日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会に期待します

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この5月に日本ローカーボ食研究会が立ち上がりました。ローカーボ(糖質制限食)とはご飯や麺類、パンなどの炭水化物をうまく減らした食事のことです。

メタボ全盛の現代、患者さんの健康を守るには適切なダイエットが必須であることはこれまでも多くの方々が考えて来られたことです。

Ilm09_ag04009-s 私は心臓血管外科の専門医で、これをライフワークとして、ひとりでも多くの患者さんをお助けすることにちからを入れてまいりました。たとえ他の病院でダメと言われたかたでも、自分たちの経験上、助かる可能性がある程度以上あれば、救命努力して来ました。京大病院でも豊橋ハートセンターでも名古屋ハートセンターでも、多くの方々のご協力のおかげで、多くの患者さんのお役に立つことができ、その都度、患者さんや周囲の方々の頑張りから感動を頂いて、また次の心臓手術や治療への糧にしてきました。

しかしメタボはさまざまな生活習慣病の原因です。糖尿 Ilm19_ca03020-s 病、高血圧、虚血性心疾患腎臓病血管病動脈瘤弁膜症心不全、など枚挙にいとまがありません。手術や薬だけ頑張ってもメタボ対策を立てないと、本当に患者さんをお助けしたことにはならないと痛感していました。

そんなとき、名古屋で実力派の開業医・灰本元先生と偶々出会い、そこでの勉強の中から、ローカーボ食(糖質制限食)の研究会を立ち上げようというお話を聞き、ぜひやりましょうということになりました。内科医の中村了先生、漢方医学の安井広迪先生、生物学の加藤潔先生、老年科の井口昭久先生といった、多彩かつ多才な先生方とともに、準備を進めてまいりました。また灰本クリニックの栄養士・笹壁さんやコメディカルの方々の積極的参加がこの会のバランスを一層優れたものにしていると思います。

ローカーボ食(糖質制限食)のユニークさや利点はこのホームページのローカーボダイエットのページや、立ち上がった日本ローカーボ食研究会のホームページをご参照いただくとして、これからこの食事療法をもっと科学的に解明し、正しい情報や方法を啓蒙していくことが必要と考えています。

というのは世の中のダイエット法には商業主義に走ったものや、中には危険な民間療法のようなものまであるため、それらと一線を画し、多くの患者さんの治療に役立つ、一般の方々のメタボ予防にも役立つ、医学的・科学的で安全安心なものを確立する必要があるからです。

Cj009b-s また開業医の先生からや内科・内分泌代謝内科・循環器科・老年化その他の先生方や製薬業界の方々の積極的なご参加が必要です。それによってこのローカーボ食(糖質制限食)という医学的方法は正しく成長し、人類に貢献するレベルに達すると信じるからです。

しかし現実は、ローカーボ食(糖質制限食)によって、たとえば糖尿病や高脂血症が大きく改善し、薬の売り上げが減るなどといった近視眼的な見方も一部にあるようです。それは本末転倒であり、患者さんが元気に長生きできるようになって初めて医療も製薬業界も長期的な繁栄があると信じます。

こうしたことを踏まえ、日本ローカーボ食研究会では勉強会・研究会開催とともに、ホームページなどで世界の医学論文を紹介したり、さまざまな建設的議論を通じて医療関係者や一般市民にまで情報提供を行う予定です。

皆様の積極的なご参加やご支援をお願い申し上げます。

(追記: この研究会のHPに私のブログが掲載されました。ご参考まで)

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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世界一の防潮堤

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  東日本大震災は津波や原子力発電所の事故も含めて筆舌に尽くしがたいほど大きな打撃を多くの人たちに与えました。被災者やその関係の皆様には心からお見舞い申し上げます。

釜石港の外側に世界最深、最大の防潮堤が築かれ、あのギネスブックにも登録され、多くの方々の期待をになっていたことはまだ記憶に新しいところです。まだわずか1年あまり前のIlm22_aa01060-sことでした。地震や津波で何度も涙を呑みながら、対策を練ってきた日本ならではの素晴らしい事業でした。

ところが想定外の超大型地震と津波によってその防潮堤はあっけなく突破され、大変な被害を出してしまったことを皆さんよくご存じのとおりです。その後の調査では防潮堤はよく頑張り、大津波の高さをある程度下げることはできたようですが、津波のあまりのパワーに土台を削られて倒壊してしまったそうです。海外の報道は「もっとも準備され、もっとも訓練された国を史上最大の地震と津波が襲ってしまった」と報じていました。その報道には平素の努力に対する敬意や、その努力をも上回る天災という不運を残念に思う気持ちが込められていたように感じました。

その後の報道によれば、この世界一の防潮堤があるため、心にわずかな油断が生じて避難が遅れたケースがあったといいます。
まさかこのような大津波が今来るとはだれも想像できなかったでしょうし、仮にそうした一瞬の油断があったとしても、何人もそれを批判することはできないと思います。
しかし結果は悲惨なものでした。これからは単に想定外だからとあきらめるのではなく、想定レベルや想定精度をさらに上げることも必要なのでしょう。

ひるがえって自分自身の問題・課題として考えてみれば、こうしたことはどの分野・領域でもあり得るものと思います。医療も同様でしょう。
これこれの病気や治療にはこうしておけば安全確保と考えて日頃から検討を重ねマニュアルを作っていても、新たな治療法や診断法、新たな概念が出てくれば、それまで鉄壁と思っていたような安全策も新たな状況に即応したものに改良していく必要があるように思います。

Ilm09_ag04005-s 心臓手術を例にとれば、技術・道具・材料や理論の進歩によってこれまで手術ができなかったようなケースもかなり安全に治せるようになりました。しかしそれによって、一層重症な、これまでは手が出せなかったような難しいケースにも治療ができるようになることで、これまで想定できなかった新たな合併症や問題が起こり得るのです。難しいケースから逃げる、つまりその患者さんを見捨てることで「医療安全」を得るという傾向が世の中に見られますが、そうではなく、難しい病気の患者さんを救命しつつ新たな問題をできる限り予防し、問題が多少でも起こればそれを早期の警戒とチーム検討によって解決することが大切と思います。これが真の医療安全につながると考えます。

問題とくに新たな問題はいつどこから来るかわからないという、慎重というより小心なほどの用心深さで日々治療を行い安全性の向上に努める必要がある、崩れてしまった世界一の防潮堤はそんなことをあらためて教えてくれたような気がします。

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第25回日本不整脈外科研究会を振り返り

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(今回の記事は医療者向けです。一般の皆様には軽く読み流し、心臓外科医の努力のみ知って頂ければ幸いです。逆に、一般の方々でも心房細動などの不整脈でお困りの方にはご参考になるかもしれません。心房細動はある種のがんにも匹敵するほど要注意の病気です。野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんはじめ多数の方々が仕事を失ったり命を落としたりしておられます。きちんと治療や定期健診を受けましょう)

