事例: 先天性僧帽弁閉鎖不全症・バーロー症候群の弁形成術

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先天性つまり生まれたときからの僧帽弁閉鎖不全症は心臓専門病院では少なからずみられる病気です。

逆流が強くなり心臓とくに左室が大きくなったり、心不全の症状がでると手術が必要になります。

また時間とともに左房も大きくなり、その結果心房細動などの不整脈が出てくると手術が勧められることもあります。

次の患者さんは当時31歳の女性で、僧帽弁閉鎖不全症に発作性心房細動を合併し、手術を希望して来院されました。術前エコー長軸

そのころ、疲れやすくなり、会社の健康診断で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、ホームページを見て米田正始の外来へ来られたのでした。

術前の経胸壁エコーでも術中経食エコーでも前尖後尖とも全体的に逸脱しているように見えたため(右図をご覧ください)、

そして強い僧帽弁の逆流も、逆流ジェットが複数ある(左図)ことから複数病変それも通常と少しちがうものなど、様々な状 術前エコー4CVD況と対策を考えて手術に臨みました。

皮膚をなるべく小さく切開し、心臓にアプローチしました。今ならポートアクセス法などのミックス手術でより小さい創で手術するでしょうが、当時としてはかなり小さい創で手術しました。

僧帽弁は後尖の中央部分にクレフトつまり裂隙があり先天性のものと思われました。

さらに後尖の後交連近くに腱索断裂があり、その部分は逸脱つまり左房に落ち込む傾向にありました。

また後交連部は大きめで腱索伸展著明で逸脱していました。(手術写真準備中です)

前尖はやや逸脱傾向はありながら、後尖の上記以外の部位とはちょうどバランスが取れた形でした(つまりどちらもやや逸脱傾向にありました)。

前尖と後尖の逸脱部は慢性MRのジェットのためか肥厚し、後尖の逸脱部は若干瘤化していました。

全体としていわゆるBarlow症候群つまり組織変性が強い弁で僧帽弁全体が弱いという印象でした。

こうした弁でも逆流が治れば長持ちし得ることが知られており、予定どおり全力あげて形成することに致しました。

まず確実に病変がある後尖中央部のクレフト部を閉鎖し、その際に余剰組織を併せて縫縮しました。

次に後交連部と後尖の後交連寄り部分を連結し、併せて余剰(瘤化)組織を縫縮しました。

この時点で逆流試験を行いますと前尖後尖はちょうどバランス良くかみ合い、逆流もほぼ消失しました。人工腱索も検討していたのですが不要でした。

そこで仕上げに前尖サイズのリングで弁輪形成を行いました。

それにより逆流試験でMRはほぼ消失しました。

冷凍凝固によるメイズ手術を行い、左房を2層に閉じて78分で大動脈遮断を解除しました。

心臓が拍動を再開しまもなく洞性リズムを回復しました。

術直後エコーD経食エコーにて僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失しました。

入念な止血ののち無輸血にて手術を終えました。右図は術後1週間の経胸壁ドップラーで僧帽弁の逆流は消失していました。

また下図は同長軸エコーで前尖と後尖の良好なかみ合わせを示します。

術直後エコー長軸術後経過は良好で、出血も少なく血行動態も安定しており、術当日の夕方、人工呼吸器を外し、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

経過良好で手術後10日に退院予定でしたが、患者さんのお父さんが風邪のため、移されないようしばし入院続行し、術後経2週間で元気に退院されました。

術後3年4CVD術後3年経った現在、お元気で暮らしておられます。年一度の定期健診でお元気なお顔を見せて頂いています。

右図は術後3年のドップラーで僧帽弁の逆流はありません。

弁置換術と比べて弁形成術が優れているのはどの年代の患者さんでもそうですが、こうした若い女性の場合はとくにそれが顕著です。

この患者さんは妊娠出産も問題なくこなせますし、今後の人生が文字通り健康なものになるでしょう。実際、手術のあとは大変快活になられ、この点でもうれしく思っています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: HOCMと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治

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弁膜症がらみで除脈となりペースメーカーが必要になることはときどきあります。

