事例 小児期の拡張型心筋症に対するセーブ手術

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患者さんは1歳半の男児。生後まもなく拡張型心筋症と診断され内科治療を受けていたが、心不全が悪化し移植も検討されるほどになりました。東京の方なので私どもが出張する形で心臓手術となりました。発作を頻繁に起こし危険な状態となっていました。心室中隔がほぼ全域にわたって薄くなり収縮力を落としていました。

41_31.左室前壁に病変がないため、

右室心尖部を開け、

心室中隔に達しました。

心室中隔は薄くペラペラで拡張していため、

これを切除しています。

 

 

                                              .
42_22.右室越しに心室中隔(矢印)を

切除し終えたところです。

                                             .

                                             .

                                            .

                                            .


43_23.心室中隔と左室自由壁に

セーブ手術( SAVE手術)のパッチの糸をかけています。

小さいこどもの患者さんのため完全房室ブロックにならない範囲でできるだけ心基部まで形成して左室機能の回復を図りました。

(完全ブロックになりますと永久ペースメーカーが必要になるためです)

44_24.パッチが左室内深くに入り、

左室は良い形とサイズになりました。

あとは心室中隔と右室を閉じるだけです。

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術後4年が経過しますが患児は元気にしておられます。

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45_35.術前エコー、収縮末期像。

心室中隔が薄くなり瘤のように飛び出して

右室を圧迫しています(矢印)。

これでは血圧も十分でませんし、

心不全が強くて危険です。

手術前の心不全発作の強さがよくわかる写真です。


 

46_36.セーブ手術・術後エコー、収縮末期像。

パッチ(矢印)を心室中隔の深いところまで縫いつけ、

心室中隔の動きのパタンも改善し、

右室への圧迫も軽減しました。

これなら元気に遊ぶようになったことが理解できます。

                                                         .

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 セーブ手術とバチスタ手術 (変法)の併用

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患者さんは54歳男性。10年前に心筋梗塞を発症し、以後虚血性心筋症・心不全の治療を内科にて受けていました。

その後心不全が進行し、ショック状態(つまり血圧が十分出ない状態です)となり IABP(大動脈内バルン)使用下に緊急搬送されました。極めて危険な状態でした。

冠動脈は前下降枝(#6)と回旋枝(#13)が完全閉塞していました。

左室の拡大(LVDd左室拡張末期径69mm)と機能低下(駆出率10%台)、虚血性僧帽弁閉鎖不全症 4度、TR 4度あり。

心室中隔は虚血性心筋症ですが、左室側壁病変は冠動脈走行と合致せず非虚血性変化の合併も考えられました。

 

311.体外循環・心拍動下に左室を調べました。

左室側壁が病変で薄くなり動かなくなっていたため、心尖部温存するバチスタ手術でまず左室側壁を切除・縮小しました。

心尖部(矢印)はきれいに温存されました。

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322.心室中隔の奥深いところから左室前壁までが昔の心筋梗塞でやられていたため、セーブ手術でパッチを用いて修復しています(矢印)。

パッチの奥(裏側)が新しい左室となります。

左室の形をゆがめないセーブ手術だからこそ、バチスタ手術との併用も問題なくできました。

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333.僧帽弁と左室基部を同時に形成するためにリングを僧帽弁輪に縫着(僧帽弁輪形成術MAP)します。

このケースでは柔軟なリングを使いました。

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344.冠動脈バイパスと三尖弁輪形成(TAP)を行って手術完成です。

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この方法をもっと低侵襲化(つまり患者さんの体への負担を軽くする)して、より多くの患者さんとくに全身状態の悪い方を救命すべく検討を続けています。

近々国内外の学会でも発表の予定です。

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355.術前の左室造影。

収縮末期像

(左室が血液を送り出し一番小さくなった瞬間の姿)

です。

左室は丸くなり、

僧帽弁閉鎖不全症MRのため左房が造影されています。

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366.バチスタ手術+セーブ手術、術後の左室造影、収縮末期像です。

