サルコイドーシス友の会 について―心臓外科は心不全治療等でお役に立てます

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サルコイドーシスは肺、眼、皮膚、心臓はじめ全身のさまざまな臓器を侵す難病です。肺はサルコイドーシスにもっともやられやすい臓器のひとつです

サルコイドーシス友の会はこの難病に立ち向かい克服すべく設立された会です。

 

私(米田正始)はたまたま京都大学在職中に、

サルコイドーシスの世界的権威であられる泉孝英先生や長井苑子先生らと交流があったご縁で、

心臓サルコイドーシスの手術を何例も経験でき、ノウハウの蓄積ができました。

そのご縁もあってリンク集にも掲載して戴いております。

 

サルコイド心の場合は房室ブロックに代表される不整脈が多いのですが、

心臓とくに左心室が障害を受けて瘤化(壁が薄くなりこぶのように膨らみます)したり心筋症(左室全体の動きが弱くなります)になることがあります。

とくに瘤化は、それが心臓に大きな負担となる場合、たとえば左心室が拡張したり弁が逆流したりする場合、手術たとえば左室形成術僧帽弁形成術によって改善できることが多々あります。

不整脈に対しては循環器内科と協力してペースメーカーやICDなどを検討することもあります。

その経験や成果の一部を論文として海外のジャーナルでも発表しています。

 

心臓もサルコイドーシスの影響を受けることがあり注意が必要です。不整脈も心不全もかなり治せます。 サルコイドーシス友の会の患者さんたちが、ご自分の病気や各内臓の状態を把握され、

的確な健診や治療を受けられれば今後の見通しは明るいと思います。

そのために友の会の活動は大変意義あることと思います。

 

病気の原因が次第に解明されつつあり、

今後サルコイドーシスは予防できる病気になって行くでしょうから、

すでに起こってしまった二次的病変さえ治せばまずまず良好な状態で暮らせる、

そういう時代が近いと思います。

 

質問1:サルコイド心に手術というのはあまり聞いたことがありませんが?

回答1:これまでの心臓手術はバイパスを付けるか、を治すか、血管を付け替えるかなどが中心でした。

いずれも心臓の筋肉そのものを治さないものでした。

 

しかし拡張型心筋症や心筋梗塞後の虚血性心筋症に対する左室形成術や、左室がゆがむための僧帽弁閉鎖不全症の弁形成手術のノウハウの蓄積から、

サルコイド心にも治せるものが増えました。

ただしそれは心不全の手術をたくさん行っているチームに限ってのことです。

そのため、一般にはサルコイド心は薬でそっとしておくという考えが多かったのです。

 

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サルコイドーシス心筋症にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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日本心臓ペースメーカー友の会 ―心臓外科がお役に立てることもあります

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日本心臓ペースメーカー友の会

昭和41年に当時の東京大学胸部外科の先生方の主導で、

ペースメーカーの本体です。ペースメーカーは比較的簡単な手術で患者さんに大きな恩恵を与えて来た素晴らしい治療法です者、医師、工学者によって発足された、“ペースメーカー友の会”が前身です。

現在は全国24支部、会員4000名を有する伝統ある立派な会です。

現在の会長は筑波大学名誉教授の堀原一先生です。

 

会の活動目的は心臓ペースメーカーによって命を救われたことを認識し、

「感謝」「報恩」「奉仕」の精神に基づいて会員の適切な健康管理、

並びに健全快適な「QOL」(生活の質)の確保を図り、

もって社会福祉の向上に貢献するとのことです。

 

著者(米田正始)とのかかわりは、

元々心臓外科の患者さんでペースメーカーを必要とする、

あるいは手術前からペースメーカーをお持ちであった患者さんが結構おられたことから、

周辺部サポーターという関係でした。

ペースメーカーの植え込みそのものは比較的簡単な手技ですので循環器内科の先生がされることが多いのですが、

難しいケースなどで応援するといったサポートが多かったように思います。

 

ペースメーカーのケーブルは図のように三尖弁を通って右心室へ到達します。そのため三尖弁がケーブルに押されて逆流(閉鎖不全症)することがまれにあります この数年間、ペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全症のため肝臓がうっ血し、