ペースメーカーは除脈つまり遅い脈には効果抜群の治療法ですが、電気ケーブルを三尖弁ごしに右室へ入れる必要があり、一定の確率で三尖弁閉鎖不全症が起こります。

PreopXP患者さんは77歳女性で労作時の息切れを主訴として紹介来院されました。

もともと大動脈弁狭窄症をわずらっておられましたが、除脈のためペースメーカーを入れてから息切れが悪化したといいます。 PreopCT

左図は術前の胸部レントゲン写真です。大きな心臓です。

写真の左上にペースメーカー本体も見えます。

右図は術前のCT写真です。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を横切っているのが見えます。通常はそう問題にはならないのですが、この患者さんの場合は三尖弁を閉じなくしてしまったのです。

PreopEcho調べてみますと、大動脈弁はピーク速度が4m/sに達する強い狭窄がありました。

それに加えて、弁の下、左室流出路(左室の出口近く)に異常心筋のでっぱりがあり(HOCMとかIHSSと呼びます)、弁とあわせて一層狭く危険なレベルに達していました。

それを反映して、右室圧49mmHgと肺高血圧症も合併していました。心臓が悪いため肺にも無理がかかっているのです。

三尖弁はペースメーカーケーブルに押されて高度に逆流し三尖弁閉鎖不全症になっていました。

このままでは心不全や肝不全などが悪化する懸念があり、手術することになりました。

ところが手術前の検査で腹部大動脈瘤も見つかったため、これも注意深く見張りながらまず心臓手術を行うことにしました。

A弁観察手術ではまず硬くなった大動脈弁を切除しました。

大動脈弁口ごしに左室が見やすくなりました。異常心筋が発達し、左室の中が見えなくなっていました。

つまり左室内の血液が大動脈へ駆出しづらいともいえる状態です。

異常心筋切除開始そこでこの異常心筋を切除しました。

左図は切除を開始したところです。

この時点では左室の中はほとんど見えません。

慣れた外科医には短時間で異常心筋切除後完了する手術ですが、経験の少ない外科医には危険な手術です。さまざまな落とし穴があるからです。

左室の中が見えるように なり、血液がスムースに流れる所見となりました。

右図は異常心筋切除後の姿ですが、左室の中にある乳頭筋が良く見えるまでに改善しました。

AVR完成ここで生体弁を大動脈弁の位置に縫い付けました。

十分なサイズの生体弁が入りました。

左図がそれです。

 

つぎに右房 PMケーブルと三尖弁を開けて三尖弁を見てみました。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を圧排し弁が閉じにくくなっていました。

そこでこのケーブルを弁の付け根の安全なところに移動し、固定しました。

三尖弁形成術完成そのうえでリングをもちいて三尖弁形成術を行いました。

もう弁はケーブルに邪魔されることなく普通に動けるようになりました。

右図は術中経食エコーで、三術後TRほぼ消失尖弁はきれいに作動するようになりました。

術後経過は良好で、手術当日夜、人工呼吸器を離れ、翌朝、集中治療室を退室できました。

術後2週間目に元気に退院されました。

その後、畑仕事もできるほどに回復されました。

外来で定期健診を受けておられましたが、腹部大動脈瘤が次第に大きくなり50mmに達したため心臓手術から1年6か月後に手術することになりました。

お腹の皮膚を切らずに治せるステントグラフトEVARを第一選択として検討しましたが、腹部大動脈が屈曲し、ステントグラフトを固定するエリアが小さいことなどから、学会委員会の御意見として通常の外科手術による腹部大動脈置換が適切という判断となりました。

そこでお腹の皮膚を約10㎝と小さく切るミックス法でアプローチしました。

腹部大動脈をY型ダクロン人工血管で取り換えました。

術後経過も順調でまもなく元気に退院されました。

それから2年が経ち、外来でお元気なお顔を拝見するのが楽しみになっています。

ここまでの経過を振り返り、なんだか病気が多く、手術手術で申し訳ない気持ちですが、これで一件落着、安定された感があります。

これからさらに楽しく過ごして頂ければと思います。

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心臓手術・事例:マルファン症候群、ベントール手術1年後に腹部大動脈瘤手術

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マルファン症候群の患者さんは結合組織と呼ばれる、内蔵をつなぐ組織が弱いため、平素から定期健診を受けることが大切です。

