第三回春日井ハートフォーラム

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5月15日土曜日に第三回春日井ハートフォーラムが開催され、講演させて戴きました。

心臓血管外科手術のお話を実際の症例、とくに春日井市や可児市エリアの先生からご紹介頂いたケースをもとにいたしました。

一例目は二弁置換術後25年の50代患者さんで、心不全が進み、左室駆出率が16%(正常 重症の患者さんでは体力がないため、より一層の慎重な治療戦略が大切です。 値はおよそ60%)で来院されました。症状も強く、しかも肝臓が傷みつつあるため早く手術してあげたいのはやまやまですが、状態が悪いため、まず内科治療つまりストレス軽減や塩分制限、食養生から適度な運動などの方法でこれを改善し、勝てる確率を上げる努力を行いました。

状態がかなり良くなってからポイントを絞った手術でスムースに元気になられ、10日ほどで元気に退院されました。

手術中の所見では、25年前に僧帽弁の位置に取り付けられた人工弁(機械弁つまり金属の弁です)にはパンヌスと呼ばれる患者さんの組織がくっついて動きを妨げ、弁機能不全に陥っていた上に、昔の人工弁縫着部が裂けてそこから血液が逆流していました。そこでこの人工弁を周囲の組織を壊さないように注意して取り外し、新しい人工弁を取りつけ、さらに前回裂けていた部位を補強し、手術は完了しました。

もうひとつの人工弁は調子上々のためそのままにし、別の弁(三尖弁)は僧帽弁が良くなればおのずと良くなるだろうという予想どおり、無手勝流で逆流ほぼ解消しました。患者さんの状態が良ければ三尖弁も修復したかったのですが、それに体力が耐えられない可能性があったため、結果も良いためちょうど最適のラインで手術できたものと考えました。

Ilm01_ab01012-s 医学の進歩、心臓血管外科の進歩でこうした弁膜症の術後、長年経過した患者さんは増えています。名古屋ハートセンターへはこうした患者さんが毎月複数来られます。こうした患者さんではさすがに永い間にさまざまな無理が弁や心臓に起こり、そのままでは危ない状態の方も多いです。しかもこの患者さんのように、他の病院で手術危険と断られたり、内科の先生もどうしたものかと悩まれることはよくあります。そんなときお力になれればと思います。こうしたことを討論させて戴きました。

また外科は手術するだけでなく、心不全や全身管理に詳しい内科の先生方と協力して手術前から手術後長期間にわたって患者さんを守る努力をすることが大切であることもお話し、良いご意見を多数戴きました。

もう一例、比較的珍しい心臓の悪性腫瘍つまりある種のがんの患者さんの手術をご紹介しま Family02 した。がんが何と心臓の中に発生し、肺動脈や心臓の右心室の出口がつまりそうになり、強い心不全症状が出て、もうあと1カ月ももたない、無理すればまもなく突然死しかねない状態の患者さんでした。救命手術として腫瘍の大半を取り、血液はきれいに流れるようになり、患者さんはすっかり元気になられました。できるだけ永く効果が持続するように、いくつかの隠し味手術を併せ行いました。腫瘍を100%完全に取り去るためには心臓を全部取り去り心移植するしかない状態でしたが、80歳近いご年齢では心移植は許されないため、まず当面元気に生きて戴くことを目標として手術したわけです。

私は年間2000例の、日本では考えられないほどの手術をやっていたカナダの病院で6年以上修行し、こうした患者さんを10例あまり診ていました(英語論文248番をご参照ください)。その中に3年以上元気に生きてくれた患者さんもあり、1年以上元気に暮らしたあと心移植で完治した方もあったため、ケースバーケースである程度まとまった年月をまずまず元気に過ごせることを知っていたため、一層前向きの治療になりました。願わくば患者さんが充実した毎日を、永く続けて頂ければ、患者さんや皆の努力は報われると思います。こうしたケースをめぐって建設的な討論を行いました。

薬剤溶出ステントの一例です  そのあと、最近患者さんが増えている虚血性僧帽弁閉鎖不全症のお話をしました。心カテーテル治療とくにPCI(カテーテルによる冠動脈の治療で、ステントとくに薬剤ステントDESなどを使います)の進歩で、狭心症や心筋梗塞の患者さんの多くは救われるようになりました。素晴らしいことです。ただ永い間には、病気も進み、何度もPCIが必要になったり、また心筋梗塞を起こしたりで、心臓が次第に動かなくなり、左心室が崩れて僧帽弁が逆流するケースが増えました。これが虚血性僧帽弁閉鎖不全症(略称IMR)です。

つまりIMRは弁膜症の形をした左室の病気です。それで治療も弁だけでなく左室をできるだけ治すことが予後の改善に役立つことをお示ししました。皆さんのご要望で、実際に動いている心臓を外側内側とも手術で治すビデオも見て戴きました。ちょっと気持ち悪いとの声もあとでお聞きしましたが、心臓って結構治せるんだねと言って頂きうれしく思いました。

実際PCIを繰り返し、IMRの状態になってもそのまま薬だけで何となく放置され、次第に亡く Ilm17_ca06006-s なっていくというケースが多いことは知られています。やはり内科と外科の協力でカテーテル治療では治せなくなった患者さんを一緒に守る、手術で良くなるケースでは手術を行い、そのあとも薬や心臓リハビリうまく駆使して心機能を回復させる努力をする、これが大切です。

