心臓弁膜症とマルファン症候群について―よく起こるためご注意を

Pocket

心臓弁膜症というのは、弁の逆流とか、狭くなるとかで、

特にマルファン症候群などの結合組織の病気の場合は、大動脈弁、僧帽弁の逆流ですね。

 .


図 僧帽弁形成完成図 僧帽弁の再建について。

僧帽弁は、2枚(前尖・後尖)が閉じたり開いたりしています。

ピラピラ開いたりしているところを支える糸(腱索)がやられるのです。

糸が順番に切れていって逆流が強くなって来られるパターンは、形成がしやすいです。

糸ですので、人工の糸(ゴアテックスの人工腱索)に変えて形成すればいい のです。

 

ただ長さを決めたりするのがけっこう難しいので、慣れている外科医でないとあまりできません。

とくに多数の人工腱索を立てる時ですね。

 

個人的には 人工腱索は、20年前くらからやっていて、一番初めからやっていたグループの一人です。

トロント大学に昔行っていて、そこで人工腱索の手術を開発した経緯 があります。

おかげで20年以上の経験の蓄積があります。

人工腱索は、後で切れるということはまずないです。

 

僧帽弁(大動脈弁もそうですが)は、人工腱索などを用いて弁がバシッと合うと、長持ちします。

どちらかが落ち込んだり、はずれたりして、ひとりぼっちになると、どんどんダメになるんです。

人間と一緒で、支え合っているうちは長持ちする んですね。

前と後ろがバシッと支え合っていると普通でいけば何十年単位で長持ちします。

.

大動脈弁の弁膜症は、弁そのものよりも、弁の付け根の大動脈が広がって起こること 自己弁を温存できるデービッド手術 が多いです。

そこで大動脈弁を含めた大動脈の付け根(大動脈基部と呼びます)を全部置換するベントール手術や、

患者さん自身の弁を温存する基部再建(デービッド手術やヤクー手術)を行います。

.

自己弁形成(再建)と生体弁について

弁形成にこだわる理由としては、

弁形成ができれば、ワーファリンがいらないです。

若い人の場合はこの辺が大事です。

女性の場合は妊娠出産ができるようになります。

男性の場合は、仕事とかスポーツが非常にやりやすくなります。

要するに、生活の質がよくなるわけです。

.

妊娠出産のために弁形成術は必須なのですもちろん、機械弁もよくなっています。

機械弁に したら、とりあえずそれで病気は落ち着きます。

ワーファリンを使いながら、妊娠出産に努力している産科の施設も一部あるようですが、

まだ課題は多いと いうところです。

今も時々相談がありますが、

やっぱり機械弁を持って妊娠出産というのは、相当な覚悟と入念な準備をしないと。

楽にできる状況ではありませ ん。それもあって、やはり弁形成なのですね。

.

それでは、生体弁ではどうなのか。

生体弁も、もちろんひとつの良い方法です。

若い女性で、自分の弁を形成できないくらいボロボロになっている場合、生体弁にします。

その場合、どんな問題があるかというと、あんまり長持ちしないのです。

生体弁は、年齢に もよるのですが30代40代という若い人であれば10年か余りくらいに考えておくのが慎重で確実です。

若いということと、妊娠すると、お母さんの分だけでなく赤ちゃんが成長するカルシウムで、その分、弁の寿命が何年か割引になるのです。

 .

「それでも構わないからやってほしい。その変わり次の手術はしっかりやってほし い。」と、そこまで預けられたら、しっかりやります。

それもひとつの方法で、出産後ちょっと落ち着いたところに弁が壊れてきたら、そこで機械弁に替えるわけです。

大変ですけど。

 

初めの手術のリスクが1%以内であれば、2回目の手術のリスクはだいたい2%以内ですので、普通でいけば勝てるというくらいのラインは出せます。

しかしこれも外科チームの慣れ・熟練が大事です。

再手術というのは独特な問題や課題がありますので。

.


弁形成は、若い人でも長持ちするんですね。そこは生体弁と違うところです。

.


●質問:生体弁に置換後、生体弁の交換時期にはどのような症状が現れてくるのでしょうか?


お答え:生体弁が年月を経て壊れてくると、弁が逆流したり狭くなり、その症状が現れます。

生体弁が入っている位置つまり大動脈弁か僧帽弁かで症状も多少違います。

よ くあるのは息切れ、とくに体を動かすときの息切れや動悸、足のむくみなどです。

 

大動脈弁に入った生体弁が壊れれば胸痛やふらつきなどもあります。

一般にそ うした症状は次第にでてきて突然死することは少なく、

おかしいと思えば病院へ行く時間がある場合は多いようです。

.

●質問:大動脈弁の自己弁温存(形成)の場合、個人差があると思うのですが、

何年か過ぎたら安心できるということはあるのですか?

お答え:逆流がほぼ完璧にとれていれば、長持ちしやすいです。

それでも、手術の段階で薄くなっていて穴が空きそうであれば、普通よりはより一段、より慎重なフォロー をしておいたほうがいいです。

それで、私たちは、形成はできるけれど“10年持つか”ということをいつも考えて、10年持たないのであればそれは生体弁の 方が上と考えています。

.

生体弁は40代以上であれば10年は確実に持つ。うまくいけば15年持つ。

それだったらむしろ自己弁にこだわらず、生体弁にしよう ということもあります。

これはケースバイケースです。

発表されているデータも違うのです。

それぞれ正確に発表しているから違うのです。

.

厳しい基準でやっているところは、形成(再建)できる率は落ちます。

そのかわり、再建できた人は長持ちするというわけです。

そこは、内容をよく吟味して考える必要があります。

 

.

僧帽弁の場合は、まず形成できたらずっとそれでいけますので良いのですが、大動脈の場合は“形成できる=すばらしい・ベスト”ではなくて、“長持ちするも のがベスト”なのです。

必ずしも再建にこだわるということではないのです。

5年しか持たない形成だったら、それは生体弁のほうがいいわけです。

実質をよく 検討する必要がありますね。

 

(2017年5月註)その後大動脈弁形成術は長足の進歩を遂げました。講演会の頃と比べて弁形成それも長持ちする事例がずいぶん増えました。さらにこれは長持ちしやすいかどうかの見極めも、感覚や経験だけでなく、弁のジオメトリーで客観的に判断しやすくなりました。ドイツのシェーファーズ先生やベルギーのクーリー先生の業績に負うところが大きいです。

 

ただし循環器内科の先生方にはかつて大動脈弁形成術を高名な先生に依頼したらどれもうまく行かなかったということで、現在も大動脈弁形成術に否定的な方もおられます。10年前のデータではなく現在のデータで検討することが大切です。時代は変わったのです。

 

.


機械弁について

StJudeValve機械弁は音が人工血管内で反響して聞こえやすいです。

高性能で音が静かな弁もあります。 

機械弁の良いところ。

ある程度の年齢になって、妊娠出産の希望はないとか激しいスポーツをすることもないなどであれば、

きちんとワーファリンをコントロールできる人であれば、

機械弁は逆に良い選択肢になる場合もあります。

.


機械弁の場合、将来自宅でINR(血液検査の方法、これでワーファリンの効き具合がわかります)が調べられるようになると大きいと思います。

健康な方で鼻血が止まらないということで調べたらINR(血液検査の名前でワー ファリンの効き具合がわかります)が上がっていたとか、

夏風邪でお腹が下って食べられなかったためビタミンKがほとんど入っていない。

そうするといつもと同じ量を飲んでいてもワーファリンが日ごろの数倍効いている。

野菜もワーファリンもコンスタントに食べる。

それが崩れるときにINRを調べればよい。

.

