事例: 腹部大動脈瘤に安全のため通常手術を行ったケース

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腹部大動脈瘤の治療では、ややご高齢で全身の体力もそれほどない患者さんではなるべくステントグラフト(EVAR)が低侵襲ゆえ望ましいものです。

もちろん瘤の形や状態がEVARに適していることが条件です。

もしEVARで無理をして瘤が治らず、そのまま破裂すると、外科手術で腹部大動脈瘤の成績がきわめて良好な今日、大きな悔いを残すことになってしまいます。

そこでEVARに無理があるとき、効果が不十分と思われるときには外科手術を前向きに考えることがあります。

 

術前CT患者さんは76歳女性で

6年前に狭心症に対してカテーテル治療PCIを受けておられます。

またCKD(慢性腎機能障害)があります。

 

以前から指摘されていた腹部大動脈瘤が直径5cmを 術前CT側面超え、

瘤の拡張速度も速いため、治療することになりました。

ただし狭心症が再発していたこと、そして冠動脈の状態がカテーテル治療PCIに不向きなことから、オフポンプバイパス手術を行いました。

3本のバイパスグラフトはすべて開存で、患者さんは元気になられました。

そこで腹部大動脈瘤の治療をということになりました。

できればステントグラフトEVARでと考えていましたが、

両側腸骨動脈の状態が悪く、蛇行と石灰化そして狭窄が見られます。

ステントグラフトを下肢の動脈から届けることができない所見でした。

術後CT側面 術後CT正面そこで開腹し、瘤の部分を人工血管で取り換えました。

術後経過は順調で、人工血管は良い状態で安定し、

患者さんはまもなくお元気に退院されました。

術後1年が経ちましたが経過はおおむね良好で安定しておられます。

開腹手術といえども、創はなるべく小さくして患者さんの苦痛が少なくなるようにしました。

こうした患者さん個々の状態を考えてベストの治療を選ぶことが大切と考えています。

 

メモ: 最近の医療界では、大動脈に限らず、どの治療でも、それが「やれるからやる」というレベルを脱却して「患者さんに良いからやる」というレベルが求められるようになりました。

さらに申し上げれば「患者さんにベストだからやる」と科学的データにもとづいて判断するのが正しいと言えましょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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腹部大動脈瘤の治療ガイドライン

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Ilm19_ca06026-s腹部大動脈瘤はある程度の大きさになると急に破れやすくなる病気です。

いったん破れてしまうと病院にたどり着くまでに死亡したり、到着しても全身状態が悪化して手術の成績は極めて不良です。

その一方、状態が良いうちにゆうゆうと手術すれば死亡率はほぼゼロまで良くなっています。

こうした状況を考えてガイドラインが作られています。手遅れにならぬように、しかしまだ不要な手術や治療を避けられるように。

 

日本循環器学会のガイドライン、非破裂腹部大動脈瘤手術適応から、抜粋要約します

 

図1bクラスI つまり手術を強く勧められるのは

男性で瘤の最大横径>5.5㎝

女性で瘤の最大横径>5㎝

 

クラスIIa つまり手術を勧められるのは

最大横径>5㎝ か瘤の拡張速度>5mm/6か月か

腹痛・腰痛。背部痛などの有症状あるいは

感染性動脈瘤

 

クラスIIb つまり手術はケースバイケース、よく検討してから、は

最大横径4-5cmで

手術危険度が少なく生命予後が見込める患者で、経過観察のできない患者

 

詳しくは日本循環器学会のホームページなどをご参照ください。

およそ5cmを超えれば注意し、専門家と相談することが安全でしょう。

 

メモ: 腹部大動脈瘤が上記のように大きくなり手術が必要な場合にも、現在は従来型の手術と、お腹を切らずに行えるステントグラフト(略称EVAR)があります。

さらに、手術の場合でも皮膚を小さく切り、苦痛が少なくてすむ方法が使えます。

そこで創よりもいのちを優先することが患者さんにとって、やりやすくなりました。

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事例:胸部大動脈瘤へのハイブリッドのステントグラフト

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胸部大動脈瘤の中には単純な一か所の瘤から、複数のあるいは広範囲の瘤もあり、その患者さんに応じたベストな治療法、手術法が大切です。

