機械弁とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月4日

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◾️機械弁とは

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主要部分が金属やカーボンでできた人工弁のことを機械弁と呼びます。主要部が柔らかい生体組織でできた生体弁と両極をなす存在です。

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かつてはこの機械弁が人工弁の主流を占めていました。

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◾️第一世代の機械弁・ボール弁

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機械弁は当初 BallValve、ボール型の閉塞子がラムネ玉のように前後して血液の逆流を防ぐという簡単な構造のボール弁からスタートしました(右図)。

ボール弁たとえばStar-Edwards弁はその簡単な構造のおかげで長持ちし、一世を風靡した感がありますが、血液の流れ方が不自然で、弁の材質も洗練されていなかったためか、血栓や塞栓が多発し、次第にディスク弁に置き換わって行きました。

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◾️第二世代の機械弁・ディスク弁

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ディスク弁はまず弁の開閉部が1枚のタイプが世に出ま BSvalveした。
その代表例がBjork-Shiley(ビジョロクシャイリ―弁)です(左図)。
ボール弁より高性能で血栓塞栓の合併も少なくなりましたが、
弁の開閉部が何かにひっかかると弁機能不全が起こりやすく、1枚のためその1枚がやられると命にかかわることもあり、
次第に次の二葉弁に代わって行きました。

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◾️第三世代の機械弁・二葉ディスク弁

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二葉のディスク弁の代表格はやはりSJM弁でしょう。
1970年代にアメリカで開発され、世界中を席巻した感がありました。リラハイ先生という僧帽弁手術のパイオニアが開発されました。

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何と言っても高 StJudeValve性能で血行動態が優れているだけでなく、ヒンジ部分での血液のよどみを巧みに回避するデザインで血栓塞栓症の頻度もうんと改善しました。

また僧帽弁位に植え込むときには左室内へ突出するのがわずかで、当時先端技術であった腱索乳頭筋温存する僧帽弁置換術にも適しており、世界中から受け入れられました。70年経った今見ても、なお先進的なデザインで、思わず脱帽してしまうほどの優れものです。しかも材質は当時の宇宙船にも採用されていたパイロライト・カーボンで血栓できにくく磨耗もしにくいという特長があります。

その後さまざまな改良を加えて二葉の機械弁が世にでて、現在まで機械弁の主流はこの二葉のディスク弁です。

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◾️機械弁の長所は

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機械弁は生体弁と比べて弁口面積(弁が開いたときの口の大きさ)が大きいため高性能です。
これは大動脈弁位に植え込むとき、その患者さんが狭小弁輪といって小さい弁輪しか持っていないときに特に有利です。
近年の人工弁は機械弁も生体弁も性能が向上しましたが、弁口面積という意味ではやはり機械弁に軍配があがります。

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こうした特性をうまく活かし、機械弁が患者さんに益するときには現在も機械弁が選択されます。

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◾️機械弁の短所は

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ワーファリン3332001F1024ただし機械弁は生体弁と違って血栓ができやすく、ワーファリンというお薬を一生飲む必要があります(左図)。

このためワーファリンが不利な状況の患者さんあるいはワーファリンを嫌う患者さんには生体弁を選択することがあります。
もちろん生体弁にはその弱点がありますので、それらの得失をよく勘案して決定します。

それから術後、長年にわたって患者さんをお守りする立場にある者としては、腕の見せ所でもあります。ワーファリンの丁寧なコントロールによって機械弁の長期成績が弁形成のそれに匹敵するというデータがあるからです。それには単に薬の調整だけでなく、生活、食事や食べ物の調整・指導が必須です。これを私たちは実践しています。

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◾️まとめ

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機械弁よりも生体弁よりも優れているもの、それは自然のままの、もとの弁です。
そこでもとの弁を修復し、長持ちする形で活用する弁形成が高い評価を受けているのです。
しかし形成できないほど壊れた弁ではやはり機械弁などの人工弁が必要で、まだまだ進歩改善の努力がなされるべき領域です。しっかりやればその努力は報われる可能性があるのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:石灰化僧帽弁(MAC)と虚血性心筋症に僧帽弁置換を行った患者さん

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慢性腎不全・血液透析の患者さんには独特な注意とケアが大切です。

冠動脈はじめ全身の動脈に硬化がおこり、血管が詰まったり狭くなったりします。

また僧帽弁や大動脈弁も壊れやすくなります。

とくにMACと呼ばれる僧帽弁輪への石灰沈着は高度になると手術の障壁になりかねません。弁形成や弁置換しようにも針が石灰を通らなくなるからです。

しかし現代はこのMACにも対策があり、治せる病気になりました。

患者さんは56歳男性です。

19年前に慢性腎炎による腎不全のため血液透析を導入されています。

以前から僧帽弁閉鎖不全症大動脈弁狭窄症が見られていますが心電図で左脚ブロックが次第に強くなるため当院内科へ来られました。

00040121_20091111_CR_1_1_1内科にて精査の結果、冠動脈左前下降枝と右冠動脈に狭窄がみつかり、それぞれロータブレーターと薬剤ステントDESをもちいたカテーテル治療PCIにて軽快しました。3か月後の検査で左前下降枝は再狭窄していたためここにも薬剤ステントを入れられました。

