8) 左室形成術を強化する方法―総合戦力で予後を改善【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ 左室形成術とは?

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左室形成術は、心筋梗塞や拡張型心筋症などでダメージを受けて大きくなった左心室を、外科的に整えて機能を回復させる手術です。
重症心不全に対する外科的治療の中核であり、僧帽弁閉鎖不全症などを合併した患者さんに大きな効果を発揮します。

私たちはこの左室形成術を**より安全に、より長持ちさせるための「強化法」**を組み合わせ、患者さんの生活の質(QOL)と予後の改善に取り組んでいます。

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◆ 強化法1:僧帽弁輪形成術(MAP)や乳頭筋前方吊り上げ(PHO)の併用P1170355b

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左室形成術と同時に 僧帽弁輪形成術(MAP) を行うことで、左室基部の働きを高められることが研究で確認されています。

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また、病態によっては 乳頭筋前方吊り上げ(略称PHO) を併用し、逆流防止とポンプ機能改善を両立させています。

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◆ 強化法2:両室ペーシング(CRT)・ICDの活用

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CRT(心臓再同期療法) は、ペースメーカーの進化版で、心室の収縮を整えることで心不全症状を改善します。
さらに、重症心不全では不整脈が命を脅かすことがあり、**ICD(植込み型除細動器)**が有効です。

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必要に応じて CRTとICDを兼ね備えたCRTD を導入し、左室形成術との併用で大きな治療効果を発揮しています。
これらの機器は手のひらサイズで、患者さんの負担を最小限に抑えられます。4.虚血性心疾患の項をご参照下さい

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する複合手術。海外のジャーナルにも掲載され当時の新聞でも報道されました。◆ 強化法3:合併手術の最適化

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  • 高齢や体力低下がある患者さん → 手術内容を最小限に絞り、安全を優先。

  • 若い患者さん → 必要な合併手術をしっかり行い、根本治療を目指す。

実際に虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する複合左室形成術を行い(左図)、重症ショック状態から社会復帰した患者さんもいます。

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◆ 強化法4:手術手技の進化 ― 心尖部凍結型左室形成術

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ここ数年で、手術時間を短縮しつつ確実に行えるよう工夫を重ねてきました。

また、僧帽弁逆流に対しては 乳頭筋最適化術 など新しい方法を導入し、短時間で確実に修復しています。

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◆ 強化法5:薬物療法との併用

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左室形成術のあとも、薬物療法は欠かせませんA316_005

これらを適切に使用し、副作用を確認しながら長期的に心機能を安定化させています。

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Rehabilitation◆ 強化法6:リハビリ・栄養・チーム医療

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心臓リハビリや適切な栄養管理も重要です。

  • ASV(加圧マスク) で呼吸・循環をサポート

  • 循環器内科や地域医療との連携 によるチーム治療

  • 糖尿病・高血圧・肥満・睡眠時無呼吸症候群(SAS)の管理も必須

心臓手術は手術単独ではなく、全身を診る総合治療として取り組むことで、真の回復につながります。

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Aki_0088◆ まとめ

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左室形成術は進化を続け、

  • Mクリップ、僧帽弁形成や乳頭筋吊り上げ

  • CRT・ICDの併用

  • 新しい術式の導入

  • 薬物・リハビリ・生活習慣管理

といった総合戦力を駆使することで、重症心不全患者さんの予後改善に大きな可能性をもたらしています。

「もう治らない」と言われた方でも、最新の左室形成術と包括的治療で新しい人生を歩めるかもしれません。ぜひ一度ご相談ください。

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サルコイドーシス心筋症

心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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①セーブ手術―左室の形とサイズを整え悪いところをほぼ処理できるが、、【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

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◾️セーブ手術とは?

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拡張型心筋症に対する左室形成術のうち、バチスタ手術で治す場所(左室側壁)とは違う場所(心室中隔)がやられている患者さんに行う手術です

図 ドールとセーブ.

