エコー神戸2010にて

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この7月24日と25日に、エコー神戸に行って参りました。遅くなりましたがその印象記です。なお今回の記事はやや専門的ですので一般の方々にはこうした努力を専門家たちが日々行っているというのを知って戴く程度の流し読みでお願いいたします。

エコー神戸は日本心エコー図学会が主催する夏季講習会のことで、例年神戸・ポートアイランドのポートピアホテルで開催されるためこの愛称がついているものです。
すでに歴史があり今年で19回目となりました。
私は畏友・吉田清先生(川崎医大教授)のご厚意でこの会に以前から参加させて戴いており、すでに10回以上参加しているように思います。

大きな会場は満員御礼状態でした 内容は講習会として多くの心臓関係の先生方や直接エコーを撮ってくれる技師さんたちに役立つ内容ですが、同時に世界の最先端の内容を網羅しているという点でも優れた会と思います。エコー先端技術のお話でもまだ確立していないものはあまり詳しく述べられず、参加して下さった方々が聴いたぶんだけ得するという良心的配慮がなされていると思います。

私は心臓外科医ですので心臓外科手術の観点からなるべくお役立ち情報を提供するように努めています。また外科医のコメントが必要なときになるべく現場の実際をお伝えするようにしています。

今年のエコー神戸では経カテーテル的大動脈弁置換術(略称TAVI)時代つまり従来の外科手術ではなくカテーテル等を用いた大動脈弁置換術を踏まえて、大動脈弁狭窄症の心エコー図診断と手術適応というテーマでシンポジウムが組まれました。大変タイムリーな企画でした。
吉田清先生と私で司会をさせて頂きました。いくつか印象的だった内容をご紹介します。

まず吉田先生が2007年日本循環器学会ガイドラインを簡潔に解説されました。重症の大動脈弁狭窄症で症状がある場合はもちろん、症状がなくても左室駆出率が50%未満に低下したり弁の高度石灰化や急速な進行があれば手術適応になり得ることをお話されました。こうしたガイドラインを私たちは遵守して手術や治療を行いますが、循環器内科専門医の先生でもこのガイドラインをご存じない方があり、さらなる啓蒙活動が必要と思いました。

ついで大阪大学の山本一博先生が大動脈弁狭窄症のエコー評価について解説されました。カテーテルでの圧測定よりもドップラーの方が正確である理論的背景を説明され皆さん大変参考になったと思います。また圧の回復現象を説明され、この点でもカテーテル圧測定では誤差が生じることが判りました。同じ内科でも弁膜症はやはりそれに詳しいエコー専門家がベストと感じました。

ついで山口大学の村田和也先生が大動脈弁狭窄症診断の落とし穴を話されました。とくにParadoxical Low-Flow, Low Gradient ASつまり心拍出量が少ないため、ASの圧較差が小さくなり、実際よりも軽症と間違ってしまうことです。これは心臓外科医とくに心不全や低心機能例を手術している人たちにはおなじみのことですが(結構苦労して治すこともあります)、EBMデータとエコーデータを駆使してきれいに解説されました。

川崎医大循環器内科の大倉宏之先生も同様の視点から心エコーの有用性をさらに掘り下げて考察されました。Peak-to-peak 圧較差と瞬時最大圧較差の違いと、さらに圧回復現象をお話されました。圧回復現象は大動脈弁を超えたばかりの地点での血圧よりも上行大動脈での血圧が高くなる現象で、そのためにカテーテルは圧較差を実際より低く見積もってしまうとのことでした。思えばこれは生理学の基本つまり健常者では末梢へ行くほど血圧が上がることと一致する、自然なことですが、多くの方々はそこまで考えていなかったと思います。この圧回復現象を考慮した指標、ELCoを説明されました。
エコー研究の深さとともに、レオナルドダビンチが考察したバルサルバ洞の構造の妙にあらために感心しました。

左ミニ開胸して心尖部から入れるカテーテル弁の一例です 私(米田正始)はカテーテル弁の時代を目前にして、大動脈弁狭窄症ASへの外科治療は単に弁を換えているだけではないことをお話しました。
重症ASは突然死などが起こり易く、胸痛や心不全あるいは失神発作がでている患者さんはそのままでは1年以内に多くが死亡されますが、手術すればほとんどが長期生存されます。手術のメリットが大きな病気と言えるわけですが、超高齢や全身状態が悪いなどのケースではカテーテルで挿入する生体弁、いわゆるTAVIが役立ちます。欧米ではすでに多数行われており、日本でも臨床治験が始まります。
ただカテーテル弁はまだまだ合併症が多いため、従来型の手術ができないときに限られ、狭小弁輪や感染性心内膜炎の患者さんなどでは今後も従来型手術が活躍するでしょう。その中で心エコーの役割はますます大きく、治療方針決定の要であることをお話しました。

オハイオ大学のVannan先生は大動脈弁治療における3Dエコーの有用性を講演されました。大動脈弁は弁輪、弁尖、バルサルバ洞、そしてST junctionから上行大動脈までの多数の部分から成っており、3Dエコーはそれぞれの情報を与えてくれるため、手術方針の決定とくに弁形成や大動脈基部再建には極めて有用です。それらを美しいエコービデオで解説され大変参考になったと思います。

Vannan先生のおはなしを受けて、コロンビア大学のHomma先生は経皮的大動脈弁置換術(カテーテルによる弁置換)における心エコー図の役割についてお話されました。
そのあと症例検討会が行われ、講演された先生方が興味深い症例が提示されました。
中にはカテーテル弁置換で亡くなられたケースを正直に出された先生もおられ、立派でした。やや大きい左冠尖がカテーテル弁のため左冠動脈入口を閉塞したそうです。新しい治療法ではこうした不運なケースが世の中に必ず存在し、反省検討しそれへの対策を立てることで治療法が改善し確立して行くからです。

