第19回アジア太平洋循環器学会APSCに参加して—僧帽弁と心筋症

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この2月21日から24日まで、アジア太平洋循環器学会APSCのためタイ国のパタヤへ行って参りました。

IMG_1647パタヤはタイ国の首都バンコックから南東方向へクルマで2時間、半島の先端にある海辺の街です。

立派というより巨大なリゾート地で、その一層の振興のためか2-3年前に大型のコンベンションセンターつまり会議場が造られ、今回の学会はその新しい会議場で行われました。これは医療ツーリズムつまり海外から多くの患者さんを受け容れて治療するという国の方針と軌を一にするものと感じました。

このAPSCはアジア太平洋エリアの循環器学会として2年に一度、持ち回りで開催されていて、今回はタイで行われました。

心臓血管外科のセッションもあり、私はそこへ講演のため招待して頂きました。

1日目のオープニングセレモニーではタイの国王妃が来賓として出席され、物々しい警備の中、笑顔で歓迎のスピーチをされました。

国王妃が来られるというのは確かに大きなインパクトがあり、この学会あるいは医学医療をタイ国がいかに大切に思っているか、あるいは医学医療の領域が大きい力をもっているかを示すものでしょう。

日本ではこうしたことは稀で、医学医療よりも建設業界のほうがはるかに団結しちからがあるということを改めて感じました。福祉・医療費が5000億円削られてもそう大きな反発はない、しかし建設のため公共事業費が5000億円削減されれば大騒ぎになり、それを恐れて政治家は福祉・医療費を削ることはあっても公共事業費は手をつけないという話をときどき耳にします。国民が健康を守る、国民的運動としてこの問題を考えねばならない時期に来ているようです。

IMG_1634bともあれ学会は賑やかにスタートし、いくつかの分野に分かれて熱い講演・発表と討論が行われました。

私の担当は1日目の心筋症のセッションで、心臓外科の僧帽弁手術が心筋症治療の中で占める位置づけ、貢献についてお話ししました。

心筋症とくに拡張型心筋症といえば、治らない病気として内科の先生もお薬でそっとしておき、いよいよダメになったら心移植という考えが今なお残っています。

しかし拡張型心筋症はお薬でしっかり予防すればかなり効果があり、予防しきれない場合でも心臓手術とくにあたらしい僧帽弁形成術や左室形成術でかなり持ち直せることをお話ししました。

というのは拡張型心筋症が進行し、心不全が強くなると、左室の形が崩れて僧帽弁閉鎖不全症が発生するからです。そうなるとただでさえ弱っている心筋への負担が倍増し、患者さんは急速に力を失い、死にいたります。そこでの悪循環を心臓手術で断ち切り、安定をはかろうというわけです。

この場合の僧帽弁形成術は通常の僧帽弁閉鎖不全症にたいするものでは効果がありません。拡張型心筋症にともなう僧帽弁閉鎖不全症では治し方がちがうのです。ここまでの心臓手術の歴史を振り返りつつ、その弱点を克服すべく開発した私たちの僧帽弁形成術である乳頭筋最適化手術、英語で略称PHO法をご紹介しました。

これによって従来助けられなかった患者さんたちのかなりの部分が助かるものと期待しています。アジアの先生方の中にも、是非使いたいと言ってくれる方が増え、うれしいことです。

この発表では、それ以外にも、心臓外科のお役にたてることをご紹介しました。たとえば拡張型心筋症が悪くなったら、両室ペーシング(略称CRT)が心機能回復に役立つことがあります。また命にかかわる悪性の不整脈が出てくれば、植え込み型除細動器(略称ICD)が患者さんのいのちを助けます。さらにこれらを合体させた方法、CRTDも活躍しつつあります。

しかしこれらのペースメーカー的な治療法はどうしても三尖弁を通過して右室にリード線を配置する必要があり、それは少なからず三尖弁閉鎖不全症(TR)を引き起こします。いわゆるペースメーカーTRと呼ばれる状態ですね。この場合の閉鎖不全症は悪性で、心不全さらに肝不全まで合併して死に至ることが多くあります。これらが私たちの工夫した三尖弁形成術で、人工弁を入れることなく助かることをお示ししました。

また「僧帽弁は左室の一部である」ことは医者の常識になっていますが、この考え方をもう一歩進めて、「左室は僧帽弁の一部である」「だからこそ、僧帽弁形成術においても、左室をできるだけ治さねばならない」ことをご説明しました。これはけっこう受けたようです。

