事例 心房縮小メイズ手術

Pocket

心房縮小メイズ手術では通常のメイズ手術では治りづらい難治性心房細動の除細動に効果的です。

 

拡張した左房(左心房)を肺静脈を除外するラインで折り畳んで縮小します。

その折りたたみ線を冷凍凝固し、折り畳んだ左房を電気信号が行かないようにします。

折りたたむため、出血はほとんどなく、時間的にも短時間でできます。

折りたたんだ縫合線で冷凍凝固するため、折りたたまれた左房壁は電気信号が流れなくなり、切除したのと同じ姿になります。

しかしあくまでも折りたたみですから後出血もほとんどありません。

 

71_2

写真左:手術前。左房が高度に拡張しています。   

写真右:手術後。左房は小さくなりリズムも正常になりました。

一般に行われているメイズ手術とくに高価な器械を使う方法ではこうした患者さんの不整脈を治すことは難しいですが、EBMにもとづいて開発した心房縮小メイズ手術では治せる可能性が高いです。

 

さらに現在はポートアクセス法などのMICSつまり小さい皮膚切開で行う患者さんにやさしい手術で、この心房縮小メイズは可能です。

カテーテルによるアブレーション治療法が進歩しても、こうした巨大左房の患者さんにはやはり外科手術が必要なのです。まして僧帽弁形成術などが必要な僧帽弁閉鎖不全症にもとづく心房細動ではいっそう外科がお役に立つのです。もちろんハートチームとして内科の先生方と協力しての仕事であるのは言うまでもありません。

こうして心房細動の手術もさらに進化を続けています。

 

メモ: 巨大左房というだけでも長期的に予後が悪くなるという報告が多く、この点でもこの手 術法は患者さんに役立つものと考えています。

学会などで国内外の腕利きの先生方とよくディスカッションし、これから使いたいと言って下さる方が増えてきました。

とくにアメリカや中国など海外の先生でそういう仲間が増えたのはうれしいことです。

 

註: EBM: 証拠にもとづく医学。この場合は心房細動は心房サイズが大きいと治りにくいというデータが多数発表されていることを示します。

    Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ


心房縮小メイズ手術のページへもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 心筋梗塞で乳頭筋断裂した僧帽弁閉鎖不全症への弁置換術

Pocket

患者さんは60歳女性。

急性心筋梗塞後、乳頭筋断裂による虚血性僧帽弁閉鎖不全症を発症しました。


たまたま大動脈弁閉鎖不全症もあり、心臓と全身の状態を考慮し、ワントライで確実に完成する2弁置換を僧帽弁大動脈弁に施行しました。

術後元気に回復されました。

 

611.体外循環下に心臓を止め、左房を右側切開して僧帽弁を見ているところです。

断裂した乳頭筋先端以外は温存されています。乳頭筋の一部が見えます。

この乳頭筋温存により術後の左室機能は良好に保たれます。

.

62_22.切除した僧帽弁と乳頭筋です。

乳頭筋のかなりの部分が心筋梗塞のためちぎれています。

最近増加している虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは心筋梗塞後という意味では似ていますが、乳頭筋そのものが物理的に破壊されているという意味では少し違います。

そこで手術で治すポイントも違ってきます。.

 

 

.

633.人工弁(機械弁)の縫着途中です。

手術前、急に発生した逆流のため左房が小さく、視野が悪いためさまざまな工夫を行います。

状態に余裕があれば僧帽弁形成術を行いたいところですが、

他弁の疾患があり機械弁がもともと必要であったこと、さらに患者さんの安全上、一撃離脱が必要な状況のときにはこのように人工弁使用を決断しています。

この患者さんもそうした判断でまもなくすっかりお元気になられました。

 

弁形成手術と弁置換手術のEBMで盲点になっているのは、弁形成で長時間ねばったあとでそれがうまくいかず、そのあと弁置換して、結果が悪い場合、それは弁置換のせいにされる場合が多々あることです。

患者さんの真の安全性を考えるとき、こうしたことも検討する必要があります。

この手術事例は5年以上前のことですので、今なら蓄積したノウハウを活かして弁形成を考慮するかもしれません。

ただし同時に患者さんの体力と心臓の力を考えて確実に短時間で完了するという方針が揺るがないようにすることが患者さんの真の安全のために必要でしょう。

 

  Heart_dRR
お問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

どんな場合に僧帽弁置換術を?のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 腱索「転移」(トランスロケーション)術

