事例 エプシュタイン病

Pocket

患者さんは 52歳女性で、

エプシュタイン病三尖弁閉鎖不全症 TR心房中隔欠損症ASD、心不全、発作性心房細動 PAF)のためチアノーゼとクラス4度の強い心不全があり、ハートセンターへ来院されました。

 

術前は三尖弁が無いのと同じ状態で右室と右房が一体化し、肝臓がうっ血し肝機能不全を起こし始めていました。

また左室が極度に小さく巨大右室と対照的な状態でした。

幸い肺高血圧はありませんでした。

 

1_22  手術時の所見として、心臓は高度に拡張し

(写真左)、

右心室は高度に拡張し、

とくにエプシュタイン病に特異的な下壁部は瘤状に拡張していました(写真右)。

3_asd4体外循環・大動脈遮断下に右房を切開しました。

まずASDをゴアテックスパッチにて閉鎖しました

(写真左)。

三尖弁は典型的なエプシュタイン病のそれで、

弁輪が右室側に4cmあまり移動し、弁輪拡張著明で前尖と後尖はかなり大きく、

中隔尖は左1/3のみ作動し残りは右室中隔壁に張り付き固定した形で機能を失っていました(写真上右)。

5そこで後尖を右室付着部から切断し、さらに前尖の後尖側半分まで切断を進めました。

中隔尖の固定部は切断さえできない、弁が廃絶した形でしたので触らず、まだ機能を残す左1/3を残りの中隔尖から切り離しました。

ここで右室の心尖部近くまでを観察し、異常に拡張・ひ薄化した右室瘤とでもいうべき部分を内側から縫縮しました(写真左)。

67_tap右室から前尖の左側以外を外した三尖弁を組立て、

Cone状になった三尖弁を本来の三尖弁輪に縫着しました

(写真左、だいぶ弁らしくなりました)。

刺激伝導系を温存し房室ブロックを予防しました。硬性リングで三尖弁輪形成を行いました(写真上)。

89

冷凍凝固を用いた右房メイズ手術を行い、

さらに峡部を冷凍凝固アブレーションし(写真左)、

AFなどの発生をできるだけ予防するようにしました。右房を縫縮閉鎖し体外循環を離脱しました。

心臓はポンプ前と比べて格段に縮小しました(写真上右)。

 

離脱当初は右室不全所見がありました。

この患者さんでは左室が機能良好ながらその直径が30mm以下とかなり小さいこと、エプシュタイン病に特有の右室から右室機能は低下していることなどから、右室は右室形成と三尖弁形成、左室は頻脈気味にして一回拍出量の不足を数で補うようにし、さらにカテコラミン類を追加することで安定しました。

 

血行動態・全身状態とも次第に安定し術後2日目に一般病室へ退室されました。

術後はチアノーゼ消失し、二階まで登るレベルに運動能は改善し、2週間で退院後、さらに心臓リハビリに精を出しておられます。

週術前にはほとんど存在しなかった三尖弁は機能するまでに改善しましたがなお多少の逆流があり薬で治療しています。

 

50歳代のエプシュタイン病の手術は相対禁忌という意見もあり、慎重に治療すべきですが、

座して死を待つ(心不全や肝不全などが迫っていました)よりも、勝ち目のある手術を最も良い状態で行うのも意義あることと考えています。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

4) エプシュタイン病 へもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

3b) 心不全の手術について――ネバー・ギブアップ【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月15日

.

◆ 心不全とは?

.

心不全とは、心臓が十分に血液を全身に送り出せなくなる状態を指します。
原因はさまざまで、「病名」というよりは**症候群(いろいろな病気の結果として起こる状態)**です。心不全とは心臓が十分動けなくなる危険な状態です

  • 収縮機能不全:心臓がしっかり収縮できない

  • 拡張機能不全:心臓がうまく拡がらず血液を受け入れられない

  • 左心不全(左心房・左心室が原因)と右心不全(右心房・右心室が原因)があり、しばしば両方が合併します

心不全は進行すると命に関わる重大な病気ですが、原因に応じた治療を行えば改善できるケースも少なくありません。

 . .

◆ 心不全の治療 ― 薬だけではない

.

