事例 冠動脈瘤

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患者さんは75歳男性で胸痛を主訴としてハートセンターへ来院されました。

精密検査の結果、冠動脈に複数の瘤ができ、破裂する危険性があるため手術を行うことになりました。

冠動静脈ろうはなく、また川崎病の既往も所見もない、純粋な冠動脈瘤です。

 

1.冠動脈造影にて3つの瘤がみつかり、そのうち左冠動脈前下降枝と中間枝の瘤が破裂しそうな状態でした。

鈍縁枝の瘤は軽度の拡張と動脈の狭窄が主体でした。

そこで手術治療になりました。通常のバイパス手術より複雑なためもとの病院では手術困難と言われ紹介されて来られました。

 

普通の動脈瘤とは違い、冠動脈瘤では瘤やその付近から枝が出ている場合、瘤を単につぶしてしまうと心筋梗塞になりますし、血管が細いため大動脈のように人工血管で瘤を置き換えることもできません。

 私たちは冠動脈バイパス術と瘤の閉鎖またはカバーを組み合わせて、瘤破裂と虚血・梗塞の両方を予防するようにしています。

これによって短期と長期の安全を確保しやすいと考えています。

 

瘤は先天性の可能性が高いと思われますが、原因がはっきりしないため、もしもの新規瘤発生の事態も考え、将来再手術になっても安全に手術できるよう、

図4 瘤は静脈と脂肪の下内胸動脈グラフトは1本とし、静脈グラフトを1本(シーケンシャルというスキップ吻合にて2本相当)というデザインにしました。

 2.冠動脈瘤がある左室基部を観察しましたが、冠静脈と脂肪に覆われて見えません

(写真左のグラフトの向こう側)。

オフポンプで剥離するには出血が多くなる可能性があり、オンポンプの方がむしろ安全で簡単と判断しました。

図1 LITA-LAD 図3 SVG-IM 3.まず左内胸動脈を左冠動脈前下降枝にバイパスをつけました

(写真左)。

4.ついでオンポンプで大伏在静脈を鈍縁枝につけ、これをさらに中間枝に吻合しました。

鈍縁枝は細くかつ心基部にあったためスムースなレイアウトにするため逆U字型のデザインを使いました(写真右)。

 

図5 瘤を露出 図6 LAD瘤を閉鎖 5.ここで主肺動脈をかわしながら、前下降枝と中間枝の瘤を露出しました

(写真左)。

6.前下降枝の近くに重要な冠動脈中隔枝があったため、これを傷つけないよう注意して瘤全体を押さえ込みました

(写真右)

図7 IM瘤を閉鎖  7.同様に中間枝の瘤も押さえ込み閉鎖しました

(写真左)図8 瘤を覆う

 

8.2つの瘤はもとどおり、心外膜と脂肪組織で覆い、周囲組織と癒着しづらいようにしました。

9.3本のグラフトのフローはいずれも拡張期型の良好なフローパタンを示しました。

容易に体外循環を離脱しました。00028456_20090323_CT_509_8_8

 

術後経過も良く、術翌日には一般病室へ戻られました。

術後のマルチスライスCTにて全部のバイパスグラフトがきれいに流れているのを確認しました。

また将来の万一の事態に備えてもとの冠動脈に PCI ができるよう、もとの冠動脈も細いながらも残すことができました(写真右)。

こうした内科外科の垣根を越えた、様々な治療オプションを確保しておくことが、長期的に患者さんをよりしっかり救うことにつながると信じます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:左室形成術が不要な虚血性僧帽弁閉鎖不全症

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患者さんは 65歳男性で、冠動脈三枝病変+左主幹部病変、左室駆出率30%台の虚血性心筋症虚血性僧帽弁閉鎖不全症のため手術となりました。なお術前、虚血性僧帽弁閉鎖不全症の悪化による肺水腫・心不全のため緊急入院とドパミン点滴を必要としました。

画面下が心臓です。表面がざらざらに見えるのは癒着を剥離した後だからです麻酔導入ののち血行動態が悪化したためIABP(左室を補助する風船がついた管で、大動脈の中で風船が膨らんだりしぼんだりして血液ポンプの作用をします)を挿入・開始し安定しました。

左室壁はバイパスによって回復すると考えられる状態のため左室形成術はやらず、バイパス手術と僧帽弁形成術をすることにしました。                .

