11) 心臓の再生医療―着実な進歩 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月22日

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◼️心筋幹細胞

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2011年1月29日、NHKテレビ追跡AtoZにて「世界初の心臓再生技術」が放映されました。

京都府立医大チームの皆様にエールを贈りたく思います。

この再生医療は京都大学探索医療センターにて開発研究中に米田正始も参加させて頂いていたもので、

そこで用いられる心臓幹細胞を守り育てる基盤として米田が京都大学再生研究所の田畑泰彦教授と開発してきたbFGF徐放ゲル(bFGFビーエフジーエフは体内にある生理物質で血管を増やし細胞を守ります。

徐放とは徐々にbFGFを放出することで効き目を飛躍的に増やす方法です)が活用されていることを光栄に思います。

このbFGF徐放ゲルをシート状にして心臓の表面に置くと、約4週間かけてbFGFが徐放され、新しい血管が生まれ、また移植した細胞を守ります。

私が数年以上前、京大病院で行った再生医療の臨床試験ではこのシートを単独で使い、

あわせて患者さんの大網(たいもう)という血管豊かな組織をその上にかぶせ、

患者さんの心臓に新たな血管ができたことを世界へ発信しました(英語論文242番、2009年)。

このシート単独でも効果が見られたため、そこに細胞移植を加えた府立医大チームの方法は期待できると思います。

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◼️ iPS細胞

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そして2012年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学賞Shinya_yamanaka10を受賞されたiPS細胞のこれからの展開が大いに期待されています。

たとえば胎児心筋細胞の移植では心機能の改善や不整脈の予防効果が報告されています。iPSなら倫理的な問題もなく、胎児心筋細胞を創ることがおそらくできるでしょう。

これまで不可能であったことが可能になるのです。

さらに2020年1月に大阪大学の澤芳樹教授らのチームがiPS細胞由来の心筋シートを心臓の周りに貼り付ける再生医療・臨床治験の一例目を報告されました。これからこの技術が発展し、弱った心臓のパワーアップができる日が楽しみです。
さて、心臓の再生医療には2つの代表的考え方があります。

対象は当面おもに末期の虚血性心疾患の患者さんです。

たとえばバイパス手術PCIがもうできないほど血管が悪いとか、虚血性心筋症のために心臓の力が極端に落ちているケースです。

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◼️ 心臓再生医療の内容

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心臓の再生医療は次の3つを軸に発展して来ました

1.血管を造り、心臓の虚血(血液の流れが足りない状態、酸欠と同じです)を治す。

つまり血管新生治療です。

2.心筋(心臓の筋肉、当然パワーがあり力強く動きます)を造る。つまり心筋再生治療です。
3.それ以外に移植細胞などが出すサイトカイン(ある種のホルモン、成長因子)による治療があります。

いずれもこれまで多くの研究がなされて来ました。私たちも京都大学時代にネズミやブタ、イヌなどを使って新たな治療法・再生医療の開発に取り組んできました。

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しかしこれまでのところ、2.の心筋を造る、つまり心筋の再生はまだ実用化には届かなかったのです。

それは心筋は自ら動く力を持っており、それだけの特徴を持つほど成熟した細胞と言えるのですが、

成熟した細胞は増えにくいという特性があり、

多数の細胞まで増やさないと心臓の仕事をするだけのパワーにはならないという問題があります。だからと言って増えやすい未熟な細胞ではあまり動くだけの力がなく、

たとえ数だけ増えてもES細胞。延々と増え続け、さまざまな細胞になれる特徴を将来治療に活かすべく研究が進んでいますIPS細胞。自分自身の細胞から作ったES細胞のような意味合いがあり、今後の発展が期待されます。まだ再生医療には使えないのが残念です。心臓のパワーアップという治療目的に沿うことはできません。

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そこで今後ES細胞(写真左)やiPS細胞(写真右)のように、増えやすい性質をもった細胞をまずたくさん造り、

それをうまく成熟させて力強く動く細胞に育てるという技術が開発されれば、

上記2.の心筋再生医療は実用化に向かって行くでしょう。

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しかしながらこれまでの実績だけでも心臓の再生医療は決して捨てたものではありません。

というのは1.の血管新生治療は現在の技術でもかなりできます。

3.も状況と方法によっては使えます。

これまで細胞移植で多少の効果が見られた理由は3.のサイトカインだったという報告が増えています。

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 ◼️とくに血管新生について

Bonemarrowmncell_nature.