その半年後に僧帽弁閉鎖不全症のため心不全がコントロールできなくなり、心臓外科に紹介されました。

右図はそのときの胸部X線写真です。

00040121_20091006_US_1_16_13b僧帽弁には僧帽弁輪石灰化MACがあり、肺高血圧症PHもある、虚血性心筋症・心不全(駆出率27%と正常の半分以下)ともいえる状態でした。(左図)

PCI後に時々起こる心筋症です。

胸骨正中切開・心膜切開で心臓にアプローチしました。心臓は拡張著明でした。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は後尖のP2(後尖の中ほど部分です)弁輪に石灰化著明で、P1(後尖の前交連側)とP3(後尖の後交連側)にも石灰化は及んでいました。また前尖A1(前尖の前交連側)とAC(前交連部)にも石灰は強くありました。

後尖腱索の大半を切除し後尖を反転させてこれらの石灰化を左室筋肉に傷をつけないよう注意しながら摘除しました。

最初はロンジュールという道具で石灰を砕いてはずし、以後は超音波破砕器CUSA(キューサ)で石灰化を乳状化して溶かすように切除し心筋にまで影響が及ばないようにしました。

後尖と後尖弁輪が石灰摘除のためやや弱くなったため、前尖を弁輪から5mmのところで切断しこれを左右に二分して後尖側へ再固定し、後尖縫合部の補強と心機能の改善・左室破裂の予防を図りました。

その上でSJM機械弁27mmを縫着しました。

この患者さんの体格からは十分なサイズで、かつ拡張した左室の基部をある程度縮小し心機能を改善する効果も多少は期待できるサイズです。

石灰摘除部でも人工弁がきれいに乗っていることを確認し、念のため逆流試験にて縫合部や弁の開閉に問題がないことを確認しました。左房を2層に閉じて87分で大動脈遮断を解除しました。

00040121_20091124_US_1_18_18b体外循環を離脱しました。術前心機能の弱い患者さんでしたが離脱はカテコラミンなしで容易でした。入念な止血ののち、手術を終えました。
経食エコーにて良好な弁の縫着と機能を確認しました(右図)。

術後経過は順調で、血行動態安定し出血も少なく、術翌朝抜管し透析を行っています。

透析と心不全のため時間をかけて回復を促し、手術後1か月半で元気に退院されました。

00040121_20130115_CR_1_1_1手術から3年あまりが経過し、外来へ定期健診にこられます。

左室駆出率も術直後の11%から27%まで回復し、まずまずお元気です。

今後も健康管理をしっかりし、お元気で暮らして頂きたく思います。

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僧帽弁膜症の関連リンク

原因 

閉鎖不全症 

狭窄症

◆  機能性僧帽弁閉鎖不全症

弁形成術

◆ リング


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

腱索転位術(トランスロケーション法)

両弁尖形成法(Bileaflet Optimization)

乳頭筋最適化手術(Papillary Head Optimization PHO)

 

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

心房縮小メ イズ手術 


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 肝臓がん術後の大動脈弁狭窄症

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大動脈弁狭窄症は年齢とともに増加する疾患で、なかでも80歳を超えると急増します。

患者さんは77歳男性で、肝臓がんのため東京の大手大学病院で手術治療を受け、安定したのもつかの間、今度は大動脈弁狭窄症が発生し、運動時に息切れがしたり動悸が起こるようになり、米田正始の外来へ来られました。

持病として気管支拡張症も合併していましたので対策を立てて進みました。

適応のため心臓手術を行いました。

全身麻酔下に

川瀬 A弁b胸骨正中切開、心膜切開で心臓にアプローチしました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で右冠尖RCCと無冠尖NCCがやや小さい形でした(写真右)。