フォーラムのあとの懇親会ではビールを酌み交わしながら面白いお話を聴かせて戴きました。心不全で肝臓が悪くなった患者さんでは心臓を治せば肝臓も改善するのですが、もともと肝臓が悪い場合の見分け方など、非常にレベルの高いディスカッションもでき、充実した楽しいひとときでした。またエコーの技師さんや薬剤師さんらもお越しいただき、それぞれの大切な役割を共に認識できたのもうれしいことでした。

お世話下さった灰本クリニックの灰本先生に厚く御礼申し上げます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り25 連合弁膜症の患者さん

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患者さんとのお付き合いの中で信頼を得ることは医師医療者としてもっとも大切でうれしいこ 和歌山県の花です とです。

私個人の信頼のバロメーターとして、

かつて手術した患者さんのご家族が心臓手術が必要となったとき、

自分たちの病院へ来て下さるかどうかを重視しています。

 

下記の患者さんは以前に3度目の手術のため和歌山県から来て下さった患者さん(お便り5の方です)の奥様です。

奥様も連合弁膜症にかかられ、是非にということでハートセンターまで来て下さいました。

この信頼関係を私たちは大変うれしく光栄に思いました。

一見お元気そうでも、精密検査しますと心臓への無理がかなりかかっており、

近い将来状態が悪化することが明らかになりました。

連合弁膜症の名が示すように、複数の弁が壊れており、心臓やからだへの負担が普通の弁膜症よりも大きいのです。

 

日米のガイドラインでこれは手術が勧められるというレベルに達していたため、手術をお勧めしたわけです。 

 

以下の3つはその患者さんのご家族からのメールです。許可を得て掲載いたします。

********** 以下は手術直後のメールです **********

米田先生御机下

お世話になっております。23日の手術が無事終了し、有難うございました。手術では思いがけない血管病変があったようで、私たちの中で母のリウマチについては記憶が薄れていましたので情報としてお伝えできず申し訳ありませんでした。

12,3年前に白血球数と炎症反応が高く精査したところリウマチ疑いの診断をうけ、特に治療はしていませんでしたので、そのままとなっていました。昨年の父の手術に続き今回の母の手術に関してもハートセンターでお願いできてよかったと家族で喜び、感謝しております。

3月27日、28日に面会に行きましたが、手術後4日目にして元気な姿に驚きました。少し声が出にくいと聞いていましたが普通に話ができ食事もおいしいと言っておりましたし、28日には5階へ部屋替えとなり安心しました。

また、*先生へのご配慮も有難うございます。27日に父が帰省し*先生に受診した時に、米田先生から連絡があったと話されたようです。

これからも、よろしくお願いいたします。

********** 以下は退院時のメールです **********

米田先生御机下

今日、母親が無事に退院ことができ、本当に有難うございました。昨年の父親に引き続き、米田先生をはじめ先生方や看護師の皆様には家族全員が感謝をしています。

昨年の父親は3度目の手術でしたが、体調も悪く手術を迷うことはありませんでした。しかし、今回の母親は体調も日常生活に支障がない程度でしたので先生からの診断を受けるまでは将来的に手術を考えていましたが、早い時期での手術の大切さを聞いて手術をすることにしました。

手術では予想外の病変があって難しい手術になったそうですが先生方のおかげで予定通りに終えることができました。

心臓手術という大きな手術を二人が受けて、ともに元気になり、退院できたことは家族にとって本当にうれしいことです。これからも夫婦でハートセンターにお世話になりますがよろしくお願いします。

********* 以下は退院2週間後のメールです **********

米田先生御机下

退院して2週間がたちましたが、体の痛みも軽くなり母親の体調は順調に良くなっているようです。

電話の度に手術をして良かったと言っており、27日に名古屋に行くための切符を買うなどの準備をして活力も出てきています。
19日には*先生に受診をしてワーファリンが中止となりました。

父親と母親の二人の心臓手術が無事に終わり、おかげさまで二人とも元気になりました。特に母親は心臓以外に特に悪いところがなかったせいか二つの弁置換、一つの弁形成という大手術でしたが回復の早さに家族も驚きました。

これも米田先生をはじめハートセンターのスタッフのみなさまのおかげだと感謝しております。

 

HPの件は父親の時と同様、 先生のお役にたつことでしたら使って頂き、少しでも他の患者様、そのご家族の方々が私方のような思いを共有する事ができたらと思っています。

27日に受診をしますが、これからもよろしくお願いします。

********* 以下は退院半年後のメールです **********

米田先生 御机下

御無沙汰しております。3月の母の手術から半年が経過しました、おかげさまで体調も良く、元気を取り戻しています。9月の20日、21日に両親と私の家族と5人で京都へ行ってまいりました。

和歌山と京都は近いのですが、二人とも奈良、名古屋の病院には縁があっても旅行には縁がなかったようで、?十年ぶりにもう一度京都に行きたいとのことで今回の旅行に乗り気となっていました。

これも、今は二人とも体調がいいからそういう気持ちになったんだと思い、先生に願いして良かったとつくづく感謝しております。

旅行の計画を始めてからは、二人とも2カ月近く、毎日夕方に紀ノ川の河川敷でウォーキングをして準備をしていたと聞き楽しみにしてもらえたことをうれしく感じました。また、利尿剤服用中の不安もあったようですが、問題もなく安心したようでした。嵐山はトロッコ電車から人力車にのり緊張したようです、清水寺の階段が心配でしたががんばっていました。

今回のような親孝行ができたのも、父親についてはもちろんですが、母親の早期の手術をすすめて頂いたことのおかげだと思っています。両親が体調がいいと喜んでくれると、手術をすすめてくれた米田先生、それを受け入れてくれた三浦先生の2人の先生に出会えてよかったと話しています。親孝行をさせていただきありがとうございました。お忙しいところ、ずうずうしいとは思いますが写真をみて頂けると嬉しいです。

先生のご健康と、ますますのご活躍をお祈りしています。

 

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執筆:米田 正始
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②b 大動脈弁置換術について―より安全に、より快適に【2020年最新版】

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大動脈弁2最終更新日 2020年2月27日

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◾️大動脈弁置換術とは?

