事例: 先天性僧帽弁閉鎖不全症・バーロー症候群の弁形成術

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先天性つまり生まれたときからの僧帽弁閉鎖不全症は心臓専門病院では少なからずみられる病気です。

逆流が強くなり心臓とくに左室が大きくなったり、心不全の症状がでると手術が必要になります。

また時間とともに左房も大きくなり、その結果心房細動などの不整脈が出てくると手術が勧められることもあります。

次の患者さんは当時31歳の女性で、僧帽弁閉鎖不全症に発作性心房細動を合併し、手術を希望して来院されました。術前エコー長軸

そのころ、疲れやすくなり、会社の健康診断で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、ホームページを見て米田正始の外来へ来られたのでした。

術前の経胸壁エコーでも術中経食エコーでも前尖後尖とも全体的に逸脱しているように見えたため(右図をご覧ください)、

そして強い僧帽弁の逆流も、逆流ジェットが複数ある(左図)ことから複数病変それも通常と少しちがうものなど、様々な状 術前エコー4CVD況と対策を考えて手術に臨みました。

皮膚をなるべく小さく切開し、心臓にアプローチしました。今ならポートアクセス法などのミックス手術でより小さい創で手術するでしょうが、当時としてはかなり小さい創で手術しました。

僧帽弁は後尖の中央部分にクレフトつまり裂隙があり先天性のものと思われました。

さらに後尖の後交連近くに腱索断裂があり、その部分は逸脱つまり左房に落ち込む傾向にありました。

また後交連部は大きめで腱索伸展著明で逸脱していました。(手術写真準備中です)

前尖はやや逸脱傾向はありながら、後尖の上記以外の部位とはちょうどバランスが取れた形でした(つまりどちらもやや逸脱傾向にありました)。

前尖と後尖の逸脱部は慢性MRのジェットのためか肥厚し、後尖の逸脱部は若干瘤化していました。

全体としていわゆるBarlow症候群つまり組織変性が強い弁で僧帽弁全体が弱いという印象でした。

こうした弁でも逆流が治れば長持ちし得ることが知られており、予定どおり全力あげて形成することに致しました。

まず確実に病変がある後尖中央部のクレフト部を閉鎖し、その際に余剰組織を併せて縫縮しました。

次に後交連部と後尖の後交連寄り部分を連結し、併せて余剰(瘤化)組織を縫縮しました。

この時点で逆流試験を行いますと前尖後尖はちょうどバランス良くかみ合い、逆流もほぼ消失しました。人工腱索も検討していたのですが不要でした。

そこで仕上げに前尖サイズのリングで弁輪形成を行いました。

それにより逆流試験でMRはほぼ消失しました。

冷凍凝固によるメイズ手術を行い、左房を2層に閉じて78分で大動脈遮断を解除しました。

心臓が拍動を再開しまもなく洞性リズムを回復しました。

術直後エコーD経食エコーにて僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失しました。

入念な止血ののち無輸血にて手術を終えました。右図は術後1週間の経胸壁ドップラーで僧帽弁の逆流は消失していました。

また下図は同長軸エコーで前尖と後尖の良好なかみ合わせを示します。

術直後エコー長軸術後経過は良好で、出血も少なく血行動態も安定しており、術当日の夕方、人工呼吸器を外し、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

経過良好で手術後10日に退院予定でしたが、患者さんのお父さんが風邪のため、移されないようしばし入院続行し、術後経2週間で元気に退院されました。

術後3年4CVD術後3年経った現在、お元気で暮らしておられます。年一度の定期健診でお元気なお顔を見せて頂いています。

右図は術後3年のドップラーで僧帽弁の逆流はありません。

弁置換術と比べて弁形成術が優れているのはどの年代の患者さんでもそうですが、こうした若い女性の場合はとくにそれが顕著です。

この患者さんは妊娠出産も問題なくこなせますし、今後の人生が文字通り健康なものになるでしょう。実際、手術のあとは大変快活になられ、この点でもうれしく思っています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: HOCMと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治

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弁膜症がらみで除脈となりペースメーカーが必要になることはときどきあります。

ペースメーカーは除脈つまり遅い脈には効果抜群の治療法ですが、電気ケーブルを三尖弁ごしに右室へ入れる必要があり、一定の確率で三尖弁閉鎖不全症が起こります。

PreopXP患者さんは77歳女性で労作時の息切れを主訴として紹介来院されました。

もともと大動脈弁狭窄症をわずらっておられましたが、除脈のためペースメーカーを入れてから息切れが悪化したといいます。 PreopCT

左図は術前の胸部レントゲン写真です。大きな心臓です。

写真の左上にペースメーカー本体も見えます。

右図は術前のCT写真です。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を横切っているのが見えます。通常はそう問題にはならないのですが、この患者さんの場合は三尖弁を閉じなくしてしまったのです。

PreopEcho調べてみますと、大動脈弁はピーク速度が4m/sに達する強い狭窄がありました。

それに加えて、弁の下、左室流出路(左室の出口近く)に異常心筋のでっぱりがあり(HOCMとかIHSSと呼びます)、弁とあわせて一層狭く危険なレベルに達していました。