血管新生治療の代表的な方法の一つが、骨髄単核球細胞移植(写真右)があり、

これは全身麻酔下に骨髄を刺して細胞を得る方法と、GCSFというお薬で細胞を血液へ追い出してから捉える方法があります。

いずれの場合でもある程度血管新生ができ、下肢では虚血改善の報告があります。

ただしこの方法は手間がかかる割にはできる血管が毛細血管(細すぎてあまり役に立ちません)がほとんどという弱点があります。

このハイドロゲルにbFGFなどの成長因子をしみこませて使います。その効果は私たちのデータでは細胞移植より強いです。これを克服すべく、私たちが行ってきた再生医療はbFGFという血管を造る自然のホルモン(タンパク質)を遺伝子を使わずに、ハイドロゲル(左写真)と混ぜて心臓の表面で直接効かせるという方法です。

効果があり、それ以上に全身に影響を与えない局所治療という特長を持ちます。それで高齢者や腎不全、網膜症がある患者さんにも使えるわけです。

京都大学時代にはこの方法と大網(お腹にある網状の 組織で多量の血管や成長因子を含みます)をセ心臓の再生医療(血管新生)を患者さんに行っているところですットにして使い、

血管造影で改善が肉眼で見えるほどの結果を出しましたが、

私が京大病院を去ってからはこの臨床研究は停止したままです。

日本では自施設でハイドロゲルを造らねば使えないため、

とりあえずタイで認可を受け、バンコック心臓センターにて臨床試験を再開しました。

新しい臨床試験では低侵襲(つまり患者さんの体への負担が少ない)を意識して、小切開で、人工心肺(体外循環)を使わず、かつお腹の組織を使わない方法を開発して使っています。

右の術中写真のように、心臓の表面に固定するだけです。

残念ながらこのプロジェクトは現地のリーダーであるArom先生が病気のため逝去され、中断された状態です。今後さらに場を求めていく予定です。

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◼️ 下脚の血管新生

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なおこの方法はバージャー病やASOなどの下肢の虚血では京大病院にて 7名の患者さんに使用し、成果を上げました。

5.動脈硬化症 6) 新しい再生医学の治療法などをご参照ください。)

その後数年経って、この治療法が京都大学で再評価され、探索医療センターの目玉プロジェクトとして2回目の臨床試験が行われ、良好な結果が報告されました。

この再生医療の恩恵がもっと多数の患者さんたちに届くよう、あらたな場を検討しています。

仁泉会病院心臓血管外科の米田正始の外来に予約して来院頂ければご相談にお乗りします。

あるいはメール等でご連絡下さい。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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4)Q: PCIと比べて心臓手術(冠動脈バイパス手術)の利点は?

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オフポンプ冠動脈バイパス手術の一例を示しますA: 分かりやすく言えば、心臓手術・冠動脈バイパス手術(CABG)のほうが長期成績つまり安定度が良いということです。

血管内に ステントを埋め込むPCIバイパス手術に比べて傷も小さくやさしい治療に見えるでしょうが、

長期的には、生存率などで外科手術のほうが良い成績を収めているのです。つまり、より長生きできるわけです。

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2008年1月には多数の血管に病変がある重症例について、バイパス手術の優位性を示すデータが米国の超一流誌 で発表されました。

使用する部位にもよりますが、人間の体にとって「異物」であるステントの埋め込みは一 時的に良くなっても、長期的には厳しいことを心臓血管外科医は経験的に学んでいます。

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2011年には有名な大規模比較研究であるシンタックス研究の4年のデータがでました。

予想どおり、冠動脈バイパス手術の患者さんはカテーテル治療PCIの患者さんより長生きできるという結果が出ました。

たったの4年でこれだけの差がでたのですから、5年ー10年ではもっと大きな差となるでしょう。(シンタックス研究、5年のデータ

冠動脈病変が複雑な方は、長生きしたければ冠動脈バイパス手術(CABG)を受けるべきという方向がすでに欧米のガイドラインに出ています。

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冠動脈ステント例えば、弁膜症の外科手術で用い る機械弁(金属)には40年以上の歴史がありますが、どん なに丁寧に長期ケアをしても脳梗塞が毎年1~2%の割合で起こります。

だから体になじむ弁形成手術生体弁での弁置換を行うことが増えたわけです。

同じ観点から、血行再建療法では、体となじまない異 物であるステント(金属)よりも、自らの生きた血管を用 いる冠動脈バイパス手術のほうが予後や安全性の点で優 れているのです。

