奈良新聞 第30回市民公開健康講座 最新の心臓手術と科学的ダイエット

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第30回市民公開健康講座
最新の心臓手術と科学的ダイエット
高の原中央病院特任院長・ハートセンター長
      米田 正始氏
高の原中央病院栄養科長・管理栄養士
     余呉 淳子氏

IMG_0206b第30回市民公開健康講座(奈良新聞社主催)が昨年12月18日、奈良市学園前南3丁目の奈良市西部会館で開催され、約200人が参加した。

同講座は、広く県民に健康について正しい知識を啓発し、考えてもらおうという趣旨で行われている。

今回は高の原中央病院特任院長でハートセンター長の米田正始氏が「最新の心臓手術と科学的ダイエット」をテーマに講演した。また同病院栄養科長で管理栄養士の余吾淳子氏が「糖質制限食とは」をテーマに講演した。

 ▽狭心症冠動脈バイパス

 狭心症の治療についての基本的な考え方は、まず適切な予防・食事・運動を行うとともに内服治療を行います。それで効果がなければ、カテーテル治療(PCI)を行います。さらに必要であればバイパス手術を行います。

 PCIの特長は、低侵襲つまり皮膚を切らずに治療ができるという点です。一方で、バイパス手術は切らなければなりませんが、安定性が良く長生きできるのが特長です。天皇陛下もこの手術を受けられましたので、強い薬を使わずに公務に励んでいただけるのです。
 バイパス手術に使う内胸動脈は、NOS一酸化窒素合成酵素を作りますから、動脈硬化を防ぎます。このため、内胸動脈は冠動脈より「若い」のです。そこでバイパス手術は、血液透析を受けている患者さん、90歳前後の高齢者の方、脳梗塞後や頚動脈狭窄のある方、低肺機能の方、ASO末梢血管病変のある方、癌や感染をお持ちの方にも効果が高いのです。透析や重い糖尿病患者さんの場合、冠動脈が高度に石灰化していますが、この場合もバイパス手術は役立ちます。透析歴30年の患者さんでも内胸動脈はやわらかかくきれいだったという経験があります。

 MIDCAB手術 MIDCAB手術の創(創がちいさいバイパス手術)は内科治療とのハイブリッド(合同治療)に適しています。と言いますのは、創が小さく、早い社会復帰ができることと術後の長期成績が良いからです。

虚血性心疾患では、リスクファクターのある患者さんは注意が必要です。

 糖尿病、高血圧、高脂血症、家族歴、喫煙その他透析、肥満(メタボリックシンドローム)、ASO、ストレスなどが該当し、痛みはさまざまです。痛くない場合もあります。病気の有無を調べるには、苦痛のないCTで検査するのがいいでしょう。けっこうきれいに見えます。医師に相談してください。

 ▽弁膜症の手術

 心臓弁膜症は問診や心雑音、胸部X線で心拡大があれば要注意です。心房細動(略称AF)も要注意で、検査には3次元エコーが威力を発揮します。息切れやだるさ、ふらつき、胸痛があれば、我慢せずに医師に相談してください。

弁膜症の手術には、弁形成術が一番です。僧帽弁閉鎖不全症MRや三尖弁閉鎖不全症TR、大動脈弁閉鎖不全症ARでも形成は行えます。ただし弁形成のエキスパートの場合ですが。ワーファリンが不要になるので、QOL(生活の質)が向上します。若者や妊娠希望者、活発な生活を望んでおられる方には朗報です。90歳を過ぎても活発に活躍したい方には役に立つ手術です。


ちなみにワーファリンとは、これまで患者さんの生命を守ってきたもっとも素晴らしい薬のひとつです。副作用もほとんどありません。しかし服用には手間がかかり、妊娠出産は危険です。一生涯ワーファリンを服用するということは大変なことです。ですから弁形成手術でワーファリンを服用しなくていいようにしているのです。


ポートアクセスMVPの創 ポートアクセス(小開胸)

僧帽弁手術は、左半側臥位で第4肋間開胸を行います。うんと小さい創になります。より一層、エキスパートだけができる手術ですが(写真右は術後の創です)。

弁形成術にこだわるのは、患者さんの人生を変えるインパクトがあるからです。たとえば妊娠・出産や激しいスポーツ・仕事が可能になり、QOL(患者さんの生活の質)が向上します。またより長生きすることができるのです。

 では弁形成術が不適応なときはどうすればよいのでしょうか。その多くは、弁の破壊が高度な場合ですが、私たちは自己心膜による弁再建を行います。この手術は弁形成を上回る性能があり、弁形成に準じた長期安定性があると見込まれています。
 
 弁膜症手術には、弁置換もあります。機械弁は60歳以下で通常の生活を志向するときに、生体弁は60歳以上や若くても危険な仕事をする方などに使用します。90歳でも手術可能です。自己心膜AVRを開始し、今後はカテーテルで入れる弁(TAVI)も行います。

▽急性大動脈解離 

 急性大動脈解離は、強い胸痛が発生し大動脈が裂けます。発生2日で患者さんの半分が死亡します。しかし手術すれば、95%以上は救命する実績を持っています。
  たとえば、ある患者さんは開胸したところ、上行大動脈が解離していました。低体温・循環停止で大動脈を切開し、GRF糊で大動脈を処理します。遠位部を吻合し、大動脈弁を形成して循環を再開します。さらに近位部を吻合して出来上がりです。
 
大動脈疾患では、強い胸痛、腹痛腰痛があれば直ちに医師に相談ないし病院に搬送してもらってください。手足または心臓に虚血症状がくることもあります。胸部瘤では直径6㌢㍍、腹部瘤では5㌢㍍が手術適応の目安です。胸部はレントゲン、腹部は触診で検査します。エコーも有用です。

 大動脈弁狭窄症 AS生存率(AS)は、心臓の弁が狭くなる病気です。重症ASの自然予後は悪く、手術を受ければ99%程度の生存率ですが、受けないと発症から1-2年以内に多くは死亡します(右図)。無症状のASでも自然予後はよくありません。 

 たとえばある患者さんは、AS、三尖弁閉鎖不全症TRと僧帽弁閉鎖不全症Mr、心房細動のため来院しましたが、糖尿病、心筋梗塞後、睡眠時無呼吸症候群、呼吸機能障害、腎機能障害もありました。硬化石灰化した大動脈弁を切除し、生体弁で弁置換し三尖弁形成術を施行しました。

 治せる病気で治療を受けずに命を落とすのはもったいないです。たとえば大動脈弁狭窄症、腹部大動脈瘤、狭心症、多くの僧帽弁疾患、胸部大動脈瘤の大半は治療が可能です。それらの病気と診断されたら、十分な相談のうえ、心臓手術を検討して下さい。

 ▽ローカーボ・ダイエット(糖質制限食)

 なぜ心臓外科医がダイエットの話をするのでしょうか。
 それは手術のしっ放し、薬の使いっ放しでは患者さんが十分に健康にはならないことがあるからです。

 ローカーボ+高脂肪食とは、炭水化物を減らし、その分脂肪分を増やします。これはうまいタイミングが大切です。カロリー摂取量はかえず、空腹感が少なく長続きします。タンパク質はこれまで通りです。