その一環として、比較的短時間で、しかも壊れた左室が最大限パワーを回復できる方法をご披露しました。私たちが考案した「一方向性ドール手術」です。これによってセーブ手術という優れた方法と同じだけきれいな形に左室を修復でき、しかもドール手術と同じぐらい短時間で仕上がることをお示ししました。

こうした心臓外科の方法を多数の内科の先生方が熱心に聴いて下さったのはうれしいことでした。

一日目はその他に心筋症、心不全、不整脈などでも最近の治療法の進歩が紹介され、充実した内容でした。ヨーロッパ心臓学会(略称ESC)から多数の先生方が参加され、東洋と西洋の交流も含めたレベルの高い国際学会となりました。

2日目は欧米の新しいガイドラインや最近の進展のまとめを各分野ごとにまとめて解説されるというセッションに参加しました。冠動脈で何でもPCIという状況が、冠動脈バイパス手術(CABG)を適材適所で使いわけるということがアジアにも浸透しつつあることを感じました。またカテーテルで植え込む生体弁(略称TAVI、タビ)の最近の進展も熱く論じられました。

Plt018b-s日本は政府の構造的問題でドラッグラグ(患者さんに必要な新薬がなかなか認可されない)とデバイスラグ(救命や治療に必要な道具類の認可に年月がかかる)のために、欧米より遅れていることは以前から問題になっていますが、アジア諸国にも後れをとっていることを改めて感じました。

これは政府・官僚が新薬や新デバイスを認可して、もしも副作用などが発生したら、その官僚が責任を取らねばならない、するとそのひとはもはや出世できない、という構造があるために起こっているのです。国民不在の構造ですね。医師だけが文句を言っても、票数ではわずかでその影響力は小さく、やはり国民がもっと声を上げるべきです。ということでこのブログにもそれをお書きし、皆さんに現実を知って頂くようにしています。

さて私の2日目の講演は、心不全や心筋症に続発する機能性僧帽弁閉鎖不全症にたいする僧帽弁形成術についてでした。

ここまでのコンセプトの変遷とともに僧帽弁形成術も進化してきた歴史を振り返り、現在のPHO法にまでたどりついたこと、そしてその手術のコツや注意点などをお話ししました。パキスタンの先生(座長)から「機能性僧帽弁閉鎖不全症もここまで治るようになったんですね!」とお褒め戴いたのがうれしかったです。せっかく皆で努力して良い手術法を創ったのですから、これからひとりでも多くの方々に使って頂けるよう努力したく思いました。

IMG_7233bそのあと、夕方までの間に時間ができたため、仲間(東邦大学の尾崎重之先生、山下先生ら)と観光に行ってきました。3時間ほどのミニツアーですが、私はぜひ仏教とトロピカルが合体したものを写真にしたいと思っていたため、無理に時間をやりくりして出かけました。ちなみに尾崎先生は自己心膜での大動脈弁再建をライフワークとして実績を上げておられ、今回もその啓蒙のために来ておられました。私もこの弁には大いに関心あり、かつてトロントでやっていたステントレス大動脈弁の発展型という気持ちもあり、お世話になっています。

IMG_7241bまずSanctuary of Truthという海辺の寺院へ行きました。フランスのモン・サン・ミッシェルを想起させる場所にあり、見事な木造の寺院と無数の仏像の四次元的な世界でした。さらに面白かったのはその近くに木工所のようなところがあり、ここで多数の仏師?の方々が仏像を造っておられたことです。そういえばこの寺院に着く直前にたくさんの見事な大木が並んでいたのはこの仏像の材料だったのだと納得しました。木造ゆえ、ヨーロッパの寺院のように何百年も持たず、改修しつづける必要があるようで、これはバルセロナのサクラダファミリアのようで、東西の共通した熱意を感じました。

その他高い岩山に仏像を描いたブッダマウンテンなどにも足を延ばしました。仏教への信仰の厚さを少し感じるところがありました。

それからまた学会場にもどり、といってもディナーパーティですが、アジアの先生方と楽しいひと時が持てました。ひとつ感じたのはアジアの循環器内科の先生方は歌が上手だということです。聞けばタイではカラオケが今も大人気とのこと、日本ではいつのころからか、あまりカラオケに行かなくなったのは残念でした。

アジアの良さと、少しは国際貢献できたかも、という満足感、なにより寒い日本から3日間だけでもトロピカルなところで骨休めできたという感謝の念をもって、そのまま学会のはしごをするためタイを後にして東京へ向かいました。

ご招待下さったタイやアジアの先生方、ありがとうございました。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 二弁置換の術後20年、高度の心不全で再手術を受けた患者さん

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弁膜症患者さんは機械弁で弁置換を受ければ、元気になります。