まして将来もしものがん手術やけがの場合、出血を増やす薬を飲まずにすむバイパス手術後のほうが安全性は高いのです。

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たとえばPCIでこの5年間で主流になった薬剤溶出性ステントでは、その治療後は強力な血栓予防のお薬(抗血小板剤と言います)を延々と使う必要があります。

当初は6カ月間だけと言われていましたが、薬を止めると血栓ができて心筋梗塞で急死する患者さんが出現しました。

そのため薬使用は1年とか2年と言いながら現在は無期限にこの薬を使う方向にあります。

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するとさまざまな二次的問題が Ilm09_dd04001-s明らかになってきています。たとえば大腸ファイバーでせっかくポリープ(将来がんになります)を見つけてもそれを大腸ファイバーで他の患者さんのように簡単な切除はしづらいです。

切除のあと出血が止まらなければ命にかかわる大問題になるからです。

大腸ファイバーの先生は薬剤ステントの責任は取りたくありませんし、薬剤ステントを入れた先生は大腸ファイバー治療での責任は取れません。

かといって抗血小板剤を切ってヘパリン点滴などに切り替える場合の安全性は不明です。

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こうした問題が発生し相談を受けるようになりました。冠動脈バイパス手術ではこうした問題はほとんどありません。

2012年1月18日の天皇陛下のオフポンプ冠動脈バイパス手術は主治医団の方々がこうした諸点を十分勘案された結果と聞いています。

良い長期結果が期待されています。長生きや長期の安全性、また平素のご多忙な毎日を考えると冠動脈バイパス手術は正解であったと言われています。

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ただし、誤解のないように言えば、PCIをはじめとする内科的治療の利点はたくさんあります。

同じPCIで も超一流のセンターや内科医がやれば結果も違ってくる場合もあるかも知れません。

黒か白かではなく、その患者さんにとって最善の策は何かを一緒に考えて決める姿勢が大切と思います。

薬剤ステントは入れた分だけ患者さんが得をするわけではないことや、たとえばがんの心配のある方や将来何かの手術や怪我の心配のある方、のびのび生活や仕事に打ち込みたいひとなどには冠動脈バイパス術が有利なケースもあり得るわけです。

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7. 病院や医師の選び方 (セカンドオピニオンも含めて)にもどる

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執筆:米田 正始
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医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
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4b) MIDCAB(ミッドキャブ)手術とは?―小さい切開、大きな効果?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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◾️MIDCABとは

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MIDCABとはアルゼンチンで生まれ1990年代に世界中に広がった小切開左開胸をもちいたオフポンプバイパス手術です

(左下図の赤い線がMIDCABの皮膚切開線です)。

まもなく日本にも導入され一時は話題になりました。

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MIDCABミッドキャブ手術の創は小さく目立ちにくいです通常のオフポンプ冠動脈バイパス手術の創はやや大きいです。その代わり完全な血行再建ができますMIDCABはその技術的な難しさと、限られた冠動脈にしかバイパスできないこと、まもなく出現した正中切開のオフポンプバイパス(右図、赤い線が皮膚切開線です)の方が自由度が高く便利なこと、などの理由から下火になりました。

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私たちはこのMIDCABの特長を活かして、それが患者さんに最も役立つ状況のときには積極的に使用し、ノウハウを蓄積して来ました。

手術事例: ハイリスク例に対するMIDCAB(ミッドキャブ)手術それぞれの治療法の特徴をわきまえてその患者さんにベストのものを選ぶことが大切です

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◾️MIDCABの特長は

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MIDCABの特徴は何と言っても皮膚切開が小さく、

かつそれが乳房の下部であるため傷が 目立たず、痛みも少なく、

胸骨を切らないため術後の回復や社会復帰も早い印象があることです。

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とくに冠動脈バイパス手術の最大メリットである左内胸動脈ー左前下降枝バイパスができることが大きな特長です

(これはいかなるステント治療よりも長期確実で安全という意見が多いです)。

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その代わり、小切開のための限界があり、回旋枝や右冠動脈にはバイパスがしづらいなどの弱点があります。

しかしこれは他血管に側副血行路が発達していたり、

カテーテル治療PCIとハイブリッドする場合はかなり補強できます。

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◾️MIDCABを発展させて

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001154m_bまた皮膚切開はMIDCABよりはやや長くなりますが、同じコンセプトで左開胸のオフポンプバイパス手術を行うことでリスクを軽減できることがあります。

