お便り98: ポートアクセス法僧帽弁形成術で早い仕事復帰を

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人間出会いはさまざまです。患者さんは50代男性で浜松からお越し下さいました。

A335_010仕事でお忙しく、あまりゆっくり療養もできない状況で、かつ手術後には病気を忘れて仕事に熱中できるような治療をもとめて私の外来へ来られました。

ポートアクセス法による僧帽弁形成術が創も小さく、骨も切らず、痛みも軽く、社会復帰が早いです。

そのためこの状況に一番ぴったりの手術ですが、この患者さんはバーロー症候群という、僧帽弁全体が病気になる、同じ僧帽弁形成術でも比較的高度な技術が求められる状態で、ポートアクセス法をやっている病院でも一般には通常の正中アプローチを使う傾向にある状態でした。

しかしバーロー症候群をポートアクセス法で僧帽弁形成術するという経験を着実に積んできましたので、この患者さんにも同じ方法で手術しました。

弁は3か所を直す、比較的複雑なものになりましたが、結果は良好、逆流なく、かつ全身に負担を与えない、短時間でまとめ上げることができました。

下記のお手紙は、この患者さんが中日新聞にお書きになられたエッセイです。

文中に名古屋の病院とあるのは、当時私が名古屋ハートセンターで勤務していたからです。現在は大阪府の医誠会病院と仁泉会病院で忙しく汗を流しています。

ともあれ患者さんの元気な社会復帰、仕事復帰のお手伝いをできたこと、大変うれしく思っています。これから楽しく、ばりばり仕事に打ち込んで下さい。お時間のあるときに、大阪京都観光を兼ねて外来へ定期健診にお越し下さい。

********患者さんのお便り(エッセイ) 中日新聞10月13日*******

心臓手術

きっかけは職場の健康診断だった。いつもなら儀式的に終わる聴診と脈診が、やけに時間がかかるなと思っていると、「心雑音と不整脈がある。再検査を受けて」と診断された。

 
IMG_1959b 間を置かず精密検査を受けたことが、大きな一歩になった。心臓エコーで、僧帽弁機能不全の疑いがあることが分かったのだ。

 僧帽弁は左心房と左心室の間にあり、血液が流れた後、ぴったりと閉じる。それが、何かの原因で弁に異常が起きて閉じきらなくなり、血液が逆流していた。息切れや胸が苦しいという自覚症状はなかったが、放っておくと、心不全や心筋梗塞のリスクが高まる。早期発見は、むしろラッキーだと考えた。

 名古屋に心臓外科の専門病院があり、さらに精密検査をしたのち、手術の決断をした。後から知ったが、この病院は、皮膚切開が少なくて済む先進技術で手術を行い、担当医はゴットハンドといわれる名医だった。

 二週間で退院し、一ヶ月で仕事に復帰できた。いろんな人との出会いと幸運が重なり、命を救われた思いだ。同僚や家族の支えにも深く感謝する。いまは体調をしっかり整えることで、恩返しとしたい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り93: 僧帽弁形成術の不成功から来院、元気に帰還した患者さん

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弁膜症の手術にも難しいタイプがあります。

下記の患者さんは70代男性で、地元(他府県)でトップレベルの病院にて、僧帽弁形成術を受けられました。


A335_012残念ながら比較的難しいバーロー症候群の僧帽弁で、その病院では対処できず、生体弁による僧帽弁置換術になりました。

ところがその時に生体弁の付け根のところから逆流する、これはおかしい、左室が破裂したのではないかと長時間かけてさまざまな処置が手術室で取られたようですが、結局うまく行かなかったようです。

そこでどうにもならないからと、ちかぢか機械弁で僧帽弁置換術をと言われ、HPで調べてから米田正始の外来に来られました。70代のご年齢で機械弁は、ワーファリンというお薬が欠かせなくなるため脳出血などの合併症が起こりやすくなり、何とか生体弁をというお気持ちで来院されたのでした。

エコーを拝見しますと、どうもおかしい、これは生体弁がきちんと左室内に入り込んでいないのではないか、と考え、それならこの生体弁を外して私たちが新たな生体弁を入れれば治せると考えました。

こうした再手術には独特のノウハウが必要で、弁膜症に熟練したものにしかわからないこともあるため、手術をお引き受けしました。

初回手術の前に来て頂ければ僧帽弁形成術ができたものと拝察しますが、この段階からは次善の策として良い弁置換をしようというわけです。

手術は予想どおりで、うまく新たな生体弁が入り、患者さんは術後11日目に元気に退院されました。やや遠方ですので少しゆっくり院内にいて頂きました。

外来でお会いするたびにお元気になられるのがわかり、うれしく思っています。

以下はその患者さんのご家族からの礼状です。

手術を受けた病院を出て治してくれる専門家をもとめて外の病院へ行く、実に勇気のいることだったと思います。しかしその決断が良い結果をもたらしたこと、敬意を表したく思います。

 

*****  患者さんのご家族からのお便り *****

名古屋ハートセンター
心臓血管外科 統括部長 米田正始 先生
スタッフの皆さま

拝啓


猛暑の候、米田先生はじめ名古屋ハートセンターの皆さまにおかれましては、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。


月日の経つのは早いもので、父が今年2月6日に僧帽弁置換の再手術を受け、本日でちょうど半年となります。
その節は大変お世話になり、ありがとうございました。

今思い返せば、あの時米田先生にご相談していなければ、今頃父はまだ原因不明の心不全に悩まされ、当時かかりつけの**病院で再度僧帽弁の置換をするのであれば血栓リスクの高い機械弁、もしくは循環器内科で処方していただく薬で何とか生き延びるか、どちらか究極の選択を迫られていたと思います。


「あの時」と申し上げるのは、その悩みの境地において米田先生のサイトを拝見してから、居ても立っても居られずご相談いたしました、昨年12月9日のメールです。

 

