2010年3月17日 懐かしの患者さんと再会しました

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医師と患者さんとの絆というのは本当に強いものがあります。

といっても何かのすれ違いや不運なことが重なってその絆や信頼が揺らぐことはあり、

お互いいつも注意と努力が必要ですが。

 

かつていのちをかけて、覚悟を決めて、一緒に病気と戦い、

そして誰もが祈るだけだった状態から元気になって下さった患者さん(Mさん)と先週末、8年ぶりにお会いしました。

感慨深く、このブログで少しご紹介したく思います。

 

Mさんは当時12歳の女の子で、以前に弁膜症の手術を他チームで受け、

その後心筋症・心心移植しかないという状況でした。しかしその心移植もほぼ不可能、そこで決断が必要でした不全が再発・悪化したため心臓手術のため私のところへ来られました。

今から8年前のことです。

 

Mさんの心臓は左室駆出率が7%未満つまり健康な心臓の9分の1のパワーしかなく、

以前に取り付けられた人工弁も動きが悪くなり、

危険な状態でした。

心臓は大人サイズ以上に腫れ上がり、あと何週間もつかという危篤状態でした。

 

あまりの心臓の弱さに、前向き治療を自認していた私でさえ、これは心移植のほうが患者さんのためになる、と考え、

当時、国立循環器センターの北村惣一郎先生や大阪大学の松田暉先生らをはじめとする心臓移植の先生方にコンサルトしたほどです。

その時に頂いたコメントは、

「たしかにこの患者さんには心移植が必要です。

しかしこの年齢と体サイズに合う心臓はいつ入手できるかまったく予想がつきません。」とのことでした。

当時はまだこどもの心移植は認められていませんでした。

カンファランスのあとで個人的にご相談しても「米田先生、頑張って」と真面目にお願いされ、とぼとぼと帰途についたことを覚えています。

しかし生きて戴くためには手術しかない、

手術は左室形成術再弁置換術しかないという結論に達し、

さまざまな角度から内外の智恵を集めて検討しました。

 

そしてMさんの部屋へ行って、手術をお話をしました。

「こんな苦しいときに嫌な話しで申し訳ないんだけど、君の心臓を治すには手術しなければいけないんだよ、手術させてくれる?」と聞きました。

まだ12歳のこどもさんですし、

これまで心停止やマッサージ、補助の風船ポンプ、人工呼吸、ICUその他さまざまな苦難を味わっておられるだけにきっと断られると心配していました。

ところがMさんの返事は「先生、手術して下さい」という、何と二つ返事のOKでした。

おそらく当時の京大小児科の先生方が患者さんとの信頼関係の中できちんと相談して下さったことと、

患者さんやご家族の強い意思、生きることへの姿勢などの賜物と思いました。

 

ともかく本来心移植すべき12歳の患者さんのいのちを、

それも患者さん自身の口から託されたわけで、

私は思わず襟を正したのを覚えています。

大変な手術と治療にはなるが、皆、絶対助けるという決意で臨みました。

 

この経験は海外へも発信しました 手術は当時(2002年)としてはまだあまり知られていないセーブ手術僧帽弁の再置換術、

それらを心臓を止めずに行いました。

念のため海外の先生や当時葉山におられた須磨先生らの御意見も戴き、

手術前にほぼ設計図が頭の中にできていました。

 

心臓手術は予定どおりの形で完遂できました。

心臓も予想以上に改善し、少しずつパワーが戻って来ました。

しかしそれまでの永く苦しい心不全の闘病生活でMさんの足腰は弱り切っており、

呼吸する力さえ足りない状態で、

何週間レベルの時間をかけてゆっくりと人工呼吸器を離脱し、リハビリを進めて行きました。

そして3カ月ほどたったころ、

彼女が病院から学校の卒業式に行く時には、チームの関係者は皆、涙したものでした。

 

Mさんに行った手術はその後アメリカ(ロッキーマウンテン弁膜症シンポジウム)やドイツ(ライプチヒ)の国際シンポジウムでも講演させて戴き、

他の患者さんの治療にも役立てて頂きました。

国内の講演などでもご紹介し参考になったとよく言われました。

 

その後もMさんの経過は定期的に小児科の先生からお聞きしては安堵していましたが、

私が京大病院を去ってから2年近く時間が経っており、

Mさんのことを思い出しては気にしていました。

そこへ昨年末、欧米のジャーナルにMさんの手術とその後の回復の報告が論文として発表されました

英語論文244番をご参照下さい)。

危機的状況の心不全から心臓手術で回復し7年以上元気に暮らしていることを知りました。

京大小児科の先生方は当時の心臓チームの努力がこうして報われ、

他の心不全患者さんの役に立つようにと論文発表して下さったものと感動しました。

 

その論文のおかげで小児科の先生方とお話したのがきっかけになり、

Mさんファミリーと久しぶりの面談になりました。

 

8年ぶりにお会いするMさんは立派な社会人になられ、

お母様も以前と変わらぬ活発な雰囲Mさんが描かれたイラストです。社会活動の一つとしてやっているそうです。 気で、うれしく思いました。

お父様は所用ができて来られませんでした。

Mさんが元気に毎日を暮らしているだけでなく、

社会に役立つような仕事をしたいと、勉強し、

また社会活動もやっておられることに感心しました。

 