.

強い狭窄(狭くなること)や強い閉鎖不全(逆流すること)を起こした大動脈弁が、

弁形成に適しない状態のときに、

その壊れた弁を切除し、人工弁で置き換える手術です。

 .

大動脈弁狭窄症の場合は

弁が硬く厚くなっていることが多いため弁形成術には適せず、

その多くに大動脈弁置換術が行われます。

10代―50代などの若い患者さんや二尖弁の患者さんでは形成を行うことも増えましたが。

事例 病気を多くもった患者さん
事例: 冠動脈病変を合併した患者さん

.

大動脈弁閉鎖不全症では弁の破壊が少なかったり限局されていることが多く、

大動脈弁形成術になることが少なからずあります。

 .

◾️大動脈弁置換術での人工弁の選択は

.

tissue_valve大動脈弁置換術には患者さんの年齢やライフスタイル、

とくに職業や妊娠出産の希望、スポーツの好み等に合わせて

機械弁(金属の弁)と生体弁(ウシやブタの組織でできた弁)を使い分けます。

生体弁(左写真)と機械弁(右下写真)の特徴や選択上の注意については生体弁をご覧ください

 .

大動脈弁に縫い付けた機械弁は、僧帽弁の場合と比べるとワーファリンもやや少なめで使えるというメリットがあり、

生体弁もこの弁につけた場合は僧帽弁につけた場合よりやや長持ちします。stjudevalve

 .

◾️大動脈弁置換術のリスクは

.

大動脈弁置換術は他臓器に病気がなければおよそ1%の死亡リスク(危険性)で手術できます。

逆に成功率99%とも言えます。

オペしない場合のリスクがそれより明らかに高い場合、オペが勧められます。

これはガイドラインどおりです。

 .

大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術を行う場合、いったん心臓手術を乗り切ればその後の心機能や経過は良好です。

それで90歳代のご高齢患者さんでも意欲のある方や体が元気な方には手術をしています。

高齢者の事例
事例: 突然死寸前の状態で来院された患者さん
事例: 肝臓がんと大動脈弁狭窄症)
事例:大動脈弁狭窄症と脊椎後弯の女性)

.

一方、大動脈弁閉鎖不全症に大動脈弁置換術を行うとき、

術前の左心室の状態がひどく悪いときは予後に注意が必要です。

たとえば左室駆出率が30%を割るようなケースではリスクはやや高くなり、

より慎重な戦略が威力を発揮します。

私たちは術前の駆出率が10%台の重症患者さんでも、内容を吟味し、勝てると踏めば、さまざまな工夫をこらして手術しています。たとえば乳頭筋最適化手術を組み合わせて心臓の保護や強化を図ります。

 .

◾️ミックスでの大動脈弁置換術

.

新しいポートアクセス法さらに患者さんにやさしいミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術)を推進しています。

動脈硬化があまりない患者さんでは右胸に小さい創を開けるだけで大動脈弁置換術ができます(ポートアクセス法)が、

動脈硬化のある患者さんの場合は正中線での小切開で行うようにしています。

これにより、痛みを減らし、早期の社会復帰を支援し、

また小さい創で患者さんの気持ちを和らげるようになれば幸いです。

 .

Doctor01メモ1: 大動脈弁を生体弁で取り換えれば、手術から回復したあとは健康人と見分けがつかないほどになります。

心音も普通の音とほとんど同じです。

心房細動などの不整脈がなければ術後約1カ月でワーファリンのお薬も不要になります。

一方機械弁の場合でも昔と比べるとカチカチした音はずいぶん静かになりました。

もちろん弁そのものが高性能で長持ちするという機械弁のメリットは健在です。

 .

今後の方向として

カテーテルをもちいた大動脈弁置換術(TAVIタビ、経皮的大動脈弁植込術)がハイリスクな患者さんなどを中心に増えるものと予想されます。

まだまだ問題・課題はあるようですが、今後の展開が期待されます。

 .

メモ2: 大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術の日米ガイドラインはこちら

また、大動脈弁閉鎖不全症に対する心臓手術ガイドラインはこちらです


メモ3: 患者さんの想い出はこちら

 

.

質問1:慢性腎不全 Ilm09_ag07002-sのために血液透析を受けている患者さんでも大動脈弁置換術はできるのでしょうか?

回答1:できます。

通常は問題なくできますが、上行大動脈に石灰化などの動脈硬化の変化が強い場合には工夫が必要です。

通常ならここをゴムのついた道具で軽く遮断して心臓を止めて中へ入るのですが、

上行大動脈が硬化で悪くなっていると

遮断や遮断解除の際に石灰その他が外れて飛ぶ可能性があり、やや特別な工夫をして対処します。

 .

Ilm09_ad06001-s質問2:大動脈弁置換術前の注意点は?