東京ディズニーランドの目の前で行われました この2月23日水曜日に日本不整脈外科研究会を開催させていただきました。日本心臓血管外科学会のサテライトセッションとして東京ディズニーランドの目の前にあるホテルで行いました。テーマは「不整脈治療、外科らしい貢献」でした。この研究会はすでに四半世紀も続いている立派な会で、WPW症候群の手術や心房細動へのラディアル手術、メイズ手術はじめ、日本が世界に誇る業績を多数もつ会でもあります。

代表世話人の新田隆先生(日本医大心臓血管外科)と協力し、プログラムを練りました。まず若い先生方の熱心な研究を2題ばかり発表していただきました。

順天堂大学の岩村泰先生らは天野篤先生のご指導のもと、心房細動に対するメイズ手術の術後年月を経て心房細動がぶり返す原因を研究されました。その結果、最大のファクターは手術前の左房のサイズでした。これは患者さんを治療するときの実感に近く、また手前味噌ながら私たちが心房縮小メイズ手術を開発した経緯と共通点が多いため納得しました。

また太田西ノ内病院の丹治雅博先生らはメイズ手術の成績向上のためのさまざまな工夫を発表されました。詳細は省きますがこうした工夫の着実な積み重ねが大きな改良へとつながると思いました。

ついで不肖・米田正始が提言ということで「心嚢スコープを用いた低侵襲オフポンプ・完全メイズ手術を日本で」という講演をいたしました。この方法はスロベニアの畏友Borut Gersak教授がぜひ日本で紹介してほしいというご希望を受けて、この機会に不整脈外科エキスパートが集うこの研究会でご紹介することになったものです。

この方法はおへその少し頭側に小さい皮膚切開を入れ、腹腔鏡の方法で横隔膜にも小さなスリットをあけて、心嚢内にスコープを入れて、心臓の背中側にある左房の各部位を心臓の外側からアブレーションつまり焼灼するものです。短時間で完了し、合併症も起こりにくい、患者さんにやさしい方法です。心臓の外側から焼灼しにくいところが3か所あり、そこは内科のカテーテルでアブレーションしていただき、そのまま完全評価して治療を終える、ハイブリッド治療です。そのため効果はかなりあります。この方法でこれまで治せなかった心房細動単独のケースが比較的短時間で治せるようになるでしょう。ハートセンターグループでも不整脈内科のご賛同をいただいたため、今後日本でこれが使えるよう、努力したい旨、お話ししました。

そのあと、第二部「How I Do It」セッションを新田隆先生と私、米田正始の司会で行いました。技術の習得こそ若い熱心な先生方の望みであることを考えてのセッションでした。

まず都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生がミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)でのメイズ手術を解説されました。両側のミニ開胸が必要で、けっこう名人芸が必要な大きな手術と感じましたが、エキスパートならではの優れた治療でした。

ついで日本医大の石井庸介先生が房室弁輪部の処理法を講演されました。房室弁輪部には冠動脈、冠静脈、冠静脈洞、僧帽弁の根本などがあり十分焼灼しづらい傾向があり、そのため不整脈の発生につながる可能性があります。そこでこの部を十分に焼灼する方法を紹介されました。私個人は新田先生からこの方法を聴いていたため、自分の手術にすでに応用していますが、こうした研究、知見の積み重ねは大きな進歩につながると思いました。

そこで私、米田正始が巨大心房例に対する心房縮小メイズ手術のやり方をご紹介しました。2005年のアメリカ心臓病学会で発表してすでに6年、第一例目から7年以上たちますのでその間の細かい改良点を交えてお話ししました。普通では治せない心房細動たとえば巨大左房・右房や20-30年以上の心房細動などがかなり治るため、多くの良いご質問やコメントいただき、うれしく思いました。こんど使ってみたいとおっしゃる先生もおられ、ご協力を約束しました。

最後に日本医大の坂本俊一郎先生がガングリオンのアブレーションの方法を紹介されました。私も以前から検討していた方法ですが、メイズ手術のさらなる成績向上にぜひ使ってみたく思いました。

以上の内容で多数のエキスパートの先生方がご参加下さり、熱心なディスカッションが続き、お世話させて頂いたものとして心から嬉しく、感謝申し上げます。心臓血管外科の若い先生らがこれから張り切って仕事に打ち込める礎のひとつにもしなればうれしいことです。

来年は国立循環器病研究センターの小林順二郎先生にお世話いただくことになりました。最後になりましたが、多大なご支援とご指導を頂いた新田隆先生と日本医大の皆様、心臓血管外科学会長の重松宏先生、名古屋ハートセンターの北村英樹先生らに深謝申し上げます。

2011年2月23日

米田正始 拝

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インドのバルブ(弁膜症)サミットへ行って来ました

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寒い日が続きますが皆さんお元気でしょうか

この寒さの中でまことに申し訳ないのですが、私は先週末、インドのバルブサミット(弁膜症サミット)での講演のため温かいニューデリーまで行って参りました。

かつては弁膜症では欧米が先端を行っていたのですが、近年はアジアの健闘が少しずつ見えるようになりました。アジア諸国の経済力の伸展を背景にして、医学・医療の国際交流が盛んになり、アジアでも優れた心臓外科を行う基盤が整備されつつあるからと思います。

プログラムやポスターの表紙です せっかく会長のAshok Omer先生にお誘いいただいたので、今後の交流発展も考えて参加いたしました。今回のブログも専門的ですみません。一般読者には軽く流し読みして、新たな進歩が生まれつつあることだけ知っていただければ幸いです。まだまだ治せない心臓病のため涙を飲むことがある現状で、着実な進歩がなされていることを知って下さい。

インドは初めてなのですが、ニューデリー国際空港に降り立ってその立派さに感心、さすがは最近発展著しいインドと思ったのもつかの間、広い空港内の遠景がかすんでいるのです。外へでてもやはり景色がかすんでおり、霧がでるような状況ではなさそうなので、やはりこれはスモッグ!さすが現代の高度成長国インドです。中国とよく似ています。しかしスズキの小型車がたくさん走っているのはエコのために立派と思いました。

ともあれおかげで次第にノドがかゆくなり、持病のアレルギー性鼻炎もなんとなく調子が悪くなる始末。

ホテルについてシャワーをあびて一段落。考えてみれば夜中の0時に空港について、ホテルに落ち着いたのが2時半、しかし空港にも街中にも人やクルマがあふれている、元気な国です。

さてその数時間後、1月15日土曜日から翌16日日曜日までの2日間、バルブサミットは行われました。

最近の低侵襲治療とくにTAVI(カテーテルで大動脈弁を入れる治療法です)に代表されるカテーテル弁に多くの時間がさかれるとともに、内科の優れた画像診断技術とくに心エコーの最先端や、心臓外科でしか救えないような患者さんの手術についての講演と討論も活発に行われました。全インドの会だけに、欧米やアジアからも多数の内科医や外科医が招かれ、国際シンポジウムの内容をもつものでした。