糖尿病の患者さんが、家で血糖値を計るみたいに、家でワーファリンの効き具合をみるということは、外国ではできるんです。

日本ではなぜかこういう認可がなかな か下りない。

いわゆるドラッグラグならぬ、デバイスラグですね。

.

家でワーファリンのチェックができるようになる ワーファリン3332001F1024
と、非常に安全性は高くなると思います。

.

野菜をたくさん食べる日もあれば、食べない日もありますよね。

食欲自体もある日とない日があります。

野菜をあんまり食べない日は、ワーファリンの効き具合が ガーンと上がるのです。

逆に、いっぱい食べた日は下がります。

下がった時に、脱水とかが加わって血栓ができるということは起こり得るのです。

.

では、どうし たらいいか。そういう時に、自分でちょっと血液を調べて、

「あぁ、ワーファリンが効きすぎてINRがのびている」とわかれば、

すぐにかかりつけ医や専門病院に電話して、

「いつもは3錠だけど、今日は1錠にしておきましょう」などという細かいアドバイスをもらうことができるようになります。

今はそういう時どうするかというと、お手数ですけど、病院に来ていただいてINRを調べます。

血液検査を受ければ、即座に手を打てるので、安全性は格段に高まりま す。

機械弁をお持ちの方によく言っていることなのですが、

そういうちょっとした手間を惜しまなかったら、安全性はうんと上がります。

.

●質問:ワーファリンのいらない人工弁について。

ベントール手術を受ける際、医師よりOn X弁を使いますという説明があり、

もしかすると将来ワーファリンがいらなくなるかもしれませんという説明でしたが?

.

お答え:OnX 弁というものは私たちも時々使っています。

ヨーロッパではワーファリンなしで使えるというデータがあるのですが、

しかし最新の研究データでは、ワーファリ ンなしで脳梗塞を起こしたという例が若干出たので、ワーファリンを止めるというのは良くないというのが現時点での認識です。

ただ数十例以上ワーファリンな しでうまくいっているということがあるので、30代で不整脈が全くなくて、これこれという条件を満たす人なら大丈夫・・・

今後そうした可能性はあると思い ます。

.

もしOnX弁でワーファリンが半分に減らせたら、これはすごい大きなことです。

仮にワーファリンなしで行けなくても、ワーファリンを減らせるだけで も立派なことです。

OnX弁はまだまだこれからのものです。

究極の弁というわけではありませんが、OX弁はよい選択肢のひとつかも知れません。

.

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月 にもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

大動脈解離とマルファン症候群について―― 備えあれば憂いなし

Pocket

20年以上前、石原裕次郎さんという国民的大スターが急性大動脈解離になった当時の死亡率は20~30%はありましたので、無事元気に生還したということで話題になりました。

その後、加藤茶さん。作家の方もおられました。やはり、頻度が増えているのですね。

 .

左がA型解離、右がB型解離.

いろいろな 思い出があります。

マルファン症候群の患者さんで、下行大動脈の手術を別の病院で受けられて、ちょっとしたご縁で私の外来に来られて、術後の状態で安定して いるから、でも今後の備えのためにフォローアップしましょうかとしていた方です。

検査などでは何も問題がなかったのですが、急性大動脈解離(A型、上図の左側です)に突然なられて。

ただ、いつかそうなるかもしれないよという事で、その時はこうしてこうやってと打ち合わせを日ごろ患者さんとしていましたので、

患者さんが「先生、解離になりました」と電話をくださいました。

「じゃ、予定通りどこそこの病院に行って。私も今から行くから」と.

すぐ緊急手術し救命できました。

当時、私は大学病院にいて、そこでは緊急手術がなかなか思うようにでき なかったので前もってそれができる病院を相談していたのです。

そのくらいの心の準備ができていると、わりとスムーズにオペでき、

元気になって退院されました。

 

B型解離(上図の右側です)は、一般には薬、特に血圧のコントロールと、手足への流れ方、内臓をしっかり守っていけば、むしろ手術しないほうがいいというデータが出ていました。その後TEVARと呼ばれるステントグラフトで内張をつける方法が発展しつつあります。

そういう経過から解離の範囲によっては、ま ずA型解離をB型解離にまで治すというか変換する術式が良いわけです。

そうすることで熟練したチームなら比較的短時間で終わりますし、オペ自体は成功率が高く、ほとんどの場合うまくいけるというところまで来ています。

.

しかし、一部にいろんな条件が重なって、術前から、解離して脳梗塞を起こしているというという場合などは、 まだ課題があります。

B型大動脈解離でも、時間とともに解離した大動脈が大きくなったり破れる恐れがでてくれば手術します。

下降大動脈や胸腹部大動脈が直径60mmを超えれば手術適応です。

でないと破裂して命にかかわるからです。

.

マルファン症候群の患者さんの場合は組織の弱さを考えて、一歩早目にやります。

ヨーロッパのガイドラインなどでは胸部大動脈・バルサルバ洞とも直径50mmになったり年5%以上の急激な拡張があれば、

破裂や解離の心配が 高まるため外科手術を推奨しています。その後さらなる経験の蓄積で直径45mmで手術する方向にあります。

.

●質問:大動脈解離を起こして、しばらく座っていたり、動かなかったら治まりますか?

お答え:昨日の晩は痛かったけれ ど、今朝からはもう痛くない。

だから家で様子をみているという方がたまにおられます。

それは盲点で、ずっと痛いという方もおられるのですが、確かに解離が進んでいる最中は激痛が走ります。

.

いったんそれがとりあえず落ち着いて、解離した所はそのままであっても新しいものは起こっていないという状況で、ちょっと痛みがとれる時があります。

それは良くなったというわけではないので、何かする必要があります。

特に上行大動脈に解離があれば、

まもなく破れたり、心臓が止まる可能性が非常に高いので、「これで家でゆっくり様子をみよう」というのは危険なのです。

手術によってのみ救命できます。

一回強い痛みがあったら病院に行って頂くのは非常に大事です。

.cst027-s

家庭の医学書などでは、『強い胸の痛みや、背中の痛みがあったら、病院へ』と書いてあってそれは全くその通りなのですが、

いったん痛みが和らいで楽になったら、その時どうしたらよいかというところまでは、あまり書かれていないと思いますので、そこは注意してください。

.

解離が起 こっている間が激痛ですけど、いったん広がりが一時的にでも止まったら、痛みが消える場合がある。これは盲点です。

.

B型大動脈解離であれば、治まって安定させていけばいいということはよくあるのですが、

それでも、やはり血圧が高いと更に進んでいったり破けたりということがB型解離といえどもあるのです。

まずは心当たりの病院に連絡してもらって、

病院では血圧を徹底的に下げて(例えば80とか90くらいのレベルで)、

もちろん命が充分安全な範囲で思いっき り下げて、まずは大動脈を早く安定させます。

ですから、解離が起きてしばらくして治まったからそれでいいということではないのです。

十分注意してくださ い。

.

●質問:大動脈解離の場合、腹部、心臓基部で痛む場所は違いますか?