 その結果どうよくなる ローカーボ教科書のでしょうか。
 インシュリン分泌を減らすことができ、体脂肪が減り体重が減ります。血糖値HbA1cが下がります。中性脂肪TGが下がります。善玉コレステロールHDLが増えます。メタボリック症候群が改善します。これによって二次的に高血圧が改善します。血圧や脂肪の薬も効きやすくなります。心臓や腎臓などにも良い影響が期待できます。もちろん糖尿病も改善します。

 ではどうやってローカーボ+高脂肪食を食べるのでしょうか。

 基本パターンは、一日1食、夕食だけ炭水化物を食べないようにします。朝食・昼食は炭水化物を低脂肪で食べます。

夕食では炭水化物なし、カロリー自由、脂をたっぷり摂ります。お酒は蒸留酒のみOKです。つまりウィスキーやブランデー、ジンなどです。体重を早く減らしたい人は1日2食、朝と夕食を炭水化物なしで食べます。脂肪と炭水化物を同時に食べるのは最悪です。

炭水化物の多い食品とは、穀類ではお米、麺類、パン、イモ類ではサツマイモ、ジャガイモ、野菜ではかぼちゃ、とうもろこし、れんこん、にんじん、そらまめ、果物ではバナナ、お菓子ではスナック菓子、洋菓子、和菓子、おかき、飲み物では醸造酒つまりビール、日本酒、発泡酒、白ワイン。とジュース、炭酸飲料、牛乳です。 


油を上手に食べることがコツです。

 素材からは肉やハム・サーセージ・ベーコンなどの加工品、調味料からは油、バター、マヨネーズ、生クリーム、和食よりも洋食・中華がよく、煮物より油炒め、揚げ物、甘い味付け、あんかけ、衣の量に注意してください。

チーズ、ホウレンソウ、ピーナッツ、アーモンドはOKです。 牛乳、ヨーグルト、にんじん、栗、ピーナッツバター、佃煮類は要注意です。

 マヨネーズ、サラダ油、唐揚げ、ステーキはOKです。とんかつソース、カレー、シチュー、イチゴ、砂糖入りの菓子、はちみつは要注意です。

油を上手に食べるには、生ハムオードブル、焼肉、ローストチキン、サーモンムニエル、アスパラベーコン、レバニラ、肉野菜炒め、ロースとビーフ、ビーフステーキ、串森、にら玉、ロールキャベツ、フライドチキン、ベーコンエッグ、チキンサラダ、さんまの塩焼き、鶏の唐揚げ、ピーナツなどがいいでしょう。

 ▽まとめ

 心臓病は正しく対処すればこわくはありません。

まず予防、次に早期発見と正しい治療です。息切れ、胸の痛みや不快感、動悸などの症状があります。さらに下肢のむくみ、疲れやすい、失神発作も要注意です。健診などで心雑音とか心臓が大きいとか心電図がおかしいと言われたらまず医師に相談を。

そして正しいローカーボダイエットもお忘れなく。肥満の3大要因は炭水化物、タンパク質、脂肪とされてきました。しかし、脂肪は肥満の原因ではありません。糖質含有の多い食品を食べ過ぎるのが原因なのです。 砂糖や米は、体内でその糖質が脂肪に変化します。これは腎臓、肝臓、膵臓などにも影響を与えます。

ここで注意するべき8カ条を示します 

 ①減らすのはカロリーではなく糖質です
 ②辛いけれども主食と砂糖を抜きましょう
 ③夕食から糖質制限を始めましょう。ごはんを抜いて肉や魚は食べましょう
④増やすのは葉野菜、青魚、きのこ、海藻、赤身肉です
⑤油は量よりも質を重視
⑥運動するときは食べてもOKです
⑦1日3食+水分補給を怠りなく
⑧主食を食べるときは非糖質の食品を少量

アルコールはビール、日本酒、赤ワインは控えたほうがよく、ウイスキー、ジン、ブランデーはOKです。


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第4回ハートバルブカンファランス

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恒例のハートバルブカンファランス(心臓弁膜症のユニークな研究会)が今年は大阪で行われました。当番世話人(会長)は大阪大学の中谷敏教授でした。

例年熱く楽しい、ときには厳しい議論に花が咲く研究会ですが、ことしは中谷先生のご尽力でいっそう盛り上がる内容となりました。参加者も年々増える中、記録となる300人に達しました。

IMG_0204bオープンしてまだ新しいグランフロント大阪のナレッジキャピタルが会場で、便利でした。

まず大動脈弁狭窄症(略称 AS)の治療の最先端が論じられました。

東京慈恵会医科大学の橋本和弘先生が外科のAVR(大動脈弁置換術)の観点から、大阪大学の倉谷徹先生が低侵襲治療の観点からTAVI(カテーテルで埋め込む人工弁)の現況を講演されました。

私は自分の発表を前にしてパソコンが壊れたためその修理に忙殺され、部分的にしか聴けませんでしたが、倉谷先生の「日本人の大動脈基部の構造は欧米人とはちがう」というのが大変印象的でした。例えばバルサルバ洞が狭く、冠動脈入口部の弁輪からの距離が短いとなると、TAVIの際に冠動脈入口部をふさいでしまう恐れが増え、それへの対策がよりしっかりと求められます。欧米のEBM(証拠にもとづく医学医療、またそのデータ)は極めて重要かつ有用ですが、こうした人種差を考慮してベストの医療をこの国で行うことは極めて意義あることと思いました。

それからTAVIではPPMつまり患者さんのサイズや必要度に対して弁が小さすぎるという現象はあまりないという議論も面白いと思いました。軽い狭窄を残しても治療前より明らかに良ければ、患者さんにとって益する治療法ということになれば、より多くの患者さんのお役に立てるでしょう。

大阪大学の前田孝一先生と慶応大学の林田健太郎先生のエキスパートコメントも有用でした。前田先生が報告されたポンプ(人工心肺)下のTAVIは低心機能の患者さんでは有用で、これから心臓外科が循環器内科とハートチームで治療に当たるときにいざというときの切り札のひとつになると感じました。心臓外科と内科が普通のAVR、短時間で植え込める sutureless弁でのAVR、そしてオンポンプTAVI、最後にTAVIというラインナップの中で患者さんに一番適したものを選ぶ、これは治療成績が上がると思います。

林田先生は世界の現況も解説されました。ドイツではすでにTAVIを12万例もやっており、大動脈弁手術の43%を占める、これから二尖弁にもTAVIを検討する、血液透析も視野に入れるなどをお話しされました。TAVIの後もII度の大動脈弁閉鎖不全症を残すと予後が悪化つまり長く生きられなくなるため注意が必要です。

その他、サピエン弁は僧帽弁のバルブインバルブに使えること、コアバルブ弁は小さいサイズの生体弁へのバルブインバルブに適していること、冠動脈狭窄に対するOPCABとTransAortic TAVIつまり上行大動脈ごしにTAVIを入れる手術などもお話しされました。大変参考になりました。

ドイツなどではTAVIの出現後も外科のAVRは減ることなく、TAVIだけが増えるという現象が続いており、つまりTAVIは心臓手術を受けられない患者さんを助けるのに役立っていることを示され、これは以前からヨーロッパの報告で知ってはいたものの、現在も同じであることがわかり、興味深く拝聴しました。