Pocket

患者さんは46歳男性。

虚血性心筋症同・僧帽弁閉鎖不全症・慢性心房細動に対して腱索「転移」術・左室形成術 Dor手術、心房縮小メイズ手術などを施行。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は弁そのものの疾患ではなく左室の疾患です。

左室が心筋梗塞のため変形し拡張した結果、僧帽弁が異常に引っ張られ、うまく閉じなくなった状態だからです。


このため単に弁を治すだけでは本質的な治療になりません。

可能な限り左室そのものを治すことが理想的です。

しかし左室を治し切れない状態のときに僧帽弁そのものを治す方法が必要です。

腱索「転移」法はそのために開発した方法で僧帽弁形成術のひとつです。

 

51_31.僧帽弁前尖が二次腱索に引かれて閉じなくなっています。

これをテザーリングtetheringまたはテンティングtentingと呼び、安定した弁形成術にはこれを解決することが大切です。

手術ではまず二次腱索を切断し、ついで二次腱索と同じ力のかかり方を人工腱索にて再建します。

つまり各乳頭筋の先端と僧帽弁輪前正中部をつなぎます。

.

2.腱索転移により前尖は自由に動けるようになりテザーリングは解消(A)、

52_2しかも乳頭筋と弁輪の連続性は人工腱索によって保たれて心臓の力は守られています(B)

左室壁と僧帽輪が乳頭筋を介してつながっていることは左室のパワー効率を保つために重要です。

これはスタンフォード大学のCraig Miller先生やパリのCarpentier先生らが二次腱索の重要性を説いて来られた内容を考慮してのことです。

.

しかもこの方法で乳頭筋が自然と同様に前方に引かれるため、最近問題になっている後尖のテザリングはかなり解消しています。

この方法が生理的と言われる所以です。私たちが開発した新術式を権威あるJTCVS誌が表紙に掲載して下さいました


さらに単に二次腱索を引くだけの方法よりも拡張期テザーリングが起こりにくく、引きすぎが予防できるため拡張機能も守られやすいと考えています

この方法は光栄なことにアメリカのトップジャーナルの表紙にも掲載して頂きました(写真右)

日本国内でも和歌山日赤医療センターの青田先生はじめ、いくつかの有力施設で活用いただき、光栄に思っています。

 

現在はこれをさらに改良した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization法)によって、前尖のテント化はほぼ解決、後尖のテント化も効果的に取れるようになりました。

2011年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁部門であるMitral Conclave 2011にて発表いたしました。

川崎医大循環器j内科の吉田清先生らとの共同研究です。多くのご質問やご意見をいただき、うれしく思っています。


テント化がきれいに取れれば、弁形成の効果は長持ちします。患者さんにとっての恩恵は大きいでしょう。

Heart_dRR
お問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

もとのページへもどる

虚血性僧帽弁閉鎖不全症のページへ

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 ちょっと変わった僧帽弁形成術

Pocket

患者さんは26歳女性。

活動期の感染性心内膜炎( IEと呼びます)に対して僧帽弁形成術を施行しました。

4111.細菌感染のため破壊された僧帽弁の前尖・後尖が見えます。

最初は前尖から発症したものと考えられますが、感染があちこちに波及して破壊された部位がいくつも見られました。

若い女性の患者さんですので、通常以上に(人工弁による弁置換ではなく)僧帽弁形成術を行う意義が大きいため、じっくり形成をしすることにしました。

.

42_22.上記の感染部をひとつ一つ (僧帽弁前尖、後尖、弁輪それぞれに) 切除・再建・形成し、

感染部を完全に切除するとともに弁が確実にかみ合い、逆流が再発しないようにしました。

普通の僧帽弁形成術と違うのは、感染組織を徹底して摘除することと、それを確実に再建すること、糸やリングなどの異物はなるべく使わないか、感染の無い安全な部位での使用に限定することです。

リングをつけて逆流も止まりました

 

431_23.逆流試験OKです。

これでほぼ手術完了です。

.

.

.

444.心エコーで見ても弁は正常化し、その後5年以上経っても感染再発ありません。

弁形成術によりこの患者さんはワーファリンが不要となります。普通の妊娠・出産なども可能になりますし、生活や仕事もより病気離れした形になります。

外科医として患者さんの人生をお助けできるほどうれしいことはありません。
.

