事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症で心不全と肝不全となった再手術患者さん

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三尖弁閉鎖不全症(TR)は軽いうちはとくに問題にならないのですが、僧帽弁膜症などに合併して高度になりますと長期の間に肝臓や全身を悪くすることがあります。

とくにペースメーカーのケーブルが三尖弁を押さえておこるTRは重症化しやすく、要注意です。

00056432_20091029_CR_1_1_1この患者さんは70代の女性です。

鹿児島でかつて機械弁による僧帽弁置換術を来院18年前に受けられました。

来院5年前に洞結節不全症候群(SSS、つまり脈が遅くなりすぎる病気です)のため、永久ペースメーカーを埋め込みされています。

それ以後はお元気にしておられましたが、次第に三尖弁閉鎖不全症TRが発生し心不全、うっけつ肝が発生、悪化して行きました。2か月まえには心不全がさらに悪化し危険な状態となったため現地の病院に入院されました。

手術するとなれば再手術でリスクが高く、肝臓も弱っており、さらに腎臓もCKDと呼ばれる慢性腎機能障害(GFR41と低下)の状態で、現地の病院では手術できないと言われ、米田正始の外来へ来られました。(写真右上はそのときの胸部X線です)

とくに肝臓はChild分類(チャイルド分類)Bで、つねに総ビリルビンが4を超えるという危険な状態でした。

来院時は総ビリルビン値は5.74もあり、このままでは手術は危険なため、まず時間をかけて心不全や肝不全、体調を改善するようにしました。1か月でできるだけ改善したところで手術に踏み切りました。

肝不全のため血がなかなか固まらないため、正中切開(胸の真ん中にある胸骨を縦に切って心臓にアプローチします)をやめて右開胸でアプローチすることにしました。

体外循環を開始し、心拍動下に右房を房室間溝に平行に切開しました。

三尖弁は弁輪拡張し、ペースメーカーケーブルが中隔尖の後尖寄りに強く癒着し腱索を巻き込んでいました。長期間のTRのためか前尖・後尖ともやや短縮傾向にあり、先端部が肥厚していました。

まずペースメーカーケーブルを中隔尖から剥離しました。このときケーブルが右室内側から外れたため、まずケーブルを中隔尖と後尖の間に埋め込みつつ、先端を右室肉柱に挿入しました。ケーブルが癒着していた腱索は肥厚短縮しており、その部分の中隔尖は右室側へ牽引されていたためこの肥厚腱索を離断し、ゴアテックス人工腱索でもとの腱索の長さより約5mm延長して再建しました。これによって三尖弁のかみ合わせは改善しました。

その上で柔軟リング27mmを縫着しました。ペースメーカーはリングの外側に位置し、リングはその部分のみ屈曲しケーブルを守る形でその部のTRもありませんでした。ペースメーカーの閾値が術前より改善しているのを確認し、念のため、ケーブルを右房側でも固定し、はずれないようにしました。

体外循環を離脱しました。離脱はカテコラミンなしで容易でした。心臓は一度も止めることなくすべての操作を完了できました。
経食エコーにてTRが軽微であることを確認しました。入念な止血ののち手術を終了しました。

術後経過は予想以上に順調で、出血も少なく、術翌朝抜管(人工呼吸の管から外れること、良いことです)し同日、一般病棟へ戻られました。術後2日目からは歩行も開始され、食欲も良好でした。ビリルビンは術直後は5前後まで上昇しましたが、術後4日目には約2.7まで改善し、うっ血が取れ肝腫大も軽快しました。術後3週間を待たずに元気に退院され鹿児島へ戻られました。

心臓手術から3年半が経ちます。お元気に半年ごとの定期健診に来院され、笑顔を見せて下さいます。心臓ホルモンであるProBNPは術前1740と大変高かったのが、いまでは367まで改善しています。肝機能も正常化しました。手術後は畑仕事も楽しんでおられるそうで、うれしいことです。

蛇足ながら、手術後しばらくしてから、患者さんのご主人さまも弁膜症になられ、手術をさせて頂きました。その時にはこの患者さん(奥様)が付き添いをして下さいました。

今後もお二人の元気なお顔を拝見するのが楽しみです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:二尖弁大動脈弁狭窄症のエホバの証人患者さん

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二尖弁大動脈弁は年齢とともに壊れやすく、弁尖(弁のひらひらと開閉する部分)が硬く狭くなって大動脈弁狭窄症になったり、弁尖が落ち込んで逆流が発生し大動脈弁閉鎖不全症になることが少なくありません。

さらに逆流をそのままにしておくと次第に心臓の筋肉が変性し、拡張型心筋症になりかねません。

 

00058727_20091119_CR_1_1_1二尖弁の場合は上行大動脈や大動脈基部が構造的に弱く、拡張して瘤になることがあります。

これらを考えて短期的かつ長期的な計画のもとで、手術や治療を組み立てる必要があります。


患者さんは39歳男性、二尖弁による大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症(ASR)そして上行大動脈瘤のため米田正始の外来へ遠方から来られました。

