事例: 僧帽弁の再々々手術をミックス法で

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機械弁つまり金属でできた人工弁は多くの弁膜症患者さんをお助けして来ました。

今後もその貢献は続くでしょう。

しかし自然の弁とくらべて弱点があり、注意が必要です。

以下の患者さんは10年前に他院(関東地方)にて機械弁の手術を受けられました。

Gum06_fr01002-sその2年後、感染つまりばい菌が機械弁を襲い、弁が外れていのちの危険が迫ったため、再度機械弁を入れる手術を受けられました。

しかし人工弁は異物であり、ばい菌に対する抵抗力はありません。これが自然の弁と大きく違う点のひとつです。

ばい菌がいるところへ人工物・異物を植え込まざるを得ない状況から、また新たな感染が起こり、新しい人工弁もまたはずれるという事態が起こったようです。

こうして2年後に3度目の僧帽弁手術を同じ病院で受けておられます。

3度目の手術で何とか落ち着いたようですが、やはりまた弁を縫い付けたところの一部が外れ、そこから血液が漏れ、逆流したようです。

Scho049-sこういう場合、その逆流は次第に増加し、そのために溶血(血液が壊れる)が起こり、高度の貧血のために頻繁に輸血を行わねばならなくなりました。

また溶血が続けば腎臓が次第にやられていきます。

人工弁とその周囲の逆流による貧血、心不全、腎機能障害、そしてやむなく輸血を続けておればいずれは肝炎にもなるでしょう。

ちなみにProBNP(心臓のホルモン)は6330と異常高値、総ビリルビン3.9と黄疸あり、LDH 1964と強い溶血の所見、輸血にもかかわらずヘマトクリット30と貧血が進行していました。

心エコーでも僧帽弁(人工弁)周囲に強い逆流が2つもあり、右室圧も50-55mmHgと肺のうっ血が進んでいました。

しかし4度目の心臓手術とは世間一般にはかなり危険なこととされています。

 

Ilm09_dg01005-s

赤血球の姿です。これが壊れる(溶血)と、腎臓が次第に悪くなってしまいます

再手術や弁膜症になれたチームだけが救命できる、そういう手術です。

 

患者さんとそのご家族は生きるために一生懸命勉強され、弁膜症や再手術を得意としている外科医や病院を探されました。

そして私の外来へ来られました。遠い関東から手術を求めて来て下さったのです。

調べますと機械弁が僧帽弁の位置に縫い付けられているはずのものが、すでにかなり外れており、逆流も強く、貧血と腎不全が進行していました。

もはや手術しか救命する手立てはないという判断になりましたが、前回の手術で大動脈の枝が胸骨に食い込んだ形になっており、胸骨をのこぎりで開けたとたんに大出血が起こりやすく、いったんそれが起これば命にかかわる事態になるため、対策を考えました。

その結果、若い患者さんたちに行っているミックス手術とくに右開胸で小さ目の創で手術をするポートアクセス法が一番良いのではということになりました。

右開胸ならば大動脈の枝と胸骨が癒着していても出血などの問題は起こらず、スムースに手術できます。

ポートアクセス法は一般には創を小さくするという若者向けの美容効果狙いの手術という一面がありますが、この患者さんの場合は一義的に安全狙いでした。

左房剥離手術では予定どおり右開胸で左房まではアプローチできました。

特殊な状況のためいつものポートアクセス法よりは大きめの切開をもちいました。

しかしさすがに上行大動脈付近がガチガチに癒着し、これを遮断できない状態です。(左写真の矢印は剥離中の左房を示します)

そこで風船を上行大動脈の中に入れて内側から遮断しようとしましたが、

これもなかなか良い位置で安定せず、ここは人為的な心室細動で短時間心臓をけいれんさせ、その間に左房を開けて治すことにしました。

この方法はいざという時に有用な方法ですが、短時間しか安全には使えません。

人工弁外れていた部位

 

左房を開け、直ちに僧帽弁を調べると、

すでに3分の1周は外れており、残りもかなり弱っていました。

右写真の矢印は人工弁の一部、はずれていた部位を示します。

これは縫合部を補強するより新しい人工弁を入れ替えるほうが早いと判断。

切除した人工弁ただちに古い弁をはずし、新しい弁を縫い付けました。

(左写真は取り外した古い人工弁です。

右上の少し白っぽいところが完全にはずれていた部分で、その前後もすきまが開いていました。)

ただ以前の手術で裂けて外れていた部位は自然の弁輪がなく、

そのまま人工弁を縫い付けてもまた外れかねない状態でした。

僧帽弁輪補強パッチそこでウシ心膜であらたな弁輪をつくりつつ、新しい機械弁をがっちりと縫い付けました。

時間の余裕がないため、すべて一発で決める必要がありましたが、確実に処理しうまく行きました。

短時間で左房閉鎖まで進み、心臓の拍動を再開し、無事手術は終わりました。

(下の写真は新しい人工弁を取り付けつつあるところです。)

人工弁が半ば縫着されたところ術後経過は4回目の手術とは思えないほど順調で、翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられ、

術後10日あまりで元気に退院されました。

 

外来の定期健診でお会いするのが楽しみです。

心臓が良くなったため、貧血は消え腎臓も回復し、これから体力をつけて元気に楽しく過ごして頂ければ幸いです。


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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  ハートポートとは
  
  ポートアクセスの位置づけ
  
  ポートアクセス法が前向きに安全な場合
  
  美しいポートアクセス・心臓手術のためのLSH法とは
  
  ポートアクセス法にかかる費用は?
  