それを反映して、右室圧49mmHgと肺高血圧症も合併していました。心臓が悪いため肺にも無理がかかっているのです。

三尖弁はペースメーカーケーブルに押されて高度に逆流し三尖弁閉鎖不全症になっていました。

このままでは心不全や肝不全などが悪化する懸念があり、手術することになりました。

ところが手術前の検査で腹部大動脈瘤も見つかったため、これも注意深く見張りながらまず心臓手術を行うことにしました。

A弁観察手術ではまず硬くなった大動脈弁を切除しました。

大動脈弁口ごしに左室が見やすくなりました。異常心筋が発達し、左室の中が見えなくなっていました。

つまり左室内の血液が大動脈へ駆出しづらいともいえる状態です。

異常心筋切除開始そこでこの異常心筋を切除しました。

左図は切除を開始したところです。

この時点では左室の中はほとんど見えません。

慣れた外科医には短時間で異常心筋切除後完了する手術ですが、経験の少ない外科医には危険な手術です。さまざまな落とし穴があるからです。

左室の中が見えるように なり、血液がスムースに流れる所見となりました。

右図は異常心筋切除後の姿ですが、左室の中にある乳頭筋が良く見えるまでに改善しました。

AVR完成ここで生体弁を大動脈弁の位置に縫い付けました。

十分なサイズの生体弁が入りました。

左図がそれです。

 

つぎに右房 PMケーブルと三尖弁を開けて三尖弁を見てみました。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を圧排し弁が閉じにくくなっていました。

そこでこのケーブルを弁の付け根の安全なところに移動し、固定しました。

三尖弁形成術完成そのうえでリングをもちいて三尖弁形成術を行いました。

もう弁はケーブルに邪魔されることなく普通に動けるようになりました。

右図は術中経食エコーで、三術後TRほぼ消失尖弁はきれいに作動するようになりました。

術後経過は良好で、手術当日夜、人工呼吸器を離れ、翌朝、集中治療室を退室できました。

術後2週間目に元気に退院されました。

その後、畑仕事もできるほどに回復されました。

外来で定期健診を受けておられましたが、腹部大動脈瘤が次第に大きくなり50mmに達したため心臓手術から1年6か月後に手術することになりました。

お腹の皮膚を切らずに治せるステントグラフトEVARを第一選択として検討しましたが、腹部大動脈が屈曲し、ステントグラフトを固定するエリアが小さいことなどから、学会委員会の御意見として通常の外科手術による腹部大動脈置換が適切という判断となりました。

そこでお腹の皮膚を約10㎝と小さく切るミックス法でアプローチしました。

腹部大動脈をY型ダクロン人工血管で取り換えました。

術後経過も順調でまもなく元気に退院されました。

それから2年が経ち、外来でお元気なお顔を拝見するのが楽しみになっています。

ここまでの経過を振り返り、なんだか病気が多く、手術手術で申し訳ない気持ちですが、これで一件落着、安定された感があります。

これからさらに楽しく過ごして頂ければと思います。

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心臓手術・事例: 共通房室弁口の僧帽弁閉鎖不全症を弁形成

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共通房室弁口(部分型心内膜床欠損症)にともなう僧帽弁閉鎖不全症は成人以後には弁の二次的変化などが加わり弁形成に際しては相応の注意が必要です。
私たちは先天性心疾患(こども)の専門の先生とチームを組んでこどもと大人の両方の観点から手術を行うようにしています。
患者さんは30歳前後の女性です。
3歳時に共通房室弁口の手術を受けておられます。
無症状のため高校以後はフォロー受けず
第一子の妊娠中に心雑音・弁逆流を指摘されました。
その後、僧帽弁閉鎖不全症が悪化しましたが地元の総合病院で弁形成術は無理と言われ、
しかし第二子が欲しいため弁形成術をもとめて来院されました。
来院時は労作時に軽い息切れがあり、夜間に動悸発作が多くなっていました。
手術前の心エコーでは
僧帽弁前尖にクレフト(裂隙、さけめ)があり、そこから多量に血液が漏れて逆流していました。
弁尖とくに前尖の肥厚と硬化所見が著明でした。
生まれたときからの病変ですから、30年以上の時間が経っており、弁の変化、破壊が進んでいるようすでした。
手術時は前回手術のために心臓と周囲組織の間が癒着していたため、これを丁寧にはがしました。
左房を開けて僧帽弁を見ますと、深いクレフトがありその周囲を中心に前尖の大半が強く肥厚していました。
そこでまず前尖の肥厚した二次腱索を切除し、クレフトを縫合閉鎖しました。
逆流はかなり減りましたがまだ弁が硬く、完全には取れない状態です。
そこで前尖の中ほど部分を大きく切除し、心膜パッチでこれを置き換えました。
さらに弁を微調整し、逆流試験でほぼ逆流ゼロとなりました。リングをつけて僧帽弁形成術を完了しました。
術後経過は良好で術後10日で元気に退院されました。
退院前の心エコーで、僧帽弁閉鎖不全症は治り、心臓のサイズ機能とも改善していました。
外来でもお元気なお顔を見せて下さっています。
あとは近い将来、健康な赤ちゃんが誕生されるのを楽しみにまつばかりです。
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事例:大動脈炎にデービッド手術を施行