この方法の利点は左室の形や大きさを自由に調整できること、病変部を残さずカバーできる、心基部まで形成できるなどが挙げられます。

その一方、時間がある程度かかり、熟練が必要という弱点もあります。

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たとえば左室駆出率(健康人では約60%台)が20%を割る患者さんでも、状況によっては駆出率10%前後の方でもこれまで多数の患者さんを救命した実績を持っています。

(註:左室駆出率とは左室が一回の拍動で左室内の血液の何%を送り出せるかという数字です。正常は60%台、30%で明らかな心不全、20%で外国なら心移植、10%でそろそろ人工心臓ついで移植という指標です)

左室拡張の強い症例ほど改善度は大きい傾向があります。

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◾️セーブ手術の成果と限界

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A308_043重症でも待機手術の患者さんでは約90%の成功率を出して来ました(拡張型心筋症・事例3)。

小さなこどもの患者さんでもこのセーブ手術は威力を発揮しています(拡張型心筋症・事例4)  。

ただ全身状態の悪い患者さんや高齢者、ステロイド服用者などでは全身の体力の限界があり、これらの患者さんの治療成績を良くするためには、手術や全身管理のさらなる改善が必要と考え、さまざまな改良を加えて来ました。

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◾️ドール手術変法(一方向性ドール)へ

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2008年に、それまでの100例以上の左室形成術の経験をもとにして、セーブ手術の良さつまり左室の形をきれいに整えながら、ドール手術のように簡便に短時間でできる方法を工夫し、良い成績を上げました。(事例1

A310_053かつて重症心不全に対して左室形成術を行った患者さんは集中治療室(ICU)に3-5日はおられましたが、ドール手術変法以後はほとんどのケースで手術翌日に元気に一般病棟へ戻られます。

その余裕の分だけ安全性が向上し、この方法での左室形成術の死亡例はありません。セーブ手術をやっていたころより、患者さんも看護師さんたちも私たち医師も皆、楽でいいなあとよく思います。

 

この新しい手術(方向性ドール手術と呼んでいます)を国内はもとより、国際学会などでも発表を始めています。セーブ手術はさらに進化しつつあるのです。

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さらにこのドール手術変法を改良し、現在はより侵襲が少ない(体にやさしい)「心尖部凍結型」左室形成術で一層の成績改善に取り組んでいます。→もっと見る

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患者さんの想い出1はこちら:

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患者さんの想い出2はこちら:

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心筋症・心不全 にもどる

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3) 拡張型心筋症とは?―各治療法の限界を踏まえるとかなり治せます

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図 DCMと正常心筋症のなかでも左心室(左室と略します)が大きくなる状態が拡張型心筋症です。

なかでも原発性と呼ばれるタイプは心筋そのものの病気です。

原発性の拡張型心筋症の原因のなかで、特発性と呼ばれるタイプの場合は原因不明です。

まだ解明が十分にはなされていないわけです。

厚生労働省の難病にも指定され、解明への努力が続けられています。

 

続発性と呼ばれるタイプの拡張型心筋症ではもとの原因があります。

図 梗塞後リモデリングたとえば虚血性心筋症の場合は心筋梗塞や心筋虚血(血液が十分に行かない状態)が原因です。

また弁膜症やウィルス性心筋炎、アルコール摂取過多、サルコイド―シスその他が原因としてあります。

大動脈弁閉鎖不全症などの弁膜症が長期にわたって放置されておこる拡張型心筋症もあります。

左室緻密化障害という生まれた時から心筋がばらばらになったままの病気でも心不全が進んだ結果、拡張型心筋症になることがあります。

 

いずれにせよ拡張型心筋症では左室の壁は薄くなることが多いです。

 

A306_085なお肥大型心筋症が重症化して拡張型心筋症になる(肥大型心筋症の拡張相と呼びます)の初期では必ずしも壁がすべて薄いとは限りません。

左室が拡張する→ラプラスの法則という物理学の法則にしたがって左室壁への負担が増えて左室壁が伸びて薄くなる→左心室の力が落ちる→左室がさらに拡張する、という「悪循環」に陥り、次第に死に至る病気です。

いったん悪循環に陥ってしまいますと、時間とともにどんどん左心室は悪くなって行きますから、早目に対策を立てることが肝要です。

 

拡張型心筋症では二次的に弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症を合併しそれが重い負担になることもあります。

これは左室が拡張したり丸い形に変形して僧帽弁が引っ張られて閉じなくなったり、右室が拡張して三尖弁の付け根が広がりすぎて三尖弁が閉じなくなるためです。

僧帽弁の場合で言えば、弁そのものが壊れるのではなく、心室が壊れるために起こるという意味で、機能性僧帽弁閉鎖不全症と呼びます。

 

