振り返り

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(今回の記事は医療者向けです。一般の皆様には軽く読み流し、心臓外科医の努力のみ知って頂ければ幸いです。逆に、一般の方々でも心房細動などの不整脈でお困りの方にはご参考になるかもしれません。心房細動はある種のがんにも匹敵するほど要注意の病気です。野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんはじめ多数の方々が仕事を失ったり命を落としたりしておられます。きちんと治療や定期健診を受けましょう)

東京ディズニーランドの目の前で行われました この2月23日水曜日に日本不整脈外科研究会を開催させていただきました。日本心臓血管外科学会のサテライトセッションとして東京ディズニーランドの目の前にあるホテルで行いました。テーマは「不整脈治療、外科らしい貢献」でした。この研究会はすでに四半世紀も続いている立派な会で、WPW症候群の手術や心房細動へのラディアル手術、メイズ手術はじめ、日本が世界に誇る業績を多数もつ会でもあります。

代表世話人の新田隆先生(日本医大心臓血管外科)と協力し、プログラムを練りました。まず若い先生方の熱心な研究を2題ばかり発表していただきました。

順天堂大学の岩村泰先生らは天野篤先生のご指導のもと、心房細動に対するメイズ手術の術後年月を経て心房細動がぶり返す原因を研究されました。その結果、最大のファクターは手術前の左房のサイズでした。これは患者さんを治療するときの実感に近く、また手前味噌ながら私たちが心房縮小メイズ手術を開発した経緯と共通点が多いため納得しました。

また太田西ノ内病院の丹治雅博先生らはメイズ手術の成績向上のためのさまざまな工夫を発表されました。詳細は省きますがこうした工夫の着実な積み重ねが大きな改良へとつながると思いました。

ついで不肖・米田正始が提言ということで「心嚢スコープを用いた低侵襲オフポンプ・完全メイズ手術を日本で」という講演をいたしました。この方法はスロベニアの畏友Borut Gersak教授がぜひ日本で紹介してほしいというご希望を受けて、この機会に不整脈外科エキスパートが集うこの研究会でご紹介することになったものです。

この方法はおへその少し頭側に小さい皮膚切開を入れ、腹腔鏡の方法で横隔膜にも小さなスリットをあけて、心嚢内にスコープを入れて、心臓の背中側にある左房の各部位を心臓の外側からアブレーションつまり焼灼するものです。短時間で完了し、合併症も起こりにくい、患者さんにやさしい方法です。心臓の外側から焼灼しにくいところが3か所あり、そこは内科のカテーテルでアブレーションしていただき、そのまま完全評価して治療を終える、ハイブリッド治療です。そのため効果はかなりあります。この方法でこれまで治せなかった心房細動単独のケースが比較的短時間で治せるようになるでしょう。ハートセンターグループでも不整脈内科のご賛同をいただいたため、今後日本でこれが使えるよう、努力したい旨、お話ししました。

そのあと、第二部「How I Do It」セッションを新田隆先生と私、米田正始の司会で行いました。技術の習得こそ若い熱心な先生方の望みであることを考えてのセッションでした。

まず都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生がミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)でのメイズ手術を解説されました。両側のミニ開胸が必要で、けっこう名人芸が必要な大きな手術と感じましたが、エキスパートならではの優れた治療でした。

ついで日本医大の石井庸介先生が房室弁輪部の処理法を講演されました。房室弁輪部には冠動脈、冠静脈、冠静脈洞、僧帽弁の根本などがあり十分焼灼しづらい傾向があり、そのため不整脈の発生につながる可能性があります。そこでこの部を十分に焼灼する方法を紹介されました。私個人は新田先生からこの方法を聴いていたため、自分の手術にすでに応用していますが、こうした研究、知見の積み重ねは大きな進歩につながると思いました。

そこで私、米田正始が巨大心房例に対する心房縮小メイズ手術のやり方をご紹介しました。2005年のアメリカ心臓病学会で発表してすでに6年、第一例目から7年以上たちますのでその間の細かい改良点を交えてお話ししました。普通では治せない心房細動たとえば巨大左房・右房や20-30年以上の心房細動などがかなり治るため、多くの良いご質問やコメントいただき、うれしく思いました。こんど使ってみたいとおっしゃる先生もおられ、ご協力を約束しました。

最後に日本医大の坂本俊一郎先生がガングリオンのアブレーションの方法を紹介されました。私も以前から検討していた方法ですが、メイズ手術のさらなる成績向上にぜひ使ってみたく思いました。

以上の内容で多数のエキスパートの先生方がご参加下さり、熱心なディスカッションが続き、お世話させて頂いたものとして心から嬉しく、感謝申し上げます。心臓血管外科の若い先生らがこれから張り切って仕事に打ち込める礎のひとつにもしなればうれしいことです。

来年は国立循環器病研究センターの小林順二郎先生にお世話いただくことになりました。最後になりましたが、多大なご支援とご指導を頂いた新田隆先生と日本医大の皆様、心臓血管外科学会長の重松宏先生、名古屋ハートセンターの北村英樹先生らに深謝申し上げます。