引き続いて高度の左室機能不全つまり心不全にともなう中等度の機能性僧帽弁閉鎖不全症の治療のセッションがありました。

まず大阪大学循環器内科の坂田泰史教授が内科の立場から講演をされました。運動負荷試験とくに運動負荷エコーの有用性を示され、さらに左室の直径(Dd)65mm以上か左室収縮末期容積係数LVESVIが150cc以上が予後不良との中間解析結果を報告されました。私も比較的近いラインをこれまで発表しており、納得できました。さらに右室のDdや右房圧が予後に影響することを示され、これはいっそう同感しました。左心不全は補助人工心臓まで行かずともさまざまな工夫ができますが、右心不全の治療は打てる手がやや少なく、大きなブレイクスルーが必要と常々感じていたため、心強い仲間を得た感がありました。心拍数が心臓の予備力を反映するかも知れないという御意見も検討の価値があると思いました。

私・米田正始はこれまで進めてきた乳頭筋最適化手術(略称PHO)による僧帽弁形成術の最近の成績をご披露いたしました。

これまでこうした心機能の悪い患者さんへの僧帽弁形成術はあまり寿命を延ばさないという報告が多かったのですが、私たちの新しい術式(PHOによる僧帽弁形成術)では5年経っても心不全で死亡するひとが10%と、従来より成績が良いため今後さらに検討して行きたい旨をお話ししました。

このハートバルブカンファランスは症例検討中心の会ですので、心に残る一例をご披露しました。昨年末の日本冠疾患学会でも発表した症例で恐縮ですが、これがこのPHO手術の意義がいちばん判りやすいためご披露しました。

なにしろ、80歳近いご高齢で7年前に左室形成術(バチスタ手術と同タイプの手術です)と僧帽弁形成術を行った重症例でしたが、術後お元気でしたが7年後に大動脈弁閉鎖不全症を発症して僧帽弁閉鎖不全症を合併するに至り、危険な状態になって私のところに戻ってこられたのです。通常なら2弁置換をするか、1弁置換+薬治療で不完全治療で苦労するとことですが、私たちの方法で1弁手術の負担で3弁とも治し、わずか1日で集中治療室を退室されたのは、この手術の良さを示すものと思います。

川副浩平先生や新田隆先生、夜久均先生はじめ多数の方々から貴重なご質問やコメントをいただき、感謝するとともに充実感をもてたひとときでした。

ランチョンセミナーは聖マリアンナ医科大学の鈴木健吾先生の弁膜症における運動負荷エコーの重要性で、大変役立つ、面白い内容でした。鈴木先生は運動負荷エコーはこれまでのドブタミン負荷エコーと比べて血圧や心拍数の増加だけでなく全身の筋肉ポンプからの静脈還流増加も加わりより本物の、生理的な負荷であることを強調されました。運動負荷の終了基準の大切さや、運動で誘発される機能性僧帽弁閉鎖不全症の予後が悪いこと、CPXの有用性、とくにMRの量が15%を超えるといけないこと、大動脈弁膜症などでも手術前にこうして心臓の予備能を知っておくと役立つこと、運動負荷をかける時のエコーの画質の維持、などなど大変ためになりました。

午後のセッションは弁膜症症例を若手中堅の先生ががんばって苦労して乗り切ったケースを発表され、それに対してベテランが辛口の評価をするという面白いものでした。

聖路加国際病院の阿部恒平先生、慶応義塾大学の岡本一真先生、大阪大学の西宏之先生がそれぞれ含蓄ある弁形成手術症例を提示され、みどり病院の岡田行功先生、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、さらに会場のベテランからさまざまな意見が寄せられました。こうした冷や汗症例を提示された若手中堅の先生方に敬意を表するとともに、皆で良いものを創るという方向のワークショップ的なディスカッションの場を企画された中谷先生に世話人のひとりとして御礼申し上げます。

最後のセッションでは同様の苦労症例を内科の立場から提示されました。川崎医科大学の林田晃寛先生、東京大学の大門雅夫先生、小倉記念病院の有田武史先生のいずれの症例も示唆に富むものでした。

女性の透析症例では圧回復現象が起こりやすくASの評価に注意を要すること、心房細動のときには先行RR間隔で計測値を補正する必要があること、PPM(人工弁のサイズが患者の必要に合わないこと)は生存率だけでなくQOLつまり生活の質も考慮すべきこと、巨大左房のAFで弁形成より弁置換すべきかどうか、高度のTRをどうするか、などなど有用な情報が山盛りでした。

なお巨大左房では私たちがこの10年間ちからを入れて来た心房縮小メイズ手術で除細動率が上がり、かつ左房内の血流がスムースになり血栓ができにくくなるため、この手術を取り入れれば今後の治療戦略も変わることを提案したかったのですが、その機会がありませんでした。

高度のTRつまり三尖弁閉鎖不全症では患者さんはたとえ生きておられても下肢が腫れ、体も動かしづらく、見ていて気の毒な状態の方が多いため、もっと積極的に手術を進めるべきであるという意見が多くありました。

世の中では、たかが三尖弁のために大きな創で手術するのは気が引ける、それと三尖弁置換術の長期成績が悪いため三尖弁形成術がやりづらいケースでは何もしない、などの考えが今も多くあると思います。そこで僭越ながら以下を意見させて戴きました。まず現代はポートアクセス法などで小さい創で三尖弁を治せること、そしてもし三尖弁形成術弁が不適である場合、生体弁で三尖弁置換術をやっておけば、将来TAVIでValve in Valveができることをお話ししました。

多くの活発な発表と討論で勉強になったカンファランスは無事お開きとなりました。懇親会でもまだ話が尽きないという印象でした。中谷先生、川副先生、世話人の先生方、ご苦労様でした。

来年度の当番世話人は誰になるのかと思っていたところ、代表世話人の川副浩平先生から私にご指名があり、来年度の当番をさせていただくことになりました。

これまでの同様、あるいはそれ以上に皆さんが楽しめる、勉強できる、普通の学会とは少しちがう良さのある会にしたく存じます。皆さんよろしくお願い申し上げます。

平成26年3月10日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
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奈良市エリアでの病診連携

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高の原中央病院にかんさいハートセンターを立ち上げて5ヶ月が経ちました。

とりあえず心臓血管外科だけで出発したのですが、お陰さまで当初から毎週3例ずつ心臓手術を着実に行い、すでに奈良県下屈指の心臓外科施設と言って頂けるようになり、皆様に感謝申しあげます。

この5か月間の経験のなかで、病診連携について、ちょっと思ったことをお書きします。

それは他エリアたとえば名古屋と比べて病診連携が少ないという印象があることです。

私は奈良県生まれの奈良県育ちとはいえ、永い間奈良で仕事をしていませんでしたので、県内の病院医院の事情はまだ十分勉強できていないと思います。しかしそれでも立派な病院や医院が多数あることは知っています。

にもかかわらず、患者さんたちはかかりつけ医の良さを知らない、そういうケースが大変多いように思うのです。

具体的に、ほぼ毎日経験するのは次のシーンです。

私 「かかりつけ医はお持ちですか?」

患者さん 「はい、高の原中央病院です」

私 「、、、、、」

患者さん 「何か問題でも?」

私 「あなたはこの病院の心臓血管外科、循環器内科、消化器内科、外科、神経内科、皮膚科、形成外科に通っておられますね?」

患者さん 「はい。それに眼科にもかかってます」

私 「なるほど。じゃ、インフルエンザのワクチンとか骨粗しょう症の治療はどうしてますか?腰痛もあるようですしメタボもある。薬だけでなく食事療法とか運動療法はやってないのですか?」