これほど硬くなりますと、弁尖の先端、つまり弁の中央部がボールペンの先ほどしか開かなくなります。

川瀬 切除A弁b肥厚・硬化・石灰化は著明でした。

弁尖と石灰を摘除しました(写真左)。

ウシ生体弁19mm(通常の生体弁の23mm相当)を縫着しました。

右下がその挿入中の写真です川瀬 マグナ弁が入るところ

生体弁の弁尖(弁のひらひら動く部分)とくにその先端を触らないように注意しています。

体外循環をカテコラミ ン(強心剤)なしで容易に離脱しました。

左下写真は生体弁が入ったところ、大動脈弁置換術の仕上がり状態です。

写真の川瀬 AVR完成生体弁のつのの部分まで弁尖は開きます。手術前よりはるかに大きく開くことがわかります。

経食エコーに良好な人工弁と心機能を確認しました。
C型肝炎のためもあってか、出血傾向が認められたため、入念な止血ののち手術を行いました。

術後経過はおおむね順調で、血行動態良好で、当初あった出血傾向も次第に軽快しました。

手術翌朝抜管し、一般病室へもどられました。

術前に紹介医の内科先生のお力添えで、気管支拡張症も落ち着きCRP(ばい菌などの指標です)も陰性化し、安全な手術に役立ちました。

術後経過はおおむね良好でしたが、肝臓がんの術後ということもあり、少し時間をかけて回復をはかり、手術後3週間で元気に退院されました。

こうしたがんと心臓病の組み合わせの治療は、今後の展開としてはこの患者さんのように心臓手術を行ったり、カテーテル弁(略称TAVIまたはTAVR)を適宜使い分けて、より効果的かつ安全に行えるようになるでしょう。

ともあれ、あれから4年が経ち、今も外来でお元気なお顔を見せて下さいます。

肝臓のほうも落ち着いており、うれしいことです。

私たちを信頼し、ともに頑張って下さったこと、患者さんというより盟友のような気がします。

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事例:大動脈弁狭窄症とHOCMのご高齢女性

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高齢化社会を迎えて大動脈弁狭窄症は増加の一途にあります。今や最も多い弁膜症のひとつです。

その中に弁のすぐ下の筋肉、心室中隔の筋肉が異常に張り出してもうひとつの狭窄を造るタイプ、HOCMまたはIHSSの合併例がときどきあります。

左室がより駆出しづらく、より心不全になりがちです。

患者さんは81歳女性です。

最近労作時の息切れがひどくなり、近くの病院で大動脈弁狭窄症の診断を受けられました。

息切れが強く、20m以上は歩けないとのことです。脊椎の変形が強く、いわゆる猫背です。(右図)00029421_20090311_CR_2_1_1

最初お会いしたときにはホントにこの体で心臓手術ができるのかしらと思ったほどでした。

精査の血管、大動脈弁狭窄症ASは圧格差が 130mmHgもあり、平均圧較差も74mmHg、弁口面積0.56㎝2、最高流速5.64m/sと、突然死してもそうおかしくない重篤な状態でした。

しかも閉塞性肥大型心筋症HOCM、上行大動脈石灰化、が併せて見られました。

脊椎の変形が著明でしたので、まえもって仰臥位が安全に成り立つことを確認しておきました。

図1胸骨正中切開、心膜切開で心臓にアプローチしました。上行大動脈の遠位部がもっとも硬化が少ないためここを遮断部位といたしました。
体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で左冠尖のみがかろうじて可動性があり、他は岩石のように固定していました(写真左)。

写真 図2右は切除弁尖です。石灰化も著明で弁尖から弁輪を超えて大動脈壁にまで進展していました。

また無冠尖と右冠尖のバルサルバ洞にも幅広い石灰化がありました。

まず弁を切除し、石灰化を摘除しました。

図3人工弁のサイザーを入れようとしましたが上記の上行大動脈石灰化のため入らず、石灰部を摘除するため上行大動脈の内膜切除を上記の2か所とも行い(写真左、セッシで把持した板状のものが石灰です)、ようやくサイザーが上行大動脈を通過しました。
 

図6ウシ心膜弁19mmがぴったりで入りました(写真右)。

市販の生体弁で最小サイズですが、この患者さんの体格からは十分なサイズであることを確認しました。

人工弁の縫着に先立って、左室流出路を検索しますと、異常心筋が突出していました。

図5術後左室が小さくなる状態が発生する時に左室流出路の狭窄が顕著になることを回避するため、大動脈越しに心筋片を必要最小限切除しました(写真左)。

体外循環離脱はカテコラミン無しで容易に行えました(写真右 図7)。

経食エコーにて大動脈弁(人工弁)と左室の機能良好、そして僧帽弁閉鎖不全が軽微であることを確認しました。

左室流出路も十分な広さが確認できました。入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、神経学的異常もなく、背中の皮膚も健常で、術翌朝抜管しました。

術後経過良好で、手術後10日で元気に退院されました。

その後2年が経過し、お元気に暮らしておられます。毎日喫茶店へ行くのが楽しみとのことです。

最近すこし物忘れが見られるようになり、認知症対策をかかりつけの先生と進めています。

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僧帽弁膜症のリンク

原因 

◆  HOCM(IHSS)にともなう僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁形成術

◆ リング

④ 僧帽弁置換術

⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

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事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症で心不全と肝不全となった再手術患者さん