あの厳しい状況、あとどのくらい命が持つかわからない状況で

自ら決断し手術に真正面から向き合ってくれた12歳のMさんの雰囲気は大人になっても同じでした。

来年は成人式に参加したいとのことでした。

先日のオリンピックのあと引退を決めたスピードスケートの清水選手のことばを借りれば、

私たちのやって来た治療は間違いではなかった、と思いました。

 

またMさんの重症心不全への心臓手術と治療の経験が、他の患者さんや先生方のお役に立っていることをMさんとお母さんは大変喜んでくれました。

その日、急用で来れなかったお父さんも、

私が京大病院にいた頃に心の中で熱く支援してくれていたサポーターであることを知り、じーんと来ました。

 

京大病院時代に感動することは何度もありましたが、

そのほとんどはこうした極限状態の患者さんの決断と頑張り、そして見事なカムバックでした。

この感動がある限り、いくら割に合わない3K職種と言われても心臓外科医は辞められない、そう思いました。

Mさん、お母さん、お父さん、ありがとうございました。

 

米田正始

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執筆:米田 正始
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【第十一号】 バンクーバー冬季オリンピック 2

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【第十一号】
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編集・執筆:米田正始
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(前回のメルマガで、元の図の説明文が本文に一部混入し、読みづらいところがありました。お詫び致します)

バンクーバー冬季オリンピックが閉幕しました。皆さん多くの感動や悔しさ、あるいは夢を感じられたのではないかと思います。

女子フィギュアスケートの浅田真央選手とキム・ヨナ選手の熱戦の時にはちょうどお昼時ということもあってか名古屋ハートセンターの職員食堂では皆さんテレビにかじりついていたように思います。浅田選手の地元・名古屋ということもあって銀メダルは残念、しかしキム選手もあれほど立派な演技をよく頑張ったという公平な称賛の空気も感じました。

今回の冬季オリンピックで見られたひとつの面白い傾向は個人が国籍より重視されたケースが増えたことでした。
2月24日の朝日ドットコムで、「薄らぐ「日の丸」意識」というタイトルでそうした傾向が論じられていました。
今回の五輪は「国家」をあまり意識しない大会になっているというのです。

たとえばロシア国籍で参加したフィギュアスケート・ペアの川口悠子選手、日本代表で出場したアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード姉弟、米国代表として参加した長州未来選手など、これまでにあまり見られなかったパタンです。そもそも五輪憲章には「オリンピック競技大会は個人種目または団体種目での選手間の競争であり国家間の競争ではない」と規定されているそうです。

個人の自由や尊厳、生きることの意味、国家や組織の意義など、時代の流れでしょうか。ふと振り返れば医者の世界もつい最近までは医者はどこかの「教室」に所属し、一生涯その代表者である大学教授の指令どおりに病院を移り変わるのが普通でした。それが新しい研修制度が発足した数年前から急速に崩れて、大学や教室の求心力低下、教室が人手不足になって医師を派遣できないための地域医療の崩壊や重労働ハイリスクのメジャー科目離れなどさまざまな問題につながっています。教室・大学意識が薄れて個人意識が台頭してきているのはどこかオリンピックの流れに似て来ています。

能力や情熱のある若い医者が自らベストと思う研修を受けるべく世界に師を求め、実力をつけ、自分の腕前で立派に生きて行く、そしてそれを認める実力重視の病院が増えて来たということでしょうか。現在のところ、まだこうした生き方はハイリスク・ハイリターンコースと捉えられているようですが、価値観そのものが進化している中である意味自然なことのようにも思えます。

大学もその流れを感じてか、外科系などでは市中病院や海外で手術や臨床の実績を上げた医師を教授に抜擢するケースが増え、進歩と思います。教授に抜擢されれば待遇が悪く仕事環境が貧相でも大学へ就職するケースが多いのはさすがに大学はまだオーラを維持しているとも感じます。しかしそういう努力をしても大学へ就職する若手医師が激減している現実は、付け刃では対処できない問題が大学病院や医局に存在することを示しています。

かつての医師の価値観のゴールドスタンダードは、ひたすら我慢を重ねて大学教授になり、学会の会長をやって花道を引退し、どこかの有名病院の院長になることでした。ただそうして得られるものと失うものを現代の若者はすでに見抜いているように感じるこのごろです。そしてかつてのゴールドスタンダードに背を向ける若手医師が増えている現実を知ることは病院や大学にとっても脱皮し進歩するために大切と思うのです。欧米の大学ははるか昔にそうした試練を克服した歴史があります。

今回のバンクーバー冬季オリンピックを見ていて感じたことの一つでした。

米田正始 拝 (3月1日記)

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログのコーナーから一部抜粋、転載いたしました)

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2010年3月1日 バンクーバー冬季オリンピック(2)

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バンクーバー冬季オリンピックが17日の熱い競技を終えて閉幕しました。皆さん多くの感動や悔しさ、あるいは夢を感じられたのではないかと思います。

フィギュアスケートはじめさまざまな競技で釘づけになってしまいました
女子フィギュアスケートの浅田真央選手とキム・ヨナ選手の熱戦の時にはちょうどお昼時ということもあってか名古屋ハートセンターの職員食堂では皆さんいつもより結構長く食堂にとどまってテレビにかじりついていたように思います。この熱気というか一体感のようなものはWBCの最終戦、イチローの決勝打打席以来のような気がしました。浅田選手の地元・名古屋ということもあって銀メダルは残念、しかしキム選手もあれほど立派な演技をよく頑張ったという公平な称賛の空気も感じました。