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大動脈炎症候群(大動脈炎)は今も油断ならない病気です。

放置すると大動脈だけでなくあちこちの動脈がやられてその結果、眼が見えなくなったりします。大動脈のどこかの部分が瘤つまりこぶのように広がると破れる心配がでてきます。大動脈基部が壊れて広がると破裂の恐れもありますし、大動脈弁閉鎖不全症となって弁膜症を合併してしまいます。

若い女性が多いだけに、弁膜症となると長持ちする機械弁をと短絡すると将来の妊娠や出産に大きな困難を残しますし、生体弁では長持ちしません。

ライフスタイルを含めた長期的なプランにしたがって治療戦略を立てる必要があり、とくに予防と二次予防つまり治療のあとの再発防止も大切です。

術前3DCT患者さんは20代前半の女性で近くの大学病院にて大動脈炎症候群の診断でステロイドによる治療を受けておられました。

しかし病気が進み、大動脈基部は拡張し(左写真)、その結果、大動脈弁は寸足らずとなり大動脈弁閉鎖不全症を合併していました(右図)。

労作時の息切れが強くなり、ときどき胸痛を覚えるようになって私の外来へ来られました。

ステロイド剤が一日 術前AR10mgを割ったタイミングで、手術することになりました。

ステロイドが多量に入った状態では創が治りにくくなったり、酷い時には人工弁や人工血管がはずれることもあり得るからです。

そもそもこの患者さんの将来設計とくに妊娠出産のためには自己弁(弁尖)を温存するデービッド手術が必須で、極力これを行う方向で準備しました。

弁尖は大動脈炎にはやられないというデータがあるからです。

Bavaria先生とこの準備に当たっては、

大動脈基部再建手術の世界的権威であるペンシルベニア大学のバーバリア先生(Prof. Joseph Bavaria)の御意見もいただき、

私の意見(弁尖はこの病気にやられないから温存する)を支持していただき、

勇気百倍で手術に臨みました。

手術Ao拡張と癒着手術ではさすがに大動脈基部の拡張と炎症のため、

周囲組織と癒着し(右図)、壁はもろく弱くなっていましたが、

大動脈弁の弁尖はきれいで温存すべき所見でした(左下図)。

手術大動脈基部展開そこでまず大動脈弁の弁輪部と弁尖および左右冠動脈入口部を残して大動脈基部を切除し、

これをダクロン人工血管の中に入れ込み、縫着しました。

ついで3つの弁尖が正しいレイアウトになるように3交連部の三次元位置を調整してから大動脈弁輪部付近の大動脈壁を縫着し、

手術右冠動脈吻合中最後に左右冠動脈入口部を人工血管に縫合しました(右図)。

人工血管を上行大動脈の遠位部に連結して手術を終えました。

手術吻合完成術後経過は良好で、

術翌日には集中治療室を退室して一般病棟へ戻られました。

大動脈炎のコントロールがたいせつなため、

しば 術後3DCTし入念にステロイドを調整し、CRPも1.9まで低下改善したため、

術後約2週間で元気に退院されました。

術後ARなしその後は膠原病の専門の先生と、私たちの外来の両面からフォローし、

お元気にかつ大動脈炎症候群も軽快安定した形で暮らしておられます。

今後は健康生活を楽しむとともに、

二次予防つまり大動脈炎を再燃させないように外来でしっかり見守って行く予定です。

 

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事例: 三弁の連合弁膜症に対するミックス手術

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ミックス手術つまり低侵襲小切開手術はどちらかといえば若い元気な患者さんたちの、美容上の利点のために行われる印象があります。

もちろん安全性が確保される限り、そうした美容上のメリットも意義のあることと思います。

しかしそれにおとらず、痛みや苦痛を減らし、早く社会復帰・仕事復帰ができるミックス手術あるいは術後の運動・リハビリを促進して肺炎などの術後合併症を防ぐことで安全性を高めるのもミックス手術の利点と思います。

そのため私たちは合併症がおこりやすいと言われるご高齢の方にも安全性を確認しながらミックス手術を行っています。

患者さんは80歳男性で紀伊半島から来られました。私自身、時間があれば旅行したい素晴らしいところです。

10年前から大動脈弁閉鎖不全症僧帽弁閉鎖不全症のため近くの病院へ通院しておられました。

術前XPじっとしている限りはそれほど強い心不全症状はないのですが、

農業を営んでおられ、

最近仕事のあとの疲れがひどくなったため、困って私の外来へ来られました。

 

実際、心臓のホルモンであるProBNPは2464もあり、

これは重症心不全のレベルでした。

同時に慢性の腎機能障害(CKD)もおありです。

心不全に対する利尿剤なども次第に使いづらくなってきていました。

 