心臓血管手術のなかでもやや大きめのものになりますので、十分な考察と戦略が求められます。

近年のステントグラフト(略称EVAR、胸部の場合はTEVAR)はこうした治療にも役立つことが多くあります。

ステントグラフト単独で、あるいは心臓血管手術と併用(いわゆるハイブリッド治療)で、あるいは手術単独で、などの中からその患者さんにとってベストのものを選ぶ時代になりました。

 

患者さんは79歳男性で、高血圧症をはじめ、さまざまな生活習慣病をお持ちでした。

術前CT弓部大動脈瘤と下行大動脈瘤のため手術が必要という判断になりましたが、近くの病院の小さいチームでは不安と私の外来へ来られました。

たしかに弓部大動脈瘤が大きくなり、瘤が二段になって危険な所見でしたし、下行大動脈瘤も長くは無視できない状態でした。さらに腹部にも小さい大動脈瘤がありました。

かつてはこうした瘤は、患者さんの年齢や体力などを考慮して、必要なら一気に全部を人工血管で置き換えるなどして治したものですが、患者さんの体への負担は少なくありません。

とくに79歳の比較的ご高齢の患者さんではその負担は無視できません。

そこでまず弓部大動脈全置換術を前からのアプローチで行いました。

術後CTこれはすでに確立した安全な方法、選択的脳灌流という方法をもちいて、脳を守っている間に下行大動脈に人工血管をつなぎ、全身の血流再開ののち、上行大動脈を人工血管でつなぎ、最後に弓部大動脈3分枝を上記の人工血管と連結すれば完成です。

これによって25℃程度の中等度の低体温で手術ができ、止血にもあまり時間がかからず、体への負担も小さくすみました。

もう少し体温を上げれば、さらにスピードアップが図れるのですが、選択的脳灌流の最中の脊髄保護を確実にするために、私たちはあまり温度を上げ過ぎないようにしています。

そのおかげか、手術で脊髄などがやられたことはありません。

術後経過は順調で、術後2週間を待たずに元気に退院されました。

EVAR後術後3か月経って安定したところで、こんどはステントグラフトで下行大動脈から2つめの瘤、さらに上記の手術でつけた人工血管までをすべて内張りをつけるように治しました。

こうすることで創を一か所にとどめ、出血や苦痛もより少ない状態で手術が完成しました。

手術からまる2年がたち、お元気に暮らしておられます。

腹部にも大動脈瘤ができており、現在直径44mmのため経過観察しています。

将来必要が生じればそれもなるべくステントグラフトEVARで治したく思っています。

 

高齢化社会を迎えて、広範囲の胸部大動脈瘤も増える傾向にあります。

ステントグラフトのうまい活用で、こうした患者さんの心臓血管手術成功率を上げ、さらに体の負担を減らすことでより早い社会復帰を促すように工夫しています。

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胸部大動脈瘤の治療ガイドライン

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胸部大動脈瘤はその部位によって心臓や脳、脊髄、腹部内蔵、などの重要臓器と関連するため、心臓血管手術の中でも昔から大きな手術として扱われて来ました。

近年は専門チームでの手術成績が格段に良くなり、病気の性質上、破れてしまうと手遅れになることが多いためもあって、やや早めに手術する方向にあります。

それだけに確実に、安全に治す必要があるとともに、今後破れる恐れの高い状態をより正確に把握し判断する努力も大切です。

日本循環器学会の胸部大動脈瘤における治療の適応ガイドラインはこうした意味でもお役に立つでしょう。以下、ガイドラインからの抜粋、要約です。

 

クラスI つまり強くお勧めできる治療法は

最大短径6cm以上に対する心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療法は

最大短径5-6cmで、痛みのある胸部・胸腹部大動脈瘤に対する心臓血管手術

最大短径5cm未満、症状なし、COPDなし、マルファン症候群を除く、の胸部あるいは胸腹部大動脈瘤に対する内科治療つまり点滴やお薬による治療

 

