2015年度のAATSアメリカ胸部外科学会にて

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今年もAATSに行って参りました。珍しく西海岸のシアトルで開催されました。

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心臓血管外科領域では世界の最高峰に位置する学会で、そこには世界の顔が集まり、最新の知見と豊富な経験をもとにした議論が交わされるため、参加しました。同時にこの会は正会員が世界で600名限定で、かつ毎年参加することが義務づけられていることも理由です。

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米国の学会といっても、実質世界学会で、ここにいればおのずと世界の情報が集まり、また旧交を温め、新たな仲間を造れるため重要な業務とさえいえる学会です。もともとヨーロッパからの参加も多かったのですが、近年はさらに増え、そしてアジアの仲間の数も増加の一途で、素晴らしいことと思います。

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その分科会ともいえるMitral Conclaveつまり僧帽弁の専門的シンポジウムが直前にニューヨークで開催されたため、多くの会員はニューヨークから一緒に移動していました。

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学会本会の前日に成人心臓血管外科、同先天性、そして胸部外科つまり肺縦隔の3つに分かれて恒例の卒後教育シンポジウムが開催されました。
私はもちろん成人心臓外科に参加しました。今年はDicision Makingにとくに重点を置いた構成でした。

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まず冠動脈ではCABGがどんなときにカテーテルでのPCIより優れているか、動脈グラフトは何本使うのが良いか、質の維持をどうするか、ハイブリッド治療やロボットその他の方法とどう使い分けるか、などの観点から欧米の有名どころが最近の知見を解説してくれました。

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確かに心臓外科の占めるウェイトは減った、しかしまだまだお役に立てる領域がたくさんある、患者さんの重症度が増すにつれてそれはむしろ増えることもある、その場合にうまくハイブリッドや低侵襲治療を駆使してリスクが上がらぬようにする、そうしたことをあらためて認識しました。

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引き続いて弁膜症のセッションとなりました。大動脈弁と大動脈をどうするか、これはとくに二尖弁の場合に重要です。院内でもいつも熱いディスカッションになるのですが、ここでも最近の知見をもとにしてより長期の安全を確保する方法が論じられました。

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生体弁と機械弁の使い分け、ARに対する弁形成がどこまで使えるか、弁サイズの問題いわゆるPPM(患者と人工弁のサイズミスマッチ)、外科的AVRとTAVIと薬の比較、そしてステントグラフトまでが論じられました。TAVIの発展が患者さんに益する治療に結びつくよう、ハートチーム全体でしっかりと取り組まねばならないと再認識しました。

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ランチョンセミIMG_1412ナーはLegend(伝説)セッションで、心臓外科の中で伝説の名人にその半生を語って頂くという企画でした。今年は我が恩師Tirone E. David先生が話をされました(写真右)。Adams先生の司会で、弟子を代表して畏友Michael Boger先生が想い出を語りました。あのころを想い出し、思わず熱くなってしまいました。若い先生方にこうした忘れ得ぬ経験を積んで頂きたいとも思いました。その前後にこれらの先生方ともゆっくり話ができて楽しいひと時でした。

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午後にはMVRと心房細動の治療(心房細動は放置しないように)、僧帽弁と三尖弁の同時手術、僧帽弁形成術のときにSAMを防ぐこと、僧帽弁形成術の長期成績、虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対して弁形成するか弁置換するか、カテーテルによるMクリップをどんな患者に対して行うか、心房細動に対する外科アブレーションでどの方法を使うべきか、機能性三尖弁閉鎖不全症をどんなときに治すべきか、などなど、現代的課題がつぎつぎと論じられました。

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虚血性MRに対する僧帽弁形成術や心房細動の手術などでは我々のほうが進んでいるところもあり、あとでディスカッションすることになりました。もう少し症例数があれば講演でより多くの方々のお役に立てるのですが、そこはまず日々の努力からということでしょうか。

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最後のセッションでは救急での対応、カテ室での事故があったときの迅速な対応、術後の高度な心不全、大動脈解離、心筋梗塞後の心室中隔穿孔VSP、外傷による大動脈破裂、などが論じられました。ここでも我々のVSP治療の成果その他で貢献したいところでしたが数が足りず、今後の努力と楽しみにということにしました。

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翌日からAATS本会が始まりました。テキサスのCoIMG_1421selli先生(写真右)の胸腹部大動脈瘤3000例の検討は圧巻でした。これぞ心臓血管外科、これこそAATSという、かつての感動を新たにしながら拝聴しました。毎回、毎年、そして10年ごとにデータを解析し改良を加えていると聞き、うれしくなりました。

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Adams先生らの僧帽弁手術の際の三尖弁形成術の有用性という発表には激しい討論があり、これまた長期の膨大なデータで科学的にものを論ずる欧米ならではの良さを感じました。要するに将来三尖弁閉鎖不全症が発症する患者さんをきちんと見極め、それらの方々に予防的三尖弁形成術を行えばと思っています。そうした方々にはより短時間でできる、簡便な方法で侵襲を増やさずにできる、これも今後有益になるのではと思います。

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優れた発表が続いたあとで、新メンバーの紹介がありました。この会のメンバーになるということは一流の、少なくとも一人前の心臓血管外科医として認められることであり、皆嬉しそうでした。その中にはアメリカの友人も数名おられ、あとでお祝いを述べ、楽しいひと時でした。畏友Chris Malaisrie もその一人でした。おめでとう。