うっ血性肝硬変に悪化してこのままでは肝不全ついで心不全で命の危険がある、といった状態の患者さんの治療を10例以上手がけて来ました。

ペースメーカーは三尖弁ごしに右心室にリード線を送るため、ときにそのリード線が三尖弁を壊してしまうのです。

稀な状態ではありますが、

薬や普通の手術法・弁形成法では対処できないため、グレイゾーンのようになっていた感がありました。

 

幸い、私にとっては僧帽弁形成術を多数行って来たノウハウが応用できるところがあり、

ペースメーカーに三尖弁がからみつき、肥厚癒合した、つまり弁がぐちゃぐちゃになっているケースでも、

弁をペースメーカーからはずし、弁をゆがませる肥厚組織を取り、それで弁の支えも無くなる場合は特殊な糸で再建する、

そしてペースメーカーケーブルを弁の端に収納するなどの方法で三尖弁が形成、再建できることがわかりました。

4)三尖弁の弁膜症 ③ペースメーカーケーブルによる三尖弁膜症とは?をご参照下さい

 

そうした治療で肝硬変になりだしていた患者さんたちに元気になって頂けるといううれしい経あきらめずに相談して良かった、と何度も言われました。 験を何度もする中で、

日本ペースメーカー友の会の話しを患者さんからお聞きしました。

会誌「かていてる」も何冊も戴きました。

患者さんのお話では、自分の仲間の中にも同じ病気の人が何人もいて、中には苦しんでいる人もある、ぜひ助けてあげて欲しい、とのことでした。

もし友の会の皆さんでこうし患者さんをご存じの方がおられましたら、ご一報頂けると幸いです。

 

なお私たちの経験では三尖弁形成術だけであればミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)(ポートアクセス法)で

小さい創で手術ができる可能性が高いです。

他の病気が合併している場合は、その内容に応じて適切なミックス法を選ぶようにしています。

 

ペースメーカーは何十万人の患者さんを助けて来た素晴らしい治療法です。

その中に稀に上記の三尖弁閉鎖不全症を合併しても、それが治せるとなれば、ペースメーカーの価値・有用性は一段と上がると思います。

困ったらまず相談です。

 

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元・京都大学医学部教授
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マルファンネットワークジャパンについて―会員のためにますますご発展を

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マルファンネットワークジャパンは1996年に名古屋で誕生しました。

 

当初はホームページを立ち上げ、

米国のナショナルマルファン財団(NMF)を参考にして、

患者さんやご家族に有用な情報を提供し相互の連絡や親睦をはかるところから活動が始まりました。

 

その少し前、1993-5年ごろ、著者(米田正始)がアメリカ・カリフォルニア州にあるスタンアメリカでは古くからマルファン症候群の会が活動し貢献して来ました。当時留学生だった私はそうした立派なものがあることに感心し、できることからやろうとマニュアル翻訳などしたものです。フォード大学に留学していたころ、

NMFの集まりがあり、立派なハンドブックも出版され、会員に恩恵が届く活動が行われていました。

そこでそのハンドブックを翻訳し日本でも役立てて戴く努力をしましたが、

その当時は出版するだけのスポンサーも得られず、立ち消えになっていました。

ちなみにスタンフォード大学にはフィブリリン遺伝子の解析などで大きな貢献をされたFurthmayr教授夫妻や、

大動脈の外科治療で多くの実績を出されたわが恩師 D. Craig Miller教授らが活躍しておられました。

 

その後マルファンネットワークジャパンは年々活動の輪を広げ、4つの目標に向かって発展しています。

 

4つの目標は

(1) 情報の収集と提供
(2) コミュニティの形成
(3) 社会活動
(4) 生活環境の向上

です。

私は上記のスタンフォード時代からのかかわりもあって、医療アドバイザーとしてささやかながら貢献させて戴いております。

 

マルファンネットワークジャパンの総会に参加したことがあります。

皆さん和気あいあいと、しかし良く勉強し、

講師を招いて、臓器別疾患別に分科会も開いてしっかりした勉強や質疑応答がされていました。

自分たちの健康は、サポータの支援を受けながらも、自分たちで守るのだという積極性が感じられました。

私は心臓血管外科医の立場から心臓血管病の分科会で勉強会相談会をやらせて戴きましたが、

皆さんそれぞれ長期の闘病や健康管理に大変努力しておられる様子が具体的にわかり、

包括的かつ迅速、専門的な支援が重要とあらためて感じました。

 

