ミックスによる大動脈弁置換術―さらに安全快適へ進化を 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年1月3日

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◾️ミックスでの大動脈弁置換術とは

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壊れた大動脈弁を人工弁で取り替える大動脈弁置換術を、通常の胸の真ん中の大きい傷ではなく、小さい傷跡で行う手術です。

小切開による低侵襲心臓 179718260手術、いわゆるミックス(MICS)(その代表格がポートアクセスです)は僧帽弁手術で進歩していますが、技術や経験の進歩で大動脈弁置換術(略称AVR)でも展開をしつつあるのです。

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◾️ミックスの僧帽弁手術とどう違うの?

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現在の大動脈弁ミックス僧帽弁形成術などの場合のミックスは皮膚切開はおよそ1種類(バリエーションはあります)ですが、

大動脈弁置換術の場合は次の2つ代表的な方法があります。僧帽弁よりは工夫が必要なため細かいバリエーションはいくつもありますが。

ミックスに積極的な病院では通常の胸骨正中切開と合わせて3つの方法の中から安全と低侵襲を考えて選択されることが多いです。

 

 

上図で左端は通常の胸骨正中切開、

真ん中は右小開胸によるミックス手術、

右端は胸骨部分切開によるミックスでの皮膚切開を示します。

赤い点線の部分です。

いずれの場合も同じ質の大動脈弁置換術ができますが、やや時間がかかるという弱点があります。

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◾️私たちの場合は

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私たちは大動脈弁置換術を行う場合も積極的にミックス手術を活用しています。

患者さんにとって、術後の苦痛が減り、回復が早く、社会復帰も早くなるため喜ばれています。

しかしミックスが安全上不利な状態、とくに動脈硬化が強いケースや、重症で全身状態が悪いときあるいは超高齢などの際は、

安全確保のため、従来の胸骨正中切開も含めた中からその状況に合う方法を選ぶようにしています。

 

ミックスでも従来と同様、手術費用のほとんどが保険から出されるため安心です。

この点が現在も様々な形で自己負担を求められるロボット手術と違う点です。

 

  大動脈弁置換術AVRそのものの解説は該当ページをご覧ください。

CIMG2033b2

右の写真は正中でのミックスによる同手術後1か月の写真です。

皮膚をできるだけきれいになおすよう、まだテープが貼ってあります。

しかしすでに海外旅行レベルの活発な生活を回復しておられました(お便り48をご参照ください)。

この患者さんは上の図の右端のタイプのミックスを行いました。10年近く前の手術ですが現在も役立つケースがあります。

ミックスはその後もさらに進化を続けています。

その後は胸骨下部部分切除をもちいて、より軽い痛み、より早い回復、よりきれいな創(夏服が着られる創)を達成しました。

そしてより進化したミックスであるポートアクセス法へと進化して行きました。

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◾️より進化したミックス大動脈弁置換術

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IMG_1808b

6年前から適応あらばこの方法をルーチンに使うようになりました。

左の写真は

上図の真ん中のミックス(MICS)(ポートアクセス法)による大動脈弁置換術、1か月後の創部です。

目立たない創がきれいに治り、もともと骨はまったく切っていないため創として完治しており、

すでに活発な生活を送っておられます。

腋窩つまり脇の下付近で切開するため、創がきれいでかつ見えにくいのです。大きな筋肉を切ることもなくスポーツにも適しています。

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大動脈弁置換術は大動脈弁狭窄症や弁破壊が強い大動脈弁閉鎖不全症などに使われ、

安全性もかなり高くなり、すでに確立した心臓手術のように思われがちですが、

今なお進化を進めているのです。

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患者さんの想い出はこちら:

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  同手術の位置づけ
  
  それが前向きに安全な場合
  
  美しい心臓手術のためのLSH法とは
  
  かかる費用は?

  ハートポートとは  

ミックスは危険なの

  
  その術後の痛み軽減について
  
  同手術で社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  もうひとつのミックス手術、胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 心臓手術:連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
大動脈弁

  ミックスによる大動脈弁置換術

  同、大動脈弁形成術

  同、デービッド手術

  ポートアクセス法による大動脈弁置換術

患者さんやご家族からのお便り

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

お便り71: ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックス法で受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックス法手術で克服

お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 病気を多くもった大動脈弁狭窄症の患者さん

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患者さんは、85歳男性。

大動脈弁狭窄閉鎖不全症(圧較差109mmHg)、

三尖弁閉鎖不全症(高度)、僧帽弁閉鎖不全症(軽度)、心房細動心不全、のため来院されました。

糖尿病、心筋梗塞後状態、睡眠時無呼吸症候群、呼吸機能障害などもお持ちでした。

現代の高齢化社会、西洋式生活の時代にはよくある状態です。

 