00058727_20091119_US_1_12_12b長い間のASR(左図、弁が硬く分厚くなりあまり開きません)のためか、左室の直径(LVDd)73mmと高度に拡張し、駆出率も30%と低下していました。

心不全のため僧帽弁閉鎖不全症も中等度まで合併していました(下右図)。

つまり二次的 00058727_20091119_US_1_25_25bに拡張型心筋症にまで悪化していたわけです。

患者さんのお母様がエホバの証人の信者さんで、母親の気持ちに沿いたいという希望を出されましたので、極力無輸血という方向で手術と治療を進めました。

胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。(術中写真工事中)

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は左冠尖LCCと右冠尖RCCが一体化した二尖弁でした。肥厚硬化が顕著で、石灰化も中等度みられました。

現在でしたら自己心膜による大動脈弁再建を行うところですが、当時はまだ検討中であったため、この患者さんには人工弁を入れることにしました。

弁および石灰をすべて切除しました。

ここで機械弁(On-X弁)縫着しました。この弁は機械弁ですが、背丈を高くすることで血流速を上げ、血栓ができにくい構造になっており、将来ワーファリンが不要または減量できる可能性があります。

上行大動脈を2層に閉鎖し、大動脈遮断を解除しました。

体外循環からの離脱はカテコラミン(強心剤)なしで容易でした。

上行大動脈は50mmに達するほど拡張し、事実上の動脈瘤でした。

通常は上行大動脈置換術を行うのですが、上記のように患者さんのたっての希望で無輸血を確実に達成するためにラッピングを行うことにしました。ラッピングでしたら針穴出血もありませんし、ポンプ時間を短縮することで出血傾向も軽くなります。

上行大動脈を周囲組織から剥離し、ヘマシールド人工血管でラッピングし、軽く締め付ける形で径を35mm程度まで小さくし、人工血管を固定しました。上行大動脈のほぼ全域を覆うことができました。

経食エコーに良好な大動脈弁機能と心機能を確認しました。

入念な止血ののち、余裕をもって無輸血で心臓手術を完了しました。

術後経過は順調で、血行動態安定し出血も少なく、術当夜、抜管し、術翌朝一般病棟へ戻られました。

術後10日目に元気に退院されました。

すでに心臓は格段に小さくきれいな姿になっています。(下右図)

00058727_20100706_CR_1_1_1手術前は心機能の低下が著明でしたが、

術後1年で左室の直径(LVDd)49.5mm、駆出率42%まで回復しておられます。

僧帽弁閉鎖不全症もほぼ消えるほとに改善していました。

ラッピングした上行大動脈も直径45mmで安定しています。

これからお元気に親孝行に励んで頂ければと思います。

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事例: 感染性心内膜炎IEのため僧帽弁置換術を受けた患者さん

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感染性心内膜炎(IE)の治療ではしっかりとした状態評価と、いざというときにいつでも手術できる足腰の強さ、さらにばい菌を完全に消すまで粘り強くかつ適切に抗生物質を使いこなすちからが求められます。

以下の患者さんはこの感染性心内膜炎のため遠方の大学病院からお越し下さいました。

65歳女性、感染性心内膜炎IEに僧帽弁閉鎖不全症弁MRと心房細動AFを合併しておられました。

セカンドオピニオンで来院された患者さんですが、ご本人とご家族のご希望で当院手術となりました。

一応落ち着いておられましたので、できるだけばい菌がいないasepticと呼ばれる状態で手術できるようしばし点滴ラインや抗生物質offで、経口ワーファリン等で経過をみておりました。それから手術になりました。

胸骨正中切開ののち心膜を切開しました。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

図1僧帽弁はまず前尖A2とA3に腱索断裂が複数あり(写真左)、

かつ古くなったvegetationが付着(写真下右)していました。

図2またACも逸脱気味でした。

一方、後尖はP2とP3が左室後壁に張り付き、

図3実質的にP2・P3は存在しないのと同様になっていました。

写真左でP2とP3はほとんど立ち上がることができません。

また写 図4真下右でP2とP3の大半が左室後壁に付着しています。

後尖が半ば存在しないanatomyでの弁形成は、弁尖をあらたに造れば形成は十分可能です。前尖には人工腱索を6-8本も立てればきれいにかみ合うようになるでしょう。

しかし感染がまだ多少でも残存している恐れから複雑な弁形成がやや不利な状況と、すでに60歳半ばのご年齢で生体弁もかなり長持ちしやすいことを併せ考え、この患者さ 図5んの場合は前向きに弁置換が有利と判断しました。