このように基本的に最大短径6cm以上か、それ以下でも症状があるときに手術となるわけです。

Ao Sac aneu
なおこのガイドラインには、マルファン症候群やのう状瘤を除く、と明記されています。

写真右は嚢状瘤の一例です。

マルファン症候群やのう状瘤つまりポコッと局所的に膨らむ瘤では6cmより小さい瘤でも破裂することが知られています。

そこでもう少し小さい段階でも心臓血管手術を行うことがあるわけです。

実際、直径5cmあまりの上行大動脈瘤をもつマルファン症候群の患者さんを定期健診していたところ、ある日突然A型解離を発生され、緊急手術でお助けした経験が昔、10年以上前にありました。

直径5cm程度でも解離が起こる恐れがあるため、もし強い胸痛発作がおこればすぐ病院へ来て下さいと平素から打ち合わせをしていたのが役立ちました。

その場合、当時の大学病院では緊急対応しづらいことも考え、近くの民間施設においでと伝えておいたのが功を奏し、ただちにその病院で合流し、緊急手術、軽快退院されました。

やはり備えあれば憂いなしですね。

 

またステントグラフト(EVAR)をもちいた治療も進化を続けています。

胸部大動脈瘤のなかでも下行大動脈瘤ではEVARは活躍の方向にあり、それ以外の弓部大動脈瘤などでもこれまでの手術が危険すぎるときなどに、弓部血管バイパス術と併用してEVARを行うこともあります。

今後が期待される領域でしょう。

 

これからもガイドラインをきちんと守って早め早めに対策を立てるのが良いでしょう。

 

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事例: 慢性大動脈解離への自己弁温存式大動脈基部再建手術(デービッド手術)

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慢性大動脈解離つまり大動脈解離のあと、手術を受けても月日が経って、手術以外の部位が膨らんで瘤(大動脈瘤)になることがあります。

いくつかのパタンがありますが、いずれにせよ、瘤が破れれば死亡しますし、そうでなくとも、場所によっては大動脈弁が瘤の影響を受けて弁膜症さえ合併することがあります。

つぎの心臓手術の事例はそうした慢性大動脈解離のケースです。

胸部XP
患者さんは51歳男性で、8年前、急性大動脈解離のため、近くの病院で上行大動脈置換術を受けられました。

それからはお元気に生活しておられましたが、徐々に大動脈基部つまり大動脈の一番根本の部分が拡張し瘤になったためハートセンターの米田外来へ来院されました。

胸部X線写真(右写真)ではかつての解離の跡かたで弓部大動脈大動脈がやや突出して見えましたが他には異常所見ありませんでした。

PreopCT2造影CT(左写真)にて以前手術を受けられた部位つまり上行大動脈は人工血管で安定していましたが、その根本の、大動脈基部とくにバルサルバ洞と呼ばれるふくらみ部分が直径60mmと異常に拡大し、破れそうになっていました。

さらにその基部の拡張のため、そこに付いている大動脈弁が閉じられなくなり、大動脈遮閉鎖不全症つまり逆流が発生し始めていました。

そこでガイドラインに沿って、瘤の破裂や弁膜症を防ぐため手術をすることになりました。

手術では以前の手術で人工血管が使われているため、その人工血管と周囲の組織との癒着が強く、そのままでは心臓や大動脈の中に入れないため、丁寧に剥離を進めました。あとで出血しやすい状況のため、入念に止血しながら進めました。

AvalveOKそして体外循環という、一種の人工心臓を回して安全確保ののち、心臓を止めて、大動脈と心臓の中に入りました。

まだ51歳とお若いご年齢のため、人工弁をもちいるベントール手術ではなく、患者さんご自身の大動脈弁を温存・修復してきれいな形にまとめつつ、大動脈を人工血管でとりかえるデービッド手術を行いました(写真右)。

