第4回ハートバルブカンファランス

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恒例のハートバルブカンファランス(心臓弁膜症のユニークな研究会)が今年は大阪で行われました。当番世話人(会長)は大阪大学の中谷敏教授でした。

例年熱く楽しい、ときには厳しい議論に花が咲く研究会ですが、ことしは中谷先生のご尽力でいっそう盛り上がる内容となりました。参加者も年々増える中、記録となる300人に達しました。

IMG_0204bオープンしてまだ新しいグランフロント大阪のナレッジキャピタルが会場で、便利でした。

まず大動脈弁狭窄症(略称 AS)の治療の最先端が論じられました。

東京慈恵会医科大学の橋本和弘先生が外科のAVR(大動脈弁置換術)の観点から、大阪大学の倉谷徹先生が低侵襲治療の観点からTAVI(カテーテルで埋め込む人工弁)の現況を講演されました。

私は自分の発表を前にしてパソコンが壊れたためその修理に忙殺され、部分的にしか聴けませんでしたが、倉谷先生の「日本人の大動脈基部の構造は欧米人とはちがう」というのが大変印象的でした。例えばバルサルバ洞が狭く、冠動脈入口部の弁輪からの距離が短いとなると、TAVIの際に冠動脈入口部をふさいでしまう恐れが増え、それへの対策がよりしっかりと求められます。欧米のEBM(証拠にもとづく医学医療、またそのデータ)は極めて重要かつ有用ですが、こうした人種差を考慮してベストの医療をこの国で行うことは極めて意義あることと思いました。

それからTAVIではPPMつまり患者さんのサイズや必要度に対して弁が小さすぎるという現象はあまりないという議論も面白いと思いました。軽い狭窄を残しても治療前より明らかに良ければ、患者さんにとって益する治療法ということになれば、より多くの患者さんのお役に立てるでしょう。

大阪大学の前田孝一先生と慶応大学の林田健太郎先生のエキスパートコメントも有用でした。前田先生が報告されたポンプ(人工心肺)下のTAVIは低心機能の患者さんでは有用で、これから心臓外科が循環器内科とハートチームで治療に当たるときにいざというときの切り札のひとつになると感じました。心臓外科と内科が普通のAVR、短時間で植え込める sutureless弁でのAVR、そしてオンポンプTAVI、最後にTAVIというラインナップの中で患者さんに一番適したものを選ぶ、これは治療成績が上がると思います。

林田先生は世界の現況も解説されました。ドイツではすでにTAVIを12万例もやっており、大動脈弁手術の43%を占める、これから二尖弁にもTAVIを検討する、血液透析も視野に入れるなどをお話しされました。TAVIの後もII度の大動脈弁閉鎖不全症を残すと予後が悪化つまり長く生きられなくなるため注意が必要です。

その他、サピエン弁は僧帽弁のバルブインバルブに使えること、コアバルブ弁は小さいサイズの生体弁へのバルブインバルブに適していること、冠動脈狭窄に対するOPCABとTransAortic TAVIつまり上行大動脈ごしにTAVIを入れる手術などもお話しされました。大変参考になりました。

ドイツなどではTAVIの出現後も外科のAVRは減ることなく、TAVIだけが増えるという現象が続いており、つまりTAVIは心臓手術を受けられない患者さんを助けるのに役立っていることを示され、これは以前からヨーロッパの報告で知ってはいたものの、現在も同じであることがわかり、興味深く拝聴しました。

引き続いて高度の左室機能不全つまり心不全にともなう中等度の機能性僧帽弁閉鎖不全症の治療のセッションがありました。

まず大阪大学循環器内科の坂田泰史教授が内科の立場から講演をされました。運動負荷試験とくに運動負荷エコーの有用性を示され、さらに左室の直径(Dd)65mm以上か左室収縮末期容積係数LVESVIが150cc以上が予後不良との中間解析結果を報告されました。私も比較的近いラインをこれまで発表しており、納得できました。さらに右室のDdや右房圧が予後に影響することを示され、これはいっそう同感しました。左心不全は補助人工心臓まで行かずともさまざまな工夫ができますが、右心不全の治療は打てる手がやや少なく、大きなブレイクスルーが必要と常々感じていたため、心強い仲間を得た感がありました。心拍数が心臓の予備力を反映するかも知れないという御意見も検討の価値があると思いました。

私・米田正始はこれまで進めてきた乳頭筋最適化手術(略称PHO)による僧帽弁形成術の最近の成績をご披露いたしました。

これまでこうした心機能の悪い患者さんへの僧帽弁形成術はあまり寿命を延ばさないという報告が多かったのですが、私たちの新しい術式(PHOによる僧帽弁形成術)では5年経っても心不全で死亡するひとが10%と、従来より成績が良いため今後さらに検討して行きたい旨をお話ししました。

このハートバルブカンファランスは症例検討中心の会ですので、心に残る一例をご披露しました。昨年末の日本冠疾患学会でも発表した症例で恐縮ですが、これがこのPHO手術の意義がいちばん判りやすいためご披露しました。

なにしろ、80歳近いご高齢で7年前に左室形成術(バチスタ手術と同タイプの手術です)と僧帽弁形成術を行った重症例でしたが、術後お元気でしたが7年後に大動脈弁閉鎖不全症を発症して僧帽弁閉鎖不全症を合併するに至り、危険な状態になって私のところに戻ってこられたのです。通常なら2弁置換をするか、1弁置換+薬治療で不完全治療で苦労するとことですが、私たちの方法で1弁手術の負担で3弁とも治し、わずか1日で集中治療室を退室されたのは、この手術の良さを示すものと思います。

川副浩平先生や新田隆先生、夜久均先生はじめ多数の方々から貴重なご質問やコメントをいただき、感謝するとともに充実感をもてたひとときでした。

ランチョンセミナーは聖マリアンナ医科大学の鈴木健吾先生の弁膜症における運動負荷エコーの重要性で、大変役立つ、面白い内容でした。鈴木先生は運動負荷エコーはこれまでのドブタミン負荷エコーと比べて血圧や心拍数の増加だけでなく全身の筋肉ポンプからの静脈還流増加も加わりより本物の、生理的な負荷であることを強調されました。運動負荷の終了基準の大切さや、運動で誘発される機能性僧帽弁閉鎖不全症の予後が悪いこと、CPXの有用性、とくにMRの量が15%を超えるといけないこと、大動脈弁膜症などでも手術前にこうして心臓の予備能を知っておくと役立つこと、運動負荷をかける時のエコーの画質の維持、などなど大変ためになりました。

