テレビ映画「外科医・須磨久善」を拝見して

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9月5日の夜、テレビで「外科医・須磨久善」が放映されました。

須磨久善先生は昔から敬愛する心臓外科の大先輩であるため、その歩んで来られた道は私にとって初めてのことではありませんでした。

しかしあらためて心に響くものがありました。

 

胃大網動脈を用いての冠動脈バイパス手術バチスタ手術を日本で最初に行われたこと、

その後それをさらに発展させられたことなど、

いずれも日本の心臓外科が世界に誇れる立派な業績です。

私自身、バチスタ手術セーブ手術をはじめとする左室形成術の共同研究でも大変お世話になりました。

 

しかし私をそれ以上に動かすのは、

医師の進む道、外科医の歩み方を、これまでにない形で示して下さったことにあります。

テレビでもそれがある程度うかがえたのは幸いでした。

 

須磨先生が医者の新しい生きざまを見せて下さるまでは、

大学で矛盾に耐え我慢を重ねて業績を積み、教授になるのが医者が一番光る道のように思われていました。

もちろん教授には教授ならではの社会貢献や喜びがあるのは私自身の経験でもよく理解できるのですが、

須磨先生が示されたのは多くの大学教授さえ認める外科医の誇り高い姿でした。

 

それは病気の本態を追求する研究マインドであり、

手術テクニックを突き詰める職人気質でもあり、

それ以上に患者を預かる医師という職業に対する誇りと畏敬の念であったと思われます。

当然の結果として患者中心というスタンスは徹底しておられ、

ひとりの人間が組織の歯車として動くという水準を遥かに超えた、医師人生とはかくあるべしというべき姿でした。

 

心臓外科という領域の仲間には敬愛すべき方が少なからずおられます。

手術の技量、医療への情熱、患者を助けるための溢れるばかりのエネルギー、タイプはさまざまですが、立派な方が少なからずおられます。

しかしその中で須磨先生が突出しているように思えるのはその哲学や姿勢を含めた全体像でしょうか。

たとえば後輩の良い点を見逃さずに評価してくれるとか、優れたものを見抜けばサポートする、人生いかに生きるべきかという問いへの大きなヒントを持っておられる、などの姿勢・ひととなりですね。

そして困難な中でも何とか解決策を見出す問題解決能力でしょうか。後輩の私が申すのも僭越ですが。

 

個人的な話で恐縮ですが、数年前、私が京大病院を去るかどうか考えているとき、須磨先生に相談したことがありました。

京大教授の立場でできる社会貢献が多くある、どんな我慢をしてでも大学に留まり、時が来ればまた全力を上げて頑張れ、今は耐えよ、という答えでした。

私は大学教授であることよりも手術で患者を助ける意義のほうが遥かに大切と確信し、

須磨先生のように民間の医療現場で精いっぱい患者さんを救命するのが筋と思っていただけに悩みました。

結局教授よりも手術を選択しましたが、そうしなければ一生後悔したものと思います。

 

当時、多くのサポーターの方々、たとえば2万5千を超える署名を集めて下さった患者さんたちや激励を下さった医師や医療者の方々、

あるいは立場上公には支援できずとも静かに支えてくれた方々、

家族や生活を守るために私に反対せざるを得なかった人たちにさえ、

今も感謝していますが、

その中でも須磨久善先生のご厚情は今も忘れられないものがあります。

 

医療崩壊が叫ばれてすでに時間が経ちます。

状況は悪化の方向にあります。

しかし須磨先生が示された外科医の生き方の中に、医療崩壊の解決策が見えると私は思っています。

もちろん仕組みとして改革すべきことは多々ありますし、個人でできることに限界はありますが、

それでも従来のパラダイムにこだわらぬ、医師のなんたるかを理解した須磨先生の生きざまには医療を変えるものがあると思います。

 

テレビ映画・外科医須磨久善を見てどこか清々しい気持ちになりました。

また力を頂いたような気が致します。

 

平成22年9月6日

米田正始  拝

 

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執筆:米田 正始
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【第十七号】 日記に2つの話題をUpしました

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【第十七号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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依然として暑い毎日ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか

さてHPの中の心臓外科医のブログのコーナーに2つの記事をUpしましたの

でご紹介いたします

一つは緑茶のお話で、今一つは日本冠動脈外科学会の印象記です。

緑茶のお話は煎茶道方円流の研修会にて先日講演させていただいた骨子を載せ

たものです。お茶の良さと平素の心臓血管病予防について知って頂ければお役

にたつものと思います。

学会印象記は少し専門的で申し訳ないのですが、専門家はこうした努力を日々

重ねているということを知って頂ければ幸いです。医師や医療関係者の方々に

は参考になるかも知れません。患者さんにとって良い治療が必ずしもできない

現実が日本にはありそれを何とかしたいものです。

これから次第に涼しくなるものと予想しますが、皆さまには健康に留意して元

気にお過ごし頂くことを期待いたします。

2010年9月3日

敬具

米田正始 拝

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日本冠動脈外科学会にて

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遅くなりましたがこの7月29日と30日に大阪のホテル阪神にて冠動脈外科学会がありましたのでその印象を記します。今年の会長は近畿大学心臓血管外科の佐賀俊彦先生でした。
申し訳ないのですがこの記事は一般の皆さまにはちょっと専門的すぎると思います。熱心な医師がこのような努力をしているということを見て頂ければ幸いです。

まず薬剤溶出性ステント(DES)の出現以来、カテーテルによる冠動脈治療(PCI)がますます増えて心臓血管外科もそれへの対応・対策が迫られているという現状を踏まえて、意欲的なセッションが多数みられました。外科手術には患者さんに真に役立つ利点がいくつもあることを確信してのことであったと拝察されます。