手術前の胸部レントゲン写真です。心臓が大きく肺にうっ血と胸水(胸に水が貯まる)が見られます。かなり苦しい状態です 上記疾患とくに大動脈弁狭窄症による心不全のためハートセンター内科にて治療を行っていました。

心臓カテーテルにて肺動脈せつ入圧が30mmHgもあり(つまり強い肺うっ血、心不全)、

このままでは退院できず危険なためご家族とも相談の上、準緊急で手術を行いました。

 

全身麻酔下でも肺動脈圧は50mmHg台で肺高血圧・左心不全の所見でした。

 

胸骨正中切開、心膜切開を行いますと、心臓は強く拡張し張っていました。

術前CTにて上行大動脈に多数の石灰化が見られたため、

表面エコーにて最も動脈硬化が少ない部位を調べ、ここを大動脈遮断部位としました。

 

体外循環(つまり人工の心臓と肺)・遮断(心臓を一時止めることです)下に大動脈を横切開しました。

できる最良の部位で遮断しましたが、それでも硬化はあり、

遮断が不十分で血液が少しは流出するためそれを心膜腔へ逃がすように工夫し、弁操作へと進みました。

なお大動脈や基部の内側にも多数の硬化病変がありました。

 

上行大動脈を開けて大動脈弁を調べているところ。弁がカチコチに硬くなっていて開きません。 弁は三尖で、

いずれも高度に肥厚・短縮・石灰化し、

弁口は真ん中のわずかな小穴だけになっていました(写真左)。

高度の大動脈弁狭窄症です。

弁と石灰化を大動脈壁付近まで十分に切除しました。

切除した大動脈弁です。カチコチに硬化しており、弁の本来のしなやかさはありません。 写真左は切除した弁尖で、

写真右は弁切除後・石灰摘除後の大動脈基部を示します。 大動脈弁輪の内側を示します

ここでウシ心膜弁(代表的な生体弁です)21mmのサイズを調べましたが、

患者さんの弁の土台が小さいため入りにくく、

この患者さんの術前状態からなるべく短時間で手術をまとめあげる必要から

あえて最適サイズをほぼ満たす19mmサイズのものを選択しました。

人工弁(生体弁)が入ったところを示します。自然な形で弁が入りました。 そのおかげで基部や弁輪の硬化にもかかわらず、

人工弁の座りは良好でした(写真下左)。

上行大動脈を2層に閉じて

90分で遮断を解除しました。

心拍動下に右房を切開しました。

大動脈基部の拡張のため、視野展開に工夫を要しました(写真下左、拡張した三尖弁輪の一部が見えます)。

三尖弁輪は拡張著明でした。 三尖弁は拡張著明で硬性リング28mmを縫着し、

良好な弁の閉鎖とかみ合わせを確認しました

(写真下右、リングの左側は大動脈基部です)。 三尖弁輪形成後。弁はきちんと閉じるようになりました。

右房を縫縮しつつ2層に閉鎖しました。

エア抜きと止血ののち、168分で体外循環を離脱しました。

離脱には少量のカテコラミン(強心剤のことです)を要しましたがおおむね容易でした。

春日井 右房縫縮後下右の写真は縫縮後の右房の姿を示します。

かなり正常サイズにもどりました。


経食エコーにて大動脈弁(生体弁)と三尖弁の機能良好を確認し、僧帽弁の逆流は術前より減少し良好、右房が小さくなったのを認めました。

術前の肝うっ血のため出血傾向は予想どおりあり、平素より時間をかけて止血をしました。

 

術後の胸部レントゲン写真です。術前よりかなり改善しました。なお術前は状態が悪くポータブルレントゲンで、やや大きめに映りますが、それを勘案しても心臓はかなり小さくなり改善しました。 術後経過は予測よりは順調で、出血もまもなく治まり、

血行動態(心臓や血圧そして全身の血のめぐり)は良好で心配された呼吸機能もまずまずの回復ぶりでした。

 

術前から肝うっ血のために総ビリルビンが3以上に上昇していたため、慎重に治療しましたが、

大過なく軽快されました。お元気に退院されました。

 

近年はこうした生活習慣病のデパートのような患者さんが増えました。

心臓手術もそのあとの治療も大変で、リスクも高くなるのですが、

それぞれの問題に対して手を打っていけばほとんどの場合乗り切れるようになりました。

患者さんやご家族の理解と協力も大変力になりました(ありがとうございます)。

まさに関係者全員のチーム医療ですね。

 

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3) 大動脈弁 ②大動脈弁狭窄症ではどんな注意を? へもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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②b 大動脈弁置換術について―より安全に、より快適に【2020年最新版】

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大動脈弁2最終更新日 2020年2月27日

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◾️大動脈弁置換術とは?