お答え:腹部ならお腹か背中。

下行大動脈なら背中が多いです。

上行大動脈の場合は胸です。

みな普通の痛みではないです。

患者さんの話をお聞きすると、人生で経験したことのない強烈な痛みと言われます。

 

解離とは違いますが、腹部大動脈瘤破裂で来られた場合、背中側で破裂した場合、背骨があるのでそこで止まるんです。

外来に来られて、今日は腰が痛くて痛くてと。触ってみると腹部大動脈瘤がある。

検査しようかと思うと、道端に車を置いていて気になるのでちょっとそれを動かしますとなって、車を動かしてから検査したら破れていました。

手術で元気になりましたけど危なかった。そういうこともありました。

.



何もしていないのに急に下肢が痛むときはご用心を解離の症状でもう1点。解離すると大動脈からいっぱい枝が出ていて、そこがぎゅっと抑えられて、

そこの大動脈の枝の血管に、血液が流れなくなるための症状 (虚血)いわゆる酸欠になることがあります。

例えば、大動脈が解離して左足に行く血管が抑えられたら、左足が痛いという格好で出てくることがあります。

左足が痛い、右足が痛い、左手が痛いとか。

.

心臓に行く冠動脈がぎゅっと抑えられて、心筋梗塞とそっくりな状況で胸が痛いと来られて、パッ診て「この人心筋梗塞だ!」と一所懸命カテーテルで治そうとして、でもおかしいなと。

全然よくならないなと、もう一回CTを見たら「あ!これは大動脈解離だ」と。

そういうエピソー ドが全国的にけっこうあるんですね。

そこで、医者によく言っていることなのですが、

大動脈解離の症状は、大動脈が剥がれる時の痛みや、大動脈の枝(どの枝であっ ても)が閉塞する時の症状があるということです。

みなさんの観点から言えば、日ごろないような痛み、特に胸、背中が多いですけど、

そういうものがあれば、これはおかしいと思ってすぐ病院に行っていただくのがいいですね。

 .

●質問:ギックリ腰と、どう区別するのでしょうか?

お答え:腰の向きや姿勢とかで痛みが変化する場合は腰の可能性が大です。

どの向きでも痛むとなったら血管でしょう。

しかしひどい痛みがあったらとにかく病院へ行って調べてもらってください。

.

 

●質問:大動脈解離かもしれない人に心臓マッサージやAEDはしてもいいのでしょうか?

お答え:心臓が止まってしまったら、やはりやらざるを得ません。

しかし原因、たとえばタンポナーデ(大動脈が破れて血液が心臓の周りに貯まり、心臓を圧迫します)が取れない限りマッサージもAEDも効きづらいでしょう。

.


●質問:どうせ解離するのだから病院へは行かないというのは、どう思われますか?


お答え:それは逆です。やっぱりわかったら向き合うことは大切です。

目を反らすのは大マイナスです。

すぐ治療すれば解離は治せる病気だからです。

.


●質問:頚動脈に解離が残っている場合、何もしなくてよいのですか?


お答え:症状もなくてそれほどの場合でもなくて残る場合はあります。

実害がなかったら定期検診していくのがよいです。

.


手術について

●質問:解離して、弓部大動脈の手前まで手術しています。腹部大動脈はどのくらい大変な手術なのでしょうか?難しい手術ですか?

お答え:大動脈基部や弓部周辺の変化や手術後の方の場合でも、お腹は必ず調べます。

中にはだんだんお腹の大動脈も膨らんで来る場合もあります。

それはちゃんと定期検診している場合ですので、それは割と安全なのです。

もちろん小さい場合は手術しなくていいです。

.


腹部大動脈を替えるのは、胸部よりもはるかに簡単です。

図1上行大動脈は、ただ遮断したら死にます。

頭に行く血管もありますし、内臓に行く血管もありますから。

腹部は、足に行く血管だけなので。足は10分20分遮断しても問題はありません。

腹部大動脈瘤の手術死亡率は1%よりもだいぶ下です。

下半身麻痺のリスク もほとんどありません。

ただし胸腹部の解離で脊髄への血流が腹部大動脈の枝から送られている場合は腹部大動脈の手術で麻痺がおこることがあり注意が必要で す。

リスクは前もってある程度以上予測ができます。

弓部は、頭や内臓心臓手などが関与するため、1%よりは手術死亡率のリスクは高いです。

年齢や状態などにもよりますが、経験豊かなチームなら5%以内というところでしょう。

.

●質問:一番大変な手術は何ですか?基部、次に弓部ということになるのでしょうか?

お答え:基部弓部を両方いっぺんに替える場合は、それだけ大きな手術になりますので、それだけリスクも若干上がります。

若い人であれば体力的な面では大丈夫です が、年齢の高い方は体力に問題が出てきます。

このあたりは、手術チームの慣れも重要ですね。

基部、弓部ともやや大きな手術となるため丁寧に行います。

一発 で出血がきちんと止まれば、比較的短時間で手術終了できます。

.


●質問:人工血管置換後に現れる症状にはどのような症状がありますか?血圧上昇やめまい等は必ず現れるのでしょうか?


お答え:胸部大動脈でも腹部大動脈でも人工血管に置換したあと、とくに症状はありません。ただし脊髄への動脈が影響を受けた場合は下半身が動かなくなることがあります。こうしたことが起こらないよう、脊髄動脈には十分注意します。

血圧上昇やめまいは人工血管のせいではありません。

血圧上昇はもっと端々の 細い動脈の収縮や心臓が多量の血液を送るために起こります。

めまいは脳神経や頸動脈、三半器官、心臓その他の異常によって起こります。

.

●質問:ある病院ではまだ手術適応ではなく、別の病院では同じ径の太さで手術を勧められるということを聞きます。患者はどうしたらいいのでしょうか。

お答え:手術するにも多少の幅があります。

絶対やらなければいけないというまでの間に破れる率もあります。

そこまでを考え、確実に治せる、かなりの確率で治せるとい うのならケースバイケースです。

ガイドラインはあって、何ミリになったらやりましょうということはあります。

例えば、腹部大動脈瘤は普通5センチで手術し ますが、5センチまでで絶対破れないかというと結構破れるんです。

4.5センチくらいで破れたというケースを知っていますし報告もあります。

とはいえ比較的少ないので、5センチで手術というのが標準ですが、形が破れそうだとか、マルファンでは5センチより小さくても手術します。

(セカンドオピニオンでは) 「どこどこで、○センチで手術するといわれた」と言っていただいてよいと思います。

下行大動脈瘤で、これはいくら何でもまだ手術はいらないでしょ うと定期検診をしていたら、他の病院でステントグラフトをやることになりましたと患者さんが言います。

ステントグラフトだから簡単だから早くするというこ とになったのかなあとは思いますが、

まだやらなくて良いうちに手術したのではとも思いました。

やはり疑問があれば相談をされるのがよいと思います。

.

●質問:緊急手術と、計画(待機)手術の違いはどういうところでしょうか?

お答え:弁置換でも大動脈弁だけ取り替える手術では、

慣れていない人で、心臓を止めている時間で70分から90分ほどかかりますが、

慣れている人ではその半分くらい でいけます。

弁を一つ替えるのに心臓を止める時間が80分でも40分でも、

結果は何も変わらないんです。

患者さんは元気になります。

ところが、もうちょっ と大きな手術になって、

慣れている人でも3時間心臓を止める手術になれば、

慣れていない人では6時間か、6時間では済まない場合もあります。

そうすると、 これは生きるか死ぬかの差が出ます。

大きい手術の場合は、その差が顕著になります。

あるいは、再手術とか。あるいは何か難しいことがあるような場合。

 .