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会長講演はボストンこども病院のDel Nido先生(写真右)のIMG_1422「科学技術の進歩と心臓胸部外科」というテーマでこつこつと謙虚に貢献を続けてこられた同先生ならではの内容だったと思います。講演前から聴衆が総立ちで拍手したところに同先生の人徳がうかがわれました。

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そのあともTAVIや僧帽弁形成術、僧帽弁膜症にともなう肺高血圧症、AFに対するCox-Maze手術、などの優秀演題が続き、参考になりました。

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夕方にはレセプションがありましたが、今回は総じて日本からの参加が少な目で、Mitral Conclaveがニューヨークであったことも手伝ってか、あまり長期間あちこち行けない状況があったのではと感じました。

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本会二日目は朝7時から、実験研究や先端技術・デバイス、そして手術ビデオのセッションがあり、全部に出たいのですが一つしか選べないため今回は手術ビデオにしました。

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工夫された面白い手術が多数供覧され大変参考になりました。これまでの手術にさらに改良を加えて完成度を上げた、そうしたタイプのものが多く、概念を変えるほどのものはありませんでしたが、良いセッションだったと思います。
かんさいハートセンターがスタートして1年半がたち、そろそろこうした会で発表できそうな、他施設でもお役に立てそうな手術が増えて来たため、来年は演題を出そうと思いました。

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そこからまた本セッションが始まりました。大動脈基部再建の方法4つを比較した、クリーブランドクリニックからの優れた発表に、熱いディスカッションがあったのが印象的でした。機械弁ベントール手術は確かに安定性に優れた方法で、しかしTAVIとくにValve in valveを念頭に生体弁ベントールが急増しており、その中で確実に弁を治せるならDavid手術は素晴らしい、そうしたことを再確認できました。さまざまな状況下でそれに応じたきめ細かい対応がこれから重要になっていくとも思いました。

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それやこれやで充実した数日間でしたが、あまり仕事に穴をあけるわけにも行かず、あと一日あまりを残して残念の帰国となりました。

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留守を守って下さった高の原中央病院と同かんさいハートセンターの皆様方に深謝申し上げます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第三回Mitral Conclaveに参加して

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伝統ある米国胸部外科学会(略称AATS)のサテライト学会ともいえるこのMitral Conclaveは僧帽弁の外科治療を突っ込んで研究する会として4年前に発足し、早3回目となりました。

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私は代表のDavid Adams先生(写真右)のお誘いで初回から参加させIMG_1415て頂き、その都度刺激や知識をいただき、あるいは仲間との意見交換の中で貴重な経験を積み、楽しい時間を過ごして来ました。ここまで毎回発表し、今回は3つの発表で思わずちからが入ってしまいました。といってもポスター3つ、ただし1つはFeatured Abstractという優秀演題となり、日本発の研究が評価されてうれしく思いました。

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毎回会場はNew York市内のホテルが使われ、おかげでNew Yorkになじみができました。タイムズスクエアの賑わいやエンパイアステートビル、そして9・11で崩壊したあとついに再建なった世界貿易センタービルなどが近くにあり、世界をリードするミュージカルやオペラ、コンサートなど、文化の中心であることを実感します。
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学会では僧帽弁の手術治療についてさまざまな観点から発表と討論がなされました。
Adams先生の熱心なご性格からでしょうか、この2日間で僧帽弁のすべてが学べるようにという意気込みが感じられる構成で、高名な権威筋といえどもひとり8分の圧縮した濃い内容のプレゼンがぎっしりと詰まっており、それらが一段落したところで総合討論して理解を深めるという形でした。

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たとえば一日目最初のセッションでは我が恩師Tirone David先生の僧帽弁のExposure(つまり弁を出すためのアプローチ法)、David Adams先生の病変の評価、Francis Wells先生の逸脱の治し方、恩師Craig Miller先生の弁輪の治し方、今回のAATS会長Pedro Del Nido先生のクレフトその他の先天性病変の治し方、Robert Dion先生のSAM対策法、Ottavio Alferi先生の二次的MRの治し方、Gilles Dreyfus先生の評価と形成の完成、そして総合討論とおなじみの先生方の系統的連続講義で実によく練られたプログラムと感心しました。

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僧帽弁形成術を日ごろから多数こなしている私たちにとっては内容もおなじみのものが多いのですが、随所に新しい流れを感じて参考になりました。

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朝から晩まで12時間近く、よくまあこれだけ僧帽弁の話題があるものだと感心しながら、それでもまだ勉強したりない、まだまだ序の口といった感覚があり、この会は当分続きそうだと予感しました。

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私自身は次の3つの発表を行い、これまでの努力を皆様に問うてみました。
まず機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新術式である乳頭筋適正化術・PHO法の中期遠隔期成績。これはFeatured Abstractという優秀演題の一つに選ばれました。機能性僧帽弁閉鎖不全症の多くはこの方法で弁形成できる、長もちする、心臓外科医はもっと弁形成に取り組んで下さいという気持ちでお出ししました。

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今回のConclaveでも機能性僧帽弁閉鎖不全症は弁置換にしようとか、Mクリップという不完全な方法で逃げておこう、あるいはTMVRという低侵襲の弁置換でかわしておこうという空気が強く、もちろん手術できないほどの重症では良いと思いますが、手術で元気になれるものをなれなくしてしまう、そんなことのないようにと訴えたつもりです。