たとえば 心臓患者さんで「エホバの証人」の方へのページでお示ししたバイパス再手術のケースはMIDCABに近い左開胸をすることで無輸血を容易に達成し、患者さんに大変満足して頂けました。これは現代のミックスバイパスの魁とも言えるでしょう。

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それらを考慮しますと、MIDCABはケースバイケースで一部の患者さんに大変役立つと考えています。

たとえば全身状態が悪いハイリスク例や高齢者、それも再手術などのケースや、

輸血ができないエホバの証人の患者さんで再手術例とか出血傾向が強いとき、

あるいは正中切開が安全上不利な時などが挙げられるでしょう。

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4. 虚血性心疾患 へもどる

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事例: ハイリスク例に対するMIDCAB(ミッドキャブ)手術

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患者さんは82歳男性。

20年前にCABG(3本バイパス)を受けられましたが、そのグラフトが閉塞し、

その後2回のカテーテル治療(PCI)でも改善せず、

4か月前から心不全症状著明(NYHA IV度)となりハートセンターへ来院されました。

 

来院時左室駆出率は41%(正常は約60%)で僧帽弁と大動脈弁に中等度の閉鎖不全がありました。

また慢性閉そく性肺障害COPD(一秒率63%)と腹部大動脈瘤(直径50mm)もありました。

 

B体力の余裕が少ない患者さんのため、

できるだけ低侵襲(体への影響が少ないことです)なMIDCAB(つまり左小開胸オフポンプバイパス手術)でバイパス手術をすることにしました。

 

 

再手術で視野が悪いため、MIDCABよりは大きめの皮膚切開を行いました。

心膜を切開し、前回の静脈グラフト(対角枝と前下降枝へつながる)を見つけました。

その周囲を剥離しました(写真左)。Litab

ここで左内胸動脈を剥離しました(写真右)。

 

古い静脈グラフトをたどって左前下降枝をみつけ、露出しました。

この静脈グラフトを切開しましたが、残念ながら内腔はほとんどありませんでした。

さらに左前下降枝も切開しましたが、すでに血管としては使えない状態でした。

Litasvgd1b 

 

そこで静脈グラフトを対角枝の吻合部付近で切開したところ、ここで血流が多量に見られたため、左内胸動脈を吻合しました

(写真左、吻合中)。

良好なフローパタンを確認して手術を終えました

(写真右下)。

術後経過は順調で胸痛も消失し、心不全も改善して運動能力も回復、10日後退院されました。B_2 

 

こうした患者さんつまり昔バイパス手術を受け、その後バイパスが閉塞し心機能が低下し、肺も悪く、高齢といった方は最近増加しています。

この方も元の病院では心臓手術はリスクが高くできないと言われていました。

こうした方を安全に、かつ必要最小限の治療を行うのもこれからの一つの考えと思います。

多少共通したハイリスクの患者さん(エホバの証人で再手術)の記事はこちらをご覧ください。

 

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1e) 糖尿病性網膜症につきまして――眼だけではないかも、ご注意を

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◾️糖尿病は

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糖尿病は現代病の一つで食生活の向上とともに年々増加の方向にあり、今後国民病のような存在になるという心配が出ています。

 

眼の血管は全身の血管のバロメーターです糖尿病の患者さんでは血管の動脈硬化が早い速度で進みやすくなるため、眼や心臓その他全身の臓器で病気が発生しやすくなります。

実際、東京大学胸部外科チームのデータでも、糖尿病の患者さんが死亡する原因の3分の1は血管関係の病気で、そのほとんどは冠動脈疾患です。

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◾️糖尿病性網膜症の怖さ

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同じ糖尿病でも、網膜症が発生します眼の血管がやられると心臓の血管(つまり冠動脈)もやられやすいのです(糖尿病性網膜症)、狭心症や心筋梗塞のリスクが高まります。

 

もともと糖尿病では症状(胸の痛み)がでにくいきらいがあり、かつ糖尿病性網膜症が合併すれば患者さんもあまり動 かなくなられるため、一段と症状が隠れてしまうのです。

 

心臓の血管がやられると狭心症や心筋梗塞になり危険ですまた糖尿病性網膜症がありますと、ない場合に比べて、冠動脈疾患による死亡率は最高5倍まで増加します。

現代は冠動脈疾患はかなりのところまで治せる病気であることを考えれば、冠動脈疾患で死亡されるのは極めて残念なことで、何としても避けたいものです。

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◾️糖尿病から冠動脈疾患が

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そこで糖尿病をお持ちの患者さん、とくに糖尿病性網膜症と眼科で言われたかたは、心臓の定期健診をお勧めします。