私は高度のASに生体弁で大動脈弁置換術を施行したところ、術前から軽くあったIHSS(心室中隔の肥厚)が顕著になり僧帽弁逆流が発生したため、ただちに生体弁越しに異常心筋切除を行い、逆流も消失し元気に退院されたケースをご紹介しました。こんな恐ろしいことが起こるのか、しかし経験豊かなチームは良いねというコメントを戴きました。

エコー神戸では1日目の午後に主な症状からアプローチする心エコーの方法にたいする解説がありました。たとえば呼吸困難や胸痛、失神などです。

午後の後半には心不全エコーのセッションがありました。
兵庫医大循環器内科の増山理先生は収縮不全と拡張不全についてお話されました。
収縮不全は治療法がいくつもあり、心臓外科の観点からも僧帽弁や左室などを治すことで改善する心不全が少なくなく、患者さんにも元気になりましたと喜んで頂けることが多いためそう悪くはありません。
しかし拡張不全はまだまだ問題課題が多く、外科的にも手が出せないケースが多い、未開の領域と思います。ご講演でもこの20年以上の間、目立った進歩がなく今後さらなる努力が必要であることを強調しておられ、同感でした。個人的にはHGFを用いた再生医療で心筋の線維化を軽減することが有用というデータを持っており、臨床応用への努力をしていますが、日本では時間がかかります。

Yonsei大学のHa先生は収縮性心膜炎の権威ですが、その診断をとくにエコーなかでも組織ドップラーエコーによる診断を詳述されました。一見目立たない病気ですが、正確に診断しないと予後も悪く症状も強いため、この領域のエコーが進歩し確立すれば患者さんへの恩恵は大きいと思いました。

島根大学循環器内科の田辺一明先生は心房細動例での心機能評価法をお話されました。一拍ごとに状態が変化する心房細動例では多数の拍動の平均値でアプローチするか、先行R-R間隔が正常のときの心機能を調べるなどが一般的と思いますが、とくに左室拡張機能を評価するときの盲点を解説されました。

Vannan先生ついで大阪大学の中谷敏先生が心室再同期療法CRTにおける心エコーの役割やコツをお話されました。
心不全の治療に力を入れて来た経験から、CRTの効果はけっこう良い場合があり、CRTのおかげで術後強心剤の点滴から離脱でき、元気に退院されたなどの経験があり関心をもって拝聴しました。A-V delayつまり心房と心室のペーシングのタイミングの調整が重要であることを改めて認識できました。最近はそれに適したソフトが使えるようになりありがたいことです。またA-V delayについで、心拍数の調整も重要であることをお話されました。

エコー神戸は2日目も有意義なセッションが続きました。午前中の弁膜症と先天性心疾患のセッションは、成人先天性心疾患の手術に力を入れてきた経験からも興味深く拝聴しました。
午後の虚血性心疾患への負荷心エコー図も有用なセッションと思いましたが所用のため参加できず残念でした。

総じてエコー神戸は今年も賑やかで有意義な講習会でした。懇親会も例年どおり賑やかでした。外科の集まりとはまた違う、どこかアットホームな雰囲気と、低侵襲検査法のためか(?)、何となく穏やかなやさしい空気がこの会の特長と感じました。来年もまた新たな成果と楽しいひとときがもたれることを祈ります。会長の吉田清先生、お疲れ様でした。写真を提供して下さった川崎医大の斎藤顕先生、ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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⑥a ベントール手術―安全で確実な基本手術で難手術のセーフティネットにも【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月25日

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◆ベントール手術とは?

**ベントール手術(Bentall手術/ベンタール手術)**は、大動脈基部拡張症に対して行う大動脈基部置換術の標準手術です。

大動脈基部拡張症は、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈炎症候群などに合併しやすく、放置すると大動脈瘤破裂や重症の大動脈弁閉鎖不全症を引き起こす危険性があります。

ベントール手術は、このようなリスクを根治的に取り除くために行われます。

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◆ベントール手術で行う3つの操作

ベントール手術の3操作


  1. 大動脈弁置換術:人工弁を用いて大動脈弁を置換

  2. 上行大動脈置換術:人工血管で置き換える(人工弁と一体型の人工血管を使用)

  3. 冠動脈の再建:左右冠動脈の入口部を人工血管に縫い付ける

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つまり、大動脈基部にある構造をすべて人工物に置き換える包括的な手術(大動脈基部再建手術)です。
これにより、大動脈弁逆流・上行大動脈瘤・バルサルバ洞拡張を一度に解決できます。

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IMG_0723◆成績と位置づけ

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IMG_0726

ベントール手術は、心臓血管外科の中でも「大手術」とされてきました。
操作が多く、いずれも不完全だと重大な合併症につながるため、高度な技術が要求されます。

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しかし、確実に完遂すれば長期予後は非常に良好です。
特に機械弁を用いた場合、10年間の再手術率はきわめて低いことが知られています。

現在では、バルサルバ洞を再現できる人工血管の開発により、さらに自然な構造と良好な成績が期待されています。

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アメリカ・ジョンズホプキンス大学をはじめ、心臓外科の修練プログラムではかつて「ベントール手術を確実に行えること」が一人前の外科医の証とされるほど、代表的な手術です。

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◆人工弁の種類と選択

  • 機械弁:耐久性が高く、若年者に多く選ばれる。ただしワーファリン内服が必要。

  • 生体弁:60〜65歳以上で多用される。近年は若年者でも自然な生活を求めて選択する人が増加。将来的にカテーテル治療(TAVI)で再治療が可能な見込み。

  • 自己弁温存(David手術(右図)・Yacoub手術):大動脈弁がまだしっかりしている場合に可能。ワルファリン不要で長期耐久性も期待でき、特に若年患者さんに有利。IMG_0719