私は一日目には名古屋ハートセンターで緊急手術(急性大動脈解離)のため結局参加できませんでしたが、虚血性心筋症に対する左室形成術を再検証するシンポジウムが組まれ、活発な意見交換がなされたようです。

Stich Trial(スティッチ・トライアル)という多施設研究が欧米で行われ昨年発表されましたが、左室形成術に経験豊富な外科医の眼にはあまりのレベルの低さにあきれるような内容でした。しかもその結論が左室形成術にメリットが見られないというものでしたので、大きな議論となり、アメリカ胸部外科学会等でもそれへの対策が進められています。
要するに、私たちが普通あまりやらないような軽症の心筋症に対して行われた左室形成術を検討されたため、当然とはいえ、左室形成術のメリットが見えにくかったわけです。この「欠陥」とも言えるトライアルのリーダーを招待してのセッションとは、会長の佐賀先生の熱い外科医魂に感心いたしました。

そもそも左室形成術をやらねばならない重症例をランダマイズつまりくじ引きで左室形成術をやるかどうかに二分すること自体が難しく、非人道的なことさえあるため、こうしたヘンな結論を出してしまったという意見が多く、一部の軽率な動きのために多くの医師や患者さんが迷惑を被るのは不幸と思いました。

今後、日本の全国データの中から重症例での左室形成術の効果や貢献が調べられ、より実際の臨床現場の実情が明らかになればと思います。

昼前に行われた恒例の理事長講演(瀬在幸安先生)には緊急手術のため参加できませんでした。長年、我が国の冠動脈外科をけん引して来られた理事長の年次報告で、来し方行く末Buxton先生。ちょっと昔の写真ですが。メルボルン大学オースチン病院で心臓外科教授をしておられました。退官後の現在も私立病院で活躍しておられますを示されたのではないかと思います。

一日目午後にはアジア太平洋シンポジウムとして、冠動脈の血行再建の現況が論じられまし  た。司会は私の恩師であるBrian F. Buxton先生と国立循環器病研究センターの小林順二郎先生でした。

Di Giammarco先生。イタリアの山間部の古都キエティで活躍中です。昔遊びに行ったことがあり当時から名人でしたそれと平行してKey Note Lectureとして畏友 Gabriele Di Giammarco先生と T. Bruce Ferguson先生の術中グラフト評価のお話がありました。Di Giammarco先生には元弟子を修練させて頂いたり講演に何度か来て頂いたりお世話になったことが多く、懐かしく想いました。

 2日目の朝に急性心筋梗塞の合併症のセッションで、聖マリアンナ大学の幕内晴朗先生とともに司会をさせて戴きました。急性心筋梗塞後の左室破裂心室中隔穿孔VSPへの外科手術の検討が主で、着実な進歩が見られ、活発なディスカッションができうれしく思いました。これまではむなしく見送った患者さんを自分たちの手で救命できるという、無上の喜びを若い先生方と共有できれば最高です。

午後には日本冠動脈外科学会と日本冠疾患学会との合同シンポジウムがもたれ、画期的なことと感嘆いたしました。三井記念病院心臓血管外科の大野貴之先生と高本眞一先生らがEBMにもとづいて正しい冠血行再建の治療法選択を論じられました。DESバイパス手術を比較したSyntaxトライアルの2年フォローのデータ等からバイパス手術が患者さんの生命予後をDESよりも改善することがあり、このEBMを踏まえた治療選択が現在はきちんと行われていないことへの不満がうかがわれました。

帝京大学循環器内科の上妻謙先生は左主幹部・多枝病変に対する治療戦略を話されました。ひとつの方法にこだわらない、良識とバランス感覚のある先生のお話でした。しかしSyntaxトライアルの結果の解釈は内科の視点からのもので自然なことですが、外科の視点も考慮頂ければと思いました。バイパス手術の方が脳血管障害が多いというのはよく言われることですが、真実は手術時の差はなく、術後数か月間に多量のくすり(抗血小板剤)を使うDESよりも脳梗塞がやや多いのは当然です。バイパス手術が劣るというわけではないのです。それを受けて、私たちは術後のくすりを調整し経過を見ています。

福島県立医大心臓血管外科の横山斉先生はquality controlが効いた場合のOPCABのメリットを示されました。また話題のROOBYトライアル(あの超一流誌、New England Journal of Medicineに掲載)に言及し、不慣れなレジデント(修練医)が難しいオフポンプバイパスを執刀している以上、オフポンプバイパスの成績をうんぬんするのは問題であると指摘されました。納得行く論議でした。

天理よろづ相談所病院の中川義久先生は上記の諸先生方に勝るとも劣らぬバランス感覚の良い先生で、冠動脈だけでなく患者さんそのひとを最もハッピーにするという視点で治療や教育を進めてこられた先生です。今回の講演でもその全人医療としての視点が光っていました。たとえば回旋枝起始部の冠動脈は血管のねじれ運動が強く、ステントには本質的に向かない。とくに動脈硬化のリスクが高い患者さんでこうしたところにガイドワイヤーが通るというだけの理由で何でもステントというのは、単に主幹部病変というだけで何でもバイパス手術というのと同じで、病態の本質をしっかりみるべきと主張されました。j-CypherトライアルでもSyntaxと同様、非保護左主幹部病変プラス3枝疾患の患者さんではバイパス手術が安全との根拠を示されました。多くの外科医はその患者全身を考える姿勢に感銘を受けたことと思われます。

2日目の午後後半は虚血性僧帽弁閉鎖不全症(虚血性MR)一色でした。産業医大循環器内科の尾辻豊先生が虚血性MRの機序と問題点を基調講演された。この中で乳頭筋不全は虚血性MRを悪くするという長年の考えを覆した私たちの研究を引用して下さったのは光栄なことでした。お互いの業績を認め引用する見識を皆がもつことで、日本の医学はさらに発展すると思いました。