患者さん 「、、、、、」

私 「そもそも血圧関係の診察もときどきしか受けていない」

患者さん 「そうです、3か月に1回、お薬をもらっています」

私 「血圧の記録は?」

患者さん 「デイサービスのときに測ってもらってます」

私 「昼間、とくに運動後は血圧が下がるので安全確保には役立たないことがあります。家庭早朝血圧が一番役立つのですが、、、」

患者さん 「、、、、、」

私 「がんの早期健診は?」

患者さん 「胃カメラだけ近くの病院で受けていますが、、、、」

 

こうした患者さんたちは、大病院の多数の科を回り、なおかつ穴だらけ、待合だらけの病院通いを続けておられるのです。患者さんたちの言い分は、「開業医さんは頼りにならない、以前につらい想い出がある」というのが少なくありません。

そこで大病院の多数の科を「かかりつけ」代わりに使うことの無駄と盲点を話し、現代の開業医の先生方によるかかりつけ医の利点を話し、さらに大病院の専門家と親しみやすいかかりつけ開業医のコラボレーションがどのように便利で強力で安全かを延々と話しています。

患者さんにおかれましてはご自身の健康と生活を守るために「医療を上手に活用する達人」になって頂きたく思いますし、開業医の先生方におかれましては「大病院ではできない、開業医ならではの威力を発揮するコラボレーションと患者啓蒙」にさらにちからを入れて頂きたく存じます。

なお心臓以外の領域のご専門の開業医の先生方には、私どもがしっかりサポート致しますし、多少でもご心配な折にはいつでも患者さんに受診して頂ければ幸いです。必要に応じて勉強会検討会などをもったり、一例一例で心臓管理のノウハウが蓄積できるよう、ご協力をいたします。

近々、かかりつけ医の先生方のための心臓講座(仮称)として心エコーや心電図、ワーファリンの使い方テクニック、心血管系の薬の実践的使い方などを考えております。

患者さん、ご家族、開業医の先生方、病院の関係者が一体となって良い地域医療を造れればと思います。皆さんよろしくお願い申し上げます。

 

平成26年2月27日

高の原中央病院かんさいハートセンター

心臓血管外科

米田正始 拝


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Mクリップ 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月1日

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◾️Mクリップとは?

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これは僧帽弁形成術用のクリップです。心臓カテーテルの先端に取り付けて、前尖と後尖をこのクリップでうまく挟み込めば弁の逆流が減るというものです。カテーテルでできる僧帽弁形成術として注目されています。以下もう少しご説明します。

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◾️Mクリップのルーツはアルフィエリ法

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僧帽弁は前尖と後尖が開いたり閉じたりして血液を前向きに流し、逆流を止めるようにできていますが、前尖か後尖のどちらかまたは両方が閉じなくなれば逆流が発生します。

その修理法として心アルフィエリ法の僧帽弁形成術臓手術ではさまざまな方法がありますが、そのひとつに前尖と後尖をつなぎ合わせて逆流を減らすAlfieri法(アルフィエリ法)というのがあります。

イタリアのAlfieri先生が考案された方法で、私も時に活用させて戴いています。Alfieri先生が大変親切で立派な先生ということもあり私はこの方法の良い点を伸ばしていければと考えています。

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しかしこの方法は前尖と後尖をつなぐため、どうしても弁の開き具合は低下し、状況によっては弁が狭くなる、いわゆる僧帽弁狭窄症になる恐れがあります。たとえば弁がある程度以上硬いとか、弁輪が小さいとか、患者さんが運動するときなどですね。

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◾️アルフィエリ法の限界はMクリップの限界

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Mクリップはこのアルフィエリ法を縫合糸ではなくクリップで行うもので、そのクリップはカテーテルで心臓まで運びます。通常下腿などの静脈から右房そして心房中隔を突きslide003破って僧帽弁に達して行います。

私のアルフィエリ法の経験では、僧帽弁閉鎖不全症はアルフィエリでそう簡単に治せない、単に逆流の口を潰すだけでは他のところから逆流が発生して根治できないと思います。

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なのでこの方法は他の形成法をさまざま駆使してなお逆流が残りそうな場合の救命手段と位置付けています。

良い結果が出ても通常の修復と比べてあまり長持ちしない傾向が報告されています。特に弁輪形成を併用しない場合の効果は弱いことが知られています。多くの経験ある心臓外科医も同様の見解の方が多いです。

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Nurse_man_ideaつまりMクリップはあまり効かない、ましてカテーテル+エコー+レントゲンの透視という肉眼と比べてあまり見えない方法ではどうしてもめくら打ちになるため一層不確実と思います。

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◾️しかしMクリップにも長所が

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しかし同時に、Mクリップはカテーテルで行うため、胸を切る必要もなく、人工心肺も要りません。体の負担は心臓手術よりもはるかに小さいため、うまく対象を選びうまく使えば患者さんに益するものになるかも知れません。とくに手術が無理と言われるような高齢者や病気持ち、重症の方々には朗報になるかも知れません。

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そうした中で欧米で行われた最初の大規模臨床試験が次のエベレストIIトライアルでした。

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◾️EVEREST II トライアル

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中等度から高度の僧帽弁閉鎖不全症を持っている279人の患者さんをMクリップと僧帽弁形成術の2つに分けて治療した。

治療の主目的は死亡の回避率、その後の僧帽弁手術の回避率、そして12か月後の3度ー4度の僧帽弁閉鎖不全症からの回避率でした。安全の目標は治療後30日以内の合併症でした。その結果、

Mクリップでは12か月後の効果は僧帽弁形成術より劣る(55%対73%)。

死亡率はどちらも6%ほどで差が無い。

12か月後の遺残MRが中等度以上になるのはMクリップでは46%もあるが僧帽弁形成術では17%にとどまった。

治療12か月後、症状の改善、生活の質QOL、左室のサイズはどちらの群でも術前より改善していた

治療30日後の主な合併症は15%対48%でMクリップの方が少なかった。

治療4年後のフォローアップでMクリップは僧帽弁形成術より効果が低かった(40%対53%)が、死亡率は17%対18%で差はなかった。高度なMRは22%対25%で差がなかった。

すなわち、Mクリップは僧帽弁閉鎖不全症を治す効果ではやや劣るものであった。

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◾️EVEREST IIトライアルの問題点

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このように当時としては有望な結果を出した Nurse02_angryEVEREST IIトライアルのMクリップでしたが、いくつか不満があります。

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たとえば合併症で2単位以上の輸血があればメジャーな合併症とカウントされているのは、現代の輸血事情(一本の輸血で肝炎に感染する確率は10数万分の1)から本当にメジャーな合併症と言えるのかという疑問、

そして3度以上の残存MRが大変多く、これは生命予後に大きく影響するのにMクリップの患者はその後心臓手術を受けたおかげで死亡していないのは不公平な比較ではないか、

僧帽弁形成術群の16%が手術を受けていないのにカウントされている(つまり僧帽弁形成術群の成績は本当はもっと良い)、などなどです。

そもそもここで言う僧帽弁形成術とは単純な弁輪形成術という、私たちの方法より明らかに劣った方法で、外科に不利な条件での臨床試験と言えますし。

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◼️COAPTトライアルとMITRA-FRトライアル

2018-2019年にかけてMクリップの臨床試験の新たなデータが発表されました。
ひとつはアメリカを中心としたCOAPT、もう一つはヨーロッパを中心としたMITRA-FRでした。