しかし10年、20年、30年と時間が経つと、人工弁やその周囲組織に新たな問題が起こることがあります。

日々の健康管理をしっかりする必要があるのです。

この患者さんは53歳男性で、起坐呼吸つまり横になると息苦しくなるという高度の心不全となって来院されました。

20年前に他院で大動脈弁置換術僧帽弁置換術を受け、元気にしておられました。

術前XPところが4年前に糖尿病と心不全のため、赴任地の病院で3回、入院治療が必要となりました。

以後も半年前と1か月前の2回、心不全のため近くの病院に入院を余儀なくされました。

そこで人工弁の機能不全という困った問題を指摘され、米田正始の外来へ来られました。

来院時の胸部X線では心臓が高度に拡張していました(右図、胸の大半が心臓になっています)。

心エコーでも左室拡張末期径73mm、左房前後径67mmといずれもひどく拡張していました。

術前エコーDさらに僧帽弁(機械弁)のむかし縫い付けた場所が裂けて逆流が発生し、肺高血圧も52-57mmHgと高くなし、三尖弁も強く逆流していました(左図、赤白黄青まじりのジェットが逆流です)。

心臓のホルモンであるProBNPも3260と極めて高く、総ビリルビンも2.4と上昇していました。

人工弁周囲の逆流のため赤血球が日々壊れているのです。

これまで重症心不全や肝臓・腎臓・肺などを含めた多臓器不全の患者さんへの治療に取り組んできた経験から、まず入院いただき時間をかけてじっくりと全身状態を改善しました。

その結果、1か月で体重は10kgも減少し体内の余分な水分が取れました。

まだ弁を治す前の段階ですから、左室や左房のサイズはさすがに不変でしたが、左室駆出率も18%から30%へ改善しました。

肺動脈圧も52-57mmHgから33-38mmHg へと軽減し、IVC下大静脈径も31mmから20mmへ改善しました。

術中PVL発見そのタイミングで満を持して心臓再手術を行いました。

人工弁(機械弁)は一部はずれて穴が開いた形になっており(右図、黒い人工弁の右側に見える黒い穴が逆流口です)、

それ以外の部位も今後はずれそうに弱いため、この古い機械弁を切除し、新しいものをしっかりと入れ直しました。

Done新しい機械弁のすわりはしっかりとし、良好でした。

左図は新しい人工弁を示します。

かつて穴が開いていたところもがっちりと補強し、安定をはかりました。

術後経過は、手術前の状態を考えると良好で、出血も少なく心不全も軽く、手術翌朝一般病棟へ戻られました。

術後2日目から歩行練習を開始、10日目に軽快退院されました。

術後XP術後胸部X線写真でも明らかな改善が認められ、ちょっと大げさに言えば人間らしい心臓になりました(右図)。

3年近く経った現在も外来でお元気な姿をみせて下さいます。

これからさらに健康管理し、楽しく元気に暮らして頂ければと思います。

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原 因 

閉鎖不全症 

逸脱症

狭窄症

リウマチ性

弁形成術

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

 

 

5) 再手術(再開心術)

どんな時に必要が?

② とくに弁形成の再手術について

 

 

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事例: 僧帽弁閉鎖不全症と巨大左房・心房細動に僧帽弁形成術と心房縮小メイズ手術

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僧帽弁閉鎖不全症心房細動はよく合併します。

これは左房が僧帽弁の逆流のため拡張するためもあって起こります。

左房が巨大となると僧帽弁を治しても心房細動は治りません。

心房細動に対するもっとも強力な治療法といわれるメイズ手術も巨大左房には歯が立ちません。いわゆる「適応なし」として手術をやれないのです。

これを何とかしようと心房縮小メイズ手術を10年以上まえに開発しました。

患者さんは50歳女性です。

20年前から僧帽弁閉鎖不全症を指摘され他院で経過観察されていました。

5年前から心房細動になり、1年前から心不全症状が出てきました。

そこで私の外来へ来られました。 術前エコー2

心エコーにて高度の僧帽弁閉鎖不全症を認めるほか、

左房径(前後径)が76mmと巨大左房になっていました。

上図左は経食エコーで拡張左房を示します。同右では僧帽弁後尖の逸脱(弁が左房側へ落ち込む)を示します。

左室拡張末期径は58mmとやや拡張、左室駆出率は53%とやや低下していました。

心房細動にメイズ手術が効くことは知られていますが、いっぱんに左房径が60mm前後を超えたあたりから、メイズ手術はあまり有効でなくなり、ましてカテーテルアブレーションでは治せないと言われています。