それに続くシンポジウムでは大阪大学心臓血管外科の吉川泰司先生・坂口太一先生・澤芳樹先生らが乳頭筋接合術と弁輪形成術の治療成績を発表されました。
和歌山日赤病院心臓血管外科の青田正樹先生は私たちが京都大学で開発した腱索転位chordal translocation を応用した方法で優れた結果を発表されました。皆で創り上げた方法を引用して戴き、光栄に思いました。

東京医科歯科大学の長岡英気先生・荒井裕国先生らは腱索をさまざまな方向にけん引して、最適の方法を探る研究を発表されました。京都府立医科大学の夜久均先生らもいくつかの方向に腱索乳頭筋をけん引し、前方にひく私たちの方法の良さを示されました。こうした優れた仲間たちに私たちの仕事が応用されているのは大変光栄なことでした。
東京大学心臓血管外科の小野稔先生らは乳頭筋をやや古典的な後方つりあげする方法での結果を報告されました。

私たちもこれまで発表してきた腱索前方つりあげをさらに改良した方法を近々発表予定で、また皆で賑やかに勉強できればと思いました。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は外科医が社会に対して貢献できる領域のひとつです。ますますの発展を期待したく思います。

今年の冠動脈外科学会も楽しく勉強になる集まりでした。会長の佐賀俊彦先生と近畿大学はじめ関係の皆さま、ありがとうございました。

 

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煎茶道方円流の研修会で講演いたしました

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この8月28日にホテルオークラ京都にて煎茶道方円流の夏季研修会があり、「お茶と健康」について講演させて戴きました。

かつて京都大学病院勤務時代に緑茶ポリフェノールの還元作用を活かし、心筋梗塞や心臓手術時の心臓虚血(酸欠のことです)を和らげる研究(英語論文142番)を行っていた経験から、お茶にうるさい(?)心臓外科医ということでこの機会をいただけたものと思います。

講演内容の概要は以下のとおりでした。

他の方の参考になればと、スライドからざっと転載させて戴きます

お茶と健康――心臓外科医の視点から

まずお茶と健康の歴史をお話しました

スライド1:

鎌倉幕府三代将軍・源実朝の二日酔いを お茶で治したという記事が「吾妻鏡」にあり、 源実朝
この時、臨済宗の開祖・栄西が将軍に併せて呈上したのが『喫茶養生記』の原本(1211年)
「茶は養生の仙薬なり、延齢の妙術なり。・・・」
「 種々の薬は各々一種の病の薬也、茶は万病の薬となる。」
茶は不老長寿の『仙薬』とさえ言われていました

スライド2:

喫茶養生訓の冒頭には、「一に肝の臓は酸味を好む。二に肺の臓は辛味を好む。三に心の臓は苦みを好む。四に脾の臓は甘味を好む。五に腎の臓は鹹味かんみ(塩辛い味)を好む。」とあり

ついで、辛・酸・甘・鹹の四味は日常の食事で食べるが、苦みは常にあるものではないから、心臓はいつも弱くて、病を起こしやすい。この苦みや渋みを含むお茶を喫すると心臓は強くなり病もなくなると説いた

スライド3:

その後、茶道という独特の文化を作り広まる
煎茶が日常茶飯の飲み物になったのは江戸前期、中国・明の福建省から隠元禅師が来朝して、インゲン豆のほかお茶の葉にお湯を直接注いで飲む方式を伝えてから

スライド4:

茶の主な成分 不溶性成分(70~80%)

食物繊維(30%~40%)……腸内の有害物質を排除する効果や血糖値を下げる
タンパク質(24%)……からだを作るのに必要な成分
β-カロチン(13~29mg)……体内で必要なビタミンAを変換する効果
ビタミンE(25%~70%)……糖尿病や、白内障を予防
クロロフィル(0.6~1.0%)……がん予防や、抗潰瘍、消毒をする効果があります。
ミネラル(不溶性)(2%~3%)

スライド5:

お茶には実にさまざまな有用成分が含まれています 茶の主な成分 水溶性成分(20~30%)

カテキン(10~18%)……抗菌・抗ウイルス効果や血糖値を正常化
複合タンニン(0.4%)……抗酸化、抗ガン、胃腸の保護作用
カフェイン(3~4%)……疲労回復、覚醒作用
フラボノール(0.6~0.7%)……血管壁を強化、口臭予防
複合多糖(0.6%)……血糖値を低下させる
ビタミンC (150~250mg%)……抗酸化作用や風邪を予防
ビタミンB2 (1.4mg%)……皮膚や粘膜の保護
テアニン(0.6~2%)……うまみ成分。血圧の降下を促進。(鎮静効果)
γ-アミノ酪酸(ギャバ)(0.1~0.2%)……血圧の降下や脳の代謝
サポニン(0.1%)……油を溶かし、コレステロールの採り過ぎを抑制。
香気成分(1~2mg%)……精神安定効果(アロマセラピー)
食物繊維(ペクチン)(3~6%)……善玉菌を増やし、活動を活発化
ミネラル(3~4%)……虫歯予防、抗酸化など

スライド6:

1.お茶は健康に良いと言いますが科学的根拠は?

