HOCMフォーラムに参加して

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閉塞性肥大型心筋症、別名HOCMは今なお難病として課題が多数残っています。

私たちはこの病気に HOCMフォーラム2014
対して積極的に治療を行い良い成績をあげて来ました。

東京でこの研究会が開催されたため参加しました。榊原記念病院の高山守正先生が代表幹事で、今回は日本医大の高野仁司先生が当番でした。

テーマは「治療困難なHOCM症例に対する戦略の工夫」で、まさにタイムリーなものでした。ことしの日本循環器学会総会でこのテーマで私たちが発表したときにも多数のご質問をいただき、うれしく思ったものです。

始めに榊原記念病院の歌野原祐子先生がHCMのMRI診断、CT診断、病態に迫るというタイトルでお話されました。MRIがこれからさらに有用になること、中でもLGE(心筋の壊れたところが造影剤で光って見えること)所見が重要で、これが患者さんの予後を教えてくれること、さらに左室構築がわかることなどを示されました。

左室流出路狭窄があるとき、これを外科で心筋切除(モロー手術)すれば患者の生命予後が改善すること、さらにこのHOCMの病態の中に乳頭筋の異常がかなり含まれていること、そしてこれをより正確に行えるよう画像診断の組み合わせが役立つことなどを解説されました。

乳頭筋の異常は私たちも以前から取り組んできた課題で、悪い心筋をかなり切除でき、それによってさらに狭窄が解除されることを実感してきました。これがより正確なデザインと評価で完成度が上がるのではと楽しくなってきました。

日本医大の坪井一平先生は新しいHOCMガイドラインを解説されました。日進月歩のこの領域で、ガイドラインはとくに大切です。欧米が日本に先んじていることを感じました。

植え込み型除細動器ICDの適応基準や、心臓突然死のリスクファクター(年齢、左室壁厚、左房径、左室内圧較差、心臓突然死の家族歴)がさらに重要になったことを示されました。

榊原記念病院の矢川真弓子先生は同院でのICD経験やカテーテルによるアルコールアブレーション治療(PTSMA)の成績を検討されました。拡張機能はβ遮断剤では改善しないが、アブレーションでは改善しやすいというのはなるほどと思いました。心筋内カルシウムを調節することの重要性ですね。

 それから内科的、外科的症例の検討が数例ありました。どの症例も興味深く拝聴しました。

とくにPTSMAでうまく行かなかったケースが異常腱索のためであり、心臓手術で改善したというのはなるほどと思いました。高度あるいは広範囲の心室中隔肥厚があるHOCM症例の手術を積極的に手掛けている経験からDiscussionをさせて戴きました。心臓外科医が少数しか参加していなかったため、質問を頂いたり、多少でもお役に立てたとすれば光栄なことです。

Na₋Ca交換剤であるシベンゾリンの有用性と課題も聴けて良かったです。

特別講演として高山守正先生がゲストスピーカーの代演を見事にこなされました。欧米と日本の新たなガイドラインが望むHCMの臨床というホットなテーマでした。

心臓突然死と心不全の克服、心臓MRIで肥厚心筋の中で壊死が進むことへの対策、利尿剤への警告、ACEやARBが適しないこと、同じβ遮断剤でもカルベジロールはあまり良くないこと、などなど盛りだくさんの内容でした。

内科のPTSMAと外科の心筋切除(モロー手術)の使い分けでは、若い患者さんには外科手術であとあと薬があまり要らないように配慮しておられるのも賛同できました。

それからComplex Caseへの診断治療というテーマで何例かの症例が検討されました。

大動脈弁置換術後にHOCMが悪化し、PTSMAで救命できたケースには私もコメントさせて頂きました。同様のケースがあり、これは生体弁ごしにモロー手術を行って無事に切り抜けたのですが、確かにこの病気は経験豊富なプロのチームでこそ安全にできることを実感しました。

それから榊原記念病院心臓外科の内藤和寛先生が外科症例の検討をされました。

手術適応は若く、心室中隔肥厚(30mm以上)、弁膜症とセットの場合、腱索乳頭筋の異常があるとき、内科のPTSMAが不成功のとき、など、理にかなったものと思いました。

最近増えている広範囲の心室中隔肥厚例に対して、経僧房弁アプローチと経左室心尖部アプローチを紹介されました。それぞれ興味深いところで私たちの経大動脈弁アプローチの改良型と対比してDiscussionさせて戴きました。

こうして心臓手術が磨かれていけばうれしいことです。

心臓の構造のため、PTSMAでは約3分の1に右脚ブロックが発生し、外科の心筋切除では左脚ブロックが発生しやすいことを考えると、前者のあとで後者の治療をするときには注意が必要であることもわかりました。

ファイアサイドセッションは東邦大学の佐地勉先生が小児・若年の多彩な心筋症のレビューをされました。さすがこの道のオーソリティで、幅広い遺伝子異常の研究と実用化から始まり、さまざまな心筋症から私たちがちからを入れている左室緻密化障害にいたるものまでカバーされ、勉強になりました。

教育セッションIIでは高知大学の北岡裕章先生がHCMの診断基準を、九州大学ハートセンターの有田武史先生が心エコーによる左室流出路の考察、そして市立宇和島病院の濱田希臣先生が非閉塞型肥大型心筋症の薬物療法を解説されました。

いずれも心臓外科医の私にとっては貴重な勉強の場となりました。

有田先生のお話のなかで乳頭筋の異常は上述のお話とあいまって大変面白く思いました。私個人の経験では前乳頭筋の異常がよく目につくと感じていましたが、有田先生が引用された報告も同様でした。これと榊原記念病院の先生方が示された後乳頭筋の異常と合わせてかなり高精度の治療ができるものと確信しました。

濱田先生のお話は熱いお人柄のおかげか大変迫力があり、有用なメッセージを頂きました。とくにシベンゾリンの有用性は納得いたしました。拡張機能を改善すればHCMの患者さんには大きな福音となるでしょう。

帰りの電車の都合で最後までは参加できませんでしたが、大変有益で楽しいHOCMフォーラムでした。高山先生、高野先生、関係の先生方、お疲れ様でした。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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ファロー四徴症 【2019年最新版】

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最終更新日 2019年1月6日

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◾️ファロー四徴症とは

TOF.

右図のように

1.心室中隔欠損症(略してVSD)、

2.肺動脈狭窄、

3.大動脈騎乗、

4.右室肥大の4つを特徴とする病気です。

これらはひとことで申し上げれば、漏斗部中隔が前方に変位した結果ということでひとまとめにできるようです。

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◾️ファロー四徴症の症状と診断は

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先天性心疾患のなかでチアノーゼつまりくちびるや手指が紫色になる低酸素血症が起こる病気で一番多いことで知られています。

こどものころにはこのチアノーゼや心雑音で見つかります。運動時にすわりこんだり、ばち状指などの所見も見られます。

ファロー四徴症は心エコーで診断がつきます。上記の特徴をひとつひとつ示せば診断に至ります。

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◾️ファロー四徴症の治療は

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診断がつけば、そのA309_093ままでは予後が悪いため手術を検討することになります。心カテーテル検査を行い、左室右室のサイズ、肺動脈がどれだけ発育しているか、他の心臓病はないか、側副血行路などを検討し、それによって根治手術ができるかどうかがわかります。

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重症度におうじて、こどもの間に姑息手術で酸素を確保し肺を育て、心臓もバランス良く育てます。それから根治術で病気そのものを治してしまうこともあります。一気に根治術で治せるケースもあります。