そこで前尖の元・感染部を切除し、

残りの前尖後尖腱索を僧帽弁輪に再固定(写真左)する形で乳頭筋を温存し心機能を守るようにしました。

モザイク生体弁27mmを 図6固定しました(写真右)。

それに前後して、冷凍凝固を用いたMaze IIIをまず左房側に行い(写真下左)、

図7左房を閉じて、70分で大動脈遮断を解除しました。

左心耳は除細動の可能性が高く、

かつ心房性利尿ホルモンANP分泌能温存を考慮し、

閉鎖しませんでした。

図8心拍動下に右房をメイズ切開し、右房メイズを行いました(写真左)。

エア抜きののち119分で体外循環を離脱しました。

離脱はカテコラミン無しで、心房ペーシングにて容易でした。

切除した前尖 図9の感染部(写真右)です。

経食エコーにて良好な僧帽弁(人工弁)機能と心機能を確認いたしました。術前にワーファリンないしヘパリンが入っていましたので入念に止血を行い手術を完了いたしました。

術後経過は順調で、出血も少なく、心房ペーシングで血行動態は安定し、夕方には覚醒、術翌朝人工呼吸から離脱しました。

もともと感染性心内膜炎IEがあったため、時間をかけて感染の治療(予防)を行い、術後3週間で元気に郷里へ戻られました。

心臓手術から4年が経過し、現在は毎年1度、定期健診に外来へ来られます。笑顔を拝見するたびにうれしくなります。

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原因 

僧帽弁閉鎖不全症 

僧帽弁逸脱症

僧帽弁形成術

◆ リング

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 僧帽弁置換術 

⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

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心房縮小メイズ手術 

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事例: 急性大動脈解離と大動脈弁閉鎖不全症

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急性大動脈解離はとつぜん、それもいのちにかかわる状態となる病気です。上行大動脈がやられるA型とやられないB型があり、A型では超緊急手術が患者さんを救います。心タンポナーデつまり血液が心臓の周りに貯まって圧迫したり、この方のように大動脈弁閉鎖不全症を合併すると一層急ぎます。

その病院の足腰の強さや基本姿勢が問われる病気ともいえます。

ハートセンターはまさにこうした病気の患者さんを救うために存在しているような病院で、社会にお役に立てればと念じています。

患者さんは79歳女性で、高血圧と高脂血症で近くの医院に通院しておられました。

とつぜんの胸痛で、当院へ搬送されて来ました。いそいで診断確定し、ただちに手術となりました。

手術室の準備ができ次第、患者さんを搬送し全身麻酔を導入しました。

図1血行動態は頻脈でプレショック状態でしたので、解離のためタンポナーデが発生しているものと考え、急遽オペ開始しました。

この時点でアニソコリア(左右の瞳孔サイズが違うこと)があり強い脳虚血の懸念がありました。早く手術しないと脳死になる恐れが迫っています。

図2
急いで心膜を切開しますと暗赤色の血液が噴出しタンポナーデ状態であることが確認されました。

左写真でソーセージのように赤く見えているのが上行大動脈です。

突然高血圧になって大動脈が破裂しないよう、血圧が徐々に上がるよう血液とクロット(血の塊り)を心のうからゆっくり吸引し血行動態は安定しました。

写真上右は上行大動脈の解離を、写真左は解離した上行大動脈―近位弓部大動脈の外観を示します。

 

左大腿動脈送血、上下大静脈脱血管にて体外循環を開始しました。

図3全身を約20℃まで冷却しつつ、頭部は氷嚢で追加冷却し、かつバルビタール等で脳保護に努めました。

体温が20℃になったところで循環停止し、上行大動脈を横切開しました。

最近は28℃程度でより迅速に自然に治すことが増えましたが、この患者さんのように脳保護が大切なときには有用な方法かも知れません。

解離腔には暗赤色のクロットが見られ、これを摘除しました。

内膜は上行大動脈遠位部の内側(主肺動脈側)に亀裂があり、これがエントリーと考えました(写真上左、ハサミの先端やや左側の部位が亀裂です)。
図4

上行大動脈を切除し近位弓部大動脈を露出したところで、GRFグルーをもちいて、近位弓部大動脈の断端を補強しました(写真右)。

図5ダクロンフェルトストリップを用いて

ヘマシールド人工血管1分枝付き26mmを近位弓部大動脈に縫合しました(写真左)。

現在はさらに高性能の人工血管で一段と出血が減っています。

十分なエア抜きののち、24分で体外循 図6環を再開し、復温に入りました(写真下右)。
縫合部の止血を確認・補強後、上行大動脈基部をトリミングし、

図7大動脈基部には弁のなかほどのレベルまで解離があったため、

GRFグルーで内膜と外膜を固定しました(写真左)。

さらに 図83つの交連部を内外のフェルト付き糸でリベットを打つように固定し、

再解離しにくく、またARの発生を抑えるようにしました(写真右)。
上記人工血管の反対側を大動脈基部と縫合しました。

110分で大動脈遮断を解除しました。入念な止血とエア抜きののち、体外循環を離脱しました。

図9離脱は容易でした。

写真左は近位弓部大動脈人工血管置換術後の外観を示します。
経食エコーにてA弁と左室の機能良好を確認しました。

入念な止血ののち手術を完了しました。

麻酔導入のころに見られた瞳孔不同は体外循環再開後は正常化し安定しました。

術後経過はまずまず順調で、出血も治まり、術翌日朝に抜管いたしました。

神経学的にも明からな異常はありません。

術後経過は良好で、年齢とリハビリをじっくり行い、手術後3週間で元気に退院されました。

その1年半後、息切れのため米田の外来へこられ、右冠動脈の狭窄が判明、カテーテルによるPCI治療で軽快しました。

大動脈の術後4年が経ちますが、お元気にしておられます。かつての緊急手術の甲斐があったと喜んでいます。もはや急性大動脈解離でいのちを落としてはもったいないと思います。

