【第二十五号】 新年おめでとうございます

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【第二十五号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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皆様、新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い申し上げます。

さきほどウィーンから帰国しました。

ちょっとしたご縁で年末年始を向こうで過ごすことになり、仕事山積の中で苦しかった

のですが、周囲の方々のおかげで何とかスケジュール調整がつき、行ってまいりました。

向こうでの話は私のHPの心臓外科医の日記ブログのページに載せてありますので

よろしければご覧ください。

ウィーンで年末年始を過ごさせて戴きました

です。

そこにもお書きしましたが、今年の秋にもウィーンフィルメンバーの演奏会を関西で

予定しておりますので、その際にはぜひお越しください。

本日関空経由で帰国しましたが、晴天で比較的暖かく、ネットで聞いていた大雪とは

だいぶ違うため一安心いたしました。

皆様お風邪などひかれないよう、ご自愛ください。

キーは基本的な健康管理ですが、やはり気道つまり口から気管支・肺に至るまでを

加湿してやさしい環境を体内にもつくることと思います。お肌がかさかさの状態では

肺の中もかさかさで、ばい菌やウィルスに負けやすい状態です。詳細は別ページを

ご参照ください。

http://www.masashikomeda.com/web/2009/08/post-9b03.html

です。

ともあれ本年もよろしくお願い申し上げます。

平成23年1月3日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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⑥c デービッド手術(David手術)―さらに磨きをかけて高いQOL生活の質へ 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ デービッド手術とは?(自己弁温存・大動脈基部再建

大動脈基部が拡張すると大動脈弁閉鎖不全症が発生します。あるいは大動脈壁が破れたり裂けたりすることもあります。(AllAboutから).

**デービッド手術(David手術/Reimplantation)**は、
大動脈基部拡張症で広がった根元(バルサルバ洞や弁輪)を人工血管で再建し、ご自身の大動脈弁(自己弁)を温存する根治手術です。

私の恩師・デービッド先生が開発されました。

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  • 大動脈基部が拡張すると

  • 弁尖が大きく壊れていない場合、人工弁を使わずに自己弁を守れるのが最大の特徴です。

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◆ 手術の流れとポイント(わかりやすく)

David-op.

  1. 拡張した大動脈基部を切除

  2. 自己の大動脈弁(弁尖)を人工血管内へ“移植”するように固定(再植)

  3. 左右の冠動脈の入口(ボタン)を人工血管へ縫合

  4. 人工血管と上行大動脈を吻合して再建完了 (事例1を参照してください)

  • 人工血管のサイズ設定縫い付け位置が逆流防止のカギ。(参考記事はこちら

  • 今後は3つのバルサルバ洞付き人工血管を用い、生理的な流れと耐久性を追求する方向が予想されます。

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◆ どんな人に向いている?(適応の目安)

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  • 大動脈基部拡張症+大動脈弁閉鎖不全症で、弁尖の破壊が少ない方 (事例2

  • マルファン症候群など結合組織疾患(事例)、大動脈二尖弁(BAV)、慢性解離(事例)、炎症性大動脈疾患(大動脈炎など)(事例・大動脈炎にデービッド手術)で弁尖が保たれている

  • 妊娠を希望する方、スポーツや仕事を続けたい若年~中年の方(抗凝固薬(ワーファリン)を避けられる可能性があるためQOL面で有利)

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手術タイミング(径の目安)

  • 多くの施設:50mm前後で検討(従来55mm→近年は早め推奨)

  • 結合組織疾患(マルファンなど):45mm程度から早期手術を検討
    ※個別の体格、増大速度、家族歴なども加味します。

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◆ デービッド手術のメリット(自己弁温存の価値)

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  • 人工弁を使わない

    • 機械弁のワーファリン生涯内服を回避

    • 生体弁の耐久性低下・再置換の懸念を回避

  • 心臓の自然な動きを守りやすく、長期安定が期待できる

  • 若年者のQOL(妊娠・出産、スポーツ、仕事)で利点が大きい

→→もっと見る

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◆ リスク・限界と、よくある疑問

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  • 初回AVR(大動脈弁置換術)より手技が複雑:熟練チームでの実施が必要

  • 高圧系の再建で出血リスクがやや高い

  • 弁尖損傷が高度な場合は追加の弁形成が必要/人工弁置換へ切り替えの可能性も

  • MICS(低侵襲):症例により小切開・部分胸骨切開の工夫が可能(完全MICSは適応を吟味)