エコーでは中 術前AR等度を超える大動脈弁閉鎖不全症(右図)と、

中等度の僧帽弁閉鎖不全症、そして中等度の三尖弁閉鎖不全症(下図)があり、

左室拡張末期径LVDdも60mmを超え、左室駆出率も51%と低下傾向にあり、

ガイドラインでも手術の適応に入っていました。

術前TR80歳というご年齢を考え、

また早く農業に復帰して戴くためもあり、

そして肺炎などの合併症を防ぐためにミックス法で3弁の手術をすることになりました。

この患者さんの場合は、3弁すべてを治す大きな手術でしたので、右小開胸によるポートアクセス法ではなく、胸骨下部部分切開という胸骨の一部だけ切る方法をもちいました。

生体弁をもちいて僧帽弁置換術ついで大動脈弁置換術を行い、

心臓を動かしつつ三尖弁形成術を行いました。

 

術野の全体像ミックス法では視野が多少狭くなり、時間がかかることが多いのですが、

心臓を止める時間が長くならぬように工夫しました。

手術はスムースに終わり、

手術翌日には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。

その 術後XP後も経過良好で、通院に時間がかかる遠方のため、十分元気がでてから退院して戴こうという方針にて、

術後3週間あまり入院してリハビリなどを行っていただき、元気に退院されました。

退院時のレントゲン写真でも心臓はすでに小さくなり肺もうっ血が取れてきれいになっておられました。

80歳というご年齢でこれだけの回復はご本人様やご家族の努力と姿勢の賜物ですが、

痛みが少ないミックス手術も一役買ったのであればうれしいことです。


創部右下の写真は術後1か月半の外来でのものです。

この患者さんの場合は美容よりも安全重視のため、皮膚切開は思い切りは小さくありませんが、それでも通常よりかなり小さく、夏に畑で半そでシャツを着ていただいても、創がそれほど目立たない程度になったものと思います。

 

外来でもお元気で、 

今は真冬ですが、春になれば農作業も順次楽しくこなして頂けるものと期待しています。

 

心臓手術とは単に生きるだけのために行うものでなく、

前向きに、元気に建設的に生きるためにも行うものと私は考えています。

こうした考えを共有して下さる患者さんが増え、

その分さらに安全性を追求し、ご希望にお応えしたくチーム全員で思っています。

 

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  ポートアクセス法にかかる費用は?
  
  ミックスは危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成

  同、弁置換

  ポートアクセスによる弁形成術

  メイズ手術

大動脈弁

  ミックスによる弁置換

  同、弁置換

  弁形成術

  デービッド手術

三尖弁

  ミックス法による弁形成

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックスですみやかに社会復帰された患者さん

お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り62: 同、弁形成術と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成で元気になられた患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り68: ポートアクセス法の弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

お便り71: ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックス法で受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックス法手術で克服

お便り74: ポートで弁形成とメイズ手術を受けた患者さん

お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

 

 

 

 

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事例: バルサルバ洞瘤の再破裂を修復

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図7バルサルバ洞2バルサルバ洞(右図の「バ洞」のところです)は大動脈のいちばん根っこの部分、大動脈基部にあるふくろ状の構造物で、これが弱くなり膨らんで瘤(りゅう、こぶのこと)になりますと隣接する右房や右室に破れることがあります。

いわゆるバルサルバ洞破裂というものです。

とつぜん血液が多量に右房か右室へ流れ込むため、すぐに肺がうっ血し苦しくなります。酷い時には倒れてしまいます。いのちの危険があることもあります。

治療法は手術でこのやぶれたバルサルバ洞を修復することです。

心室中隔欠損症を伴っている場合はこれを閉じてバルサルバ洞を守るようにします。


さて患者さんは20代の男性で大阪から来られました。

術前エコーその2か月まえにこのバルサルバ洞の破裂に対して現地の病院にて緊急手術を受けられました。

術後まもなくバルサルバ洞が再破裂し、このままではどうにもならなくなって私の外来に来られました。

エコーで見ますと、バルサルバ洞が再破裂しており、しかも右房と右室の両方に血液が噴射されていました(写真右)。

このままでは心不全が進行し、いのちにもかかわってくるため、再手術することになりました。

瘤の再破裂前回の手術から2か月ほどしか経っていないため、癒着が高度で、ひとつ間違うと大出血する状況でした。

そこで丁寧に癒着を剥離し、心臓の全貌が見えました。

ここで体外循環を回し、心臓を止めてから右房と大動脈を開けて中を見ました。

前回の手術ではバルサルバ洞瘤が破れたところを大動脈側からと右房側からの両方で糸で閉じてありました(写真左)。

しかし残念ながら、瘤のところを縫われていたため、その組織が大変弱く、せっかく縫ったところがちぎれて穴が開いていました。

これでは血液がまた漏れて、瘤破裂の再発です。

バルサルバ洞形成パッチ縫着中瘤でない、しっかりとした組織を縫ってバルサルバ洞を守りつつ穴をふさぐことが大切です。

そこで私たちがいつも大動脈基部で行っているデービッド手術の要領で、大動脈弁輪に糸をかけ、そこへウシ心膜を縫着してバルサルバ洞を内側からガードし、あわせて血液の漏れを消すようにしました(写真右)。