根治手術では心室中隔欠損の閉鎖と,肺動脈狭窄の解除を行い、その成績は近年良好になっています。

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その後も不整脈や肺動脈狭窄などの注意が必要ですが、おおむね手術後の経過は良好です。

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◾️ファロー四徴症、長期的な注意点は

Kenkoushindan_monshin
こどもと大人という壁を越えて、ライフタイムでの健康管理がものを言います。

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ただしVSDが再発したり、肺動脈狭窄が悪化したり、弁つきの人工血管を使用した患者さんではその成長にともなって弁も人工血管も小さ目になり、それらを修復する必要がでることもあります。

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私たちのところへ来られる患者さんはこうした状況の方が多いようです。

こどもの病気、しかし体は大人、のため両方のノウハウを結集した手術や治療を行います。

再手術に慣れていることも役立っています。

必要におうじて、こども病院の先生にもお越しいただき、チームをつくって万全を期すようにしています。

199724069
人生の長い旅をハートチームで支援しよう

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ファロー四徴症は治せる病気ですし、きちんとしたアフターケアによって長期の健康や安全が確保しやすい病気です。患者さんやご家族におかれましては、遠慮なくご相談いただければと思います。

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エリザベス・テイラーさん

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報道によれば2011年3月11日に女優エリザベス・テイラーさんが死去されたそうです。79歳でした。死因は心不全とのこと。

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Elizabeth Taylor dies aged 79

Updated 24 Mar 2011, 4:14pmThu 24 Mar 2011, 4:14pm ABC news

Hollywood legend and violet-eyed beauty Elizabeth Taylor, famed as much for her glamorous but stormy love life as her five-decade Oscar-winning film career, has died aged 79.

Taylor, arguably the last great star of Hollywood’s golden era, died six weeks after being admitted to Cedars-Sinai hospital in Los Angeles with congestive heart failure, a condition she had struggled with for years.

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彼女はその1年 LizTayler半前にMクリップによる僧帽弁形成術を受けていました。

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超多忙でストレスも多く、健康管理もむずかしいテイラーさんだったようで、それまでもいくつもの病気と闘いながらの人生で、おそらく普通の心臓手術を受けるには体がついてこられない事情があったのか、あるいはすぐ仕事復帰するにはMクリップのような体への負担が少ない治療法が必要だったのかもしれません。

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ともあれ治療からたった1年半で心不全のためにお亡くなりになるというのは、僧帽弁形成術ではめったにないことで、ご年齢も当時77歳と比較的お若く、ひとりの心臓外科医としては残念に思います。

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Mクリップのような不完全治療ではなく、きちんとした手術を受けておけば、この世紀の大女優は死なずにすんだのではないかと思うのです。

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以下はテイラーさんがMクリップによる治療を受けられたときの報道のコピーです。当時は治療成功を皆で喜び合う状況でした。

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Elizabeth Taylor Prepares For Heart Valve Surgery Via MitraClip
October 6th, 2009

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News wires just came alive with a fascinating story about Elizabeth Taylor’s anticipated heart valve surgery.

 

Although details are still coming out, it appears that Elizabeth Taylor suffers from mitral regurgitation – commonly referred to as a leaky heart valve or mitral insufficiency. Also of significant interest… It appears that the MitraClip, a new minimally invasive technology, will be used to repair Elizabeth Taylor’s diseased heart valve.

 

Here are the details from The Press Association:

 

Dame Elizabeth Taylor is to undergo surgery to repair a leaky heart valve, the veteran actress has announced via Twitter. The 77-year-old called on supporters to pray for her as she explained in a series of messages the procedure to be carried out at an undisclosed hospital.

 

“I’ll let you know when it is all over. Love you, Elizabeth,” the last of three messages on the subject read.

 

The Oscar-winner’s last high-profile appearance was made last month at the funeral of long-time friend Michael Jackson. But it was a rare public outing for the actress who has suffered from a number of ailments in recent years and is now seen in a wheelchair.

 

She was taken to hospital last May for what her publicist described at the time as a routine check-up. After being released from the Los Angeles clinic, she announced via Twitter that she was “home from the hospital and feeling great”.

 

Dame Elizabeth again used Twiter, the micro-messaging site, to give details of her new date with the doctors. She tweeted: “Dear friends, I would like to let you know before it gets in the papers that I am going into the hospital to have a procedure on my heart.”

 

Here is a great video that explains the Mitraclip, the non-invasive device, I believe, will be used during Taylor’s operation.

 

Elizabeth Taylor’s final post explained the surgery: “It’s very new and involves repairing my leaky valve using a clip device [play video above], without open heart surgery, so that my heart will function better. Any prayers you happen to have lying around I would dearly appreciate. I’ll let you know when it’s all over. Love you, Elizabeth.”

 

My thoughts and prayers are with Elizabeth Taylor!

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現代の心臓病の治療は内科と外科とが一緒に 172496525相談し検討を重ねてベストの方法を選んだり組み合わせたりして初めて患者さんのお役に立つ、今はそういう時代です。つまりハートチームですね。

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僧帽弁閉鎖不全症の患者さんにおかれましては内科と外科の両方の意見を聴き、ご自身でもよく考えて治療法を選ばれるのが安全ためお勧めできることです。

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執筆:米田 正始
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日本胸部外科学会2014にて

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ことしも恒例の胸部外科学会に行ってまいりました。心臓血管外科の関係では国内最高峰に位置づけられる伝統ある学会です。会長 IMG_0586bは九州大学の富永隆治先生で、テーマは「Noblesse Oblige」(高い立場に立つひとほど、責任が重い)でした。

高の原中央病院かんさいハートセンターとしては初めての参加で、シンポジウムその他の発表もあり、かつ懐かしい内外の旧友らとの再会などもあって、心臓手術をしばらく止めて行ってきました。

前日夜の全員懇親会ではジョンスホプキンス大学の Duke Cameron先生とひさしぶりに話ができ、最近たまっていた疑問が相談できて何よりでした。大動脈基部手術を重症例に行うときにちょっとしたヒントを頂けるのはありがたいことです。

一日目のミックスの妥当性というパネルディスカッションでは当科の松濱君が初めてのパネル・シンポ類での発表ということで何度も予行演習や質疑の練習を直前にやりました。

国立循環器病研究センターの藤田知之先生、名古屋第一日赤の前川厚生先生、大阪大学の西宏之先生、東京都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生、慶応大学の岡本一真先生といった当代の売れっ子ともいえる立派な先生方のなかでまあまあの仕事ぶりでした。

MICSの一回目のブームが去っていちど廃れた印象がありましたが、今回の二回目のブームはどうでしょうか。私たちは前回のブームの際にはまだ安全上の懸念があり、通常の心臓手術をもっと磨いてからという気持ちで流行には乗りませんでした。

私たちは今回もべつに流行がどうこうということはなく、ただそれこそ目をつぶってでもできる弁形成弁置換が増えたという中で、手術の質や安全性を確保しながらより苦痛がすくなく、早く仕事復帰ができるという目的が達成できるという読みのなかからやり始めました。4年あまり前のことです。

内外のさまざまな先生方やMEさんらとの交流の中、いつのまにか私たちのMICSは進歩をとげて僧帽弁形成術とくに複雑弁形成や僧帽弁置換術、さらに大動脈弁置換そして大動脈弁形成術あるいはそれら二弁三弁手術までルーチンにこなす稀有なチームになりました。そうした中で各施設の貴重な経験と報告は目新しいものはそれほどなくても細部が参考になりました。