午後のセッションは弁膜症症例を若手中堅の先生ががんばって苦労して乗り切ったケースを発表され、それに対してベテランが辛口の評価をするという面白いものでした。

聖路加国際病院の阿部恒平先生、慶応義塾大学の岡本一真先生、大阪大学の西宏之先生がそれぞれ含蓄ある弁形成手術症例を提示され、みどり病院の岡田行功先生、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、さらに会場のベテランからさまざまな意見が寄せられました。こうした冷や汗症例を提示された若手中堅の先生方に敬意を表するとともに、皆で良いものを創るという方向のワークショップ的なディスカッションの場を企画された中谷先生に世話人のひとりとして御礼申し上げます。

最後のセッションでは同様の苦労症例を内科の立場から提示されました。川崎医科大学の林田晃寛先生、東京大学の大門雅夫先生、小倉記念病院の有田武史先生のいずれの症例も示唆に富むものでした。

女性の透析症例では圧回復現象が起こりやすくASの評価に注意を要すること、心房細動のときには先行RR間隔で計測値を補正する必要があること、PPM(人工弁のサイズが患者の必要に合わないこと)は生存率だけでなくQOLつまり生活の質も考慮すべきこと、巨大左房のAFで弁形成より弁置換すべきかどうか、高度のTRをどうするか、などなど有用な情報が山盛りでした。

なお巨大左房では私たちがこの10年間ちからを入れて来た心房縮小メイズ手術で除細動率が上がり、かつ左房内の血流がスムースになり血栓ができにくくなるため、この手術を取り入れれば今後の治療戦略も変わることを提案したかったのですが、その機会がありませんでした。

高度のTRつまり三尖弁閉鎖不全症では患者さんはたとえ生きておられても下肢が腫れ、体も動かしづらく、見ていて気の毒な状態の方が多いため、もっと積極的に手術を進めるべきであるという意見が多くありました。

世の中では、たかが三尖弁のために大きな創で手術するのは気が引ける、それと三尖弁置換術の長期成績が悪いため三尖弁形成術がやりづらいケースでは何もしない、などの考えが今も多くあると思います。そこで僭越ながら以下を意見させて戴きました。まず現代はポートアクセス法などで小さい創で三尖弁を治せること、そしてもし三尖弁形成術弁が不適である場合、生体弁で三尖弁置換術をやっておけば、将来TAVIでValve in Valveができることをお話ししました。

多くの活発な発表と討論で勉強になったカンファランスは無事お開きとなりました。懇親会でもまだ話が尽きないという印象でした。中谷先生、川副先生、世話人の先生方、ご苦労様でした。

来年度の当番世話人は誰になるのかと思っていたところ、代表世話人の川副浩平先生から私にご指名があり、来年度の当番をさせていただくことになりました。

これまでの同様、あるいはそれ以上に皆さんが楽しめる、勉強できる、普通の学会とは少しちがう良さのある会にしたく存じます。皆さんよろしくお願い申し上げます。

平成26年3月10日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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奈良市エリアでの病診連携

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高の原中央病院にかんさいハートセンターを立ち上げて5ヶ月が経ちました。

とりあえず心臓血管外科だけで出発したのですが、お陰さまで当初から毎週3例ずつ心臓手術を着実に行い、すでに奈良県下屈指の心臓外科施設と言って頂けるようになり、皆様に感謝申しあげます。

この5か月間の経験のなかで、病診連携について、ちょっと思ったことをお書きします。

それは他エリアたとえば名古屋と比べて病診連携が少ないという印象があることです。

私は奈良県生まれの奈良県育ちとはいえ、永い間奈良で仕事をしていませんでしたので、県内の病院医院の事情はまだ十分勉強できていないと思います。しかしそれでも立派な病院や医院が多数あることは知っています。

にもかかわらず、患者さんたちはかかりつけ医の良さを知らない、そういうケースが大変多いように思うのです。

具体的に、ほぼ毎日経験するのは次のシーンです。

私 「かかりつけ医はお持ちですか?」

患者さん 「はい、高の原中央病院です」

私 「、、、、、」

患者さん 「何か問題でも?」

私 「あなたはこの病院の心臓血管外科、循環器内科、消化器内科、外科、神経内科、皮膚科、形成外科に通っておられますね?」

患者さん 「はい。それに眼科にもかかってます」

私 「なるほど。じゃ、インフルエンザのワクチンとか骨粗しょう症の治療はどうしてますか?腰痛もあるようですしメタボもある。薬だけでなく食事療法とか運動療法はやってないのですか?」

患者さん 「、、、、、」

私 「そもそも血圧関係の診察もときどきしか受けていない」

患者さん 「そうです、3か月に1回、お薬をもらっています」

私 「血圧の記録は?」

患者さん 「デイサービスのときに測ってもらってます」

私 「昼間、とくに運動後は血圧が下がるので安全確保には役立たないことがあります。家庭早朝血圧が一番役立つのですが、、、」

患者さん 「、、、、、」

私 「がんの早期健診は?」

患者さん 「胃カメラだけ近くの病院で受けていますが、、、、」

 

こうした患者さんたちは、大病院の多数の科を回り、なおかつ穴だらけ、待合だらけの病院通いを続けておられるのです。患者さんたちの言い分は、「開業医さんは頼りにならない、以前につらい想い出がある」というのが少なくありません。

そこで大病院の多数の科を「かかりつけ」代わりに使うことの無駄と盲点を話し、現代の開業医の先生方によるかかりつけ医の利点を話し、さらに大病院の専門家と親しみやすいかかりつけ開業医のコラボレーションがどのように便利で強力で安全かを延々と話しています。

患者さんにおかれましてはご自身の健康と生活を守るために「医療を上手に活用する達人」になって頂きたく思いますし、開業医の先生方におかれましては「大病院ではできない、開業医ならではの威力を発揮するコラボレーションと患者啓蒙」にさらにちからを入れて頂きたく存じます。

