お便り71 ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

Pocket

 

大動脈二尖弁は先天性心疾患であるためこどもの時期から弁膜症で苦しむ患者さんは少なくありません。

患者さんは15歳の高校生で、弁の逆流が強くなり、これまで元気に活動しておられたのが最近心不全の症状が出てきたため相談をお受けしました。

Ilm23_he01001-s九州の地元では患者さんのニーズにあった手術ができないということで遠方からお越し下さいました。

このままで行けば近い将来、人工弁による弁置換になることが確実となったため、弁形成か自己心膜での弁再建を考えるようになりました。

さすがに私たちはこうした弁膜症の治療にちからを入れて来たため、選択肢もいつくかあり、ご本人・ご家族と時間をかけて検討しました。

その結果、これからの学校生活や将来の妊娠出産などを考慮し、極力弁形成で行こう、それならまだ弁があまり壊れていないうちが良いということで、ガイドラインでもすでに手術推薦のレベルにあることもあって、この時期に弁形成を行うことになりました。

手術で弁はやや硬く短縮もしていましたが、弁形成で細かい調整を行い、きれいなかみ合わせを取り戻すことができ、逆流は消失しました。大動脈二尖弁の場合、上行大動脈が弱いためこれを補強し、将来のカテーテル弁(TAVI)にも対応できるような工夫を合わせ行いました。そうすれば将来の再手術をかなり先延ばしにできるからです。

ミックス法で創もかなり小さく、夏服でもほとんど見えないレベルに抑えることができました。

術後経過は良好でまもなく元気に退院されました。

外来で笑顔を見せていただき、本当によく決断し、健康を勝ち取って下さったと、頭が下がります。15歳でもこれだけの熟考と決断をしてくれたことに感動を覚えます。またそれを落ち着いてご支援くださったご両親さまにも頭が下がります。

以下のお手紙はその患者さんのお母様からの感謝状です。

*************お便り**************

 この度は、米田先生はじめ、深谷先生、北村先生、看護師の皆様方には大変お世話になりました。

お便り71 お陰さまで、現在、娘は弁形成の手術が成功したことにより、体調もよく元気に高校に通学しています。

 2012年1月31日、当時15歳だった娘は発熱のため近所の循環器内科クリニックで受診をしました。心臓に聴診器を当てていた医師から、「心疾患の際に生じる雑音がします。」との 指摘を受け、その場でレントゲン、心エコー等複数の検査を受けました。

 「大動脈弁閉鎖不全症・先天性の大動脈二尖弁」との告知を受け、「将来的には手術が必要になるでしょう。」と言われました。

 今まで、学校の行事である体育祭やマラソン大会にも参加して、何の問題もなく日常生活を送ってきましたので、本人、親共々、衝撃を受け今後どうするべきか不安になりました。

 「親として、娘に何をしてあげられるのか?」と自分の心に問いかけた時に、「先進医療機関で名医に診てもらいたい。」という答えが返ってきました。

 二尖弁の治療方法や、受け入れてくれる病院をインターネットで検索していくうちに、「名古屋ハートセンター」という心臓の専門病院があることが分かりました。

こちらの病院では、一般の病院ではあまり行っていない手術や治療を受けることができ、ゴットハンドを持つ心臓血管外科医、米田先生に診てもらえる可能性がある、ということも分かりました。
 早速メールで米田先生に娘のことを相談させて頂いたところ、今後の治療方法や注意するべき点などの回答を頂き、「よろしければ私の外来にお越しください。」とのお返事を頂いた時には、主人と二人で大喜びしました。

 

 初診の予定を3月30日に入れてもらい、大分県から親子3人で名古屋に向かいました。検査終了後、米田先生よりお話がありました。

 現在の大動脈弁の状態は、血液のかなりの量が心臓へ逆流の形で戻ってきており、既に4段階中の3段階まで進行していること。娘が将来、妊娠・出産ができるように弁形成手術が望ましく、今であれば弁形成手術が可能であること等を、懇切丁寧に説明してくださいました。

の時点で私共は、この先生なら信頼できる、安心してお願いすることができると確信しました。
 6月14日に2度目の検査を受け、手術日は高校が夏休みに入った8月2日に行うことになりました。創のことも考慮してくださり、MICS手術で執刀してもらいました。

 手術後の回復も順調で、術後僅か11日で退院することができました。
 入院前も退院後も、不安なことや分からないことがあれば米田先生にメールで相談させて頂いていますが、時間を空けずに返事が返ってくることに驚いています。

ご多忙の上、毎日全国の患者さんや医療関係の方から膨大な数のメールが届くと思うのですが、先生の睡眠時間は足りているのだろうかと、こちらが心配になるくらいです。
 私共の、内容不足の質問にも決して否定することなく、素人にも分かり易く親身になって答えてくださいます。

この<否定されない>ということが患者側にとって、どれほど精神的に安定することができ、救われていることか…本当にありがとうございます。

 娘が心疾患を持って生まれてきたことは不運でしたが、すぐれた技術とすぐれた人格をお持ちの米田先生に出会えたことは幸運でした。

 今後とも宜しくお願い致します。

****

**********************

その後、心臓手術から5ヶ月ちかく経って、年末にまたメールを頂きました。

お元気で楽しく暮らしておられるご様子、何よりと思いました。

*******その後のお便り********

米田 正始  様
 

暮れもおしせまり今年も残りわずかとなってしまいましたが、米田先生には大変お世話になりました。
 

お陰さまで娘の体調も良好で、今日は元気に大掃除のお手伝いをしていました。
 

大学生の息子も帰省して、家族揃って笑顔で新しい年を迎える準備が出来ること、本当に感謝しております。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

****

 

患者さんからのお便りのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り70 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

Pocket

 

自己心膜をもちいた大動脈弁形成術あるいは再建術は最近世界の注目を集めています。

Ilm23_cd01001-s大動脈弁の弁尖つまりひらひらと開閉する部分を自己組織で取り換えるため、厳密には弁形成というよりは弁置換との中間型と考えることもできます。そこで私たちは誤解を避けるため、大動脈弁再建術と呼ぶことが多いです。

ともあれ、この方法は大動脈の根っこの部分に直接自己心膜を縫い付けるため、自然の弁に近い性質をもっています。そのため弁尖の動き方に無理がなく、縫い代の無駄がほぼゼロのためサイズが人工弁よりかなり大きくなり、長持ちしやすい構造です。