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FAQ
Q. ベントール(ベンタール)手術との違いは?David & Bentall
A. ベンタールは基部+人工弁で置換、デービッドは基部再建+自己弁温存。弁尖が保たれるならデービッドで抗凝固回避が期待できます。


Q. 長持ちしますか?
A. 適切な症例選択と正確な幾何学再建で長期安定の報告が多数あります。早めの時期に受けるほど有利です。

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◆ 当院の工夫(安全性と自然さの両立)

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  • 針孔出血の少ない人工血管バルサルバ洞付きグラフトで流れを自然に

  • 弁輪・ST接合部の幾何学最適化(Brussels height・各種フォーミュラの活用)

  • 弁尖補強(自己心膜の最小限パッチ等)や併用弁形成再発リスクを低減

  • 肝機能・出血管理まで含めた周術期プロトコル(無輸血希望にも個別対応)

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◆ ベストな時期に、ベストの術式を

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  • **自己弁が保たれている「今」**が、**将来の自由(QOL)**を左右します。

  • 待ちすぎて弁尖が壊れる前に――自己弁温存の選択肢を検討しましょう。

  • 画像所見・体格・併存疾患・生活設計(妊娠、競技、仕事)を踏まえ、ハートチームで最適解をご提案します。

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◆ まとめ

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  • デービッド手術は、自己弁温存で大動脈基部を再建する根治術

  • 抗凝固回避・自然な心機能・長期安定が期待でき、若年~中年でQOL向上に直結

  • 適応とタイミングが重要(結合組織疾患は早めの判断)

  • 熟練チームで安全性と耐久性を両立し、必要に応じて追加弁形成小切開も併用

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「人工弁以外の道はない」と言われた方も、一度はご相談ください。
生活の目標(仕事・スポーツ・妊娠)に沿って、自己弁を守る治療を一緒に検討します。

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弁膜症 のページにもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第二十四号】 冬です。ブログと患者さんの声に新記事です

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 【第二十四号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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いつのまにか今年も師走のあわただしい時節になりました

皆さま如何お過ごしでしょうか

私はおかげさまで相変わらずばたばたと忙しく、しかし充実感のある毎日を送

っております。

さて私のHP(心臓血管外科情報WEB http://www.masashikomeda.com/ )で

はさいきんいくつか新しい記事をUpしました。ご覧頂ければ幸いです。

ブログでは日本冠疾患学会という内科外科の協力するユニークな学会での印象

記を載せました。

患者さんからのお便りでは遠方の広島からお越し頂いた感染性心内膜炎の患者

さんや、輸血を受けないことが信条であるエホバ証人の患者さん、そして名古

屋からは少し不便なところから、勉強して信念をもって来て下さった患者さん

などのお便りをUpいたしました。それぞれ思いだせばジーンとする熱いものが

あります。こうした患者さんたちとの出会いは医者冥利につきるものがありま

す。

寒い季節となり、中には心不全の調整がうまく行かなくなり来院される患者さ

んもおられます。夏と比べて冬は弱った心臓には過酷な条件です。平素

の健康管理、つまり塩分の上手な制限や過度のストレスの回避、薬のきちんと

した服用、適度な運動に加えて急激な温度の変化をうまく避けることを実践頂

ければ幸いです。しかし運悪くそれらがうまくできない時にはご相談下さい

皆さまが健康で楽しいお正月を迎えられることを祈ります。

平成22年12月14日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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【第二十一号】 第8回患者さんの会のお知らせ

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【第二十一号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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名古屋では雨模様ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか

さて本日のメルマガは第8回患者さんの会についてのご案内です。

詳しくは下記をごらんください

http://www.masashikomeda.com/web/2010/09/8thptsmeeting.html

時: 平成22年11月7日(日曜日)午後1時から4時まで

所: 祇園ホテル (いつものところです)

会費: 2500円

内容: 1.米田正始のお話 「突然死を防ぐために」
2.質疑応答
3.近況報告
4.その他 (何でもご提案下さい)

時間の都合上、ゆっくりとした個人的ご相談はできないかも知れませんが、その場合はとりあえず概略をお聞きしておいて、その状況に応じて後日機会を設けたく思います。

ご連絡は以下へお願いします

患者さんの会の連絡先 米田心臓外科オフィス 秘書 中村由佳
TEL:080-6105-8231(直通)
FAX:075-712-8835
Eメール:nakamura@heart-center.or.jp です。