COAPT試験の主要な成績:

  • 2年目の心不全による入院率は、薬物療法のみと比較して、MitraClipと薬物療法の併用では統計学的有意な減少が認められた(1年あたり67.9% vs 35.8%; p<0.001)。
  • 2年目の全死因死亡率は、対照群の46.1%と比較して、MitraClip群では29.1%と低率であった(p<0.001)。
  • 1年目の機器関連合併症回避率は96.6%であり、主要安全性エンドポイントの性能目標を上回った(p<0.001)。
  • MR重症度およびNYHA心機能クラスの有意な改善がMitraClip群で認められた。1年目のMR重症度が2+未満の患者割合はMitraClip群で94.8%、対照群で46.9%であった(p<0.001)。1年目のNYHA心機能クラスがIまたはIIの患者割合はMitraClip群で72.2%、対照群で49.6%であった(p<0.001)。
  • 1年目のKCCQ質問票によるQOLスコアに基づく患者が自覚する健康状態および機能的能力が、MitraClip群において大幅に改善した。
  • MitraClipによる治療の結果、死亡あるいは心不全による初回入院率の複合イベント発生率が43.0%減少した。

MITRA-FR試験の主要な成績

  •  総死亡と心不全入院率はMitraClip群で63.8%、対照群で65.45%で有意差はなかった
  •  総死亡ではMitraClip群で23.1%、対照群で22.8%で有意差なし
  •  心臓死はMitraClip群で20.5%、対照群で21.2%と有意差なし
  •  心不全入院率はMitralClip群55.9%、対照群62.3%、HR0.97で有意差なし
  •  MACEではMitralClip群66.4%、対照群65.4%でHR1.05有意差なし

このように2つの大きな臨床試験でMitraClipの効果の有無が真っ二つに割れるという結果でした。

内容を吟味すると、MitraClipの患者さんたちは1。比較的MRが軽く、2。左室機能は良い、より軽症例であったことがわかりました。MitraClipの患者さんのうち、比較的MRが重く左室機能が悪いケースで調べてみるとMITRA-FRと同じ結果つまりMクリップの効果はない、という結果が出ました。この2つの臨床試験の結果は食い違ってはいなかったのです。

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◾️正しい評価で正しい治療法を!

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最新の大規模臨床試験の結果から、機能性僧帽弁閉鎖不全症の治療では弁逆流が強く心機能が比較的保たれている軽症例(というより普通の弁膜症に近いケース)にはMitraClipが、その一方、心機能が悪い患者さんではMitraClip以外の治療法を考えるのが良さそうです.

こうしたことから私たちが進めてきた外科治療はMitraClipに適しない患者さんやMitraClipでうまく行かなかった患者さんたちのお役に立てる可能性があると言えるでしょう。

しかし循環器内科の先生方のディスカッションをお聴きしていると、COAPTとMITRA-FRの結果の差は前者が循環器専門医がしっかりと管理をし、後者はGP(一般医)がラフに管理をしたため、と言われます。話が歪められているのを感じます。Mクリップの2大トライアルの結果の差異に対する見解が内科と外科でこれほど違うのであれば、今後の機能性MRに対する治療での議論の余地がほとんどないことを感じます。つまり重症の機能性MRに対してMクリップを優先的に使い、その結果が悪くても仕方がない、と片付けられてしまうのが今後も続くということでしょうか。

しかもCOAPTトライアルには、より軽症の心房性機能性MRが含まれていることが2024年に発覚しました。これではMクリップの成績が悪くないというのもうなづける話で、真実が解明されるのを祈っています。加えてこのトライアルのスポンサーはアボット社(Mクリップを製造)でこれについても疑問が投げかけられています。

循環器内科の先生からのご意見を頂けましたら幸いです。

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◼️メモ: エリザベス・テイラーさんのお話: 20世紀を代表する大女優と言われるテイラーさんはこのMクリップの治療を受けておられました。残念ながらあまり長くは生きられませんでした。その紹介記事とコメントです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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ポートアクセス法による大動脈弁形成術 【2022年最新版】

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最終更新日 2022年2月4日

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◾️大動脈弁形成術のメリット

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大動脈弁形成術は若い患者さんたちにとって大きなメリットがあります。

IMG_1808bというのは手術のあと、ワーファリンが不要ですし、生体弁よりも長持ちするからです。

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生体弁は70代なら20年近く持ちますが、10代なら10年も持たず、弁形成術に大きな有利さがあります。自己心膜による弁再建も10年を超えるようなデータの蓄積がなく、現時点では主流にはなり得ない状態です。

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◾️ミックス(ポートアクセス)での大動脈弁形成術

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しかし若い患者さんたちは将来があるため、なるべく創が小さく、痛みが少なく、仕事復帰も早いポートアクセス手術を希望されるものです。そこで僧帽弁形成術に対してはポートアクセスのミックス(小切開低侵襲手術)を積極的に活用し実績を上げて来ました。

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経験の蓄積により、大動脈弁形成術とポートアクセス法は必然的に合体することになり、この10年ほどは積極的に行うようになりました。患者さんの笑顔が二倍になると言ったらちょっと言い過ぎでしょうか。しかし大変喜んで戴いています。女性患者さんはもちろんのこと、男性患者さんの評判も上々です。

ちいさい傷跡のおかげで、心の傷跡も小さい、そう感じます。

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写真右上はポートアクセス法での大動脈弁形成術 後の創です。もちろん骨はまったく切っていません。真夏の日焼けのあとがどこか楽しそうですね。

当初は30代までの若者を中心にこの方法を使って参りましたが、ノウハウの蓄積で現在は70代ぐらいまでの患者さんにも適宜活用しています。

ただし大動脈の硬化が強い方や、弁尖の破壊が進み弁形成が複雑な場合など安全に懸念がある場合はポートアクセスより一段通常切開に近い方法などを選ぶことがあります。やはり安全第一の原則は最重要ですから。

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◾️大動脈弁形成術のやり方は同じです

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ポートアクセス法で、、といっても大動脈弁形成術のやり方は同じです。

Effective Height2弁尖つまりひらひらと開閉する部分が垂れ下がっていればそれを正しい高さに調整し、

弁輪つまり弁の付け根の部分が拡張しておればこれを適正なサイズに直す、

もちろん弁尖に穴があくなどしておればそれは心膜パッチなどで修復する、

いずれもこれまでの大動脈弁形成術を踏まえた、正統派の方法です。

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この道の権威、ドイツのシェーファーズ先生の方法を活用して右図のような計測を行い、できるだけかみ合わせが深く、安定度が良いように工夫します。

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とくに右図でeH(effective height つまり有効弁尖高)と示す、いわば弁尖の高さをなるべく確保するようにしています。

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さらに二尖弁などで時々見られる弁尖が巻き込んで変化している、いわゆるenrollと呼ばれる状況のときにも、これをもとに戻して弁尖の高さを稼ぐようにしています。

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弁尖そのものの高さ・サイズ、右図でgH (geometric height つまり弁尖そのものの背丈)が不足気味なときには図のAVJやSTJを調整し、その他の方法も適宜駆使して弁尖がしっかりと閉じ、かつ楽に開く、そのように弁を造り上げます。

 

趣味的な職人芸のように聞こえるかも知れませんが、なにしろ若い患者さんの、永い人生を支える弁を造る、つまり患者さんの人生がかかっているわけですから、本気で修復するのが患者さんへの礼儀と心得ています。

