事例 冠動脈バイパス術後、慢性透析の大動脈弁置換術

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患者さんは59歳男性。

約4年前に他院で冠動脈バイパス手術を受け、その後お元気にしておられました。

慢性腎不全・血液透析のため大動脈弁狭窄症(圧較差93mmHg)を発症し、ハートセンターへ来院されました。

高度の左室肥大があり左室壁厚は約16mmでした。

1_2前回手術でつけられた内胸動脈バイパスグラフトも静脈グラフトも開存していました。

そのため胸を開くときにこれらグラフトに傷をつけないよう、

普段以上の細心の注意が必要なケースです。

まず丁寧に胸骨正中切開を行い、癒着を剥離していきます

(写真左)。

2手術前のCTと、これまでの再手術の経験から

およその位置感覚・方向感覚はあるため必要な剥離を完了、

逆に不要な剥離は行わずにすみました。

大動脈弁置換をするために体外循環下に 大動脈遮断する必要がありますが、

遮断部位の近くに前回手術の静脈グラフトがあるため、前もってこのグラフトを剥離し、位置を少し変えました(写真左)。

3_a4_a大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は肥厚・硬化・石灰化が著明でした

(写真左)。

弁と石灰を すべて摘除しました(写真右)。

5_2大動脈そのものが硬くなり大きな弁は入らない状況だったため、高性能な機械弁を入れました。

これにより十分なサイズと性能が確保できました

(写真左)。

70分で大動脈遮断を解除し、スムースに体外循環を離脱しました。

術後経過は順調で、翌朝には透析を再開し一般病室へ戻られ、まもなく元気に退院されました。

半年後の心エコーでは大動脈弁圧較差は27mmHgと改善し、左室壁厚は12-13mm と左室肥大もかなりの改善傾向にありました。

術後3年経過した時点でもお元気に暮らしておられます。

 

慢性血液透析は全身の動脈硬化を悪化させる傾向があり、全身の動脈に注意が必要です。

この患者さんの場合は冠動脈は以前のバイパス手術で動脈硬化になりにくい内胸動脈グラフトを持っておられるため冠動脈関係は大丈夫でしたが、

大動脈弁が動脈硬化に似た硬化を起こし、大動脈弁狭窄症を発生し、手術に至りました。

 

近年はこうした透析患者さんの再手術とくにバイパスグラフトが開存した状態の再手術が増えました。

わずかなミスでも命にかかわることがあるため、経験と入念な準備が必要です。

 

この患者さんも心臓外科をもつ病院からのご紹介で、大切な患者さんを病院の垣根を越えて皆で守るというチームワークはこれからますます大切になるものと思います。

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大動脈弁狭窄症

大動脈弁置換術

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 心室中隔欠損症と大動脈弁閉鎖不全症

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患者さんは30台後半の男性。

健診で心室中隔欠損症VSD大動脈弁閉鎖不全症を指摘されハートセンターへ来院されました。

1心室中隔欠損症は I 型と呼ばれる心室中隔の高い部位に発生したもので、

その欠損(穴)に大動脈弁が落ち込んで次第に大動脈弁閉鎖不全症が発生してきていたため手術になりました。

体外循環・大動脈遮断下に主肺動脈を切開し、

肺動脈弁ごしに心室中隔欠損症にアプローチしました(写真左)。

2_vsd予想どおり、大動脈弁の一部が穴を覆い、

一見心室中隔欠 4_2損症の穴は小さくなっているように見えましたが、

実際には大動脈弁が徐々に壊れ始めているという所見でした

(写真左と右)。

そこで穴の周囲の筋肉組織や肺動脈弁の付け根のしっかりした組織を活用して糸をかけ、

ゴアテックスのパッチを縫いつけ、穴を閉じるとともに、

大動脈弁を守るようにしました(写真上右と下)。5_vsd

実際手術前には心エコーにて大動脈弁の一部が少し穴に落ち込み、

軽 い大動脈弁閉鎖不全症が発生していたのが見えていました。

それらが手術の後には治っていました。

もし必要なら大動脈弁の形成手術も準備してはいましたが、そうするまでもなく、きれいに治りました。

手術後、心室中隔欠損症は消え、大動脈弁も肺動脈弁も正常でした。

 

このタイプの心室中隔欠損症は時間とともに大動脈弁の閉鎖不全(逆流)という新たな病気が発生してくるため、通常はこどもの間に手術することが多いのですが、何らかの理由でその時期を逸し、大人になって手術を受けるケースが現在もちょくちょくあります。

