5) オフポンプバイパス手術は心筋に埋もれた冠動脈には弱いと聞きましたが

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左図:高速エコーで心筋内奥深くにうずもれた冠動脈もくっきりと見えます。中図:オフポンプバイパス手術の方法で冠動脈を掘りあてているところです。右図:エコーで再度見ますと、奥深い冠動脈を一直線に掘ったあとがうかがえますそうとは限りません。

必要があればさまざまな工夫をして心筋内に冠動脈を探しあて、掘って捕まえてグラフトをつけることができます。

私たちは経験と15メガヘルツの高速エコーの両方をもちいてオフポンプバイパス手術OPCABでも心筋内冠動脈に確実にグラフトをつけるようにしています。

写真上左は心筋内深くに埋もれた冠動脈を確認した像で、写真上中はこれを掘りあて捕捉したところです。写真上右はそれを証明する画像です。オフポンプバイパス術の活躍範囲は広がりつつあります。

もちろん術中に、各グラフトに十分血液が流れていることをドップラーを用いて確認し、確認ののち手術操作を完了するようにしています。

人間の眼に加えて、こうした第二・第三の眼を活用してオフポンプバイパス手術の質的向上に努めています。

Illust219私たちがこの方法を開発した2002年ごろはまだ器械もそれ専用ではなく、2004年にジャーナルで論文発表(英語論文 129番)したときも、あまり一般化しませんでした。しかし2010年になってこのための器械が開発され、使い勝手も良くなり、今後広く活用していただけるかもしれません。

心筋内にうずもれた冠動脈は、心筋に外側から血液供給を受けるせいか、比較的守られて血管として良質な傾向にあります。それもあって掘り当てる意義があるのです。

天皇陛下の心臓手術のときにも話題になりましたように、オフポンプバイパス術はより活発により長年月暮らせるという特長があり、カテーテルによるPCIとうまい使い分けや組み合わせを考えるようにしています。

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6) 狭心症が悪化して心筋梗塞になってしまってからでも手術はできるのですかへ進む

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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3) 薬剤溶出性ステント(DES)は万能なのですか?―落とし穴も

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DES ◾️薬剤溶出性ステント(DES)とは

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薬剤溶出性ステント(DES)(写真左)とは、抗がん剤などをステント表面にコーティングし血管内皮細胞等が増えないようにしたステントです。それまでのPCIのステントと比べて再狭窄つまりせっかく広げた冠動脈がまた狭くなるという合併症をうんと減らした素晴らしいデバイスです。

当時はこれで冠動脈の治療は完成したという人も少なからずありました。

ましてPCIですから皮膚を切る必要もなく、患者さんにやさしいという特長はこれまでどおりですから大いに期待されました。

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◾️薬剤溶出性ステントの盲点

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A316_012ところがこの素晴らしい薬剤溶出ステント(DES)に意外な弱点があることがまもなくわかりました。

強い抗血小板薬を長期間飲む必要があり、飲まなければ突然死するケースが少なくないことが判明したのです。

患者さんも必ずしも元気にはなりきれない心配があります。

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実際、薬剤溶出性ステントで患者さんの生命予後が改善しないこともわかりました。

つまりせっかく治療を受けてもそれで長生きできるほどには効かないわけです。

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健康な胃です病気の胃です。薬剤溶出性ステントが入った患者さんでは内視鏡で組織を一部切りとるなどの操作が難しくなることがあります。欧米では薬剤溶出性ステントDESは従来のステントより長期の死亡率が高いことが報告され、すでにDESは反 省期に入っています。

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◾️さらに問題が

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さらに薬剤溶出性ステントDES治療を受けたあと、たまたま胃腸や肺のがんが発見され、抗血小板剤のために手術ができずに困ったというケースを聞くことがあります。

大腸ファイバーによるポリープ切除も危険 A313_042になりますし、大腸憩室や潰瘍性大腸炎などの疾患がある方にも危険性が増えるという問題があります。

脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなど脊椎(つまり背骨)に病気がある方の場合も同様です。手術すれば治るのにその手術ができなくなるのです。

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◾️冠動脈バイパスでは

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その一方、冠動脈バイパス術後の患者さんは、他に病気がなければ普通の生活ができる人が多いです。

なにしろ術後はいったん安定すればせいぜいアスピリン程度の抗血小板剤しか必要ありませんし、それさえ何か必要があれば止めることができるからです。

将来もしもの場合のがんやその他の手術も比較的安全です。

薬を飲めなくなっても安全性は薬剤溶出性ステントDESの場合ほど損なわれません。

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◾️そこで両者のうまい使い分けを

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冠動脈バイパス手術は内臓には意外なほどやさしい治療法なのです。

ステントは創は小さいですが将来の出血リスクを抱える一面があり、必ずしも患者さんにやさしい治療ということにはなりません。

そこでステントとバイパス手術のそれぞれの長所・短所を踏まえた、うまい使い分けが大切と考えます。

 

メモ: Best_practices なぜ薬剤溶出ステントDESは強い抗血小板剤を永く飲む必要があるのでしょうか?

