バーロー症候群(Barlow’s syndrome)―形成できないというのは昔話? 【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月13日

1.バーロー症候群とは?

.

バーロー症候群(Barlow’s syndrome)は、僧帽弁が過剰に伸びて「フロッピー弁(floppy valve)」のようになり、閉じが不完全となる病気です。欧米で多く報告されており、人口の1〜6%に発生するとされ、遺伝的要素が関与すると

考えられています。

別名として「フロッピー弁症候群」や「Billowing Mitral Valve Syndrome(膨らんだ僧帽弁症候群)」とも呼ばれます。

かつては「形成困難」と言われていましたが、現在は弁形成術の進歩により多くの症例で修復可能となっています。

.

2.主な症状と合併症

.

初期には自覚症状が乏しいこともありますが、逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が進行すると以下の症状が見られます:

  • 動悸、易疲労感、息切れ

  • 胸痛(狭心症とは異なるタイプ)

  • めまい、偏頭痛

また、中等度以上になると以下のリスクが高まります:

  • 心房細動

  • 腱索断裂

  • 心不全

  • 突然死

  • 感染性心内膜炎

.

3.診断方法と治療の基本

.

診断には心エコー検査が用いられ、弁尖の形態や逆流の程度を正確に評価できます。

治療の必要性

  • 軽症例 → 経過観察

  • 中等度〜重度 → 手術(僧帽弁形成術が第一選択)

※胸痛やめまい、日常生活での息切れがある場合は早めの受診が推奨されます。(参考:僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン

.

4.バーロー症候群の僧帽弁形成術

.

バーロー症候群では前尖・後尖ともに弁組織が余りやすく、複雑な形成術が必要です。

主な手術内容

  • 前尖の切除・再建

  • **多数の人工腱索(必要なら12本まで)(手術事例4)**による強固な補強

  • 後尖の三角切除や余剰弁尖切除・減高、人工腱索追加

  • SAM(収縮期僧帽弁前尖運動)を防ぐ工夫

このため、高度な技術と豊富な経験をもつ心臓外科医チームでなければ成功が難しいとされています。

.

5.専門チームによる治療で得られる安心と成果

.

経験豊富なエキスパートによる僧帽弁形成術では、長期予後は良好です。

  • 弁輪にリングを装着 → 再発防止

  • 腱索を人工腱索で強固に置換 → 弁の耐久性向上

  • 前尖・後尖のバランス調整 → 逆流防止と心機能維持

さらに当院では、**小さな切開で行う低侵襲心臓手術(ミックス)**も導入し、患者さんの回復を早めています。また医学的にミックスが不適切と考えられる患者さんにはミックスではなくても術後の痛みの軽減をもたらす方法を用います

.

まとめ

バーロー症候群は「治せない病気」ではなく、エキスパートによる弁形成術で十分に改善可能な疾患です。

  • 正しい診断と治療で生活の質を大きく改善できる

  • 形成手術は人工弁よりも自然な心機能を維持できる

  • 傷跡の小さいMICSや痛みの少ない正中アプローチも選択可能

「形成できない」と諦める必要はありません。
もし他院で「手術は無理」と言われた方も、ぜひ一度ご相談ください。

.

心臓手術のお問い合わせはこちら
患者さんの声はこちら
Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

ミックスによるメイズ手術―切り札がより身近に? 【2022年最新版】

Pocket

最終更新日 2022年2月4日

.

◾️ミックスの展開

.

ミックス(MICS、小切開低侵襲心臓手術、代表例はポートアクセス)が

患者さんに喜ばれています。

MICS3 僧帽弁形成術三尖弁形成術

あるいは僧帽弁置換術にミックス法は大変役立っており、

安全性を確保しつつ、心臓手術の質を落とさず、

術後の苦痛軽減・早い社会復帰や少ない輸血とともに創が小さくみえにくいというメリットが喜ばれています。

 .

◾️そしてミックスのメイズ手術

.

上図で左側は従来の胸骨正中切開のときの創、右側はミックスのメイズでの創です。

最近はさらに創が小さくなっています。

143069344

胸骨正中切開は安定した、良い方法なのですが、

骨をいちど切る必要があるため、

完全に治るまでに2-3か月かかるのが弱点です。

皮膚や筋肉だけなら1-2週間でほぼ治りますから社会復帰が早くなるのは当然かも知れません。

私たちはミックス手術には肋間神経ブロックも併せて行うため、

術後の痛みが少なく、それが回復をさらに速めているように感じます。

 .

◾️弁膜症手術+メイズ手術もミックスで

.

弁膜症手術と同時に心房細動に対するメイズ手術もミックス 142148374で行っています。

僧帽弁や三尖弁の手術ができる以上、メイズ手術も当然できるのですが、

実際にやってみるとその良さがさらに際立ちます。

.

メイズ手術そのものは左心房の内側から冷凍凝固法をもちいて、完全メイズ手術を意識した形で行い、冠静脈洞の心外膜側も処理をして、よりしっかりと除細動ができるようにしています。

.

2012年4月の日本不整脈外科研究会で発表しましたが、9例での除細動率は100%でした。

必要に応じて右房側のメイズも行います。冷凍凝固法では食道その他合併症もこれまでありません。

心臓手術・事例:視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術とメイズ手術)

.

139373093◾️どんな患者さんにミックスのメイズ手術を?

.

現在のところ、オペの適応は不整脈の薬が効きづらく、

内科のカテーテルアブレーション(カテーテルの先端につけた電極で熱により悪い信号をブロックします)が不成功であったりできなかったりという患者さんに行っています。

また近年注目を集めている心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症に対しても心房縮小メイズ手術を弁形成と同時にミックスで行うとより良い状態になると期待されています。

.