将来のTAVI(カテーテル弁)にもいっそう対応しやすく、再手術もそれだけ減らせるという期待が持てます。

以下の患者さんはこの自己心膜による大動脈弁形成術(再建術)をもとめて埼玉県からお越し下さいました。

遠方から来たかいがあったと言って頂けるよう、しっかりと頑張りました。もとは二尖弁というひろひら部分が2枚でしたが、手術後はきれいな3枚になりました。そして良い結果でよろこんで戴けてうれしい限りです。

ミックス法で創も小さ目にできました。こころの創があまりつかないようにしました。

その患者さんからのお便りです。

*********患者さんからのお便り*********

 

米田先生様

この度、17日に退院しました**です。
米田先生、北村先生、深谷先生、看護師のみなさんには
大変お世話になりました。

お便り70自分の病気が発見された時は頭の中が真っ白で脱力感で
何も考える事が出来ませんでした。時間が過ぎていく中
不安や恐怖感がでてきて男ながら涙がでる日々がありました。

そんな日々色々と病気の事を調べていく中、米田先生のサイトを
見つけ読んでいくにつれて米田先生にお願いしたいという気持ちが
でできました。

そして、すぐにメールしたら何時間後には返信がきて翌日には
検診日を決めて埼玉から名古屋までかなり遠かったですが
米田先生にお会いでき色々とお話して「米田先生に手術をお願い
しよう」と思いました。

そして入院日、手術日を決めていく中なんと手術日が子どもの
誕生日に決まりまたまたそこで涙が溢れてきました。

いよいよ手術当日も不安や恐怖感でいっぱいの中看護師の方、
北村先生が盛り上げてくれた事感謝の気持ちでした。

術後も看護師さんには大変お世話になりありがとうございました。

本当に先生方、看護師の方には感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。

 

埼玉県在住

*****

 

********上記のメールをこのHPに掲載する許可依頼をしたところ下記のコメントを頂きました********

 

米田先生様

こちらこそ少しでもお役になれば喜んで掲載していただければ
と思います。

他の患者さんへ

自分は大動脈逆流症と地元のお医者さんに言われた時は
頭の中が真っ白になり何も考えられませんでした。

時間がすぎていくにつれて「何で自分なんだ」と思って涙を流しながら日々を
過ごしてきました。

毎日毎日不安や恐怖感でいっぱいでした。

でも、名古屋ハートセンターの米田先生と出会い「弁形成が出来るんだ」
という期待の気持ちを思い手術する決意を決めました。

 
自分自身が諦めずにインターネットや本とかで調べていけば
納得出来る病院、先生が必ず見つかると思います。

 

患者さんからのお便りのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合 わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

Mitral Conclave(僧帽弁形成術の国際シンポ)に参加して

Pocket

2012-09-15 20.04.17bこの9月15-16日と、軽井沢の万平ホテルという伝統と趣のある場所で行われたMitral ConclaveにFacultyとして参加して参りました。会長は慶応大学の四津良平先生で、昨年のアメリカ胸部外科学会AATSでのそれの日本版という予想でしたが、国際シンポジウムの名にふさわしい立派なものでした。

実際心臓外科関係ではニューヨークのAdams先生とAnyanwu先生、タイのTaweesak Chotivatanapong先生、Weerachai Nawarawong先生、Chaiyaroj先生、ベトナムのPhan Nguyen Van先生、シンガポールのCN Lee先生、循環器内科ではRandy Martin先生はじめ、おなじみの有名人がFacultyとして名を連ね、これまでの交流や理解が深められる素晴らしい場となりました。個人的にはどこか弁膜症愛好会の同窓会のような雰囲気でした。

このシンポに先立って、朝からステントレス僧帽弁(Normoノルモ弁)の特別セッションがありました。ウェットラボで実技指導を頂いて、これからの臨床応用と認定施設決定に役立てるための重要な会とあって、執刀医レベルの先生が集まり賑やかでした。私も名古屋ハートセンターでこのステントレス僧帽弁を始めるための施設認定のための準備として参加させて頂きました。2012-09-15 17.21.39b

開発者の加瀬川先生、そしてその仲間である榊原記念病院の高梨先生や田端先生らを始め多数の同好の士がわいわいと賑やかに手術を行いました。もちろん動物の心臓をもちいてのシュミレーションですが、細部にわたるコツや落とし穴がわかり、有意義でした。

私はたまたまご縁あって、大阪市立総合医療センターの実力派・柴田先生とペアを組んで一例執刀させていただきました。心臓手術自体も有意義でしたが、それ以上に柴田先生や加瀬川先生らとのDiscussionが面白く、あっという間に3時間が過ぎました。できあがりは一応合格点で、こうした練習や研究を積んで十分自家薬籠中のものとしてから患者さんに使うというのは大変良いことと思いました。

15日正午からMitral Conclaveが始まりました。

興味深い発表とDiscussionの連続でした。若い先生らには得難い勉強と刺激の場になったものと思います。上記の先生方が前向きに楽しい議論をしてくれるため、退屈することのないセッションが続きました。

私に与えられた仕事は午後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでの司会と講演でした。司会は畏友・神戸大学大北先生と一緒にやらせていただきました。

北海道大学の松居先生が乳頭筋を束ねて前方に吊り上げる術式が後方に吊り上げるよりずっと良いことを示され、東京医科歯科大学の荒井先生が乳頭筋の単独吊り上げが後方より前方が有効であることを発表されました。

前方吊り上げの効用をこの10年近く主張してきた私にとって、大変うれしいことでした。どういう術式が良いかは患者さんが教えてくれる、このことを心の支えに頑張ってきた甲斐があったと思いました。

私・米田正始は川崎医大の吉田教授らと共同研究してきた乳頭筋ヘッド最適化(略称PHO, Papillary Head Optimization)の術式を発表しました。多くの質問をいただき、これほど関心をもっていただいてうれしいことでした。大御所のAdams先生はじめ、上記の先生方がぜひ君の術式を使いたいと言って下さり、これまでの楽しい苦労が一層楽しいものになったような気がします。