それはDESが患者さんの自己組織をよせつけず、長い間、金属がむき出しになることが多いためです。

むき出しの金属ではかなりの薬を使わないと血栓が生じ、いったん血栓が生じるとその冠動脈はつぶれてしまい、心筋梗塞になってしまいます。

右図の左段はDESに血栓がついたときの姿を示します。右段の従来型金属ステントでは内膜が張るため再狭窄は起こっても血栓ができにくいのです。

 

メモ: そうはいってもステントには体にメスを入れずにすむという大きなメリットがあります。

そのためそのメリットとデメリットを考え、バイパス手術と比較して、その患者さんにどちらが有利かを判断するのが良いわけです。

なので内科と外科さらに他職種もまじえたハートチームで治療法を検討することが望ましいのです。

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4) 冠動脈バイパス手術の安全性はどのくらいですかへ進む

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執筆:米田 正始
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2) 冠動脈バイパス手術とは?―効果的な方法です【2020年最新版】

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CABG最終更新日 2020年3月10日

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◾️冠動脈バイパス手術とは?

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狭心症(胸や腕の内側などが締め付けるように痛みます)の患者さんに対して行われる手術で、冠動脈バイパス手術、ACバイパス手術、CABGとも呼ばれます。

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これは胸の中にある内胸動脈(ないきょうどうみゃく)やお腹の上端内側にある胃大網動脈(いたいもうどうみゃく)という動脈、あるいは腕にあるとう骨動脈や下肢にある静脈をもちいます。

これらを組み合わせて心臓に血液(酸素や栄養を含みます)を送る冠状動脈にバイパスを作り、心臓に血液を送る手術です。

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天皇陛下sankeiビル・クリントン元アメリカ合衆国大統領も2004年にこの冠動脈バイパス手術を受け、元気に復帰しています。
2012年に天皇陛下がこの手術を受けられたことは皆さんご存知のとおりです。
天皇陛下もお元気に仕事復帰され、その後上皇になられてからもお元気です。

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◾️冠動脈バイパス手術の特長は?

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循環器内科のカテーテル治療が進化し薬剤溶出性ステント(略称DES)という優れた治療法が使える現在も、冠動脈バイパス手術の利点はたくさんあります。

一言でいえば治療効果が長持ちし、普通の生活に戻れるということです。カテーテル治療では必ずしもそうはいきません。(心臓手術事例:PCI後、急性心筋梗塞後の冠動脈バイパス手術

有名なSyntax(シンタックス)研究でもたった4年の検討で冠動脈バイパス手術の患者さんはステントの患者さんより長生きできることが示されています。

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◾️オフポンプ冠動脈バイパス手術 (略称 OPCAB)

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A301_089冠動脈バイパス手術はこの20年ほどの間に大半が体外循環(人工心肺)を使わない
オフポンプバイパス(OPCABオプキャブ)手術

に進化し、安全性がさらに向上しました。(手術事例 オフポンプバイパス手術)。

体外循環(人工心肺)を使わないため、脳梗塞や出血・輸血などが防ぎやすいという利点があるのです。

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◾️冠動脈バイパス手術での動脈グラフトの有用性

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冠動脈バイパス手術にもちいる内胸動脈グラフトはとくに動脈硬化になりにくいため、糖尿病慢性腎不全・血液透析の患者さんの予後を改善するのに役立つことが知られています。

私たちの経験でもたとえば10年以上の血液透析で冠動脈がガチガチに硬化・石灰化していても内胸動脈は柔らかい良い状態であることが確認できています。

(手術事例:現在典型的なオフポンプバイパス手術)

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またこどものころ川崎病を患われた患者さんや冠動脈の生まれつきの病気に見られるような冠動脈瘤などが合併した場合でも冠動脈バイパス術と瘤閉鎖を組み合わせて安全な治療ができるようにしています。

(手術事例 冠動脈瘤)

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Csts058-sメモ: 優れたステントの出現で循環器治療の世界も変化が見られます。

これまでの内科・外科という縦割りではなく、冠動脈科、心不全科、弁膜症科、大動脈科などの臓器別・疾患別の体制ができつつあります。
もちろんそのどれか一つしか治せないチームでは複合した病気に対応できませんから、それぞれへの対応を考えたチーム作りを進めることが大切です。

しかしどの場合でも内科と外科さらに開業医の先生方との協力は重要で意義が深いものです。団体スポーツと似ていますね。

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◾️冠動脈バイパス手術の安全性について

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図 CABG-GEA私たちの手術死亡率は1%を大きく下回ります。

さまざまな工夫を重ね、冠動脈バイパス手術では死亡率ほぼゼロなのです。90歳前後の高齢の方や、いろんな病気、たとえば

慢性腎不全・血液透析
慢性閉そく性肺疾患COPDなどの肺の病気 あるいは
カテーテル治療(PCI)不成功例や再狭窄例
脳卒中
がん

などを持った重症の方、危険な状態で緊急手術を必要とする方や再手術の方も含めて、医学的に手術が必要な方には逃げることなく、どしどし冠動脈バイパス手術(CABG)を行っています。