私たちはミックスでのメイズ手術を発表しました。まだそれほど多くの施設で行われていないようで、高い除細動率と心房縮小メイズ手術までできる完成度はあとで多数の先生方からお褒めいただき光栄なことでした。

同時に私たちのように弁膜症手術と同時に行うのではなく、心房細動だけのために、内視鏡をもちいて手術する大塚先生らの経験談はあらためて参考になりました。これからこうした方法も使えるようにしたく思いました。

それから2日目に当科の増山先生がLSH法のポートアクセスによる弁膜症手術について、小澤先生が成人先天性心疾患のニッチ領域について発表しました。

LSH法は大変創がきれいとよく言われますが、さらに磨いて安全性、仕上がりともよりレベルアップしたいものです。成人先天性では欲張ってさまざまな疾患の経験を発表したため、所定時間内にプレゼンするのは結構大変でした。修正大血管転位症と三尖弁閉鎖不全症、HOCM、左室緻密化障害、大動脈二尖弁、冠動脈ろう、その他について内容あるディスカッションができました。ニッチとは言えないほど重要なテーマですねと座長の先生にコメントいただきました。

Northwestern大学の畏友・Pat 223893McCarthy先生は僧帽弁形成術での新たな試みなどをお話されました。よりきれいでながもちし、かつ短時間でできる工夫を拝見しました。かつて、約16年ほど昔に、クリーブランドクリニックにて同先生を訪問し、学んだことが今も役立っていることをお礼とともにお伝えしました。

学会の内容はいつもどおり多岐にわたり、かつ最新のホットな話題が満載で、どのセッションを聴こうか、選択に苦労するほどでした。

心臓リハビリテーション学会とのジョイントシンポも参考になりました。

 

2年前の天皇陛下への冠動脈バイパ 天皇陛下ス術の話題が今回、正式にとりあげられました。執刀医の天野篤先生(順天堂大学)と主治医代表の小野稔先生(東京大学)そして富永会長のトーク(司会は横浜市立大学の益田宗孝先生)が企画されたのです。

複合チームでちからを合わせて頑張ったこと、カテーテルによるPCIか外科によるバイパス手術かの選択に2日もかけて皆で徹底議論されたこと、陛下が元気かつ安全に海外でも国内でも行けるように、そしてきついお薬を飲まずにすむように、また内科そして全体の主治医であった永井先生が定年退官直前であったため、ここで陛下の完全に病気を治して後任の先生方にご迷惑をかけぬような配慮もあって、バイパス手術が選択されたようです。決断したひとも、それを受け容れ協力したひとも立派だったと拝察します。

実際、陛下は手術からわずか1か月後には東北大震災1周年の鎮魂の集まりに参加され、術後3か月でイギリスのエリザベス女王即位60周年の記念式典に出席されるなど、すばらしい成果を上げたバイパス手術でした。

天野先生、小野先生とお話する機会がありましたが晴々した良い顔をしておられ私もハッピーな気持ちになれました。この手術によって冠動脈バイパス術が国民的理解がえられ、患者さんに恩恵が届きやすくなったことは特筆すべき快挙と思いました。


2日目の富永会長の Tominaga講演も心に残るものでした。非拍動流の補助循環の良さを信じて長いあいだ苦労された富永先生の仕事の正当性が今、証明された、うれしい限りです。パイオニアの苦労というのはいつの時代にもあるようです。富永先生お得意の剣道が心臓外科の成績向上に役立つことも理解できました。

 

今回の日本胸部外科学会の中で重症心不全研究会もサテライトとして行われました。世話人会ではデータベースの確立へむけ、これからの研究テーマを検討することができ、いよいよオール日本で心不全の外科治療の研究ができそうで大慶でした。

研究会では国立循環器病研究センターの小林順二郎先生の当番世話人で、同内科の安斉俊久先生が心筋梗塞のあとの炎症反応が左室瘤や左室破裂などの原因となるリモデリングへとつながることをお話され大変勉強になりました。

それに引き続くワークショップでは虚血性僧帽弁閉鎖不全症左室形成術HOCMへの外科治療などが論じられました。それぞれこれまでちからを入れて来た領域ですのでディスカッションに加わらせて頂きました。

かんさいハートセンターは弁膜症や心不全に強い内科チームと、柔軟性に富む病院やセンター、そして熱い外科を含めたハートチームがあるため、これまでより強力に心臓手術や治療を進め、患者さんのお役に立てるとあらためて思いました。

最終日にテキ Michael-J.-Mack-MD
サスのマイケルマック先生が特別講演をされました。2020年の弁膜症治療というSFっぽいタイトルでした。私は他セッションの都合で講演の後半しか聴けませんでしたが、心を打つには十分でした。

40年前の医療を想いだしてみなさい。白血病、弁膜症、股関節、その他さまざまな病気がどれだけ治せたか。ひるがえって現代はどうか。それぞれ治る病気になりつつある。弁膜症でも過去に発表され、多くの患者を助け一時代をつくった術式の多くがすでに過去のものになっている。新しい治療をつねに開発しなければならない。楽をするということで大きな対価を払っていることに気づかねばならない。努力して自分が自分の将来を切り開かねば、誰かが切り開いた道をむりに進まされるようになってしまう。マック先生はこれから弁膜症治療の中で起こるであろう変化予測をしたうえで、一番確実なのは変化自体が必ず起こることだということで話を閉められました。パイオニア精神にあふれるアメリカ人マック先生だから説得力が一段と増すようなお話でした。

講演のあとで久しぶりのご挨拶をしたら、ドクターコメダ、最近どうしてる?とのことでしたので、変化に順応してミックス手術にはまってます、と答えました。満面の笑みを返して下さいました。

オーラスに畏友、トロント時代からの25年 Rao来の友であるVivek Rao先生が臨床研究の話をされました。現代の若手のなかで、これだけのリサーチマインドのあるひとがどれだけいるかなあと他先生らと愚痴ってしまいました。優れた臨床研究をすることで臨床とくに執刀するチャンスが増える(少なくとも欧米では)のだということを会場の若い先生方に知って頂きたかったのですが、ちょうど時間となってしまいました。このブログの場でそれを若い先生方に知って頂ければ幸いです。

あっという間に過ぎた3日間でした。富永先生、九州大学心臓血管外科の先生方、お疲れ様でした。学会の大成功、おめでとうございます。

平成26年10月3日

米田正始

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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畏友、太田剛弘先生が東京スポーツ・大阪スポーツに掲載されました

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ハートチームのかなめ、中心は IMG_0280やはり循環器内科です。内科が活発になってはじめてハートチーム全体がレベルアップし、楽しくなります。

この4月から畏友・太田剛弘先生が高の原中央病院かんさいハートセンターに副センター長・循環器内科部長として着任され、同先生を慕う熱心な先生方を加えて5名のチームが誕生しました。

これまでひとりで内科を支えて下さった村岡先生には何度お礼を申し上げても足りない思いです。

 

こうして同じ方向性、同じ喜びを共有するハートチームが発足し、成果が上がりつつあります。それを東京スポーツ紙が取材してくださいました。

以下は9月18日に掲載された内容です。


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奈良県奈良市 高の原中央病院 かんさいハ IMG_0575bートセンター 太田剛弘副センター長