2011年2月23日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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人工弁感染性心内膜炎のガイドライン―患者さんを助けます

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PVE感染性心内膜炎(IE)の中でも人工弁に起こるそれ(略称PVE、右図)はふつうの感染性心内膜炎よりも重症で治りにくいです。

これは人工弁が異物であるため最近に対する抵抗力が弱いためです。

心不全や脳塞栓・脳梗塞などの懸念もあり、より強力な治療が求められます。

術式そのものが再手術と感染状態の手術という2つの問題を背負ってのものとなるため、その両方に慣れたチームで行うのが望まれます。

 

以下にアメリカACC学会とAHA学会の合同ガイドライン2014版をお示しします。

自然弁のIEと人工弁のそれを合わせた、幅広い状況に対応しやすい内容です。

 

2014AHA-ACC_GL IE

ここでクラスIとは手術すべきであるという意味で、

クラスIIaは手術が勧められる、

クラスIIbは手術しても良い場合がある、

という意味です。

 

なお以下にかつてのガイドラインをお示しします。ご参考にしてください

***********************

アメリカの心臓病の主要学会であるAHAとACCの人工弁感染性心内膜炎ガイドラインを引用します。邦訳はご参考までに著者が行いました。

4.6.2. Surgery for Prosthetic Valve Endocarditis

Class I
(著者註:有効性が証明済み)


1. Consultation with a cardiac surgeon is indicated for

patients with infective endocarditis of a prosthetic
valve. (Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎では心臓外科手術を考慮する

2. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with heart
failure. (Level of Evidence: B)
人工弁感染性心内膜炎で心不全があれば手術を考慮する

3. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with dehiscence
evidenced by cine fluoroscopy or echocardiography.
(Level of Evidence: B)
人工弁感染性心内膜炎で透視かエコーで弁が外れているケースではオペを考慮する

4. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with evidence
of increasing obstruction or worsening regurgitation.
(Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎の患者で狭窄や逆流が増えているときは手術を考慮する

5. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with com-
plications (e.g., abscess formation). (Level of Evidence:
C)
人工弁感染性心内膜炎の患者で膿瘍などの合併症を発症したケースでは手術を考慮する

Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)

1. Surgery is reasonable for patients with infective
endocarditis of a prosthetic valve who present with
evidence of persistent bacteremia or recurrent emboli
despite appropriate antibiotic treatment. (Level of
Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で正しく抗生物質を使っても菌血症や塞栓を繰りかえすときは外科手術が理にかなっている

2. Surgery is reasonable for patients with infective
endocarditis of a prosthetic valve who present with
relapsing infection. (Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で感染が再発するときには手術が理にかなっている

Class III (著者註:有用でなく有害)

Routine surgery is not indicated for patients with

uncomplicated infective endocarditis of a prosthetic
valve caused by first infection with a sensitive organism.
(Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で初めての感染で薬剤感受性があり、とくに合併症がないケースでは手術は適応とならない

また日本循環器学会のガイドラインもアメリカの学会と同様のポリシーで参考になります。もとのページ(17ページ)をご参照ください。以下、そこから引用します。

表33 感染性心内膜炎に対する手術の推奨

○人工弁の心内膜炎

クラスⅠ (著者註:有効性が証明済み)

1 PVE に関する心臓外科医へのコンサルト

2 心不全をともなうPVE
3 透視や超音波検査により弁輪からの人工弁離開が明
らかなPVE
4 弁狭窄や逆流が明らかに増悪しつつあるPVE
5 膿瘍などの合併症をともなうPVE

クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)


1 適切な抗生剤治療にもかかわらず,菌血症が遷延し

たり塞栓症を繰り返したりするPVE
2 再発したPVE

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)


1 感受性のある細菌による合併症のともなわない初回
PVE

 

 

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感染性心内膜炎(自然弁)の治療ガイドライン―手術が威力を発揮する時は?

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感染性心内膜炎IE(右図)は強い感染としての問題だけでなく、

 

それが弁などを壊して心不全にNatural IEなる問題や

 

疣贅がちぎれて飛んで脳塞栓・脳梗塞などになる問題などがあり、

 

しっかりした治療方針が大切です。

 

 

 

米国ACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

今回の改訂では自然弁と人工弁、その他デバイスを合わせた総括的な内容で、さまざまな要求に応えようという意欲的なものとして評価されそうです。

次にその概要をお示しします。

 

2014AHA-ACC_GL IE

もとの言語は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳にしました。

ここでクラスI は手術をすべきである、という意味です。

クラスIIaは手術が勧められる、

クラスIIbは手術をして良い場合がある、

クラスIIIは手術のメリットがないか、害が大きいという意味です。

 

以下に以前のガイドラインとその説明を掲載します。ご参考にしてください

***********************

アメリカの心臓病の主要学会であるAHAとACCの感染性心内膜炎ガイドラインを引用します。

邦訳はご参考までに著者が行いました。

 

ここでは自然弁つまり患者さん自身の弁の感染性心内膜炎IEを扱い、人工弁のIEは別のページに譲ります

4.6.1. Surgery for Native Valve Endocarditis

Class I (有効性が証明済み)