  ミックスは危険なの
  
  ミックスと術後の痛み軽減について
  
  ミックスの手術で社会復帰が早いわけは?
  
  心臓手術と美容について
  
  もうひとつのミックス手術、胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 心臓手術:ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
  
僧帽弁

  ミックスによる僧帽弁形成術

  ミックスによる僧帽弁置換術

  ポートアクセスによる僧帽弁形成術

  ミックスによるメイズ手術

患者さんやご家族からのお便り

お便り54: ポートアクセス法で僧帽弁形成術を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: ポートアクセス法による僧帽弁形成術で元気になられた患者さん

お便り(心臓手術の体験記)68: ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り(心臓手術の体験記)74: ポートアクセス法で僧帽弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

 

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 右室二腔症をミックス手術で根治

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右室二腔症は生まれた時からの病気で、右室の中にくびれがあり、血液の流れが悪くなります。

大人になってそのくびれがきつくなり、次第に悪化することがあります。

あまり進むと心不全や不整脈、突然死などの原因にもなります。

患者さんは53歳の女性で、関西の大病院から紹介を受けて来院されました。

5年前に不整脈のためカテーテルアブレーションつまりカテーテルで悪い心臓神経を焼く治療を受けておられます。

右室内のくびれが強くなり、くびれの手前側の圧が血圧を大きく超えるという危険な状態で手術を希望して来られました。くびれの部分での圧較差は126mmHgにも達していました。

実際、運動時などに息切れや動悸が強くなるなどの症状がでていました。

また右室圧が上がり過ぎて、右室から左室へ血液が流れる、右―左シャントと言われる状態ではちょっとした足の静脈の血栓でも脳梗塞などが起こりやすくなります。

患者さんが仕事で忙しいこともあり、心臓手術後の痛みが少なく、社会復帰・仕事復帰が早いミックス手術にて右室二腔症と心室中隔欠損症VSDを治すことになりました。結果的に創も小さく、夏服でもあまり見えず、術後の心臓リハビリなどもやりやすいため、前向きに検討するようになられました。

RVOT心筋切除前手術では長さ10㎝あまりの小さい創で、胸骨も部分的にしか切らないようにしました。

人工心肺のもと、心臓を一時止めて右房と右室流出路を切開して、中へ入りました。

まず右房から三尖弁ごしに右室の中を調べました。VSDは右房からは見えない位置にありました。

そこで右室流出路から右室を見ますと、右室心筋が高度に肥大し右室の中がほとんど見えないほどになっていました

(左上図、この向こうに狭窄があり右室の中がほとんど見えません)。

RVOT心筋切除後そこで右室の異常心筋を順々に切除し、しかし三尖弁の乳頭筋には影響を与えないように注意しつつ、狭窄を完全に取り去りました

(右図、異常心筋を多量に切除し、右室の入口にある三尖弁乳頭筋まで見えています、広々としました)。

狭窄をある程度以上残せば、狭窄が狭窄を呼び、将来また同じ二腔症が再発する恐れがあるため、完全に狭窄を解除したわけです。

VSD1+2閉鎖中VSDは右室のやや肺動脈弁に近い、しかし肺動脈弁から少し離れたの筋肉にぽっかり空いており、これを直接閉鎖しました。

右室の切開部にはドーム状の天井のようなパッチで閉鎖しました。

この結果、右室内の狭窄は完全に取れ、直接圧測定しても圧較差はゼロという良好な結果でした。

RVOTパッチVSDもきれいに閉鎖していることが心エコー・ドップラーで確認できました。

術後経過順調で、ミックス手術のおかげで痛みも軽く、運動も順調に進み10日と経たず元気に退院されました。

ミックス手術すなわち小切開低侵襲手術は美容上の目的で行われるような印象がありますが、それだけではなく、痛みの軽減や早い社会復帰、そして合併症の防止にも役立ち、安全性の向上にもつながるのです。

もちろんミックス手術の創の小ささから、「夏服が着れる」というのは術後の楽しみが増えるというものです。

患者さんは遠方からまた外来へ定期健診にお越し下さるとのことで、再会を楽しみにしています。

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あけましておめでとうございます(2013)

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あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年、2012年はおかげさまで充実した一年でした

Orti046-s名古屋ハートセンターも開設から丸4年が過ぎ、心臓大血管手術も300例には及ばなかったものの、それに迫る実績をあげ、名古屋エリア屈指の施設に成長いたしました

これも多くの患者さんや開業医・内科・心臓血管外科の先生がたはじめ、院内の内科・外科・コメディカル・事務はじめとしたあらゆるチームメンバーの皆様のご尽力のおかげと深く感謝しております。

