米田正始の心臓手術① 心尖部を温存するバチスタ手術

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術式名: 拡張型心筋症にたいする心尖温存式バチスタ手術。

臨床に用いた時期 2001年―現在

実施した施設 京大病院、名古屋ハートセンター


考案の目的と概略

拡張型心筋症DCMに対するPLV(左室部分切除術、いわゆるバチスタ手術)において心尖部を温存すると心尖部を切除する場合より術後左室機能が良好であることが実験研究で判明した。

心不全の動物モデルをもちいて、急性実験でも慢性実験でも優れた結果を出した。そこで、

このコンセプトを臨床でも応用し、安定・良好な成績を得た。

心尖部を残すとなぜ術後左室機能が改善するかの詳細なメカニズムはまだ未解明である。

しかし心尖部が左室機能の中で moderator調節器として役立っていることは生理学では知られており、

またTorrent-Guasp先生の解剖学的研究・心筋ベルト構造 muscle-band theoryでも心尖部が心筋ベルトの連続性を保つうえで欠かせないことが示されている。

メカニズムの科学的解明は今後の研究に待ちたい。

現在までこの方法を高度に拡張したDCM患者で左室側壁に病変があるケースなどに活用している。


内容の説明

DCM大型動物で従来の心尖部を切除するPLVよりも心尖部を温存するPLVは術後心機能が優れていた。

これを根拠として臨床でも活用し、PLVの病院死例は減少した(下記シリーズで13例中1例のみ死亡(重症・高齢の複合左室形成術例であった))。

Batista1

 心尖部を温存する左室形成術では、術後の左室機能は有意に改善した

 

 
  Batista2心尖部を温存しないタイプの、つまり従来型の左室形成術では、術後左心機能は新術式の場合ほど改善しなかった。

 

 

 

Batista3心尖部温存式左室形成術(上記PLVとSAVE型手術)の長期成績は 安定している。

年月が経っても生存率があまり低下しない。

 

 

術中写真(術式の解説)

Batista4
心尖部(手前)を温存しつつ左室側壁の病変部を切除する。

写真の左側が頭側、右側が腹側である。

すでに左室側壁の薄い部分が開いている。

 

 

Batista5切除進行中。乳頭筋を傷つけないように注意して進める。

また左冠動脈回旋枝に影響を与えないように、あまり心基部には切りすぎないように注意している。

 

 

 

Batista6 僧帽弁の逆流を予防するために適宜アルフィエリや乳頭筋接合などを行う

 

サルコイドーシス心筋症などでも活用(複数の左室形成術)できることを報告した。

 

Batista7 左室壁は全層をしっかりと縫合しつつ左室閉鎖する。

 

 

 

 

 

Batista8

左室形成術の完了。

重症例では肝機能不全などを合併していることも多く、出血傾向が懸念される場合はテフロンフェルトストリップを3枚使用し、徹底止血を心掛ける。

 

 

 

Batista9

この心臓手術法は権威あるJTCVS誌の表紙を飾ったこともあり、協力・貢献して下さった多くの方々に厚く感謝申し上げます。

アメリカでは保険適応の障壁のため、この心臓手術は現在下火になっているが、

ヨーロッパや日本などを含めた世界各国で、静かに、着実に患者さんを救命していることを誇らしく思っています。

 

発表文献(臨床第一報)

Nishina T, Shimamoto T, Marui A, Komeda M.  Impact of apex-sparing partial left ventriculectomy on left ventricular geometry, function, and long-term survival of patients with end-stage dilated cardiomyopathy. J Card Surg. 2009 Sep-Oct;24(5):499-502.

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心臓手術 ―― 米田正始が考案・改良したもの

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最終更新日 2021年1月2日

1. 臨床医は勉強し反省検討し、患者さんの治療内容を改良していく責務がある

心臓外科医というよりすべての臨床医は常に勉強し反省検討し、患者さんの治療内容を改良していく責務があります。
それは医療安全にも治療成績にも、そして患者さんたちの満足度にも貢献します。
その努力の結果として新しい術式を考案・開発することはある意味自然なことですし、医学や患者さん・社会のためにお役に立てるという意味で光栄であり大きな喜びでもあります。

私は恩師デービッド先生(Tirone E. David、トロント大学)(左写真)が毎年のように新しい手術に挑戦し、開発改良する姿を見てそのことを学びました。

トロント大学やスタンフォード大学、メルボルン大学、そして帰国後の京都大学、豊橋ハートセンターと名古屋ハートセンター、高の原中央病院かんさいハートセンター野崎徳洲会病院、そして医誠会病院などにて一貫してこうした努力をしてまいりました。

それらの業績をたまたま発表させていただく機会を得ました。

2. 第11回アカデミック外科医養成研究会

第11回アカデミック外科医養成研究会(Developing Academic Surgeons)(当番世話人・川副浩平先生)が第42回日本心臓血管外科学会総会(会長・山本文雄先生)の会期中に開催され、川副先生が日本発の新しい心臓手術をまとめて公開する企画を実現されたのです。(心臓外科医のブログをご参照ください)

これらの仕事は患者さんたちはもちろんのこと、多くの先生方(心臓外科だけでなく外科、麻酔科、内科、その他の科、基礎医学系、薬学部、工学部、理学部、他大学や研究所なども)やコメディカル、事務はじめとした皆様のご協力のもと、大変な努力の末にできたものです。まさに汗と涙の結晶です。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

研究会では今は引退された大先輩に交じって私もその心臓手術にまつわるエピソードを紹介させていただきました。なるべく若い先生方の参考になるように、というスタンスでお話ししました。

会場は満席で、かつて指導させて頂いた若い先生方や友人・仲間や先輩たちを含めて多くの方々のご参加があり、そうした方々にご報告と御礼ができたことはこのうえないことでした。

写真左にお示しするのはそのときのポスターです。なおご参考までに関係する論文を順次追加してさらに役立つように改訂する所存です。

こうしたものがきっかけとなって、若手諸君が新たな心臓手術を開発し、大きく成長展開して下されば、そしてより多くの患者さんたちに恩恵が届けば、これ以上のよろこびはありません。

研究会のときに私が若手心臓外科医へのメッセージとして述べたアドバイスは次のとおりです。

1.努力の甲斐なく患者さんが亡くなったとき、それが新たな研究の始まりです。

つまり助けられなかった原因を徹底追及し勉強し反省検討して、患者さんの敵討ちを将来の患者さんの治療で行うわけです。
悔しさをばねに頑張る、ともいえましょう。

2.先人の立派なお仕事に敬意を払い、学ぶ。

医学の進歩は多くの医師研究者の仕事の蓄積の上にたつものであり、先人のことばに耳を傾けるのは最小限の礼儀であり、かつ進歩への最短コースです。
日本の医師は先人の研究を引用しないという悪癖があると昔から指摘されています。
引用することで引用されたひとも、した人も、評価が高まるのです。
それも単に医師とか科学者としてだけでなく、人間としての評価や信頼度が上がるのです。