Zoki_02拡張型心筋症は筋肉の病気で、筋肉そのものは現代の医学では治せないのですが、心臓とくに左室の形や大きさが崩れたり、弁が壊れたりしたものを心臓手術で治すことはかなりできます。

拡張型心筋症がお薬つまり内科治療の病気ではあっても外科手術(たとえば左室形成術)ならではの貢献があり得るわけです。

また心室同期療法CRTあるいは両室ペーシングと呼ばれる方法で左室と右室の両方をペースメーカーでタイミングを合わせて動かすことで心臓のちからがある程度回復します。

いのちにかかわる悪性の不整脈たとえばある種の心室性期外収縮や心室粗動などに対する植え込み型除細動器(ICD)も役に立ちます。

 

Ilm09_ag04003-s続発性の拡張型心筋症ではおおもとの原因、たとえば弁膜症や冠動脈の閉塞などは弁形成や弁置換、あるいはバイパス手術で治すことで心筋症そのものもある程度改善することがあります。

原因を取り去っただけでは改善しないほど壊れてしまった左室には、その病変に応じて左室形成術を行うこともあります。

これを原因治療と組み合わせることで左室のパワーは上がり、患者さんは大変元気になられることがしばしばあります。

 

A316_004また手術のあと、余裕を活かしてお薬(ACE阻害剤、ARB、β遮断薬、抗アルドステロン剤など)をうまく使い、心臓の一層のパワーアップを図るようにしています。

拡張型心筋症は難病とはいえ、こうした手術や薬の組み合わせで意外なほど心機能が回復することがあります。

さらに近年の心臓リハビリテーションの進歩もめざましく、患者さんや心臓のパワーアップに貢献しています。

 

こうしたさまざまな工夫を凝らしても心臓がいよいよダメになり、もはや生きて行くだけのパワーが心臓にない、という状況になれば、補助循環つまりある種の人工心臓が威力を発揮します。

補助循環はかつては2年も使えば大半の患者さんが亡くなるほど治療成績が悪かったのですが、研究が進み、今では5年使っても65%の方が生存しているという、心移植に比肩するほどの成績を上げるに至っています。

かつて末期といわれた患者さんも活発に生きることができるようになりつつあるのです。

 

Bn148-1bこれらの治療努力の最後の砦として、心移植があります。

日本でも1998年から心移植が合法的に行えるようになり、その後の法改正でドナー心が集まりやすくなりました。

これから年々心移植の数が増えて、多くの拡張型心筋症の患者さんたちに恩恵が届くことを期待しています。

 

Csnu006-sさらに、これまでは治療が難しかった心臓の筋肉にも、再生医療で治療可能になりつつあり、今後の展開が期待されます。

とくにiPS細胞やES細胞から心筋細胞を誘導してこれを心臓に直接注射したり、細胞シートの形で心臓の表面に貼りつけることで誘導した心筋細胞を傷んだ心臓にパワーを与えることを期待して、さまざまな研究が続けられています。

 

このように、拡張型心筋症ではかつてとは違って、さまざまな治療ができるようになりつつあります。

厚生労働省の難病に指定されているほどの病気ですが、今後さらに治せる病気という方向に進んでいくかも知れません。

 

拡張型心筋症の患者さんたちにおかれましては、こうした日々の医学の成果を考え、むやみにこの病気を恐れすぎたり治療から逃げることのないように、お願いしたいものです。

 

A303_048メモ: このように拡張型心筋症の理解が進み、治せるタイプの患者さんが増えました。

もっとも難しいと言われた特発性拡張型心筋症でさせ、治せる部分が増え、長期間の生命と健康が維持しやすくなって来ています 

悩むより相談です。


◆患者さんの想い出:

拡張型心筋症にもさまざまな状態や段階があります。

中には回復が期待を下回ることもありますが、多くはある一定の成果を出します。中に劇的と言ってよいほど改善することがあります。

Aさんは40代男性で拡張型心筋症のため私の外来に来られました。そのとき、すでに左室のちからは正常の3分の1にまで低下し、左室の形がゆがむため僧帽弁までゆがみ、弁が逆流していました。いわゆる機能性僧帽弁閉鎖不全症とよばれる状態でした。

心不全も高度になり始めていました。つまりいのちの危険が徐々に迫っていたわけです。

十分に検討した結果、Aさんの場合はバチスタ手術などの左室形成術は不向きで、僧帽弁形成術が妥当、そしてその場合、術後にある程度良くなった状態を受けて十分に薬で磨く、という方針を立てました。