なお心臓以外の領域のご専門の開業医の先生方には、私どもがしっかりサポート致しますし、多少でもご心配な折にはいつでも患者さんに受診して頂ければ幸いです。必要に応じて勉強会検討会などをもったり、一例一例で心臓管理のノウハウが蓄積できるよう、ご協力をいたします。

近々、かかりつけ医の先生方のための心臓講座(仮称)として心エコーや心電図、ワーファリンの使い方テクニック、心血管系の薬の実践的使い方などを考えております。

患者さん、ご家族、開業医の先生方、病院の関係者が一体となって良い地域医療を造れればと思います。皆さんよろしくお願い申し上げます。

 

平成26年2月27日

高の原中央病院かんさいハートセンター

心臓血管外科

米田正始 拝


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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雑誌さわやか高の原から ――米田正始のごあいさつ

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夢に終わりはありません――かんさいハートセンター、まず心臓血管外科開設へ

高の原中央病院かんさいハートセンター 
特任院長・センター長・心臓血管外科部長 米田正始

IMG_0118b皆さんこんにちは。
私は奈良県生まれ奈良県育ちの心臓外科医です。ご縁あって郷里にハートセンターを立ち上げる機会をいただき、光栄に存じております。

心臓外科医ですので心臓を手術で治すのが仕事です。肩書きのうち、特任院長というのはおもに手術だけする院長という気持ちです。実際には他にもやることが多々あるのですが、患者さんを治すことに一番関心を持っているという意味です。

◆気持ちは甲子園球児?

仕事といっても給料をいただいてその分仕方なく義務だけは果たすというのは性に合いません。それでは心臓病の患者さんを助けることはできないからです。少なくとも重症のひとたちは助けられません。熱いこころと患者さんを全人的に診る視点、そして高い技術をもったチームで初めてお役に立てると思っています。おのずと生き方は職人や甲子園球児のようになってしまいます。ただ目の前にある目標に向かってひたすら努力する、俗事は忘れて、厳しいわりにはハッピーで居られる、年甲斐もなく元気に、といったところでしょうか。
といってもチームを守り育てるという立場になって、俗事も大切で、誰か頑張りすぎて消耗していないか、頑張ったひとが報われているか、チーム員の家庭は平和か、若手新人がいきいきと力をつけているか、食わず嫌いのひとにもっと仕事を楽しんでもらえないか、などなど考えることは山ほどあります。

◆若いころ

高校時代は陸上部で長距離を楽しんでいました。よく春日奥山の山頂まで一気に駆け上り、山頂から見る奈良盆地の景色は絶景でした。今は昔ほど体力はありませんが、仕事でも何でも延々と走り続けるのが特技と思っています。
部活に熱中したおかげで大学に入る前に道草を食ってしまいました。ただしそこで、プロの教師と出会うことができ、実力と実績だけで生きておられる野武士のような先生方、いわば教育者の真髄に触れられたことは一生の宝になりました。

大学では気楽に好きなスポーツや勉強などしてすごしました。怠惰な生活だったと反省していますが、友人に勧められて身障者の方々の家庭を訪問してボランティア活動をしながら、将来どんな貢献ができるかを考える機会があったのは幸運でした。それと本ちゃんのESSで全学の友人たちと英語道を少しはかじれたのもラッキーでした。学生時代の最後の2年間は病院実習と称して全国の病院を歩いていました。

大学を卒業してから医局には属さず、天理よろづ相談所病院で6年間研修を受けました。当時はまだ珍しかった総合病棟で総合診療を勉強していました。総合診療ですから内科も麻酔科も外科も救急も含まれ、問題解決能力をつけようという合言葉で学びました。どこまでマスターしたかはともかく、今なお心臓手術対象以外の疾患にも関心があるのはこの研修のおかげでありがたく思っています。それからカナダのトロント大学、アメリカのスタンフォード大学、オーストラリアのメルボルン大学で合計11年間修業を積みました。いずれも風光明媚な、住むだけでも楽しいところで、貧乏でも趣味と実益を兼ねた留学生活でした。先進国の指導者のなかにはすごい人がいます。生涯のロールモデルを得たのも幸運でした。

◆帰国してから

IMG_0119b海外での生活を終えてから京大病院で約10年間勤務しました。その頃大勢の学生や若手を指導する機会を得たのは幸いでした。現在の心臓外科チームもそのころの財産の一部で、教育のありがたさを噛みしめております。頼まれたら断れない性格のためか重症の患者さんをどんどん受け入れ、その多くは元気に退院して戴きましたが、治療の限界を感じることもあり、そこから現在の低侵襲手術、より効率的手術へと改良を加えて行きました。同時にさまざまな制約から公的病院での限界を感じ、民間で真の医療を推進しようと考えるに至りました。

そうした経緯ののち名古屋で2008年10月にハートセンターを新規立ち上げ、志を同じくする仲間たちと楽しい汗を流すことができました。私にとっては見知らぬ地でのスタートでしたが、チーム諸君の奮闘と地域の先生方のご支援を頂けたおかげで名古屋ハートセン

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執筆:米田 正始
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【第五十三号】あけましておめでとうございます

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 【第五十三号】
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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皆様、新年あけましておめでとうございます。