名医の診察室

狭心症、心筋梗塞の患者ばかりを治療するハートセンターが多い。そんな中、「弁膜症も心筋症も、とにかく心臓全体を診断・治療するハートセンターを目指しています」と熱く語り、心臓血管外科と手を取り合って患者を救う名医がいる。(医療ジャーナリスト・松井宏夫)

その名医とは、高の原中央病院(奈良県奈良市)かんさいハートセンター循環器内科の太田剛弘副センター長(67=弘前大・医卒)。“病気、病状の説明が分かりやすい”と患者の人気が高い。

つい先日、心臓弁膜症の患者がかたくなに入院も手術も拒否し続けた。
「心臓には部屋が4つあり、その扉が血液の流れを一定にしてくれています。その扉の1つ僧帽弁が壊れ、うまく閉じなくなっています。壊れた扉は薬では治せません。扉を正常な形に矯正する手術は確実な手術。これは米田正始センター長の得意な手術です。きちっと治すともっと元気になりますよ。このように時間をかけて話すと患者さんに理解していただけ、入院手術となりました。じっくり患者さんと話をするのは内科医の原点です」

これほど患者に時間を割くのは太田副センター長の体験から来る。太田副センター長は早大の理工学部を卒業して就職。その後、急性肝炎が慢性化して入退院を繰り返した。入院中に医師は1日数分程度しか顔を出さず、病気の詳しい説明もなかった。その時に、医学を学ぶべきでは、と思った。

退院して会社に戻ると自分の居場所はなく、当時の二期校の受け付けが間に合う医大を受験し、合格。同期の人とは約8年の開きがあった。

卒業後は循環器内科医として歩み、1992年、米国・デューク大学に留学。心臓超音波検査(心エコー)での診断に精通した教授の下で臨床に励む日々を過ごした。

帰国しようとしたとき、教授に強く引き留められた。「“工学部で3Dエコーを開発している。我々も参加し作り上げる。君も一緒にやってほしい”―。私はその後3年、結局5年の留学を終えて帰国しました。その時に開発した装置は一瞬にして3D画像ができるので『リアルタイム3Dエコー』と呼ばれました」

内科と外科との垣根なし

太田副センター長は診断を確実なもとにするこの3Dエコー開発者の1人である。帰国後は大阪の府中病院の循環器内科部長として活躍後、4月からこのハートセンターで米田センター長と二人三脚で歩み始めた。

「3Dエコーを使って診断すると、たとえば心臓弁膜症の場合、その弁のどこをどのように形成すると良いのか、そこまで分かって外科にお願いできます。丸投げではありません。もちろん外科としっかり話し合います。その合同カンファランスを毎日時間をかけて行っています」

センターの合同カンファランスは内科外科の垣根はない。患者の主治医が患者の状態を解説し、どのように対応するのが良いかをディスカッションする。心エコー画像も全員でチェックする。

「患者さんに最も良い治療をみんなで考えます。手術をみんなで考えます。手術を行うと決まっても、私どもの外科の米田センター長は患者さんに最善の方法を提案されます。患者さんを第一と考えて話し合っています」

もちろん、患者の疾患は千差万別。
「ハートセンターを受診する患者さんの疾患は10人のうち6人が狭心症・心筋梗塞、10人に1人が弁膜症、心筋症は10人に“0・数人”かもしれません。私たちはつらい思いをしている人は100人に1人かもしれなくとも救えるようにする、との思いで前進します」
患者の強い味方、真のハートセンターが確実に前進している。

心臓弁膜症の推定患者数は200万人

心臓病と聞くと狭心症、心筋梗塞を思い描く人は多いが、「心臓弁膜症」も患者は意外と多い。推定患者数200万人、手術を必要とする患者は年間約1.7万人。

心臓には僧帽弁、大動脈弁、三尖(さんせん)弁、肺動脈弁の4つの弁があり、弁に問題が生じると、「息が切れる」「動悸がする」「呼吸が苦しい」「夜寝ると苦しい」「体がむくむ」など様々な症状を引き起こす。

これは心臓の弁の異常によって血液循環がスムーズにいかないからである。なかでも全身に影響を及ぼしやすいのは僧帽弁と大動脈弁。手術もこの2つの弁で約97%をも占めている。

弁膜症の原因疾患は「狭窄症」と「閉鎖不全症」。基本的には4つの弁でそれぞれ起きるが、やはり多いのは僧帽弁と大動脈弁で、僧帽弁では僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁では大動脈弁狭窄症が圧倒的に多くなっている。

治療では内科治療は「薬物療法」「カテーテル治療」、外科治療は「弁置換術」「弁形成術」が行われている。

ここにカテーテル治療としてTAVI(経カテーテル式大動脈弁置換)が2013年10月から保険適用され新たに加わった。ただし、TAVIは施設認定を受けている施設でのみ行うことができる。

 

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東京スポーツ・大阪スポーツに掲載されました

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2014年9月11日、サラリーマンの方々や庶民に人気のある新聞である東京スポーツ、大阪スポーツに米田正始が紹介されました。その翌日の太田剛弘先生(かんさいハートセンター副センター長)とともにハートチームが評価されての掲載でした。

毎朝、循環器内科と心臓外科の全医師がミーテ IMG_0574bィングをもち、患者さんを軸にして、内科外科の垣根のない治療を進める、いわゆるハートチームですね、こうした当然のことが行えない病院が多いと言われています。そのような中で、信念をもって皆でハートチームを実践しています。

患者さんたちの熱いご期待に沿えるよう、全力をあげて取り組んで参ります。

以下は同新聞からの引用です。

 

名医の診察室

心筋梗塞はもちろん、心臓弁膜症、心筋症など、それも重症患者が最後にするハートセンターがある。最先端の、体に優しい手術から日本では数人しかできない心筋症に対する左室形成術等、様々な術式で患者を救っている名医とは―。(医療ジャーナリスト・松井宏夫)

重症患者の最期の砦
大学病院でも手に負えない
心臓救う神の手

日本で数人の技

奈良生まれ、奈良県育ちの名医が、ついに奈良に戻って新しいハートセンターを立ち上げた。トロント大学、スタンフォード大学、メルボルン大学主任外科医として海外で11年の武者修行をし、京都大学心臓血管外科教授、名古屋ハートセンター、豊橋ハートセンター副院長を歴任。そんな高の原中央病院かんさいハートセンター(奈良県奈良市)米田正始センター長(特任院長/59=京大・医卒)が作るハートセンターとはどのような施設なのか―。

「私は患者さん本位の医療を追及してきて、その原点となるハートセンターを作り上げるべく努力しています。故郷の奈良でハートセンターを立ち上げる機会を得て準備し、2013年10月にスタートしました。

今年4月には心エコーや弁膜症・冠動脈のプロを中心とする循環器内科が発足し、心の通ったハートチームが本格始動。今はハートセンターの手術室・カテ室は各1つですが、近い将来にはそれぞれ2つになり、さらにパワーアップします。多くの合併症に悩む患者さんに対し、総合病院のハートセンターの良さがあります」

週に3例の心臓手術が4月からは週に4例。すでに奈良県内での心臓手術は近大奈良病院、天理よろづ相談所病院に次いで3番手。ただ、数だけではない。多くの大学病院で断られた患者が祈る思いで受診する難しいケースも多い。

