2009年12月27日 散髪屋さんにて

Pocket

著者が名古屋にて新しいハートセンターを皆でスタートし一年あまりが経過しました。毎日生きがいを感じて患者さんと向き合えることを関係の皆さんに感謝してます。病院の近くに住むのが長年のポリシーなので散髪も名古屋市内の美容院に行くことが多いのですが、かつてお世話になった京都市内の散髪屋さんへも時間が取れるときには行くようにしています。この12月に久しぶりにお邪魔したのですが、いつもの元気な雑談の中に含蓄ある話がまた聞けました。

京都のど真ん中で小さな理髪店を営んでおられるこの御主人は、有名なブログ「 柳居子徒然」の作者でもありま正月の下鴨神社ですす。京都らしいとおもうのはその付き合いの幅広さで、文化・宗教・芸術関係はもとより京都大学などの大学人とも交流があるらしく、著者も昔お世話になったことのある元京大総長の岡本道雄先生の頭も刈っておられたことを知った時には、ブログ内容の奥深さの源の一つを見た思いがしました。(写真は下鴨神社、柳居子さんの写真がなかったもので)

以前、柳居子さんにブログ内容の幅広さや奥行きの秘訣をあつかましく質問すると、いやあーいろんな立派な人たちとの雑談の中で勉強した、いわば耳学問のおかげですわ、とのことでした。確かに散髪屋さんへはさまざまな年齢・職業・立場の方も行かれるし、そこで少なからぬ時間それも定期的に話しできるというのは得難い機会に違いありません。また散髪屋さんという比較的親しみやすく庶民的な空間から遠慮なく本音を言ってくれる方も少なくないのでしょう。

ふとわが身を振り返ると、医師などという一見エリートのような仕事をしているためか(本当は重症の患者さんを元気にするために日夜四苦八苦する肉体頭脳労働者です)、患者さんは遠慮されることが多いです。そのため二歩も三歩もこちらから近づく努力をする必要があるというのは昔から心ある指導者に教えられたことですし、私自身も若手や学生などにそう教えるようにして来ました。まして心臓外科医のように大げさな職業では患者さんも一層「引ける」のではないかと思います。

このHPの冒頭にもお書きしましたように、患者さんから見れば医師にものを言うのはちょっと遠慮してしまうだけでなく、医師よりは庶民的と思われている看護師にさえ気がねすることがあるのです。お掃除のおばさんにならのびのびと物が言えるということを教えられたことがあります。鋭い指摘と今も思います。そのため自分なりにいろいろ工夫してはいるのですが初対面で直ちに何でも言える雰囲気というのは容易ではありません。患者さんから愚痴や身の上相談を持ちかけられたら「ヤッター!ヨーシ」と張り切ってしまう私を周囲の仲間たちはおかしく思っていることでしょう。

その一方で、何でもただで相談に乗ってもらえると心臓手術に関係ないことを延々と質問される方もまれにあります。すでに1時間近く経過し、他の患者さんに待ってもらっているので続きはまた次にしましょうと言っても、はい、そうですね、ところで、、、と延々と質問さを続けられるケースもあります。信頼して戴いているのはうれしいのですが待ってくれている人たちの気持ちを考えると、「うー、つらい、どうしよう」という泣き笑い状態です。現代の医療制度のもとでは患者さんと医師のお互いの歩み寄りや配慮も必要なのかも知れませんね。

柳居子さんと久しぶりに話ししていてそれやこれやを思いました。

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

名古屋市立大学病院

Pocket

名古屋市立大学病院は70年以上の伝統を誇る名古屋市立大学の付属病院です。

中京エリアでは名古屋大学にならぶ歴史をもつ伝統校として医学や地域医療の発展に貢献して来られました。

地元では患者さんや医師からも「めいしだい」と呼ばれて親しまれ頼りにされています。

 

Doctor02bたまたま著者(米田正始)の母校と名古屋市立大学とは以前から人事交流があったおかげか、著者が京都大学心臓血管外科にて勤務していたころは、名古屋市立大学卒業の熱い先生が何名も入局してくださり、また活躍してくれたことをうれしく思ったものです。

 

昨年10月に縁あって名古屋の地に名古屋ハートセンターをスタートさせて頂いてからも、名古屋市立大学やその卒業生の先生方にも大変お世話になっており感謝しています。

私たち心臓血管外科チームにも名市大出身の先生がおられ、活躍してくれていることをうれしく思っています。

同大学の関連病院の一つでもある名古屋東市民病院の皆さまには近隣ということもあって消化器、泌尿器や循環器はじめさまざまな領域でお世話になっています。

心臓血管の専門病院であるハートセンターと総合病院である名古屋東市民病院は得意種目が違うため協力しやすい関係にあるのが幸いです。

今夏同病院に心臓血管外科が開設されて、いわばライバル科となった後も同病院との協力関係に変わりはありません。

 

新しい研修制度がスタートしてすでに数年が経ちました。

大学医局はかつて人材を派遣することで地域医療を支えたのですが、新しい研修制度のために医局が使えるマンパワーが減り、地域医療の危機が現実のものになっています。

この問題を学会やシンポジウムその他で考え議論しているうちに、著者なりにひとつの考えを持つようになりました。

それを名古屋市立大学病院や名古屋東市民病院と関連して述べてみます。

 