それ があるので、施設集約ということが大事なのです。

あまり手術をやっていない病院を山ほど作るよりは、しっかりやっているところを少数に。

特に大きな手術ではものすごくそれがあります。

アクセスから言うと、患者さんは、私の町の心臓血管外科があるほうが便利なのですが、

それは非常に熟練度が必要で、スポーツ と一緒なんです。

 .

野球のピッチャーが中1週間で登板するのが多いですが、

それが中2カ月くらいで登板したらどうなるかと言ったら、

それは試合にならない、 そう言ったところがあるのです。

チーム全体として1年通して慣れている、熟練していることが大事なのです。

大きい手術になればなるほどリスクは上がって行 きますから。

医者は自分が手術する場合、病院を選びます。

近くにあるから便利という選び方は、私もしません。

大きな手術であればあるほど選ぶことが大事で すね。

ただ、緊急の場合は選んでいる暇はありません。

緊急手術は胸が痛い、苦しい、何とかしてほしい…。

CTを撮ってああこれは解離だ!今から手術だ!そうした場合です。

いろんな準備ができなくて省略があります。

また、緊急手術ですと体の状態がすでに悪いことがあって、手術前から腎不全などがあ り、このままでは死んでしまうので手術しようと。

それで緊急手術は待機手術より成績が悪いのです。

破けてからでも救命したことはありますが、

やはり破けてからでは、病院に来る前に血圧がよくても40、50くらいとかで、

非常に危ない姿になってからになります。、

破けるまでに余裕をもった計画的な手術であれば、翌日くらいには歩いたりできるようになります。
それで日ごろからの工夫ですね。

マルファン症候群の方で、「今は症状がないけれども、将来いつの日か緊急手術を受けないといけないような気がするので、

一回 顔つなぎに来ました。」という方が時々おられます。

それは非常に賢明な事です。

そうしておくと、どんな方か、どういう状況かわかっていますので、

仮に1年後に急に倒れて意識のない状況で来られても、

この人はこういう病気をもった人だということがわかり、安全性が高くなります。

家族の中でも、あるいは、かかりつけの中でも、日ごろからちょっと備えをしておくと、いざというときに強いですね。

 

Heart_dRR
血管手術や心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月 にもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

大動脈瘤とマルファン症候群について

Pocket

結合組織の病気、マルファン症候群

エーラス・ダンロス症候群あるいは

ロイスディーズ症候群(Loeys-Dietz症候群(LDS))の方は、大動脈瘤大動脈解離になりやすいです。

また大動脈二尖弁には今まで、結合組織疾患という認識はなかった(手術をしている際、二尖弁の患者さんは大動脈が弱いねという話しはしていましたが)のですが、

ここ数年研究が進み、大動脈の壁と弁の両方の病気であることが解明されました。

遺伝子レベルで弱点があり、年齢とともに大動脈の壁が血圧に耐えられなくなり、

瘤になっていくわけです。

こうしてわかってきた病気を入れると、結合組織疾患はずいぶん多いようです。

.

そうすると、長期的な支援や研究体制を組みやすくなる地盤ができだしたと言えるでしょう。

病気自体は、それぞれの病気に応じて、違う内容で少しずつ治療法も違ってきますが、

将来的には遺伝子治療とか組織工学で弱いところをきちっとマークしてしまえば、

手術なしで治るようになるだろうと思っています。

.

ただしまだ時間がかかると思います。

従って、今のところ、病気とくに大動脈瘤の早期発見ですね。

CTなどで定期検診をして、できるだけ大事に至るまでに治療を始めることです。

.

図 トータルアーチ (弓部動脈瘤手術の画像を見ながら手術のお話し)

マルファン症候群などの結合組織の病気じゃなくても、ある程度の年齢になれば大動脈瘤はけっこう多いです。

 .

血管の手術というのは、動脈瘤があったら、その両側を仮遮断して、血液の流れを止めておいて人工血管に替える。

基本コンセプトは比較的単純。

ところが、場所によっては、脳に行く血管、心臓に行く血管など、ただ単に遮断すると困りますので、

いろいろ工夫しなければいけないわけです。

いろんな方法があり、適宜それらを使いわけています。

.

人工心肺(人工の心臓)という機械にのせて、

20度そこそこに冷やしておいて、循環を一時止めておいて、

をあけて、頭にいく三 本の大きな枝を切断。

血管の頭側はほぼ正常ですので、心臓側だけを取り替えれば元気になります。

.

(別動画)
下行大動脈。動脈瘤のところに血栓がいっぱいあります。

動脈瘤の中の血栓ってこんな感じなんですね。

それをスプーン・・・普段、家で使っているスプーンですね。

血栓を取り除くためには これが一番便利。

もちろんちゃんと消毒しているものです。

血栓が飛んだらえらいことになりますので、入念に取っているわけです。

それで、背中側の下に降り て行くところのちょうどここから先はきれいというところでつかまえて、

そこに人工血管を吻合(ふんごう)します。

奥の深いところでも全貌が見えますので、 きちんと固定して引き抜く。

あれやこれやいろんな工夫をして、その結果として、成功率が非常に高くなってきました。

.

昔、私が医者になった頃、20数年くらい前 は、まだ死亡率が高かったです。

15%とか20%とかですね。

ところが今はもう、普通ならまずいける、成功率95%かそれ以上。

100%にだいぶ近づいて きたというところですね。

それはいろんなことの進歩があるわけですが、

ひとつはこういうノウハウの積み重ねです。

大動脈手術は、確かに大動脈自体が全身に 広がりがありますので、比較的大きくなりがちなんですけど、

逆に言うと、出血さえカチッとコントロールできれば、かなり安全な手術になる、

今はそんな印象 です。

.

もちろん全身を守りながら。頭と心臓、肝臓、腎臓などの内臓ですね。

手術の後はこの場所(人工血管)が破れるということはまずないです。

力自慢の人が思いきり 引っ張っても、破れることはありません。

そこで手術のあとはそれ以外の大動脈を守っていく定期検診などが必要です。

.

(別画像)
患者さんはマ ルファン症候群の52才女性。

大動脈弁の逆流と、弁の根っこが広がって 図 ルート解剖 います(基部拡張)。

これは比較的よくある病気です。

大動脈の根っこが、本来のサイ ズの倍以上になっていました。

大動脈弁の付け根のところが伸びてしまったために、

弁が足りなくなって届かなくなって逆流して、

それで心臓が非常に大きく なって心不全が出てきて、ということで来院されました。

.

それで、ここからここまで(つまり大動脈の根本の部分)を取り替える手術をするわけです。

そしてその時、全身の大動脈とか全体的 なところを将来計画もあって、必ず診るわけです。

手術の時は、心臓に近いところはなるべく自然な膨らみを持たせた人工血管を使って、できるだけ自然の状態 に近い形で再建します。

(手術前と手術後の画像の比較)

.

上行大動脈の頭側は全く正常サイズです。

また、上行大動脈の中ほどはガードする効 果がありますので、将来何かの理由で弱くなって広がろうかなという所に人工血管でバチッとガードすればよいわけです。

弁については、患者さん自身の弁を治 す自己弁形成をしたかったのですが、

残念ながら弁が伸びて薄くなって何カ所かに小さい穴が空いていていたので、

これはもう人工弁のほうが患者さんにとって有利だということ で人工弁にしました。

きれいなら弁は残して再建するようにしていますが、

どれくらい長く持つのか不明という時は、生体弁を使うようにしています。

もちろん、年齢とか患者さんのライフスタイルなどを一緒に相談して、

金属の弁のほうが良い、明らかに有利ということであれば金属弁にします。

.

