オフポンプバイパス研究会の見聞録

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OPCAB研究会(日本AHVS研究会)に参加しました。

この会はかつて日本にまだオフポンプバイパス手術が普及していなかった頃、1990年代の終わりごろ、小坂眞一先生や南淵明宏先生らのご努力で立ち上がった研究会です。日本でのOPCABの普及に歴史的貢献をしたことで知られています。

私も2001年ごろ、まだ京都大学で勤務していたころに会長を務めさせて頂き、こうした研究会では初めてライブ手術を企画し、多くの皆様のご協力を得て大きな会場は満員御礼となり、将来ある若手に真剣な勉強の場を提供できたという想い出のある会です。

今回は北斗病院の藤松利浩先生が会長で、東京にて開催されました。

藤松先生の並々ならぬ熱意が伝わってくるような充実した会になりました。

というのはそのテーマ内容とファカルティがなかなかのものであったからです。

まず同先生の長年の友人である Mr. Paul Bannon(オーストラリア)、Mr. Hugh Paterson(同)、Dr. Deepak Puri(インド)がこの会のために来日され、熱演を振るわれたこと、力のこもった日本の現役プレーヤーが多数参加されたこと、そして研究会では珍しく全員参加の懇親会があったこと、2会場をもうけてコメディカルや若手に的を絞ったセッションがあったこと、などなどが印象的でした。

デービッド手術のセッションでは多数の経験を持つDr. Bannonが詳細な解説をされ、ついで神戸大学の大北裕先生が工夫して乗り切った難症例を提示されました。ここまでやれるのだという限界点を見せて頂きました。

石灰化大動脈における大動脈弁置換術AVRのセッションでも興味深い発表が続きました。このぐらいまでは我慢できるというレベルも術者によって意外に幅広いこともわかりました。岸和田徳洲会病院の東上震一先生の大動脈弁石灰切除はその再発率の高さから過去の手術になったとはいえ、含蓄が深く、工夫次第では今後また使えるような予感がしました。名古屋第二日赤の田嶋一喜先生の石灰化上行大動脈の処理は私たちも多数活用しており、心臓外科の進歩に貢献しておられる内容でした。

ランチョンセミナーは左室形成術がテーマでした。北海道大学の松居喜郎先生がここまでの世界と日本の左室形成術をレビューされました。私、米田正始は「左室形成術を失ってはならない」という大げさな(恐縮)テーマで、これほど患者さんに役立つ手術を、EBMデータをしっかりと蓄積検討し、育てていかねばならないことを解説しました。

というのは、術前に生きるか死ぬかの大変な状態だった患者さんたちが左室形成術によって蘇り、10年経っても元気に暮らしておられる、そうしたケースが増えて来たことを具体例をもってご報告しました。

会場のコンピュータの不都合で時間が不足し、重要症例を一例ご紹介できなかったのが残念です。それはある地方の大学の循環器内科で、この患者は重症なのでもはや心移植しかない、と断定されたあとで、移植を嫌って私のかんさいハートセンターまで来られたケースです。左室形成術(プラス私が考案した乳頭筋吊り上げ術・PHO)によってすっかり元気になられ、心機能も改善しました。これをその循環器内科の先生方にもぜひ知って頂きたく思いました。左室形成術がこれほど患者さんのお役に立っているのに、まだ内科の先生がご存じない、これは極めて残念なことで、そのために多数の患者さんが不幸になっているのは放置できません。

国際セッションではインドの先生らのご発表と、順天堂大学の加藤倫子先生がVADのエコーの発表をされました。さらにDr. Patersonが両側ITA(内胸動脈)でのYグラフトのお話をされ、内容だけでなくその見事な手術テクニックにも感嘆しました。この先生は私の左室形成術の発表にも敬意にあふれたご意見を下さり、昔からの仲間とはいえ、うれしく光栄に思いました。上記のBannon先生も含めて、オーストラリアは心臓外科先進国であることをあらためて感じました。世の中は広い、学ぶべきものは無限にあるといつも思います。

ビデオライブでは僧帽弁形成術がテーマで、小牧市民病院の澤崎優先生が弁尖の切除と人工腱索の比較を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生が高齢者へのミックス弁形成術を、倉敷中央病院の小宮達彦先生がバーロー症候群での弁形成を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生が完全内視鏡下のミックス手術でのループテクニックを披露されました。私はその一部しか参加できませんでしたが、勉強になりました。

そのあと研究会らしからぬ懇親会がありましたが、残念ながら他学会の会議のため参加できませんでした。

総じてことしの日本Advanced Heart & Vascular Surgery/OPCAB研究会は内容的にも盛り上がり方でも大成功だったと思います。

会長の藤松先生、サポートを下さった北斗病院の皆様、ご苦労様でした。北斗病院ハートセンターの名前は十分に浸透したものと存じます。来年北海道で再会できればと楽しみにしております。

平成26年7月10日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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収縮性心膜炎のミックス手術

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収縮性心膜炎SSSHC141略称CP)は心膜の病気とは言え恐ろしいものです。

というのは心膜が鎧(よろい)あるいは卵の殻のように厚く硬く石灰化すると重症心不全になりますし、そのために肝臓その他の臓器がやられます。いのちにかかわることも少なくありません。

治療は軽症のあいだはお薬その他で水があまり貯まらないように、肺その他がなるべくうっ血しないように、二次的な肺炎その他の病気を予防するなどします。

しかし重症になるといのちの危険性から心臓手術が必要となります。

術式は心膜切除つまり厚く硬くなった肥厚心膜を丁寧に剥がして切除することです。

その場合、左心室や右心室を覆う心膜を完全に除去するとともに、できれば左心房や右心房にもなるべく負担がかからぬよう、しっかりと切除することが大切です。

私たちはこの収縮性心膜炎(CP)の外科治療をつぎの原則をもとにしてFotosearch_CCP01063組み立てています。

1.きちんと肥厚心膜を切除する。心臓の裏側や横隔膜面、横隔神経の背中側まで、必要に応じて対処できること。

2.原則として体外循環を使わないオフポンプで

3.なるべく創が小さいミックスMICSで。できれば侵襲が少ないポートアクセス法で

 

これまで標準アプローチは胸骨正中切開という、胸の前真ん中を縦に二分するような切り方でした。この方法の弱点があるとすれば心臓の裏側、左室後壁がやや盲点になりがちなことです(下図の左)。

CPのミックス皮膚切開左胸を開胸するMICS(ミックス法)(左図の右)では左室エリアの剥離は後壁も含めて比較的視野が良いです。しかし世間一般には右房までやや届きにくい傾向があり、右室などの心基部の剥離が不十分になる懸念があります。

いずれの場合でも体外循環を使えばやりやすくなりますが、出血が増え、それが将来の収縮性心内膜炎の再発原因になりかねないうえに、からだへの負担が増えて危険性が上がるためできるだけ体外循環を使わないオフポンプが望ましいと考えています。