写真左:左室側壁は心膜と癒着し、以前の心筋梗塞によるものと考えました。

バイパスグラフトの保護のため、まず僧帽弁形成術を体外循環・大動脈遮断下に行い、そののち体外循環・心拍動下にバイパス手術を行うことにしました。

口を開けた形になっているのが僧帽弁です                                                             .

体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は弁輪拡張が認められましたが(写真左) 、弁に顕著な器質的変化はありませんでした。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症の所見で、かつテザリングtethering (弁が左室側へ引っ張られる現象、別名テント化)はそれほど強くないため、

小さめのリングで僧帽弁形成術MAPを行うことにしました。

リングで弁輪のサイズと形を適正化し、逆流が消えました

                                        .

リング24mmを縫着し、良好なかみ合わせを確認ののち左房を閉じました。

SVGの中枢吻合を上行大動脈に行ったのち、61分で大動脈遮断を解除しました。

.

写真左はMAPの糸をかけた状態の僧帽弁、写真上右はリングを縫着したあとの僧帽弁です。サイズがかなり小さくなったことが判ります。

心臓の下側の冠動脈にバイパスを縫いつけているところです                                                            .

心拍動下に、まず心臓を頭側に脱転し、

大伏在静脈SVGを

右冠動脈4PL枝(プラークあり)に吻合しました(写真左)。

                                                             .

ドップラーにて良好なフローを確認しました。

左側が頭側です。

 

心臓の前側にある冠動脈に内胸動脈バイパスを縫いつけています ついで心臓を少し前へ起こし、

前もって脂肪と心筋内から掘り出した左前下降枝LADに右内胸動脈RITAを側側吻合しました。

さらにこのRITAを第一対角枝D1に端側吻合し sequential graftとしました。

RITAはLADだけにでもぎりぎりの長さでしたが、工夫してLADとD1の両者を灌流するようにしました(写真上)。

この患者さんのD1は大きく、重要度が高いものと考えました。
心臓の裏側にある冠動脈に内胸動脈バイパスを縫いつけています

最後に心臓を右側へ脱転し、左内胸動脈LITAを鈍縁枝OMに吻合し、冠動脈バイパス手術操作を完了しました(写真左)。

いずれのグラフトでも良好な拡張期フローパタンをドップラーにて確認しました。

体外循環を容易に離脱しました。術前からのIABP使用下に、カテコラミンなしで離脱できました。

経食エコーにて虚血性僧帽弁閉鎖不全症の消失と左室機能の改善を認めました。
術後経過はおおむね順調で、翌朝IABPから離脱し、抜管しました。その後はさすがに通常よりゆっくりとしたペースで、しかし確実に回復され、元気に退院されました。

MDCTにてバイパスグラフトはすべて開存が確認され、虚血性僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失し、左室機能は著明な改善を認めました。

こうした見極め、つまり心筋が回復するかどうか、左室形成術は不要かどうか、などのいわば「戦略」は大切です。適宜、MRIやエコー、術中所見などを総合して決定するようにしています。見極めることで、不要な手術操作を省略し、必要な操作に専念することができるのです。

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事例:典型的なオフポンプバイパス手術

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患者さんは 67歳男性、冠動脈3枝病変左主幹部病変のためオフポンプバイパス手術(オフポンプCABG手術、OPCAB)のため来院されました。

心臓病だけでなく糖尿病もお持ちで、しかも右椎骨動脈閉塞、右外頸動脈狭窄、両側内頸動脈プラークがあり脳梗塞になりやすい懸念があり、オフポンプバイパスのメリットが一層活かせるケースです

Ritalad全身麻酔下に血行動態は安定していました。

                                                      .

頸動脈領域の病変を考慮して通常以上に血圧安定を意識しました。

.

