【第八号】寒い日はご用心

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【第八号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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寒い日が続きます。この寒い季節にはハートセンターのような心臓専門病院は忙しく

なります。つまり寒くなると心臓の調子が悪くなるのです。

たとえば狭心症の患者さんでは寒くなるとそれまで安定していた症状が急に悪化し、

運が悪いと心筋梗塞を起こして緊急入院・緊急治療になることもあります。それは

寒くなることで全身の動脈が縮こまって血圧が急に上がり心臓への負担が急に増え

るからです。また寒さのために心臓に血液を送る冠動脈そのものが縮こまり血液が

流れにくくなることもあります。急な寒さは心臓の大敵なのです。

 

同様に、心不全をお持ちの患者さんでも、寒くなると心臓への負担が急に増え、それ

まで何とか安定していた心不全が一気に悪くなることがあります。弁膜症や心筋症

その他の病気でも同じことが起こりやすいため注意が必要です。

 

昔の人は偉かったと思うことがよくあります。まだ医学も医療も未熟であった時代でも、

心臓の悪い患者さんをみて、この冬を無事に乗り切ってくれれば良いが、などと普段

以上の注意をしたものです。実経験の中には科学が息づいているという一例ですね。

 

また寒くなると肺や気管支などの空気の通り道が寒さのために傷み、肺炎や気管支

炎のもとになります。現代のエアコン社会では暖房のために湿度が下がり、肺や気管

支の表面もカサカサとなって抵抗力は落ちてしまいます。そこへばい菌やウィルスが

つけこむと肺炎や気管支炎になりやすくなります。まして心臓がもともと悪い方の場合

は二重に肺もやられやすくなります。

 

そのため冬にはいつも以上の、ちょっとした気遣いが心臓や肺や体を守ります。たと

えば急に寒いところに行かないように、寒いときはポータブルトイレを寝室に置くとか、

やむなく外へ出るときは軽くウォームアップしてから出るとか、マスクをかけて冷たい

空気をいきなり吸わないとか、エアコンをつけるときは加湿器も使うなどですね。それ

らのケアに加えて、必要なときにはお薬を出してもらえば、効き目も上がるというもの

です。

 

そして心配なときは気軽に相談できるようなかかりつけの先生をもっておくというのも

有効です。私は自分が手術させて戴いた患者さんに、何か起こればいつでも病院

まで連絡して下さいとお伝えしています。そのおかげで寒い季節でも安全に回復され

たことは何度もあります。近くの患者さんでしたら直接病院へ来ていただき、関西、

首都圏や九州その他遠方の方はその地域の先生にこちらからもお願いして早期発見

・早期治療できるようにしています。

寒い季節を楽しく安全安心で過ごしましょう!

(註:この記事は私のホームページにある心臓外科医の日記ブログから一部抜粋、転載い
たしました。日記ブログの方もご覧下さい)

2010年1月6日

名古屋ハートセンター心臓血管外科
米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第7回患者さんの会のお知らせ

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皆さん、まだまだ寒い日が続きますが、如何お過ごしでしょうか。

冬、とくに寒い時期には心臓病の患者さんが体調をくずして入院されることがちょくちょくあります。多くの場合、入院するだけでまもなく回復し元気に退院して行かれますが、そこにいくつかの体調管理ポイントを実感します。これはあらためてお話するとして、このページでは第7回の患者さんの会のお知らせをさせて頂きます。

前回は昨年2009年9月でしたが、その後新型インフルエンザの大流行が予想され、皆さんに集まって戴くこと自体に慎重になる状況でした。次はいつですかと患者さんたちから聞かれても答えられない状況でした。幸い今年に入って新型インフルエンザは下火になって来ましたので、そろそろ次の集まりをと世話人の方々と相談いたしました。その結果、

日時: 2010年3月7日(日曜日)午後1時ー午後4時祇園ホテル地図

場所: 祇園ホテル (いつものホテルで地下の広間の予定です)

〒605-0074
京都市東山区祇園町南側555番地
TEL : 075-551-2111 FAX : 075-551-2200

ということになりました。お問い合わせは米田心臓外科オフィス(中村、連絡法は下記を)までどうぞ。

テーマは

1.メタボリック症候群に負けない方法。しっかり食べても安全にやせる、ローカーボ・ダイエットつまり低炭水化物ダイエット法 について米田正始がお話します。糖尿病や高脂血症(コレステロールや中性脂肪)の改善に役立ち、血圧や心臓にも役立ちます。

2.自由な質疑応答

3.患者さんの声

です。お誘い合わせのうえご参加下さい。この会はもとは米田正始の手術を受けられた患者さんとご家族の会でしたが、最近はそれらの方々に加えてご友人や心臓病の方、心臓の健康に関心のある方もご参加戴いています。

会費: 前回と同じ2500円です

 