外来でこのPHO術後の患者さんとよくお会いしますが、手術前の状態とくらべて大変お元気なお姿にジーンときます。一緒に苦労してくれてありがとう、今の健康はあなたが頑張って勝ち取ったものだよと言いたくなります。逆に患者さんのほうからたくさん御礼を述べていただき、一層ジーンときます。

このセッションではニューヨークのAnyanwu先生が新しいLVAS補助循環の活用も話されました。超重症で手術に耐える体力がない方や、心臓の余力があまりにも少ない患者さんたちにはLVASが役立つというのはこれまでも知っていたことですが、僧帽弁置換術後の左室破裂という稀でも恐ろしい合併症にLVASが大変有効であるというのはなるほどと膝をたたくインパクトがありました。これからはこうした超重症といいますか、どうにもならない患者さんにも救いの手が伸びるという実感を得られたことは大収穫でした。

2012-09-15 18.36.31b夜のディナーパーティでは多くの方々と歓談できました。高名な先生方はもちろん、日頃あまり話する機会のない、あちこちの若手中堅の先生方と話ができてうれしく思いました。自分が若いころ、海外の大物先生と話することがどれほど夢をかきたて、モチベーションを上げたかをふと思いだしました。

二日目の朝と午後には僧帽弁形成術の詳細・各論についての発表と議論が交わされました。ループテクニックという比較的初心者でもやりやすいと言われる方法がさまざまな形で論じられていました。それ自体は良いことと思うのですが、日本全国でも限られた数しかない僧帽弁形成術を、全国の心臓外科医が分け合ってやるとなると、不慣れな心臓外科医が年間数例ずつやる、という状況へつながりかねない話です。それは即、患者さんにとって不幸なこととなる、そういう懸念をもちました。実際、経験豊かな先生方も同じ心配をしていました。

それ以上に、このループテクニックでは僧帽弁の一か所を支えるために1対つまり2本の人工腱索がひつようで、たとえば前尖全体が逸脱している場合なら、私たちなら8-12本できれいに形成できるところを、その2倍の16-24本も人工腱索が立つことになります。これはもし腱索が硬化や肥厚をすると大問題になるでしょう。もっと議論が必要と感じました。

Adams先生の僧帽弁輪形成術つまりリングの講演はよく整理され、よくこなれていて、さすがと感心しました。

2012-09-16 12.46.47b2日目には三尖弁形成術や心房細動のセッションもありました。新田先生やChaiyaroj先生らのMICSメイズ手術は私たちもちからを入れている領域ですので興味深く拝聴しました。

三尖弁形成術で本当に難しいのは、右室機能不全が起こって三尖弁の弁尖が右室側へ引き込まれる、テザリングが起こる重症ケースです。Adams先生にそれを質問しましたが、さすがの彼もそういうケースは経験ないとのことで、彼の友人の経験談を話してくれました。正直で親切な人柄にあらためて感心しました。

もうひとつ感慨深かったことがあります。Adams先生の講演の中で、強い心不全をともなうケースでは右室と三尖弁輪が拡張しておれば三尖弁の逆流がそれほどでなくても、同時に治しておくことが良い、ヨーロッパ心臓協会の新しいガイドラインではそれはクラスIIaつまりやる意義があるという水準になった、というものでした。

このことは数年以上まえからエキスパートの中ではすでに知る人ぞ知る、方法でした。私は前任地の京大病院で必要があればこの方法で三尖弁形成術を加えていました。少しでも心機能を改善し、患者さんが永く生きられるように。

ところが前任地では、打ち合わせ会議と称する場で、ある心臓外科の先生が「米田先生は逆流があまりない弁まで形成している」と発言し、そのため「そんないい加減な適応で手術しているのか」と誤解する先生まで現れ、発言の機会さえ与えられず、心臓外科の臨床やEBMデータを知らない人たちは本当に困ったものだと、情けなくなりました。今、ヨーロッパの心臓協会がこの方法を正式に認めたというのは、ようやくお墨付きが出たわけで、自分がデータをもとに信じてやって来たことがようやく本筋の治療になったと、感慨深いものがありました。

まあ不勉強な人たちや悪意の人たちにわかってもらえなくても、患者さんや一流の人たちは理解してくれていると思えば、納得が行きます。そういう満足感が得られるセッションでした。それにしてもそうした大学病院はもはや最高学府とは言えないのではないかと残念に思いました。

もうひとつうれしかったのは、当院内科はもちろん、エコースペシャリストである川崎医大循環器内科の先生方と協力してやって来た、内科と外科のコラボレーションが、あのRandy Martin先生やAdams先生に喜んで頂けたことでした。来年の発表依頼まで頂いて、こちらも感動してしまいました。

それやこれやで忙しく賑やかな2日間でしたが、軽井沢を散策する暇もなく、しかし充実感を頂いて名古屋への帰途につきました。

素晴らしい会を開いて下さった四津先生はじめ慶応大学の先生方、国内外のFacultyの先生方、関係の皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

平成24年9月16日

米田正始 拝

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り68 ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

Pocket

 

僧帽弁形成術は年々進化を続けています。

私たちも内外の仲間と常に切磋琢磨しながら、患者さんのお礼のことばを糧として、日々反省と勉強を続けています。おそらくこの仕事を続けるかぎり、その熱い毎日は止むことなく続くでしょう。

バーロー症候群はかつては弁形成がなかなか難しいilm23_df01001-sと言われました。現在でも慣れないチームには難問です。

私たちもかつてはバーロー症候群で形成があと一歩のところで仕上がらず、涙を呑んで弁置換したことがありました。もう20年近く前のことですが、あの悔しさは今も忘れることができません。

そうした経験をもとに、いつしかバーロー症候群といえども、とくに問題なく普通に形成できるようになりました。

現在はこれをポートアクセス法という、ミックス手術のなかでも一番創の小さい、難しい視野の手術で普通にこなせるまでになりました。

そうすることで、より多くの患者さんが、より少ない痛みや苦しみで、より短期間に仕事復帰し、しかも心の傷がより小さくなって明るく人生の再出発ができるようになったことを、大変うれしく思っています。

以下はそうしたバーロー症候群の僧帽弁閉鎖不全症に対してポートアクセス法での複雑な僧帽弁形成術を受け、元気に退院された患者さんからのお便りです。

お役に立てて、こんなにうれしいことはありません。

 