心臓血管関係では心臓の弁や大動脈全体を定期的に調べれば、いのちを突然落とすことはほぼ防げます。

手間をかけただけ、得られるものが多くなるのです。

下記の患者さんはマルファン症候群をおもちの65歳女性で、1年前に大動脈基部拡張と大動脈弁閉鎖不全症のためベントール手術を受けられました。同時に僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術も受けられました。

大動脈弁がかなり壊れていたため、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術は行わず、確実に人工弁をつけた人工血管で治しました。

術後経過は順調でまもなく元気に退院されました。

それから1年6か月経って、腹部大動脈瘤が健診の度に大きくなり、直径55mmに達し、このままでは破裂の心配が出てきたため、これも手術することになりました。

手術では腎動脈分岐部のすぐ遠位部から両側の総腸骨動脈をYグラフト人工血管で取り換えました。

瘤の中枢側まで大動脈は解離(壁が内外に裂けること)していたため、これを修復補強しながら人工血管を取り付けました。

それから4年近く経ちますが、心臓と腹部大動脈およびその周辺部には問題なくお元気です。ただし胸部大動脈(下行大動脈)が拡張気味なので、丁寧な定期健診を欠かさないようにしています。

このようにマルファン症候群の患者さんは大動脈全体や弁、その他の臓器などを永年守る必要があり、病気離れや医者いらずというレベルの状態は難しいのですが、手間をかけた分だけ安全性や快適性が上がるともいえ、患者さん・ご家族と相談しながらフォローアップを続けています。

iPS細胞が実用化すればまた話が違ってくると思いますし、早くそうなるのを期待していますが、当面、地道な努力が患者さんを守るのです。

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お便り84: 嚢状瘤に対して弓部大動脈全置換手術を

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弓部大動脈瘤とくに嚢状瘤つまり局所的にポコッとこぶになっているタイプはサイズが小さくても破裂する恐れがある病気です。

しかも症状がない場合が多く、いったん破裂すれば強い症状が出ますがその時にはすでに手術が間に合わずいのちを落とすことが多いというやっかいな病気です。

A335_009この患者さんは近くの先生の気転でCTを撮っていただき、未然に診断をつけて頂いたおかげで命拾いをしました。

普段はお元気な70代男性で、そうして弓部大動脈の嚢状瘤という診断をつけていただき、米田正始の外来へ来られました。

まもなく手術となりました。

人工血管で弓部大動脈をすべて取り換える手術(弓部大動脈全置換術)を行い、経過良好で術翌朝には集中治療室を退室され、手術後9日目に元気に退院されました。

以下はその患者さんからのお便りです。

お役に立てて本当にうれしいことです。

また私のチームの医師・看護師さんたちの名前をあげて感謝してくださり、こんなにうれしいことはありません。

また外来でお会いするのが楽しみです。

*********** 患者さんからのお便り **********

名古屋ハートセンター

米田正始 先生

このたび 1月16日に胸部大動脈瘤を手術していただいた****です。

 お陰さまで26日に退院し、日々少しづつリハビリに取り組んでおります。

 12月27日に妻ともども先生へ伺い、診察、検査の結果、早く手術したほうが良いと勧められて、迷ったのですが、先生の説明に納得して早期の手術を決断した次第です。

 手術を担当していただいた米田先生をはじめ、北村先生、深谷先生、木村先生、看護師の小中野先生、梅田先生、道木先生、病室のスタッフの方々に大変お世話になりましたこと、厚くお礼申し上げます。

 ハートセンターの取り組みは、宗田 理「いい病院」への挑戦という本が昨年春に出版されておりまして、事前に目を通しておりましたが、ご指摘通り素晴らしい取り組みをされている病院と納得しました。

 今回、***病院の**先生に病魔を見つけてもらったおかげと思っており、感謝の念で一杯ですが、手術をしていただいた「名古屋ハートセンター」の皆さんにも感謝、感謝です。

本当にありがとうございました。皆様にもよろしくお伝えください。

まずはお礼まで

平成25年1月29日

****

 

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第三回NPO法人日本ローカーボ食研究会にて

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この1月27日に名古屋市にて第三回NPO法人・日本ローカーボ食研究会が開催されました。