心臓を守り、心筋梗塞のときにも被害を小さくします
緑茶カテキン・ポリフェノールの抗酸化作用が心筋(心臓の筋肉)を虚血(酸欠)から守るからです
京都大学にて心筋梗塞や虚血の動物実験で科学的に証明しました(英語論文142番)

スライド7-14:

京大で行った研究のデータの一部を発表しました。以前にアメリカ心臓協会で発表しご評価を頂いた発表です。

緑茶ポリフェが心機能改善 左上:緑茶をまえもって十分飲ませておいたネズミは心臓虚血のあとも十分収縮力を保っていました

右: 緑茶のラットは心臓の浮腫(水ぶくれ)も軽く、機能のみならず構造的にもよく守られていました

左下:緑茶を飲んだネズミは虚血のあとの酸化ストレスが少なく、良く守られるメカニズムの一端を示しました

緑茶ポリフェが心機能改善2

  緑茶ポリフェが心機能改善3

 

 

 

 
 

スライド15:

結語
前もって投与された緑茶ポリフェノールは心筋を虚血・再灌流障害から守った.
この方法は今後応用が可能か

スライド16:

動脈硬化には?
緑茶カテキンはビタミンEやビタミンCの10―20倍の抗酸化作用(強力!)で動脈硬化を予防します。
悪玉コレステロールLDLの酸化を防げばその害が減ります
しかも血管を拡張するギャバも含まれており高血圧にも有用です

スライド17: 抗酸化作用のあるお茶はアンチエイジングにも役立ちます

アンチエイジングにも!
エイジングつまり老化の基本は体内物質の酸化にあります。それを抑えればアンチエイジングになります
フリーラジカルや活性酸素なども抑えます
美容の基本は健康ですから

スライド18:

がんにはどうなのですか?
緑茶カテキンにはがん予防効果や、場合によっては腫瘍縮小効果さえあります
静岡県の茶産地では胃がんの死亡率が全国平均に比べて、極めて低い
油断は大敵ですが、お茶をのみ、健康生活を送り、がんの検診を受けるのが現状でベストでしょう

スライド19:

認知症対策
大自然の中で隠居生活するのは認知症になりやすい!
お茶そのものが良いのですが、加えて
都会で、皆で集まり、一緒に考えたり笑ったりが効果的な認知症対策になります。
人間は社会的生き物で独りでは体調が狂います。
心臓手術の後などもどんどん歩き、語りあうことで早くお元気になられます

これらのように、お茶が心臓はじめさまざまな臓器や全身の健康対策に役立つことを示しました。しかしお茶といえどもすべての病気を予防するだけの力はありません。そこで心臓血管関係の主な病気への注意点や対策をお話しました。

スライド24:

一口メモ 虚血性心疾患 虚血性心疾患は治せる病気です。油断しなければ安全を確保しやすいです
リスクファクターのある患者さんはご注意を
糖尿病、高血圧、高脂血症、家族歴、喫煙
その他 透析、肥満(メタボ)、ASO
痛みはいろいろ、痛くないことも
病気の有無を調べるなら苦痛なくCTで
おかしいと思えばご相談を

スライド33:

一口メモ 心筋梗塞後の機械的合併症
息切れや動悸にご用心
最近心筋こうそくや胸痛の既往があればより注意
とくに心筋こうそくのあと、心雑音や心不全症状が起これば早めにご相談を
心拡大や不整脈があればご注意を
悪くなるときは急に悪くなり死に至ることがあります。早めにご相談下さい

スライド34:

心筋こうそくになってからでも道はある
左室形成術
虚血性心筋症に: 心移植候補者にも恩恵を
VSP(心室中隔に穴!)に:一刻も早い治療が予後を改善
弁形成術 虚血性MRに:殆どの患者さんで形成可能

スライド35-42:
心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症虚血性心筋症に対する心臓手術事例 必要に応じて左室を形成し心機能をアップします。左室形成の成績は大きく改善しました。

瀕死の状態で来院され緊急手術しました。
りっぱに回復・社会復帰されました。5年後の現在もお元気です。

スライド45:

一口メモ 心臓弁膜症
心雑音やレ線・エコーで心拡大があればご相談を
長期心房細動AFも要注意
4次元エコーが威力を発揮します
息切れやだるさ・ふらつき・胸痛を我慢するよりご相談を!

スライド47-51:

複雑僧帽弁形成術の実際を見て戴きました。
がんばって形成術を成功させると、患者さんの以後の生活や寿命が大きく改善します

スライド52-54:

大動脈弁形成術の事例を供覧いたしました。
僧帽弁の形成術より難しいのですが、必要なひとに正しい形成を行えば、大きなインパクトがあります。このケースのように、ワーファリンなしの青春時代を提供できれば大変うれしいことです。

スライド55:

大動脈二尖弁
弁形成によってワーファリンなしの青春が確保できました
二尖弁は人口100人に1人、それ自体、病気ではありませんが、将来病気になる可能性があります
現在、定期健診することが弁膜症専門家の間では勧められています
大動脈にも弱点があることが解明

スライド56:  図 僧帽弁形成完成図

弁形成にこだわる理由
患者さんの人生を変えるインパクトがある
妊娠・出産
激しいスポーツや仕事
QOL
生命予後も変え得る

スライド57:

ハートセンターの 弁形成手術
米田正始の400例近い経験に加え、豊橋ハートセンターの経験を活かして高い形成率を挙げています
僧帽弁、三尖弁はもちろん、大動脈弁にも患者さんにメリットがある場合は行います
術後ワーファリンが無しで行ける利点は患者さんにとって大きいものです
新鋭4次元エコーが威力を発揮します

スライド58:

弁膜症手術-2 弁置換
機械弁:60歳以下で通常の生活を志向するとき
生体弁:60歳以上や、以下でも危険な仕事に従事するときなど。90歳でも可能

スライド63-66:

手術事例提示 (大動脈弁狭窄症
ある意味、最近増加した現代的事例です。85歳男性。高度の大動脈弁狭窄、高度の三尖弁閉鎖不全症心房細動心不全のため緊急入院。
糖尿病、心筋梗塞後、睡眠時無呼吸症候群、呼吸機能障害COPD、腎機能障害などもあり、病気のデパート状態でさまざまなくふうを要しましたが
手術ですっかりお元気になられました

スライド67:

治せる病気で治療を受けずに命を落とすのはもったいないです!!