近い将来、オフポンプ小切開メイズ(内科とのハイブリッド手術です)が実用化するまでは

このミックスでのメイズ手術がお役に立ちそうですし、

その後も患者さんによっては良い適応となるケースがあるかも知れません。

 .

◾️孤立性心房細動(ローンAF)へのミックスメイズ手術

.

IMG_0565b心房細動単独、つまり

いわゆるlone AFと呼ばれる病気に対するMICSメイズの手術事例を供覧します。

.

写真はミックス(MICS)でのメイズ手術の6か月後の創です。

カテーテルアブレーションを2回受けても治らなかった心房細動がきれいに治って喜ばれました。

わたしたちのLSH法とよぶ、副次創を最小限におさえる方法でメインの傷以外の傷跡は1つだけです。普通のMICSよりもより目立たなくなります。

.

乳腺を持ち上げても傷跡はあまり目立ちませんので、普通の状態ではほとんど見えません。

患者さんの肉体的・精神 Ilm16_aa02003-s的負担を軽減するためにも役立っているようです。

 .

◾️心房細動は怖い病気です

.

心房細動は野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんの例を見るまでもなく、

予後が悪い病気で、その悪さは最近まであまり知られていませんでした。

これからはきちんと治し、

あるいはコントロールすることで健康な生活を守れるようにしたいものです。

.

患者さんの想い出はこちら

 

.

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

弁膜症のトップページに戻る

.

 

参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは

  とくにポートアクセス手術とは
  
  その位置づけ
  
  それが前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

ハートポートとは
  


危険なの

  
  それと術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成

  同、弁置換

  ポートアクセスによる弁形成術

三尖弁

  ミックス法による弁形成術

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成術を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成を受けられた患者さん

お便り62: ミックスの弁形成と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックスで受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動を同法手術で克服

お便り74: ポートアクセスで弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: デービッド手術を受けたマルファン症候群の患者さん―安心生活へ

Pocket

マルファン症候群の患者さんは結合組織が弱いため、

大動脈や弁がしばしば壊れます。

また同じ原因で目が強い近視になったり背骨が曲がったりすることがあり、

きちんとした予防や定期健診などによる早期発見、早期治療が大切です。

また日頃から勉強や相談をして病気の理解に努め、

いざという時に備えることが長期の安全に役立ちます。Ilm16_ad03009-s

 

次の患者さんも定期健診の中から、次第に大動脈の基部が拡張し、

ガイドラインを満たすサイズになったところで

十分な医学的準備と心の準備のもとに心臓手術を受けられ、

心配を解決し、妊娠出産などの人生の次のステップへのスタートとされました。

 

PreopCT 患者さんは34歳女性でマルファン症候群のため脊椎側彎をもっておられます。

大動脈基部が次第に拡張し直径50mmに達したこと、

さらにそのために大動脈閉鎖不全症が起こりつつある状態から

デービッド手術という患者さんご自身の大動脈弁を温存する大動脈基部再建手術をすることになりました。

 

最近結婚され、妊娠出産をご希望という事情もあり、

デービッド手術のあとなら大動脈解離などが起こりそうな部位もなく、

かつワーファリンも不要なため、

じっくり相談の上、このタイミングで手術することになりました。

手術では、体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、

 
PreopEchoLAx 大動脈弁が3尖とも長期間使えるだけの質を持っていることを確認し

デービッド手術に適していることを確認しました

(手術写真は準備中です)。

 

まず大動脈弁輪のすぐ下に糸をかけ、

人工血管が弁輪をも守れるようにします。

人工血管に微調整の切れ込みを入れてから大動脈基部の外側へ落とし込みます。

サイズの調整を正確に行い弁の構造に無理がかからないようにします。


人工血管の内側で3つの交連部を適切な高さに吊り上げて、これを固定します。

そして弁のすぐ近くの大動脈組織を人工血管に隙間なく縫い付けて弁の再建は完成です。

水テストや心筋保護液注入テストで弁に漏れがないことを確認します。

必要があれば弁尖の形成を追加します。


ここで左ついで右の冠動脈入口部を人工血管に小穴をあけてそこへ縫い付けます。

冠動脈がねじれたり折れたりしないように工夫しています。

冠動脈入口部の吻合に漏れがないことを確認し、

人工血管を上行大動脈の遠位部と連結して操作は完成です。

PostopCT 術後経過は順調で、出血少なく、

心不全や不整脈もとくに無く、

術翌日には一般病棟へ戻られ、

心臓リハビリ(運動)ののち、術後 1週間あまりで元気に退院されました。

 

心臓手術からまる2年が経ちました。

お元気にしておられ、心臓も大動脈も安定しています。

 

今後も外来でフォローアップ・健康診断を行いつつ、

長期的な安全対策とくに脊椎の治療などを専門医と相談しながら検討しています。

大動脈の他の部位は現時点でまったくきれいなため、予防策もより効果が期待できます。

 

大動脈基部拡張症の患者さんとくにマルファン症候群や大動脈二尖弁の患者さんは

大動脈壁が構造的に弱いため、破裂や解離などへの注意や対策が必要です。

逆に、こうしたことを注意しておけば安全性は大きく高 PostopEchoLAx まります。

この患者さんの場合はデービッド手術によって妊娠出産の安全性が高くなり、

より安心した人生の設計が立てられるようになりました。


このデービッド手術は大動脈基部がもっと拡張し、

大動脈弁閉鎖不全症(つまり弁の逆流)が強くなってからでも可能な手術です。

しかし高度の逆流になってあまり弁が壊れてから形成するよりは

まだ比較的良い状態が保たれているうちに弁を守る手術をするほうが長期的に有利です。

そうしたことは患者さんやご家族の方々とのきめ細かい相談によって解決できるのです。

David & Bentallメモ: ベントール手術でも生体弁をもちいたものであれば、

このデービッド手術と同様のことができます。

ただしその場合、妊娠出産によって生体弁が急速に劣化し、

数年後に再手術となることもあり、

この点でデービッド手術は有利です。

自然の弁はカルシウムなどを自ら掃除するちからがあるからです。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

大動脈基部拡張の手術のページへもどる

マルファン症候群のページへもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

リウマチ性僧帽閉鎖不全症について―かつては形成不可能、今は?【2020年最新版】

Pocket

最終更新日 2020年2月25日

.