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もう一つの発表はHOCMつまり肥厚性閉塞性心筋症で僧帽弁閉鎖不全症を伴うものに対するモロー手術つまり異常心筋切除術の発展型をお示ししました。技術や道具の進歩で、従来は難しいとされた大動脈弁越しに心尖部まで自由に心筋切除ができることを示し、さらにMICSという小切開手術まで可能ならしめたことを発表しました。恩師David先生も賛同してくださり、うれしいことでした。もともとトロントで学んだ技術をMICSの方法などを加味して発展させただけに、思いいれのあるテーマだったのです。

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HOCMで発作を繰り返し、仕事や楽しみを奪われて失意の人生を送っておられる方々をこの方法でこれまで多数お助けしてきました。しかしまだまだ未治療で困っておられる患者さんは多いようです。ぜひそうした方々のお役に立ちたく思いました。

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今一題の発表はポートアクセス法でのMICS手術の展開についてです。僧帽弁形成術だけでなく、大動脈弁手術三尖弁形成術メイズ手術なども必要あらば併せて行い、MICSがより汎用性のある手術法になればと思います。まだまだ注意すべきこと、改良すべきこともありますが、かなり光が見えて来たように思います。

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こうした発表を見るひとは見て下さっており、ありがたく感じました。

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今回の会ではカテーテルで行う弁治療、いわゆるSHDインターベンションが着実に進歩しているという現実がより明らかになりました。Mクリップによる弁形成はまだまだ不十分な治療という弱点が否めませんし、TMVRつまり左小開胸にて心尖部からTAVIのようにして入れる、オフポンプでの弁置換もかなり盲点や弱点が多いと感じましたが、外科手術ができない場合などに有力な治療法になり、歓迎すべきことと思いました。

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またダビンチロボットによる僧帽弁形成術も通常医療として根付いていることも確認できました。日本では保険が効かず患者さんの負担が過重になることからまだ課題が多いですが、うまく使えば価値が出てくるものと思いました。

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大動脈弁関係でも熱い議論が多く交わされました。しかしカテーテルによるTAVRの話題になりがちで、外科医としてはちょっと退屈な場面もありました。治療の低侵襲化は時代の要請ですし、これから積極的にカテーテル治療を導入しながら、やはり外科手術しかないという治療を行える数少ないセンターのひとつになるのが正解ではないかと感じた次第です。

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ともあれ内容ぎっしりの二日間で、多くの仲間や先輩たちと語り合えて実りある時間が過ごせました。その間、留守を守って頂いた高の原中央病院かんさいハートセンターの皆様に感謝申し上げます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第5回ハートバルブカンファランスの御礼

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早いものでこの弁膜症の研究会がスタートして5回目になりました。思えば第一会のときはたまたま同じ日にあの東日本大震災が起こり延期になったという忘れられない想い出がありました。

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今回は私が当番世話人、学会でいえば会長を仰せつかり、1年前から準備を進めて参りました。
この会の「公式」報告は雑誌「心エコー」に掲載されますので、そちらをご参照ください。
ここでは自分なりに感じたことなどをお書きします。

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HVC2015この研究会は前回から大阪で開催されていますが、今回も当番の私が奈良ということで大阪開催となりました。パンフレットの阿修羅像は川副先生がデザインして下さったもので、同先生の美的センスに感嘆いたしました。

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そこで気がついたのですが、阿修羅はもともと仏にお仕えしていたのが、あまりやんちゃが過ぎ戦いに明け暮れ、仏の逆鱗に触れて改心し仏教を守護する神になったという伝説(諸説あり)で、古い大学の体制に嫌気がさして逆らったのを批判され、象牙の塔を出て市中病院で患者さんのために日々汗を流すようになったのとどこか似ていて、これからは大人しくしようとふと思ってしまいました。

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ともあれ1年かけて代表世話人の川副浩平先生や前回当番の中谷敏先生らと何度もミーティングを持ち、今大切なことは何か、今議論するにふさわしいテーマは何か、今何が面白いか、といったことを念頭にテーマを決めて行きました。

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出来上がったプログラムを見て多くの世話人の先生方が面白そうで楽しみですという旨のご意見を下さり、安堵したものです。当日は満員御礼に近い状態となり立ち見の方もでるほどで、皆さんに感謝一杯の一日となりました。

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まずPreconferenceセッション「ハートチームはもっと楽しくなる」から、心臓病センター榊原病院の坂口太一先生と東京大学循環器内科の大門雅夫先生に、より良いハートチームへの努力経験をお話頂きました。いろいろ反省しながら拝聴していたのは私だけではないでしょう。

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カンファランスの内容は上述の雑誌をご参照頂くとして、まずその骨子を以下にまとめます。

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まずCase Study1「外科医今昔物語―その2 ”How would you operate?”」。若手をベテランが叱咤激励する恒例の企画です。3名の新進気鋭の心臓外科医、神戸市立医療センター中央市民病院・小山忠明先生、東京ベイ・浦安市川医療センター・田端実先生、済生会中津病院・中桐啓太郎先生に苦労症例を提示していただき、辛口のエキスパートコメントを京都府立医科大学・夜久均先生と東京慈恵会医科大学・橋本和弘先生から頂きました。もちろん座長の川副浩平先生と東京女子医大・芦原京美先生からもご質問とご指導を頂きました。

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Case Study2「大動脈弁をもっと知ろう」ではまず東邦大学医療センター大橋病院の鈴木真事先生に二尖弁関係のユニークでハイレベルのお話を、ついで心臓血管研究所の國原孝先生が弁形成術で足りないもの、不確かなものについてお話されました。座長の神戸大学・大北裕先生と高の原中央病院・太田剛弘先生にはエキスパートのご指導を頂きました。