それは医療の展開を阻む障壁の存在が医療の周囲(外側)にも多くの病院内(内側)にも多々あるにも拘わらず、大学間あるいは医局間の競争に目が向いてしまう構造の中で、医師や医療者が大変劣悪な仕事環境に置かれてきたのではないかという考えです。

若い熱心な医師をどう集め育てるか、これから日本の医療の正念場です僻地医療を例にあげれば、医局が将来の身分保障をそれとなく示しつつ若手を僻地へ派遣してきました。

医局や教授に任せておけば大丈夫という発想が現地の病院に生まれ、医師の環境や待遇はあまり改善されませんでした。

若い医師にしてみれば、こどもの教育や自分の研修などにしばしば犠牲を払っての僻地赴任であったにも拘わらず、報酬は必ずしも恵まれないレベルのものでした。

つまり若手を育て立派に展開させる責務を担うはずの医局制度が、若手医師の待遇悪化に手を貸すような皮肉な結果になっていたわけです。

もちろんそれは医局の本意ではなく、他医局に後れをとらぬよう「ジッツ」(ポスト)確保に力をいれ、それは医局の若手の将来のための努力であったはずでした。

 

こうしたことを原点に立ち返って考えれば、医師という厳しくとも尊いプロフェッションを守る闘い(たとえばこれまでの医療費削減政策や道路公共事業優先策などへの対抗策や一部組合の政治的闘争などへの解決努力)が、ある意味で医局間・大学間の抗争にすりかわっていて、

その結果、医師への評価や待遇が悪化し、新研修制度で医局の力が低下したとたんに地域医療が成り立たなくなり、忙しく厳しい科に人が来なくなるという、医療崩壊を招く一因になった、と言えるのではないでしょうか。

 

名古屋エリアの公立病院を見ているとそれを感じることがあります。

大学や医局を守るために公立病院でセンター化を図ることで、結果的に現場の若手は公立病院の多大な雑用と低い報酬という二重苦を味あわねばならなくなるのです。

このことはかつて医局の人事を任されていた経験から、若手が嫌がる病院の筆頭は国公立総合病院であり、若手が好む病院の代表例が私立専門病院であったことからも、実感があります。

公立病院で医師というプロフェッションを守り育てるのはよほど潤沢な予算がつけられる一部施設や、病院指導者が特段の力と見識をもつ施設に限られていたきらいがあります。

 

霞が関界隈では厚生労働省のお役人は文部科学省のお役人よりかなり優秀と聞きます。

そうだとすれば、新研修制度は厚生労働省が大学(つまり文部科学省)に勝利した象徴であり、今後低落傾向が予想される、大学や医局単位での繁栄や幸福よりももっと大きなパラダイムの繁栄を医師は目指すべきではないかとも思えるのです。

そう考えると長年にわたり多数の優れた人材を輩出して来た名古屋市立大学は従来のパラダイムにこだわらぬ視点ならばもっと新しい展開が期待できるように個人的には思えてなりません。

その中でハートセンターのような無国籍・独立独歩の患者ニーズに合わせる足腰をもつ施設は医師や大学にもお役に立てるように思えるのです。

いつでも患者さんのニーズに応えることができるというのは、とくに心臓手術では民間病院が有利というのはよく知られたことですから。

 

いささか我田引水のような議論をしてしまいましたが、ある県の知事さんが思わず言われた言葉が脳裏を離れないためこうした議論になってしまうのです。

それは「県立病院医師の待遇は県庁職員と同じで良い」という言葉である。

人の真意を推し量るには、その言葉よりも行動で、という考えからは、その知事さんの言葉はおそらく本音がもれたのでしょう。

それはそれでひとつの立派な考えかも知れませんが、それでは医師は県庁職員のように、朝9時から午後5時までの勤務しかしなくなって行くでしょう。

これからの若者にはかつてのような滅私奉公などあまり期待できないと思います。

たとえ一部の奇特な若手医師が奉仕精神で頑張ってくれたとしても、現代はその配偶者が許さないのです。

そして離婚されてまで滅私奉公を続けよと誰も命令はできません。

あるいは医師をもっと雇い入れて3交代制にすれば真の24時間体制ができますが、現在の医療制度ではそれで経営が成立することは難しく、それ以上に、そういう体制では若い医師が十分な経験や実力をつけられないのです。

 

名古屋地区での病院間・医局間の競争状態を見ているとそうした問題を感じます。

しかも過当競争と言われながら救急患者のたらい回しなども存在するのです。

医局の力比べよりも医療を支える良心的医師・医療者のアイデンティティを守る戦いのほうが患者にとっても社会にとっても有意義ではないかと思うのです。

欧米ではこうした考えは常識なのです。

 

11. 名古屋ハートセンターについて へもどる

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

10b. 症状さくいん―症状や患者さんのお話しは大切です

Pocket

患者さんから「どういう症状のときに病院へ行ったら良いのですか」「どの症状の時にどの科へ行けば良いのですか」というご質問をよく戴きます。
基本的にはまず内科とくに全身を診る開業医の先生か胸の症状が強ければ心臓の内科(循環器内科)が適切と思います。
心エコーや心電図・レントゲンで異常があればご連絡下さい。
私たちは心臓血管外科ですが弁膜症科・血管科としても機能していますので内科の先生とともにお役に立てるかも知れません。