左室は小さくかつかなり細長くなり、左室機能は改善しました。

僧帽弁も形・逆流量とも著明に改善しました。

術後5年以上経ってもお元気にしておられます。

強い心不全でも、左室形成術は有効なことが多々あり、あきらめてはいけないという見本のようなケースです。

 

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元・京都大学医学部教授
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事例 バチスタ手術 (変法) その2

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患者さんは69歳男性、労作時易疲労感のため来院されました。

冠動脈対角枝#9にPCIの既往あり。

左室駆出率LVEFが14%(正常値は60%台)、左室拡張末期径LVDdが63mm、と心移植患者さん並みの弱った心臓でした。

右冠動脈#1が100%つまり閉塞、回旋枝#13が50%の狭窄。虚血性心筋症の所見とそうでない所見を併せもった患者さんです。

 

21_21.体外循環下に左室を減圧すると病変部(左室側壁)は凹みます。

左側が患者さんの頭側となります。

総合判断でバチスタ手術 (変法)の適応と考えました。

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222.心尖部(写真の下方)を温存し、左室側壁を切開し始めているところです。

切開部はその内側が白く瘢痕化・繊維化しています。

これなら切開そのものの左室への負担はほとんどありません。

安心してしっかりと左室を再建しようというわけです。

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233.左室側壁の病気の部分(矢印)を切除しつつあります。

僧帽弁や乳頭筋を守りつつ進めます。

左室を縮小しても乳頭筋や左室構造をこわすと、デメリットがメリットを上回り、患者さんは元気になれないと考えられます。

自然に逆らわない、神に従う、これも手術の基本ポリシーとして重要と思います。

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244.左室を再建し始めています。

僧帽弁がすぐ近くに見えます(矢印)。

これに傷をつけないようにしながら新しい左室を造ります。

バチスタ手術 (変法)では左室心尖部が十分に温存されているのが見えます。

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255.左室の形や大きさを考えつつ切開部を縫合閉鎖し、再建が進んでいます。

より確実な止血を図るための工夫を加えています。

実際、左室縫合部からの出血に悩まされるというのは極めてまれです。

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266.僧帽弁輪(弁の付け根の部分、矢印)にリングを縫い付けて、弁を守り、かつ左室の機能を向上させるようにしています(文献をご参照下さい)。

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これらの工夫の組み合わせによりバチスタ手術の死亡率はゼロに近づきました。

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277.バチスタ手術(変法)前の左室です。

収縮末期像(左室が収縮して一番小さくなった瞬間の姿)です。

心不全の左室は拡張し丸くなりがちです。

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288.バチスタ手術(変法)後の左室です。同じ収縮末期の瞬間で比較しています。

術前より心臓が自然な細長にもどり心尖部(A)もきれいです。僧帽弁輪(M)もテント化(テザリング tethering)が取れて良くなりました。

心エコーでも左室駆出率は術前14%から術後36%に改善、左室拡張末期径も63mmから47mmまで縮小しました。

これなら毎日の生活はもちろん、仕事や楽しみもかなりの程度までできます。後はその改善なった心臓の力をさまざまな工夫でしっかりと守ることが重要です。それは外来で定期健診しながら生活やお薬によって行います。

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事例 バチスタ手術 (変法、心尖部温存式 バチスタ手術)

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患者さんは40歳男性、拡張型心筋症のため 5年前から心不全症状あり、他院で入退院を繰り返しておられました。

このような状態で生きるのはいやだと、心臓手術を決心されました。

 

入院時NYHA III度、左室拡張末期径LVDd 87mm、左室駆出率LVEF 9%、左室拡張末期い圧LVEDP 32mmHgと、高度に拡張し、機能低下した左室の状態でした。

海外なら心移植しても不思議ではない心臓です。

 