心臓手術数だけではなく、質的にも他病院で断られた再手術、再々手術、再々々手術例を始め、駆出率が10-30%つまり心臓のパワーが本来の半分から5分の1まで落ちたケース、心筋症やIHSSなどにみられる複雑な心室、冠動脈が病気でバイパスがつけられないと言われた患者さん、弁のあちこちが壊れて弁形成しづらいと言われた僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症の患者さん、大動脈弁を形成で治さないと妊娠出産などの人生設計ができないというケース、その他さまざまな患者さんたちにお役に立てて医者冥利の一年でした。

また他病院で目いっぱいの手術治療のかいなく、術後経過が思わしくなく弁や左室が悪化し、どうにもならない状況からご来院いただき、出直しの再手術で元気になられば弁膜症や先天性心疾患の患者さんたちにもよろこんで戴けたことを光栄に思います。患者さんがお元気になられることで、元の病院への不満も解消し、このような形ででも同業者の方々に貢献できたのもうれしいことでした。

ミックス手術(MICS、小さい切開の、患者さんにやさしい手術)がさらに増え、私の執刀例ではほとんどのケースが何らかのミックス手術で、手術の内容や大きさだけでなく、その患者さんの年齢・状態やライフスタイルなども考慮して最適なものが選べる、ひとつのオーダーメイドのミックス手術に進化したのも昨年の成果です。20歳前後の若い女性患者さんたちにポートアクセス法を始めとしたミックス手術でこころの負担を減らすことができたのもうれしい想い出です。

Ilm22_ba01055-sもちろん地域医療のなかで、夜中などに生きるか死ぬかの状態で救急車搬送された多数の患者さんたち、とくに急性大動脈解離や大動脈瘤破裂の患者さんたちにも私たちを信じて頑張って下さったことを感謝申し上げます。

しかしその一方、あらゆる手を尽くしても救命できなかった患者さんも若干あり、深いお詫びと反省、検討と近い将来同じ病気・同じ状態の患者さんをぜひとも救命できるよう、チーム全員で努力しております。お助けできない患者さんがおられる以上、その改善や解決に向けて十字架を背負って生きて行く自覚を忘れないようにしています。

こうした努力の結果を内外の学会やシンポジウム等でも発信することができ、多くの仲間たちのお役に少しでも立てたのであれば、大変幸甚なことです。

たとえば昨年10月のヨーロッパ心臓胸部外科学会(バルセロナ、Segesser先生が会長)で新しい手術のセッションで、私たちの手術(機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋最適化・僧帽弁形成術)を発表し、ぜひ使ってみたいとのご意見を頂けたこと、あるいは3月のアジア心臓血管胸部外科学会(バリ島、畏友Hakim先生が会長)のシンポジウムでも同様によろこんで戴けたことを光栄に思います。ヨーロッパやアジアの先生方に、是非この手術を使いたいと言っていただき、ビデオをお贈りしたりご説明したりと、海外の友人仲間に貢献できるのはまさに至福の時でした。

国内でも7月の冠動脈外科学会(防衛医大前原先生が会長)、9月のMitral Conclave(慶応大学の四津先生が会長)、10月の日本胸部外科学会、11月の日本弁膜症学会(慈恵医大の橋本先生が会長)やCCTなどでも同様の貢献の機会をいただき、厚く御礼申し上げます。私のチームの若い心臓外科医諸君も大きなシンポジウムで発表でき、より自覚と誇りをもってくれたのも大きな収穫でした。国内学会ではしばしばVSP(心筋梗塞後の心室中隔穿孔)のセッションの座長を仰せつかるのですが、いつも前向きの議論をワークショップ風に進めていけるのを楽しんでいます。今、若い先生方にも安心して使って頂ける新しい手術法を開発しています。

共同研究をしていただいている川崎医大の先生方がAHA、ACC、ASEはじめ名だたる国際学会でその成果を発表したり、なかには向こうから乞われて講演したものもあり、日頃の努力が評価されたこと、大変うれしいことです。

ひるがえって毎日の仕事のなかで、患者さんや職員の皆さんとの対話の時間をもっと持ちたく思いながら十分にはできていないという反省がつのります。時間が物理的に取れないなら、せめて質を上げて、短時間でもしっかりと聴く、これを今年はもっとちからを入れて実行したく思います。

患者さんの悩みも多岐にわたります。心臓手術によって心臓は元気になっても、体の他の部分のさまざまな悩みやご家族とのこと、社会経済的なことなど、自分の領域を超えた悩みにも何かできることはないか、考えてしまいます。心臓病だけ治してもダメということをこれまで以上に実感することが増えました。できるところから手をつけていこうと思っています。

そういえば病院のコメディカル諸君が主体的に研究テーマをもち、患者さんの役に立つ研究をやろうという機運が生まれ、昨年はヨーロッパのエコー画像の国際学会で発表してくれた放射線技師さんや、国内の大きな全国学会で看護研究を発表し優秀演題賞を受賞してくれた看護師さん、MEさんの大きな学会で講演してくれた技師さん、新しい知見を報告してくれた検査技師さんなど、まさにチーム医療を担う若い諸君の活躍が始まったのも大きな収穫でした。やはり仕事は面白くなくてはいけません。汗や涙を流してでも楽しくなければならないのです。そうしたお手伝いをこれからもっとできれば、おのずとその成果は患者さんに還元できると思います。

