事例 左室緻密化障害に対する左室形成術 (セーブ手術)

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患者さんは53歳女性。

5年前に完全房室ブロックに対してペースメーカー植え込みを受けられました。

1年前からの心不全が急に悪化して来院されました。

 

来院時、心エコーにて左室拡張末期径LVDd58mm(拡張気味)、左室駆出率27%(通常の半分以下に低下)。

左室に著明な肉柱発達と心筋のひ薄化、心尖部に血栓(36x46mmと10x7mm)あり。


英語論文194番 J Thorac Cardiovasc Surg 2007;134:246-7. をご参照下さい、

この患者さんがこの左室緻密化障害に対する世界初の左室形成術になりました。

 

700.術前CT検査にて左室緻密化障害に特徴的な肉柱形成と薄い左室壁が認められます。

この肉柱の間に血栓ができ、それがもし血流に乗って飛べば脳梗塞やさまざまな塞栓を引き起こします。

さらにこの肉柱は外側の薄い左室壁を守れず、左室壁は次第に拡張し機能を失っていくと考えられます。

そのため手術ではこれらを食い止め、心機能をできるかぎり改善し、血栓や塞栓を予防することを目的とします。

711.体外循環下に左室前壁を切開します。

通常とは違い、

左室緻密化障害に特徴的な肉柱が多数見えます。

肉柱の間にスポンジのような空間がある

のも見ることができます。

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722.左室切開口ごしに血栓をスプーンで摘除します。

血栓形成やそれによる塞栓(脳梗塞など)は

左室緻密化障害の特徴的問題ですので手術では血栓対策をできるだけ行います。

具体的には

血栓ができそうな肉柱部分をパッチでできるだけカバーするようにします。

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733.患者さんの体力消耗がもともとあったため、

時間の節約を期して

心基部形成ののち心尖部にドール手術を試みました。

矢印はパッチを示します。

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744.肉柱の隙間から血液が漏れるため

貫壁性の糸を多数かけて実質上セーブ手術に切り替えました。

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これによって血液の漏れは止まり、安定した形になりました.

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755.左室前壁の切開部を

縫合閉鎖しています。

確実に止血するための工夫をします。写真でフェルト(当て布)が真っ白になっており、止血が万全であることが判ります。

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766.僧帽弁輪形成術(MAP)を行い

左室基部の縮小と形成をかねています。

リングの一部が見えています(矢印)。

左室緻密化障害のもう一つの問題点は心不全ですので、それへの対策をできるだけ行います。

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777.三尖弁輪形成術を施行して心内操作を完了。

リングの一部が見えます。

このあと、卵円口開存PFOの閉鎖と両室ペーシングリードを装着しました。

実質上セーブ手術の術後4年が経過した現在も元気に生活しておられます。

先日(2010年3月)の患者さんとの懇談会にもご参加いただき、お元気なお顔を見せて頂きました。

78_38.術前エコー、左室の収縮末期像。

左室心尖部に2つの血栓が見えます。

白く光った豆のようなところです。

これが外れてどこかへ飛べば大変なことになるところでした。

術前、左室は拡張し動きも悪かったです。

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799.術後エコー、左室の収縮末期像。

左室心尖部にパッチの一部が見えます。

血栓はもうありません。当然ですが。

左室はLVDdは術前58mmが術後43mmへ、

駆出率は術前27%が術後32%へそれぞれ改善しました。

両室ペーシングにより心電図QRS波幅も正常に近づきました。

詳しくは論文194番をご参照下さい。

術後6年近く経ち、現在もお元気にしておられます。

米田正始の患者さんの会にもときどきお顔を出して下さいます。

 

今後、左室緻密化障害の患者さんの長期の生存率や血栓・塞栓とくに脳梗塞などの合併症を減らすためにお役に立つ可能性があり、さらに検討を進めています。

その後また左室緻密化障害の患者さんの手術と治療を経験し、お元気になられました。

しかしその次の患者さんは術前からの肺高血圧症・左室拡張機能障害が次第に進行し、心筋虚血が進行するタイプでのこの病気の難しさ、より早期の治療の重要性を感じています。

今後、啓蒙活動、早期の予防的治療を含めた総合治療を目指したくおもいます。

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 サルコイドーシス心筋症に対するバチスタ手術 (変法)とセーブ手術