                                                      . 

Ritadiagoグラフトを準備したのち、まず心臓を軽く脱転し右内胸動脈 RITAを左前下降枝 LADに側側吻合しました(写真上左)。

これで以後のオフポンプバイパス操作が大変やりやすくなります。

さらにこのRITAを第一対角枝D1にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真左)。

通常はSカーブを描くなどのレイアウトを取りますが、この患者さんの狭窄部の位置特徴からこのようにしました。

                                                 .

Litaom1_2ドップラーにてそれぞれの吻合で良好なフローパタンを確認しました。

フローパタンが良好ならそのグラフトの開存率は極めて高く、良好な結果となります。

  ここで心臓を右側へ脱転し、左内胸動脈 LITAを第一鈍縁枝OM1に側側吻合しました(写真左)。

心臓を脱転しても血圧は低下せず安心な手術ができます。                     .

Litaom2

さらにこのLITAを第二鈍縁枝OM2にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真下左)。

 

ドップラーにて良好なフローパタンを確認しました。

 

 

                                                       .

通常この部位のグラフトレイアウトもSカーブのITAで側側吻合するのですが、この患者さんの場合は最適吻合部がたまたまOM1でやや遠位部に位置したためスムースな血流を重視してU字グラフトとしました。

                                                          .

Svg  ここで大伏在静脈SVGの上行大動脈への中枢吻合を自動吻合器にて行いました(写真左)。

静脈グラフトよりも動脈グラフトが良いと信じられた時代もありましたが、最近はやり方や部位や状況によっては静脈グラフトは一部の動脈グラフト(たとえばとう骨動脈や胃大網動脈)に匹敵する長期成績がでており、静脈グラフトには血流競合に負けにくい特長もあり、しかも患者さんの体への負担が少ないため、私たちは臨機応変に静脈グラフトを患者さんの役に立つ形で活用しています。

Svg4pd心臓を頭側へ脱転し、このSVGを右冠動脈4PD枝に端側吻合し(写真左)、すべての吻合操作を完了しました。

ドップラーにてこのSVGの良好なフローパタンを確認しました。

オフポンプバイパス手術操作中、血行動態は一貫して安定していました。経食エコーにて良好な心機能と弁機能を確認しました。

術後経過は良好で、出血少なく血行動態良好で、神経学的異常等もなく、翌朝抜管し2週間程で元気に退院されました。MDCTで術後検査を 手術のあと、バイパスはいずれもきれいに開存していました 行い、すべてのバイパスグラフトは開存していました。

こうした心臓(冠動脈)と他臓器(頚動脈など)が同時にやられた状態の患者さんでは複数の病変と同時に向き合う必要があります。心臓が良くならないとその他の臓器の治療が進まないので、私たちがまず先陣を切るようにしています。

もちろん他臓器が断然重症のときにはそちらの治療を心臓の観点から支援し、他臓器が軽快してから心臓の手術ということもありますが。こうした科を超えた、さらには病院や地域を超えたチーム医療も患者さんには福音となり有意義と思います。

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オフポンプバイパス手術について(解説)

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執筆:米田 正始
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事例:超高齢者例 1

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患者さんは91歳女性、高度な大動脈弁狭窄症 AS、冠動脈一枝病変、左室肥大 のため手術となりました。心臓を治し元気になってもっといろんなことをやりたい、前向きに生きたいと希望されたため、91歳のご高齢であっても意義は大きいと考え手術をお引受けしました。

まずオフポンプバイパスで静脈グラフトを冠動脈に縫いつけました手術時の所見でも心臓はかなり張っていました。

左前下降枝LADは慢性閉塞していましたが、心筋保護の目的もありバイパス手術を併せ行うことにしました。

高齢で体格も小さく体力も余裕ないことから体外循環時間を節約するために、

まずオフポンプバイパスで大伏在静脈SVGをLADに吻合しました(写真左)。

大動脈弁は硬くてほとんど開かない状態でした体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で石灰化は弁尖から弁輪まで見られました(写真左)。