市川功さんメール

患者さんのご家族からのお礼メールです。本文に記載されているのは添付文書の内容ですが、このメールからも伝わってくるものがございます

当日、しかも1時間足らずで米田先生よりご返事いただいた内容は、医療現場における一般論と、名古屋ハートセンターの受入れ姿勢を綴った大変有難いお言葉でした。
メールを拝見した時の、あの安堵感は今でもはっきり覚えています。
「断らない医療」の姿勢がそこにあるのだろう、と私は思います。

今回、米田先生に執刀していただいたお陰で、懸念しておりました心不全の根本原因もはっきりし、弁置換も機械弁ではなく血栓リスクの低い生体弁を使用してくださいました。


そして何より手術時間が極めて短かったことで術後の回復が早く、父が初回の**病院で受けた弁置換の術後とは明らかに違う回復ぶりでした。


お陰で今では服用を続けていたワーファリンをはじめ、薬は殆ど飲まずに過ごすことが出来ており、この上ない喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。

末筆になりますが、私たち家族の愛する父が、この名古屋ハートセンターでお世話になることが出来て本当に良かったと思っております。


スタッフの皆さまがこの素晴らしい場所で働いておられるのが、羨ましくも思います。
この夏の暑さはまだまだ続きそうですので、どうか皆さまくれぐれもご自愛ください。


敬具

平成25年8月*日

*****

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り92: ポートアクセスで大動脈弁置換術を受けられた患者さん

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大動脈弁狭窄症は心臓の出口が狭くなるため、重症になれば突然出口がふさがった形となり心臓が止まることがある病気です。つまり突然死の恐れがあるのです。


A335_017しかし普段、休憩などしているときにはそう苦しいわけではありません。あまり無理をしなければ症状がないことが多いのです。だから患者さんは油断しがちで、突然何か驚くとかびっくりするとか、無理をすると心臓が止まるのです。

下記の患者さんはかなり進んだ大動脈弁狭窄症のためまえもってメールで相談され、まもなく私の外来へ来られました。

大事な発表会が終わってから手術を受けたいと言われましたが、発表会の緊張する場面や、その練習の段階で突然死などが起こる恐れがあったことと、すぐ手術すればゆうゆうと安全に発表会に臨めるタイミングでもあったため、手術をお勧めしました。

私たちがちからを入れているポートアクセス法という、ある種のMICS(ミックス)手術なら、一般の病院で行う心臓手術と違って、創も小さく見えにくく、かつ骨(胸骨)を全然切らずにすむため、回復が速く、発表会に間に合ううえに、安心して発表できるというおまけまでつくと判断したのです。

弁そのものは硬く変性していたため人工弁に代えるか、ご希望があれば自己心膜で弁を再建するかの選択枝がありましたが、患者さんのご希望にてポートアクセス法での人工弁(生体弁)手術つまり大動脈弁置換術に決定しました。

手術はスムースに進み、翌日から歩行や運動を開始され、まもなくお元気に退院されました。創は外からあまり見えず、まさか心臓手術を受けたとはだれも思えないほどでした。

以下はその患者さんからの感謝状です。

 

********** 患者さんからのお便り ********

 

米田正始先生

手術をしていただいてから一ヶ月がたちました。
お蔭様で、順調に回復し、7月21日のフラの発表会に向けて練習を始める事ができるようになりました。
初めて先生の外来でお会いして、発表会が終わってから手術をお願いしたいと申し上げた私に、先生は突然死の不安を抱えながらそれでいいの?早く手術をして、何の不安もなく、せいせいおどった方がいいでしょ、とおっしゃって、お忙しいスケジュールの中、5月13日の手術日を決めて下さいました。

私が大動脈弁狭窄症と診断されてから9年たちます。

六カ月ごとに市立病院で、心エコー、心電図、レントゲン、血液検査をしていただき、今年の2月の検診の時、そろそろ手術適応の範囲内に入ってきたので、4月にカテーテルをやる日を決めて、手術しましょうと言われました。

以前から、ネットで米田先生のウェブを見て、弁手術にはカテーテル検査は必要ないと書いてあったのが頭に残っていましたし、手術していただく時は、自分の身は自分で守りたいので、自分の納得する先生に手術をして頂きたいと思っていました。

思いきって、4月の検診日に主治医に名古屋ハートセンターの米田先生に紹介状を書いていただきたいとお願いしました。

紹介状をいただいたものの、スーパードクターにどのようにお伝えしたらいいのか?悩んだ末、思いきってメールをしました。たぶんお返事を頂けたにしても、何日もたってからだろうと思っていました。

その2~3時間後に、先生からメールをいただき、外来へいらっしゃいとの事。
あまりにも速く対応していただき、おどろきと嬉しさで涙があふれてきました。

4月17日、初めて病院へ行き、明るく、清潔で、病院とは思えない雰囲気で、先生、看護師さん、スタッフの皆さんが笑顔で優しく接して下さりほっとしました。

診察室に入り、米田先生にお会いして、丁寧な説明をしていただき、すべて、先生にお任せしようと決心しました。
それから手術日まで、不思議な位手術の不安はありませんでした。

無事に手術をしていただき、すばらしい先生、スタッフのみな様にお世話になって、普通なら一日も早く退院したいと思うでしょうが、そんな気持ちには全然なりませんでした。

そして、こんなに早くフラに復帰出来、家族の為に働けるのは、米田先生始め、すばらしいスタッフのみな様の愛ある医療のお陰と感謝しております。

先生、毎日御多忙だと存じますが、くれぐれもお身体ご自愛くださいませ。

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お便り91: 困難と言われた僧帽弁形成術をミックス法で

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医師と患者さんの人間関係、とくに信頼関係は極めて重要です。