昨年は10月に高の原中央病院・かんさいハートセンターを立ち上げ、まだじっくり

と確実に手術を行い、、といいながらすでに30例の手術を行うことができました。

中にはメジャーなセンターや大学病院でも断られた患者さんが複数含まれており、そ

れらの方々もお元気に退院して戴いたこと、皆様のご協力の賜物と感謝しております

奈良・京都・大阪はもちろん、九州・沖縄や関東などからも多数患者さんにお越し頂

き、御礼申し上げます。

これらの患者さんたちからは、思ったより交通が便利と仰っていただき、恐縮してい

ます。新幹線からの接続や、空港からのアクセスが比較的良いからでしょうか。

紀伊半島沿岸からの患者さんのほとんどはクルマでお越し頂き、道路が良くなって昔

とは大違いと、何かこちらが励まされているようです。

遠方から来て頂くだけの利点が生じるよう、日々良い治療に励みます。

近くの皆様には病院の足腰をさらに鍛えて、いざと言う時の守護神を目指して頑張り

ます。

心臓病患者さんの健康は心臓手術をしっかり行うだけでなく、全身の健康、さらには

心の健康を増進することで確たるものになります。

その視点から、いつも患者さんの人となり、全体像を考えた医療を心がけたく思いま

す。

年末に出版いたしました「正しく知る糖質制限食」という本はその姿勢のひとつのあ

らわれです。ぜひ健康な食生活にお役立て下さい。これは外来の健診や治療とあいま

って威力を発揮するでしょう。

このところ貧乏暇なし状態が続き、恒例の患者さんの会が延期状態になっております

。ちかぢかご連絡を差し上げられるよう、努力いたします。

その他にもNHK講座(京都、大阪、名古屋)や奈良新聞などで私の講演会が予定されて

おります。その講演会のあとにも相談コーナーをもうけ、時間が不足すれば他の方法

で補えるようにと考えております。

世の中には治らない病気もいろいろとございます。しかし治る病気、あるいはうまく

コントロールできる病気が多いのも事実です。心臓病には治せるものが多くあります

ひとこと相談して下さればうまく行ったのに!という経験はこれまでたくさんありま

す。そういう残念が起こらないように、体調がおかしいと感じたら外来その他でご相

談下さい。あるいはかかりつけの先生にまず診察してもらってからご相談というのも

有効な一手です。遠方でも近所でも良い手はあると存じます。

皆で健康を増進し、楽しい一年にしようではありませんか!

勝手なことをいろいろ申し上げましたが、今年もよろしくお願い申し上げます。

敬具

平成26年1月1日

米田正始 拝

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           http://www.masashikomeda.com
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心臓手術を受ける患者さんのためのガイダンス(オリエンテーション)【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月6日

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はじめに 152536310

心臓手術の前にはいろいろと心の負担があると思います。少しでも実際を知り、不要な不安を解消し、前向きに進んで頂ければ幸いです。この記事がそのために役立てばうれしいです。

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◆心臓手術のスケジュー ル:

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思ったより早く進むのですねと言われます。平均ではおよそ2週間の入院となります。

患者さんの重症度やお家の事情、遠方か近くかなどを考えてキメ細かく退院時期を相談していきます。

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◆心臓手術に必要な体力は? A301_089

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手術を乗り切るための体力が必要です。心臓はこれから治すため少々悪くても良いとして、肝臓がひどく弱っている場合は要注意です。

腎臓は機能していないときでも透析でしのげます。肺が弱って肺活量が不十分なこともあります。

こうした重症の患者さんの場合、できるだけ良い状態にもどして、 196741568勝てる確率を上げることが肝要と考えています。

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◆心臓の位置は?

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胸の真ん中から左側にかけてあります。

右胸心の方の場合は真ん中から右側にかけて存在します。

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◆人工心肺・体外循環とは?

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オペの間、心肺の肩代わりをする超重要な器械です(写真左)。

これによって心臓を止めて中に入って病気を治せるのです。

ヘパリンと言う血を固まらなくする薬を使いますので、術後出血がないように、しっかり止血をします。

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◆臨床工学士とは 184701458

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人工心肺や透析、人工呼吸などの器械類を運転し整備してくれます。

医師と一心同体で大切なハートチーム員です。

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◆心筋保護

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手術中、心停止の間、心臓をまもります。

血液にカリウム、マグネシウムその他の保護物質を入れてそれを注入します。

心臓を止めるとか止めないとかではなく、冬眠させ、修理が完了し春に目覚めるという感覚ですね。

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◆ヘパリンとは

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血がさらさらになって固まらなくなる薬です。

心臓手術で体外循環を使うときに必須です。

それが終われば中和して血が固まりやすいようにします。

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◆無輸血開心術

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輸血を一本も使わずに心臓手術を完 遂したときにこう呼びます。自己血貯血をすれば無輸血率が上がります。

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◆輸血の安全性

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肝炎の危険性について、今では輸血1本につき10万分の1未満の危険性があると言われます。

ほとんどゼロに近いのですが、0ではないため、極力輸血をしないようにしています。自己血輸血では肝炎などのリスクはゼロです。

平素エホバの証人の患者さんの無輸血手術に力を入れている努力が、他の一般患者さんの輸血を減らすのにも役立っています。

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Ilm09_ba01019-s麻酔について

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当院では一般麻酔医ではなく、心臓麻酔医が行います。やはり餅は餅屋で、安全性に貢献します。

全身麻酔ですので術中の苦しみや心配はありません。

さらにポートアクセス手術などでは創部に肋間神経があるためこれをブロックし、痛みを消すようにしています。

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◆とくに人工呼吸について

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術中から術直後にかけて患者さんの呼吸が弱いときに人工呼吸器をもちいて人工呼吸します。

オペのあと、なるべくすぐに人工呼吸器から外れると後の回復が速くなります。適宜マスクを用いて肺を守ります。
一緒にがんばって早く元気になりましょう。

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◆モニター

.93750547.

術直後は心電図・血圧・肺動脈圧・右房圧・組織酸素濃度、気管内圧などを同時にモニターします。

安全の確保に大きく役立ちます。

術後、歩けるようになるとモニターの大半は外れています。

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◆手術の後、ICUでは

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状態が落ち着くまで居て頂きます。

心臓手術のあと1−2日でICUを出ることができる方が多いのですが、医誠会病院ではICUに余裕があり、もう少しがっちり治療することもあります。

Ilm13_ag01017-s.

◆心臓リハビリ

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心臓手術のあと、心 臓に無理のない範囲でこれをしっかりと動かすことは大切です。

全身のさまざまな臓器にも役立ちますし、食欲も増進してさらに良くなります。

このリハビリにはとくに力を入れています。術前から練習を兼ねて心臓リハビリに親しんで頂くようにしています。

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Ilm19_cb02020-s◆感染症対策

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きわめて重要です。

術中に徹底した無菌操作を行います。

ちょっとでも感染しそうな動きは厳に戒め、解決しています。
創、肺、下肢の創、点滴ライン、その他細かいところも入念に調べます。

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◆創の痛み

.  A306_081

術後の痛みはあります。

しかし私たちはこれをできるだけ軽くする工夫をしています。正中切開の場合は、安定度が極めて良い胸骨再建をするため胸骨痛を訴えられる患者さんは少ないです。

ミックス手術(ポートアクセス手術)のときには上記のように神経ブロックをして痛みを減らします。

これは効きます。

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◆入院期間

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通常は平均術後10日ていどです。A309_047

5−6日でどんどん歩行し退院できる患者さんも多いのですが、あまり早期の退院にはこだわっていません。自宅へ帰ると間も無く社会復帰・仕事復帰という線を狙っています。また患者さんのご希望や状態によって調整します。