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ランチョンセミナーは少しディベート風に1.桜橋渡辺病院・小山靖史先生の「エコーに負けないCT」と、2.東京ベイ浦安市川医療センター・渡辺弘之先生の「CTを飲み込むエコー」でした。大変勉強になりました。座長の心臓センター榊原病院・吉田清先生の絶妙な司会のもとでよく理解できました。

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午後のCase Study3は今日的話題の「HOCM+MR 治療の深淵」でした。この道の権威でもある榊原記念病院・高山守正先生が最近の内科的治療とくにカテーテルアブレーションでのSeptal Reduction心室中隔縮小術を供覧されました。それに続いて不肖私、米田正始が近年話題の「Mid-Ventricular Obstructionの手術」で左室の奥深い、これまで手術困難とされて来た深い部位の手術を実際の症例群を提示しながらご紹介しました。HOCMでもハートチームで優れた治療ができればと思います。

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なおHOCMはトロントでは多数の患者さんがおられました。成人先天性心疾患の有名な外来があったからです。そこで当時トロントこども病院のチーフ心臓外科医であったWilliams先生が毎週、当時私がいたトロント総合病院(TGH)へ手術をしに来られていたのです。ほとんど毎週HOCMがあり、私もちょくちょくその手術に入って勉強させて頂きました。本場の手術を直伝で教えて戴いたことが25年もたった今、ますます役に立っています。

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このHOCMの手術は視野が悪く、慣れないとおいそれとはできない、たとえできても不完全手術となり再発の原因となるため普及していません。これからこの手術をより発展させ、次世代に伝えていきたく思っています。

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この手術によって、これまで心不全や発作、二次的な不整脈などのため仕事もできずつらい毎日を送って来られた方々が元気に社会復帰しておられます。ぜひとも多くの患者さんたちにお元気になって頂きたく思い、発表させて頂きました。

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さらに川副先生が「SAM+MRの変り種」で、最後に大阪大学・中谷敏先生が「病態生理のまとめ」をされました。座長の榊原記念病院・高梨秀一郎先生と三重大学・土肥薫先生には多数の有益なコメントやご質問を頂き、内容の理解を深めていただき、感謝申し上げます。

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最後のセッションはディベートでCase Study4「曲がり角に来た弁膜症の治療」でした。

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まず「TAVIはもっと軽症でもよいのでは?」では九州大学・有田武史先生が解剖要件を満たせばもっと積極的にTAVIをやって良いというデータを示され、それに対して岩手医科大学・岡林均先生はTAVIの成績は改善しても医療費が大変高騰して将来成り立たなくなる懸念を示されました。

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ついで「MitraClipは本当に使えるの?」ではイタリアはシシリー島帰りの東海大学・大野洋平先生がその有用性と限界を示されました。一方、外科からは長崎大学の江石清行先生が多数の僧帽弁形成術症例を提示しつつ、これにどうクリップを使えるのですかという疑問を投げかけられました。
座長のみどり病院・岡田行功先生、天理よろづ相談所病院・泉知里先生、うまくかじ取りしていただき、実りある内容として頂けたこと、感謝申し上げます。

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最後に川副先生が代表幹事としてのご挨拶と、この研究会が5年の節目を右肩上がり状態で迎え、今後さらに続けて行くという世話人会決定を報告されました。

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こうして第五回ハートバルブカンファランスは盛況の中に終了しました。蛇足ながら個人的にはかんさいハートセンターを認知していただいたのもありがたいことでした。皆様、来年もまたよろしくお願い申し上げます。

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米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り113: 5回目の心臓手術と2つのハンディを乗り越えて

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弁膜症を長年お持ちの患者さんの場合、何十年という間には何度も心臓手術が必要になることがあります。

とくに感染性心内膜炎や組織が弱くて切れる場合などに、見られます。

私の病院へは3度目、4度目、5度目などの再手術を求めて患者さんがよく来られます。

地元の病院で危険、ダメと断られてこられるのです。

沖縄、九州や北海道、東京などからも来 184741739られます。できるだけご期待に沿えるよう、頑張っています。

つぎの患者さんは三重県から来られました。

それまで4回手術をうけて取り付けた人工弁がまた外れて逆流しているというのです。5回目の手術が必要となり、心臓のちからも肺のちからも正常の半分にまで低下し、極めて危険な状態でした。大学病院でもこれは無理と匙を投げられた状態でした。

高の原中央病院かんさいハートセンターの私の外来へ来られ、確かに危険性が高く、また薬などで当面は持ちそうなため経過を見ていました。

その間、心不全が次第に進み、苦しくなって、患者さんは何度もお手紙を下さいました。

もとの大学病院の先生方とも協力し、苦しさの原因が心臓にあるのか、肺にあるのかを含めて何度も検討し、やはり弁を治すしか生きる道はない、という結論になりました。

入念に準備を進め、MICSの方法を駆使して小さい切開でほとんど剥離が要らない形で弁の裂けたところをピンポイントで直しました。

患者さんは順調に回復され、元気に退院して行かれました。

是非とも生きたい、そのために何としても病気を克服する、5回目の手術でも頑張る、自分と自分の主治医を信じて頑張る、そうした覚悟と決意の賜物だったと思います。

まさに命を預けて戴いた、心臓外科医としてこれほど光栄なことはありません。そしてご期待に応えることができ、これほどうれしいことはありません。

また外来でお元気なお姿を拝見させてください!