まずはご相談を!

大動脈弁狭窄症
腹部大動脈瘤
狭心症
多くの僧帽弁疾患
胸部大動脈瘤の大半
その他たくさん

スライド79:

急性大動脈解離:(石原裕次郎さんや加藤茶さんなど)
強い胸痛で発生し大動脈が裂ける
発生2日で半分の患者さんが死亡する病気
しかし生きて手術室へ来て戴ければ95%以上救命する実績を持っています

スライド80:

一口メモ:大動脈疾患
(解離は)強い胸痛・腹痛腰痛があれば直ちにご相談ないし搬送を
手足(時に心臓)の虚血症状で来ることも
胸部瘤では直径6cm、腹部瘤では5cmが手術適応の目安
胸部はレ線(第1弓)、腹部は触診で。エコーも有用

スライド81:

患者さんたちに

心臓血管外科は内科とともに着実に進歩をとげております
弁膜症科、大動脈科としてもお役に立ちます
糖尿病慢性透析あるいは心不全やご高齢などでも、あきらめず、まずご相談戴くのが宜しいかと存じます
ホームページやAll Aboutもご参照を

スライド82:

まとめ again 心臓血管病の必須知識

狭心症・心筋梗塞:3分以上、胸が痛んだり締めつけたりすれば要注意
大動脈瘤大動脈解離: 強い胸痛や背中の激痛は直ちに相談、遠慮なく。声のかすれや胸のレントゲン異常も要注意
弁膜症:息切れやふらつき、動悸はありませんか
閉塞性動脈硬化症:歩くと下肢が痛む時に
これらの兆しがあればご相談下さい

このように、お茶と健康から始まり心臓血管の病気の治療までご質問を頂きながらお話しました。そのあとの懇談会も含めて、多数のご質問やご意見をいただきうれしく思っております。ちょっとしたアドバイスが大きな安全につながったケースもこれまで多くあり、皆さまのお役に立てば幸いです。

有意義な機会と楽しいひとときを下さった水口豊園家元はじめご関係の皆さま、猛暑のなかを勉強に来て下さった多数の方々、そしてお世話いただいた松岡さんに深謝申し上げます。

 

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【第十六号】 心臓突然死から身を守るために

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【第十六号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
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編集・執筆:米田正始
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暑い夏がいつまでも続くと思っていましたら、今度は台風が何と3つ同時に発生!

地球温暖化が進むとさまざまな問題がおこるというのを実感しています

しかし嘆いていてもだめです。一つひとつ、できることを実行することが大切と思います。

最近、心臓突然死が問題になっています。全国で毎年数万人が突然なくなられる、

大きな問題です。

しかしその内容を見れば、かなり予防なり対策が立てられると思います。

その解説を「All About」の私のページに載せました。
http://allabout.co.jp/gm/gu/1009/
これをぜひご覧ください。

末筆ながら、脱水に注意され、この残暑を楽しく乗り切って下さい

2010年8月31日

敬具

米田正始 拝

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【第十五号】 心臓外科医のブログ、新記事Upです

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【第十五号】
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編集・執筆:米田正始
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朝夕の日差しはどことなく秋の気配を感じるこのごろですが、温度計は30度を超えた

ままで、いつまで続くこの残暑という毎日です

皆さまにはいかがお過ごしでしょうか

一昨日、火星への往復と、火星衛星の砂の採取という快挙をなしとげた人工衛星

「はやぶさ」の感動の秘話が放送されました。

 

予想以上に大変だったこのプロジェクトを支える人たちの汗と涙のあとがよくわかった

ような気がします

ぶろぐにそのお話と、それをめぐっての雑感をお書きしました

ご覧いただけましたら幸いです

敬具

米田正始 拝

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火星探査衛星”はやぶさ”快挙の裏話を聴いて

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人工衛星「はやぶさ」が7年の旅を終えて、2010年6月13日、地球に大気圏再突入・帰還した 火星への旅は長いものだったに違いありません
ことはまだ記憶に新しいと思います。ともすれば技術立国ニッポンの将来の技術水準が懸念される昨今、感動をもって大方に受け容れられたものでした。昨日8月28日に、NHK「追跡AtoZ」でその秘密が紹介されました。

60億kmも離れた火星の衛星「イトカワ」に軟着陸し、しかも、7年かけて地球まで「イトカワ」の砂を持ち帰る計画自体がもともと驚きでした。

さすがに多くの困難や問題が待ち構えており、イトカワ着陸時のトラブル、それによる砂サンプル採取の失敗の恐れと燃料漏れ、それによる姿勢制御不能、電源停止による通信途絶と行方不明、予定より長期化したことによるイオンエンジンの故障、それによる地球帰還の困難化、、、予期せぬ問題と多数の二次的三次的トラブルが続いたのは、野心的プロジェクトゆえ理解はできました。

しかしそれに対してJAXAはやぶさチームリーダーの川口淳一郎氏をはじめとする技術者チームの組織的対応・マネジメントは素晴らしく、ありとあらゆる英知を出して問題解決を続けたことが良くわかりました。

雄大なスケールのプロジェクトで幾多の困難が待っていました たとえば通信断絶時に、動かぬ太陽電池がたまたま作動するようになる角度と時期を完全に計算し、1年間はやぶさ からの電波を探索し続ければ、発見できる確率は約60%と、具体的な数値・確率を示して、組織に希望と方向性を与えたことや、

イトカワの砂の採取ができていない可能性が高いとみられていたときに、イトカワの重力と真空の環境を作り出せる装置で実験し、接地後100秒あれば、イトカワの砂が採取できると検証したこと、はやぶさはついに地球へ帰ってきました(図はイメージです)