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事例: クレフトのある先天性僧帽弁閉鎖不全症

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先天性僧帽弁閉鎖不全症にはさまざまなタイプがあります。

単にクレフトと呼ばれる弁尖のき裂から、それが大きくなって弁輪に達するもの、さらに弁輪を割って心房中隔欠損症ASDや心室中隔欠損症VSDまでに至るものなど、さまざまです。

Ilm19_cb02025-sその他にもさまざまなき裂、低形成、腱索や乳頭筋の異常などがあります。

いずれにせよ、こどもの頃からの逆流のため、長い年月を経て弁の形も正常も変化変形します。

それぞれに応じた対応が大切と思います。それによって弁形成ができるからです。この病気では若い患者さんが多いため、きわめて重要なことです。

患者さんは30代後半の女性です。

11歳のときに心雑音を近くの病院で指摘され、以後毎年2回定期健診を受けておられました。

13歳ごろに倒れて近くの病院へ行き、そこで重い僧帽弁閉鎖不全症と初めて診断されたそうです。以後、2か月ごとに外来通院し内服治療を受けておられます。

来院の前年までは毎日仕事をしておられましたが、それ以後次第に息切れが増え、旅行などのときに苦しくなったこともあったそうです。何とか一日おきの勤務で頑張っておられましたが、弁形成ができるという話を聞いて米田正始の外来へ来られました。

心不全のある、高度な僧帽弁閉鎖不全症のため手術を行いました。

全身麻酔下に胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

図1僧帽弁は術前診断どおり、前尖に裂隙(クレフト)があり、

僧帽弁輪中央部からやや後交連側に斜めに走行する形でクレフトができており、

クレフト部の前尖は肥厚と硬化が著明でした(写真左)。

僧帽弁輪そのものは何とか保たれていました。

乳頭筋は前尖のクレフトの左右比に近い形で、前乳頭筋が後乳頭筋よりもやや発達し 図2ていました。

また後尖はP1がやや低形成で、

P3が腱索伸展のため逸脱していました(写真右のセッシでP3を把持)。

P2-P3間のScallopが前尖のクレフトの対岸にあり、ここからMRが強く発生しやすい形でした。

総じて、先天性のクレフトMRで、その後P3の逸脱という後天性疾患が加わったもので、クレフトは共通房室弁口の亜形と考えられましたがASDやVSDはありませんでした。

図3まずクレフトを僧帽弁輪から弁尖まで結節縫合にて修復再建しました。

このとき、

弁輪近くの僧帽弁輪形成術MAPの糸は左室側から、大動脈弁を直接チェックしながら弁輪に刺入しました(写真左)。

さらにP3をP2にEdge-to-edgeで連 図4結し、

P2-P3間のScallopを閉鎖しつつ、

同時にP3の逸脱を防ぐようにしました(写真右)。

Duran柔軟リング25mmで全周性にMAPを行いました 図5(写真左)。

柔軟リングを用いることで隣接する大動脈弁のジオメトリーを変えないように、

また弁輪部のクレフトが再発しないようにしました。

逆流試験にてMRの消失を確認し(写真右)、

左房を閉 図6じて87分で大動脈遮断を解除しました。

経食エコーにてMRの消失と良好な心機能および大動脈弁を確認しました。弁形成の完了です。

入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過はおよそ順調で、出血少なく血行動態もおおむね良好で、術当夜抜管いたしました。

術翌朝一般病棟へ帰室され術後10日目に元気に退院されました。

あれから3年が過ぎ、現在は毎年1回定期健診に来られます。

心臓もすっかり小さくなり、リズムも含めて正常化しました。お元気なお顔を拝見してうれしく思っています。

 

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原因 

僧帽弁閉鎖不全症 

僧帽弁逸脱症

◆  HOCM(IHSS)にともなう僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ バーロー症候群


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 僧帽弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

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ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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事例:心室中隔欠損症VSDと動脈管開存症PDAの合併例

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心室中隔欠損症(VSD)は先天性心疾患つまり生まれたときからの心臓病のなかで頻度が高いものです。多くはこどものころに検診などで診断がつき、手術で治しますが、中には大人になってから手術になることも少なくありません。