*******患者さんからのお便り(心臓手術の体験記)******

 

米田正始先生

謹啓 9月になりましたが、まだ暑い日が続いています。

先生はじめ名古屋ハートセンターの皆様にはご清祥のことと存じます。

8月18日に退院し、長野県に戻りました。

手術に際しましては大変お世話になりました。

皆様優しい方ばかりで良い環境で入院生活を送ることができました。感謝申し上げます。

 

今振り返りますと、ここ2年ほど風邪がなかなか治らないような感じで調子の悪い時が何回かありました。

6月1日から36.9度~37.1度くらいの微熱が続き、たまに頭が痛い。

重いものを持ったり、5分も歩くと疲れてしまう。

自分の判断では、肝炎かもしれないと思いました。

かかりつけ医のところで血液尿検査を行いましたが、問題はない。

1ヶ月続いたところで総合病院に紹介していただき、7月6日(金)に診ていただきました。

内科の先生が聴診器を胸にあてて雑音を発見、心エコー検査して、すぐに循環器内科へ回されました。

「弁に逆流がある」「僧帽弁閉鎖不全症」「手術しないと治りません」「すぐに入院してください」私は、体の状態は理解できましたが、仕事のこともありすぐ入院といわれ焦りました。

「仕事の段取りを整えなければいけないので一度職場へ行かなければなりません」

「それじゃ、今日もう一度来てください。必ず来てください」 ‥‥ 16時再び参りました。

「月曜日入院してください」経食道エコーとカテーテル検査で2泊入院ということでした。

すぐ入院ではなかったのか。一度帰宅したときにインターネットで調べて職場には、本日入院、手術後3ヶ月療養と告げてきました。

 

時間をいただきましたので、土日インターネットで調べました。

闘病体験記がいくつもあり、写真を掲載しているものもありました。

スーパードクターを紹介するものもあり、低侵襲手術についても載っていました。

ポートアクセスのMICS手術は経験豊富な外科医が熟練したチームでおこなう。

どこの病院でもできるわけではない。

複数の病院がわかりました。

米田先生の「心臓血管外科WEB」「遠方の患者さんの場合は ‥‥ 自宅と病院の往復回数をできるだけ減らすよう、必要な検査等は集中的に行い ‥‥ 」とても姿勢が良い。患者思いの先生だと思いました。

「心臓血管外科WEB」に心カテーテル検査と経食道エコーは必要ないと書かれています。

私は検査を受けた方がよいのかメールで相談いたしました。

30分で返事が来ました。うける必要はないということでした。

米田先生の迅速な対応にビックリしました。

翌日、両方断っては申し訳ないと思い、経食道エコーだけは受けました。

担当の先生と話して、米田先生に手術をお願いしたいと考えていますと伝えました。

「じゃあ、紹介状書くから」と検査を受けないことを許してくれました。

帰宅後、名古屋ハートセンターへ電話し、米田先生の診察を予約しました。

担当の看護師さんに伝えてくださってあり、米田先生ってきめ細かいなあと感心しました。

夕方、手術日はいつか、職場復帰はいつ頃かメールでたずねました。

20分で返事が来てまたまたビックリしました。

 

7月18日名古屋ハートセンターで検査と米田先生の診察です。

手術日は8月7日と決まりました。

MICS手術でいける。

療養期間は8月いっぱい。9月から職場復帰。

CTも撮りました。

8月3日入院しました。

米田先生には、8月6日の手術が夜までかかり遅い時間にもかかわらず、私と家族に翌日の手術について1時間説明してくださいました。

私自身は、52歳でもう人生に悔いはないといつも悟ったような気持ちでいました。

加えて米田先生を信頼していましたので、手術に関して心配事はありませんでした。

「心臓血管外科WEB」で学習しているので、理解するというより確認するという感じです。

16日間入院し、僧帽弁形成術で治していただきました。

オペ室スタッフの皆様、北村先生、深谷先生、木村先生にもお世話になりました。

看護師さん、食事担当の皆様どうもありがとうございました。

清掃は行き届いていました。

担当の皆様ありがとうございました。

これで安心して残りの職業生活を続けられます。

1ヶ月後にはまた名古屋へ参ります。お世話になります。

 

 20日には元の総合病院へ行ってきました。

担当の先生は、胸を見て、「ほう、右胸を切ったんだ。珍しい手術だね。内視鏡見ながらやるのかね。珍しいね。」とおっしゃるので、「見ていないのでわかりませんが、たぶんそうです」と答えました。

 米田先生、お忙しいスケジュールと思います。無理をなさいませぬよう患者の一人としてお願い申し上げます。

また、名古屋ハートセンターがますます発展されますようお祈り申し上げます。      

 

敬白 

 平成24年9月1日
                                                   ****

 

*註:米田正始は現在、医誠会病院仁泉会病院で仕事しています

 

患者さんからのお便りのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り65: ポートアクセス法による僧帽弁形成術で元気になられた患者さん

Pocket

僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術はポートアクセスなどのミックス法の出現でますます進化をとげています。

患者さんは30代前半の男性です。兵庫県の遠方からお越し下さいました。

魚心あれば水心という心境で私の方も思わず力が入りました。ilm23_ee01001-s

以前から僧帽弁閉鎖不全症をかかりつけの先生に言われていたそうですが、良い治療法の出現をまっていたそうです。

弁は前尖と交連部つまり弁のヒンジの部分が壊れている、世間的にいえばやや複雑な形成でしたが、私たちにはよくあるタイプですので、いつもどおりポートアクセス法で僧帽弁形成術を行いました。

ゴアテックスの糸を4本つけて人工腱索とし、さらに交連部を微調整し、リングで仕上げて逆流はきれいに消えました。

小さい創で痛みもすくなく、外から創はほとんど見えないという、長年望んでおられた治療法で良い結果がえられ、よろこんで頂けました。

以下はその患者さんからのお便りです。

 