1998年に帰国し京都で心臓血管外科の仕事をするようになって、

マルファン症候群の患者さんがよく来られました。

中には他院で手術を受けたが、今後のフォローアップをお願いしますといったケースもありましたが、

日ごろから状態を把握し、患者さんにも注意点のポイントを指導していたためか、

大動脈の別の部分が突然解離したときも、患者さんもあわてずに直ちに来院、

てきぱきと緊急手術ができ、元気に回復して戴いた経験もあります。

病気の特徴を捉えて、備えあれば憂いなし、と思いました。

 

新しい方向性の治療法が検討されつつあります。究極的には線維結合組織を強化し動脈瘤などが発生しなようにすることと思います
20年以上前、まだ私が研修医修練医のころ、マルファン症候群大動脈基部拡張症のためベントール手術を受けられた患者さんが、

体は元気になったのに将来を心配して落ち込まれ、あまり生活の質が上がらなかったことを今も忘れることができません。

マルファン症候群には遺伝だけでなく突然変異で発症するケース がよく知られており、

どのご家庭にも発症し得る、社会全体の課題なのです。

 

将来はフィブリリンの遺伝子治療や再生医療で結合組織の強化を図れば、

いずれは元気に一生を健康人と同じ形で過ごせるようになるものと思いますが、

それまでの間、あるいはその治療が奏功しづらいときにわたしたち心臓血管外科は患者さんの守り神として貢献できるものと思います。

またニューロタンのように大動脈をある程度は守ってくれるお薬がこれから順次増えて行けば、長期の安定性も改善するでしょう。

 

マルファン症候群の患者さんたちの未来は明るい、

しかしまだしばらくの間は油断禁物、

そして油断しなければ現時点でも安全性はかなり高まって来ていると思います。

これがマルファンネットワークジャパンや患者さんたちへの私からのメッセージです。

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第7回患者さんの会のご報告と御礼 (新しい糖質制限食ダイエット法なども)

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皆さんこんにちは

本日、3月7日日曜日にいつもの祇園ホテルにて第7回患者さんの会を開いて頂きました。

最近暖かい日が多かったのですが本日は雨でしかも寒く、あまり良い日ではなかったのですが、60数名の患者さんとご家族がご参加下さり、会場は満杯になりました。

今回は新しい科学的ダイエット法であるローカーボ・ハイファットダイエット(糖質制限食)つまり低炭水化物・ダイエットはこれまではカロリーを減らすことが中心でした。それも大切ですが、カロリーの内容やバランスも重要であることが知られつつあります 高脂肪食ダイエットの実際をご紹介しました。春日井の名開業医・灰本先生(灰本クリニック)の7年以上のご経験から教えて頂き、すでに私自身で、あるいは私の患者さんや友人でも実績のある方法ですので、実際の経験談を交えてお話しました。

体重が減り、中性脂肪が大きく減り、善玉コレステロールが増え、血糖値も改善した実際のデータに大変反響ありました。今後、心臓病、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、脳梗塞、腎臓病、膝関節症、その他さまざまな方々のお役に立つことを期待しています。

実際、以前に私の心臓手術を受けて戴き、その後も心臓は快調ながら太りすぎがもとで内臓に変調をきたし体調が今一つの方もおられましたので、そういう方には大きな福音になると思います。

また4年前に左室緻密化障害という病気に世界で初めて左室形成術を行わせて頂いた患者さんもご参加下さり、お元気な姿で皆さんのご挨拶戴きました。この患者さんの手術報告はアメリカのトップジャーナルにも掲載(英語論文194番)され、その後多数の左室緻密化障害患者さんのお役に立っています。皆さんの拍手とともに、ありがとう!と叫びそうになりました。

一緒に勉強される患者さんたちです。Q&Aの時間にはさまざまなご質問やお話を頂きました。一体感のある和やかなひとときでした。 また数年前に大きな手術を受けて下さった大阪在住の患者さんのご家族がご参加下さり、最近とつぜん誤嚥性肺炎で危篤状態となり、私に緊急の電話をされ、それから急遽、私の友人で実力派内科医の近隣の先生にお願いし、危機的状況を無事脱したことをご紹介下さいました。遠方にいても連携プレーで命が助かる、医者冥利のような話しで、こうした形でも皆さんのお役に立てれば幸せと思いました。