下記の患者さんは他府県から僧帽弁形成術をもとめて私の外来へ来られました。


Tutuji地元の大学病院でも形成は難しいと言われる、複雑な弁の壊れ方でした。

後尖、前尖とも後交連部で壊れていたからです。

さらに長期間の負担のためか、左房がひどく拡張し、そのため心房細動の不整脈も出ていました。

この状態になるとメイズ手術は歯が立ちません。そこで私たちが10年ほど前に開発した心房縮小メイズも併せ行いました。

僧帽弁も心房細動も治りましたが、同時にそれは小さい創でできました。いわゆるミックス手術ですね。

以下のお手紙はその患者さんからの礼状です。

遠方からお越し頂いただけの結果を出すことができ、それ以上にこうした絆をうれしく思います。またこれからも大切にして行きたく思います。


********患者さんからのお便り***********

 

米田 正始 先生

前略

僧帽弁形成手術及びMAZE手術を2012年11月8日に行っていただいた****です。
手術体験談のお話を受け、駄文ですが一筆記させていただきます。

小生が心臓に問題ありと診断されたのは2008年6月でした。そこから5年たち、状態は徐々に悪化してきて、ちょっと激しく体を動かしただけで動悸が激しく、休まないで行動ができなくなってきました。そこで地元の大学病院で診察していただいた結果、僧帽弁閉鎖不全症で手術が必要という結論となりました。

心臓にメスを入れることは、生命に直接関係すると思いましたので、自分自身が十分に納得した上で手術に望みたいとの気持ちが強くありました。そこでインターネットや近親者に、僧帽弁手術の事例や病院の対応に関する情報を集めた結果、名古屋ハートセンター・米田正始先生に執刀していただくことになったのですが、そういった決断を下すことになった主な理由は次の点です。

1. 心臓の手術は技能(症例数)が物を言う。そして、患者は医者を選ぶ権利がある。

米田先生のホームページ「心臓血管外科情報WEB(当時の名称)」に載っていた内容です。

特に外科手術では、執刀医の技術/技量がその成否に大きく影響することはよく知られていますが、最近の大学病院では、患者が医師を指名することまでは不可能と言って良いと思います。

外科手術の特性とご自身の豊富な経験に基づく自信とを、良く表している言葉と思いました。また、それを可能としている名古屋ハートセンターのシステムも素晴らしいと思いました。

2. 心エコー検査で「腱索断裂(少なくとも2本)」との所見が示された。

今まで受診した心エコー検査や経食道心エコー検査では、このように具体的な所見を示されたことはありませんでした。

画像の読影技術は重要であるとともに非常にむずかしいものであるとのお話は以前から知識としてありましたので、このように具体的な所見を示されたことは、名古屋ハートセンターのスタッフの技術が非常に高く、高度な診療を期待させるものでした。


3. 小生の僧帽弁閉鎖不全症は形成手術でなんとかいける。

今までの手術方法に関する説明では機械弁への置換手術が中心でした。ところが、米田先生から形成手術で多分大丈夫だろうとの診断を出していただいたことで、非常に安心したことを思い出します。

さらに、形成手術が不可能な場合でも、生活するうえで色々と問題のある血液抗凝固剤の服用をやめられる生体弁への置換という方法を示されたことです。

今、ドイツでは開胸せずに穿孔して生体弁の置換手術の事例が報告されており、生体弁の寿命のくるほぼ20年後では、ドイツの事例のような患者に負担をかけない手術が一般的になっているだろうとの、最新情報をもとにした方向づけを提示していただけました。

 以上の点に加え、地元の大学病院の医師も、米田先生を高く評価しており、安心して手術をお願いしたらどうかとのアドバイスもいただきました。

 こういった理由から、小生の場合なんの不安もなく手術に望むことができました。

今回は僧帽弁の形成手術、心臓縮小手術、心房細動に対するMAZE手術を施していただきましたが、全身麻酔でしたので気がついたら終わっていました。

次の曰には30mくらいでしたが、自分自身の足で集中治療室から個室に歩いて移ることができました。術後、気胸が発生しましたが、それも担当医の方の適切な処置で問題はありませんでした。

 さらに退院前の心エコー検査では僧帽弁の逆流も100%なくなっていることが確認できました。この時、「米田先生は、僧帽弁の手術が得意なんですよ。」と言った検査技師の言葉が今でも耳に残っています。

おかげさまで、仕事にも復帰できましたし、先日の6ヶ月検診も問題はありませんでした。

 手術という大きなイベントを抱えている時には、ちょっとしたことでも不安が増大してしまうものです。米田先生、名古屋ハートセンターが十分信頼の置けることを、手術前に自分自身で十分に確認/納得したことが、小生がなんの不安もなく手術に望むことが出来た大きな理由と思っております。

また、家族も患者本人が安心して手術に向かっている姿を見て、うろたえることなく平常心で手術に向かうことができました。


今回の入院も含めた治療では、米田先生をはじめ、佐藤先生、深谷先生、木村先生他スタッフの皆様に大変お世話になり、ありがとうございました。

 まだ、これからもよろしくお願いいたします。


敬具

2013年6月5日

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乳頭筋最適化術(Papillary Head Optimization)とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月1日

1.乳頭筋ヘッド最適化手術とは?

乳頭筋のヘッドを糸で束ねて前方に吊り上げ、僧帽弁の逆流を止める手術です。略称はPHOです。
アメリカのKron先生の方法をもとにして、私たちが世界に先駆けて開発した術式です。虚血性僧帽弁閉鎖不全症などの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して威力を発揮します。
この領域の権威であられる産業医大循環器内科教授・学長の畏友・尾辻豊先生のご意見で命名しました。 以下もう少し詳しくご説明します。

2.虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症の手術で大切なことは

心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や特発性拡張型心筋症の機能性僧帽弁閉鎖不全症では前尖だけでなく後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引き込まれる現象をいかに治すかがカギとなります。

そのため前尖だけでなく後尖も治せるこのPHO法は当初、両尖最適化(Bileaflet Optimization)という名前で、より多くの患者さんたちにお役にたつものとして発表しました。しかし直接的には乳頭筋に手を加えて治すため、このPHOという名前が分かり易いと言われたのです。