******** 患者さんからのお便り *********


メールにて失礼いたします。

米田正始先生、このたびは本当にありがとうございました。

8月5日に退院させて頂きました****です。

退院日が日曜日でしたので、米田先生へお礼の挨拶もできず、大変失礼いたしました。

名古屋ハートセンターにて先生の手術を受けることができ、本当に良かったです。

2年前に心臓の病気が見つかってからというもの、常に、手術になったらどうしよう、手術がうまくいかなければどうしようと、

気が休まる日は無かったです、他の病院で手術が必要だといわれてからも、自分が納得できておらず、

このまま手術を受けていいのかと、悩んだり迷ったり、精神衛生上も非常に良くない日々を送っておりました、

心臓の手術はそうそうあることではないので、多少場所が遠くても自分で納得できる病院、先生を探そうと思い色々と調べ始め、

そんな時インターネットで米田先生のブログを拝見し、

米田先生は他の病院で弁形成術を行ったが調子が悪くなった患者さんの

再形成手術等もされているという情報を見つけ、名古屋ハートセンターを訪れました。

先生の診察を受け、やはり手術が必要となりましたが、先生は患者が不安にならないよう、丁寧に納得いくまで説明してくださり、

また、手術まで何度も何度も名古屋まで足を運ぶのだろうなと思っていたのですが、

遠方からの患者ということで、手術に必要な検査をまとめてやってくださったり、患者の負担を減らすように心がけてくださり、手術の日まで、たいした不安も無くすごせました。

本当にありがとうございました、感謝しても仕切れません。

今は自宅にて療養とリハビリの最中です、早く健康な体になれるようがんばっていきます。

先生は多忙な毎日だとは思いますが、なにとぞお体大切になさって下さい。

それでは失礼いたします。

患者さんからのお便りのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

自己心膜による大動脈弁形成術(大動脈弁再建術)の位置づけ【2020年最新版】

Pocket

最終更新日 2020年2月27日

.

◾️大動脈弁閉鎖不全症への手術、選択肢は

.

大動脈弁閉鎖不全症(略称AR)の外科手術には大きな展開があり、どれが一番良いか、わかりづらいという声をお聞きすることが増えました。

そこで治療方針を整理してみます。

年齢によって方針がかなり異なります。そこで年齢別に記載します。

まず手術法として次のようなものがあります

.

A弁形成と再建シェーマ21.大動脈弁形成術: 文字通り患者さんご自身の弁を修復して正常に作動するようにします。成り立つ場合はこれがベストで基本と言えましょう。

2.自己心膜による大動脈弁再建術(または大動脈弁形成術): 心臓を包むような形である自己心膜を採取し、薬剤で安定化してから大動脈弁の弁尖(ひらひら部分)を切り取り、大動脈弁輪に縫い付けます

3.生体弁による大動脈弁置換(AVR):ウシ心膜で組み立てた生体弁を大動脈弁の付け根に縫着します

Artificial valves3b. ステントレス生体弁によるAVR: 3.の応用ですが、より自然に近い生体弁を同様に取り付けます

4.機械弁によるAVR: パイロライトカーボンなどの金属で造られた人工弁を大動脈の付け根に縫い付けます

5.折りたたんだ生体弁をカテーテルで心臓までもって行き、取り付けるTAVI(タビ、またはTAVR): これは主にオペができないような重症の患者さんや、2回目以後の手術を回避するために使います。

.

◾️大動脈基部拡張を伴う場合は

.

David & Bentallなお同じARでも大動脈の基部全体が大きくなっている大動脈基部拡張症を合併しているときにはできるだけデービッド手術という自己弁を温存する、一種の弁形成を積極的に行っています。これが標準手術と考えています。

自己弁が壊れすぎて使えないときには人工弁を付けた人工血管で大動脈基部を全部とりかえるベントール手術を行います。

これらの方法をその患者さんの年齢、ライフスタイル、体の状態などを勘案してベストなものを選びます。

.

それでは年代別に私たちの方針をご紹介します。もちろん患者さんとの相談が大切で、ケースバイケースで柔軟性を持って臨んでいます。

.

Ilm03_bc02023-s◾️10代:

ARでは極力弁形成を行います。まだ弁がそれほど短縮・肥厚などの変化を来していないことが多く、弁形成術が成立しやすいこと、またこの年齢では生体弁は数年しか持たないことなどが理由です。機械弁はワーファリンが一生必要で、かつ青春時代の生活の合わない面も多いため、あまり勧めていません。とくに女子の場合はワーファリンを飲むと妊娠出産が危険になるため全力あげて弁形成をしています。

大動脈基部拡張があればもちろんデービッド手術を選びます。
将来もし弁が疲労し壊れれば、再手術か上記のTAVIを考慮します。

.

Clco123-s◾️20-30代:

10代に準じた対応です。大動脈弁の変化変形が進むことがやや増え、弁形成が成り立ちにくいときには2.の自己心膜による大動脈弁形成(再建)を考えます。患者さんの仕事や生活状況によっては機械弁を選ぶこともあります。ただ近年の弁形成の進歩はエキスパートの手術なら弁形成成功率はうんと高くなりました。

大動脈基部拡張があればデービッド手術を、自己弁がかなり壊れているときには生体弁または機械弁によるベントール手術を患者さんと相談ののち選びます。

この年代でも女子には極力弁形成や自己心膜弁再建を考えます。生体弁はせいぜい10年しか持たないことが多いからです。

.

◾️40-50代:

弁形成に適するケースがやや少なくなり、弁形成が不向きな場合は自己心膜による大動脈弁形成術または再建を考慮します。患者さんのご希望によっては機械弁を使うこともあります。ただし近年の弁形成技術の進歩(有効弁尖高などの活用)により、この年代でも弁形成ができることが増えました。

大動脈基部拡張があれば20-30代と同様です。

.

Health_0084◾️60代:

軽い病変なら弁形成が可能となりました。弁形成に難がある時には自己心膜による大動脈弁形成術または再建術や、生体弁によるAVRを考えます。この年代では生体弁は10数年持つ可能性がありますので。

大動脈基部拡張があれば40-50代と同様です。

.

◾️70代ー90代:

主に生体弁によるAVRを考慮します。より短時間で、確実に手術が仕上がりやすいことと、このご年齢では生体弁が20年近く持つからです。

大動脈基部拡張があれば生体弁をもちいたベントール手術を勧めます。再手術その他で通常のベントール手術がやや不利な場合はステントレス弁を入れ子のように大動脈基部に入れ込むミニルート法を選ぶこともあります。患者さんの体への負担が減ります。

.