◾️僧帽弁閉鎖不全症には弁形成術

.

僧帽弁閉鎖不全症に対して弁形成術が進歩を遂げつ図 僧帽弁形成完成図つあります。

右図は標準的な弁形成後の姿です。

高い安全性、良好な生活の質(QOL)を得る治療法として当然のことと考えられます。

僧帽弁形成術の経験が豊富なチームなら、ベストの選択枝と言えるでしょう。

 .

◾️リウマチ性の僧帽弁閉鎖不全症では?

.

ただしそれは加齢性つまり年齢からくる僧帽弁閉鎖不全症や、

マルファン症候群などの結合組織疾患によるものなどの場合であり、

リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症の場合はまだまだ形成が難しいというのが一般的な見解です。

 .

その理由は

1.弁葉(リーフレットと呼ば Rheumatic valvulitis grossれるひらひらと開閉する組織)が肥厚し硬くなり(右写真)、

健康人の弁のようなスムースな開閉ができない

 .

2.弁下組織つまり弁葉を支える腱索や、

それを支える乳頭筋が肥厚したり短縮・硬化を起こして

弁葉がうまく動けない(右写真)

 

3.弁輪つまり弁葉の根っこで弁葉を支える土台が

硬化や石灰化を起こして修復が難しい

 .

などのためと言われています。

 .

たしかにリウマチ性の弁膜症は炎症という組織の変化を繰り返し、

そのたびに変化を起こして最終的には石のように硬い組織を作ってしまうという特徴があり、

弁形成術となじみにくい傾向はあります。

 .

◾️もう一度、通常の僧帽弁形成術と比較

.

そもそもこれまでの僧帽弁形成術

 .

1.弁葉の悪いところを切り取り、残りの部分を組み立てて弁として作動するように修復する

2.腱索を人工の糸で置き換える

3.他の健常な腱索を一部もってきて、これで病気の腱索と取り換える

4.弁輪をリングと呼ばれる楕円形の道具で固定し、弁葉が弁口を閉じることができるように弁口のサイズや形を整える

 .

などが主体でした。

つまり弁葉のかみ合わせができるようにする、

これがこれまでの弁形成術の内容でした。

弁葉そのものがだめになるリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症では、

かみ合わせができるようになっても、

弁が硬いために隙間が開いてそこから逆流することがあります。

これまでの形成術が通用しにくいのは、ある意味当然だったのです。

 .

◾️しかしリウマチ性にも弁形成は必要、だから

.

Ilm09_ad10002-sしかし若い患者さんやワーファリンや再手術は困るという患者さんにとってはリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症といえども弁形成術が必要なことはよくあります。

また病脳期間(病気で弁が壊れる年月)が永い患者さんや

昔弁形成術受けてまた悪化した再手術患者さんでも

弁が肥厚硬化し強い変化を来しているという意味で

リウマチ性病変と類似した問題があり、

こうした方々のためにも、より進化した弁形成術が求められるようになりました。

 .

石灰化のため岩のように硬くなった弁はかつては形成不能と考えられて来ましたが、最近は変化がありますリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症などのように

弁葉や弁下組織が肥厚・短縮・硬化・石灰化した場合は

 .

1.弁葉を安定化処理を施した自己心膜で置き換える

2.弁下組織で高度に変化した部分は人工腱索で取り換える

3.肥厚短縮した組織で弁の機能を妨げるものや不要なものは切除する

4.その他

 .

などの方法が役立つことがしばしばあります。

これは弁形成術としては難しい部類に入りますが、

上記のテクニックに熟練したチームなら十分可能です。

手術事例:)

.

◾️弁形成の熟練医が必要なわけ

.

個々の方法の完成度が低い 確実に人工腱索の長さが決定できることは弁形成の必須要件ですとき、

たとえば人工腱索の長さの調整が90%ぐらいの完成度のチームなら、

人工腱索を6本も10本も必要なケースでの成功率はゼロに近くなってしまいます。

さらに弁葉の取り換えなどはそれ以上のノウハウが必要です。

だからこそ熟練チームが必要なのです。

 .

日本心臓血管外科学会等の主要学会でも施設集約化(心臓外科病院の数を減らし質を高める)の重要性が認識されるようになりました。

それにはこうした、患者さんのための高度な技術を発展させるためもありますし、

それを若手にマスターさせるためでもあるのです。

 .

◾️まとめ

.

Ilm18_ab01042-sともあれリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症は、

一般の僧帽弁閉鎖不全症よりは弁形成術は難しいとはいえ

十分な可能性をもった治療法になってきています。

患者さんも単にリウマチ性というだけで簡単にギブアップせずに、

情報を集め前向きに対処されることを望みます。

.


患者さんの想い出はこちら:

.

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

トップページにもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

メイズ手術―心房細動の多くは治せます 【2025年最新版】

Pocket

AF scheme最終更新日 2025年1月4日

.

◾️メイズ手術とは?

.

心房細動という不整脈を治すための心臓手術です。左心房の中で悪い電気信号が通る道を食い止めることで不整脈が起こらないようにするのです。以下もう少し詳しく解説します。

.