そこでこうした患者さんたちのために私たちが開発した心房縮小メイズ手術をもちいることにしました。

四角切除手術では

まず僧帽弁形成術を行いました。

逸脱している後尖を四角切除し、リングをもちいて弁のサイズを正常 MVP完了化し、逆流が止まることを確認しました。

それから左房を縫縮つまり折りたたむ形で小さくしました。これで出血することなく左房を調整できるからです。

左房縮小中バチスタ先生がかつて提唱された自己移植術とほぼ同じ縫合線で左房を折りたたみ、きれいになりました。

そのうえで、その縫合線を冷凍凝固し、悪い電気信号が通らないようにしました。

三尖弁も形成し、 クライオメイズ右心房にも冷凍凝固でメイズ手術を行いました。

術後経過は順調で、術中から正常リズムとなり、術後3年以上経過した外来でも正常リズムを維持しておられました。

術後心エコーでは僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不 術後えこー1全症とも消失し、左房径は術前の76mmから46mmまで改善しほぼ正常域にもどっていました。

この症例は2005年 術後えこー2のライプチヒシンポジウムでも発表し、多くの心臓外科医に喜ばれました。

その後、欧米やアジアでもこの心房縮小メイズ手術に関心を持って下さる心臓外科医は徐々に増え、これからもっと啓蒙活動をしてより多くの心房細動の患者さんたちをお助けできればと念じています。

心房細動は意外に怖い、いのちや仕事を奪う恐れのある病気だからです。

 

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逸脱症

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◆ バーロー症候群

◆ 三笠宮さまが受けられたもの


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

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事例:三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に

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若いころにリウマチ性弁膜症で僧帽弁などをやられた方は長期的なケアが大切となります。

リウマチで弁が強く壊れた場合はもちろん、軽く壊れた場合でもそのあと何十年の間に弁破壊が進行し、重症化することが多々あるからです。

患者さんは76歳男性で、35年前に関西の大きな病院でリウマチ性の僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連部切開術を受けられました。

その後年月を経て、僧帽弁がまだ悪くなり、心不全症状が出たため、12年前、上記と同じ総合病院で僧帽弁置換術を受けられました。このとき、金属製の機械弁を使用されています。

その後まずまずお元気にしておられましたが、3年ほど前から次第に息切れなどの心不全症状が再発しました。

2か月前、地元の病院で中等度の僧帽弁閉鎖不全症と、溶血つまり赤血球が壊れる病気を指摘されました。

右図はその僧帽弁閉鎖不全症を示します。

術前ドップラー実際、血液検査でLDH1800台は異常高値で強い溶血の所見で、総ビリルビン4.7とかなりの黄疸が出ていることと合致する所見でした。

しかもその溶血のために腎機能が低下しつつあり、クレアチニンCrは1.14と低下傾向がみられ、コリンエステラーゼ143、総コレステロール155と肝機能の低下も見られました。

僧帽弁閉鎖不全症つまり逆流はひどくはないものの、溶血が強く、このままでは輸血が延々とひつようとなり、次第に腎不全が合併して永くは生きられないという状態でした。しかも機械弁のためワーファリンが必要で、ご高齢で血管が弱いこともあって鼻血がよく出て、大変つらいということでした。

しかし地元の大病院でも3度目の手術で全身の状態が悪すぎるとして、再手術を拒否され、米田正始の外来へ来られました。

手術はややリスクが高いものの、このままでは死を待つだけという状態で、しかもこれまで同様の再手術の患者さんを多数お助けしてきた経験から、直ちに再手術を決定しました。

しかし全身の状態が悪く、このまま手術すると体力が持たず、そのためにいのちを落とす懸念があったため、まず入院していただき、1か月近い時間をかけてさまざまな治療で状態を改善し、そこで勝負をかける、つまり手術することにしました。

人工弁のすぐ上に見える黒いところに穴が開いており、そこから血液が漏れていました。昔の手術で弁を縫い付けたところが裂けたものと考えられます手術では以前の2回の手術のため癒着が高度で、これを丁寧にはがして行きました。

心臓の中に入ると、僧帽弁は人工弁の頭側が外れており、そこから血液が逆流し、またそのときに人工弁に擦れることで溶血しているという所見でした。人工弁の動きにも問題があり、パンヌスと呼ばれる自己組織が弁の動きを妨げている様子から、この人工弁(機械弁)を切除しました。パンヌスが弁の下に確認され、弁を切除して正解という所見でした。