動脈管開存症(PDA)も同様に先天性心疾患でこどもの間に手術することが多いのですが、ときに大人になってから行うことがあります。

この2つの病気を併せ持つ患者さんは少なくありませんが、多くはこどものときに手術を受けて治します。

下記の患者さんは30代歳男性で、心室中隔欠損症II型(VSD、動脈管開存症PDAで米田の外来へ来られました。

心不全が進行しつつあったため2つの疾患を同時に治すことにしました。
 

図1体外循環下に体温を軽く下げつつ、主肺動脈を縦切開しました。

PDAは約6x3mm大で血液が噴出していました(写真左、セッシの少し先にPDAからの血液噴射が見えます)。

図2PDAを軽く押さえつつ、これをプレジェット付き糸で直接閉鎖しました。

念のため、もう一組のプレジェット付き糸にて、先ほどと直角の向きにPDA閉鎖部を補強しました(写真右、PDAからの出血は止まりました)。

この間、体温は28℃で体外循環流量はとくに一時低下させることなくPDA閉鎖の操作は完了しました。

図3 ここで上行大動脈を遮断し、心停止を得て右房を横切開しました。

 VSDは膜様部中隔にあるII型で、直径5mm大、周囲に白色の繊維組織が増成し自然閉鎖の途中で止まったような所見でした

(写真左、左側セッシ 図4の少し先の黒いくぼみがVSDです)。

三尖弁中隔尖の根元から糸をかけ、VSD辺縁部の繊維組織とつなぐ形で直接閉鎖しました

(写真右、2つのプレジェットで挟み込んでVSDを閉鎖したのが見えます)。

16分で大動脈遮断を解除しました。

自然に心拍を再開しブロックもありませんでした。

主肺動脈ついで右房を2層に閉鎖し、4度にわたるエア抜きののち、60分で体外循環を離脱しました。

離脱はカテコラミンなしで容易でした。

写真左図5は右房閉鎖前の三尖弁OKを示すもので、右房側にプレジェットが一つだけ残ります。

刺激伝導系には影響を与えない位置につけてあるのを示します。

経食エコーにてVSD、PDAともシャントが消失しているのを確認しました。

体外循環前に触知したスリルも消失していました。

心臓も開胸直後よりかなり小さくなりました。入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過は順調で出血も少なく、血行動態も良好で、肺動脈圧は術前の30台から20台前半まで改善し、全身状態も良いため術当日夜、人工呼吸を離脱しました。

翌朝、一般病室へ帰室されました。

術後経過も順調で、手術後10日で元気に退院されました。

あれから4年経った現在も、元気に外来へ健診にこられます。ちょっと遅れながらも完全に心臓病を治し、ある意味後れを取り戻したと思うとうれしくなります。

動脈管開存症PDAは小児期には結さつまたは離断・縫合するのが普通ですが、元来消滅していく組織ですので、成人期には小児期の方法で閉鎖しようとしますとちぎれて大出血のもとになります。

とくにPDAが石灰化しているときにそのリスクは高くなります。

そこで体外循環下に低体温として、循環停止に近い形で肺動脈側から閉鎖するのが一般的です。

その場合低体温にしますと出血傾向が強まり、時間もかかり侵襲が大きくなりますので、上記の工夫をして侵襲を下げ短時間で操作が完了するようにしいます。

 

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事例: PCI後、急性心筋梗塞後の冠動脈バイパス手術

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冠動脈バイパス手術(CABG)の良さがあらためて認識されつつあります。

このことは昨年改訂された日本循環器学会のガイドラインが物語るところです。

3枝病変や左主幹部病変で複雑な病変があるケースはCABGが第一選択と明記されたのです。

さらに若い先生方を中心に、ガイドラインを順守する向きが増えたことも一因です。

ただしそれまでも患者さんの状況や状態によってはカテーテル治療(PCI)ができる場合でも前向きにCABGを選択されることはよくありました。

患者さんは46歳男性です。

冠動脈3枝病変があり、カテーテル治療PCI後で、最近急性心筋梗塞AMIで来院されました。

来院前は近くの診療所で心室細動VFになり、AEDで蘇生ののち救急車で当院へ搬送されるという、ぎりぎりの状態でした。

来院当夜は緊急カテーテルで右冠動脈1番にステントを入れて救命できました。しかしそれ以外の冠動脈にも問題がありました。

もともとびまん性病変つまり冠動脈のあちこちが悪くなっている、しかも若い患者さんのため、長期的な安全を考えて、PCIではなくバイパス手術を行うことにいたしました。

 

胸骨正中切開ののち両側内胸動脈と左大伏在静脈SVGを採取しました。

図1心膜を切開し、まず右内胸動脈RITAを左前下降枝LADにオンレイパッチ吻合しました。

この患者さんのLADは数か所の狭窄がありましたので、

末梢側の狭窄を切開しこれを拡大する形でバイパスをつけ、広域を灌流するよう努めました(写真左)。

切開した狭窄症は内膜が肥厚・石灰化し針を通すのに工夫を要しました。

ドップラーにて良好なフローパタンを確認しました。

図2ついで心臓を脱転し、左内胸動脈LITAをまず中間枝IMに側側吻合しました(写真右)。

IMはLAO viewで比較的良い血管に見えたためバイパスをつけることにしましたが、

血管を開けてみますとやや細く、ドップラーでのフローも少ないパタンでした。

図3このLITAをさらに末梢の鈍縁枝OMに端側吻合しました(写真左)。

この吻合もプラークを切開し灌流域を広げるようにしました。

ドップラーで良好なフローパタンを確認しました。

回旋枝末梢枝は細く、かつ病変で策状になっていたためバイパスはつけませんでした。

 