同様に右房側からも前回の瘤を閉じたところを、もう少し遠巻きにして、三尖弁輪などのしっかりした組織を活用でして、右房側のバルサルバの破裂口をしっかりとふさぎました。

術後エコー再手術は出血しやすいためしっかりと止血し手術を終えました。

術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室ICUを退室され、一般病棟へ戻られました。

術後エコーでバルサルバ洞の穴はきれいに取れ、正常の血流にもどっていました。

 

やや遠方からお越しのため、通常よりじっくり入院期間をおきましたが、13日目に元気に退院されました。

その後も外来でお元気なお顔をみせて下さいます。

手術後1年の心エコー検査でもバルサルバ洞はきれいで、血液の漏れもゼロで正常、心臓の大きさや形、パワーも正常でよろこんで頂けました。

これから自信をもって普通の生活を、スポーツなども含めて楽しんで頂ければと思います。

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事例:肝硬変を合併する三尖弁閉鎖不全症にミックス法三尖弁形成術

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三尖弁閉鎖不全症(略称TR)は高度かつ長期間になると肝臓のうっ血から肝硬変を引き起こします。

こうなると心不全だけでなく肝不全となり命を落としてしまいます。

三尖弁閉鎖不全症だけだからと内科の先生が放置した結果、気が付いたときにはすでにDICという全身が危険な状態で出血のため手術もできなくなっていたという不幸なケースを聞いたこともあります。

油断してはならない病気なのです。


術前SevereTR患者さんは大阪から来られた80歳近い男性で、10年前に近くの大学病院で高度の三尖弁閉鎖不全症と心房細動と診断され、薬などで治療されていました。

4か月前から急に息切れが強くなり、手術が必要だが危険だと言われて私の外来へ来られました。

術前SeverePH度の三尖弁閉鎖不全症(TR)があり、その背景に左室の強い拡張機能障害つまり左室壁が硬くなって、血液を入れ込むべき拡張期に血液を取り込みにくくなる、吸い込みにくくなる状態がありました。そのために血圧と同じほどの、高度の肺高血圧症もありました。

心臓のホルモンであるProBNPは3170と極めて高くなり、重い心不全の所見でした。

心臓と肝臓さらに調べますとチャイルド分類Aの肝硬変を合併していました。コリンエステラーゼChEは148と低下し、内蔵うっ血のため血小板は9.3万、ヘマトクリットも25.5とかなり少なくなっていました。CTで肝臓は縮小気味でした。さらに悪いことにクレアチニンCr 1.45と腎臓も弱っている、いわゆるCKD状態でした。

そこで私たちの方法をもちいて、まず入院していただき、たっぷり時間と手間をかけて心臓や肝臓のうっ血を軽減するようにしました。

努力の結果、6週間後には肝臓も少し落ち着き、水分が取れて体重も軽くなり、上記の肺高血圧も血圧の半分ぐらいまで改善し、全身状態も改善したため、このベストタTAP後イミングで手術しました。

患者さんのからだへの負担を最小限とするため、ポートアクセス法という右胸に小さい創をひとつつけるだけの、患者さんにやさしい手術法でアプローチし、三尖弁形成術を行いました。

三尖弁だけの手術で、かつ安全性を高めるため、心臓を止めずに動かしたまま三尖弁形成術を行いました。

術後経過は順調で、翌朝には集中治療室ICUを出ることができました。心配された肝機能もまずまずよく持ちこたえ、総ビリルビンも4弱で治まり、あとは正常化して行きました。自然のペースメー 術後TR軽快カーが弱く、術後は心房細動は取れて正常リズムにはなりましたが、徐脈(脈拍が遅いこと)のため、術後2週間でペースメーカーを入れて改善安定しました。

遠方でかつ重症であることを考慮し、術後3週間入院治療を行い、それから元気に退院されました。

比較的ご高齢で肝臓も腎臓も弱っている状態でも心臓手術に耐えられることを示して下さったと思います。外来でお会いするのが楽しみです。

 

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  ハートポートとは
  
  ポートアクセスの位置づけ
  
  それが前向きに安全な場合
  
  美しいポートアクセス・心臓手術のためのLSH法とは
  
  かかる費用は?
  