2010年9月16日

敬具

米田正始 拝

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第八回患者さんの会のご連絡 

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秋の気配が見えるようになり、ひさしぶりの雨がどこかうれしい時節になりました。 Aki_0054

さて恒例の患者さんの会をまた開いて戴くことになりました。

時: 平成22年11月7日(日曜日)午後1時から4時まで

所: 祇園ホテル (いつものところです)

会費: おひとり2500円

内容: 1.米田正始のお話 「突然死を防ぐために」

恐ろしい話題で恐縮ですが、きっと皆さまのお役にたつと思います

2.質疑応答

(前もってご質問頂ければよりお答えしやすくなります)

3.近況報告

米田ほか若干名の方にお願いしたく思います

4.その他 (何でもご提案下さい)

この会はもとは米田正始の手術を受けられた患者さんとご家族の会でしたが、最近はそれらの方々に加えてご友人や心臓病の方、心臓の健康に関心のある方もご参加戴いています。

またかつて京大病院で米田の手術を受けられた方をご存じでしたらお声をかけて頂ければ幸いです。

なお時間の都合上、ゆっくりとした個人的ご相談はできないかも知れませんが、その場合はとりあえず概略をお聞きしておいて、その状況に応じて後日機会を設けたく思います。

ご連絡は以下へお願いします

患者さんの会の連絡先 米田心臓外科オフィス 秘書 中村由佳
TEL:080-6105-8231(直通)
FAX:075-712-8835
Eメール:nakamura@heart-center.or.jp です。

 

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【第十九号】 ウィーンフィル演奏会のお知らせ

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【第十九号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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残暑の中にも影の傾きに秋の気配を感じる最近です。

ウィーンフィルハーモニー交響楽団のメンバーによる室内楽のコンサートをサ

ポートして10数年が経ちました。といっても私自身はときどき拝聴するだけ

で、私の父が代表世話人のような形でお世話し、最近は大勢の方々のおかげで

運営できているのが実際のところですが。

親善や文化活動としてのコンサートですので比較的安価でまた庶民的な雰囲気

でやっています。

開催地は橿原市(奈良県)・京都市・小浜市(福井県)のみですが、よろしけ

ればご来場下さい。

くわしくはHPをご覧下さい。
http://www.masashikomeda.com/web/2010/09/announce_vienaphil2010.html
です。

2010年9月9日

敬具

米田正始 拝

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【第十七号】 日記に2つの話題をUpしました

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【第十七号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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依然として暑い毎日ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか

さてHPの中の心臓外科医のブログのコーナーに2つの記事をUpしましたの

でご紹介いたします

一つは緑茶のお話で、今一つは日本冠動脈外科学会の印象記です。

緑茶のお話は煎茶道方円流の研修会にて先日講演させていただいた骨子を載せ

たものです。お茶の良さと平素の心臓血管病予防について知って頂ければお役

にたつものと思います。

学会印象記は少し専門的で申し訳ないのですが、専門家はこうした努力を日々

重ねているということを知って頂ければ幸いです。医師や医療関係者の方々に

は参考になるかも知れません。患者さんにとって良い治療が必ずしもできない

現実が日本にはありそれを何とかしたいものです。

これから次第に涼しくなるものと予想しますが、皆さまには健康に留意して元

気にお過ごし頂くことを期待いたします。

2010年9月3日

敬具

米田正始 拝

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日本冠動脈外科学会にて

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遅くなりましたがこの7月29日と30日に大阪のホテル阪神にて冠動脈外科学会がありましたのでその印象を記します。今年の会長は近畿大学心臓血管外科の佐賀俊彦先生でした。
申し訳ないのですがこの記事は一般の皆さまにはちょっと専門的すぎると思います。熱心な医師がこのような努力をしているということを見て頂ければ幸いです。

まず薬剤溶出性ステント(DES)の出現以来、カテーテルによる冠動脈治療(PCI)がますます増えて心臓血管外科もそれへの対応・対策が迫られているという現状を踏まえて、意欲的なセッションが多数みられました。外科手術には患者さんに真に役立つ利点がいくつもあることを確信してのことであったと拝察されます。