PHOシェーマ

なるほど鋭いご指摘、さすがは尾辻先生と感心し、以後このPHO法という名前を発表のときには使っています(開発の歴史のページをご参照ください)。

3.従来の手術との成績の比較

これまでの手術法とくらべてこの乳頭筋最適化術(PHO法)はどのくらい良い結果を出せるのでしょうか。

まず現在まで標準術式と言われている僧帽弁輪形成術、つまりリングをもちいて僧帽弁の弁輪を締める方法(略称MAP)と比べてみると、
前尖のテザリングについてはMAPもそこそこは行けるもののPHO法が有利、とくに重症の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症でテザリングが高度なものではPHO法が断然有利です。

後尖については、MAPでは手術後は術前より悪化します。しかしPHO法をMAPに併用すれば悪化しません。有意に改善とまでは行きませんが良くなる傾向があります。つまりここでMAPだけの従来法にはない、大きなメリットが発生するわけです。

これらを合わせると、これまでのMAP法で治せなかった虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症をこの乳頭筋最適化術PHO法では治せる、その限界線が高くなったと言えそうです。

4.もう一つの手術法との比較では

PHOとPMA
この乳頭筋最適化術PHO法と、近年ある程度使われている乳頭筋接合術(PMA法)を比較しました。
PHOは乳頭筋先端を前方へ吊り上げるのに対してPMAでは両乳頭筋を寄せるのです(左図)。簡便な良い方法と思います。
すると前尖についてはどちらも善戦健闘するものの、PHO法のほうが有効性が高いという結果でした。後尖についてはPMA乳頭筋接合術では悪化したのに対してPHO法では悪化しませんでした。

心臓とくに大切なポンプである左室のサイズや動きパワーについてはPMAよりPHO法のほうが有利という結果でした。PMAも悪くはないのですが、PHOでは明らかに改善する項目が多かったのです。

総合的に判断すると、乳頭筋接合術PMAより乳頭筋最適化術PHO法のほうが有利という結果でした。ただしその差は前述のMAP法との差よりは小さく、PMAはかなりつけているとも言えましょう。後尖のテザリングがそうひどくなければどちらも使える方法だと思います。

こうした結果を、2012年のヨーロッパ心臓胸部外科EACTSと、2013年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁セッションともいえるMitral Conclaveなどで発表し、多くのご質問や前向きのコメントを頂きました。2017年にはアメリカ胸部外科学会の本会で発表でき、その効果が世界に知られるようになりました。

内外の学会でぜひ使いたいと言って下さった先生方も増え、光栄なことです。

5.乳頭筋最適化術(PHO)の限界は

ただしいかなる術式もそうであるように、このPHO法にも限界はあると思います。

そもそも左心室があまりにも壊れているケースでは、僧帽弁閉鎖不全症がきれいに消えても、それだけではパワー不足という大きな、かつ根底的問題が残ります。
何しろ、これらの手術が対象とする患者さんは、心臓の筋肉が大きく壊れたり失われた方々ですから、もとの出発点が厳しいのです。

しかし、だからこそ、少しでもパワーアップをという努力は大切と思います。PHO法が患者さんにとって有利で、かつ威力を発揮できるような使い方をすることが大切です。

パワーに関しては、ここまでの研究で、PHO法と同じ前方吊り上げによって、左室収縮機能が改善することが心不全の動物モデルで証明できています。これは手術前に僧帽弁閉鎖不全症をもたないモデルですので、弁の逆流を消したため左室機能が良くなったのではなく、PHOという操作自体が左室機能を良くしたことになります。
これは人間ではなかなか証明できない、実験研究ならではのメリットと考えています。

というのは人間の患者さんで、僧帽弁閉鎖不全症のないひとにこうした術式を行うことは倫理的に許されないからです。

それ以外にもPHO法が左室のパワーアップに役立つという傍証があります。それはコアプシスCoapsysという左室を前後に圧迫するデバイスで左室機能がある程度改善するというデータが実験でも患者さんの臨床データでも報告されています。PHO法で左心室を前後に圧迫するちからとかなり近いちからのかかり方です。そのため同法でも同様のパワーアップが期待しやすいのです。

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6.限界を打ち破る、最近の展開は

Apf1107-s

そうこうしながら、60名を超える患者さんにこのPHO法を行い、その前のバージョンである腱索転位法(トランスロケーション法)と併せると100例近い数になりました。

なかでも新しいPHO法で予想以上に活発な生活を送っておられる方が多いことが、実感のあるよろこびです。

こうした最近の成果を内外の主要学会のシンポジウムなどで発表し啓蒙に努めています。

参考:
いい心臓いい人生99号 第31回日本冠疾患学会(2017)にて。
いい心臓いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
いい心臓・いい人生96号 ソウルに行って参りました(第19回国際弁膜症シンポジウム
いい心臓・いい人生92号 アメリカでちょっと頑張りました(アメリカ胸部外科学会)

それともうひとつ、この方法にいったん慣れるとかなり短時間で手術操作が完了します。上記のように大きなメリットを患者さんに提供できるだけでなく、それがたかだかプラス10分あまりの時間でできてしまうという利点は今後に期待ができると考えています。短時間でできるということは、患者さんの体力を消耗せずにすむことであり、体力が落ちた重症患者さんにとって大きな利点となります。

PHO and others

私たちが開発したPHO手術(図の左)は、その効果の高さからご活用くださる施設が増え始め(図の右)、光栄なことです。医学研究のオリジナリティを守るため、私たちの原著を引用頂けると良いのですが、、、、

 

さらに新しい左室形成術(心尖部凍結型左室形成術と言います→もっと見る)で短時間で左室の修復が行えるようになり、アメリカのメジャージャーナルの表紙を飾りました(右図の赤矢印)。