今回の冬季オリンピックで見られたひとつの面白い傾向は個人が国籍より重視されたケースが増えたことでした。

2月24日の朝日ドットコムで、「薄らぐ「日の丸」意識」というタイトルでそうした傾向が論じられていました。
今回の五輪は過去のそれと比べて少し様子が違い、「国家」をあまり意識しない大会になっているというのです。

たとえばロシア国籍で参加したフィギュアスケート・ペアの川口悠子選手、日本代表で出場し他国から参加する選手たちを見ていますと自由なものの考え方が普通になりつつあることを感じます たアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード姉弟、米国代表として参加した長州未来選手など、これまでにあまり見られなかったパタンです。そもそも五輪憲章に「はオリンピック競技大会は個人種目または団体種目での選手間の競争であり国家間の競争ではない」と規定されているそうです。

個人の自由や尊厳、生きることの意味、国家や組織の意義など、さまざまなことを考えた時代の流れでしょうか。ふと振り返れば医者の世界もつい最近までは医者はどこかの「教室」に所属し、一生涯その代表者である大学教授の指令どおりに病院を移り変わるのが普通でした。それが新しい研修制度が発足した数年前から急速に崩れて、大学や教室の求心力低下、教室が人手不足になって医師を派遣できないための地域医療の崩壊や重労働ハイリスクの外科等メジャー科目離れなどさまざまな問題につながっています。教室・大学意識が薄れて個人意識が台頭してきているのはどこかオリンピックの流れに似て来ています。

Isya01 能力や情熱のある若い医者が自らベストと思う研修を受けるべく全国に、というより世界に師を求め、思う存分実力をつけ、自分の腕前で立派に生きて行く、そしてそれを認める実力重視の病院が増えて来たということでしょうか。現在のところ、まだこうした生き方は良く言ってもハイリスク・ハイリターンコースと捉えられているようですが、価値観そのものが進化している中である意味自然なことのようにも思えます。

大学もその流れを感じてか、外科系などでは市中病院や海外で手術や臨床の実績を上げた医師を教授に抜擢するケースが増え、努力の跡が見えるのは進歩と思います。教授に抜擢されれば待遇が悪く仕事環境が貧相でも大学へ就職するケースが多いのはさすがに大学はまだオーラを維持しているとも感じます。しかしそういう努力をしても大学へ就職する若手医師が激減している現実は、付け刃では対処できない問題が大学病院や医局に存在することを示しています。

かつての医師の価値観のゴールドスタンダードは、ひたすら我慢を重ねて大学教授になり、学会の会長をやって花道を引退し、どこかの有名病院の院長になることでした。ただそうして得られるものと失うものを現代の若者はすでに見抜いているように感じるこのごろです。そしてかつてのゴールドスタンダードに背を向ける若手医師が増えている現実を知ることは医師にとっても病院や大学にとっても脱皮し進歩するために大切と思うのです。欧米の大学ははるか昔にそうした試練を克服した歴史があります。

今回のバンクーバー冬季オリンピックを見ていて感じたことの一つでした。

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【第十号】 バンクーバー冬季オリンピック

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【第十号】
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編集・執筆:米田正始
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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、オリンピック

では清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多く感動の連続です。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピ

ックメダルを獲得しました。強豪相手に立派というしかありませんが、その内容

にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少し

のところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、その後をしっか

りとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャン

プで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれまし

た。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のと

きを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられ

ます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。毎日息苦しい、

つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが

何度もあります。このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかし

このまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況

です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないとい

うのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して

痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると

思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし

、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見

殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできる

ような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成

功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、など

があり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予

測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイ

リスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合

や高齢者患者さんの場合などでは予測に反して失敗ということはあり得ます。

今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

 

オリンピックで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏

を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝 (2月19日記)

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログ

のコーナーから一部抜粋、転載いたしました)

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2009年12月27日 散髪屋さんにて

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著者が名古屋にて新しいハートセンターを皆でスタートし一年あまりが経過しました。毎日生きがいを感じて患者さんと向き合えることを関係の皆さんに感謝してます。病院の近くに住むのが長年のポリシーなので散髪も名古屋市内の美容院に行くことが多いのですが、かつてお世話になった京都市内の散髪屋さんへも時間が取れるときには行くようにしています。この12月に久しぶりにお邪魔したのですが、いつもの元気な雑談の中に含蓄ある話がまた聞けました。

京都のど真ん中で小さな理髪店を営んでおられるこの御主人は、有名なブログ「 柳居子徒然」の作者でもありま正月の下鴨神社ですす。京都らしいとおもうのはその付き合いの幅広さで、文化・宗教・芸術関係はもとより京都大学などの大学人とも交流があるらしく、著者も昔お世話になったことのある元京大総長の岡本道雄先生の頭も刈っておられたことを知った時には、ブログ内容の奥深さの源の一つを見た思いがしました。(写真は下鴨神社、柳居子さんの写真がなかったもので)

以前、柳居子さんにブログ内容の幅広さや奥行きの秘訣をあつかましく質問すると、いやあーいろんな立派な人たちとの雑談の中で勉強した、いわば耳学問のおかげですわ、とのことでした。確かに散髪屋さんへはさまざまな年齢・職業・立場の方も行かれるし、そこで少なからぬ時間それも定期的に話しできるというのは得難い機会に違いありません。また散髪屋さんという比較的親しみやすく庶民的な空間から遠慮なく本音を言ってくれる方も少なくないのでしょう。