111.体外循環で心拍動の状態で、

心尖部(矢印)を温存し、左室側壁を切開し始めているところです。

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122.左室側壁の病気の部分をほぼ切除しつつあります。

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心拍動したままです。

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133.僧帽弁の閉鎖不全症を予防するために前尖と後尖をつなぎアルフィエリ形成をします。

現在はこの操作は概ね不要になっています。

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144.左室を再建(縫合閉鎖)しているところです。この間、心拍動した状態を維持して心臓を守りました。

バチスタ手術 (変法)では、新しい左室の形が紡錘形で自然に近く、力のかかり方に無理がありません。

患者さんは術後5年経過し、お元気です。

 

アメリカではバチスタ手術の成績が不安定で、保険が効かなくなり、すたれてしまいました。

私たちはその成績不安定の原因を、これまで多くの施設で左室心尖部を切除したりしなかったり、あまり注意を払ってこなかったことにあると考え、心筋症の動物で研究した結果、心尖部を温存すればバチスタ手術の成績は改善することを示しました。

ヨーロッパなどで賛同する心臓外科医が増えており、その成績のよさから、バチスタ変法(心尖部を温存するバチスタ手術)は今後リバイバルし、多くの患者さんを助けるものと期待しています。

さらに術式や治療の方法を改善すべく努力を続けています。

またこうした左室形成術が患者さんに役立っていることを重症心不全研究会を立ち上げて全国の仲間とともに啓蒙活動しています。


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事例 ベントール手術

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1011.弁の逸脱と破壊、基部の拡張が認められます。

 

弁の破壊が強いときは、それを修復・形成しても長持ちするという根拠が不十分なため、ベントール手術の適応と判断しました。

この患者さんのように弁の破壊が強い場合、50歳代の年齢であれば機械弁ベントール、

65歳以上の患者さんであれば生体弁ベントールまたはステントレス生体弁をもちいたミニルート法(入れ子の形で弁を入れる、インクルージョンとも呼びます)が患者さんにとって長期予後の観点から有利と考えます。

 

10代20代などとくに若い患者さんの場合は

性別、妊娠希望の有無、激しいスポーツや職業の有無などを勘案して、上記や基部再建(デービッド手術、他)などの方法を十分な相談の上、選ぶのが良いと考えます

 

1022.弁付き人工血管を大動脈基部に縫い付け、左冠動脈入口部吻合中です。

自然な形(根本に膨らみをもつ)のバルサルバ人工血管を使用するようにしています。

従来のまっすぐなタイプの人工血管よりもむしろ吻合しやすく、冠動脈口に人工血管のほうから近づくことができる分だけ吻合部が守られやすく良い選択と考えています。

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10313.右冠動脈入口部吻合中。

かつては冠動脈のみ別の小さい人工血管で再建してから大動脈基部の大きな人工血管と連結するキャブロール手術を行ったこともありますが、

冠動脈への血栓が報告されてからこの方法はできる限り使わないようにしています。

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1044.出来上がり。

より自然な形のバルサルバ洞をもつこの人工血管が長期的にどのような利点をもたらすか、

今後が期待されています。


さらに近年はこうした手術が私たちの施設ではミックス法で行えるようになりました。これなら創が見えにくく、夏服などのおしゃれもしやすいため喜ばれています。

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事例 ステントレス弁によるミニルート手術

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患者さんは65歳女性。

大動脈弁閉鎖不全症 III度、大動脈弁輪拡張症AAE、低左心機能(左室駆出率30%(正常は約60%)、冠動脈ステント治療後)、上行大動脈瘤・近位弓部大動脈瘤のため手術となりました。

このままでは瘤が破れて死亡するか、心不全で危険な状態になるからです。

 

ベントール手術(入れ子のように植え込むミニルート法で)、近位弓部大動脈置換(ヘミアーチ置換) ・上行大動脈置換・冠動脈バイパス手術CABGなどを施行しました。

 