3.臨床での仕事や努力と、研究室での実験研究を有機的に結び付けて役立てる。

患者さんの病気にそっくりな動物モデルを創り、それをもちいて新たな心臓手術をトライし改良を加えるわけです。
これは科学的根拠なしには患者さんに実験的な治療をしない、というヒューマンな姿勢に直結します。

私自身、これからも反省と検討、研究を重ねながらさらなる進化を目指したく思いますが、同時に若い先生方のこれからの頑張りに期待します。

これら日本発の心臓手術が後日1冊の本になったものです。

3. 米田正始が日本にて考案・開発した新しい心臓手術

(1)拡張型心筋症にたいする心尖部温存式バチスタ手術。

心尖部を温存することでバチスタ手術の術後心機能を向上させました。手術の死亡率もゼロに近づきました。

心尖部温存式バチスタ手術の詳細を見る

ポスターはこちら

(2)虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する腱索転位法translocationの開発。

前後乳頭筋を前方へ吊り上げます。当初は二次腱索切断とセットにしていました。この前方吊り上げによって従来の二次腱索を切断するだけの術式よりも術後心機能が改善し患者の心不全が軽減しました。
この術式は次の(3)に発展していきました。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する腱索転位法translocationの開発の詳細を見る

(3)機能性僧帽弁閉鎖不全症とくに後尖テント化に対するBileaflet Optimization法

現在はこの道の専門家のご意見をいただき Papillary Heads Optimization法(PHO法)と呼んでいます。

現在、前尖だけでなく後尖のテント化をも治せる一番有効な方法とのご評価を戴いております。アジアや欧米でも使ってくれる先生がでてきました。2015年のアジア心臓血管胸部外科学会(ASCVTS)で最優秀演題賞のファイナリストに選ばれ、2017年のアメリカ胸部外科学会(AATS)でも発表機会を頂きました。狭い術野で細かい操作が必要なため、技術的に少し慣れが必要で、これから啓蒙活動したく考えています。

Bileaflet Optimization法の詳細を見る

(4)心房縮小するメイズ手術。

これにより従来のメイズ手術で治らなかった重症心房細動が治るようになりました。カテーテルアブレーションでも薬でも治らなかった患者さんにももちろん役に立っています。心房細動が治せて初めて、僧帽弁形成術や生体弁置換術の真価が発揮されるのです。つまりワーファリンを切ることができるのです。これが心房縮小手術が重要かつ有用であるゆえんです。

また近年話題の心房性機能性MRに対する弁形成術でも威力を発揮します。

心房縮小するメイズ手術の詳細を見る

(5)末期冠動脈病変に対するバイオバイパス手術(生物学的微小血管吻合)。

これによりこれまでバイパス手術できなかった患者さんにも手術が可能となりました。

バイオバイパス手術の詳細を見る

(6)bFGF蛋白の徐放を用いた胸骨再生。

これによりバイパス手術後の胸骨壊死が激減し、社会復帰も早まる可能性が高くなりました。

(7)重症下肢虚血に対するbFGF徐放治療

従来の治療では治らなかった患者が治癒し社会復帰するようになりました。京大病院で成果を上げましたが、米田正始が大学を去ってからはプロジェクトが止まっていました。しかし2010年ごろからその価値が再評価され、プロジェクトが再開されまた一グループの患者さんで臨床試験が行われ成果を上げました。

このbFGF徐放治療を行うべく、現在準備中です。下肢切断を免れる、あるいは下肢の皮膚潰瘍(本当に痛いです)が治る、これは患者さんにとって光になることでしょう。

bFGF徐放治療の詳細を見る

(8)心筋梗塞後の心室中隔穿孔に対するDavid-Komeda術式とその改良。

トロント時代に開発した穿孔部除外 exclusion法とそれをさらに有効に使うための心拍動下VSP評価法。さらなる成績の向上を目指して、この改良型を開発しJTCVSというトップジャーナルで発表いたしました。若手中堅の先生方にも自信をもってやって頂けるように改良したのです。この不治の病が治る病気になるよう努力しています。

David-Komeda術式の詳細を見る

(9)大動脈基部の部分拡張に対する再建手術

大動脈基部再建のためのデービッド手術を部分的に応用する術式です。
重症例や複合手術例では時間が短縮でき、患者さんの安全に貢献します。

大動脈基部再建の詳細を見る

デービッド手術の詳細を見る

(10)大動脈手術における針孔出血の効果的止血法

簡単なアイデアですが、出血は治まりやすくなります。コロンブスの卵です。

大動脈手術の詳細を見る

(11)僧帽弁前尖の逆L字型変形にたいする形成術

従来には弁形成不可能とされたケースの中に、形成可能なものが含まれている可能性と、手術法を示しました

(12)左室緻密密化障害に対する左室形成術

世界初の手術を行い、報告しました。より多くの患者さんたちに役に立てば幸いです。
左室緻密化障害は現在のところ難病ですが、将来この病気は治せる病気になるものと信じて治療法を改良しています。

左室緻密密化障害の詳細を見る

(13)オフポンプバイパス時に心筋埋没冠動脈を露出切開する方法

オフポンプ冠動脈バイパス手術のときに禁忌(やってはいけない)と言われる心筋埋没冠動脈へのバイパスが安全にやれるようになりました。同時に吻合部の術中評価にも役立ち、バイパス手術の質や安全性が向上しました。
開発から10年、ぼつぼつ日本でもこの方法が使われるようになり始めています。

心筋埋没冠動脈の詳細を見る

(14)僧帽弁置換術における人工腱索の「斜め」吊り上げ法

スタンフォード大学での生理学的研究の成果を実際の治療の中で使ったものです。良好な術後心機能が得られます。

僧帽弁置換術の詳細を見る

(15)ブローアウト型を含む左室破裂に対する左室修復術epi-endocardial patch repair法

これまでのグル―(生体糊)では止血困難と言われたブローアウト型左室破裂が安全に修復できるようになりました。

上記の発表の後もさらに新たな心臓手術を考案工夫しています。

左室破裂に対する左室修復術epi-endocardial patch repair法の詳細を見る

(16)一方向性ドール手術

これはセーブ手術のジオメトリー特性(つまり左室をきれいな形にする)とドール手術の簡便性を併せ持つ左室形成術です。結果的に侵襲が低くなり、これまですべての患者さんを救命できています。

一方向性ドール手術の詳細を見る

(17)大動脈弁閉鎖不全症にともなう機能性僧帽弁閉鎖不全症に対するpapillary heads optimization(PHO)手術

これは(3)の応用ですが、多くの場合、左房を開けることなく、大動脈弁手術の時間で2弁を併せ治すことができ、重症例では大きな貢献ができます。

大動脈弁閉鎖不全症の詳細を見る

papillary heads optimization(PHO)手術の詳細を見る

(18)ミックス手術にて副次創(サテライト創)

ミックス手術にて副次創(サテライト創)を最小限とし、疼痛や胸壁出血を減らし美容効果を高めるLSH法(Less satellite hole法)。世界でも賛同する方が増えています。