ふとわが身を振り返ると、医師などという一見エリートのような仕事をしているためか(本当は重症の患者さんを元気にするために日夜四苦八苦する肉体頭脳労働者です)、患者さんは遠慮されることが多いです。そのため二歩も三歩もこちらから近づく努力をする必要があるというのは昔から心ある指導者に教えられたことですし、私自身も若手や学生などにそう教えるようにして来ました。まして心臓外科医のように大げさな職業では患者さんも一層「引ける」のではないかと思います。

このHPの冒頭にもお書きしましたように、患者さんから見れば医師にものを言うのはちょっと遠慮してしまうだけでなく、医師よりは庶民的と思われている看護師にさえ気がねすることがあるのです。お掃除のおばさんにならのびのびと物が言えるということを教えられたことがあります。鋭い指摘と今も思います。そのため自分なりにいろいろ工夫してはいるのですが初対面で直ちに何でも言える雰囲気というのは容易ではありません。患者さんから愚痴や身の上相談を持ちかけられたら「ヤッター!ヨーシ」と張り切ってしまう私を周囲の仲間たちはおかしく思っていることでしょう。

その一方で、何でもただで相談に乗ってもらえると心臓手術に関係ないことを延々と質問される方もまれにあります。すでに1時間近く経過し、他の患者さんに待ってもらっているので続きはまた次にしましょうと言っても、はい、そうですね、ところで、、、と延々と質問さを続けられるケースもあります。信頼して戴いているのはうれしいのですが待ってくれている人たちの気持ちを考えると、「うー、つらい、どうしよう」という泣き笑い状態です。現代の医療制度のもとでは患者さんと医師のお互いの歩み寄りや配慮も必要なのかも知れませんね。

柳居子さんと久しぶりに話ししていてそれやこれやを思いました。

 

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2009年12月18日 ライトアップとイルミネーション

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世の中は不況続きで大変ですが、ちょっと眼と心をなごませてくれるものもあります。

 

これまでいかにして心臓手術や治療の成績を良くするか、

どのようにして死にそうな患者さんを元気にするかだけ考えて毎日を過ごして来ましたが、

大学病院を去って雑用が減り、その分趣味の写真を復活させてから、周囲の美しいものに気づくようになりました。

ライアップやイルミネーションはその例です。

 

紅葉の季節にライトアップがされるようになったのは比較的最近のようですが、

そういうものがあると聞き、カメラを持って行ってみたところ随分美しいのでやみつきになってしましました。

といっても時間がそうあるわけではないので、ちょっと時間ができたらクルマかタクシーでハシゴして集中的に行くだけですが。

 

この秋に京都で将軍塚、宝泉院、青蓮院、岩倉実相院や詩仙堂、永観堂などを夜行ってみました。

ライトアップをする方もよく考えてくれているようで、ちょうど一番きれいに色づいた木に光が当たるようになっています。

ライトアップの紅葉が美しいのはそのためでしょう。

加えて、時間があまり取れない者には天気に左右されないのもうれしいですね。

さらにちょっと技術的には反射光だけでなく透過光でも撮れるというのは葉の本来の美しさが出て最高です。

それやこれやでちょっと立ち寄っただけでもかなり良いコンディションで写真が撮れます。

そのうちにこのHPの写真ギャラリ―にUpするつもりですが、あまり良いことばかり書いていると、最高のコンディションの割には作品はいまいちと言われそうなのでこのぐらいにしておきます。永観堂のライトアップ

 

ともあれ夜にも皆で紅葉を楽しめるのは楽しいことです。

入場料(拝観料)はおよそ500円ほどですが、あまり惜しいとは思いません。

皆でこの美しいプロジェクトを支えあっているという気持ちになります。

寺院によってはやや前衛的な光のアートをコンピュータ操作で演出してくれるところもあり、京都のお寺も現代化したなあと感心します。

 

もうひとつの話題、イルミネーションは冬の寒い中でも大勢の人たちが集まって楽しいものです。

こちらもコンピュータ制御で光の祭典という雰囲気で凝ったものが増えました。

神戸のルミナリエや東京の表参道へ行く時間がないため、たまたま大阪で学会があったのを良いことに、「光のルネサンス」の写真を撮って来ました。

人々の賑わいそのものが格好のテーマと思うため、写真の材料に事欠きません。

 

中国やタイ、ベトナムその他アジアへ心臓手術や講演でちょくちょく行くのですが、いつも思うのはアジアの人たちはなぜあんなに元気なのかということです。

夜中遅くまで大勢の人たちとくに若者が街に出て食べて飲んで話して、明け方になってもまだやっている。

明日は祭日かいと聞くと普通の日と答えられてまた驚く。

翌日早朝に同じ道を通るとまだ飲んでる。

同じ人たちかどうか判りませんがすごいエネルギーです。

あの元気さと比べると日本の雰囲気はどこか疲れているような、ある意味退廃的なものさえ感じることがあります。

真冬のイルミネーションに大勢の人たちが集まって楽しそうにやっているのを見てどこかほっとしました。

 

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循環器内科の先生へのメッセージ ―― 外科を育てるのは内科です

