お便り45 僧帽弁形成術とメイズ手術でさらに前向きに生きられる80代半ばの女性患者さん

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かつて80歳代といえば

もうご高齢でゆうゆう自適、ご隠居さんというイメージがありましが。

しかし現代は違います。

平均寿命から考えても80代は人生の中ではまだまだ現役なのです。

 

Ilm2010_044-s以下のお手紙をくださった患者さんも、

弁膜症僧帽弁閉鎖不全症と心房細動)を治してまた元気に活発な生活をしたいと希望し、ご来院されました。

名古屋からはやや遠方の福井県からお越し下さいましたが、

これもまた現代的で、

ネットを活用し自分の病気に適したドクターをもとめて全国どこへでも行きますという前向きのご姿勢で来られました。

 

かつては近くの病院におまかせで、

その病院での心臓手術の実績やどういう医師が治療してくれるかなどはまったく知らない状態の患者さんが多かったのですが、

それではいけないと知り、みずからアクションを起こす賢患者さんが増えました。

 

以下はその患者さんからのお便りです。

僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術心房細動に対してメイズ手術を行いました。

Ilm17_aa05003-s弁の逆流も消え、長年の心房細動も正常リズムにもどりました。

 

いっぱんに僧帽弁形成術のあとは回復も早いのですが、

実際、術後も直後からどんどん歩行運動して下さりまもなくお元気に退院されました。

外来でも活発なお姿を拝見しうれしく思っています。

 

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Ptletter45日中はまだ29度の暑さですが朝夕の風が少しさわやかになりました
入院中は大変お世話になりまして誠とに有難うございました

今日は手術後一ヶ月体力も少しづつ回復に向い幸を感じて居ります

これもひとえに先生の施術のお蔭と有難く感謝の他ございません

高齢で手術をすることに不安心配がありましたが先生のお力を信じてそのお蔭で痛もなく無事今日迎えることが出来ました


ハートセンターへ寄せていただき先生にお目にかかったこと本当に幸運であった今しみ々と思って居ります


勉学研究に頑張っていただいたなればこそ医学の進歩があり私達助けられるその思い今信頼とお蔭を強く致しました


また入院中私なりに感じましたことひとつ看護士さん方々の笑顔と言葉の優しさ行動がすごく患者の心を癒してくれました

本当によく指導されていること強く感じました
‘ハート病院は本当に良い病院です’
心から誰にでも話することが出来ます

先生のお蔭で生かされた生命を又ハート病院で受けた数々の思いを私も残された人生の中にただ生きるので無くよく生きることへ人生の中に活かして行きたいと思って居ります


先生も何卒いつまでもお元気で益々のご活躍を心よりお祈り申しあげております


本当に本当にありがとうございました

末筆になりましたがお世話になりました
他の先生方達にもよろしく申し上げて下さいませ

かしこ

米田先生

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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ミックス(MICS)による僧帽弁形成術―より患者さん目線で 【2022年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

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◾️MICSによる僧帽弁形成術とは?

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僧帽弁の修復手術を、骨も切らない傷跡も小さく目立たない形で行う、患者さんの体に優しい心臓手術です。

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僧帽弁形成術僧帽弁閉鎖不全症に対するベスト治療portaccess2であることはよく知られています。

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(右図はその術中写真です。すでに弁がきれいにかみ合い、逆流は消えています。)

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このことはほぼすべての患者さんにあてはまりますが、

とくに60歳以下の若い患者さん、なかでも10代から40代の患者さんで大切です。

もちろん弁形成がきちんと完遂できる場合のお話しです。

185902403それは術後、永い年月にわたってスポーツその他の自然な活動ができ

病院通いや定期血液検査などがかなり軽減され、

長期の安全性と生活の質の両方を高めるからです。

そう考えますと、ミックス(小切開低侵襲手術)法(その代表格がポートアクセスです)をもちいた僧帽弁形成術は一層、

形成術の良さを引き出せ、

患者さんへのメリットは大きなものがあると言えましょう。お便り54をご参照ください。

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◾️その実際は?