1. Surgery of the native valve is indicated in patients
with acute infective endocarditis who present with
valve stenosis or regurgitation resulting in heart
failure. (Level of Evidence: B)
急性心内膜炎で弁の狭窄や閉鎖不全のため心不全になった患者さんには手術が勧められる

2. Surgery of the native valve is indicated in patients with
acute infective endocarditis who present with AR or
MR with hemodynamic evidence of elevated LV enddiastolic
or left atrial pressures (e.g., premature closure
of MV with AR, rapid decelerating MR signal by
continuous-wave Doppler (v-wave cutoff sign), or moderate
or severe pulmonary hypertension). (Level of Evidence:
B)
急性感染性心内膜炎の患者さんで大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症を発症し、左室拡張末期圧や左房圧が上昇したケースでは手術が勧められる

(たとえばARのため僧帽弁が拡張期の間に早期閉鎖するとか、連続ドップラーでMRが急速に弱るときに)

3. Surgery of the native valve is indicated in patients
with infective endocarditis caused by fungal or other
highly resistant organisms. (Level of Evidence: B)
感染性心内膜炎が真菌(かび)や薬剤抵抗性細菌によって起こったものでは手術が勧められる

4. Surgery of the native valve is indicated in patients
with infective endocarditis complicated by
heart block, annular or aortic abscess, or destructive
penetrating lesions (e.g., sinus of Valsalva to
right atrium, right ventricle, or left atrium fistula;
mitral leaflet perforation with aortic valve endocarditis;
or infection in annulus fibrosa). (Level of
Evidence: B)

感染性心内膜炎で伝導ブロックや弁輪膿瘍、あるいは膿瘍の穿孔などがあれば手術が勧められる

(たとえばバルサルバ洞から右房へ破れたり、同様に右室や左房に破れたとき、あるいは大動脈弁の心内膜炎で僧帽弁葉に穴が開いたり繊維骨格に感染が及ぶとき)

 

Class IIa (有効である可能性が高い)

Surgery of the native valve is reasonable in patients
with infective endocarditis who present with recurrent
emboli and persistent vegetations despite appropriate
antibiotic therapy. (Level of Evidence: C)
感染性心内膜炎で抗生物質を使っているのに塞栓を繰り返したり疣贅が消えないケースで手術をするのは理にかなっている

Class IIb (有効性がそれほど確立されていない)

Surgery of the native valve may be considered in
patients with infective endocarditis who present with
mobile vegetations in excess of 10 mm with or
without emboli. (Level of Evidence: C)
 

感染性心内膜炎で動く疣贅の大きさが10mmを超えるときは塞栓の有無にかかわらず手術を考慮してよい

 

また日本循環器学会の感染性心内膜炎ガイドラインも大変参考になります。もとのページ(17ページ)をご参照ください。

以下、そこから引用します。

 

表33 感染性心内膜炎に対する手術の推奨 ○自己弁心内膜炎の場合

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)


1 自己弁の狭窄や逆流による心不全を伴ったacute IE

2 左室拡張末期圧や左房圧の上昇を伴うARやMRを
合併したacute IE

3 真菌や高度耐性菌によるIE

4 心ブロックや弁輪膿瘍,穿通性病変(Valsalva 洞と
右室や左房の穿通,大動脈弁感染による僧帽弁尖の
穿通など)を合併したIE


クラスⅡ a
(著者註:有効である可能性が高い)


1 適切な抗生剤治療にもかかわらず,塞栓症を繰り返

し疣贅が消失しないIE
 


クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)


1 可動性のある10mmを超える疣贅をともなうIE

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三尖弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―患者さんの救命に役立つことも

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米国のACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

その概要を以下に記載します。

的確な適応とタイミングで患者さんの予後がさらに改善することが期待されます。

2014AHA-ACC_GL TR

このガイドラインの原文は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳いたしました。

症状がある、高度のTRが手術適応になりやすいのはわかりやすいところですが、高度でないTRでも左心系弁手術のときに三尖弁輪拡張が著明ならやる意義があるというのを知らない方が多いようです。患者さんのためにこうしたことをガイドラインが明記したのは素晴らしいと思います。


なお以前のガイドラインと解説をご参考のため以下に示します

 

****** 以前のガイドライン ******

三尖弁閉鎖不全症(TR)は油断すると命にかかわる重い病気です。

そのため内外の主要学会でもガイドラインが作成され、三尖弁

手遅れのないように、また不要な手術や治療も避けられるように、

努力がなされています。

 

私たちはガイドラインやEBM(証拠にもとづく医学医療)を基準にして手術や治療にあたっています。

三尖弁閉鎖不全症については三尖弁輪形成術つまりリング(右図)をつけるだけでは治せないケースに対して

僧帽弁 RingTAP形成術で培った人工腱索の技術をもちいて三尖弁置換術を避けて

形成術を完遂することがあるため将来のガイドライン発展にも貢献できればと考えています。

 