心臓外科医の私が積極的に参加しているのを少し奇異に感じられる方もあるかも知れません。

私としては心臓手術の患者さんをお助けするために大いに役立つため、そして全人医療を自らもっと学びたいこともあって、前向きに勉強させて戴くというスタンスで参加しています。

今回は一般演題というよりはどちらかといえば勉強になるような教育講演、シンポジウム的な構成でした。安井廣迪先生の司会で進められました。

ローカーボ研究会 IMG_1584はじめに名古屋大学名誉教授の加藤潔先生が生命の進化における炭水化物の意義というテーマで特別講義されました。

灼熱マグマの地球の誕生からCO2の大気で包まれて保温されながら徐々に炭水化物ができ、それが生命の発生にいたり、そこから酸素が増えて高度な動物の発生にいたるなかで、炭水化物はCO2や太陽熱・光のエネルギーから由来して私たちそのものに進化していった様子が実感できました。

このように重要な炭水化物ですから、うまく活かすことが大切とあらためて一同感じ入りました。

それから村坂克之先生の恒例・好評のアルコール負荷試験シリーズ、今回は日本酒・地酒のさまざまなものを調査検討されました。中には血糖値をかなり上げるものもあり、ひとつひとつ検証が必要と納得しました。それにしても日本酒にもいろいろあると、そのバラエティーの豊富さには感心しました。

Ilm15_ai02004-s中村了先生は実に多くの文献を読破し、診療経験も含めてローカーボと高脂血症の講演をされました。LDLが必ずしも下がらない、しかしHDLの改善がしっかりしているため大丈夫というところまでわかってほっとしました。

それから不肖私、米田正始がPNASという有名ジャーナルの話題の論文、ローカーボ食で血管障害や動脈硬化が起こるという研究をご紹介しました。

そもそも血管内皮細胞が体の中でどう大切か、そしてそれを造るEPC血管内皮前駆細胞の役割を概説し、それからローカーボ+高たんぱく Ilm19_ca06088-s食のマウスでは動脈硬化がひどく進みEPCの数も機能も落ちていることを示しました。

マウスとヒトの違いはあると思いますし、中性脂肪などが低下しないあたりはそれを物語っているように感じます。しかしローカーボをきちんと評価しながら進める必要があることを学びました。

ちょっと我田引水して、血管内皮細胞が大切なので、重症の虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術はカテーテルによるPCI治療より有利であることもお話ししてしまいました。まあそれぞれの特長を十分踏まえて使いこなすことが大切と思いますが。

Ilm09_cc02001-sそして畏友、新井圭輔先生が糖尿病性腎症はインスリンによる薬害であったという、衝撃的なお話しをされました。新井先生は私のクラスメートで、放射線医師の立場から糖分を食べて育つがんを抑え込むこと、老化の原因のひとつがインスリンであることからアンチエイジングとしてもローカーボを推進して来られました。血糖値と腎機能に全然相関がないというデータを示され、これは面白い、ぜひ科学的検証を進めようと思いました。今日の常識は明日の非常識というのは医学ではよくあることです。インスリンもそうなるのでしょうか。ローカーボ食を活用することで何名かの患者さんのインスリン卒業のお手伝いをしてきた私にはうれしい内容でした。

ローカーボ食のパンや飲み物、アイスクリームなどを戴いて休憩したあと、理事長・灰本元先生の特別講義2、HbA1Cレベルに応じた炭水化物制限の層別化のお話しがありました。

安全なローカーボ、大規模研究EBMにもとづくローカーボを追及するなかで確立してきたゆるやかローカーボの意義がかなりご理解いただけたものと思います。

これからきめ細かいローカーボ食へと進化していくような気がしました。

 

Ilm19_cb01025-sパネルディスカッションとして、やせる症例とやせない症例を小早川裕之先生と篠壁多恵先生が2例ずつ供覧されました。

酒飲みはローカーボ食が効きにくいこと、あるいはどうしてもローカーボが効かない体質の方はおられます。これを今後どうするか議論は尽きないものがありました。

食の問題はこれまで医療の盲点であったような印象を強くもっています。そのため、ローカーボ食を患者さんを助けるための有効な武器としてもっと進化させることで、これまでできなかった治療ができるのではないか、あるいは病気を予防して世の中を良くすることも夢ではないと思っています。