こうした経験の中で患者さんご自身やご家族はチーム医療の中心部にある重要メンバーであることを改めて感じます。通常、チーム医療には患者さんは対象であってもメンバーではないような扱いになっていますが、今後は患者さんの主体的参加が普通のことになるでしょう。

そうしたことを感じさせてくれた今回の患者さん会でした。いろいろご質問や御礼その他のありがたいお言葉を戴き、前回同様、世話人のひとり、全さんの手作りのケーキでお茶の時間を持ちながら和気あいあいと歓談できました。世話人の松岡さん、中村さん、ありがとうございました。

次回は9月ごろを考えておりますが、もう少し早目にして下さいという声も戴きましたので、世話人の皆さまとご相談し夏ごろを検討したく思います。

また皆さんのお元気なお顔を拝見できるのを楽しみにしています。

平成22年3月7日

米田正始 拝

追伸:かつて米田正始の手術を京都大学病院や康生会武田病院、医仁会武田総合病院、洛和会音羽病院などで受けられた患者さんやそのご家族・ご友人はどうぞ遠慮なくご参加下さい。ご連絡法はこのホームページに記載してあります。

 

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【第十一号】 バンクーバー冬季オリンピック 2

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【第十一号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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(前回のメルマガで、元の図の説明文が本文に一部混入し、読みづらいところがありました。お詫び致します)

バンクーバー冬季オリンピックが閉幕しました。皆さん多くの感動や悔しさ、あるいは夢を感じられたのではないかと思います。

女子フィギュアスケートの浅田真央選手とキム・ヨナ選手の熱戦の時にはちょうどお昼時ということもあってか名古屋ハートセンターの職員食堂では皆さんテレビにかじりついていたように思います。浅田選手の地元・名古屋ということもあって銀メダルは残念、しかしキム選手もあれほど立派な演技をよく頑張ったという公平な称賛の空気も感じました。

今回の冬季オリンピックで見られたひとつの面白い傾向は個人が国籍より重視されたケースが増えたことでした。
2月24日の朝日ドットコムで、「薄らぐ「日の丸」意識」というタイトルでそうした傾向が論じられていました。
今回の五輪は「国家」をあまり意識しない大会になっているというのです。

たとえばロシア国籍で参加したフィギュアスケート・ペアの川口悠子選手、日本代表で出場したアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード姉弟、米国代表として参加した長州未来選手など、これまでにあまり見られなかったパタンです。そもそも五輪憲章には「オリンピック競技大会は個人種目または団体種目での選手間の競争であり国家間の競争ではない」と規定されているそうです。

個人の自由や尊厳、生きることの意味、国家や組織の意義など、時代の流れでしょうか。ふと振り返れば医者の世界もつい最近までは医者はどこかの「教室」に所属し、一生涯その代表者である大学教授の指令どおりに病院を移り変わるのが普通でした。それが新しい研修制度が発足した数年前から急速に崩れて、大学や教室の求心力低下、教室が人手不足になって医師を派遣できないための地域医療の崩壊や重労働ハイリスクのメジャー科目離れなどさまざまな問題につながっています。教室・大学意識が薄れて個人意識が台頭してきているのはどこかオリンピックの流れに似て来ています。

能力や情熱のある若い医者が自らベストと思う研修を受けるべく世界に師を求め、実力をつけ、自分の腕前で立派に生きて行く、そしてそれを認める実力重視の病院が増えて来たということでしょうか。現在のところ、まだこうした生き方はハイリスク・ハイリターンコースと捉えられているようですが、価値観そのものが進化している中である意味自然なことのようにも思えます。

大学もその流れを感じてか、外科系などでは市中病院や海外で手術や臨床の実績を上げた医師を教授に抜擢するケースが増え、進歩と思います。教授に抜擢されれば待遇が悪く仕事環境が貧相でも大学へ就職するケースが多いのはさすがに大学はまだオーラを維持しているとも感じます。しかしそういう努力をしても大学へ就職する若手医師が激減している現実は、付け刃では対処できない問題が大学病院や医局に存在することを示しています。