1日目の冒頭のシンポジウム1にはさすがにインドらしくリウマチ性弁膜症の最近の動向と治療の現況、そして新しい治療までが論じられました。リウマチ性弁膜症は古い病気と思われがちですが、アジアではまだまだ猛威をふるっており、先進国日本といえども、昔のリウマチ病変がもとになって年齢や動脈硬化的な変化が加わった複合病変が最近多いため、その的確な診断と治療が求められています。

シンポジウム2では感染性心内膜炎(略称IE)について、自然弁のそれから人工弁のそれまで、またより効果的な内科的治療や手術についてガイドラインとともに論じられました。現在でも重症のIEはてごわいものがあり、油断できません。その中でこうした議論は重要と思いました。

血行動態に関する基礎的なレクチャーのあと、シンポジウム3では症状の無い弁膜症朝から夕方まで画像に包まれて過ごした感があります
どうするかについてのセッションでした。症状は無い、しかしそのままにしておけば後で患者に大きな負担やリスクがかかることは弁膜症でもよく知られており、ガイドラインでも最近は病気によっては無症状でも手術を勧める方向にあり、タイムリーでした。

シンポジウム4では僧帽弁疾患、シンポジウム5では大動脈弁疾患の的確な病態把握と診断、とくに画像診断の最新の知見が紹介されました。なかでも圧格差の少ない、つまり心機能の悪い患者さんの大動脈弁狭窄症の危険性、予後の悪さ、そして病気の本質を見抜いて的確な治療をすることの重要性が論じられました。エキスパートの集まりとしてレベルの高さを感じました。

コーヒーブレイクをはさんでTAVIの現況がワシントンWashington大学のDean先生によって特別講演されました。年々進化するこの領域の姿が理解できました。この先生は内科医ですが内科教授と外科教授の両方を兼ねておられ、TAVIは常に複合チーム全体で行うことの重要性を説いておられました。カテーテル関係を何でも内科でやってしまうと、若い医師が外科に来なくなり、外科が崩壊すると内科も立ち往生してしまうと日頃から心配しているだけに、わが意を得たりと思いました。

引き続いてイギリスのSt Thomas病院(有名な心筋保護液のルーツです)のVinayak Bapat先生が経心尖部のTAVIの実際を紹介されました。そのあとのシンポジウムもTAVIのさまざまな側面を論じるもので、この領域の進歩の速さを物語るものでした。あとで外科医同士で今後の外科の貢献を論じ、それなりに盛り上がりました。

そのあとで開会のセレモニーとショーがあり、これが今回の出張での唯一の遊び時間となりました。滞在時間のうち寝る時間と食べる時間を除けば遊びはこの1時間だけというのは、インドも日本以上に勤勉な国になったのではと感じました。21世紀はインドと中国だという意見を思い出し、日本ものんびりしていると危ないと思いました。

二日目は朝から僧帽弁形成術のロボット手術がライブ中継され、そのあと、Eクリップというカテーテルでの簡易型弁形成の講演がシカゴ大学のFeldman先生によって行われました。

シンポジウム7では人工弁のさまざまな問題、血栓や感染などが論じられました。

シンポジウム8は僧帽弁閉鎖不全症のセッションでニューヨークのAasha Gopal先生が最新の3Dエコーを多用した、より正確で情報量の多い心エコーの講演をされました。外科手術では不肖私、米田正始が虚血性僧帽弁閉鎖不全症複雑弁形成術を実際の症例をもとにして解説しました。後尖のテザリングをともなう虚血性僧帽弁閉鎖不全症はこれまで形成が難しいと言われていましたが、それへの解決策ができたことを報告し、ありがたいコメントをいくつも戴きました。

さらに弁膜症に合併しがちな難治性心房細動とくに巨大左房例に対する心房縮小メイズ手術の実例を紹介し、使ってみたいというご意見やご質問を多数いただき、光栄に思いました。

それから先ほどのFeldman先生がカテーテルによる僧帽弁形成術を特別講演されました。主にEクリップによる簡略な形成のお話しでしたが、このデバイスは出来ては消えて行くカテーテルでの弁形成デバイスで生き残った珍しいもので、一部の患者さんにしか使えないとはいえ、うまく活用すれば治療成績の向上に役立つと思いました。

インドらしい美味なランチのあとでTAVIのライブがあり、さらにシンポジウム9では僧帽弁狭窄症、シンポジウム10では三尖弁閉鎖不全症が論じられました。僧帽弁狭窄症ではカテーテルによる弁切開が多く論じられ、症例を選べば役立つものと改めて思いました。ただカテーテルでの形成はかなり不十分であり、心房細動も治せず脳梗塞などの合併症も長期間には起こり得るため、カテーテルにこだわりすぎると外科手術なら長期間元気に暮らせるはずのものが、そうできないという結果に終わるケースも出てくる心配があり、やはり上記のように、総合チームで検討するのが良いと思いました。

そのあとでGopal先生による3Dエコーの特別講演と実例供覧があり、今後の治療・手術の成績向上に必ず役に立つと確信しました。

最後にFeldman先生がカテーテルによる僧帽弁置換術の歴史が紹介され、先人たちのたゆまぬ努力の跡に感心しました。しかし現在のテクノロジーおよび内科と外科の協力のもとでなら次第に実現の方向に進むと思いました。

二日間ぎっしりの内容で皆さんお疲れの様子でしたが、内容的にも盛況だったため、来年はより本格的にやりましょうということでお開きになりました。

2011年1月16日

米田正始 拝 (サミットが終わって、ホテルにてコーヒー休憩しながら)

 

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ウィーンで年末年始を過ごさせて戴きました

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皆様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

2010年から2011年にかけての年末年始をウィーンで過ごさせて戴きました。

昔から何かとお世話になっているヨルゲン・フォグさんというウィーンフィルのチェロ奏者の友人が今年で引退のため、ぜひ最後の演奏を聴きにおいでと言ってくれるので、これまでの御礼もかねて行って参りました。また両親とも80歳を超えたため一緒に海外旅行できるのもこれが最後かもという気持ちもありました。

フォグさんとは10年以上前に音楽好きで毎年2-3回はウィーンに行っていた私の父がふとしたことで友人になったのがきっかけで、以来、毎年奈良に数名でコンサートをやりに来てくれていたところからのお付き合いでした。近年は京都や小浜(福井県)でもコンサートをやってくれるようになり、地域の村おこしや、日本との文化交流を楽しんでくれているようでした。

奈良それも山間部や小浜ではこんな田舎に世界的な音楽家が来てくれるのは大変名IMG_1487c誉なことと支援してくださる方々が多く(皆様ほんとうにありがとうございます)、また平素それほどクラシックを聴いていない方でもこの機会に立派な音楽を聴こうと多数ご参加下さり、文化活動としても十分成果を出してきたようです。

そのフォグさんもすでに60歳になられ、チェロの腕にはますます磨きがかかっておられ、今後もウィーンフィルメンバーとしての演奏活動は続けられますが、恒例のニューイヤーコンサートで演奏するのは今回が最後で、いわば中締め演奏会ということで声をかけてくれたのでした。

この冬は猛烈な寒波のため、ハブ空港であるフランクルフト空港がしばらく閉鎖になり、一時はせっかくの機会にウィーンにたどり着くこともできないのでは、という心配をしていましたが、出発直前に温かくなり雨が降り、予定どおりウィーンで年末年始を過ごせることになりました。何たるラッキー?!