そうした夢が実現できる方向性をかんじさせてくれた研究会でした。

灰本先生はじめ関係の皆様、サポート下さった方々(大塚食品、マンナンライフ、クラシエ製薬、浅田飴、グリコ、楽園フーズなど)、遠方からお越し下さった新井先生、寒い中を参加くださったみなさま、ありがとうございました。

2013年1月27日

米田正始 拝

 

 

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【第四十号】 大鵬関と心室頻拍

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 【第四十号】
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           発行:心臓血管外科情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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少し寒さが緩んだと思うとまた寒波襲来のこのごろですが、皆さん如何お過

ごしでしょうか。

この1月19日に第48代横綱大鵬が死去されました。

72歳で、死因は心室頻拍と伝えられています。

歴史に残る、心に残る名横綱で残念に思っておられる方も多いのではないで

しょうか。

個人的な感傷で恐縮ですが、大鵬関が幼少のころ、北海道で納豆を売り歩き

、お母さんを助けながら勉強や鍛錬をしておられたことを雑誌で拝見しまし

た。

当時確か小学1-2年ごろだった私はこどもなりに感動し、大鵬関と納豆を

大好きになったことを想い出しました。

さてこの心室頻拍とはどういう病気でしょうか。

大変怖い病気なのです。

どういう原因があり、症状と診断、そして治療につきまして、オールアバウ

トという暮らしの百科事典のようなページに解説をお書きしました

皆さんの生活の中でもお役に立つよう、この病気に関連した AED(自動電

気除細動器)も併せて解説いたしました。

ぜひご覧ください。

そしてこの機会に AEDにも関心をお持ち頂ければ、お役に立つことがあるか

も知れません。

それでは寒さ厳しい折から、ご自愛をお願いいたします。

敬具

平成25年1月26日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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心臓手術・事例: 共通房室弁口の僧帽弁閉鎖不全症を弁形成

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共通房室弁口(部分型心内膜床欠損症)にともなう僧帽弁閉鎖不全症は成人以後には弁の二次的変化などが加わり弁形成に際しては相応の注意が必要です。
私たちは先天性心疾患(こども)の専門の先生とチームを組んでこどもと大人の両方の観点から手術を行うようにしています。
患者さんは30歳前後の女性です。
3歳時に共通房室弁口の手術を受けておられます。
無症状のため高校以後はフォロー受けず
第一子の妊娠中に心雑音・弁逆流を指摘されました。
その後、僧帽弁閉鎖不全症が悪化しましたが地元の総合病院で弁形成術は無理と言われ、
しかし第二子が欲しいため弁形成術をもとめて来院されました。
来院時は労作時に軽い息切れがあり、夜間に動悸発作が多くなっていました。
手術前の心エコーでは
僧帽弁前尖にクレフト(裂隙、さけめ)があり、そこから多量に血液が漏れて逆流していました。
弁尖とくに前尖の肥厚と硬化所見が著明でした。
生まれたときからの病変ですから、30年以上の時間が経っており、弁の変化、破壊が進んでいるようすでした。
手術時は前回手術のために心臓と周囲組織の間が癒着していたため、これを丁寧にはがしました。
左房を開けて僧帽弁を見ますと、深いクレフトがありその周囲を中心に前尖の大半が強く肥厚していました。
そこでまず前尖の肥厚した二次腱索を切除し、クレフトを縫合閉鎖しました。
逆流はかなり減りましたがまだ弁が硬く、完全には取れない状態です。
そこで前尖の中ほど部分を大きく切除し、心膜パッチでこれを置き換えました。
さらに弁を微調整し、逆流試験でほぼ逆流ゼロとなりました。リングをつけて僧帽弁形成術を完了しました。
術後経過は良好で術後10日で元気に退院されました。
退院前の心エコーで、僧帽弁閉鎖不全症は治り、心臓のサイズ機能とも改善していました。
外来でもお元気なお顔を見せて下さっています。
あとは近い将来、健康な赤ちゃんが誕生されるのを楽しみにまつばかりです。
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右室二腔症に対するミックス手術(MICS法)――こころの負担を軽くするために 【2019年最新版】