回答2:病気によりますが、とくに大動脈弁狭窄症(弁が狭くなります)では

無理をすると突然死などの心配があるため走ったり怒ったりというのは控えるようにして下さい。

大動脈弁閉鎖不全症の患者さんでも

気を失ったり胸が痛むなどの場合は主治医に連絡されるのが良いでしょう。

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名城病院について―よりよい地域医療と患者さんのための連携を

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国家公務員共済組合連合会・名城病院は昭和26年に開設され、昭和37年に現在地(名古屋城の近く)へ移転さIlm09_af13005-s れました。平成13年に現在の立派な建物が建設され現在に至っています。ベッド数364床を有し、循環器や脊椎センターその他の専門診療部門を有する総合病院です。

私たち名古屋ハートセンター心臓血管外科は比較的近隣ということもあり、これまで相互に補い合う形で医療連携を進めてきました(というよりお世話になっております)。名古屋ハートセンターは足腰が強く夜間や祝祭日を含めて緊急や救急に強いため、大動脈瘤切迫破裂や急性大動脈解離、あるいは不安定狭心症複雑弁形成心不全などの患者さんを受け入れ、逆にがんや脊椎疾患、泌尿器科、呼吸器内科その他の患者さんを名城病院へご紹介し、患者さんに喜ばれています。

最近の医療情勢の変化を受けて、名城病院では救急とくに循環器・心臓血管外科の救急ができにくくなったと聞いています。心臓外科医をめざす若者が減り、心臓外科医不足が急速に進み、大学医局も対応できなくなったためと思われます。

そうした情勢のもとでも、病院の特徴や自分たちができることを踏まえつつ、これまで以上に病病連携を強め、双方の患者さんの治療成績を一層上げ、より良い地域医療へ貢献できるよう努力したく思います。

 

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名古屋医療センターについて

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名古屋医療センターは創立120年の伝統ある総合病院です。

 

第三次救命救急センターであり、かつ地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも大きな164 貢献をされ、心臓病、脳神経、血液・内分泌代謝疾患、整形外科その他を幅広く担って来られました。

私たち名古屋ハートセンターも呼吸器疾患、耳鼻科疾患、消化器疾患の治療やエイズその他の疾患の予防などでご指導を戴くなどお世話になっています。

同時に私たちの循環器専門病院しかも民間の柔軟な体制で、さまざまな緊急手術たとえば急性大動脈解離腹部大動脈瘤破裂、感染性心内膜炎(IE)その他を受け容れてまいりました。

 

Ilm09_ag04005-sこれまで心臓血管外科でも地域医療に貢献してこられたと聞いています。

ただ残念なことに、最近の医療崩壊、医師不足や医局のマンパワー力低下などのためこの立派な基幹病院の心臓血管外科も医師が補充できなくなり、心臓血管外科としての医療を停止されたとのことです。

名古屋医療センターから紹介された患者さんたちからお聞きしました。

 

私自身の経験でも、医療センターつまり昔の国立何々病院というのは医療崩壊が起こりやすい構造を持っており、心配していたことでした。

他の都市にある医療センターでの経験ですが、

手術に対する制約が大変きびしい、

安全管理部と称する部門があって多少でもリスクの高い患者さんは安全のためということで手術を禁止する、

公的資金の援助が豊富なためか、医師もコメディカルも他病院よりずいぶん多い、

しかし内容ある仕事はしづらい、

事務が威張っていて若手医師などに横柄な態度をとる、などですね。

これらもあって若手医師が医療センターを嫌うのか、などと感じました。

 

また他の医療センターへバチスタ手術心室中隔穿孔VSPの再手術など難しい手術の指導に行ったときも、大変な手術を半日かけて行い患者さんを救命した結果が家庭教師のアルバイト代程度の報酬で、

なるほどこれほど医師のプロフェッショナル技術を軽視するのでは将来が見えない病院だろうと実感してしまいました。

 

名古屋医療センターは上記の他医療センターとは多少とも異なるのかも知れませんし、偏見なくものを見ることが大切かとは思います。

ただこうした元国立病院、独立行政法人・医療センターが抱える問題は、メディアや口コミなどで伝えられるものとも自分自身の実感ともほぼ一致します。

上記の懸念はやはり現実のものなのでしょう。

 

Ilm09_ag04004-s 加えて全国的に若い医師が心臓血管外科を進路として選ばない傾向が強まっています。

昼夜を問わず患者さんの救命のために頑張る心臓血管外科と、もっと楽な科とが同じ扱いであることへの不満が若手の心臓血管外科離れの原因になっているものと思います。

大学医局も心臓血管外科医師を病院へ派遣できないわけです。

これらの要因が重なり名古屋医療センターの心臓血管外科診療停止になったものと拝察します。

 

私たちは循環器専門病院としてこうした病院と連携し、弱点を補いあって地域医療に貢献したく思うものです。

ここまで夜中週末祝祭日を問わず、救急も断らず日々努力して、また地域の皆さまのご支持を頂いて、名古屋の心臓血管外科の中でも屈指の実績を開院1年半で上げることができました。

厳しい医療情勢ではありますが自分たちの特徴を活かした地域医療・循環器専門病院としての先進医療への貢献をさらに進めたく思っています。

 

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お便り24 IHSS(大動脈弁下狭窄症)等の患者さん

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患者さんは80歳女性で、

高度の大動脈弁狭窄症(AS、つまり大動脈弁が狭くなります)、

冠動脈3枝病変(心臓へ血を送る血管が詰まっています)、

特発性肥厚性大Health_0048動脈弁下狭窄症(IHSS)