なお時間の都合上、ゆっくりとしたご相談はできないかも知れませんが、その場合はとりあえず大づかみにお聞きしておいて、その状況に応じて後日機会を設けたく思います。

 

患者さんの会の連絡先 米田心臓外科オフィス 秘書 中村由佳

 TEL:080-6105-8231(直通)
FAX:075-712-8835
Eメール:nakamura@heart-center.or.jp です。

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2010年1月30日 CCT Surgical に参加して

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(本日のブログはやや専門的と言いますかやや医療者向けです。一般の皆さま、お許しを)

CCT学会(Complex Cardiovascular Therapeutics 複雑な心臓血管病治療学会)の今年の総会が神戸の国際展示場で行われ、世話人ということもあり、参加して来ました。

この学会はもともとカテーテル治療の先生方がライブ治療を軸としてスタートされたCCICという学会が発展して現在の国際的学会になったもので、比較的早い時期から心臓外科部門も発足し共に進んで来ました。

私たちの心臓外科部門はCCT Surgical と呼ばれて、一部門を担っています。例年ライブ手術を数例行い、多くの質問やコメントなどでディスカッションし、実地即応の勉強ができると好評です。

3次元放映システムを説明する中村康則さん(FAシステムエンジニアリング社)一日目(昨日)は手術に工夫を要する弁や冠動脈・大動脈などの石灰化病変に対してビデオで好手術を供覧して戴き、多くの先生方に良い勉強になったと言って頂きました。

ビデオ講演をして下さった天野篤先生(順天堂大学教授)、岡田行功先生(神戸市立医療センター中央市民病院)、高梨秀一郎先生(榊原記念病院)、大川育秀先生(豊橋ハートセンター)に深く感謝申し上げます。

午後のチャレンジャーズライブでは最終選考に残った4名の若いサムライ達が腕を競いました。皆立派でした。南淵明宏先生(大和成和病院)と私、米田正始で座長をやらせて戴きましたが、私たちベテランにとっても良い刺激を戴き、勉強になったと思います。

さて本日、2日目のライブにつきまして、今年は新しいテクノロジーである3次元放映をもちいた初めてのライブ手術を行いました。画像の美しさと立体感については前もって実験していましたので自信がありましたが、どの程度の教育効果がありどのくらい受け容れて頂けるかは不明でした。

今回は新しい方式でお金もかかるため、いつもの2元中継から1元(大和成和病院)に集中し、2例のみの放映としました。その分をじっくりと議論しようというわけです。三次元放映中の手術室風景

ライブ手術の1例目は慢性腎不全・血液透析の患者さんに対するオフポンプ冠動脈バイパス手術で大和成和病院・奥山浩先生の執刀でした。

バイパスに使う左内胸動脈グラフトを剥離するところから皆でしっかり見て議論し、さまざまなコメントや質問も頂きました。

座長の渡辺剛先生(金沢大学教授)がロボット手術の経験から3次元カメラに詳しいため、今回の3次元放映システムに役立つ貴重なご意見を頂きました。

 

もう一人の座長である荒井裕国先生(東京医科歯科大学教授)は心臓手術用デバイスを発明し商品化する経験が豊富なため、物作りの観点からもご意見を頂きました。

機械好きな横山斉先生(福島県立医科大学教授)や山崎文郎先生(静岡市立病院)、藤松利浩先生(相澤病院)、道井洋史先生(北海道大野病院)はじめコメンテーターの先生方からも良いコメントを多数頂きました。2本のバイパスがきれいに付き、手術はスムースに完了しました。
特殊メガネをつけて3次元ライブに見入る先生方

ライブ手術の2例目は感染性心内膜炎(略称IE)に対する僧帽弁形成術、大和成和病院・倉田篤先生の執刀でした。

僧帽弁形成術では通常以上に術野の展開(手術部位を良く見えるようにすることです)が大切であるため、3次元画像を見ながら内容ある議論ができました。

僧帽弁そのものは感染部位に穴があき、そこから血液が逆流するタイプで、その部を直接閉鎖して、リングを縫いつけて弁輪を適正化して完成しました。

座長の浅井徹先生(滋賀大学教授)と私、米田正始のどちらもこうした手術を多数手がけているためちょっとしゃべりすぎたきらいはありましたが、コメンテーターの先生方も前向きに意見を出して戴き、良い内容となりうれしく思いました。

新東京病院の山口裕己先生からは新しいリングの解説を、樋上哲哉先生(札幌医科大学教授)には逆行性心筋保護の工夫などもコメントを戴き、盛り上げて頂きました。

伊藤敏明先生(名古屋第一日赤)、小宮達彦先生(倉敷中央病院)、入江博之先生(近森病院)はじめコメンテーターの先生に大変お世話になりました。コメンテーターの先生方.特殊メガネのためか怖く見えます