米田の恩師・デービッド先生に直伝して戴いた方法にその後の磨きをかけた方法で手術を進めました。

PostOpCT無事、人工血管の中に患者さんの大動脈弁が入り、逆流なくきれいに開閉し、かつ左右冠動脈の根本部分も人工血管につないで修復は完成しました。

術後のCTでは大動脈基部はきれいに安定し、もはや破れる心配は消えました。大動脈弁の逆流も解消し、心機能も良好でした(写真左)。

手術後10日でお元気に退院されました。

術後まる2年が経ちましたがお元気に定期健診のため外来へ来られます。

この手術のおかげで、ワーファリンは無しで、かつ長期間の安定が期待でき、再手術の見込みはかなり低いと考えられます。

つまり機械弁をもちいたベントール手術では大動脈基部の安定は図れても、ワーファリンが一生必要ですし、生体弁をもちいたベントール手術では基部の安定やワーファリン無しはできても、10年あまり後に再手術が必要となります。

やはり親からもらった自然の弁を活かしつつ、大動脈のみ人工血管に代える手術が望ましいわけです。

今は外来に定期健診にてお元気な顔を拝見するのが楽しみなこのごろです。

 

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慢性大動脈解離の治療ガイドライン

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大動脈解離つまり大動脈の壁が内外に裂けて血液がその隙間に流れ込む病気では、タイプによって緊急手術しなければまもなく死亡することが多くあります。

いわゆる急性大動脈解離のA型と呼ばれる、主に上行大動脈が解離で壊れるときですね。

その一 Aortic Dissect方、B型といわれる、下行大動脈が解離する病気では通常手術ではなく、点滴やお薬で治します。

 

しかしいずれの場合でも、その後時間が経って、解離した大動脈や手術した以外の部位 の大動脈が膨らんできて破れそうになれば、つまり慢性大動脈解離の状態になれば手術が必要がことがあります。

 

以下はその慢性の大動脈解離の患者さんのための治療ガイドライン(抜粋・要約)です。

 

◆大動脈解離における亜急性期および慢性期治療の適応

 

クラスI つまりつよくお勧めできる場合は

 

大動脈の破裂、大動脈径の急速な拡大(6か月間で5mmを超える)にたいする心臓血管手術

大動脈径の拡大(60mm以上)をもつ大動脈解離例に対する心臓血管手術

そのいっぽう、大動脈の最大径50mm未満で合併症や急速な拡大のない大動脈解離には内科治療(つまり点滴やお薬など)が強く勧められます

 

クラスIIa つまりお勧めできるのは

 

お薬によりコントロールできない高血圧をもつ偽腔開存型大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径55-60mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径50mm以上のマルファン症候群に合併した大動脈解離に対する心臓血管手術

 

クラスIIb つまりお勧めできるかどうかは微妙、ケースバイケースなのは

大動脈最大径50-55mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

 

詳細は日本循環器学会のホームページなどのガイドラインの項をご参照ください

 

定期検診(健診)は大切ですなおステントグラフト(略称EVAR)は複雑に偽腔(解離腔)が入り込む慢性解離には使えないことが多いです。また大動脈基部などにも使えません。将来の展開は期待されますが。

 

ともあれ大動脈解離は急性期を無事乗り切ってお元気になられたあとも、定期健診を受けて、安全を確保することが安全上必要な病気です。

ゆめゆめ油断されることのないように、お願いします。

 

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急性大動脈解離の治療ガイドライン

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急性大動脈解離、つまり大動脈の壁が急に内外に裂ける病気はタイプによっては急速に死に至る大変な病気です。

しかし現代の心臓血管外科・循環器内科・救急救命科の水準は高くなり、熟練したチームなら急性大動脈解離の大半を救命できるようになりました。

 

そこでもガイドラインが活躍しています。

日本循環器学会のガイドラインは、大動脈疾患のエキスパートが多数集まって、十分な検討のうえで作成された指針です。

これを踏まえることで、個々の患者さんやその病院の特徴を加味して正しい治療法が選択しやすくなっています。

 

◆スタンフォードA型急性大動脈解離の治療ガイドライン(抜粋要約)