LSH法(Less satellite hole法)の詳細を見る

(19)バルサルバ洞破裂の修復を確実に再発しないようにする安全術式。デービッド手術などの大動脈基部手術の経験から生まれました。

バルサルバ洞の詳細を見る

デービッド手術の詳細を見る

(20) MICSでできるというメリットも得られました。

肥厚型閉塞性心筋症 HOCMの、心室中部閉塞 Mid-Ventricular Obstructionに対するモロー手術変法。左室を切開せずに閉塞を安全に解除でき、しかもMICSでできるというメリットも得られました。

HOCMの詳細を見る

Mid-Ventricular Obstructionの詳細を見る

MICSの詳細を見る

(21)虚血性心筋症や拡張型心筋症に対する Frozen Apex SVR (心尖部凍結型左室形成術)

虚血性心筋症や拡張型心筋症に対する Frozen Apex SVR (心尖部凍結型左室形成術)。これは杭ノ瀬先生の螺旋型左室縫縮を生理学研究をもとに改良したものです。これまでよりはるかに短時間で左室の調整・改善が図れ、成績も良いため、今後広めていきたく思います。

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(22) 重症例でも弁形成ができ、かつ心機能がより改善するようになりました。

上記(3)PHO法と(21)Frozen Apex SVR(心尖部凍結型左室形成術)を組み合わせたDual Repair(デュアル形成)。これまでのMAP(僧帽弁輪形成)やPHO法でも形成できなかった重症例でも弁形成ができ、かつ心機能がより改善するようになりました。

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第42回日本心臓血管外科学会の見聞録

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この4月18日から20日まで日本心臓血管外科学会の総会があり秋田へ行って来ました。

 

今回は秋田大学の山本文雄先生が会長で、山本会長というだけでもどこかほっこりした温かいものを感じるうえに、

秋田という個人的に魅力的な場所でしたので、いろいろとデューティがあることをこれ幸いと参加して参りました。

その間、患者さんたちには心臓手術をしばしお待たせして申し訳ありませんでした。

 

あの東日本大震災からまだ1年あまりしか経っていない中で、

東北地方でこの大きな学会が開催できたこと自体、立派なことと思いました。

学会のテーマも「医療再考―先進医療の地方での展開」というこれまでにないユニークな、しかし切実なものでした。

 

実際、秋田の地で医療が大変厳しい状況にあることが特別セッションや山本先生の会長講演でもひしひしと感じられました。

さらに、学会前日の会長主催晩さん会へ秋田県知事や秋田市長といった地域の主な第42回日本心臓血管外科学会総会方々が出席されるという異例の会で、

秋田大学の学長や医学部長といった重鎮の方々さえ2番目のテーブルに座っておられること自体、山本先生や心臓血管外科学会が地域の中でどれほど頼りにされているかをよく物語っていました。

 

会長講演の中でも秋田大学が緊急手術を断ったことがない、努力の跡を述べられ、

とくに雪深い冬季に秋田県の心臓血管手術の最後の砦として県民を守ってこられたことが実感できました。

 

心臓外科の世界では施設が乱立し、一施設あたりの症例数・手術数が少なくなり、これが患者さんの治療や若手の教育に大きな障害となっていることが問題となって久しいのですが、

こと地方の医療の中ではある程度の距離に心臓手術ができる施設がなければ地域住民のいのちが守れないという問題があります。

そのため施設集約つまり施設(病院)を束ねて優れた治療を患者さんや住民の方々に提供するというこれからの方向性が、

地方では都会と同じ形では成り立たないことを実感しました。

 

学術集会としての内容も豊富で、ガイドラインの改訂や天皇陛下のバイパス手術などで示されるように、冠動脈バイパス手術の良さが見直され、

カテーテルによるPCIよりも患者さんが長生きできるというデータがさらに示されました。

たとえばCREDO-Kyotoレジストリーからの報告などがそうでした。

きちんとしたデータをもとにして内科と外科でよく相談して治療方針を立てるという当然のことが、今、真剣に論じられるようになったのは大変よろこばしいことです。

またこの研究を発表した京大の丸井晃先生が最優秀演題賞を受賞されたことは、

かつて丸井先生とともに汗を流したものとして二重の喜びとなりました。

 

虚血性心疾患のひとつである心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)の治療でも着実な努力と進歩の跡がみられ、うれしく思いました。

私がトロントのデービッド先生のご指導のもと、開発研究した心臓手術術式(Exclusion法とかDavid-Komeda手術などと呼んでいただいています)が多くの方々のご努力でされに磨かれ洗練されていることを再認識し、光栄に思いました。

蛇足ですが、座長の天野篤先生のご厚意にてコメントを何度かさせていただきました。

若い先生方がこの手術をやるときの注意点と、危機脱出法をお教えしました。

天野先生は天皇陛下の冠動脈バイパス手術をきれいにやって下さった誇らしい仲間ですのでいっそううれしく思いました。

 

また機能性僧帽弁閉鎖不全症のセッションで畏友・青田正樹先生が私たちが京大時代に開発した腱索転位(前方吊り上げ)法を引用し、さらに発展させた研究を発表されました。

先人の仕事を引用しない傾向のあるこの国で、青田先生の武士の情にはあらためて感動しました。

せっかくの機会ですので私もコメントをさせて頂きました。

現在、吉田清教授率いる川崎医大循環器内科と共同研究している「乳頭筋ヘッド最適化」手術がこの腱索転位法の発展改良型でさらに効果があることをお伝えしました。

セッションのあとで天野先生が私のところへ来られ、この新術式を2例ほど行い、良い結果を得ましたとのことで、これまた持つべきものは友達とジーンときました。

 

弁膜症関係や大動脈関係ではその他にもさまざまな工夫が発表され着実な進歩が感じられました。

僧帽弁形成術やMICS(ポートアクセス法など)でも良いディスカッションがなされました。

 

IMG_0694b1日目の夕方は恒例の3研究会が平行しておこなわれました。

アカデミック外科医の会と不整脈外科研究会と再生心臓血管外科研究会の3つです。

私はそのいずれにも関与して来ましたので、本音はすべてに参加したかったのですが、同時開催とあってはそうもいかず、今回はアカデミック外科医の会に参加しました。

 

今回は川副浩平先生が当番世話人で、テーマは「我が国で生まれた心臓血管外科手術―創意工夫の記録」という大きなものでした。

なんでも川副先生が数年前に心臓血管外科学会の会長をされたときにやりたかった企画とのことで、力が入っていました。

ポスターのように歴史的ともいえる大先輩に交じって、不肖私も講演させて頂きました。

京大病院から名古屋ハートセンターまでの14年間で15の新術式あるいは工夫を発表して来ましたが、最多賞ということで発表させて戴いたようです。

学会場7階に設けられた展示場に多数の方々が来て下さり、それらの方々からあとでお褒めいただき光栄なことでした。

これからはこうした工夫をより多数の先生方に使っていただき、真の社会貢献になるようにしたく思いました。

海外ではすでに使って頂いているところもあり、さらに広めたいものです。

 

同時開催の日本不整脈外科研究会では名古屋ハートセンター(4月から豊橋ハートセンター)の小山裕先生がMICSでのメイズ手術を発表してくれました。

けっこう好評で、良いコメントを頂いたそうです。

患者さんにやさしいメイズ手術でさらにこの領域を発展させたいものです。

 