上図は古い機械弁をほぼ外しつつあるところで、弁の上方の黒い穴のところが逆流口です。

生体弁MVR完了そして生体弁を植え込み、きちんと乗って、組織の裂け目もないことを確認しました。

右図は生体弁がきれいに入ったところを示します。

入念な止血ののち手術を終えました。

重症のわりには術後経過は良好で、術翌日には集中治療室を退室し、病棟にて運動を開始しました。

術後ドップラー遠方のためゆっくり回復に時間をかけて術後3週間で元気に退院されました。

左図は術後のエコー・ドップラーです。僧帽弁閉鎖不全症は消失しました。

あれから丸4年が経ちますがお元気にしておられます。あれほど悩んでおられた鼻血もなく、腎臓も回復し、普通の生活を楽しんでおられます。ご高齢の患者さんにとって生体弁がどれほどありがたいか良くわかる事例です。

勇気を出して決断し、手術を乗り切って下さったからこそ、以後の平和な生活があることをしみじみ感じます。また定期健診の外来でお会いしましょう。

 

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事例:「末期」心臓腫瘍に手術で立ち向かい2年間立派に生きられた患者さん

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心臓の悪性腫瘍つまり肉腫やがんは稀な病気ですが、いったんこれにかかると予後は不良です。

臓器の性質上、全摘除したくてもできないからです。

心移植できれば話は別ですが、日本ではそううまくは行きません。

下記の患者さんは約80歳の男性で、来院1年前から空咳がでるようになりました。

PreopXP近くのかかりつけ医院で心拡大と言われ、病院でエコーとMRI検査を受けた結果、心臓腫瘍と言われました。

すでに臓器のかなりの部分を侵しており、手術不能と言われ、心不全症状が急速に悪化して、あと1週間のいのち、と言われて米田正始の外来へ来られました。

右図は来院時の胸部X線写真です。

心拡大が著明です。

高度の心不全で息がつまりそうなぐらい苦しくなっておられました。

PreopCT調べますと、右室から主肺動脈さらに左室までを浸潤(しみこむように侵していく)する腫瘍で、その形と性状から悪性であることは確実でした。

左図は造影CT所見です。

さしあたり主肺動脈と肺動脈弁を閉塞すれば血圧がでなくなって突然死する恐れが高いため、救命措置として手術することにしました。

というのは、このタイプの心臓腫瘍の中には、ゆっくり増殖するタイプがあり、それなら当分は生きられる可能性があるからです。

さらに手術で腫瘍の標本が得られれば、それを精密検査することで、抗がん剤や放射線治療がある程度効くことがわかれば、さらに予後を良くする可能性もあったからです。

Tumor1手術ではまず主肺動脈を開け、右室流出路まで切開延長しました。

予想どおりこの部分は腫瘍で満杯状態となっていたため、これを徹底切除しました。

右図は腫瘍を摘除しているところです。スプーンで持ち上げているたまごのような形の赤黒いものが腫瘍です。

このとき肺動脈弁は腫瘍とともに切除しました。

左室に浸潤している部分だけは、いのちを守るために最小限切除にとどめました。

手作りの肺動脈弁をつけたパッチで切開部の天井を造るように閉鎖しました。

PostopXP将来腫瘍が再度増えて水などがたまっても困らないように、右胸とお腹に水抜きの窓を開けました。

こうして手術は無事終わりました。

術後経過は順調で、術翌日にICUを退室され、術後2日目には歩行を開始されました。

術後エコーやCTでも腫瘍はほとんど取れ、肺動脈弁はじめ心臓は良い状態となりました。

左図は術後の胸部X線写真です。術前よりうんと改善しました。

手術で切除した腫瘍の顕微鏡所見では肉腫つまりある種のがんであること以上は不明ということでした。心臓腫瘍ではしばしばこうしたことがあります。まだまだ不明な病気なのです。