しかも脳出血後の状態で来院されました。 

ここで特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症というのは、略称IHSSとも呼び、

弁の下の筋肉が張り出して血が流れにくい、危険な状態です。

重症では突然死されることさえあります。

肥厚性閉塞性心筋症HOCMと同じ意味でつかわれることもあります。

 

患者さんは脳出血の後で車いす生活でもあり、私は手術をやや消極的に考えていましたが、

車いすの上で意識が薄れる発作が出現し、

いのちが危険な状態となったため、

患者さんやご家族と相談のうえ、

危険回避のために手術することにしました。

 

手術は大動脈弁置換術(AVR)

冠動脈バイパス手術(CABG)

左室流出路異常心筋切除を行いました。

術後経過も順調で意識が薄れることもなくなり、お元気に退院されました。 

その後はお元気に楽しい生活を送っておられます。

 

手術前、脳出血の後遺症がある中を、生きるために自らじっくり考え、決断し、

手術を受けますと言って下さったときの毅然としたお姿が今も脳裏に焼き付いています。

 

ある程度の高齢者の患者さんの場合は、

心臓手術のような大きな治療を手控える傾向が患者さんにもご家族にも社会全体に感じます。

とくに公的病院では手間のかかるケースやリスクの高いケースを安全管理委員会の名で断ることがよくあると言います。

しかしこれほどしっかりした患者さんなら、

手術後の充実した人生を有意義に過ごして頂けると思いましたし、

その通りになったように思います。

 

その患者さんのご家族からお礼のお手紙を戴きました。以下に掲載します。

 

 

****************************

謹啓

お便り24の実物写真 春寒しだいに緩む頃、益々ご健勝のこととお喜び申しあげます。
さて、このたびは心臓弁膜症の手術に際しまして大変お世話になりました。

 

今まで足腰以外に悪いところはないものと思っておりましたのに、二月の初めに検査にて、**病院の**先生に「心臓弁膜症です。すぐに手術をしたほうがよろしいですよ。しなければあと数年です。」と突然言われまして、どうしてよいか分からずに、目の前が真っ暗になり、相当ショックを受けました。

八十歳と年齢も高く足腰も悪いのでとても手術なんて無理と思い、また手術に対する恐怖もありまして不安でいっぱいでした。

そのような時にご紹介いただきました。

米田先生の「大丈夫ですよ。元気になれますよ。」と暖かく優しく力強いお言葉に励まされ、急なことで心の準備もできませんでしたが母も手術を決心することができました。Hana_9

米田先生をはじめ他の先生方のおかげで手術も無事に成功し、命を永らえることができましたことは言葉では言い表せないほど感謝申し上げております。

「先生は命の恩人です。生かしていただいた命を大切にしたい。」と母も心より喜んでおります。今後は療養に努め焦らずゆっくりと元気を取り戻し、楽しい余生を過ごすことができればと思っております。

米田先生、本当にありがとうございました。書面にて失礼ながら今後ともお世話になります。なにとぞ宜しくご指導賜りますようお願い申し上げます。

謹白

平成二十二年三月七日

 

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岡山の循環器エキスパートミーティング

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4月17日に岡山で開催された循環器エキスパートミーティングに参加してきました。

(以下、ちょっと専門的ですみません、

一般の読者諸賢におかれましては専門用語を飛ばしてお読みいただき、

先端技術を開発する努力が行われていることを主に見て頂ければ幸いです)

 

岡山大学(伊藤浩教授)と川崎医科大学(吉田清教授)の循環器チームの合同研究会の第一回の集まりで、

光栄なことに講演で呼んで戴きました。

多数の先生方が参加され会場はにぎやかでした。

とくに若い先生方が多いのが良かったと思います。

 

プログラムは二部構成で第一部は機能性僧帽弁閉鎖不全症(略称FMR)をテーマとし、

第二部は循環器の再生医療をめぐってのお話でした。

 

第一部のテーマである機能性僧帽弁閉鎖不全症というのは僧帽弁そのものは壊れていなくても心筋梗塞や心筋症のため左心室が悪くなり、

その結果、左心室に支えられた僧帽弁がうまく作動しなくなる病気です。

たとえば心筋梗塞のあとに起こる虚血性僧帽弁閉鎖不全症心エコーの発展進化には目覚ましいものがあります その代表例です。

 

まず川崎医科大学の大倉宏之先生が機能性僧帽弁閉鎖不全症でレニン・アンギオテンシン系の果たす役割を論じられました。

エコーの権威にふさわしく、エコーでの指標で患者さんの予後や治療方針をより正確にきめるためのヒントを下さいました。

たとえばE/e’ (イーオーバーイープライム)の有用性をこれまでの指標 decceleration time DTや駆出率、有効逆流口面積(ERO)などと併せて解説されました。

E/e’が15以上やDTが140ms以下あるいはERO>20mm2では要注意。

 

そのうえでレニンアンギオテンシン系の薬剤たとえばACE阻害剤やARBで機能性僧帽弁閉鎖不全症FMRの予後がどのくらい改善されるか考察されました。

機能性僧帽弁閉鎖不全症の各指標たとえばテント化面積等と予後の関係を説明されました。

 