●質問:大動脈瘤の拡張(大きくなること)は、どういう速度で進行するのでしょうか?どんな検査をするのですか?

Aneurysm ruptureお答え:大動脈瘤の拡大とか拡張と言いますが、その進行速度はいろいろです。

手術適応に近い大きさで、ひょっとしたら近い将来手術しなくちゃいけませんねと言っていて、何年経っても同じ大きさの人もいます。

そこで、定期検診が大事なんですね。

.

ワンポイントだけ診て、すぐ手術(大きさや形によってはそういう時もありま すけど)というのではなくて2回診ればだいたい動向がわかりますので、

初めて来られてある程度大きい時は、早めに状況によってもう一回CT(あるいはエ コー)を撮って動向を診て、

これはやっぱり大きくなってる、これは何ヶ月か後には破けてしまいそうだということであれば、破ける前に手術する。

あるいは、 安定してるなら、

また半年後に検査しましょうという形でやっていきます。

.

Ilm09_af14001-s経過をみるには単純CTでいけますので、造影剤はいりません。

もし、何かの理由で、足への血液の流れが落ちてきたねとか、解離腔どうなっているのかなという時は造影をします。

今はカテーテルしないで、造影CT(普通の点滴と同 じやり方で、内容物を造影剤にする)でわかります。

ちょっといい機械ですと、5分くらいで検査できます。

身体がちょっと熱くなる程度で、痛みや苦痛はほと んどありません。

患者さんにとってかなりやさしい検査になりました。

.

●質問:どの部分の径の拡がりが、一番、問題になるのでしょう?

お答え:大動脈瘤はど れも直径5㎝にもなれば問題ではありますが、

ポコンと局所的に大きくなるものは、小さくても危ないです。

そこだけ壁が弱いので、小さくても放っておけない場合もあります。

大動脈の根っこのところ(基部)は、拡張すると、弁の破れも出てきますので、

そちらのほうで心臓が大きくなってきたりしたら一緒に治して しまいます。

手術のガイドラインがありますので、目安になっています。

.

●質問:大動脈瘤はどの程度の大きさになったら手術するのでしょうか?

お答え:(マ ルファン症候群ではない)解離でない一般の瘤の場合は、胸は6㎝、お腹は5㎝ということになっています。

それを超えたら急激に破れる確率が高くなる。

ただそれは、場所や形によります。

そしてやはり、結合組織の病気(マルファン症候群など)がある方の場合は、

これより早い時期のほうが安全で、ガイドラインも そのようになっています。

.

Heart_dRR
血管手術や心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月 にもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

日本マルファン協会での講演と質疑応答―どしどし意見交換を

Pocket

2010年8月8日に名古屋市で日本マルファン協会にて講演をさせていただきました。

Cj009b-s た講演にひきつづき、自由に質疑応答や歓談を行う機会がありました。

それらはJAMAA 同協会会報の2010年12月11日号に掲載されました。

当日ご参加できなかった方々にもご参考になるかもということで、

日本マルファン協会のご許可を得てここに整理編集ののち再掲載いたします。

 .

多数の方々のご参加を得て、さまざまな疑問・質問や悩み相談を戴きました。ilm09_ba01018-s

医師として信頼をして頂ける、こんなにうれしいことはありません。

またその質疑応答や相談によって

その後の健康が回復あるいは確保されたことを知るたびに、大きなよろこびを感じます。

 .

今後もどしどし意見交換をやりましょう。

 .

1.大動脈瘤とマルファン症候群についてへ進む118647835

2. 大動脈解離と同症候群について へ進む

3. 心臓弁膜症について へ進む

4. 心房細動について へ進む

5. ステントグラフトについてへ進む

6. 緊急治療・救急について へ進む

7. セカンドオピニオンについて(日本マルファン協会での講演から) へ進む

8. その他(同協会での講演から) へ進む

「大動脈疾患」 のページの 5c)日本マルファン協会での講演と質疑応答から のページにもどる

「心臓弁膜症」 ページの質疑応答から のページにもどる

「よく戴くご質問」ページの質疑応答から のページにもどる

 

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

.

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

⑥c デービッド手術(David手術)―さらに磨きをかけて高いQOL生活の質へ 【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月15日

.

◆ デービッド手術とは?(自己弁温存・大動脈基部再建

大動脈基部が拡張すると大動脈弁閉鎖不全症が発生します。あるいは大動脈壁が破れたり裂けたりすることもあります。(AllAboutから).

**デービッド手術(David手術/Reimplantation)**は、
大動脈基部拡張症で広がった根元(バルサルバ洞や弁輪)を人工血管で再建し、ご自身の大動脈弁(自己弁)を温存する根治手術です。

私の恩師・デービッド先生が開発されました。

.

  • 大動脈基部が拡張すると

  • 弁尖が大きく壊れていない場合、人工弁を使わずに自己弁を守れるのが最大の特徴です。

.

◆ 手術の流れとポイント(わかりやすく)

David-op.

  1. 拡張した大動脈基部を切除

  2. 自己の大動脈弁(弁尖)を人工血管内へ“移植”するように固定(再植)

  3. 左右の冠動脈の入口(ボタン)を人工血管へ縫合

  4. 人工血管と上行大動脈を吻合して再建完了 (事例1を参照してください)

  • 人工血管のサイズ設定縫い付け位置が逆流防止のカギ。(参考記事はこちら

  • 今後は3つのバルサルバ洞付き人工血管を用い、生理的な流れと耐久性を追求する方向が予想されます。

 .

◆ どんな人に向いている?(適応の目安)

.

  • 大動脈基部拡張症+大動脈弁閉鎖不全症で、弁尖の破壊が少ない方 (事例2

  • マルファン症候群など結合組織疾患(事例)、大動脈二尖弁(BAV)、慢性解離(事例)、炎症性大動脈疾患(大動脈炎など)(事例・大動脈炎にデービッド手術)で弁尖が保たれている

  • 妊娠を希望する方、スポーツや仕事を続けたい若年~中年の方(抗凝固薬(ワーファリン)を避けられる可能性があるためQOL面で有利)

.

手術タイミング(径の目安)

  • 多くの施設:50mm前後で検討(従来55mm→近年は早め推奨)

  • 結合組織疾患(マルファンなど):45mm程度から早期手術を検討
    ※個別の体格、増大速度、家族歴なども加味します。

.

◆ デービッド手術のメリット(自己弁温存の価値)

.

  • 人工弁を使わない

    • 機械弁のワーファリン生涯内服を回避

    • 生体弁の耐久性低下・再置換の懸念を回避

  • 心臓の自然な動きを守りやすく、長期安定が期待できる

  • 若年者のQOL(妊娠・出産、スポーツ、仕事)で利点が大きい

→→もっと見る

.

◆ リスク・限界と、よくある疑問

.

  • 初回AVR(大動脈弁置換術)より手技が複雑:熟練チームでの実施が必要

  • 高圧系の再建で出血リスクがやや高い

  • 弁尖損傷が高度な場合は追加の弁形成が必要/人工弁置換へ切り替えの可能性も

  • MICS(低侵襲):症例により小切開・部分胸骨切開の工夫が可能(完全MICSは適応を吟味)

.