以下にアメリカの心臓関係でのトップ学会であるAHAとACCの三尖弁閉鎖不全症などへのガイドラインを引用します。

正確を期するために原文と著者の邦訳を併記します。
(JACC Vol. 48, No. 3, 2006 Bonow et al. e71 August 1, 2006:e1–148)

 

Class I (著者註:有効性が証明済み)
Tricuspid valve repair is beneficial for severe TR in
patients with MV disease requiring MV surgery.
(Level of Evidence: B)
手術が必要な僧帽弁膜症をもつ患者で高度なTRをもつ方に三尖弁形成術は有用です

Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is reasonable
for severe primary TR when symptomatic.
(Level of Evidence: C)
症状ある高度TRに対して三尖弁形成術や三尖弁置換術は理にかなっています

2. Tricuspid valve replacement is reasonable for severe
TR secondary to diseased/abnormal tricuspid valve
leaflets not amenable to annuloplasty or repair. (Level
of Evidence: C)
三尖弁輪形成術で治せないような高度TRに対して三尖弁置換術は理にかなっています

Class IIb (著者註:有効性がそれほど確立されていない)

Tricuspid annuloplasty may be considered for less
than severe TR in patients undergoing MV surgery
when there is pulmonary hypertension or tricuspid
annular dilatation. (Level of Evidence: C)

僧帽弁手術を受ける患者さんで肺高血圧症や三尖弁輪拡張があるときは、TRが高度でなくても三尖弁輪形成術を考慮できることがあります

Class III (著者註:有用でなく有害になる恐れあり)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in asymptomatic patients with TR whose
pulmonary artery systolic pressure is less than 60 mm
Hg in the presence of a normal MV. (Level of
Evidence: C)
僧帽弁が正常で肺動脈の収縮期圧が60mmHg未満で、症状がないTRの患者さんには三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません

2. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in patients with mild primary TR. (Level of
Evidence: C)
軽度の原発性TRでは三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません


以下に日本循環器学会の三尖弁閉鎖不全症のガイドライン(2006年、合同研究班報告)を引用します。基本コンセプトは大変近いものと思います。元ページもご参照ください(第14ページです)。

表30 三尖弁閉鎖不全症に対する手術の推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)


1 高度TRで,僧帽弁との同時初回手術としての三尖

弁輪形成術

クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)


1 高度TRで,弁輪形成が不可能であり,三尖弁置換

術が必要な場合
2 感染性心内膜炎によるTRで,大きな疣贅,治療困
難な感染・右心不全をともなう場合
3 中等度TRで,弁輪拡大,肺高血圧,右心不全をと
もなう場合
4 中等度TRで,僧帽弁との同時再手術としての三尖
弁輪形成術

クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)


1 中等度TRで,弁輪形成が不可能であり三尖弁置換

術が必要な場合
2 軽度TRで,弁輪拡大,肺高血圧をともなう場合

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)


1 僧帽弁が正常で,肺高血圧も中等度(収縮期圧

60mmHg)以下の無症状のTR

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僧帽弁狭窄症の手術ガイドライン―今もよくある病気です、きちんと治しましょう

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アメリカのACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

より臨床現場の情報を取り入れたものになっています。

以下にそれをご紹介します。

2014AHA-ACC_GL MS

原文はもちろん英語ですが一般の方々にわかりづらいところには日本語訳をつけました。 192757079

僧帽弁狭窄症が重症になれば手術が勧められるのはこれまでどおりですが、あまりに危険性が高い場合たとえば全身の状態が悪いなどのときにはカテーテル治療も検討できるようになっています。内科と外科が協力するハートチームでは当然以前からやっていることですが。

このようにして手遅れも早すぎの治療も回避でき、たとえ手遅れになってから来院された患者さんにも生きるチャンスを最大限提供できるでしょう。


ここでクラスI (いち)とは手術や治療をすべきであるという Ilm09_ag04007-s意味で、

クラスIIa はそれを勧められる、

クラスIIb  はそれをやっても良い場合がある、

クラスIII  はやるメリットがないか、害があり得る

という意味です。

なお以下に以前のガイドラインを参考としてお示しします

 

****** 以前のガイドラインと解説 *****

症状が強い(軽い運動でも症状が出る)僧帽弁狭窄症の治療指針ガイドライン(アメリカACCとAHA学会、2006年)で、手術が勧められるのは

 

■狭窄が中等度かそれ以上(僧帽弁口面積が1.5cm2以下)で、弁の形態がカテーテル治療に適しておらず、開胸手術リスクが高くないとき

 

4valves

比較的軽い症状(強い運動で症状がでる)僧帽弁狭窄症で手術が勧められるのは

■僧帽弁口面積が1.5cm2以下で弁形態がカテーテル治療に適しておらず、肺動脈圧が60mmHgを超えるとき

 

などです。その他の状況でもカテーテル治療や慎重なフォロー(経過観察)が勧められています。

なお日本のガイドライン(日本循環器学会)はこちら (7ページ)をご参照ください。

コンセプトはよく似ています。以下同ページから引用します。

 