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三尖弁閉鎖不全症(TR)は軽いうちはとくに問題にならないのですが、僧帽弁膜症などに合併して高度になりますと長期の間に肝臓や全身を悪くすることがあります。

とくにペースメーカーのケーブルが三尖弁を押さえておこるTRは重症化しやすく、要注意です。

00056432_20091029_CR_1_1_1この患者さんは70代の女性です。

鹿児島でかつて機械弁による僧帽弁置換術を来院18年前に受けられました。

来院5年前に洞結節不全症候群(SSS、つまり脈が遅くなりすぎる病気です)のため、永久ペースメーカーを埋め込みされています。

それ以後はお元気にしておられましたが、次第に三尖弁閉鎖不全症TRが発生し心不全、うっけつ肝が発生、悪化して行きました。2か月まえには心不全がさらに悪化し危険な状態となったため現地の病院に入院されました。

手術するとなれば再手術でリスクが高く、肝臓も弱っており、さらに腎臓もCKDと呼ばれる慢性腎機能障害(GFR41と低下)の状態で、現地の病院では手術できないと言われ、米田正始の外来へ来られました。(写真右上はそのときの胸部X線です)

とくに肝臓はChild分類(チャイルド分類)Bで、つねに総ビリルビンが4を超えるという危険な状態でした。

来院時は総ビリルビン値は5.74もあり、このままでは手術は危険なため、まず時間をかけて心不全や肝不全、体調を改善するようにしました。1か月でできるだけ改善したところで手術に踏み切りました。

肝不全のため血がなかなか固まらないため、正中切開(胸の真ん中にある胸骨を縦に切って心臓にアプローチします)をやめて右開胸でアプローチすることにしました。

体外循環を開始し、心拍動下に右房を房室間溝に平行に切開しました。

三尖弁は弁輪拡張し、ペースメーカーケーブルが中隔尖の後尖寄りに強く癒着し腱索を巻き込んでいました。長期間のTRのためか前尖・後尖ともやや短縮傾向にあり、先端部が肥厚していました。

まずペースメーカーケーブルを中隔尖から剥離しました。このときケーブルが右室内側から外れたため、まずケーブルを中隔尖と後尖の間に埋め込みつつ、先端を右室肉柱に挿入しました。ケーブルが癒着していた腱索は肥厚短縮しており、その部分の中隔尖は右室側へ牽引されていたためこの肥厚腱索を離断し、ゴアテックス人工腱索でもとの腱索の長さより約5mm延長して再建しました。これによって三尖弁のかみ合わせは改善しました。

その上で柔軟リング27mmを縫着しました。ペースメーカーはリングの外側に位置し、リングはその部分のみ屈曲しケーブルを守る形でその部のTRもありませんでした。ペースメーカーの閾値が術前より改善しているのを確認し、念のため、ケーブルを右房側でも固定し、はずれないようにしました。

体外循環を離脱しました。離脱はカテコラミンなしで容易でした。心臓は一度も止めることなくすべての操作を完了できました。
経食エコーにてTRが軽微であることを確認しました。入念な止血ののち手術を終了しました。

術後経過は予想以上に順調で、出血も少なく、術翌朝抜管(人工呼吸の管から外れること、良いことです)し同日、一般病棟へ戻られました。術後2日目からは歩行も開始され、食欲も良好でした。ビリルビンは術直後は5前後まで上昇しましたが、術後4日目には約2.7まで改善し、うっ血が取れ肝腫大も軽快しました。術後3週間を待たずに元気に退院され鹿児島へ戻られました。

心臓手術から3年半が経ちます。お元気に半年ごとの定期健診に来院され、笑顔を見せて下さいます。心臓ホルモンであるProBNPは術前1740と大変高かったのが、いまでは367まで改善しています。肝機能も正常化しました。手術後は畑仕事も楽しんでおられるそうで、うれしいことです。

蛇足ながら、手術後しばらくしてから、患者さんのご主人さまも弁膜症になられ、手術をさせて頂きました。その時にはこの患者さん(奥様)が付き添いをして下さいました。

今後もお二人の元気なお顔を拝見するのが楽しみです。

 

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事例:二尖弁大動脈弁狭窄症のエホバの証人患者さん

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二尖弁大動脈弁は年齢とともに壊れやすく、弁尖(弁のひらひらと開閉する部分)が硬く狭くなって大動脈弁狭窄症になったり、弁尖が落ち込んで逆流が発生し大動脈弁閉鎖不全症になることが少なくありません。

さらに逆流をそのままにしておくと次第に心臓の筋肉が変性し、拡張型心筋症になりかねません。

 