術後ゆっくりとリハビリなどで体力回復していただき、3週間で退院されました。

その後、ご自宅でまずまず楽しく暮らしておられましたが、4か月後に心臓腫瘍が背骨に転移したことが判明、その治療をがんセンターで受けていただき、軽快しました。

痛みもペインクリニックの先生のおかげで和らぎました。

術後1年が経過し、患者さんはまずまずの状態で食欲もあり、家の中で運動し楽しみをもって暮らしておられました。

この時点でエコーではいったん再発気味だった腫瘍がまた小さくなり、ProBNP(心臓ホルモン)も2200から460まで改善するなど、奇跡に近い状態でした。

術後1年半たち、背中の痛みが次第に強くなりました。転移した腫瘍が神経を圧迫している所見でした。

さらに左眼が見えにくくなり、検査の結果、左眼の奥の部分への腫瘍転移と判明しました。

しかし患者さん・ご家族がよく頑張って下さり、放射線治療にて転移した腫瘍は治まり、視力さえ回復しました。これは皆安堵するだけでなくすごい!と感心しました。

術後1年8か月ごろに次第に動けなくなり近くの病院やご自宅で過ごされることが増えました。

1年9か月の時点で呼吸不全となり全身衰弱が進みご家族が見守られる中で息を引き取られました。

あと1週間ほどのいのち、と医師から宣告されてから2年近く、最後まで意欲をもち、弱音を吐くこともなく、前向きに頑張られました。その間、何度も家族団らんの楽しいひと時をもち、ご自宅だけでなく外出を楽しみ、がんの転移による危機を何度も乗り切るなかで、最後の最後まで人間としての尊厳を保ちつつ逝かれたこと、誇らしく思います。またそれを支えて下さった奥様はじめご家族の皆様に敬意を表したく思います。

この患者さんは見事にその人生をまっとうされただけではありません。

この患者さんのお話を聴いて、「自分も頑張ってみよう」と仰り、実際頑張って下さっている患者さんが何人もおられます。

心臓悪性腫瘍が稀な病気であることを考えると、数名の患者さんが年単位で生活できていることは、予想より高い確率で頑張れるともいえ、これは大きなことです。

心臓腫瘍とくに悪性、がん、肉腫と言われて生きる元気がなくりそうな方、まずはご相談下さい。

 

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上行大動脈の石灰化 【2020年最新版】

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上行大動脈

最終更新日 2020年2月25日

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◼️上行大動脈の石灰化は危険信号

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大動脈とくに上行大動脈の石灰化は心臓外科医にとって頭痛の種でした。

というのは心臓手術を行うときに、上行大動脈を遮断する必要があり、もし大動脈の石灰化がそこにあれば、石灰は割れて飛び散るおそれがあるからです。飛び散れば、もしそれが脳に流れていけば、脳卒中とくに脳梗塞になるのです。

そうなるとせっかく心臓をきれいに治しても手術は空しいものになってしまいます。

これまでそうした患者さんに対してはいくつかの対策を立てて、それなりに対処して来ました。しかしそれぞれ弱点があり、私たちは満足していませんでした。

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◼️これまでの石灰化大動脈に対する対策は

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1.大動脈を遮断せず、心臓をVFつまり心室細動の状態にして素早く手術を行う

2.およそ22度前後の低体温にして、短時間の循環停止のもと、上行大動脈を人工血管で置換し、それ以後はその人工血管を遮断する

の2つが主でした。

しかし1.は心臓の保護にやや弱く、とくに大動脈弁の手術には使えないという問題があります。

2.は本格的すぎて時間がややかかり過ぎ、患者さんのからだへの負担が大きいという問題がありました。

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◼️上行大動脈石灰化に対する第三の対策は

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これらの経験の中から、現在多用している方法は

3.体温を26-28℃程度まで下げておき、そこで一時循環を停止。ただちに大動脈を開けて内側にある内膜の硬いところをはぎとり、きれいに治してからすぐ大動脈を閉じて循環を再開する。

これなら1.や2.の欠点がかなり解消できます。

もちろん現在も、必要があり利点があれば1.や2.を活用することもあります。

さらに1.の発展型として、血液のカリウムを高くしてVFではなく心停止を誘導し、そこで心内操作を行うということもあります。これは主に僧帽弁操作と三尖弁操作に対してもちいます。1.と比べて心機能を守るというメリットが多いという印象です。

要はその患者さんにぴったりした方法を選んで活用するわけです。

上行大動脈の石灰化は基本的に治せる状態なのです。

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大動脈基部拡張症 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月17日

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◆ 大動脈基部拡張症とは?

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大動脈基部拡張症(aortic root dilation / aneurysm) とは、心臓と大動脈の境目である「大動脈基部」が異常に広がる病気です。AoRootCrossSection

  • 進行すると 大動脈基部が破裂 したり

  • 大動脈弁が壊れて逆流(大動脈弁閉鎖不全症) を起こしたりする

とても危険な疾患です。

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主な症状

  • 運動時の 息切れ・動悸

  • 進行すると 胸痛・失神発作

  • 基部が破裂すれば ショック状態から命に関わる緊急事態 となります

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◆ 大動脈基部の構造と役割

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大動脈基部は心臓外科で「難所」といわれる部分です。深い場所にあり、周囲に重要な構造物が密集しています。

地下1階(基部の下部)

  • 心室中隔(心臓を左右に分ける壁)があり、とても脆弱

  • 近くには 刺激伝導系(心臓の電気信号の通り道) が走り、損傷すると心ブロック・ペースメーカー依存になる可能性があります

地上1階(大動脈弁輪)