弁は硬くてピンセットで押しても引いてもほとんど開きませんでした。弁と石灰を摘除しました。

大動脈弁輪は狭小弁輪で、生体弁の最少サイズ19mmでもぎりぎりの状態でしたので工夫して弁が入りやすいようにしました。

工夫して狭いところに人工弁(生体弁)を無事縫いつけました。体力に余裕がある患者さんでしたら弁輪拡大などを併用するところですが、

この患者さんはそうする余裕もないため丁寧に入れ込みました。

心膜弁(生体弁)を縫着しました(写真左)。狭い大動脈基部に目一杯入った生体弁が見えます。

大動脈基部も狭いため大動脈切開部が裂けないように留意しつつ上行大動脈を2層に閉じました。

Cabg_2上記SVGグラフトの中枢側吻合(写真左)を行ったのち、78分で大動脈遮断を解除しました。

体外循環を容易に離脱しました。カテコラミンも不要でした。

経食エコーにて良好な人工弁状態と左室機能を確認しました。ドップラーにてSVGグラフトの好ましい拡張期フローパタンを確認しました。

術翌朝抜管しましたが、さすがにご高齢のためその後誤嚥(食べ物などを誤ってのどに詰めることです)があり、しばし呼吸管理ののち元気に回復されました。

高齢化社会のなかで心臓病患者さんも高齢化が見られます。大動脈弁狭窄症や冠動脈疾患はじめ多くの心疾患では超高齢者でも手術(弁形成や弁置換、オフポンプバイパス手術など)によって元気になられ、予後だけでなくQOLの改善も目覚ましいため手術適応になることが多くなりました。

とくにこの患者さんのように高度な大動脈弁狭窄症では手術までに突然死されることも稀でなく、きめ細かい注意とともに早目のコンサルトが勧められます。治せる病気で命を落とすのはもったいないと思います。

またあまりご高齢の方に心臓手術などしてもお金の無駄とする考え方があるのも事実です。しかし患者さんがまだまだ有意義に生きておられ、そしてもっと生きたいと希望されれば、あるいはご家族がそれを望んでおられるなら、私は手術の意義があると信じています。

年寄だから見捨てるという社会は身体障害者や低所得層といった社会的弱者を切り捨てる社会につながる恐れがあります。それは許してはならないと思うのです。

世間では医療安全管理ということでこうした患者さんたちがハイリスク例として手術を断られることが増えているようですが、熟練チームなら手術を安全に乗り切れる可能性が高くその後も何年も元気に生きる可能性のある方を断ることが医療安全と言えるかどうか、疑問を感じます。断られた患者さんたちの予後は極めて悪いからです。真の医療安全を皆で考えるときが来ていると思います

メモ1.こうした努力が雑誌・文芸春秋に紹介されました。生きるとは、生きたい気持ちとは何かということを皆で考えることが高齢化社会では大切と思います。メディアのページからご覧ください。

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大動脈弁置換術にもどる

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事例:大動脈炎症候群にベントール手術を

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患者さんは 57歳女性、大動脈炎症候群大動脈基部拡張大動脈弁閉鎖不全症AR、高血圧のため手術となりました。

手術前から大動脈炎に対して長年ステロイド剤を服用してこられました。

内科の先生のご尽力でステロイドは一日7.5mgまで減量されていました。

Photo 

 

手術では上行大動脈のなかほどから基部まで拡張著明でした(写真左)。

ARのため左室も拡張し機能低下していました。

全体に組織はぜい弱で少しの伸展で裂ける傾向が見られました。

大動脈の炎症のための拡張とステロイド剤の影響が考えられました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、離断しました。

Photo_2大動脈弁は3尖でいずれも肥厚と短縮が見られました(写真左)。

大動脈炎症候群では大動脈壁が炎症で壊れ、弁そのものは壊れにくいのですが、

この患者さんでは長期の弁逆流のため二次的に弁も壊れていました。そこで

これらをすべて切除し基部置換(ベントール手術・ベンタール手術)することにしました。

大動脈基部は拡張し、右冠尖バルサルバ洞の冠動脈入口部と弁輪の間に石灰化が見られました(写真左)。

                                                                                                                                    .