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◾️弁形成術が適応にならない場合は

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その一方、大動脈弁形成術が適応とならないような、弁がひどく肥厚硬化し、あるいは短縮や石灰化やちぎれるなどの変化を来した患者さんに対しては

Ilm17_ca07020-s1.自己心膜をもちいた大動脈弁再建(いわゆる尾崎法)か

2.ポートアクセスで生体弁をもちいた大動脈弁置換術を行っています。

もちろん生体弁の場合は将来再手術の必要が生じたらTAVIつまりカテーテルで入れる折りたたみ生体弁で再手術を回避できるように工夫しています。

こうしてさまざまな患者さんの多様なニーズにお応えできるように徐々に進化をしているわけです。

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■読み物

日記:アジア心臓血管胸部外科学会にてーー雑感とともに

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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不整脈外科研究会にて

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この2月19日に第28回不整脈外科研究会(於、熊本)に参加しました。

日本心臓血管外科学会のサテライト研究会として毎年開催されている、不整脈外科についての実力派専門家の集まりです。今回は京都府立医科大学の夜久均教授が当番世話人でした。

数年前には私自身が当番で、充実したひとときを過ごさせて戴きました。

今回は「Maze手術後の心房機能について」、という渋いテーマでした。大変重要で患者さんにとって、大きな意味をもつものですが、意外に心臓外科医の世界ではあまり理解されていない領域でもあります。

はじめに代表世話人である日本医大の新田隆先生が心房細動手術における心機能というタイトルで講演されました。基調講演とも言える、内容のある、よくまとまった内容でした。

ついで不肖私、米田正始がMaze手術後の心房機能Update―心房縮小メイズ手術の検討からというタイトルで講演いたしました。

この10年ほど、メイズ手術でも治せない重症心房細動を心臓手術で治そうという意気込みで考案した「心房縮小メイズ手術」で、術後心房機能がけっこう回復することを示し、それゆえ、普通の心房細動の患者さんなら術後心房機能はもっと良くなるというメッセージを盛り込みました。

巨大左房と言えどもここまで小さくなり、これだけ動く、ということを実際の症例のエコーやMRIで示しました。かつてJTCVSやEJCTSから論文として世に問うた内容をリバイバル風にお示ししました。

さらに名古屋ハートセンターかんさいハートセンターで行った101例の強化メイズ手術の検討から、心房機能が術後半年の間にかなり回復し、術後1年以後は除細動率・心房機能とも100%近いレベルに達することをお示ししました。

さすが超専門家の集まりで、さまざまなご質問を戴き勉強になりました。

1.心臓外科の大先輩である川副浩平先生の心房縮小手術とどうちがうのですか、

2.どういったラインで心房縮小するのですか

3.なぜこれだけ成績が良いのですか

などですね。

1.は、川副先生の術式が発表された時代はまだメイズ手術の概念が十分でなく、メイズ手術の切開線とは違う縫縮線を用いられたため、現代のメイズ手術→除細動へとはつながらなかった。私の術式はメイズ手術を考慮した縫縮線であるため、心房縮小と除細動を同時に達成できるという利点があることをお話ししました。

2.については、言葉でご説明するのは少々わかりづらいと考え、ちょっと違った形でお示ししました。つまり、Autotransplant(自家移植)の縫合線と同じラインを縫縮することをご説明しました。

3.は、左房が術後うんと小さくなること、MRI計測でなんと3分の1の容積になること、そして心房拡張の原因である僧帽弁閉鎖不全症が手術で解消されていることから術後には時間とともに心房が小さくなって行くこと、それが時間とともに除細動率が高くなっていくことにつながる旨をお話ししました。

弁形成のリングのためMRIのシグナルが乱れて計測が不正確になるのではないかという鋭いご質問を頂きましたが、幸い私は当時、デュランリングというもっとも柔らかい、金属がわずかしか入っていないリングを用いており、MRI画像への影響はほとんど問題なかったことをお答えしました。

その後のディスカッションの中でも、巨大左房が患者さんの長期生存率を下げるため、これを手術で解消することは患者にとって大変役立つことをご説明しました。

いろいろ御意見やご質問を戴き、感謝の発表になりました。

それから名古屋大学と京都府立医科大学から心房機能の検討の報告がなされました。

特別講演は愛知医大の磯部文隆先生の「Maze手術後の心房機能について」で、豊富な文献的考察と同先生の経験とがあわさり、学ぶところが多く、つい調子に乗っていろいろご質問させて戴きました。

あっという間に過ぎた2時間でしたが、これからの不整脈外科手術に役立つ情報が得られた充実したひとときでした。

新田先生、夜久先生、関係の皆様、ありがとうございました。東京医科歯科大学の荒井裕国先生、来年は当番世話人がんばって下さい。

 

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お便り101: 信念で難手術を受け乗り切った僧帽弁形成術の患者さん

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患者さんは30代前半の女性です。心内膜床欠損症のため小さいころに心臓手術を受けておられます。

今回は僧帽弁閉鎖不全症が悪化したため来院されました。

Ilm17_da05005-sいちど名古屋ハートセンター(*註)の他の先生の外来を間違って受診され、手術は難しいと言われて帰宅されました。

しかしこの僧帽弁を治すんだという信念で一度断られた病院に、しかし今度こそ私の外来を指名して来院されました。(*註:当時。現在、米田は「医誠会病院、仁泉会病院」で勤務しています)

診察の結果、私はこの弁は僧帽弁形成術で治せると判断し、手術することになりました。

この若さで人工弁になりますと機械弁では妊娠出産が不可能となり、生体弁では何度も再手術が必要となりいずれもお気の毒な姿となります。やはり弁形成が必須です。

手術では僧帽弁の前尖が2つに割れる、クレフトと呼ばれる状態で、まずこれを閉鎖して一枚の前尖を再建しました。しかし弁がすでに硬く変化しており、隙間が空いて、逆流が残ります。

そこで心膜パッチで前尖を拡大し、やわらかい部分でかみ合うように工夫し、あとはリングで適正サイズとして逆流は完全に消えました。

手術前に僧帽弁狭窄症も少しありましたが、それもほぼ無視できる程度に改善しました。

この方の手術では先天性僧帽弁閉鎖不全症への弁形成術と、リウマチ性僧帽弁膜症への弁形成術の両方のノウハウが活きました。これらを両方こなしている施設は数少なく、来院して戴いて、お役に立てて良かったと思います。

術後経過は順調でまもなくお元気に退院されました。

外来でお元気な顔を拝見するたびに、よく信念をもち、こうした病気を知らない医師の雑音に惑わされず、敢然と再来院し相談して下さったこと、感嘆せずにはおれません。

以下はこの患者さんからのお便りです。


******* 患者さんからのお便り *******

 

米田先生、深谷先生、北村先生、ご無沙汰しております。
入院、手術の折は、本当にありがとうございました。お礼のお手紙が遅くなり申し訳ございませんでした。

黒石教子さんお手紙三歳の時に心内膜床欠損症の手術をし、その後何事もなく生活をしていましたが、今回、子供を出産する間近に、子供の切迫早産等で病院に入院中に、なんとなく心臓のことが気になり大学病院に入院していたので、ついでにと思い診察してもらった際に「僧帽弁閉鎖不全症」という病気が発覚しました。