ただし、自己弁の強度が不十分な場合は、より安全で確実なベントール手術が適切とされます。その意味で、ベントール手術は難症例のセーフティネットとしても重要です。

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◆合併症対策と改良点

かつては出血や冠動脈吻合部の瘤形成などが問題でしたが、現在は以下の工夫により大幅に改善しています。

  • 完全止血と瘤再発防止の徹底

  • 冠動脈の入口部を「弱い大動脈壁に頼らない方法」で移植

  • 冠動脈のねじれや狭窄を防ぐ位置決めの工夫

  • 将来の再手術やTAVIに備えた安全な再アクセス設計

私たちのチームでは、生体弁を人工血管に組み込む工夫を行い、将来の再手術をより安全に行える設計を導入しています。

またMICSの良さ(創が見えにくいことと痛みが少ないこと)のうち痛みが少なく、早く仕事復帰、運転復帰ができる方法(もうひとつのMICS)を使っています。

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◆Q&A:よくある質問

弁の状態に加えて患者さんの年齢やライフスタイルその他を考慮し、相談して手術法を決めるのが安全安心です

Q1. マルファン症候群の大動脈基部拡張では必ずベントール手術が必要ですか?
→ 大動脈弁が壊れている場合はベントール手術が根治法です。
弁が保たれていれば、デービッド手術など自己弁温存術が可能な場合があります。

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Q2. ベントール手術は危険ですか?
→ 昔と比べて合併症は大幅に減少しています。止血技術や冠動脈再建の工夫により、安全性は大きく向上しました。

◆まとめ

  • ベントール手術は大動脈基部置換の基本かつ標準的な手術です。

  • 確実に行えば長期予後は良好で、心不全や大動脈破裂のリスクを根治的に解決できます。

  • 自己弁温存術(David手術等)とともに、大動脈基部再建の両輪をなしています。

  • 患者さん一人ひとりの年齢・生活スタイル・大動脈弁の状態に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。

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執筆:米田 正始
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お便り28 (エホバの証人の患者さん)冠動脈バイパス手術でマラソン復帰へ

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Sexmc009-s 信仰はそのひとにとっては命です。

これは私が天理よろづ相談所病院のレジデント(研修医)のころ、

当時院長だった柏原貞夫先生から教わった言葉です。

さらに当時の指導者であった今中孝信先生らから

病気を本当に治すためにはその病気や臓器だけでなく

その患者さんの全体、ひととなり、

さらにそのご家族や社会まで考えることを教えられ、

できるところから実践して来ました。

 

この考えは国内だけでなくその後海外での心臓外科臨床修練の際にも多くの患者さんのお役に立ちました。

 

 

お便り17

にもありますように、エホバの証人の信者さんは、宗教上の理由から輸血を受けられません。

治療するものとしてはこれは大変つらい、困ったこともあります。

輸血さえできればこの患者さんはすぐ元気になれるのに!という状況にはしばしば遭遇します。

しかし技術やくふうでできるだけ患者さんの夢を叶えることができるようにと念じて日々努力して来ました。

 

 

Wor1009-s 下記はお仕事のためシンガポール在住のエホバの証人の患者さんからのお便りです。

シンガポールには畏友CN Lee先生やHS Saw先生はじめ立派な心臓外科医がおられるのですが、

十分な下調べや勉強ののち日本のハートセンターに私を信じて来院して下さったことを光栄に思います。

 

手術は両側内胸動脈と1本の静脈グラフトを用いた4本バイパスで順調に完了しました。

冠動脈バイパス手術のあとはカテーテルによるステントと比べて強い薬も不要で、

スポーツなどにも向いており(お便り22 をご参照ください)、

患者さんの長生きと生活の質の向上の両方に貢献します。

 

重症の狭心症、冠動脈狭窄でしたが、

オフポンプ冠動脈バイパス術にて安全に、かつ問題なく元気に回復され、

シンガポールに戻られました。その患者さんからのお手紙です。

なおその1年半後、天皇陛下もオフポンプ冠動脈バイパス手術を受けられました。それへの感想を2つ目のメールとして戴きました。

それも記載させていただきます。

***************************************

米田正始様、スタッフの皆様、

 

この度は、米田先生を始め、深谷先生、北村先生、小山先生また担当看護師の皆様、本当にありがとうございました。

 

私は、8月3日、妻と共に無事シンガポールに戻ることができました。

冠動脈バイパス術という簡単ではない手術を、私の信仰上の理由から、無輸血という方法で実施していただくことを快く引き受け、無事成功させてくださったことに、言い尽くせない感謝の気持ちでいっぱいです。

思い返せば、マラソンを完走するため日々トレーニングに励み、健康だと思っていた体に、突然、心臓の血管が詰まっていると知らされたときは愕然としてしまいました。

その後、精密検査を受ける中で、バイパス手術が必要と知らされたときには、言いようもない不安に襲われたことを、今でも鮮明に思い出します。

 

私はエホバの証人で、聖書の教えによって体外からの血液を受け入れないことを信条としており、無輸血手術という条件の下で施術していただくことができる医療機関を探すことも挑戦となりました。

シンガポールの医療機関では、この条件に同意していただくことが難しい状況でしたので、知人の紹介なども受けつつ、インターネットで検索していたときに、偶然、米田先生のHPにたどり着き、私たちの信仰に対する先生のご理解に感銘を受け、早速、失礼ながらE-Mailでコンタクトさせていただきました。

さぞかし多忙を極めておられる先生だろうと思い、返事がすぐに返ってくることは期待せずメールを出したのですが、ものの1時間とかからずに返信メールが届き、私たちのような遠距離の患者に対する対応にも感激し、即座にこの先生にお願いしようと決意しました。