またこれまでも他病院で心臓の裏側は心膜切除できないといわれて私のところへ逃げるようにしてこられた患者さんもおられます。裏側の処理ができない病院では不十分手術となり将来の再発が心配です。

私たちはオフポンプバイパス手術の技術を応用して、心臓を安全にひっくり返し、裏側の心膜を切除するようにしてきました。

しかし胸骨正中切開では骨を切るため術後の痛みもやや強く、仕事復帰も遅くなりがちです。そこでミックス手術を考慮するようになりました。

IMG_0361bそのなかでも一番傷跡(外科では創と書きます)が小さく体への負担が小さいポートアクセス法で収縮性心膜炎の手術を行うようにしています。この場合も右房右室がしっかりと剥離できるよう、ミックスの経験を活かして視野確保をしています。

写真右はその一例です。胸を持ち上げなければ創はほとんど見えません。

安全第一ですので、通常の心房中隔欠損症ASD僧帽弁形成術大動脈弁手術などの傷跡よりはやや大き目ですが、あまり目立たず、骨を切らないため痛みが少なく、あとの回復も良いという利点があります。

これから収縮性心膜炎の手術も進化していきます。高い質を維持しつつ、より安全により早い仕事復帰をめざします。

 

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MICS SUMMIT 2014

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この6月21日に大阪で恒例のミックスサミットが開催されたため参加しました。

これまではサミット IN OSAKAとして内容ある研究会が大阪にて行われており、私も参加して楽しいひと時をもっていましたが、今回から全国区の研究会として正式に発足したのです。

 IMG_0450
会長はこの会を育てられた大阪大学の澤芳樹先生で、最近話題の新しいグランフロント大阪にあるナレッジキャピタルにて開催されました。

関西胸部外科学会の翌日で皆さんの勉強疲れがちょっと懸念されましたが、なかなかどうして、熱い議論が多数でて大変盛り上がったように感じました。

朝一番はビデオセッションで心臓病センター榊原病院の都津川敏範先生が前側方開胸によるMICS₋AVRを、大和成和病院の菊地慶太先生がMICS₋CABGを話されました。

それから「MICSをはじめよう」という特別企画がありました。大分大学の宮本伸二先生がその開始時の苦労と工夫を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生はMICS₋AVRに進むにはというテーマで、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は内視鏡下MICSへのステップアップ、そして心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICS₋CABGをはじめるにはというテーマでお話されました。

いずれもこれからこうした心臓手術を始めようという先生方には参考になったものと思います。ただ短時間の発表を聴くだけでは、通常と少し違う状況でおこるさまざまな問題や合併症とその対策までは手が回らず、やはり時間をかけてチームを育て、熟練させるという作業が不可欠と感じました。

たとえばこの方法は良く見えるよと言われて、はいそうですかとやってみたら、全然見えない、さあ困ったどうしよう、というのが熟練していないチームではよくあります。私もポートアクセス手術の経験量が100例を大きく超えて、僧帽弁や三尖弁だけでなく大動脈弁もこなすようになって、さらにさまざまな心臓手術や再手術などもこなすようになって、本当に安心してできるようになったという覚えがあります。

そこからは趣向をかえて国際セッションとなりました。

イタリアのCampus Bio-Medico医科大学の Francisco MusumeciはヨーロッパにおけるMICSの現況を解説されました。大変幅広くやっておられるのは知っていましたので、あとで細かいところを質問などして充実したひとときでした。中でも開胸時から人工心肺に乗せることで肺を保護するというのは、体への侵襲つまり負担を増やすという一面はあるものの、肺にはやさしい、検討の価値があると思いました。1年ほど前から考えて来たのですが、そろそろ実行するときが来たように感じました。

オーストラリア・ブリスベーンの Prince Charles Hospitalの Trevor Fayers先生は弁膜症のミックスというテーマで話されました。私にとって懐かしの地であるオーストラリアでも盛り上がりがみられるようで、ロボットもぼつぼつ導入されているとのことでした。ひとつご質問をしました。オーストラリアは私的保険と公的保険の二本立てで前者は保険料が高いが選べる病院や医師が多く、公的保険ではその逆なのです。万民の平等が原則である日本では受けない制度ですが、ようするにお金持ちは多少の便宜を受ける代わりにより多額のおかねを出し、保険制度じたいが潤うのです。聞いてみますとロボットなどの高額医療はすべて私的保険の患者さんとのことでした。日本ではこうした高額医療を進めるのは患者さんの負担が極端に増えて大変だとあらためて思いました。

それからアメリカはNorthwestern大学の畏友、Chris Malaisrieが低侵襲のAVRを解説されました。これは関西胸部外科学会のときと同じテーマでしたので、もう少しつっこんだ質問をしてみました。彼の方法は私たちのポートアクセス法よりは創も目立ち社会復帰も遅れますが、動脈硬化が強い患者さんにも使えるという利点があり、私はこれまでも似た方法を使っていますが今後導入してみようかと思いました。患者さんの状況状態に合わせて一番適した方法を選ぶ、そうしたラインナップを増やせるという意味で有意義なお話でした。

ドイツはLubeck大学の Thorsten Hanke先生はドイツにおけるMICSを概説されました。新進気鋭のためかまだ三尖弁形成術などはやってないということで、もう少し頑張っていただきたく思いました。僧帽弁だけでなく必要に応じて三尖弁も治せることが患者さんの長期予後の改善に役立つからです。

午後の後半は臨床工学士(ME)、麻酔科、リハビリ、内科の先生方からそれぞれのお立場からの発表がありました。どれも優れた内容でした。とくに心臓病センター榊原病院のME長である畏友・中島康佑君の安全モニターのお話は出色のできで、これからこうした優れたMEさんが活躍してくれれば医療はさらに良くなるという意味でも素晴らしかったと思います。私のところのMEさんたちも立派に頑張ってくれていますが、彼ら同志の交流を図りたく思いました。プロとして最高の仕事をする、国際的にも活躍する、こうしたコメディカルが増えていくのが楽しみです。

また慶応大学循環器内科の鶴田ひかる先生は内科からみた適切なMICSはというテーマで心エコーの専門的立場からお話されました。見事なエコーと深い読み、鋭い考察、さすがエコーと弁膜症のスペシャリストと賛辞を贈ろうと思いました。長崎大学の江石清行先生が私が申し上げたかったことを全部述べて下さったため私は何も申しませんでしたが、私自身、かんさいハートセンターを立ち上げてこうした心エコーの本物の専門家と初めて一緒に仕事するようになってからの感動をあらためてかみしめていました。

ともあれこうしたチーム医療は極めて重要で、参考になりました。最後に慶応大学の岡本一真先生がMICSの合併症と注意点を話しされ、これまでの経験を活かすという観点から活発な議論がありました。私も発表で気になった左室破裂のケースについて質問討議いたしました。こうした負の側面を真摯に議論し、再発予防や的確な対処法を平素から鍛えあげておくことが何より重要かと思います。大阪大学の西宏之先生はレジストレーションの必要性を話しされました。これから重要になると思います。