しかしどうすれば良いかよくわからないというケースも多々ありますので、以下に症状をいくつか列挙します。
それぞれの項目の中でどこへ行くのが良いかなどをお書きします。
ご参考になれば幸いです(個々の解説を順次Upして参ります)。
胸の関係でどうしてもわからないという場合はメールや電話でご連絡下さい
なかでも胸のひどい痛みやきびしい胸症状のときは救急車でお越し下さい

お問い合わせはこちら

1. 胸の症状

1. 胸が痛い

左胸が痛い、「心臓」が痛い、動くと心臓が痛い、胸がずきずき痛い、胸がしめつけられる、咳をすると胸が痛い、息を吸うと胸が痛い、胸が痛い、動くと胸が痛い、ストレス、乳が痛い、胸が苦しい、肺が悪い、心臓に穴が開くなど

なお  All About の健康のページに胸痛を伴う病気の一覧をお出ししましたので、ご参照下さい。

詳細はこちら

2. 動悸がする

胸がどきどきする、胸がどきんとする、胸がドーンと来る、胸が躍る感じがする、動くと心臓がどきどきする、動くと心臓がぱくぱくする、など

胸がちくちくする、胸がちくちく痛い、「心臓」が痛む

詳細はこちら

3. 息苦しい

胸が苦しい、息切れがする、動くと息切れがする、呼吸が苦しい、動くとえらい、胸が重い、など

詳細はこちら

2. 首の症状

1. 首が痛い

首がきゅーっとする
首が締められる感じがする
首がピリピリする

3. 頭の症状

. めまい・ふらつき など

めまい・ふらつき・ぼーっとする・くらくらする

(短時間でも) ろれつが回らない

(言葉がしゃべれ なくなる、しゃべりにくい、しゃべれない、舌がもつれる)

(短時間でも)見えにくくなる、目が真っ暗になる

2. 失神発作

意識が消失する、気を失う、短い時間でも意識がふーっとなった)

詳細はこちら

4. 背中の症状

1. 背中が痛い

背中が刺されるようだ、背中にナイフが突き刺さるような、背中がズキズキする、背中がジーンと痛い

背中がずきんずきんする

詳細はこちら

5. お腹の症状

お腹が痛い
お腹が張る
お腹が差し込む
お腹がころころする
下痢
便秘
腰が痛い
おしりが痛い
太ももが痛い

6. 下肢の症状

下肢が むくみがある (下肢が張るなども)
下肢が痛い
歩くと下肢が痛くなる
足の血管が詰まる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

2009年12月19日 冠疾患学会にて

Pocket

(註:今回のブログは医師医療者向けになってしまいました。一般の方には判りづらいかも知れません。すみません。)

この12月18日と19日に大阪の国際会議場で開催された日本冠疾患学会に行ってきました。畏友・澤芳樹先生(大阪大学心臓血管外科教授)が外科系の会長で、内科系の会長は南都伸介先生(大阪大学先進心治療学教授)でした。

この学会は会長が内科系と外科系のそれぞれにおられることに示されるように、冠動脈疾患について内科と外科が協力して学ぶという、なかなか現代的な学会で、和気あいあいとしたアットホームな雰囲気が特長です。(写真は学会の帰途に取った中之島のイルミネーションです)

私が担当させて頂いたセッションは、「外科内科合同シンポジウム 世界の大規模スタディとその解釈・適応――ガイドラインを検証する」で、帝京大学循環器内科教授の一色高明先生と二人で座長(司会)をさせて頂きました。発表は帝京大学循環器内科、三井記念病院心臓血管外科、近畿大学循環器内科、日本大学板橋病院心臓外科、国立循環器センター心臓血管外科などの先生方がいつくかの小トピックスについて発表され、それに対してディスカッションをしました。東京大学名誉教授の高本眞一先生に特別発言を頂きました。大変なにぎわいを見ていますとイルミネーションはすでに冬の楽しみになった感があります

心臓関係の内科と外科の間で今一番話題になっているのは狭心症(冠動脈病変)の治療をカテーテルでおこなう(PCIと呼びます)か、手術で行う(バイパス手術と呼びます)かということです。カテーテルは内科の先生が行い、手術は外科医が行うため、いわば競合するような形になるからです。患者さんにとってどの治療法がベストかは大切なことなので、いくつもの研究がおこなわれています。その代表的なものがSYNTAX(シンタックス)研究です。

このSYNTAX研究ではヨーロッパで比較的重症の狭心症の治療を上記のPCIかバイパス手術で行い、その成績を比較しました。最近、術後2年までの結果が出ました。外科手術つまりバイパス手術の成績の良さが次第に明らかになって来ており、中でも重症冠動脈の場合バイパス手術のメリットがより鮮明になっていますが、内科の先生の中にはそれを無視する方があるという不満が外科側から出されました。

日本国内の臨床研究ではバイパス手術のほうがカテーテルPCIよりも成績が良いという結果が出ているのに、論文の結論ではそれがあいまいにされ、PCIに有利な文言を強調しているという不満も出されました。心臓外科医が患者さんのためになる治療をしてもそれが無視されているという残念さが随所に感じられました。