思いつくままに昨年の努力とちょっぴり成果をお書きしましたが、こういう雰囲気で今年も皆で汗をかきながら走りたく思います。皆様のご指導やご鞭撻を頂けましたら幸いです。

2013年1月1日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
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安全な心臓手術のための検査にはどういうものが?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月4日

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心臓手術のための検査は大きくわけて2種類あります。

1.ひとつは診断をより正確に、詳細につけるための検査です。

2.いまひとつはオペをより安全なものにするため、関係する全身あちこちの部分を調べるものです。

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◾️診断のための検査

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次のようなものがあります。これらの一部を組み合わせて調べます。

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ilm09_af10018-s

①心電図:

心臓の電気的動きを調べ、

不整脈つまり脈の乱れや心臓の虚血つまり酸欠状態や心筋梗塞その他を調べます。

安全で痛くありません。

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②胸部レントゲン写真(エックス線検査):

035.

胸の内外のさまざまな臓器を全体的に把握できます。

心臓や肺、気管支、肋骨、その他が大雑把にわかります。

わずかな放射線被ばくはありますが、安全で痛くありません。(右図)

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③血液検査:

BNPやP献血broBNPといった心臓ホルモンがわかり、

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不全の度合いやその変動がわかります。

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針を刺す痛み以外は快適です。

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④心エコー図:

SANYO DIGITAL CAMERA.

弁膜症の決定的検査です。

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患では心室の壊れ具合や二次的な弁逆流などもわかります。

心筋症、心不全でもどこをどう治すかを考えるために必須です。

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心臓の各部のサイズや機能あるいはドップラー法により血液の流れが詳細にわかります。

安全で痛くありません。

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CT:

Ilm09_af14001-s.

心室や心房、大動脈その他の構造や形態が正確にわかります。

冠動脈はじめ様々な動脈もわかります(左図)。

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被ばくはレントゲン写真よりは多いですが、工夫によってかなり減らすことができます。造影CTでは点滴の針をさす痛みはあります。

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⑥MRI:

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心臓の機能や形、心筋がどれく037らい生きているか、さまざまな血管はじめ有益な情報が得られます。

あるいは頸動脈、脳動脈などを安全に調べることができます。

解像度はCTより劣りますが。被ばくの問題もありません。

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⑦RI:

心筋の虚血や状態、動きなどがわかります。多少の被ばくはあります。画像はぼやけておりあまり細かい形態は苦手です。

必ずしも必須検査ではありません。

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⑧心カテーテル検査:

Fotosearch_CCP02026心症など冠動脈では最終検査です

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冠動脈の詳細を造影したり心臓内の圧測定には威力を発揮します。大動脈の中をカテーテルが通過するため、わずかな負担やリスクはあります。たとえばまれに脳梗塞などが起こります。

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弁膜症手術では手術前にカテーテル検査をすることがうんと減りました。

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◾️手術の安全のための検査

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およそ以下のものが代表的です

A313_070.

①血液検査: 

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腎臓、肝臓、糖、脂肪その他全身の情報が得られます。

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近年はいろいろな病気を併せ持つ患者さんが増えたため、一層大切な検査になりました。

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②ABI: 手足の血圧を同時測定します。いかにも単純な検査ですが、これによって下肢の血流が良いかどうか即わかります。安全で痛くありません。

Fotosearch_CCP02056.

③肺機能検査: 

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いわゆる肺活量試験とその関連検査です。ようするにしっかりと吹く、そういう検査です。

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安全性は高く痛みもありません。

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④CT: 胸部や腹部の大動脈の状態や、肺、その他内蔵に異常がないかを調べます。必要に応じて脳内動脈も調べます。再手術では心臓と周囲組織との癒着の度合いを前もって調べることで安全性が向上しました。多少のひばくはありますが、痛みはほとんどありません。

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⑤頸動脈エコー: 狭心症や大動脈瘤の患者さんなど動脈硬化があるケースでは頸動脈が狭くなっていることがあります。これをしっかり調べ、脳梗塞の予防策を講じます。

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⑥MRI:頸動脈や脳動脈、脳、全身の検査に有用です。

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⑦その他: 上記検査で何か問題があり、追加検査することは時々あります。

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Ilm17_bc01015-sこのように、術前検査はしっかりとした診断をつけ、安全性を徹底管理するためにも重要です。

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通常の病院ではこうした検査と説明に4往復4週間もかかると言われますが、心臓血管センターではハートチーム全員で努力し、一回の外来で主な検査を終え、ご説明や生活指導をするようにしています。

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そのためには前もって予約して戴くとか、必要な検査を併せ受けて頂くことでスピードアップと患者さんたちの負担軽減が図りやすくなります。あるいは短期入院ですべて調べ上げるようにし、遠方の方々などに喜ばれています。

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以上、心臓手術前の主な検査について概略ご説明いたしました。

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執筆:米田 正始
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お便り82: 3度目の心臓弁膜症手術で