日本の現況つまり心臓手術を行う施設が多すぎて、弁形成やミックスなどをあまりやっていない施設が大半という状況のなかで、これから安全にこれらをやっていくためには、ほんらい施設集約つまり病院を束ねて数を絞るという作業が必要です。しかしそれは各病院や大学の事情がありなかなか進みません。現実には治療成績が良い施設がより数を伸ばし、良くない施設は閉鎖して結果的に集約化が進むというのが日本の現実です。その過程で患者さんついで若い先生方やコメディカル諸君に迷惑がかからぬように守る、これが大切と感じました。

真剣でも楽しい勉強と交流をもてたMICS SUMMITでした。今回当番世話人の澤先生、お疲れ様でした。素晴らしい会をありがとうございました。

 

平成26年6月22日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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関西胸部外科学会にて

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この6月19日、20日に大阪で関西胸部外科学会第57回総会が開催されました。会長は畏友かつ大先輩の佐賀俊彦・近畿大学教授でした。

この IMG_0449 (2)学会は昔から多数の熱い先達の想い入れからユニークな発展をしてきたものです。ふつうは学会の地方会といえば近畿地方とか九州地方などの限定されたエリアでアットホームにやるのですが、この関西胸部だけは西日本の大半を網羅する大きな学会です。当然これまで多数の若手を育て、登竜門としても、また心臓血管胸部外科の学術的発展にも貢献してきました。私自身もその昔、何度も発表の機会を頂き、尊敬する先生方から何度も貴重なコメントを頂き勉強の糧とした思い出があります。

ちょうどそれは世界の心臓血管胸部外科の最高峰と言われるアメリカ胸部外科学会(AATS)に対してアメリカ西部の先生方が西部胸部外科学会(WTSA)を隆盛に維持してこられたのに似ていると私は思っています。

今回は佐賀先生がそのユニークさをいかんなく発揮された素晴らしい内容になったと思います。多数の座長を若手から登用し、若手の登竜門を前面に打ち出すべく症例報告のAwardセッションを多数組んだり、ヨーロッパ心臓胸部外科の受賞論文を発表していただいたり、海外からの招請演者も来日歴のないフレッシュな顔ぶれになったり、海外で活躍する同朋にシンポジウムをやってもらったり、腕によりをかけた学会でした。

中でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロダクトマネージャーである森田泰弘さんに教育講演・安全管理セミナーとして講演していただいたのは圧巻でした。日本が世界に誇るイプシロンロケット、ミューVの開発秘話とその品質管理つまり医療における安全管理への努力を知ることができました。そもそも糸川博士のペンシルロケットからラムダロケット、ミューロケットがそれぞれ時代の最先端を行く優れものであったことをあらためて知りました。予算も少ない人員も少ない恵まれない環境の中で、これほどのものができたこと、さらにイプシロンロケットの場合はたった3年で完成させるという離れ業であったこと、その合間に皆で撮った写真の中の笑顔が素晴らしい、疲労困憊のはずなのに、なぜこれだけの笑顔があったのか、そこから先駆的プロジェクトにおける人材の大切さ、チームワークの大切さが実感できました。

最後にイプシロンロケットの打ち上げのシーンを見て私は感動し涙を抑えるのに苦労しました。ただ美しいロケットが飛翔しているだけではない、それを支える人たちの尊さを実感したからです。素晴らしいセッションでした。

それ以外でも興味深いセッションは多数ありました。

たとえば最近ホットな領域のひとつであるMICSでは教育セッションが2つ組まれ、MICS手術を安全確実に導入するかを大阪大学の西宏之先生、慶応大学の岡本一真先生、愛媛大学の泉谷裕則先生らが解説されました。これからミックス手術をやっていこうという若い先生らの参考になったと思います。

ミックスの教育セッションの後半の前に、アフタヌーンティセミナーというちょっとおしゃれな休憩が入りました。ここではちょっと方向を変えて滋賀医大の浅井徹先生が冠動脈バイパス手術のときに高速エコーとドップラーでより精度の高い手術を行うことを紹介されました。これは私が10年前に発表(論文のページ参照)した内容を器械の進歩でさらに便利に進化させたもので、あの頃の努力が無駄ではなかったとうれしく思いました。

ミックス教育セミナーの後半はより細分化した領域の話でした。心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICSでの冠動脈バイパス手術を、金沢大学の石川紀彦先生はダビンチをもちいたロボット手術を、そして都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生は心房細動のミックス手術を解説されました。それぞれこれからの展開が期待される、ホットな領域で皆の参考になったと思います。

なかでも大塚俊哉先生のオフポンプで左心耳を切除する方法はこれでワーファリンが安全に止められるデータとあいまって、これから皆で推進しようと盛り上がりました。循環器内科の先生方と一緒に展開したいものです。

ミックス関係では会長要望ビデオ演題で不肖私・米田正始もポートアクセス法による僧帽弁形成術と大動脈弁形成術の同時手術をご紹介し、さまざまなご意見を頂きました。私自身、つい数年前まではこのような手術ができるとは思っていなかったため、今昔の感がありました。

若手のための症例報告コンテストはにぎやかに多数の発表が行われました。私のかんさいハートセンターからも松濱稔先生と小澤達也先生が面白い症例を報告してくれました。松濱先生は、あと1週間のいのちと言われた心臓悪性腫瘍を心臓手術で治し、2年近くも自宅で人間らしく生きられたケースを報告しました。ネバーギブアップ精神が患者さんを2年とはいえ、有意義に延命できたこと、これからさらに治療法を磨きたく思いました。小澤先生は肝硬変と三尖弁閉鎖不全症の患者さんにポートアクセス法で三尖弁形成術を行い、元気に退院されたケースを発表しました。ポートアクセスに代表されるミックス手術は美容に良いだけでなく、体力の落ちた患者さんの救命にも役立つことを示してくれました。ご苦労様でした。

恒例の会長講演はもちろん佐賀先生がされました。ドン・キホーテ・デラマンチャの心臓外科人生というタイトルで、力強い心臓外科医の半生を知るなかから、どうすれば立派な心臓手術ができるか、どうすれば一流になれるのかというヒントを多くの若手諸君が学んでくれたのではないかと期待しています。

弁膜症のシンポジウム「複雑な修復法を用いた僧帽弁形成術の遠隔成績と成績向上のための工夫」ではさまざまなタイプの僧帽弁閉鎖不全症への外科治療の検討がなされました。倉敷中央病院の小宮達彦先生はBarlowタイプ(バーロータイプ)のそれを、小牧市民病院の澤崎優先生は砂時計型切除法を、大阪大学の戸田宏一先生は1ノットループテクニックを、大阪市立大学の柴田利彦先生はループ法200例の検討を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は自己心膜による僧帽弁再建を、そして私・米田正始は機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術(PHO法と呼んでいます)を検討報告しました。なかでも機能性僧帽弁閉鎖不全症は世界的に予後が悪く、心臓外科の位置づけも不透明になっていますが、これから優れた治療成績を世に問うて、安心して心臓手術を受けていただけるよう、努力したく思いました。