現代のEBM(証拠に基づく医学・医療)を支えるのはRCT(無作為臨床研究)つまり比較する治療法をランダムに使い分けて公平かつ正確・科学的な比較をする研究なのですが、このRCTにも弱点があることもあらためて指摘されました。私が以前から提唱しているように(このHPの冒頭のページをご参照下さい)。つまり重症はランダム化しづらいためどうしても軽症でデータをとることになり、軽症では2つの治療法の差がでにくいわけです。シンポジウムではこれらに加え、RCTでは通常の医療より丁寧になりがちで、通常の成績より良い結果が出て通常の医療の現実を反映していないという一面も指摘されました。

私が理想と思うのは、PCIとバイパス手術の特長を活かした使い分けや併用を内科外科で協力して行える医療ですが、まだまだ努力が必要なようです。循環器医療の全体像が見え、公正かつ科学的に判断するような立場の方ができればと思います。

重症心不全(虚血性心筋症)に対する左室形成術の効果を研究したStich研究(スティッチ研究、欧米の多施設が参加)では左室形成術の効果がないという結論であったため、これを検証し、左室形成術の効果があまり出ない軽症例が多すぎるという、Stich研究の弱点が指摘されました。私が以前から東京の須磨久善先生らと一緒に学会などで指摘して来たことをさらに具体的に示して戴き、うれしく思いました。このような不完全な研究のために、左室形成術で助かるはずの患者さんがその恩恵を受けられなくなるのは残念ですので、今後も啓蒙活動をして行こうとい思いました。

それやこれやで有意義で内容あるシンポジウムでしたが、時間が足りず、ディスカッションが十分できなかったのは残念でした。今後の学会などでさらに深めて行ければと思いつつ、シンポジウムを締めさせて頂きました。日本冠疾患学会の特長がよく見えるシンポジウムだったと思います。(皆さんに感謝!)

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り20 ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さん

Pocket

患者さんは鹿児島在住の72歳女性。

18年前に僧帽弁置換手術を地元の病院で受けられ、4年前に徐脈(脈が遅くなります)に対してペースメーカーの手術を受けられました。

ところがそのペースメーカーケーブルのために三尖弁閉鎖不全症(つまり弁が逆流します)を合併し、

肝臓がうっ血し肝硬変・肝不全の状態になってしまいました。

 

こうしたペースメーカー三尖弁閉鎖不全症のケースでの三尖弁の形成手術は一般には難しいとされており、

だからと言って三尖弁置換術つまり人工弁に取り換えるのはこの弁の場合は長期の成績が悪いため手術を躊躇する病院が多いです。

それ以上に肝不全があるため、オペを乗り切れるかどうかも不明のため、

近くの立派な病院でも断られ、息子さんがネットを探して米田にメールを送ってこられました。

 

何としても助けたいため、飛行機で来院して戴き、そのまま入院して頂きました。

患者さんご本人とご家族皆さんと相談し、悩んだ末の決断で、

私たちを信頼し命をかけて私たちのところまで来て下さったことをあらためて実感しBara_4感動しました。

 

内臓が衰弱している上に2度目の手術で普通以上の負担となるため、作戦を練りました。

時間をかけて体調を整え、心臓手術に臨みました。

手術法は私たちが開発した新しい三尖弁形成術でうまく行きました。

 

そのあとがさらに課題で、衰弱した肝臓や全身が持ちこたえてくれるかどうか、

みな祈るような気持ちで見守っていましたが、見事に回復してくれました。

その後、なんと畑仕事に復帰するまでに元気になっておられます。

患者さんやご家族が一体となって私たちを信用して下さり、

私たちも患者さんを自分の親のような気持ちで、覚悟を決めて臨んだことが良かったのだろうと思います。

 

退院前にあらためて患者さんがしみじみと御礼を言って下さいましたが、私は思わず私の方こそと御礼を述べてしまいました。

以下はその息子さんが退院後、私に送って下さったメールをもとに、読者に皆さんにも役立つようにと加筆して下さったものです。



*********患者さんの息子さんからのお便り**********

米田先生御侍史

お世話になります。


母の三尖弁形成手術では大変お世話になりました。


本日、退院させて頂き、鹿児島の自宅に18:00頃到着しました。
母は3ヶ月ぶりに自宅に戻り、とても感慨深く感じていたようです。


母は小さい時から心臓を悪くし、それに対してとても我慢強く生きてきましたが、今
回は一度はもう自宅には戻れないと覚悟していたようです。


幸いなことに、先生に心臓手術をお願いすることが出来、家族一同大変幸運であったとし
みじみと話しています。

思えば、本年10月18日に先生に突然ご相談のメールを差し上げたことが始まりでし
た。


その時には、入院していた鹿児島の専門病院から手術は不可能と言われて、本当にできないのか、自宅療養で病気が悪くなる恐怖を抱えながらひっそりと暮らすしか
ないのかと家族で悩んでいたときに、先生のホームページを見つけて勇気づけられ、
最後の頼みとしてご相談したのでした。

 

この体験記を読むことで私たち同様に、勇気づけられる皆さんが一人でも出てこられ
れば幸いです。
簡単にこれまでの経過を記します。

鹿児島在住の母親(72歳)は三尖弁閉鎖不全症による右心不全状態で当時鹿児島の専
門病院に入院しており、今後の治療についてお伺いしたくメールにて相談いたしました。

 