こうした様々な方法をその患者さんの状態やご希望にに合わせて駆使することで、オーダーメイド医療に近い、その方にベストの治療法が使えるものと考えます。

なお大動脈弁狭窄症の場合もARに準じる一面はありますが、弁の破壊が進んでいる場合が多く、弁形成よりも自己心膜による弁形成(再建)や人工弁の比率が上がります。

.

◾️そしてミックスが

.
ミックス手術のさまざま。これ以外にも有用な方法があります。

それから小さい創で、痛みを軽減し、より早い社会復帰をはかるためミックス手術(低侵襲小切開手術)を行っています。その場合上記の手術法との組み合わせが大切です。

.

たとえば弁形成ではより良い視野が必要なため、やや軽いミックスで行うことが多く、弁置換ではポートアクセス法など、積極的なミックスと組み合わせやすくなります。

安全性を優先し、その患者さんの状態に応じて組み合わせを考えるようにしています。

やはり心臓手術にかぎらず、医療はすべてしっかりした相談から始まるのです。

.

患者さんの想い出はこちら:

.

.

弁膜症のトップページにもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

.

 .

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

自己心膜をもちいた大動脈弁再建術、そのコンセプト 【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月23日

.

◆自己心膜を使った大動脈弁再建術とは?

.

大動脈弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症に対しては、従来「弁形成術」または「弁置換術」が選択されてきました。
しかし弁が変形し、短縮してしまったケースでは形成術だけでは十分に逆流を防げないことがあります。

そこで登場したのが 「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」 です。

.


患者さんご自身の心膜を利用して大動脈弁の弁尖を再構築する方法で、自然に近い弁の働きを取り戻すことを目指します。

この治療は「弁形成術」と「弁置換術」の中間的な位置づけともいえ、“弁再建術” と呼ばれることもあります。

.

 

A弁形成と再建シェーマ2◆大動脈弁形成術の進歩と限界

.

  • 二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症や、大動脈解離・心室中隔欠損症に伴う弁逆流などは、大動脈弁形成術で対応できることが多くなってきました。

  • しかし弁尖が短縮してしまうと、形成術を行っても十分に噛み合わず、再び逆流が起きるリスクがあります。

  • そこで自己心膜を弁尖として追加し、延長・再建する手術が発展してきました。

.

◆日本と韓国で磨かれたノウハウ

日本と韓国のノウハウを集めて自己心膜による大動脈弁再建手術を進めています.

この分野は、日本の尾崎先生による自己心膜弁再建術、韓国のSong先生によるウシ心膜を用いた手術が国際的に有名です。

.

  • 尾崎法:患者さん自身の心膜を厳選し、弁尖のサイズに合わせて精密に作製する方法。

  • Song法:弁の上下を安定化させる固定を併用し、長期耐久性を重視。

.

私たちはこれらの方法を学び、日本・韓国双方の長所を取り入れつつ実践しています。

.

◆自己心膜による大動脈弁再建術のメリット

.

  • 若い患者さんに有利
    生体弁は10年程度で劣化することが多く、特に20代・30代の方や妊娠・出産を希望される女性では短期間で再手術が必要になることがあります。
    自己心膜による再建術は、こうした若年層の患者さんにとって有力な選択肢です。

  • 抗凝固薬ワーファリン不要
    機械弁のように一生ワーファリンを服用する必要がなく、スポーツや妊娠・出産、日常生活での制限が少なくなります。

  • 腎不全・血液透析患者さんにも有効
    生体弁の劣化が早い患者さんでも、自己心膜を利用することで耐久性が期待できます。

.

◆弁形成術との関係 ― 総合的な戦略

.

もちろん、可能であれば 弁形成術が第一選択 です。
弁形成が難しい場合のバックアップとして、自己心膜を用いた弁再建術が役立ちます。

  • 弁形成術 → ベストな方法。自然弁を最大限に活かす。

  • 自己心膜弁再建術 → 弁形成が成立しないときの有力な代替手段。

  • 生体弁や機械弁(大動脈弁置換術) → 状況に応じて選択。将来的にはTAVIによる「Valve-in-Valve」も視野に。

このように、患者さんごとに最適な組み合わせを選ぶ「オーダーメイド治療」 が大切です。

.

◆今後の展望

.

  • 自己心膜弁再建術はまだ進化の途上にありますが、
    「ワーファリン不要で自然な弁機能を再現」できる可能性を持ち、今後さらに広がることが期待されます。

  • 長期成績や再手術時の対応についても研究が進み、より安全で安心できる治療になるでしょう。

.

◆まとめ

.

自己心膜を用いた大動脈弁再建術は、「弁形成」と「弁置換」の間を埋める新しい治療法 です。
特に若年層や妊娠を考える女性、透析患者さんなどに大きなメリットがあります。

大動脈弁の病気でお悩みの方は、ぜひ 弁形成・弁再建・弁置換を総合的に扱える心臓外科専門医 にご相談ください。

.

弁膜症のトップページにもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

ステントレス僧帽弁 臨床研究会

Pocket

この7月28日に第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会が東京でありました。

当番世話人かつこの弁の生みの親である加瀬川均先生のお招きで私も参加・発表等させていただきました。

ステントレス弁とは通常の生体弁とはちがい、弁がケージの中に入っていない、自然な形の弁です。まして自己心膜で造る弁ですから、性能だけでなく耐久性も期待できます。弁形成に力を入れて来た心臓外科医なら誰でも心躍る弁です。

実はこの歴史は永く、1990年代にさかのぼり、当時北米で修業していた私も関心があってその基礎研究や検討をやったことがあります。

ちょうど大動脈弁のステントレス弁が実用化したころで、当然の流れとして僧帽弁にも注目が集まったわけです。

第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会トロントでデービッド先生と僧帽弁のホモグラフトを検討していたこともあり、ステントレス弁と構造がよく似ているため気運の高まりがありました。

しかし当時、期待を集めたステントレス僧帽弁とくにクアトロ弁はまもなく音もなく消えて行きました。

その経緯も不明で、ただ消滅したため、何か問題があったものと考えていました。

そうした経験の中で、今回、加瀬川先生が10年間の基礎研究ののち満を持して新しいステントレス僧帽弁を臨床応用されたことを、夢よもう一度、という気持ちでお聞きしたものです。加瀬川先生が開発された弁はNormo弁と呼ばれ、正常僧帽弁に近づけようという願いが込められた名称でした。