これも実感があり、

私たちは手術のときに僧帽弁テント化をできるだけ減らす工夫をしており、

それによって機能性僧帽弁閉鎖不全症が再発しにくく、患者さんは安定して元気になりやすいのです。

また手術をしない場合はもちろん、手術をする場合でも、

術後にこれらのお薬(ACE阻害剤等やβブロッカーも)をしっかり使って心臓や心筋をさらに良くする私たちの努力を論じました。

こうした努力で患者さんの予後は一層良くなることをご紹介いたしました。

 

ついで斎藤顕先生が機能性僧帽弁閉鎖不全症のときの僧帽弁や弁下組織のジオメトリーを実際のエコーデータをもとにして詳述されました。

患者さんによってはテント化面積(TA)が増えれば前尖がそれを補うかのように大きくなることを、

独自の三次元エコープログラムを用いて示されました。

確かに手術の際、そうしたケースを見ることがあり、

自然の妙に感心するとともにエコーの精度や情報量もここまで進化したものと感心しました。

前尖と後尖のかみ合わせの深さ(Coaptation Length)が短くなると機能性僧帽弁閉鎖不全症が起こり易く、

とくに後尖中ほどついで後交連側でCLが短くなることを示されました。

普段、経験的に感じていることをきちんと測定し数字で表わされる技術に感心しました。

 

虚血性MRの基本方針 第一部のトリ(光栄です、吉田先生・皆さんありがとうございます)として

私が外科の観点から機能性僧帽弁閉鎖不全症解決の努力の跡をご紹介しました。

 

機能性僧帽弁閉鎖不全症は弁膜症の顔をした左室の病気であること、

それゆえ手術や治療はできるだけ左室そのものを治すようにしていることを示しました。

さらにこれまで問題とされた前尖のテント化左室形成術セーブ手術ドール手術バチスタ手術など)または弁下組織の手術でほぼ解決でき、

現在は後尖のテント化の手術法開発に努力していることをご紹介しました。

最近は後尖のテント化もほぼ解決できるようになり、

今後、手術法として世界に発信して皆さんのお役に立てればなどと期待しています。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症の手術前後の変化を数例のエコーなどの実データでお示しし、

さらに拡張型心筋症に合併した機能性僧帽弁閉鎖不全症でのデータも見て戴きました。

 

総合ディスカッションでは多数の前向きのご質問をいただき、光栄に思いました。

とくに伊藤浩教授はこれまでの豊かな臨床経験に裏打ちされたご質問やコメントを下さいました。

たとえばCRTを十分に薬(ACE阻害剤やβブロッカーなど)を使わずに入れる世間の風潮に対して警告を発しておられるなどは、

循環器の臨床を深く理解した良心的なご方針で感嘆いたしました。

 

第二部は再生医療それも最先端のお話で、

岡山大学循環器疾患集中治療部准教授の王英正先生と、

慶応義塾大学循環器内科教授の福田恵一先生というこの領域のトップオーソリティのお話でした。

 

まず口火を切って岡山大学の赤木先生が肺高血圧症の新しい治療法をご紹介されました。

岡山大学の肺移植日本一の実績をもとにして多くの検体やデータからエポプロステノールという薬で肺血管を和らげる方法を説明されました。

 

王先生は以前、京都大学病院の探索医療センターで准教授として心臓幹細胞の実用化に向イメージ けて努力され、

実際の患者さんに応用する手前の段階まで行ったのですが、

残念ながらそこでプロジェクトが時間切れとなってしまった経緯があります。

当時、私も心臓外科として参加させて戴き、

タイミングさえ許せば王先生の心臓幹細胞を私の虚血性心筋症の患者さんの手術時に移植し、

患者さんの心機能をさらに改善する治療を行う予定でした。

王先生の相変わらずエネルギッシュなお姿と、

新天地でご活躍のご様子に触れ、うれしく思いました。

準備が進めばいずれ臨床応用まで進められると確信しています。

 

福田先生は幹細胞をもちいた再生医学・再生医療のオーソリティーで以前から何かとご指導戴いている先生ですが、

この3月に慶応大学医学部循環器内科の教授に着任され、名実ともに日本の循環器再生医療のリーダーの一人になられた先生です。

 

淡々とした語り口調のなかで、福田先生がこれまでやってこられた膨大なお仕事(幹細胞とノギンやG‐CSFその他)のエッセンスを改めて見ることができ感動しました。

幹細胞から心筋細胞を誘導するのは以前から福田先生の芸術的技術ですが、

最近はあのiPS細胞でもそれが実現し、さまざまな応用を検討しておられるようで、

これまた感心いたしました。

 

iPS細胞は、ご存じのように京都大学の山中伸弥教授が2000年代中ほどに動物ついで人間でも確立された将来の夢の幹細胞です。

患者さん自身の細胞たとえば皮膚などの細胞にある種の遺伝子(ヤマナカファクターと呼ばれます、これを発見したこと自体が奇跡と言われます)を入れて、

ES細胞などとそっくりな性質を再現するものですが、

そのiPS細胞から心筋細胞が誘導つまり造れるとなれば、さまざまな応用が見えてきます。

たとえば特発性心筋症その他の心筋症での心筋細胞を造り、病態の解明や治療法の開発にはずみがつきます。

その心筋細胞をもちいて新薬の開発、いわゆる創薬も進むでしょう。

新しい抗がん剤などもその患者さんの心臓に副作用がないことを確認できるようになれば大きな進歩になると思います。

 