母は、約18年ほど前にリウマチ熱による後遺症で僧帽弁置換術を鹿児島の専門病院で
受け(平成15年頃ペースメーカー装着)、ずっと定期受診してきました。

しかし、ここ1~2年段々と体調が悪くなり、元気がなくなってきていたようですが、

最近になって体に水がたまり、いよいよ日常生活が困難となったため、本年9月1日にその専門病院へ入院しました。


主治医の説明によりますと、入院時、浮腫がひどく、また黄疸も出ていたとのことで
治療をしてきましたが、

三尖弁の閉鎖不全によって全身に、特に肺や肝臓へ水がたまった結果、高度の肝機能異常(総ビリルビン値約8)を来たしているとのことでした。

その後の治療により、浮腫も軽快し尿も一日1500ccほど出るようになり、総ビリルビン値も約4~4.5まで下がって来ました。

ただ主治医によれば、いつまた病態が増悪するか判らないため、この病態から脱するには最終的には三尖弁手術をするしかないとのことでしたが、

肝不全が強く、2度目の手術でもあるため、

当院でのオペは心臓外科の判断で、「術後の肝不全のリスクが高いため、不可能」と言われていたものです。

 

私は母親の今後について、当時の主治医の意見を参考に、家族とも相談してきました
が、

このまま自宅療養で安静に生活することを選択すべきか、

それともあくまでも心臓手術をして弁膜症を治療するべきなのか大変迷っておりました。

 

当時、鹿児島の専門病院の心臓外科より手術のリスクが相当高く(術後の肝不全)、

かえって寿命を縮める可能性があることからオペをしないという決断の勇気も必要で
あると説明を受け、

自宅療養でも何とかこのまま延命できるのではないかと淡い期待をもっていましたが、

米田先生に相談してかなり厳しい状況であることを理解しました。

 

結果として、米田先生の手術を受けることが出来て大変幸運であったと感謝していま
す。

術後は、三尖弁の逆流が改善したばかりか、肝機能もビリルビン値が1.5程度
まで低下し、本当に最良の結果となりました。

 

私たちは幸運にも先生に相談することが出来て、良い結果を得ることが出来ました
が、

一方では心臓手術を受ける機会を得ることなく不幸な転帰を取られる方々も多いので
はないかと思います。


私たちと同様の病気でお困りの皆さんが、この体験記を目にされましたら、是非一度
米田先生にご相談されることを強くお勧めいたします。

 

追伸:母は自宅に戻ってから本当に生きていることを噛み締めているようでした。


私たちも母に辛い手術を勧めたことで本当に良かったのかと悩んでいたことも報われ
た思いです。


母には苦しい思いを2度もさせてしまったこともあり、是非長生きして欲し
いと思います。


これからもよろしくお願いいたします。本当に有難うございました。

 

患者さんからのお便り・メールへもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

2009年12月18日 ライトアップとイルミネーション

Pocket

世の中は不況続きで大変ですが、ちょっと眼と心をなごませてくれるものもあります。

 

これまでいかにして心臓手術や治療の成績を良くするか、

どのようにして死にそうな患者さんを元気にするかだけ考えて毎日を過ごして来ましたが、

大学病院を去って雑用が減り、その分趣味の写真を復活させてから、周囲の美しいものに気づくようになりました。

ライアップやイルミネーションはその例です。

 

紅葉の季節にライトアップがされるようになったのは比較的最近のようですが、

そういうものがあると聞き、カメラを持って行ってみたところ随分美しいのでやみつきになってしましました。

といっても時間がそうあるわけではないので、ちょっと時間ができたらクルマかタクシーでハシゴして集中的に行くだけですが。

 

この秋に京都で将軍塚、宝泉院、青蓮院、岩倉実相院や詩仙堂、永観堂などを夜行ってみました。

ライトアップをする方もよく考えてくれているようで、ちょうど一番きれいに色づいた木に光が当たるようになっています。

ライトアップの紅葉が美しいのはそのためでしょう。

加えて、時間があまり取れない者には天気に左右されないのもうれしいですね。

さらにちょっと技術的には反射光だけでなく透過光でも撮れるというのは葉の本来の美しさが出て最高です。

それやこれやでちょっと立ち寄っただけでもかなり良いコンディションで写真が撮れます。

そのうちにこのHPの写真ギャラリ―にUpするつもりですが、あまり良いことばかり書いていると、最高のコンディションの割には作品はいまいちと言われそうなのでこのぐらいにしておきます。永観堂のライトアップ

 

ともあれ夜にも皆で紅葉を楽しめるのは楽しいことです。

入場料(拝観料)はおよそ500円ほどですが、あまり惜しいとは思いません。

皆でこの美しいプロジェクトを支えあっているという気持ちになります。

寺院によってはやや前衛的な光のアートをコンピュータ操作で演出してくれるところもあり、京都のお寺も現代化したなあと感心します。

 

もうひとつの話題、イルミネーションは冬の寒い中でも大勢の人たちが集まって楽しいものです。

こちらもコンピュータ制御で光の祭典という雰囲気で凝ったものが増えました。

神戸のルミナリエや東京の表参道へ行く時間がないため、たまたま大阪で学会があったのを良いことに、「光のルネサンス」の写真を撮って来ました。

人々の賑わいそのものが格好のテーマと思うため、写真の材料に事欠きません。

 