2日目午後の会長要望演題「機能性三尖弁閉鎖不全症」のセッションでは座長を務めさせていただきました。

三尖弁閉鎖不全症は患者さんが重症になればなるほど大きな問題となります。

たとえば普通の僧帽弁膜症で三尖弁もある程度逆流しているなどの状況は治すのも簡単ですし病気もそう危険でもないことが多いです。

しかし病脳期間が長い再手術例などでの三尖弁閉鎖不全症では肝硬変などの重い肝機能障害を合併することもありいのちにかかわることもあるのです。

またこれらの中には通常の弁輪形成だけでは逆流が制御できないケースもあります。

こうした状況についての研究が君津中央病院、聖隷浜松病院、東京医科歯科大学、大阪大学、昭和大学、神戸中央市民病院、静岡市立病院、などから発表され、内容あるディスカッションがなされました。

座長としてもやりがいのあるセッションでした。

 

2日目夜の会員懇親会では秋田の良さを堪能できるパーティになりました。

地元の味自慢と観光案内、秋田美人の歓迎や伝統音楽のモダンバージョン、会長晩餐会と同じミス秋田の司会などで秋田良いとこと皆さん確信されたようです。

多数の後輩や友人と話ができ同窓会のような遊びの会のような懇親会となりました。

 

3日目は、ちょっと会場を抜け出し、男鹿半島を一周して来ました。もちろん写真を撮るためです。

干拓前の八郎潟の姿です。昭和32年撮影とありました。

同時に、小学生のころから八郎潟の干拓になぜか興味があり、日本第二の大きな湖を農地に変えた事業の結果を見る機会を待っていたのですが、チャンス到来ということで行って来ました。

初めに八郎潟干拓地を少し歩きました。

ついで寒風山の頂上にある展望台へ行きましたが、そこに併設されている八郎潟記念博物館で干拓前の豊かな自然を見ることができ、少し悲しい気持ちになりました。

 

それから男鹿半島を一周し、見事な自然を堪能しました。遠くに見える冠雪の奥羽山脈と海のコントラストや、世界でも珍しい火山爆発による湖や素朴な棚田や漁村などもどこか新鮮でした。

ということで学会3日目は会場外で自然美の学習で過ごせてラッキーでした。

 

総じて心臓血管外科と秋田の素晴らしさを実感できた学会でした。

会長の山本文雄先生や関係の皆様に感謝申しあげます。

 

平成24年4月20日

米田正始 拝

 

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【第三十一号】 第9回患者さんの会のお知らせです

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【第三十一号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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ことしは寒さのためになかなか咲かなかった桜が急に満開になりあちこちで
美しい姿を突然見せてくれています。

皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

さてお待たせいたしましたが、第9回患者さんの会を開いて頂くことになりま
した。

HPにご案内を載せましたのでご参照ください

第九回患者さんの会のお知らせ

名古屋ハートセンターでの仕事が次第に忙しくなり、この1年ほどは毎日手術
に没頭し全国から来て頂いた患者さんと向き合う充実した時間を過ごさせて
いただいておりますが、そのために他のことが遅れがちで申し訳なく思って
おります。

皆さんと再会できることを楽しみにいたしております。なおできましたら何名
かの方に新しい世話人になって頂ければと考えております。

ご多忙のおりに恐縮ですがぜひとも奮ってご参加ください。

第九回患者さんの会

日時:平成24年6月3日日曜日 午後1時から午後4時まで

場所: キャンパスプラザ京都

内容:近況報告(米田正始、何人かの患者さん)

講演:「地震や津波から何とか逃れた、それから心臓病の患者さんはどうすれば??」 米田

正始

地震や津波が来れば生活環境は破壊され医療情勢も悪化します。そのときにどうやって体を守

るか、ご一緒に考えたく思います。

質疑応答なんでも相談: 心臓手術やそれにまつわる悩み・疑問をどうぞ

(込み入ったご相談はとりあえず簡略お話しし、後日また時間をもうけるなど致します)

平成24年4月13日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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心臓手術、お目当ての先生に執刀してもらえるの?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月2日

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せっかくご自分にぴったりの病院や先生(心臓外科医)を見つけたのに、

はたしてその先生に手術(執刀)してもらえるのかどうか、患者さんの不安は尽きません。

 .

Ilm09_ag04003-s教育病院とくに大学病院ではその社会的使命として

若い先生方に心臓手術を執刀してもらい、次世代の心臓外科医を育てることが一般的です。

どんなに立派な先生でも、若い未熟な時期は必ずあったわけですし、若い先生にある程度はオペして頂かないと明日の医療が成り立たなくなるという事情がそこにあります。

 .

しかし患者さんによっては、

こんな大きな、こんな難しい心臓手術をいのちをかけて受けるのに、

練習台にしてほしくないという切実な希望があるのも事実です。

 .

Ilm17_bc01004-sそうしたときには、率直に、そのお目当ての先生に直接希望を述べるのがベストです。

.

お目当ての先生に執刀希望を出したいが、それでは他の先生に申し訳ないと、ご自分の希望を出さずにあとで悶々と後悔したり、

黙っていてもその先生がいる限り大丈夫だろうと自らに言い聞かせたりする患者さんも少なくありません。

.

私の場合で申し上げれば、米田先生希望と仰った患者さんの手術は責任もって執刀していますが、とくにご指名のない患者さんの大半は他の先生方に執刀してもらっています。

 .

しかしあとで後悔するのではないかと思われるときには、やはり思い切って本心を率直に伝えることが勧められます。

良い医師はそうした患者さんの言葉に対して気を悪くすることはありません。

 .

医師を選ぶのは患者さんの権利です。黙っているのはその権利を放棄するのと同じことになってしまいます。

おたがい、率直に腹を割って何でも話する、これが病院においても一番ですね。

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第二回ハートバルブ(心臓弁膜症)カンファランスに参加して

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第二回 Heart Valve Conference (心臓弁膜症カンファランス、代表:川副浩平先生)がこの3月31日に東京で開催されました。(第一回の心臓弁膜症カンファランスのご報告はこちらです)

世話人の一人として参加させていただき、楽しく勉強できました。大変内容豊かな会でしたので少しご報告したく思います。

IMG_0652この会は心臓弁膜症の治療戦略と手術手技を考える研究会で、ケーススタディを通じてというのが特長の会です。

 

ケーススタディつまり個々の患者さんの治療経験を検討するというのは、学会とくに地方会や研究会などでも見られますが、

このハートバルブカンファランスが際立っているのは、一例いちれいに十分な時間をかけて深く掘り下げることができる点と、

そのために内科外科放射線科などを含めた心臓弁膜症のオーソリティの先生方が集まっておられ、

大変内容あるディスカッションができる点にあります。

 

今回はまず第一部として虚血性僧帽弁閉鎖不全症(虚血性MR)の術後の逆流再発が論じられました。

産業医大の尾辻豊先生と不肖私・米田正始の司会で進めさせていただきました。

前日の打ち合わせのときから、議論が盛り上がりすぎるのではという心配をしていたとおりのセッションとなりました。

 