ウィーン2010-11IMG_1338c ニューイヤーコンサートは文字通り元旦に行われるのですが、その前日の大みそかにはこちらでもベートーベンの交響曲第九番のコンサートもあり、聴きに行きました。 

こちらのほうはウィーンフィルではなく、2番手と言われるウィーン交響楽団でしたが、第三楽章以後は素晴らしく、個人的には聴き入りながら過ぎた一年を感動と感謝をもって振り返ることができました。

そのあと、ウィーンの市内中心部では恒例のカウントダウンがあり、せっかくの機会なので参加してまいりました。近年は日本でも盛り上がっているようですが、ウィーンでも ウィーン2010-11IMG_1403c 

カウントダウンで新年となったころから爆竹や花火がどっと増え、大騒ぎの中で、美しき青きドナウの音楽が流れ、やはりウィーンと感じさせてくれました。

ウィーン2010-11IMG_1454c 打ち上げ花火が人ごみの中に突っ込むように落ちたときはだれかけが人がいるのでは?と思わず心配になりそちらへ向かいましたが、皆普通に動いていたのでほっとしました。

こんな場所で心停止→蘇生救命なんてやらせないでね、と思いたくなるほど、あちこちで爆竹の爆発音が聞かれました。

普段は礼儀正しいウィーンのひとたちもけっこう熱い!学生らしき若者グループが集まって何か声を出し合い、それから私のほうへきて、このお酒飲んで、と言ってくれるのにまた驚きましたが、その学生がきれいな目をしているのが印象的でした。

元旦のニューイヤーコンサートはウィーンの楽友協会で開催されました。 

普段のような本格的と言いますか、ちょっと堅苦しい曲はほとんどなく、ポピュラーで楽しい曲が多く演奏されました。私は音楽の素人ですが、多くの管弦楽団と比較して、ウィーンフィルは音が澄んでいると言いますか、濁りやねちゃっとした感じがない、さくさくした印象を受けます。曲の随所に一瞬の静寂がきちんと作られているといいますか、、、。そして弦楽器と管楽器のどちらもがきれいで、かつバランスが良いと思っています。コンサートの最後にやはり美しき青きドナウとラデッキー行進曲が奏でられ、最後は観客が総立ちになるほどの盛り上がりようでした。またバレエのチームがホール内で踊りを披露するという演出も受けていました。

IMG_1626c 引退公演を無事終えたフォグさんはそのあとの食事会でも上機嫌で元気いっぱいでした。普段の公演は今後も楽団員として続けるため、引退という雰囲気ではありませんでした。

今年(2011年)秋にまた奈良、京都などで公演してくださるようですので、皆様、またおでかけください。予定が決まればまたHPなどでご案内いたします。

実質3日間のウィーン滞在でしたが心に充電ができたような気がします。

最後に、年末年始の時期に病院(名古屋ハートセンター)を守ってくれた医師やコメディカル、事務職の皆さん、そして年末の大手術のあと病棟で闘病越年をしてくださった患者さんたち(先生ゆっくり楽しんでおいでと言って下さり感動しました)とご家族の皆様に厚く御礼申し上げます。

2011年1月1日

米田正始 拝

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日本冠疾患学会2010に参加して

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この12月10日と11日に東京にて第24回日本冠疾患学会が開催されました。そこへ参加しての印象記をお書きします。いつもながら学会印象記は専門的になりがちですが、一般の方々にはその熱気や空気を読み取って頂ければ幸いです。

この会は狭心症や心筋こうそくなどの冠動脈疾患(冠疾患)の治療を内科と外科の垣根を越えて、幅広い視野で英知を集めて行おうという趣旨でできた学会です。それを象徴するように会長も内科系と外科系の合わせて二人が就任するというユニークな会です。今回は東邦大学医療センター大森病院循環器内科教授の山崎純一先生と同心臓血管外科教授の小山信彌先生のお二人の会長のもとで開かれました。

Ilm09_dd01002-s 前日の理事会・評議委員会では同じ冠疾患を扱う他学会との連携協力にも力を入れようということになり、とりあえず冠動脈外科学会との共同企画などを進める方向で大変良いことと思いました。

学会は初日の朝一番から、この学会らしく内科外科の合同シンポジウムがあり低侵襲冠動脈治療の最前線、PCI(カテーテルによる冠動脈治療)CABG(外科のバイパス手術)ということで熱い議論が交わされました。

内科外科とも侵襲(患者さんの体への負担)を下げる努力がなされており着実な進歩と思いました。青森県立中央病院循環器科の吉町先生はより細いカテーテルを用いてのPCIを、豊橋ハートセンターの木村先生はCABGとの比較検討をされました。外科は大変な重症つまり冠動脈が病変だらけとか、透析などのため全身が病気だらけの患者さんを治療している割にはPCIに匹敵する低い死亡率で立派と思いました。

内科からはそれ以外に透析患者に対するとう骨動脈からアプローチするインターベンション(東邦大学循環器科)や左主幹部病変への緊急PCI(高橋病院心臓血管センター)の工夫などが発表され、より安全性の高い、より苦痛の少ない方向への努力が見られました。

外科からは遠隔期成績を見据えたOPCAB(滋賀医科大学心臓血管外科の浅井徹教授ら)と早期社会復帰を目指した冠動脈バイパス(大阪府済生会野江病院心臓血管外科)の発表がされ、基本的には体外循環をもちいないオフポンプバイパスでの工夫の積み重ねですが、より完成度の高いものが感じられる内容でした。野江病院の氏家先生はスロベニアの畏友Borut Gersak先生のもとで良い修練を積まれましたが、そのスロベニア式のしっかりした胸骨固定法が術後社会復帰に好影響を与えるというのはコロンブスの卵と感心しました。

ここでもヨーロッパのSyntaxトライアルという内科PCIと外科バイパス手術の結果が議論されました。この立派な臨床トライアルで外科の優位性(つまり患者さんが長生きしやすい)が示された状況がたくさんあるのに、内科がその結果を踏まえないことへの不満が感じられました。ただそれは侵襲が低いというPCIの特長ゆえのことであるのは間違いないため、外科はさらにこの点で改良を加えねばならないと思いました。