「心臓移植しかない、と大学病院でいわれた50代の心筋症の患者さんが“心臓移植はいつになるか分からない”といってバチスタ手術を希望して受診されました」
これは拡張した左心室の心筋の一部を切除して縫い合わせる手術。左心室を小さくすることで収縮力をアップされようというもの。日本でこの手術ができるのはわずか4~5人。

手術痕の小さいMICS法を開発

「心筋の手術にはバチスタ手術、ドール手術、SAVE(セーブ)手術などがあり、状態により適した手術を行うのが大事で、その患者さんにはドール手術変法を行いました。患者さんはあっという間に元気になられ、大学病院の主治医からも大変感謝されました」
また、心臓弁膜症の手術ではより手術痕の見えない手術を求めて、全国から受信うる患者が後を絶たない。

それは「MICS(低侵襲心臓手術=ミックス)」と呼ばれる手術。米田センター長が改良開発した。「胸の右側を5センチ程度皮膚切開し、そこから手術を行う器具のポートを挿入して行います。傷はその他にわき下に1センチの刺し傷が1か所のみです」

さらに、この9月末から閉塞性動脈硬化症(ASO)に対して新生血管療法の一つ、米田センター長が京大教授時代に開発した「bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)治療」の臨床試験が行われるという。京大時代には7人行い、皮膚潰瘍も治療して歩いて自宅に帰ることができるようになった患者もいた。それほど成果があった。

「bFGFは体内にもある物質で、すでに床ずれの治療薬として使われています。それを特別なタンパクで処理をいて脚の付け根から血管の閉塞部まで50か所くらいに筋肉注射をするだけです。それで新生血管ができ、脚が救われるのです。これは最初の数日は入院ですが、あとは通院が可能。自由診療ですが地域貢献を考え、低額に抑えたいと思っております」

新しいハートセンターの羽ばたきは地域、そして全国に聞こえている。

MICSでの僧帽弁形成術

心臓の弁が正常に機能しなくなる心臓弁膜症。僧帽弁の治療で最も進化した形が
MICSでの僧帽弁形成術。

手術後、血栓予防薬のワーファリンを必要といないので、患者の負担は軽い。さらに長期間効果が安定しやすく、傷が小さいため社会復帰が早く、心にも傷がつきにくい。

なお、大動脈弁でも同様に大動脈弁形成をMICSで行うのが理想に近い治療となる。弁が形成できないほど壊れている場合は大動脈弁置換する。

将来はTAVI(タビ=カテーテルで入れる生体弁)を用いることで再手術を回避しやすくなる。

閉塞性動脈硬化症(ASO)

動脈硬化は全身の血管に起こる。心臓の血管でそれが進行すると狭心症、心筋梗塞、脳の動脈で進行すると脳梗塞。

しかし、それだけではない。下肢の血管の動脈硬化で血流が悪くなるのを閉塞性動脈硬化症という。

症状は「しびれ、冷感」「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」「安静時疼痛」、そして、「潰瘍、壊疽」。潰瘍、壊疽まで進行すると足を切断することになってしまう。

 

**********************************

註:平成27年6月をもって米田正始は高の原中央病院を退職いたしました。開設時からいた心臓外科スタッフもすでに全員異動いたしました。

奈良の地にどんな心臓病にでも対処できる、ちからのあるハートセンターを立ち上げ、他で断られた患者さんを救命するなど一定の実績を上げることはできましたが、病院の事情によりあまり大きな手術やリスクの高い重症の治療ができなくなったためです。

現在は大阪府内の二つの病院(医誠会病院(外来・手術)、仁泉会病院(外来)で本来の断らない心臓外科医療ができるようになりました。

心臓病で何かお困りの際にはご相談ください。お役に立てれば幸いです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第五十四号】残暑お見舞い申し上げます

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 第54号
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           http://www.masashikomeda.com
           編集・執筆:米田正始
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お盆ごろの台風がまるで日本上空を旋回しているかのような変な天気が繰り返す

この頃ですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

メルマガをしばらくお休みして失礼いたしました。

かんさいハートセンターを立ち上げて10か月が経ち、毎日忙しくしています。

生まれつき要領が悪いためもあるのでしょうが、患者さんと向き合う時間を多く

取れてうれしく思うと同時に時間が足りず不便しています。

この4月からかんさいハートセンターの循環器内科が発足し、ようやく本格スタ

ートを切ったという印象です。

やはり内科の先生らがいないと真に盛り上がりません。ようこそお越し下さいま

したという感謝の念で一杯です。

新しいハートセンターの循環器内科では従来の心臓カテーテル、PCIはもちろん

、心エコーのスペシャリストである太田剛弘先生はじめその薫陶を受けた若い先

生方も参加下さり、狭心症・心筋梗塞などの冠疾患だけでなく弁膜症・心筋症・

心不全にも高いレベルの治療ができるようになりました。

さらにCKDと言われる慢性腎機能障害の患者さんにも専門的観点からの治療がで

きるようになり、患者さんをより全人的に治療できるようになりました。

こうして理想の医療に一歩ずつ近づいているのは楽しい限りです。

平素の診療の中で心臓血管はもちろんのこと、腎臓も大事にして参りましたが、

これまで以上に力が入るようになりました。視点がひとつ増えたようです。

そういえば名古屋時代に大いにお世話になった日本ローカーボ研究会の先生方と

も交流がつづき、こちらの患者さんにも大変役立っています。

つい先週もインシュリン依存性糖尿病の患者さんが抗インシュリン抗体のため血

糖値が不安定となり、心臓手術の準備中でしたので、安定を図ろうと、ローカー

ボ食(糖質制限食)を導入し、無事インシュリンを離脱できました。

私は心臓外科医ですから心臓手術を日々考えるのは当然としても、薬や食事・運

動まで治療手段として活用するようになり、これまで治せなかったものが治せる

ようになるというシーンが見られるようになりました。その成果は研究会でも披

露しましたが、いずれ大きな場でもと考えております。

メルマガをお休みしている間にいろいろな進歩がありましたが、それはまた患者

さんの会などでご紹介したく思います。

最後にひとつ老婆心ながらメッセージを。この夏も多数の患者さんが脱水で腎臓

や全身を弱らせ、あわやの手前で何とか元気に回復していただいたというケース

を経験しました。

日本の気候が亜熱帯のそれになってしまった今、これまでよりしっかりした暑さ

対策を皆様にはお願いしたく思います。

私のホームページの患者さんのコーナーにも以前お書きしましたが、喉の渇きを

あてにせず、尿の量や濃さをみて脱水かどうかを判断していただければと思いま

す。脱水になった患者さんのほとんどは喉が乾かなかったから、、、と言われます。

尿をみれば安全安心に近づくでしょう。

それでは皆様、またお会いできる時を楽しみにしております。ご自愛専一にお願

いいたします。

敬具

平成26年8月31日

米田正始 拝

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芝蘭会奈良県支部総会にて

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この歳になりますと同窓会がこれまで以上に楽しみになります。

小学校、中高、大学いずれの同窓会も同じです。

芝蘭会というのは京大医学 IMG_2114b部の同窓会ですが、京大らしくていいなあと思うのは出身大学にかかわらず、大学院や関連病院で同じ釜の飯を食べた先生方を分け隔てなく遇し、一緒に楽しめることです。

私が5年間お世話になった名古屋を去り、郷里の奈良に高の原中央病院「かんさいハートセンター」を立ち上げたのは昨年10月でした。ことし初めて芝蘭会奈良県支部総会に会員として参加させていただくことになりました。

この会には私なりに熱い想いがあります。数年前、京大病院でトラブッていた私を講演に呼んで下さり、激励していただいたのです。英語で誰もが知っている A friend in need is a friend indeed. まさかの時の友こそ真の友、という諺を想いださせるような経験でした。今でもその時の会場であったレストランへ行くと、何だか心温まるような気持ちになれるのです。

ともあれこうした会ですので楽しみにしていました。

懐かしい、かつてお世話になった天理よろづ相談所病院の先生方をはじめ、村田医院、坂口医院、大和高田市立病院、岡谷病院、土庫病院、大和郡山病院(昔の奈良社会保険病院)、高井レディスクリニック、東大寺福祉療育病院、西大和リハビリテーション病院その他の病院の先生方と再会でき、うれしく思いというより感謝の念で一杯でした。

郷里でこうした先生方のお役に立って心臓外科医としての人生を締めくくりたいとあらためて思いました。(皆さん、心臓病や血管病でお困りのときにはぜひとも救命したく、救急車でお迎えに参ります!)

