3) 拡張型心筋症とは?―各治療法の限界を踏まえるとかなり治せます【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月20日

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◆拡張型心筋症とは?

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図 DCMと正常拡張型心筋症(DCM:Dilated Cardiomyopathy) とは、心臓の主なポンプである 左心室(左室)が異常に拡大し、壁が薄くなってしまう病気 です。

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その結果、心臓が十分に血液を送り出せなくなり、心不全を引き起こします。

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*拡張型心筋症と似た病態に虚血性心筋症があります。心筋梗塞が原因で心筋が傷む点が特徴で、治療法も異なります。

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症状は以下のように進行します:

  • 初期:運動時の息切れ・動悸

  • 進行期:安静時にも息苦しい、起坐呼吸(横になれない)

  • 末期:強い心不全、下肢のむくみ、胸痛、失神

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◆拡張型心筋症が怖い理由


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DCMは「悪循環」に陥る病気です。心筋症の中でも要注意と言われるゆえんです。図 梗塞後リモデリング

  1. 左室が拡大

  2. 壁への負担が増える(ラプラスの法則)

  3. 壁がさらに薄くなり、ポンプ機能が低下

  4. 心室がさらに拡大し悪化

このサイクル(悪循環)が続くことで、やがて死に至ることもあります。

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さらに、左室の変形で 僧帽弁や三尖弁が閉じなくなり、逆流(機能性僧帽弁閉鎖不全症) を起こすことが多く、心不全を加速させます。

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◆拡張型心筋症の治療法

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Zoki_021. 内科的治療(第一選択)

  • 心不全治療薬(ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRAなど)

  • 利尿薬による症状緩和

  • 心臓リハビリテーション

  • 在宅で使えるASV(非侵襲的換気補助)

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2. デバイス治療

  • CRT(心室再同期療法):両心室をペースメーカーで同調させ、心臓の効率を改善

  • ICD(植込み型除細動器):致死性不整脈から命を守る

  • カテーテルアブレーション:重度の不整脈治療

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3. 外科的治療Ilm09_ag04003-s

  • 左室形成術(リバースリモデリング):壊れた部分を補強し、左室の形を整えて機能を回復

  • 弁形成・弁置換術:弁膜症を合併した場合に有効

  • 冠動脈バイパス術(CABG):虚血が原因の続発性DCMに

※左室形成術は一時期「STICHトライアル」で過小評価されましたが、専門施設では今も有効例が多く報告されています。

*外科的な選択肢として左室形成術があり、心臓の形態を整えることでポンプ機能を改善できる場合があります。

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4. 補助循環・人工心臓

  • 重症例では 補助人工心臓(VAD) を装着

  • 5年生存率は約65%と、心移植に匹敵するレベルに改善

5. 心移植

  • 日本でも1998年以降に実施可能に

  • ドナー不足はあるものの、拡張型心筋症の最終治療法

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6. 再生医療(研究段階)

  • iPS細胞やES細胞から作った心筋細胞を移植する研究が進行中

  • 心筋を直接修復する治療法として期待

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◆アフターケアの重要性A316_004

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  • 手術後や治療後も、薬物療法を組み合わせて 心機能を長期的に保護

  • 心臓リハビリで体力回復

  • 定期的なフォローアップで悪化を防ぐ

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◆まとめ:拡張型心筋症は「治療可能な難病」

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  • 難病指定ではあるものの、薬・手術(たとえば左室形成術)・デバイス・補助循環 を組み合わせれば改善できる病気

  • 体力があるうちに専門医へ相談することが、救命につながります

  • 患者さんやご家族は、むやみに恐れず、早めに治療選択肢を検討することが大切です

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患者さんやご家族にお願い:心不全が悪化し、ICUに入るなど、危険な状態になってから手術相談をされる方が今なお少なくありません。手術に耐える体力があって初めて手術ができますので、ある程度体力がある(例えば何とか歩ける)うちにご相談頂けますと、それだけお役に立ちやすくなるでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月23日

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◆はじめに ― この記事を読んでほしい方

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  • 心筋梗塞を経験された方

  • 息切れや動悸が続く方

  • 心臓の弁膜症と診断されたが詳しく知りたい方

  • 僧帽弁逆流・虚血性心筋症といわれ不安を感じている方

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)は、心筋梗塞後に僧帽弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気です。
放置すると心不全が進行し、突然の呼吸困難や脳梗塞、生命に関わるリスクが高まる危険な病気です。
しかし現在は薬・カテーテル治療・外科手術の進歩によって、多くの患者さんが改善できるようになっています。

この記事では、虚血性僧帽弁閉鎖不全症の原因・症状・診断・治療法の選択肢について、患者さんやご家族にも分かりやすく解説します。

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◆虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)とは、心筋梗塞や虚血性心筋症の後に生じる僧帽弁の逆流症です。
一見すると「弁膜症」に分類されますが、実際の原因は弁そのものではなく左心室の障害にあります。

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心筋梗塞や虚血で左室が拡張・変形すると、僧帽弁を支える腱索が横方向に引っ張られ(=テザリング)、弁がきちんと閉じなくなり逆流が生じます。
このテザリングの解明と治療法は、1990年代に私がスタンフォード大学で研究を重ねてきたテーマでもあります。

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👉 関連ページ: 機能性僧帽弁閉鎖不全症とは

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◆症状

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初期は運動時の息切れ・動悸が中心ですが、進行すると**安静時や就寝時の呼吸困難(起坐呼吸)**が出現します。
胸痛を伴う場合は虚血が進んでいる可能性があり注意が必要です。

危険な兆候としては:

  • 夜間の強い息苦しさ

  • 下肢のむくみ

  • 突然の胸痛や動悸

これらがあれば早めの受診が推奨されます。

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◆治療法

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内科的治療

  • 薬物療法(利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬など)

  • 心臓リハビリ

  • **ASV(加圧式マスク)**による補助

  • **MitraClip(Mクリップ)**などのカテーテル治療(軽中等度例に限られる)

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外科的治療

薬やカテーテルで十分な改善が得られない場合、外科手術が選択肢となります。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症はかつて「難病」とされていましたが、現在では**僧帽弁形成術や乳頭筋最適化術(PHO)**などの進歩により、多くの症例で良好な成績が得られるようになっています。

👉 詳細はこちら: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術

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◆なぜ症状が変動するのか? ― ロプノール湖の比喩

.IMRとロプノール湖

かつてこの病気は「消えたり現れたりする不思議な病気」と思われていました。
入院中は塩分制限・安静・点滴で一時的に改善し、退院すると再び逆流が悪化する…その原因を説明するのがテザリング現象です。

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左室が少し拡張するだけで、腱索が引っ張られ弁逆流が一気に増えるのです。(右下図、状態悪化すれば左図から右図へと変化)
このため手術(PHO)では前尖・後尖の両方を調整し、テザリングを解消することが重要になります。

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この詳細はPHO(乳頭筋最適化術)のページをごらんください。また開発の歴史もご参照ください。

テザリングと弁逆流.

 

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◆検査の進歩と注意点

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従来は心臓カテーテル検査が中心でしたが、現在では心エコーが診断の主役です。
理由は:

  • 心エコーは血流・弁の動き・ジオメトリーを詳細に評価できる

  • 外来や症状が強い時に繰り返し検査が可能

  • カテーテル検査は入院・安静下で行われ、実際より逆流が軽く出ることがある

現代では、心エコーを主体にカテーテルを補助的に利用するのが標準的です。

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◆ハートチームでの治療

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症は、心臓外科・循環器内科・麻酔科・リハビリ科が連携するハートチームでの治療が不可欠です。
患者さんごとに最適な治療法を選び、内科治療・カテーテル治療・外科手術を組み合わせることで、より良い予後が期待できます。

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◆まとめ

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  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞後に起こる僧帽弁逆流

  • 本質は弁の病気ではなく左室のリモデリングとテザリング現象

  • 初期は薬・リハビリ、進行例ではMitraClipや外科手術が有効

  • 最新の僧帽弁形成術・PHOで治療成績は大きく改善

  • エキスパートチームによる個別化治療が重要

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👉 関連記事:

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執筆:米田 正始
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医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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かつてカテーテルPCI治療・ステント治療を受けられた患者さんへ【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月10日

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◾️PCI(ステント)後の患者さんたちへ

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医誠会病院仁泉会病院の外来に狭心症にたいFotosearch_CCP05004するカテーテル治療(略称PCI)あるいはステント治療(右図のようなかたちで治療します)のあと何年も経った患者さんたちが来られます。

お元気にしておられる場合は何よりなのですが、お話をじっくり聴きますとある状況で胸が不快になるとか痛くなる、あるいは坂道などで息切れがひどくなったなどの訴えを聞きます。

PCIから年月が経ち、もうこれで治ったと思っておられる方も少なからずありました。もちろんそういうこともありますが、冠動脈の狭窄は動脈硬化のひとつであり、動脈硬化はかなりの工夫を凝らさないと進行性なのです。

そういうことでかつてカテーテル治療・ステントを受けられた患者さんにおかれましては何か症状の変化があればいつでもご連絡ください。

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◾️ステント・PCIと冠動脈バイパス手術との違いは

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Fotosearch_CCP05019冠動脈バイパス術後の患者さんの場合はPCI・ステントよりは安定度が良いので安心度は高いです(左図)。

冠動脈バイパス手術は「血管を治す」のに比べてPCI・ステントは「狭窄部を治す」だけだからです。

この差は糖尿病とくにインシュリン使用の場合(IDDM)や慢性腎不全・血液透析の患者さんの場合に顕著です。

しかしそのバイパス手術後といえども新たな病変がおこることは時にあります。PCIの後よりは安定度が良いのですが、やはり油断は禁物なのです。

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◾️そこで

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医誠会病院と仁泉会病院の私の外来では、こうした患者さんの長期フォローもしています。もっとも大切なことは新たな冠動脈狭窄をつくらないこと(二次予防といいます)、そのためにリスクファクターを丁寧に抑え込むことです。

たとえば血圧、中性脂肪、悪玉コレステロール、善玉コレステロール、血糖値(A1cヘモグロビン)、尿酸、喫煙さらに体重その他をきちんと健康モードにします。

必要が182347277あれば糖質制限食などもうまく活用し、薬だらけになることなく、かつなるべく快適に健康を守るようにしています。

右図は動脈硬化の発生をイメージしたものです。

しかしそれでも冠動脈の硬化が悪化するときには、症状の変化などを鋭敏にキャッチし、CTなどでタイムリーに検査し、必要であればその治療へ向かいます。必要に応じて薬、PCI、バイパス手術、心臓リハビリその他を選んでもちいます。

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◾️まとめ

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このように冠動脈狭窄症は進行性つまり完治はしない、しかし油断なく予防や二次予防につとめればかなり治せる病気とも言えましょう。いつも申し上げることながら、「治せる病気で死んではなりません」をお忘れにならぬようお願いいたします。

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事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術 その2

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虚血性心筋症は現在も重症でしばしば心移植しか治療法がないと言われます。