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弁膜症とくに機械弁つまり金属の人工弁の手術のあとは長年月にわたり、丁寧な治療やフォローアップが必要です。それによって元気で楽しい生活を長期間楽しむこともできます。そうした患者さんの人生をお支えするのも私たちの役目のひとつです。そこでは内科の先生方や開業医の先生方とのチームワークもたいせつです。

 

以下のお便りは東北地方在住の60代女性患者さんからA335_001のものです。

 

若いころ、僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連切開術を受けられ、いったんお元気になられました。

その効果は20年近く続きましたが、そこで弁がまた狭くなり、カテーテルによる僧帽弁形成術を受けられました。

 

その後経過はまずまず良好でしたが、数年後また僧帽弁が狭くなり、大動脈弁もあわせて狭くなっていたため、ついに僧帽弁置換術と大動脈弁置換術を受けられました。どちらも金属製の、いわゆる機械弁でした。

 

以後も現地の大学病院に通院し、ワーファリンの治療を受けておられました。

 

15年経って、大動脈弁が狭くなって来ました。パンヌスと呼ばれる、患者さんご自身の組織が増殖し、機械弁の動きを妨げるようになったのです。

 

さらに2年たち、いよいよ弁が狭くなって、危険な状態となったため、ネットや本で勉強し決心して私の外来に来られました。遠方にもかかわらず、列車で長時間かけてお越し頂きました。

 

調べてみますと弁がきびしく狭くなり、しかも別の弁も二次的に逆流し、心不全が悪化していました。

 

再々手術はリスクがやや高くなりますが、このままでは永く生きられない危険な状態で、こうした手術に慣れている私たちに任せたいとのご希望のため地元の病院のご推薦も得て手術に踏み切りました。

 

 手術では心臓と周囲組織との間の癒着をはがし、それから大動脈弁とパンヌスを切除し、新しい人工弁を入れ、三尖弁も形成して無事終了しました。

 

術後経過は良好で、翌朝には集中治療室を退室され、術後10日目に元気に退院されました。

 

遠方のため、地元の病院と協力し役割分担しながら、名古屋へは時々健診に来られます。お元気にしておられます。

以下はその患者さんご本人からいただいたお礼のメールです。

 

 ***********患者さんからのお便り*********

(前略)

今私は台所で料理をしたり秋植えした花眺めたり、スーパーで買い物をしたり、また散歩をしていてもこのようにできるのは本当に米田先生に出会えて手術して頂いたからだなと毎日毎日思いながら喜びをかみしめ感謝しております。

三度目の手術が必要とわかった時の不安、ハイリスクであるらしいことなど考えて、いてもたってもいられずいろんな本買って読んだりネットで朝から晩まで調べました。

そして米田先生のページ見つけたのです。

読んでいくと先生の患者に対するあたたかい人間性や考え方とても尊敬できました。

そして米田先生にすべてをかけてお任せしようと決めました。

先生のページすべてネットから印刷しました。

だいぶ厚くなりましたが、何回も何回も読みました

まだ行ったこともない名古屋にはるばる主人と不安抱えながら行って説明聞き手術日まで決めました。

一回の外来ですべて検査できたのも助かりました。

 
手術も苦しいとか痛いとかなく入院もアッという間の夢中の二週間でした。

私は麻酔で何もわかりませんでしたが、さぞかし先生方は大変だったと思います。

外来で米田先生お見受けして思わずお声おかけしても気さくにお話ししてくださり本当にありがたいです。

治して頂いた命大事にしていきます。本当に有難うございます。

感謝

    

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【第三十七号】 寒波とノロウィルスにご用心を

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 【第三十七号】
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           発行:心臓血管外科情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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大寒波が日本列島を覆い、この冬の灯油不足が心配されるほどになっていま

す。みなさま如何お過ごしでしょうか。

同時にノロウィルスが猛威をふるっています。例の下痢と嘔吐が厳しい感染
症です。

心臓手術のあとの患者さん、あるいは心臓病をおもちの患者さんにおかれま

しては、ちょっとした知識とご注意が身を守ります。

こうした患者さんを対象とした情報をまとめました。ご覧下さい。

 https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2012/12/antinorocvspts.html

冬の過ごし方や風邪、インフルエンザなどへの対策はこちらをご覧ください

https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/11/post-4fa5.html

それでは皆様、健康に留意され、良い新年をお迎えください。

敬具

平成24年12月27日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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心臓病患者さんのためのノロウィルス対策

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かなり強い寒波が日本列島のほぼ全域を襲っています。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

この寒波に合わせるかのように、ノロウィルスが流行しています。

病院などでは多数の死亡者がでているところもあり、十分ご注意ください。


Ilm09_ad13001-s症状は下痢や嘔吐が主なようですが、普通の下痢嘔吐よりも激しく、何日か続くため、心臓病の患者さんたちにはとくにご注意戴きたく思います。

というのは強い下痢と嘔吐が発生しますと、まもなく高度の脱水になります。

たとえばいつも手の甲にある静脈が良く見えている方の静脈が見えなくなっているとか、舌が乾いているなどがあれば要注意です。

すると血圧が下がって、血液も粘っこくなり、もともと心臓病がある心臓には一般の健康者以上に大きな負担になりかねません。

また心臓手術後とくに人工弁や不整脈などのためにワーファリンを飲んでおられる方々には、急に強い脱水となれば血栓ができ、そのための二次的な脳梗塞などの恐れが出て来ます。