  • 左室と大動脈の境目

  • 吊り橋のような構造で、大動脈弁がスムーズに開閉できる仕組みになっています

地上2~3階(バルサルバ洞~STジャンクション)

  • バルサルバ洞:弁がやわらかく閉じるための「ショックアブソーバー」

  • 冠動脈の入り口:心臓を養う血管の起点

  • STジャンクション:大動脈基部から通常の大動脈へ移行する境界

このように精密な構造があるため、拡張や変形が生じると 弁の逆流や血流障害 に直結します。

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◆ 大動脈基部拡張症の原因

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大動脈基部拡張症は、以下の患者さんに多く見られます。

  • マルファン症候群などの遺伝性結合組織疾患

  • 二尖弁(大動脈二尖弁) の方

  • 大動脈炎症候群

  • 感染性心内膜炎(IE)

特にマルファン症候群では若年でも発症するため、定期的な画像検査(心エコー・CT)が重要です。

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◆ 大動脈基部拡張症の治療法

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拡張が進行し、破裂のリスクが高い あるいは 大動脈弁の逆流が強い 場合は外科手術が必要となります。

主な手術方法

212450209
自然が一番です。手術もできるだけ自然な自己弁温存で。
  • デービッド手術(弁温存基部置換術)
     → 自分の大動脈弁を残して基部を人工血管に置換。拡張が軽ければフロリダスリーブ手術で同じ効果。

  • ヤコブ手術(リモデリング術)

  • ベントール手術
     → 弁尖が修復不能な時に、大動脈基部+大動脈弁+冠動脈をまとめて人工血管・人工弁に置換

  • ロス手術
     → 自分の肺動脈弁を大動脈弁に移植する特殊手術

基部だけでなく、大動脈弁や冠動脈の状態に応じて最適な術式を選びます。

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◆ 予防と定期健診の重要性

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大動脈基部拡張症は自然に治ることはありません

  • 直径が一定以上に拡大した場合(例:50mm以上)は手術が推奨

  • 進行速度が速い場合も注意が必要

  • 定期的なCT・心エコーによる経過観察 が生命予後に直結します

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◆ まとめ

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  • 大動脈基部拡張症は 大動脈の根元が膨らむ危険な病気

  • 放置すると 破裂や大動脈弁不全で命に関わるリスク

  • マルファン症候群・二尖弁の方は特に要注意

  • 治療は デービッド手術・ベントール手術などの外科治療が中心

  • 定期検診と早期治療 が長期予後のカギとなります

➡ 大動脈基部手術について詳しく読む → [こちらをご覧ください]

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大動脈弁のリンク

◆ 弁置換術とは?

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス法によるもの

弁閉鎖不全症 

◆ とくに「二尖弁」 について

弁形成術 

◆ ミックス手術(MICS)によるもの

◆ 自己心膜をもちいたもの

◆ 自己心膜による大動脈弁形成術(再建術)

 

ステントレス弁 

大動脈基部 の手術

ベントール手術 

◆  ミニルート法(インクルージョン法)

◆  デービッド手術 

◆ ミックス法でのデービッド手術

大動脈弁輪拡大術(大動脈基部拡大術)

◆ マルファン症候群について: 弁も大動脈も守りましょう

◆  日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月

大動脈炎症候群 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第四十二号】 通算アクセス200万を超えて

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 【第四十二号】
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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めずらしく立て続けにメルマガをお届けします。

まずこのホームページは2007年8月に立ち上げて、この2013年2月4

日に200万件の通算アクセス(TypePad社データ)を戴いたことをご報告申し

上げます。

医療系サイトのなかでも心臓外科関係は病気は重くても数は他疾患より少ない

ためホームページのアクセスもそう多くはありません。

それにもかかわらず多数のアクセスを戴いたのはうれしい限りです。

少しでもお役にたつ情報を発信しようという努力が報われた思いで、皆様に感

謝申し上げます。

さてこの機会にホームページの名前も、これまでの「心臓血管外科情報WEB」か

ら「心臓外科手術情報WEB」に小変更いたしました。

血管外科も従来以上に力をいれて充実を図りたく思っているのですが、心臓外

科や心臓手術などのほうが一般の方々になじみやすいという考えからそう変更

いたしました。

今後も皆様のお役に立てるサイトをめざして頑張ります。

同じ趣旨で造っております「心臓外科患者さんのためのワーファリン情報サイ

ト」

http://blog.livedoor.jp/warfarin_cvs/

および、AllAbout(オールアバウト)心臓・血管・血液の病気

http://allabout.co.jp/gm/gt/1825/

のページもお役立てください。

御意見やご教示をいただけましたら幸いです。

末筆ながらお体をご自愛専一にお願いいたします。

敬具

平成25年2月6日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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HOCMの手術にもミックス法は使えるの? 【2025年最新版】