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強い狭窄(狭くなること)や強い閉鎖不全(逆流すること)を起こした大動脈弁が、

弁形成に適しない状態のときに、

その壊れた弁を切除し、人工弁で置き換える手術です。

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大動脈弁狭窄症の場合は

弁が硬く厚くなっていることが多いため弁形成術には適せず、

その多くに大動脈弁置換術が行われます。

10代―50代などの若い患者さんや二尖弁の患者さんでは形成を行うことも増えましたが。

事例 病気を多くもった患者さん
事例: 冠動脈病変を合併した患者さん

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大動脈弁閉鎖不全症では弁の破壊が少なかったり限局されていることが多く、

大動脈弁形成術になることが少なからずあります。

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◾️大動脈弁置換術での人工弁の選択は

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tissue_valve大動脈弁置換術には患者さんの年齢やライフスタイル、

とくに職業や妊娠出産の希望、スポーツの好み等に合わせて

機械弁(金属の弁)と生体弁(ウシやブタの組織でできた弁)を使い分けます。

生体弁(左写真)と機械弁(右下写真)の特徴や選択上の注意については生体弁をご覧ください

 .

大動脈弁に縫い付けた機械弁は、僧帽弁の場合と比べるとワーファリンもやや少なめで使えるというメリットがあり、

生体弁もこの弁につけた場合は僧帽弁につけた場合よりやや長持ちします。stjudevalve

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◾️大動脈弁置換術のリスクは

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大動脈弁置換術は他臓器に病気がなければおよそ1%の死亡リスク(危険性)で手術できます。

逆に成功率99%とも言えます。

オペしない場合のリスクがそれより明らかに高い場合、オペが勧められます。

これはガイドラインどおりです。

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大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術を行う場合、いったん心臓手術を乗り切ればその後の心機能や経過は良好です。

それで90歳代のご高齢患者さんでも意欲のある方や体が元気な方には手術をしています。

高齢者の事例
事例: 突然死寸前の状態で来院された患者さん
事例: 肝臓がんと大動脈弁狭窄症)
事例:大動脈弁狭窄症と脊椎後弯の女性)

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一方、大動脈弁閉鎖不全症に大動脈弁置換術を行うとき、

術前の左心室の状態がひどく悪いときは予後に注意が必要です。

たとえば左室駆出率が30%を割るようなケースではリスクはやや高くなり、

より慎重な戦略が威力を発揮します。

私たちは術前の駆出率が10%台の重症患者さんでも、内容を吟味し、勝てると踏めば、さまざまな工夫をこらして手術しています。たとえば乳頭筋最適化手術を組み合わせて心臓の保護や強化を図ります。

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◾️ミックスでの大動脈弁置換術

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新しいポートアクセス法さらに患者さんにやさしいミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術)を推進しています。

動脈硬化があまりない患者さんでは右胸に小さい創を開けるだけで大動脈弁置換術ができます(ポートアクセス法)が、

動脈硬化のある患者さんの場合は正中線での小切開で行うようにしています。

これにより、痛みを減らし、早期の社会復帰を支援し、

また小さい創で患者さんの気持ちを和らげるようになれば幸いです。

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Doctor01メモ1: 大動脈弁を生体弁で取り換えれば、手術から回復したあとは健康人と見分けがつかないほどになります。

心音も普通の音とほとんど同じです。

心房細動などの不整脈がなければ術後約1カ月でワーファリンのお薬も不要になります。

一方機械弁の場合でも昔と比べるとカチカチした音はずいぶん静かになりました。

もちろん弁そのものが高性能で長持ちするという機械弁のメリットは健在です。

 .

今後の方向として

カテーテルをもちいた大動脈弁置換術(TAVIタビ、経皮的大動脈弁植込術)がハイリスクな患者さんなどを中心に増えるものと予想されます。

まだまだ問題・課題はあるようですが、今後の展開が期待されます。

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メモ2: 大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術の日米ガイドラインはこちら

また、大動脈弁閉鎖不全症に対する心臓手術ガイドラインはこちらです


メモ3: 患者さんの想い出はこちら

 

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質問1:慢性腎不全 Ilm09_ag07002-sのために血液透析を受けている患者さんでも大動脈弁置換術はできるのでしょうか?