FAQ
Q. ベントール(ベンタール)手術との違いは?David & Bentall
A. ベンタールは基部+人工弁で置換、デービッドは基部再建+自己弁温存。弁尖が保たれるならデービッドで抗凝固回避が期待できます。


Q. 長持ちしますか?
A. 適切な症例選択と正確な幾何学再建で長期安定の報告が多数あります。早めの時期に受けるほど有利です。

.

◆ 当院の工夫(安全性と自然さの両立)

.

  • 針孔出血の少ない人工血管バルサルバ洞付きグラフトで流れを自然に

  • 弁輪・ST接合部の幾何学最適化(Brussels height・各種フォーミュラの活用)

  • 弁尖補強(自己心膜の最小限パッチ等)や併用弁形成再発リスクを低減

  • 肝機能・出血管理まで含めた周術期プロトコル(無輸血希望にも個別対応)

.

◆ ベストな時期に、ベストの術式を

.

  • **自己弁が保たれている「今」**が、**将来の自由(QOL)**を左右します。

  • 待ちすぎて弁尖が壊れる前に――自己弁温存の選択肢を検討しましょう。

  • 画像所見・体格・併存疾患・生活設計(妊娠、競技、仕事)を踏まえ、ハートチームで最適解をご提案します。

.

◆ まとめ

.

  • デービッド手術は、自己弁温存で大動脈基部を再建する根治術

  • 抗凝固回避・自然な心機能・長期安定が期待でき、若年~中年でQOL向上に直結

  • 適応とタイミングが重要(結合組織疾患は早めの判断)

  • 熟練チームで安全性と耐久性を両立し、必要に応じて追加弁形成小切開も併用

.

「人工弁以外の道はない」と言われた方も、一度はご相談ください。
生活の目標(仕事・スポーツ・妊娠)に沿って、自己弁を守る治療を一緒に検討します。

.

 .

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

.

弁膜症 のページにもどる

.

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

【第二十四号】 冬です。ブログと患者さんの声に新記事です

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 【第二十四号】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

いつのまにか今年も師走のあわただしい時節になりました

皆さま如何お過ごしでしょうか

私はおかげさまで相変わらずばたばたと忙しく、しかし充実感のある毎日を送

っております。

さて私のHP(心臓血管外科情報WEB http://www.masashikomeda.com/ )で

はさいきんいくつか新しい記事をUpしました。ご覧頂ければ幸いです。

ブログでは日本冠疾患学会という内科外科の協力するユニークな学会での印象

記を載せました。

患者さんからのお便りでは遠方の広島からお越し頂いた感染性心内膜炎の患者

さんや、輸血を受けないことが信条であるエホバ証人の患者さん、そして名古

屋からは少し不便なところから、勉強して信念をもって来て下さった患者さん

などのお便りをUpいたしました。それぞれ思いだせばジーンとする熱いものが

あります。こうした患者さんたちとの出会いは医者冥利につきるものがありま

す。

寒い季節となり、中には心不全の調整がうまく行かなくなり来院される患者さ

んもおられます。夏と比べて冬は弱った心臓には過酷な条件です。平素

の健康管理、つまり塩分の上手な制限や過度のストレスの回避、薬のきちんと

した服用、適度な運動に加えて急激な温度の変化をうまく避けることを実践頂

ければ幸いです。しかし運悪くそれらがうまくできない時にはご相談下さい

皆さまが健康で楽しいお正月を迎えられることを祈ります。

平成22年12月14日

米田正始 拝

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り36 遠方から来院して下さった大動脈弁狭窄症の患者さん

Pocket

 

大動脈弁狭窄症は心臓弁膜症の中でも一番多い病気のひとつで、

その治療もほとんどの場合は人工弁による弁置換術となります。

この手術は心臓手術の中ではシンプルなタイプに属しますが、

大動脈弁狭窄症そのものが油断すれば突然死などを起こす病気ですし、

心臓をいったん止めて中に入って弁を治す方法ですので、

いくら成績が良くなっても油断はできません。

 

患者さんは70代の男性でかなり遠方の山間部から来院され Il004_momiji ました。

心臓弁膜症をしっかりと勉強された上で、私たちのところへ時間をかけて来て下さったことを光栄に思います。

そうした気持ちで、初めてお会いしたときから信頼関係ができていたおかげもあってか、

オペも経過もスムースで順調でした。

 

この大動脈弁狭窄症という病気は高度になりますと手術なしでは死亡することが多いことと、

心臓手術の安全性が高く、術後の心臓の回復が良いことから、

高齢者でも積極的にそれが勧められています。

私どもでは名古屋ハートセンター開院2年間の中でも80代は普通で、

最高91歳の患者さんまで、皆さんお元気に退院しておられます。

しかしそれでも心臓の手術を決意するということは大変なことです。

だからこそ普通以上に信頼関係が大切なわけです。

ご高齢になればなるほど、また他の病気をお持ちであればあるほど、

高いチーム力が威力を発揮します。

 

以下はその患者さんからのお便りです。お役に立てて本当にうれしく思いました。

 

****** 患者さんからのお便り *****

米田先生

お蔭様で今年も紅葉を愛でることができました。

大動脈弁狭窄症で先生の執刀で
9月末に生体弁交換手術をして頂いてから2ヶ月経過、

車の運転、軽い運動も良いとのことで京都に紅葉刈りに出かけて参りました。



京都の紅葉もシーズンの後半、そろそろ散り始めているところもありましたが、爽やかな秋風にその枝を靡かせながら、艷やかな彩りを見せて歓迎してくれました。

紅葉は勿論、京都は何度も訪れていますが、今年の紅葉は小生にとっては又格別の想いが致しました。

今年は無理かな・・と半分諦めた時期もありました。

  お便り36写真 しかし永観堂を起点に光明寺、真妙寺、哲学の道を経由、

法然院を見学、銀閣寺まで休み休みでしたが約19,000歩強を歩き、

その間膝はガクガクでしたが坂道でも殆ど息切れもなく、

“心臓の快調な若返り”を体で実感し、

健康、そして命の大切さ噛みしめながら、快適な一日を過ごすことができました。
(写真は青蓮院門跡にて11月29日)



思い起こせば、75歳になる今日まで、大きな病気をしたこともなく健康には自信があったのですが、

自覚症状もないのに、偶々他の検査で見つかった大動脈弁狭窄症の診断には目の前が真っ暗になりました。

高校同窓の外科医に意見をもとめたら、「自分たちがインターンのころは人工心肺の装置もなく、

心臓手術では専ら、氷等で身体を冷やして手術を行い危険率が可なり高かったが、

今は医療技術をすすんでいるので安心してよい。

ただ多くの手術実績があり手術成績のよい医師にお願いすることが重要だ」‥と言われました。



なにしろ胸を開いて、何時間も心臓を止め、心臓そのものを開いて弁を切断、交換するという大手術です、

安全率は高いといわれても少なからず最悪のケースの“死”が何時も頭をよぎります。

出来れば心臓手術などは避けたいと思いましたが、この病は決してよくなることはない、

体力の残っているうちにするのが良いことがわかりました。



また色々と調べるうちに米田先生のプログを拝見、

心エコー神戸の記事や先生が中心で纏められた「弁膜疾患の‥ガイドライン2007年」も拝見して、ぜひ先生に診て頂きたいと思いました。

ハートセンターを訪ねたのが8月31日、

印象として病院とは思えない明るく清潔な雰囲気、

そして受付や顔を合わすスタッフの皆さんの笑みを込めた会釈に接し、

正直気持ちが落ち着きました。

 