そうはいっても心移植はなかなか順番が回ってきませんし、補助循環(いわゆる人工心臓)を使っている人たちが優先することが多いですので、普通の心不全の症状では逆に治療法に困ることがあるのです。

患者さんは60代男性で起座呼吸を主訴として来院されました。

つまり心不全としては4段階の4、つまり最重症に入ります。

過去20年間に4回のPCIつまりカテーテルによるステント治療を受けておられます。しかし心不全が悪化し、来院されました。心エコーにて左室駆出率28%つまり健康者の半分以下、そして僧帽弁閉鎖不全症の増悪も認められました。このままではもう、あまり長くは生きられないという状況でした。

しかしよく見ればまだ心筋がかなり残存している所見があり、左室の悪い部分が比較的明瞭で、心図1SVG-4PD臓手術とくに冠動脈バイパス手術左室形成術そして僧帽弁形成術で改善できると判断しました。

体外循環下、心拍動下にまず静脈グラフトを右冠動脈に取り付けました。

さらに左室を前壁で開け、中を調べました。

図2左室切開前壁と心室中隔の前部分が心筋梗塞でやられており、それ以外は比較的壊れていませんでした。

これは治せるという所見です。

そこでDor手術の簡便さとSAVE手術のきれいな形の両方をもつ、私が開発した方向性Dor手術を行いました

通常のフ 図3四分割Fontan糸ォンタン糸と呼ばれる糸を4分割して梗塞部分と健常部分の境界部にとりつけました。

そしてその糸をくくることで左室の短軸つまり横方向に主に縮小させました。

左室はかなり小さくなり、予定のサイズまで戻りました。

それと同時に形を長細い、洋なし型に整えました。

図4左室縮小前 図5左室縮小後

左写真の左側は縮小前、同右側は縮小後の姿です。

主に横方向に小さくしていますが、

心尖部が瘤化しているため長軸方向にもある程度は縮小しています。

これで左 図6パッチ縫着後室のパワーアップに役立つのです。

最後にパッチを縫い付けて左室形成術を半ば完成させました。

そのうえで、左房を開けて僧帽弁を調べました。

やはり左室 図9MAPと吊り上げ後が悪化したために弁が閉じなくなっただけで、弁そのものは良好でした。

そのため私が考案した乳頭筋の前方吊り上げを行い、それも前尖と後尖のどちらもが前方へ引かれるように工夫し、リングをつけて完成しました。

弁はきれいに閉じるようになりました。

図10LITA-LADと左室閉鎖後最後に左室の切開部を閉じ、内胸動脈LITAを前下降枝にバイパスし、操作を完了しました。

術後経過は良好で、まもなくお元気に退院されました。

あれから5年が経ちますが、お元気に普通の生活を送っておられます。

その後もこの左室形成術で多数の患者さんをお助けできていますが、昔、救命できなかった患者さんのことを想いだしてはさらに精進しお役に立てるような心臓手術を磨いていきたく思うのです。

 

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事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術

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虚血性心筋症拡張型心筋症に対する左室形成術は適切な患者選択によって大きな成果を上げることができます。しかしこのことは循環器内科の先生方に十分知られているとは限りません。

つまり左室形成術によって救命し、さらに元気を回復できる、そうした患者さんが恩恵を受けられないというケースが全国で発生しています。

現在、全国の仲間の協力で重症心不全研究会が立ち上がりEBMデータを蓄積し、多くの内科医・臨床医のご理解を頂けるように努力しています。

ここで提示する事例は関東在住の30歳代前半の男性で、3か月前に大きな心筋梗塞をわずらい、近くの病院で治療を受けて何とか退院されました。ところが心不全が次第に悪化し、複数の有名な病院でも心臓手術は無理と断られ、私の外来へ来られました。

術前検査で左室Dd(拡張末期径)89mm、左室駆出率0%(計算上)と危険な状態でした(末尾ちかくにある術前後のエコーの比較をご参照ください)。左冠動脈前下降枝は完全閉塞しており、これが原因の虚血性心筋症と考えられました。

こういう患者さんをこれまで長年、お助けしてきましたのでお引き図1左室切開受けすることにしました。

まず体外循環を回し、

心拍動のままで左室を開けました(写真右)。

左室内には血栓があり、

図2左室血栓摘除これが脳へ流れれば脳梗塞になるため完全に摘除しました。

写真左は血栓摘除中の様子です。

ついで心筋梗塞でやられた部分とそうでない部分の境目に糸をかけ(これをフォンタン糸と言います)、

通常のDor手術(ドール手術)ではこの 図5新フォンタン糸かけ後フォンタン糸をただ締めてくくるのですが、

これを前もって4分割し、

主に横方向に左室を小さくするという私の考案した「方向性Dor」という左室形成術を行いました。

図7パッチ縫着後左室がSAVE手術(セーブ手術)に負けないきれいな洋ナシ形で、

しかもより短時間で正常サイズに近づいたところでパッチを縫着し、

左室を閉鎖して仕上げました。

僧帽弁が術前にかなりゆがんでいたため、僧帽弁形成術を併せ行いまし 図9MAPた(写真右下)。

 

術後経過はおおむね良好で、一度だけ歓談中の不整脈発作でお互い冷や汗をかきましたが、チーム全員が努力して患者さんを守り抜き、元気に退院して行かれました。

図10術前後の心エコー真左は術前後の心臓の様子をエコ―でみたものです。

ほとんど動いていなかった左心室がかなり回復し、形もきれいで安定度が増したのがわかります。

あれから6年以上の月日が経ちますがお元気と聞いてい ます。

左室形成術は適応を選び、うまく使うと患者さんに大変お役に立つ手術です。

本来心移植をしても不思議でないほどの重症患者さんですので楽な治療ではありませんが、心移植の数が限られていることから、患者さんにお役に立つ心臓手術と申せましょう。

こういう重症の患者さんは手間がかかり赤字になりしかもリスクも高いため病院からは嫌われることが多いのですが、日々治療法を改善しながらチームを育てて多くの皆さんの理解を頂きながら患者さんの救命ができるように努力しています。