中国やタイ、ベトナムその他アジアへ心臓手術や講演でちょくちょく行くのですが、いつも思うのはアジアの人たちはなぜあんなに元気なのかということです。

夜中遅くまで大勢の人たちとくに若者が街に出て食べて飲んで話して、明け方になってもまだやっている。

明日は祭日かいと聞くと普通の日と答えられてまた驚く。

翌日早朝に同じ道を通るとまだ飲んでる。

同じ人たちかどうか判りませんがすごいエネルギーです。

あの元気さと比べると日本の雰囲気はどこか疲れているような、ある意味退廃的なものさえ感じることがあります。

真冬のイルミネーションに大勢の人たちが集まって楽しそうにやっているのを見てどこかほっとしました。

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

【第六号】 事業仕分け

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第六号】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

最近は国会やメディアで事業仕分けが話題になりさまざまな無駄があるもんだと感じました

。その中には快哉を叫びたくなるような面白い話や、ちょっと近視眼的で日本の将来を十分

考えていない話までいろいろありました。

後者の方の例を挙げますと、さまざまな研究予算が削られる方向にあります。日本は土地も

資源も少なく、あるのは人と技術だけです。人を育て技術を育てることがこの国にとって大切

です。研究予算は人と技術を育てるために必要不可欠でこの国の将来を決める重要なもの

です。世界中がしのぎを削って競争している中で日本だけがどんどん後退して行くのは危険

なことです。人と技術がダメになってしまうと食料を輸入することさえできなくなります。

前者の例を挙げますと、既得権を確保するために造らなくても良いダムを造り続けるなどの、

官公庁・官僚のためにお金を投入することなどがたくさんあります。またそれに群がり甘い汁

をすうような官僚や天下りの方々が多数います。この機会にしっかり大掃除してほしいと思

います。

医療の世界でもこうした官僚のための無駄遣いはたくさんあります。多額の税金を投入しても、

しっかりした医療ができない事例はすでに山積しています。いわゆる医療崩壊として救急の

たらい回しはよく知られていますが、病院内でもちょっと状態が悪いと、「安全上の理由で」

手術が許可されないなどの事例が国公立病院では増えています。手術を断られた患者さん

はどうなるのでしょうか。

また公的病院では天下りの人たちに多額のお金が巧妙な形で支払われているのは知る人

ぞ知る、大問題です。ぜひこの機会に皆の議論の場にあげて、改善したいものです。医療を

良くするために皆さんも関心を持っていただき、発言して頂ければ幸いです。

(註:この記事は私のホームページにある心臓外科医の日記ブログから一部抜粋、転載いたしまし
た。日記ブログの方もご覧下さい)

2009年12月12日

名古屋ハートセンター心臓血管外科
米田正始 拝

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

2009年12月11日 大腸ファイバーと胃カメラ

Pocket

数日前、がん健診のため友人いるの消化器病院へ(奈良県橿原市にある錦織病院)行って参りました。

大腸ファイバーと胃カメラその他の検査を受けるためです。

小回りが効くちょうど良いサイズの専門病院で、ハートセンターの消化器版と言えましょうか。

 

友人はこれらの検査の名人なので快適に検査して頂きました。

消化管の上(胃と十二指腸)と下(大腸)を同じ日に検査するのはどちらかといえば強行軍のようですが、

そこは貧乏暇なしの職人ということで友人が理解協力してくれ、

同日検査を毎年やってくれています。

 

まず手始めに腹部エコーから。

この検査はもともと快適な検査ですからとくに問題なくパス。

といってもこの日ばか28りは患者さんの立場ですから、先生がエコーの探触子を止めてじっと画面を見ておられる時には一瞬不安になります。

いつも自分の患者さんには不安を与えているのだろうなあと反省しているうちにエコーは終わりました。

 

つぎに胃カメラは私が何より不得意とする検査で、カメラ(ファイバー)を見るだけでおえっと吐きそうになります。

こどもの頃、お腹を壊しては吐いてばかりいたヘンな習慣がトラウマになって残ったようです。

いつものことなので、友人の先生には、私がおえっとなっていても無視してどんどん進めて下さいとお願いしているのですがやっぱり大げさにちょっとお待ちを、と懇願する始末。

点滴の針を刺している間だけは全然吐きそうにならないあたりは、やはり気分的なもの、単なる身勝手と自分でも確信してしまいました。

それでも近年の鼻から通す胃カメラのおかげでなんとか快適に検査終了。

(写真は昨年ダナンで撮ったものです。検査してくれた先生に捧げます)

 

それからちょっとみじめな下剤と下痢の下ごしらえがしばらくあって、尿のような便が出て大腸がすっかりきれいになったところで大腸ファイバーへ。

ここまで来るともはやみじめさにも慣れ、あとは適当に始末して下さいというほど腹が座ります。

例の後ろ側(お尻側)に穴が開いたパンツもなんのその、まもなくその穴からファイバ―が大腸に入り検査が進みます。

昔はファイバーが腸の曲がり角に触れるとちょっと痛かったのですが、最近はそれもわずかで、集中検査の一日はめでたく終了しました。

ちなみにヨガの人たちの話しでは、断食の目的の一つは宿便を取ることらしいので、

この検査で宿便は完璧に取れると思うと、何か良いことをした気分に浸れます。

 