恒例の特別講演では京都大学腫瘍薬物治療学の武藤学先生が京大病院がんセンターでの新たな試みをお話されました。集学的、横断的に、さまざまな科というより臨床も基礎も含めた総合戦力で患者さんを軸として動けるシステムを構築しておられるのを知り、感嘆いたしました。iPS細胞などのサイエンスを基盤にした研究、学際的スタッフによるスーパーコンピューターをもちいた臨床研究から近隣の病院群とタイアップした緩和医療まで取り組んでおられるというのは圧巻でした。

昔からプロのClinical Oncologistが必要という声が多かったのですが、武藤先生こそがそれであり、がん治療のハブそのもので、これは大きなインパクトになるものと思いました。

ひとつ余計なコメントをしてしまいました。がんではなく救急や循環器関係のお話ですが。中部地方の大学で、救急医療、地域医療、そのネットワーク、コンピュータを駆使した連携システム、ドクターヘリも含めた高度かつ機動力をそなえた体制など、見事な医療体制を構築しておられる大学の先生が講演されたとき、ひとつ聞いてしまいました。「これほど立派な医療システムを構築しておられる先生の大学病院で、しかも優れた心臓外科医がいるのに、なぜ年間数十例しか心臓手術ができないのですか?」と。答えは頂けませんでした。ほとんど絶句状態ですね。これが日本の大学病院の二面性なのです。もっともこれは循環器などの大学病院が苦手とする領域の話で、がんのような、本来集学的、学際的、横断的でかつ循環器ほど緊急態勢が要らない領域ではこれから大きな改善が期待されます、と。

重要課題とはいえぶしつけなコメントに対して武藤先生は後で真摯にお答えくださいました。さすが、プロのがん専門家は違う、あらためて同先生が構築して行かれる新しい大学病院のがん医療が楽しみになりました。

会には京大の学生さん、正確には芝蘭会雑誌部の部員さんも複数、取材のために参加しておられました。実は私も昔、雑誌部で同様のことをやった想い出があり、思わず激励してしまいました。雑誌部員がすごいのは、京大総長レベルの大先輩にも正面から話ができることです、ぜひその特権を活用して、多くを学んで下さい、とお願いしました。

皆さんと歓談しているうちに時間が来てしまいました。来年もまたよろしくお願い申し上げます。支部長の松村忠史先生、お世話下さった大和高田市立病院の砂川昌生先生、ありがとうございました。

 

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執筆:米田 正始
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お便り107: 収縮性心膜炎を合併した慢性血液透析の患者さん

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収縮性心膜炎(略称CP)の原因はいくつも知られていますが、慢性腎不全・血液透析もそのひとつです。

IMG_2111bおそらく心膜炎を繰り返しているうちに心膜が変化を起こすものと考えています。

いずれにせよ、心不全が重くなれば心臓手術が必要となります。

下記の患者さんはお若くして血液透析が必要となり、

その後上記の収縮性心膜炎を合併された40代後半の関東在住の女性です。

***** 患者さんからのお便り 1*****

はじめまして。
突然のメールにて失礼します。

当方、**県在住の****と申します。

私は199*年にIgA腎症となり、200*年に腎不全へ進み人工透析導入、200*年に生体腎移植するも、20**年に人工透析再導入となりました。

1年程前に心外膜の石灰化が見られ、経過観察となってましたが、症状が進み、一昨日はカテーテル検査もしました。収縮性心膜炎と診断が確定され、それもかなり良くない状態で手術の話も出ております。

血圧が上50 台、下が20台ということも頻繁にあり、アベレージでも上が60台で、特に透析した日は息苦しさと立ちくらみが続きます。

アベレージ血圧が確実に下がってきていることもあり、自身の希望では症例の多い病院、先生に一日も早く手術をしていただけたらと思います。

(担当の循環器内科の先生は私自身が納得のいく先生に手術してもらうのが一番良いと、おっしゃってくださってます。)

現在、**県在住で東京都内の**大学病院にかかっておりますが、貴院で手術をお願いすることは可能でしょうか?

また、可能でしたら、どれくらいのタイミングで手術可能なものでしょうか?
おおまかでも構いませんので、ご教示頂きましたら幸いに存じます。

どうぞよろしくお願い致します。

*******************

血圧が低下し、透析ができなくなりつつある、危険な状態ですし、熟練した心臓外科医が手術する意義は大きいため、さっそくお返事を出しました。

まもなく米田正始の外来へ来られました。

予想どおりの重症の収縮性心膜炎でした。

まだ比較的お若いご年齢と、今後もし心臓や血管に新たな病気が起こった際に手術がやりやすく安全なようにと、ミックスMICSとくにポートアクセス法で心膜切除をすることにしました。

私自身、トロント時代に左開胸でこのオペをしたこともあり、現在は僧帽弁形成術などでポートアクセスを多用していて熟練の強みもあり、そうすることになりました。

心膜切除手術はうまく行き、取るべき肥厚・石灰化心膜はほぼすべて取れました。左室の裏側や右室とくに根本の部分から右房や主肺動脈まできれいになりました。

右房圧や右室圧その他血行動態も正常化しました。

お元気に退院されてから下記のお便りを頂きました。

***** 患者さんからのお便り2 *****
 

拝啓  米田先生におかれましては、ますますご壮健のこととお慶び申し上げます。

 過日の入院、手術に際しましては、大変良くしていただき、ありがとうございました。

 先生にはメールでのご相談の段階から迅速なご対応をいただき、また、術式などいろいろとご検討いただいたおかげをもちまして、回復も早く、心より感謝しております。

手術の傷跡も思ったより小さく、痛みも無く、米田先生にお願いして本当に良かったと主人と日々話しております。

また、心臓血管外科の先生方、看護師の皆様、リハビリを担当していただいた皆様などにも、心のこもったご対応をいただきました。

よろしくお伝えくださいませ。

 来月初めには受診で伺いますので、今後ともなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 書面にて失礼いたしますが、取り急ぎご報告と御礼申し上げます。

平成二十六年*月*日

*******************

それから1か月あまり経ってからまた患者さんからご連絡があり、発熱してどうやら手術部位が感染したようだ、再手術が必要かもしれないと主治医に言われたとのことでした。

術後1か月半も経っ
てからの感染は稀であり、かつMICS手術の経験のないチームで再手術は危険なためかんさいハートセンターに再入院して頂きました。

幸い手術部位の感染ではなく、お薬でまもなく全快し、元気に退院されました。

患者さんを真に守ることができるのは熟練チームならではのこととあらためて思いました。

患者さんにはこれから元気で楽しく過ごしていただければ幸いです。また奈良のほうへお立ち寄りください。

 