以下はその患者さんが他の患者さんたちのお役に立てるようにと書いて下さったお便りです。

 

****** 患者さんからのお便り ******

米田先生へ IMG_0806b

病との戦い

私は69歳の男性です。

私の今までの病歴を紹介しますと、

子供の時、リュウマチ熱から心内膜炎を併発して、

31歳の時、1回目の僧帽弁開腹術を受け、その時血栓肝炎(ノンA・ノンB型)になり、(この時はまだC型ウイルスが見つかっていなかった)

その後、慢性化して40歳になった頃、ウイルスが活動し出して、大動脈閉鎖不全症とあわせてものすごいしんどい日が続きました。

当時は、C型肝炎は不治の病と言われていたので、大動脈閉鎖不全をとりあえず良くなりたい気持ちから2回目の心臓手術を受けました。

少し楽になったが、C型肝炎がますます悪くなり、仕事に耐え切れず44歳に大型スーパーを退職しました。

45歳の時、インターフェロンが保険適用になり、治療して快復しました。

それから10年間コンビニを経営して、その後56歳から子供の時からの夢であったラーメン店を経営しました。ラーメン店が軌道に乗りだした59歳の時に31歳の手術をした僧帽弁がまた狭くなり、人工弁を移植しました。(3回目の心臓手術)

ところが、術後10カ月頃、人工僧帽弁に黄色ブドウ球菌がついて6か月入院して治しました。しかし、かなり息苦しくなったが我慢してラーメン店を続けました。また、同時期、ワーファリンの飲む量を調整するために減らしていた時、脳梗塞になり救急車で病院に運ばれました。気付くのが早かったため少し障害は残りましたがまた仕事を続けました。

63歳頃から顔色が土色になり、浮腫みがひどくなり、64歳にギブアップして仕事を辞め、治療に専念しましたが、徐々に悪くなり、不整脈の治療のためペースメーカーを入れてもらったりしたが、59歳の時の人工弁の縫目からの逆流(人工弁感○○症の影響)がひどくなって、67歳の時4回目の手術を受けましたが、私はどうも体質がくっつきにくいためか、だんだん心不全が進行して色々病院にあたり、断られました。

そんな時、3年前にテレビで放映されていた心臓手術の様子を思い出し、名古屋のハートセンターの米田先生を尋ねましたが、1年前にかんさいハートセンターを高の原中央病院内に設置されたとのことで、半年位通院して5回目の手術を23日前に受けました。

おかげで、縫目の逆流を治すことができました。心臓の機能がしっかりして、腎機能も利尿剤を飲まなくても済むようになりました。

術前は心臓が普通の人の50%、肺の機能も50%でしたが、心臓機能はもっと良くなると思っています。肺の機能も時間はかかると思いますが、それにつれて良くなるよう呼吸を訓練したり、リハビリを積極的に行っています。

人生は一度限りです。良くなりたいという強い気持ちが大切です。

それには、なんとか良くしてやろうと事前検査の徹底、丁寧で心臓手術の豊富な医師を探して手助けをしてもらい、良くならないと損だという強い意志が必要です。

なんとかなりますので、最後まで頑張りましょう。

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第一回江東豊洲心血管カンファランスに行って参りました

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この会は新東京病院で活躍して来られた畏友・山口裕己先生が昨年、昭和大学江東豊洲病院に循環器センターを立ち上げられたのを機に開催されました。就任祝賀会もあわせておこなわれました。

山口先生は岡山大学の佐野俊二教授のもとで研修し、その後ニュージーランドにある有名なグリーンレーン病院でコンサルタントにまでなられ、腕をあげて帰国された仲間です。

祝賀会ということもあり、同先生がかつてお世話になられた恩師や友人の先生方も内外から参加され楽しい会になりました。

私はチーム山口の研究発表に対する指定発言という重責を頂いての参加でした。

昭和大学江東豊洲病院
カンファランスはまず研究発表から始まりました。

新東京病院のころから優れた手術をそれも多数こなしてこられたチームですので私も楽しみにしていました。

三尖弁閉鎖不全症で右室の拡張が高度なものや弁尖が不足する状態では三尖弁形成術はかなり難しいことがあります。そこでパッチをもちいて前尖を拡大しゆうゆうとしたかみ合わせで弁の逆流を止めるという手術を行って来られました。

私はつぎのようにコメントしました。これは三尖弁形成術の限界をさらに高める立派な方法であること、同時に弁膜症とはいえ右室拡張がその病態の本質であるため、右室機能を高めるための方法たとえば乳頭筋の位置移動なども併せ検討してくださいとお願いしました。なお個人的にはこうした拡大形成術と将来のTAVI、バルブインバルブを考慮した生体弁TVRを傷跡の目立たないMICSで行うことの二本立てが良いのではと考えています。


つぎに巨大左房縫縮術のあとの呼吸機能をCPXで検討された結果を示されました。

僧帽弁形成術や置換術、そしてメイズ手術と同時に行う手術で、良い経過ながら肺機能の向上というレベルには至っていないようでした。

私はこの努力は意義があり続けて下さいとコメントしました。さらに欧米の方法では出血リスクが高いため10年ほど前にJTCVSやEJCTSに発表した私たちの方法なら出血ゼロのためさらに安全にでき、除細動率もあがり、患者さんはお元気であることをお話しました。巨大左房の患者さんは5年もたてば大半が亡くなるというEBMがあり、この手術は極めて有意義で、さらに進められるようにお願いしました。