00058727_20091119_CR_1_1_1二尖弁の場合は上行大動脈や大動脈基部が構造的に弱く、拡張して瘤になることがあります。

これらを考えて短期的かつ長期的な計画のもとで、手術や治療を組み立てる必要があります。


患者さんは39歳男性、二尖弁による大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症(ASR)そして上行大動脈瘤のため米田正始の外来へ遠方から来られました。

00058727_20091119_US_1_12_12b長い間のASR(左図、弁が硬く分厚くなりあまり開きません)のためか、左室の直径(LVDd)73mmと高度に拡張し、駆出率も30%と低下していました。

心不全のため僧帽弁閉鎖不全症も中等度まで合併していました(下右図)。

つまり二次的 00058727_20091119_US_1_25_25bに拡張型心筋症にまで悪化していたわけです。

患者さんのお母様がエホバの証人の信者さんで、母親の気持ちに沿いたいという希望を出されましたので、極力無輸血という方向で手術と治療を進めました。

胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。(術中写真工事中)

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は左冠尖LCCと右冠尖RCCが一体化した二尖弁でした。肥厚硬化が顕著で、石灰化も中等度みられました。

現在でしたら自己心膜による大動脈弁再建を行うところですが、当時はまだ検討中であったため、この患者さんには人工弁を入れることにしました。

弁および石灰をすべて切除しました。

ここで機械弁(On-X弁)縫着しました。この弁は機械弁ですが、背丈を高くすることで血流速を上げ、血栓ができにくい構造になっており、将来ワーファリンが不要または減量できる可能性があります。

上行大動脈を2層に閉鎖し、大動脈遮断を解除しました。

体外循環からの離脱はカテコラミン(強心剤)なしで容易でした。

上行大動脈は50mmに達するほど拡張し、事実上の動脈瘤でした。

通常は上行大動脈置換術を行うのですが、上記のように患者さんのたっての希望で無輸血を確実に達成するためにラッピングを行うことにしました。ラッピングでしたら針穴出血もありませんし、ポンプ時間を短縮することで出血傾向も軽くなります。

上行大動脈を周囲組織から剥離し、ヘマシールド人工血管でラッピングし、軽く締め付ける形で径を35mm程度まで小さくし、人工血管を固定しました。上行大動脈のほぼ全域を覆うことができました。

経食エコーに良好な大動脈弁機能と心機能を確認しました。

入念な止血ののち、余裕をもって無輸血で心臓手術を完了しました。

術後経過は順調で、血行動態安定し出血も少なく、術当夜、抜管し、術翌朝一般病棟へ戻られました。

術後10日目に元気に退院されました。

すでに心臓は格段に小さくきれいな姿になっています。(下右図)

00058727_20100706_CR_1_1_1手術前は心機能の低下が著明でしたが、

術後1年で左室の直径(LVDd)49.5mm、駆出率42%まで回復しておられます。

僧帽弁閉鎖不全症もほぼ消えるほとに改善していました。

ラッピングした上行大動脈も直径45mmで安定しています。

これからお元気に親孝行に励んで頂ければと思います。

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IE (感染性心内膜炎):どう治す?【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️感染性心内膜炎(IE)の治療の特徴は

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IE(感染性心内膜炎)の治療は通常以上にしっかりとした、完璧あるいはそれに近いものが求められます。

Gum06_fr01002-sばい菌が残っておれば手術の後といえども再発する恐れがありますし、手術せずにお薬で治せる場合でもIEの原因が残っているため高い再発率が知られています。

手術では完全にばい菌を取り去ることが原則で、この点、がんの手術と共通していると言われます。

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◾️感染性心内膜炎の内科的治療

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IE (感染性心内膜炎)の治療はまず的確な診断と状態の把握から始まります。

僧帽弁の場合でも大動脈弁の場合でも、心不全がなく、感染つまりばい菌が薬で消せるとき、あるいはばい菌のかたまり(疣贅(ゆうぜい)Vegetation)が安定しているときなどは抗生物質などを中心とした内科治療で治せます。

ただその場合、ばい菌がどこかに潜んでいる時には感染再発への注意がひつようです。

また感染の原因たとえば僧帽弁逸脱や大動脈二尖弁や心室中隔欠損症などが残っている以上、新たな再感染が起こりやすいことがあるためそれへの注意・予防が大切です。

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◾️感染性心内膜炎の外科治療は

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ilm17_ca06004-sIEの患者さんで、心不全や感染が薬ではどうにもならない場合は心臓手術が適応となります。

感染した組織を徹底的に切除し、そのうえで壊れた弁を再建します。

そのため感染性心内膜炎の手術では通常以上の高度な弁形成術のテクニックが求められます。

弁形成のテクニックにつきましては、それぞれの項目をご覧ください。感染でやられた部位によって、弁尖、腱索、乳頭筋、弁輪、ときには左室や左房まで再建することがあります。まさに心臓全体を再建する技術が必要なわけです。