 

健診などで心雑音を指摘されたら一度は心臓専門医に念のための診察を受けられるのが安全上、勧められます。

大動脈弁の破壊が高度になりますと人工弁が必要となり、その場合はワーファリンを一生飲む必要が生じるなどのリスクが出てきます。

やはり予防や早期治療が有利です。

なお当時は普通の創で手術しましたが、現在はミックス法にて約10cmの小さい創で手術することが多くなりました。患者さんの心の傷もより小さくなればと思います。

 

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元・京都大学医学部教授
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事例 冠動脈瘤

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患者さんは75歳男性で胸痛を主訴としてハートセンターへ来院されました。

精密検査の結果、冠動脈に複数の瘤ができ、破裂する危険性があるため手術を行うことになりました。

冠動静脈ろうはなく、また川崎病の既往も所見もない、純粋な冠動脈瘤です。

 

1.冠動脈造影にて3つの瘤がみつかり、そのうち左冠動脈前下降枝と中間枝の瘤が破裂しそうな状態でした。

鈍縁枝の瘤は軽度の拡張と動脈の狭窄が主体でした。

そこで手術治療になりました。通常のバイパス手術より複雑なためもとの病院では手術困難と言われ紹介されて来られました。

 

普通の動脈瘤とは違い、冠動脈瘤では瘤やその付近から枝が出ている場合、瘤を単につぶしてしまうと心筋梗塞になりますし、血管が細いため大動脈のように人工血管で瘤を置き換えることもできません。

 私たちは冠動脈バイパス術と瘤の閉鎖またはカバーを組み合わせて、瘤破裂と虚血・梗塞の両方を予防するようにしています。

これによって短期と長期の安全を確保しやすいと考えています。

 

瘤は先天性の可能性が高いと思われますが、原因がはっきりしないため、もしもの新規瘤発生の事態も考え、将来再手術になっても安全に手術できるよう、

図4 瘤は静脈と脂肪の下内胸動脈グラフトは1本とし、静脈グラフトを1本(シーケンシャルというスキップ吻合にて2本相当)というデザインにしました。

 2.冠動脈瘤がある左室基部を観察しましたが、冠静脈と脂肪に覆われて見えません

(写真左のグラフトの向こう側)。

オフポンプで剥離するには出血が多くなる可能性があり、オンポンプの方がむしろ安全で簡単と判断しました。

図1 LITA-LAD 図3 SVG-IM 3.まず左内胸動脈を左冠動脈前下降枝にバイパスをつけました

(写真左)。

4.ついでオンポンプで大伏在静脈を鈍縁枝につけ、これをさらに中間枝に吻合しました。

鈍縁枝は細くかつ心基部にあったためスムースなレイアウトにするため逆U字型のデザインを使いました(写真右)。

 

図5 瘤を露出 図6 LAD瘤を閉鎖 5.ここで主肺動脈をかわしながら、前下降枝と中間枝の瘤を露出しました

(写真左)。

6.前下降枝の近くに重要な冠動脈中隔枝があったため、これを傷つけないよう注意して瘤全体を押さえ込みました

(写真右)

図7 IM瘤を閉鎖  7.同様に中間枝の瘤も押さえ込み閉鎖しました

(写真左)図8 瘤を覆う

 

8.2つの瘤はもとどおり、心外膜と脂肪組織で覆い、周囲組織と癒着しづらいようにしました。

9.3本のグラフトのフローはいずれも拡張期型の良好なフローパタンを示しました。

容易に体外循環を離脱しました。00028456_20090323_CT_509_8_8

 

術後経過も良く、術翌日には一般病室へ戻られました。

術後のマルチスライスCTにて全部のバイパスグラフトがきれいに流れているのを確認しました。

また将来の万一の事態に備えてもとの冠動脈に PCI ができるよう、もとの冠動脈も細いながらも残すことができました(写真右)。

こうした内科外科の垣根を越えた、様々な治療オプションを確保しておくことが、長期的に患者さんをよりしっかり救うことにつながると信じます。

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第5回患者さんの会の御礼など

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患者の皆様

昨日3月15日日曜日に京都の祇園ホテルにて第5回患者さんの会を開いて頂きました。いつもながら多数のご参加をいただき、またじーんとくるお話を頂戴し感謝申し上げます。

お陰さまで名古屋ハートセンター(註:現在は医誠会病院におります)は順調に発展しており、京都エリアの患者さんにもお役に立っているケースがいくつもあり、うれしいことです。