 

定期健診の内容は、その患者さんの症状や状態にもよりますが、一般的には基本検査(尿、血液、心電図、胸部レントゲン)と心エコー・ドップラーそして冠動脈MDCTです。

いずれも比較的苦痛の少ない検査です。腎臓が悪い患者さんには別途プランを立てます。MDCTのおかげで冠動脈の検査はずっと簡便で痛みなく快適になりました

 

とくに冠動脈MDCTでは、かつては心カテーテル検査(管を手足の血管から心臓まで送る本 格的検査です)でしか調べられなかった冠動脈をCT検査で、苦痛なく横になっているだけで短時間で調べることができ、健診には大変親しみやすいと喜ばれています。

 

もし異常所見があれば必要に応じて心カテーテル検査で治療へ進んで行くことがスムースにできます。

 

治すべき病気が冠動脈に明確に見つかれば、カテーテル治療やバイパス手術を迅速に検討します。

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◾️私たちの努力

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私たちは患者さんの便宜を考えたポリシーと熟練度の高い循環器専厳しい医療経済情勢の中でも患者さん中心のポリシーを頑張って貫いています門スタッフ(医師・技師・看護師)の献身的協力が得られる循環器専門病院が総合病院内にあるという特長を活かしています。

 

来院されれば数時間ですべての検査を行い、その解析データを見ながら、私たち熟練の専門医がお話することができます。

 

冠動脈MDCTでは新鋭の器械だけでなく、経験豊富な技師と医師のチームがなかばリアルタイムで解析できることが重要です。

 

「これまで大病院では 3週間3往復以上かかった検査+説明が、ここでは1回できちんとできるのでありがたい」などのお褒めをよく戴いていますし、

実際、新幹線などに乗る時間を含めてもトータルでは早いためか、遠方からもよくご来院戴いています。

それ以上に大切なことは質の高さであることを銘記して取り組んでいます。

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時間を効率的に使えるよう、予約して頂ければベストですが、予約なしでも、できるだけのことは致します。

(メールを送っていただくか、仁泉会病院か、医誠会病院をご参照ください。

外来担当看護師に米田先生希望と言って頂ければ米田が責任持って対応いたします)

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 4. 虚血性心疾患 にもどる

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3b) 心不全の手術について――ネバー・ギブアップ【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ 心不全とは?

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心不全とは、心臓が十分に血液を全身に送り出せなくなる状態を指します。
原因はさまざまで、「病名」というよりは**症候群(いろいろな病気の結果として起こる状態)**です。心不全とは心臓が十分動けなくなる危険な状態です

  • 収縮機能不全:心臓がしっかり収縮できない

  • 拡張機能不全:心臓がうまく拡がらず血液を受け入れられない

  • 左心不全(左心房・左心室が原因)と右心不全(右心房・右心室が原因)があり、しばしば両方が合併します

心不全は進行すると命に関わる重大な病気ですが、原因に応じた治療を行えば改善できるケースも少なくありません。

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◆ 心不全の治療 ― 薬だけではない

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従来、心不全の治療といえば薬物療法(利尿薬、強心薬、点滴など)が中心でした。
しかし現在では、外科治療(心臓手術)も心不全治療の重要な選択肢です。

心不全の原因に応じて、治療法は大きく異なります。

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◆ 心不全に対する外科治療(手術)

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オフポンプ冠動脈バイパス手術の出来上がり図です1. 冠動脈疾患が原因の場合

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重症心不全の中には外科手術で改善できるものがあります2. 弁膜症が原因の場合

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3. 心筋症が原因の場合

  • 左室形成術で拡大した左室を正常に近い形へ戻す

  • 2014年に私たちが開発した心尖部凍結型左室形成により、従来より成績が改善

  • 合併しやすい僧帽弁閉鎖不全症にはMクリップや弁形成術PHO法を追加

👉 症例によっては、弁形成のみで改善が得られる場合もあります。

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4. さらに重症の場合

薬やカテーテル治療、手術でも改善が難しい場合は、

  • 補助循環(VAD)

  • 心移植

といった先進治療が必要になります。
私たちは移植センターや大学病院と連携し、必要に応じて治療を橋渡ししています。

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◆ まとめ ― 諦めないでください

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心不全は「もう治らない」と言われがちですが、外科治療で改善できるケースは確実に存在します