IEでの弁形成に感染再発の懸念があったり、高齢者や確実に短時間で一発で治したいときには弁置換が適応になることもあります。(手術事例:感染性心内膜炎のため僧帽弁置換術)

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◾️熟練術者の手術が特に必要なとき

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若い患者さんほど、弁形成の意義が大きくなるため、エキスパート心臓外科医の手でしっかりと弁形成するのが望まれます。

なかでも若い女性で将来 Ilm08_cd06003-s妊娠出産を希望される場合は、弁形成ができるかどうかでこどもを得られるかどうかの差がでるため、人生をかけて弁形成を達成することが大切です。

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またアフターケアも大切で、IEの再感染のリスクを減らすため、教育や注意などが望まれます。手術しっぱなしでは、いくら経過が良くても長期の安全に心もとないこともあります。やはり全人医療の観点が良いと思います。

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◆患者さんの想い出:

Aさんは20歳前半の女性でエホバの証人の信者さんです。

僧帽弁閉鎖不全症に感染性心内膜炎(IE)を合併し、心臓手術などあり得ないとある大学病院で言われて私の病院へ来られました。

そのとき血液のヘマトクリットは20あまり、普通の半分もない状態で、しかも宗教上の理由で輸血ができない、加えて感染があり、たしかにこの状態の患者さんを受け容れる病院はないでしょう。

受け容れたときはチームの諸君からも無茶ですよ、先生正気ですか?と言われました。

しかし感染が制御できつつあること、心不全も当面何とかかわせる程度であること、そこで時間が稼げてその間に造血が図れること、若くて体力があり理解もあること、などから前向きに治療を進めました。

と言う以上に、将来のある若者ひとりの命がかかってるんじゃ、救命するのが当たり前だろ!という無敵モードでの決意でした。入院してからはチームの皆に頭をさげて頑張って頂きましたが。

しばらくして感染がほぼ収まり、血液もかなり増えたところで手術に臨みました。

絶対無輸血が患者さんの切なるご希望ですから、ポートアクセス法によるミックスMICS手術で僧帽弁形成術を行いました。これなら骨をまったく切らないため無輸血での手術がしやすいのです。

術後経過は良好で、しばらくは抗生物質でばい菌の徹底除去を行い、それから元気に退院して行かれました。創もほとんど見えないほど小さく、これは頑張ってくれたAさんへのご祝儀でした。

Aさん、来院時は絶体絶命でしたが、もう大丈夫、これから健康人として楽しく活発に、永い人生を歩んで下さい。

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原因 

閉鎖不全症 

弁逸脱症

リウマチ性

◆  HOCM(IHSS)にともなうもの

◆  機能性

弁形成術

◆ 形成用のリング

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 弁置換術 

⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 感染性心内膜炎IEのため僧帽弁置換術を受けた患者さん

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感染性心内膜炎(IE)の治療ではしっかりとした状態評価と、いざというときにいつでも手術できる足腰の強さ、さらにばい菌を完全に消すまで粘り強くかつ適切に抗生物質を使いこなすちからが求められます。

以下の患者さんはこの感染性心内膜炎のため遠方の大学病院からお越し下さいました。

65歳女性、感染性心内膜炎IEに僧帽弁閉鎖不全症弁MRと心房細動AFを合併しておられました。

セカンドオピニオンで来院された患者さんですが、ご本人とご家族のご希望で当院手術となりました。

一応落ち着いておられましたので、できるだけばい菌がいないasepticと呼ばれる状態で手術できるようしばし点滴ラインや抗生物質offで、経口ワーファリン等で経過をみておりました。それから手術になりました。

胸骨正中切開ののち心膜を切開しました。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

図1僧帽弁はまず前尖A2とA3に腱索断裂が複数あり(写真左)、

かつ古くなったvegetationが付着(写真下右)していました。

図2またACも逸脱気味でした。

一方、後尖はP2とP3が左室後壁に張り付き、

図3実質的にP2・P3は存在しないのと同様になっていました。

写真左でP2とP3はほとんど立ち上がることができません。

また写 図4真下右でP2とP3の大半が左室後壁に付着しています。

後尖が半ば存在しないanatomyでの弁形成は、弁尖をあらたに造れば形成は十分可能です。前尖には人工腱索を6-8本も立てればきれいにかみ合うようになるでしょう。

しかし感染がまだ多少でも残存している恐れから複雑な弁形成がやや不利な状況と、すでに60歳半ばのご年齢で生体弁もかなり長持ちしやすいことを併せ考え、この患者さ 図5んの場合は前向きに弁置換が有利と判断しました。