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Ilm03_ba01013-s最終更新日 2024年12月31日

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◾️HOCM肥大型閉塞性心筋症のミックス手術とは

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傷跡が目立たない ミックス手術つまり小切開手術は手術後の痛みを軽減し、心臓リハビリを促すことで肺炎その他の合併症を減らし、患者さんの仕事や楽しい生活を早期に取り戻すのに役立ちます。

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私たちのチームではこのミックス手術は僧帽弁膜症ASD心房中隔欠損症だけでなくさまざまな病気の患者さんに活用しています。

より多くの患者さんたちに、手術の恩恵が届くようにという考えからです。

HOCM(肥厚性閉塞性心筋症)あるいはIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症)の手術(モロー手術と呼びます)のときにも活躍するのです。

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◾️HOCMへのミックス手術、これまでの動き

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最近までミックス法の頂点ともいえるポートアクセス法つまり右小開胸で胸骨をまったく切らない方法までは使わず、それより少し穏やかな胸骨下部部分切開法をもちいたミックスを使って成果をあげて来ました。

186218630これなら胸骨は手術後も安定が良く、痛みも減りますし、創も低い位置にとどまり、夏服などでもあまり見えません。

上記のように合併症を減らし、安全性を高めるのにも役立ちます。

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HOCMに対するモロー手術では、ときに僧帽弁形成術などを併用することもあります。僧帽弁そのものが壊れている場合などですね。このような場合にも上記の胸骨下部部分切開によるミックス法は対応できます。これは役に立ちます。
通常こうした複雑な心臓手術にはミックスは不向きという意見もあります。それは経験とたゆまぬ研究で支えられたノウハウがあってのことです。私たちの方法では大動脈弁越しに左室心尖部まで見えるためさまざまなタイプのHOCMに対応できるのです。

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MICS3◾️HOCMへのミックス、新しい動き

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さらにこれを改良し、ポートアクセスつまり胸骨を切らずに傷跡が一層目立たないHOCM手術を進めています。右図の右側のように。

僧帽弁を一部切り開いて左室に入ります。異常心筋を切除したあと僧帽弁形成術で僧帽弁を元通りに治すわけです。

良い方法と思ったのですが、僧帽弁を一度切ってまた元通りに戻す際に弁尖が小さくなり、やむなくパッチを使う必要があるとう報告がありました。パッチは年々劣化するため長期的には問題あり、これでは低侵襲とは言えないと指摘されています。

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そのため、傷跡は通常の正中切開とあまり変わらないものの、術後の痛みが軽く、退院後まもなく仕事復帰やクルマ運転復帰ができる「もうひとつのミックス」を私たちは使っています。美容目的ではなく、安全と早い仕事復帰が目的の方には良い選択肢と考えています。傷跡が小さいだけがミックスの全てではない、要は個々の患者さんが一番得する方法は何か、ということです。

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執筆:米田 正始
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【第四十一号】インフルエンザ大流行

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 【第四十号】
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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少し寒さが緩んできたと思えばそれもつかの間、インフルエンザが大流行し、

警報レベルを超えたとのことです。皆様には科学的知識を充実させることでご

自愛して頂けますよう、お願い申し上げます。

インフルエンザ対策はおしらせのページ

https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/11/post-4fa5.html

にあります。ぜひご活用下さい。

ワクチンはできるだけ受けることをお勧めします。毎年1回でもかなりの効果

があります。ひごろ心臓や肺などが弱く、心配な方には2回接種が勧められま

す。

加湿やマスクは役立ちます。マスクはウィルスを他人様にまきちらせないとい

う利点があるのはよく知られていますが、吸う空気を自然に加湿してウィルス

を弱め、のどや肺を守りやすくすることも見逃せません。

お互いに、ご自分がインフルエンザにかからないことが周囲の方々への最良の

プレゼントになります。皆で一緒に助け合っているわけですね。

心臓病患者さんにおかれましては、寒くない日には外へ出て運動を楽しんで下

さい。いつものルール:息切れでおしゃべりができにくくなれば、休憩!おし

ゃべりが楽しめる程度なら運動続行です。なお、主治医から運動禁止!と言わ

れている方の場合は、そのご注意を守って下さい。運動したほうが良いかどう

かわからない場合は、主治医などにご質問されると良いでしょう。

敬具

平成25年2月5日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
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執筆:米田 正始
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