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患者さんは62歳女性。8年前から心不全出現し、精査にてサルコイドーシス心筋症(サルコイド心)の診断確定。以後内科治療にもかかわらず徐々に心拡大を来たしました。

来院時、心エコーにてLVDd左室拡張末期径72mm、左室駆出率23%、僧帽弁閉鎖不全症MR中等度、三尖弁閉鎖不全症TR中等度。左室には心室中隔基部・後側壁・前壁に病変あり、サルコイドーシスに特徴的な複雑な病気の状態でした。


61_21.体外循環下に心臓を右側へ脱転し、バチスタ手術 (変法、つまり心尖部温存)の方法で左室側壁を切開。

手前の心尖部は温存されています。

さらに僧帽弁が見えています(矢印)。

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622.バチスタ手術の左室切開口ごしに心室中隔最基部にある病変を

セーブ手術に準じた方法でパッチ(矢印)閉鎖しつつあるところです。

サルコイドーシスでは心臓の複数部位がやられることが少なくありません。心尖部側3分の2を縫合しました。

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633.セーブ手術のパッチの心基部側を

大動脈弁ごしに縫合しています。

大動脈基部再建のデービッド手術の技術を応用して

大動脈弁輪を活用しました。

両室ペーシングするため房室ブロックは問題ありません。

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644.左室の基本構造を守るための腱索転位 translocationの僧帽弁形成術を行っているところです。

僧帽弁形成用のゴアテックス糸を用いて

自然構造と同様に各乳頭筋先端と僧帽弁輪前中央部を結びます。

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655.僧帽弁輪形成MAPを施行しているところです。

リングの一部が見えています

(矢印)。

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666.左室側壁の切開部を縫合閉鎖し、

バチスタ手術 (変法)を仕上げています。

バチスタ手術の完成度も上がり、成功率は90%を超え、

他の左室形成術を併用したケースを除く、

バチスタ手術単独施行例では成功率100%を出しています。

 677.心拍動下に三尖弁輪形成TAPを施行しているところです。

リングの一部が見えています。

術後2年半経過して、患者さんはお元気に生活しておられます。

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688.術前の心エコー短軸像をカラーカイネシスで示しました。

左室の拡張と動きのわるい側壁や心室中隔がわかります。

サルコイドーシスでは心臓の複数の部位が侵されるのがわかります。

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699.術後の心エコー短軸像をカラーカイネシスで示しました。

左室が小さくなり、

動きも改善しています。

左室の大きさは

LVDdで術前72mm、術直後51mm、術後半年で57mmと改善・安定しました。

左室駆出率は術前23%、術直後30%、術後半年で33%と回復がつづいています。

図サルコイドーシス左室形成bこの患者さんの報告はアメリカのトップジャーナルに論文として掲載され、

その表紙を飾るという栄誉を得ました。

右図の右下のシェーマがこの手術事例の方法を示します。

入院中、前向きにがんばって下さった患者さんのお姿を想い出します。

メモ: このようにサルコイド心では左室のさまざまな部位がやられるケースが多々あります。

場合によってはその中でとくに悪い部分を重点的に治したり、この患者さんのように全部なおしたり、ケースバイケースで柔軟に対応することが大切と考えています。

患者さんの心臓だけでなく年齢や体力も考慮します。

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元・京都大学医学部教授
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事例 サルコイド心に対する左室後壁セーブ手術

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患者さんは70歳女性。サルコイドーシスの診断確定から17年後にサルコイドーシス心筋症・心不全のため手術となりました。

サルコイドーシスの初発病巣は肺と眼(ぶどう膜)でした。

左室駆出率27%、僧帽弁閉鎖不全症MR 4度、BNP 912の術前状態でした。かなり強い心不全の状態です。

 

心臓を頭がわへひっくり返し、お腹側から見た写真です1.体外循環下に心臓を頭側へ脱転し、左室後壁を切開しました。

心拍動下に行おうとしましたが、大動脈弁の逆流が強いため方針を変更し、心停止下に行うことにしました。

サルコイド心でやられた左室壁は皮製品のような硬さがあります。.