心房細動は脳梗塞などを起こす怖い病気ですが、

普通はまずお薬や生活の指導で改善あるいは安全確保できます。

それでもダメなときはカテーテルによって心房の悪いところを焼く、アブレーションを行います。

右図の電気信号がくるくる回る悪い道筋をブロックするのです。

.

それでもダメなときや、弁膜症あるいは今にも飛びそうな大きな血栓が心臓内で動いているときに外科手術が役立ちます。

もちろんメイズ手術をそのときに同時に施行して心房細動そのものを治すわけです。

 .

◾️メイズ手術の生い立ち

 .

DrCox2 1987年にアメリカ・セントルイスにあるワシントン大学のコックス先生(Dr. James Cox、左写真です)が開発された術式です。

.

心房の中をまるで迷路(英語でメイズ)のように複雑な切開を入れ、

心房細動の原因になる悪い電気信号を遮断するというのが

この心臓手術の考え方です。

.

心房の壁をいったん切ってつなぐため、
壁の切り傷が治っても心臓の筋肉は治らないため、電気も通らなくなるわけです。

 .

この手術が発表されたとき、トロントで仕事をしていた著者もアメリカの学会でその講演を聴き感心したものでした。

さすがアメリカ人のパイオニア精神はすごいと思いました。
メイズ手術はその後改良を重ねられ、バージョン3ともいえるメイズ手術まで進化しました。

これが cut-and-sawつまり切ったり縫ったりの方法です。

.

ワシントン大学のデータではメイズIII手術では術後10年で96%の患者さんが心房細動なしで過ごしておられるそうです。

その間、脳卒中なしで行ける確率は99%を超えます。
現在はさらに低侵襲化を加味したメイズIV手術まで開発されています。

.

◾️メイズ手術はなぜ効くか?

.

この手術は電気信号が心房の中を異常な形でぐるぐる回る、

マクロリエントリーと呼ば Classic CoxMaze れる状態を止めることで心房細動を治す方法です。

悪い電気信号を止めるために心房のあちこちを系統だってきちんと切り、

そしてそこから出血しないようにつなぎなおします。

こうすることで洞結節(SA nodeという、自然のペースメーカーです)からの正常信号が正しく心房を通過し、

きれいな脈になります。

.

昔の不整脈手術とはちがってメイズ手術は心房と心室の正しい同期や規則正しい脈拍を回復させることができます。

そのため脳卒中も減るわけです。

.

◾️現代のメイズ手術へ

.

そうしてこの手術は心房細動治療の主流になりました。

メイズ手術は当時このように革新的な治療法だったわけですが、

その名のとおり手技が複雑で一部の心臓外科医しかできない手術でした。

1999年のアメリカのメイヨクリニックの検討でも手術死亡が1.4%、ペースメーカーが3.2%必要でした。

 .

Maze ATS
その後メイズ手術は進歩をとげ、心房壁をincision(切る)する代わりにablation(焼く)するようになり、

出血の心配も減り安全性が高くなりました。

心房壁を焼くことで筋肉は瘢痕(すじのような組織です)となり悪い信号は伝わらなくなります。

この方法をメイズIVと呼ぶことがあります。

ラジオ派焼灼と言われる温熱法で比較的簡単な手術ができるようになりました。

私たちはそれに先立って1990年代の終わりごろから、冷凍凝固法を改良し、短時間でできるメイズIV手術で成績を上げました。

.

◾️メイズ手術、進化の道

.

心房がそれほど大きくないときや心房細動の期間が10年以内であれば

この方法で十分な成果つまり除細動ができるようになりました。外科が先鞭をつけたメイズ手術ですが、内科のカテーテルでも外科のメイズ切開あるいは凝固ラインをカテーテルで焼き(カテーテルアブレーション)治療できるようになりました。

しかし左房が巨大になると通常のメイズ手術もカテーテルアブレーションも歯が立ちません。巨大化した心房を小さくしないと効かないのです。

そこで巨大に拡張した心房壁を切除してから組み立てる心房縮小が開発されましたが、時間がかかり、もし出血すると心臓の外から止血するのは容易ではありません。そこでこうした重症例に対して侵襲の小さい、心房壁を主に折りたたんで小さくする 心房縮小メイズ手術を開発して

治療の恩恵が広がる努力を進めて行ったのです。

 .

また重症例だけでなく軽症例にはより低侵襲つまり体への負担が少ない同手術が発展しました。

たとえばラジオ波焼灼をもちいて体外循環なしでメイズ手術ができる簡易型の方法や、
心臓を止めてもより短時間で焼灼できる方法などです。

私たちは体外循環なしで、しかもお腹に小さい切開を入れるだけで完全メイズができる低侵襲完全メイズ法をヨーロッパから導入し、内科の不整脈の先生方とチームを組んで日本で実現できるよう、努力をはじめています。
これらは心房細動に悩む患者さんにとって朗報となるでしょう。

 .

MICS3 あわせてMICS法で僧帽弁形成術などの僧帽弁手術をすることが増えたのを活かして、
メイズ手術をミックス手術(MICS)の小さい皮膚切開でも行えるようになりました(ミックスメイズ手術のページ)。

.

◾️メイズ手術、新たな展開と課題

.

体外循環を使わないWolf-Otsuka手術が考案され実績を上げています。この場合は左右両方の胸に小穴を数箇所開けて心臓の外から簡略メイズ手術をするため、心房拡張したケースでは限界が指摘されています。早期治療のタイミングが必要でしょう。

その中で、ただ左心耳を閉鎖するだけでも脳梗塞を減らせるというデータも報告され、心房細動よりも左心耳閉鎖に注目が集まる傾向があり、内科のカテーテル左心耳閉鎖(ウォッチマンデバイス)や外科の左心耳クリップなどが進歩しつつあります。いずれも低侵襲治療で今後の展開が楽しみです。

同時に巨大左房を放置した場合の予後の悪さも指摘されており、単なる左心耳閉鎖だけで患者さんの予後やQOL(生活の質)が本当に改善できるのか、さらなる検討が必要と思います。

 

右図で左側が従来手術の皮膚切開、

右側がMICS法による皮膚切開の創です。

患者さんにやさしい治療の一翼をになえれば幸いです。

.