Seminar

これまでPHOが使えなかった巨大な左室にも使えるようになり、盛り上がりを見せています。PHOと新しい左室形成術の併用効果は大きく(デュアル形成術)、2019年のアメリカ胸部外科学会・僧帽弁シンポジウムで発表し反響がありました。→→デュアル形成をもっと知る

それやこれや、こうした努力のメリットと限界とを常に考え、患者さんが損しないようにバランス感覚を磨きつつ、日々精進しています。またこれからこのPHO法を海外や国内の先生方にも安心して使って頂けるよう、啓蒙活動を行う予定です。

7.カテーテル治療・Mクリップとの比較では

近年循環器内科で話題のMクリップは、心臓外科手術のアルフィエリ法をカテーテルで行うものです。アルフィエリ法では僧帽弁前尖と後尖を真ん中にてつなぎ、僧帽弁を2つに分けて閉じやすくするものです。
良い方法なのですが、本質的に僧帽弁を治すものではなく、まして原因である左室を直せないため効果は限定しています。アルフィエリ法そのものが不十分治療である場合が多いため、そのコピーであるMクリップも同様と心臓外科医は考えています。ただMクリップはカテーテルでからだへの負担が少ないため試みる価値があるケースは存在すると思います。
これをやってみてダメなら上記の乳頭筋最適化手術(PHO)というのは一つの方法と思います。
Mクリップについて、さらに見るのはこちら
Mクリップが効かないときはこちら

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僧帽弁膜症のリンク

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僧帽弁交連切開術とは: 古くて新しい形成術です【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️僧帽弁交連切開術とは?

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僧帽弁狭窄症などに対して行う手術で、交連部つまり弁尖のヒンジ部分が癒合している時にこれを切開し、弁尖が良く開くようにするものです。

以下もう少し詳しく解説します。

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リウマチ性の僧帽弁疾患では弁が分厚くなりヒンジつまり蝶番のところが癒合して開かなくなります。
いわゆる僧帽弁狭窄症ですね。

これは昔から、人工弁がまだまだ不完全だったころから、手術の努力が続けられた病気です。

要するに開かなくなった僧帽弁が開けば良いからです。

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◾️交連部切開術の草創期は

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OMC数十年前には人工心肺を使わずに、はさみのような形をした道具で心臓の中で盲目的にぐいっと広げて弁をある程度修復したものです。これは心臓を開けずに、つまり閉鎖して行うため閉鎖式僧帽弁交連切開術(略称CMC)と呼びます。腱索や乳頭筋などの弁下組織があまり壊れていないときに役立ちました。

現在のカテーテルによる僧帽弁形成術と似ています。盲目的ですから期待とちがうところが開いて、つまり弁が裂けたり、血栓のようなものが隠れておればそれがはずれて飛んだり、合併症はかなりあったそうです。

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◾️僧帽弁交連切開術の進歩

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その後体外循環の技術が進歩して、心臓を止めて眼でしっかり見ながら弁を広げる、直視下僧帽弁交連切開術(OMC)がひろくつかわれました。1960-70年代ごろでしょうか。私自身はまだ医師になっていないころですので、読んだ話、聞いた話だけですが、これによって治療成績はかなり進歩しました。

すべての弁形成術がそうであるように、うまくやればの話で、ここがポイントです。

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僧帽弁狭窄症その後リウマチ性弁膜症が減り、この僧帽弁交連切開術OMCを行う機会は減りました。

しかし近年、またこれが弁膜症専門家の間で話題になっています。

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◾️交連部切開術のリバイバル?

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若いころにリウマチ熱にかかり、それ自体はまもなく薬で治るも、弁が少し傷み、それが何十年も経って、加齢性変化が加わり弁膜症になるというかたちです。これが増えています。

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また西日本とくに九州や沖縄、あるいは地方ではリウマチがやや多いと言われており、このエリアからリウマチ性僧帽弁狭窄症のため来院されることが増えました。

まだ40-50代の比較的お若い患者さんの場合は、機械弁での僧帽弁置換術MVRとなるのが一般的ですので、それを嫌ってのことのようです。

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こうした患者さんたちの僧帽弁はかつての交連切開のように弁尖だけを切り開くだけでは元通りのしなやかなきれいな弁には戻りにくいのです。左上の図のように弁も腱索も乳頭筋も一体化して硬くなり、そのままではとても弁とは言えない状態です。

僧帽弁形成術2そこでどうするか、です。

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◾️現代版、僧帽弁交連部切開術へ

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1.交連切開に加えて、

2.僧帽弁尖をピーリングあるいはスライシングと呼ばれる方法で薄く柔らかい、もとの状態に戻します。

3.また腱索がリウマチ変化のため一枚の板のようになっているため、これに窓をあけ、やわらかく動きやすいようにします。

4.必要があればこの板のような腱索を切除してゴアテックスの人工腱索をつけます。

5.さらに乳頭筋が硬く変化していることが多いため、これを切開して動きやすくします。

6.こうしたさまざまな合わせ技をしてもなお、弁が硬く、うまくフィットしない、つまり隙間から漏れるときには、心膜パッチで弁尖を形成してやわらかくフィットするようにします。

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健常な僧帽弁こうした40-50年間の僧帽弁形成術のノウハウを一堂に集めた手術をすることで、硬く石のようになった僧帽弁はしなやかな弁として蘇ります。

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◾️これからの展開

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もちろん時間との兼ね合いもあり、さらにこうした患者さんでは他の弁も壊れていたり、左房が巨大化してそれ自体の問題と、難治性心房細動も合併しています。

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そこでこれらもひとつひとつ治すことになり、時間の限界というもんだいが生じることがあります。できるだけ高い妥協点で、安全を確保しながら手術をまとめ上げることが大切と思います。

それによって、理想の姿、つまりワーファリンは不要または比較的少量で、ご自身の弁で、再手術の確率もひくく、血栓や脳梗塞・脳出血の心配も減り、普通にのびのびと永く楽しく暮らせる、こうした目標に大きく近づくことになります。