  • 薬など内科的治療だけでは限界のある部分を手術で補う

  • Mクリップ、弁形成術、左室形成術、バイパス術などを組み合わせて最適化

  • 補助人工心臓や移植を含め、ハートチームで総合的に判断

私たちが開発した新しい手術により、多くの患者さんが「仕事復帰・日常生活復帰」を果たしています。

心不全=終わりではありません。
ネバー・ギブアップ。まずはご相談ください。

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患者さんの想い出はこちら:

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心筋症・心不全 へもどる

4. 虚血性心疾患

1.弁膜症< へ

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1c) 血液透析について―心臓や血管を守れば楽しみが、、、【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月4日

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◾️慢性腎不全・血液透析での注意点は

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慢性腎不全・血液透析は今なお課題が多い難しい病気・状況です。 210586990

とくに慢性腎不全の原因が糖尿病の場合、さまざまな注意が必要になります。

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血液透析の患者さんは血管が傷んでいる場合が多く、かつその血管病変(動脈硬化)は進むため注意が 必要です。

心臓血管外科関係の病気としては心臓の冠動脈がやられて起こる狭心症心筋梗塞

あるいは心臓の弁が硬化して起こる弁膜症

下肢の動脈がやられる閉塞性動脈硬化症 (ASOなどがあり、

また大動脈瘤も動脈硬化の現れです。

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そもそも慢性腎不全・172572059血液透析の患者さんの寿命を短くしていた大きな原因は心臓や血管の病気でした。

つまり心臓や血管をしっかり守れば、透析の患者さんはもっと長生きしやすくなるわけです。

そのため、いかにして透析患者さんの心臓や血管の手術を安全に行うかが焦点になって来ました。

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◾️慢性腎不全・血液透析での冠動脈疾患をどう直すか

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冠動脈バイパス手術は慢性腎不全・血液透析の患者さんにはもっともメリットの大きい治療法のひとつです上記の狭心症の場合、冠動脈バイパス手術は、内胸動脈グラフト等が動脈硬化を防ぐホルモンを自ら出し長期間安定する特長を持っているため、慢性腎不全・透析の患者さんには非常に好適です。

カテーテル治療(PCI)より優れた長期成績が多くの検討で発表されています。

そのバイパス術を安全に行うために、人工心肺を使わないオフポンプバイパス手術を大動脈への操作を最小限にして行い、成果が上がっています。

オフポンプなら大動脈に太い管を入れずにすむため、その部位から硬化した血管の破片が飛ばずにすみ、また自然な血液の流れのおかげで体への影響も少ないからです。

 

さまざまな工夫によって慢性腎不全・血液透析の患者さんの心臓手術はずい分安全になりました.

◾️慢性腎不全での心臓弁膜症対策

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慢性腎不全・血液透析で心臓弁膜症をお持ちの患者さんの場合は人工心肺は必須ですが、上行大動脈の良い部位をうまく使い、良い部位が全然ないときはそこを人工血管に代えるなどして破片が飛ばないように(つまり脳梗塞が起こりにくいように)工夫します。

通常以上の確実な止血をすることで、必要あらば手術直後でも出血なしに透析できるようにしています。

もちろんオペ中に人工心肺を使っているのを活かしてしっかり透析し、通常は手術翌朝までは透析なしで行けるようにしています。

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◾️慢性腎不全・血液透析患者さんの心臓血管が治ると、、、

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心臓と血管が良くなれば血液透析の患者さんはもっと長生きしやすくなります慢性腎不全・血液透析の患者さんの心臓や血管の手術ではこのように病気のある血管をうまく使って手術する必要があり、少し手間はかかりますが、意義は大変大きい です。

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というのは心臓が悪い患者さんでは、オペ前には血液透析が思うようにできないことが多く、たとえば透析で水を引こうとすると血圧が下がったり胸が痛くなり、透析そのものが成り立たなくなるため、手術の後の改善がはっきりとわかりやすいからです。ilm17_bd01025-s
手術のあと、しばし持続透析で安全に回復を図り、まもなく週3回の維持透析に戻りますが、その第一回目の透析のあと、患者さんが「こんな楽な透析は久しぶりでした」とよく言って頂けます。

お互い、努力は報われるとそのたびに思います。

 .