その後何度かのメールでのやり取りの後、実際に先生にお会いして、さらに信頼が深まり、安心してお願いすることができました。また、ご担当いただいた深谷先生、北村先生、小山先生からの回診時の励ましや、看護師さんたちの親身になったお世話により、”医は仁術”ということを実感しました。

現在、私は仕事に復帰し、徐々に運動量を増やしてマラソンに再挑戦する準備もしたいと思っております。

最後になりましたが、ハートセンターが私たちのような信条の患者にも開かれた医療機関として、今後もますます発展されますように祈念しております。

皆様への敬愛と感謝をこめて、

2010年8月8日


***********天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられることになってメールを下さいました**********

 

米田正始様、

米田先生、いかがお過ごしでしょうか。
大変ご無沙汰いたしております。

先日、1月23日にシンガポールから一時帰国し、ハートセンターで、定期健診を受けました。治療していただいた冠動脈と心臓、血液については問題ないとの診断をいただき、安心しました。

先生にお会いするはずだったのですが、緊急手術のようだったので、お会いできずその点は残念でしたが、代わりに深谷先生とお会いすることができました。

先生に是非お見せしたかったものがあり、持参したのですが、深谷先生に見せました。フルマラソンを完走した証しのTシャツです。

ところで、今日ニュースを見ていますと、天皇陛下も冠動脈バイパス手術をされるとかで、判断の理由となったのは、ご公務を果たし、テニスなどの楽しみも続けられるように、今後の生活の質を維持するためとのことでした。

私も先生から生活の質(仕事や運動量)を維持するためにはバイパス手術が最善というご説明をいただき、フルマラソンを完走できるまでになったことを、本当に感謝しております。

これからもわたしたちのような疾患を抱えたものが一人でも多く助かり、普通の生活に復帰できるように、先生方の益々のご活躍を祈っております。

 

平成24年2月12日

 

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執筆:米田 正始
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2010年8月10日 ハートの日

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ハートの日2010ポスター 今年も恒例のハートの日 in Nagoya、つまりハートの日の名古屋バージョンが名古屋国際会議場で8月10日(本日)開催されました。

雨の中を600名以上の方々がホールを埋めるほどご参加下さり、厚く御礼申し上げます。

ことしは昨年に引き続き、いくつかの講演と西川流NOSS踊りの実演と指導が行われ、大いに盛り上りました。

  まず愛知県内科医会会長の太田宏先生のご司会にて、名古屋ハートセンターの外山淳治院長の百寿者に学ぶ「健やかに老いるとは」という講演がありました。外山院長は知る人ぞ知る、スポーツマン・健康オタクで医学的観点から長寿の秘訣を解説されました。圧巻だったのは最後の部分、妻に先立たれた夫は早死にする、しかし夫に先立たれた妻は長生きする、というデータでした。男性のちっぽけさと言いますか女性の偉大さを思い知らされるショッキングな講演でした。同時に女性は長生きするが、認知症も多く、動かない状態の方が多いというのも、うーんと唸らせるお話でした。それほど女性の生命力は強いとも考えられ、これをさらに活発な生活へと結びつける工夫が大切とも感じました。

余談ながら外山先生はハートの日の直前に、石垣島へ行かれダイビングしてマンタの写真をを撮ったり、鳥海山に登ってあわやの悪天候の中を立派に帰還されたりと相変わらずの自然派の面目躍如たるところを講演の中でも一部披露されました。多数のご参加を戴きました

続いて中日病院の池田信男院長先生のご司会にて、西川流第三代家元の西川右近先生のNOSS踊りをめぐっての興味深いお話がありました。日本伝統舞踊が現代にも立派に通用するという以上に西洋医学を上回るような特長を持つことが判り、心臓や血管の治療にますます応用が効きそうだと確信しました。つま先が下がるドロップフットは近年、高齢者の転倒の原因になりやすく、私たちも指導に限界を感じることがあるのですが、NOSS踊りをしっかりやればかなり改善しやすい、と判りました。また体の平衡感覚などの養成にも役立つことがわかり伝統は伊達じゃないと感心しました。

DSC_0429 中京大学体育学部長の湯浅景元先生はそれらを科学的に解明するお話をされ、大変明快で判り易い内容でした。湯浅先生は日本の宝、フィギュアスケートの浅田真央選手や安藤美姫選手らを育て、またハンマー投げの室伏広治選手を指導されるなど、日本スポーツ界の発展に多大な貢献をして来られました。その湯浅先生がNOSS踊りを解析されたのは説得力のあることでした。さらに湯浅先生と西川先生の軽快なトークでは早いテンポで踊りの特長を引き出す面白い企画でした。西川先生があぐらの体位からすっと力を入れることなく立ちあがるお姿に、名古屋おどりの真髄の一部を見た思いがしました。

それからNOSS踊りの実演と講習が講演会場と練習フロアの両方で行われ、多数の方々が参加され関心の強さをうかがわせました。大変盛り上がり、うれしい限りでした。

DSC_0519 休憩をはさんで、名古屋第二赤十字病院の平山治雄先生のご司会で松原徹夫副院長の循環器内科のお話がありました。平山先生は最近の循環器科の傾向をお話されましたが、さすが、全身医療にふさわしい、患者さんの真の健康を目指したご姿勢にあらためて感嘆しました。
とくに何でもカテーテルという現代の風潮に警鐘を鳴らし、

1.カテーテル治療では患者さんの生存率を改善できないし、
2.生活の質も改善できない、さらに
3.運動能力さえも改善していない、

したがって症状があまりない患者さんへの予防的カテーテル治療はもはや反省期に入っている、というのはまさにEBM(証拠にもとづく医学)データにもとづいたお話でした。カテーテル命の先生方には手厳しい話でしたが、こうした慎重かつ良心的なお話を依頼すること自体がハートセンターや鈴木孝彦先生の懐の大きさと感心しました。