なお以下でOMCとは直視下僧帽弁交連切開術つまり心臓を止めて中へ入り、狭いところを形成して切り開き、弁が動きやすくする手術です。

またNYHA分類とは心不全の分類でIII度は軽い運動でも症状がでる、比較的重症で、IV度は安静時にも症状がでる、重症の状態です。

 

表15 僧帽弁狭窄症に対するOMCの推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 NYHA心機能分類Ⅲ ~ Ⅳ 度の中等度~ 高度MS

(MVA ≦1.5cm2)の患者で,弁形態が形成術に適しており,

(1)PTMC が実施できない施設の場合

(2) 抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場合

2 NYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の中等度~高度MS患者

で,弁に柔軟性がないか,あるいは弁が石灰化して
おり,OMC かMVR かを術中に決定する場合


クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)
1 NYHA心機能分類Ⅰ ~ Ⅱ 度の中等度~ 高度MS
(MVA ≦1.5cm2)の患者で,弁形態が形成術に適し
ており,

(1) PTMC が実施できない施設の場合

(2) 抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場

(3) 充分な抗凝固療法にもかかわらず塞栓症を繰り返
す場合

(4) 重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧50mmHg以上)
を合併する場合


クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)

1 ごく軽度のMS患者


つぎにMVRつまり僧帽弁置換術(人工弁をもちいて壊れた弁を取り換える手術です)のガイドラインを引用します。

またNYHA分類とは心不全の分類でIII度は軽い運動でも症状がでる、比較的重症で、IV度は安静時にも症状がでる、重症の状態です。

MVAは僧帽弁口面積の意味です。


表16 僧帽弁狭窄症に対するMVRの推奨


クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 NYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度で中等度~高度MSの患

者で,

PTMC またはOMC の適応と考えられない場合

2 NYHA心機能分類Ⅰ ~ Ⅱ 度で

高度MS(MVA ≦
1.0cm2)と重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧50mmHg
以上)を合併する患者で,

PTMC またはOMC の適応
と考えられない場合

注)MS の弁口面積からみた重症度(表3)を参照

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重症僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―症状が軽くても危険なことが?

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2014年にアメリカACCとAHA合同のガイドラインが改訂されました。

以下にその概略を記載します。

2014AHA-ACC_GL MR

原文は英語ですが、わかりづらいところは日本語に訳しました。

この新しいガイドラインにはいくつかの特徴、進歩がみられます。

たとえば一次性つまり僧帽弁そのものが壊 図 虚血性MRメカれているタイプと二次性つまり左室が壊れているタイプをより明確に分けて考えていること。

両者は見かけは似ていることもありますが、別の病気ですので当然のことですね。

ちなみに二次性は心筋梗塞の後とか、拡張型心筋症などに合併することが多いです。

右図は二次性僧帽弁閉鎖不全症の代表例である虚血性僧帽弁閉鎖不全症の特徴を示します。弁そのものではなく、左室の障害が原因なのです。

Ilm09_ag04004-sそして僧帽弁形成術をより重視する傾向にあり、病院間格差を考慮して弁形成がうまくできない施設では心臓手術をあまり勧めないという方針がより明確になったことも特徴です。

症状がなくても、これから心臓が悪化する場合、弁形成が確実にできる施設なら手術を勧めるという傾向が強まりました。

 

なお

クラスI(いち)とは手術すべき、という意味です。

クラスIIaは手術するのが良い、

クラスIIbは手術しても良いことがある、

クラスIII は手術のメリットがないか、害がある、

という意味です。

以下は参考までに過去のガイドラインです。

 

********過去のガイドラインから********

慢性重症僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン (アメリカACCとAHA学会、2006年)
にて、
手術がクラス I (有効性が証明ずみ)で勧められるのは、

 

■自覚症状があり左室形成術収縮能が保たれている(駆出率>30%、LVDs<=55mm)とき


■自覚症状はないが左室収縮機能が低下している(駆出率60%以下、

4valves

LVDs>=40mm)とき

 

さらに、クラス IIa (データ等から有効の可能性高い)として勧められるのは

■自覚症状はなく左室収縮機能も正常(駆出率>60%、LVDs<40mm)だが心房細動の新規発症や肺高血圧症があるとき


■上記で心房細動や肺高血圧症はないが、弁形成が可能なとき


■その他

(注釈:駆出率とは左室の中にある血液の何%を一回の拍動で送り出せるかという数です。LVDsは左室収縮末期の直径です。)

重症の僧帽弁閉鎖不全症では

時間とともに心臓が壊れて、

遅いタイミングの手術では心臓が完全には回復しないことや

手術そのもののリスクが上がることがその背景にあります。

 

なお日本の僧帽弁閉鎖不全症のガイドライン(日本循環器学会)はこちら (8ページ)をご参照ください。

基本コンセプトは極めて近いです。以下同ページから転載いたします

 

表17 僧帽弁閉鎖不全症に対する手術適応と手術法の推奨

クラスⅠ
(註:有効性が証明済み)