今後妊娠出産を考えておられる女性や、格闘技などの激しいスポーツを続けたい男性、あるいは毎月の通院を忘れて仕事等に没頭したい人たちには弁形成術は極めて有効です。

人工弁(機械弁)はずいぶんよくなりましたが、まだQOL(生活の質)においては弁形成には及びません。

僧帽弁形成手術の弱点は、必ずしもワンパターンの手術ではなく、豊富な経験と深い研究・考察が求められるため、一通り修練すればどの心臓外科医でもできるという手術ではないことです。

僧帽弁形成術が複雑になればなるほど、経験量の差がものを言うのでます。

さらに現在ではポートアクセス法などのミックス手術つまり創が小さく、骨も切らずにできる心臓手術で痛みも軽く、仕事復帰も早く、心の創もちいさくできるようにしています。若い女性患者さんにはとくに適していますが、男性にも、そしてご高齢の方にも喜ばれるのは人間みな美しいものを愛するのは同じだからと思います。

Heart_dRR
お問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁形成術についてのページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 大動脈弁形成術

Pocket

患者さんは17歳男性。

大動脈弁閉鎖不全症 III-IV度、二尖弁です。

患者さんの年齢や希望を考慮して大動脈弁形成術を施行しました。

8年後も健康な日常生活を送っています。

 

81_21.III度以上の大動脈弁閉鎖不全症が認められます。

高校生で機械弁の大動脈弁置換術AVRは毎月病院通いとなるのはかわいそうですし、

生体弁は成長期でカルシウムの代謝が盛んなため長持ちしません。

 

ロス手術では肺動脈弁のホモグラフトが日本では入手困難という問題と長期成績に疑問のデータもあるため選択肢からはずしました。

大動脈弁形成手術がこの患者さんに最も適切な術式との判断に至りました。

 

822.大動脈弁尖の余剰部分を形成するため評価とデザインをしているところです。

弁の形を直すことは難しくないのですが、それが長持ちするように、耐久性のあるものにすることは、必ずしも簡単ではありません。

組織そのものが弱い、あるいは病気で壊れていることがしばしばあり、肉眼では見えないレベルの病変も少なくないからです。

.

83_33.交連部の形成中です。

この患者では交連部に小穴があいていたため、

弁中央部ではなく交連部で形成し、

穴の部分を補強しました。

.

.

..

.

844.問題にならない程度の軽微な逆流のみ残し大動脈弁形成は完了しました。

もうすぐ術後10年になり、この大動脈弁形成術は患者さんに役立ったと言えるかもしれません。

青春時代をワーファリンなしで行けるというのは様々な点で患者さんに大きなメリットがあります。

 

現在ゴアテックス糸を用いた弁の形成・補強や自己心膜・ゴアテックスをもちいた弁の補充その他の工夫が報告されています。

まだ僧帽弁形成術ほどの完成度には至っていませんが、わたしたちも海外の仲間たちの経験と私たちのこれまでの大動脈弁形成術のデータを突き合わせ、より安定度の良い自己心膜による弁形成術を進めています。


それと並行して、ポートアクセス法(創が小さく仕事復帰も早いです)をもちいて大動脈弁形成術や大動脈弁置換術を行うことも推進しています。患者さんはご自身の仕事や生活にもっとも適したものを選べるわけです。

今後さらなる進展が望まれる領域です。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

大動脈弁形成術のページに戻る

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 複雑な僧帽弁形成術

Pocket

31_2患者さんは58歳男性。

僧帽弁前尖・後尖の逸脱と前尖の瘤化による僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術を施行しました。

Barlow病(バーロー病またはバーロー症候群)つまり組織が弱く弁全体が伸びて変化する病気に近い状態でした。

 1.

体外循環下に左房を右側から切開して僧帽弁にアプローチしました。

僧帽弁をしっかりと見ることのできる術野を出すことが良い手術を行う第一段階となります。

前尖(弁の一部)の腱索が切れ、その断端が見えています。311_11

 

さらに長期間の逆流による二次的変化も加わったためか、前尖は伸びきって瘤のようになり、後尖も腱索の伸展を合併して逸脱しています。

弁葉(リーフレットと呼びます)は柔らかさが十分保たれているため、僧帽弁形成術の適応と判断しました。

複雑弁形成ではありますが、患者さんの強いご希望もあって、弁形成術を行うことにしました。               

 

322.