松原先生はカテーテル治療PCIのエキスパートですが、平山先生のお話を受けて冠動脈疾患の予防にまで言及され、幅広くかつ良心的な治療内容を披露されました。しかしCTO(慢性完全閉塞)を突破する技術はいつ見ても見事でした。

最後に服部病院特別院長・藤田大学名誉教授の丸田守人先生のご司会で私、米田正始副院長が心臓血管外科の現況をお話いたしました。丸田先生はアメリカ仕込みの本格派外科医で、私の患者さんのご家族で切除不可能と言われたがんを完全切除し、治して下さったこともある先生です。藤田大学を退官されてからもそのメスさばきは健在です。司会して戴き光栄でした。

私のお話はおよそ次のようでした。冠動脈バイパス手術はNOS手術とも言え、バイパスに使う内胸動脈グラフトはNOS一酸化窒素合成酵素を持ち自ら一酸化窒素を造れるため、動脈硬化になりにくく、若い血管であり、そのためにバイパス手術後は長年にわたって心臓は安定し、強いお薬も必要ないことをお話しました。

また高齢者弁膜症たとえば大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術や、若年者の僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術の発展ぶりを見て戴きました。10年以上もつ大動脈弁形成術もご紹介しました。さらに心筋梗塞でだめになった左室を修復する左室形成術の実際のビデオを見て戴き、決して短絡的に諦めていけないことをご説明しました。

最後に急性大動脈解離心房細動でもそのほとんどが解決できることを示し、患者さんには早目のご相談をお願いしました。診察の結果、大きな病気はないということになってもそれは決して恥ではないことを強調しました。

DSC_0483 以前名古屋ハートセンターにて手術させて頂いた患者さんから花束を頂いたり、久しぶりの再会を喜んで頂いたり、個人的にもジーンとくることの多い楽しいハートの日になりました。

会が終わったあと、打ち上げの懇親会がありました。皆で賑やかに飲み食べし、労をねぎらいました。

来年はもっと大きな会場を確保し、今年のように満員御礼で多数の参加希望者をお断りすることのないように全力を上げる所存です。今回、参加できなかった皆さまには心からお詫びするとともに、来年それを挽回致しますので、今後も是非よろしくお願い申し上げます。

最後に、お盆休みの中を協力して下さった名古屋ハートセンターの医師、看護師さん、MEさん、放射線技師さん、栄養士さん、事務職の皆さまたちを始め、支援して下さったメーカーの皆さまに心から御礼申し上げます。

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三重ハートセンター

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162 三重ハートセンターは平成16年11月に西川英郎院長が中心になり開設されました。

当初は19床の診療所としてスタートし、

平成18年8月に増床し病院となりました。

三重県下の従来型の公的病院の現状に飽き足らない方々が集まられたと聞いています。

 

その経過から想像されるように、医療過疎が話題になる三重県にあって民間施設の利点を活かし活発な診療活動が行われているようです。

 

国公立病院を中心にした医療崩壊が全国に広がるなかで、地方はとくに深刻な状況にあります。

同県もまたその例外ではありません。労働組合、公務員、労働基準法、、、それぞれ意味のあることなのは理解できるのですが、

現在の医療費のなかで院内勤労者に気遣いばかりしていては心臓や血管の患者さんは助けられません。

時間勝負で迅速かつ正確な対応が求められるからです。

もちろん医療を支えている職員全員を大切にすることは医療を守るためにも必要なのですが、

患者さんが二の次になっては本末転倒という意味です。

 

かんさいハートセンターはお隣の奈良県にあります。

一説には隣県にある施設ということで多少はバッティングしているのではないかと言われますが、

エリアも違いますし対象疾患・重症度もかなり違います。

 

たとえば僧帽弁大動脈弁の複雑弁形 ミックス手術とくにポートアクセス手術のあとの創はあまり目立ちません
成術、

心筋症・心不全

再手術や再々手術、

胸部大動脈瘤、複合手術、

小さい皮膚切開でのミックス手術(MICS、ポートアクセス手術)(右図)、

など私たちは私たちならではの実績ある領域で粛々と実績を積んでいます。

つまり協力できることの方が多いように思われるわけです。

 

医療崩壊の時代に三重ハートセンターとともに進んで行ければ幸甚です。

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事例: 気管支喘息をもった二尖弁大動脈弁狭窄症の患者さん

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COPDのためバレルチェストになっておられました  

心臓弁膜症の患者さんが肺疾患や腎臓その他の内蔵の病気を併せもっておられるというケースは年々増える傾向にあります。

心臓手術に際しては心臓を治すのはもちろんですが、全身の状態を考えて、全身が守られる状態で治療することが大切です。

患者さんは79歳女性です。

圧較差140mmHgの大動脈弁狭窄症のため来院されました。

入院中の心エコードップラー画像 左室壁厚は16-17mmと左室肥大著明でした。

他に気管支喘息、高血圧症、高脂血症をお持ちでした。肺機能について、%肺活量は51%、肺活量実測値は1.04L、一秒率は52%でした。

全身麻酔下に胸骨正中切開しました。


上行大動脈は左図のように拡張していました。長坂 術前上行大動脈の拡張

上行大動脈の遠位部で通常大動脈遮断する部位に直径1cmのプラークが認められ、

脳塞栓防止のためここを避けてすべての大動脈操作をするようにしました。



長坂 A弁二尖弁b 体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

 

大動脈弁は2尖でいずれも強く肥厚・石灰化し相互に癒着していました。

長坂 切除したA弁b型的な二尖弁の硬化による大動脈弁狭窄症の所見でした。

また上行大動脈の拡張もこのためでした。

これを切除し、弁輪まで及ぶ石灰をすべて摘除しました(左図)。

長坂 AVR後の状態2b

ウシ心膜弁21mmを縫着しました(右図)。

狭小弁輪の傾向がありましたが、この患者さんの体格に必要なサイズであるため工夫して入れました。

必要あらば弁輪拡大を行えばよいのですが、

弁輪拡大なしで行ければそれだけ短時間に低侵襲(体への負担が少ないこと)で手術できるので、工夫したわけです。

 