第一回研究会ですので基調講演として加瀬川先生がコンセプトを話されました。

ついで日本発のイノベーションをどう展開するかというテーマでシンポジウムが組まれました。

こうした新たなデバイスの開発に詳しい早稲田大学の梅津光生先生、大阪大学の澤芳樹先生、東京女子医大の山崎健二先生、さらには厚労省や内閣官房医療イノベーション推進室の方々まで参加されました。

それからこの弁の生みの親のひとりでもある梅津先生のランチョン講演と動物実験報告、そして臨床実施例報告がなされました。

残念ながら私は他の学会のためこの部分までは参加できませんでしたが、活発な議論であったようです。

それからシンポジウムII「僧帽弁形成術に限界はあるか」が持たれ、神戸中央市民病院の岡田行功先生と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

東京慈恵医大の橋本先生、長崎大学の江石先生、岡田先生らが僧帽弁形成術の難症例を披露されました。

たとえば広範囲の活動性細菌性心内膜炎(IE)やバーロー症候群の高度なもの、あるいはECDなどの先天性がらみのケースや再手術例、さらにリウマチ性僧帽弁膜症などですね。

いずれも弁形成は可能ですが、その限界に近いこともあり得るケースで、こうしたときにNormo弁は役立つかも知れないと思われました。

そして僧帽弁形成術の大御所であるPatric Perier先生が僧帽弁の各パーツのどの部分がどこまで治せるかを講演されました。大変有用なお話しでした。限界を知ること、また努力して限界点を上げること、いずれも大切と思いました。

シンポジウムIIIでは”Normo弁の良い適応について考える”というテーマで、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、不肖・米田正始、京都府立医大の夜久均先生、東京大学の小野稔先生、そして私の共同研究者でもある川崎医大の尾長谷喜久子先生が症例や最新のデータを発表されました。座長は慶応大学の四津良平先生と産業医大の尾辻豊先生でした。

ここでも感染性心内膜炎(IE)やリウマチ性弁膜症、先天性心疾患とくにECDその他が論じられました。

尾長谷先生はステントレス僧帽弁にも対応できるだけの情報を提供するtransgastric TEEつまり胃から見る経食エコーとそれによる乳頭筋の詳細な形態情報を示されました。新たな領域を開拓するのは本当にやりがいがあると感じました。

私もリウマチ性MSRつまり僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症という形成しづらいケースやECDの再手術例でこれまた弁の変形が強く形成が難しいケースを供覧し、有益なご意見を頂きました。

壊れた僧帽弁の弁膜症を事故で壊れたクルマにたとえて、ガタガタに壊れたクルマをどこまで修理(つまり弁形成)するか、どこで新車に代える(つまり弁置換)かという視点で、患者さんに一番益するポイントを探ろうとしました。壊れたクルマの写真はウケました。ウケて下さった皆さんに感謝申し上げます。

さらに他の病院で高度の感染性心内膜炎への手術を受け、逆流が止まらず、次第に悪化して私のところへ来られた若い患者さんのケースをお示ししました。こうした超難易度の患者さんに新しいステントレス僧帽弁・Normo弁は役立つかもという期待が集まりました。

しかしまだ研究・検討は始まったばかりです。この弁がどれくらいの耐久性があるか、それが大切です。時間もかかりますし、合併症なく患者さんに真に益する弁に育てるためには大方の協力と努力が必要です。

川副浩平先生のビデオメッセージでも科学的な視点やきちんとした検証、教育、quality control体制が必要であることを述べておられました。

どちらかと言えば、この10年来、停滞あるいは退潮気味に見える心臓外科領域で、また新たな発展の場が生まれたと言っても過言ではないかも知れません。皆で力を合わせて優れた新治療に育て上げたいものです。

そうした熱気のもとで研究会は無事終了しました。加瀬川先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

平成24年7月28日

米田正始

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: ポートアクセス法の、やや複雑な僧帽弁形成術

Pocket

ポートアクセス法による僧帽弁形成術はまだまだ一部のエキスパートによる心臓手術で、どこでも安全に受けられる手術にまでは成熟していないと言われています。

しかしこのポートアクセス法に力を入れている施設の一部では、より複雑な僧帽弁形成術も安全にできるようになりつつあります。

私たちもこれまでの豊富な経験から、これは十分形成ができると判断した場合、それが比較的短時間にまとまるというめどが立てばポートアクセスでできるだけ行うようにしています。