まず後尖の逸脱部分を切除再建するところです。

パリのCarpentier先生が確立した僧帽弁形成術である四角切除法を行い、その部の弁輪を再建してから弁葉も再建しました。

弁葉が余り過ぎている場合は三角切除を活用するケースもあります。

弁葉の再建に使う糸の結び目にも注意を払います。

前尖と接触する部位の後尖の再建では結び目が左室側にできるようにし、長期間の弁の保護を図ります。

これはEBMに基づいた考えです。


333.

前尖の強い病変部を切除し、多数の人工腱索を立てているところ。

 

前尖のほとんどが支えを失って逸脱していたため、合計8本の人工腱索を立てて、前尖全体がかみ合うようにしました。

複雑な僧帽弁形成術には、こうした方法以外に、後尖の腱索を移動させる方法や伸びた腱索を縮めて使う方法その他さまざまな方法があります。

私は病気の可能性のある腱索を使わないことと、後尖に新たな病変を作らないことを基本方針とするため、人工腱索を好んで用いています。

実績あるアメリカのクリーブランドクリニックのデータで病気のある腱索を短縮する方法は良くないことが示されており、私自身、人工腱索はトロント時代から20年近い経験を持っており、すでに10数年以上の長期成績が良好であることが示されているのも理由の一つです。

 

344.

リングをつけた後、水を注入して逆流が無いことを確認(逆流テスト合格) 白い帯状に見える物がリングです。

 

このケースではDuranリング(柔軟リング)を用いました。

僧帽弁形成術で広く使われている逆流試験(生理食塩水を左室に注入して逆流の有無を調べます)にはいくつかのピットフォール(落とし穴)がありますので、それを十分考慮にいれて弁の状態を評価します。

 

351_235115.術前エコー・ドップラー。

前尖後尖の逸脱と弁の肥厚・瘤化、複数の病変のため複雑な逆流(矢印)が見られていました。

                                    

6.術後エコー・ドップラー。逆流は消失し僧帽弁の形も改善しました。3612_2

3611これによって僧帽弁形成術後、長年月の健康な生活が期待されるようになりました。

ワーファリンも不要で病院にも定期健診程度の通院で済むようになりました。

この患者さんのような複雑僧帽弁形成例ではさまざまな方法をその患者さんの特徴に合わせて選択し駆使することで良い結果が得られます。

ひとつのオーダーメイド治療と言えるかも知れません。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁形成術のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 やや複雑な僧帽弁形成術

Pocket

患者さんは55歳女性。

僧帽弁前尖の腱索断裂による逸脱のための弁閉鎖不全症に対してゴアテックス人工腱索と僧帽弁輪形成術(MAP)を組み合わせた僧帽弁形成術を行いました。

また慢性心房細動に対してMaze(メイズ)手術を併せて施行しています。

21_31.僧帽弁前尖の腱索が断裂し(矢印、ピンセットで断裂した腱索を引いています)、前尖は強く逸脱しています。

前尖そのものの変形や変化は軽いため、腱索を人工のものに変えるだけで弁の逆流は解決できると判断しました。

私は1988年から僧帽弁形成術の際に人工腱索(ゴアテックス製です)をトロント大学のDavid先生のご指導で使用しており、20年のノウハウ蓄積があります。.

22_22.前尖に人工腱索(矢印)を刺入したところです。

この人工腱索の適切な長さの設定が手術成績を左右する重要項目です。

この術式はさらに進化を遂げ、人工腱索のフォローアップが10年を超えたことを受けて、現在は必要があれば12本まで人工腱索を立てて僧帽弁を再建するようにしています。

つまり弁葉(弁のひらひらした部分)さえ大丈夫なら、腱索は全部だめな状況でも弁形成はできるというわけです。

 

23_33.僧帽弁輪形成 (MAP) のリングを取り付けているところ。

これは長期成績を改善する上で極めて重要です。

僧帽弁形成術に使うリングには硬いタイプと柔軟なタイプ、全周性とそうでないもの、患者さんの心膜使用のものなどがあり、適宜選択しています。


24_34.左室へ生理食塩水を注入しても弁逆流なく、弁を押して逆流することを確認(逆流試験OK)。

これで僧帽弁閉鎖不全症は解消しました

.

 

.

.