  ミックスは危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  心臓手術と美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 心臓手術:ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  

 
三尖弁

  ミックス法による三尖弁形成術

  同、メイズ手術

患者さんやご家族からのお便り

お便り48: すみやかに社会復帰された患者さん

お便り54: 僧帽弁形成術を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り63: 同、複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同、僧帽弁形成術で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の僧帽弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り74: 同法で僧帽弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

 

 

 

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事例:チャイルドB型肝硬変でも二弁手術の再手術を乗り切った患者さん

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図は健康な肝臓ですが、肝硬変になるとこれがしぼんで表面でこぼこになります。

肝硬変の患者さんとくに病気が進んだ肝硬変はいろいろな注意が必要な重い病気です。

 

そのため肝硬変の患者さんが心臓病になり、心臓手術が必要になると、手術を断るケースが多数あります。危険すぎるからです。

しかし手術しないと肝臓がさらに悪くなる、まもなく命を落とすという状況ではどうすれば良いのでしょうか。

私たちはこの問題に長年向き合い、努力して治療成績を改善して来ました。

 

患者さんは手術当時60歳男性で九州から来て下さいました。

10歳のときにリウマチ熱を患われています。これが弁膜症の原因になりました。

30代後半に地元の大学病院で連合弁膜症の診断で機械弁 術前心エコーによる僧帽弁置換術と大動脈弁置換術および三尖弁形成術を受けられました。

それから20年間、経過良好でお元気にしておられましたが、2年前から労作時の息切れが強くなりました。

大動脈弁(機械弁)はパンヌスと呼ばれる自己組織の張出しで平均圧較差が39mmHgとかなり狭くなり、動きが妨げられていました。ポンプである左室のサイズは拡張末期径44mmは正常で、駆出率76%も正常、つまり正常のちからが保たれていました。しかし強烈な三尖弁閉鎖不全症を合併しており、肝臓を含めた全身がうっ血し、内蔵の傷害が起こっている状況でした。

心臓と肝臓しかも不運なことに、昔の心臓手術のときに輸血を受けられ、当時のことですのでC型肝炎になってしまわれたのが、次第に進行していました。現代なら輸血でC型肝炎になるのは万にひとつ、千にひとつのまれなことなのですが、当時は少なからずあったのです。

その病院でチャイルド分類Bの肝硬変の診断を受けました。つまりかなり重症で、心臓手術に耐えるちからがないかも知れないレベルというわけです。

実際総ビリルビン値は3.4と高めで肝臓のちからを示すコリンエステラーゼは141、同じくコレステロールは154と低く、肝臓がかなりやられている所見でした。

CT写真で長年の弁膜症のため巨大化した心臓と、しぼんで小さくなってしまった肝臓が見られました。肝硬変が進行したときの姿です。

地元の大学病院で心臓手術は危険すぎると言われたのは当然のことでした。しかしこのままではそう永くは生きられない、もし生き残ろうとするなら、何としても弁膜症を治すしかないという抜き差しならぬ状態でした。

私たちはこうした患者さんを京大病院時代から全力をあげて手術治療して来ました。

何とかご期待に沿えるよう、これまでの経験、ノウハウを駆使して治療を開始しました。

 

まず何週間もかけて、適正な減塩食、くすり、点滴、ストレス軽減などでじっくりと肝臓のうっ血を減らし、少しでも肝臓のちからを回復させるようにしました。

その結果体重は3kgは減り、つまり水がそれだけ抜けましたが、それ以上は改善できませんでした。

ビリルビン(黄疸の原因色素です)も2.6前後までは下がりました。

しかし肝硬変のため血小板や白血球という、手術を乗り切るために必要なものが正常よりはるかに少なく、血小板4万、白血球は1600と危険なレベルでした。

 

このままでは死を待つという状況でしたので、せめて患者さんが歩く体力のあるうちにということで手術に踏み切りました。

人工弁摘除後 機械弁を入れているところ手術では再手術のため癒着はしていましたが、

丁寧に剥離し、心臓が見えてきました。

パンヌスが弁の周囲に造成していました。

パンヌスを取り去り、大動脈弁を新しい高性能機械弁で取り換え(大動脈弁置換術)、

三尖弁はすっかり弁が縮 ひどく壊れた三尖弁 三尖弁に生体弁が入りつつあるところまって使えない状況でしたので生体弁で取り換え(三尖弁置換術)しました。

手術がスムースに完了したため、手術の翌日には人工呼吸を外れ、話ができる状態になりました。

2日目には強心剤も不要になり、3日目にはICU(集中治療室)を無事に出て一般病棟へもどりました。

 

毎日歩き、食事も増え、思ったより楽でしたと笑顔が見られました。

しかし大変なのはこれからと皆、用心をしていました。

 

実際、手術から3日目ごろから次第に熱がでるようになり、検査や治療にもかかわらず1週間で高度の発熱をみるようになりました。

創もきれいでとくに悪いところはなく、おそらく術後よくある小さい無気肺が肺炎を起こしたものと考えられました。

それらへの治療を進めつつ、しかしビリルビンが急に上昇して9に達したためICUに戻っていただき、透析やビリルビン吸着などの集中治療を肺炎治療などとともに行いました。

一時は危険な状況のときもありましたが、術後経過2週間半で何とか落ち着き、一般病棟へ戻られました。

その後は毎日運動や食事を進め、術後4週間で元気に退院されました。

退院の日には腕をとって、私も思わず泣いてしまいました。

あれから2年以上が経ち、九州から飛行機で外来へ定期健診に来られます。お元気なお顔を見るたびに苦しかったときを想い出します。

いのちがけの戦いに勝った人だけがわかる、生きることの素晴らしさを共に感じています。

頑張ってくれたチームの諸君と、誰よりも患者さんに感謝申し上げます。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 僧帽弁の再々々手術をミックス法で