こうした重症の患者さんを含めても低い死亡率を達成できています。

Family02ただ以前のように7年間死亡ゼロなどという状況から少し変化があり、前任地の京大病院で最後の1-2年で助けられなかった患者さんがあったのは、再生医療しか手がない患者さん(以前から心臓以外の重い病気がありました)や再生医療のため来院され、その再生医療さえ適応にならなかった重症患者さんでした。

その後はこうした特殊な患者さんはうんと侵襲(体への負担のこと)の低い冠動脈バイパス手術や別の治療法を検討して死亡率ゼロを維持するようにしています。

こうした中でオフポンプ冠動脈バイパス手術つまり体外循環を使わない方法は大変役立っています。

重症や高齢の患者さんほど体外循環の害を避ける意味が大きいからです。

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◾️慢性腎不全・血液透析の患者さんへの冠動脈バイパス手術

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A313_123上記のように重症患者さん、とくに慢性腎不全で慢性血液透析を受けている患者さんでも冠動脈バイパス手術CABGの安全性は維持できています。大動脈その他の血管が傷んでいることが多いため、オフポンプ冠動脈バイパスが威力を発揮します。

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手術事例: 透析歴30年の患者さんの手術経験もあり、冠動脈は石灰化でカチカチになっていましたが、内胸動脈グラフトはきれいで、それを工夫して吻合(縫い付ける)し成功しました(写真左)。

その血液透析の患者さんの術中高速エコー所見です。冠動脈(下半分)は石灰化のために光っていますが、内胸動脈グラフト(上半分)はきれいです術中高速エコーで吻合部を見ますと(写真左下)

石灰化で輝度の高い冠動脈と比較的正常の内胸動脈が映っていました。

内胸動脈の出すホルモン(プロスタグランジンやNOなど)が、冠動脈を守る作用があると推論されています。

 

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◾️冠動脈バイパス手術の低い死亡率の原因は

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1. 熟練したプロフェッショナルチーム(ハートチーム)による手術、

2. 人工心肺(人工の心臓と肺で普通の心臓手術で はこれを使います) を使わない オフポンプバイパス手術の積極的かつ正しい使用(虚血性心疾患・手術事例1 オフポンプバイパス手術)、

3.術前、術中、術後の徹底した安全管理。合併症の予防と発生時の早期治療。

などがあげられます。

 .

またこれらのおかげで、がん患者さんなど他治療や他手術が将来必要な患者さんにも手術が安全にしやすくなりました (手術事例 がん患者さんに対するオフポンプバイパス手術

天皇陛下が2012年2月に、このオフポンプ冠動脈バイパス手術を受けられたのも、その安全性や長期安定性だけでなくさまざまながん治療に悪影響を及ぼさないという意味でカテーテルPCIを上回っていたという見方もあるほどです。

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メモ: ステントとくに新型の薬剤溶出ステントと冠動脈バイ Fotosearch_CCP05015パス手術のすみ分けは、その施設や医師によって温度差があります。

動脈の中ほどの普通の狭窄であればステントを選択する先生がほとんどです。

左冠動脈の根っこに近い部分が複雑にあちこち狭くなっているタイプなどではバイパス手術を有利とする先生が増えます。

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最近の欧米の大規模臨床研究(Syntaxシンタックストライアル)でも、重症冠動脈疾患での冠動脈バイパス手術のカテーテル治療(PCI)に対する優位性が示され、ガイドラインでもバイパス手術が第一選択となりました。

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◆患者さんの想い出1:

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冠動脈バイパス手術は心臓手術の中でもいちばん基本的な土台とも呼べる、大切な手術です。

Aさんは60代の女性ですが、他病院でこのバイパス手術と心房細動に対するメイズ手術を受 Ilm18_ba02031-sけました。しかしそのバイパスグラフトが詰まり、心房細動もぶり返しでしまい、元気になれないため米田正始の外来へ来られました。

自分が手術を受けた病院を去ることには勇気が必要だったと思いますが、Aさんはご家族の協力もあって、勉強し敢然と転院の決断をしたそうです。

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診察しますと、このままでは永く生きられないという判断ができたため手術になりました。バイパスの血管が詰まってしまい、さらに心不全のために僧帽弁閉鎖不全症と三尖弁閉鎖不全症までが高度になっていたからです。

前回の心臓手術からあまり月日が経っていなかったため、心臓と周囲組織との癒着は高度でした。これを丁寧に剥離して行きました。

剥離が無事完了し、体外循環・大動脈遮断下にまず僧帽弁形成術を行いました。メイズ手術は完全メイズ手術にて行いました。リングで三尖弁形成術を行い、最後に右内胸動脈を左前 活気bn1-24d下降枝に吻合しました。前回手術の吻合部を活用して新たにつけました。

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術後経過はさすがに術前心不全の分だけゆっくりでしたが、術後1か月で元気に退院されました。この経過はテレビ局が取材し、昼間の番組のなかで「断らない心臓外科医療」として15分もかけて報道して戴きました。その録画ビデオはこちらをどうぞ

Aさんと外来でお会いするたびに、あの苦しい中をよく決断し来てくれましたね、とねぎらいたくなります。これからは元気な生活を楽しんで下さい。

 

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5) オフポンプバイパス手術は心筋に埋もれた冠動脈には弱いと聞きましたがへ進む

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執筆:米田 正始
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1) 虚血性心疾患とはどういう病気ですか?―大勢の国民の命を奪う病気です

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冠動脈の3つの系統を示します。3系統とも病気でやられている場合や左冠動脈の2系統の根本が狭くなっている場合は要注意です。

◾️虚血性心疾患とは?