興味深いディスカッションが続き、時間の都合で尻切れになりましたが、大変有意義なシンポだったと思います。たとえば僧帽弁形成術のあとSAM(前尖がまくれ上がってMRが再発する)をどうするかで熱い議論になりました。私はSAMは解決できる、だからSAMのために弁置換になるのはもったいない、手術中に十分直し、患者さんがスポーツでもなんでものびのびできるようにしよう、とコメントしました。静岡県立総合病院の坂口元一先生、良い質問と議論をありがとう。

大動脈のシンポジウムでは広範囲に進展した弓部大動脈病変に対する治療戦略と展望というタイトルでこれまた熱い議論が交わされました。大阪大学の倉谷徹先生と国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生の軽快な司会のもとで、通常手術、術中ステントグラフト、ステントグラフト+デブランチ、などの方法が詳細に論じられました。倉敷中央病院の島本健先生の発表はそれぞれの方法の弱点を正視した優れもので大変参考になりました。他先生方のご発表もいずれも立派で今後に役立てるセッションになったと思います。

招請講演ではメルボルン大学 IMG_0435オースチン病院時代の畏友・George Matalanisが弓部大動脈手術と大動脈基部再建の講演をされました。私も是非聴きたかったのですが、同じ時間帯に別のセッションの司会がありできませんでした。しかしGeorgeとはその前の夜のパーティでゆっくり話でき、相変わらず活躍している内容を子細に学べてうれしく思いました。

アメリカはNorthwestern大学の Chris Malaisrie先生は2回講演されました。そのうち1回はランチオンセミナーで私が司会をさせて戴きました。講演は僧帽弁形成術と、MICSのAVRでいずれもしっかりとした準備と勉強・研究の上に成り立つ立派な内 IMG_0431容でした。実際米国を代表するアカデミック外科医になりつつあると思いました。この先生はかつて私の古巣であるスタンフォード大学で修練を受けたことがあり、いっそう親しみがわきました。講演のあとも一緒に食事しながら将来の交流がますます楽しみになると思いました。

学会1日目の夜に全員参加の懇親会がありました。和やかな楽しい会でしたが、近大マグロの解体ショーがあり、とれとれのマグロがふるまわれました。とくに中トロは絶品でした。これからマグロが入手困難になるだろうという予想のあるなかで、これだけ立派なマグロが養殖できるとなれば、私たちは一生マグロに別れを告げることなく楽しめることになり、一同感謝感謝の夜でした。

こうしてユニークかつ立派な関西胸部外科学会総会は盛会裏に終了しました。

会長の佐賀先生、関係の皆様、お疲れ様でした。おめでとうございます。

 

平成26年6月22日

米田正始 拝

 

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心臓再手術は何回までできるの?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️心臓再手術の回数の限界は

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これはその患者さんの体力や心機能、おかれている状況によっても異なります。

私自身の経験は6回目までで、心臓手術そのもIlm17_bc03011-sのは十分できます。

そもそも再手術の難しさとは次の諸点が考えられます。その難しさは再手術の回数に比例して増えるという印象があり、しっかりと取り組むことが大切です。

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◾️心臓再手術の問題点

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1.心臓や大動脈が胸骨や肺と癒着していて、そこをはがすときに出血する恐れがある。さらに術後にじわじわと出血が続くことがあり得る。

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2.以前の心臓手術のためと、初回手術より長い病悩期間のため心機能や全身のちからが低下しているかも知れない。年齢も一回目より高いことが多い

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3.以前の手術で切除した組織があると、その組織欠損が再手術の障害になることがある

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などですね。いずれも多数回再手術では大きな問題になりがちです。

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◾️それら問題への対策は

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1.に対 6629578しては高い剥離技術でかなり対処できます。胸骨正中切開はピタリのところで骨だけを切ることが大切です。それにはソー(のこぎり)の特殊な使い方が役立ちます。

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剥離についてはかつては電気メスとはさみで行いましたが、現在はそれにハーモニックメス(微振動で熱を出して切るメス)が加わり、術後の出血も抑えやすくなりました。これも正しい表面で剥離する技術が大切で、組織をできるだけ傷めないことが術後の出血を減らすことにつながるのです。

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しかし大動脈が胸骨に食い込んでいるようなケースでは、その胸骨をのこぎりで切る操作じたいは昔と同じなので相応の工夫が必要です。十分工夫はできるのですが、そのために体外循環時間が延びる場合は2.の体力の問題が発生するため、多角的に考えて対処する必要があります

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2.については、ポイントを押さえて効果的かつコンパクトな、したがって短時間に仕上げる心臓手術が良いでしょう。止血には時間をかけても良いのですが、心臓を止める時間や体外循環時間はできるだけ短くしたいものです。

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3.は手術手技の工夫で対処します。組織欠損があまりにも大きいのはやや不利ですが。

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◾️総じて

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こうした努力と工Ilm18_ab01042-s夫の積み重ねで再手術は6回目といえども可能です。なお前回の手術を私たち自身が行っている場合の再手術はそれだけ楽で安全性が高くなります。というのは将来の手術を考えて、心臓や大動脈が骨や肺などと癒着しないように、心臓と周囲組織の間にバリアーを作るなど十分な配慮をするからです。再手術はじつは前回手術から始まっているわけです。患者さんの遠い将来まで見据える手術、これが安全性の向上に役立つと信じます。

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ともあれ誰も好んで再手術などしたくはないのですが(初回手術のほうがよほど楽です)、それしか患者さんの救命の道がないというときにはぜひともやらねばなりません。

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これまでに3回目から5回目の再手術をも多数行っています。現在の医誠会病院でも同じポリシーで頑張っています。元気に退院して行かれる患者さんのお顔を拝見し、喜びもひとしおです。

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第11回患者さんの会のご報告

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第11回患者さんの会は平成26年6月1日に京都駅前のキャンパスプラザにて盛大に行われました。ご参加下さいました患者さんたち、協力してくれた高の原中央病院の皆さんに感謝申し上げます。

今回はかんさいハートセンターが立ち上がってから初めての会でした。

実際、私自身がその立ち上 A335_002げのため多忙を極め、また要領の悪さからなかなか第11回が開催できず、久しぶりの会になりましたこと、お詫び申し上げます。

しかし会場は多数の患者さんでにぎわい、しかも皆さん活発にご質問やご意見を下さり、感謝に堪えません。

私の講演は「検査データの読み方」で、患者さんたちが平素外来で受けられた検査の結果をよりしっかりと理解し健康管理に役立てていただけるよう、ご説明させていただきました。

心臓外科手術、メタボや糖尿病、脂質異常症、CKD、高血圧、そしてそれらを予防するための生活の注意、糖質制限食、体によい食べ物とくにアマニ油など、多岐にわたるディスカッションで皆様のお役に立てる内容になったのであればうれしいことです。