SUtypeAdissectクラスI つまり強くお勧めできる治療は

偽腔が開存しているときの緊急の心臓血管手術

偽腔の破裂、再解離、心タンポナーデ、脳循環障害、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、腸管虚血、四肢血栓塞栓症などがあるときの心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療は

血圧コントロール、疼痛に対する薬物治療に抵抗性のときの心臓血管手術

 

◆スタンフォードB型急性大動脈解離の治療ガイドライン(抜粋要約)

SUtypeBdissectクラスI つまり強くお勧めできる治療は

合併症のない偽腔開存型および偽腔閉塞B型解離に対する内科治療

偽腔の破裂、再解離、心タンポナーデ、脳循環障害、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、腸管虚血、四肢血栓塞栓症などの場合の心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療は

血圧コントロール、疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する心臓血管手術

血圧コントロールに対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する内科治療

 

詳細はガイドラインをご参照ください。日本循環器学会HPなどで見ることができます。

 

急性大動脈解離のA型は最初の2日間に半分の患者さんが亡くなる恐ろしい病気で心臓血管手術が緊急で必要ですし、B型も通常は内科治療つまり点滴やお薬で行けますが、心臓血管手術が必要となることがあるわけです。

Ilm22_ba01054-sなおステントグラフト(略称EVAR)は前もって人工血管をデザインし作成する必要から、現時点では緊急手術が多い急性大動脈解離には使えないことが多いです。

 

ともあれ、大動脈解離と言われれば至急、経験豊かなエキスパートに相談するのが理想的でしょう。

 

メモ: かつて急性大動脈解離の患者さんが、やや時間が経ってから病院へ来られ、緊急手術の準備中に死亡されたことがあります。

あと1時間早く来て下されば救命できたのに、という悔いが残っています。

こうしたことが起こらないように、強烈な胸痛や背部痛が突然起こればすぐ病院へ行きましょう。

 

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腹部大動脈瘤―切るべきか待つべきか。EVARの時代に

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腹部大動脈瘤の治療のなかで、外科手術またはEVAR(ステントグラフト)か、あるいは待つのが良いかを迷う方がおられます。

図1b大切なことはその患者さんの腹部大動脈瘤が破れるかどうか、です。いったん破れてしまえば治療は間に合わず死亡することが多いからです。

.

瘤が小さい患者さんつまり直径 4.5 cm未満では手術のリスクより瘤破裂のリスクが小さいのですが、そうした患者さんでも瘤が大きくなる危険性があることは忘れてはなりません。

そこで瘤のサイズや形に応じたきめ細かい対応がいのちを救うともいえるでしょう。

 .

無症状の小さい瘤、つまり直径3cmから4.5cm未満では判断が微妙です。

.

1.小さい腹部大動脈瘤の患者さんは、それが破れるまでに関連した病気で死亡することが少なくありません

2.直径4-5cmの瘤では、5年以内に手術またはEVAR(ステントグラフト)が必要となる確率は60-65%で、8年では70-75%にもなります

3.手術(またはEVAR)のメリットと手術の死亡リスクとどちらが大きいか、よく検討することが勧められます。

4.無作為割り付けによる臨床研究の結果(アメリカ):無症状の中サイズの腹部大動脈瘤(直径4.0-5.5cm、日本人サイズなら3.5-5.0cm相当でしょう)で、手術してもしなくても5-8年の死亡率は差がありませんでした。

.

Ilm2007_01_0330-sイギリスの小型瘤研究では、直径4.0ー5.5cmの腹部大動脈瘤をもつ1090名の患者さんで、8年間のフォローでは、当初は手術群のほうが死亡率が高いのですが、3年で並び、8年では手術群のほうが低死亡率(4.3%対4.8%)となります。

フォロー中、瘤は年間0.33cmずつ大きくなり、破裂の確率は当初は毎年1.6%、のち毎年3.2%に上がりました。女性のほうが破裂する恐れが男性の4倍もありました。

 .

Ilm2007_01_0603-sこうした大規模臨床研究にもとづいて、2005年にアメリカ循環器学会ACCとアメリカ心臓学会AHAが出した腹部大動脈瘤のガイドラインはつぎのようです。

.