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写真右はミックス(MICS)での僧帽弁形成術の術後1年の写真です。IMG_0754bIMG_0755b

すばやい社会復帰を支援する小さな創です。

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乳腺の右側、向かって左側にある小さな線が創部で、

あとは皮膚のふつうのしわです

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私たちのLSH法(副次創を最少限にするミックス)ではメインの傷跡以外には1つしか小さい傷がつかないため、いっそうきれいになるのです。

他のどんな方法よりもきれいとよく言われます。安全な保険診療内での治療ですから自己負担増はありません。

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ミックスの代表格ともいえる、ポートアクセス法による僧帽弁形成術の標準的手術事例をしめします。

視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術での事例はこちらです。

やや複雑な弁形成の事例もご参照ください。

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◾️ミックスの僧帽弁形成術は具体的にどう喜ばれているの?

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若いからこそ仕事、生活やスポーツ、楽しみに忙しく集中したいというニーズがあり、

骨を切らないミックスでは治りが速いため、

そのニーズに応えやすいです。178560395

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また夏の海などへ行っても創がわかりにくいためあまりいろいろ聞かれずにすみ、

自然に楽しめるのです。

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ゴルフひとつを例にあげても、

ラウンドのあとお風呂でもくつろぎやすいと言われます。

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女性の場合はビーチでビキニなってもほとんどわからないため精神的苦痛も軽減します。

IMG_0229b2 .

写真右はミックスによる僧帽弁形成術を受けた患者さんの術後6か月の写真です。

痛みも少なく、術後1か月で仕事復帰しておられます。

普通の姿勢では乳腺のしわの中に隠れて傷跡はますます見えにくくなります。

こころの傷もつきにくいと言われることさえあります。

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◾️ミックスでの僧帽弁形成術、注意点は?

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そうしたメリットの多いミックス手術(MICS)の僧帽弁形成術ですが、

良いことばかりではありません。

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限られた視野で、助手の力も借りにくいため、

手術の難易度は上がります。

普通の僧帽弁形成術ならほぼ100%成功させるという実績をもつチームでも、

慎重に進める必要があります。MICS toughcase

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(写真はミックスでの僧帽弁形成術の術中写真です。

患者さんの体型その他の条件によってはこうした狭い術野でも工夫して、

わずか6㎝の皮膚切開の隙間から、

所定時間内に安全手術を貫徹することが必要です)

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ilm2007_04_0143-s

◾️私見ですが、、

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私見ですが、ミックスで治療の質を下げることはあってはならないと考えてオペしています。

しかし上記のように通常より難しい条件下で仕事をするため、時間は多少長くかかります。

妥協するのは手術の質ではなく、時間と考えているわけです。

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心臓手術とくに心臓内での操作はあまり長時間かかるとあとの立ち上がりに影響し好ましくありません。

そのため長時間かかる複雑なオペではミックスよりも通常の正中切開で確実に治すこともあります。

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また同じ理由で、僧帽弁形成術の簡単なものがなんとかできるという程度の力量と実績の心臓外科医はミックスをやるべきでないと思います。

ひとつ間違えば患者さんだけでなく、

その心臓外科医にとっても命取りになりかねないからです。

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ダビンチ・ロボットの導入もミックスの一つの方向として検討していますが、

ロボットでは健康保険適応といっても保険カバーされない高価な機械部品代などを様々な形(差額室料その他で)で患者さんに求められ、

治療費が原則保険でカバーされるロボット無しのミックス手術のほうが費用面でも有利です。傷跡のきれいさでも遜色ないと言われます。またダビンチ・ロボットでの医療事故も少なくないのです。

Da Vinci.

こうした慎重な姿勢で、ミックス(MICS)による僧帽弁形成術という、

患者さんに大きなメリットのある治療法を育てて行きたいと考えています。

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患者さんの想い出 1

患者さんの想い出 2

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
    
  その位置づけ
  
  それが前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

ハートポートとは
  


危険なの

  
  その術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁置換

  同、メイズ手術

  ポートアクセスによる弁形成

患者さんやご家族からのお便り

お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん

お便り62: ミックスの弁形成と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成術で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の弁形成を受けたバーロー症候群患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックスで受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動を同法手術で克服

お便り74: ポートアクセス法で弁形成とメイズ手術を受けた患者さん

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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手術事例:特発性拡張型心筋症に僧帽弁と大動脈弁の閉鎖不全症を合併