そして最後にそのiPS由来の心筋細胞を心筋症・心不全の患者さんに移植する、その道が少し見えたように感じました。

そのためにどの経路で細胞を患者さんの心臓まで届けるか、

あらたな細胞シートの開発なども含めて研究を進めておられることを知り、大変勇気づけられました。

細胞シートの間でもちゃんと電気的興奮が伝達できるレベルに達している(つまりシート同士が機能的につながっている)のはお見事でした。

iPS細胞由来の心筋細胞は造ることができても、それを患者さんに直接注入するまではまだ時間がかかるとのことでしたが、

将来はいけるのではと思いました。

 

エキスパートミーティングの後は懇親会という立食パーティで皆さんとゆっくりお話できました。

学ぶところの多い会で大変感謝しつつ帰りの新幹線に乗りました。

お世話下さった吉田清先生や川崎医大の先生方、伊藤浩先生、ありがとうございました。

 

2010年4月18日 米田正始

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り23 僧帽弁置換術の患者さん

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患者さんは鹿児島在住の40代の女性です。

 
20年近く前に地元の病院で僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連切開術を受けられました。

Tutuzi房中隔欠損症への手術も合わせて受けられました。

 

その後お元気にしておられましたが、僧帽弁は次第に再狭窄(せまくなることです) を起こし、

さらに三尖弁閉鎖不全症や慢性心房細動AFも合併したため

2度目の心臓手術が必要と言われました。

2度目の手術はご自分の納得行く病院でと考えられ、

熟慮のうえで名古屋ハートセンターまでご来院されました。

 

そして手術(僧帽弁置換術三尖弁形成術そしてメイズ手術)を受けられ、

心不全はもとより不整脈(心房細動)も治り、順調な経過で退院されました。

 

近年は狭窄といえどもなるべく弁を形成するようにしていますが、

この患者さんの場合は僧帽弁が石のように硬くなっていたことと、これで最後の手術にしようという考えで、僧帽弁置換術を行いました。

 

私たちは患者さんがじっくり納得行くまで調べ、

そして私たちの治療を求めて遠方からお越し下さったことを光栄に思い、

チーム全員、張り切って手術と治療をさせて頂きました。

遠方からも多数の患者さんが来て下さいますが、

距離のハンデを埋めるべく一層の努力をしています。

治療前からお互いの信頼関係があるとき、医療はスムースに進みます。

医療の原点と思います。

 

以下はその鹿児島の患者さんからのお手紙です。

 

*********** お手紙 ***********

 

米田先生、北村先生・深谷先生・小山先生、スタッフの皆さま

お久しぶりです。

手術の時は大変お世話になり有難うございました。

手術する前は、階段を上がることもできず主人に背負ってもらいながら周りの冷たい視線を気にしていたものでした。

 

今は、手術が無事に終わった喜びと、自分が正しい選択「病院」が出来たことへの満足の毎日です。

私は、今回2度目の開心術でした。

同じように心臓病で悩んでいらっしゃる方にとって、少しでも参考になれたらと思い、今までの経過を書いてみました。

 

最初の手術は1992年、地元の病院で受けました。

生まれつき心臓に穴があいている「心房中隔欠損症」と「僧帽弁狭窄症」で、

手術は無事成功して元気に過ごしていました。

 

今から5年前(2005年)、「心臓粗動」という不整脈になり、

カテテーションアブレションで根治手術を受け、

その時の説明の中で「僧帽弁狭窄症」は軽症という診断でした。


不整脈が治った喜びもつかの間、3年後(2008年)、

「心房細動」という不整脈になり手術が必要と言われました。


手術を受けるなら再手術の危険性も考えて自分で納得できる病院を見つけようと思いました。

大学病院の先生に手術の事を相談し、

ハートセンターへの紹介状を書いてもらいました。

私の住んでいる所から遠い病院です。

 

米田先生のブログを目にする機会があり、

先生の医療に対する取り組み、考え方に感動して、

まだ会ったことのない米田先生への尊敬の気持ちから手術をするならこの先生にお願いしたいと思ったからです。


「弁置換(僧帽弁置換術)なら手術方法にたいした差はないですよ」


「メイズ手術もこれくらいの心臓の大きさなら縮小手術はしませんよ」

 

そう言われてはいたのですが、不安な気持ちの中、初診で初めて米田先生にお会いした時、私達夫婦の「お願いします」という言葉に「はい、解りました」と答えてくれた米田先生の言葉でほっとしたのを今でも覚えています。


手術説明も解りやすく丁寧に話してくださり、

不安な気持ちも半減し安心して手術を受けることができました。

 

術後はスタッフの親切丁寧な看護のおかげで経過も良く、

日ごとに体調も回復していきました。

それと院内がとても明るく綺麗で、快適に入院生活を過ごすことができ、

また隣にマックスバリューもあり買い物とかも非常に助かり便利でした。


これからは塩分・水分の制限に気をつけながら毎日過ごしていきたいと思います。


有難うございました。

これからも宜しくお願い致します。

平成22年4月

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【第十二号】 サリドマイドの病気メカニズムが解明

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【第十二号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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かつて悲劇の合併症を世界的に引き起こした睡眠剤・サリドマイドが四肢の奇

形を起こすメカニズムが最近、解明され3月12日付の米科学誌サイエンスで

発表されました。朝日ドットコムによれば、東京工業大と東北大のグループが、

サリドマイドの副作用にかかわる体内のたんぱく質を見つけ、動物実験で確か

めたのです。サリドマイドが手足の発育に重要なセレブロンというたんぱく質と

結合し、その働きを邪魔するために、手足の小さいこどもが生まれることが動物

実験で証明されたわけです。

医療と医学のつらい歴史の中で画期的な業績と思いました。

サリドマイドで悲劇的な合併症が1960年ごろから発生してメカニズム解明まで

実に50年近い年月がかかったわけで、医学・科学の研究とはそれほど大変で難

しいものであるというのを改めて痛感します。

 