そこで前尖の元・感染部を切除し、

残りの前尖後尖腱索を僧帽弁輪に再固定(写真左)する形で乳頭筋を温存し心機能を守るようにしました。

モザイク生体弁27mmを 図6固定しました(写真右)。

それに前後して、冷凍凝固を用いたMaze IIIをまず左房側に行い(写真下左)、

図7左房を閉じて、70分で大動脈遮断を解除しました。

左心耳は除細動の可能性が高く、

かつ心房性利尿ホルモンANP分泌能温存を考慮し、

閉鎖しませんでした。

図8心拍動下に右房をメイズ切開し、右房メイズを行いました(写真左)。

エア抜きののち119分で体外循環を離脱しました。

離脱はカテコラミン無しで、心房ペーシングにて容易でした。

切除した前尖 図9の感染部(写真右)です。

経食エコーにて良好な僧帽弁(人工弁)機能と心機能を確認いたしました。術前にワーファリンないしヘパリンが入っていましたので入念に止血を行い手術を完了いたしました。

術後経過は順調で、出血も少なく、心房ペーシングで血行動態は安定し、夕方には覚醒、術翌朝人工呼吸から離脱しました。

もともと感染性心内膜炎IEがあったため、時間をかけて感染の治療(予防)を行い、術後3週間で元気に郷里へ戻られました。

心臓手術から4年が経過し、現在は毎年1度、定期健診に外来へ来られます。笑顔を拝見するたびにうれしくなります。

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原因 

僧帽弁閉鎖不全症 

僧帽弁逸脱症

僧帽弁形成術

◆ リング

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 僧帽弁置換術 

⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

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心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

心房縮小メイズ手術 

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執筆:米田 正始
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事例: 急性大動脈解離と大動脈弁閉鎖不全症

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急性大動脈解離はとつぜん、それもいのちにかかわる状態となる病気です。上行大動脈がやられるA型とやられないB型があり、A型では超緊急手術が患者さんを救います。心タンポナーデつまり血液が心臓の周りに貯まって圧迫したり、この方のように大動脈弁閉鎖不全症を合併すると一層急ぎます。

その病院の足腰の強さや基本姿勢が問われる病気ともいえます。

ハートセンターはまさにこうした病気の患者さんを救うために存在しているような病院で、社会にお役に立てればと念じています。

患者さんは79歳女性で、高血圧と高脂血症で近くの医院に通院しておられました。

とつぜんの胸痛で、当院へ搬送されて来ました。いそいで診断確定し、ただちに手術となりました。

手術室の準備ができ次第、患者さんを搬送し全身麻酔を導入しました。

図1血行動態は頻脈でプレショック状態でしたので、解離のためタンポナーデが発生しているものと考え、急遽オペ開始しました。

この時点でアニソコリア(左右の瞳孔サイズが違うこと)があり強い脳虚血の懸念がありました。早く手術しないと脳死になる恐れが迫っています。

図2
急いで心膜を切開しますと暗赤色の血液が噴出しタンポナーデ状態であることが確認されました。

左写真でソーセージのように赤く見えているのが上行大動脈です。

突然高血圧になって大動脈が破裂しないよう、血圧が徐々に上がるよう血液とクロット(血の塊り)を心のうからゆっくり吸引し血行動態は安定しました。

写真上右は上行大動脈の解離を、写真左は解離した上行大動脈―近位弓部大動脈の外観を示します。

 