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虚血性心疾患という病気は冠動脈(図)の動脈硬化により冠動脈がせまくなったり閉塞することで起こる病気です。

心臓の筋肉(心筋)に十分血液が届かなくなり胸が痛む狭心症や、心筋に血液が途絶して心筋が死んでしまう心筋梗塞などが起こります。

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虚血性心疾患はライフスタイルの欧米化とともに増加し、死亡原因のトップレベルを占めるようになりました。

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◾️虚血性心疾患の原因は

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リスクファクター(病気 Ilm09_ag07002-s bの原因)として知られているのは、糖尿病高血圧、喫煙、高脂血症 (脂質異常症)、家族歴です。さらに最近注目されているのはメタボリック症候群)やストレスです。

また慢性腎不全・血液透析も虚血性心疾患を引き起こしやすいのです。

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こどものころに川崎病(略称MCLS)で冠動脈の病気を患われた方も大人になってから冠動脈の病変が進むことがあります。

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◾️虚血性心疾患の治療は

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虚血性心疾患が進んでくると命にかかわるため治療が必要になります。

治療はできるだけ 内科治療(生活・食事・運動・リハビリやお薬、さらにカテーテルという「くだ」や「風船」「ステント」を使います) が行われます。

もし内科治療では助からない状態になりますと冠動脈バイパス手術が必要です。天皇陛下がこの手術を受け、お元気になられたのは記憶に新しいところです。

 .

慢性腎不全・血液透析の患者さんの場合は病気の進行が早い傾向がありますので注意が必要です。

糖尿病の患者さんや家族性高コレステロール血症の方も要注意です。

 甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症、などの患者さん、あるいは仕事などでストレスの多い方も同様です。

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◾️虚血性心疾患の早期発見には

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虚血性心疾患 A309_090を早期診断するためには、MDCT検査が勧められます。

CTですので、横になっているだけで撮影は5分ほどで終わります。

造影剤を入れるために点滴は必要ですが、痛みはそれのみです。

検査後まもなく、造影剤は尿となって体外へでます。

このMDCTの性能が上がり、快適に冠動脈の検査ができるようになってから、患者さんの早期診断ができるようになり、大きな恩恵となっています。

 

なお、運動時や寒いときなどに胸が痛む、締め付けられる、不快感がある、などの症状は今も昔も重要なサインです。こうした症状があれば上記のMDCTを受けることをお勧めします。

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メモ: 虚血性心疾患を予防するために上記のリスクファクターの克服やコントロールは大切です。

それぞれ近年進展があります。

Ilm19_cb01025-s糖尿病は食事運動療法がさらに進化し、お薬も一層効果的になって来ています。

高脂血症も上記運動や食事療法、より効く薬と、善玉悪玉コレステロールや中性脂肪の定期検査に加えて、脂肪酸4分画の検査で体に良い脂肪酸の比率をコントロールすることでこれまで以上に体が守られるでしょう。

こうして虚血性心疾患を予防しやすくなります。さらに、

高血圧も良く効く薬が増え、それ以上に新しい科学的ダイエットで体重を無理なく減らせれば、メタボリック症候群そのものが改善できるでしょう。

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1b) 糖尿病 についてへ進む

2) 狭心症にはどういう手術があるのですかへ進む

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①セーブ手術―左室の形とサイズを整え悪いところをほぼ処理できるが、、【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

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◾️セーブ手術とは?

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拡張型心筋症に対する左室形成術のうち、バチスタ手術で治す場所(左室側壁)とは違う場所(心室中隔)がやられている患者さんに行う手術です

図 ドールとセーブ.

この方法の利点は左室の形や大きさを自由に調整できること、病変部を残さずカバーできる、心基部まで形成できるなどが挙げられます。

その一方、時間がある程度かかり、熟練が必要という弱点もあります。

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たとえば左室駆出率(健康人では約60%台)が20%を割る患者さんでも、状況によっては駆出率10%前後の方でもこれまで多数の患者さんを救命した実績を持っています。

(註:左室駆出率とは左室が一回の拍動で左室内の血液の何%を送り出せるかという数字です。正常は60%台、30%で明らかな心不全、20%で外国なら心移植、10%でそろそろ人工心臓ついで移植という指標です)

左室拡張の強い症例ほど改善度は大きい傾向があります。

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◾️セーブ手術の成果と限界

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A308_043重症でも待機手術の患者さんでは約90%の成功率を出して来ました(拡張型心筋症・事例3)。

小さなこどもの患者さんでもこのセーブ手術は威力を発揮しています(拡張型心筋症・事例4)  。

ただ全身状態の悪い患者さんや高齢者、ステロイド服用者などでは全身の体力の限界があり、これらの患者さんの治療成績を良くするためには、手術や全身管理のさらなる改善が必要と考え、さまざまな改良を加えて来ました。