 

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睡眠時無呼吸症候群 (SAS)とは

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◾️睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

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眠っている間に呼吸が止まる病気です。

呼吸が止まるといってもそのまま死んでしまうわけではありません。

しかし体は酸欠になるためさまざまな弊害が起こります。

呼吸が A304_026止まっている間の酸欠と、呼吸が再開したときの酸素飽和度の急速な増加のために動脈硬化を引き起こし、さらには心筋梗塞や脳血管障害へとつながります。

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交感神経を高ぶらせてしまうため高血圧や糖尿病をおこしたり悪化の原因になります。つまり単なる無呼吸にとどまらない、大きな病気の原因になってしまうので恐ろしいわけです。

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◾️睡眠時無呼吸症候群SAS、二次災害も恐ろしい

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起こるのは病気だけではありません。事故の原因にもなるのです。

夜眠っているときにこの睡眠時無呼吸症候群SASが起こると、夜中に何度も無理やり起こされるような形となり、睡眠が細切れになり、睡眠不足となります。

そのため昼Ilm18_ad03023-s間も眠くなり交通事故や職場での事故につながるのです。

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2003年2月に山陽 新幹線の運転手が居眠りをしてあわや大惨事になるまえに自動列車制御装置ATCが作動して無事だったという事例がありました。

このときの運転手さんが睡眠時無呼吸症候群だったことが判明し、危険な病気ということで話題になりました。

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◾️睡眠時無呼吸症候群の特徴は次のとおりです

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1.睡眠中に10秒以上の無呼吸が5回以上繰り返す

2.いびきを伴う肥満者に多く、高血圧の合併が多い

3.症状としていびきや昼間のひどい眠気や疲労感。朝起きたとき熟睡感がなく、頭痛などすることも。

4.米国睡眠学会AASMの定義は:昼間の過度の眠気もしくは閉塞性無呼吸に起因する症状のいくつかを伴い、かつ無呼吸低呼吸指数(AHI、1時間あたりの無呼吸低呼吸の回数です)が5回以上ある

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日本人では欧米に比べて肥満が軽いわりにはこの病気が多いことが知られており、何らかの治療が必要な方は全国に200万人はいると推定されています。治療を受けているのはごく一握りだけで、他の人たちは危険にさらされていると言えましょう。

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◾️睡眠時無呼吸症候群SASには大きく2タイプあります。

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1.上気道(のどの奥)が閉塞する閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS): こちらが大多数です。

2.のどに問題なく呼吸がとまる中枢性睡眠時無呼吸(CSA): 少数です。脳のCO2(二酸化炭素)センサーが弱るために起こります

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◾️重症度は大きく次の5段階にわかれます、、、、

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         AHI   眠気

1.健康者  5未満  なし

2.軽症    5-15  あまり集中していないときに思わず眠気や気づかず眠ってしまう。テレビや読書中などに。

3.中等症   15-30 多少集中が必要なときに上記が起こる。コンサートや会議中などに。

4.重症    30以上 かなり集中が必要なときに上記が起こる。食事中や歩行中運転中などに。

5.超重症   60以上

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◾️睡眠時無呼吸症候群SA A306_085Sのための合併症は、、、、

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健康者とくらべて高血圧は2倍に、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)は3倍に、脳血管疾患は4倍に、糖尿病は1.5倍に増えます。

まさに死の病になっていく病気なのです。

診断は問診とSpO2、脈拍などでメドが立ち、簡易PSG(ポリソムノグラフイー)という検査でおよそわかります。正確にはPSGで脳波、SpO2、脈拍、呼吸状態、心電図等をしらべて確定します。

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◾️閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療は、、、

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1.生活習慣とくに肥満を是正: ダイエット、運動、アルコールやタバコの禁止

2.睡眠習慣の改善: 睡眠薬を減らし、横向きに眠るなど

3.CPAP(マスクをもちいた呼吸器)での在宅治療

  空気を送り陽圧になるため、狭くなっていた気道が広がり呼吸がしやすくなります。AHI20以上が適応です

4.耳鼻科治療 上気道を広げます

5.歯科治療 受け口になるようにマウスピースを造ります

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◾️まとめ

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このA301_075ように睡眠時無呼吸症候群は恐ろしい病気です。上記の症状に心当たりがあれば、内科でその診断を受けて治療を早く開始しましょう。

SASイコール心臓病ではありませんが、その恐れがあるときには心臓の定期検診も一度は受けておかれると良いでしょう。

その所見に応じてその後の検診の計画が立ちます。

 

治せる病気で死なないように!