3次元放映ライブは鮮明な画像が立体的に見え、教育効果が高いという印象を得ました。

遠近感がやや誇張される 傾向がありましたが、これは調整すれば良いものと思います。

普通の二次元放映より少し目が疲れるかも知れませんが、それだけ得られる情報は多いとも言え、勉強には有用なツールと思います。

若い先生からは今後こうした方法で外科教育ビデオなども作ってほしいというご希望もあり、発展性を感じました。

 

今年もCCT Surgicalは盛会の中で内容ある勉強と交流の場を提供できたことをうれしく思います。当番世話人の大川育秀先生、お疲れ様でした。

 

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2010年1月25日 地震と心臓

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阪神大震災の惨状 阪神大震災から15年が経ちました(写真左)。最近はハイチの地震で何十万人の被害者がでています(写真最下段)。地震は本当にやっかいなものです。一日も早く予知ができるようになればと思います。

地震の原因はよくメディアでも報道されています。地球のマントル対流のためにプレートが移動し、そのプレート同士の接点のところでひずみが蓄積されそれが何かのきっかけで一気に取れるとき、振動が起こって周囲が揺れるのです。そのプレートの動きが心臓の心室心筋の動きに似ていて、解決のための何かのヒントにならないものかと思うことがあります。

心臓の中で全身ポンプの役割を果たす左心室は何層にも心筋(心臓の筋肉なので心筋と呼びます)が折り重なり、ベストの動きができるようになっています。地球で言えば多数のプレートがお互いになじみ、きれいにすべりながら動いているのです。すべりながら動くお蔭で心筋へのストレスが分散され安全に仕事ができるというわけです。もっとも心臓自体はよく動きますので、ミクロの地震をいつも起こしているとも言えるのかも知れませんが。

心臓のプレートがずれて行くために左心室のねじれ運動や血液を送り出している最中の壁のねじれ運動とバチスタ 肥厚(収縮期肥厚)がスムースに行われます。写真右はバチスタ手術の最中の心臓とねじれ運動(矢印)を示します。心筋梗塞のあとや心移植後の拒絶反応のときにはこのねじれ運動が障害されたりパタンが変わったりします。心筋梗塞でやられた部位とねじれ運動の変化が起こる部位が必ずしも同じでないところに絶妙の構造がうかがえます。

つまり心臓全体のバランスの中で局所の動きが成り立っているということです。ねじれ運動や収縮期肥厚のおかげであまりエネルギーを使わずに左心室は血液を全身に送りだせるのです。おもえば地球もひずみの蓄積が地震で取りはらわれなければ地球そのものが壊れてしまうのかも知れません。

ハイチ地震 mirror.co.ukより だからと言って地震をそのまま容認するわけにはいきませんので、やはりエネルギーの蓄積とその放出(つまり地震)の関係やタイミングを正確に測定・予知できることが大切と思います。どういう所見が出てくればまもなくプレート境界部でエネルギー放出が起こるのか、ということですね。

逆に、地震の予知ができる技術が進歩すれば、心臓のエネルギー効率もより改善でき、心不全などの治療にも役立つようになる、などと考えるのは心不全や心臓病の治療に命をかけて来たものの性癖とでも言えるのでしょうか。ともあれ地震の被災者の方々のご冥福や一日も早いご回復を祈らずにはおれません。

 

2010年1月25日 米田正始

 

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14) 三心房心 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月17日

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◆ 三心房心とは?

三心房心の一例です。これに心房中隔欠損症その他が合併することもよくあります通常、心臓の心房は 右房と左房の2つ ですが、まれに異常な壁(隔壁)が生じて、心房が3つに分かれてしまう先天性心疾患三心房心(Triatrial heart) と呼びます。

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  • 多くの場合は 左房が2つに分かれるタイプ(Lucas-Schmidt IA型)

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  • 異常な隔壁に小さな穴があり、その穴を通じて血液が本来の左房へ流れ込みます

比較的まれな病気ですが、成人になってから診断されるケースも少なくありません。

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◆ 三心房心の症状Ilm09_ad10002-s

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三心房心は、血液がスムーズに左室へ流れにくくなるため、僧帽弁狭窄症に似た症状 を示します。

心房細動になると、左房内に血栓ができやすくなり、脳梗塞(脳卒中) を引き起こす危険もあります。

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◆ 三心房心に合併しや図1ASD日本語すい病気

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三心房心は単独で存在することもありますが、他の先天性心疾患を合併することが多い のが特徴です。

特に、異常に分かれた左房側に ASDがあると右房への血流が過剰 になり、より重症化します。
また、肺静脈の一部が右房や大静脈へ流れ込むPAPVR を合併する場合もあり、肺循環に大きな負担がかかります。

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◆ 三心房心の治療法

薬による治療が安全上良くない場合は手術が選択肢になります.