今回はちょうど花粉症の季節が始まる時期でもあり、花粉症のお話をさせて頂きました。とくに心臓病との兼ね合いを意識してお話し、多数の良い質問を頂きありがとうございました。

またちょっとした雑談の中に長期の安全性に役立つ相談ができ、これもうれしく思いました。
次回はこの秋、9月ごろに世話人の方々が考えて下さっています。

ご心配ごとがある場合は連絡戴けましたら京都にも大阪にもサポートして下さる先生方がおられますので、それらの先生方との連携によって遠方のハンディなくお役に立てると存じます。

またお元気なお顔を拝見できましたら幸いです。

米田正始 拝

 

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③ドール手術―古典的な手術、改良により効果が上がった 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月12日

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◾️ドール手術とは?

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左室形成術の一つで、かなり早い時期に発表された、古典的な方法です。

左室の病気の場所や程度に応じてさまざまな左室形成術を使い分けます。この図の方法以外にバチスタ手術が活躍することもあります

モナコの大御所(当時) Vincent Dor先生(写真右下)が考案された左室形成術です。

ドール手術は比較的簡便な良い方法で、慣れた術者なら短時間ででき、

病気の場所ややり方によっては有用なことがよくあります。

とくに心尖部に近いところに病変がある場合、ドール手術は良い選択になります。 Dr. V Dor

心筋梗塞部と健常部の境目に糸(フォンタン糸、Fontan suture)をかけ、梗塞部を縮め、あるいはそれ以上広がらないようにしたうえでパッチで梗塞部を守る、実に理にかなった素晴らしいアイデアと今なお感嘆と敬意をもってDor先生の見識を振り返っています。

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◾️ドール手術の限界は

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しかしそれほど優れたドール手術にもやはり限界が見えます。

心室中隔の基部まで病変部が及ぶようなケースでは普通にドール手術を行うと左室が丸くなり(球状化)、心機能とくに拡張機能が悪くなり、患者さんは元気になれません。

重症例ではいのちの危険があることさえあります。

一部でパッチを楕円形にすれば良いという議論も聞かれましたが通常はそれでは不十分と考えます。というのはパッチを縫着するまでに、つまりフォンタン糸を結んだ段階で左室はすでに丸くなっているからです。

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◾️そこで次の段階へ

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私たちはこのドール手術の簡便さつまり短時間でできて患者さんの負担が少ない利点と、セーブ手術のジオメトリー温存・心尖部温存できる特長を活かした新しいドール手術を用いています。

方向性Dor手術などと呼んでおり、くわしく検討中ですが、

これまで13例すべて順調で、その中には超重症も含まれており、新しいドール手術は心筋症・心不全の治療成績をさらに改善するかも知れません。(事例1)(事例2

これまで国内外の学会で発表し、より改良を図って参りました。

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こうしてドール手術は完成度の高いものに育ちましたが、この数年間はさらに改良を加えた心尖部凍結型左室形成術を中心に左室形成を行うようになり、その低侵襲性(つまり体への負担が少ない)ゆえ治療成績の一層の向上が見られています。

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患者さんの想い出:

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左室形成術を強化する方法

心筋症・心不全 にもどる

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②オーバーラップ手術 状況によっては便利な術式?【2020年最新版】

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左室形成術にはそれぞれの特徴や利点があります。オーバラップ手術にも時に得難いメリットがあります。最終更新日 2020年2月12日

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◾️オーバーラップ手術とは?

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左室形成術の一つで、左室前側壁を左室内に引き込み心室中隔にオーバーラップさせる方法です。

このオーバーラップ法の良いところは異物であるパッチを使用せずにすむこと、縫合線が短くすむこと、生きた心筋を切除せずにすむことなどがあります。
左室が丸くなることを自動的に防げるというメリットも大きいです。

さらに将来もし補助循環いわゆるVASが必要になる場合にパッチや異物がない分、有利かも知れません。

その一方で瘢痕部や障害心筋を残すため、将来のリモデリング(再拡張・増悪)の心配が理論的にはあり得ます。

また左室基部にはあまり効果が無いという弱点もあります。

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◾️他の左室形成術と比較すると?