患者さんの想い出はこちら:

.

Heart_dRR

お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

心房縮小メイズ手術のページへ

弁膜症のトップページにもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

人工弁感染性心内膜炎のガイドライン―患者さんを助けます

Pocket

PVE感染性心内膜炎(IE)の中でも人工弁に起こるそれ(略称PVE、右図)はふつうの感染性心内膜炎よりも重症で治りにくいです。

これは人工弁が異物であるため最近に対する抵抗力が弱いためです。

心不全や脳塞栓・脳梗塞などの懸念もあり、より強力な治療が求められます。

術式そのものが再手術と感染状態の手術という2つの問題を背負ってのものとなるため、その両方に慣れたチームで行うのが望まれます。

 

以下にアメリカACC学会とAHA学会の合同ガイドライン2014版をお示しします。

自然弁のIEと人工弁のそれを合わせた、幅広い状況に対応しやすい内容です。

 

2014AHA-ACC_GL IE

ここでクラスIとは手術すべきであるという意味で、

クラスIIaは手術が勧められる、

クラスIIbは手術しても良い場合がある、

という意味です。

 

なお以下にかつてのガイドラインをお示しします。ご参考にしてください

***********************

アメリカの心臓病の主要学会であるAHAとACCの人工弁感染性心内膜炎ガイドラインを引用します。邦訳はご参考までに著者が行いました。

4.6.2. Surgery for Prosthetic Valve Endocarditis

Class I
(著者註:有効性が証明済み)


1. Consultation with a cardiac surgeon is indicated for

patients with infective endocarditis of a prosthetic
valve. (Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎では心臓外科手術を考慮する

2. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with heart
failure. (Level of Evidence: B)
人工弁感染性心内膜炎で心不全があれば手術を考慮する

3. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with dehiscence
evidenced by cine fluoroscopy or echocardiography.
(Level of Evidence: B)
人工弁感染性心内膜炎で透視かエコーで弁が外れているケースではオペを考慮する

4. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with evidence
of increasing obstruction or worsening regurgitation.
(Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎の患者で狭窄や逆流が増えているときは手術を考慮する

5. Surgery is indicated for patients with infective endocarditis
of a prosthetic valve who present with com-
plications (e.g., abscess formation). (Level of Evidence:
C)
人工弁感染性心内膜炎の患者で膿瘍などの合併症を発症したケースでは手術を考慮する

Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)

1. Surgery is reasonable for patients with infective
endocarditis of a prosthetic valve who present with
evidence of persistent bacteremia or recurrent emboli
despite appropriate antibiotic treatment. (Level of
Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で正しく抗生物質を使っても菌血症や塞栓を繰りかえすときは外科手術が理にかなっている

2. Surgery is reasonable for patients with infective
endocarditis of a prosthetic valve who present with
relapsing infection. (Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で感染が再発するときには手術が理にかなっている

Class III (著者註:有用でなく有害)

Routine surgery is not indicated for patients with

uncomplicated infective endocarditis of a prosthetic
valve caused by first infection with a sensitive organism.
(Level of Evidence: C)
人工弁感染性心内膜炎で初めての感染で薬剤感受性があり、とくに合併症がないケースでは手術は適応とならない

また日本循環器学会のガイドラインもアメリカの学会と同様のポリシーで参考になります。もとのページ(17ページ)をご参照ください。以下、そこから引用します。

表33 感染性心内膜炎に対する手術の推奨

○人工弁の心内膜炎

クラスⅠ (著者註:有効性が証明済み)

1 PVE に関する心臓外科医へのコンサルト

2 心不全をともなうPVE
3 透視や超音波検査により弁輪からの人工弁離開が明
らかなPVE
4 弁狭窄や逆流が明らかに増悪しつつあるPVE
5 膿瘍などの合併症をともなうPVE

クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)


1 適切な抗生剤治療にもかかわらず,菌血症が遷延し

たり塞栓症を繰り返したりするPVE
2 再発したPVE

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)


1 感受性のある細菌による合併症のともなわない初回
PVE

 

 

人工弁の感染性心内膜炎のページにもどる

Heart_dRR
お問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

感染性心内膜炎(自然弁)の治療ガイドライン―手術が威力を発揮する時は?

Pocket

感染性心内膜炎IE(右図)は強い感染としての問題だけでなく、

 

それが弁などを壊して心不全にNatural IEなる問題や

 

疣贅がちぎれて飛んで脳塞栓・脳梗塞などになる問題などがあり、

 

しっかりした治療方針が大切です。

 

 

 

米国ACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

今回の改訂では自然弁と人工弁、その他デバイスを合わせた総括的な内容で、さまざまな要求に応えようという意欲的なものとして評価されそうです。

次にその概要をお示しします。

 

2014AHA-ACC_GL IE

もとの言語は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳にしました。

ここでクラスI は手術をすべきである、という意味です。

クラスIIaは手術が勧められる、

クラスIIbは手術をして良い場合がある、

クラスIIIは手術のメリットがないか、害が大きいという意味です。

 

以下に以前のガイドラインとその説明を掲載します。ご参考にしてください

***********************

アメリカの心臓病の主要学会であるAHAとACCの感染性心内膜炎ガイドラインを引用します。

邦訳はご参考までに著者が行いました。

 

ここでは自然弁つまり患者さん自身の弁の感染性心内膜炎IEを扱い、人工弁のIEは別のページに譲ります

4.6.1. Surgery for Native Valve Endocarditis

Class I (有効性が証明済み)