こうした日々の努力によって、より多くの患者さんたちにポートアクセスやミックス手術の恩恵が行きわたるものと考えています。

術前胸部X線さて患者さんは67歳女性です。

労作時の動悸と呼吸困難感を主訴として来院されました。

検診で心雑音と心拡張を指摘されました。

近くの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症と診断され来院されました。

来院時、心尖部に4度の収縮期雑音あり、腋かへの放散が見られました。僧帽弁閉鎖不全症の所見です。胸部X線でも心拡大がありました(写真右上)。

術前心エコー当院での心エコーにて 高度の僧帽弁閉鎖不全症が確認され、駆出率も 54%とやや低下傾向が認められました(写真左)。

写真左上は左室長軸像で後尖の逸脱と瘤化が見られます。

写真左下はそのドップラー像で前向きに変位した逆流が見られます。

写真右下の4室像でも前向きの強い弁逆流が確認されます。

 
血液検査で ProBNP 1730と著明に亢進し、やや強い心不全が疑われました。

術前MDCT冠動脈、ABI には問題なく、

単純CTにて腹部大動脈、腸骨動脈に石灰化ありました(写真右)。

すでに症状のある高度の僧帽弁閉鎖不全症ですから、ガイドライン上、僧帽弁形成術の クラスI 適応として手術予定となりました。

患者さんとご相談のうえ、ポートアクセス法による僧帽弁形成術に決定しました。

手術1 三角切除x2手術では後尖のP1とP2と呼ばれるところに瘤化と逸脱、逆流による変化がみられました(写真左)。

P1とP2のそれぞれに、瘤化した部位を三角切除しました。

右上にそのシェーマを示します。

これは患者さんのご家族に術後、ご説明したときのメモの絵です。

その三角切除したP1とP2をそれぞれ縫合再建しました。手術2 後尖再建

かなり弁のかみ合わせは回復しましたが、その三角切除したP1とP2がまだ逸脱するため、

ゴアテック スの人工腱索をもちいて、P1とP2を左室側へ少し牽引しました。

それからリングをもちいて僧帽弁輪形成術つまりMAPを施行しました。

最後に生食を左室内へ注入して逆流試験を行いました。

手術5逆流試験OK逆流はほぼ消失しました(写真左)。

写真の左側は生食を左室へ注入したときのもので、前尖と後尖がしっかりとかみ合い、「もれ」つまり逆流はほとんどありません。

写真の右側は前尖を吸引管で押して弁を開くと多量の水が噴出し、しっかりと圧が左室にかかっていたことを示します。つまり逆流試験 術後心エコー合格です。

術後経過は良好で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。

術後の心エコーをしめします(写真右)。

僧帽弁の逆流つまり僧帽弁閉鎖不全症はほぼ解消していました。

左上の長軸ドップラー、真ん中の3室像のドップラー、右上の短軸ドップラーのいずれも弁逆流はほとんど認めません。

術後胸部X線と創部写真術後1週間の胸部X線と、退院時の創部の状態をしめします。

創はあまり目立ちません、というよりちょっと見ただけではわかりにくいほどです。

痛みも少なく、迅速な回復にさらに役に立っているようです。

術後10日で退院され、お元気に外来に定期健診に来られています。

やや遠方からお越し頂いたのですが、それだけのメリットが提供でき、うれしいことです。やはり患者さんによろこんで戴けてこその医療ですね。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

弁膜症のトップページへもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術

Pocket

ポートアクセスによる僧帽弁形成術はまだ一般の病院ではできない、先進技術です。

視野が狭く、ピンポイントで視野を作る必要があり、ピンポイントできないときには通常の正中切開に切り替えることになり、創が増えて通常より悪い仕上がりになるため難しいのです。

そこには経験が必要です。それもポートアクセス法の経験と、僧帽弁形成術そのものの経験の両方が必要です。

僧帽弁形成術じたいが、冠動脈バイパス手術などに比べて全国的に手術数が少なく、すべての心臓外科医が習得することが難しいと言われる領域ですが、その中でさらに習得しづらいのがこのポートアクセスでの僧帽弁形成術なのです。

このポートアクセス手術は難易度が高いため、何らかの医学的問題や障壁があれば、専門施設でさえ通常の大きな正中皮膚切開で手術を行うことが少なくありません。

しかしごく一部の選ばれた患者さんだけが恩恵を受けるようなポートアクセスでは、医療として不十分と考えます。

安全を確保し、技術的な課題はしっかりと解決し、より多くの患者さんのお役に立てればと私たちは考えています。

次の手術事例は、ポートアクセス法が使いづらいと言われているタイプの患者さんでした。しかし工夫と努力で安全を確保しながら患者さんのご要望にお答えすることができました。

 

患者さんは33歳女性です。

労作時の呼吸困難感を主訴として来院されました。

術前エコー短軸もとの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症が診断されており、手術の相談に来られたわけです。

明らかな症状をともなう高度の僧帽弁閉鎖不全症のため、日本循環器学会ガイドラインでクラスIの適応つまり、手術が強く勧められる、またその根拠がある状態でした。

この患者さんの場合は、それに加えて近い将来、妊娠出産を希望されての心臓手術のご相談でした。つまり手術で人工弁を入れる弁置換手術になってしまうと、機械弁つまり金属製の弁ではワーファリンという奇形を起こす薬が必須となるため妊娠が危険なものとなり、生体弁つまりブタやウシの材料で作った人工弁では妊娠中に劣化が早いという問題があるのです。

僧帽弁形成術だけがこの患者さんの希望を満たす方法であったわけです。

若い女性ですから、創も見えにくく、痛みも少ないポートアクセスは当然有力な選択肢として考えられました。

 心電図では正常リズムですが、しばしば頻脈発作や動悸が起こり、僧帽弁閉鎖不全症のための左房や左室の負担のため心房細動になり始めている可能性が考えられました。術前胸部X線

術前心エコーでは、僧帽弁前尖のA3と言われる、後交連部に近い部位が逸脱し、左房側に落ち込んでそこがかみ合わず逆流が発生していました。写真上は術前の左室短軸ドップラーを示します。交連部という、弁のヒンジの部分での逆流のため通常の角度からは見落としやすいタイプです。強い逆流が確認されました。

このA3の逸脱を人工腱索その他の方法で治せば、逆流は止 まると判断し、僧帽弁形成術を予定しました。
術前CT解析
しかし、診察および胸部X線で扁平胸みられました。つまり胸の前後径が小さい、要するに胸が薄いわけです。

こうしたケースではポートアクセス法はエキスパートでも通常よりは視野が確保しづらく、手術もやりづらいのです。

検討の結果、視野を出す工夫を重ねることで、手術が成り立つ可能性が大という判断で手術を決定しました。

人工腱索設置手術では確かに普通のポートアクセスの方法では僧帽弁が見えづらい状態でした。

そこで前もって準備していた道具で骨を軽く吊り上げ、スペースを確保して、さらに僧帽弁そのものを見やすく引出し、

それからゴアテックス人工腱索をもちいて僧帽弁前尖を正常の位置にもどしました。

写真右は術中写真です。その左上はゴアテックス人工腱索を後乳頭筋に刺入しているところです。

下中と右上は僧帽弁前尖に糸をかけているところです。合計4本の人工腱索がつきました。これで前尖の逸脱部分は逸脱なく正しく支持されます。

逆流試験とメイズ写真左は術中写真の続きです。

冷凍凝固によるメイズ手術の最中のものです。

術前に動悸発作がよく出ていたため、メイズ手術は術後の心房細動の予防に有益です。

生食注入による逆流試験でも僧帽弁の逆流はほぼゼロであることが示されました。

術後経過は順調で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へ戻られました。

その後、偶然脳静脈の合併症が発見され、ただちに連携している脳外科の先生と協力し対応、後遺症なく解決しました。チーム医療の時代ですが、地域のさまざまな病院と協力してのチーム医療も大変役立つことがあらためてわかりました。

患者さんは元気になられ定期検診にときどきこられます。

これから健康な楽しい人生を送って頂ければ幸いです。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

弁膜症のトップページにもどる

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。