■ 直径4.0-5.4cm(日本人サイズなら3.5-4.9cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では6-12か月ごとにエコーかCTでフォローすべき

■ 直径3.0-4.0cm(日本人サイズなら2.5-3.5cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では2-3年ごとにエコーでフォローすべき

■ そして直径5.5cm以上(日本人サイズなら5cm以上に相当でしょう)では外科手術(あるいはEVAR)が勧められています。

■ これらのガイドラインは平均的アメリカ人男性の場合であり、日本人とくに女性ではそれより一回りあるいは二回り小さい瘤でも注意が必要です。

.

なお一般的に正常の大動脈または動脈の直径の2倍を超えるか、6か月で直径が0.5cm以上大きくなれば手術(あるいはEVAR)すべきとも言われています。

 .

メモ: 一般に、症状が強い病気の場合は患者さんも油断なく病院へ来られることが多いため、ある意味むしろ安全なのですが、症状が弱いあるいは無い病気の場合はどうしても油断が生じてしまいます。

腹部大動脈瘤もそのひとつです。

しかしこれまでのデータつまり教訓の蓄積を活かさない手はありません。

どうか油断なきようにお願いします。

.

 

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お便り52: 死亡率50%と言われた心臓手術を無事乗り切った透析患者さん

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慢性腎不全・透析の患者さんでは狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患大動脈疾患・動脈疾患だけでなく、弁膜症も起こりやすいことが知られています。

腎臓が壊れると血管・大動脈や弁も壊れやすくなります。大切にしてください動脈硬化が進みやすく、弁もまた同様に硬化し壊れてしまうのです。これは血液透析でも腹膜透析でも同じです。

 

そうした患者さんでは弁を中心として心臓手術に際してもきめ細かい配慮や治療が必要です。

 

たとえば弁がカチカチに石灰化し、石のようになっているときには

その石灰をきれいに摘除してから人工弁を植え込む必要があります。

でないとあとで石灰が圧力で溶けると弁の縫い代が緩んで逆流することがあるからです。

 

さらに僧帽弁では弁の付け根である弁輪などにも石灰化が起こる、

いわゆるMAC(マック)と呼ばれる状態になると手術にも熟練の技術が必要となります。

 

そして次の患者さんのように、上行大動脈を含めた大動脈が、動脈硬化でカチカチに石灰化すると、普通の方法では心臓手術は危険になります。

弁の心臓手術では必ず上行大動脈を一時遮断する必要がありますが、

石灰が割れて飛び散ると脳梗塞などの重大な合併症がおこります。

それに対する対策をもって心臓手術に臨んでこそ、患者さんを救命できるのです。

 

Ilm23_dh01001-s次の患者さんは静岡県在住の71歳の男性で長年腹膜透析を続けておられましたが、

大動脈弁狭窄症僧帽弁閉鎖不全症が発生し、危険な状態に近づきました。

近くの病院では心臓手術となれば危険率つまり死亡率が50%と言われるほどの重症でした。

 

そこで思い余ったご家族が米田正始までメールを送ってこられたのがお付き合いの始まりでした。

 

さまざまな対策を立てて、大動脈弁を機械弁で置換し、僧帽弁を形成しました。

心機能が低下していたため私たちが開発した方法 (両弁尖形成法、Bileaflet Optimizationと呼びます)を用いました。

時間の節約や患者さんの体力温存にも役立ちました。

さらに天皇陛下の心臓手術と一部同様の左心耳閉鎖で血栓や脳梗塞が起こりにくいようにしました。

 

術後経過は順調で、元気になられました。

下記の2つ目のメールがその感謝メールです。

 

どんな時でもネバーギブアップです。そのために情報を集め、どしどし質問し、相談し、一緒に考える、これが大切です。

私たちもぜひお役に立ちたいと平素から願っています。

 