上行大動脈を二層に閉じ、エア抜きののち大動脈遮断を解除しました。


カテコラミンを使用することなく体外循環を容易に離脱いたしました。

経食エコーに良好な大動脈弁機能と心機能を確認しました。

長坂 上行大動脈ラッピング後上行大動脈が手術前に直径55mm近くまで拡張していたため、本来は上行大動脈置換術を行いたかったのですが、

肺機能が悪く、なるべく短時間で体外循環を終えることが患者さんにとって大切であるため、体外循環をまず終えてから、ラッピングという方法で上行大動脈のほぼ全部を包みこみ、将来の瘤化を防ぐようにしました。

その結果、上行大動脈の径は40mm近くまで改善しました(右図)。

 

止血ののち、心膜を閉じ、閉胸し手術を終えました。

 

術後の大動脈弁(生体弁)は良好な機能と状態となりました。 術後経過はおおむね順調で、

血行動態良く出血も少なく、神経学的問題もなく、

術翌朝抜管し、一般病棟へ戻られました。

もともと気管支喘息をお持ちのため呼吸器の管理・治療にも力を入れ、

早い時期から呼吸訓練や運動を開始しました。

その後も経過順調で、肺の治療などに時間を十分使い、術後3週間で元気に退院されました。

 

術後1年でお元気に暮らしておられ、大動脈弁(生体弁)も心機能も良好で、

左室壁厚も12-14mmまで改善しつつあります。

術後3年でも心臓・上行大動脈とも安定しており、お元気に過ごしておられます。

 

大動脈弁狭窄症は高度になれば手術前は突然死の心配もあり要注意です。

しかしいったん手術を乗り切ればあとはかなり安全性が高まります。

このケースのように気管支喘息などの肺疾患があっても

心臓の状態が改善しているため比較的工夫がしやすいです。

 

ただ肺疾患のために入院期間が長くなることがあり、

それを避けるために、上記のようにできるだけ手術をコンパクトにまとめ上げる、

熟練度を活かして短時間で仕上げるようにしています。

また近年はミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術、代表例はポートアクセス法)で

早い社会復帰や痛みの軽減、きれいな仕上がりをはかることが増えました。

痛みが減れば、深呼吸などの呼吸訓練もやりやすくなり、安全性の向上に役立つのです。

その患者さんの状態にあったベストな方法を選ぶようにしています。

 

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3) 大動脈弁 ②大動脈弁狭窄症ではどんな注意を?

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: コレステロール塞栓と虚血性僧帽弁閉鎖不全症の患者さん

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患者さんは59歳男性です。

近くの病院で冠動脈狭窄に対してカテーテル治療PCIを受けられました。

 

その際に、不運にも大動脈内のプラーク(油などの塊)が外れて下肢の方へ流れ、

足の血管を詰まらせてしまったとのことでした。

いわゆるコレステロール塞栓という不運な状態で、

大変予後が悪く、下肢の虚血に加えて炎症反応などが惹起され、

命の危険がある状態でした。

あと2週間の命と言われてハートセンターへ来院されました。

 

その時点では心臓はPCIで改善せず弱っており、

駆出率35%(正常は60%台)と低下し、

しか 手術前には僧帽弁は逆流し弁のテント化もみられました虚血性僧帽弁閉鎖不全症心房細動(脈が不規則になり心臓のパワーも低下します)を合併していました。

かつ下肢も全身も悪い状態で、どこから手をつけてよいか、考えこむような状況でした。

そこでまず、お薬や点滴などで下肢や腎機能等を一旦安定させ、

そのタイミングで心臓を手術等で安定させ、

心臓が回復したところでさらにコレステロール塞栓でやられた下肢の治療を進め、

再生医療へ持ち込む、という方針を立てました。

胸骨正中切開ののち心膜を切開しました。

心臓は球状化し心不全の重症度を示す所見でした。

冠動脈バイパス手術を行うため左内胸動脈と左大伏在静脈を採取しました。

 

まず右冠動脈の枝に静脈グラフトを縫い付けました 体外循環・大動脈遮断下にまず静脈を右冠動脈4PD枝に吻合しました。

これ以後、心筋保護液はこのグラフト越しにも注入し、心筋の保護に努めました。

左房を右側切開しました。

僧帽弁葉はとくに問題なく、

多少のテント化(弁が左室側へ 僧帽弁輪に糸がかかったところです けん引されること)はエコーで認められたものの、

主に後尖側弁輪の拡張が逆流の原因と考えられました。

 

そこで硬性  リング24mmを用いて僧帽弁輪形成術MAPを施行しました。

テント化が強いときは乳頭筋や腱索に操作を加えて弁の安定化を図りますが、

この患者さんの場合はそれは不要でした。 

 

僧帽弁輪にリングがついたところです 写真右は弁輪への糸がかかったところで、写真下はリングを縫着した写真です。

 


拡張していた後尖弁輪がかなり小さくなりました。

写真左上は肺静脈と左房本体を冷凍凝固にて電気的に離断しているところです(メイズ手術)。

写真右上は僧帽輪周囲を同様にアブレーションしているところです。

これらによってほとんどの場合心房細動は正常化します。左房を2層に閉鎖しました。

 

心臓を軽く脱転し左内胸動脈LITAを回旋枝の鈍縁枝に吻合しました。

最後に静脈グラフトの 左内胸動脈グラフトが冠動脈回旋枝についたところです 中枢吻合を行い大動脈遮断を解除しました。

写真左は鈍縁枝にLITAを吻合したところです。

ここで体外循環を離脱しました。

離脱は心房ペーシングにて強心剤なしで容易にできました。

 