太陽風を利用した姿勢制御の回復や、壊れたイオン・エンジンの残存部分の組み換えによるエンジン復旧 などに代表されるアイデアの競い合い で危機を乗り越えたことなど、組織力と不屈の科学者・技術者魂の両方を見た思いがします。

  それらの多大な努力の末、ついに地球のそばまで戻ってきたはやぶさから地球の写真を撮り、まもなく消滅するはやぶさに地球を見せてやりたかったと述懐する川口氏にはやぶさへの想い、長年皆で積み上げて来た仕事への熱い想いを感じました。

どこか心を打つシーン。流星のように輝きながら消えて行くはやぶさです。やや右下に見える小さな光ははやぶさが最後の任務として切り離したカプセルです。 最後に、イトカワの砂が入ったカプセルを切り離して大気圏突入を図るはやぶさが美しい星のようになって消えていったシーンは実に感動的でした。かつてスペースシャトルコロンビアが分解して散って行った悲痛な画像を想い出した方もおられたのではないでしょうか。

実は大気圏突入はまだアメリカとロシアしか知らない領域で、日本がこれを一撃でやってのけたことは大きなインパクトがあり、NASAがはやぶさの突入シーンを撮影していたことがこれを物語っていたとのことでした。いわば、太陽系大航海時代に日本の技術ここにあり!と示したシーンでもあったわけです。

技術者魂は医者にも通じるところがあります。心臓がボロボロになった患者さんの心臓手術もはやぶさと同じ努力をすることがあります。先日も心筋梗塞後の心室中隔穿孔つまり大きな心筋梗塞で心室中隔がくさって破裂した80代の患者さんが来られ、それも手術がより難しいタイプの後壁中隔穿孔でした。

重い心臓病では医者が諦めてもダメですし、患者さんが諦めてもダメなのです この心室中隔穿孔の手術は私たちが1980年代から取り組み発表してきたもので、今なお多くの先生方のお知恵を頂きながら改良を加えているものです。とくに後壁の穿孔は昔救命できなかったつらい経験から執念をもって続けてきたライフワークでした。

さまざまな工夫を凝らし、穴も心臓も立て直し、患者さんも危篤状態から回復されました。こうした限界的ケースではあえて完全を狙うより、多少不完全でも着実に生きることを狙う、というより生きるためにそれを狙わざるを得ないと思います。治療を受ける患者さんも、治療をする私たちもどちらもぼろぼろのような感がありましたが、患者さんは見事に期待にこたえてくれました。

昨日のはやぶさの感動秘話を糧として、また明日から患者さんの救命にあたろうと思いました。

2010年8月28日 米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第十四号】 本メルマガをモデルチェンジします

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【第十四号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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まだまだ猛暑が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか

いつもこのメールマガジンを読んでいただき、ありがとうございます

今日はこのメルマガの形を変えるというお知らせです

これまでこのメールマガジンではトピックス的なものをお届けして参りました

。その内容はご存じのとおり、私のホームページの中にある「心臓外科医の日

記」からの抜粋が主でした。

しかし抜粋よりは図や写真も含めた完全なものが良いのでは?というご意見を

戴き、また新しいページや改訂ページの情報もあったほうが役立つというご意

見も戴き、考えていました。

それらを考え、今後は新しいページや改訂ページのお知らせを主にし、その分

、頻回にお送りできるようにしたく思います。

これまで私のホームページ「心臓血管外科情報WEB」が役立った、助かったと

いうご意見を多数の方々から戴き、大変うれしく思っております。

今後はホームページが一層お役に立つような支援ツールとして、このメールマ

ガジンが貢献すればうれしいことです。

皆さまのご意見やご希望をお聞かせ頂ければ幸いです。

末筆ながら皆さまのご健勝を祈ります。

敬具

平成22年8月20日

米田正始 拝

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エコー神戸2010にて

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この7月24日と25日に、エコー神戸に行って参りました。遅くなりましたがその印象記です。なお今回の記事はやや専門的ですので一般の方々にはこうした努力を専門家たちが日々行っているというのを知って戴く程度の流し読みでお願いいたします。

エコー神戸は日本心エコー図学会が主催する夏季講習会のことで、例年神戸・ポートアイランドのポートピアホテルで開催されるためこの愛称がついているものです。
すでに歴史があり今年で19回目となりました。
私は畏友・吉田清先生(川崎医大教授)のご厚意でこの会に以前から参加させて戴いており、すでに10回以上参加しているように思います。

大きな会場は満員御礼状態でした 内容は講習会として多くの心臓関係の先生方や直接エコーを撮ってくれる技師さんたちに役立つ内容ですが、同時に世界の最先端の内容を網羅しているという点でも優れた会と思います。エコー先端技術のお話でもまだ確立していないものはあまり詳しく述べられず、参加して下さった方々が聴いたぶんだけ得するという良心的配慮がなされていると思います。

私は心臓外科医ですので心臓外科手術の観点からなるべくお役立ち情報を提供するように努めています。また外科医のコメントが必要なときになるべく現場の実際をお伝えするようにしています。

今年のエコー神戸では経カテーテル的大動脈弁置換術(略称TAVI)時代つまり従来の外科手術ではなくカテーテル等を用いた大動脈弁置換術を踏まえて、大動脈弁狭窄症の心エコー図診断と手術適応というテーマでシンポジウムが組まれました。大変タイムリーな企画でした。
吉田清先生と私で司会をさせて頂きました。いくつか印象的だった内容をご紹介します。

まず吉田先生が2007年日本循環器学会ガイドラインを簡潔に解説されました。重症の大動脈弁狭窄症で症状がある場合はもちろん、症状がなくても左室駆出率が50%未満に低下したり弁の高度石灰化や急速な進行があれば手術適応になり得ることをお話されました。こうしたガイドラインを私たちは遵守して手術や治療を行いますが、循環器内科専門医の先生でもこのガイドラインをご存じない方があり、さらなる啓蒙活動が必要と思いました。