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循環器内科の先生方には日本、カナダ、アメリカ、オーストラリア、そしてまた日本と、場所を苦労をともにした内科の先生方は恩人でもあります。何か危急の際に恩返ししたく思っています問わず大変お世話になり、若いころから育てて頂き、頭が上がりません。

心臓手術や治療で共に苦労し喜んだ想い出には格別のものがあります。

現在も育てて頂いているという感覚は変わりません(感謝申し上げます)。

それもあって、内科の先生に頼まれれば少々の重症例困難例であっても、よほどのことがない限り心臓手術や血管手術はNoとは言わず頑張るという方針(No Refusal Policy)を貫いています。

また若い循環器内科の先生方の成長発展のお手伝いをするように努力しています(たとえば数々の勉強会や興味深い症例をジャーナルに載せる応援や筆頭著者、共著者になって戴くなど)。

 

この心臓外科手術情報WEBはまず心臓手術を検討中の患者さんついで一般の先生方を念頭において書きましたので、

表現が平易過ぎ、専門の先生方にはかえって読みづらいかも知れないことをお詫び申し上げます。

記載しましたコンセプトや写真などは参考になると存じますので、よろしくお願い申し上げます。

 

内容的なところで、比較的私たちに特徴的な心臓手術・心臓血管手術を挙げますと:

救急・緊急に的確に対応することが患者さんを救います●あらゆる緊急・準緊急の心臓血管手術:

足腰が強い病院(24時間365日を目指しています)の特長を活かします。

たとえば急性大動脈解離不安定狭心症

高度な大動脈弁狭窄症

感染性心内膜炎(IE)、

心筋梗塞後の心室中隔穿孔左室破裂

後者は私たちのオリジナル術式でもあり一層お役に立てるよう努力しています

 

ミックス手術(小切開低侵襲手術): ポートアクセス法に代表されるミックス手術を弁形成、弁置換はじめさまざまな手術に導入しています。

若者には若者向けの美しいそれを、

働き盛りには働き盛り用の早く仕事復帰できるそれを、

高齢者には高齢者に適した合併症を減らすためのそれを、心掛けています

再手術や再々手術例も同様に安全向上のためのミックスを行います。以前の心臓手術より楽でしたと患者さんに言って頂けるように努力しています。

 

僧帽弁形成術とくに複雑形成術:

マルファン症候群バーロー症候群などで前尖全部が逸脱したような症例や前尖+後尖症例なども。

500例の経験をもとに人工腱索を必要に応じて2本-12本立てるなどさまざまな工夫をしています。

リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症僧帽弁狭窄症再形成術に力を入れています

タイやベトナムなどリウマチ王国の技術経験を導入してから形成率が高くなりました。

ワーファリンフリーに全力を上げています。

 

大動脈弁形成術

10代ー40代の二尖弁ARなどが良い適応となります:

人工弁よりも患者さんにメリット大と判断される場合に行います。

自己心膜による大動脈弁形成(再建)により形成率はほぼ100%になりました。

 

心電図も大切です

●長年月にわたる心房細動AFに対する「心房縮小メイズ手術」:

一般にメイズ手術の対象とされる発作性心房細動ではなく長期AFでも除細動90%を超えています。

最近は海外のエキスパートの先生方にも使って戴くようになりました。

ワーファリンが止まったときの患者さんの喜びを皆で共有しています。

 

●石灰化病変をもつ僧帽弁(いわゆるMAC)に対する僧帽弁形成やMVR。CUSAの活用で普通の手術と大差ない速度になりました。

 

虚血性心筋症拡張型心筋症に対するDor手術変法SAVE手術

この10年以上打ち込んで来た手術で、最近2年以上は同じ重症でも待機手術死亡率が0%を続けています。

 

機能性MR虚血性MRDCMのMRなど)に対する僧帽弁形成術:

単なるMAPではテント化が取れない場合の弁下組織形成左室形成で弁形成術が完遂できるようにしています。

特に近年難問とされる後尖のテント化の解決に取り組んでいます。

内科の先生方とハートチームで成績向上への努力をしています。

 

透析患者さんの長期予後もずいぶん良くなりました。心臓や血管を守ることがキーとなります。大動脈基部拡張とくにマルファン症候群

David手術などの基部形成・再建やバルサルバ人工血管を用いたベントール手術あるいは低侵襲の埋め込み型ベントール手術(インクルージョン法、ミニルート法)を行っています。

 

透析症例や低心機能症例へのオフポンプバイパス(オプキャブ)

豊橋ハートセンター大川先生の方法を活用し、安定した成績を上げています。

重症の糖尿病ASOをもつ患者さんなども同様です。

 

サルコイドーシス左室緻密化障害などの難病への手術:

解説や英語論文のページをご参照ください。

患者さんの状態や必要性を考慮した心臓手術で全例うまく行っています。数は少ないですが、

若い方も多く、社会的に重要と心得ています。

 

ご高齢者: 患者さんやご家族の生への希望と熱意があれば90代でも手術しています。

 高齢者の患者さんもお元気に楽しく暮らせるようになり、手術を受けて本当に良かったと言って下さいますOPCABAVR僧帽弁形成術あるいは弓部大動脈手術などが多いです。

 

成人先天性心疾患

クレフトMRIHSSPDAASDPHVSDcTGAエプスタイン病先天性ARその他。

こども病院の専門家の応援を戴き、大人とこどもの両方の視点から治療しています。

 