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大動脈弁閉鎖不全症は心臓弁膜症の中ではよくある病気です。治療も弁形成か弁置換で改善します。

これが拡張型心筋症(略称DCM)に合併するといろいろな用心が必要になります。

心不全が強くなりさまざまな問題が起こるからです。

患者さんは61歳女性です。和歌山県南部の遠方からお越し下さいました。

中等度の大動脈弁閉鎖不全症、高度の僧帽弁閉鎖不全症、そして左室駆出率43%(一時は30%まで低下したといいます)、左室径LVDd 68.6mmと中等度の左室機能低下がみられます。心不全を反映してか、発作性心房細動もみられました。

私たちが平素治療にあたっている患者さんの中ではまだ心機能は良いほうですが、長期間元気に暮らして頂けるよう、できるだけ改善を図れるような手術を行いました。

胸骨正中切開にてアプローチしました。現在ならば小切開で手術するところですが、この頃は標準的切開を用いていました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖でいずれもやや肥厚し短縮し、弁口の中央部が閉じなくなっていました。さらに右冠尖に直径3mmの穴がありこれが後方向いたARジェットの原因と考えました。弁形成よりも生体弁の長期予後の方が良いと判断できたため弁を切除しました。なお右冠尖の穴はHealed IEではないかと推察しました。

ここでいったん術野を移し、左房を右側切開しました。
僧帽弁は前尖・後尖とも器質的変化はなく機能性逆流(つまり左室が弱ったための二次的逆流)の所見でした。

弁輪は後尖側で拡大し、その結果後尖のP2-P3間やP3-PC間も離れて逆流しやすい形になっていました。ただ術前エコーでDCMの左室拡張・球状化のため乳頭筋が後方にずれ後尖のテント化が起こっていましたので、弁輪形成MAPだけでなく乳頭筋操作をくわえることにしました。

まず大動脈弁越しに両側乳頭筋の先端部にゴアテックスCV-5糸を縫着し、これを僧帽弁輪前中央部つまり大動脈弁輪との接点部分に吊り上げました。私たちが考案したPHO法ですね。

その上で左房ごしに、リング26mmを縫着しました。良好な弁の形態とかみ合わせを確認しました。

DCMでPAF様の動悸を訴えておられたことと、将来AFになる懸念が強いことからメイズ手術を冷凍凝固を用いて施行しました。左房を閉じてAVR操作に進みました。

上行大動脈はやや細めながら、この患者さんの体格からはウシ心膜弁21mmが必要サイズであるため、これを工夫して縫着しました。
縫着後、人工弁ごしに左室の人工腱索が良い形であることを確認しました。
体外循環を少量の強心剤ドパミン・ドブタミンにて容易に離脱しました。

経食エコーにてAR、MRの消失と、僧帽弁前尖のテント化の改善、そして僧帽弁後尖のまずまず良好な形態を確認しました。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、術当日夜、抜管いたしました。その後も安定しておられ、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

その後の経過も順調で、遠方からお越しであることに配慮し、十分な運動リハビリを行い、術後2週間半で元気に退院されました。

心臓手術から3年後も、お元気に定期健診のため外来へ来られます。ProBNP(心臓のホルモン)も手術前の2600(重症心不全レベルです)から現在は248まで改善し、お役に立ててうれしい限りです。

 

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執筆:米田 正始
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手術事例:複雑弁形成術を要した腱索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症

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僧帽弁閉鎖不全症のなかでも腱索断裂によるものは弁の逆流が急に発生するため、強い心不全に陥りがちです。

内科での治療では対処できないときには心臓外科で緊急手術をすることがちょくちょくあります。

下記の患者さんは56歳男性で、来院3日前から動悸がひどくなり、息切れも強くさらに血痰まで出たため救急外来へ来られました。

検査の結果、腱索断裂による強い僧帽弁閉鎖不全症という診断で、手術となりました。

胸骨正中切開、心膜切開で心臓に到達しました。

体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は後尖P3(後交連に近い部分)が腱索断裂のため強く逸脱し、慢性MRのためか肥厚・瘤化していました。