1. Surgery of the native valve is indicated in patients
with acute infective endocarditis who present with
valve stenosis or regurgitation resulting in heart
failure. (Level of Evidence: B)
急性心内膜炎で弁の狭窄や閉鎖不全のため心不全になった患者さんには手術が勧められる

2. Surgery of the native valve is indicated in patients with
acute infective endocarditis who present with AR or
MR with hemodynamic evidence of elevated LV enddiastolic
or left atrial pressures (e.g., premature closure
of MV with AR, rapid decelerating MR signal by
continuous-wave Doppler (v-wave cutoff sign), or moderate
or severe pulmonary hypertension). (Level of Evidence:
B)
急性感染性心内膜炎の患者さんで大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症を発症し、左室拡張末期圧や左房圧が上昇したケースでは手術が勧められる

(たとえばARのため僧帽弁が拡張期の間に早期閉鎖するとか、連続ドップラーでMRが急速に弱るときに)

3. Surgery of the native valve is indicated in patients
with infective endocarditis caused by fungal or other
highly resistant organisms. (Level of Evidence: B)
感染性心内膜炎が真菌(かび)や薬剤抵抗性細菌によって起こったものでは手術が勧められる

4. Surgery of the native valve is indicated in patients
with infective endocarditis complicated by
heart block, annular or aortic abscess, or destructive
penetrating lesions (e.g., sinus of Valsalva to
right atrium, right ventricle, or left atrium fistula;
mitral leaflet perforation with aortic valve endocarditis;
or infection in annulus fibrosa). (Level of
Evidence: B)

感染性心内膜炎で伝導ブロックや弁輪膿瘍、あるいは膿瘍の穿孔などがあれば手術が勧められる

(たとえばバルサルバ洞から右房へ破れたり、同様に右室や左房に破れたとき、あるいは大動脈弁の心内膜炎で僧帽弁葉に穴が開いたり繊維骨格に感染が及ぶとき)

 

Class IIa (有効である可能性が高い)

Surgery of the native valve is reasonable in patients
with infective endocarditis who present with recurrent
emboli and persistent vegetations despite appropriate
antibiotic therapy. (Level of Evidence: C)
感染性心内膜炎で抗生物質を使っているのに塞栓を繰り返したり疣贅が消えないケースで手術をするのは理にかなっている

Class IIb (有効性がそれほど確立されていない)

Surgery of the native valve may be considered in
patients with infective endocarditis who present with
mobile vegetations in excess of 10 mm with or
without emboli. (Level of Evidence: C)
 

感染性心内膜炎で動く疣贅の大きさが10mmを超えるときは塞栓の有無にかかわらず手術を考慮してよい

 

また日本循環器学会の感染性心内膜炎ガイドラインも大変参考になります。もとのページ(17ページ)をご参照ください。

以下、そこから引用します。

 

表33 感染性心内膜炎に対する手術の推奨 ○自己弁心内膜炎の場合

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)


1 自己弁の狭窄や逆流による心不全を伴ったacute IE

2 左室拡張末期圧や左房圧の上昇を伴うARやMRを
合併したacute IE

3 真菌や高度耐性菌によるIE

4 心ブロックや弁輪膿瘍,穿通性病変(Valsalva 洞と
右室や左房の穿通,大動脈弁感染による僧帽弁尖の
穿通など)を合併したIE


クラスⅡ a
(著者註:有効である可能性が高い)


1 適切な抗生剤治療にもかかわらず,塞栓症を繰り返

し疣贅が消失しないIE
 


クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)


1 可動性のある10mmを超える疣贅をともなうIE

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

自然弁の感染性心内膜炎のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

三尖弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―患者さんの救命に役立つことも

Pocket

米国のACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

その概要を以下に記載します。

的確な適応とタイミングで患者さんの予後がさらに改善することが期待されます。

2014AHA-ACC_GL TR

このガイドラインの原文は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳いたしました。

症状がある、高度のTRが手術適応になりやすいのはわかりやすいところですが、高度でないTRでも左心系弁手術のときに三尖弁輪拡張が著明ならやる意義があるというのを知らない方が多いようです。患者さんのためにこうしたことをガイドラインが明記したのは素晴らしいと思います。


なお以前のガイドラインと解説をご参考のため以下に示します

 

****** 以前のガイドライン ******

三尖弁閉鎖不全症(TR)は油断すると命にかかわる重い病気です。

そのため内外の主要学会でもガイドラインが作成され、三尖弁

手遅れのないように、また不要な手術や治療も避けられるように、

努力がなされています。

 

私たちはガイドラインやEBM(証拠にもとづく医学医療)を基準にして手術や治療にあたっています。

三尖弁閉鎖不全症については三尖弁輪形成術つまりリング(右図)をつけるだけでは治せないケースに対して

僧帽弁 RingTAP形成術で培った人工腱索の技術をもちいて三尖弁置換術を避けて

形成術を完遂することがあるため将来のガイドライン発展にも貢献できればと考えています。

 

以下にアメリカの心臓関係でのトップ学会であるAHAとACCの三尖弁閉鎖不全症などへのガイドラインを引用します。

正確を期するために原文と著者の邦訳を併記します。
(JACC Vol. 48, No. 3, 2006 Bonow et al. e71 August 1, 2006:e1–148)

 

Class I (著者註:有効性が証明済み)
Tricuspid valve repair is beneficial for severe TR in
patients with MV disease requiring MV surgery.
(Level of Evidence: B)
手術が必要な僧帽弁膜症をもつ患者で高度なTRをもつ方に三尖弁形成術は有用です

Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is reasonable
for severe primary TR when symptomatic.
(Level of Evidence: C)
症状ある高度TRに対して三尖弁形成術や三尖弁置換術は理にかなっています

2. Tricuspid valve replacement is reasonable for severe
TR secondary to diseased/abnormal tricuspid valve
leaflets not amenable to annuloplasty or repair. (Level
of Evidence: C)
三尖弁輪形成術で治せないような高度TRに対して三尖弁置換術は理にかなっています

Class IIb (著者註:有効性がそれほど確立されていない)

Tricuspid annuloplasty may be considered for less
than severe TR in patients undergoing MV surgery
when there is pulmonary hypertension or tricuspid
annular dilatation. (Level of Evidence: C)

僧帽弁手術を受ける患者さんで肺高血圧症や三尖弁輪拡張があるときは、TRが高度でなくても三尖弁輪形成術を考慮できることがあります

Class III (著者註:有用でなく有害になる恐れあり)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in asymptomatic patients with TR whose
pulmonary artery systolic pressure is less than 60 mm
Hg in the presence of a normal MV. (Level of
Evidence: C)
僧帽弁が正常で肺動脈の収縮期圧が60mmHg未満で、症状がないTRの患者さんには三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません

2. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in patients with mild primary TR. (Level of
Evidence: C)
軽度の原発性TRでは三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません


以下に日本循環器学会の三尖弁閉鎖不全症のガイドライン(2006年、合同研究班報告)を引用します。基本コンセプトは大変近いものと思います。元ページもご参照ください(第14ページです)。

表30 三尖弁閉鎖不全症に対する手術の推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)


1 高度TRで,僧帽弁との同時初回手術としての三尖

弁輪形成術

クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)


1 高度TRで,弁輪形成が不可能であり,三尖弁置換

術が必要な場合
2 感染性心内膜炎によるTRで,大きな疣贅,治療困
難な感染・右心不全をともなう場合
3 中等度TRで,弁輪拡大,肺高血圧,右心不全をと
もなう場合
4 中等度TRで,僧帽弁との同時再手術としての三尖
弁輪形成術

クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)


1 中等度TRで,弁輪形成が不可能であり三尖弁置換

術が必要な場合
2 軽度TRで,弁輪拡大,肺高血圧をともなう場合

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)


1 僧帽弁が正常で,肺高血圧も中等度(収縮期圧

60mmHg)以下の無症状のTR

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

三尖弁閉鎖不全症のページにもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

僧帽弁狭窄症の手術ガイドライン―今もよくある病気です、きちんと治しましょう

Pocket

アメリカのACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

より臨床現場の情報を取り入れたものになっています。

以下にそれをご紹介します。

2014AHA-ACC_GL MS

原文はもちろん英語ですが一般の方々にわかりづらいところには日本語訳をつけました。 192757079

僧帽弁狭窄症が重症になれば手術が勧められるのはこれまでどおりですが、あまりに危険性が高い場合たとえば全身の状態が悪いなどのときにはカテーテル治療も検討できるようになっています。内科と外科が協力するハートチームでは当然以前からやっていることですが。

このようにして手遅れも早すぎの治療も回避でき、たとえ手遅れになってから来院された患者さんにも生きるチャンスを最大限提供できるでしょう。


ここでクラスI (いち)とは手術や治療をすべきであるという Ilm09_ag04007-s意味で、

クラスIIa はそれを勧められる、

クラスIIb  はそれをやっても良い場合がある、

クラスIII  はやるメリットがないか、害があり得る

という意味です。

なお以下に以前のガイドラインを参考としてお示しします

 

****** 以前のガイドラインと解説 *****

症状が強い(軽い運動でも症状が出る)僧帽弁狭窄症の治療指針ガイドライン(アメリカACCとAHA学会、2006年)で、手術が勧められるのは

 

■狭窄が中等度かそれ以上(僧帽弁口面積が1.5cm2以下)で、弁の形態がカテーテル治療に適しておらず、開胸手術リスクが高くないとき

 

4valves

比較的軽い症状(強い運動で症状がでる)僧帽弁狭窄症で手術が勧められるのは

■僧帽弁口面積が1.5cm2以下で弁形態がカテーテル治療に適しておらず、肺動脈圧が60mmHgを超えるとき

 

などです。その他の状況でもカテーテル治療や慎重なフォロー(経過観察)が勧められています。

なお日本のガイドライン(日本循環器学会)はこちら (7ページ)をご参照ください。

コンセプトはよく似ています。以下同ページから引用します。

 

なお以下でOMCとは直視下僧帽弁交連切開術つまり心臓を止めて中へ入り、狭いところを形成して切り開き、弁が動きやすくする手術です。

またNYHA分類とは心不全の分類でIII度は軽い運動でも症状がでる、比較的重症で、IV度は安静時にも症状がでる、重症の状態です。

 

表15 僧帽弁狭窄症に対するOMCの推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 NYHA心機能分類Ⅲ ~ Ⅳ 度の中等度~ 高度MS

(MVA ≦1.5cm2)の患者で,弁形態が形成術に適しており,

(1)PTMC が実施できない施設の場合

(2) 抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場合

2 NYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の中等度~高度MS患者

で,弁に柔軟性がないか,あるいは弁が石灰化して
おり,OMC かMVR かを術中に決定する場合


クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)
1 NYHA心機能分類Ⅰ ~ Ⅱ 度の中等度~ 高度MS
(MVA ≦1.5cm2)の患者で,弁形態が形成術に適し
ており,

(1) PTMC が実施できない施設の場合

(2) 抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場

(3) 充分な抗凝固療法にもかかわらず塞栓症を繰り返
す場合

(4) 重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧50mmHg以上)
を合併する場合


クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)

1 ごく軽度のMS患者


つぎにMVRつまり僧帽弁置換術(人工弁をもちいて壊れた弁を取り換える手術です)のガイドラインを引用します。

またNYHA分類とは心不全の分類でIII度は軽い運動でも症状がでる、比較的重症で、IV度は安静時にも症状がでる、重症の状態です。

MVAは僧帽弁口面積の意味です。


表16 僧帽弁狭窄症に対するMVRの推奨


クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)

1 NYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度で中等度~高度MSの患

者で,

PTMC またはOMC の適応と考えられない場合

2 NYHA心機能分類Ⅰ ~ Ⅱ 度で

高度MS(MVA ≦
1.0cm2)と重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧50mmHg
以上)を合併する患者で,

PTMC またはOMC の適応
と考えられない場合

注)MS の弁口面積からみた重症度(表3)を参照

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁狭窄症のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

重症僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―症状が軽くても危険なことが?