 

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手術事例: 虚血性心筋症に心室中隔穿孔(VSP)を合併した80代男性

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心筋梗塞後の心室中隔穿孔(略称VSP)は緊急手術を要する、きわめて重い病気です。

多くの場合、心臓手術しなければ、あるいはそのタイミングが遅れれば患者さんは死にいたります。何とかそれを避けねばなりません。

そこで私たちは患者さんが来院されると同時に、心臓と全身を守る治療を開始し、それと並行して素早く確定診断をつけて緊急手術へと進みます。

かつては比較的元気な左室に急性心筋梗塞が起こり、つづいて心室中隔穿孔が合併して緊急手術になった方が多かったのですが、最近はすでにうんと悪化した心臓に合併するというケースがみられるようになりました。まさに絶対絶命の状況です。

こうした患者さんをお助けすることに力をいれています。

患者さんは84歳男性です。

胸痛のため当院へ来院されました。

来院時、心エコーにて駆出率19%(正常は60%台ですから、19%は心移植に近いレベルです)と左室機能の極度の低下を認め、心尖部に瘤つまりこぶのような広がりがあり、以前に心筋梗塞を患われた跡がみられました。

つまり梗塞で左室の一部が死んでしまい、それが圧に負けて次第にこぶのように大きくなってしまったわけです。左室全体のちからも落ちて、いわゆる虚血性心筋症という重症の状態です。

 

血圧が十分にはでないショック状態のため、集中治療室ICUで強心剤の点滴を受けつつ、カテーテル検査に臨みました。

その結果、左冠動脈前下降枝が100%閉塞し、回旋枝も90%狭窄となっていました。そこでこれらの枝にカテーテル治療PCIでステントを留置し、改善を見ました。循環器内科の先生方のご努力に感謝です。

 

ところがその3日後、突然状態が悪化し、心エコーにて心室中隔穿孔が認められました。つまり心室中隔に穴が開いたわけです。

その穴を通って左室の血液が右室へと流れ込み、心不全と肺の強いうっ血が起こり危険な状態でした。

そこでただちにIABPという心臓補助のバルン(ふうせん)で状態を維持しつつ、まもなく緊急手術へと進みました。

 

図1左室切開後体外循環(人工の心肺です)・心拍動下に観察しますと左室前壁は心尖部から左室基部側2/3まで広い範囲にやられて薄くなっていました。

これを切開して左心室の中に入りました。

すでに壊れたところを切るため、心臓や患者さんへの影響はありません。


左室内を観察しますと、心室中隔と左室前壁が広い範囲にわたって薄くなり、その根っこがわ近くに直径6mmの穴が開いており(これが心室中隔穿孔VSPです)、その周辺部組織も死んでいました。

右上図の矢印がVSPです。周囲の心筋が壊死してぐちゃぐちゃになっているため、良く見ないと分かりにくいものです。

そこでまずこのVSPをプレジェット付き糸で直接閉鎖しました。

 

左室の瘤化した図2 4分割Fontan糸部分を形成しないと術後心機能が危険なレベルのため、私たちが考案した一方向性Dor手術を行うことにしました。

この方法では左室の洋ナシ型形態を保ちつつ、必要な左室縮小ができるからです。

神が創られた形に戻す、これがいちばん自然で良い結果が期待できるのです。

左室の中で、心筋梗塞・瘢痕部と正常部の境目に 図3 4分割Fontan糸完成後糸をかけ、おもに横方向にこの糸を引き、縫縮しました。

上図はその糸をかけているところです。

これできれいな形を取り戻すことができました。

右図はその糸をかけてくくった後の姿です。

上図とくらべて左室が細長い、自然な形にもどっているのが見えるでしょうか。

自然な形こそパワーを出しやすくする秘訣なのです。これはその後のいくつもの研究で証明されています。

図4パッチ縫着後そのうえで大きめのパッチを縫着し、パッチが良く膨らむようにしました。

これにより適正な左室容積が保てると判断したためです


左図はパッチをつけた後の姿をしめします。この時点ではまだわずかな圧しかかかっていませんが、すでにきれいに膨らみ、新しい左室の姿の一部を示しています。

体外循環を比較的少ない強心剤で無事離脱しました。

経食エコーでもVSPシャントつまり血液の漏れは消失していました。左室も適正な形と容積になり、動きも改善しました。

薬剤溶出ステントのための抗血小板剤プラビックスが3日前まで入っていたため、入念に止血を行いました。

術後経過は順調で、血行動態は改善し肺動脈圧も術前の50台から30台へ改善し、尿量も十分で術当夜には覚醒されたため抜管し、翌朝、一般病棟へ退室されました。

その後も経過が良く、術後2週間で元気に退院されました。

心臓手術から5年の時間が経ちます。すでに89歳におなりですがお元気に外来に定期健診に来られます。駆出率も38%にまで改善しておられます。

ご高齢だからといって、あるいは重症だからといって、内容を吟味せずに諦めるのは間違いと私は考えています。患者さんを比較的高い確率で救命でき、かつその後は楽しく暮らせる見込みが高ければ、頑張るべきと思います。

 

天皇陛下の冠動脈バイパス手術のあとで執刀医の天野先生が言われたのは、陛下がお元気で公務に復帰された時点で手術成功と言える、でした。このVSP患者さんの場合も同様で、本来の元気で楽しめる生活に戻ったところで成功だったと言えると思います。そしてその成功が5年以上維持できたとなれば、これは患者さんにとって極めて良い心臓手術になりましたと言っても支障ないと思います。

 

患者さんやご家族の頑張りに敬意を表するとともに、今後もお身体を大切に永く楽しく生きて頂きたく思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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11b) 冠動脈瘤ーー重症では注意が必要 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◾️冠動脈瘤とは?

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冠動脈瘤とは心臓に血液を送るたいせつな冠動脈の壁が壊れてこぶのように膨らむ病気です。Fotosearch_CAR05005

右図のうち赤い線は冠動脈を示します。ちなみに青い線は冠静脈です。(やや下のほうから見た図です)

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冠動脈瘤の成因として、先天性つまり生まれつきのタイプから後天性つまり生まれてから川崎病などの感染その他の原因で発症するタイプがあります。先天性心疾患である冠動脈瘻が原因で発生する冠動脈瘤もあります。

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◾️冠動脈瘤が悪化するとどうなるの?