Photo_3弁をすべて切除し、さらに大動脈基部を剥離展開しました。

まずバルサルバ洞付きダクロン人工血管30mm径の内側にATS機械弁27mmを縫着したものを作 り、

この人工血管を大動脈弁輪に縫着しました。 

  .

弁輪が大動脈炎症候群で弱っている可能性を考え、大動脈の外からも糸をとおし、二重縫合とし一層の安全を図りました。

2  

 ここで左冠動脈入口部をボタン状にくりぬき、

上記のバルサルバ洞付き人工血管に

直径4mm程度の穴をあけて

縫合しました

(写真左)。

 

Photo_4同様に右冠動脈入口部もボタン状にくりぬき、

上記人工血管に直径5mmの穴をあけて縫合しました

(写真左)。

これによって、

大動脈壁は基部付近には事実上残さない形になり、

かつ冠動脈入口部付近のわずかな大動脈壁も

ほぼ人工血管で守られる形になりました。

Photo_5上行大動脈遠位部に人工血管を縫合し(写真左)、

146分で大動脈遮断を解除しました。

大動脈基部置換手術(ベンタール手術)完成です。

体外循環からの離脱はカテコラミンなしで容易に行えました(写真左)。

経食エコーにて大動脈弁や左室右室の機能良好、および左右冠動脈入口部の良い形態を確認しました。

術後は通常の基部置換よりは慎重に治療し概ね順調で、感染などのステロイド剤の副作用もなく、再開し3週間で元気に退院されました。

あれから3年以上が経ちますが、お元気に暮らしておられます。

大動脈炎の患者さんとくにステロイド服用中の患者さんは手術ができないと言われることがよくあるようですが、心臓外科の専門家の間では必ずしもそうではありません。まずは相談です。

さらに弁尖の破壊が軽ければ、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が可能です。やはり相談がたいせつです。

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事例: IHSS

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患者さんは71歳女性。特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症IHSS, 僧帽弁閉鎖不全症MR, 僧帽弁前尖収縮期前方移動SAM)のため手術を行いました。明らかな心不全症状がでて苦しくなっておられました。

IHSSの治療にはお薬で状態を安定させたり、カテーテルで心筋を焼いたりペースメーカーで左室内圧較差を減らすなどの方法がありますが、それらが十分な成果をださなかったため手術になりました。実際こうしたケースが多くあります。

またIHSSはもともとは先天性心疾患つまり生まれた時からの心臓病とされていますが、最近は成人になってから発生したと思われるケースがみられるようになりました。私の経験では大動脈弁狭窄症などに合併して発生したと考えられるケースが20例近くあります。

ともあれ手術でしっかり治すことになりました。

体外循環のもと、大動脈を遮断し(心臓を安全に止めて)上行大動脈を横切開しました。

Ihss大動脈弁直下の異常心筋の張り出しは顕著で、心停止の状態では左室内がほとんど見えないほどでした。異常心筋がもっとも張り出している部位では繊維性組織が増成していました。

心室中隔の異常心筋を刺激伝導系から十分離れたところで切除しました。最終的に2x4x1cm程度の心筋を切除できました。異常心筋切除のあとは、大動脈弁越しに両乳頭筋の先端から本体の一部までが見え、血液の通路として成り立つだけの空間が確認できました。

写真(上)では肝心の奥の方のピントと露出が合わず申し訳ないのですが、奥の方の白っぽいものが心室中隔上の繊維組織でその左側の欠損部が切除部の一部が見えているものです。写真(下)はその時点での切除心筋の一部です。

左心室の出口をせまくしていた異常心筋はきれいに取れました上行大動脈を閉じて、50分で大動脈遮断を解除しました。79分で体外循環を離脱しました。離脱は容易でした。

経食エコーにて、術前のSAMは消失し、MRも術前の高度からほぼゼロとなりました。

また異常心筋も切除した平面ではほぼ消失し、幅広い血液のルートができていました。左心室内の圧較差は術前約90mmHgでしたが、術後は測定不能なほど、とくに狭窄部が見られない状態になりました。