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522.後壁と後壁中隔を形成するパッチを縫着したところです。(セーブ手術)

パッチの手前のスペース分だけ左室が小さくなります。

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533.左室後壁の切開部を縫合閉鎖したところです。

心臓はまだ半ば脱転された位置にあります

(写真で上が頭側、下がお腹側)。

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544.左房を開け、

僧帽弁輪形成術をリングを用いて行っているところです。

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555.軽度ー中等度の大動脈弁逆流があったため、

大動脈弁形成術を行っているところです。

3つの交連部の形成で大動脈弁尖が中心部へせり出すように形成し、中心逆流は軽減しました。

これでもしもIABP(大動脈バルーンパンプ)が必要な状況になっても十分に活用できます。

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6.術前後の左室造影像。

56

56_2

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左:術前の拡張末期像と収縮末期像、右:術後の拡張末期像と収縮末期像です

セーブ手術術後は左室が細長く縮小し、動きも改善し、さらに僧帽弁閉鎖不全症MRもほぼ消失しました。

カテーテルで肺動脈圧は術前の55/17から術後は17/8まで改善、左室駆出率も術前の27%から術後は34%へと上昇しました。

患者さんはその後、遠隔期に、弁の器質変化が進行しMRを再発したため生体弁で弁置換MVRし、以後また元気に暮らしておられます。

 

サルコイドーシスそのものの丁寧なフォローも重要と考えています。

サルコイド心の左室はしばしば局在性があり、残存心機能が良好なこともあるため、早期の診断と精密検討が患者さんの予後改善に役立ちます。

 

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事例 小児期の拡張型心筋症に対するセーブ手術

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患者さんは1歳半の男児。生後まもなく拡張型心筋症と診断され内科治療を受けていたが、心不全が悪化し移植も検討されるほどになりました。東京の方なので私どもが出張する形で心臓手術となりました。発作を頻繁に起こし危険な状態となっていました。心室中隔がほぼ全域にわたって薄くなり収縮力を落としていました。

41_31.左室前壁に病変がないため、

右室心尖部を開け、

心室中隔に達しました。

心室中隔は薄くペラペラで拡張していため、

これを切除しています。

 

 

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42_22.右室越しに心室中隔(矢印)を

切除し終えたところです。

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43_23.心室中隔と左室自由壁に

セーブ手術( SAVE手術)のパッチの糸をかけています。

小さいこどもの患者さんのため完全房室ブロックにならない範囲でできるだけ心基部まで形成して左室機能の回復を図りました。

(完全ブロックになりますと永久ペースメーカーが必要になるためです)

44_24.パッチが左室内深くに入り、

左室は良い形とサイズになりました。

あとは心室中隔と右室を閉じるだけです。

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術後4年が経過しますが患児は元気にしておられます。

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45_35.術前エコー、収縮末期像。

心室中隔が薄くなり瘤のように飛び出して

右室を圧迫しています(矢印)。

これでは血圧も十分でませんし、

心不全が強くて危険です。

手術前の心不全発作の強さがよくわかる写真です。


 

46_36.セーブ手術・術後エコー、収縮末期像。

パッチ(矢印)を心室中隔の深いところまで縫いつけ、

心室中隔の動きのパタンも改善し、

右室への圧迫も軽減しました。

これなら元気に遊ぶようになったことが理解できます。

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事例 セーブ手術とバチスタ手術 (変法)の併用

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患者さんは54歳男性。10年前に心筋梗塞を発症し、以後虚血性心筋症・心不全の治療を内科にて受けていました。

その後心不全が進行し、ショック状態(つまり血圧が十分出ない状態です)となり IABP(大動脈内バルン)使用下に緊急搬送されました。極めて危険な状態でした。

冠動脈は前下降枝(#6)と回旋枝(#13)が完全閉塞していました。

左室の拡大(LVDd左室拡張末期径69mm)と機能低下(駆出率10%台)、虚血性僧帽弁閉鎖不全症 4度、TR 4度あり。

心室中隔は虚血性心筋症ですが、左室側壁病変は冠動脈走行と合致せず非虚血性変化の合併も考えられました。

 

311.体外循環・心拍動下に左室を調べました。

左室側壁が病変で薄くなり動かなくなっていたため、心尖部温存するバチスタ手術でまず左室側壁を切除・縮小しました。

心尖部(矢印)はきれいに温存されました。

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322.心室中隔の奥深いところから左室前壁までが昔の心筋梗塞でやられていたため、セーブ手術でパッチを用いて修復しています(矢印)。