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機械弁つまり金属でできた人工弁は多くの弁膜症患者さんをお助けして来ました。

今後もその貢献は続くでしょう。

しかし自然の弁とくらべて弱点があり、注意が必要です。

以下の患者さんは10年前に他院(関東地方)にて機械弁の手術を受けられました。

Gum06_fr01002-sその2年後、感染つまりばい菌が機械弁を襲い、弁が外れていのちの危険が迫ったため、再度機械弁を入れる手術を受けられました。

しかし人工弁は異物であり、ばい菌に対する抵抗力はありません。これが自然の弁と大きく違う点のひとつです。

ばい菌がいるところへ人工物・異物を植え込まざるを得ない状況から、また新たな感染が起こり、新しい人工弁もまたはずれるという事態が起こったようです。

こうして2年後に3度目の僧帽弁手術を同じ病院で受けておられます。

3度目の手術で何とか落ち着いたようですが、やはりまた弁を縫い付けたところの一部が外れ、そこから血液が漏れ、逆流したようです。

Scho049-sこういう場合、その逆流は次第に増加し、そのために溶血(血液が壊れる)が起こり、高度の貧血のために頻繁に輸血を行わねばならなくなりました。

また溶血が続けば腎臓が次第にやられていきます。

人工弁とその周囲の逆流による貧血、心不全、腎機能障害、そしてやむなく輸血を続けておればいずれは肝炎にもなるでしょう。

ちなみにProBNP(心臓のホルモン)は6330と異常高値、総ビリルビン3.9と黄疸あり、LDH 1964と強い溶血の所見、輸血にもかかわらずヘマトクリット30と貧血が進行していました。

心エコーでも僧帽弁(人工弁)周囲に強い逆流が2つもあり、右室圧も50-55mmHgと肺のうっ血が進んでいました。

しかし4度目の心臓手術とは世間一般にはかなり危険なこととされています。

 

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赤血球の姿です。これが壊れる(溶血)と、腎臓が次第に悪くなってしまいます

再手術や弁膜症になれたチームだけが救命できる、そういう手術です。

 

患者さんとそのご家族は生きるために一生懸命勉強され、弁膜症や再手術を得意としている外科医や病院を探されました。

そして私の外来へ来られました。遠い関東から手術を求めて来て下さったのです。

調べますと機械弁が僧帽弁の位置に縫い付けられているはずのものが、すでにかなり外れており、逆流も強く、貧血と腎不全が進行していました。

もはや手術しか救命する手立てはないという判断になりましたが、前回の手術で大動脈の枝が胸骨に食い込んだ形になっており、胸骨をのこぎりで開けたとたんに大出血が起こりやすく、いったんそれが起これば命にかかわる事態になるため、対策を考えました。

その結果、若い患者さんたちに行っているミックス手術とくに右開胸で小さ目の創で手術をするポートアクセス法が一番良いのではということになりました。

右開胸ならば大動脈の枝と胸骨が癒着していても出血などの問題は起こらず、スムースに手術できます。

ポートアクセス法は一般には創を小さくするという若者向けの美容効果狙いの手術という一面がありますが、この患者さんの場合は一義的に安全狙いでした。

左房剥離手術では予定どおり右開胸で左房まではアプローチできました。

特殊な状況のためいつものポートアクセス法よりは大きめの切開をもちいました。

しかしさすがに上行大動脈付近がガチガチに癒着し、これを遮断できない状態です。(左写真の矢印は剥離中の左房を示します)

そこで風船を上行大動脈の中に入れて内側から遮断しようとしましたが、

これもなかなか良い位置で安定せず、ここは人為的な心室細動で短時間心臓をけいれんさせ、その間に左房を開けて治すことにしました。

この方法はいざという時に有用な方法ですが、短時間しか安全には使えません。

人工弁外れていた部位

 

左房を開け、直ちに僧帽弁を調べると、

すでに3分の1周は外れており、残りもかなり弱っていました。

右写真の矢印は人工弁の一部、はずれていた部位を示します。

これは縫合部を補強するより新しい人工弁を入れ替えるほうが早いと判断。

切除した人工弁ただちに古い弁をはずし、新しい弁を縫い付けました。

(左写真は取り外した古い人工弁です。

右上の少し白っぽいところが完全にはずれていた部分で、その前後もすきまが開いていました。)

ただ以前の手術で裂けて外れていた部位は自然の弁輪がなく、

そのまま人工弁を縫い付けてもまた外れかねない状態でした。

僧帽弁輪補強パッチそこでウシ心膜であらたな弁輪をつくりつつ、新しい機械弁をがっちりと縫い付けました。

時間の余裕がないため、すべて一発で決める必要がありましたが、確実に処理しうまく行きました。

短時間で左房閉鎖まで進み、心臓の拍動を再開し、無事手術は終わりました。

(下の写真は新しい人工弁を取り付けつつあるところです。)