このように、慢性腎不全・血液透析の患者さんの長期生存率向上のキーの一つは心臓や血管をしっかり守るあるいは治療することで、前向きに取り組むことが大切です。

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4. 虚血性心疾患

1.弁膜症

5. 動脈硬化症

3.大動脈疾患

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1b) 糖尿病と心臓 について―対策のNo.1は?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月4日

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◾️糖尿病と心臓・血管

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糖尿病は代表的な生活習慣病の一つですが、万病のもとでもあります。

そのままにしておく糖尿病でやられる臓器は多数あります。腎臓は一番侵されやすい臓器のひとつです。と血管(動脈)がやられ、そこから心臓、腎臓、、脳、下肢はじめ全身が障害を受けてしまいます。

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糖尿病は生活の改善つまり食事や運動療法から始める予防あるいは早期治療が重要です が、気がつけば心臓等がやられていることもよくあります。

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私たち心臓外科医があつかう糖尿病の患者さんは、心臓では狭心症心筋梗塞関係の疾患、下肢では閉塞性動脈硬化症ASOなどがあります。

また糖尿病のために腎臓がやられて慢性腎不全・慢性血液透析<の状態になると、上記の狭心症や心筋梗塞、ASOが一層増えて患者さんの体に大きな負担になります。

大動脈瘤などの大動脈疾患も増えます。

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◾️糖尿病のコントロール

.糖尿病では食養生は極めて大切です

しかし糖尿病の多くは、完治はしづらくてもうまくコントロールすれば比較的対処しやすくなります。

糖尿病はある種のがんのように、手がつけられない病気ではなく、考え相談し勉強・工夫して改善が図れる病気です。

具体的には食事療法(要するにカロリーをうまく調整する)、運動療法、そして必要に応じて薬やインシュリンの使用です。

食事療法は進化し、低炭水化物・高脂肪ダイエットで成果を上げています。

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◾️糖尿病と心臓、その治療は

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冠動脈バイパス手術は糖尿病の患者さんにはとくに有効です。それはバイパスに使う内胸動脈が糖尿病に負けにくいからです。糖尿病が心臓に影響を及ぼす場合、狭心症つまり冠動脈が狭くなったり閉塞したりという状態になります。

これが昂じると、薬は効きづらくなりますし、カテーテル治療(PCI)も必ずしも安定した長期成績は出しづらいです。

そうした場合には冠動脈バイパス術(CABG)(左図)は役に立ちます。

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CABG手術で使用する内胸動脈グラフトは動脈硬化が起こりにくいため、もとの冠動脈がひどくやられている場合でも、内胸動脈グラフトはきれい でそのまま使えることが多いのです。

動脈硬化を抑えるホルモン類を内胸動脈はみずから作れるからです。

それでCABG手術で糖尿病でも、さらにはその結果慢性血液透析になるほどの患者さんでも、狭心症に対しては有効な治療ができます。

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◾️治療、近年の展開

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近年はCABG手術も人工心肺を使わないオフポンプバイパス手術として安全にできるようになり、一層治療成績が改善しました。

手術で心臓が良くなれば、運動も十分できるようになり、もとの糖尿病にも有効な治療法ができるようになります。

またPCIと違い、術後に強い薬(クロピドグレルプラビックス)を使わなくてすむため、もしもの怪我やがん手術などが起こっても普通どおりの治療が受けやすいです。糖尿病では下肢の動脈もやられやすく、足の色が変わったり痛むときは要注意です

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◾️糖尿病と下肢動脈

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下肢のASOには、下肢動脈が閉塞か狭窄すれば、下肢バイパス手術やカテーテル治療 (PTA)にて改善が図れます。

それができない状態になれば少々大変ですが、現在、血管新生治療(再生医学の一つ)である程度改善できるところまで来ています。

糖尿病は完全には病気離れできなくても、うまくなじませることのできる、ある意味で頑張りがいのある病気と言えましょう。

とくに二次的におこる心臓や血管の病気にはあきらめてはいけません。

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4. 虚血性心疾患

5. 動脈硬化症

3.大動脈疾患

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 がん患者さんに対するオフポンプバイパス手術

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患者さんは 79歳男性です。

前立腺癌の治療中で、閉塞性動脈硬化症ASOもあり、右上腕骨折されています。

そこに狭心症が発生し、冠動脈2枝病変と診断されました。

今後のがん治療のさまざまな局面を考えて、手術(オフポンプCABG)のため紹介されてハートセンターへ来院されました。

カテーテル治療で薬剤溶出ステントを使うと、強力な抗血小板剤が必要となり、

その後がん手術などが必要になっても抗血小板剤のため出血が止まらず手術ができないことがあるからです。

 

右腕がギプス固定をまだ外せない状態のため、右前腕を腹部に乗せる形で体位を整え手術を開始しました。

胸骨正中切開ののち左内胸動脈を採取しました。

同時に左大伏在静脈を採取しました。

 