かつての医師の価値観のゴールドスタンダードは、ひたすら我慢を重ねて大学教授になり、学会の会長をやって花道を引退し、どこかの有名病院の院長になることでした。ただそうして得られるものと失うものを現代の若者はすでに見抜いているように感じるこのごろです。そしてかつてのゴールドスタンダードに背を向ける若手医師が増えている現実を知ることは病院や大学にとっても脱皮し進歩するために大切と思うのです。欧米の大学ははるか昔にそうした試練を克服した歴史があります。

今回のバンクーバー冬季オリンピックを見ていて感じたことの一つでした。

米田正始 拝 (3月1日記)

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログのコーナーから一部抜粋、転載いたしました)

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2010年3月1日 バンクーバー冬季オリンピック(2)

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バンクーバー冬季オリンピックが17日の熱い競技を終えて閉幕しました。皆さん多くの感動や悔しさ、あるいは夢を感じられたのではないかと思います。

フィギュアスケートはじめさまざまな競技で釘づけになってしまいました
女子フィギュアスケートの浅田真央選手とキム・ヨナ選手の熱戦の時にはちょうどお昼時ということもあってか名古屋ハートセンターの職員食堂では皆さんいつもより結構長く食堂にとどまってテレビにかじりついていたように思います。この熱気というか一体感のようなものはWBCの最終戦、イチローの決勝打打席以来のような気がしました。浅田選手の地元・名古屋ということもあって銀メダルは残念、しかしキム選手もあれほど立派な演技をよく頑張ったという公平な称賛の空気も感じました。

今回の冬季オリンピックで見られたひとつの面白い傾向は個人が国籍より重視されたケースが増えたことでした。

2月24日の朝日ドットコムで、「薄らぐ「日の丸」意識」というタイトルでそうした傾向が論じられていました。
今回の五輪は過去のそれと比べて少し様子が違い、「国家」をあまり意識しない大会になっているというのです。

たとえばロシア国籍で参加したフィギュアスケート・ペアの川口悠子選手、日本代表で出場し他国から参加する選手たちを見ていますと自由なものの考え方が普通になりつつあることを感じます たアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード姉弟、米国代表として参加した長州未来選手など、これまでにあまり見られなかったパタンです。そもそも五輪憲章に「はオリンピック競技大会は個人種目または団体種目での選手間の競争であり国家間の競争ではない」と規定されているそうです。

個人の自由や尊厳、生きることの意味、国家や組織の意義など、さまざまなことを考えた時代の流れでしょうか。ふと振り返れば医者の世界もつい最近までは医者はどこかの「教室」に所属し、一生涯その代表者である大学教授の指令どおりに病院を移り変わるのが普通でした。それが新しい研修制度が発足した数年前から急速に崩れて、大学や教室の求心力低下、教室が人手不足になって医師を派遣できないための地域医療の崩壊や重労働ハイリスクの外科等メジャー科目離れなどさまざまな問題につながっています。教室・大学意識が薄れて個人意識が台頭してきているのはどこかオリンピックの流れに似て来ています。

Isya01 能力や情熱のある若い医者が自らベストと思う研修を受けるべく全国に、というより世界に師を求め、思う存分実力をつけ、自分の腕前で立派に生きて行く、そしてそれを認める実力重視の病院が増えて来たということでしょうか。現在のところ、まだこうした生き方は良く言ってもハイリスク・ハイリターンコースと捉えられているようですが、価値観そのものが進化している中である意味自然なことのようにも思えます。

大学もその流れを感じてか、外科系などでは市中病院や海外で手術や臨床の実績を上げた医師を教授に抜擢するケースが増え、努力の跡が見えるのは進歩と思います。教授に抜擢されれば待遇が悪く仕事環境が貧相でも大学へ就職するケースが多いのはさすがに大学はまだオーラを維持しているとも感じます。しかしそういう努力をしても大学へ就職する若手医師が激減している現実は、付け刃では対処できない問題が大学病院や医局に存在することを示しています。

かつての医師の価値観のゴールドスタンダードは、ひたすら我慢を重ねて大学教授になり、学会の会長をやって花道を引退し、どこかの有名病院の院長になることでした。ただそうして得られるものと失うものを現代の若者はすでに見抜いているように感じるこのごろです。そしてかつてのゴールドスタンダードに背を向ける若手医師が増えている現実を知ることは医師にとっても病院や大学にとっても脱皮し進歩するために大切と思うのです。欧米の大学ははるか昔にそうした試練を克服した歴史があります。