ここでSVGを 図4上行大動脈にデバイスを用いて吻合し、心臓を頭側へ脱転し、このSVGを4PD枝に吻合し、操作を完了しました(写真右)。

良好なフローパタンを確認しました。

 

手術中、血圧・血行動態は安定していました。

経食エコーにて良好な心機能を確認しました。入念な止血ののち、無輸血にて手術を終えました。

術後経過は順調で、出血も少なく、血行動態も良好なため、術当日夕方、人工呼吸から離脱し、翌朝、一般病棟へ戻られました。

00021915_20090113_CT_501_5_5 00021915_20090113_CT_501_4_4術後のMDCTでバイパスはすべて開存し、良く流れている様子でした。

左図は両側内胸動脈グラフトが開存し、

右図は静脈グラフトが開存している状態を示します。

 

その後も経過良好のため術後10日目に元気に退院されました。

来院前はAEDで蘇生救命されるなど、じつに間一髪の危ない状況でしたが、すっかり良い形になられました。

これから永く楽しく過ごして頂ければと思います。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:重い僧帽弁狭窄症などの患者さん

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僧帽弁狭窄症が進行すると心房細動、そして巨大左房になり、多量の血栓が左房の中にでき、脳梗塞などの大きな問題がおこります。また心不全や肺合併症のため命を落とす方が長期的に増えて行きます。

そこで僧帽弁だけでなく左房や心房細動三尖弁閉鎖不全症などをしっかりと併せ治すことが肝要です。

患者さんは75歳女性、僧帽弁狭窄症(高度)、肺高血圧症(高度)、三尖弁閉鎖不全症(中等度)、巨大左房、心房細動)のため米田正始の外来へ来られました。

心不全症状が強く心臓も大きくなっており、左房の中に血栓が多量にあるためもあり、手術することになりました。弁膜症の極めつけのような状態でした。

図1心臓手術では体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

左房は高度に拡張し、左心耳を中心に大きな暗赤色血栓(大型スプーンのサイズ)があり(写真右)、摘除しました(写真左)。

図2左心耳の中に白色血栓があり、上記の大きな新鮮血栓の起源は左心耳であることを示しました。

左房左室を洗浄し、血栓が残らないようにしました。

 

 僧帽弁は肥厚・硬化・ 図3石灰化が著明で(ようするにガチガチに硬く変化していました)、

弁口は中央部にわずかに残る程度となっていました(写真右)。

こうした弁は近年は弁形成するようにしていますが、この頃はまだ弁置換を主体にしていました。それと患者さんのご年齢から生体弁でも20年近く持ち、しかも短時間で確実に完了する意義は大きいため弁置換を行うことにしました。

図4

弁を切除しつつ左室内を観察しますと、弁下組織が短縮し弁葉にまで引き上げられる形になっていました。

左室を守るため基部腱索の一部を残してそれ以外の弁葉・ 図5腱索と乳頭筋先端部を切除しました(写真右、弁から切り離された乳頭筋はすでに正常の位置に戻っています)。

左室破裂予防と術後左室機能改善のため、

ゴアテックス人工腱索を前後乳頭筋先端に1対ずつ立て、

これをそれぞれ僧帽弁輪の10時と6時の方向に吊り上げました

(写真上、後乳頭筋の人工腱索が見えています)。

図6

ここで弁操作を一旦止め、巨大左房を左心耳も併せて私どもの心房縮小メイズ法で縫縮し、

続いて縫縮ラインを冷凍凝固にてアブレーションしました(写真上左)。

その 図7上でMosaicブタ生体弁25mmを縫着しました(写真上右、2つ前の写真と比べますとかなり小さくなりました)。

弁機能が良好であることを確認ののち、左房をさらに縫縮しつつ閉鎖しました。

 

図8心拍動下に右房をメイズ切開しました。

三尖弁そのものは健常ながら弁輪の拡張が見られたため、MC3リング28mmにて三尖弁輪形成術TAPを施行しました(写真左)。

冷凍凝 図9固法で右房メイズ手術をおこない、

さらに心房細動の予防のため峡部をも冷凍凝固し(写真右)、右房を縫縮閉鎖しました。

ANP(心臓ホルモン、大切な利尿作用などがあります)分泌能を残すため右心耳は温存しました。

離脱はカテコラミンなしで容易でした。

写真下左は術後の右房、下右は術前の右房です。

図10 図11

同じ視野でも、術前は拡張した右房しか見えていなかったのですが、

術後は右房が小さく、右室がよく見えるほどになっています。

経食エコーにて僧帽弁(生体弁)・三尖弁や左室・右室の機能が良好であることを確認しました。術前は血圧の80%前後あった重症肺高血圧は手術終了段階で約40%程度にまで改善していました。