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冠動脈瘤はその中で血流がよどんで血栓ができると心筋梗塞となりますし、瘤があまり大きくなると破裂して大出血します。いずれの場合でもいのちにかかわることがあり、油断禁物です。

とくに瘤破裂などが起こりそうな場合は心臓手術の適応となります(手術事例 冠動脈瘤)

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◾️冠動脈瘤を早期発見するために

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かつて冠動脈瘤の精密検査といえばカテーテル検査というやや大がかりな検査が必要でしたが現在はCTスキャンでとくに痛みや苦痛なく、10分ほどの短時間でかなり詳細までわかります。A309_085

造影剤は必要ですが、それも静脈からの点滴のため苦痛が少なく、点滴や飲水などを工夫することで腎臓への負担も最小限に出来ます。

さまざまな工夫により放射線被曝も少量に抑えることができており、患者さんにとって朗報です。

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予防が第一で、ついで早期発見です。見つかればほとんどの場合打つ手があります。

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◾️冠動脈瘤の治療は?

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冠動脈瘤が破裂しそうな時や、瘤の中に血栓ができて心筋梗塞などが発生しそうな場合には外科手術が考慮されます。

瘤を切開し、中にある血栓を摘除し、瘤をきれいな動脈に形成することが治療です。狭窄などがあれば冠動脈バイパスを付けることもあります。瘤が小さく、破裂や血栓の心配が少ない場合、しかし増大傾向がある時には瘤を外から包み込み、これ以上の拡大や進行を防ぐこともあります。これは体外循環を使わないオフポンプで出来るため患者さんの体の負担が軽くて済みます。

冠動脈瘻が原因で冠動脈瘤ができている場合は、瘻を徹底して閉鎖するようにしています。それにより長期の安定性が得られやすいからです。

私たちはその患者さんの冠動脈瘤と全身の状態に合わせて上記の手術法を選択しています。そして15MHzの高速エコーで瘤の内側の状態を確認しながらベストな形成を行なっています。

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◾️冠動脈瘤と川崎病との関係について

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この病気は川崎病の後遺症として起こり得ること 巨大な冠動脈瘤が知られています。

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写真右は川崎病の既往のある50代男性の冠動脈瘤(赤い矢印)です。巨大な瘤の中に血栓が多量にでき、それが下流へ流れて重要な冠動脈を閉塞させ心機能が大変低下していました。

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瘤や合併する冠動脈狭窄のために手術が役立つことが多々あります。

川崎病に特有な血管の炎症やそれによる血管内膜の破壊が強いケースほどバイパス手術は役に立ちます(心臓手術事例)。

というのはバイパス手術でもちいる内胸動脈グラフトが血管を守るホルモンを出せるからです。

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カテーテル治療PCIで使うステントとくに薬剤溶出性ステントは血管内膜を傷めるため川崎病では一層不利な状態になります。

なので、かつてこどもの頃、川崎病で冠動脈に多少でも病気が発生したかたは、定期健診を受けられることをお勧めします。

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執筆:米田 正始
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冠動脈疾患にたいするハイブリッド治療とは【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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◾️ハイブリッド治療の背景は

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冠動脈疾患の治療法にはまず食事や運動による予防、軽症例にはお薬や生活指導、重症例になるとカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに冠動脈バイパス術CABGなどがあります。最重症は補助循環(人工心臓)さらに心移植になってしまいます。

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冠動脈バイパス手術の一例です

冠動脈バイパス手術の一例です

とくに重症例でカテーテル治療PCIと冠動脈バイパス術CABGのうまい使い分けが議論の対象になっています。

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かつては重症例とくに左主幹部病変にはバイパス術という考えたが主流でしたが、その後PCIの進歩で一部の積極的な先生方は何でもPCIという時代もありました。

その後シンタックス研究(Syntax Trial)で冠動脈3枝病変の多くや左主幹部のある種のタイプにはバイパス手術が有利つまり長生きできることが証明され、時代は変わりました。ちょうどそのころ天皇陛下バイパス手術を受けられて、医療者でない一般の方々にもそのことは知られるようになりました。

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◾️そしてハイブリッド治療の誕生

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この2つの治療法の長所短所をよく吟味してみますと次のようなことになります。

1.内胸動脈をLAD左冠動脈前下降枝にバイパスすることは絶対的な意義がある。これはPCIの追随をゆるさない世界である

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DES02

ステントの一例です。これが冠動脈の中に入ります

2.他の枝つまり右冠動脈や左冠動脈回旋枝の通常の病変ならPCIは有用。そしてPCIは侵襲の低さでは絶対優位。

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これらを考慮すると、バイパス手術とPCIの良いところだけを選んで使う、いわばいいとこ取り治療が浮かび上がってきます。それが冠動脈病変におけるハイブリッド治療なのです。

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◾️ハイブリッド治療の代表例としては

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MIDCABミッドキャブ手術つまり左ミニ開胸で左内胸動脈を左前下降枝にオフポンプでつける。そののち他の枝はPCIで治療する。これが代表例です。

その後、さまざまなケースに対して内科と外科で協力するようになり、いわゆるハートチームですね、さまざまな応用例が出てきました。

たとえばバイパス手術のあと弁膜症手術が必要となったとき、冠動脈はPCIで済ましておいて、外科は弁を治すとか(お便り86などをご参照ください)、

患者さんの仕事や生活の都合上、どうしてもポートアクセス手術を希望されるとき、弁膜症だけならそれはできますが、バイパス手術も同時に必要な場合、正中切開が必要となります。そんなときにPCIで冠動脈を治しておけば、ポートアクセスで弁を治すことに専念でき、患者さんも速やかに仕事復帰できます。