今回のバンクーバー冬季オリンピックを見ていて感じたことの一つでした。

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【第十号】 バンクーバー冬季オリンピック

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【第十号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
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編集・執筆:米田正始
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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、オリンピック

では清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多く感動の連続です。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピ

ックメダルを獲得しました。強豪相手に立派というしかありませんが、その内容

にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少し

のところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、その後をしっか

りとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャン

プで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれまし

た。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のと

きを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられ

ます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。毎日息苦しい、

つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが

何度もあります。このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかし

このまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況

です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないとい

うのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して

痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると

思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし

、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見

殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできる

ような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成

功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、など

があり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予

測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイ

リスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合

や高齢者患者さんの場合などでは予測に反して失敗ということはあり得ます。

今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

 

オリンピックで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏

を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝 (2月19日記)

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログ

のコーナーから一部抜粋、転載いたしました)

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2010年2月19日 バンクーバー冬季オリンピック

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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多オリンピックでは感動の連続ですく、力を頂いていることを感じます。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピックメダルを獲得しました。ロシアや アメリカの強豪相手に立派というしかありませんが、その内容にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少しのところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、精神力と実力でその後をしっかりとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャンプで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれました。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のときを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。たとえば重い心筋症心不全バチスタ手術セーブ手術などの左室形成術の患者さんなどのケースですね。毎日息苦しい、つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが何度もあります。もちろん患者さんも、話を聴く私も、飽くまで生きることを目指して相談しているわけですが、このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかしこのまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないというのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

昨日の涙は明日の喜びに。かつて助けられなかった病気を助けられる病気に。
するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできるような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、などがあり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイリスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合や高齢者患者さんの場合などでは4回転ジャンプできると予測していたのに着地で失敗ということはあり得ます。今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

オリンピックでぎりぎりのところで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝

 

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2010年2月16日 日本心臓血管外科学会の感想

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今回も医師・医療者向けの内容になりそうです。すみません。ただ、一般の読者でも医学・医療に関心のおありの方には熱い医師や学会の努力や本音の一部を知って頂くことはできると思います。

この2月15日から17日まで神戸ポートアイランドにある神戸国際会議場と神戸国際展示場にて行われた第40回日本心臓血管外科学会の集まりに行って参りました。畏友大北裕・神戸大学心臓血管外科教授が会長をされることもあって以前から楽しみにしていた会でした。

 

歴史と伝統のある立派な学会ですので、会長といえどもなかなか好きなようにはできないものですが、大北先生のご努力と工夫のあとが見られる面白い集会でした。

まずプログラムを一べつしてすぐ気がついたのは、海外からの招請講演つまり海外の有名な海外との交流は医学医療の発展のために重要です。学会がその場を提供することも多いため工夫は有意義です。 スター外科医の講演の司会をすべて大北先生がされていることです。慣例ではこうした司会役は名誉教授の偉い先生や重鎮の教授の先生方がされることが多いのですが、考えあって会長がすべてを自ら担われました。

人づてにお聞きしたところではこれまでお世話になった海外の実力派の先生方に敬意を表するため、自らお世話をしたいとのことでした。これまでの方法でも、司会の先生によっては豊富なご経験を活かした内容とユーモアのある、良いものが見られたと思うのですが、中には空気の停滞を感じさせるミスマッチのケースもあったように思います。すでに引退されモチベーションが落ちてしまった老先生のようなケースですね。これを一新されたことは内容ある学会を造るための斬新な一歩になったと思います。ただしまだまだ貢献が多い元気派の老先生には何らかの活躍の場があるとより理想的とも思いました。ちょっと注文付けすぎかも知れませんが。

こうした学術集会では会長や理事長が講演をされることが多く、この日本心臓血管外科学会でも講演がありました。高本眞一理事長と大北裕会長の講演はいずれも日本の心臓血管外科学会や心臓血管外科医の現状を客観的データをもとに正確に踏まえ、今後の進むべき道を示す、優れたものだったと感じました。これまでの日本の学会では会長や教室(つまり大学)の名誉のためにその実績を披露するという傾向が指摘されるケースもあり、この点が大所高所から学会あるいは国全体の医学医療の進むべき道を堂々と論じるアメリカなどの学会より遅れていました。今回の学術集会での理事長講演や会長講演は日本も欧米水準に近づいたと思ったのは私だけではなかったようです。