招請講演の一つにエモリーEmory大学心臓血管外科のVinod Thourani先生のオフポンプバイパス現況があり、立派な成績でこんごの展開に楽しみが持てる内容でした。Vinodはきさくな人でその後の雑談にも花が咲き、虚血性MRへの私の新しい手術にも支援をしてくれるとのことで頼もしく感じました。同じ目標を持つ仲間との国際交流は本当に楽しいものです。2日目のランチオンセミナーでは自動吻合器と脳梗塞予防の講演でした。

そこでSyntaxトライアルでバイパス手術は脳梗塞を起こしやすいという結果であったかのような誤解が世の中にあり、事実は手術での脳梗塞は少なく、あくまで退院後の薬が不十分で梗塞を起こしたケースがあること、そしてそれゆえバイパス術後にはより積極的な抗血小板療法を行うべきことをコメントしました。Vinodは100%賛成と言ってくれ、実際バイパス術後により強い抗血小板剤を用いた検討を進められているとのことでした。真摯かつ真剣なDiscussionを歓迎してくれるのはさすが欧米の先生の良い点と思いました。

内科と外科の協力をモットーとした学会ですので、私もできるだけ内科の最前線を学ぶべく、PCIのセッションに参加しました。CTO(慢性閉塞)冠動脈へのPCIは今も話題の一つですが、その完成度が年々上がっているのは立派と思いました。ただし血管は単なるチューブではなく、血栓予防などの内皮機能をもったひとつの臓器ですので、そこへ金属のステントとくに毒物を塗ったステントを多数入れると問題が起こりやすいというのは理解できますし、Syntaxトライアルの結果はそれを示しています。やはりデータベースを全国規模で内科外科を合わせた形でつくり、正確に比較することが必要と思いました。

二日目にも同様の合同セッションで盛り上がりました。午後には教育シンポジウムとチャレンジャーライブなどの若手教育のための企画があり、私は他セッションの都合で部分出席でしたが有意義と思いました。とくに教育シンポジウムでは大先輩・大御所の先生方がなぜ循環器内科や心臓血管外科を志したかを語られ面白くまた参考になったと思います。内科からは山口徹先生、水野杏一先生が、外科からは川副浩平先生、南和友先生が講演されました。全部聴きたかったのですが、一部でもその雰囲気は楽しめました。

さらにチャレンジャーライブの決戦が行われ、4名のファイナリストが冠動脈バイパス吻合の腕を競いました。このライブは若手の登竜門かつ交流の場としてすでに伝統の人気ライブとなっていますが、今回は初めて日本冠疾患学会という大きな会の中で開かれたのも良かったと思います。参加した若い先生かたにとって、永く心に残る経験となり、より成長する糧になるものと思います。大学や医局という小さな単位だけでなく、学会全体で若手を育てるということが海外では普通のことですが、日本でもこうした土壌ができると良いと思います。

それらと部分部分で重複する時間帯に合同シンポジウム「末梢動脈病変PADを合併した冠動脈疾患の治療を考える」が行われました。私、米田正始は仙台厚生病院循環器科の井上直人先生と座長をさせて戴きました。

冠動脈疾患の患者さんの中でもPADを合併するタイプは全身の動脈硬化が強いため重症です。脳梗塞などの脳血管病変やCKDなどの腎臓の機能障害を合併していることも多く、全身を守りながらの治療となります。内科からは総合新川橋病院心臓血管センター、東邦大学医療センター大橋病院、仙台厚生病院心臓血管センターから発表がありました。外科からは名古屋共立病院循環器センター心臓血管外科(熊田佳孝先生)と岸和田徳洲会病院心臓血管外科(東修平先生、東上震一先生)からそれぞれの努力の成果が発表されました。

全身がやられていて状態が悪い患者さんも多く、また弱った心臓を補助しようにもIABP(大動脈内に入れる風船)が使えず、あるいは慢性腎不全や感染などのため条件が悪いためさまざまな工夫が必要です。治療の順番も心臓を先にするか、下肢を先にするか、あるいは同時にするかなど、ケースバイケースのきめ細かい対応が必要です。そこでいくつか得られたメッセージとしてはPADが意外に見落とされがちな現実から、定期的にはABI(腕と下肢の血圧の比率を測定)などでチェックすれば早期発見早期治療へと進みやすいこと、PPI(末梢血管インターベンション)がより進化していること、血液透析ではChEはじめさまざまな指標に注意すること、などがありました。また私見ながら、こうした悪条件の重なった患者さんにはオフポンプバイパスを行えば心臓の安定度が良いため長期予後も良くなる、ただし重症なるがゆえに手術ではさまざまな注意が必要と思いました。

以上はこの学会の一部ではありますが、その雰囲気は知って戴けたのではないかと思います。有意義な学会を開いていただいた山崎純一先生と小山信彌先生に感謝申し上げます。

平成22年12月11日

米田正始

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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アジア弁膜症シンポジウムにて

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10月6日から10日まで第6回アジア弁膜症シンポジウム、正式名称 Mulu Rafflesia心臓弁膜症シンポジウムに参加しました。(申し訳ないのですが、学会の報告はどうしても医療者向けになり、ちょっと専門的ですので一般の方は各論的なところは読み流してください)

2年に一度、アジアのどこかの国で開かれるのですが、欧米からも有名な先生方が 今回はネパールで開催されました。素朴な良い国でした。 多数こられることと、ある程度の規模に抑えて交流を図ることをモットーにしているシンポジウムです。心臓外科領域では有名なロッキーマウンテン弁膜症シンポジウムのアジア版として、ロッキーマウンテンの指導者であるデュランCarlos Duran先生の御指導のもと10年あまり前に発足したものです。私は6年前から世話人としてお手伝いしています。

今回は心臓外科領域の最近の進歩や変化を反映したタイムリーなものになりました。高齢化社会で弁膜症は増える一方ですし、若者を襲うタイプの弁膜症も少なくありません。社会的ニーズの高まりもあってホットな領域になっています。

初日はまずウィーン大学の大御所であるウォルナー Ernst Wolner先生が大動脈弁手術の最先端を論じられました。医師にはおなじみのビルロード先生(胃切除術を開発された歴史的な外科医です)の後輩にあたる先生ですが、カテーテルをもちいた新しい治療(TAVI)を含めた最先端状況を展望・紹介されました。いつもの鋭い眼光は健在でした。

ついで人工弁の感染性心内膜炎(略称PVE)をどう治療するかという、いわば難病対策のセッションがあり、さまざまな工夫が論じられました。タイの畏友 Weerachai Nawarawong先生は危険因子として術後早期のPVE、心不全、ブドウ状球菌、複雑なPVEなどを挙げ注意を喚起しました。もともと心内膜炎で心臓手術を受けた患者さんは何年経ってもまた心内膜炎になりやすい傾向を指摘されました。いずれもうなづける内容でした。注意が必要です。