Pocket

 

2014年にアメリカACCとAHA合同のガイドラインが改訂されました。

以下にその概略を記載します。

2014AHA-ACC_GL MR

原文は英語ですが、わかりづらいところは日本語に訳しました。

この新しいガイドラインにはいくつかの特徴、進歩がみられます。

たとえば一次性つまり僧帽弁そのものが壊 図 虚血性MRメカれているタイプと二次性つまり左室が壊れているタイプをより明確に分けて考えていること。

両者は見かけは似ていることもありますが、別の病気ですので当然のことですね。

ちなみに二次性は心筋梗塞の後とか、拡張型心筋症などに合併することが多いです。

右図は二次性僧帽弁閉鎖不全症の代表例である虚血性僧帽弁閉鎖不全症の特徴を示します。弁そのものではなく、左室の障害が原因なのです。

Ilm09_ag04004-sそして僧帽弁形成術をより重視する傾向にあり、病院間格差を考慮して弁形成がうまくできない施設では心臓手術をあまり勧めないという方針がより明確になったことも特徴です。

症状がなくても、これから心臓が悪化する場合、弁形成が確実にできる施設なら手術を勧めるという傾向が強まりました。

 

なお

クラスI(いち)とは手術すべき、という意味です。

クラスIIaは手術するのが良い、

クラスIIbは手術しても良いことがある、

クラスIII は手術のメリットがないか、害がある、

という意味です。

以下は参考までに過去のガイドラインです。

 

********過去のガイドラインから********

慢性重症僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン (アメリカACCとAHA学会、2006年)
にて、
手術がクラス I (有効性が証明ずみ)で勧められるのは、

 

■自覚症状があり左室形成術収縮能が保たれている(駆出率>30%、LVDs<=55mm)とき


■自覚症状はないが左室収縮機能が低下している(駆出率60%以下、

4valves

LVDs>=40mm)とき

 

さらに、クラス IIa (データ等から有効の可能性高い)として勧められるのは

■自覚症状はなく左室収縮機能も正常(駆出率>60%、LVDs<40mm)だが心房細動の新規発症や肺高血圧症があるとき


■上記で心房細動や肺高血圧症はないが、弁形成が可能なとき


■その他

(注釈:駆出率とは左室の中にある血液の何%を一回の拍動で送り出せるかという数です。LVDsは左室収縮末期の直径です。)

重症の僧帽弁閉鎖不全症では

時間とともに心臓が壊れて、

遅いタイミングの手術では心臓が完全には回復しないことや

手術そのもののリスクが上がることがその背景にあります。

 

なお日本の僧帽弁閉鎖不全症のガイドライン(日本循環器学会)はこちら (8ページ)をご参照ください。

基本コンセプトは極めて近いです。以下同ページから転載いたします

 

表17 僧帽弁閉鎖不全症に対する手術適応と手術法の推奨

クラスⅠ
(註:有効性が証明済み)

1 高度の急性MRによる症候性患者に対する手術

2 NYHA心機能分類Ⅱ度以上の症状を有する,高度な左室機能低下を伴わない慢性高度MRの患者に対する手術

3 軽度~中等度の左室機能低下を伴う慢性高度MRの無症候性患者に対する手術

4 手術を必要とする慢性の高度MRを有する患者の多数には,

弁置換術より弁形成術が推奨され,

患者は弁形成術の経験が豊富な施設へ紹介されるべきであること

クラスⅡa
(註:有効である可能性が高い)

1 左室機能低下が無く無症状の慢性高度MR患者において,MRを残すことなく90% 以上弁形成術が可能である場合の経験豊富な施設における弁形成術

2 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,心房細動が新たに出現した無症候性の患者に対する手術

3 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,肺高血圧症を伴う無症候性の患者に対する手術

4 高度の左室機能低下とNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の症状を有する,器質性の弁病変による慢性の高度MR患者で,弁形成術の可能性が高い場合の手術


クラスⅡb
(註:有効性がそれほど確立されていない)

1 心臓再同期療法(CRT)を含む適切な治療にもかかわらずNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度にとどまる,

高度の左室機能低下に続発した慢性の高度二次性MR患者に対する弁形成術

クラスⅢ
(註:有用でなく有害)

1 左室機能が保持された無症候性のMR患者で,弁形成術の可能性がかなり疑わしい場合の手術

2 軽度~中等度のMRを有する患者に対する単独僧帽弁手術

 

左室機能 (LVEF またはLVDs による)
        正常 :LVEF ≧ 60%,LVDs <40 mm
        軽度低下 :LVEF 50 ~ 60%,LVDs 40 ~ 50 mm
        中等度低下 :LVEF 30 ~ 50%,LVDs 50 ~ 55 mm
        高度低下 :LVEF < 30%,LVDs >55 mm
肺高血圧症
        収縮期肺動脈圧>50 mmHg(安静時)または> 60 mmHg(運動時)

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁閉鎖不全症のページにもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。