1 高度の急性MRによる症候性患者に対する手術

2 NYHA心機能分類Ⅱ度以上の症状を有する,高度な左室機能低下を伴わない慢性高度MRの患者に対する手術

3 軽度~中等度の左室機能低下を伴う慢性高度MRの無症候性患者に対する手術

4 手術を必要とする慢性の高度MRを有する患者の多数には,

弁置換術より弁形成術が推奨され,

患者は弁形成術の経験が豊富な施設へ紹介されるべきであること

クラスⅡa
(註:有効である可能性が高い)

1 左室機能低下が無く無症状の慢性高度MR患者において,MRを残すことなく90% 以上弁形成術が可能である場合の経験豊富な施設における弁形成術

2 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,心房細動が新たに出現した無症候性の患者に対する手術

3 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,肺高血圧症を伴う無症候性の患者に対する手術

4 高度の左室機能低下とNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の症状を有する,器質性の弁病変による慢性の高度MR患者で,弁形成術の可能性が高い場合の手術


クラスⅡb
(註:有効性がそれほど確立されていない)

1 心臓再同期療法(CRT)を含む適切な治療にもかかわらずNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度にとどまる,

高度の左室機能低下に続発した慢性の高度二次性MR患者に対する弁形成術

クラスⅢ
(註:有用でなく有害)

1 左室機能が保持された無症候性のMR患者で,弁形成術の可能性がかなり疑わしい場合の手術

2 軽度~中等度のMRを有する患者に対する単独僧帽弁手術

 

左室機能 (LVEF またはLVDs による)
        正常 :LVEF ≧ 60%,LVDs <40 mm
        軽度低下 :LVEF 50 ~ 60%,LVDs 40 ~ 50 mm
        中等度低下 :LVEF 30 ~ 50%,LVDs 50 ~ 55 mm
        高度低下 :LVEF < 30%,LVDs >55 mm
肺高血圧症
        収縮期肺動脈圧>50 mmHg(安静時)または> 60 mmHg(運動時)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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大動脈弁狭窄症の手術ガイドライン―危険な病気でも治せる病気ですから

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2014年にアメリカのACCとAHA学会のガイドラインが改訂されました。よりキメ細かく、進歩のあとがうかがえる内容です。

その概略を以下にお示しします。

2014AHA-ACC_GL AS

原文は英語ですが、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語に訳しました。

今回の改訂での特徴は次のようなところです。

まず症状がなく A309_078bても、エコーのデータや運動負荷試験結果が重症である場合ではクラスIIaで手術適応になったこと。

またエコーでそれほど重症でなくても症状があれば手術適応になりやすいこと、エコーデータが重症ではなく症状もないケースでも他の心臓手術の適応があれば大動脈弁もやって良いことになったことなどがあげられます。

さらに手術適応がないケースでも油断なく定期検診することが勧められたのも、安全上、好ましいガイドラインと思います。

そして近年のTAVIの発展を考慮して、外科手術とTAVIの両者を併せて考えることを明記してあるのも進歩です。

なおここでクラスIとは手術すべき状態で、クラスIIaは手術が勧められる状態、クラスIIbは手術しても良いことがある、クラスIIIは手術のメリットが無いか、有害であるかもしれない状態です。

ご参考までに過去のガイドラインの記事を以下にお示しします。


******* 過去のガイドライン記事 *****

アメリカの主要学会であるACCとAHAのガイドライン(2008年)でも重症の大動脈弁狭窄症(AS)では、以下のときに手術が勧められています。

重症大動脈弁狭窄 (最高大動脈弁口血流速度 Vmax 4m/s以上、弁口面積 AVA<1.0cm2、平均圧較差>40mmHg)で

■自覚症状あるとき、あるいは


■自覚症状が不明でも運動負荷試験で症状が出るとき、


■自覚症状がなくても左室駆出率が50%未満のとき、あるいは


■重症弁石灰化や急速な進行があるとき

 

などには、大動脈弁置換術(AVR)が勧められます。

それ以外の状況でも慎重なフォロー(経過観察)が勧められています

 

■また重症大動脈弁狭窄症でCABGあるいは他の心臓手術が必要なときにもAVRが勧められます

日本のガイドラインはこちらをご参照ください(12ページ)。

共通点が多いですが、

体格が日本人のほうが欧米人より小さいためAVAなどの基準より小さ目で、妥当と思います。

以下に引用します。

表26 大動脈弁狭窄症に対するAVRの推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 症状を伴う高度AS

2 CABG を行う患者で高度ASを伴うもの

3 大血管または弁膜症にて手術を行う患者で高度AS
を伴うもの

4 高度ASで左室機能がEF で50%以下の症例


クラスⅡ a
(著者註:有効である可能性が高い)

1 CABG,上行大動脈や弁膜症の手術を行う患者で中

等度ASを伴うもの


クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)

1 高度ASで無症状であるが,運動負荷に対し症状出

現や血圧低下をきたす症例

2 高度ASで無症状,年齢・石灰化・冠動脈病変の進
行が予測される場合,手術が症状の発現を遅らせる
と判断される場合

3 軽度なASを持ったCABG症例に対しては,弁の石
灰化が中等度から重度で進行が早い場合

4 無症状でかつ弁口面積<0.6cm2,平均大動脈-左
室圧格差>60mmHg,大動脈弁通過血流速度>
5.0m/sec

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)