そして待たされることなく次々と検査を終え、

米田先生から、手術等について、ゆっくり時間をかけ親切丁寧にご説明を頂いた時には全ての不安がなくなり、

迷わずに全てを先生にお願いすることを決心して、

すぐに手続きをお願いいたしました。

そして手術~退院までは予めお聞きしていた通りの時間経過で全てが順調に運び今日まで経過し、

手術前に悩み苦しんだことがまるで夢のような気がする今日この頃です。

 

これも全て米田先生を始め訓練された素晴らしいスタッフの皆様のお影だと心から感謝いたしております。

本当にありがとうございました。



退院後は近所の**先生にフォロウーして頂いて居ますが、

「このような詳細な検査データー、経過資料を頂けて助かる、このようなことは今まで経験はないが、さすが米田先生ですね・・」とコメントされて安心して通院しています。

今月の24日には退院後2回目の検診を深谷先生に予約しております。

以上とりあえず、お礼かたがた近況ご報告までにて失礼いたします。

平成22年12月3日

****

患者さんからのお便り・メール へもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

日本冠疾患学会2010に参加して

Pocket

この12月10日と11日に東京にて第24回日本冠疾患学会が開催されました。そこへ参加しての印象記をお書きします。いつもながら学会印象記は専門的になりがちですが、一般の方々にはその熱気や空気を読み取って頂ければ幸いです。

この会は狭心症や心筋こうそくなどの冠動脈疾患(冠疾患)の治療を内科と外科の垣根を越えて、幅広い視野で英知を集めて行おうという趣旨でできた学会です。それを象徴するように会長も内科系と外科系の合わせて二人が就任するというユニークな会です。今回は東邦大学医療センター大森病院循環器内科教授の山崎純一先生と同心臓血管外科教授の小山信彌先生のお二人の会長のもとで開かれました。

Ilm09_dd01002-s 前日の理事会・評議委員会では同じ冠疾患を扱う他学会との連携協力にも力を入れようということになり、とりあえず冠動脈外科学会との共同企画などを進める方向で大変良いことと思いました。

学会は初日の朝一番から、この学会らしく内科外科の合同シンポジウムがあり低侵襲冠動脈治療の最前線、PCI(カテーテルによる冠動脈治療)CABG(外科のバイパス手術)ということで熱い議論が交わされました。

内科外科とも侵襲(患者さんの体への負担)を下げる努力がなされており着実な進歩と思いました。青森県立中央病院循環器科の吉町先生はより細いカテーテルを用いてのPCIを、豊橋ハートセンターの木村先生はCABGとの比較検討をされました。外科は大変な重症つまり冠動脈が病変だらけとか、透析などのため全身が病気だらけの患者さんを治療している割にはPCIに匹敵する低い死亡率で立派と思いました。

内科からはそれ以外に透析患者に対するとう骨動脈からアプローチするインターベンション(東邦大学循環器科)や左主幹部病変への緊急PCI(高橋病院心臓血管センター)の工夫などが発表され、より安全性の高い、より苦痛の少ない方向への努力が見られました。

外科からは遠隔期成績を見据えたOPCAB(滋賀医科大学心臓血管外科の浅井徹教授ら)と早期社会復帰を目指した冠動脈バイパス(大阪府済生会野江病院心臓血管外科)の発表がされ、基本的には体外循環をもちいないオフポンプバイパスでの工夫の積み重ねですが、より完成度の高いものが感じられる内容でした。野江病院の氏家先生はスロベニアの畏友Borut Gersak先生のもとで良い修練を積まれましたが、そのスロベニア式のしっかりした胸骨固定法が術後社会復帰に好影響を与えるというのはコロンブスの卵と感心しました。

ここでもヨーロッパのSyntaxトライアルという内科PCIと外科バイパス手術の結果が議論されました。この立派な臨床トライアルで外科の優位性(つまり患者さんが長生きしやすい)が示された状況がたくさんあるのに、内科がその結果を踏まえないことへの不満が感じられました。ただそれは侵襲が低いというPCIの特長ゆえのことであるのは間違いないため、外科はさらにこの点で改良を加えねばならないと思いました。

招請講演の一つにエモリーEmory大学心臓血管外科のVinod Thourani先生のオフポンプバイパス現況があり、立派な成績でこんごの展開に楽しみが持てる内容でした。Vinodはきさくな人でその後の雑談にも花が咲き、虚血性MRへの私の新しい手術にも支援をしてくれるとのことで頼もしく感じました。同じ目標を持つ仲間との国際交流は本当に楽しいものです。2日目のランチオンセミナーでは自動吻合器と脳梗塞予防の講演でした。

そこでSyntaxトライアルでバイパス手術は脳梗塞を起こしやすいという結果であったかのような誤解が世の中にあり、事実は手術での脳梗塞は少なく、あくまで退院後の薬が不十分で梗塞を起こしたケースがあること、そしてそれゆえバイパス術後にはより積極的な抗血小板療法を行うべきことをコメントしました。Vinodは100%賛成と言ってくれ、実際バイパス術後により強い抗血小板剤を用いた検討を進められているとのことでした。真摯かつ真剣なDiscussionを歓迎してくれるのはさすが欧米の先生の良い点と思いました。

内科と外科の協力をモットーとした学会ですので、私もできるだけ内科の最前線を学ぶべく、PCIのセッションに参加しました。CTO(慢性閉塞)冠動脈へのPCIは今も話題の一つですが、その完成度が年々上がっているのは立派と思いました。ただし血管は単なるチューブではなく、血栓予防などの内皮機能をもったひとつの臓器ですので、そこへ金属のステントとくに毒物を塗ったステントを多数入れると問題が起こりやすいというのは理解できますし、Syntaxトライアルの結果はそれを示しています。やはりデータベースを全国規模で内科外科を合わせた形でつくり、正確に比較することが必要と思いました。

二日目にも同様の合同セッションで盛り上がりました。午後には教育シンポジウムとチャレンジャーライブなどの若手教育のための企画があり、私は他セッションの都合で部分出席でしたが有意義と思いました。とくに教育シンポジウムでは大先輩・大御所の先生方がなぜ循環器内科や心臓血管外科を志したかを語られ面白くまた参考になったと思います。内科からは山口徹先生、水野杏一先生が、外科からは川副浩平先生、南和友先生が講演されました。全部聴きたかったのですが、一部でもその雰囲気は楽しめました。

さらにチャレンジャーライブの決戦が行われ、4名のファイナリストが冠動脈バイパス吻合の腕を競いました。このライブは若手の登竜門かつ交流の場としてすでに伝統の人気ライブとなっていますが、今回は初めて日本冠疾患学会という大きな会の中で開かれたのも良かったと思います。参加した若い先生かたにとって、永く心に残る経験となり、より成長する糧になるものと思います。大学や医局という小さな単位だけでなく、学会全体で若手を育てるということが海外では普通のことですが、日本でもこうした土壌ができると良いと思います。

それらと部分部分で重複する時間帯に合同シンポジウム「末梢動脈病変PADを合併した冠動脈疾患の治療を考える」が行われました。私、米田正始は仙台厚生病院循環器科の井上直人先生と座長をさせて戴きました。