拡張型心筋症というだけで世間的には危険性が高いのですが、そこは慣れたチームですので手術はスムースに行き、患者さんはお元気に退院して行かれました。

それから外来で入念に薬で心臓を磨くという作業に入りました。近隣の開業医の先生の全面的ご支援もいただき、きめ細かい治療ができました。奥様の全面的な協力も大きく貢献しました。

2年後には術前とは別人のような心機能にまで改善しました。左室駆出率でいえば、手術前20%程度であったのが2年後には50%台にまで回復したのです。

拡張型心筋症はまだまだこれから治療法が進歩する領域と思います。決してあきらめず、できるところから着実に治していく、これがお勧めできる方針です。

 

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 3b) 心不全の手術について へすすむ

4) バチスタ手術とはへ行く

2. 心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月19日

1.虚血性心筋症とは

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虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy) とは、心臓の筋肉(心筋)が十分な血液を受けられずに壊れ、心臓のポンプ機能が低下する病気です。

  • 主な原因は 心筋梗塞

  • 冠動脈(心臓に血液を送る血管)が狭くなったり詰まったりすると心筋が壊れ、心臓が弱っていきます。

  • 繰り返すカテーテル治療(PCI)や川崎病後の冠動脈瘤によっても起こることがあります。

*虚血性心筋症は拡張型心筋症と並び、心不全の代表的な原因疾患です。

*冠動脈の閉塞や狭窄に対しては、冠動脈バイパス術やPCIが行われます。

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2.心筋梗塞後に心臓のどこが壊れる?

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心筋梗塞が起こると、左心室の一部が壊れて動かなくなります。すると心臓全体が大きく変形し、やがて 「リモデリング」と呼ばれる悪い形の変化 を起こします。

図 梗塞後リモデリング
  • 左室が 丸く拡張 → ポンプ効率が低下

  • 僧帽弁が歪む → 弁がしっかり閉じず、逆流が発生

  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症 へ進行し、心不全が悪化

胸痛がなくても進行することが多いため、注意が必要です。

*左室の形態変化により発生する虚血性僧帽弁閉鎖不全症も重要な合併症です。

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3.虚血性心筋症の症状

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代表的な症状は以下です:

  • 運動時の 息切れ・動悸

  • 進行すると 胸痛・起坐呼吸(横になれない)

  • 下肢のむくみ

  • 重症では 失神や呼吸困難

この病気の怖いところは、患者さん自身が気づきにくいまま進行する 点です。

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4.虚血性心筋症の治療法

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内科的治療

  • 心不全治療薬(ACE阻害薬・ARB・β遮断薬・SGLT2阻害薬など)

    166529996
  • リハビリ・運動療法

  • ASV(非侵襲的呼吸補助)

これらで心不全の症状を和らげます。

外科的治療

  • 左室形成術(リバースリモデリング手術)
     → 壊れた部分を修復し、左室を適切な形に戻す手術→もっと読む

  • 僧帽弁形成術:虚血性僧帽弁閉鎖不全症を合併している場合に有効

  • 冠動脈バイパス手術(CABG):虚血を改善し心筋を守る

心筋そのものは再生しませんが、「残された心筋を守る・回復させる」 ことが治療の目標となります。

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5. 最新の研究と治療の展望

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  • 左室形成術:従来の「STICHトライアル」では効果が過小評価されましたが、専門施設では良好な結果が得られています。

  • 再生医療・血管新生治療:日本ではまだ研究段階ですが、海外(例:タイ国際心臓病院など)では臨床応用が進んでいます。

  • ハートチームでの治療選択:内科・外科・リハビリ科が連携して最適な治療法を選ぶことが大切です。

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6. まとめ

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  • 虚血性心筋症は 心筋梗塞などで心臓の筋肉が壊れた状態

  • 自覚症状が少ないまま進行し、心不全や僧帽弁逆流を引き起こす。

  • 薬・リハビリ・外科手術 を組み合わせれば改善が可能。

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  • 左室形成術や新しい再生医療も選択肢に。

  • 早期発見と適切な治療 が命を救います。

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➡ 関連記事はこちら

  • [心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)]

  • [僧帽弁閉鎖不全症と治療法]

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1) 心筋症とは?―いくつかの原因があり治療法も違ってきます【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️Q: 「心筋症」とはどういう病気ですか?