私は一日目には名古屋ハートセンターで緊急手術(急性大動脈解離)のため結局参加できませんでしたが、虚血性心筋症に対する左室形成術を再検証するシンポジウムが組まれ、活発な意見交換がなされたようです。

Stich Trial(スティッチ・トライアル)という多施設研究が欧米で行われ昨年発表されましたが、左室形成術に経験豊富な外科医の眼にはあまりのレベルの低さにあきれるような内容でした。しかもその結論が左室形成術にメリットが見られないというものでしたので、大きな議論となり、アメリカ胸部外科学会等でもそれへの対策が進められています。
要するに、私たちが普通あまりやらないような軽症の心筋症に対して行われた左室形成術を検討されたため、当然とはいえ、左室形成術のメリットが見えにくかったわけです。この「欠陥」とも言えるトライアルのリーダーを招待してのセッションとは、会長の佐賀先生の熱い外科医魂に感心いたしました。

そもそも左室形成術をやらねばならない重症例をランダマイズつまりくじ引きで左室形成術をやるかどうかに二分すること自体が難しく、非人道的なことさえあるため、こうしたヘンな結論を出してしまったという意見が多く、一部の軽率な動きのために多くの医師や患者さんが迷惑を被るのは不幸と思いました。

今後、日本の全国データの中から重症例での左室形成術の効果や貢献が調べられ、より実際の臨床現場の実情が明らかになればと思います。

昼前に行われた恒例の理事長講演(瀬在幸安先生)には緊急手術のため参加できませんでした。長年、我が国の冠動脈外科をけん引して来られた理事長の年次報告で、来し方行く末Buxton先生。ちょっと昔の写真ですが。メルボルン大学オースチン病院で心臓外科教授をしておられました。退官後の現在も私立病院で活躍しておられますを示されたのではないかと思います。

一日目午後にはアジア太平洋シンポジウムとして、冠動脈の血行再建の現況が論じられまし  た。司会は私の恩師であるBrian F. Buxton先生と国立循環器病研究センターの小林順二郎先生でした。

Di Giammarco先生。イタリアの山間部の古都キエティで活躍中です。昔遊びに行ったことがあり当時から名人でしたそれと平行してKey Note Lectureとして畏友 Gabriele Di Giammarco先生と T. Bruce Ferguson先生の術中グラフト評価のお話がありました。Di Giammarco先生には元弟子を修練させて頂いたり講演に何度か来て頂いたりお世話になったことが多く、懐かしく想いました。

 2日目の朝に急性心筋梗塞の合併症のセッションで、聖マリアンナ大学の幕内晴朗先生とともに司会をさせて戴きました。急性心筋梗塞後の左室破裂心室中隔穿孔VSPへの外科手術の検討が主で、着実な進歩が見られ、活発なディスカッションができうれしく思いました。これまではむなしく見送った患者さんを自分たちの手で救命できるという、無上の喜びを若い先生方と共有できれば最高です。

午後には日本冠動脈外科学会と日本冠疾患学会との合同シンポジウムがもたれ、画期的なことと感嘆いたしました。三井記念病院心臓血管外科の大野貴之先生と高本眞一先生らがEBMにもとづいて正しい冠血行再建の治療法選択を論じられました。DESバイパス手術を比較したSyntaxトライアルの2年フォローのデータ等からバイパス手術が患者さんの生命予後をDESよりも改善することがあり、このEBMを踏まえた治療選択が現在はきちんと行われていないことへの不満がうかがわれました。

帝京大学循環器内科の上妻謙先生は左主幹部・多枝病変に対する治療戦略を話されました。ひとつの方法にこだわらない、良識とバランス感覚のある先生のお話でした。しかしSyntaxトライアルの結果の解釈は内科の視点からのもので自然なことですが、外科の視点も考慮頂ければと思いました。バイパス手術の方が脳血管障害が多いというのはよく言われることですが、真実は手術時の差はなく、術後数か月間に多量のくすり(抗血小板剤)を使うDESよりも脳梗塞がやや多いのは当然です。バイパス手術が劣るというわけではないのです。それを受けて、私たちは術後のくすりを調整し経過を見ています。

福島県立医大心臓血管外科の横山斉先生はquality controlが効いた場合のOPCABのメリットを示されました。また話題のROOBYトライアル(あの超一流誌、New England Journal of Medicineに掲載)に言及し、不慣れなレジデント(修練医)が難しいオフポンプバイパスを執刀している以上、オフポンプバイパスの成績をうんぬんするのは問題であると指摘されました。納得行く論議でした。