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日々の研鑚が必要なのは音楽もスポーツも心臓外科手術も同じです。

 若い先生方へのメッセージ”Practice, practice, practice”(練習、もちろん患者さん対象ではなくそれ以外の方法で)はスポーツと同じ姿勢で、これまで仲間で努力して来たことを言葉にして戴き感銘を受けました。同時に外科手術、心臓手術は治療のためとは言え、患者さんの体に傷を付ける唯一の合法的行為であることをいつも認識し、襟を正して日々精進すべきことなども大変共感しました。

上記の講演の中で外科系へ進む若手医師が減少している話しもありました。ただ現状をよく見てみますと、ハートセンターのように雑用が比較的少なく、患者さんのケアや治療とくに手術に全力を注げる民間専門病院へは若手からの採用希望が多く、やはり大学病院とくに国立大学病院の構造的問題が影を落としていることを感じました。周囲にいた先生方と話ししていても、やはり大学病院の雑用の多さと手術や治療のやりづらさ、週80時間以上仕事している一方での待遇の貧相さ、そしてそれらを解決不可能とギブアップしている一部病院指導者(彼らもまた構造的問題の犠牲者ではありますが)の問題は根が深いと感じました。

また今回の学術集会ではディベートセッションということで、現代の心臓血管外科が直面している医学的科学的問題や課題を実に27件もPro(賛成派)とCon(反対派)の形で熱く論じられ、多くの聴衆とくに若い先生方にはポイントを絞った、良い勉強になったのではないかと思いました。

このディベートセッションでは、個人的にはProであっても偶々Conの役割を与えられて当惑しておられた先生もあったようですが、そこはProとConの熱い討論によってよりよいものを造るという趣旨からご自分の意見とは別に心を鬼にして一つの観点たとえばProの立場から遠慮なく議論を進めておられたのが印象的でした。

かくいう私も左室形成術という心不全の患者さんのための手術に関連したディベートを仰せつ治療法の検討には科学的データにもとづく議論が大切です。重症の患者さんの協力やデータを集めるのが難しいのはわかりますが、だからと言って軽症の患者さんだけのデータで正しい結論は出せません。 かり、皆さんに喜んで戴けるだけの内容をというプレッシャーを受けていました。私の担当はPro セーブ手術で、相方は北海道大学心臓血管外科教授の松居喜郎先生で、松居先生の担当はPro オーバーラップ手術でした。ちょっと専門的にはなりますが、セーブ手術はパッチと呼ばれる布を使って左心室を良いサイズと形に整える手術で、オーバーラップ手術はこのパッチを使わず心臓の余った壁を折りたたんで形成する手術です。お互い敬意を持っている友人なのでそれぞれの手術法の特徴をある程度浮き彫りにできたとすればうれしいことです。司会を務めて下さった長年の友、堀井泰浩先生(香川大学教授)に御礼申し上げます。

その直前にStichトライアル(スティッチトライアル、Stichはいくつかの単語の頭文字等でトライアルは臨床検討という意味です)に関するディベートがありました。須磨久善先生(心臓血管研究所)の司会で小林順二郎先生(国立循環器病センター)がPro、磯村正先生(葉山ハートセンター)がConで面白い議論がなされました。このStichトライアルというのは心筋こうそくなどのために心機能が落ちた患者さんに手術を行うときに、普通の冠動脈バイパス手術だけを行うか、左室を治す左室形成術を加えるべきかということを欧米の多施設でデータを集めて研究されたものです。その結果、左室形成術はメリットがないという結論となり、左室形成術で多数の患者さんを救命した心臓外科医から猛反発を食らっているいわくつきの研究です。