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セーブ手術と比較すると、左室の形態を同じぐらい理想的に保ちやすく(厳密には左室基部側はセーブが有利)、

時間的なことと異物を残さない点ではやや有利で、

将来の再リモデリング予防という意味では劣る、

ということになると考えます。

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ドール手術と比較すると、左室の細長い形を維持しやすいという点ではオーバーラップ法が有利ですが、

時間的にはやや劣り、つまりやや長くかかり、かつ将来のリモデリングでもやや不利と考えられます。

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近年私たちがちからを入れている心尖部凍結型左室形成術と比べると、心尖部凍結型のほうが左室切開が小さく、より短時間ででき、自由に形の調整ができるため有利と考えています。

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◾️オーバーラップ法の来し方・行く末

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オーバーラップ法左室形成術はフランスのギルメ先生が開発され、

日本では佐賀俊彦先生が心室中隔穿孔VSPに応用され、

拡張型心筋症には松居喜郎先生らが活用発展させられた方法です。

私たちも適材適所の考えで活用しています

要はそれぞれの術式の特徴をよく理解して、その長所が発揮できる使い方をすることと思います

4.虚血性心疾患の項をご参照下さい)。

現在はどの左室形成術よりも侵襲が少なく、調整もしやすい心尖部凍結型左室形成術を中心に手術し、成績のさらなる向上を図っています。

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その他の左室形成術 ③ドール手術

心筋症・心不全 にもどる

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ミニルート法(インクルージョン法)―大きな手術を低い侵襲で【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◼️ミニルート法とは

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ベンタールミニルート法手術は確かに入れ子に良く似た形で、中に入れ込むため外へ出血しないという実感があります。手術(ベントール手術)が必要な60歳以上の患者さんには相談の上、ステントレス生体弁を用いてミニルート手術(別名インクルージョン手術つまり「入れ子」(写真左)のように内装して包み込みます)を施行しています。

入れ子というのはわかり易い表現で、この手術を受けられた患者さんが命名してくださいました。

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◼️ミニルート法の特徴は

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ベントール手術と同じ効果を単純弁置換の安全さで行えるという利点と、万一将来再手術が必要になってもそれが安全に行いやすいこと、そしてちょくちょく報告されている弁破裂が予防できるという大きなメリットを併せ持つ方法です。

とくに出血が容易に未然に防げるのは魅力的です。心臓の外側に人工物を残さないため感染にも強いという良さもあります。

弱点は、冠動脈入口部が異常な位置にあるときに必ずしも理想の形態とならないため、注意が必要であることです。

これは熟練した術者なら比較的容易に対応できます。

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 ◼️ミニルート法の活躍の場は

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これらの方法を駆使することで大動脈基部再建の適応ある患者さんなら80歳代、お元気なら90代の方にも手術を比較的安全に行うことができます(事例9)。

あるいは昔上行大動脈置換術などの手術を受けて癒着が強い方の再手術にも役立ちます。

大動脈基部の深い部位の癒着剥離が不要になるからです。

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5. 動脈硬化症―ゆっくりと来る悪魔、予防や早期治療が大切 【2020年最新版】

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最終更新日 2019年12月29日

1. 動脈硬化症とは

動脈硬化症は高齢化そして栄養やストレス過多の現在、増える傾向にある現代病です。
動脈硬化は脂肪などが血管の壁に貯まって起こります。
動脈は全身にあるため、動脈硬化は全身病となります。

たとえば心臓とか脳あるいはお腹や下肢にもよく起こります。
同じ理由で、下肢の動脈の悪い方は心臓等の動脈も悪いことがよくあります。
高血圧症は動脈硬化の全身への現われです。

いずれも平素から注意が大事で、また原因の除外や予防も大切です…

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2. 心臓の動脈硬化症は

心臓は数分も休めば命にか かわる重要臓器ですので、心臓の動脈硬化症つまり冠動脈病変は要注意です。
予防や早期治療が役立つだけに油断はしないようにして下さい
右図は冠動脈の動脈硬化の結果、心筋梗塞が発生したところを示したものです…

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3. 大動脈の動脈硬化症 にはどういうものが?

大動脈(右下図)も人間の動脈で最大のものであるだけに硬化が進めば危険な状態になります。
一般には大動脈瘤の形でくることが多いのですが、心臓と違って胸の痛みなどの症状がはっきりしないことが多く、その分要注意です。

いったん瘤が破裂してしまうと激痛が走りますが、まもなく命を落とすことが多いため平素から注意し、早期発見することが望まれます…

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4. 下肢の閉塞性動脈硬化症 では?