天理よろづ相談所病院の中川義久先生は上記の諸先生方に勝るとも劣らぬバランス感覚の良い先生で、冠動脈だけでなく患者さんそのひとを最もハッピーにするという視点で治療や教育を進めてこられた先生です。今回の講演でもその全人医療としての視点が光っていました。たとえば回旋枝起始部の冠動脈は血管のねじれ運動が強く、ステントには本質的に向かない。とくに動脈硬化のリスクが高い患者さんでこうしたところにガイドワイヤーが通るというだけの理由で何でもステントというのは、単に主幹部病変というだけで何でもバイパス手術というのと同じで、病態の本質をしっかりみるべきと主張されました。j-CypherトライアルでもSyntaxと同様、非保護左主幹部病変プラス3枝疾患の患者さんではバイパス手術が安全との根拠を示されました。多くの外科医はその患者全身を考える姿勢に感銘を受けたことと思われます。

2日目の午後後半は虚血性僧帽弁閉鎖不全症(虚血性MR)一色でした。産業医大循環器内科の尾辻豊先生が虚血性MRの機序と問題点を基調講演された。この中で乳頭筋不全は虚血性MRを悪くするという長年の考えを覆した私たちの研究を引用して下さったのは光栄なことでした。お互いの業績を認め引用する見識を皆がもつことで、日本の医学はさらに発展すると思いました。

それに続くシンポジウムでは大阪大学心臓血管外科の吉川泰司先生・坂口太一先生・澤芳樹先生らが乳頭筋接合術と弁輪形成術の治療成績を発表されました。
和歌山日赤病院心臓血管外科の青田正樹先生は私たちが京都大学で開発した腱索転位chordal translocation を応用した方法で優れた結果を発表されました。皆で創り上げた方法を引用して戴き、光栄に思いました。

東京医科歯科大学の長岡英気先生・荒井裕国先生らは腱索をさまざまな方向にけん引して、最適の方法を探る研究を発表されました。京都府立医科大学の夜久均先生らもいくつかの方向に腱索乳頭筋をけん引し、前方にひく私たちの方法の良さを示されました。こうした優れた仲間たちに私たちの仕事が応用されているのは大変光栄なことでした。
東京大学心臓血管外科の小野稔先生らは乳頭筋をやや古典的な後方つりあげする方法での結果を報告されました。

私たちもこれまで発表してきた腱索前方つりあげをさらに改良した方法を近々発表予定で、また皆で賑やかに勉強できればと思いました。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は外科医が社会に対して貢献できる領域のひとつです。ますますの発展を期待したく思います。

今年の冠動脈外科学会も楽しく勉強になる集まりでした。会長の佐賀俊彦先生と近畿大学はじめ関係の皆さま、ありがとうございました。

 

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火星探査衛星”はやぶさ”快挙の裏話を聴いて

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人工衛星「はやぶさ」が7年の旅を終えて、2010年6月13日、地球に大気圏再突入・帰還した 火星への旅は長いものだったに違いありません
ことはまだ記憶に新しいと思います。ともすれば技術立国ニッポンの将来の技術水準が懸念される昨今、感動をもって大方に受け容れられたものでした。昨日8月28日に、NHK「追跡AtoZ」でその秘密が紹介されました。

60億kmも離れた火星の衛星「イトカワ」に軟着陸し、しかも、7年かけて地球まで「イトカワ」の砂を持ち帰る計画自体がもともと驚きでした。

さすがに多くの困難や問題が待ち構えており、イトカワ着陸時のトラブル、それによる砂サンプル採取の失敗の恐れと燃料漏れ、それによる姿勢制御不能、電源停止による通信途絶と行方不明、予定より長期化したことによるイオンエンジンの故障、それによる地球帰還の困難化、、、予期せぬ問題と多数の二次的三次的トラブルが続いたのは、野心的プロジェクトゆえ理解はできました。

しかしそれに対してJAXAはやぶさチームリーダーの川口淳一郎氏をはじめとする技術者チームの組織的対応・マネジメントは素晴らしく、ありとあらゆる英知を出して問題解決を続けたことが良くわかりました。