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Zoki_03A: 心臓の筋肉(心筋と言います)が壊れて動きやパワーが落ちる病気です。

左室の筋肉が増勢し左室の壁が分厚くなる肥大型心筋症(略称HCM)と、

左室が大きく拡張し左室の壁が薄くなる拡張型心筋症(略称DCM)、

さらに左室の壁が硬くなり動きが悪く、とくに血液を貯める瞬間にやわらかく広がれない拘束型心筋症(略称RCM)その他があります。

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◾️肥大型心筋症は

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肥大型心筋症HCMでは左室の中ほどから出口付近にかけて筋肉が肥厚し出っ張って血液が流れにくくなる閉塞性と、左室全体に左室壁が厚くなる非閉塞性があります。

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閉塞性肥大型心筋症(略称HOCMあるいはIHSS)では突然死などがおこるタイプがあり、しっかりとした治療で助かります。

非閉塞性は通常はお薬などで治療します。ただし心尖部肥大型心筋症では左室の心尖部側が異常心筋で埋もれた形になるため手術でかなり改善させることができます。

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◾️拡張型心筋症は

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拡張型心筋症では心筋 が壊れて心室の壁が薄くなったり硬くなったりし、心臓が大きくなります。心不全が悪化しやすく、そのまま放置すると予後が悪く、要注意です。

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拡張型心筋症には原因別に大きくわけて

虚血性(冠動脈の疾患が原因となっているタイプ)と

非虚血性(冠動脈疾患が原因では無いタイプ)

があります。

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①は大きな心筋梗塞後やカテーテル治療PCIを繰り返した後などにも見られま 虚血性心筋症には冠動脈(図の赤い線)の病気が関与しています す。

左心室全体の力が落ちる(心不全)とはいうものの、とくにここが弱いという部位が見られることが多いです。

そこ状態に応じて治すことを考えます。

また左心室がやられて、大きく拡張し、そのために僧帽弁の形が崩れて虚血性僧帽弁閉鎖不全症になるケースがよくあります。

この場合はそれへの治療も行うことがあり、ほとんどの場合、改善が図れます。

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②は冠動脈は太い血管のレベルでは問題ありません。

この中で特発性と呼ばれるタイプは原因が不明で、何らかの炎症や細胞への障害などが原因と考えられます。

Doctor_gekaiお薬で改善を図るとともに、①と同様に悪い部位を心臓手術(左室形成術)で治すこともありますし、僧帽弁が強い逆流を起こしたケースではそれを修復することもあり、多くはある程度以上の改善が図れます。

もちろん術後もさまざまな治療やケアで心筋や心臓のさらなる改善や安定をはかります。

とくにお薬(ベータブロッカー、ACE阻害剤またはARB、抗アルドステロン剤)などをキメ細かくうまく使うと予後はさらに改善します。

なかには健康人に準ずるレベルまで回復した方も少なからずあります。

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拡張型心筋症は放置すると次第に進行し、心不全 186812141や不整脈が心配なケースがあるため注意が必要です。

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◾️心筋症、まとめ

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心筋症ぜんたいで言えば、拡張したり心不全と二次的問題たとえば肺炎や血栓、脳梗塞、不整脈その他でいのちを落とさないように、きちんとした定期検診と治療が大切です。いま元気だからと言って油断しそのままにしないようにお願いします。

私たちは心筋症に対して心不全外科さらに心不全科という目線でこうした患者さんのフォローを続けています。

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モ: 日本では心移植の患者さんの大半が拡張型心筋症を持っておられたことから、心筋症イコール移植という印象をお持ちの方が少なくありません。

補助循環デバイス昔は不治の病というイメージがありましたが、現在はそうとは限りません。

的確な診断と治療により、安定化が図れるようになりつつあります。

さらに、近い将来、再生医療の方法が確立すればより大きな展開がみられるでしょう。

最悪の場合の補助循環(ある種の人工心臓です)にも進歩が見られます。

 Ilm08_bd01009-s右上図の右段はかつての補助循環ポンプ(矢印)です。左段は現在のタイプ(矢印)です。だいぶ小さくなりました。

さらに壊れた左室を新しい左室形成術で修復することがかなりできるようになりました。→→もっと見る

心筋症は簡単な病気とは申しませんが、もはや不治の病とは限らないのです。

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事例: IHSS

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患者さんは71歳女性。特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症IHSS, 僧帽弁閉鎖不全症MR, 僧帽弁前尖収縮期前方移動SAM)のため手術を行いました。明らかな心不全症状がでて苦しくなっておられました。