さらに前尖A1(前交連に近い部分)に新しい腱索断裂がみられ、逸脱していました。

加えてAC(前交連部の小さい弁葉)が数本の細い腱索の断裂のため逸脱していました。

所見からはP3の腱索断裂が以前に起こり、慢性の中等度のMRがあり、そこへつい最近、A1とACの腱索断裂が加わりSevere MRとなって急性心不全になったものと推察いたしました。

そこでまず上記P3の腱索断裂部・瘤部を三角切除し、P3の残りの部分とPCを連結することで再建しました。

さらにA1の腱索断裂部に前乳頭筋につけたゴアテックス糸4本を人工腱索として縫着しA1が逸脱しないようにしました。
逆流試験にて概ね良好な弁のかみ合わせを確認したためサドルリング30mmにて僧帽弁輪形成術を施行しました。
ここで再度逆流試験をしますと修復部は良好な状態ながら、前交連部で小さな逆流があり、ACの逸脱が残ったためと判断し、A1とP1の一部を連結しかみ合わせの改善を図りました。逆流が軽減したため左房を閉じて大動脈遮断を解除しました。

心拍動下に経食エコーにて弁を調べますと、前交連部にまだ軽度―中等度のMRがあるため、上行大動脈を再度遮断し左房を開けました。

ACの逸脱は弁が薄く弱いため修復が難しいと判断、前交連部のみA1-P1を閉鎖する形で前交連部のMRを消すようにしました。逆流試験でも問題ありませんでした。僧帽弁形成術、完成です。

左房を閉じて大動脈遮断を解除し、体外循環を容易に離脱しました。血行動態は良好でした。

経食エコーにて前交連部にごくわずかなMrがある他は心機能・弁機能とも問題なしでした。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、術翌朝抜管し、一般病棟へ戻られました。

その後も経過は良く、術後9日目に元気に退院されました。

術後2年半ほどのころに、睾丸腫瘍がみつかり、その手術を受けられましたが、心臓は安定しており、腫瘍も良性でスムースに経過しました。

術後3年以上が経ちますが、定期健診に外来へ来られます。僧帽弁閉鎖不全症もほとんどゼロで不整脈もなく、お元気に暮らしておられます。

また外来で元気なお顔を拝見するのを楽しみにしています。

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お便り21 僧帽弁形成術の患者さん

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心臓手術はミスが許されない世界です。

そのため心臓手術の一例目というのは大変な神経を使い、

しつこいぐらい十分な準備と少々のことでは揺らがないチーム態勢を整えて臨む必要があります。

しかしどんな病院でも開設第一例目の患者さんは必ず存在します。

 

2008年10月に名古屋ハートセンターを開設したときにも当然第一例目の心臓手術患者さんがおられました。

僧帽弁閉鎖不全症のため僧帽弁形成術が必要になっておられました。

もち62149b2dろん前もって患者さんにこの病院での第一例目ですということをお話しお許しを得て手術させて戴きました。

この患者さんは二つ返事で手術を承諾して下さいました。

そのご信頼に応えるべく、私たちはできる準備は何でもやるという方針で臨みました。

 

病院オープン直後のことですから、酸素やガスあるいは吸引などの配管の検査も専門家とともに全部自分で確認しましたし、

手術道具から人工心肺の器械まで実地予行演習を行い、手術シュミレーションも何度もこなし、

当日は豊橋ハートセンターからも1.5チーム分の応援部隊に来て戴き、

それこそ今日はいったい何例手術するのと聞かれそうなほどの態勢で臨みました。

 

そのおかげか、手術(僧帽弁形成術)はスムースできれいな結果が得られ、

患者さんは間もなくお元気に退院して行かれました。

必ずうまく行くとお互い信じて手術を行ったわけですが、

今思い出しても勇気と決断力と信頼を患者さんは持っておられたと思います。

 

以下はその患者さんからのお便りです。僧帽弁形成術から1年あまり後の最近、頂きました。

思わずジーンとしてしまいました。

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米田正始先生

ご無沙汰致しております。

手術から早1年が過ぎました。

先生はじめ皆様に大変お世話になりましてお陰さまで順調に回復しまして感謝いたしております

ありがとうございました。お礼のお手紙遅くなり申し訳ございませんでした。

 