ついで大阪大学の山本一博先生が大動脈弁狭窄症のエコー評価について解説されました。カテーテルでの圧測定よりもドップラーの方が正確である理論的背景を説明され皆さん大変参考になったと思います。また圧の回復現象を説明され、この点でもカテーテル圧測定では誤差が生じることが判りました。同じ内科でも弁膜症はやはりそれに詳しいエコー専門家がベストと感じました。

ついで山口大学の村田和也先生が大動脈弁狭窄症診断の落とし穴を話されました。とくにParadoxical Low-Flow, Low Gradient ASつまり心拍出量が少ないため、ASの圧較差が小さくなり、実際よりも軽症と間違ってしまうことです。これは心臓外科医とくに心不全や低心機能例を手術している人たちにはおなじみのことですが(結構苦労して治すこともあります)、EBMデータとエコーデータを駆使してきれいに解説されました。

川崎医大循環器内科の大倉宏之先生も同様の視点から心エコーの有用性をさらに掘り下げて考察されました。Peak-to-peak 圧較差と瞬時最大圧較差の違いと、さらに圧回復現象をお話されました。圧回復現象は大動脈弁を超えたばかりの地点での血圧よりも上行大動脈での血圧が高くなる現象で、そのためにカテーテルは圧較差を実際より低く見積もってしまうとのことでした。思えばこれは生理学の基本つまり健常者では末梢へ行くほど血圧が上がることと一致する、自然なことですが、多くの方々はそこまで考えていなかったと思います。この圧回復現象を考慮した指標、ELCoを説明されました。
エコー研究の深さとともに、レオナルドダビンチが考察したバルサルバ洞の構造の妙にあらために感心しました。

左ミニ開胸して心尖部から入れるカテーテル弁の一例です 私(米田正始)はカテーテル弁の時代を目前にして、大動脈弁狭窄症ASへの外科治療は単に弁を換えているだけではないことをお話しました。
重症ASは突然死などが起こり易く、胸痛や心不全あるいは失神発作がでている患者さんはそのままでは1年以内に多くが死亡されますが、手術すればほとんどが長期生存されます。手術のメリットが大きな病気と言えるわけですが、超高齢や全身状態が悪いなどのケースではカテーテルで挿入する生体弁、いわゆるTAVIが役立ちます。欧米ではすでに多数行われており、日本でも臨床治験が始まります。
ただカテーテル弁はまだまだ合併症が多いため、従来型の手術ができないときに限られ、狭小弁輪や感染性心内膜炎の患者さんなどでは今後も従来型手術が活躍するでしょう。その中で心エコーの役割はますます大きく、治療方針決定の要であることをお話しました。

オハイオ大学のVannan先生は大動脈弁治療における3Dエコーの有用性を講演されました。大動脈弁は弁輪、弁尖、バルサルバ洞、そしてST junctionから上行大動脈までの多数の部分から成っており、3Dエコーはそれぞれの情報を与えてくれるため、手術方針の決定とくに弁形成や大動脈基部再建には極めて有用です。それらを美しいエコービデオで解説され大変参考になったと思います。

Vannan先生のおはなしを受けて、コロンビア大学のHomma先生は経皮的大動脈弁置換術(カテーテルによる弁置換)における心エコー図の役割についてお話されました。
そのあと症例検討会が行われ、講演された先生方が興味深い症例が提示されました。
中にはカテーテル弁置換で亡くなられたケースを正直に出された先生もおられ、立派でした。やや大きい左冠尖がカテーテル弁のため左冠動脈入口を閉塞したそうです。新しい治療法ではこうした不運なケースが世の中に必ず存在し、反省検討しそれへの対策を立てることで治療法が改善し確立して行くからです。

私は高度のASに生体弁で大動脈弁置換術を施行したところ、術前から軽くあったIHSS(心室中隔の肥厚)が顕著になり僧帽弁逆流が発生したため、ただちに生体弁越しに異常心筋切除を行い、逆流も消失し元気に退院されたケースをご紹介しました。こんな恐ろしいことが起こるのか、しかし経験豊かなチームは良いねというコメントを戴きました。

エコー神戸では1日目の午後に主な症状からアプローチする心エコーの方法にたいする解説がありました。たとえば呼吸困難や胸痛、失神などです。

午後の後半には心不全エコーのセッションがありました。
兵庫医大循環器内科の増山理先生は収縮不全と拡張不全についてお話されました。
収縮不全は治療法がいくつもあり、心臓外科の観点からも僧帽弁や左室などを治すことで改善する心不全が少なくなく、患者さんにも元気になりましたと喜んで頂けることが多いためそう悪くはありません。
しかし拡張不全はまだまだ問題課題が多く、外科的にも手が出せないケースが多い、未開の領域と思います。ご講演でもこの20年以上の間、目立った進歩がなく今後さらなる努力が必要であることを強調しておられ、同感でした。個人的にはHGFを用いた再生医療で心筋の線維化を軽減することが有用というデータを持っており、臨床応用への努力をしていますが、日本では時間がかかります。

Yonsei大学のHa先生は収縮性心膜炎の権威ですが、その診断をとくにエコーなかでも組織ドップラーエコーによる診断を詳述されました。一見目立たない病気ですが、正確に診断しないと予後も悪く症状も強いため、この領域のエコーが進歩し確立すれば患者さんへの恩恵は大きいと思いました。

島根大学循環器内科の田辺一明先生は心房細動例での心機能評価法をお話されました。一拍ごとに状態が変化する心房細動例では多数の拍動の平均値でアプローチするか、先行R-R間隔が正常のときの心機能を調べるなどが一般的と思いますが、とくに左室拡張機能を評価するときの盲点を解説されました。