9111.上行大動脈を切開し内部を見ているところです。

大動脈基部が高度に拡張しています。

大動脈弁が硬く厚く、自己弁を温存するDavid手術(デービッド手術)はやらないことにしました。

 

人工弁の選択については、65歳という年齢から生体弁が適切と判断しました。

ただし遠い将来、再手術となる可能性はあるため、その時に癒着を減らし安全性を高めるため、同じベントール型手術でも内側に入れるミニルート法を選択しました。

 

92_22.ステントレス弁を大動脈基部に内側から縫い付けているところ。

人工弁の自然な形がわかります。

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Lco_23.左冠動脈入口部吻合中。

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通常のベントール手術よりはやや狭い術野で操作するため相応の工夫をします。

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Rco_24.右冠動脈入口部吻合中。

ステントレス弁が入れ子のように大動脈基部の中に入っているのがわかります

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945.リベット打ちと呼んでいるステントレス弁の補強操作。

これで万一の破裂を防ぎます。

 

 

ステントレス弁を用いたベントール手術、

いわゆるフルルート法の弱点をこのようにして補います。

.

Photo6.遠位部の人工血管との吻合。

 

すでに行った近位弓部大動脈置換術の人工血管と大動脈基部のステントレス弁および大動脈基部をまとめて連結・吻合します。

 

癒着防止の観点からは大動脈基部の手術をしない場合と同様に、癒着が起こりにくい状態です。

これは将来のもしもの再手術の場合に、安全確保のために役立ちます。

こうした長期的安全策もまた患者さんを守るために大切と考えます。

 

957.術前の大動脈造影。

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大動脈基部の著明な拡張と

大動脈弁閉鎖不全が見られます。

..

.968.術後の大動脈造影。

大動脈基部から弓部大動脈にかけて良い形にもどりました。

大動脈弁(ステントレス弁)もきれいです。

3年半経過しお元気に暮らしておられます。

ワーファリンはもちろん不要で、外来も毎月通う必要がありません。またステントレス生体弁も15年以上は持つ可能性がデータから示唆されており、その間のQOL(生活の質)の高さとあわせて、やさしい治療と考えます。

近年はこの手術も創が小さいミックス法でできるようになりました。若い患者さんや創やおしゃれにこだわりのある前向きな方々にもお役に立てるでしょう。


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事例 大動脈弁形成術

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患者さんは17歳男性。

大動脈弁閉鎖不全症 III-IV度、二尖弁です。

患者さんの年齢や希望を考慮して大動脈弁形成術を施行しました。

8年後も健康な日常生活を送っています。

 

81_21.III度以上の大動脈弁閉鎖不全症が認められます。

高校生で機械弁の大動脈弁置換術AVRは毎月病院通いとなるのはかわいそうですし、

生体弁は成長期でカルシウムの代謝が盛んなため長持ちしません。

 

ロス手術では肺動脈弁のホモグラフトが日本では入手困難という問題と長期成績に疑問のデータもあるため選択肢からはずしました。

大動脈弁形成手術がこの患者さんに最も適切な術式との判断に至りました。

 

822.大動脈弁尖の余剰部分を形成するため評価とデザインをしているところです。

弁の形を直すことは難しくないのですが、それが長持ちするように、耐久性のあるものにすることは、必ずしも簡単ではありません。

組織そのものが弱い、あるいは病気で壊れていることがしばしばあり、肉眼では見えないレベルの病変も少なくないからです。

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83_33.交連部の形成中です。

この患者では交連部に小穴があいていたため、

弁中央部ではなく交連部で形成し、

穴の部分を補強しました。

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..