IHSSの治療にはお薬で状態を安定させたり、カテーテルで心筋を焼いたりペースメーカーで左室内圧較差を減らすなどの方法がありますが、それらが十分な成果をださなかったため手術になりました。実際こうしたケースが多くあります。

またIHSSはもともとは先天性心疾患つまり生まれた時からの心臓病とされていますが、最近は成人になってから発生したと思われるケースがみられるようになりました。私の経験では大動脈弁狭窄症などに合併して発生したと考えられるケースが20例近くあります。

ともあれ手術でしっかり治すことになりました。

体外循環のもと、大動脈を遮断し(心臓を安全に止めて)上行大動脈を横切開しました。

Ihss大動脈弁直下の異常心筋の張り出しは顕著で、心停止の状態では左室内がほとんど見えないほどでした。異常心筋がもっとも張り出している部位では繊維性組織が増成していました。

心室中隔の異常心筋を刺激伝導系から十分離れたところで切除しました。最終的に2x4x1cm程度の心筋を切除できました。異常心筋切除のあとは、大動脈弁越しに両乳頭筋の先端から本体の一部までが見え、血液の通路として成り立つだけの空間が確認できました。

写真(上)では肝心の奥の方のピントと露出が合わず申し訳ないのですが、奥の方の白っぽいものが心室中隔上の繊維組織でその左側の欠損部が切除部の一部が見えているものです。写真(下)はその時点での切除心筋の一部です。

左心室の出口をせまくしていた異常心筋はきれいに取れました上行大動脈を閉じて、50分で大動脈遮断を解除しました。79分で体外循環を離脱しました。離脱は容易でした。

経食エコーにて、術前のSAMは消失し、MRも術前の高度からほぼゼロとなりました。

また異常心筋も切除した平面ではほぼ消失し、幅広い血液のルートができていました。左心室内の圧較差は術前約90mmHgでしたが、術後は測定不能なほど、とくに狭窄部が見られない状態になりました。

術後経過は順調で、手術当夜抜管し、2週間で元気に退院されました。

この手術はモロー手術と呼ばれ、メスとハサミで心臓の奥にある、見えにくい異常心筋を切除するため、経験を要する、直観に頼る手術という印象はあります。学会発表などでも十分に切除できずに病気を残しているケースを見ることがあります。

しかし、確実に異常心筋を切除できればほぼ100%の患者さんで左室内の圧較差を解消でき、僧帽弁には手をつけなくても僧帽弁も正常化します。それだけに症状がより改善できますので患者さんに喜ばれ、やりがいがあります。

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事例6 オーバーラップ手術

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この手術法は拡張型心筋症に対する左室形成術のひとつで、フランスの心臓外科医ギルメ先生が1980年代に初めて行 い、日本では北海道大学の松居先生らが心筋症に対して施行され効果を報告されたものです。

1.左室前壁(矢印)と心室中隔前部を縮小するため

61前者を後者へ落とし込むところです。

比較的簡単に左室の縮小が得られることと

パッチを使わずにできるのがこのオーバーラップ法 overlap法のメリットです。

しかしその反面、将来悪化(再拡張)しやすい病変部や周辺部を多量に残すことや、左室基部の形成ができないことがこの方法の「玉に傷」です。

622.左室前壁(矢印1)が

心室中隔の中ほどの所へ入り込んでいます。

縫合線の両端部を中心に

止血をこの段階で確実にすることが望ましいです。

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633.そして左室前壁の心室中隔側を左室側壁につなぐ

デザインを確認しています。

左室形成術にもいくつかの方法があり、

それぞれ特長があります。

このオーバーラップ法もその特長が活かせる時には積極的に活用するのが良いと考えています。

 

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事例5 ドール手術 2

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患者さんは虚血性心筋症83歳女性。

主訴は労作時胸部不快感。左室形成術にはややご高齢ではありますが、これはお元気になって戴けると判断し、手術に臨みました。

心胸郭比CTR78%、冠動脈造影で3枝病変。心エコーにて左室拡張末期径LVDd48m、駆出率23%、MR I度。

高齢の患者さんですが、心臓が良くなればアクティブな生活を送れる方であり、かつ心臓を良くできるめどが立つため手術を行いました。

5111.心エコー4室像にて

左室拡張末期(左)と

同収縮末期(右)像。

 

 

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522.まず冠動脈バイパス手術から。

右冠動脈4PD枝に

静脈グラフトをつけています。

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533.つぎに右冠動脈本管にも

バイパスをつなぎます。

年齢と心機能を考えて

適切なグラフト選択を心がけています。

ここでは静脈グラフトが最適と判断しました。

 

                                                                        .