回答1:できます。

通常は問題なくできますが、上行大動脈に石灰化などの動脈硬化の変化が強い場合には工夫が必要です。

通常ならここをゴムのついた道具で軽く遮断して心臓を止めて中へ入るのですが、

上行大動脈が硬化で悪くなっていると

遮断や遮断解除の際に石灰その他が外れて飛ぶ可能性があり、やや特別な工夫をして対処します。

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Ilm09_ad06001-s質問2:大動脈弁置換術前の注意点は?

回答2:病気によりますが、とくに大動脈弁狭窄症(弁が狭くなります)では

無理をすると突然死などの心配があるため走ったり怒ったりというのは控えるようにして下さい。

大動脈弁閉鎖不全症の患者さんでも

気を失ったり胸が痛むなどの場合は主治医に連絡されるのが良いでしょう。

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執筆:米田 正始
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お便り 6 大動脈弁置換術等の患者さん

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Il004_momiji患者さんは86歳男性で狭心症と弁膜症大動脈弁狭窄症)のため冠動脈バイパス手術 と 大動脈弁置換術 をハートセンターにて行いました。

 

大動脈弁置換術そのものは心臓手術の中でも一番シンプルな部類に入るのですが、

複数の手術を行うことに加えて、比較的ご高齢で、もともと心臓機能が落ち、腎臓も血管もお悪かったため工夫を要しました。

しかし患者さんとのチームワークも良く、順調に回復していただき、お元気に退院されました。

 

その直後、患者さんの奥様にも難しい病気が発見され、

米田がご相談をお受けし、その領域で信頼できる名医をご紹介し、奥様も軽快退院されました。

 

以下のお便りはその患者さんご夫婦の娘さんから頂いたメールです。

患者さんご本人だけでなく、その奥様の治療にもお役に立てたとすれば医者冥利につきることでうれしく思いました。

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米田先生

先生、こんにちは!


5月も末に近づき、もうすっかり初夏の陽気になりました。


少し動くと家の中に居てさえ、薄っすらと汗が出るほどです。

(中略)

今回、母の手術ができて、腫瘍が切除できたことは、


父の心臓の手術を先生に執刀していただき、私が先生に


お会いしていたこと。また、先生がHPを持っていらして、


そのHPとハートセンターのHPの中に書かれている


先生のお考えを読ませていただいて、無謀ながらお願いできる


かも知れないと私が思ったからです。

 

現在87才の父でさえ、8時間半に渡る手術に耐え、翌々日から、


自分でトイレに行き、そして、今は週6日は夕食に中瓶1本半


のビールを楽しみ、週1回か2週に1回はサウナへ行く生活を


送っています。


そんなに元気になれたのは、本人の努力もありますが、先生に


手術していただいたお陰に外なりません。

 

それぞれ考え方もあり、一概には言えませんが、ただ決心が


つかないだけならば、若い方なら特に、手術で治る可能性の


ある病であれば、長く辛い思いをして病院通いをしたり、体を


騙し騙しして生活しているより手術をして、健康に生きる方が


どれだけ良いか分からないと私も思います。

 

先生からのメール、大変嬉しく、重ねてお礼申し上げます。


(中略)

 

では、お元気でお過ごしください。

(2009年5月)Carnation_2

 

************以下はその患者さんの娘さんのブログからの引用です。お役に立ててうれしいかぎりです***********

 

母のシーズン
季節の花便りと私の母のことMarch 2009

2009年03月19日
エリカの花咲く道

母が行く散歩道は、この近くでも私の知らない所がたくさんあります。


横浜はUP、DOWNが多いので、すぐ近くでも急な坂道を登ったり、階段があったりで、私は余り行ったことがないのです。


この花は、家の裏手にあり、海の見える大変景色の良い道の途中に咲いています。

 

いつも、抗がん治療に入る前日に採血をして、治療ができる状態かどうかを診断してもらいますが、2/27(金)からの入院治療のために2/26日に採血をしたところ、白血球が少ないので翌日からの治療を見合すという連絡が入りました。そして、翌朝の体温が 37.5℃ 以上あったら来院くださいと言われていたので、体温を測ったところ 37.2℃ あり、念のために病院へ行き診察をしてもらうと、発熱性好中球減少症という診断でした。


これは手のしびれと同じ オキサリプラチン(5-FU) による”骨髄抑制”と呼ばれる副作用で、白血球の減少により抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなります。
そこで、その日の午後から入院をして3日間白血球を増加させる治療をすることになりました。