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844.問題にならない程度の軽微な逆流のみ残し大動脈弁形成は完了しました。

もうすぐ術後10年になり、この大動脈弁形成術は患者さんに役立ったと言えるかもしれません。

青春時代をワーファリンなしで行けるというのは様々な点で患者さんに大きなメリットがあります。

 

現在ゴアテックス糸を用いた弁の形成・補強や自己心膜・ゴアテックスをもちいた弁の補充その他の工夫が報告されています。

まだ僧帽弁形成術ほどの完成度には至っていませんが、わたしたちも海外の仲間たちの経験と私たちのこれまでの大動脈弁形成術のデータを突き合わせ、より安定度の良い自己心膜による弁形成術を進めています。


それと並行して、ポートアクセス法(創が小さく仕事復帰も早いです)をもちいて大動脈弁形成術や大動脈弁置換術を行うことも推進しています。患者さんはご自身の仕事や生活にもっとも適したものを選べるわけです。

今後さらなる進展が望まれる領域です。

 

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事例 心房縮小メイズ手術

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心房縮小メイズ手術では通常のメイズ手術では治りづらい難治性心房細動の除細動に効果的です。

 

拡張した左房(左心房)を肺静脈を除外するラインで折り畳んで縮小します。

その折りたたみ線を冷凍凝固し、折り畳んだ左房を電気信号が行かないようにします。

折りたたむため、出血はほとんどなく、時間的にも短時間でできます。

折りたたんだ縫合線で冷凍凝固するため、折りたたまれた左房壁は電気信号が流れなくなり、切除したのと同じ姿になります。

しかしあくまでも折りたたみですから後出血もほとんどありません。

 

71_2

写真左:手術前。左房が高度に拡張しています。   

写真右:手術後。左房は小さくなりリズムも正常になりました。

一般に行われているメイズ手術とくに高価な器械を使う方法ではこうした患者さんの不整脈を治すことは難しいですが、EBMにもとづいて開発した心房縮小メイズ手術では治せる可能性が高いです。

 

さらに現在はポートアクセス法などのMICSつまり小さい皮膚切開で行う患者さんにやさしい手術で、この心房縮小メイズは可能です。

カテーテルによるアブレーション治療法が進歩しても、こうした巨大左房の患者さんにはやはり外科手術が必要なのです。まして僧帽弁形成術などが必要な僧帽弁閉鎖不全症にもとづく心房細動ではいっそう外科がお役に立つのです。もちろんハートチームとして内科の先生方と協力しての仕事であるのは言うまでもありません。

こうして心房細動の手術もさらに進化を続けています。

 

メモ: 巨大左房というだけでも長期的に予後が悪くなるという報告が多く、この点でもこの手 術法は患者さんに役立つものと考えています。

学会などで国内外の腕利きの先生方とよくディスカッションし、これから使いたいと言って下さる方が増えてきました。

とくにアメリカや中国など海外の先生でそういう仲間が増えたのはうれしいことです。

 

註: EBM: 証拠にもとづく医学。この場合は心房細動は心房サイズが大きいと治りにくいというデータが多数発表されていることを示します。

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事例 心筋梗塞で乳頭筋断裂した僧帽弁閉鎖不全症への弁置換術

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患者さんは60歳女性。

急性心筋梗塞後、乳頭筋断裂による虚血性僧帽弁閉鎖不全症を発症しました。


たまたま大動脈弁閉鎖不全症もあり、心臓と全身の状態を考慮し、ワントライで確実に完成する2弁置換を僧帽弁大動脈弁に施行しました。

術後元気に回復されました。

 

611.体外循環下に心臓を止め、左房を右側切開して僧帽弁を見ているところです。

断裂した乳頭筋先端以外は温存されています。乳頭筋の一部が見えます。

この乳頭筋温存により術後の左室機能は良好に保たれます。

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62_22.切除した僧帽弁と乳頭筋です。

乳頭筋のかなりの部分が心筋梗塞のためちぎれています。

最近増加している虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは心筋梗塞後という意味では似ていますが、乳頭筋そのものが物理的に破壊されているという意味では少し違います。

そこで手術で治すポイントも違ってきます。.