パッチの奥(裏側)が新しい左室となります。

左室の形をゆがめないセーブ手術だからこそ、バチスタ手術との併用も問題なくできました。

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333.僧帽弁と左室基部を同時に形成するためにリングを僧帽弁輪に縫着(僧帽弁輪形成術MAP)します。

このケースでは柔軟なリングを使いました。

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344.冠動脈バイパスと三尖弁輪形成(TAP)を行って手術完成です。

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この方法をもっと低侵襲化(つまり患者さんの体への負担を軽くする)して、より多くの患者さんとくに全身状態の悪い方を救命すべく検討を続けています。

近々国内外の学会でも発表の予定です。

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355.術前の左室造影。

収縮末期像

(左室が血液を送り出し一番小さくなった瞬間の姿)

です。

左室は丸くなり、

僧帽弁閉鎖不全症MRのため左房が造影されています。

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366.バチスタ手術+セーブ手術、術後の左室造影、収縮末期像です。

左室は小さくかつかなり細長くなり、左室機能は改善しました。

僧帽弁も形・逆流量とも著明に改善しました。

術後5年以上経ってもお元気にしておられます。

強い心不全でも、左室形成術は有効なことが多々あり、あきらめてはいけないという見本のようなケースです。

 

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事例 バチスタ手術 (変法) その2

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患者さんは69歳男性、労作時易疲労感のため来院されました。

冠動脈対角枝#9にPCIの既往あり。

左室駆出率LVEFが14%(正常値は60%台)、左室拡張末期径LVDdが63mm、と心移植患者さん並みの弱った心臓でした。

右冠動脈#1が100%つまり閉塞、回旋枝#13が50%の狭窄。虚血性心筋症の所見とそうでない所見を併せもった患者さんです。

 

21_21.体外循環下に左室を減圧すると病変部(左室側壁)は凹みます。

左側が患者さんの頭側となります。

総合判断でバチスタ手術 (変法)の適応と考えました。

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222.心尖部(写真の下方)を温存し、左室側壁を切開し始めているところです。

切開部はその内側が白く瘢痕化・繊維化しています。

これなら切開そのものの左室への負担はほとんどありません。

安心してしっかりと左室を再建しようというわけです。

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233.左室側壁の病気の部分(矢印)を切除しつつあります。

僧帽弁や乳頭筋を守りつつ進めます。

左室を縮小しても乳頭筋や左室構造をこわすと、デメリットがメリットを上回り、患者さんは元気になれないと考えられます。

自然に逆らわない、神に従う、これも手術の基本ポリシーとして重要と思います。

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244.左室を再建し始めています。

僧帽弁がすぐ近くに見えます(矢印)。

これに傷をつけないようにしながら新しい左室を造ります。

バチスタ手術 (変法)では左室心尖部が十分に温存されているのが見えます。

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255.左室の形や大きさを考えつつ切開部を縫合閉鎖し、再建が進んでいます。

より確実な止血を図るための工夫を加えています。

実際、左室縫合部からの出血に悩まされるというのは極めてまれです。

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266.僧帽弁輪(弁の付け根の部分、矢印)にリングを縫い付けて、弁を守り、かつ左室の機能を向上させるようにしています(文献をご参照下さい)。

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これらの工夫の組み合わせによりバチスタ手術の死亡率はゼロに近づきました。

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277.バチスタ手術(変法)前の左室です。

収縮末期像(左室が収縮して一番小さくなった瞬間の姿)です。

心不全の左室は拡張し丸くなりがちです。

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288.バチスタ手術(変法)後の左室です。同じ収縮末期の瞬間で比較しています。

術前より心臓が自然な細長にもどり心尖部(A)もきれいです。僧帽弁輪(M)もテント化(テザリング tethering)が取れて良くなりました。

心エコーでも左室駆出率は術前14%から術後36%に改善、左室拡張末期径も63mmから47mmまで縮小しました。

これなら毎日の生活はもちろん、仕事や楽しみもかなりの程度までできます。後はその改善なった心臓の力をさまざまな工夫でしっかりと守ることが重要です。それは外来で定期健診しながら生活やお薬によって行います。