症状が軽ければ内科的治療(薬による管理)で経過をみることもあります。
しかし、多くの場合は 根治的な外科手術が必要 です。

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外科手術の基本

  • 異常な隔壁を切除し、肺静脈からの血流を正常な左房〜左室へスムーズに導く

  • 心房細動がある場合は メイズ手術 を併用して不整脈を治療

  • 血栓による脳梗塞リスクを減らし、可能であれば ワーファリン不要(ワーファリンフリー) を目指す

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Haru_0186◆ 私たちの手術の工夫

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福田総合病院 心臓血管外科では、三心房心に対して以下の工夫を行っています。

  • 長期心房細動への実績あるメイズ手術 を併用
     → 20年以上続いた心房細動でも洞調律を回復させた経験あり

  • 低侵襲心臓手術(MICS) に対応
     → 小さな切開で傷跡も目立たず、術後の回復が早い

  • 成人先天性心疾患チームで治療
     → 小児心臓外科の専門医とも連携し、こどもと大人両方の視点で安全な手術を実施

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◆ まとめ

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  • 三心房心はまれな先天性心疾患 で、多くは左房が2つに分かれるタイプ

  • 症状は 僧帽弁狭窄症に類似し、息切れや動悸、不整脈 が特徴

  • 心房中隔欠損症や部分肺静脈還流異常を合併しやすい

  • 根治には外科手術が必要で、隔壁切除+メイズ手術+低侵襲アプローチ が有効

  • 成人先天性心疾患に精通した専門チームによる診療が重要

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6. 先天性心疾患へもどる

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大動脈―大腿動脈バイパス手術 (Aorto-Femoralバイパス術):最強の治療法?

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大動脈ー大腿動脈バイパス(青い矢印の部分が人工血管となります) 下肢の動脈硬化、血管閉塞に対する治療法のなかで、

大動脈ー大腿動脈バイパス手術(略称 Aorto-Femoralバイパス手術)は腸骨動脈などに長い区間の閉塞や狭窄がある場合行われます。

 

この大動脈-大腿動脈バイパス手術では、開腹(お腹を開けることです)する必要がありますので、

全身麻酔が必要なしっかりした手術にはなりますが、

安全性は極めて高く、手術操作を加える部位でのリスクは低いです。

また血液も自然な方向に流れますから長期間の安定性に優れます。

 

手術は全身麻酔のもとでお腹を開け、

腹部大動脈に人工血管(通常ダクロン製)を縫いつけ、それをお腹の中から下肢の付け根付近に通して、

そこにある大腿動脈に縫いつけます

(上図の青線の部分が人工血管です)。

 

腸骨動脈等が短い部位の閉塞であればカテーテル治療(PTAまたはPPI)がまず試みられますが、

動脈の閉塞部位が長いとか、血管壁の状態が悪ければ

外科手術が優れているという報告が多いです。

 

大動脈‐大腿動脈バイパスは長期成績良好ですが、

手術を乗り切るためにはある程度の体その患者さんの体力や状態や必要度に応じて治療法を選ぶのが良いです 力が必要です。

手術前に危篤状態とか超高齢者で歩くこともできないなどの状態では

別の手術法(多少効率は落ちても体への負担が少ない方法)やPTA、PPIなどを考えるのが有利です。

 

たとえば腋窩動脈から体の側面の皮下を通して大腿動脈までバイパスをつける腋窩動脈‐大腿動脈バイパス手術(Axillo-Femoralバイパス手術)とか、

腸骨動脈の閉塞が片側なら、良いほうの大腿動脈から血液をもらってくる大腿動脈‐大腿動脈バイパス手術(FFバイパス手術)などが

次善の策とは言え安全を考慮した現実的良策として選ばれることがあります。

 

そのあたりの判断は患者さんの状態を見ながらご家族を含めたチームで十分相談の上、決定することが大切です。

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5.動脈硬化症 に戻る

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大腿動脈―大腿動脈バイパス術 (F-Fバイパス術): 幅広い応用が【2025年最新版】

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最終更新日 2025年 9月17日

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◆ 大腿動脈バイパス術(F-Fバイパス術)とは?

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FFバイパス

大腿動脈―大腿動脈バイパス術(Femoro-Femoral Bypass:F-Fバイパス術) は、
片側の大腿動脈(外腸骨動脈)が閉塞して血流が遮断されたときに、
もう一方の健常な大腿動脈から血液を「借りて」流すことで下肢の血流を改善する手術です。

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  • 人工血管(ゴアテックスなど)を使用

  • お腹を大きく開けず、左右の下腹部に小切開を加えてバイパスを作成

  • 全身への負担が少なく、高齢者や合併症のある患者さんでも比較的安全に施行可能

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◆ 他の治療との違い・使い分け

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下肢の血流障害(閉塞性動脈硬化症など)に対する治療には以下の方法があります。