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◾️ドール手術変法(一方向性ドール)へ

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2008年に、それまでの100例以上の左室形成術の経験をもとにして、セーブ手術の良さつまり左室の形をきれいに整えながら、ドール手術のように簡便に短時間でできる方法を工夫し、良い成績を上げました。(事例1

A310_053かつて重症心不全に対して左室形成術を行った患者さんは集中治療室(ICU)に3-5日はおられましたが、ドール手術変法以後はほとんどのケースで手術翌日に元気に一般病棟へ戻られます。

その余裕の分だけ安全性が向上し、この方法での左室形成術の死亡例はありません。セーブ手術をやっていたころより、患者さんも看護師さんたちも私たち医師も皆、楽でいいなあとよく思います。

 

この新しい手術(方向性ドール手術と呼んでいます)を国内はもとより、国際学会などでも発表を始めています。セーブ手術はさらに進化しつつあるのです。

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さらにこのドール手術変法を改良し、現在はより侵襲が少ない(体にやさしい)「心尖部凍結型」左室形成術で一層の成績改善に取り組んでいます。→もっと見る

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患者さんの想い出1はこちら:

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患者さんの想い出2はこちら:

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心筋症・心不全 にもどる

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2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月19日

1.虚血性心筋症とは

A313_079

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虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy) とは、心臓の筋肉(心筋)が十分な血液を受けられずに壊れ、心臓のポンプ機能が低下する病気です。

  • 主な原因は 心筋梗塞

  • 冠動脈(心臓に血液を送る血管)が狭くなったり詰まったりすると心筋が壊れ、心臓が弱っていきます。

  • 繰り返すカテーテル治療(PCI)や川崎病後の冠動脈瘤によっても起こることがあります。

*虚血性心筋症は拡張型心筋症と並び、心不全の代表的な原因疾患です。

*冠動脈の閉塞や狭窄に対しては、冠動脈バイパス術やPCIが行われます。

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2.心筋梗塞後に心臓のどこが壊れる?

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心筋梗塞が起こると、左心室の一部が壊れて動かなくなります。すると心臓全体が大きく変形し、やがて 「リモデリング」と呼ばれる悪い形の変化 を起こします。

図 梗塞後リモデリング
  • 左室が 丸く拡張 → ポンプ効率が低下

  • 僧帽弁が歪む → 弁がしっかり閉じず、逆流が発生

  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症 へ進行し、心不全が悪化

胸痛がなくても進行することが多いため、注意が必要です。

*左室の形態変化により発生する虚血性僧帽弁閉鎖不全症も重要な合併症です。

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3.虚血性心筋症の症状

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代表的な症状は以下です:

  • 運動時の 息切れ・動悸

  • 進行すると 胸痛・起坐呼吸(横になれない)

  • 下肢のむくみ

  • 重症では 失神や呼吸困難

この病気の怖いところは、患者さん自身が気づきにくいまま進行する 点です。

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4.虚血性心筋症の治療法

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内科的治療

  • 心不全治療薬(ACE阻害薬・ARB・β遮断薬・SGLT2阻害薬など)

    166529996
  • リハビリ・運動療法

  • ASV(非侵襲的呼吸補助)

これらで心不全の症状を和らげます。

外科的治療

  • 左室形成術(リバースリモデリング手術)
     → 壊れた部分を修復し、左室を適切な形に戻す手術→もっと読む

  • 僧帽弁形成術:虚血性僧帽弁閉鎖不全症を合併している場合に有効

  • 冠動脈バイパス手術(CABG):虚血を改善し心筋を守る

心筋そのものは再生しませんが、「残された心筋を守る・回復させる」 ことが治療の目標となります。

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5. 最新の研究と治療の展望

204149269

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  • 左室形成術:従来の「STICHトライアル」では効果が過小評価されましたが、専門施設では良好な結果が得られています。

  • 再生医療・血管新生治療:日本ではまだ研究段階ですが、海外(例:タイ国際心臓病院など)では臨床応用が進んでいます。

  • ハートチームでの治療選択:内科・外科・リハビリ科が連携して最適な治療法を選ぶことが大切です。

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6. まとめ

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  • 虚血性心筋症は 心筋梗塞などで心臓の筋肉が壊れた状態

  • 自覚症状が少ないまま進行し、心不全や僧帽弁逆流を引き起こす。

  • 薬・リハビリ・外科手術 を組み合わせれば改善が可能。

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  • 左室形成術や新しい再生医療も選択肢に。

  • 早期発見と適切な治療 が命を救います。

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➡ 関連記事はこちら

  • [心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)]

  • [僧帽弁閉鎖不全症と治療法]

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1) 心筋症とは?―いくつかの原因があり治療法も違ってきます【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️Q: 「心筋症」とはどういう病気ですか?