また遠方の患者さんの場合は若干時間をかけて安定度を上げてから退院して戴くなどしています。

独り暮らしの方の場合も同様に配慮しています。

逆にお仕事などの都合で早く退院したい方の場合にも配慮や支援をしています。

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Ilm18_aa04014-s◆社会復帰とその時期

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通常は退院後1か月で仕事復帰して戴くようにしています。

これは胸骨正中切開の場合です。

皮膚や筋肉などの治りはもっと早いのですが、胸骨は通常は完全になるまで3か月以上かかります。なので当初は重労働や重いものを持つ作業や車の運転は避けるようにお願いするのですが、私たちの場合は強固な胸骨再建のおかげでより早期の復帰ができています。退院後まもなくクルマ運転できる方が多いです。→→もっと見る

ポートアクセス法手術(ミックス手術)の場合は骨を切らないためもっと早く社会復帰できます。

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◆クルマのA303_009運転

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仕事の復帰に準じます。

前述のように私たちの病院では車の運転も早くなる傾向にあります。

ポートアクセス法手術の場合は骨は切りませんのでもっと早くから運転復帰できます。

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◆外来通A308_011

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通常退院後1か月でご来院いただき、

経過が良ければ次は3か月後、さらに6か月後と伸ばしていき、

その後は年1度でフォローアップしています。

もとの病院やかかりつけ医と協力して全身を守りながら進みます。

 

もちろん患者さんの状Map41-2態によってその間隔は自在に調整します。

たとえばまだ不整脈が出やすいとか胸に水が貯まりやすいなどの場合は早めに外来に来ていただき、安定を図るようにします。

九州・沖縄・東北・北海道など遠方の方の場合は、地元の病院と連絡を取って安全な態勢をつくり、かつ余裕をもってお帰り頂けるように少し長めの滞在にしています。

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◆心臓手術の成Illust1441

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重症の患者さんでは危険性も上がります。

それをできるだけ下げる努力をしています。

リスク補正した全国平均の死亡率と私たちのそれを比較しますと、私たちのそれは全国の半分以下です。

そもそも断られた患者さんが多数含まれるためなかなか厳しいですが、その多くが元気になっておられるため、ますますこの努力を続けます。

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◆イン Ilm17_bc01015-sフォームドコンセント

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その患者さんの手術のメリットと危険性を具体的にご説明します。

心臓手術は一生に一度あるかどうかのおおごとですので、

十分な時間をかけてお話しし、納得できるまでご質問を受けるようにしています。

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◆看護023師さん

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昔は看護婦さんと呼びましたが、医療のプロとして敬意をこめてこう呼ぶようになりました。

平素のお世話をしてくれるのは彼女ら(彼ら)です。

彼女らとのチームワーク、患者さんも含めた全体のチームワークはとても大切です。

看護師さんからのオリエンテーションもありますので、しっかりと聴き、またご質問ください。

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◆おわりに

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心臓手術 Ilm09_aj06015-sは全身をまもって初めて意義のあるものになります。

何かと大がかりですが、それが患者さんを守ります。

いのちだけでなく、活発で楽しい生活を守ることにもつながります。

患者さん・ご家族ーコメディカルー医師全体のチームワークが大切ですし、なにより患者さんご自身が生きたいと強く念じて一緒に頑張って下さることが良い結果につながりやすいのです。

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154411073◆ひとつお願い

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もし悩みや疑問、苦情その他がありましたら遠慮なく担当医や私までお願いします。

細かいことでも結構です。

それらを解決すること自体が大切ですし、くわえて治療成績やチーム力がさらにあがり、お互いに得るものが多いのです。

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◆患者さんの想い出:

心臓手術の患 A81218100者さんにもさまざまな病気、年齢、状態があります。それぞれに対応した手術が必要です。

Aさんは80歳男性で、遠方の紀伊半島南部からお越し下さいました。

大動脈弁、僧帽弁、三尖弁すべてが壊れて心不全になっておられました。

80歳と比較的ご高齢であったため、体力の負担を減らす目的でミックス法で心臓手術を行いました。

Ca010a-s胸骨の下半分を切って心臓に到達し3つの弁を直しました。

そのおかげで術後は痛みも軽く、大きなオペの割にはスムースでまもなくお元気に退院されました。これからこうした方法が主流になっていくのでしょう。この手術は画期的と評価されYoutubeにもUpされました。

その後も外来でお元気なお顔を見せて下さいます。遠方から私たちを信頼して来てくださる、そのこと自体が大変光栄でうれしいことです。ひとつでも多くのことでお役に立ちたい、そう思います。

Aさん、これからもお元気で楽しくお過ごしください。

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米田正始が考案した術式は

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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奈良市エリアにおける心臓手術について

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註:平成27年6月をもって米田正始は高の原中央病院を退職いたしました。開設時からいた心臓外科スタッフもすでに全員異動いたしました。

奈良の地にどんな心臓病にでも対処できる、ちからのあるハートセンターを立ち上げ、他で断られた患者さんを救命するなど一定の実績を上げることはできましたが、病院の事情によりあまり大きな手術やリスクの高い重症の治療ができなくなったためです。

現在は大阪府内の二つの病院(医誠会病院(外来・手術)、仁泉会病院(外来)で本来の断らない心臓外科医療ができるようになりました。

心臓病で何かお困りの際にはご相談ください。お役に立てれば幸いです。

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平成25年10月に高の原中央病院かんさいハートセンター心臓血管外科を開設させて戴き2か月あまりが経ちました。

お陰さまで毎日張り切って楽しい汗を流すことができています。チームも日々進歩の跡がみられ、立派に育ちつつあります 奈良県と奈良市。関係の皆様に厚く御礼申し上げます。

奈良市(右図の赤いエリア)の北端にある高の原中央病院の中にハートセンターを立ち上げることを考え始めたのは約1年あまり前のことでした。

私自身、郷里の奈良県で心臓外科医としてのライフワークを完成するとともに、お世話になった地元の方々に何か恩返しをしたいという気持ちが以前から強くありました。さらに両親がそろそろ歳とって多少でも親孝行の真似事でもしたいという事情もありました。