  1. カテーテル治療(PTA・ステント留置術)
     動脈の狭窄が軽度の場合に有効。

  2. 腹部大動脈から下肢への人工血管バイパス
     重症例に理想的だが、体力的に負担が大きい。

  3. F-Fバイパス術
     お腹を開けずに済むため、
     体力の低下している患者さんや心臓・肺に持病がある方 にも選択可能。

つまり、F-Fバイパス術は 「低侵襲で安全性が高い選択肢」 といえます。

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◆ F-Fバイパス術の特徴とメリット

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  • 小切開で可能 → 開腹手術を避けられる

  • 術後回復が早い → 手術直後から食事が可能、社会復帰もスムーズFFバイパスで術後まもなく食事も再開でき早く回復します

  • 心臓・肺への負担が少ない → 心不全や呼吸器疾患のある方にも有利

  • 既往手術がある方にも適応 → 腹部の手術歴があっても実施できるケースが多い

  • 麻酔法が選べる → 全身麻酔が難しい場合、脊椎麻酔や局所麻酔で対応可能

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◆ F-Fバイパス術+他治療の併用(ハイブリッド治療)

FFバイパス+FPバイパス

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  • 足の末梢側にさらに狭窄・閉塞がある場合
     → F-Fバイパス+FPバイパスF-Fバイパス+カテーテル治療 を組み合わせる

  • 動脈硬化が多発しているケース
     → 複数の血行再建法を併用 し、全体の血流改善を図る

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このように、F-Fバイパス術は単独でも有効ですが、他の治療と組み合わせることで効果を最大化できる柔軟な手術法 です。

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◆ まとめ:大腿動脈バイパス術(F-Fバイパス)は「体に優しい血流改善手術」

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大腿動脈―大腿動脈バイパス術は、

  • お腹を開けずにできる低侵襲手術

  • 高齢者や心肺機能が低下した患者さんにも適応可能

  • カテーテル治療や他のバイパス術との併用も可能

という特徴を持ちます。

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下肢の血流障害(閉塞性動脈硬化症など)で歩行障害や安静時の痛みにお悩みの方 は、
F-Fバイパス術を含む最適な治療選択についてぜひご相談ください。

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2010年1月18日 初煎会にて

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この17日に京都で初煎会に行ってきました(関係の皆さま、ご招待ありがとうございます)。煎茶の初釜の会方円流です で、煎茶道方円流の水口豊園家元の主催で(写真右)、京都らしい雰囲気でした。

高台寺はじめいくつかの有名なお寺の高僧や山田京都府知事さんはじめ地元関係の政治家も参加され、伝統文化の行事と選挙の年が合わさった雰囲気も感じられました。しかしお茶というのはおごそかな心地良い緊張感とともにどこかなごむところもあり、和気藹々とした雰囲気で会は進められました。

高僧のお話で、お茶を単なる飲み物から精神文化へと発展させたのは東洋のユニークな努力の結晶とのことで、確かに単なる飲み物や楽しみとはずいぶん違う、文化の香りをあらためて感じます。あの秀吉はじめ戦国武将らもそれにはまってしまう魅力が現代にも通用するのはうなづけることです。

今回は台湾の煎茶の会の人たちが数名参加され、お茶を入れて下さいました(写真下)。台湾でもお茶は人気があるそうで、来年は国際交流の会が台湾で催されるとのこと、良いことですね。

私は講演や学会で台湾へは2回ほどお邪魔させて頂いたことがあります。何となくその場の空気が暖かい、台湾は亜熱帯だからというだけでなく、日本が好きという空気を感じます。そこで何人かの若者台湾の煎茶の人たちがお茶を入れて下さいましたに聞いてみました。君らはお金を貯めて何につかいたいの?すると彼ら(彼女ら)は異口同音に「日本に遊びに行きたい」と。うれしい一瞬でした。

さらに案内の方が、あそこに見えるクラシックな建物は昔日本が私たちのために建ててくれた病院です。今も大切に保存しています、と。日本はアジアでかなり悪さをしていたと恐縮していた私には驚きで、昔の日本も国によっては愛されることもしていたのだとうれしくなりました。中国大陸や朝鮮半島でも同様にしておけば良かったのにとふと思うのは私だけではないようです。

話が脱線しましたが、煎茶の会はお抹茶の会よりもややカジュアルな雰囲気があり、こうした会も文化とコミュニケーションの場として貴重と思いました。せっかくですので、来賓の中で将来の日本の政治を担ってくれそうな若手政治家に医療崩壊の現場のお話をちらっとさせて頂き、国民は医療の回復を切望していますとご説明したところ、積極的なご意見を戴き、ちょっと報われたような気になりました。僭越ながら例のお話、毎年2200億円の医療費等を5年間も削られたそのダメージの大きさもあらためてお伝えしてしまいました。

お茶はからだに良いというのは広く知られていますが、具体的にどのように良いか、意外に皆さんご存じありません。私はかつて京都大学で緑茶ポリフェノールが心臓の手術や治療に役立つことを動物実験で証明し、アメリカ等で発表したことがあります。昔の人たちは科学的証明手段は持たずとも、経験や直感でそれを知っておられたのは見事と思います。