さらに大動脈弁輪縫縮術を応用した大動脈二尖弁形成術の経験を発表されました。

これも素晴らしい仕事で、VAジャンクション(心室と大動脈の接合部)の本格的な形成・縮小は理に適ったことですが、シェーファーズ先生らの簡便な方法とも比較して最適術式を探って下さいとお願いしました。これから大動脈弁形成術はさらに進化すると思います。

 

ランチョンセミナーは2つあり、まずオークランド市立病院のMilsom先生のグリーンレーン病院のお話がありました。

私も弟子がお世話になった素晴らしい病院で今からでも機会をみつけて訪問したく思いました。


もうひとつの話題はタイの畏友Taweesak先生が僧帽弁形成術が患者の人生を治すというタイトルでのご講演でした。

リウマチ性僧帽弁膜症への形成術ではすでに世界的権威のTaweesak先生ですが、通常の僧帽弁閉鎖不全症でも新しいコンセプトで弁形成をより進化させておられるのがわかりました。リウマチの弁膜症は現代の日本では少ないですが、それでもときどき患者さんが来られます。例数が多いタイの経験も加味してしっかりと形成したいものです。


それから山口先生らの僧帽弁形成術後の狭窄の報告がありました。

運動負荷エコーの進歩でこれまであまり見えなかった問題が見えるようになったのです。今後の僧帽弁形成術の展開に重要なテーマです。私たちはこれへの対応を始めており、やはり弁尖で不要なものは切除する、リングは大き目である程度やわらかいものを使う、などの工夫をしています。これは「respect rather than resect」行き過ぎへの警鐘と、かつてトロントで柔軟リングと硬性リングの差は運動負荷によって明らかになることをジャーナルで発表したことを踏まえてのことです。


機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する前尖や後尖へのパッチ拡大術を発表されました。この方法は弁逆流の制御には良いのですが、左室機能改善には直接役立たないため、乳頭筋吊り上げなどを検討して下さいと後でコメントしておきました。なるほどと思ったのは後尖へのパッチは前尖へのそれより長期成績が良いことで、後尖テザリングの制御が重要であることを裏付けるもので、この意味でも有用な研究と思いました。

 

ここから特別講演で、まずメイヨクリニックのシャフ先生が症状のない大動脈弁狭窄症の予後や治療についてお話されました。症状がなくても長期生存率は低いため、患者も医師も十分理解したフォローが必要とあらためて感じました。日本では循環器の病院でも症状がなければ放置して良いと思っている先生がまだおられ、これからの啓蒙活動が必要です。と同時に外科はさらなる治療成績の改善も重要です。

 

順天堂大学の天野篤教授は冠動脈バイパスの過去・現在・今後についてお話されました。すでに世界のトップレベルに達した感のある日本の冠動脈バイパス手術の原動力のような先生のお話はためになり、夢のある内容でした。

私の橈骨動脈グラフトの研究成果にも触れていただき、ありがとうございました。これから日本のバイパスの良さつまり動脈グラフトとオフポンプを守りつつ、MICSなどで新たな展開をしたいものです。

 

トリは岡山大学の佐野俊二教授のお話、夢の扉をひらく、でした。

佐野先生とのお付き合いは長いのですが、一貫して進めてこられた先天性心疾患の外科治療が社会活動、国際協力、国家プロジェクトの一環というレベルにまで上がり、夢のあるお話でした。

そういえば昔、ベトナム・ホーチミン市のチョーライ病院に心臓血管外科を私たちが立ち上げたことを想いだし、こうした活動を国を動かすレベルで大掛かりにすることの意義をあらためて感じました。

 

カンファランスは多数の参加者を得て盛会裏に終了しました。

その合間をぬって、昭和大学江東豊洲病院内を見学させて頂きました。ウォーターフロントの見事な景色と新しく高機能な病院、広々として見事な手術室やICUなど感心することばかりでした。我が高の原中央病院かんさいハートセンターもこうしたものを参考にして地域の中で患者さんに喜ばれるセンターにしたく思いました。

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そのあと会場をホテルへ移して山口教授就任祝賀会が開かれました。

大勢の先生方のご参加で楽しい会になりました。こうした病院全体が支援するハートセンターで山口先生とそのチームが大きな展開をされることを確信し、また応援したく思いました。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り112: ポートMICSの僧帽弁形成術でゴルフ復帰へ

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僧帽弁閉鎖不全症の治療として僧帽弁形成術がベスト!というのはかなりの患者さんたちの間で常識になりつつあるようです。

近くの病院で弁置換を勧められてからこれはおかしい P1120179bとご自分で調べ、形成を確実にやってくれる病院を訪ねる患者さんも増えました。

同様におなじ弁形成なら早く仕事やスポーツに復帰したい、そのためにミックス手術ポートアクセス手術だ!と考える方々が増えました。

そして自分が納得できる治療や方針を立ててくれる医師を求めて飛行機ででも移動するという方が増えました。

下記の患者さんもそのひとりで、みずからしっかりと病気に立ち向かい、勉強し、そして連絡を取って来られました。

手術では僧帽弁前尖の広範囲が逸脱し、形成術としてはやや複雑でしたが、これをポートのMICSできれいに仕上げることができました。

せっかく九州・宮崎からお越し下さっただけに、十分な治療と、遠方がハンディにならないような配慮をし、余裕ができるまで院内で心臓リハビリもこなして頂くようにしました。

まもなく春がやってきます。ゴルフやスポーツなども楽しんでいただければうれしいことです。

東京オリンピックの観戦は余裕でお楽しみ頂けるものと存じます。

以下はその患者さんからのお便りです。

 