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最終更新日 2019年5月26日

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◾️右室二腔症の手術は

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右室二腔症は心室中隔欠損症VSDのために右室の中に筋肉が異常に張出し、図右室二腔症右室が2つの部屋に分かれたかのように見えるため、この名前があります。

この筋肉の張出しがひどくなり、右室の中を血液が流れにくくなると手術が必要になります。

手術ではこの右室内の異常心筋を、他の構造物を守りつつ、きれいに切除することと、もともとの原因である心室中隔欠損症VSDを閉鎖する必要があります。

これらをきちんと治してこそ、元気に安全に永年暮らせることになります。

こうした手術は通常は胸骨正中切開つまり胸骨を全長にわたって縦に切って心臓に到達することで行われます。そのため皮膚も胸骨の長さ分、切開することになり、長さ25cm前後の大きな創になることが一般的です。

患者さんが比較的お若い方が多いため、大きな創はこころの創にもなりますし、胸骨を全部縦切りすると治るのに2-3か月もかかり、その間、仕事に支障があることもあります。とくにちから仕事は難しくなりますし、クルマの運転もやりづらくなります。

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◾️右室二腔症へのミックス手術

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そこで私たちはミックス手術つまり小切開手術をこの右室二腔症の手術にも導入し、患者さんの高い満足度を頂いています。

Lower Hemisternotomy4右室二腔症では心臓のやや左側の視野が必要となることが多いです。そこでポートアクセス法のように胸の右側からアプローチするのは視野が悪く危険なため、胸骨部分正中切開という方法をもちいています。

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胸骨の下半分ほどを切って心臓にアプローチします。

左図のような切開です。

そのため胸骨は手術後も安定性が良く、術後も早い時期に痛みが軽くなり、骨もより早く治ります。おまけに創が小さく位置も低いため、夏服でも創があまり見えません(心臓手術・事例:右室二腔症へのミックス手術)。

それだけのびのびと夏服も楽しめるわけです。 medianSternotomy

ちなみに右図が通常の皮膚切開です。けっこうな違いがあります。

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心臓と胸骨の位置関係に個人差があります。どうしても胸骨を全部切らざるを得ない場合は皮膚を小さく切開し、上記に準じた利点が得られるようにしています。工夫の積み重ねによって、上記の胸骨部分切開よりも皮膚の傷跡は小さく、うまい使い分けを考えて選んでいます。

心臓手術の患者さんが後日、手術して本当に良かったと言って頂けるよう、こうしたミックス手術を含めたさまざまな努力を行っています。

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  心臓手術と美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り67: MICSで右室二腔症の手術を受けられた患者さん

 

 

 

 

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お便り83: 拡張型心筋症と僧帽弁閉鎖不全症から立ち直り

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拡張型心筋症は難病で、重くなるとしばしば打つ手なしという扱いになることが世間では多いようです。

私たちはこの拡張型心筋症の治療にちからを入れてまいりました。

A335_007心臓外科の観点からは、拡張型心筋症が悪化したときに合併する機能性僧帽弁閉鎖不全症をしっかり治し、かつ左室をできるだけ良くすることが重要と考えています。

そのため、単に手術で頑張るだけでなく、その後のアフターケア、丁寧な薬の治療が大切です。

以下の患者さんは50代前半の男性で、駆出率20%台つまり健康な心臓の3分の1のパワーまで落ちた状態で、しかも高度の僧帽弁閉鎖不全症を合併して来院されました。

そこで僧帽弁形成術を工夫し、弁だけでなくなるべく左室のパワーアップを図るようにしました。

術後経過は良好でまもなく退院されましたが、その後も時間をかけてβブロッカーやACE阻害剤、ARBなどを使用し、じわりじわりと心機能を改善させていきました。

そして手術から1年後には駆出率44%へ、2年後には56%まで改善し、その後術後3年半の現在もこれを維持しています。現在のデータだけを見れば、もう心筋症や心不全の姿はありません。

ともに心臓手術を勝ち抜き、さらに時間をかけてじっくり薬を効かしここまでに回復された患者さんは、仲間そのものです。

その患者さんが手術のあと、退院されるときに意見箱に入れて下さったお便りです。

*********患者さんからのお便り*********

 