江石清行先生と夜久均先生がそれぞれ難症例を提示されそれをもとに深く検討しました。

高梨秀一郎先生と尾辻豊先生がコメンテーターを務められました。

後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引っ張られる症例は心機能も悪く何かと不利な条件をもっているだけに、一層しっかりとした手術治療が必要です。

いずれもそうした一面をもった症例で、多くの意見が寄せらせ熱いセッションになりました。

 

そうしているうちに、弁輪形成用のリングのサイズ合わせも、まだしっかりとした基準がなく、おおむねのコンセンサスはあっても、細部で微妙に異なることが判明し、皆反省しながらの議論になりました。

 

私は乳頭筋を前方へ吊り上げると弁にも心臓にも良いということをこの10年間、提唱して来ましたので、その最新型である両乳頭筋ヘッドを最適化吊り上げして前尖はもちろん、後尖さらに左室もけっこう治せることをお示ししました。この術式はBileaflet Optimizationつまり両弁尖最適化と呼んでいましたが、オーソリティの先生方のご意見でPapillary Heads Optimization乳頭筋ヘッド最適化と名前を改めました。

外科医だけでなく内科の先生方からも有意義なご意見をいただき、これからの発展が楽しみな領域と思いました。

 

第二部はこれまた難しい感染性心内膜炎(IE)で感染性塞栓をともなうケースの検討でした。

大御所である川副先生みずからの力作といいますか、きれいな心臓手術を提示していただき、手術のタイミングから感染組織の処理、石灰化部分の取り方から感染に強い弁形成の方法まで話は尽きることなく盛り上がりました。

座長の芦原京美先生と大北裕先生も困るほどの議論白熱であったと思います。

 

1995年にこのIEの日本のデータを検討された江石先生のコメントと、中谷敏先生のレヴューも的確でした。

上村昭博先生のMRIの読み方の講演は外科医にとってはとくに参考になったと思います。

脳出血と脳梗塞をしっかりと区別して戦略を立てることの重要性をあらためてデータで示して頂きました。

 

第三部は不肖私・米田正始が面白い症例を提示させていただき、様々なご意見を頂くセッションとなりました。

大門雅夫先生と橋本和弘先生の安定感ある司会でした。

大動脈弁狭窄症(AS)は近年増加している疾患ですが、それへの弁置換(AVR)で、手術はきれいにできても、術直後僧帽弁前尖が左室流出路に引き込まれて起こるSAM(前尖の前方への異常運動、結果として僧帽弁閉鎖不全症が起こります)と呼ばれる現象がまれに起こります。いわゆるIHSSのかたちに突然なるわけです。

そのときどうするか、さまざまな良いご意見を戴きました。

それからそのSAMを生体弁越しに、異常心筋を切除することで治してしまうという、ちょっと珍しい方法をご紹介しました。かなりの注意が必要な方法ですが、こうした状況では患者さんを救命する特効薬と信じています。

 

きわめてまれな、しかし難しい状況だけに、実にさまざまなご意見が出て混乱するほどでした。

いわく、前もって異常心筋切除しておけば?、

患者さんが元気になったのは心筋切除のおかげではない?、

もっと別の方法で粘ったら?もっと素敵な切除方法はないの?などなど、

しかしいずれも検討の価値ある貴重なコメントでした。

泉知里先生はこうしたケースの文献的検討と、多少でも似た自験例の検討をして下さいました。

畏友大北先生は辛口のコメントだけ残して次の研究会へと去られ、食い逃げの料金は次回支払って頂こうと皆で盛り上がりました。

これだけの良いディスカッションを何かの本かビデオにして若い先生方の参考にして頂ければ良いね!と思ったのは私だけではなかったと思います。

 

最後のセッションはビデオワークショップで僧帽弁形成術で逆流が残るとき、どうやって解決するかという、なかなか奥深いテーマでした。

大西佳彦先生が国循での面白い症例を多数レヴューされ、渡辺弘之先生も矯味深い症例を提示されました。

さらに阿部先生、橋本先生、内田先生、新田隆先生らが苦労して解決したケースを提示され大いに参考になりました。形成後の後尖自然クレフト部の「漏れ」や、低形成後尖をもつ僧帽弁の形成術、バタフライ形成術のあとの遺残逆流などですね。

自分的にはすでに解決済みと思っている問題でも、さらに改善の余地があると思えたものもあり、大変勉強になりました。

どこまで行っても勉強することばかりです。

まあ磨けば磨くほど、患者さんに喜ばれる確率が上がるためどんどんやろうという気持ちでした。

 

このセッションのトリとして加瀬川均先生が以前から提唱されている自己心膜パッチによるスムースな表面を造る方式を紹介されました。

以前から直接お聞きしていましたのでその進展をうれしく思いました。これもその発展形をやりましょうと後で相談しました。

 

一日中、心臓弁膜症をよくここまで勉強したと思えるほど充実した研究会でした。

次のテーマはいくらでもあると思えるほどの盛り上がりぶりでした。川副先生、関係の皆様、ありがとうございました。

 

平成24年3月31日 米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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第九回患者さんの会のお知らせ

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皆さまいかがお過ごしでしょうか。ことしは冬の寒さが長引き、風邪などひいておられないでしょうか。

さて大変お待たせいたしましたが第九回の患者さんの会を開催させていただくことになりました。

皆さまご存じのとおり、秘書の中村さんが寿退職されたころから、米田自身も病院での心臓手術や出張なども増え、おそくとも昨年秋ごろにはと思っていたのが、ずれずれになっておりました。

ちょっと今日的なテーマなどを準備し、世話人の全さんのケーキなどをいただきながら、皆さまと久しぶりに歓談できるのを楽しみにいたしております。

----記----

第九回患者さんの会

日時:平成24年6月3日日曜日 午後1時から午後4時まで

場所: キャンパスプラザ京都

内容:近況報告(米田正始、何人かの患者さん)

講演:「地震や津波から何とか逃れた、それから心臓病の患者さんはどうすれば??」 米田正始

地震や津波が来れば生活環境は破壊され医療情勢も悪化します。そのときにどうやって体を守るか、ご一緒に考えたく思います。

質疑応答なんでも相談: 心臓手術やそれにまつわる悩み・疑問をどうぞ

(込み入ったご相談はとりあえず簡略お話しし、後日また時間をもうけるなど致します)

総合司会:松岡さん

連絡事項、新たな世話人さまなどのご相談

お申込み: 準備の都合上、お早めにお申し込みください

参加費: おひとり2500円(含:会場費、飲食代、通信費、その他)

申し込み先: 米田心臓外科オフィス 電話 080-6105-8231 FAX 075-712-8835

          eメール  sakura-koiti@snow.ocn.ne.jp

 

*********** 会場のご案内 ***********

キャンパスプラザ京都

〒600-8216 京都市下京区西洞院通塩小路下る
キャンパスプラザ京都
(ビックカメラ前、JR京都駅ビル駐車場西側)
TEL.(075)353-9111
FAX.(075)353-9121