術後経過は順調で、手術当夜抜管し、2週間で元気に退院されました。

この手術はモロー手術と呼ばれ、メスとハサミで心臓の奥にある、見えにくい異常心筋を切除するため、経験を要する、直観に頼る手術という印象はあります。学会発表などでも十分に切除できずに病気を残しているケースを見ることがあります。

しかし、確実に異常心筋を切除できればほぼ100%の患者さんで左室内の圧較差を解消でき、僧帽弁には手をつけなくても僧帽弁も正常化します。それだけに症状がより改善できますので患者さんに喜ばれ、やりがいがあります。

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事例: 複雑な僧帽弁形成 (マルファン症候群の患者さん)

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患者さんは30代女性で、マルファン症候群が背景にあります。

以前に他院で僧帽弁形成術を受けられいったん改善したものの次第に悪化し、その複雑な弁の形態のためもはや再弁形成術は困難との判断を受け、私の外来を受診されました。

「弁形成がうまく行かず、来週、機械弁をつかった弁置換をと言われたのです。先生なんとかして下さい」と涙ながらに懇願されました。

 

このお若い年齢ですでに一度開心術を受けているという状況では一般には機械弁をもちいた弁置換となる可能性が高いのですが、それはその後の妊娠・出産が事実上不可能になるということを意味します。

機械弁はワーファリン使用が一生必要で、ワーファリンは胎児と母体への危険性が高いからです。

 

Photo_2僧帽弁の形態を詳しく調べますと私たちがこれまで検討し形成成功してきた複雑病変の中でもとくに特徴的な「逆L字型変形」(英語論文221番をご参照下さい)であることがわかり、僧帽弁形成術を請け負いました。

心臓は強く拡張し左胸壁にまでおよんでいました。高度な癒着を剥離しました。

体外循環・大動脈遮断下に左房を開け、僧帽弁にアプローチしました。

 

Photo_6僧帽弁は前尖全体が強く逸脱し、

前回の手術でつけられたゴアテックス人工腱索は

その付け根のところから切れていました。

また後尖の前交連側、

いわゆるP1部も逸脱していました。

 

.

M_2まず前回、他院でつけられた僧帽弁輪形成用のリングを切除しました。

.

リングをはずした跡はかなり組織が弱そうであったため、

これを補強するような形で新たなリング用の糸をかけました。

 

A2_2A_2  二次腱索が短縮し前尖を逆L字型に変形させていたため、

これを切断しました。

左室機能は良好なため私たちが開発した腱索移転 chordal translocationは行いませんでした。

前後乳頭筋のそれぞれに新しいゴアテックス人工腱索を立て、僧帽弁前尖全体を、バランスを考えて均一にかけた合計12本の人工腱索で支えるようにし、僧帽弁形成術を組立てました

(写真上:左はA2に対して、右はA1に対して人工腱索を立てているところ)。

Photo_7ここで僧帽弁輪形成用のリングを縫着しました。

前尖の逸脱は消失しましたが、後尖P1は逸脱傾向がありました。

そこでこのP1部を形成し、最終的に逆流はほぼ止まりました。

写真左は逆流テストで僧帽弁の逆流がないことを示しているところです。僧帽弁形成術の完成です。

.

Photo_8術前発作性心房細動の既往があったことと、左房左室とも拡張著明であったため、

冷凍凝固を多用したメイズ手術を行いました。

写真左は僧帽弁輪周囲部を冷凍凝固しているところです。

最近普及したデバイスでは主に肺静脈と左房を隔離するのが中心で、この弁輪部操作をやらないことが多く、

本家Dr. Coxのデータでも弁輪周囲部まで治療しないと除細動率は劣ることが示されています。

 