1 上記のClassⅡa 及びⅡb に上げられている項目も

認めない無症状のASにおいて,突然死の予防目的
のAVR

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大動脈弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―症状が軽いのに状態悪化する場合も

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アメリカACCとAHA学会のガイドラインが2014年に改訂されました。

これまでよりさらに詳しく、臨床現場の実感に近いものになりました。

以下にそれをご紹介します。

2014AHA-ACC_GL AR

原本は英語ですが、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳にしました。

今回の改訂の特徴は以下のようなところでしょうか。

まずARを高度なものと高度ではなくても進行性のものにわけてわかりやすく論じています。

高度なARで症状があれば手術になるのは当然としても、症状がなくても左室が障害されている場合やリスクが高くない場合には心臓手術が適応になり得ることも示されました。

ARが進行性なら他の心臓手術と一緒にAVRすることもクラスIIaとして認められました。以前のガイドラインでは左室拡張末期径75mmまで手術適応にならなかったのはちょっと待ちすぎと思っていましたが、今回は65mmで検討対象となり現実に即した形になって来ています。

心エコーのより詳細なデータが重症度の判定に使われるようになったのもエコーの貢献が認められたものとして評価できるでしょう。

ここでクラスIは手術が必要、クラスIIaは手術する意義がある、クラスIIbは手術を考慮しても良いことがある、クラスIIIは手術にメリットがない、あるいは有害なことがある、という意味です。

なおご参考までに過去のガイドライン解説を以下に記載します。


******過去のガイドライン記事 ******


重症の大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療ガイドライン抜粋(アメリカACCとAHA学会2006)

手術(弁置換)が勧められるのは:

■自覚症状があるとき


■自覚症状がなくても運動負荷テストで症状がでるとき


■自覚症状がなくても左室駆出率が50%未満になったとき


■症状がなく駆出率が50%以上でも左室が大きいとき(LVDd>75mm、LVDs>55mm)

 

などの場合です。それ以外の状態でも慎重なフォロー(経過観察)が勧められています。

大動脈弁閉鎖不全症も突然死などの緊急事態が起こることがあります。

 

なお日本のガイドライン(日本循環器学会)はこちら(12ページ)にあります。

共通点が多いですがよりきめ細かくなっています。以下にそのガイドラインを引用します

なお大動脈弁閉鎖不全症の手術は比較的シンプルなものが多いため、

手術するほうが安全で長生きできることが多いのです。

 


表28 大動脈弁閉鎖不全症に対する手術の推奨


クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 胸痛や心不全症状のある患者(但し,LVEF >25%)

2 冠動脈疾患,上行大動脈疾患または他の弁膜症の手
術が必要な患者

3 感染性心内膜炎,大動脈解離,外傷などによる急性
AR

4 無症状あるいは症状が軽微の患者で左室機能障害
(LVEF 25 ~49%)があり,高度の左室拡大を示す


クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)

無症状あるいは症状が軽微の患者で

1 左室機能障害(LVEF 25 ~49%)があり,中等度の
左室拡大を示す

2 左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,高度の左
室拡大を示す

3 左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,定期的な
経過観察で進行的に,収縮機能の低下/中等度以上
の左室拡大/運動耐容能の低下を認める


クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)

1 左室機能正常(LVEF>50%)であるが,軽度以下

の左室拡大を示す

2 高度の左室機能障害(LVEF <25%)のある患者

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)

1 全く無症状で,かつ左室機能も正常で左室拡大も有

意でない

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Valve-in-Valve (バルブ・イン・バルブ)手術について―患者さんに朗報

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TAVI(経カテーテル的大動脈弁植込術) Valve-in-valve-paperの今後の発展的応用のひとつとして

valve-in-valve(バルブ・イン・バルブ)が検討されています。

心臓手術の新たな展開の一例です。

 

右図はそのシュミレーションを示します。

生体弁の中にTAVIがきれいに収まり、新たな生体弁として機能する形ができています。

 

この方法は以前の心臓手術で植え込まれた生体弁が何年もたって壊れてきたとき、

再手術の代わりにTAVIで折りたたんだ生体弁を古い生体弁の中でポンと広げ、

取り付けるのです。

これに Ilm18_ba03023-sよって生体弁がよみがえり、結果的に生体弁寿命が大きく伸びることになります。

 

またTAVIで取り付けがうまく行かないときに、もう一個のTAVIを追加して植え込み、

正常の弁機能が発揮できるようにするという使い方もvalve-in-valveの一例です。

 

ヨーロッパの報告では24例の生体弁が壊れた患者さんでvalve-in-valve(バルブ・イン・バルブ)のTAVIが行われ、

そのうち大動脈弁が10例、僧帽弁が7例、肺動脈弁が6例、三尖弁が1例ありました。

僧帽弁の一例を除き全例で手術は成功し、手術死亡はありませんでした。

脳卒中が1例、術後30日以内の死亡が1例あったそうです。

この治療前は88%の患者さんがNYHA III度またはIV度であったのが、

術後は88%がNYHA I度または II度に改善したそうです。

 