楽しい文化的雰囲気の中で飲むお茶の味はまた格別という気持ちにさせてくれた一日でした(お世話して下さった松岡さんに感謝!)。

 

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4a) とくにオフポンプバイパス手術について: よりやさしく、よりしっかりと治す

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◾️オフポンプ冠動脈バイパス手術(略称OPCAB オプキャブ)とは

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冠動脈バイパス手術ポンプつまり体外循環(人工体外循環(人工心肺)稼働中 心肺、写真右)の器械を使わずに行う手術です。

比較のためにこれまでの体外循環を使うものはオンポンプバイパス手術と呼ばれることがあります。

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オフポンプバイパス手術は日本へは1990年代後半に導入され、

当初はMIDCAB(ミッドキャブ)手術という方法で、

左胸を小さく開けてその付近にある左内胸動脈を剥離し、その直下に見える冠動脈(左前下降枝)に縫いつけます。

この方法は創が小さく、ポンプも使わない、患者さんに優しい画期的なオペとして一世を風靡した感がありました。

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まもなく胸骨(胸の真ん中にある骨です)を縦に切って心臓に到達し、治療する、普通の心臓手術と同じアプローチ法を用いるオフポンプバイパス手術が増えて行きました。

この方法ではMIDCABと違って、必要なら何本でもバイパスを付けることができます。

MIDCABは心臓の前側に限定されるため通常1本、せいぜい2本程度しか付けられませんが、

オフポンプバイパス手術ならいざとなれば5本でも7本でも付けられます。

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◾️草創期のオフポンプバイパス手術は

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ただ当初は心臓の裏側の冠動脈(鈍縁枝や回旋枝末梢部や右冠動脈 の枝)にバイパスを付けるために、安全に心臓を脱転つまりひっくりオフポンプバイパス手術中 返す技術がやや未完成であったこと、

手術器械が現在のものより性能が悪かったことなどのため、

難しいオペと思われていました

(写真右は心臓を脱転してバイパスを縫いつけているところ)。

 .

私がCalafiore先生(当時イタリア、現在サウジアラビア)のところで習ったオフポンプバイパス手術を

1999年12月の日本冠疾患学会でビデオ講演させて頂いたときはまだ変わった方法という見方をされたように記憶しています。

その後心臓を脱転するためのさまざまな工夫や器具ができ、現在はオフポンプバイパス手術が冠動脈バイパス手術の定番となりました。

虚血性心疾患・手術事例1 オフポンプバイパス手術

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◾️日本での展開は

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日本では冠動脈バイパス手術の約3分の2がオフポンプバイパス手術で、これは米国等と比べて突出した高い値です。

技術的にはオフポンプバイパス手術のほうが通常のオンポンプバイパス手術より難しく、

しかも日本人の冠動脈も内胸動脈も欧米人よりは若干細いため、

日本人の冠動脈手術そのものがやや難しいです。

日本の心臓外科医が行った努力は大変なものだったと思います。

典型的なオフポンプバイパス手術

これにはオフポンプバイパス研究会(小坂真一先生、南淵明宏先生ら)が大きな貢献をしたと言われます。私も及ばすながらオフポンプのライブ手術を2001年の研究会で初めて行い、以後毎年の会長が引き継いで下さり、日本ではこれが標準!と言えるレベルまで浸透しました。

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◾️オフポンプバイパス手術が優れている点は

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それではオンポンプバイパスと比べてオフポンプバイパス手術はどういう点で優れているので良いものは良い!しかしその証明は容易ではないことも しょうか。

理論的にはポンプ(体外循環)がある程度リスクとなる患者さんたとえば上行大動脈ががちがちに硬化しているなどの状況ではオフポンプバイパス手術は有利です。

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この10数年、さまざまな研究がなされました。

発表された範囲では手術死亡率には大差がなく、

輸血量や入院期間あるいは術後の神経学的異常などがオフポンプバイパス手術で減らせることが示されました。

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その結果はオフポンプとオンポンプの両方を多数行った心臓外科医の印象とは少し違うと思います。

かつてオンポンプバイパス時代にはハイリスクであったケースにオフポンプバイパス手術を行うと実にスムースに経過するのです。

結局こうしたハイリスク例での臨床研究が不足しているのであろうというのが経験ある心臓外科医の意見です。

それを裏付けるかのようにオフポンプバイパス手術を始めてから、バイパス手術で患者さんが亡くなられることはほとんどゼロになりました。

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◾️オフポンプ先進国・日本では

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オフポンプバイパス手術では術者が経験豊かであれば手術の質でもオンポンプバイパスに抗血小板剤を切れるのがバイパス手術の利点の一つです 引けを取りません。

それは術後のバイパスの開存率(つまりどれだけ機能しているか)でも劣っていないことが判明したからです。

そうなればカテーテル治療(PCIと略します)に匹敵する安全性と、

PCIより良好な長期安定性がオフポンプバイパス手術により得られることになります。

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しかもオフポンプバイパス手術の術後は最近のPCI(薬剤溶出性ステントDESを使います)と違って、