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第2回「米田先生を囲む会」開催のご案内

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拝啓 寒気厳しき折ではございますが、皆様におかれましてはお変わりございませんでしょうか。

いつも一方ならぬお力添えにあずかりまして心から感謝申し上げます。

さて、この度、お蔭様で第2回「米田先生を囲む会」を開催させて頂く運びとなりました。今回の講演のテーマは 「心臓を守る努力 続編」ということで米田正始先生にお話頂く予定でございます。冬の日の過ごし方など、皆様が日頃不安に思っておられる事をお気軽にご相談頂ける機会でございますので、寒さ厳しい季節ではございますが、どうぞ万障お繰り合わせのうえ、皆様ご参集頂けましたら幸いでございます。

今年も慌ただしく過ぎようとしておりますが、皆様ご健康で良き新年を迎えられますよう、心よりお祈り申し上げます。

敬 具

 

 

 

日時:平成20年1月19日(土) 午後12時~14時半頃

場所:「美濃吉」四条河原町店

住所:京都市下京区四条河原町東入ル真町68

阪急モザイクダイニング゙8F

電話:075(255)3541(「美濃吉」四条河原町店)

交通:阪急電車「河原町駅」徒歩1分

京阪電車「四条駅」徒歩約5分

会費:お食事代3,500円(当日受付でお願い致します)

連絡先:080-6105-8231(米田先生を囲む会世話人会)

 

※尚、準備の都合上、大変お手数ではございますが、

ご出欠のお返事を返信葉書にて12月31日までにご返送頂けますようお願い申し上げます。

HPからご覧の場合はメールにて nakamura@heart-center.or.jpまでご連絡下さい。


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事例 バチスタ手術 (変法、心尖部温存式 バチスタ手術)

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患者さんは40歳男性、拡張型心筋症のため 5年前から心不全症状あり、他院で入退院を繰り返しておられました。

このような状態で生きるのはいやだと、心臓手術を決心されました。

 

入院時NYHA III度、左室拡張末期径LVDd 87mm、左室駆出率LVEF 9%、左室拡張末期い圧LVEDP 32mmHgと、高度に拡張し、機能低下した左室の状態でした。

海外なら心移植しても不思議ではない心臓です。

 

111.体外循環で心拍動の状態で、

心尖部(矢印)を温存し、左室側壁を切開し始めているところです。

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122.左室側壁の病気の部分をほぼ切除しつつあります。

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心拍動したままです。

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133.僧帽弁の閉鎖不全症を予防するために前尖と後尖をつなぎアルフィエリ形成をします。

現在はこの操作は概ね不要になっています。

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144.左室を再建(縫合閉鎖)しているところです。この間、心拍動した状態を維持して心臓を守りました。

バチスタ手術 (変法)では、新しい左室の形が紡錘形で自然に近く、力のかかり方に無理がありません。

患者さんは術後5年経過し、お元気です。

 

アメリカではバチスタ手術の成績が不安定で、保険が効かなくなり、すたれてしまいました。

私たちはその成績不安定の原因を、これまで多くの施設で左室心尖部を切除したりしなかったり、あまり注意を払ってこなかったことにあると考え、心筋症の動物で研究した結果、心尖部を温存すればバチスタ手術の成績は改善することを示しました。

ヨーロッパなどで賛同する心臓外科医が増えており、その成績のよさから、バチスタ変法(心尖部を温存するバチスタ手術)は今後リバイバルし、多くの患者さんを助けるものと期待しています。

さらに術式や治療の方法を改善すべく努力を続けています。

またこうした左室形成術が患者さんに役立っていることを重症心不全研究会を立ち上げて全国の仲間とともに啓蒙活動しています。


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事例 ベントール手術

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1011.弁の逸脱と破壊、基部の拡張が認められます。

 

弁の破壊が強いときは、それを修復・形成しても長持ちするという根拠が不十分なため、ベントール手術の適応と判断しました。

この患者さんのように弁の破壊が強い場合、50歳代の年齢であれば機械弁ベントール、

65歳以上の患者さんであれば生体弁ベントールまたはステントレス生体弁をもちいたミニルート法(入れ子の形で弁を入れる、インクルージョンとも呼びます)が患者さんにとって長期予後の観点から有利と考えます。