大学病院の先生に言われたのは、「先天性の病気は、診れる科はなく、仕方なく心臓外科で診る。もし、出産時に心不全等を起こせば子供はあきらめてもらう。もう二人目は産めない。弁を置き換える手術を5~10年以内にしたほうがよい。」という絶望的なことばかりでした。

その時、この先生、病院に自分の命を預けて大丈夫かなぁと思いました。
そんな思いを抱えながらも子供を安産で産みました。息子が成長していくうちに、ちゃんと治して息子の成長を見届けていきたいと強く思うようになりました。

そして、名古屋ハートセンターのHPを見て、受診しました。
その時は一度断られて、大学病院で診てもらおうとも思ったのですが、主人が「米田先生に診てもらおう!」と言い、もう一度ダメもとで名古屋ハートセンターを受診したところ、米田先生が弁形成で手術したら大丈夫。子供も産めるようになるよ!手術はいつがいいかな?と言われたときには、本当にびっくりしました。

そして、その日のうちに必要な検査をして手術の日が決まり、手術前の説明もすごく時間をかけてして頂きました。

特に不安等を感じることなく手術を受けました。手術後は、本当に経過は順調で子供と毎日走り回っています。

あの時、あのまま大学病院で診察してもらわずに勇気をふりしぼりハートセンターに行って良かったなぁと思っています。

それも親切に説明してくれる米田先生、いつも丁寧に診察してくれる深谷先生、入院中フレンドリーに話してくれた北村先生のおかげです。

また、この先も診察等でお世話になりますが、よろしくお願い致します。

 

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お便り100: お掃除のおばさんからのお手紙

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天声人語という言葉があります。有名新聞のコラムの題名ですが、もとは中国の古典で「天に声あり、人をして語らしむ」という言葉があり、そこからの引用です。

A335_004病院で言えば偉い先生方の声も有難いのですが、庶民的なレベルの方々の声に真実があるとも言えましょう。

実際、いつも院内を掃除しきれいに快適にして下さるおばさんたちの声は傾聴に値すると思っています。それは心臓手術の患者さんの声を重視しじっくり聴くように努力するなかで、患者さんは医師というだけで身構えてありのままに話せないことがあるからです。このことは看護師さんにも言えるのです。身近なお掃除のおばさんたちになら遠慮なく本音が言えるとおっしゃった患者さんがおられます。

そういう気持ちがあるおかげか、水心あれば魚心状態になったのでしょう、ハートセンターのお掃除のおばさんたちとちょくちょく話すようになり、いろいろと教えて頂くようになりました。

病院開設から5年がたち、私が郷里の奈良にかんさいハートセンターを立ち上げるため名古屋ハートセンターを去るときにも賑やかに歓談の場を持てたことは幸いでした。

そのあと、以下のようなお手紙を頂きました。こころ温まる、ジーンと来るものがありました。

新しい病院でもこうしたことを忘れずに精進するつもりです。ありがとうございました。

 

**********お手紙***********

 

米田先生

 

この度先生がハートセンターをおやめになると伺いショックを受けております。

でも色々とご事情がお有りになることと拝察し現実を受けとめなければ・・・と思います。

今まで色々なご相談に乗って頂いたり、おやさしいお言葉を頂きましたこと、心よりお礼を申し上げます。

本当にありがとうございました。素晴らしい先生にお逢い出来ましたこと、一生の宝でございます。


あきたメンテナンス   **** ****より

 

追伸

私どもが病室に入りますと、必ず米田先生のファンの患者から細かいところまで気を遣って頂いて感謝の気持ちでいっぱいです。と

日本中どこにいらしても先生のご診察を受けに行くと・・・たくさんの患者さんから聞いております。

 

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第4回日本ローカーボ食研究会にて

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糖質制限食の科学的研究会として発足した日本ローカーボ食研究会もいつしか第四回目の学術集会を持つようになりました。

今回は技術評論社から昨年11月に出版した教科書「正しく知る糖質制限食」の記念集会でもあり、会場は満杯で活気にあふれたものになりました。

遠方からのご参加もあり、関係者のひとりとして皆様に感謝申し上げます。

このNPO法人日本ローカーボ食研究会は春日井のアカデミック開業医・灰本元先生を軸にして、熱心な内科の先生方、管理栄養士さん、薬剤師さん、技師さんらが集まり今日の発展を迎えたものです。

DSCN0121b
第4回研究会はまず灰本元先生から教科書出版の目的と経緯、ローカーボの背景にあること、が解説されました。これまでの糖質制限食の書物には科学性に欠けたものが多く、もし読者がそれを鵜呑みにすればがんが増えたり動脈硬化が悪化するおそれがあり(すでに米国ハーバード大学での本格長期研究で証明済み)危険である、その弊害を防ぐために科学的根拠のある教科書を創ろうとしたことが示されました。

そして教科書を創る過程で、かつては目の敵にしていた炭水化物が人類というより生命体にとって極めて重要な意義をもつことを知り、バランスの取れた総合的視野をもった穏やかな糖質制限食の本ができたことをお話しされました。

さらに糖質制限にまつわる様々な課題や問題点も指摘され、今後につなげる講演でした。

ついで小早川医院の小早川裕之先生がローカーボによる糖尿病治療におけるポイントをお話しされました。多数の臨床経験の中から、糖尿病の重症度に応じたローカーボダイエット、減量できない患者さんの対策、やせすぎの方への対応、長期間安定したダイエットのための考察、薬との関係などを解説されました。血中のインシュリンを増やすアマリールやアクトスなどの薬では体重が増えてしまうこと、逆にインシュリンを減らすメトグルコでは体重を下げることなどは興味深く、また実際の経験の中でうなづけるものでした。太った方には糖質をさらに減らすこと、やせた方には脂肪をもっと摂って頂くことなどもよく整理された対策と思いました。

渡辺病院の中村了先生はローカーボと体重について講演されました。ローカーボは低脂質ダイエットよりも早く効き(月単位)、早く体重を減らせる、しかし長期的(年単位)ではそれらの差がないことを示されました。大変興味深い内容と思いました。

患者さんの状態や食欲や考え方に応じて、こうした方法を使い分けることも良いのではとも思いました。肥満患者さんは単にメタボや糖尿病、脂質異常症、高血圧症、動脈硬化、CKDなどだけでなく、膝関節症、腰椎、逆流性食道炎(GERD)、睡眠時無呼吸(SAS)その他さまざまな問題を合併するため、これからさらに研究を進める必要があることがよくわかりました。その中で糖質制限食は有効な一打になることをあらためて感じました。

DSCN0119ついで私、米田正始がローカーボ食を心臓手術に応用するというテーマでお話ししました。そもそも心臓外科医の私がローカーボに関心をもったのは、心臓手術で患者さんが元気になっても、体調が良い、ごはんがおいしいと不健康な食事を摂ってメタボになるケースが少なくなく、このままではイカン、患者さんを本当に治したとは言えないと思うようになったことがきっかけでした。

つまり心臓手術後の健康管理にローカーボを活用したのですが、この2-3年は手術前の患者さんに応用することで、インオペ(手術不可)患者さんを手術可能にまで改善できることを発見しました。その成果をご披露しました。その内容を近々国際学会等で発表すべく準備しています。