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昔の医学書では「リウマ Nurse_shockチ性弁膜症→人工弁(機械弁)これにて治療完成」のような記載を見たことがあります。

しかし現代の高いレベルから見れば、その治療の「完成」が患者さんの悩みの始まりとも言える一面があります。

できるだけワーファリン不要の自然な安全な生活を目指して頑張りたく思います。

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それと並行して、すでに機械弁の弁置換を受けておられる患者さんには、それを嘆くのではなく、ワーファリンの安全性を高めるコツなどをお知らせし、また災害時などの安全策などを勉強して戴くようにしています。

どこからでも立ち上がれる、良くできる、それが人間と思っています。

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僧帽弁膜症のリンク

原 因 

閉鎖不全症 

狭窄症

リウマチ性

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(MICS, 低侵襲小切開手術、ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り90: 肝機能障害のある三尖弁閉鎖不全症にミックス手術を

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患者さんは80歳男性で三尖弁閉鎖不全症のため心不全を合併し、近くの大学病院で手術が必要と言われてから米田正始の外来へ来られました。やや遠方の大阪からお越しになりました。


A335_010心不全で労作時の呼吸困難と肝うっ血のため肝機能障害も発生していました。夜間も苦しいため在宅酸素治療も受けておられました。

検査の結果、高度の三尖弁閉鎖不全症と高度の肺高血圧症が認められました。肺高血圧の原因は左室の拡張機能障害つまり左室が硬くなって広がりにくいためと判断されました。

そのままでは三尖弁だけ治すと肺高血圧に打ち勝って血液を送り出すちからが右室にない場合、いのちにかかわる事態になります。そこでまず入院していただき、肺高血圧や肝臓を含めた全身の治療を行い、幸い肺動脈圧が改善したため、そのタイミングで手術を行いました。

手術はポートアクセス法のミックス(小切開手術)で、三尖弁形成術と心房細動へのメイズを行いました。

幸い、術後経過は良好で、術後まもなく元気に退院されました。

 

以下はその患者さんのご家族からのお便りです。

 

*********** お便り ***********

 

名古屋ハートセンター
米田正始先生

昨年十月、父、****の手術では大変お世話になりありがとうございました。
 


辻野信雄さん十一月七日に無事退院させて頂きましたが、退院後胃の拡張血管からの出血でひどい貧血のため、近隣の**病院で緊急入院いたしましたが、十二月末に退院いたしました。

今年に入り、少しずつ体力回復し、杖なしでも軽く散歩が出来、入院で細くなっていた足が、ふと気づくと筋肉がしっかりとつき出し、嬉しくなりました。


三月になると急に大変元気になり、積極的に外出も仕事も、車の運転も依然と変わらず出来る様になりました。

 

入院前、父が酸素をつけていた姿を見ている近所の友人が、酸素も杖も不要になった父の歩く姿を見てとても驚いています。
 

二月六日には、八十歳を迎えることが出来、これもひとえに米田先生はじめ、皆様のおかげと毎日感謝しております。
 

もちろん減塩食をしっかりやっております。やっとそちらの外来に行く事が出来そうです。

近々予約をとらせて頂きます。

米田先生に助けて頂いた貴重な命を毎日感謝しながら家族と共に楽しく有意義に大切に使っております。

日頃の失礼をお詫びしつつ、此の機会に改めて心よりお礼申し上げます。

遅ればせながらお礼と直近の報告をさせて頂きました。

深谷先生、北村先生にもよろしくお伝えください。

本当にありがとうございました。

 

平成二十五年 四月二十五日
**** ***

 

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執筆:米田 正始
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お便り89: 先天性僧帽弁閉鎖不全症と心房中隔欠損症のエホバ信者さん

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僧帽弁閉鎖不全症なかでも先天性僧帽弁閉鎖不全症にはさまざまなタイプがあります。

他の心疾患を合併したり、病気ではなくても構造が通常とはちがうこともあります。

患者さんは40代女性で心房中隔欠損症(ASD)と先天性僧帽弁閉鎖不全症のため来院されました。


こどもの時から内蔵逆位つまりお腹の内A335_001蔵が左右反対に位置していると言われていました。

半年前から息切れや疲れなど心不全症状が強くなり、近くの総合病院では修正大血管転位症とまで言われて不安になり、米田正始の外来へ来られました。

幸いその病気はありませんでしたが、下大静脈(IVC)が欠損しており、手術にも工夫が必要な状態でした。

しかもエホバの証人の敬虔な信者さんで、絶対無輸血をご希望のため、血液を一滴も無駄にできない条件下での心臓手術でした。

いつものように先天性心疾患の専門家も含めたハートチームで検討し手術に臨みました。

手術は安全とお若い患者さんであることも考慮し、MICS法(ミックス)で小さい創で行いました。

いつもと違うばしょに脱血管を入れて人工心肺を回し、安全確保ののち心臓を止めて、中にはいりました。

心房中隔欠損症を一時的に広げて、そこから僧帽弁形成術を行いました。

心房中隔欠損症はSinus Venosusタイプというやや複雑なタイプでこれをパッチで修復しました。Sinus Venosusタイプでは上大静脈(SVC)のルート確保も大事ですが、これも問題なくクリアーしました。

手術は無輸血でゆうゆうと完了しました。

術後経過良好で、小さい不整脈はあったものの落ち着いたため術後8日目に元気に退院されました。

以下はその患者さんのご家族からの礼状です。

 

*********患者さんからのお便り**********

 

米田正始先生

拝啓


木村由紀さまメール新緑の鮮やかな緑が目に眩しく感じられる季節になっておりますが、米田先生のますますの御活躍を心よりお喜び申し上げます。

先月4月8日に米田先生に妻の手術していただきました、****と申します。
先月末に退院致しましたが、米田先生に直接感謝やお礼の言葉をお伝えできずにおりましたので、失礼ながらまずはメールをと思いお送りしております。