また今回は当院栄養科の余呉淳子科長が栄養のお話をして下さり、しかも糖質制限のケーキを皆様にお出ししてくれました。今後の健康管理の一助になれば大慶です。

予定を超過しての会は盛会裏にお開きとなりました。

なお今回皆様に頂いたご意見をもとに、今後の患者さんの会を運営していきたく存じます。

今後の方向性として、これまでの京大病院、名古屋ハートセンターの患者さんたちと、現在の高の原中央病院かんさいハートセンターの患者さんたちも合流してもっとにぎやかに行えればと考えております。

会場は患者さんの負担減を考慮して、高の原中央病院講堂や適宜これまでのキャンパスプラザをうまく活用することを検討したく存じます。

皆様のさらなるご意見やご教示を頂けましたら幸いです。

最後に協力してくださった山田さん、高の原中央病院の皆さんに厚く御礼申し上げます。

平成26年6月1日

米田正始 拝

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第11回患者さんの会のお知らせです

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心地よい時候となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて第11回の患者さんの会を開催させていただくことになりました。サーバー・システムの不調のため新しい記事がUpできず申し訳なく思っております。

また、昨年後半に開催したかったのですが、かんさいハートセンター新設のためなかなか時間が取れず、失礼いたしました。

今回も前回と同じキャンパスプラザを予定しております。

今回は日ごろの心臓手術のあとの検診でのデータとくに血液検査のデータの読み方をお話したく思います。少し知識がつくと、外来でも地域や職場などの検診のときにもわかりやすく便利になるでしょう。

その他なんでも語り合いたいものです。ふるってご参加を。

----記----

第11回患者さんの会

日時:平成26年6月1日日曜日 午後1時30分から午後3時30分まで

場所: キャンパスプラザ京都

内容:近況報告(米田正始および何人かの患者さん。我と思わんかたどうぞ)

講演:「血液検査、データの読み方」 米田正始

せっかく受けた血液検査です。その結果を健康増進に活かしたいものです。そのための知識を伝授いたします。

質疑応答なんでも相談: 心臓手術やそれにまつわる悩み・疑問をどうぞ

(込み入ったご相談の場合はとりあえず簡略お話しし、後日また時間をもうけるなど致します)

連絡事項、新たな世話人さまなどのご相談、

高の原中央病院かんさいハートセンター心臓外科開設から半年がたち、かんさいハートの患者さんの会を立ち上げることを考えております。これまでの患者さんの会と合流してにぎやかにやるか、あるいは小ぶりでも直接話ができる会を続けるか、当日、皆様のご意見をいただきたく考えております。

お申込み: 準備の都合上、お早めにお申し込みください

参加費: おひとり1500円(含:会場費、飲食代、通信費、その他)

申し込み先: 高の原中央病院かんさいハートセンター 患者さんの会事務局(福崎、勇元)

〒631-0805 奈良市右京1-3-3 

電話0742-71-1030(代表)  FAX  0742-71-7005

メール: murao@takanohara-ch.or.jp 

 

*********** 会場のご案内 ***********

キャンパスプラザ京都
https://www.shinzougekashujutsu.com/.a/6a0128758a0c0f970c01676434ebfd970b-pi
〒600-8216 京都市下京区西洞院通塩小路下る
キャンパスプラザ京都
(ビックカメラ前、JR京都駅ビル駐車場西側)
TEL.(075)353-9111
FAX.(075)353-9121

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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11b) 冠動脈瘤ーー重症では注意が必要 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◾️冠動脈瘤とは?

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冠動脈瘤とは心臓に血液を送るたいせつな冠動脈の壁が壊れてこぶのように膨らむ病気です。Fotosearch_CAR05005

右図のうち赤い線は冠動脈を示します。ちなみに青い線は冠静脈です。(やや下のほうから見た図です)

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冠動脈瘤の成因として、先天性つまり生まれつきのタイプから後天性つまり生まれてから川崎病などの感染その他の原因で発症するタイプがあります。先天性心疾患である冠動脈瘻が原因で発生する冠動脈瘤もあります。

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◾️冠動脈瘤が悪化するとどうなるの?

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冠動脈瘤はその中で血流がよどんで血栓ができると心筋梗塞となりますし、瘤があまり大きくなると破裂して大出血します。いずれの場合でもいのちにかかわることがあり、油断禁物です。

とくに瘤破裂などが起こりそうな場合は心臓手術の適応となります(手術事例 冠動脈瘤)

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◾️冠動脈瘤を早期発見するために

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かつて冠動脈瘤の精密検査といえばカテーテル検査というやや大がかりな検査が必要でしたが現在はCTスキャンでとくに痛みや苦痛なく、10分ほどの短時間でかなり詳細までわかります。A309_085

造影剤は必要ですが、それも静脈からの点滴のため苦痛が少なく、点滴や飲水などを工夫することで腎臓への負担も最小限に出来ます。

さまざまな工夫により放射線被曝も少量に抑えることができており、患者さんにとって朗報です。

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予防が第一で、ついで早期発見です。見つかればほとんどの場合打つ手があります。

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◾️冠動脈瘤の治療は?

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冠動脈瘤が破裂しそうな時や、瘤の中に血栓ができて心筋梗塞などが発生しそうな場合には外科手術が考慮されます。

瘤を切開し、中にある血栓を摘除し、瘤をきれいな動脈に形成することが治療です。狭窄などがあれば冠動脈バイパスを付けることもあります。瘤が小さく、破裂や血栓の心配が少ない場合、しかし増大傾向がある時には瘤を外から包み込み、これ以上の拡大や進行を防ぐこともあります。これは体外循環を使わないオフポンプで出来るため患者さんの体の負担が軽くて済みます。

冠動脈瘻が原因で冠動脈瘤ができている場合は、瘻を徹底して閉鎖するようにしています。それにより長期の安定性が得られやすいからです。

私たちはその患者さんの冠動脈瘤と全身の状態に合わせて上記の手術法を選択しています。そして15MHzの高速エコーで瘤の内側の状態を確認しながらベストな形成を行なっています。

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◾️冠動脈瘤と川崎病との関係について

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この病気は川崎病の後遺症として起こり得ること 巨大な冠動脈瘤が知られています。

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写真右は川崎病の既往のある50代男性の冠動脈瘤(赤い矢印)です。巨大な瘤の中に血栓が多量にでき、それが下流へ流れて重要な冠動脈を閉塞させ心機能が大変低下していました。

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瘤や合併する冠動脈狭窄のために手術が役立つことが多々あります。

川崎病に特有な血管の炎症やそれによる血管内膜の破壊が強いケースほどバイパス手術は役に立ちます(心臓手術事例)。

というのはバイパス手術でもちいる内胸動脈グラフトが血管を守るホルモンを出せるからです。

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カテーテル治療PCIで使うステントとくに薬剤溶出性ステントは血管内膜を傷めるため川崎病では一層不利な状態になります。

なので、かつてこどもの頃、川崎病で冠動脈に多少でも病気が発生したかたは、定期健診を受けられることをお勧めします。

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12) 大動脈 弁下狭窄症 IHSS へ進む

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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アジア心臓血管胸部外科学会にてーー雑感とともに