**********最初にいただいたメールです**********

こんにちは。

71歳になる父の事についてご相談させてください。

静岡県**市に住んでおります。

父は幼い頃から腎臓が悪く、3年程前に手術をして腹膜透析を今現在もしておりま
す。

昨年末にカテーテルの検査をして、心臓の弁の動きが悪くこのままでは心臓がもたな
いので、

心臓血管外科のある病院で弁の交換の手術をしてもらうように進められました。

その後、そちらの病院でCTなどもろもろの検査をしていただきました。

検査結果が出るのに数日あいていたのですが、その間に胸が苦しく、呼吸がしにくい
と言い出し、急きょ外来で診ていただいたところ、

心不全をおこしておりそのまま入院しました。

検査の結果は、大動脈弁、僧帽弁などの動きが悪いだけでなく、

透析の関係で血管の石灰化がとても強いと言われました。

弁の手術をするにしても、血管の石灰化により血管の破裂、はがれた物が脳などに詰
まる可能性などのリスクがあると言われました。

5分5分ぐらいを考えていてほしいと...

また、セカンドオピニオンを受けて納得してからでもいいので、よく考えて決めて欲
しいとの事でした。

ただ、このままほっておいてもまたいつ心不全をおこすかわからないし、

そうなった時今以上に治りが遅くなること、

その繰り返しが続くと治らなくなること、

また石灰化が進行していくので今が最後のチャンスではないかと言われました。

その場ではすぐに返事はせず、家族でよく話しをしました。

 その病院はベット数100に満たない割合と小さな病院です。

先生はわかりやすく検査の結果や手術についてお話してくださいますし、スタッフの
みなさんもとても親切で感じの良い病院です。

しかし、心臓の手術ということと、普通よりリスクの大きいことなどを考えるともう
少し設備の整っている病院のほうが良いのではないか?

と、家族は考えてしまいます。

しかし、別の病院に行って検査をして手術に至るまで父の体力がもつかも不安の材料
です。

今は、心不全も改善され体調も安定しています。

どんな手術でもリスクがあることはわかっていますが、家族として最善の方法を考え
てあげたくインターネットを見ていたところ、

先生のホームページを拝見しメールをさせて頂きました。

お忙しいところ大変申し訳ありませんが、アドバイスいただきたく思います。

宜しくお願いいたします。

 

*******心臓手術後にいただいたメールです******

こんにちは。

14日に父の手術をしていただきました**です。

無事手術も終わり、先生方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

地元の病院で、成功率50%と言われ一人娘としてどうにかして父を助けたいとの一心
で、たまたま目にした先生のホームページにメールをさせていただきました。

先生のホームページを見てもとてもお忙しいのはわかりましたので、まさか1時間も
しないうちに先生ご自身からわざわざお電話頂くとは夢にも思っていませんでしたの
で、本当にびっくりいたしました。

その時、先生とお話させていただき、父を名古屋まで連れて行こうと決心しました。

手術前の説明も、専門知識のない私達にもとてもわかりやすく、不安な事は何でも質
問するようにとおっしゃって頂きました。

先生のお言葉で、父本人も私たち家族も何の不安もなく手術に向かうことができたと
思います。

北村先生、深谷先生、小山先生も病室に何度も来てくだって父の不安を和らげて下さ
いました。 

手術前も先生方が全員で父のところに来てくださり「スタッフ全員でがんばります。」という、名古屋ハートセンター、米田先生のチームという感じを受け、とても心強かったです。

また、看護士、受付の皆さんもとても親切で、手術後の父のケアはもちろんのこと、
付き添っている母に対してもとても優しくしていただいたそうです。

(術後、父がわがままを言ったようです。母も手術無事に終わり、慣れない土地での
生活に張り詰めた気持ちが少しゆるんだようで、泣いていたようです。)

本当にありがとうございました。

とりあえず、母は昨日いったん自宅に戻りました。

父にはリハビリを頑張ってもらいたいと思います。

わがままを言って看護士さんを困らせなければ良いのですが....