私の講演のあと、平素敬愛する仲間の一人が「今日の発表で先生がやっておられることの意味がようやく判りました」と言って下さり、大変うれしく思いました。

皆さんのおかげで視野が広がり、治療手段が多様になり、患者さんへの恩恵がさらに増える、ありがたい限りです。

管理栄養士の篠壁多恵さんは現在名古屋大学大学院で研究する俊才で、きわめて勉強熱心な仲間です。6か月間のローカーボ食により摂取栄養素、食品群別摂取量の変化を調べられました。その結果、私たちが提唱するゆるやかローカーボ食では赤肉の摂取量が一日10gとわずかに増えるだけで、安全性が高いことが示されました。これはハーバード大学でのアメリカ人の研究成果と同じ方向性のもので、信頼に足りる内容と感心しました。

食の研究は個々の患者さんの生活の中でのことですので、食べたものを正確に把握する努力は大変なものだったと思います。

小又接骨院の村坂克之先生が恒例のアルコールの研究の続編を発表されました。わくわくする思いでこの成果を待っていたのは私だけではなかったものと思います。

糖尿病の患者さんでどのタイプのお酒のどの銘柄で血糖値が上がるか、あるいは上がらないかという実用的な研究で、先生ご自身が短時間で多量を飲まれ、そして血糖値を測るという体力気力が伴わないとできないものと、あらためて感心しました。

その結果、血糖値が下がったアルコールは、ある種の赤ワイン辛口、ある種のロゼ辛口、あるスパークリングワイン、ある糖質ゼロビール、ある種の純米酒など多数ありました。詳細は研究会の抄録をご参照ください。

こうしてキメ細かい、ゆるやかローカーボ食に合ったお酒の楽しみ方がこれから確立すると理想的と思いました。

名古屋大学名誉教授の加藤潔先生はアルコール代謝のご講演をされました。メタボリックマップの中でアルコールの位置がわかり、確かにうまく飲まないと体に悪い、エネルギー利用もおかしくなる、などが理解できました。この研究会で一番学術的な加藤先生ですので、サイエンスの眼を定着させて頂けるのはありがたい限りです。

第二部のパネルディスカッションではむらもとクリニックの村元秀行先生と灰本先生の司会でさまざまなディスカッションが行われました。

医師、薬剤師、栄養士、食品会社、薬品会社の方々がご意見をだされ、内容が充実しており勉強になりました。

痩せすぎの患者さんのダイエットをどうするか、逆になかなか痩せられないケースや長期的に良い状態を保つための工夫、あるいは高齢者の好みつまり脂肪を喜ばれない方々が楽しくダイエットして戴くにはどうするか、などなど熱く議論されました。

個人的には名古屋大学関係の外科や呼吸器外科の先生も出席され、興味深いコメントを下さり、心臓外科とは親戚のような領域ですのでうれしく思いました。

私のつたない研究にも関心をお寄せいただきありがたく存じました。

昼食は皆さん会場付近のレストランなどで摂られたようですが、私は協賛メーカーのローカーボ食品を戴いて勉強かたがた試食させて戴きました。脂肪のうまい使い方によってけっこう満腹感が得られました。

それやこれやで充実した第4回研究会でした。灰本先生、灰本クリニックの皆様、研究会の皆様、はじめご参加の方々に厚く御礼申し上げます。

 

平成26年2月8日

米田正始 拝

 

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雑誌さわやか高の原から ――米田正始のごあいさつ

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夢に終わりはありません――かんさいハートセンター、まず心臓血管外科開設へ

高の原中央病院かんさいハートセンター 
特任院長・センター長・心臓血管外科部長 米田正始

IMG_0118b皆さんこんにちは。
私は奈良県生まれ奈良県育ちの心臓外科医です。ご縁あって郷里にハートセンターを立ち上げる機会をいただき、光栄に存じております。

心臓外科医ですので心臓を手術で治すのが仕事です。肩書きのうち、特任院長というのはおもに手術だけする院長という気持ちです。実際には他にもやることが多々あるのですが、患者さんを治すことに一番関心を持っているという意味です。

◆気持ちは甲子園球児?

仕事といっても給料をいただいてその分仕方なく義務だけは果たすというのは性に合いません。それでは心臓病の患者さんを助けることはできないからです。少なくとも重症のひとたちは助けられません。熱いこころと患者さんを全人的に診る視点、そして高い技術をもったチームで初めてお役に立てると思っています。おのずと生き方は職人や甲子園球児のようになってしまいます。ただ目の前にある目標に向かってひたすら努力する、俗事は忘れて、厳しいわりにはハッピーで居られる、年甲斐もなく元気に、といったところでしょうか。
といってもチームを守り育てるという立場になって、俗事も大切で、誰か頑張りすぎて消耗していないか、頑張ったひとが報われているか、チーム員の家庭は平和か、若手新人がいきいきと力をつけているか、食わず嫌いのひとにもっと仕事を楽しんでもらえないか、などなど考えることは山ほどあります。

◆若いころ

高校時代は陸上部で長距離を楽しんでいました。よく春日奥山の山頂まで一気に駆け上り、山頂から見る奈良盆地の景色は絶景でした。今は昔ほど体力はありませんが、仕事でも何でも延々と走り続けるのが特技と思っています。
部活に熱中したおかげで大学に入る前に道草を食ってしまいました。ただしそこで、プロの教師と出会うことができ、実力と実績だけで生きておられる野武士のような先生方、いわば教育者の真髄に触れられたことは一生の宝になりました。

大学では気楽に好きなスポーツや勉強などしてすごしました。怠惰な生活だったと反省していますが、友人に勧められて身障者の方々の家庭を訪問してボランティア活動をしながら、将来どんな貢献ができるかを考える機会があったのは幸運でした。それと本ちゃんのESSで全学の友人たちと英語道を少しはかじれたのもラッキーでした。学生時代の最後の2年間は病院実習と称して全国の病院を歩いていました。

大学を卒業してから医局には属さず、天理よろづ相談所病院で6年間研修を受けました。当時はまだ珍しかった総合病棟で総合診療を勉強していました。総合診療ですから内科も麻酔科も外科も救急も含まれ、問題解決能力をつけようという合言葉で学びました。どこまでマスターしたかはともかく、今なお心臓手術対象以外の疾患にも関心があるのはこの研修のおかげでありがたく思っています。それからカナダのトロント大学、アメリカのスタンフォード大学、オーストラリアのメルボルン大学で合計11年間修業を積みました。いずれも風光明媚な、住むだけでも楽しいところで、貧乏でも趣味と実益を兼ねた留学生活でした。先進国の指導者のなかにはすごい人がいます。生涯のロールモデルを得たのも幸運でした。

◆帰国してから

IMG_0119b海外での生活を終えてから京大病院で約10年間勤務しました。その頃大勢の学生や若手を指導する機会を得たのは幸いでした。現在の心臓外科チームもそのころの財産の一部で、教育のありがたさを噛みしめております。頼まれたら断れない性格のためか重症の患者さんをどんどん受け入れ、その多くは元気に退院して戴きましたが、治療の限界を感じることもあり、そこから現在の低侵襲手術、より効率的手術へと改良を加えて行きました。同時にさまざまな制約から公的病院での限界を感じ、民間で真の医療を推進しようと考えるに至りました。

そうした経緯ののち名古屋で2008年10月にハートセンターを新規立ち上げ、志を同じくする仲間たちと楽しい汗を流すことができました。私にとっては見知らぬ地でのスタートでしたが、チーム諸君の奮闘と地域の先生方のご支援を頂けたおかげで名古屋ハートセン

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