米田先生はじめ北村先生、深谷先生、小山先生、また担当戴きました看護師の皆様には心より感謝申し上げます。

米田先生にお会いするまでは騙し騙しぎりぎりまで手術を先延ばしするつもりでしたが今なら弁形成が可能であり、また置換と形成との効果の相違、また放置した場合と現時点で手術をした場合のリスクを、分かり易く比較して説明して戴き、今後のQOLを十分に鑑み、家族と話し合い手術する決意をする事ができました。

術前も、先生方が積極的にインフォームドコンセントを含めたコミュニケーションを取って頂き全く不安なく(本人は)手術を受ける事ができております。

今後は健康な体になり、気兼ねなく仕事に打ち込める事や、高校中学の二人の息子と妻ともスポーツを交えた楽しい時間を過ごす機会を与えられ社会復帰が楽しみです。

貴院に於かれましては志の高い看護師の方々が、更にスキルアップしようと研修に積極的に参加されている様子などから益々患者からの信頼性の向上が期待され発展されることを信じております。

本当にありがとうございます。

こちらの病院の看護師、受付、各職員の方々どなたも私ども患者に対しての応対が、低姿勢で丁寧と大変感心いたしました。

また担当のドクターの方々皆様、ハイレベルで人当たりも良く、患者の質問に丁寧に説明していただき、大変満足しており、感謝いたしております。

平成21年5月30日

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 数回のPCIのあと冠動脈バイパス手術の患者さん

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狭心症、冠動脈狭窄症の治療はその重症度に応じて何段階かあります。

軽症なら食事、運動療法とお薬による治療、もっと重症になればカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに重症になれば外科による冠動脈バイパス手術があります。

患者さんは70代半ばの男性で、四国からお越し頂きました。

もともと糖尿病をお持ちで狭心症となり、地元の病院で4年あまり前に薬剤溶出性ステント(DES)による治療を受けられました。

お元気にしておられましたが、4年半後、狭心症が再発し、再度カテーテルによるPCI治療を受けました。

残念ながらその1か月後にまた狭窄し、3度目のPCI治療を、その1か月後に4度目の治療を受けられましたが、うまく行きませんでした。

冠動脈がすでにうんと悪くなり、ステントではどうにもならなくなったのです。

術前LAD2この間の心筋梗塞などのため、左室のちからは駆出率25%と、通常の半分以下に落ちてしまいました。

思い余ったご家族が米田正始のところへ連絡をしてこられ、ハートセンターでの治療となりました。

手術前の冠動脈造影では右写真のように前下降枝がステントで覆われていますが、完全に詰まっていました。

術前LADしかし他の冠動脈からかろうじて流れてくる血液をみると、この左前下降枝は内胸動脈を丁寧につなげば何とかなるだろうという判断となりました。

さらに右冠動脈にもバイパスがつけられる血管があり、ここから何本かの枝へ血液が流れ、前下降枝へもつながりがあるため、患者さんの虚血の改善はかなりできそうと考えました。

状態が悪いため、安全を見越してIABPという補助の風船ポンプを入れてオフポンプバイパス手術を行いました。

前下降枝はさすがに 4回のPCI治療で傷んではいましたが、内胸動脈の血管保護作用で使えそう、右冠動脈もあまり良い血管ではないものの、使える所見でした。

術後LITA_LADそれぞれに内胸動脈グラフトと静脈グラフトをつなぎ、手術は問題なく終わりました。

術後の冠動脈のCT画像を示します。2本のバイパスは良く流れ、かなりの広範囲の心筋を灌流しているようです。

右図は内胸動脈が左前下降枝を灌流している所見です。その右上にミミズのように見える白っぽい構造物がステントと肥厚内膜です。

下図は静脈グラフトが右冠動脈を灌流している所見です。何本かの枝に流れるためこれも役に立つバイパスになる術後SVG_4PDでしょう。

これなら患者さんの予後の改善に役立つでしょう。地元の先生と協力して、心臓を守る薬をしっかりと使えば効 果はさらに上がるかも知れません。

遠方かつ体力のない患者さんのため、通常よりややゆっくり入院していただき、術後12日目に元気に退院され、四国へ戻られました。

その後もお元気に暮らしておられます。

こうした患者さんのお役にも立ててうれしいことです。

 

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元・京都大学医学部教授
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