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Zoki_03A: 心臓の筋肉(心筋と言います)が壊れて動きやパワーが落ちる病気です。

左室の筋肉が増勢し左室の壁が分厚くなる肥大型心筋症(略称HCM)と、

左室が大きく拡張し左室の壁が薄くなる拡張型心筋症(略称DCM)、

さらに左室の壁が硬くなり動きが悪く、とくに血液を貯める瞬間にやわらかく広がれない拘束型心筋症(略称RCM)その他があります。

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◾️肥大型心筋症は

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肥大型心筋症HCMでは左室の中ほどから出口付近にかけて筋肉が肥厚し出っ張って血液が流れにくくなる閉塞性と、左室全体に左室壁が厚くなる非閉塞性があります。

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閉塞性肥大型心筋症(略称HOCMあるいはIHSS)では突然死などがおこるタイプがあり、しっかりとした治療で助かります。

非閉塞性は通常はお薬などで治療します。ただし心尖部肥大型心筋症では左室の心尖部側が異常心筋で埋もれた形になるため手術でかなり改善させることができます。

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◾️拡張型心筋症は

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拡張型心筋症では心筋 が壊れて心室の壁が薄くなったり硬くなったりし、心臓が大きくなります。心不全が悪化しやすく、そのまま放置すると予後が悪く、要注意です。

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拡張型心筋症には原因別に大きくわけて

虚血性(冠動脈の疾患が原因となっているタイプ)と

非虚血性(冠動脈疾患が原因では無いタイプ)

があります。

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①は大きな心筋梗塞後やカテーテル治療PCIを繰り返した後などにも見られま 虚血性心筋症には冠動脈(図の赤い線)の病気が関与しています す。

左心室全体の力が落ちる(心不全)とはいうものの、とくにここが弱いという部位が見られることが多いです。

そこ状態に応じて治すことを考えます。

また左心室がやられて、大きく拡張し、そのために僧帽弁の形が崩れて虚血性僧帽弁閉鎖不全症になるケースがよくあります。

この場合はそれへの治療も行うことがあり、ほとんどの場合、改善が図れます。

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②は冠動脈は太い血管のレベルでは問題ありません。

この中で特発性と呼ばれるタイプは原因が不明で、何らかの炎症や細胞への障害などが原因と考えられます。

Doctor_gekaiお薬で改善を図るとともに、①と同様に悪い部位を心臓手術(左室形成術)で治すこともありますし、僧帽弁が強い逆流を起こしたケースではそれを修復することもあり、多くはある程度以上の改善が図れます。

もちろん術後もさまざまな治療やケアで心筋や心臓のさらなる改善や安定をはかります。

とくにお薬(ベータブロッカー、ACE阻害剤またはARB、抗アルドステロン剤)などをキメ細かくうまく使うと予後はさらに改善します。

なかには健康人に準ずるレベルまで回復した方も少なからずあります。

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拡張型心筋症は放置すると次第に進行し、心不全 186812141や不整脈が心配なケースがあるため注意が必要です。

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◾️心筋症、まとめ

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心筋症ぜんたいで言えば、拡張したり心不全と二次的問題たとえば肺炎や血栓、脳梗塞、不整脈その他でいのちを落とさないように、きちんとした定期検診と治療が大切です。いま元気だからと言って油断しそのままにしないようにお願いします。

私たちは心筋症に対して心不全外科さらに心不全科という目線でこうした患者さんのフォローを続けています。

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モ: 日本では心移植の患者さんの大半が拡張型心筋症を持っておられたことから、心筋症イコール移植という印象をお持ちの方が少なくありません。

補助循環デバイス昔は不治の病というイメージがありましたが、現在はそうとは限りません。

的確な診断と治療により、安定化が図れるようになりつつあります。

さらに、近い将来、再生医療の方法が確立すればより大きな展開がみられるでしょう。

最悪の場合の補助循環(ある種の人工心臓です)にも進歩が見られます。

 Ilm08_bd01009-s右上図の右段はかつての補助循環ポンプ(矢印)です。左段は現在のタイプ(矢印)です。だいぶ小さくなりました。

さらに壊れた左室を新しい左室形成術で修復することがかなりできるようになりました。→→もっと見る

心筋症は簡単な病気とは申しませんが、もはや不治の病とは限らないのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:左室形成術が不要な虚血性僧帽弁閉鎖不全症

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患者さんは 65歳男性で、冠動脈三枝病変+左主幹部病変、左室駆出率30%台の虚血性心筋症虚血性僧帽弁閉鎖不全症のため手術となりました。なお術前、虚血性僧帽弁閉鎖不全症の悪化による肺水腫・心不全のため緊急入院とドパミン点滴を必要としました。

画面下が心臓です。表面がざらざらに見えるのは癒着を剥離した後だからです麻酔導入ののち血行動態が悪化したためIABP(左室を補助する風船がついた管で、大動脈の中で風船が膨らんだりしぼんだりして血液ポンプの作用をします)を挿入・開始し安定しました。

左室壁はバイパスによって回復すると考えられる状態のため左室形成術はやらず、バイパス手術と僧帽弁形成術をすることにしました。                .

写真左:左室側壁は心膜と癒着し、以前の心筋梗塞によるものと考えました。

バイパスグラフトの保護のため、まず僧帽弁形成術を体外循環・大動脈遮断下に行い、そののち体外循環・心拍動下にバイパス手術を行うことにしました。

口を開けた形になっているのが僧帽弁です                                                             .