これら検査の結果、びらん(胃炎)があるよということでお薬を頂きました。

最近ゴルフを再開し、それまでの筋トレの成果かどうか、筋力が関節や腱の力を上回ってか、ゴルフ練習のあと腱だけが痛むため、消炎鎮痛剤を飲んでいたのが胃に悪かった様子。

週1回ほどの練習で、週1錠飲んでも胃を荒らすとなると、心臓手術後の患者さんが痛みどめを飲むことのつらさが良くわかりました。

それにしても歳をとると体中がデリケートになるものです。

昔は体だけは使い減りしないもの、使いこむほどに良くなるものと思っていましたが、、、。

 

一日患者さんになって思ったことは、自分の患者さんはよく耐えて協力してくれているなあということです。

毎年そう思いますので、この日は私の心の中の患者デーです。

 

2009年12月11日 米田正始

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り19 修正大血管転位症の患者さん

Pocket

成人先天性心疾患は生まれつきの心臓病が大人や場合によっては高齢になってから悪化するものも含まれまSumireす。

修正大血管転位症もその一つで、心臓の中に穴があいておらず、狭いところなどもなければ、若い間はまずまず元気に暮らせます。

しかし年齢とともに新たな病気や問題が発生し、次第にそれらが命取りになることがあります。

修正大血管転位症(強い左室と弱い右室が入れ替わっており徐々に無理がかかる)の場合は

三尖弁閉鎖不全症(普通の状態なら僧帽弁閉鎖不全症に相応)が発生すると心臓の力が落ちて行きます。

 

患者さんは70歳女性で

修正大血管転位症と三尖弁閉鎖不全症そして僧帽弁閉鎖不全症のためどうしても心不全が取れず岐阜県から来院されました。

しかも心臓の位置が通常と左右反対になっており(右胸心といいます)、手術の際にはさまざまな工夫が必要な状況でした。

無事手術はでき三尖弁は人工弁(生体弁)で、僧帽弁は弁形成できれいになりました。

慢性心房細動も強化したメイズ手術で治りました。

弱った心臓のパワーアップを図るよう、三尖弁の乳頭筋も温存し、心房の「キック」(ちょっと専門的ですみません)も効くように工夫しました。

すっかりお元気になられ、お手紙を頂きました。

 

お手紙を拝見し、派手ではなくても、素晴らしい人生を歩んでこられたこと、

そしてその素晴らしい人生に心臓手術によってお手伝いができたことをひとりの臨床医・外科医として誇らしく思いました。

この弱った心臓で農業をこなし、命を賭けて子供さんを産み、頑張り続けられ、

しかし一時間でもいいから楽な呼吸がしてみたい、、、

こういった患者さんをお助けするため自分は長年心臓外科の修業と研究を積んで来たのだとお手紙を読んで改めて思いました。

私の方こそ感動を頂いたように思えます。

 

***************患者さんからのお便り***********

米田正始先生

その後いかがお過ごしでしょうか。

手術の節には本当にありがとうございました。

 

修正大血管転位症 右胸心と言う病気を持って生まれて七十年の歳月を歩んで来て、

今もな お便り19の実物写真 お歩み続けております。

でも元気いっぱいと言うわけにはいかず、苦しい時間の方が多い日々でした。

 

年齢と共に体力も心臓も弱ってきて、

農家に嫁いだ私には仕事は重労働でとても辛いものでした。

そして子供を生むことは無理だと言われましたが、それでも子供は欲しく、

命懸けで二人の子供を授かることができ、今ではとても有難く幸せに思っています。

 

心臓の調子がだんだん悪くなり、六十歳頃手術を勧められましたが、

その頃には手術をする気持ちにはとてもなれませんでした。

でも時々起こる発作に苦しみこのまま心臓が止まってしまうのではないかと恐怖心を感じた事も何度かありました。

 

一度飲むだけでも何種類とたくさんの薬をもらい、飲み続けてどうにか普通の生活も出来ておりましたが、

七十歳になった頃から急激に心臓の衰えが増してきて体力もなくなり、

手足は夏でも冷たく、顔や足など浮腫んで横になっている日が多くなり、

話をするにも息切れがし、声を出す力も弱くなってしまいました。

お世話になっている病院の先生も弱っていく私の体を心配して下さいましたが、

私自身、気力も体力もなくなっていくばかりで残りの寿命も終わりが近づいている気がしてとても悲しい思いが込み上げてきました。

でも終わりになる前に一日でも一時間でもいいから健康な人と同じ様な呼吸がしてみたいと切実に思いました。

 

そんな苦しみの中で、ある日明るい希望が見えてきたのです。

その希望というのはハートセンターという病院です。

心臓専門で優れた経験と腕を持った米田先生を紹介して頂き、

兎に角一度お逢いして診ていただこうと車で二時間余りかけて米田先生を訪ねました。

 

体の疲れ、不安、心配をしながら米田先生にお逢い出来、早速色々な検査をして頂き、

検査の結果を丁寧に説明して下さり聞いているうちに想像以上に悪くなっている自分の心臓に驚いて、又、不安になってしまい、

それでも先生の「手術をすれば元気になれる」という言葉を聞いて安心はしたものの、

大変な事には間違いなく、すぐには決心は出来ません。

 

家に帰ってからも毎日色んな事を考え悩み、しばらくして二度目の診察日がきても気持ちは迷うばかり。

家族も手術を勧めてくれるし思い切って手術を受ける心を決めました。

体の方は苦しくなるばかりだし三回目の診察の日に入院させて頂き、

手術に向け体力を作る治療が始まりました。

 