さらに嘔吐が強くIlm09_af06004-sて、あまり食べられない状態が何日か続けば、日頃ワーファリン(血栓予防のお薬です)を服用しておられる患者さんでは、その効き目が極端に強まることがあります。この場合は脳出血の心配が出て来るのです。毎日の食べ物の中には多少ともビタミンKが入っており、食べるのをいきなり止めてしまうとビタミンKが全然ない状態となって、ワーファリンが強く効きすぎるという事態になりやすいのです。

そういうことで、もし強い下痢や嘔吐に見舞われたとき、まず近くのかかりつけ医に相談し、そのときの状態に合わせて点滴でしっかりと脱水を治すなり、ワーファリンの効き具合がちょうど良いレベルになるようにINR検査を受け、指導してもらったりすることがたいせつです。

それと一層大切なこと、それは予防です。


ノロウィルスは大変伝染力が強く、患者さんの便から他のひとの手につき、そこから感染することが多々あります。またトイレなどで汚物が乾くとウィルスが空気中に放たれ、その空気を吸うと感染します。

Gum06_fr01002-s

そのため、まずは手洗いやうがいの励行がたいせつです。外から帰れば、直ちにやりましょう。

また人ごみはなるべく避けるのが賢明でしょう。

しかしいったん嘔吐や下痢で発症すれば、上記のようにただちにかかりつけ医か病院へ行って下さい。

治せる病気で命を落とすことはぜひとも避けたく思います。

こうしてノロ対策を万全として、楽しいお正月をお迎えください

 

(2012.12.25.記載)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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僧帽弁の感染性心内膜炎IE 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月17日

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◆ 僧帽弁の感染性心内膜炎とは?

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感染性心内膜炎(IE)」とは、心臓の弁に細菌が付着して繁殖し、弁が破壊されてしまう病気です。
僧帽弁でも、大動脈弁と同様に小さな傷や細菌感染をきっかけにIEが起こることがあります。

発症すると以下のような重大なリスクがあります:

  • 弁が壊れ心不全が進行

  • 細菌が全身に広がり敗血症を起こす

  • 菌の塊(疣贅)が脳に飛んで脳梗塞や後遺症を引き起こす

  • 最悪の場合、命を落とす危険も

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◆ 僧帽弁に感染性心内膜炎が起こりやすい人は?

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特に僧帽弁逸脱症は頻度が高く、IEの主要な原因のひとつです。
逸脱症だけであれば手術は不要ですが、感染によって弁が破壊されると手術が必要になります。

つまり、僧帽弁の基礎疾患を持つ方は、感染性心内膜炎に対する注意と予防がとても大切です。

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◆ 手術が必要になるケース

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僧帽弁の感染性心内膜炎で以下のような場合、心臓手術が適応となります:

  • 薬や点滴では改善しない心不全がある

  • 抗菌薬でも感染が抑えられない

  • 脳梗塞など菌の塊による合併症が出ている

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手術の基本方針は 僧帽弁形成術(弁を温存して修復する手術) を優先することです。

しかし感染で弁が大きく壊れている場合は形成が難しく、人工弁置換術が必要になることもあります。
とくに若い女性では、機械弁を入れるとワーファリンを一生内服する必要があり、妊娠や出産に大きなリスクが生じます。

👉 そのため、僧帽弁形成術の経験豊富な外科チームに任せることが最善です。

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◆ ミックス手術(小切開・低侵襲手術)は可能?

感染性心内膜炎は高齢者だけでなく、10~30代の若年層や40~50代の働き盛りにも起こりま

通常の創(左側)とポートアクセス法ミックス手術での創(右側)。通常の方法では胸骨という骨を切りますが、ポートアクセス法では骨は切りません。

す。

そのため創をできるだけ小さく、胸骨を切らない MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:ミックス手術) が喜ばれています。

特に「ポートアクセス手術」による僧帽弁手術は、

  • 傷が小さい

  • 骨を切らないため回復が早い

  • 将来の生活や仕事復帰に有利

というメリットがあります。

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当院でも LSH法という創が目立ちにくいアプローチ を導入しており、「目立たない傷なら将来も安心」「また必要なら同じ手術を受けたい」といった患者さんの声もいただいています。

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Ilm03_bd02003-s 感染性心内膜炎の再発予防 ― 日常生活でできること

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最も大切なのは 予防と再発防止 です。

  • 歯科治療(抜歯など)の際は必ず主治医と歯科医師に相談し、抗生物質を事前に服用

  • うがい(イソジンガーグル等)を血のにおいが消えるまで継続

  • 切り傷・擦り傷はすぐに流水で洗浄、必要なら病院で消毒と抗生物質を処方してもらう

  • 発熱が続く場合や体調が悪いときは、早めに心臓専門医に相談

これらを徹底することで、再発や重症化を防ぐことができます。

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◆ まとめ

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  • 僧帽弁の感染性心内膜炎は命に関わる重病

  • 基礎疾患(僧帽弁閉鎖不全症・僧帽弁逸脱症)がある人は特に注意が必要

  • 手術はできる限り僧帽弁形成術を優先し、人工弁置換は慎重に判断

  • 若年層や働き盛りには MICS(小切開手術) が有効

  • 再発予防には 歯科治療・外傷・感染対策の徹底 が欠かせない

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感染性心内膜炎でお悩みの方、また「手術が必要かもしれない」と言われた方は、ぜひ一度ご相談ください。

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大動脈弁の感染性心内膜炎IE 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️大動脈弁が感染性心内膜炎になるのはどういう時?