冠動脈疾患の患者さんの中でもPADを合併するタイプは全身の動脈硬化が強いため重症です。脳梗塞などの脳血管病変やCKDなどの腎臓の機能障害を合併していることも多く、全身を守りながらの治療となります。内科からは総合新川橋病院心臓血管センター、東邦大学医療センター大橋病院、仙台厚生病院心臓血管センターから発表がありました。外科からは名古屋共立病院循環器センター心臓血管外科(熊田佳孝先生)と岸和田徳洲会病院心臓血管外科(東修平先生、東上震一先生)からそれぞれの努力の成果が発表されました。

全身がやられていて状態が悪い患者さんも多く、また弱った心臓を補助しようにもIABP(大動脈内に入れる風船)が使えず、あるいは慢性腎不全や感染などのため条件が悪いためさまざまな工夫が必要です。治療の順番も心臓を先にするか、下肢を先にするか、あるいは同時にするかなど、ケースバイケースのきめ細かい対応が必要です。そこでいくつか得られたメッセージとしてはPADが意外に見落とされがちな現実から、定期的にはABI(腕と下肢の血圧の比率を測定)などでチェックすれば早期発見早期治療へと進みやすいこと、PPI(末梢血管インターベンション)がより進化していること、血液透析ではChEはじめさまざまな指標に注意すること、などがありました。また私見ながら、こうした悪条件の重なった患者さんにはオフポンプバイパスを行えば心臓の安定度が良いため長期予後も良くなる、ただし重症なるがゆえに手術ではさまざまな注意が必要と思いました。

以上はこの学会の一部ではありますが、その雰囲気は知って戴けたのではないかと思います。有意義な学会を開いていただいた山崎純一先生と小山信彌先生に感謝申し上げます。

平成22年12月11日

米田正始

 

ブログのトップページへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り35 エホバ証人の大動脈弁狭窄症の患者さん

Pocket

Ilm10_de02005-s 大動脈弁狭窄症(弁が狭くなり心臓に無理がかかります)は重症になれば突然死の恐れがでる病気ですが、

いったん手術つまり大動脈弁置換術を乗り切れば予後の良い病気でもあります。

近年は心臓外科の技術進歩やノウハウの蓄積で経験豊かなチームなら手術死亡率は1%前後まで下がって来ています。

 

しかしエホバの証人の患者さんの場合は輸血を拒否されますので、手術死亡率が跳ね上がります。

だからと言って輸血拒否は宗教上の信念にもとづくものであるため、可能な限り尊重すべきものと私たちは考えています。

 

以下は最近大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術を受けられたエホバの患者さんからのお便りです。

 

当科へ初めて来られたときはかなりの貧血があり、このままでは無輸血手術できない可能性があるため、しばし時間をかけてさまざまな対策を立てて貧血を治しました。

その上で大動脈弁狭窄症への手術を行い、ゆうゆうと乗り切って元気に退院されました。

以下はその患者さんからのお便りです。

 

*****************************

米田正始先生
お元気でいらっしゃいますか? お便り35実物

きっと精力的に、かつ暖かくスケジュールをこなしていらっしゃる事とおもいます。

 
お便りするのが遅くなり本当に申し訳ありません。
受診、入院、手術と9月6日から始まって11月5日まで名古屋ハートセンターでは本当にお世話になりました。

米田先生はまさかと思ってお送りした私のメールにも、すぐにお返事を下さり大きな手術にも心を整えてくださいました。

 

今までの自分の介護経験のなかで患者側は「病気と闘うという事は医療スタッフとの闘いでもある」という実感を私は少なからず持っていましたが、 

米田先生にお会いして、その重苦しさは一変し自分自身とても暖かなものを感じ安堵感を覚えました。

しっかりしたご説明、先生の自信、熱意にふれ本当に救われた思いでした。

 

貧血症でありながら無輸血でお願いしたいという私の希望も最大限尊重して下さり本当に嬉しかったです。

入院中は傷の痛みを除けば本当に楽しかったです。

北村先生、深谷先生、小山先生もとても細やかに気を使って下さって明るい気持ちにさせて下さいました。 

体の患部だけでなく人として接して下さってる様子に多くの方が元気を頂いてるようでした。

 

看護師の方達や他のスタッフの方々も良い病院にしようという気持ちが伝わってきました。
本当に有難うございました。
退院してからは2日程不整脈が出ましたが、近くの医院で薬を貰い今はすっかり落ち着いています。

先生がこの点でも患者が困らないように配慮してくださっていた事、本当に有難うございました。
新しくなった心臓を本当に大切に扱って(?)良い人生をこれから歩んで生きたいなと思っております。

先生のwebヘ゜ーシ゛勝手に私の応援歌のように思いいつも楽しみにしています。

米田先生、どうかいつまでもお元気でいてくださいね。次は12月3日が受診日です。
心からの感謝を込めて。

 

****

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

患者さんからのお便りのページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

Rhマイナスの血液型ですが心臓手術は大丈夫でしょうか?―十分な準備が大切

Pocket

Rhマイナスの血液は確かに数が少なく貴重ですが、

きちんと準備しますから大丈夫です

 

昔は心臓手術と言えば大きなものの場合などにはご家族やご友人にお願いし、

術当日に集まって戴き、生血(なまけつ)と呼ばれる、

採血直後の血液を輸血させて頂いたものですが、

現在はこうしたことは禁止されています。

 

剣道の先生の手術のときに大勢のお弟子さんが献血に来院して下さいました

前もって血液型やさまざまな特性を調べ、

血液を確保してからオペを行いますので、

Rhマイナスの血液型であっても心配いりません。

RhプラスでAB型の方も同様で血液は確保できますし、

確保を確認してから心臓手術となりますのでご心配にはおよびません。

 

ちょっと余談ですが昔のエピソードをひとつ。

心臓手術のそれも大手術で出血が予測された患者さんのときに、「身内」の方が大勢来て下さり、

病棟前の広いホールが満員になるほどでした。

聞けば、患者さんは剣道の先生で、そのお弟子さんが御恩返しにと数十名の仲間を連れて来院して下さったのでした。

当時私は修練医という下積みの身分でしたので、生血採血は私の役目でした。

身内の方々は口々に、「私は元気ですから1リッターでも2リッターでも取って下さい(^^)/」、

隣の友人が「こいつは血が余ってるからもっと取ってやって下さいね(^^)/」など、

心の絆の素晴らしさを感じるシーンでした。

 

皆さまの献血のおかげで心臓手術が安全安心に行えます 現在は献血の皆さまや日赤の各位のおかげでこうしたこともなく、

前もってお願いすれば必要な血液は確保できるのです。

なお大切な血液を無駄にしないよう、

平素から出血の少ない心臓手術を目指し、

血液の確保も無駄のないように日々努力しているのはもちろんです。

 

たとえば私たちはエホバの証人の信者さんの場合も安全が確保できる限り、

受け入れるようにしています。

安全第一で徹底止血し無輸血がリスクを上げないよう日々努力しています。

それが信仰を守るお手伝いだけでなく、

他の患者さんとくに比較的まれな血液の患者さんはじめ多くの患者さんの安全にも役立つと思います。

 

余談ですが、患者さんの苦痛の軽減やより早い社会復帰をうながすため、

創の小さいミックス手術(MICS、ポートアクセス法など)をよく行っていますが、

こうした心臓手術の場合は骨を切らずにすむため、出血はほとんどゼロで、

無輸血手術のために役立っています。

 

そういうことで、必要な血液は確保して心臓手術は行う、

しかし出血を減らす努力と並行して、というスタンスでいるわけです。

 

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。