奈良市は1300年前にこの国の首都があった地ですが、近年は大阪や京都に近く、大都市近郊のベッドタウンとして大きく発展し、全国でもトップクラスの人口急増地帯としても知られています。いわば古くて新しい街です。

 

医療面ではどうでしょうか。数年前奈良盆地南部で産科患者さんの不幸なたらいまわし事件があり、奈良県の医療体制のあり方が問われ改善努力がされていますが、心臓血管外科でも課題はあると言われます。

心臓手術ができる本格施設は奈良市には存在しないのです。京都府南部に若干の施設がありますが、大きな実績や成果を上げている施設と言えば心もとないとよく言われます。

 

心臓血管外科の領域では奈良市はエアポケットのような場所というわけです。

病院あるいは内科としては積極的に急患を受け容れて救命活動でめざましい躍進を遂げておられる市立奈良病院や、救命救急センターをもって北和を守るという位置づけにある県立奈良病院(現、奈良県総合医療センター)をはじめとして、岡谷病院、西ノ京病院、西奈良中央病院などの病院群、そして開業医の先生方など、地域医療に邁進して来られた病院・医院が多数あり、エリアとしてのポテンシャルは高いと個人的に思っています。

それ Ilm22_ba01056-sらの病院で心臓手術が必要な患者さんをいつでも、重症でも、しっかりと受け容れる施設が待たれていたのです。

このことは事前に調査をしたときに多数の方々からご教示頂きました。

 

そこで私たちは高の原の地にかんさいハートセンターを立ち上げました。

これは理事長の斉藤守重先生と昔から交流があったことや、副理事長の斉藤正幸先生が高校の後輩であったことなども幸いしました。

 

京大病院や周辺の救急病院、そして豊橋ハートセンター名古屋ハートセンターなどの民間専門病院の良さを併せ活かせるべく、それらでのかつての仲間が集まり、かつ貴重な経験やノウハウを結集しました。

私にとってはさすがに郷里で、地元の友人や先輩後輩の皆さんからさまざまなご要望を戴き、うれしく思っています。

 

これから断らない医療、患者目線の医療で奈良市やその周辺部の皆様のお役に立てればこれほどうれしいことがありません。


ただ患者さんを受け容れるだけで Ilm03_ba08001-sなく、これまで奈良県ではできなかった患者さん本位の手術たとえばエキスパートチームにしかできない複雑な弁形成術や、それを少ない苦痛と早い社会復帰で支援するポートアクセス手術などのMICS手術に代表される先端的治療でもお役に立てればと念じています。


実際、かんさいハートセンター心臓血管外科がスタートしてまだ2か月あまりの短期間に、すでに緊急手術や大学や有名センターで断られた患者さん、あるいは内科の先生にギブアップされていた重症の方々が順次生還され元気に社会復帰しておられます。

中には山を越えて大阪、京都、熊野、尾鷲や和歌山、津市や桑名などからお越し下さった方々や、東京、新潟、名古屋、九州、四国、沖縄などから来て下さったかたもあり、光栄なことと感謝しています。

 

逆に、重症例や稀な疾患で培った経験を地域医療のなかで活かしていければとも思います。

地域医療での心臓手術と言えば、通常は冠動脈バイパス手術弁置換術大動脈手術どまりですが、それでは地域の多様なニーズにはこたえきれないからです。

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地域の医療機関の先生方におかれましては、心臓手術が必要かも知れない、あるいは診断もまだ確定していない段階でもご相談頂けましたら内科と外科の複眼の視点でベスト治療を組み立てられると存じます。

結果的に心臓病以外のものであったという場合でも患者さんが安心してその病気の治療に専念できる基盤を造れるという意義があります。

 

地域の市民、患者さんたちにおかれましては何か心配な、あるいは納得できないものがあればセカンドオピニオンあるいは外来相談の形で私たちにお気持ちをぶつけて頂ければ幸いです。

やはりじっくり本音で相談し、データやガイドラインなどをもとにして、科学的客観的に考えることが患者さんを救います。不要な手術を避けることもできます。

さらにご紹介いただいた患者さんを手術や治療後に逆紹介させていただくのは当然ですが、これまでかかりつけ医をお持ちでない患者さんが多いため、本紹介させて頂くことが多々ございます。「かかりつけ医をお願いいたします」というお手紙をお送りしましたら、よろしくご検討をお願い申し上げます。

奈良市や周辺エリアの心臓外科医医療でお役にたてるよう全力あげて頑張ります。よろしくお願い申し上げます。

 

平成25年12月22日

 

高の原中央病院かんさいハートセンター

心臓血管外科

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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第27回日本冠疾患学会の報告記

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この12月13日ー14日に和歌山で開催された日本冠疾患学会に参加して参りました。

この学会は冠疾患つまり狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の診断や治療を内科と外科の両方で協力して論じ、学ぶ会として発展してきたものです。

JCA27HPそのため、この2年あまり世界的に認められるようになったハートチームを提唱する魁とも言える立派な学会で、いつもそうした交流のなかで学ぶことが多いため、私は好んで参加しています。

今回はまず前日の理事会や評議委員会などの重要会議に出席する予定でしたが、かんさいハートセンターで緊急手術があり、どうしても私がやらねばならない、以前からなじみのある患者さんで、4回目の心臓手術(再々々手術)という大変リスクの高い状態でしたので、学会にお願いして理事会を欠席させて戴きました。

しかしお陰さまで緊急手術はうまく行き、大動脈弁を置換し、僧帽弁(人工弁)は形成して治すことでスムースに経過しました。

その日のよるから和歌山に入りました。

今回は和歌山県立医科大学・循環器内科の赤坂隆史教授が内科系会長を、同大学第一外科(心臓血管外科)の岡村吉隆教授が外科系会長を務められ、いずれもハートチームにふさわしい立派な先生方で、昔からお世話になっている畏友でもあり、張り切って参加させて戴きました。

今回の学術集会は華岡青洲から引用された「内外合一」という、ハートチーム時代にふさわしいもので、内容的にも内科外科それぞれの進歩だけにとどまらぬ、共同作業とも言える内容が随所にみられ、学ぶことの多い学会だったと思います。