 

 

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633.人工弁(機械弁)の縫着途中です。

手術前、急に発生した逆流のため左房が小さく、視野が悪いためさまざまな工夫を行います。

状態に余裕があれば僧帽弁形成術を行いたいところですが、

他弁の疾患があり機械弁がもともと必要であったこと、さらに患者さんの安全上、一撃離脱が必要な状況のときにはこのように人工弁使用を決断しています。

この患者さんもそうした判断でまもなくすっかりお元気になられました。

 

弁形成手術と弁置換手術のEBMで盲点になっているのは、弁形成で長時間ねばったあとでそれがうまくいかず、そのあと弁置換して、結果が悪い場合、それは弁置換のせいにされる場合が多々あることです。

患者さんの真の安全性を考えるとき、こうしたことも検討する必要があります。

この手術事例は5年以上前のことですので、今なら蓄積したノウハウを活かして弁形成を考慮するかもしれません。

ただし同時に患者さんの体力と心臓の力を考えて確実に短時間で完了するという方針が揺るがないようにすることが患者さんの真の安全のために必要でしょう。

 

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どんな場合に僧帽弁置換術を?のページにもどる

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事例 腱索「転移」(トランスロケーション)術

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患者さんは46歳男性。

虚血性心筋症同・僧帽弁閉鎖不全症・慢性心房細動に対して腱索「転移」術・左室形成術 Dor手術、心房縮小メイズ手術などを施行。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は弁そのものの疾患ではなく左室の疾患です。

左室が心筋梗塞のため変形し拡張した結果、僧帽弁が異常に引っ張られ、うまく閉じなくなった状態だからです。


このため単に弁を治すだけでは本質的な治療になりません。

可能な限り左室そのものを治すことが理想的です。

しかし左室を治し切れない状態のときに僧帽弁そのものを治す方法が必要です。

腱索「転移」法はそのために開発した方法で僧帽弁形成術のひとつです。

 

51_31.僧帽弁前尖が二次腱索に引かれて閉じなくなっています。

これをテザーリングtetheringまたはテンティングtentingと呼び、安定した弁形成術にはこれを解決することが大切です。

手術ではまず二次腱索を切断し、ついで二次腱索と同じ力のかかり方を人工腱索にて再建します。

つまり各乳頭筋の先端と僧帽弁輪前正中部をつなぎます。

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2.腱索転移により前尖は自由に動けるようになりテザーリングは解消(A)、

52_2しかも乳頭筋と弁輪の連続性は人工腱索によって保たれて心臓の力は守られています(B)

左室壁と僧帽輪が乳頭筋を介してつながっていることは左室のパワー効率を保つために重要です。

これはスタンフォード大学のCraig Miller先生やパリのCarpentier先生らが二次腱索の重要性を説いて来られた内容を考慮してのことです。

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しかもこの方法で乳頭筋が自然と同様に前方に引かれるため、最近問題になっている後尖のテザリングはかなり解消しています。

この方法が生理的と言われる所以です。私たちが開発した新術式を権威あるJTCVS誌が表紙に掲載して下さいました


さらに単に二次腱索を引くだけの方法よりも拡張期テザーリングが起こりにくく、引きすぎが予防できるため拡張機能も守られやすいと考えています

この方法は光栄なことにアメリカのトップジャーナルの表紙にも掲載して頂きました(写真右)

日本国内でも和歌山日赤医療センターの青田先生はじめ、いくつかの有力施設で活用いただき、光栄に思っています。

 

現在はこれをさらに改良した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization法)によって、前尖のテント化はほぼ解決、後尖のテント化も効果的に取れるようになりました。

2011年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁部門であるMitral Conclave 2011にて発表いたしました。

川崎医大循環器j内科の吉田清先生らとの共同研究です。多くのご質問やご意見をいただき、うれしく思っています。


テント化がきれいに取れれば、弁形成の効果は長持ちします。患者さんにとっての恩恵は大きいでしょう。

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