テレビで心臓病の番組を見ていた時、米田先生が出て見えて手術の時にはお願いしたいなと、思っていました。

一度診察して頂ければと思いメールさせていただきました。

その日のうちに先生から返信を頂き、診察をしましょうと、予約を頂き 豊橋ハートセンターへ行きました。

 

やはり凄い、思っていた通りの先生、不安が一変に喜びにかわりました。

 

僧帽弁の逆流で色々検査して頂いた結果手術をすれば体も楽になり2週間位で退院できますと言って下さいました。

直ちにその場で決心しました。

 

先生を信じていた為手術に当たって何一つ不安がなく、当日を迎えました。

名古屋ハートセンター開業第一番の手術となり豊橋ハートセンターからも応援に来て頂き盤石の態勢で手術が行われました。

 

手術の時期が遅くなるに従い状態が悪化し人工弁にせざるを得ない時もあるとの事、早期決断により僧帽弁形成術で済みました、

一番良い時期にして頂いたと今では思っています。

 

大成功でした。先生 看護婦さん また周りの方々皆さん行き届いた配慮で安定した入院生活を過ごせました。

心より感謝致しております。

 

術後胸を切ったにもかかわらず何処も痛まず先生に何で?と 何度も聞いていました。

順調に回復したからだと思います。

退院後 地元の病院に通院する段取りも先生がお忙しい中足を運んでくださいました。

 

坂道を登る時、息切れ すぐに体がだるくなっていたのですが今では苦にならなくなり本当に毎日の生活が楽に成りスムーズに過ごしております、皆様のお陰です。

 

益々のご活躍お祈りいたします。

 

平成21年12月**日 *****

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②僧帽弁形成術―その後の人生が変わります 【2025年最新版】

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1.僧帽弁形成術とは

僧帽弁を修理することで元どおりきちんと開閉するようにする手術です。これは弁を切り取り、人工弁で取り替える僧帽弁置換術の対極にある治療法としてよく語られます。
僧帽弁閉鎖不全症つまり弁逆流への手術には僧帽弁形成術が第一選択となります。日本循環器学会のガイドラインでも、僧帽弁形成術は症状がない患者さんにさえメリットがあり形成する力量のある施設では手術適応あり(つまりオペする意義がある)とされています。

事例1

僧帽弁の位置を示します

2.僧帽弁形成術の方法

僧帽弁閉鎖不全症(血液の逆流のため心臓が無理をします)の原因やパターンを踏まえて適切な手術手技を組み立てて行くことが大切です。

僧帽弁閉鎖不全症とは

僧帽弁形成術では患者さん自身の弁をいろんなテクニックを用いて修復します。僧帽弁形成術は精密機械づくりと似てデザインも材料・素材も組立ても大切です。
たとえば四角切除、三角切除、エッジ接合(アルフィエリ法)これにも複数あり、ゴアテックスの人工腱索や その応用としてのFold plastyダクロンの硬性リングや軟性リング、部分リングなど、ペリエ法、

僧帽弁形成術は精密機械づくりと似てデザインも材料・素材も組立ても大切です

それらを組み合わせた砂時計法またはバタフライ法、より本格的にしたsliding plasty、その場合に弁輪縫縮が不要なnon-detach法、自己心膜などのパッチで悪いところを取り換えたり補てんするPatch Overlay法、マジックスーチャー(魔法の糸)やcommissure advancement、ある種の僧帽弁では乳頭筋の接合や吊り上げそしてバーロー症候群のために私たちが開発した新たな方法などなどがあります。

リングとは

3.僧帽弁形成術のメリットは

僧帽弁形成術では人工弁を使わずにすみますので、人工弁にまつわる諸問題が回避できます。例えば脳梗塞や脳出血、感染、怪我などの場合の出血多量、などですね。

ワーファリン(血栓予防のためのお薬で出血などの弱点があります)が不要になったり、弁が長持ちしやすいため将来の再手術が避けやすくなるなどのメリットがあります。
ワーファリンが避けられるというのは安全上も生活の質でも大きな意義があります。僧帽弁形成術の大きな利点です。