スペースの都合で、ここでは私関係の活動報告を主にさせて頂きます。

まず初日の第17回再灌流療法フォーラムでは上松瀬勝男先生と本宮武司先生らのご厚意で外科系講演という栄誉を賜りました。

内科系は国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長の安田聡先生の微小血管レベルでの再灌流障害と心筋保護というテーマでお話しされました。平素の疑問点に応えてくれる、優れた内容のご講演だったと思います。カテーテルによる冠動脈造影でも映らない細い血管が患者さんの予後に影響を与えており、これからこうした細動脈にもっと目を向けるべきと思いました。

ご意見を求めて頂きましたので、心筋梗塞後の左室破裂の所見や対策についてコメントさせて戴きました。これは病理的には心筋解離によるジグザグ型破裂で、その出口つまりre-entryの位置によって左室破裂心室中隔穿孔VSPかに別れ、治療法も部位により工夫するが基本は同じことをお話ししました。

私は外科手術(on-pump、off-pump)後の再灌流障害というテーマで講演いたしました。現代主流のオフポンプ冠動脈バイパスでは虚血再灌流障害はかなり少なく、特殊な状況たとえば急性心筋梗塞後のバイパスなど以外ではもはや再灌流障害は見られず、これも治療成績の進歩に役立った。しかし心臓を止めて行う通常型の心臓手術では、重症例を中心にまだ虚血再灌流障害を見ることがときにある。それに対するさまざまな対策をこれまでの研究データをもとにしてお話ししました。

たとえばポリフェノールを心臓手術の前に投与しておき、十分な抗酸化対策を立ててから手術すると、虚血再灌流障害はうんと軽くなる、あるいは他の薬剤たとえば free radical scavengerなどを用いても同様の効果が見られるなどですね。

この問題は心臓手術や急性心筋梗塞後の治療だけでなく、心筋梗塞後慢性期の心不全にも大いに影響し、これへの対策が大きな意味をもつことを、ACE/ARB研究やHANP研究、さらには再生医学でも酸化ストレスを減らす治療で長期的な心機能を改善することを示しました。

虚血再灌流障害の治療からもっと幅広く酸化ストレスの対策までを臨床から再生医学まで論じ、この領域の重要性をお示ししましたが、座長の上松瀬先生から壮大なお話しとお褒めいただき、恐縮してしまいました。

ともあれこのテーマのおかげで虚血再灌流障害をもう一度勉強しなおし、おまけに肺や肝臓などのそれも理解が進んだのはありがたいことでした。

会長要望ビデオのセッションでは、同時間のシンポジウムに私の発表が重なったため、高の原中央病院かんさいハートセンターの増山慎二先生に代演してもらいました。

虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療の努力ということで、私、米田正始のオリジナルの2手術を発表して戴きました。ひとつは拡張型心筋症や左室瘤に対する新しい左室形成術、一方向性ドール手術で、いまひとつは機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋適正化手術(papillary heads optimization, PHO)でした。

会場から温かいコメントを頂いたようで、皆様に感謝申し上げます。増山先生、ご苦労様でした。

その発表と並行する形で、「この症例をどうするか」というセッションで最近私たちが経験した感動の症例を提示しました。お便り99に掲載した患者さんで、普通ならもうダメ、どうにもならない状況から元気に退院して行かれたケースでした。

私にとっては京大を辞めてから6年、日々磨きあげて来た新しい心臓手術の成果を端的に発揮できたケースでした。かつて助けられなかった患者さんへの想いや、これほどまでに私たちを信じて頑張って下さったこの患者さんへの感謝の念、そしてその間私に協力してくれた多数の方々への熱い想いが重なって心にしみるものがありました。

医学的には、こうした難症例の治療の選択肢をいくつか提示し、その中にはこれから普及するであろうTAVIやM clipなどのカテーテルベースの治療も含めて内科外科の皆さんと議論しました。

これほどの低心機能の患者を7年も生存させているだけでも素晴らしいとお褒め戴き恐縮しました。ともあれ、これからもっと記録を伸ばしていけると思います。患者さん、頑張って下さい。

夜の懇親会では楽しいひと時を持つことができました。余談ながら和歌山城が見える会場は素晴らしいとあらためて感心しました。

よく2日目は主に勉強させて戴きましたが、最後のセッションは内科外科合同のパネルで、左冠動脈主幹部病変や多肢病変への内科外科のアプローチというテーマでした。大阪大学の南都伸介先生と私、米田正始で司会をさせて頂きました。

Syntaxトライアル5年後の結果がでて、複雑冠動脈病変は基本的に外科手術つまり冠動脈バイパス手術が勧められるというガイドラインが出て、たまたま天皇陛下のバイパス手術などもあり、世の中は外科のほうに揺り戻しているように見えます。

しかし内科の御意見としては、すでに次世代のステントが広く使われており、Syntaxのころより優れた結果を出している、これからガイドラインも再検討すべきという声がありました。

一方、外科の御意見として、オンポンプバイパスが中心のSyntaxと違って日本ではオフポンプバイパスが中心であるため、外科はより一層安全で有利、だからガイドラインは一層外科寄りであるべきという空気がありました。

それぞれ優れたものがより優れた結果を目指しての内容で、素晴らしい議論と思いました。元小倉記念病院チーフの横井宏佳先生はより良いハートチームという観点からエビデンスとエクスペリエンス経験をそれぞれEBMとレジストリーからデータを出して極めていくべきと提唱されました。

近年カテーテルのときに多用されるようになったFFRをもっと活用して、より実際に合った適応やガイドラインを提唱されました。またDAPTと呼ばれる強い抗血小板治療の考え方やハイブリッド治療の重要性にも言及されました。

これから日本独自のより正確で安全なガイドラインへ向けて研究を進めて頂ければとお願いしてしまいました。

いろいろと勉強できる優れた学術集会になったと思います。会長の2先生や関係の皆様に御礼申し上げます。

平成25年12月21日

米田正始 拝

 

 

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執筆:米田 正始
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奈良新聞 「市民公開健康講座:最新心臓手術を解説」

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IMG_0079bこの12月18日に奈良市西部市民会館にて市民公開健康講座でお話しさせていただきました。この様子を奈良新聞が報道してくれました。