磯村先生はこのStichトライアルでは左室形成術の効果があまりでない軽症の患者さんを多数あつかい、しかも手術前の左室の状態を正確に把握していないこと等を論拠を挙げて説明されました。確かに私たちがこれまで苦労して重症でも救命し、長期生存それも元気に暮らして戴いている患者さんたちよりずっと軽症で、ほとんど左室形成術不要と思えるほどの患者さんをStichトライアルでは扱っているため、このトライアルの変な結論は患者さんにとって迷惑千万と確信しました。小林先生はStichをディベートの中で擁護する役割をたまたま与えられたため、慎重に謙虚に話しするしかなく、ちょっとお気の毒でした。しかしこの結果を真摯に捉えて外科手術をより良くしようというメッセージは立派だったと思います。ともあれこれらの先生方皆さんのご努力で、今後もっと正確で患者さんの実情に合った、患者さんに本当に役立つトライアルをやろうということで多くの先生方は納得されたと思います。

個人的に少しうれしかったのは虚血性僧帽弁閉鎖不全症のディベートセッションでした。京都府立医科大学の夜久均先生と神戸中央市民病院の那須通寛先生がそれぞれ乳頭筋前方移動と二次腱索切断を支持する立場で話しされました。私はこの乳頭筋前方移動を 7年前に開発し6年前から患者さんに役立て、二次腱索切断とセットで使う方法として発表して来ました。最初は難しすぎると言うことであまり相手にされなかっただけに、今、世の中のお役に立てて光栄と思いました。司会の坂田隆造先生(京都大学心臓血管外科教授)もこれに言及戴き、うれしく思いました。(本HPの英語文献187、193、225、236をご参照下さい)。この2つの方法は相反するものではなく、状況によって使い分けたり私の方法のように併用することで患者さんの長期の安定に役立つことをお話しました。

学術集会では最近のトレンドを受けて、カテーテルを用いた大動脈のステントグラフト治療や、今後の大動脈弁置換術などの話題を主に欧米の先生方から報告戴きました。国内では大阪大学心臓血管外科の澤芳樹教授のチームからカテーテル人工弁の報告があり、今後の方向性が示唆されました。心臓血管外科医といえども今後はなるべく患者さんの皮膚を切らずに病気を治せるように、しかしいたずらに美容に走って真の安全性を損ねることのないように皆で検証しながら発展していくことが重要と再認識しました。

それ以外にも面白いトピックスや企画は多々あったのですが、それはまたの機会にご紹介したく思います。会長の大北先生御苦労さまでした。

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第九号】 第7回患者さんの会のご案内

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【第九号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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皆さん、まだまだ寒い日が続きますが、如何お過ごしでしょうか。

第7回の患者さんの会のお知らせをさせて頂きます。

前回は昨年2009年9月でしたが、その後新型インフルエンザの大流行が予想さ

れ、皆さんに集まって戴くこと自体に慎重になる状況でした。次はいつですか

と患者さんたちから聞かれても答えられない状況でした。幸い今年に入って新

型インフルエンザは下火になって来ましたので、そろそろ次の集まりをと世話

人の方々と相談いたしました。その結果、

日時: 2010年3月7日(日曜日)午後1時ー午後4時

場所:  祇園ホテル (いつものホテルで地下の広間の予定です)

〒605-0074
京都市東山区祇園町南側555番地
TEL : 075-551-2111 FAX : 075-551-2200

ということになりました。お問い合わせは米田心臓外科オフィス(中村、連絡

法は下記を)までどうぞ。

テーマは

1.メタボリック症候群に負けない方法。しっかり食べても安全にやせる、低炭水

化物ダイエット法 についてお話します。糖尿病や高脂血症(コレステロールや

中性脂肪)の改善に役立ち、血圧や心臓にも役立ちます。

2.自由な質疑応答

3.患者さんの声

です。お誘い合わせのうえご参加下さい。この会はもとは米田正始の手術を受

けられた患者さんとご家族の会でしたが、最近はそれらの方々に加えてご友人

や心臓病の方、心臓の健康に関心のある方もご参加戴いています。

会費: 前回と同じ2500円です

なお時間の都合上、ゆっくりとしたご相談はできないかも知れませんが、その

場合はとりあえず概略をお聞きしておいて、その状況に応じて後日機会を

設けたく思います。

患者さんの会の連絡先 米田心臓外科オフィス 秘書 中村由佳
TEL:080-6105-8231(直通)
FAX:075-712-8835
Eメール:nakamura@heart-center.or.jp です。

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の患者さんの会のコーナー

から一部抜粋、転載いたしました)

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