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◾️その他のハイブリッド治療

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その他さまざまな応用があります。

冠動脈疾患以外でも、ハイブリッド治療は大動脈疾患における外科手術(人工血管置換術)とステントグラフトEVAR)の組み合わせなどの形も増えました。

あるいは拡張型心筋症に対して左室形成術僧帽弁形成術などの外科手術に加えてCRTやCRTDなどのカテーテル+ペースメーカー治療などですね。

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これからはバイパス手術のあと何年も経って大動脈疾患が発生したときのTAVIなども役立つことでしょう。そもそも生体弁による弁置換のあと、10-20年経って弁が壊れたときにバルブインバルブというTAVIをやれば再手術が回避できます。

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◾️まとめ

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要は英知を結集して患者目線で最高の結果をもとめる、内科が偉いとか外科が立派だなどという偏狭な考え方をすてて、皆で頑張る、当然といえば当然の治療、それがハイブリッド治療です。こうした考え方がこれからさらに進化していくと、さらに治療成績が上がり患者さんのハッピーライフにつながることでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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お便り97: 冠動脈瘤の患者さん

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冠動脈瘤は心臓に血液を送る冠動脈がこぶのように膨らむ病気です。これにはいろいろなタイプがあります。


Ilm17_da05008-sこどもの頃に患った川崎病(MCLS)の後遺症として大人になってから冠動脈瘤が大きくなったり心機能が低下したりすることもありますし、複数の瘤ができることもよくあります。また冠動脈ろうに合併することもあります。

冠動脈瘤そのものが大きく、破裂する懸念があればそれを修復する必要があります。瘤を切開して小さくするとか、瘤を潰すとか、外側にガードを付けるなどさまざまな方法があります。瘤の影響で血液の流れが低下しているときには冠動脈バイパス手術が必要なこともあります。個々の患者さんの状態に応じて適切な治療法を選ぶ必要があります。

私たちは再発しないよう、完治を狙った手術を行っています。将来瘤になりそうなところもなるべくガードをつけて予防するようにしています。必要なところには冠動脈バイパスをつけて安全を確保します。

以下の患者さんは70代男性で冠動脈瘤のため来院され、ハートセンターで手術を受けました。しっかりと治療させていただき、いつしか心の絆ができたことをうれしく思っています。

これからも永くお元気でいて頂けるよう、何かと応援したく思います。

 

********患者さんからのお便り******


私の心臓疾患治療体験談

私は米田先生のお陰で冠動脈バイパス3本、冠動脈瘤2個の心臓手術を受け、命拾いをしました。以下に私の体験談を披露し、同様の心臓病治療中の皆さんの参考に供したいと思います。

私の祖父が7月の暑い日中に畑に出て、49歳心臓発作で急死。父は82歳、心筋梗塞で急死しています。しかし私は若い時は自分自身の健康状態から、遺伝的因子など考えにも及びませんでした。

1964年〔40歳〕の頃  会社の健康診断で血液・レントゲン検査があり、血糖値が高く精密再検査

を要することになり、E会社勤務の帰途中のK市民病院(愛知県)を選び通院することにした。そこで運動前後の心電図等検査結果は心電図に本来プラスに出るべき波形が逆にマイナス方向の波形があり不整脈と診断された。

当時は仕事に紛れ、あまり自覚症状も無く治療薬も飲んだり飲まなかったりしていた。或るときは主治医から何の説明もなく心臓に放射線治療〔約1時間〕受けたが、此れが適切であったか今も理解できない。その後主治医から私の不真面目さからか他の病院に掛かるよう指示され、以後上飯田病院〔名古屋市内〕に通院することになった。

1974年〔50歳〕の頃  上飯田病院に変てってからも仕事に追われ、通院が不規則であった。

   私は毎朝仏壇の前で読経中、或る時に胸の動悸や息苦しさがあり声を出す事が出来ない事があった。また当時の私は各地への営業出張が多く、ある時には電気技術者対象の講演で聴講者の前での講話続行が苦しく、時には緊張すると息苦しさが激しかった

1984年〔60歳〕の頃  60歳でE社を定年退職し、同年Y社に再就職したが、ここでも地方出張が多く通院はほとんど出来なかった。

まもなく上飯田病院から中度の心疾患者として名城病院〔名古屋市内〕を紹介され、以来同循環器内科部長のI主治医に掛かることになった。当時私の体重は80kg、胴囲98cmと肥満の頂点にあり、これ等は心臓病に悪影響したと思われる。

ここで初めての麻酔のもと腕からの心臓カテーテル検査で血管の一部に狭窄部があることが確認された。しかしこの時手術は見送られ、引続き投薬のみが続行された。

1990年〔65歳〕の頃  その後Y社を退職し、自宅近くのS社に再々就職した。この頃から運動不足を自覚し、毎早朝の時間を利用し、矢田川河川敷の千代田橋から三階橋まで往復約5キロメータを2時間かけてのウオーキングしたことがある。

その後もウオーキング距離は2キロと短くなったが毎朝6時30分のNHKラジオ体操にも参加するなどの健康つくりに専念した。お陰で体調はよく心疾患はすっかり忘れるまでになった。

2000年〔70歳〕の頃  毎朝のウオーキングに左足が痛く次第に歩くテンポも遅く歩行距離も更に短くなり、また手足の痺れ、息苦しさがあった。また或る時には風呂上りに悪寒を催す等体力の変調が見られた。                               

2008年[75]の頃   平成20年10月26日朝5時ごろから矢田川河川敷ウオーキングで、天神橋まで来たとき激しい息苦しさに襲われ苦しい中にも我が家に戻り、ベットに付くが苦しさは収まらず救急車の酸素吸入状態で名城病院に搬送された。