昨年末に妻の心臓の疾患が見つかりましたが、私たち夫婦にとってはまさに「寝耳に水」の状態で、一時は目の前が真っ暗になったことを思い出します。
 

妻が幼少期に検査を受けていたことは知っておりましたが、その後検診でひっかかったことや活動の制限なども無かったため、すっかり安心しておりました。
 

昨年の夏ごろから体調が悪くなっておりましたが、まさか心臓だとは思わず、しかも手術が必要なほどだとは夢にも考えませんでした。


ちょうどその時期、私たちはエホバの証人の聖書教育活動を増し加えるために、生活拠点などを変える予定で動き出しておりました。

 

ですので、今からという時に病気が見つかり、目標を見失ったようで、特に妻の落胆ぶりは本当に大変なものでした。

しかも無輸血での手術が必要になりますので、どんな病院で治療を受けることができるのか、という不安も同時に押し寄せておりました。

しかし米田先生のホームページを拝見し、メールをさし上げたところ、すぐに返信を頂いて診察の予定を整えていただきました。

そして診察で先生のお話をお聞きした時点で、すでに治ったかのような安心感を抱くことができました。

私たちの宗教信条をご理解していただき、「神様が応援してくださるように頑張ります」とおっしゃって頂いた時には、先生にお願いして本当に良かったと心から感じました。
そして手術も無事に成功に導いていただきました。

術後の先生からのご説明では、妻の心臓の血管の状態が非常にまれな配置になっていたようで、様々なご苦労をお掛けした中で素晴らしい手術を施していただいたことに重ねて感謝致します。

術後、一時期体調が安定せず、様々な面で皆様にご苦労を致しました。
北村先生、深谷先生、木村先生の治療や、看護師の方々の献身的で温かく優しい看護にも心より感謝しております。

なんとなくバタバタした状態での退院になってしまいましたので、きちんとお礼ができず本当に申し訳ございません。

妻は体調の回復に合わせて、改めて皆様への感謝をお伝えしたいと申しておりますので、甚だ失礼ではございますが今しばらくお待ちいただければ幸いでございます。

ただ今回不正脈が取れないまま退院になってしまいましたので、どのくらい動いていいものかまだ不安も残っております。
入院中は心電図で先生方や看護師の皆様に見守って頂いていたので安心だったのですが、今は目安になるものがありませんので、何となく不安感が取れずにおります。
また術後血圧が急激に下がったりして調子を崩した時期がありましたので、そのトラウマのようなものが少し残り、「またあんな風になったら」、という怖れも残っております。

不整脈に関しては、以前の米田先生の診察の際に、「時間があったらメイズ手術もできるかもしれない」とお聞きしておりました。
インフォームド・コンセントは、米田先生が緊急手術のため木村先生に行なっていただきましたが、その際にお聞きしたところ、「この程度の不正脈ならメイズ手術は必要ないと思います。」とおっしゃっていただきました。
退院前には木村先生からは、もし収まらない場合は「カテーテルアブレーション」という治療が今後必要になるかもしれないともお聞きしました。

入院中電気ショックも2度も行なって頂きましたが不整脈が収まりませんでしたので、今後自然と不整脈が収まる可能性はあるものなのでしょうか?
もしかしますと、今後メイズ手術を受ける必要はありますでしょうか?
また現時点で、どの程度動いてもいいのでしょうか?

妻も入院中は先生たちがいらっしゃるので何も聞かなくてもお任せしておけば大丈夫とばかり安心しきっていておりましたが、いざ退院してみますともっと先生方に教えていただく必要があったと反省しております。

1ヶ月後の検診が予定されておりますが、その時までよくわからずにいて、運動過多あるいは運動不足になってはいけないとも感じております。
このようなメールでご相談して本当に申し訳ありませんが、もし宜しければ教えていただければ本当に嬉しく思います。

せっかく米田先生の素晴らしい手術で健康な心臓にしていただきましたので、当初考えていた計画をまた再開できれば、とも願っております。

そのような目標を再び頭に思い浮かべることができるようにしてくださった米田先生に本当に感謝しております。

今後の米田先生の引き続きのご活躍を心よりお祈りしております。

敬具

平成25年5月5日

 

******************************

 

そう心配するような状態ではなかったのですが、患者さんがかなり神経質になっておられるようなので早速お返事をお書きしました。

すでにかなり落ち着いており、まもなく薬も切って行けるでしょうとお伝えしました。

それから次のお返事を頂きました。やはりコミュニケーションは大切ですね。

 

**********患者さんからのお便り続編***********

 

米田正始先生

早過ぎるご返信に驚くと共に、本当に恐縮しております。
先生のお言葉を頂いて、不安が全く無くなりました。

妻も心配が一気に吹き飛び、今朝から意欲的に動き始めております。

深夜3時ごろにご返信を頂いているようですが、先生を寝不足にさせてしまったのではないでしょうか。

入院中にしっかりお聞きしなかったこちらの不手際で、米田先生にお手数をおかけして本当に申し訳ございません。

これほどまでに患者を気遣ってくださる先生のような方に巡り合うことができて、私たち夫婦は本当に幸せ者です。

妻からの感謝は、また改めてお伝えさせていただきます。

本当にありがとうございました。

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執筆:米田 正始
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新しいポートアクセス法・MICSによる大動脈弁置換術—さらに快適に、きれいに

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◾️ポートアクセス法のミックス

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ミックス手術(MICS手術、低侵襲小切開手術)が心臓外科の領域でも注目を集めています。なかでもポートアクセス法による心臓手術は小さな創で骨も切らないため、苦痛が少なく、社会復帰も早く、患者さんに喜ばれています。

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これまでポートアクセスMICSといえば僧帽弁形成術僧帽弁置換術三尖弁形成術心房中隔欠損症ASD、さらに左房粘液腫MICS3右房粘液腫などに用いて参りました。