高齢化にしたがって下肢の動脈硬化症も増加傾向にあります。
下肢の病気は命にかかわらないと思われがちですが、お年寄りなどでは下肢の動脈硬化のため下肢が腐り、切断となると体力が弱まり命にかかわることが増えます。

軽症ならカテーテルによる血管内治療PPIでより負担少なく治せます。
重症になっても下肢の閉塞性動脈硬化症には各種バイパス手術で治せるものが多数あります。
血管の長い完全閉塞などでは、これまでの長期データでバイパスが有利な傾向が示されています。
バイパスの受け皿となる血管がなくなると手術も困難となるため、下肢の調子があまり悪くならないうちにご相談されることを勧めます…

続きを見る

1. 下肢の閉塞性動脈硬化症に効く手術は

詳細はこちら

2. 腋窩動脈大腿動脈バイパス(Axillo-Femoral バイパス)

詳細はこちら

3. 大動脈―大腿動脈バイパス手術 (Aorto-Femoralバイパス術) とは?

詳細はこちら

4. 大腿動脈―大腿動脈バイパス術 (F-Fバイパス術)について

詳細はこちら

5. 下肢のASOが重症化したら?

下肢の閉塞性動脈硬化症が悪化し、しかもカテーテル治療やバイパス手術ができない状態のときでも再生医学とくに新しい血管を創る血管新生療法なら対処可能です。

ただし下肢がすでに死んでしまった状態ではいくら血管を創っても死んだ組織は生き返らないため手遅れとなります。
再生医学とは死んでしまった組織を生き返らせるという意味ではなく、血管などを創るという意味です。
そこを注意し、早目にご相談されることが大切です…

続きを見る

6. 新しい再生医学の治療法

詳細はこちら

7. bFGFを用いた血管新生の特長は?

治療法のなかった下肢ASOに威力を発揮するでしょう。
現在準備中の臨床試験にご期待ください…

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8. 病診連携の講演会から

平成25年10月に奈良市で行われた米田正始の講演の一部です。
弁膜症、虚血性心疾患、大動脈などのまとめと、下肢の虚血の再生医療についても簡略ご説明します。
音声がやや小さいためボリュームを上げてご覧ください。ご要望にお応えし字幕をつけました。
医療者の方々向けです。一般の皆様にはちかぢか一般向けを予定しています。

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bFGFを用いた血管新生療法の特長は―動脈を創れるのがユニーク

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bFGF(ビー・エフジーエフ)たんばくの徐放(じわりと効かせる)の方法は

bFGF徐放を用いるとサイズの大きな血管が作れます。これによって血のめぐりはかなり改善します1.遺伝子治療ではなく、

そのためウィルスの運び屋(ベクター)などの危険性あるものを使わずにすむ、

そのため将来がんなどの病気が起こる心配が少ない、

 

2.下肢以外の体にはbFGFがほとんど行かない

(たとえば血の中のbFGFの濃さは健康人と同じです)

そのため副作用 が起こりにくい、

 

3.骨髄から細胞を押し出すタイプの薬(G-CSF)も必要ないため、

その副作用も心配ない、などなどの利点があります。

 

またbFGFは骨髄細胞などの場合よりも太い血管、といっても小動脈ですが、とにかく動脈が創れるため、血液をより多く流せるうえに長持ちしやすいと言うメリットもあります。

血管新生療法のなかでも一番望ましい動脈新生というわけです。

顕微鏡写真でbFGF徐放ではより大きいサイズの血管(動脈)ができることを示しています。

 

bFGF徐放では、患者さんに単に筋肉注射するだけでOKです。遺伝子やウィルス・細胞その他を使う必要もなく、安全です。4.下肢に筋肉注射するだけなので15分もあれば終了します。

つまりどこも切らずにすみます。

いずれは外来でもできるようになると考えますが、当面は安全のため手術室で下半身の麻酔をして行っています。

現在この方法は高い評価をうけて京大病院探索医療センターの主要プロジェクトとして、2010年9月から京大病院にて臨床治験が行われ、成功裏に終了しました。

 


メモ1: 骨髄細胞、正確には骨髄単核球細胞は、かつてはそれ自体が新たな血管を造るものと考えられていましたが、その後VEGFという血管を造るたんぱくを分泌することで血管を造ることが判りました。

しかしVEGFは毛細血管しか作れないことがすでに示されており、結局骨髄単核球細胞は動脈を造れないことがわかりました。つまり効果が不十分なのです。

この点でもbFGFへの期待が生まれています。

それはbFGFが血管平滑筋細胞を集める作用があり、その結果、動脈壁を造るのに役立つという特徴があるからです。

 

■患者さんの想い出: Aさんはまだ20代の若い男性でしたが、バージャー病のため膝から下の動脈がほとんど閉塞し、足指が腐って2本も切断され、さらには足に皮膚潰瘍ができ強烈 A307_080な痛みのために立つこともできなくなりました。その結果、仕事も失い、家で失意と苦しみの日々を送っておられました。