 

10代20代などとくに若い患者さんの場合は

性別、妊娠希望の有無、激しいスポーツや職業の有無などを勘案して、上記や基部再建(デービッド手術、他)などの方法を十分な相談の上、選ぶのが良いと考えます

 

1022.弁付き人工血管を大動脈基部に縫い付け、左冠動脈入口部吻合中です。

自然な形(根本に膨らみをもつ)のバルサルバ人工血管を使用するようにしています。

従来のまっすぐなタイプの人工血管よりもむしろ吻合しやすく、冠動脈口に人工血管のほうから近づくことができる分だけ吻合部が守られやすく良い選択と考えています。

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10313.右冠動脈入口部吻合中。

かつては冠動脈のみ別の小さい人工血管で再建してから大動脈基部の大きな人工血管と連結するキャブロール手術を行ったこともありますが、

冠動脈への血栓が報告されてからこの方法はできる限り使わないようにしています。

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1044.出来上がり。

より自然な形のバルサルバ洞をもつこの人工血管が長期的にどのような利点をもたらすか、

今後が期待されています。


さらに近年はこうした手術が私たちの施設ではミックス法で行えるようになりました。これなら創が見えにくく、夏服などのおしゃれもしやすいため喜ばれています。

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事例 ステントレス弁によるミニルート手術

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患者さんは65歳女性。

大動脈弁閉鎖不全症 III度、大動脈弁輪拡張症AAE、低左心機能(左室駆出率30%(正常は約60%)、冠動脈ステント治療後)、上行大動脈瘤・近位弓部大動脈瘤のため手術となりました。

このままでは瘤が破れて死亡するか、心不全で危険な状態になるからです。

 

ベントール手術(入れ子のように植え込むミニルート法で)、近位弓部大動脈置換(ヘミアーチ置換) ・上行大動脈置換・冠動脈バイパス手術CABGなどを施行しました。

 

9111.上行大動脈を切開し内部を見ているところです。

大動脈基部が高度に拡張しています。

大動脈弁が硬く厚く、自己弁を温存するDavid手術(デービッド手術)はやらないことにしました。

 

人工弁の選択については、65歳という年齢から生体弁が適切と判断しました。

ただし遠い将来、再手術となる可能性はあるため、その時に癒着を減らし安全性を高めるため、同じベントール型手術でも内側に入れるミニルート法を選択しました。

 

92_22.ステントレス弁を大動脈基部に内側から縫い付けているところ。

人工弁の自然な形がわかります。

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Lco_23.左冠動脈入口部吻合中。

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通常のベントール手術よりはやや狭い術野で操作するため相応の工夫をします。

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Rco_24.右冠動脈入口部吻合中。

ステントレス弁が入れ子のように大動脈基部の中に入っているのがわかります

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945.リベット打ちと呼んでいるステントレス弁の補強操作。

これで万一の破裂を防ぎます。

 

 

ステントレス弁を用いたベントール手術、

いわゆるフルルート法の弱点をこのようにして補います。

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Photo6.遠位部の人工血管との吻合。

 

すでに行った近位弓部大動脈置換術の人工血管と大動脈基部のステントレス弁および大動脈基部をまとめて連結・吻合します。

 

癒着防止の観点からは大動脈基部の手術をしない場合と同様に、癒着が起こりにくい状態です。

これは将来のもしもの再手術の場合に、安全確保のために役立ちます。

こうした長期的安全策もまた患者さんを守るために大切と考えます。

 

957.術前の大動脈造影。

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大動脈基部の著明な拡張と

大動脈弁閉鎖不全が見られます。

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.968.術後の大動脈造影。

大動脈基部から弓部大動脈にかけて良い形にもどりました。

大動脈弁(ステントレス弁)もきれいです。

3年半経過しお元気に暮らしておられます。

ワーファリンはもちろん不要で、外来も毎月通う必要がありません。またステントレス生体弁も15年以上は持つ可能性がデータから示唆されており、その間のQOL(生活の質)の高さとあわせて、やさしい治療と考えます。

近年はこの手術も創が小さいミックス法でできるようになりました。若い患者さんや創やおしゃれにこだわりのある前向きな方々にもお役に立てるでしょう。


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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