私も時間のとれる限り父の様子を見にそちらへ伺うつもりでおりますが、宜しくお願
いいたします。

また、先生のほうからお話があるようでしたらいつでも伺いますのでご連絡くださ
い。

本当に米田先生にめぐり会えた事に感謝しています。

私が病院にいた間だけでも、毎日たくさんの救急車が来て、手術をなさっているようで
すので、先生もお体にお気をつけください。

本当に、本当にありがとうございました。

 

****

 

********追伸です**********

おはようございます。
お忙しい中返信ありがとうございます。

昨日の午後、父の体調も安定しシャワーも浴びることが出来ましたので、自宅の静岡
に戻ってまいりました。

今朝も父と電話で話をしましたが、声にもはりが出てきましたし食欲も出てきたよう
です。

腹膜透析も順調に行えているようでホッとしております。

 
先生方をはじめ、スタッフの皆さん方には感謝でいっぱいです。
ありがとうございます。

ところで、ホームページへの私どもの掲載の件ですが、喜んでお受けいたします。

私が米田先生や名古屋ハートセンターを知るきっかけになったのもインターネットの
お陰です。

どこかで心臓手術で悩んでいらっしゃる方が父のような場合でも無事手術を終え、回復にむかっていることが決断のきっかけになればと思います。

 
腹膜透析ということで、先生方やスタッフの皆さんにも普通の患者さん以上に神経を
使わせてしまった分、その事が何かのお役にたつのであれば嬉しいです。

それでしたらもう少し上手にコメントを書ければ良かったのですが(笑)・・・

先生にお任せいたしますので、お役にたつようにお使いください。

 
このまま順調に行けば、来週にでも数泊で母が名古屋に行く予定でおります。

まだまだ、ご迷惑をおかけいたしますがどうぞ宜しくお願いいたします。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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天皇陛下の冠動脈バイパス手術成功を慶ぶ

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2012年2月18日土曜日、天皇陛下の冠動脈バイパス手術が成功しました。

朝日ドットコムの速報は次のように伝えています。

***********************

天皇陛下の手術無事終了 集中治療室に移る

狭心症の治療のため東京大病院(東京都文京区)に入院中の天皇陛下は、18日午前9時半ごろから心臓の冠動脈バイパス手術を受けられ、手術は午後3時半ごろまでに無事終了。午後3時55分に手術室から集中治療室(ICU)に移られた。

***********************

車から挨拶される天皇陛下天皇陛下が狭心症を冠動脈バイパス手術によって克服され、ますますお元気に活躍されることをお慶び申し上げます。

執刀にあたられた畏友・天野篤先生(順天堂大学)や小野稔先生(東京大学)、それを循環器内科の立場からサポートされた永井良三先生(東京大学)、麻酔科の先生方、コメディカルの方々はじめ関係の皆様に敬意を表したく思います。

とくに大変な重圧のなかをゆるぎない信念と技術で心臓手術を完遂された天野先生を誇りに思う次第です。

私見ですが、この先生たちが助けられたのは、天皇陛下だけではないと思います。

虚血性心疾患の治療にいのちをかけて来られた多くの循環器内科医や心臓外科医、さらに冠動脈バイパス手術が適応となる無数の患者さんたちも含まれるのです。

それは狭心症の中には冠動脈が複雑に壊れていて、カテーテル治療よりも冠動脈バイパス手術のほうが長生きできることがすでに示されている患者さんが少なくないからです。

しかしそうした患者さんたちも、皮膚を切らずにできるカテーテル治療を選ばれることが日本では多く、必ずしも安全な治療選択がなされているとは限らない現状があるのです。それでもそれらの患者さんがお元気なうちはまだ良いのですが、死亡する方が長期的に発生するのは残念なことです。

天皇陛下が医学的にベストの治療を選ばれた勇気と決断、それを支援された医療チームの皆さんに私が敬意を表するのはそれもあるからです。

今回の冠動脈バイパス手術の成功は、かつて天覧試合でサヨナラホームランを放ってプロ野球を国民的なものとした長嶋茂雄さんの貢献に匹敵するものと個人的には思っています。

すでに冠動脈バイパス手術を受けられた患者さんたちも、今回の手術を慶んでおられます。自分たちの決断は間違っていなかったと。

多くの患者さんたちとともに、今回の手術成功を慶び、関係の皆様に感謝するものであります。

平成24年2月18日

米田正始 拝

 

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