きつい薬剤(抗血小板剤たとえばプラビックスやパナルディン等)を永く使う必要がないため、

患者さんにとって長期安全性で有利です。

たとえばもしがんがどこかの臓器に発生してもその検査や手術も比較的安全に受けられます。

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◾️カテーテル治療(PCI)との協力へ

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オフポンプバイパス手術の後。バイパスグラフトがきれいに映っています。患者さんはお元気になりました しかしPCIは創がほとんどないという魅力があります。

またほとんどすべての患者さんはまず循環器内科の先生のところを受診されます。

それらのため、現時点ではPCIがバイパス手術より数の上で大きく勝っています。

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ヨーロッパで行われているSyntax研究(薬剤ステントを用いたPCIバイパス手術を比較)の3年間の成績が昨年秋に発表されました。

重症の冠動脈疾患ではバイパス手術はPCIより高い生存率を上げ、ヨーロッパのガイドラインでもバイパス手術をクラスIの適応つまり絶対推薦となったのです。

たった3年でこれだけの差がついたことは驚くべきことでした。、

そして2011年にSyntaxトライアル4年のデータが発表され、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんより長生きできることがついに示されました

(写真左はオフポンプバイパス手術後のグラフトの姿、MDCT検査にて)。

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◾️まとめ

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もっとも識者の見方はどちらが絶対良いとか悪いとかではなく、

個々の患者さんに最も適した選択をする必要なら併用もする、という柔軟で患者目線の方針にあります。

 

ともあれオフポンプバイパス手術の進化により患者さんにとって、より安全で確実な治療法が増えたのは間違いないところで、

内科外科全体の総合循環器グループとして有用ツールとしてさらに育てたいものです。
心臓手術事例:数回のPCIのあと冠動脈バイパス手術を)(心臓手術事例:PCI後、急性心筋梗塞後のバイパス手術)

2012年1月18日には天皇陛下もこのオフポンプ冠動脈バイパスを受けて元気になられました。その利点が広く認識されたものと思います。

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◆患者さんの想い出:

Aさんは50代前半の男性です。当時米田がいた P1120179b名古屋へはるばる大阪から来て下さいました。

慢性血液透析のため血管が全身的に硬化し、すでに脳梗塞を患われていましたが、幸い頭脳は明晰でした。冠動脈はがちがちに硬化していました。

オフポンプ冠動脈バイパスを施行し、3本を左前下降枝、回旋枝、右冠動脈につなぎました。良好な流量を確認しました。透析の患者さんに絶大な威力を発揮する内胸動脈はもちろん左右とも活用しました。

かつては何でもカテーテル治療PCIというのが基本方針であった病院でも近年は慢性透析の方には冠動脈バイパス手術を選ぶ傾向が強まりました。ガイドラインの改訂と、やはり患者中心の医療が浸透したためと考えられています。

術後経過は順調でお元気に退院されました。それ以後、下肢の動脈も狭くなり、これはカテーテル治療PPIで軽快しました。

オフポンプバイパス手術から3年が経ち、バイパスのグラフトは健在で患者さんを守っています。米田正始が奈良にあるかんさいハートセンターを立ち上げてからはこちらの外来に通っておられます。これからも永く元気なお付き合いで行きましょう。


◆患者さんの想い出2:

Bさんは60歳の男性で P1120188b狭心症と発作性心房細動のため米田外来へ来られました。

冠動脈が中枢部で複雑にやられているためカテーテルPCIよりもオフポンプ冠動脈バイパス手術を行うことになりました。また比較的お若くこれからがあることも一因でした。

手術ではまず右内胸動脈を左前下降枝へつけ、さらに左内胸動脈を回旋枝につなぎました。良好な流量とパタンを確認しました。右冠動脈はかつてのステントがまだ使える状態のためバイパスはつけませんでした。

術前に不整脈発作とくに心房細動AFを繰り返しておられたため、簡略に直すことになりました。心臓がかなり張っていたため、安全確実に体外循環・心拍動下に冷凍凝固を行いました。

術後経過は良好でまもなくお元気に退院されました。

狭心症に心房細動が合併するのは近年は稀でなくなりました。こうしたケースではそのどちらも治すことが大切と思います。

Bさん、これから自然な生活を十分楽しんで下さい。


◆患者さんの想い出3:

Cさんは70代後半の男性で心筋梗塞を P1120192b患われ、四国から来られました。

地元の病院ではカテーテルPCIも冠動脈バイパス手術もできないと言われ、ハートセンターへ来院されたのでした。息子さんが頭脳明晰な方でネットや本で徹底的に調べられたのです。

データを拝見しますと、前下降枝が完全閉塞しており、カテーテルの動画を見ても血管が映ってこないという困った状況でした。右冠動脈も同様につよく壊れていました。地元の病院で治療できないと言われたのはなるほどと思いました。