術後経過は順調で、出血も少なく、翌朝には抜管し、僧帽弁逆流がほぼ消失したのを確認し、元気に退院されました。

手術前は少し動くと息切れで苦しんだそうですが、手術後は階段を含めて運動しても苦しくなくなりましたと言って頂きました。

左室・左房のサイズも正常化し、BNPも退院時すでに術前の半分以下になりました。

 

僧帽弁形成術の成功によってこの患者さんは妊娠出産が可能となりました。

またワーファリンが不要となるため病院にも毎月通う必要がなくなり、長期的な生活の質(QOL)も向上するでしょう。

もとの病院の主治医の先生にもご報告し、お礼を述べて頂きました。

 

マルファン症候群など、結合組織が弱くなる病気では腱索や弁輪など、しっかりした人工物で安全に置き換えられる部位は置き換えるのが長期的に有利と考えられます。

実際、これまで10年レベルで長期的に高い安定性が示されています。さらなる検討と発展が期待できます。

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事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 2

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患者さんは67歳女性。

完全房室ブロックに対して以前に他院で永久ペースメーカー手術を受けられました。

当初は調子が良かったそうですが、その後、次第にペースメーカー三尖弁閉鎖不全症が発症・悪化し、心不全のため日常生活が制限され、この3か月は肝機能障害も発生し、このままでは肝不全の心配、いのちの心配があるため来院されました。三尖弁形成術はできませんと他病院の心臓外科で言われて、私たちのところへ来られました。

Photo患者さん・ご家族や内科の先生方と相談し、肝臓や全身の状態が保たれている間に手術することに決めました。

体外循環(人工心肺)に乗せ、心臓を拍動した状態のままで右房を切開しました(写真左)。

三尖弁を見ますと心室用のペースメーカーケーブルが三尖弁の一部に強く癒着し、腱索をも巻き込み、そのために三尖弁が動けず閉じることができなくなっていました(写真左下)。

三尖弁形成術といえば弁の付け根のところにリングを縫いつけるTAP三尖弁輪縫縮術が通常は行われるのですが、この患者さんの状況では通常のTAPでは逆流が取れないと判断しました。

Photo_2そこで私たちが開発した新しい三尖弁形成術を使いました。

ペースメーカーと三尖弁や腱索との癒着を丁寧にはがしました。

その上である程度自由に動けるようになったペースメーカーケーブルを弁の交連部に埋め込み、今後ケーブルが弁を圧迫しないようにしました。

その上でリングを用いて、三尖弁輪縫縮形成術を行い(写真斜め下左)、三尖弁の逆流がほぼ消失したことを確認しました。三尖弁形成術の完成です。

Photo_4なおペースメーカーケーブルはリングの外に位置し、今後も弁の動きの邪魔をしないように確 実を期しました。

写真下左では手前にあるケーブルが右心房用のもので三尖弁は通過しません。

右室用のケーブルは弁輪の外側に配置され、三尖弁もしっかり開閉します。これによって三尖弁の長期的な安定が図れます。

右心メイズ手術を冷凍凝固法を用いて行いました。右房を閉じて手術を終えました。

Photo_3術後経過は順調で、出血も少なく、心臓も正常リズムで良好な機能と状態で、術後2週間で元気に退院されました。

心配された肝臓もすでに良くなっています。

ペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全症は新しい三尖弁形成術で治せる病気です。

悩まずにご相談されることをお勧めします。

ペースメーカー友の会のご友人でこうした悩みをお持ちの方をご存じでしたら教えてあげてください。治せる病気で、治療法を知らずに命を落とすのは残念なことですから。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 大人のPDA(動脈管開存症)

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患者さんは54歳男性。若いころから動脈管開存症PDAの診断を受けていましたが、最近運動時の呼吸困難感や動悸を訴えるようになり、手術の決心をされました。

心臓カテーテルや心エコー・ドップラー検査などで多量の血液が大動脈からPDAを通って肺動脈に流れ込み、心臓に大きな負担がかかっていることが判明しました。

Mpapda成人のPDAはこどものPDAと違って、脆く弱くしばしば石灰化などの変化をきたしているためこどものPDAの手術のように外から糸をかけてしばる、という操作は危険です。