****** 患者さんからのお便り **********


特任院長 米田正始 様
IMG_0782b

いつも医療に献身的に取り組んでおられる米田正始先生をはじめ、増山慎二先生、
小澤達也先生、村西菜苗先生そして麻酔科の先生、看護師の方々等改めて敬意を
表します。

入院から退院まで約29日間、不快な気持ちもなく治療に専念できたこと心より感
謝申し上げます。

ありがとうございました。

神の手に委ねたこの体、お陰様で東京オリンピックまではしっかりと見届けられ
るのではないかと密かに喜んでいます。

また、諦めかけていたゴルフも来年いや今秋にも本格的にできるのではないかと期待をふくらませています。

お会いできそうもありませんのでお手紙でお礼申し上げます。

本当にありがとうございました。

医療充実・発展のため、益々ご活躍されることでしょう。

どうか体だけはご自愛ください

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月23日

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◆はじめに ― この記事を読んでほしい方

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  • 心筋梗塞を経験された方

  • 息切れや動悸が続く方

  • 心臓の弁膜症と診断されたが詳しく知りたい方

  • 僧帽弁逆流・虚血性心筋症といわれ不安を感じている方

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)は、心筋梗塞後に僧帽弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気です。
放置すると心不全が進行し、突然の呼吸困難や脳梗塞、生命に関わるリスクが高まる危険な病気です。
しかし現在は薬・カテーテル治療・外科手術の進歩によって、多くの患者さんが改善できるようになっています。

この記事では、虚血性僧帽弁閉鎖不全症の原因・症状・診断・治療法の選択肢について、患者さんやご家族にも分かりやすく解説します。

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◆虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)とは、心筋梗塞や虚血性心筋症の後に生じる僧帽弁の逆流症です。
一見すると「弁膜症」に分類されますが、実際の原因は弁そのものではなく左心室の障害にあります。

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心筋梗塞や虚血で左室が拡張・変形すると、僧帽弁を支える腱索が横方向に引っ張られ(=テザリング)、弁がきちんと閉じなくなり逆流が生じます。
このテザリングの解明と治療法は、1990年代に私がスタンフォード大学で研究を重ねてきたテーマでもあります。

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👉 関連ページ: 機能性僧帽弁閉鎖不全症とは

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◆症状

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初期は運動時の息切れ・動悸が中心ですが、進行すると**安静時や就寝時の呼吸困難(起坐呼吸)**が出現します。
胸痛を伴う場合は虚血が進んでいる可能性があり注意が必要です。

危険な兆候としては:

  • 夜間の強い息苦しさ

  • 下肢のむくみ

  • 突然の胸痛や動悸

これらがあれば早めの受診が推奨されます。

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◆治療法

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内科的治療

  • 薬物療法(利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬など)

  • 心臓リハビリ

  • **ASV(加圧式マスク)**による補助

  • **MitraClip(Mクリップ)**などのカテーテル治療(軽中等度例に限られる)

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外科的治療

薬やカテーテルで十分な改善が得られない場合、外科手術が選択肢となります。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症はかつて「難病」とされていましたが、現在では**僧帽弁形成術や乳頭筋最適化術(PHO)**などの進歩により、多くの症例で良好な成績が得られるようになっています。

👉 詳細はこちら: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術

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◆なぜ症状が変動するのか? ― ロプノール湖の比喩

.IMRとロプノール湖

かつてこの病気は「消えたり現れたりする不思議な病気」と思われていました。
入院中は塩分制限・安静・点滴で一時的に改善し、退院すると再び逆流が悪化する…その原因を説明するのがテザリング現象です。

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左室が少し拡張するだけで、腱索が引っ張られ弁逆流が一気に増えるのです。(右下図、状態悪化すれば左図から右図へと変化)
このため手術(PHO)では前尖・後尖の両方を調整し、テザリングを解消することが重要になります。

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この詳細はPHO(乳頭筋最適化術)のページをごらんください。また開発の歴史もご参照ください。

テザリングと弁逆流.

 

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◆検査の進歩と注意点

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従来は心臓カテーテル検査が中心でしたが、現在では心エコーが診断の主役です。
理由は:

  • 心エコーは血流・弁の動き・ジオメトリーを詳細に評価できる

  • 外来や症状が強い時に繰り返し検査が可能

  • カテーテル検査は入院・安静下で行われ、実際より逆流が軽く出ることがある

現代では、心エコーを主体にカテーテルを補助的に利用するのが標準的です。

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◆ハートチームでの治療

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症は、心臓外科・循環器内科・麻酔科・リハビリ科が連携するハートチームでの治療が不可欠です。
患者さんごとに最適な治療法を選び、内科治療・カテーテル治療・外科手術を組み合わせることで、より良い予後が期待できます。

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◆まとめ

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  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞後に起こる僧帽弁逆流

  • 本質は弁の病気ではなく左室のリモデリングとテザリング現象

  • 初期は薬・リハビリ、進行例ではMitraClipや外科手術が有効

  • 最新の僧帽弁形成術・PHOで治療成績は大きく改善

  • エキスパートチームによる個別化治療が重要

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👉 関連記事:

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乳頭筋接合術とは

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症をはじめとする機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して行う弁形成術のひとつです。

当て布付の糸で前乳頭筋と後乳頭筋を根本か中ほどか先端部で寄せ、あたかも一本の乳頭筋のようにするのがこの方法の特徴です。

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この方法のコ LevineSchemeンセプトは2000年にMGH(マサチューセッツ総合病院)のRobert A. Levine先生らが提唱された両乳頭筋間の左室を縫い縮める方法から始まっているようです(左図)。