 

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日本循環器学会総会の印象記

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3月17日から18日にかけて、第76会日本循環器学会のため博多へ行って来ました。ちょうど全会期の半分の参加でした。
 

日循76鹿児島大学の鄭忠和先生が会長で、本来は鹿児島で開催のはずですが、巨大な学会のため大都会での開催のほうが何かと好都合というご配慮だったようです。

私、米田正始は自身での講演はありませんでしたが、共同研究者の川崎医大循環器内科の尾長谷喜久子先生(指導・吉田清先生)が光栄なプレナリーセッションで発表されるため、外科的な質問が出た場合のバックアップとして参加しました。

このプレナリーセッションはCurrent Status and Future Perspective in Echocardiography (エコーの現況と将来展望)という重要セッションで、座長は尾辻豊先生とアメリカ・メイヨクリニックのJae K. Oh先生、発表者もUCLAの塩田先生や竹内正明先生はじめ錚々たる顔ぶれでした。

発表に先立って、Oh先生がエコーは聴診に取って代わるのかという基調講演をされました。エコーの長足の進歩とその有用性にもかかわらず、聴診は今後も重要な基本手技という、うなづける内容でした。最後に医学の歴史の中で聴診器の開発や血圧測定、カテーテルの発明から心エコーの登場、そして洗練化から現在の画像診断の時代までをショートムービーで示されました。

感動したのは私だけではなかったようです。あとでOh先生に”I was moved !!”(ジーンときました)と伝えたら喜んで頂けました。

プレナリーの内容はやはり先端的な3次元エコーでのより多くの情報や解析、Speckle
Trackingとくに3次元でのそれが主流でした。

私たちの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい僧帽弁形成術とそのための乳頭筋・腱索などの情報ツールとしての3次元エコーというスタンスは、臨床にますます役立つ心エコーという視点でOh先生・尾辻先生はじめ高い評価を戴き、光栄なことでした。

 

私たちの僧帽弁形成術は前尖だけでなく後尖も治せるという意味でBileaflet Optimizationという名称をつけていましたが、Oh先生らはPapillary Heads Optimizationのほうが判りやすいのではないかということでありがたく戴きました。

もうひとつうれしかったのは、畏友・塩田先生と久しぶりにお会いできたことです。

UCLA(ロサンゼルス)は良い気候で快適でしょうねとお聞きしますと、クリーブランドクリニックのあるオハイオは寒くてつらかったとしみじみおっしゃっていました。

この日本循環器学会総会では他にも山ほど有用なセッションがあり、同時並行開催のためそのうちごく一部しか出席できませんでした。それらを簡略にご報告します。

プレナリーのあとで、再生医学のトピックスー基礎研究から臨床への展開ーという別のプレナリーセッションがありました。

澤芳樹先生の代理の浅原孝之先生と、福田恵一先生が座長でした。

私は大学を離れてからは臨床一本のため再生医療から少し距離をおいていましたが、iPS細胞以外にはそれほど大きな変化はありませんでした。

しかし随所に着実な進歩と改良が見られ、臨床にさらに役立つ再生医学に成長しつつあることを実感できました。

浅原孝之先生の講演で、同先生が発見されたEPC(血管内皮前駆細胞)がすでに第三世代に進化し、以前の臨床治験のデータも4年を超えて良好な成績を維持していました。

バージャー病ではとくに安定していました。今後の進展が楽しみです。

遠山周吾先生ら慶応大学のグループはiPS細胞の中で心筋細胞とそれ以外の細胞の代謝上の差を活用し、グルコース無しで乳酸ありの環境で心筋細胞以外の細胞を消し、それによってiPS細胞の副作用と言われた腫瘍形成を克服できることを示されました。

高畠先生らはVEGFをコーティングしたステントでEPCを捕捉し、ステントの表面に内膜を張らせて血栓形成を防ぐ方法を発表されました。

これは薬剤溶出ステントの欠点を補う優れた方法と思いますが、従来のBMSステントの弱点である再狭窄を起こしやすく、座長もこの点を指摘しておられました。

竹原先生らは松原先生の心臓幹細胞(Sca1+細胞)と私たちがかつて力を入れていたbFGFを併用してその細胞数を増やせることを示されました。

宮川先生らはお家芸の細胞シートをもちいて、骨格筋芽細胞シートがサイトカインを出す、いわゆるパラクライン効果を検討し、VEGFやHGFなどを発生することを示されました。

またその臨床試験での成果を披露され、補助循環が有る場合でも無い場合でも役立つケースが増えているという印象を得ました。

また細胞シートはこれまで3-4層が限界で、細胞数が不足するという問題がありましたが、大網を併用すれば、30層以上でも可能ということで、かつて大網での再生医療を提唱していた私としてはうれしい展開でした。

その前日午後、福岡に着いた直後にシンポジウム・再生医学の進歩ーiPS細胞から医工学までーにも顔を出しました。

基礎的な研究の成果発表で、なかなか難しいところもありましたが、細胞移植がより3次元的な、臓器構築を意識したものに進化していることが理解できる内容が印象的でした。

串刺しの団子のような構造で三次元構築を図ったり、細胞シートを組み合わせて臓器に近づける努力は、いずれ臨床で使えるものになるのではと思われました。

またiPS細胞が病態解明や創薬に役立つことも改めてわかりました。

そのあとで大動脈疾患に対するステントグラフト EVARのシンポジウムがありました。高本眞一先生と大木隆生先生の座長で、ステントグラフトの限界を探るという副題がついており、内容のあるものでした。

島村先生らは弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の優れた成績を示されました。さまざまな形のデブランチ法を駆使して重症例でも死亡率を低く抑えているのが判りました。座長の先生との熱い討論も印象的でした。

栗本先生らは救急医療の現場でのステントグラフトEVARの現況を報告されました。大動脈瘤が食道に穿孔したケースでの成績は不良で、ガイドラインでもクラスIII(やってはいけないという意味です)のため、従来手術のうまい使い方を含めてさらなる検討が必要と思われました。

斉藤先生らはこうした難ケースで大動脈ホモグラフトが有効であることを示され、手術死亡率は9%にまで下がったことを報告されました。

まだまだ外科手術の役割は大きく、進歩の余地を感じさせてくれる内容でした。

竹田先生はステントグラフトEVARのあと、大動脈のコンプライアンスが低下するため左室拡張機能が低下し、運動能さえ低下し得ることを示されました。

貴重な報告と思いましたが、熱い議論があり、本当にEVARが悪いことをするかどうか、さらなる検討が望まれます。

金岡先生は大木先生のもと、EVARの1000例近い経験をレビューされました。

デブランチにも変遷があり、頸動脈などやや末梢部でのシャントから次第にチムニーつまり上行大動脈からの血行再建へと進化し、なお再手術時などの課題を残していることが示されました。

腹部大動脈瘤と下行大動脈瘤はEVARの価値が高く、確立した感が強いものの、弓部大動脈瘤ではその患者さんにもっとも適した戦略が必要ということで、うなづけるものでした。