そこで体外循環を用いて、肺動脈の内側からアプローチして肺動脈ごしに閉鎖するのが安全です。

手術では体外循環(人工心肺)のもとで体温を26-28℃程度まで下げ、ごく短時間の軽度低灌流のもと、主肺動脈を切開し PDAを肺動脈側から確認しました。

PDAの肺動脈への開口部は直径6mmあり、多量の血液が大動脈から肺動脈へと流れ込む所見でした。

Pda工夫して体外循環の灌流量をほとんど変えずにPDAを直接閉鎖しました。大動脈から肺動脈への漏れがほとんど無いことを確認して肺動脈の切開部を閉じました。

写真左はすでにPDAを閉鎖したところで、ピンセットの先付近にある布きれのようなものが糸をささえるフェルトで、これらでPDAを抑え込む形で閉鎖したわけです。

大動脈遮断時間は22分、体外循環時間は78分で、スムースに手術を終えました。

Pda_2写真左はPDAを閉鎖完了し、主肺動脈も閉じたあとの姿です。手術前に手でも触れたPDA血流ジェットはもう触れません。治った証拠です。

.

出血も少なく心臓や全身の状態も良好なため、手術当日、余裕をもって抜管(人工呼吸を外れて患者さんご自身の力で普通に呼吸する)しました。

動脈管開存症PDAで手術を決心つかないまま心不全や不整脈が出てきて不安な日々を送っておられるかたは是非ご相談ください。

迷ってそのままの状態でいるほうが危険なことが多くあります。最近もそういう患者さんがおられました。

危険かも知れない状態で迷い、悩むよりも、早く診察を受け、きちんと調べて方針を立てることが安全・安心につながります。

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元・京都大学医学部教授
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事例: ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 1

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患者さんは82歳男性。ペースメーカー植込み後、三尖弁閉鎖不全症(逆流)が発生、徐々に悪化し、肝機能も悪化し始めたためハートセンターへ来院されました。

いくつかの病院で三尖弁置換術(長期予後にまだ心配があります)つまり人工弁を入れるしかないと言われ、ペースメーカー友の会やあちこちの病院を探したのちに来院されたのでした。弁形成なら予後が良いからです。

Photo体外循環・心拍動下に右房を切開し三尖弁を観察しました。

三尖弁の後尖と腱索がペースメーカーケーブルに癒着し巻きついて、弁が正しく閉じなくなっていました。(写真左)

そこでペースメーカーケーブルを三尖弁から剥離し自由に動くようにしました。

このとき必要に応じて適宜ゴアテックス人工腱索で腱索を再建します。この患者さんでは人工腱索はきれいに剥がれたため不要でした。

この技術がないため弁置換になるケースが一般には多いと言われています。

Photo_2ケーブルを弁の動きを妨げない場所に格納し、その上で弁輪形成のリングを縫いつけて弁が十分閉じられるようにしました(写真左)。

右心メイズ手術右房縮小手術を行い、手術を完了しました。

術後心エコー・ドップラー検査では三尖弁の逆流は消失し、リズムも長期の心房細動が取れ正常リズムにもどり、心臓の機能は良好になっていました。

また術前心配された肝機能も良く維持され、安全なレベルを維持していました。三尖弁の逆流(閉鎖不全)はほぼ消失し、患者さんは元気になりかつてのような心不全症状も肝臓症状もでなくなりました。ご高齢でしたが年齢を感じさせないほどの回復でした。

三尖弁に対する弁置換術は機械弁・生体弁を問わず、まだまだ長期成績不安定ですので、極力弁形成で対処するのが有利と考えています。

この患者さんのように、上記の技術・方法と僧帽弁複雑形成術の技術ノウハウを併用することで、今後多くのペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さんに恩恵が届けばと思います。

これはICD(植え込み型除細動器)やCRTD(両室ペーシングとICDの両方の機能をもつペースメーカーです)の患者さんも同様です。

ペースメーカーの患者さんで体調が思わしくない方はご相談ください。

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