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恒例のアジア心臓血管外科学会(ASCVTS)に参加して参りました。

今回は久しぶりのイスタンブール(トルコ)で皆楽しみにしていましたが期待を裏切らぬ、面白く楽しい学会になりました。会長は Cicekシチェック先生でした。写真下は学会HPでのイスタンブールです。海はボスポラス海峡で、最近話題の黒海とマルマラ海ー地中海を結ぶ要衝です。

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まずその直前に低侵襲心臓手術(MICS、ミックス手術)のワークショップが2日にわたって開催されました。

MICSにちからを入れている私ですので、かんさいハートセンター心臓外科の二番手増山慎二先生と一緒に参加しました。

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一日目にはセットアップや麻酔などの総論、僧帽弁、大動脈弁、CABG、左房アブレーション、企業参加の順で講演とディスカッションが行われました。

シンガポールの畏友 Theo Kofidis先生やハンブルグのHendrick Treede先生、ベルギーのFrank van Praet先生、マレーシアのJeswant Dillon先生らをはじめ、この領域の熱心な先生らが話をされました。私たちもディスカッションにはいり、なかなか実りあるワークになりました。Praet先生はかつてご教示をいただいた Hugo Vanerman先生の後継者で話が盛り上がりました。慶應大学の畏友・岡本一真先生もここまでのポートアクセス法の経験からセットアップをお話されました。

IMG_0288b
二日目には人間の模型である「マネキン」にウシ心臓を取り入れたウェットラボでの練習がまず行われ(写真右)、それから実際のヒトCadaver(つまりご遺体)での実技練習という、日本では考えられない実践的なコースが行われました。

ウェットラボでは話題のSutureless 大動脈弁つまり糸を多数かけて縫い付ける従来の大動脈弁置換から一歩抜け出して、TAVI(タビ、カテーテルで入れる人工弁です)を術中に行うことで短時間の心停止・手術時間で弁置換する方法を学びました。以前から勉強していることではありますが、まだ日本で使えないこの弁を実際に使い、これから高齢者や重症例に役立つと想いました。おそらくこれまでのTAVIよりも漏れの少ない弁置換ができ、弁膜症患者さんの生存率の改善つまり長生きに役立つでしょう。

全体として感じたのはMICSをやっているのは未だに少数派ではあるが、やっているところではしっかりやっていること、そして着実に進歩のあとが見えること、ロボットへの模索が続いているがまだそのメリットがはっきりしないということでした。

旧友との交流をあたため、また新たな仲間を得て楽しいワークショップでした。さらに手前味噌にはなりますが私たちがかつて杭ノ瀬先生や四津良平先生らにご教示いただき努力してきた和製ミックスはたとえば私たちのLSH法(最少副次創によるミックス)等に至って創の美しさではすでに最高水準にあり、扱っている手術でも難易度の高いものが多いということがわかり、とくに2弁形成のポートアクセスなどはやっている施設がほとんどなく、報われた想いです。関係の先生方に実際の創部写真をお見せするとけっこう感心して頂けました。

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いま一つ、心に強く残ったのは地元イスタンブールの医学教育レベルの高さです。Acibadem大学の教育施設の中でこのワークショップが行われたのですが、実践的なドライラボ、マネキンをもちいたシュミレーション、Cadaverをもちいたより高度な練習、さらにロボット手術の練習などが広大で美しい部屋の中で行えるという、すばらしいものでした。

日本の大学では予算難でできないことが開発途上国のトルコで実現できているところに日本の教育研究予算の貧困さを物語っていると実感しました。


このようになった原因のひとつは、医療が福祉だけでなく産業として国や社会に役立つ、いわゆる経済賦活効果があることをこれまでなんとなく否定され、結果として予算を削減されてきた歴史にあると思います。道路工事などの公共事業よりも医療のほうが日本経済を強化するというデータがあるのにそれを誰かが隠し、医療や福祉予算を削減され公共事業に回されても誰も異議を唱えなかったのです。医師会や文科省・大学医学部の方々にもっと奮起と努力をお願いしたいところです。

たとえば国家予算を5000億円削減されそうになれば建設業界は強烈な反対運動を起こすそうですが、医療業界は何も言わないという話を聞いたことがあります。これでは医療業界に勝ち目はありませんし、患者さんも国民も不幸です。医療業界は大学間・医局間の競争よりも他業界との競争にも目を向ける必要があるのではないかと想います。大学を離れ、患者目線の民間病院で日々患者さんと向き合っていると物事がかえってよく見えます。

話がそれましたが内容あるMICSのワークのおかげでASCVTSの卒後教育セミナーには参加できませんでした。このセミナーは私がまだこの学会の理事を拝命していたころ、高本眞一先生のもと皆で努力してアメリカ胸部外科学会AATSとの合同セミナーが実現し、以来続いているものです。アジアがアメリカに並ぶ扱いを受けた記念すべきセミナーです。


翌日からASCVTSの本会が始まりました。

心に残ったセッションをいくつか紹介します。


TAVIのご本家ともいえる Alain Cribier先生の講演がありました。同先生の開発からすでに14年の歴史がありますが、かつてバルン大動脈弁形成からスタートし、長期成績が悪く1990年代に次第にTAVI開発へと進んだものの、なかなかスポンサーが得られず苦労されたこと、

2000年ごろから動物実験を進め、2002年4月16日にRouen大学の「D-day」を迎えたこと、つまり人間での第一例ですね。予想以上に成績が良く、しかし合併症もまだまだ多く、改良を続けて2011年にアメリカのFDAの承認に至ったこと、

2012年からそれまでの手術不能患者から一歩進めてハイリスク患者にもTAVIが使えるようになり、以来世界で10万例を超える隆盛な治療法に至ったことをお話されました。

現在は新型のSapien3やCentra弁が使えるようになり成績の向上が期待されています。世界各国でレジストリが作られ、現在の問題点として、高度の動脈硬化、人工弁周囲逆流、脳卒中、完全房室ブロックつまり永久ペースメーカーなどが残っていることもお話されました。

今後の5年間で中等度リスク患者にも適応が広がるかも知れないこと、10年たてばさらに展開するであろうことも述べられました。この領域のパイオニアのお話を感動をもって拝聴しました。

同時に心臓外科の領域がまたひとつ減るともいえる状況で、それに対しては心臓外科がTAVI以上の成績と患者満足をあげなければならないと想いました。

おそらく方向性として、若く将来の永い患者さんには弁形成・弁再建の心臓手術でしかもMICSでしっかり治す、ご高齢の患者さんにはTAVIや改良Sutureless弁で簡略安全に治すという二段構えになり、高度な手術ができない施設は整理縮小になるものと予想されます。


今ひとつ印象深かったのはディベートセッションで内科つまり経皮的
僧帽弁形成術と外科手術による僧帽弁形成術の「対決」でした。

内科の E.Murat Tuzcu先生はMクリップの有用性を説明され、Everest IIトライアルの結果で有望な結果が得られたことを示されました。これまで外科でよく行われてきたCABG+MAPでは虚血性MRの再発が問題であることを理由のひとつにあげられました。同時に長期の予後がどのくらい改善するかという課題があることも話されました。