また高本先生を中心にディスカッションがあり、マルファン症候群などの結合組織疾患では組織の弱さに加えて患者さんが若いためEVARよりも外科手術が良く、弓部大動脈と腹部大動脈は外科手術で、その間の胸腹部は適宜EVARでという考えにも同意できました。

結局、治療法の選択枝が増えたため、オーダーメイドでその患者さんにベストの選択を、皆で検討して決めていく、そういうことだと思います。

3月18日午後にはいつものカテーテル治療PCIと冠動脈バイパス手術CABGの熱いセッションがありました。シンポジウム・冠血行再建の最前線です。

木村剛先生と高梨秀一郎先生の座長で、例数の多い施設からの発表が内科と外科からありました。

内科のPCIとくに薬剤溶出ステント(DES)、外科のCABGとくにオフポンプバイパスOPCABと両側内胸動脈ITA、いずれも進化を続け、成績は改善しています。

ここに来て、外科の冠動脈バイパス手術CABG治療の成績が、複雑な冠動脈病変については良好であることが次第に明らかになって来ました。

たとえば内科外科とも例数が多い倉敷中央病院の検討で、内科のPCIの死亡や合併症の率が外科のそれの2.5倍というのはやはり説得力がありました。

京都大学が主導するCREDO-KYOTOレジストリーの検討でも、冠動脈の複雑病変いわゆるシンタックススコアが高いケースだけでなく、低いケースでさえ、冠動脈バイパス手術CABGの成績が優れていることが塩見紘樹先生によって示されました。

今回の日本循環器学会総会で冠動脈血行再建のガイドラインの改訂が行われましたが、やはり内容的に外科が盛り返した形になりました。

左主幹部シャフト病変のPCIはクラスIIbとなり、PCIをやるなら外科の合意ののちにという扱いになったとのことでした。

この秋にはシンタックスSyntaxトライアルの5年のデータが発表になりますが、外科の巻き返しが目立つようになりました。天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられたのも伊達や偶然ではなく、主治医団が本当に患者さんつまり陛下のための治療を検討した結果と聞いていますので、納得がいく思いです。心臓手術の良さが見直されなによりです。

やはりハートチームで内科外科その他関係者皆で検討し、EBMつまり証拠にもとづいて、その患者さんにベストの選択をする、そういう時代になったと実感させてくれるシンポジウムでした。

時代の流れを反映して、カテーテルによる大動脈弁置換術、いわゆるTAVI(あるいはTAVR)のセッションも多数見られました。また補助循環の最近の進歩を背景に、より実用的になった埋め込み型補助循環のセッションもありました。時間が重なり参加できませんでしたが。

それやこれや短期間の、私の場合は部分参加の日本循環器学会総会でしたが、得るものの多い良い学会でした。

会長の鄭先生、お疲れ様でした。また、ありがとうございました。

平成24年3月18日

米田正始

 

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アジア心臓血管胸部外科での雑感

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この3月9日から11日までインドネシアはバリ島で開催されたアジア心臓血管胸部外科学会(ASCVTS)に参加して来ました。

正確にはその前日、3月8日のMitral Conclaveという僧帽弁手術おたくの集まりから参加し、最終日の11日日曜日を待たずに10日夜に帰国の途につきました。何しろ12日月曜日には駆出率17%(つまり正常の4分の1のパワー)の重症患者さんが心臓手術を待ってくれていますので。

今回は畏友・Hakim先生(インドネシア国立循環器センター)が会長で、以前から楽しみにしていたものでした。その前日のMitral ConclaveもあのDavid Adams先生とHakim先生のふたりで、アジアとアメリカのそれぞれの胸部外科学会が共同で開催する、なかなかのものでした。

Mitral Conclaveでは最近の弁膜症ブームの中で昨年も同じ趣旨の会がAdams先生を中心にアメリカで行われたばかりで、それほど目新しいものはありませんでした。しかし随所に着実な進歩がみられたこと、またアジアとの共催を意識して、アジアに多いリウマチ性僧帽弁膜症に対する僧帽弁形成術が主要トピックスのひとつになっていたのはアジアの一員としてうれしいことでした。

タイの畏友Taweesak先生が相変わらず元気に僧帽弁形成術のビデオを披露し、楽しく議論できました。この道の大先輩、インドのKumar先生の僧帽弁をきれいに削る技はさすがでした。ベトナムの友人Phan先生は大御所であるパリのCarpentier先生譲りの弁形成を発表しておられ、リウマチ性の弁形成では世界のトップという貫禄を感じました。あとで楽しく密談し勉強できました。名古屋でもリウマチ性弁形成が増えてきたことを話すると喜んでくれました。

かつて弁形成がきわめて難しかったリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症がさまざまな手法を駆使して形成できるようになったのは数年前からですが、その長期成績が次第に安定し始めており、まだまだ多いリウマチ性僧帽弁膜症の患者さんにとって朗報です。

さらにそうした技術がその他の僧帽弁膜症たとえば、僧帽弁形成術後の弁膜症再発に対する再手術のときに役立っています。実際、これまで人工弁を入れていたようなケースや、どこかで弁形成がうまく行かなかったというやり直しのケースでも弁形成が完遂できることが増え、自分でもこの数年間の進歩、以前との大きな差を実感しています。

数年前に弁置換した患者さんに対して、当時としては先端的な手術をしていたとはいえ、申し訳なく思うほどです。

このConclaveでは低侵襲心臓手術MICS(ポートアクセス法など)も話題として取り上げられました。四津良平先生がライフワークであるポートアクセスでの経験を、ライプチヒのMohr先生のループ法とともに紹介されました。MICS好きの私としてはもっと時間をとっていろいろ議論したかったのですが、それは後のコーヒータイムまでおあずけでした。

しかしこうした複雑弁形成をMICSで行っている施設はまだあまりないようで、安全第一の観点からはそれで良いのですが、それぞれのノウハウの蓄積とレベルの向上で、いずれMICSでの複雑弁形成が専門施設ではルーチンになるものと感じました。

このMitral Conclaveと並行して、看護師さんの研究会が一日行われており、大変良いことと思いました。医師だけでなく、看護師さんも国際交流して自分たちの弱点を知り逆に貢献もするよろこびを知って頂くと面白い展開になると思いました。

 

翌日の3月9日からアジア心臓血管胸部外科学会ASCVTSが始まりました。

Hakim先生から朝7時までにおいでと勧められたので、睡眠不足の中を6時起きして開会式に参加しました。

インドネシアの厚生大臣が開会宣言のドラを鳴らしているところです

この厚生大臣は学会の最初のセッション、心臓血管胸部外科の将来やそれを担う教育の話をきちんと聴いてから挨拶をして退席されたのは立派でした。

アジア心臓血管胸部外科学会そのものは、例年どおり、成人心臓、先天性つまりこどもの心臓、そして肺などの外科の3部門が平行で行われました。肺移植の伊達洋至先生とも再会できてうれしく思いました。