ワーファリンサイト

4.私たちの僧帽弁形成術とは

私達は前尖病変、交連部病変やバーロー症候群など(瘤化しきれいに作動しづらくなります)などの複雑な僧帽弁形成術も積極的に行っています。そして僧帽弁閉鎖不全症の患者さんの殆どが弁形成術で元気になっておられます。かつては複雑形成と言われましたが現在は標準術式のひとつでしょう。僧帽弁の構造を示します。各パーツの壊れたところを見極め、バランス良く治すことが大切です。

かつて難易度が比較的高いといわれた交連部(弁のヒンジの部分)での僧帽弁形成術も100%近い安定した成績を出せるようになっています。

バーロー症候群

事例:やや複雑な僧帽弁形成術

事例:複雑な僧帽弁形成術

事例:複雑な僧帽弁形成術 その2

僧帽弁形成術は精密機械づくりと似てデザインも材料・素材も組立ても大切です

海外で修行のあと日本国内での500例以上の僧帽弁形成術の経験のなかで、高齢の方や最近では激しいスポーツマンや近い将来妊娠・出産希望の若い患者さんが来院されることも増えました。
僧帽弁形成術が成功することは、妊娠・出産ができるという意味になり、仕事やスポーツに存分に打ち込めるということでもあり、心臓外科医の極めて重要な貢献と思います。

事例:交連部の僧帽弁形成術 1

事例:交連部の僧帽弁形成術 2

事例:複雑な僧帽弁形成

妊娠や出産には弁形成が有利です

5.僧帽弁形成術の再手術とは

この数年間は他の病院で僧帽弁形成術を受けたが、逆流が治らないので何とかしてくださいという、再手術タイプの患者さんも増えました。一度弁形成術を受けておられる患者さんの弁を治すのは、けっこう難しい場合があります。というのはすでにある程度以上、弁が切除され、弁輪もかなり小さくなっていて、治す方法が限定されるからです。この場合はリウマチ性弁膜症への僧帽弁形成術の経験を活かし、自己心膜などをもちいて弁の不足分を補って形成を完遂するようにしています。もちろんなるべくパッチを使わない工夫をしています。また私たちのお家芸とも言えるゴアテックス糸を用いた腱索の多数連続再建で逸脱をきれいに直すことが役立ちます。

再手術

リウマチ性弁膜症

自己心膜

6.僧帽弁形成術が役立つ時

僧帽弁形成術によって格闘技を含めた激しいスポーツや危険な職業への復帰も可能となりました。事例4若い患者さんで先天性の僧帽弁閉鎖不全症が悪化して妊娠希望して僧帽弁形成術を受けられるというケースも少なくありません。弁形成術によってこそ患者さんの希望が叶えられるため、私たちもあらゆるノウハウを駆使してこれを完遂するよう頑張っています。(事例 先天性僧帽弁閉鎖不全症)(事例 先天性僧帽弁閉鎖不全症・クレフトとバーロー症候群)

事例4

先天性僧帽弁閉鎖不全症

バーロー症候群の弁形成術

スポーツにも弁形成が有利です

僧帽弁閉鎖不全症には心房細動が合併することがよくあります。年月が経っていると左房が巨大化して心房細動を治すためのカテーテルアブレーションやメイズ手術の歯が立たなくなることもあります。そうした場合にも弁形成の良さを活かすのが私たちが考案した心房縮小メイズ手術です。(事例:僧帽弁閉鎖不全症と巨大左房)

私たちが考案

僧帽弁閉鎖不全症と巨大左房

そしてこの10年以上実績を積んできたミックス(MICS)つまり骨を切らず、小さい目立たない傷跡で行う僧帽弁形成術ですね。私たちは複雑弁形成を含めてほとんどの患者さんでこのMICSができています。ロボットより安価で傷跡もきれいです。こうした方法も含めて僧帽弁形成術は今なお進化を続けています。

メモ1:僧帽弁形成術のルーツはパリのカーパンチエ Alain Carpentier先生にあります(写真右)。旧フランス領のアルジェリアからの患者さんがパリに多数来られました。しかし弁置換術を行うとアルジェリアに帰ればワーファリンのコントロールがうまくできません。これでは危険という状況から1970年代に僧帽弁形成術は生まれました。まず四角切除や弁輪形成が確立しました。いわゆるフレンチ・コレクションですね。当時フレンチ・コネクションという映画が流行ったためそれを文字ったようです。