体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は弁輪拡張が認められましたが(写真左) 、弁に顕著な器質的変化はありませんでした。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症の所見で、かつテザリングtethering (弁が左室側へ引っ張られる現象、別名テント化)はそれほど強くないため、

小さめのリングで僧帽弁形成術MAPを行うことにしました。

リングで弁輪のサイズと形を適正化し、逆流が消えました

                                        .

リング24mmを縫着し、良好なかみ合わせを確認ののち左房を閉じました。

SVGの中枢吻合を上行大動脈に行ったのち、61分で大動脈遮断を解除しました。

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写真左はMAPの糸をかけた状態の僧帽弁、写真上右はリングを縫着したあとの僧帽弁です。サイズがかなり小さくなったことが判ります。

心臓の下側の冠動脈にバイパスを縫いつけているところです                                                            .

心拍動下に、まず心臓を頭側に脱転し、

大伏在静脈SVGを

右冠動脈4PL枝(プラークあり)に吻合しました(写真左)。

                                                             .

ドップラーにて良好なフローを確認しました。

左側が頭側です。

 

心臓の前側にある冠動脈に内胸動脈バイパスを縫いつけています ついで心臓を少し前へ起こし、

前もって脂肪と心筋内から掘り出した左前下降枝LADに右内胸動脈RITAを側側吻合しました。

さらにこのRITAを第一対角枝D1に端側吻合し sequential graftとしました。

RITAはLADだけにでもぎりぎりの長さでしたが、工夫してLADとD1の両者を灌流するようにしました(写真上)。

この患者さんのD1は大きく、重要度が高いものと考えました。
心臓の裏側にある冠動脈に内胸動脈バイパスを縫いつけています

最後に心臓を右側へ脱転し、左内胸動脈LITAを鈍縁枝OMに吻合し、冠動脈バイパス手術操作を完了しました(写真左)。

いずれのグラフトでも良好な拡張期フローパタンをドップラーにて確認しました。

体外循環を容易に離脱しました。術前からのIABP使用下に、カテコラミンなしで離脱できました。

経食エコーにて虚血性僧帽弁閉鎖不全症の消失と左室機能の改善を認めました。
術後経過はおおむね順調で、翌朝IABPから離脱し、抜管しました。その後はさすがに通常よりゆっくりとしたペースで、しかし確実に回復され、元気に退院されました。

MDCTにてバイパスグラフトはすべて開存が確認され、虚血性僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失し、左室機能は著明な改善を認めました。

こうした見極め、つまり心筋が回復するかどうか、左室形成術は不要かどうか、などのいわば「戦略」は大切です。適宜、MRIやエコー、術中所見などを総合して決定するようにしています。見極めることで、不要な手術操作を省略し、必要な操作に専念することができるのです。

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事例:典型的なオフポンプバイパス手術

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患者さんは 67歳男性、冠動脈3枝病変左主幹部病変のためオフポンプバイパス手術(オフポンプCABG手術、OPCAB)のため来院されました。

心臓病だけでなく糖尿病もお持ちで、しかも右椎骨動脈閉塞、右外頸動脈狭窄、両側内頸動脈プラークがあり脳梗塞になりやすい懸念があり、オフポンプバイパスのメリットが一層活かせるケースです

Ritalad全身麻酔下に血行動態は安定していました。

                                                      .

頸動脈領域の病変を考慮して通常以上に血圧安定を意識しました。

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                                                      . 

Ritadiagoグラフトを準備したのち、まず心臓を軽く脱転し右内胸動脈 RITAを左前下降枝 LADに側側吻合しました(写真上左)。

これで以後のオフポンプバイパス操作が大変やりやすくなります。

さらにこのRITAを第一対角枝D1にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真左)。

通常はSカーブを描くなどのレイアウトを取りますが、この患者さんの狭窄部の位置特徴からこのようにしました。

                                                 .

Litaom1_2ドップラーにてそれぞれの吻合で良好なフローパタンを確認しました。

フローパタンが良好ならそのグラフトの開存率は極めて高く、良好な結果となります。

  ここで心臓を右側へ脱転し、左内胸動脈 LITAを第一鈍縁枝OM1に側側吻合しました(写真左)。

心臓を脱転しても血圧は低下せず安心な手術ができます。                     .

Litaom2

さらにこのLITAを第二鈍縁枝OM2にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真下左)。

 

ドップラーにて良好なフローパタンを確認しました。

 

 

                                                       .

通常この部位のグラフトレイアウトもSカーブのITAで側側吻合するのですが、この患者さんの場合は最適吻合部がたまたまOM1でやや遠位部に位置したためスムースな血流を重視してU字グラフトとしました。

                                                          .