経食エコーで僧帽弁閉鎖不全症の消失と左室壁運動の改善、僧帽弁テント化の軽減を確認しました。

ドップラーにて2本のグラフトが良好なフローパタンを有するのを確認しました。

 

術後経過はまずまず良好で、少量のカテコラミンと血管拡張剤PGE1を使用してコレステロール塞栓のため弱っている足を守りつつ、

まもなく状態安定し 二本のバイパスグラフトは良好に流れていました

術翌朝抜管し一般病棟へ戻られました。

 

心臓や全身は良くなってもしばらくは足の痛みは残っていました。

そこで大学病院で再生医療を検討して戴きましたが、

その適応はなく、足指の腐ったところだけ切除し、退院されました。


その後はお元気に暮らしておられます。

術後4年以上が経ちますが、外来でいつも笑顔を見せて下さるのをうれしく思います。

写真右はバイパスが良く流れていることを示します。

 

術後は僧帽弁のテント化は軽減し逆流も消えました 写真左は僧帽弁テント化が改善したことを示します。

コレステロール塞栓は命にかかわる重い病気ですし、

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心臓が弱っているときに発生する病気ですからそれも重症でした。

しかし工夫と患者さんの頑張りで無事社会復帰して頂いたことをうれしく思っています。

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6) 狭心症が悪化して心筋梗塞になってからでも手術はできるのですか? へもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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手術事例:特発性拡張型心筋症に僧帽弁と大動脈弁の閉鎖不全症を合併

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大動脈弁閉鎖不全症は心臓弁膜症の中ではよくある病気です。治療も弁形成か弁置換で改善します。

これが拡張型心筋症(略称DCM)に合併するといろいろな用心が必要になります。

心不全が強くなりさまざまな問題が起こるからです。

患者さんは61歳女性です。和歌山県南部の遠方からお越し下さいました。

中等度の大動脈弁閉鎖不全症、高度の僧帽弁閉鎖不全症、そして左室駆出率43%(一時は30%まで低下したといいます)、左室径LVDd 68.6mmと中等度の左室機能低下がみられます。心不全を反映してか、発作性心房細動もみられました。

私たちが平素治療にあたっている患者さんの中ではまだ心機能は良いほうですが、長期間元気に暮らして頂けるよう、できるだけ改善を図れるような手術を行いました。

胸骨正中切開にてアプローチしました。現在ならば小切開で手術するところですが、この頃は標準的切開を用いていました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖でいずれもやや肥厚し短縮し、弁口の中央部が閉じなくなっていました。さらに右冠尖に直径3mmの穴がありこれが後方向いたARジェットの原因と考えました。弁形成よりも生体弁の長期予後の方が良いと判断できたため弁を切除しました。なお右冠尖の穴はHealed IEではないかと推察しました。

ここでいったん術野を移し、左房を右側切開しました。
僧帽弁は前尖・後尖とも器質的変化はなく機能性逆流(つまり左室が弱ったための二次的逆流)の所見でした。

弁輪は後尖側で拡大し、その結果後尖のP2-P3間やP3-PC間も離れて逆流しやすい形になっていました。ただ術前エコーでDCMの左室拡張・球状化のため乳頭筋が後方にずれ後尖のテント化が起こっていましたので、弁輪形成MAPだけでなく乳頭筋操作をくわえることにしました。

まず大動脈弁越しに両側乳頭筋の先端部にゴアテックスCV-5糸を縫着し、これを僧帽弁輪前中央部つまり大動脈弁輪との接点部分に吊り上げました。私たちが考案したPHO法ですね。

その上で左房ごしに、リング26mmを縫着しました。良好な弁の形態とかみ合わせを確認しました。

DCMでPAF様の動悸を訴えておられたことと、将来AFになる懸念が強いことからメイズ手術を冷凍凝固を用いて施行しました。左房を閉じてAVR操作に進みました。

上行大動脈はやや細めながら、この患者さんの体格からはウシ心膜弁21mmが必要サイズであるため、これを工夫して縫着しました。
縫着後、人工弁ごしに左室の人工腱索が良い形であることを確認しました。
体外循環を少量の強心剤ドパミン・ドブタミンにて容易に離脱しました。

経食エコーにてAR、MRの消失と、僧帽弁前尖のテント化の改善、そして僧帽弁後尖のまずまず良好な形態を確認しました。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、術当日夜、抜管いたしました。その後も安定しておられ、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

その後の経過も順調で、遠方からお越しであることに配慮し、十分な運動リハビリを行い、術後2週間半で元気に退院されました。

心臓手術から3年後も、お元気に定期健診のため外来へ来られます。ProBNP(心臓のホルモン)も手術前の2600(重症心不全レベルです)から現在は248まで改善し、お役に立ててうれしい限りです。

 

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執筆:米田 正始
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手術事例:複雑弁形成術を要した腱索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症

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僧帽弁閉鎖不全症のなかでも腱索断裂によるものは弁の逆流が急に発生するため、強い心不全に陥りがちです。

内科での治療では対処できないときには心臓外科で緊急手術をすることがちょくちょくあります。

下記の患者さんは56歳男性で、来院3日前から動悸がひどくなり、息切れも強くさらに血痰まで出たため救急外来へ来られました。

検査の結果、腱索断裂による強い僧帽弁閉鎖不全症という診断で、手術となりました。

胸骨正中切開、心膜切開で心臓に到達しました。

体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は後尖P3(後交連に近い部分)が腱索断裂のため強く逸脱し、慢性MRのためか肥厚・瘤化していました。