人工弁が半ば縫着されたところ術後経過は4回目の手術とは思えないほど順調で、翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられ、

術後10日あまりで元気に退院されました。

 

外来の定期健診でお会いするのが楽しみです。

心臓が良くなったため、貧血は消え腎臓も回復し、これから体力をつけて元気に楽しく過ごして頂ければ幸いです。


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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  ハートポートとは
  
  ポートアクセスの位置づけ
  
  ポートアクセス法が前向きに安全な場合
  
  美しいポートアクセス・心臓手術のためのLSH法とは
  
  ポートアクセス法にかかる費用は?
  
  ミックスは危険なの
  
  ミックスと術後の痛み軽減について
  
  ミックスの手術で社会復帰が早いわけは?
  
  心臓手術と美容について
  
  もうひとつのミックス手術、胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 心臓手術:ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
  
僧帽弁

  ミックスによる僧帽弁形成術

  ミックスによる僧帽弁置換術

  ポートアクセスによる僧帽弁形成術

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お便り59: 被災地支援へ!ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: ポートアクセス法による僧帽弁形成術で元気になられた患者さん

お便り(心臓手術の体験記)68: ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り(心臓手術の体験記)74: ポートアクセス法で僧帽弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

 

 

 

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執筆:米田 正始
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お便り82: 3度目の心臓弁膜症手術で

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弁膜症とくに機械弁つまり金属の人工弁の手術のあとは長年月にわたり、丁寧な治療やフォローアップが必要です。それによって元気で楽しい生活を長期間楽しむこともできます。そうした患者さんの人生をお支えするのも私たちの役目のひとつです。そこでは内科の先生方や開業医の先生方とのチームワークもたいせつです。

 

以下のお便りは東北地方在住の60代女性患者さんからA335_001のものです。

 

若いころ、僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連切開術を受けられ、いったんお元気になられました。

その効果は20年近く続きましたが、そこで弁がまた狭くなり、カテーテルによる僧帽弁形成術を受けられました。

 

その後経過はまずまず良好でしたが、数年後また僧帽弁が狭くなり、大動脈弁もあわせて狭くなっていたため、ついに僧帽弁置換術と大動脈弁置換術を受けられました。どちらも金属製の、いわゆる機械弁でした。

 

以後も現地の大学病院に通院し、ワーファリンの治療を受けておられました。

 

15年経って、大動脈弁が狭くなって来ました。パンヌスと呼ばれる、患者さんご自身の組織が増殖し、機械弁の動きを妨げるようになったのです。

 

さらに2年たち、いよいよ弁が狭くなって、危険な状態となったため、ネットや本で勉強し決心して私の外来に来られました。遠方にもかかわらず、列車で長時間かけてお越し頂きました。

 

調べてみますと弁がきびしく狭くなり、しかも別の弁も二次的に逆流し、心不全が悪化していました。

 

再々手術はリスクがやや高くなりますが、このままでは永く生きられない危険な状態で、こうした手術に慣れている私たちに任せたいとのご希望のため地元の病院のご推薦も得て手術に踏み切りました。

 

 手術では心臓と周囲組織との間の癒着をはがし、それから大動脈弁とパンヌスを切除し、新しい人工弁を入れ、三尖弁も形成して無事終了しました。

 

術後経過は良好で、翌朝には集中治療室を退室され、術後10日目に元気に退院されました。

 

遠方のため、地元の病院と協力し役割分担しながら、名古屋へは時々健診に来られます。お元気にしておられます。

以下はその患者さんご本人からいただいたお礼のメールです。

 

 ***********患者さんからのお便り*********

(前略)

今私は台所で料理をしたり秋植えした花眺めたり、スーパーで買い物をしたり、また散歩をしていてもこのようにできるのは本当に米田先生に出会えて手術して頂いたからだなと毎日毎日思いながら喜びをかみしめ感謝しております。

三度目の手術が必要とわかった時の不安、ハイリスクであるらしいことなど考えて、いてもたってもいられずいろんな本買って読んだりネットで朝から晩まで調べました。

そして米田先生のページ見つけたのです。

読んでいくと先生の患者に対するあたたかい人間性や考え方とても尊敬できました。

そして米田先生にすべてをかけてお任せしようと決めました。

先生のページすべてネットから印刷しました。

だいぶ厚くなりましたが、何回も何回も読みました

まだ行ったこともない名古屋にはるばる主人と不安抱えながら行って説明聞き手術日まで決めました。

一回の外来ですべて検査できたのも助かりました。

 
手術も苦しいとか痛いとかなく入院もアッという間の夢中の二週間でした。

私は麻酔で何もわかりませんでしたが、さぞかし先生方は大変だったと思います。

外来で米田先生お見受けして思わずお声おかけしても気さくにお話ししてくださり本当にありがたいです。

治して頂いた命大事にしていきます。本当に有難うございます。

感謝

    

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