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お便り106: 人工弁感染性心内膜炎PVEの患者さん

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感染性心内膜炎(IE)の中でも人工弁のそれ(PVE)は重篤です。

IMG_1636b人工弁には抵抗力がなく、抗生物質をしっかり使ってもバイ菌を消しづらいからです。

日米のガイドラインでも人工弁のIEは基本的に手術適応となっています。

しかしばい菌が少しでもいるところに新たな人工弁を入れることは新たなPVEを発生させる恐れが高く、入念な治療戦略が必要です。

下記の患者さんは北海道在住で、この人工弁感染性心内膜炎で厳しい状況におかれていました。

見るに見かねた娘さんが米田正始のところへメールを送って来られました。
ポイントをしっかりと押さえられ状況が良く分かるお便りでした。

***** 患者さんのご家族からのお便り1 *****

父は73歳で、2年前に人工弁に取り替える手術をしました。

私は娘で東京都在住、父は北海道在住です。

昨年末に高熱を出し、結果、つい数日前に人工弁感染性心内膜炎PVEと診断されました。

今は白血球の数も減り、食欲も戻りましたが、

今後、大きな合併症(菌体の塞栓による脳梗塞や動脈瘤など)が起こる可能性があり、手術も体力が持たないから2回目は無理と言われ、

それがどういう意味なのかすぐわかりましたが、そんなはずはないと思い調べたところすぐこちらのサイトを見つけることができました。

出来るだけ早い方が良いのはわかったので、まずは何をすれば良いか教えてください。

父を助けたいです。

よろしくお願いします。

********************

お便りを拝見し、これは何とか救命しなければ、そして救命できる!と思い、ただちにお返事をお出ししました。

地元の先生とも直接間接にご相談し、患者さんのご希望にて奈良にあるかんさいハートセンターまでお越しいただくことになりました。

もちろん重症の患者さんをご家族とだけで移動していただくわけには行きません。

私の方から医師を派遣し、護送する形で来院していただく準備を整えていました。

しかし次のメールが届きました。予断を許さぬ状況となり予定を繰り上げての転院へと進みました。

 

***** 患者さんのご家族からのお便り2 *****

米田先生、ますやま先生、おざわ先生
いさみもと様

父の容体が急変し、出発は明日に

こちらでも無事になんとかすべて変更できました。

ますやま先生から16:30すぎにお電話頂いてかなり気も動転してびっくりしましたが

そのあとは行くしかないと思い、

すべてを変更するので大変な状態でしたが

結果、父に意思を確認した時に早く行けることのほうがかえって良かったようすで
良かったです。

たくさんご面倒おかけしていますが、

私達は米田先生はじめ、チーム皆様の迅速な対応には本当にもう、、、

何と言って良いかわからないくらい感謝しております。

ありがとうございます(泣)

米田先生は今日も手術でいらっしゃったようですしこの時間ですので
今は取り急ぎ、お礼のメールをお送りします。

私は金曜の夜にそちらに伺う予定でいますが何かあればすぐ行けるように調整するつもりです。

明日、まずは無事に辿りつけると祈っております。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

********************

患者さんは無事に救急車、飛行機、また救急車を乗り継いでかんさいハートセンターに到着されました。

当院の医師もコーディネーターそして各部門のサポーターもよく頑張り、周囲をがっちり固めたことが幸いしたようです。

安心感からか、意外なほど落ち着いておられました。

さっそくご報告のメールをご家族に入れ、手術や治療の準備を開始しました

以下はご家族からのお返事です

***** 患者さんのご家族からのお便り 3***** 

米田先生

ご連絡ありがとうございます。

飛行機内で何事もなくて本当によかったです。。

小澤先生と看護師さんに付き添っていただき父もとても安心できたんだと思います。

さっき母と話して、米田先生にもお会いしたと聞きました。

私は今までぜんぜん親孝行できてなかったので、今回ばかりは必死で(泣)

母も個室で数日は一緒にお世話になると思うので、どうぞよろしくお願いいたします。

またご連絡いたします。

**********************

十分な準備のもと、心臓手術いたしました。

もとの人工弁はその付け根からえぐられ、外れていました。

いわゆる大動脈基部膿瘍(大動脈弁輪膿瘍)という厳しい状況でした。

まだばい菌が組織の中にいそうな印象があったため、十分きれいに廓清しました。

新しい人工弁を私たちが工夫した方法で、ばい菌がもしいても人工弁には接触しない形で植え込みました。

術後経過は順調で、弁も心臓もばい菌も良い形で安定しました。

以下はそのころに頂いたお便りです。

なお術前は何としてもばい菌をできる限りたたくことが必要なため、腎臓を少々犠牲にしてもしっかりと抗生剤を使い、まずいのちを救うという方針で臨みました。そして少し余裕が出たところで腎臓を治すという二段階作戦で、うまく行きました。

***** ご家族からのお便り 4 *****

米田先生、お世話になっております!

今月5日に手術していただいた****です。

その後、父とは電話で話していますが日に日に声が元気になっていて、昨日はお風呂にも入ったとのことで回復早くびっくりしました…最先端の医療技術はすごいですね。

今回は予定が早まったにもかかわらず、無事に飛行機にも乗れて、早急に腎臓の手当てをしていただき手術出来たこと、当初のメールのやり取りから始まり、先生の医師としてのお志には感銘し、感謝でいっぱいです。

ありがとうございます。

母や弟もまさかスーパードクターにやってもらえるとは思っていなかった…と言っていました。

このご縁をいただけたことは家族全員がラッキーだったと感じております。

***病院の**先生には、手術の日に報告とお礼のお電話をしました。

無事に行けたことを喜んでくださってる気持ちがすごく伝わって来たので嬉しかったです。

これも米田先生とチームの先生方のお心遣いあってだと思っております。

ありがとうございました。

手術が終わって数日、しばらく私は放心状態でした。。

こんな早くに父の生死に直面するとは思っていなかったので、

勉強になったことや改めて感じたことがたくさんあり

家族の信頼関係が深まった良い出来事になったと思っています。

両親は退院後の1ヶ月検診まで奈良に滞在することになりました。

私も週末や連休を利用してまたそちらに行く予定です。

検査結果もこれからかと思いますし、退院までまだしばらくお世話になると思いますが
どうぞよろしくお願いいたします。

それと今回の手術で、米田先生と増山先生についてジャーナリスト取材があったと父に聞いたので可能であれば是非記事を読んでみたいです!

では、日々おいそがしい身でいらっしゃると思いますが

どうぞお身体ご自愛くださいませ。

またご連絡いたします。

*********************

患者さんはその後も経過良好で日々元気さを増し、毎日しっかり食べて歩いてという健康生活への道を進んでおられました。

心臓はすでにすっかり回復し、腎臓も着実に良くなっていました。

そのころに頂いたお便りです。

***** 患者さんのご家族からのお便り 5 *****

米田先生、お世話になっております。

昨日父から電話で今週末には退院できる予定と聞きました!