さらに前尖A1(前交連に近い部分)に新しい腱索断裂がみられ、逸脱していました。

加えてAC(前交連部の小さい弁葉)が数本の細い腱索の断裂のため逸脱していました。

所見からはP3の腱索断裂が以前に起こり、慢性の中等度のMRがあり、そこへつい最近、A1とACの腱索断裂が加わりSevere MRとなって急性心不全になったものと推察いたしました。

そこでまず上記P3の腱索断裂部・瘤部を三角切除し、P3の残りの部分とPCを連結することで再建しました。

さらにA1の腱索断裂部に前乳頭筋につけたゴアテックス糸4本を人工腱索として縫着しA1が逸脱しないようにしました。
逆流試験にて概ね良好な弁のかみ合わせを確認したためサドルリング30mmにて僧帽弁輪形成術を施行しました。
ここで再度逆流試験をしますと修復部は良好な状態ながら、前交連部で小さな逆流があり、ACの逸脱が残ったためと判断し、A1とP1の一部を連結しかみ合わせの改善を図りました。逆流が軽減したため左房を閉じて大動脈遮断を解除しました。

心拍動下に経食エコーにて弁を調べますと、前交連部にまだ軽度―中等度のMRがあるため、上行大動脈を再度遮断し左房を開けました。

ACの逸脱は弁が薄く弱いため修復が難しいと判断、前交連部のみA1-P1を閉鎖する形で前交連部のMRを消すようにしました。逆流試験でも問題ありませんでした。僧帽弁形成術、完成です。

左房を閉じて大動脈遮断を解除し、体外循環を容易に離脱しました。血行動態は良好でした。

経食エコーにて前交連部にごくわずかなMrがある他は心機能・弁機能とも問題なしでした。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、術翌朝抜管し、一般病棟へ戻られました。

その後も経過は良く、術後9日目に元気に退院されました。

術後2年半ほどのころに、睾丸腫瘍がみつかり、その手術を受けられましたが、心臓は安定しており、腫瘍も良性でスムースに経過しました。

術後3年以上が経ちますが、定期健診に外来へ来られます。僧帽弁閉鎖不全症もほとんどゼロで不整脈もなく、お元気に暮らしておられます。

また外来で元気なお顔を拝見するのを楽しみにしています。

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ワールドカップ2010での雑感

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ワールドカップ2010が佳境に入り、ベスト4が出そろい山場を迎えています。

と言っても私(たち)には岡田ジャパンが善戦健闘し去って行ったときから力が抜けてワールド 岡田Japanは数々の感動を残して去りました カップも何となく終わったような気持ちになってしまっています。国際的視野をと言いながらこれも人情なのかも知れません。

岡田ジャパンは多くの見せ場を造り、私たちを感動させてくれました。皆さん感謝と満足を抱いていることと思います。

ただ前向きに考えると、評論家は守りの充実に比べて攻撃力の弱さを指摘しています。たしかにサッカーの素人である私が見ても、あれっと思うようなシーンが時々あったように思います。うまい形で相手ゴール近くに攻め入るところであっけなく相手方にボールを取られたり、ここだというところで陣形ができていなかったり。そこは歴史ある競合相手でサッカー命の人たちとの試合であるため致し方ないのでしょうか。

小さいころから本格的にサッカーをやるようにというご意見も もっと根底的な観点から、その道に詳しい人たちの議論では、サッカーボールが体の一部になるほどにはなじんでいない、まだまだサッカーとの接点が少ないという意見もあります。こどもたちが自由にサッカーを楽しむような広場や空き地が日本には少ないという指摘も耳にします。

そんな議論を聴いていて、ふと外科医の教育、とくに心臓外科医の教育はと考えました。

日本の心臓外科修練体制はまだまだ国際水準には立ち遅れています。個々の若手外科医は優秀で熱心です。若手のためのチャレンジャーズライブの審判をやっていても国際レベルと比較して決して見劣りません。しかし腕を磨く場が少ない。

かつてアジアは欧米豪と比べてまだまだだなあーと仲間内で語っていたようですが、最近の 今やアジア諸国は外科医教育でも先進国レベルに達しつつあります。 情勢は日本以外のアジアは急速に欧米に比肩する立派な制度を確立しつつあります。若手が十分な経験を安全に積み、一人前になって行く、その教育プログラムに身をおいて精進しておればおのずと立派に育つ、そういう制度ができつつあります。

それを支えているのが施設集約で、アジアの大学病院や基幹病院・専門病院では年間1000例前後が珍しくありませんし、大学病院では心臓センターのような形で独立して柔軟に動けるようになっています。自分の眼でみて、韓国でも中国でも台湾でもマレーシアでもシンガポールでもタイでもそうでした。一体日本より遅れている国がどこにあろうかという実感を持ちました。10年近く前にベトナムのホーチミン市(旧サイゴン市)の依頼を受けて私たちが心臓外科を立ち上げたチョーライ病院も今や年間1000例の立派な施設に成長しています。

それに比べて日本ではどうでしょうか。近年は日本心臓血管外科学会や日本胸部外科学会でも前向きに検討され、施設集約という言葉が半ば合言葉のような位置を得てようやくコンセンサスができたという感がありますが、一人当たりの手術数では海外に比べてあまりに少なく、それはとくに大学病院において顕著です。本来は大学病院こそ腕を磨ける環境というのが世界の常識なのですが日本では正反対になっているのが残念です。

といって大学病院で頑張っている先生方に非があるのではなく、大学病院の仕組みに問題がある、まさに構造的問題です。とりあえず市中病院とくに構造的問題が少ない私たち民間病院が頑張るしかないと開き直っています。とくに大学と協力し、偏狭な学閥を脱却して全国レベルで有意な人材をそだてる、そういう空気と歴史を創っていくことが大切と思います。

サッカーの将来性ある人材を見ていて心臓外科の有為な若手をつい想い、駄文をものしてしまいました。ご容赦下さい。

米田正始 拝

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