インドの内科医Al Shahid先生はPVEでも予防が大切であることを強調されました。PVEでは安易なオペも考えものですが、脳出血が起こってしまうと手遅れであることも示され、リスクをしっかりと踏まえた的確な治療が必要で、妥当なことと思われました。

レセプション夕食会では早速旧交を温め賑わいましたが、食事しながら創部感染の防止の講演もあり、羽目を外し切れない真面目な会となりました。ネパール料理はスパイスが効いて食べやすいと思いました。隣国インドの料理に近いですが、違うところもあり、それぞれのお国柄と思いました。

翌日午前中は Show & Tellというセッションでさまざまな手術の工夫や問題提議などがありました。

小切開手術に関する発表がいくつかあり、ハートポート型の体外循環をもちいた小切開手術や胸腔鏡ガイド下での手術の近況が報告されました。メルボルン仲間である Almeida先生はロボットをもちいた僧帽弁形成術の経験を紹介されました。ロボットには賛否両論があるのですが、それに適した患者さんを選び、あまり無理をせずに余裕のある手術をするならば安全性は高く、コストも短期的には割高ですが、入院期間や退院後の復帰の速さを考えるとコストダウン可能という考えを示されました。日本でロボットの事故があったばかりなので、参考になりました。

モンタナのMaxwellマックスウェル先生は2年前からの友人で、上記のデュラン先生の後継者でさまざまな取り組みをしておられますが、ロボットやハートポートのお話から、究極の低侵襲という意味ではTAVI(カテーテルによる大動脈弁置換術です)などのカテーテルを基本とした弁へと進むであろう方向性を示されました。といってもカテーテル弁の術後1年で30-40%というずいぶん高い死亡率が報告されているという欧米の新情報も議論され、大動脈弁置換術の領域でもまだまだ外科手術が患者さんを助ける時代は続くという印象もあわせ持ちました。

不肖、私・米田正始は機能性僧帽弁閉鎖不全症たとえば心筋梗塞のあとなどに起こる虚血性僧帽弁閉鎖不全症拡張型心筋症にともなう僧帽弁閉鎖不全症への新しい取り組みをお話しました。先人たちの優れた仕事の上に立脚し、EBM(証拠にもとづく医学医療)を考慮し、より安定した弁形成術への道のりをご紹介しました。新しい手術法はちかぢか発表予定であるため、規約により「さわり」だけお話しました。これまでの術式たとえば弁輪形成や乳頭筋接合術などでもそこそこ良いのですが、それらでは解決しきれない僧帽弁後尖のテント化(左室側へ引っ張られて弁が閉じない)を解決するための工夫とあって多数の御質問を戴きました。感謝。もし近いうちに皆さんのお役に立てればうれしいことです。

その他にもいくつかの工夫が発表されましたが、虚血性僧帽弁閉鎖不全症のために開発されたGeoformリングの使用経験やピオクタニン色素をもちいた僧帽弁のかみ合わせ深度の有用性、あるいは僧帽弁の後尖腱索の前尖への転位など、すでに知られたものが中心でしたが、完成度が高くなりつつあるという点で評価できると思われました。

再び私が複雑僧帽弁形成術の症例をいくつか提示し、これまでの弁逸脱だけでなく、弁のけん引や3次元的変化など、さまざまな状況に人工腱索は対応できることを示しました。ぜひ使ってみたいので詳しく教えてほしいという反応を戴き、光栄に思いました。

2日目の午後は大動脈弁僧帽弁手術での新たな選択肢が論じられました。中でもタイの畏友Taweesak Chotivatanapong先生の自己心膜をもちいた僧帽弁形成術はいつもどおりきれいな仕上がりでした。通常形成が難しいリウマチ性の僧帽弁膜症でも70%は形成可能というデータを示されました。できるだけ劣化や短縮を防ぐためにグルタルアルデヒドで処理して使い、ここまで6年の経験では上々の成績ということでした。
この方法は以前からあり、これまで必ずしも良好とは言えない成績が大動脈弁形成術僧帽弁形成術で報告されており、これまでとどう違うから良いのか、という議論をさらに煮詰めることで、より良いものができるのではないかと思いました。個人的には自己心膜をよく使うのですが、大動脈壁や弁の根本付近など、長期間に多少変化しても安全な部位で使うようにしています。短期的には良くても長期間それが持続するかどうか、そこが問題です。日本でも積極的に試みておられる先生が若干あり、これまでの歴史を打ち破れるか、その展開を期待しています。

午後の後半は弁膜症手術の際に同時に行う心房細動(AF)手術のセッションでした。
最初にマレーシアのDillon先生が全体像を展望されました。マーシャル靭帯を処理し、ラジオ波と冷凍凝固を併用した熱心な方法を紹介されました。それでも左房径が60mmを超えると除細動は難しく、心房壁切除により心房縮小をしていたが、出血の心配があるため、最近は縫縮しているとのことで、以前からそれを提唱している者として、仲間が増えてうれしく思いました。

ドイツのライプチヒ心臓センターや中国その他の施設からさまざまな工夫が発表されました。とくにライプチヒのHolzhey先生は慢性AFには心内膜からの冷凍凝固がベスト、発作性AFには双極ラジオ波が有効というデータを出されました。理にかなった内容と思いました。

韓国のChang先生は長年の研究の中から冷凍凝固がもっともすぐれた方法であることをデータをもって示されました。同先生の延世大学へは以前講演に呼んで頂いたこともあり、交流の中で同先生の心房細動治療がライフワークであることは存じていましたが、それが学生時代からの夢であったとは知りませんでした。明確な夢や目標を持つというのは素晴らしいことと思いました。

それらを受けて、私は高度に心房拡張した難症例でも心房縮小メイズ手術を行えば除細動は可能であることを示しました。5年以上前から発表しているのですが、こちらの経験数が増えるに従って説得力も増しているようで、今回はより多数の引き合いがありいくつかの国へ実地指導に行くことになってしまいました。
スロベニアのGersak先生は心膜内視鏡を開発し、孤立性AFにも外科手術が有効かつ低侵襲であることを示されました。カテーテルによるアブレーションつまり焼灼治療にまだまだ課題がある中で、今後の展開が楽しみな方法です。

3日目は交流の日ということで皆観光ツアーに出かけました。私は他の写真仲間と一緒に飛行機でエベレストやヒマラヤ山脈を観るツアーに早朝からでかけました。エベレスト山はやはり特別なものを感じる雄大さがあり、朝5時起きして行ったかいがありました。
午後9時過ぎには他の皆さんに合流し、一日カトマンズやその周辺の観光を楽しみました。BhaktapurとDurbar広場をゆっくり観光しましたが、ネパールはまだまだ経済的に恵まれず、庶民の暮らしも大変と思いました。ただそれが不幸であるかどうかは別問題ですが。またアジアの最近の傾向に違わず、交通渋滞が多く、結構大変でした。夜は街灯が少ないため真夜中のような雰囲気になりますが、それでも多数の人たちが街に出て暗闇の中をショッピングしている風景には力強ささえ感じました。