ペースメーカーTR(三尖弁閉鎖不全症):

私どものオリジナル形成術式で弁置換を避け弁形成が完遂できています。

肝不全になるまでにご相談頂ければ安全性が高まります。

 

再開心術や再々開心術: 

CABG弁膜症その他で。全国から再手術の患者さんが来て下さるため熟練しています。

 

胸部大動脈瘤腹部大動脈瘤ASOなど;

人工血管置換術やバイパス手術で。低侵襲のステントグラフトEVARTEVAR)も行っています。

 

●その他: bFGF徐放を用いた効果的かつ安全な血管新生とくに動脈新生治療(再生医療)は、心臓に対して臨床試験を進めています。

認可や支援が得やすいタイ国バンコックにて行っています。

近い将来、日本で実施できるよう準備中です。

 

 

循環器内科を御専門とされる先生方のご意見やご指導を頂ければ幸いですし、

「心臓手術ができるのだろうか」

「他に何か方法はないのだろうか」

などお困りの症例などがありましたらいつでもご連絡下さい。

 

予約時に「米田医師希望」と言って頂ければ米田が責任もって対応させて頂きます。

なお円滑な病診連携のために、ご紹介には治療等終了後に逆紹介を原則としています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心臓手術の今後について―これから大きく変化していく?【2020年最新版】

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手術室と体外循環のようすです最終更新日 2020年3月6日

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◾️心臓外科の今後の道のりは

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1。より高い質を

2。より低い侵襲(からだへの負担)を

とまとめられるかも知れません。

それらの特徴や概説については 心臓手術 の項目をご参照ください。

また個々の病気や手術手技につきましてはそれぞれの疾患の項目や さくいん 等をごらん下さい。

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◾️心臓手術、これまでの道のり

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心臓手術はこの40年あまり、体外循環つまり人工の心と肺を用いて行われ、安全性が年々向上し、

術後長生きやQOL(生活の質)向上を含めて患者さんに役立つ治療となり、発展して来ました。

 

(写真左はオペ室での体外循環の風景です)

 

体外循環中に全身の体温を下げて、一時的に全身への血流を減らすあるいは止めるという方法(低体温循環停止法)も大動脈手術などを中心に活用され、一定の成果を上げました。

胸骨正中切開を赤い線で示します

心臓に到達するためのアプローチにはかつては開胸つまり胸を肋骨に沿って切開する方法 もありましたが、

その後安全確保のために多くは胸骨正中切開つまり胸の真ん中にある骨(胸骨)を縦に二分(もちろん後でがっちり修復再建します)して心に到達する方法(右図の赤いライン)が世界的に主流になりました。

 

このため、心臓手術は

 

1.全身麻酔をかけ

2.胸骨正中切開を行い

3.体外循環(人工心肺)を用いる

4.体温を多少とも下げる

 

というのが標準方法となり、術後しばらくすれば元気にはなるものの、

比較的大きな創と術直後は体への負担がある程度はかかるものとして認識されるようになりました。

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◾️まず体外循環から離脱(オフポンプ)へ

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そこで15年ほど前から3.が見 209623690直され、

心表面の手術である冠動脈バイパス手術などを中心に体外循環を使わない方法つまりオフポンプバイパス術が工夫され発展しました。

 

現在では冠動脈バイパス手術の大半がこのオフポンプで行われるまでになりました。

 

私がイタリアの心臓手術名医・カラフィオーレCalafiore先生に教えて頂いてオフポンプを開始した1999年に、

日本冠疾患学会という学会でこの術式(心臓をひっくり返して裏側の血管を縫います)をビデオ講演した時にはどちらかと言えばまだ変な方法というような印象をもたれたように思ったのを覚えています。

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◾️そして小さい目立たない傷跡へ

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ミッドキャブ手術の左小切開創を示します同じ心臓手術でも弁膜症では冠動脈とはちがって中に入って治す、つまり一度心内を空にする必要からオフポンプバイパス手術はほとんど広がらず、

むしろ2.の胸骨正中切開を右開胸や胸骨部分切開などでできるだけ小さく目立たない創部にするという方向で工夫がされました。

 

冠動脈関係では上記オフポンプバイパスと組み合わせたMIDCAB手術(ミッドキャブ)(左図の赤いラインが皮膚切開)は10年あまり前に一世を風靡しましたが、

心前面にしかバイパスがつけられないので現在は少数になっています。

 

さらには内視鏡やダビンチロボットも併用してより小さな創にする方法手術用ロボット・ダビンチ。世界的には撤退する病院が多く、壁に当たった状態です。今後の改良やコストダウンなどが必要です。も開発されました。

それらの小切開心臓手術は状況や患者さんの年齢によってはメリットがあり、ある程度広がりました。

ロボット(リモコンのマジックハンドであり自分で考えて動くわけではありません)は時間と費用がかかり、性能もまだ不十分ということでその後下火になりました。

 

とくに時間がかかるのは問題で、

心停止時間が多少でも長くなるのは低侵襲の逆で、看板に偽りありと思うようになり、

導入を見送った経緯があります(写真右は第二世代のロボット)。

患者さんの自己負担が大変重いのも問題です。

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◾️試行錯誤?有意義な努力と改善

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また1.の全身麻酔についても、 可能なら全身麻酔や人工呼吸を避けられればより回復が速いという観点から試みがなされましたが、