術後心機能の良さから注目を集め、スペインの故デュランCarlos Duran先生(写真左、見たとおりの温厚な先生でした、後年アメリカへ転じておられます)が柔軟リングなどで僧帽弁形成術を発展させられました。

その後1980年代後半からトロントの我が恩師デービッド Tirone E. David先生(写真右)やクリーブランドのコスグルーブ Delos Cosgrove先生らが活躍しました。ゴアテックス人工腱索がフレーター Robert Frater先生らの努力で開発されたのもこの頃です。

さらにライプチヒの Frederich Mohr先生やニューヨークの David Adams先生(写真左)らが 改良を加えて現在に至ります。もちろんその間に多数の優れた先生方がさまざまな改良や検討を重ねられ、僧帽弁形成術は磨かれて行きました。日本では川副浩平先生や岡田行功先生らが大きな貢献をされています。

私は1980年代後半から1990年代前半にかけてDavid先生に6年半かけて本場の僧帽弁形成術を教えて戴きましたが、その後上記のどの先生にもお世話になり、心臓外科の歴史の一部を見せて頂いたような気がします。

メモ2: 僧帽弁閉鎖不全症にたいする僧帽弁形成術などの日米ガイドラインはこちら

患者さんの想い出(1)

患者さんの想い出(2)

患者さんの想い出(3)

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事例 典型的な僧帽弁形成術

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患者さんは39歳女性。 後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症

海外(フィリピン)のご出身で将来もしもの帰国などの場合の安全性も考え、僧帽弁形成術が極めて意義ある状態でした。もし僧帽弁置換術になってしまうとワーファリン(血栓予防剤)のお薬が一生必要となり、国や地域によってはきちんと使えず危険なことになりかねないからです。

11_71.  僧帽弁後尖の一部が伸びきって だらだらになっています。

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典型的な後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症です。

前尖は問題ないという所見でした。僧帽弁形成術のもっともやりやすい、良い適応といえましょう。

現在ならミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)とくにポートアクセス手術で小さい皮膚切開ごしに行い、早い社会復帰を促すケースでしょう。


12_52.  伸びきった後尖の一部を切除 (矢印)しているところです。(憎帽弁四角切除術)

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これは30年以上の長年の歴史と実績がある方法で、一旦弁の逆流が止まれば僧帽弁形成術として良い結果が長持ちします。

 

 

 四角切除以外に三角切除、ゴアテックス人工腱索設置その他いくつかの変法があり、患者さんの状況に合わせて適宜活用しています。
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13_23.  一部切除した後尖を再建修復したところ。

組織がちぎれないように工夫しながら再建します。

また切除範囲が大きくなりすぎると問題が生じるため、他の方法と取捨選択したり時には併用するケースもあります。              .

僧帽弁形成術では必要に応じて後尖の高さ調整をしてSAM(収縮期の前尖前方移動)が起こらないようにします。

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14_44.  僧帽弁輪も形成し(リングが一部見えています、矢印)、

管から左室に水を入れて逆流がないことを確かめています。逆流試験です。

僧帽弁形成術に使うリングは大きく分けて柔らかいタイプと硬いタイプがあり、それぞれ特長があり、使い分けています。
 

15_25.  ここで弁を押して多量の水や血液が流れで出る(矢印)のを見て、

僧帽弁が漏れなくなったことを確認しました。

逆流試験合格です。

逆流試験にも多少の弱点があるため、最終的には体外循環を降りてから、経食道エコーで確認します。

僧帽弁形成術がこのようにきれいに仕上がりますと、10年後もほとんど(90数%)の患者さんは問題なく、20年後でも大半の患者さんはお元気です。

しかもワーファリン不要のため病院に毎月通って血液検査と処方を受ける必要がないため、健康人と同じ形でのびのびと普通に暮らせます。

激しいスポーツや妊娠出産なども可能になります。

僧帽弁形成術は少し複雑になりますとワンパターンの操作では治し切れないため、豊富な経験量がものをいう手術です。実績で医師や病院を選ぶことが安全上大切です。

それは患者さんの権利なのです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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