4日目はまたぞろしっかり勉強で私が司会を務める中、このシンポジウムの締めくくりセッションとして三尖弁手術を論じました。いかにして弁形成を貫徹するか、またやむなく弁置換になる場合どうするのが良いかなどを論じました。その中には私たちが近年力を入れて来た永久ペースメーカーケーブルによる三尖弁閉鎖不全症も含まれ、議論は盛り上がりました。せっかく開発した良い方法を皆さんに使って頂けるよう、なまくらせずに早く論文を出したく思いました。

その後でウェットラボがあり、今回は三尖弁の意外に知られない解剖や特徴、さまざまな弁輪形成法をブタの心臓で練習して戴きました。上記のMaxwell先生やAlmeida先生、フィリピンの大御所らにまじって私もいろいろお世話させて戴きましたが、聴く耳のある外科医が多く、教えがいのあるセッションでした。
締めくくりのパネルディスカッションではシンガポールのLeng先生の基調講演を受けて、今後心臓外科医あるいは心臓血管外科医はどういう姿を目指すべきか、またそのための教育・研修制度はどうあるべきかを熱く議論されました。冠動脈や大動脈、あるいは大動脈弁の比較的シンプルな構造の病気は今後はカテーテル類をもちいた低侵襲治療がさらに増えて行くのは確実です。大変良いことで、医学の歴史は外科が治療をまず開拓し、それを徐々に簡単な薬などの内科治療へと進化させていく、その繰り返しで発展して来ましたが、心臓血管病も同じです。
同時に狭心症や心筋梗塞に対する永い治療の果てに左室そのものがどうにもならなくなって左室形成や僧帽弁形成を行って患者さんがさらに永く元気に生きられる治療をしたり、補助循環で社会復帰を応援するなどの新たな役割が心臓外科医には増えているとも言えるでしょう。あるいは心臓外科経験のある医師がERやICU等で活躍しているケースも多数あり、それらも途のひとつかも知れません。

患者さんに良いものが残り、それが栄える、それで良いのではないかと思います。しかし同時にこれまでの歴史は良いものが生き残るとは限らない、さらに、生き残っているものがベストとは限らないという教訓も教えています。たとえばビデオテープにおけるVHSとベータの闘いはその一例と位置づけられています。やはり良いものは良いということを、社会に啓蒙することは必須かと思います。
さまざまな勉強やそのお手伝いができて楽しいシンポジウムでした。最後の打ち上げのパーティは悪乗りの連続でしたが、また友人・仲間が増えて次の楽しみへとつながるシンポジウムになりました。最後にお世話になった代表世話人のSaw先生に御礼申し上げます。

 

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ロボット手術での事故報道を見て

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9月22日の中日新聞や朝日新聞・読売新聞などによれば、名古屋大学病院にてロボットをもちいた胃がんの手術を受けた70代の男性患者さんが、5日後に死亡され、事故調査が開始されたとのことです。大変残念なことで、今後原因の解明と対策が速やかに行われることを期待します。

ここまでに報道されている範囲では、手術中に膵臓(すいぞう)に亀裂が発見され、何らかの原因で損傷が起きたとみられ、縫合して修復したとのことです。手術後、動脈血流の障害による腸管壊死(えし)が起き、翌日に腸管を切除する手術を受け、その後、壊死性筋膜炎も併発し、4日後に多臓器不全で死亡しておられます。

手術に用いられたダビンチというロボットは10年以上前から外科系のさまざまな領域で用いられ、極めて使いやすい、先進的なすぐれものでした。今回もロボットそのものに問題はなかったといいます。

十分な準備のもとに、実績あるチームが正しく行った手術の結果が不運なものだったという印象が強いです。しかし早期胃がんの手術という、普通なら死ぬはずのないと言ってもよい安全な手術で患者さんを失ったことは重大です。患者さんの御冥福と早期の原因解明を望みます。

ダビンチロボットで僧帽弁の手術をしているところです 私自身もロボットに興味があり、大学病院勤務時代には他の多くの科、たとえば腹部一般外科や泌尿器科、婦人科その他の科と共同でロボット導入申請を何度か行ったり、近くの関連病院に小型のロボットを導入していただき仲間に経験を積ませたりみずからも練習したり、ロボット手術で実績の豊富なドイツの病院へ見学に行ったりと、新しい時代の低侵襲手術を目指して努力したことがあります。

しかしこれまでの手術ロボットは心臓手術についてはまだまだ不十分で、それを使って手術はできるものの、それが理想の低侵襲手術とは言えない現実に当分待つことにしていました。実際、ロボットでの心臓手術の権威の先生方が日本に講演に来られたときも、現在はあまりロボット手術は勧めないとこっそり本音をもらされたこともあり、やはり多くの問題があることを実感しました。講演ではロボットの利点を説明しておられただけに本音と建前が大きく食い違うロボット手術の現実を見た思いがします。まだ2-3年前のことです。

欧米では他の病院と差別化を図るために、つまり客寄せのためにロボットを導入・使用しているところも多く、正しい医療のありかたとは少し異なるものという印象がぬぐえません。

さらにロボット手術で得られるものは、創が小さく、美容上のメリットがあることが中心で、手術後の痛みや入院期間などはそれほど変わらないというデータもあります。少なくとも心臓外科領域ではそうです。その一方で、ロボットを使うために、手術の質を落としたり、不完全手術することなどもあり、ロボットを目的化した、本末転倒の議論と思います。

もちろん誰かが医学医療の将来をかけて、低侵襲手術の開発を行う必要があり、ロボットはその大きな第一歩です。それだけに慎重に、失敗は許されないという認識のもとで行う必要があります。

心臓外科分野ではロボット手術と並んで低侵襲手術として有名なハートポート(胸を小切開するだけで手術できます)も、使う医師によっては慎重かつ的確に使い、実績を上げておられるケースもあると思います。しかしそのハートポートを発明したスタンフォードのS先生は私の知己で、彼が初めて動物実験に成功したときの皆の興奮から、スタンフォードの若いホープとして隆盛を極め、まもなく数名の患者を立て続けに失って病院を去らざるを得なくなった経過までを知るだけに、ハートポートに熱中する先生方を見て不思議な気持ちになってしまいます。

昔、外科医の精神を教えてくれた先輩達は創の小ささよりも確実な切除や再建を強調しておられました。それこそが外科医の良心というわけです。しかし低侵襲つまり患者さんへの負担の少ない方法が重視される現在、かつての方針はどうしても修正せざるを得ません。しかしそれでも外科や医療の本筋は忘れてはならないと思うのです。