雄大なスケールのプロジェクトで幾多の困難が待っていました たとえば通信断絶時に、動かぬ太陽電池がたまたま作動するようになる角度と時期を完全に計算し、1年間はやぶさ からの電波を探索し続ければ、発見できる確率は約60%と、具体的な数値・確率を示して、組織に希望と方向性を与えたことや、

イトカワの砂の採取ができていない可能性が高いとみられていたときに、イトカワの重力と真空の環境を作り出せる装置で実験し、接地後100秒あれば、イトカワの砂が採取できると検証したこと、はやぶさはついに地球へ帰ってきました(図はイメージです)

太陽風を利用した姿勢制御の回復や、壊れたイオン・エンジンの残存部分の組み換えによるエンジン復旧 などに代表されるアイデアの競い合い で危機を乗り越えたことなど、組織力と不屈の科学者・技術者魂の両方を見た思いがします。

  それらの多大な努力の末、ついに地球のそばまで戻ってきたはやぶさから地球の写真を撮り、まもなく消滅するはやぶさに地球を見せてやりたかったと述懐する川口氏にはやぶさへの想い、長年皆で積み上げて来た仕事への熱い想いを感じました。

どこか心を打つシーン。流星のように輝きながら消えて行くはやぶさです。やや右下に見える小さな光ははやぶさが最後の任務として切り離したカプセルです。 最後に、イトカワの砂が入ったカプセルを切り離して大気圏突入を図るはやぶさが美しい星のようになって消えていったシーンは実に感動的でした。かつてスペースシャトルコロンビアが分解して散って行った悲痛な画像を想い出した方もおられたのではないでしょうか。

実は大気圏突入はまだアメリカとロシアしか知らない領域で、日本がこれを一撃でやってのけたことは大きなインパクトがあり、NASAがはやぶさの突入シーンを撮影していたことがこれを物語っていたとのことでした。いわば、太陽系大航海時代に日本の技術ここにあり!と示したシーンでもあったわけです。

技術者魂は医者にも通じるところがあります。心臓がボロボロになった患者さんの心臓手術もはやぶさと同じ努力をすることがあります。先日も心筋梗塞後の心室中隔穿孔つまり大きな心筋梗塞で心室中隔がくさって破裂した80代の患者さんが来られ、それも手術がより難しいタイプの後壁中隔穿孔でした。

重い心臓病では医者が諦めてもダメですし、患者さんが諦めてもダメなのです この心室中隔穿孔の手術は私たちが1980年代から取り組み発表してきたもので、今なお多くの先生方のお知恵を頂きながら改良を加えているものです。とくに後壁の穿孔は昔救命できなかったつらい経験から執念をもって続けてきたライフワークでした。

さまざまな工夫を凝らし、穴も心臓も立て直し、患者さんも危篤状態から回復されました。こうした限界的ケースではあえて完全を狙うより、多少不完全でも着実に生きることを狙う、というより生きるためにそれを狙わざるを得ないと思います。治療を受ける患者さんも、治療をする私たちもどちらもぼろぼろのような感がありましたが、患者さんは見事に期待にこたえてくれました。

昨日のはやぶさの感動秘話を糧として、また明日から患者さんの救命にあたろうと思いました。

2010年8月28日 米田正始 拝

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【第十四号】 本メルマガをモデルチェンジします

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まだまだ猛暑が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか

いつもこのメールマガジンを読んでいただき、ありがとうございます

今日はこのメルマガの形を変えるというお知らせです

これまでこのメールマガジンではトピックス的なものをお届けして参りました

。その内容はご存じのとおり、私のホームページの中にある「心臓外科医の日

記」からの抜粋が主でした。

しかし抜粋よりは図や写真も含めた完全なものが良いのでは?というご意見を

戴き、また新しいページや改訂ページの情報もあったほうが役立つというご意

見も戴き、考えていました。

それらを考え、今後は新しいページや改訂ページのお知らせを主にし、その分

、頻回にお送りできるようにしたく思います。

これまで私のホームページ「心臓血管外科情報WEB」が役立った、助かったと

いうご意見を多数の方々から戴き、大変うれしく思っております。

今後はホームページが一層お役に立つような支援ツールとして、このメールマ

ガジンが貢献すればうれしいことです。

皆さまのご意見やご希望をお聞かせ頂ければ幸いです。

末筆ながら皆さまのご健勝を祈ります。

敬具

平成22年8月20日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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