では悲劇の発生の防止に50年もかかったかと言えばそうではありません。臨床

医の経験や勘、そしてデータの検討から早い時期にサリドマイドの有害性は指摘

されていました。行政がそれを直視した対策をとっていなかったことが被害を大き

くした主因でした。

そこで一つ思うことは、科学的「因果」関係が重要であることは確かであって

も「連関」関係だけでも急場をしのぎ多くの人たちを助けることができるとい

うことです。

昔アメリカのスタンフォードで虚血性僧帽弁閉鎖不全症の研究し

ていたころ、僧帽弁や左室のジオメトリーの変化と僧帽弁の逆流の因果関係を

調べていて、それがほぼ因果関係と言えるレベルのものであっても、完全に科

学的にそうとは言えない、そうしたときに連関関係 associationという表現で正

確を期すように恩師に教えられたものです。

つまり科学的な厳密さを追求することの意義は大きくても、それに長大な時間

がかかりその間に多数の犠牲者がでるよりは、統計上の連関だけで警告と予防

措置をとり、被害を食い止め、その間に真実を証明すればよいわけです。現代

の生物統計学、医療統計学、臨床疫学は多数の犠牲者を救えるだけの方法論と

信頼性を持っていると思います。

 

たとえば一万人単位の妊婦さんでデータをとらせて頂き、服用薬剤などをすべて

記録し、手足の発育障害の原因になり得る要素たとえば心臓や骨その他の遺

伝性疾患などもできるかぎりチェックし、それ以外の一般データとともに多変量

解析すればサリドマイドが有力な要因として統計学的に浮かび上がってくるは

ずです。

かつての日本では学問や科学を厳密に追求するあまり、多数の被害者を出した

ケースが薬害などで多々あり、学問や科学のありかたにある種の疑問を抱かせ

ることがあったことは残念なことです。かつてアインシュタインは言いました

。科学研究とは単に知識や情報を増やすためにやるのではない。ヒューマンな

目的性が必要という主旨です。サリドマイドの経験からこうしたことを再確認

すべきと思います。

2010年4月11日 米田正始

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログ

のコーナーから一部抜粋・転載いたしました)

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三重県の救急医療体制と心臓血管外科

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2010年4月13日の中日新聞29ページ(医療ページ)に三重県の救急医療に関する記事が医療崩壊や救急医療の問題は全国的なものですが、三重県ではより深刻な状況です載っていました。

その記事の見出しを列挙しますと次のようになります。

「「受け入れ困難」改善遠く」

「救急体制強化急ぐ三重県」

「伊賀 7病院が拒否 女性死亡」

「減る医師数 即効策なし」

「三重県の搬送難 中部地方で突出」

 

三重県での心臓血管外科の体制も同じ問題があるようです。

名古屋ハートセンターがオープンして1年半の間に、

名古屋に近い三重県北部の四日市市、桑名市、鈴鹿市、いなべ市はもとより山間部の亀山市、伊賀上野市、名張市、時には中部の津市などや伊勢市、松阪市、志摩市さらには尾鷲市などからも患者さんがハートセンターへ心臓手術を受けに来院して下さいます。

聞けば近くの病院では受け入れてもらえなかったといいます。

 

それらの患者さんは比較的難易度の高い心臓手術たとえば複雑な弁形成や状態が悪い慢性血液透析冠動脈バイパス手術とか、

再手術の複合手術たとえばバイパス手術+二弁手術後の3弁手術、

あるいは心機能が低下した心筋症+弁膜症、

今にも突然死しそうな状態の弁膜症患者さんなど、

一般にハイリスクと呼ばれる心臓病の患者さんが多かったです。

あるいは速やかな治療や対応が必要な心臓病患者さんなどでした。実際危険な状態で、外来即入院といったケースもありました。

 

苦労して救命した患者さんの退院日は感動の日となります こうした心臓病患者さんたちを三重県内ですぐに受け入れられないのであれば、

あるいはリスクが高すぎるというのであれば、

私達がお役に立てる限り受け入れていきたく思うのです。

地域医療が医師不足で大変困った状況にある今日、

どんなハイリスクでも重症でも迅速に受け入れて治療や手術をせよというのは、

病気の守備範囲が広く予算も限られている地域の病院には少々酷であり、

ハートセンターのような専門病院はそうした方々のためにも存在すると思うのです。

 

伊勢自動車道や東名阪自動車道など高速道路網の充実高速道路網の充実で距離のハンデは大きく減りました によって三重県からの名古屋市へのアクセスもずいぶん改善されました。

地元の病院・医院と連携し、遠方からでも来て良かったと言って頂けるよう、チームとして全力をあげています。

外来受診から方針決定まで3往復3週間(ときに4往復4週間)という大学病院などの公的病院ではできない、

1往復数時間の患者目線の医療をチーム全員で努力して支えています。

大学講座人事に依存した従来型の病院が医師不足で動けない状況にある現在、

こういう県境を越えた地域医療、医療連携も有意義ではないかと思うこのごろです。

 

距離は多少遠方であっても心は遠方とは限らないのです。

 

2010年4月14日 米田正始

 

 

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