こうした高度MS、巨大左房の症例では一般にはメイズ手術の適応にさえならないことが多いのですが、心房縮小メイズ手術にて無事除細動でき、sequential pacingに乗りました。心房の収縮も明瞭にありました。

術前肝うっ血のためか出血傾向が見られましたので、より入念な止血を行ったのち手術を終えました。リズムは心房ペーシングで良い形になりました。

術後経過はしばらく出血傾向が見られたほかは問題なく、手術翌日に抜管しました。

その後の経過も良好で手術後10日で元気に退院されました。

あれから4年が経ちますが、外来でお元気なお顔を見せて下さいます。手術後2年の時点で脈が遅くなってきたため、ペースメーカーを入れておられますが、心房細動はよく取れており、DDDタイプの自然なペースメーカーで安定しておられます。

心臓もすっかり小さくきれいな形を取戻し、しっかりと治すことの意義を感じます。

 

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僧帽弁膜症のリンク

原因 

弁狭窄症

リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ 弁狭窄症に対する僧帽弁交連切開術


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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事例:複雑な僧帽弁形成術 その2

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僧帽弁形成術にはさまざまな難易度のものがあります。術前に普通程度と予測されていたケースが手術してみたら、けっこう難題であったこともあります。

医師とくに外科医の昔からある諺に「オペを安全確実にしたければ一段上のものが自信をもってできる、そういう状況で手術しなさい」というのがあります。たとえば虫垂炎の手術を確実にしたければ、腸切除の技術を十分に身に付けてからにしなさいというわけです。

これを僧帽弁形成術でいえば、普通の後尖の一部切除でできるケースを安全確実にやりたければ、その一段うえのゴアテックス人工腱索が自信をもってできるようにしてからやれ、となります。

そうしたことをあらためて実感させてくれたケースでした。

 

患者さんは34歳男性です。

僧帽弁閉鎖不全症三尖弁閉鎖不全症、そして発作性心房細動をお持ちでした。


当初はかかりつけの先生から弁膜症ということで近くの病院へ紹介されましたが、患者さん自身、医療関係者で本やネットで勉強しハートセンターへ来院されました。

図1
 手術のとき、僧帽弁は後尖の中央部(P2)と右側(P3)がくっつきかつ瘤化し、完全に逸脱していました(右図)。

その腱索は1本が断裂し、他は伸展していました。

図2前尖も中央部(A2)と右側(A3)、

そして交連部部分(PC)が逸脱していました。

前尖は肥厚していました。

後尖の逸脱部 図3分を四角切除すると後尖の6割を切除しなくてはならず、それでは成り立たないため、

まずP2+3の中央部の瘤化部分を三角切除しました(右図)。

P2+3の残る部分を再建しました。

図4 こで、逆流試験で調べてみると前尖の逸脱がより鮮明になりました。

また再建P2+3も逸脱していたため、ゴアテックス人工腱索をこれらに付けることにしました。

 

人工腱索をまずPCに2本、さらにA3に4本つけ、さらにA2の後交連側に2本つけました。

つまり前尖とPCと併せて8本の人工腱索を付けたのです。左上図はその操作中の様子です。

流試験にて逆流の消失を確認しました。図5

逆流試験はOKでも、後尖の逸脱は残存していましたので後尖にもゴアテックス人工腱索をつけることにしました(右図)。

再建後のP2+3にゴアテックスCV5を5mm間隔で4本つけました。

逆流試験で逆流だけでなく逸脱も無いことを確認しました。

図6ここで僧帽弁輪形成術MAPのリングサイズを検討しました。

弁の肥厚があり、かみ合わせを良くするためやや小さめの28mmのリングを選択しました。

リング縫着後、逆流試験で逆流がないことを確認しました。左図です。

弁尖のかみ合わせを測定するため青いインクをもちいたインクテストを行うため、弁尖は青い色になっています。

そして左房メイズを冷凍凝固法にて行いました。

左房を閉鎖し大動脈遮断を解除しました。

図8三尖弁は弁輪拡張著明であったため、硬性リング30mmで三尖弁輪形成を行いました。

逆流試験にて逆流がないことを確認しました(左図の中下部分)。

それから右房メイズ施行しました(右下図)。

 

自然の状態で経食エコーを調べますと、僧帽弁の形図7は概ね良いのですが、前尖の収縮期前方変位(SAM)が発生しそのため中程度の逆流が起こっていました。

こうした場合、ベータブロッカーなどのお薬を使えば改善しますが、若い患者さんで将来永く薬なしで行ける方が良いですし、追加形成する時間は十分あるため、さらに形成を加えることにしました。