四月二十日に手術を受けました。

怖いのと心配でいっぱいでしたが、もしこのまま目が覚めなくても寿命だと思い・・・

どの位の時間眠っていたのかわかりませんが、先生に声をかけられパッと目覚めた時、

「あっ生きている」と感じ、病室の明かりが本当にまぶしく目の中に入ってきたことを思い出します。

意識が朦朧としている中、喉の乾きがひどく水が欲しいと無理を言った事も覚えています。

時間が経つにつれ、あんなに苦しかった心臓がとても楽になっている事に気が付き、

これって本当かしらとすぐには信じられませんでした。

呼吸をしているのが不思議に思えました。

うれしい、良かった、生きていて良かったと涙があふれました。

 

米田先生はじめ北村先生、深谷先生、優しい看護師さん、

そして私に携わって下さった大勢の方々のお陰様で絶望から希望に変わり、

夢のような思いで毎日を送っています。

手術の日から十二日目には早くも退院ができ、

一日一日と元気になっていく私を家族も驚くほどです。

 

十月二十日で半年が過ぎ、経過を診てもらいに行き、笑顔で先生とお話でき、本当に良かったと思います。

まだまだ元気になれると言われ、益々元気が出てきました。

苦しい日が続くとどうして私ばかりがこんなに不幸な人生かと他人を羨み、生んでくれた親をつい恨んだりもした事が、

今は生まれて来て良かったとこんな大きな喜びを感じられる私は幸せ者だと思える様になりました。

 

私の命を救って下さった米田先生には感謝の気持ちでいっぱいです。

うまく言葉に表す事が出来ない私ですが、救われた命を日々大切に一生懸命生きていきたいと思います。

現代の医学と米田先生を信じて受けた手術はすごいものでした。

苦しんだ後の幸せはとても大きいものです。


本当に本当にありがとうございました。

 

平成21年11月**日  ****

患者さんからのお便り・メールへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

2009年12月5日 「心臓弁膜症サミット」 

Pocket

マレーシアはクアラルンプールで開催されたバルブサミット(心臓弁膜症サミット)に行って参りました。

 

僧帽弁の話しと、大動脈弁の話しをさせて頂きました。

僧帽弁ではこれまで力を入れて来た心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症の新しい手術治療を、

大動脈弁では大動脈基部拡張に対する基部再建手術(私の恩師の名前をとってデービッド手術といいます)に相当するものをより短時間で確実に行う方法を講演しました。

体力のない高齢者の患者さんや他に重い病気をもっていて余裕がない患者さんを安全に救命するための方法です。

 

ライブ手術も数件あり、パリのペリエ先生やタイのタウィーサック先生らを始めとした先生らの手術を皆で温かく厳しくDiscussionしました。

僧帽弁形成術がおおく、小切開手術(MICSポートアクセス法)もありました。

15年以上前からある方法ですが、少しずつ工夫し完成度を上げているのが判ります。

エプシュタイン病の大人の三尖弁形成術もありましたが、右心室を治していないのがちょっと不満でした。

カテーテルを用いての弁膜症手術(TAVI)もありました。

まだまだ未発達のところもありますが将来の有望治療法です。日本ではいつのことになるのでしょうか。ツインタワーは壮大です。その下は豪華なショッピングモールや市民公園になっています

 

心臓外科全般についてアジア諸国の発展ぶりは経済発展と同様、めざましく、アジアの先生方が誇りをもって頑張っていることをあらためて感じました。

心臓弁膜症についても同じで、これまでは日本の心臓外科医が指導する場面が多かったのですが、これからの時代は教えて頂くようになるのかも知れません。

(写真は有名なクアラルンプールのツウィンタワーです)

 

平等な国際交流という意味ではそれも良いのかも知れません。

ただそれが日本独特な構造的弱点のために他のアジア諸国よりも力を落としたためと考えると、次の時代に向けて何とかしなければならないと思います。

日本独特の構造的弱点というのは、要するに心臓外科医が他のアジア諸国の心臓外科医ほど手術ができない構造のことです。

日本でも民間病院では外科医一人あたりの手術数はある程度は増やせるため何とかなりますが、国全体として改善が必要です。

学会も様々な努力をしているのですが、なかなか進みません。

 

サミットには欧米の有名な心臓外科医も多数来ておられ、昔から良く知っている先生もあり楽しいひとときが持てました。

 

クアラルンプールはアジアの文化、イスラム文化、そして旧英国領ということでイギリスの影響もあり、なかなかユニークな街です。

せっかくの機会なので、ちょっと学会場を抜け出して写真を撮りに行ったりもしました。

そのうちにこのWEBのギャラリーに迷作として披露したく思います。

 

街中のショッピングモールは東京やニューヨーク、パリなどを思わせるような立派なものでしたが、聞けばイスラムのよしみで中東からリッチなお客さんが多数来られるため高価な商品もよく売れるとのことでした。

庶民での不況はないのかいと尋ねたところ、イスラム銀行が支援するので、他の国ほど不況の波を受けないとのことで、

ホントかなと思いながらも、イスラム教が多くの民衆を惹きつけて来たことの理由の一部を見た思いがしました。

 

米田正始

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。