腎臓の治りも早かったようで
ありがとうございます^ ^

父はかんさいハートセンターに来て良かった、としみじみ言っています。

先生達が毎日顔を出してくれたことや

術後の痛みがまったくないのは前と全然違うと。

苦痛や不安がないのは患者にとってはすごくありがたいことだと思いました。

もう先はないと諦めていたのに、こんなに早く帰れるとは!と言っておりました。

今後は早く落ち着いて、親孝行したいと思っております。。

最近は「医龍」を一気に観ていました。先生のHPも引き続き読ませていただいております。

ドラマは脚色されていますけれども
手術シーンはけっこうリアルに感じました。

米田先生のチームもあんなふうに手術されているのかな…などとまた感動しています^ ^

予定では20日頃の退院と聞いています、私は次の3連休に行く予定だったので、もしかしたら退院後になってしまうかもしれませんがナースステーションにご挨拶したいと思っております。

増山先生にもお会い出来ると嬉しいです。

ではまたご連絡いたします。

**********************

患者さんが元気に退院されてしばらくしてからお便りを頂きました。

感染性心内膜炎とくに大動脈基部膿瘍は心臓手術の中でも難易度が高いものとして知られています。

自分が若いころ見た手術のように、、、術後、人工弁は再感染し外れてしまい、、、という恐ろしい事態を回避したかったのです。

これまで山ほど再手術やIEを治して来た経験が多少でもお役に立てたのであればこれほどうれしいことはありません。

患者さんにはこれから楽しい生活をご家族と送って頂けましたら幸いです。時間ができれば奈良へまたお立ちより下さい。

 

***** ご家族からのお便り 6 *****

米田先生

東京も桜が咲き始めて、季節が変わったのを感じます。奈良もますます情緒豊かな季節になりますね^ ^

Facebook承認ありがとうございました。
先生の日常のご活躍が見れて嬉しいです。

この間、お電話で先生に直接お聞きして実感したのですが、やっぱり手術や移動のタイミングを逃して手遅れになられる患者さんは多いのですね…

今回の父の件でじかに体験したので私もそこはとても気になっていました。

地方の人はとくに知らない人は知らないまま、治るのに簡単に諦めてしまったり、痛みや苦しい思いをしてもなお亡くなる方が多いのでは…と考えるとつらいです。

今回は長文になってしまい申し訳ないのですが、今までお送りしたメールや今回のいきさつなどは、是非、ご自由に使っていただいて転院まで踏み切れない患者さんの手助けになればと切に思っております。

私の世代になると周囲で親が心臓手術したという話はよく聞きます。

いろいろ記事も読むと多くの病院ではごく当たり前の手術はできるけれど…というのが現状のようですね。

**先生と初めてお会いして父の病状を聞いた時、父や母に聞いていた通り一方的でこちらの話はほとんど聞いてもらえませんでした。とにかく諦めてくださいということで…

でも、無事に手術に入っていると報告をした時はまるで別人のように(笑)優しくなられていてすごく嬉しかったです。きっと米田先生のお志が連鎖したんですね!

その後、父は地元に帰れたことでとてもホッとしている様子で、声を聞くと安堵感が伝わってくるのでわかります。

高齢者で田舎の人達は保守的で、地元を長く離れることはストレスになるんですね。

沖縄から来られた患者さんも、なるべく早く元の生活に戻るよう促した結果、良かったという実績を例にあげて伝えてもらったのがとてもわかりやすかった、と父が言っていました。

私たち世代はインターネットで何でも知ることができますが、PCをツールとして使えない人は高齢者に限らず、想像も出来ないくらい情報が偏っていく時代だと思います。

転院しないとまずいというのは私は調べてすぐにわかりましたが、そのことを両親にどうやって伝えたらいいのか苦労しました。

本人が納得していないのに無理に転院を勧めても意味がないですし、弟や父母には冷静に何度も話しました。

「そんなことまでして本当に治る保証はあるの?」

「飛行機になんて乗れるわけない」

「名医の先生にお願いしたほうがいいのはわかるけど今の病院での手術日が決まっているし、今から転院なんて無理がある」

父にも「そこまで迷惑かけてまでこれ以上生きたくない」と言われた時はもう何も言えなくなってしまいました。

主治医の先生から私が直接話を聞いたのが手術予定日の12日前で

「ここまで進行していると術後も再発する可能性がある、いつまで生きられるのか保証はできないことは了承いただきたい」と言われてしまったので、転院を考えているとだけお伝えして、父にもう一度話をしなければと思いました。

先生が心臓手術は一生に一度あるかどうかの大事なので、納得するまで熟考するべきと言っていただいていたのが何より心強かったです。

父はとにかく体調が悪いので、先生のHPの記事をなるべく疲れさせないように興味のあるところをたくさん見せて話しました。

PVEはとても厄介だけれど頑張れば完治もできる、執刀医の経験や知識がとくに求められること、遠方からもたくさんの方が転院して手術を受けていること、元気になった患者さんの声、同じように北海道から飛行機で移動して転院した患者さんも実際にいて、その後は元気に回復したことなどを話しました。

それといちばん父が心配だったのは、行って治ったとしても、地元に戻った時に今の病院と気まずくなって通院できなかったら困る、ということでした。

でも、そこもきちんと対応してもらえると書いてあるよと伝えると、「そんなことまで本当にやってくれる先生なんているの?!」とびっくりしていました。

「今からでも間に合うなら転院して、元気になりたい」とはっきり父の意思が言葉に出たのですぐに先生に電話をしました。

あとは、主治医の先生に了承をもらうだけでしたが、やはりここがいちばん大変でした。

土日だったせいもあるのですが、転院を具体的に進めたいと伝えても、先生ではなく看護師さんからそれは無理ですと伝言が来るだけで、先生同士で話すこと自体を避けている状態なのがわかったので…

「命に関わることを伝言で済ませるわけにはいかないんです」と伝えたところその看護師さんも「私もそう思います」とおっしゃってくれて

「とにかく1度先生同士でお話いただかないことにはこちらは何も決められない状態です」と看護師さんにお伝えしたところ、翌日(日曜ですが先生が病院に来て頂くことになり)直接お話することになりました。

父と私と母と3人で面談したのですが

もう10日後に手術日が決まっている、今の病状で飛行機を使って移動した患者さんはいない、今までそういう事例がなかった訳ではないけれどトラブルになりそうになったことがある、など、やはりまったく話を聞いてもらえなかったのですが

付き添いのお医者さまに空港まで迎えに来てもらえることを伝えたところ、やっと先生同士でお話していただくということになりました。

その日の夕方に無事に転院できることになったと先生から連絡いただいた時は、本当に安堵感でいっぱいでした。。

今回、一通りやってみて転院の流れはわかりました。急に予定が早まるというアクシデントも含め、介護タクシーやJALの手配など、昔、旅行会社にいたことと旅行好きが役に立ちました。

もし差し支えなければですが、例えばメールの問い合わせをして来た方などで実際に転院した人の話が聞きたい、主治医の先生に転院を切り出せない(ここはけっこうな難関なのではないでしょうか…)など、メールやLINEの無料通話であればお金もかからないですし、直接お話するのも私はかまいません。

少しでもお役に立てれば嬉しいです。

今回は家族みんなで困難を乗り越えられて私自身も人間的に成長できました。

素晴らしい思い出をたくさんいただけたこと、なんとお礼を言っていいのかわかりません。

日々休むことなく救命にエネルギーを注いでいらっしゃる皆様の姿勢には本当に感銘いたしました。

今後ともずっと応援させていただきます。

かんさいハートセンターのさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
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