原因は不整脈と診察され入院翌日に電気ショックをうけ1週間後に退院した。

2009年1月16日   名城病院で初めてのカテーテル検査から10数年も経過し、ここにきて再度116日カテーテル検査があった。

この検査結果報告に初めて妻や子供達も参集するよう指示があり、この場で初めて冠動脈瘤、血管膨張部・狭窄部等があり、このままでは冠動脈瘤がいつ破裂するかわからず早期の心臓手術が必要とされた。

病気治療の無知な私達は10数年間経過するまでカテーテル検査を怠り、今に至り早急に「心臓手術をしなければ命がない。」とアドバイスされた。

ここまで病状が悪化したことに対し不害さを思い知らされ病院を変える事にした。

一般的に大病院は多くの患者が通院しており、主治医にもよるが1人の診察に時間が掛けられず適格な病状診断が出来ない場合も多いかと思われる。私も循環器内科薬冶療のみに頼ったことが反省させられる。早速[名医のいる病院]等の雑誌やインターネットで名医探索をした。

2009年3月13日   インターネットその他で我が子たちが心臓手術の名医を調査してくれた果、

開業後の知名度もなかったが名古屋ハートセンター米田先生と決め、3月13日同病院に入院し再検査した。

主治医は副医院長米田正始先生にお願いするとし、316日〔月〕米田先生執刀のもと補佐に深谷・北村先生が付き午前10時~午後17時ごろまでの極めて長時間で難易度の高い心臓手術が行われた。

米田先生の術前後の説明その他資料等から総合すると手術は先ず喉から呼吸気管、下部には排尿管を通し、そして胸部切開手術が開始された。

私の破裂寸前の冠動脈瘤は心臓の表と裏側に位置している。このため表側のバイパス血管手術後、予め用意された手術視野の悪い心臓裏側にある冠動脈瘤の手術には心臓の位置を変えなければならない。これには人工心肺装置を使う方法もあるが、弊害もあるので今回は新しく開発された手術法の拍動する心臓の動きを部分的に抑える器具をもちいてのオプキャブ (OPCAB)法が採用された。この手術には胸骨は或る程度大きな切開となるものの手術の安全確実な方法とのことであった。

まだまだ難易度の高い手術もあるが、私の手術はバイパス3本、血管外部からの狭圧補助管2箇所を一部は自分の足の血管を採用して今回の難手術は成功した。

そして入院20日後の4月1日〔水〕無事に退院することが出来た。 しかし術後と言ど脳梗塞、心不全不整脈、心筋梗塞、肺炎等に依然として注意が必要との事であった。

     今回私は優れた心臓外科手術の名医米田先生にも恵まれ、また医療費は高齢者医料補助による患者負担費10分1として計算すると約130~150万円掛かったことになるが、補助のお陰で大きな手術ながら低額費で済んだ。

私は死の一歩手前で助かつたが、これも献身的な皆さんのお陰と深く感謝する共に大変ご心配をお掛けし申し訳なく茲に心からお礼を申し上げる次第である。        

2009723日 退院後は自宅近くの北病院浅海先生に米田先生の指示で事後治療をお願いする事になった。その約5ケ月後早朝散歩の3歳年上の友人からの勧めで私も2カ月後北病院で肺炎予防ワクチン注射をお願いし此れが災いしたか ?

やがて胸苦しさを覚え、私は名古屋ハートセンターに駆け込みレントゲン検査を受けた結果、胸水が溜っているとの診断で再入院。米田先生の術後は「肺炎余病等の注意」が現実となり同先生のご指導のもと緊急処置で胸水1200ccを抜き取った。

7月31日に退院し、名城病院気管支内科に転医したが、胸水病原菌を調査したいと云うものの胸水抜き取りは躊躇され、排尿剤の服用のみで苦しい思いが続いた。

一方友人は寒くもないのに毎日マスクを掛け、異常を訴えていたが、その1年後に肺炎で病死した。私には病名、外科的処置等は判らないが、私も緊急処置がなかったら同じ運命の危険性もあったかと思う。

 

今回私の心臓疾患等の経緯から、術後約5年経過。お陰さまで今日の健康回復に感謝し毎日を過ごしている。

今日其々の地域には大学病院等の大病院もあり、手術事例、件数等も記載した書籍もあるが、意外と主治医の経験不足もあると聞く。今毎週BS日テレ放映中の[韓国ドラ・ホジュン官邸医官への道]は主演ホンジュンは旅の行く先々で貧乏急患が担ぎ込まれ、他の医師は断る中で危険な急所に針を正確に打ち適切なアドバイスで処置する民への芳心が米田先生とダブリ鑑賞している。

経歴、人柄もまた重要な信頼要素でもあり、この種の情報は米田先生のホームページネット等を参考とすれば理解できる。

この種の情報は人から人に伝わり、また寝たきり防止のためにも同病者の体験談等も参考にすべきだと思う。

米田先生は京大心臓手術専門医から米国大学等にも留学し、心臓手術を研鑽され、今日なお専門医の第一人者として若い医師の指導育成にも力を注いでいる。

今回の「かんさいハートセンター」の開設は地域住民の健康と活性化に大いに役立つものと期待される。

 

      人の病気は加齢と共に進化し、また抵抗力も弱まり判断力も鈍くなるが、薬治対応等だけでは健康回復が遅れ、多病を併発しやすい場合がある。

いずれにしても自我流対応の遅れが致命傷となる。油断せず時には信頼できる主治医の病院に代えたり、手術等の早期治療を図ることが最も大切であると学んだ。

 

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