これは安全や患者さんの快適さも含めた総合点でまだまだ全身麻酔の利点が大きく、多くの場合は全身麻酔が使われています。Nurse_man_shock

 

体外循環中を中心とした低体温も、その利点とともにマイナス面が反省され、最近は次第に体温を上げる傾向が見られます。

その分、よりしっかりとした灌流を確保し、より確実な臓器・全身保護を行う方向にあります。

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◾️低侵襲化への努力は続きます

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このように心臓手術をより負担の小さい、安全なものにする努力、いわゆる低侵襲化の努力は続いていますが、

ここまでのところ上記3.関係のオフポンプバイパスが中心で、

2.関係の小切開心臓手術が少しずつ広がっているというのが現在の状況です。

 

ロボットはより高性能でより小さく安価なものが待たれるのが世界の一般状況です。

こうした経過から近年、2013年ごろからMIDCABを発展させた形のMICS-CABGが一部の施設で試みられています。ロボットは使わず、専用に開発された器械をもちいて、適宜内視鏡と肉眼でCABGを行うことがこれから増えるかもしれません。

 

創を小さくすることは良いことです。難病を含めた心臓病を確実に治すのは真に大切なことです患者さんを守るという本質的観点からは、

心臓病の部分を確実に、短時間で治す、そして速く回復できるようにする、

さらにその良い状態で安定させることが大切であるのは言うまでもありません。

 

そのために弁形成手術弁置換手術左室形成術の改良、

あるいは術中の心筋保護(心臓を守ります)や徹底した止血、

合併症の予防などの努力が行われています。

 

これまで心臓手術の名医と言われる人たちはこれらの点が徹底していたわけです。

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◾️社会復帰を促進するための低侵襲手術

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MICS また私たちは美容目的というよりは社会復帰を促進するという目的で、

胸骨正中切開を避ける右開胸手術

(左図の右側、ある程度MICS(ミックス)低侵襲手術)を安全確保できる患者さんに行って来ました。

MICS3
最近はそれをさらに進めて、

MICS(ミックス)手術ポートアクセス心臓手術とも呼ばれる小さい穴から臓器を治す方向へ進化しています

(右図の右側、これは僧帽弁や三尖弁などに使えます)。

大動脈弁などには少し違う切開法が役に立っています。

 

これまでとほぼ同じ水準の安全性と数倍早い社会復帰が可能となります。

結果的に美容上のメリットもありますがこれは患者さんとよく相談の上、かならずしも主目的とはしていません。

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さらに標準的な胸骨正中切開でも、胸骨の再建法を工夫し、術直後から万歳運動ができ、胸帯も不要で、退院後まもなくクルマが運転できる、ミックスに準じた早い回復ができるようになりました。→→もっと見る

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◾️カテーテル治療を活用する低侵襲なステントグラフト

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上記に加えて15年ほど前から

4.カテーテルを用いた治療法が心臓血管手術にも入ってきました。ステントグラフトは内側から治せるという大きなメリットがありますが、まだ課題や限界も多々あります。

この治療法はステントグラフトEVARTEVAR)と呼ばれ、

とくに下行大動脈瘤腹部大動脈瘤などで発展 し、

現在は胸腹部大動脈瘤でも成果を上げつつあります。

 

まだまだ限界や不明な点もあるのですが、

高齢者や体力のない患者さんを始め、

大動脈が比較的単純な形態をもつところでは活躍するようになりました。

 

日本では井上寛治先生が以前から実績をあげられ(京都にてお世話になりました)、

アメリカで実績を上げられた大木隆生先生(現・慈恵医大)や大阪大学の倉谷徹先生らが完成度の高い治療に育てられました。

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実際に私たちの患者さんの声をお聴きしますと、

治療当日から食事ができる、痛みが少ない、

すばやく仕事復帰や社会復帰ができる、

など患者さんの実生活の観点でのメリットがよくわかります。

 

ステントグラフトEVAR)のページをご参照ください。

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◾️カテーテル治療の第二弾、TAVI (タビ)

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この流れは今後は大動脈弁経皮的大動脈弁植込術 TAVI)をはじめ、さまざまな心臓血管手術で活用されるようになるでしょう。

ただしまだまだ不明な点・未完成な点も多く、その発展期には患者さんに迷惑がかからないよう、十分注意しながら慎重に進める必要があります。

 

医療先進国である欧米諸国で、現時点ではオペができないような患者さんを中心にこの新しい治療法が使われているのはそのためです。

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◾️さらに続く低侵襲への努力と工夫

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このように心臓血管手術はその治療成績の改善(要するに、より長生きできる、より元気活発に生きられる)のみならず、

患者さんの体への負担を下げる、低侵襲化(つまりより快適に、より速い回復が得られる)の努力とともにさらに発展していくものと考えられます。

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◆参考ページ

心臓手術とはどういうもの?

心臓外科の名医とは

心臓手術と言われたら?!

安全に必要な症例数は?

病院の立派さと心臓外科の立派さは別?

対象となる病気は?

医師の選び方

私のお勧めは?