この学会全体を通じて感じたことは、弁膜症に対する関心がさらに強まったこと、とくに弁形成が学会の主要なトピックスになっていること、低侵襲心臓手術MICS(ポートアクセス法など)がさらに進化しつつあること、カテーテルによる大動脈弁置換術いわゆるTAVIがさらに入りつつあること、大動脈外科でもその流れのなかでEVAR・TEVARつまりステントグラフトが一層洗練されつつあること、冠動脈バイパス手術は数を減らしながらも、その特長を示し、ハートチームで適切な選択をしようとする流れがさらに強まっていること、つまり内科外科の連携をもっと強化しようという動きなどなどを感じました

アメリカのMichel Mack先生やCraig Smith先生の心臓外科の展望、Bavaria先生のハイブリッド手術室の解説、Damiano先生のメイズ手術の展開なども参考になりました。

中国でダビンチ・ロボットが心臓外科でも多用されつつあることをGao先生の講演で知り、刺激を受けました。

私は一日目の僧帽弁形成術のシンポジウムで、機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい手術(Bileaflet Optimization、両弁尖形成術)を発表しました。昨年のフィラデルフィアでのMitral Conclaveで発表したころより数も増え、その応用範囲も広がり、皆さんからありがたいコメントを頂きました。来年のシンポジウムへ招待してくれた先生も複数あり、うれしいことでした。京大病院時代から皆の協力で進めて来た術式がかなり完成度を上げて、いまやケースによっては左房を開けず、僧帽弁輪形成術MAPさえ無しでできるとか、乳頭筋吊り上げの糸で行う左室形成術という視点が受けました。大変光栄なことであるとともに、現在の仲間や京大時代に仲間に感謝する一日でした。

二日目には大動脈のシンポジウムで恩師デービッド先生のデービッド手術つまり自己弁を温存する大動脈基部再建手術の難症例をいくつかビデオで示し、その対策を披露しました。同時に大動脈炎に対するデービッド手術が患者さんに福音となる可能性を論じました。この領域の世界的権威であるペンシルバニアのBavaria先生がこれは良い手術だやるべきだ!と言ってくれたのは光栄な限りでした。ちなみに現在は天理病院の院長となられた上田裕一先生とスペインのMestres先生らが座長で、シンポジストには大北裕先生もおられ、私にはアットホームな雰囲気でした。あとで良いコメントを頂き、感謝の塊になっていました。

バリ島と言えば、美しい夕陽や見事な棚田、寺院その他さまざまな魅力があり、しかも素晴らしいゴルフ場もありますが、今回は私の要領が悪く、そのいずれも参加できず残念でした。

まあたまには勉強三昧も良いかとわかったようなことを思いながら、皆と楽しく過ごせた4日間でした。

お世話になった会長のHakim先生と奥様に深謝と学会成功のお祝いを申し上げます。

 

平成24年3月11日

帰国直後、大震災の被災者の方々に黙とうをささげつつ

 

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冠動脈バイパス手術のふしぎな力【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◼️天皇陛下のご選択

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天皇陛下(現在の上皇陛下)が冠動脈バイパス手術を受けられてから、この心臓手術は存在を認められ、国民的支持を頂いたような雰囲気があります。

それでは冠動脈バイパス手術はなぜ選ばれたのでしょうか。あるいはなぜ優れているのでしょうか。

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まず冠動脈バイパス手術にもちいる内胸動脈という血管が優秀であることが挙げられます。

この血管は動脈硬化がほとんど起こりません。冠動脈よりも血管年齢が若いとも言えます。つまり冠動脈バイパス手術によってその心臓は多少とも若返るわけです。

これは悪くなった冠動脈を力で広げてそこへ金属の筒を入れるステント治療よりはるかにバイオなわけです。

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◼️内胸動脈なぜ若い?

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ではなぜ内胸動脈はそれほど「若い」のでしょうか。その理由はまだ不明なところもありますが、いくつか解明されています。

Haru_0155ひとつには、プロスタグランディンEという活性物質・ホルモンを自ら造るちからがあり、このために動脈が老化しにくく、血栓もできにくいのです。

またNO(エヌ・オー、一酸化窒素)という物質も造るため、血管がリラックスし、良い状態が続きやすいのです。

内胸動脈の内側の表面にある細胞(内皮細胞)はそれ以外の、血管を守るちからも持っています。

神が与えた血管と言われるゆえんです。

内胸動脈でバイパスをつけた冠動脈の下流には動脈硬化が起こりにくいという意見もあります。

つまりその冠動脈全体にわたって何らかの保護効果があり得るのです。

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こうした効果のおかげで、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんよりも長生きできることが欧米の大規模臨床試験(シンタックストライアル試験と言います)で示されています。

これは冠動脈の病気が複雑なタイプの場合で、なるほど、実感と一致すると私たちは感心しました。

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◼️バイパス手術のもう一つの利点

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また同じ理由で冠動脈バイパス手術のあとは、強いお薬が要りません。

とくに抗血小板剤のプラビックスやパナルジンなどが不要となります。

バイパスピリンさえ必要あらば止めることができます。

 

このおかげで、早期がんの生検や手術、あるいは背骨の手術など、中高年の患者さんによく必要となる検査や治療が、バイパス手術のあとは問題なく行えるのです。

前立腺がんを治療された陛下にとっては、つよいお薬の不要なバイパス手術は一段とお役に立てる治療法だったものと思います。

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◼️他にもあるバイパス手術の利点

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それ以外にも、冠動脈の入口が通常は2つしかないのに、冠動脈バイパス手術によって2-5つも入口が増えて、さまざまな角度から血液が行き、余裕が生じるという説もあります。

 .

また内胸動脈や胃大網動脈は、「時間差攻撃」の力もあります。

つまり血圧のピークが大動脈よりも遅れるため、心臓がリラックスする拡張期の圧が内胸動脈では高くなるのです。

拡張期こそ、冠動脈に血液が良く流れる時期ですから、この効果は大きいのです。

Trp1006-sクルマのエンジンに例えれば、ターボを付けて性能をアップしたような印象です。

それやこれやで、冠動脈バイパスはカテーテルによるPCI治療、ステントとは違う利点をもつのです。

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◼️バイパス手術だけが良いというわけではなく

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ただし誤解のないように申し上げれば、私はどちらが良いとか悪いとかを論じているのではありません。

それぞれ使い道があるのです。

適材適所でこそ、威力を真に発揮するのです。

 .

Ilm20_ae04023-sたとえば冠動脈の病気がシンプルな場合はPCI・ステントが良い場合が多く、冠動脈が複雑に壊れているときには冠動脈バイパス手術が威力を発揮します。

このことは、重症の糖尿病や、慢性腎不全・血液透析の患者さんではいっそう顕著です。

 .

それを裏付けるように、透析30年の患者さんでも、その内胸動脈はきれいでやわらかかったのを覚えています。

ちなみにそれらの患者さんたちの冠動脈は硬化のためガチガチのボロボロでした。

その血管を守るためにも内胸動脈は役立っているでしょう。

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こうした利点をもつ冠動脈バイパスがステントとうまい使い分けのもと、天皇陛下をはじめ多数の患者さんのいのちと健康を末永く守ってくれることを期待しています。

 

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