左大腿動脈送血、上下大静脈脱血管にて体外循環を開始しました。

図3全身を約20℃まで冷却しつつ、頭部は氷嚢で追加冷却し、かつバルビタール等で脳保護に努めました。

体温が20℃になったところで循環停止し、上行大動脈を横切開しました。

最近は28℃程度でより迅速に自然に治すことが増えましたが、この患者さんのように脳保護が大切なときには有用な方法かも知れません。

解離腔には暗赤色のクロットが見られ、これを摘除しました。

内膜は上行大動脈遠位部の内側(主肺動脈側)に亀裂があり、これがエントリーと考えました(写真上左、ハサミの先端やや左側の部位が亀裂です)。
図4

上行大動脈を切除し近位弓部大動脈を露出したところで、GRFグルーをもちいて、近位弓部大動脈の断端を補強しました(写真右)。

図5ダクロンフェルトストリップを用いて

ヘマシールド人工血管1分枝付き26mmを近位弓部大動脈に縫合しました(写真左)。

現在はさらに高性能の人工血管で一段と出血が減っています。

十分なエア抜きののち、24分で体外循 図6環を再開し、復温に入りました(写真下右)。
縫合部の止血を確認・補強後、上行大動脈基部をトリミングし、

図7大動脈基部には弁のなかほどのレベルまで解離があったため、

GRFグルーで内膜と外膜を固定しました(写真左)。

さらに 図83つの交連部を内外のフェルト付き糸でリベットを打つように固定し、

再解離しにくく、またARの発生を抑えるようにしました(写真右)。
上記人工血管の反対側を大動脈基部と縫合しました。

110分で大動脈遮断を解除しました。入念な止血とエア抜きののち、体外循環を離脱しました。

図9離脱は容易でした。

写真左は近位弓部大動脈人工血管置換術後の外観を示します。
経食エコーにてA弁と左室の機能良好を確認しました。

入念な止血ののち手術を完了しました。

麻酔導入のころに見られた瞳孔不同は体外循環再開後は正常化し安定しました。

術後経過はまずまず順調で、出血も治まり、術翌日朝に抜管いたしました。

神経学的にも明からな異常はありません。

術後経過は良好で、年齢とリハビリをじっくり行い、手術後3週間で元気に退院されました。

その1年半後、息切れのため米田の外来へこられ、右冠動脈の狭窄が判明、カテーテルによるPCI治療で軽快しました。

大動脈の術後4年が経ちますが、お元気にしておられます。かつての緊急手術の甲斐があったと喜んでいます。もはや急性大動脈解離でいのちを落としてはもったいないと思います。

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事例: クレフトのある先天性僧帽弁閉鎖不全症

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先天性僧帽弁閉鎖不全症にはさまざまなタイプがあります。

単にクレフトと呼ばれる弁尖のき裂から、それが大きくなって弁輪に達するもの、さらに弁輪を割って心房中隔欠損症ASDや心室中隔欠損症VSDまでに至るものなど、さまざまです。

Ilm19_cb02025-sその他にもさまざまなき裂、低形成、腱索や乳頭筋の異常などがあります。

いずれにせよ、こどもの頃からの逆流のため、長い年月を経て弁の形も正常も変化変形します。

それぞれに応じた対応が大切と思います。それによって弁形成ができるからです。この病気では若い患者さんが多いため、きわめて重要なことです。

患者さんは30代後半の女性です。

11歳のときに心雑音を近くの病院で指摘され、以後毎年2回定期健診を受けておられました。

13歳ごろに倒れて近くの病院へ行き、そこで重い僧帽弁閉鎖不全症と初めて診断されたそうです。以後、2か月ごとに外来通院し内服治療を受けておられます。

来院の前年までは毎日仕事をしておられましたが、それ以後次第に息切れが増え、旅行などのときに苦しくなったこともあったそうです。何とか一日おきの勤務で頑張っておられましたが、弁形成ができるという話を聞いて米田正始の外来へ来られました。

心不全のある、高度な僧帽弁閉鎖不全症のため手術を行いました。

全身麻酔下に胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

図1僧帽弁は術前診断どおり、前尖に裂隙(クレフト)があり、

僧帽弁輪中央部からやや後交連側に斜めに走行する形でクレフトができており、

クレフト部の前尖は肥厚と硬化が著明でした(写真左)。

僧帽弁輪そのものは何とか保たれていました。

乳頭筋は前尖のクレフトの左右比に近い形で、前乳頭筋が後乳頭筋よりもやや発達し 図2ていました。

また後尖はP1がやや低形成で、

P3が腱索伸展のため逸脱していました(写真右のセッシでP3を把持)。

P2-P3間のScallopが前尖のクレフトの対岸にあり、ここからMRが強く発生しやすい形でした。

総じて、先天性のクレフトMRで、その後P3の逸脱という後天性疾患が加わったもので、クレフトは共通房室弁口の亜形と考えられましたがASDやVSDはありませんでした。

図3まずクレフトを僧帽弁輪から弁尖まで結節縫合にて修復再建しました。

このとき、

弁輪近くの僧帽弁輪形成術MAPの糸は左室側から、大動脈弁を直接チェックしながら弁輪に刺入しました(写真左)。

さらにP3をP2にEdge-to-edgeで連 図4結し、

P2-P3間のScallopを閉鎖しつつ、

同時にP3の逸脱を防ぐようにしました(写真右)。

Duran柔軟リング25mmで全周性にMAPを行いました 図5(写真左)。

柔軟リングを用いることで隣接する大動脈弁のジオメトリーを変えないように、

また弁輪部のクレフトが再発しないようにしました。

逆流試験にてMRの消失を確認し(写真右)、

左房を閉 図6じて87分で大動脈遮断を解除しました。

経食エコーにてMRの消失と良好な心機能および大動脈弁を確認しました。弁形成の完了です。

入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過はおよそ順調で、出血少なく血行動態もおおむね良好で、術当夜抜管いたしました。

術翌朝一般病棟へ帰室され術後10日目に元気に退院されました。

あれから3年が過ぎ、現在は毎年1回定期健診に来られます。

心臓もすっかり小さくなり、リズムも含めて正常化しました。お元気なお顔を拝見してうれしく思っています。

 

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僧帽弁逸脱症

◆  HOCM(IHSS)にともなう僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ バーロー症候群


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 僧帽弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

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メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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