 

544.さらに左冠動脈の回旋枝にも

バイパスをつけました。

 

 

 

 

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ここでも完全血行再建は重要です。                                                                                   .

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555.左室でやられたところが心尖部つまり先端付近であったためドール手術を行いました。

この病変の位置と性質ならドール手術でも左室の形を歪めず、

患者さんは元気になれると判断したためです。

なお現在はこれまでの100例以上の左室形成術を検討した結果、セーブ手術の特長をもったドール手術を開発し、心基部までやられた左室でも、形を崩さず形成縮小できるドール手術を行っています。国際学会でも発表していますが、近いうちにジャーナルでも発表いたします。

 

56_26.僧帽弁輪形成術(MAP)を左房ごしに行いました。

矢印が形成用のリングです。(僧帽弁形成術を参照)

左室形成術にこのMAPを併用することで、成績がさらに上がった感があり、

とくに術後のMRの出現はゼロに近づきました。

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577.最後に左内胸動脈(矢印)をつなぎました。

左前下降枝つまり心室中隔がやられたケースでの左前下降枝に対するバイパスには議論がありますが、

私たちは心室中隔の根元の心筋とくに冬眠心筋や可逆障害心筋をできるだけ助けるために、

また時に右室機能をも守るために、左前下降枝にバイパスをつけるようにしています。

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8.左室駆出率も23%から42%へと増加し、患者さんはご高齢ですが十分な心臓リハビリと体力回復ののち術後30日目に元気に退院されました。この手術と年齢で、当時としてはまずまずの入院期間でした。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例4 セーブ手術その2 

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患者さんは60歳男性、26歳時に大きな心筋梗塞を患い、次第に心不全が悪化し、不整脈発作や左室内可動血栓もあり来院されました。診断名としては虚血性僧帽弁閉鎖不全症をともなった虚血性心筋症です。

突然死のおそれもある危険な状態のため準緊急手術を行いました。

4111.術前の経食エコー像です。

左が拡張末期、

右が収縮末期の像です。

左室の動きがほとんどありません

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422.体外循環下に左室前壁を切開しているところです。

左室前壁は僅かに心臓の筋肉が残っていますが、

大半は線維組織で置き換わり、力が出せなくなっていました。

仕事をしていない部分を切っても心臓の力はほとんど落ちません。

心臓は止めずに拍動させています。

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433.左室内部の可動血栓を取り去っています(矢印)。

これで脳こうそくなどが起こりにくくなります

こうした血栓をかかえて、無事病院まで来られたのは幸運でした。

 

 

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444.術前に心室粗動などの危険な不整脈が出ていたため、

冷凍凝固(クライオアブレーション)で不整脈のもとを焼きました(矢印)

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455.セーブ手術の糸をかけているところです。

すでに心室中隔はかけおわり(矢印)、左室側壁を作業中です。

この間ずっと心臓は動いています。

心臓が動いていますと、左心室の悪い部分(つまり病変部分)と良い部分との差は歴然で、写真でも心室中隔後部はダムの堤防のようにはっきりと判ります。

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466.僧帽弁輪形成術(MAP)の糸をかけています(矢印)。心臓が動くと視野が狭くなるため工夫します。(僧帽弁形成術の項を参照)

MAPは左室基部の縮小と運動性の改善をもたらすことを私たちは動物実験で証明しました(英語論文192番)。

この患者さんのように以前の心筋梗塞で多量の心筋細胞を失ったかたには、

MAPは心機能改善のために有効と思います。

477.セーブ手術のパッチを固定しています。心臓内の空気抜きも同時に行います。

このパッチの向こう側が新しい左室となります。

手前側のスペースの分だけ左室が縮小されたことがわかります。

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488.左室の切開部(開いたところ)