Svg  ここで大伏在静脈SVGの上行大動脈への中枢吻合を自動吻合器にて行いました(写真左)。

静脈グラフトよりも動脈グラフトが良いと信じられた時代もありましたが、最近はやり方や部位や状況によっては静脈グラフトは一部の動脈グラフト(たとえばとう骨動脈や胃大網動脈)に匹敵する長期成績がでており、静脈グラフトには血流競合に負けにくい特長もあり、しかも患者さんの体への負担が少ないため、私たちは臨機応変に静脈グラフトを患者さんの役に立つ形で活用しています。

Svg4pd心臓を頭側へ脱転し、このSVGを右冠動脈4PD枝に端側吻合し(写真左)、すべての吻合操作を完了しました。

ドップラーにてこのSVGの良好なフローパタンを確認しました。

オフポンプバイパス手術操作中、血行動態は一貫して安定していました。経食エコーにて良好な心機能と弁機能を確認しました。

術後経過は良好で、出血少なく血行動態良好で、神経学的異常等もなく、翌朝抜管し2週間程で元気に退院されました。MDCTで術後検査を 手術のあと、バイパスはいずれもきれいに開存していました 行い、すべてのバイパスグラフトは開存していました。

こうした心臓(冠動脈)と他臓器(頚動脈など)が同時にやられた状態の患者さんでは複数の病変と同時に向き合う必要があります。心臓が良くならないとその他の臓器の治療が進まないので、私たちがまず先陣を切るようにしています。

もちろん他臓器が断然重症のときにはそちらの治療を心臓の観点から支援し、他臓器が軽快してから心臓の手術ということもありますが。こうした科を超えた、さらには病院や地域を超えたチーム医療も患者さんには福音となり有意義と思います。

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オフポンプバイパス手術について(解説)

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事例:超高齢者例 1

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患者さんは91歳女性、高度な大動脈弁狭窄症 AS、冠動脈一枝病変、左室肥大 のため手術となりました。心臓を治し元気になってもっといろんなことをやりたい、前向きに生きたいと希望されたため、91歳のご高齢であっても意義は大きいと考え手術をお引受けしました。

まずオフポンプバイパスで静脈グラフトを冠動脈に縫いつけました手術時の所見でも心臓はかなり張っていました。

左前下降枝LADは慢性閉塞していましたが、心筋保護の目的もありバイパス手術を併せ行うことにしました。

高齢で体格も小さく体力も余裕ないことから体外循環時間を節約するために、

まずオフポンプバイパスで大伏在静脈SVGをLADに吻合しました(写真左)。

大動脈弁は硬くてほとんど開かない状態でした体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で石灰化は弁尖から弁輪まで見られました(写真左)。

弁は硬くてピンセットで押しても引いてもほとんど開きませんでした。弁と石灰を摘除しました。

大動脈弁輪は狭小弁輪で、生体弁の最少サイズ19mmでもぎりぎりの状態でしたので工夫して弁が入りやすいようにしました。

工夫して狭いところに人工弁(生体弁)を無事縫いつけました。体力に余裕がある患者さんでしたら弁輪拡大などを併用するところですが、

この患者さんはそうする余裕もないため丁寧に入れ込みました。

心膜弁(生体弁)を縫着しました(写真左)。狭い大動脈基部に目一杯入った生体弁が見えます。

大動脈基部も狭いため大動脈切開部が裂けないように留意しつつ上行大動脈を2層に閉じました。

Cabg_2上記SVGグラフトの中枢側吻合(写真左)を行ったのち、78分で大動脈遮断を解除しました。

体外循環を容易に離脱しました。カテコラミンも不要でした。

経食エコーにて良好な人工弁状態と左室機能を確認しました。ドップラーにてSVGグラフトの好ましい拡張期フローパタンを確認しました。

術翌朝抜管しましたが、さすがにご高齢のためその後誤嚥(食べ物などを誤ってのどに詰めることです)があり、しばし呼吸管理ののち元気に回復されました。

高齢化社会のなかで心臓病患者さんも高齢化が見られます。大動脈弁狭窄症や冠動脈疾患はじめ多くの心疾患では超高齢者でも手術(弁形成や弁置換、オフポンプバイパス手術など)によって元気になられ、予後だけでなくQOLの改善も目覚ましいため手術適応になることが多くなりました。

とくにこの患者さんのように高度な大動脈弁狭窄症では手術までに突然死されることも稀でなく、きめ細かい注意とともに早目のコンサルトが勧められます。治せる病気で命を落とすのはもったいないと思います。

またあまりご高齢の方に心臓手術などしてもお金の無駄とする考え方があるのも事実です。しかし患者さんがまだまだ有意義に生きておられ、そしてもっと生きたいと希望されれば、あるいはご家族がそれを望んでおられるなら、私は手術の意義があると信じています。

年寄だから見捨てるという社会は身体障害者や低所得層といった社会的弱者を切り捨てる社会につながる恐れがあります。それは許してはならないと思うのです。

世間では医療安全管理ということでこうした患者さんたちがハイリスク例として手術を断られることが増えているようですが、熟練チームなら手術を安全に乗り切れる可能性が高くその後も何年も元気に生きる可能性のある方を断ることが医療安全と言えるかどうか、疑問を感じます。断られた患者さんたちの予後は極めて悪いからです。真の医療安全を皆で考えるときが来ていると思います

メモ1.こうした努力が雑誌・文芸春秋に紹介されました。生きるとは、生きたい気持ちとは何かということを皆で考えることが高齢化社会では大切と思います。メディアのページからご覧ください。

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