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図の左図の赤い点線が通常の胸骨正中切開での創で、右図の赤い点線がMICSでの創です。

患者さんにかなりやさしい手術になったことがお分かり頂けるかと思います。

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◾️ポートアクセス法のミックス、大動脈弁置換術でも

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一方、大動脈弁置換術については、これまでの右前胸を小さく切るタイプのポートアクセス法MICSが一部の施設で試みられているだけで、それほど普及していません。

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右下図の真ん中の図でお示しします。

これまでの大動脈弁ミックスそれは視野が限られ、熟練した心臓外科医でないと手術が安全にこなせないからです。

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個人的には右の前の創は比較的目立ち、それも乳腺より上のため僧帽弁形成術のときのポートアクセスMICSほどきれいな仕上がりとは思えないからです。

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そこでこれまでは胸骨の下半分を切って行うミックス手術を大動脈弁手術には主に使ってきました。右上図の右端でお示しする方法です。胸骨下部部分切開(英語でLower Hemisternotomy)と呼ぶこの方法は「夏服が着れる」つまり夏服でも創が目立たないこと、そして通常の胸骨正中切開より痛みが軽く仕事復帰もやや早いため喜ばれて来ました。

しかしこの方法では胸骨を部分的とはいえ、切開しますので、やはりポートアクセス法MICSの良さには及びません。

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◾️腋窩下部アプローチのミックス大動脈弁置換

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新しいポートアクセス法そこで登場したのが右側の腋窩(えきか、つまりわきの下です)で小さく切開する新型ポートアクセスMICSです。

左図の赤い点線が創を示します。ちょうど筋肉(大胸筋)の後ろ側で、筋肉をうまく避ける形で、陰に隠れるような位置に創があります。右腕をまっすぐ下せば腕で隠れるほどの位置です。女性では乳腺を避けることができ、乳腺の下・外側になります。

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これによって骨をまったく切らず、痛みも少なく、かつ仕事復帰も早い心臓手術が大動脈弁にもできるようになりました

小さい「窓」(ポート)越しに手術しますので、視野が限られます。そこでいっそう、熟練した心臓外科医が行うことが重要です。

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右写真はこの新しいポートアクセス法 高橋徹さん2bMICS
で大動脈弁置換術を受けられた患者さんの創部を示します。術後1か月ですが、正面からはあまり創が見えませんし、痛みも少なく、心臓リハビリも進み合併症の予防にも役立っています。

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現在のところ、安全優先のため、おもに時間的に余裕のある大動脈弁置換術をこの方法で行っています。

患者さんの体型や太り具合、大動脈弁の位置や方向によってはこの腋窩アプローチは不利なこともあり、その場合は上図真ん中の右前小開胸を行うこともあります。

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◾️今後の展開

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大動脈弁形成術や自己心膜による大動脈弁再建術(形成術)はかつては上記の夏服が着れるMICSで行ってきましたが、熟練度がさらに上がりこの4年ほどは時間的に余裕が見込める大動脈弁形成術をポートアクセスMICSとくに副次創が少ないLSH法にて行い、ルーチン手術になりつつあります。

日々進化する心臓手術の恩恵が、安全に、患者さんに届くよう、これからも努力を続けます。

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患者さんの想い出はこちら:

 

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  ハートポートとは
  
  位置づけ
  
  前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?
  
  ミックスは危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  

大動脈弁

  ミックスによる弁置換

  ミックスによる弁形成

  ミックスでのデービッド手術

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成術を受けた若者患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

お便り71: 同法で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術を同法で受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動を同法で克服

お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

 

 

 

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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お便り87: ミックス法で自己心膜の大動脈弁形成術(再建術)

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比較的お若い患者さんの大動脈弁閉鎖不全症大動脈弁狭窄症に対してはこれまで機械弁をもちいた大動脈弁置換術が一般的でした。

A335_007しかしそれでは一生涯、ワーファリンという血栓予防のお薬が不可欠で、毎月、一生涯病院に通って検査を受け、薬の量を調整する必要があります。

それを避けるため生体弁を若い患者さんに使うことは増えましたが、その場合は将来何度か再手術を受ける必要があるという問題が残っていました。

これを解決すべく開発されたのが自己心膜による大動脈弁形成術(別名・大動脈弁再建術)です。

以下の患者さんはこの自己心膜大動脈弁形成術を受けて元気になられたかたです。

それも小さい創のミックス法で行いました。

比較的遠方からお越し頂いただけのものが提供できてうれしく思います。

これから永い間、のびのびと楽しく、くらして頂ければ幸いです。

**********患者さんからのお便り**********


拝啓

先生 この度は色々お世話になりありがとうございました。

2月13日に手術して頂き、約40日経過し、主人も大分普段の生活に戻りつつあります。

入院中は皆様に本当に良くして頂き、名古屋ハートセンターに決断して、夫婦共々つくづく良かったと思っております。

2月22日の退院の時には出張されていて御礼を申し上げる事が出来ませんでしたが、3月19日の診察の時、お会いする事が出来、主人も喜んでおりました。

そして、9月頃より奈良高の原でハートセンター開院のお話しをして下さり、有難い限りです。

自宅からは車で一時間弱で行ける距離だと思いますので、是非高の原での診察を望んでおります。

次回、名古屋ハートセンターの予約は8月ですが、主人の体調さえ良ければ、9月に延ばしてでも先生に診て頂けたら有難いです。

これから先、先生の「心臓外科手術情報WEB」等、注意しながら見、診察予約できる日を確認したいと思っていますので、これからも引き続き宜しくお願い申し上げます。
一番最初の問い合わせメールの件、(一時間で返信して下さいました)そして今回、前もって高の原開院の件をお話しして下さった事を、先生の御実家近く?の**病院に職員として勤務している娘に話しましたら、本当に親切な先生だと感動していました。

勿論私達夫婦も感謝に堪えません。
では、9月頃に受診させて頂く日、楽しみにしております。

敬具
平成25年3月25日

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