術後の社会復帰について 

手術と美容について

必要な検査

術前のオリエンテーション: 

米田正始が考案した心臓手術は

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執筆:米田 正始
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付き添いさんについて―新たな役割それは、、、【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月4日

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◾️いわゆる付き添いさんは

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通常とくには必要ありません。

いわゆる付き添いは殆ど不要ですが、ポイントどころのみ患者さんの励みになる付き添いや訪問は喜ばれます中でもICU(心臓集中治療室)に患者さんがおられる手術直後(通常1日、重症患者さんでも平均1-2日)は

医師・ナース・技師らが常時そこに居ますので付き添いは不要となります。

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◾️付き添いよりも必要なのは

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ただ、ICUに滞在中の患者さんの回復を促進するという観点からは、

付き添いではなく、ちょくちょく訪問して頂き、話をしたり聞いたり、それも世間話や患者さんが好きな話題を持って来て頂きますと、患者さんの回復に大変役に立ちます。術後は社会復帰を目指して体や心を活発に動かすことが健康回復に役立ちます

世間でよく言う「ICUシンドローム(ICU症候群、ICUに長くいると、一時的にどこかおかしくなること)」はこうして予防なり早期解決しやすくなります。

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それと術翌日は通常は一般病棟の重症個室へ移動して頂き、社会復帰への第一歩を進めて頂きますが、

この時点ではご家族がちょくちょく訪問して下さると患者さんの気持ちも前向きになり回復にも役立ちます。

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◾️いわゆる「静養」は体に悪い?

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意外に知られていないことのひとつとして、心臓手術のあとは、じっと仰向けで寝ている、いわゆる「静養」は体に大変悪いのです。

それは肺の背中側にたんが貯まり、発熱や肺炎の原因になるからです。

A309_066ご家族と語らい、そのために起きたり座ったり、可能なら立ったりすることが心臓手術後の回復には大変良いわけです。

これらについては、医師や看護師などの医療者とは一味ちがう良さがご家族やご親友にはあるのです。

 .

まもなく患者さんは一般病室へ移られ、ふつうに動いたり歩いたりできるようになり、それからはむしろご自分で身の回りのことをやる方が良いリハビリ、トレーニングになります。

 .

患者さんがアットホームな形で、ICU症候群で困ることも少なく回復して行けるように工夫しています。

大部屋でお互い声をかけたりできるため社会復帰ilm17_bc03003-sのための良い練習になります。

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◾️ご家族もチームの一員です

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ともあれ医療は医療者のみならずご家族も、そしてほかならぬ患者さんご自身も大切なチームの一員です。

皆が一致協力して「やったるでー」となれば、手術のあとの回復のスピードアップに役立つというものです。

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10. よく戴くご質問へもどる

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第6回患者さんの会のご報告と御礼

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心臓血管外科患者の皆さまHaibisu

昨日9月19日(土曜日)には第6回患者さんの会に多数お集まり戴き、ありがとうございまし た。懐かしいお顔を拝見し、元気と勇気を頂きました。

シルバーウィークの一日目、それも晴天の行楽日よりにもかかわらず、50数名の方々にお越し戴き、会場は賑やかな雰囲気に包まれました。新型インフルエンザが流行するというタイミングになってしまいましたので、名古屋ハートセンターからサージカルマスクを配布させて頂きましたが、風邪症状の方がおられなかったのは幸いでした。

今回は心臓手術がらみの不整脈やペースメーカーのお話をさせて頂きました。多数の前向きのご質問やご意見を戴き、役立つ内容でしたと多数の患者さんから喜んでいただきました。

新型インフルエンザのワクチンは従来型と同様、お勧めですまたこの時節ですので、新型インフルエンザの予防法と発症した場合の対策、とくに重症化を防ぐ方法をお話させて頂きました。心臓手術を受けられた患者さんの全員がこの秋冬を安全に過ごして頂ければと念じて、コツをご紹介しました。

さらにタイ国で始めました心臓の再生医療と心臓手術の成果をご紹介し、京大病院でもこれまで私が指導してきた下肢の再生医療(bFGFをもちいた血管新生)が評価され、探索医療センターの正式プロジェクトとして採用されたことなどもご報告いたしました。

定期的に患者さんにメールで情報をお送りするメールマガジンをご紹介しました。このホームページの右段中ほどをご覧ください。

今回もジーンとくる体験談やお話を数名の患者さんたちがご披露下さり、他の患者さんから役に立った、元気が出たという声をお聞きするとともに、私自身も医師冥利に尽きる喜びを感じました。

全さんが作って下さったケーキはいつもおいしいですいつもお世話戴く世話人の松岡さん、全さん、中村さんはじめ、ご協力下さった皆さまに心から御礼申し上げます。松岡さんはホテルとの交渉はじめさまざまなご支援を下さり、全さんは手作りの美味なケーキを出して下さいました。

なお個々の患者さん全員とはお話はできなかったため、もしご質問やご相談がおありの場合は、遠慮なくオフィスかこのホームページにご連絡下さい。

次回はインフルエンザが一段落すると予想される来年2010年3月に、おそらく同じ会場(祇園ホテル)にて開催して戴くことになりました。詳細が決まればまたご案内させて頂きます。トピックスとしてメタボ対策、食べても痩せられる新しい方法(低炭水化物ダイエット)をご紹介する予定です。

それでは来年3月にまたお元気なお姿を拝見できるのを楽しみにしております。なお何か御心配などがありましたらいつでも米田心臓外科オフィスか名古屋ハートセンターへご連絡頂ければ幸いです。

2009年9月20日

米田正始 拝

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