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大動脈弁は健康な状態では、ばい菌にやられて感染性心内膜炎(略称IE)になることは珍しいです。

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大動脈弁(aortic valve)の位置と、正常な三尖(tricuspid)の大動脈弁(右上)と二尖(bicuspid)のそれ(右下)。

しかしいったん逆流が発生して大動脈弁閉鎖不全症になったり、弁が狭くなって大動脈弁狭窄症になると、からだの中に何らかの原因でばい菌が入ったときに、感染性心内膜炎IEになりやすいのです。

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また大動脈二尖弁(右図の右下)つまり通常3枚の弁ひらひら部分が2枚になっている状態では感染性心内膜炎IEが起こりやすいことが知られています。

意外なところでは自己心膜弁再建後にもIEが多いことが報告されています。

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◾️大動脈弁が感染性心内膜炎になるとどうなる?

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大動脈弁が感染性心内膜炎IEにかかってしまうと危険です。

高い熱がでて、全身に菌がまわったり、菌の塊が脳に流れていけば脳梗塞になります。脳こうそくが大きければいのちにかかわったり、生き延びても大きな後遺症が起こります。たとえば歩けなくなったりしゃべれなくなったり、意識がもどらないなどもあり得ます。大動脈弁が菌に食われて穴があいたりちぎれたりすると心不全となり、重くなれば心不全でも命を落とします。

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こうした悲劇を防ぐため、まず予防が第一、そして予防できないときには早期発見と早期治療が有用です。

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◾️予防と早期発見

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予防にはけがとくに土がつくけがや抜歯に注意して下さい。ばい菌が体に入りやすいのです。けがの場合は直ちに水道水その他きれいな水で土を十分洗い流し、出血していたらすぐ病院で消毒してもらい、適宜抗生物質をもらって下さい。

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もともと弁膜症や心雑音などが指摘されているひとの場合、上記をしっかりと行い、その後も発熱に注意して下さい。ケガなどのあとで38℃を超える高熱が出たり、37℃台でも何日も発熱する場合は医師に相談するのが良いでしょう。

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◾️大動脈弁の感染性心内膜炎、診断と治療は

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診断は血液検査と心エコーで大半が判ります。一回の検査でわかりにくいときにはしばらくして、また検査することで診断精度が上がります。

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大動脈弁が感染性心内膜炎になってしまうと、まず薬などの内科的治療を行います。しかし心不全が薬などで制御できなくなったり、感染つまりばい菌の勢いがどうしても抑えられないとき、あるいはばい菌の塊が飛んで脳梗塞などになる場合などに手術が必要となります。逆に感染が薬で制御でき、心不全も軽ければ内科的治療つまりお薬などで治せることもあります。経験豊富なチームがさまざまなデータをもとに判断するのがもっとも安全でしょう。

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またばい菌が弁を壊して、弁の付け根の大動脈や左室心筋にうみ(膿)を作ったり穴をあけたりすると、それも外科手術で治さねばならなくなります。いわゆる大動脈弁輪膿瘍です。こうなるとかなり大きい心臓手術になり、体力などによっては危険性が増すこともあり、なるべくこうなるまでに手術して直してしまうのが賢明です。

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◾️手術での工夫

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手術はかつては人工弁をもちいて大動脈弁置換(略称AVR)を行いました。いまも一般にはそうすることが多いですが、最近は患者さんご自身の弁を形成(大動脈弁形成術)したり、自己心膜をもちいて弁形成(弁再建)したり、なるべくいわゆる人工弁を避けるように私たちは努力しています。

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また患者さんご自身の肺動脈弁を使うロス手術もありますが、日本では肺動脈弁をおきかえるホモグラフトつまり他の方の弁が入手困難なためと他の弁の成績が上がったため、ロス手術は下火の印象があります。とくに二尖弁の方は肺動脈弁が弱っているためロス手術は不適切となります。

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◾️大動脈弁の感染性心内膜炎、まとめ

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このように大動脈弁の感染性心内膜炎IEはしっかりと注意すれば予防可能ですし、また予防できないときでも、早期発見と早期治療をすることで死亡率を下げ安全確保ができるようになりつつあります。軽くても大動脈閉鎖不全症がある方、IEの既往(かつてその病気になったことがある)、二尖弁などの方は注意とともに弁膜症の専門家に定期健診をしてもらうのが安全でしょう。

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お便り81: 大動脈二尖弁と上行大動脈、僧帽弁の患者さん

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大動脈二尖弁はそれ自体では必ずしも病気とは言えないのですが、大動脈弁の弁膜症を起こしやすいため、注意深いフォローアップが必要です。