平成22年9月25日

米田正始 拝

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京都大学での再生医療・臨床試験の再開を慶ぶ

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京都大学探索医療センターにてbFGF(ビー・エフ・ジー・エフ、塩基性線維芽細胞増殖因子)の徐放(数週間という時間をかけて病気のある部位で徐々に効力を発揮させる方法)による下肢動脈閉そく(閉塞性動脈硬化症、ASO)による虚血に対する臨床治験が今月から再開されました。それも探索医療センターの目玉プロジェクトとして、大きな予算と専任の教官が複数つく形で、大変うれしいことです。遺伝子も細胞も使わないためがんなどの心配も少ない安全性と、確実に効く効率の良さが評価されたということです。

bFGF徐放による血管新生治療で劇的な改善がみられた患者さんです このbFGF徐放による治療法は6年あまり前に、私が京都大学で仕事していたころに、再生医工学研究所の田畑泰彦教授との共同研究で、臨床試験として7名の患者さんに使い、成果を上げ、患者さんに喜ばれていたものですが、2007年のごたごたで中断になっていたものです。

7名の患者さんでの成果は国内外の学会や英語論文195番(2007年)でも発表し、患者さんを苦しめていた下肢の潰瘍が消えたり小さくなったり、あるいは歩ける距離が何倍にも増えたり、という「目に見える」ものでした。またその準備として1998年ごろから動物実験を繰り返し、その効果を自分の眼で確認していただけに自信もありました(英語論文のページにたくさんあります)。

さらにこの方法は当時の探索医療センターの王英正助教授らとの共同研究で、心臓の幹細胞から誘導した心筋細胞の移植治療の強力なサポートとして細胞を守り増やすために併用されていました(英語論文222番)。残念ながらこの方法は当時は京大病院では時間切れで実現できませんでしたが、今年になって京都府立医大にて循環器内科や心臓外科の夜久均教授のもとで臨床試験として一例目が実現しました。

せっかく患者さんに役立つものを10年もかけて開発してもそのまま尻切れトンボになるのを心配していたのですが、上記の皆さまのおかげで何とかこれから展開しそうな情勢になり、うれしく思っています。

とくに京大病院探索医療センターでの臨床治験の再開には、田畑泰彦教授はもちろん、心臓血管外科の坂田隆造教授や池田義准教授、丸井晃准教授はじめとした先生方の大変なご努力があったものと拝察されます。関係の諸賢に感謝いたします。

しかしせっかくの良い方法も、日本のドラッグラグの中では産業化・一般化まではなかなか至らず、わずかな数の患者さん、それも下肢虚血の患者さんにしか恩恵が届かない懸念が依然と続いています。そのため、いくつかの方法でこの方法を広く普及させる道を今、探っています。

何で日本はこうなんだ、とぼやいてもはじまらないため、一歩ずつ進めて行くつもりです。皆さんの応援をお願いいたします。

2010年9月18日

米田正始 拝

 

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テレビ映画「外科医・須磨久善」を拝見して

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9月5日の夜、テレビで「外科医・須磨久善」が放映されました。

須磨久善先生は昔から敬愛する心臓外科の大先輩であるため、その歩んで来られた道は私にとって初めてのことではありませんでした。

しかしあらためて心に響くものがありました。

 

胃大網動脈を用いての冠動脈バイパス手術バチスタ手術を日本で最初に行われたこと、

その後それをさらに発展させられたことなど、

いずれも日本の心臓外科が世界に誇れる立派な業績です。

私自身、バチスタ手術セーブ手術をはじめとする左室形成術の共同研究でも大変お世話になりました。

 

しかし私をそれ以上に動かすのは、

医師の進む道、外科医の歩み方を、これまでにない形で示して下さったことにあります。

テレビでもそれがある程度うかがえたのは幸いでした。

 

須磨先生が医者の新しい生きざまを見せて下さるまでは、

大学で矛盾に耐え我慢を重ねて業績を積み、教授になるのが医者が一番光る道のように思われていました。

もちろん教授には教授ならではの社会貢献や喜びがあるのは私自身の経験でもよく理解できるのですが、

須磨先生が示されたのは多くの大学教授さえ認める外科医の誇り高い姿でした。

 

それは病気の本態を追求する研究マインドであり、

手術テクニックを突き詰める職人気質でもあり、

それ以上に患者を預かる医師という職業に対する誇りと畏敬の念であったと思われます。

当然の結果として患者中心というスタンスは徹底しておられ、

ひとりの人間が組織の歯車として動くという水準を遥かに超えた、医師人生とはかくあるべしというべき姿でした。

 

心臓外科という領域の仲間には敬愛すべき方が少なからずおられます。

手術の技量、医療への情熱、患者を助けるための溢れるばかりのエネルギー、タイプはさまざまですが、立派な方が少なからずおられます。

しかしその中で須磨先生が突出しているように思えるのはその哲学や姿勢を含めた全体像でしょうか。

たとえば後輩の良い点を見逃さずに評価してくれるとか、優れたものを見抜けばサポートする、人生いかに生きるべきかという問いへの大きなヒントを持っておられる、などの姿勢・ひととなりですね。

そして困難な中でも何とか解決策を見出す問題解決能力でしょうか。後輩の私が申すのも僭越ですが。

 

個人的な話で恐縮ですが、数年前、私が京大病院を去るかどうか考えているとき、須磨先生に相談したことがありました。

京大教授の立場でできる社会貢献が多くある、どんな我慢をしてでも大学に留まり、時が来ればまた全力を上げて頑張れ、今は耐えよ、という答えでした。

私は大学教授であることよりも手術で患者を助ける意義のほうが遥かに大切と確信し、

須磨先生のように民間の医療現場で精いっぱい患者さんを救命するのが筋と思っていただけに悩みました。

結局教授よりも手術を選択しましたが、そうしなければ一生後悔したものと思います。

 

当時、多くのサポーターの方々、たとえば2万5千を超える署名を集めて下さった患者さんたちや激励を下さった医師や医療者の方々、

あるいは立場上公には支援できずとも静かに支えてくれた方々、

家族や生活を守るために私に反対せざるを得なかった人たちにさえ、

今も感謝していますが、

その中でも須磨久善先生のご厚情は今も忘れられないものがあります。

 

医療崩壊が叫ばれてすでに時間が経ちます。

状況は悪化の方向にあります。

しかし須磨先生が示された外科医の生き方の中に、医療崩壊の解決策が見えると私は思っています。

もちろん仕組みとして改革すべきことは多々ありますし、個人でできることに限界はありますが、

それでも従来のパラダイムにこだわらぬ、医師のなんたるかを理解した須磨先生の生きざまには医療を変えるものがあると思います。

 

テレビ映画・外科医須磨久善を見てどこか清々しい気持ちになりました。

また力を頂いたような気が致します。

 

平成22年9月6日

米田正始  拝

 

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