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それと並行して、拡張型心筋症に対するバチスタ手術で左室側壁を切除するとき、ちょうど両乳頭筋間の左室を切除することが多く、それはそのまま乳頭筋接合術を兼ねていたともいえます。多くのばあい、僧帽弁閉鎖不全症は軽減し良い結果をもたらしていました。

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日本ではこの方法を北海道大学の松居喜郎先生らが積極的に施行され成果を上げておられます。

私たちもこの乳頭筋接合術を行った時期があり、成果を上げることができました。

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その後、乳頭筋ヘッド最適化術(PHO)を開発してからはこちらの方を多用しています。PHOのページで示していますように、後尖の形が自然かつきれいで、長期間の再発が少ない形をしているためです。いわゆる後尖テザリングと呼ばれる現象が軽いのです。これは長期的に有利な形で、この点で乳頭筋接合術(後尖には効かない)より優れていると考えるわけです。

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それとすべての外科手術術式は自

199621043

自然に学ぶことが治療成功のカギと教えられました

然に学ぶのが良い、人工的な構造には慎重であるほうが安全であるという恩師 David先生の考えにそって、自然の構造から開発したPHOのほうがなじみやすいのかも知れないと考えてのことです。

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ともあれ今後も皆で検証を続けながらより良い治療法を開発、定着させていきたく思います。

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傷跡が目立たない心臓手術【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月24日

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◾️昔は大きな傷跡は良い事だと

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心臓手術はかつては MedianSternotomy傷跡が大きいもの、というのが常識でした。

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40-50年ほど昔、なにしろ生き残ることができれば良しとしよう!というレベルからのスタートだったからです。

胸骨正中切開といって約25センチ長の傷跡が胸の真ん中に残りました(右図)。

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◾️傷跡が小さいミックスの時代に

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その後心臓手術は日進月歩、安全IMG_0229b2性が高くなり、術後のQOLつまり生活の質が問われるようになって傷跡が目立たない手術つまりミックス手 PostAccess3術(MICS)が脚光をあびるようになりました(左図)。

 

左写真はMICS心臓手術後の傷跡です。

女性の場合は乳腺の下にあるしわのところで皮膚を切開するようにしているためほとんど見えません。

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その詳細はこちらのページをご参照ください。

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◾️傷跡が小さい手術の盲点・注意点

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ここで大切なこと、それは十分な安全性の確保のうえのミックス手術でなければならないということです。

言い換えれば、高い技術と熟練度が確保されていることが大切です。

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私たちは高々4年あまりの間にポートアクセスの本格的ミックス手術を160例近くこなした、熟練チームです。現在は毎週行っています。

たとえば写真右は僧帽弁形成術と大動脈弁形成術を同時にミックスで行った患者さんの傷跡です。

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僧帽弁形成術を例にとってみれば、ミックス手術をやっていると言ってもごく簡単な形IMG_0365DVPb成だけしかやっておらず、それ以上の手術では通常の大きな傷跡でやっている病院もあります。

これは心配です。術中に何か小さいトラブルでもあれば対処できないという恐れが多分にあるからです。

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私はかつて修練時代に恩師からこう教えられました。一段上の手術ができるようになって初めて普通の手術ができるのだ、と。つまり何か想定外のことがあっても、余裕をもって対処できる、ということです。

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◾️美容目的だけでないミックスも

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美容目的や早期の仕事復帰、スポーツ復帰、クルマ運転再開などのために骨を切らず傷跡が目立たないミックス手術を行うことが多々あります。

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しかし私たちは純粋に安全性を高めるためのミックスもやっています。

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たとえば5回目の心臓手術でアプローチできないほど強い癒着があるときに、それを避けるルートとしてのミックスですね。こうした重症患者さんを救命するためのノウハウの蓄積が普通の患者さんの安全向上に役立つと思うのです。

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患者さんにおかれましてはこうしたことも考えて病院を選ばれることをお勧めします。

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二尖大動脈弁のガイドライン

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米国ACC学会とAHA学会の合同でつくられた2014年度版ガイドラインが発表されました。

二尖弁での治療適応について、簡略にまとめられています。

以下にそのガイドライン概要と、日本語訳を示します。

 

2014AHA-ACC_GL BicuspidAV

クラスI 1.二尖弁患者でバルサルバ 図 ルート解剖洞か上行大動脈の径が5.5㎝を超えるときバルサルバ洞の形成か上行大動脈の置換が適応となる

クラスIIa 1.二尖弁患者でバルサルバ洞か上行大動脈の径が5㎝を超えて解離の危険性がある場合、つまり大動脈解離の家族歴があるか大動脈径が年間0.5㎝以上のスピードで拡大するときもバルサルバ洞の修復か上行大動脈の置換は理に適っている

2.ASかARのため二尖大動脈弁の手術を受ける患者が上行大動脈径4.5cm以上あれば上行置換をするのが理に適っている。

 

ここでクラスI とは手術が必須であるという意味で、

クラスIIa は手術が勧められるという意味です。

Ilm19_cb02025-s

以前から二尖弁の患者さんの大動脈基部から近位弓部大動脈にかけてはマルファン症候群の患者さんたちと同様、結合組織が弱く一歩早めに治しておくのが安全と安心に直結すると考えられてきました。

この新しいガイドラインでもそれがしっかりと盛り込まれ、今後二尖弁の患者さんたちの手術タイミングが適正なものになり、手遅れでいのちを落とすなどの悲劇が起こらなくなることが期待されます。

 

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