Sapienという弁を用いたTAVIの検討では、

463例の経大動脈TAVIの0.6%が、575例の経心尖部TAVIの3.3%が

この valve-in-valveだったと言います。

 

このようにvalve-in-valve法は生体弁の手術を受けられた

(あるいはこれから受けられる)患者さんたちに大きな朗報となるかもしれません。

これによって再手術が回避でき、

Orti046-s結果的に生体弁の寿命が2倍とか3倍に伸びる結果になり得るからです。

 

こうした新たなテクノロジー、方法をうまく組み合わせ、

駆使して長期間の安全性や高いQOL生活の質の維持ができれば素晴らしい治療になるでしょう。

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失神――ほうっておくと命にかかわることも【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月12日

.

失神は危険な症状です。

失神を起こす原因には

心臓、脳、腹部内蔵、その他さまざまな病気や状況が考えられ Ilm09_ad06001-s ます。

そのままでは命の危険があることも多く、

とくに以下の状況では直ちに病院へ直行してください。

意識が戻らず、様子がおかしいときには救急車で。

救急車とはこうしたときのためにあるのです。

 .

1.とくに危険なもの

意識を失う(失神発作)ときに周囲の方が見て

胸が痛い様子であれば、

心筋梗塞などの恐れがありただちに循環器科、救急科、心臓外科がある病院へ

 .

失神発作のとき、お腹が苦しそうであったならば、

胃腸や食道から多量に出血している恐れがあり

直ちに病院へ。消化器科、(腹部一般)外科、救急科などで。

 .

失神発作のとき、入浴や排便の最中であったり、

意識を失う前に嘔吐や強い頭痛があったようなら、

脳卒中の恐れがあります。けいれんがあることもあります。

直ちに病院へ。脳神経外科、神経内科、救急科など。

 .

意識を失うとき、けいれんを伴っていれば、てんかんの恐れがあります。

直ちに病院へ。神経内科、脳外科、救急科などで。

 .

失神発作のときに冷や汗や顔面蒼白などがあったり、

それまでに糖尿病でインシュリン注射や薬を飲んでいたら、

低血糖発作の恐れがあります。直ちに病院へ。

内分泌代謝内科、内科、救急科などで。

 .

意識を失う前に嘔吐や強い頭痛があり、

首筋の筋肉が硬く突っ張ったり高熱があれば、

髄膜炎や脳炎、脳膿瘍などの恐れがあります。

直ちに病院へ、神経内科、脳外科、救急科などで。

 .

激しい下痢や嘔吐のあとで意識がなくなるか薄れるなどのときは、

食中毒、赤痢、急性胃炎などの恐れがあります。

直ちに病院へ、内科や消化器内科、腹部一般外科、救急科などで。

 .

意識がなくなった方が、過去に頭部の外傷を受けたことがあれば、

脳外傷の後遺症の恐れがあります。直ちに病院へ、脳神経外科など。

 .

内蔵たとえば肝臓、腎臓、肺、膵臓の病気などの既往があれば、

それらの悪化の恐れがあります。直ちに病院へ、内科など。

 .

暑い季節や状況とか強い日差しの中で意識を失い、

顔色は悪く手足が冷たくなっているときは、熱中症の恐れがあります。

直ちに病院へ。救急科などで。

.

以上、さまざまな状況に応じて取るべき方針をお書きしました。 163

しかし、いざその時になりますと、動転し、頭の中が真っ白になるものです。

そういう「わけがわからない」状況のときには、救急車を呼んで、近くの救急病院へ行って下さい。

もしあれば救急救命センターなどのしっかりしたところが良いでしょう。

日頃からこういう場合はここ、というご自分の救急病院を持っておく、考えておくのが賢明です。

.

2.その次に危険なもの

以下の状況では1.の失神発作よりは多少の時間的余裕はありますが、

なるべく早めに病院へ行き、原因をつきとめるようにして下さい。

 .

意識の消失(失神発作)がごく短時間で、

40歳以上とか糖尿病などの持病がある場合は、

脳血管の狭窄(狭くなること)や不整脈(脈が極端に遅くなったり速くなるとき)、低血糖発作などの恐れがあります。

内科、循環器内科、神経内科、救急科などで。

 .

短時間の意識消失で40歳未満ならてんかんやヒステリーなどもあり得ます。

まず内科や神経内科へ。

 .

立ち上がったり長時間立っているときに意識を失い、

薬の服用後であれば、精神安定剤(トランキライザー)や高血圧のお薬(血管拡張剤、利尿薬、など)が原因のこともあります。

お薬を出している担当医にご相談を。

 .

上記で薬を飲んでいないときは、

貧血や起立性低血圧、動脈硬化などの恐れがあります。内科や循環器内科へ。

.

失神発作は危険な症状ですが、治せることが多いため、ぜひ早めの行動をお願いします。

.

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