私が疑問に想うのはMAPでは虚血性MRの重症例を制御できないのは当然のことなのに、それを理由に外科手術がだめという発想です。MAPより優れた方法たとえば私たちのPHO法などの強化法があるのに、なぜ陳腐で弱小なMAPを外科治療の代表とするのか理解できません。もっとデータを出し、啓蒙や情宣が必要なのでしょう。

外科のほうは Robert Dion先生が話されました。Mクリップはもともと外科のアルフィエリ法をカテーテルで行うものですが、アルフィエリ法はリングをもちいたMAPとセットにしてこそ良く効くもので単独では成績があまり良くないのです。つまりMクリップの効果はもともと限界があるのです。これは私がずっと主張してきた内容で、大変うれしく思いました。

そしてMクリップのあとMRを残すと患者さんの予後が悪くなるのです。またMクリップ失敗後の僧帽弁形成術の成績は振るわないことも示されました。

まだまだこの領域はデータとくに長期データが不足でこれからの検討が大切と思いました。かつ外科の立場からは良好で安定した僧帽弁形成術を虚血性MRや機能性MRで心機能が良くなることをしめす必要があるようです。 


他のセッションでは南アフリカのWilliams先生らが機械弁の弁置換後、なんと50年のフォローの結果を発表され、二葉弁の中でのSJM弁の優位性と、OnX弁でパンヌスがきわめて起こりにくいことを示されました。


私、米田正始の発表の一つ目は機能性
僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい僧帽弁形成術であるPHO法の検討でした。榊原病院とのコラボで、PHO法では従来のMAPよりも後尖のテザリングだけでなく前尖の拡張期テザリングも軽減するという内容で、いろいろと具体的な質問とくにどうやってつり上げ張力を調整するのかなどを頂き、ディスカッションに花が開いてうれしいことでした。最後に座長がElegant Study!と締めくくってくださり感謝に堪えませんでした。

このPHO法は重症例の一部ではまだ弱点があり、ちかいうちにこれを克服し、広く活用して頂ける方法にしたく、決意を新たにしたところです。


ASCVTSの2日目も面白い発表がありました。

僧房弁形成術のセッションで Randolph Chitwood先生がきれいなレビューをされました。彼のクランプを愛用する私としては声援を送りながら拝聴しました。

香港のSong Wan先生は私もかつてお世話になったスタンフォード大学Craig Miller先生などの科学的研究の成果を実際の僧帽弁形成術に応用しようという方向性のある優れものでした。たとえば僧帽弁輪のDysjunctionの問題や、前尖弁輪の折れ曲がり現象、僧帽弁輪サドルシェイプの平坦化現象、などなどを考慮した手術が必要と述べられました。心臓外科医の中には切って貼るだけを好む向きもあり(とくに非医局若手?)、それではすぐに壁に突き当たることを知って頂ければと思いました。

来年のこの学会の主催地香港でもあり、これからの展開が楽しみになりました。


畏友Taweesak Chotivatanapong先生(バンコック)は十八番のリウマチ性
僧帽弁膜症の弁形成術を解説されました。いまやリウマチ性はこのひとと言われるほどの展開でうれしい限りでした。これまで以上に細部にわたって完成度が上がり、より成績が向上するものと思いました。私のところへもリウマチ性弁膜症の患者さんがちょくちょく来られるため、さらに精密な形成術でご期待に応えたく、あとで直接ディスカッションに花を咲かせてしまいました。


モナコのGilles Dreyfus先生は三尖弁形成術のこれからの方向性を話しされました。三尖弁閉鎖不全症がそれほど強くなくても、弁輪と右室の拡張が著明なら弁輪形成を行うのが良いことをデータとともに示されました。

このことはヨーロッパのガイドラインでもすでにクラスIIaで支持されています。かつて京大病院でこうした患者さんに三尖弁形成術を行ったことを後日のごたごたの際に「やらなくても良い手術をやった」と言われ、臨床医学を知らぬ人たちと議論するのはホントに疲れると失望したのを思い出しました。まあ正しくやる者が結果を出して隆盛になっていくことを考えればもうそれで良いかと割り切っていますが、ちょっと残念なことです。


もうひとつ面白かったセッションは左室流出路の手術という、先天性のセッションです。とくにHOCMなどは成人例もけっこうあり私もちからを入れているためです。

Iyer先生はこの領域の手術をきれいに概説されました。HOCMの肥厚部が大動脈弁下に限局している場合はエキスパートなら比較的容易な手術ですが、肥厚が広がっている場合には工夫が必要となります。私たちはモロー手術という大動脈弁越しの方法を改良し、難しいといわれる心尖部まで直せるようにしましたが、先天性領域ではKonno手術がまだ中心のようで、参考になりました。ただ、きちんと治せるのであれば、短時間で侵襲の少ないモロー方のほうが有利かとも思いました。これから交流を持ち検討を進めたく思いました。

RFなどのカテーテル法では狭窄が残っており、これは根治性という点で劣るようです。


私の第二(第三?)の故郷ともいえるメルボルンの畏友 Tatoulis先生がRadial Artery(とう骨動脈)の15年のデータを発表されました。私がお世話になっていたころからのデータで懐かしい限りでした。

とう骨動脈は内胸動脈よりも成績が見劣るということで最近はあまり人気がないようですが、この15年の、それも前向きランダム化研究ではLADにつけた場合の15年開存率は96%と優秀で、内胸動脈の代用として十分に役立つことが示されました。これからまた多くの患者さんを助けることになるでしょう。


それ以外にも面白いものがありました。メイヨクリニックのDaly先生はオフポンプでおこなうゴアテックス人工腱策での僧帽弁形成の成績を発表されました。以前から注目していた方法ですが、3D(三次元)エコーでのガイド下に簡単な形成なら80%の成功率ということで、今後全身状態の悪い患者さんや高齢者の方々にお役に立つかもません。

この方法は生理学的にはちょっと弱点があり、左室の容積の変化によって僧帽弁の形が変わるというデータを私はもっているので、それを踏まえた術式に仕上げればと考えています。何かと楽しみが増えて退屈しません。何より衰弱した患者さんには朗報になるかも知れず、力が出てきます。


シンガポールの畏友・Kofidis先生がSIMICSという副次創の少ないMICS手術を発表されました。私たちのやっているLSH法(最少副次創法)と同じ方向性の、創の数が少ない、創がより目立たずきれいな方法で、ようやく仲間ができたとうれしく思いました。まだ改良の余地があるためこれからコラボして進めればと懇談しました。


台湾の畏友・KuanーMing Chu先生は一見30代に見まがうほどの新進気鋭の心臓外科医です。その優れたMICS手術のためすでにBig Nameになっておられます。私たちのMICSでの大動脈弁手術もこのChu先生から教わったものです。まさに台湾の天才と私は強い敬意をもっていますが、何より礼儀正しく、日本びいきでもあり、東日本大震災のときの台湾の世界一と言われるご支援を思い出すまでもなく、永くおつきあいしたい先生のひとりです。