を閉じているところです。

出血しないように何重かの処理を加えています。

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49_2

9.心筋に埋もれた冠動脈を

高速エコーで的確に見つけ(矢印1)、

これを心拍動下に

オフポンプバイパスの要領でバイパスします。

矢印2は左内胸動脈です。

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41010.両室ペーシング(CRTと略します)のケーブルをつけています。

この患者さんでも有効でした。

心電図でQRS延長がないとCRTは効かないとお考えの先生も一部おられます。

実際にはエコーで左室各部の収縮タイミングを調べながら、QRS幅正常でも不同期の時間があればCRTを試みるようにしています。

 

 

41111.手術前は僧帽弁逆流が強く、

かつ弁が左室側に引かれていました

(テント化、矢印)。

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41212.手術後は逆流も消え、

弁のテント化も軽くなりました(矢印)

手術後6ヶ月の心機能も左室拡張末期径LVDdが81mmから62mmへ、駆出率も18%から36%へ改善しました。

術後5年経つ現在もお元気にしておられます。

米田正始の患者さんの会にもよく参加して下さいます。

◆余談 この患者さんの経過はスーパードクターのテレビで放映され話題になりました(メディアのページご参照)。

当時こんな重症の患者さんをテレビで発表してもし失敗したらどうするのとよく聞かれました。

しかしこの患者さんは絶対助ける、テレビカメラのあるなしは関係ないと信じて皆で頑張りました。

こうした治療法を多くの方々に知って頂くことが大切と考えたのです。

 

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執筆:米田 正始
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事例 3 セーブ手術

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患者さんは12歳女子、5年前の僧帽弁手術の際に発症した虚血性心筋症が悪化し心停止を来たし心肺蘇生ののち緊急手術となりました。虚血以外の理由で悪くなった可能性がある部位(拡張型心筋症の疑い)もあり慎重に対処しました。

311.薄くなった左室前壁(矢印)を切開して左室内に入ります。心臓は動かしたままで手術を進めています。

術前に心臓が一度停止していた重症例では、

術中に一度心臓を止めると動きが再開しない心配があったためです。

またこうすることで、左室の悪い部分と良い部分がより明瞭にわかるためもあります。

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322.セーブ手術のパッチの糸をかけているところです。

ドール手術ではこれだけ心室中隔の基部までやられているケースでは左室が術後、丸くなり心機能がより低下する心配があります。

そこで形を歪めないセーブ手術を施行しました。

最近はこうしたケースでも安心して使えるドール手術を開発し、

術後の左室の形の良さと左室機能の改善を確認できています。

333.昔のオペで取り付けられた弁が血栓弁になっていたため、これを再弁置換中(矢印)です。

通常は左心房から行う操作ですが、

この場合は時間の節約(つまり患者さんの体力の保護)のため左室経由で行いました。

通常と逆の位置から人工弁を入れるため、その向きに注意して入れます。

当然とはいえ、重要なチェックポイントです。

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344.セーブ手術のパッチが左室内に入ったところです。

左室はうんと小さくなりました。

新しい左室はパッチ(矢印)の奥にあり、

パッチの手前のスペース分だけ左室が小さくなりました。

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35_25.左室を閉鎖しつつあるところです。

長い心不全と入院生活のため回復には時間がかかりましたが、着実に回復し、学校生活にもどりました。

その後も順調に回復し、普通の生活を取り戻しておられます。

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361_26.セーブ手術前後の左室短軸エコーを示します。大きさが比較できるようスケールを合わせました。矢印が5cmです。

術後どれほど心臓が小さく、また動きが改善したかが見て戴ければ幸いです。

重い心不全でもあきらめてはいけないことを教えてくれたケースです。

手術から7年以上たちました。現在も元気に、かつ前向きに暮らしておられます。

世の中の人たちの役に立ちたいと、勉強し、ボランティア活動などもやっておられる姿を見て、私は感動を禁じ得ませんでした。

この患者さんの治療成功は、左室形成術と小児科・内科・外科・麻酔科・ICU・病棟・関連チームの協力で行う集学的治療の威力を示すもので、京大小児科の馬場先生・土井先生らが海外のジャーナルで発表して下さいました(英語論文244番)。

 

手術前に手術の説明をしたときに、手術を受けますとみずから言ってくれた少女の勇気が今も忘れられません。

こうした心臓外科医あるいは臨床医として患者さんやチームから戴く感動は何物にも代えがたい大切なものです。

 

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