同時に大動脈基部つまり大動脈の根っこの部分から上行大動脈にilm17_da05003-sかけて、大動脈の壁が弱く瘤になりやすいため、マルファン症候群のような結合組織疾患に準じたフォローアップが必要です。

これによって長期の安全性が確保しやすくなるのです。

下記の患者さんは大動脈二尖弁のため、お若い年齢でも大動脈弁閉鎖不全症と上行大動脈瘤を発症し、

さらにIEつまり感染性心内膜炎を合併したため僧帽弁閉鎖不全症も発生し、

このままでは心不全悪化や大動脈破裂などの懸念が強まるため来院されました。

この病気をきちんと治してくれる病院をもとめて、九州から来て下さいました。

詳しく調べますと、大動脈弁と僧帽弁の両方と、上行大動脈から弓部大動脈の一部までを治す必要があることがわかりました。

時間がゆるせば弁は両方とも形成か再建とし、上行大動脈は人工血管で置換したかったのですが、僧帽弁は前尖つまり主要パーツが全体に壊れているためその形成術も比較的複雑で、上行大動脈も弓部大動脈の一部まで治す必要があり、大動脈弁は破壊が高度であることもあって短時間で確実に生体弁で治しました。

とくに僧帽弁形成術では穴をパッチで治し、ゴアテックス人工腱索を8本立てて逸脱を修復しました。

以上をミックス手術で、小さい創で行いました。若い患者さんが創を気にせず楽しく暮らして欲しいからです。

術後経過は良好でまもなく元気に退院されました。九州から外来へ定期健診に来て下さいますが、元気いっぱいのお姿をみてうれしく思っています。

大動脈弁が将来壊れたら、TAVIという折りたたんだ生体弁をカテーテルでもとの弁の中に装着することで再手術が回避できるよう、極力大きな生体弁を植え込みました。

以下はその患者さんとそのお父さんからのメールです。とくに患者さんのお便りは他の患者さんたちのお役に立つようにという気持ちで書いて下さいました。

*******患者さんからのお便り*******

私は38歳の男です。

お便り81です生まれつき二尖弁と診断され、定期的に地元や他県の病院で診察を受けてきました。

 
将来的に手術も必要だと言われてましたが、自覚症状もなく、元気でしたし、運動も普通にしてきました。

歳をとるにつれ、大動脈弁の逆流もひどくなるし、大動脈も太くなってきてて、早めに手術したほうがいいと言われましたが、手術するのも怖くて、自分の病気にも向きあう事ができませんでした。

 
やはり手術するなら心臓専門の病院がいいと思い、パソコンから米田先生のホームページを見て、私の病気の事を米田先生にメールしたところ、返事をいただき、平成24年7月に診察をしました。

1日の検査で、治療方針を決めていただき、病気の症状など、丁寧に詳しく説明してもらって、その時はじめて米田先生に全てを任せようと決心する事ができました。

検査の結果は、大動脈弁閉鎖不全症、僧房弁閉鎖不全症、大動脈瘤です。大動脈瘤の太さは5センチでした。

手術は平成24年8月21日に決まり、大動脈弁置換術、僧房弁形成術、人工血管置換術をして、無事に手術は終わりました。

術後は、思っていたほど痛みもなく、2日目には歩いたり、食事も普通にできました。名古屋ハートセンターの看護師さんやドクターの方も親切な方ばかりで、入院中も不安なく過ごせました。

退院は8月31日で、入院から12日で退院する事ができました。

一度の手術で、三箇所を治す難しい手術みたいでしたが、現在の経過も順調です。

手術して約半年になりますが、仕事や運動などしたり、手術前よりあきらかに元気に過ごしています。

傷口も小さく綺麗なので、米田先生に手術していただいて本当に良かったと思います。心から感謝しています。

先生には新しい命をいただきました。

 

*******患者さんのお父さんからのメールです********

熊本・**市の****です。

ご無沙汰致しております。
次男の経過が良好なのも、先生ならびにスタッフ皆様の御蔭と感謝申し上げております。

病気発覚時に、開業医病院では処置できずに総合病院に転院した訳ですが、経過観察だけが続くだけで
ムンムンとした日々を過ごしていました。

私の二十五年前の経験から病院と先生は、自分の納得した上でお願いしたが良いと思っておりましたので、
ネットで全国の病院と先生を調べました。

こういう事を言えば言葉は悪いかも知れませんが、「医者と病院は、選ばなければ・・・・・」

米田先生のホームページを拝見しました時に、病の説明を細目に書き込みされている事に感銘致しました。
また、開業医の先生への項目に早めの紹介をと、書かれていたのに・・・・自分も同感致した次第です。

初めて、先生にメールで病気の問い合わせ致しました時も、ビックリするほど返信が早かったのを覚えています。
返信の内容で、不安が一掃したのも言うまでもありません。

九州・熊本から受診した時も、日帰り出来る様に手配頂いて、感謝申し上げます。
スタッフの皆様も暖かく親切でしたので、田舎者も安心して帰路についた次第です。
重ね重ね、今回の診察から手術までと、経過治療につきまして御礼申し上げます。

有り難う御座いました

 

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