このChu先生が最近の工夫をお話されました。傍胸骨アプローチ法で、この方がやりやすいようです。ただ創はこれまでの腋か(Subaxillary つまり脇の下)の方が遙かに見えにくくきれいなためこれは少し逆戻りではないかと感じ、直接ディスカッションしました。確かにSubaxillary法はきれいだが少々やりにくいからということでした。現在進めている工夫で解決できれば今度はお礼に逆輸出したく思いました。


京都府立医大(夜久均教授ら)から乳頭筋前方つり上げによる僧帽弁形成術の報告がありました。これまでの弁輪形成MAPよりも有意に逆流再発が少ないとのことでこの前方つり上げ法を最初に発表提唱したものとしてうれしく思いました。

東邦大学の尾崎重之先生らのグループからは2題の発表がありました。自己心膜による大動脈弁再建、いわゆる尾崎法の報告と、その基礎研究報告でした。こうして術式が着実に進化し磨かれるのは大変好ましいと感心しました。これからこの方法がどれだけ生体弁を上回れるか、そこが焦点のひとつと思います。


さて今回は会長Cicek先生がHOCM(閉塞性肥大型心筋症)にちからを入れておられるためもあってか、HOCMの面白い発表がいくつかありました。前述のIyer先生の発表も良かったですし、さらに

ロシアのBockeria先生らのグループによる、経右室の心室中隔切除術も興味深いものでした。HOCMで左室中程の深いところにある肥厚を切除するのは一般には難しいとされています。私たちは工夫してこれをモロー手術でもできるようにしたのですが、彼らは右室側の心室中隔を削ったのです。面白い方法ですが、それで左室側の肥厚つまり出っ張りが常に取れるかどうか、これから検証が必要と思いました。しかしひとつの考え方を頂き、これから役立つかも知れません。


それを受けて、私たちのHOCMへの取り組みを発表しました。

モロー手術は大動脈弁ごしに左室の心室中隔の異常心筋を切除する方法ですが、左室の深いところは大変見えにくくやりづらいのが普通です。私たちはそれをミックス技術を活かして左室中部はもとより、左室心尖部までできるようにしました。その余勢をかって、MICSの小さい創でできることも示しました。さらにメイズ手術も適宜行いました。

評価は上々でしたが、上記のロシアの先生からその小さい創でメイズ手術までできるはずがないというコメントを頂き、私たちの方法ならそれも十分できる、よろしければモスクワまで行ってご教示したいとお話したところ、是非にとのことで、思わぬところで友人ができてしまいました。

この手術は半月前の日本循環器学会でも発表し、いくつもの有り難いコメントや質問を頂きました。立派な先生方と友人になれるというのは光栄なことです。外科医冥利ですね。

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イスタンブールは東西の接点でさまざまな文化・経済交流や戦争まで含めた行き来のなかでできた人類文化のるつぼのようなところです。

実に興味深い、かつその地形から美しい町でもあります。学会のあと夕方から町へ出て写真を撮りました。


さまざまな想い出と収穫を得てイスタンブールをあとにしました。この経験をもとにして、皆さんとまた楽しく勉強できればと思います。

平成26年4月6日

米田正始

 

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冠動脈疾患にたいするハイブリッド治療とは【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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◾️ハイブリッド治療の背景は

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冠動脈疾患の治療法にはまず食事や運動による予防、軽症例にはお薬や生活指導、重症例になるとカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに冠動脈バイパス術CABGなどがあります。最重症は補助循環(人工心臓)さらに心移植になってしまいます。

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冠動脈バイパス手術の一例です

冠動脈バイパス手術の一例です

とくに重症例でカテーテル治療PCIと冠動脈バイパス術CABGのうまい使い分けが議論の対象になっています。

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かつては重症例とくに左主幹部病変にはバイパス術という考えたが主流でしたが、その後PCIの進歩で一部の積極的な先生方は何でもPCIという時代もありました。

その後シンタックス研究(Syntax Trial)で冠動脈3枝病変の多くや左主幹部のある種のタイプにはバイパス手術が有利つまり長生きできることが証明され、時代は変わりました。ちょうどそのころ天皇陛下バイパス手術を受けられて、医療者でない一般の方々にもそのことは知られるようになりました。

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◾️そしてハイブリッド治療の誕生

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この2つの治療法の長所短所をよく吟味してみますと次のようなことになります。

1.内胸動脈をLAD左冠動脈前下降枝にバイパスすることは絶対的な意義がある。これはPCIの追随をゆるさない世界である

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ステントの一例です。これが冠動脈の中に入ります

2.他の枝つまり右冠動脈や左冠動脈回旋枝の通常の病変ならPCIは有用。そしてPCIは侵襲の低さでは絶対優位。

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これらを考慮すると、バイパス手術とPCIの良いところだけを選んで使う、いわばいいとこ取り治療が浮かび上がってきます。それが冠動脈病変におけるハイブリッド治療なのです。

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◾️ハイブリッド治療の代表例としては

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MIDCABミッドキャブ手術つまり左ミニ開胸で左内胸動脈を左前下降枝にオフポンプでつける。そののち他の枝はPCIで治療する。これが代表例です。

その後、さまざまなケースに対して内科と外科で協力するようになり、いわゆるハートチームですね、さまざまな応用例が出てきました。

たとえばバイパス手術のあと弁膜症手術が必要となったとき、冠動脈はPCIで済ましておいて、外科は弁を治すとか(お便り86などをご参照ください)、

患者さんの仕事や生活の都合上、どうしてもポートアクセス手術を希望されるとき、弁膜症だけならそれはできますが、バイパス手術も同時に必要な場合、正中切開が必要となります。そんなときにPCIで冠動脈を治しておけば、ポートアクセスで弁を治すことに専念でき、患者さんも速やかに仕事復帰できます。

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◾️その他のハイブリッド治療

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その他さまざまな応用があります。

冠動脈疾患以外でも、ハイブリッド治療は大動脈疾患における外科手術(人工血管置換術)とステントグラフトEVAR)の組み合わせなどの形も増えました。

あるいは拡張型心筋症に対して左室形成術僧帽弁形成術などの外科手術に加えてCRTやCRTDなどのカテーテル+ペースメーカー治療などですね。

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これからはバイパス手術のあと何年も経って大動脈疾患が発生したときのTAVIなども役立つことでしょう。そもそも生体弁による弁置換のあと、10-20年経って弁が壊れたときにバルブインバルブというTAVIをやれば再手術が回避できます。

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◾️まとめ

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要は英知を結集して患者目線で最高の結果をもとめる、内科が偉いとか外科が立派だなどという偏狭な考え方をすてて、皆で頑張る、当然といえば当然の治療、それがハイブリッド治療です。こうした考え方がこれからさらに進化していくと、さらに治療成績が上がり患者さんのハッピーライフにつながることでしょう。

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