母が一生懸命前向きにがんと闘っているのに、それを阻むようなストレスがあり、名古屋でゆっくりした気分でいられない事を考えるにつけ、できればこちらで抗がん治療を受けられないものかと思案します。

FOLFOX にしろ FOLFIRI にしろ抗がん治療のお薬は大変高価で、治療のために母が三日間入院すると病院は、お薬代だけでも赤字になるそうです。
入院にかかる費用は、お薬代だけではなく勿論人件費など諸費用もかかりますので、赤字の額は相当なものでしょう。


そういう事情もあって、こちらで新しい病院を探しても受け入れてもらえるかどうかは、難しい問題です。

一方、母より7才年上の高齢の父が、心臓の大動脈を含む手術に成功したことを考え、大動脈の近くだから切除できない(これは実際には、違っていました**)と言われている母の腫瘍も取れるのではないかという思いが私の中で膨らんできました。

そこで、藁をもつかむ思いで、無謀とは知りつつ、母のことを心臓外科医である父の主治医の先生にご相談してみました。


大変お心の広い方で、父の手術の折に一度お会いしただけのほぼ見ず知らずの私の、それも専門外の相談に快く応じてくださり、名古屋にいらっしゃるお知り合いの大腸がんの権威であるお医者さまをご紹介くださいました。

**検査の結果、腫瘍の切除が不可と判断された理由は、腸が仙骨に癒着していて可動しないためだったようです。

追記:


お願いをしてリンクさせていただいた「心臓外科医の写真紀行記」は、
“ハートセンター” の米田正始先生のHPです。


父の心臓手術をご執刀いただき、母の先生をご紹介くださいました。
米田先生には、両親共々、心より感謝しています。


この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

http://blog.livedoor.jp/sachi1929/archives/cat_34454.html

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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事例 冠動脈バイパス術後、慢性透析の大動脈弁置換術

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患者さんは59歳男性。

約4年前に他院で冠動脈バイパス手術を受け、その後お元気にしておられました。

慢性腎不全・血液透析のため大動脈弁狭窄症(圧較差93mmHg)を発症し、ハートセンターへ来院されました。

高度の左室肥大があり左室壁厚は約16mmでした。

1_2前回手術でつけられた内胸動脈バイパスグラフトも静脈グラフトも開存していました。

そのため胸を開くときにこれらグラフトに傷をつけないよう、

普段以上の細心の注意が必要なケースです。

まず丁寧に胸骨正中切開を行い、癒着を剥離していきます

(写真左)。

2手術前のCTと、これまでの再手術の経験から

およその位置感覚・方向感覚はあるため必要な剥離を完了、

逆に不要な剥離は行わずにすみました。

大動脈弁置換をするために体外循環下に 大動脈遮断する必要がありますが、

遮断部位の近くに前回手術の静脈グラフトがあるため、前もってこのグラフトを剥離し、位置を少し変えました(写真左)。

3_a4_a大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は肥厚・硬化・石灰化が著明でした

(写真左)。

弁と石灰を すべて摘除しました(写真右)。

5_2大動脈そのものが硬くなり大きな弁は入らない状況だったため、高性能な機械弁を入れました。

これにより十分なサイズと性能が確保できました

(写真左)。

70分で大動脈遮断を解除し、スムースに体外循環を離脱しました。

術後経過は順調で、翌朝には透析を再開し一般病室へ戻られ、まもなく元気に退院されました。

半年後の心エコーでは大動脈弁圧較差は27mmHgと改善し、左室壁厚は12-13mm と左室肥大もかなりの改善傾向にありました。

術後3年経過した時点でもお元気に暮らしておられます。

 

慢性血液透析は全身の動脈硬化を悪化させる傾向があり、全身の動脈に注意が必要です。

この患者さんの場合は冠動脈は以前のバイパス手術で動脈硬化になりにくい内胸動脈グラフトを持っておられるため冠動脈関係は大丈夫でしたが、

大動脈弁が動脈硬化に似た硬化を起こし、大動脈弁狭窄症を発生し、手術に至りました。

 

近年はこうした透析患者さんの再手術とくにバイパスグラフトが開存した状態の再手術が増えました。

わずかなミスでも命にかかわることがあるため、経験と入念な準備が必要です。

 

この患者さんも心臓外科をもつ病院からのご紹介で、大切な患者さんを病院の垣根を越えて皆で守るというチームワークはこれからますます大切になるものと思います。

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大動脈弁狭窄症

大動脈弁置換術

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