しかしそのままではCさんは永く生きられません。何とかする必要があります。

上記のカテーテルやCT、心機能のデータを併せ考え、私の経験上、おそらくオフポンプバイパス手術ができる血管があるだろうという読みで心臓手術に臨みました。

案の定、良い血管(左前下降枝)が隠れているのをみつけました。そこへ内胸動脈をバイパスし、良好な流量とパタンを確認しました。

これでこの患者さんの予後はぐっと改善しますが、さらに右冠動脈にもバイパスを付ける部位があることがわかりました。その一点にバイパスを付けました。これも良い流量とパタンを得ました。これでオフポンプバイパス手術の威力はさらに増します。

術後経過は良好で、以前からの心不全は少しあるものの、これから薬などで次第に改善できそうな状況でした。退院前に、Cさんは「自分は経済的にあまり余裕がないのでおしゃれな御礼はできません。そこで自分の作品でよければどうぞ」と見事な御自筆の書を下さいました。以後私のオフィスに飾ってあります。

Cさん、お元気で。遠方ですが、私が大阪に異動し、少し近づきましたので時々でもお越し下さい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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2010年1月14日 手術の待ち時間

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1月12日の中日新聞によれば、がんの手術の待ち時間が長くなり問題になっています。

以下、中日新聞WEBの記事から抜粋します:「ほぼ半数(の病院)が3つのがん(胃、肺、乳がん)のいずれかで、最近5年間に「延びたと感じている」ことが分かった。現在の手術待ち期間は最長で「3カ月」との回答もあった。病院側は拠点病院への患者集中や外科医、麻酔科医不足を主な理由に挙げている。」理由はともあれ、がんと診断されたのに、手術してもらえずに無為に待たされている患者さんがおられるわけです。

ベストの手術をベストのタイミングで さらに次のような記載がありました。 「がんの進行度にもよるが、医学界では一般的に1カ月未満が望ましいとされる手術待ち期間は、肺がんでは1カ月以上の回答が4割を占めた。岐阜県のある病院は「2~3カ月」と答えたほか、「2カ月」「1・5~2カ月」「1・5カ月」とした病院が、それぞれ1病院ずつあった。 1カ月以上の回答は、乳がんでは45%、胃がんでは37%を占め、どちらも最長は2カ月だった。」つまり手術を待たされている間にがんが増大したり運が悪ければ転移して取り返しがつかなくなる心配さえあるわけです。

この記事を読んで、かつて国立大学病院で勤務していたころの苦労を思い出しました。患者さんは心臓病が悪くなった段階で突然来られることがよくあります。そして同じ時期に何人も来られることがよくあります。そうした時に、手術は(心臓手術も)週何例などと人為的に決められている国立施設では対応が難しくなります。結局、待てる患者さんはうまく時間稼ぎをして何週間とか何カ月後に手術をし、急ぐ人はできるだけ早く、といっても医学的な観点から心臓手術のタイミングを決めるとは限らず、順番待ちタイミングになってしまいます。それでは良くないと考え、まだ待てる患者さんに直接相談しお願いして延期を快諾して戴き、それに代えて待てない患者さんの手術をさせてもらうとか、どうにもならない時は救急車で近くの病院へ転送してそこで手術させて戴くなどもよくやりました。

そこにいる誰もが、「これは良くない、おかしい」とは認識していましたが、次第に「どうにもならない」、「まあ仕方がない」、さらには「ベストタイミングでベスト手術をやりたいなら、そういう態勢のある病院で仕事すれば良い」、などという開き直り議論まで出る始末。国民の血税で支えられている病院という空気はそこでは希薄です。さらに残念だったのは病院のトップレベルの立派な先生からそうした意見が出たことです。

私は内科研修医のころ、自分の受け持ち患者さんにがんが見つかれば、外科の先生にお願いしてできれば来週中に手術をお願いしますと懇願を重ね、いつも苦笑しながら許して頂きました。身勝手でうるさい研修医と自認していましたが、研修医の自分が今この患者さんにできるベストのことはこれしかないと信じて懇願しまくっていたのです。その民間病院の理念のおかげもあったのでしょうが、それを認めてくれた当時の外科や麻酔科の先生方は今振り返れば立派だったと思います。

現代はもっと医療状況は悪いため、がんでも心臓病でもさまざまな工夫が必要であることは理解できます。しかし問題を問題と認識できない、あるいは認識していても知らん顔をするという向きが多すぎるように思います。自分が今仕事している病院では、創立者がこうした問題を打破するという強い信念をもって循環器(心臓血管)専門病院を創った経緯から、無用な手術待ちやたらい回しなどの問題がないのには救われた思いになります。しかし医療崩壊は公的病院のみならず経営努力を続ける民間病院にも影響を及ぼしています。問題を認識し、いつも皆で考えるという当然のことを再確認する必要があると思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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