ひょんなことから米田正始の外来へ来られ、精密検査の結果、これは治せる、少なくとも良くできる、とbFGF血管新生治療の臨床試験を受けて頂くことになりました。

これがこの治療法の世界第一例目だったのです。といっても何年もかけてさまざまな観点から安全性と効果を検討してきましたので、理論だけでなく実際の安全性と効果にも自信を持っていました。少なくともこれ以上はできない、というレベルに達していました。

再生医学とか血管新生といえば大げさで大変な治療と思われるかも知れませんが、実際には痛み止めをしておいて、筋肉注射するだけなのです。治療は半時間ほどで完了しました。

その結果はすばらしいものでした。日を追うにつれて足の状態は改善して行きました。

最初は足が少し温かくなり、動きが次第に軽くなり、皮膚潰瘍が徐々に小さくなり痛みも軽くなって行きました。退院時にはすでに治療前よりあきらかな改善を見ていましたが、治療後3ヶ月の外来では皮膚潰瘍がすっかり治り、痛みも消え、普通に歩行できるまでに回復されたのです。

A310_038その結果、Aさんは仕事復帰され、社会人としての立派な生活を取り戻されたのです。

後で知ったこと(というより忘れていたこと)なのですが、Aさんのお母さんは京大病院に勤務する看護師さんでした。昔、私がごたごたに巻き込まれて京大病院を去るときにも、自分の息子を助けてくれた先生がなぜ去らねばならないのですかと言ってくださったとお聞きしました。こんなにうれしいことはありません。汗と涙が十分に報われた想いです。

Aさん、いつか再会したいものですね。

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6) 新しい再生医学、血管新生療法―これから多くの患者さんのお役に立てれば

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Q: こうした従来の治療法でだめなとき、何か方法はあるのですか?

A: 上記の従来治療をどのように駆使しても閉塞性動脈硬化症ASOでは下肢の血流が不足し、下肢を切断する危険が迫っている場合には、

下肢に新しい血管を造って下肢を救う血管新生療法という試みがあります。

これは再生医学の一つです。

 

動物実験のデータ。bFGF徐放は多数の血管を作ることで血のめぐりを改善します。写真で一目でわかるほどの効果があります。 

左図はbFGF徐放(bFGFは塩基性繊維芽細胞増殖因子というたんぱく質、徐放は徐々に放出する方法です)の動物実験の写真です。

 

bFGFで目に見える血管が沢山できているのがわかります。

目に見えるというのが大切で、比較的大きな血管とくに動脈ができるのです。

血管新生療法の効果十分です。

こうした実験を糖尿病高コレステロールの動物でも十分に行い、効果と安全性を確認してから下記の臨床試験に入りました。

 

これまで実績があるのは骨髄の細胞(たとえば骨髄単核球細胞)を下肢に注射して血管を作る方法で一定の成果が報告されています。

 

私達はこれをさらに立派にすべく、bFGFを下肢で4週間じっくりと効かせる(徐放)方法を京都大学再生医科学研究所の田畑泰彦先生らと開発しこれまで7名の患者さんに臨床試験として使用しました。

痛みが消え、下肢の皮膚潰瘍が治るケースが多く、今後さらに展開させたく考えています。

 

これまでは京大病院でこの血管新生療法を行ってきましたが、2007年に米田正始が退職してから止まっていました。

2010年9月から、この治療法の良さがあらためて評価され、京都大学探索医療センターの目玉プロジェクトとして第二のシリーズが行われました。その結果、良好な成績が確認されて各種学会でも発表されています。

同時に大規模な企業化も検討しており、何よりも安全第一のため様々な準備、設備、倫理委員会や法律遵守のための手続きなどが必要なため時間をかけて取り組んでいます。

bFGF徐放の再生医療にてASO患者さんの足が治りました

写真はバージャー病の患者さんの治療前後の比較をしたものです。ASOでも同様の効果が出ています。

安全重視のためまず最少量のbFGFを使っていますが、それでもこれだけ効くことから皆勇気づけられ、今後徐々に量を増やして一層の効果を期待しています。

 

将来的にはES細胞iPS細胞などの万能細胞を使えるようになれば良いのですが、現時点ではこれらはまだまだ実験段階で、効果も安全性も未確定なため、

自然で体にやさしいbFGF徐放による血管新生療法を進める努力をしています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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