もとのリングをはずし、2サイズ大きくしてやり直しました。逆流試験では多少の逆流が見られましたが、体外循環の後は良くなると確信したため、そのまま左房を閉じました。

その結果、経食エコーにてSAMはほぼ消失改善、僧帽弁閉鎖不全症もゼロになりました。

比較的複雑な僧帽弁形成術になりましたが、無事きれいな形で仕上がりました。

術後経過は順調で、手術翌朝には集中治療室を元気に退室され、術後10日目に元気に退院となりました。

このレベルの複雑僧帽弁形成術となると、ちょっと形成やっているという病院ではお手上げ状態となり、人工弁をもちいた弁置換になることが多いです。

僧帽弁形成術に豊富な経験をもつチームを選ばれた患者さんの努力の賜物と思います。

またこうした方に選ばれたことを私たちは大変光栄に思います。

やはりこうした心のつながり、絆をもって手術に臨むのは素晴らしいことです。

手術後まる3年が経過し、僧帽弁閉鎖不全症もほぼゼロで安定し、外来でお元気なお顔を拝見してはうれしく思っています。

 

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原因 

閉鎖不全症 

逸脱症

リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ 形成用のリング

◆ バーロー症候群

◆ 三笠宮さまが受けられた僧帽弁形成術

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するそれ

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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事例: 僧帽弁閉鎖不全症と巨大左房

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僧帽弁閉鎖不全症は時間が経つと左房が大きくなり、酷い場合には巨大左房となります。

そうなると心房細動は必発ですし、血栓ができやすく、脳梗塞の危険性が高まります。

原因である僧帽弁閉鎖不全症をそうなるまでに治すことが一番患者さんの安全に役立ち、実際ガイドラインでもそれが推奨されています。

以下の患者さんはそうした状態に僧帽弁形成術心房縮小メイズ手術などを行い、お元気になられたケースです。

患者さんは68歳女性です。

僧帽弁閉鎖不全症MR、三尖弁閉鎖不全症TR、巨大左房と慢性心房細動AF、慢性肝炎・血小板減少症を患っておられ、結構重症の弁膜症です。

通常の医学常識ではこうしたケースの心房細動は手術でも治せないことになっています。

図1手術では 、まず僧帽弁は前尖の左側A1、前尖の中ほどA2が逸脱していました(写真右)。

図2その原因としてA1腱索の太い1本が断裂し(写真左)、

その他の腱索も伸展していました。

まず僧帽弁輪形成術の糸をかけて視野を確保しました。

図3ついでゴアテックス人工腱索を前乳頭筋先端に4本かけ、これを前尖のA1部にほぼ均等につけました。

さらに同人工腱索2本をA2部にかけ、これは後乳頭筋先端にかけました。

右図はその操作中の様子です。

図4ここでいったん方向を変え、まずリングをつけて僧帽弁輪形成術を行いました。

左図はそのリングが入ったところです。

左房の拡張が顕著です。

左図でリング(白い色のバンド状のもの)の下側がお鏡餅のようにたるんでいるのが、拡張左房の壁なのです図5

そこで拡張している左房を縫縮縮小しました。

右図がその様子です。上図のお鏡餅のようなものがぺしゃんこになり、左房が小さくなたことがわかります。

この縫縮ラインを冷凍 図6凝固いたしました(左図)。

左房を小さくでき、さらにカテーテルでは焼きづらいところまでしっかり焼ける(といっても温度は60℃程度で麻酔もあって痛みはありませんが)、

これが手術の良いところです。

なお左心耳は内側から閉鎖しました。

その 図7上でリングを僧帽弁輪に縫着した糸を結紮ししっかりと固定しました。

逆流テストにて僧帽弁の逸脱や逆流がないことを確認しました。

右図です。僧帽弁がしっかりと張って、しかも水の漏れがないのが見えます。

図8さらに心拍動下に右房をメイズ切開(房室間溝にほぼ垂直)し、右房メイズを施行しました。

三尖弁は強く拡張(写真左)していたため、

リング28mmで三尖弁輪形成を行いました(写真右、その中央の紐状のものがリ 図9ングです)。

右房を縮小縫合閉鎖しました。

 体外循環からの離脱は心房ペーシング下にカテコラミンなしで容易にできました。

経食エコーにて良好な僧帽弁および三尖弁機能と、良好な心機能を確認しました。

心房の運動性もかなり回復していました。止血には平素より時間をかけ、そののち手術を終えました。

術後経過はおおむね順調でした。もともと出血傾向があったため止血に努力しました。

手術翌日に集中治療室を無事退室し、運動療法を進めつつ、不整脈の治療と安定に時間をかけ、1か月後に元気に退院されました。

あれから4年が経ちますが、外来でお元気なお顔を見せて頂けるのが何よりです。

僧帽弁、三尖弁とも良好ですが、

リズムも正常リズムで、よろこんで頂けました。何しろ通常のメイズ手術では治せないタイプの心房細動だったのですから。

重症ほど弁形成の意義は大きく、弁形成するならこうした強化型メイズ手術の意義が大きくなります。

心房縮小メイズ手術は一部の欧米施設では活用されていますが、日本ではまだまだこれからで、さらに磨いて啓蒙もしたく思います。

 

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原 因 

閉鎖不全症 

逸脱症

リウマチ性

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ バーロー症候群

◆ 三笠宮さまが受けられたもの


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

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心房細動

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