心膜を切開し、まず心臓を軽く脱転し血管を確認しました。


この患者さんの前下降枝は心尖部を回って下壁まで灌流していたため、最初に前下降枝を遮断吻合することは若干危険と判断したため、中間枝から始めることにしました。

まずデバイスを用いて静脈グラフトを上行大動脈に吻合しました。

ついでそれを中間枝に吻合しました。


その上で左内胸動脈を前下降枝中央部に吻合し、操作を終えました。

 

Photo写真は2本のグラフトの完成図を示します。

手前が前下降枝への内胸動脈グラフト、向こう側が中間枝への静脈グラフトです。

なおグラフトの選択につきまして、前立腺癌の存在を考えますとグラフトはすべて静脈をということも考えましたが、

上行大動脈が硬化著明であまり操作しない方が良いことと、がんの長期予後が改善する場合に対応するため、内胸動脈を用いることにしました。

グラフトのフローは両方とも好ましい拡張期パタンでした。

経食エコーに 00027508_20090216_CT_504_4_4て心機能は良好でした。

術後のMDCTでバイパスはいずれもきれいに開存し良く流れていました。


術後経過は順調で、術翌日、一般病室へ戻られ、2週間で退院されました。

冠動脈バイパス手術DES(薬剤溶出ステント)の使い分けについて、議論がまだまだ多いようですが、冠動脈バイパス手術のあとは強力な抗血小板剤(副作用も強い)を使わなくて済むため、さまざまながん治療を支援します。

心臓が薬なしで安定するためがん治療がやりやすくなるからです。

大腸ファイバーや胃カメラ、それらを使った生検などもやりやすいです。

国際的な大規模研究であるシンタックストライアルでもこうした複雑病変ではバイパス手術のほうが患者さんの長生きに役立つことが示されています。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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事例 冠動脈バイパス術後、慢性透析の大動脈弁置換術

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患者さんは59歳男性。

約4年前に他院で冠動脈バイパス手術を受け、その後お元気にしておられました。

慢性腎不全・血液透析のため大動脈弁狭窄症(圧較差93mmHg)を発症し、ハートセンターへ来院されました。

高度の左室肥大があり左室壁厚は約16mmでした。

1_2前回手術でつけられた内胸動脈バイパスグラフトも静脈グラフトも開存していました。

そのため胸を開くときにこれらグラフトに傷をつけないよう、

普段以上の細心の注意が必要なケースです。

まず丁寧に胸骨正中切開を行い、癒着を剥離していきます

(写真左)。

2手術前のCTと、これまでの再手術の経験から

およその位置感覚・方向感覚はあるため必要な剥離を完了、

逆に不要な剥離は行わずにすみました。

大動脈弁置換をするために体外循環下に 大動脈遮断する必要がありますが、

遮断部位の近くに前回手術の静脈グラフトがあるため、前もってこのグラフトを剥離し、位置を少し変えました(写真左)。

3_a4_a大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は肥厚・硬化・石灰化が著明でした

(写真左)。

弁と石灰を すべて摘除しました(写真右)。

5_2大動脈そのものが硬くなり大きな弁は入らない状況だったため、高性能な機械弁を入れました。

これにより十分なサイズと性能が確保できました

(写真左)。

70分で大動脈遮断を解除し、スムースに体外循環を離脱しました。

術後経過は順調で、翌朝には透析を再開し一般病室へ戻られ、まもなく元気に退院されました。

半年後の心エコーでは大動脈弁圧較差は27mmHgと改善し、左室壁厚は12-13mm と左室肥大もかなりの改善傾向にありました。

術後3年経過した時点でもお元気に暮らしておられます。

 

慢性血液透析は全身の動脈硬化を悪化させる傾向があり、全身の動脈に注意が必要です。

この患者さんの場合は冠動脈は以前のバイパス手術で動脈硬化になりにくい内胸動脈グラフトを持っておられるため冠動脈関係は大丈夫でしたが、

大動脈弁が動脈硬化に似た硬化を起こし、大動脈弁狭窄症を発生し、手術に至りました。

 

近年はこうした透析患者さんの再手術とくにバイパスグラフトが開存した状態の再手術が増えました。

わずかなミスでも命にかかわることがあるため、経験と入念な準備が必要です。

 

この患者さんも心臓外科をもつ病院からのご紹介で、大切な患者さんを病院の垣根を越えて皆で守るというチームワークはこれからますます大切になるものと思います。

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大動脈弁狭窄症

大動脈弁置換術

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
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