Vannan先生ついで大阪大学の中谷敏先生が心室再同期療法CRTにおける心エコーの役割やコツをお話されました。
心不全の治療に力を入れて来た経験から、CRTの効果はけっこう良い場合があり、CRTのおかげで術後強心剤の点滴から離脱でき、元気に退院されたなどの経験があり関心をもって拝聴しました。A-V delayつまり心房と心室のペーシングのタイミングの調整が重要であることを改めて認識できました。最近はそれに適したソフトが使えるようになりありがたいことです。またA-V delayについで、心拍数の調整も重要であることをお話されました。

エコー神戸は2日目も有意義なセッションが続きました。午前中の弁膜症と先天性心疾患のセッションは、成人先天性心疾患の手術に力を入れてきた経験からも興味深く拝聴しました。
午後の虚血性心疾患への負荷心エコー図も有用なセッションと思いましたが所用のため参加できず残念でした。

総じてエコー神戸は今年も賑やかで有意義な講習会でした。懇親会も例年どおり賑やかでした。外科の集まりとはまた違う、どこかアットホームな雰囲気と、低侵襲検査法のためか(?)、何となく穏やかなやさしい空気がこの会の特長と感じました。来年もまた新たな成果と楽しいひとときがもたれることを祈ります。会長の吉田清先生、お疲れ様でした。写真を提供して下さった川崎医大の斎藤顕先生、ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
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⑥a ベントール手術―安全で確実な基本手術で難手術のセーフティネットにも【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月25日

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◆ベントール手術とは?

**ベントール手術(Bentall手術/ベンタール手術)**は、大動脈基部拡張症に対して行う大動脈基部置換術の標準手術です。

大動脈基部拡張症は、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈炎症候群などに合併しやすく、放置すると大動脈瘤破裂や重症の大動脈弁閉鎖不全症を引き起こす危険性があります。

ベントール手術は、このようなリスクを根治的に取り除くために行われます。

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◆ベントール手術で行う3つの操作

ベントール手術の3操作


  1. 大動脈弁置換術:人工弁を用いて大動脈弁を置換

  2. 上行大動脈置換術:人工血管で置き換える(人工弁と一体型の人工血管を使用)

  3. 冠動脈の再建:左右冠動脈の入口部を人工血管に縫い付ける

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つまり、大動脈基部にある構造をすべて人工物に置き換える包括的な手術(大動脈基部再建手術)です。
これにより、大動脈弁逆流・上行大動脈瘤・バルサルバ洞拡張を一度に解決できます。

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IMG_0723◆成績と位置づけ

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IMG_0726

ベントール手術は、心臓血管外科の中でも「大手術」とされてきました。
操作が多く、いずれも不完全だと重大な合併症につながるため、高度な技術が要求されます。

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しかし、確実に完遂すれば長期予後は非常に良好です。
特に機械弁を用いた場合、10年間の再手術率はきわめて低いことが知られています。

現在では、バルサルバ洞を再現できる人工血管の開発により、さらに自然な構造と良好な成績が期待されています。

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アメリカ・ジョンズホプキンス大学をはじめ、心臓外科の修練プログラムではかつて「ベントール手術を確実に行えること」が一人前の外科医の証とされるほど、代表的な手術です。

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◆人工弁の種類と選択

  • 機械弁:耐久性が高く、若年者に多く選ばれる。ただしワーファリン内服が必要。

  • 生体弁:60〜65歳以上で多用される。近年は若年者でも自然な生活を求めて選択する人が増加。将来的にカテーテル治療(TAVI)で再治療が可能な見込み。

  • 自己弁温存(David手術(右図)・Yacoub手術):大動脈弁がまだしっかりしている場合に可能。ワルファリン不要で長期耐久性も期待でき、特に若年患者さんに有利。IMG_0719

ただし、自己弁の強度が不十分な場合は、より安全で確実なベントール手術が適切とされます。その意味で、ベントール手術は難症例のセーフティネットとしても重要です。

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◆合併症対策と改良点

かつては出血や冠動脈吻合部の瘤形成などが問題でしたが、現在は以下の工夫により大幅に改善しています。

  • 完全止血と瘤再発防止の徹底

  • 冠動脈の入口部を「弱い大動脈壁に頼らない方法」で移植

  • 冠動脈のねじれや狭窄を防ぐ位置決めの工夫

  • 将来の再手術やTAVIに備えた安全な再アクセス設計

私たちのチームでは、生体弁を人工血管に組み込む工夫を行い、将来の再手術をより安全に行える設計を導入しています。

またMICSの良さ(創が見えにくいことと痛みが少ないこと)のうち痛みが少なく、早く仕事復帰、運転復帰ができる方法(もうひとつのMICS)を使っています。

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◆Q&A:よくある質問

弁の状態に加えて患者さんの年齢やライフスタイルその他を考慮し、相談して手術法を決めるのが安全安心です

Q1. マルファン症候群の大動脈基部拡張では必ずベントール手術が必要ですか?
→ 大動脈弁が壊れている場合はベントール手術が根治法です。
弁が保たれていれば、デービッド手術など自己弁温存術が可能な場合があります。

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Q2. ベントール手術は危険ですか?
→ 昔と比べて合併症は大幅に減少しています。止血技術や冠動脈再建の工夫により、安全性は大きく向上しました。

◆まとめ

  • ベントール手術は大動脈基部置換の基本かつ標準的な手術です。

  • 確実に行えば長期予後は良好で、心不全や大動脈破裂のリスクを根治的に解決できます。

  • 自己弁温存術(David手術等)とともに、大動脈基部再建の両輪をなしています。

  • 患者さん一人ひとりの年齢・生活スタイル・大動脈弁の状態に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。

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