心臓手術の最近の情勢と心臓病のお話しをまず行いました。さらにその心臓病の予防の仕方(予防が第一!)、予防しきれないときの早期発見・早期治療の仕方までお話ししました。狭心症・心筋梗塞とPCI(カテーテル治療)や冠動脈バイパス手術、さらに弁膜症弁形成術あるいは創が小さいポートアクセス法などのMICS手術大動脈解離大動脈瘤などの大動脈手術などをお話ししました。

加えてこうした病気の予防や、心臓手術のあとで体調が良すぎてメタボにならないよう科学的ダイエット(糖質制限食、ローカーボダイエット)のお話もしました。

私の話にひきつづいて栄養士の余呉さんがこの糖質制限食の実際を解説してくれました。

当日は大きなホールが満員に近い盛況で、最近私たちのグループで出版した「正しく知る糖質制限食」という新機軸の教科書も40部準備していたのが完売になりました。

多くの方々にご興味を持っていただきうれしいことです。

これから皆さんの健康増進、そして心臓病の予防や早期発見・早期治療から心臓病の克服へ進んで行きたく思います。

ご参加の皆さん、天気の悪い冬空の中を多数お越しいただきありがとうございました。

 

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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米田正始・かんさいハートセンター長が荒井正吾 県知事を表敬訪問

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月刊奈良12月号(平成25年)から

心臓外科医としてトップクラス 月刊奈良表紙の医師、米田正始・高の原中央病院かんさいハートセンター長が、このほど、新しく県内のハートセンター長に就任した報告を兼ねて、荒井正吾知事に表敬訪問した。

米田ハートセンター長は「奈良県生まれで奈良県育ちの私が、県内のハートセンター長になることができて、とて もうれしく思います。心臓の悪い患者さんのために”どんな場合でも断らない医療”をしていきたいと考えています。県の役に立つ医療実現のためにがんばりたい」などと就任のあいさつをした。荒井知事は「とても心強いです。断らない医療は大事です。がんばってください」などと激励した。

米田さんは1955年奈良県生まれ、1981年京都大学医学部卒月刊奈良記事業。県内の病院で研修後、1987年海外へ。カナダのトロント大学やアメリカのスタンフォード大学を経て、メルボルン大学ではオーストラリアで70人しかいない心臓血管外科医に選任された。1998年には帰国して、京都大学心臓血管外科教授に。その後、名古屋や豊橋ハートセンター副院長を経て、今年10月に高の原中央病院ハートセンター長に就任した。3700例以上の心臓外科手術の執刀経験があり、”神の手”といわれるほどの高い評価を受けている。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第五十二号】科学的ダイエットの本を出しました

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 【第五十二号】
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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すっかり寒い季節になりましたが皆さんいかがお過ごしでしょうか。

郷里の奈良に「かんさいハートセンター」を立ち上げて1か月半が経ちました

が、お陰さまで大変忙しくさせて頂いております。関東、九州、沖縄はじめ遠

方からも、近郊からも患者さんがお越しくださり、ひとつでも二つでも多くお

役に立ちたいと頑張っています。

高の原中央病院かんさいハートセンターのご案内はこちらです
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2013/08/khcopen.html

この件はちかぢかのメールマガジンでご報告させて戴きます。

今日のお話しは、待望の科学的ダイエットの本をようやく出版いたしました、

そのご案内です。

「正しく知る、糖質制限食」
~科学でひも解くゆるやかな糖質制限~

NPO法人日本ローカーボ食研究会 
技術評論社 刊

以前からローカーボダイエットつまり糖質制限食を自分の趣味として、さらに

心臓手術後の患者さんの健康増進のために勉強して参りました。

とくに心臓手術の患者さんについては、手術後に心臓が良くなると、ご飯がお

いしい、体調が良くなったということでふっくらとなる方が少なくありません

。それ自体はうれしいことなのですが、そのままにしておくと、メタボになり

かねません。そこで心臓が良くなったのを受けて、食生活や運動などもリセッ

トしましょうという啓蒙活動をしているわけです。

とくに食事は大切です。というのは人間のからだは省エネ設計になっており、

多少運動してもそれだけで痩せることは難しく、やはりダイエットとセットで

行ってこそ効果があるからです。

さらに、これまでのダイエットはどうしてもお腹が空く、つまり根性に支えら

れる傾向が強く、結局長続きしませんでした。

何事も、楽しく面白くやれることが大切と思っています。

そこでこのローカーボダイエット、糖質制限食なのです。

ただしすでに同様のタイトルの本は多数世に出ています。一種のブームになっ

ているのです。ところがそのほとんどが非科学的、民間療法的で、そこに書か

れた内容をそのまま実行したらがんや動脈硬化つまり脳卒中や心臓病さえ増え

る懸念があるのです。

それではせっかくの糖質制限食が消えてしまうため、私たち臨床経験の豊富な

医師が集まってNPO法人日本ローカーボ食研究会を立ち上げ、その事業の一

つとして上記の本を企画したのです。

そのご案内は次のページをご参照ください。
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2013/11/cardtextbook.html

私のHPのメディアのページにもその概説が載せてあります
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/01/post-0f92.html

じっさいこの糖質制限食のおかげで、心臓手術を受けられない状態の患者さん

の状態が良くなり、それからゆうゆうと手術を受けて元気になられたという方

がすでに10名を超えています。この本ではそうしたケースも一部ご紹介して

います。

これらをご参照のうえ、健康生活を楽しんで頂ければと思います。

判りにくい点や込み入ったご質問などは私(一般内科外来は米田医院でやって

おります)や名古屋エリアでは灰本先生、安井先生、小早川先生、中村先生は

じめ著者の先生方の外来で聞かれるのも一法かと思います。

民間療法ではなく、健康管理のひとつとして行うのが理想的ですので、医療と

いいますか、ある意味、予防医療としてきちんと行うと安全安心で効果も大き

いからです。

ともあれ皆さんの御意見を楽しみにしております。

蛇足で恐縮ですが、インフルエンザワクチンがそろそろ役立つ季節になりまし

た。多少のお金がかかるのが弱点ですが、それをはるかに上回るメリットがあ

ると思います。とくに心臓病や糖尿病、肺疾患、がんその他をおもちの方々に

は命を救う結果になるほどの効果があります。

その記事はこちらにあります
https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/11/post-b85d.html

ぜひご検討下さい

それではみなさん、お元気にお過ごしください。

敬具

平成25年11月20日

米田正始 拝

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