25_35.肺静脈隔離術のあと僧帽弁輪周囲部を冷凍凝固(矢印がその器具)して心房細動を治しているところ。

これをメイズ手術と呼びますが、肺静脈隔離術単独よりも効果が高いことが本家Cox先生などから報告されています。

現在はさらに強化した方法をもちいています。

通常のメイズ手術が効きにくい巨大左房の患者さんや心房細動期間が10 年ー20年を超える患者さんでは心房縮小メイズ手術を開発し、十分除細動が可能な状況になりつつあります。

左上に僧帽弁輪形成(MAP)のリングが見えます。

僧帽弁形成術の良さの一つは手術のあと、血栓ができる心配が少ないため、ワーファリンを飲まずにすむことです。

しかし僧帽弁の患者さんはしばしば心房細動を手術前にもっておられ、それをそのままにしておけば、せっかくの手術の後もワーファリンを飲む必要が生じます。

そうすると年1-2%の割合で脳出血や脳梗塞などの合併症がおこってしまいます。

そこで僧帽弁形成術にメイズ手術それもより効果的なものを行う意義ができるわけです。

心房細動を治してこそ、弁形成術の意義が100%に高まります。

 

さらにこの程度の僧帽弁形成術なら現在はミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)で形成し、術後のすみやかな社会復帰を促進しています。

創も小さく、見えにくいため若い患者さんたちにはとくによろこばれています。

 

メモ: 形成にもちいるリングや人工腱索(糸)は人工物ですが、人工弁とは違うのですか? と聞かれることがあります。

お答えは: 人工弁とはまったく違います。

リングや糸は手術のあと、まもなく患者さんご自身の組織が張ってなめらかになり、患者さんご自身の組織のような形になります。

そのためリングや糸のためにワーファリンが必要になることはありません。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁形成術のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 典型的な僧帽弁形成術

Pocket

患者さんは39歳女性。 後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症

海外(フィリピン)のご出身で将来もしもの帰国などの場合の安全性も考え、僧帽弁形成術が極めて意義ある状態でした。もし僧帽弁置換術になってしまうとワーファリン(血栓予防剤)のお薬が一生必要となり、国や地域によってはきちんと使えず危険なことになりかねないからです。

11_71.  僧帽弁後尖の一部が伸びきって だらだらになっています。

.

典型的な後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症です。

前尖は問題ないという所見でした。僧帽弁形成術のもっともやりやすい、良い適応といえましょう。

現在ならミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)とくにポートアクセス手術で小さい皮膚切開ごしに行い、早い社会復帰を促すケースでしょう。


12_52.  伸びきった後尖の一部を切除 (矢印)しているところです。(憎帽弁四角切除術)

.

これは30年以上の長年の歴史と実績がある方法で、一旦弁の逆流が止まれば僧帽弁形成術として良い結果が長持ちします。

 

 

 四角切除以外に三角切除、ゴアテックス人工腱索設置その他いくつかの変法があり、患者さんの状況に合わせて適宜活用しています。
.

13_23.  一部切除した後尖を再建修復したところ。

組織がちぎれないように工夫しながら再建します。

また切除範囲が大きくなりすぎると問題が生じるため、他の方法と取捨選択したり時には併用するケースもあります。              .

僧帽弁形成術では必要に応じて後尖の高さ調整をしてSAM(収縮期の前尖前方移動)が起こらないようにします。

 .
14_44.  僧帽弁輪も形成し(リングが一部見えています、矢印)、

管から左室に水を入れて逆流がないことを確かめています。逆流試験です。

僧帽弁形成術に使うリングは大きく分けて柔らかいタイプと硬いタイプがあり、それぞれ特長があり、使い分けています。
 

15_25.  ここで弁を押して多量の水や血液が流れで出る(矢印)のを見て、

僧帽弁が漏れなくなったことを確認しました。

逆流試験合格です。

逆流試験にも多少の弱点があるため、最終的には体外循環を降りてから、経食道エコーで確認します。

僧帽弁形成術がこのようにきれいに仕上がりますと、10年後もほとんど(90数%)の患者さんは問題なく、20年後でも大半の患者さんはお元気です。

しかもワーファリン不要のため病院に毎月通って血液検査と処方を受ける必要がないため、健康人と同じ形でのびのびと普通に暮らせます。

激しいスポーツや妊娠出産なども可能になります。

僧帽弁形成術は少し複雑になりますとワンパターンの操作では治し切れないため、豊富な経験量がものをいう手術です。実績で医師や病院を選ぶことが安全上大切です。

それは患者さんの権利なのです。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁形成術のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。