従来、心不全の治療といえば薬物療法(利尿薬、強心薬、点滴など)が中心でした。
しかし現在では、外科治療(心臓手術)も心不全治療の重要な選択肢です。

心不全の原因に応じて、治療法は大きく異なります。

 .

◆ 心不全に対する外科治療(手術)

.

オフポンプ冠動脈バイパス手術の出来上がり図です1. 冠動脈疾患が原因の場合

.

 

重症心不全の中には外科手術で改善できるものがあります2. 弁膜症が原因の場合

.

3. 心筋症が原因の場合

  • 左室形成術で拡大した左室を正常に近い形へ戻す

  • 2014年に私たちが開発した心尖部凍結型左室形成により、従来より成績が改善

  • 合併しやすい僧帽弁閉鎖不全症にはMクリップや弁形成術PHO法を追加

👉 症例によっては、弁形成のみで改善が得られる場合もあります。

 .

4. さらに重症の場合

薬やカテーテル治療、手術でも改善が難しい場合は、

  • 補助循環(VAD)

  • 心移植

といった先進治療が必要になります。
私たちは移植センターや大学病院と連携し、必要に応じて治療を橋渡ししています。

 .

◆ まとめ ― 諦めないでください

.

心不全は「もう治らない」と言われがちですが、外科治療で改善できるケースは確実に存在します

  • 薬など内科的治療だけでは限界のある部分を手術で補う

  • Mクリップ、弁形成術、左室形成術、バイパス術などを組み合わせて最適化

  • 補助人工心臓や移植を含め、ハートチームで総合的に判断

私たちが開発した新しい手術により、多くの患者さんが「仕事復帰・日常生活復帰」を果たしています。

心不全=終わりではありません。
ネバー・ギブアップ。まずはご相談ください。

.

患者さんの想い出はこちら:

.

.

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

心筋症・心不全 へもどる

4. 虚血性心疾患

1.弁膜症< へ

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 肺高血圧症をともなう成人の心房中隔欠損症ASD

Pocket

患者さんは 55歳男性。

1心房中隔欠損症 ASD三尖弁閉鎖不全症 TR

そして血圧の3分の2に達する高度な肺高血圧症と動悸(複数の種類の不整脈が出ていました)のためハートセンターへ紹介・来院されました。

よくここまで我慢されましたねと思えるほどの状況でした。

 

胸骨正中切開ののち心膜を開けますと右心系は著明に拡張していました(写真左)。

見渡す限り右心系(つまり右房と右室)という所見で、長年の右心への負荷を示すものでした。

 

体外循環・大動脈遮断下に右房を切開(メイズ切開)しました。

2_asd 3_asd心房中隔欠損症 ASDは大きめで、40 x 25 mmのサイズがあり、単心房に近い血行動態でした(写真左)。

これを自己心膜パッチを用いて閉鎖しました(写真右)。

 

術前に動悸を訴えられていたことと、右房の高度な拡4  6_tap張があったため、

三尖弁輪―冠静脈洞―IVCを結ぶ峡部を冷凍凝固でアブレーションしました(写真左)。

ここで大動脈遮断を解除し、心拍動を再開しました。

三尖弁は弁輪の拡張が著明でしたが、弁葉にはとくに問題がないため心拍動下にリングをもちいて三尖弁形成術を施行いたしました(写真上右)。

逆流がないことを確認してから右房を縫縮しつつ閉鎖しました。

エア抜きののち、体外循環を容易に離脱しました。
経食エコーにて心房中隔欠損症ASDでのシャントの消失とTRの消失および良好な心機能を確認しました。

肺動脈圧は血圧の4分の1にまで改善しました。入念な止血ののち、無輸血で手術を終えました。

右房が小さくな7り、心膜腔にはかなりの空きスペースができました

(写真左、黒い部分は一時的ペースメーカーのケーブルです)。

 

術後経過は順調で出血も少なく、血行動態も安定し、翌朝一般病室へ戻られました。

術前からの不整脈のためしばし薬で治療し、軽快ののち退院されました。

 

心房中隔欠損症ASDは放置すると命にかかわる重症になり得る病気です。

健診などでこの病気を指摘されたら、まよわずまず専門家にご相談下さい。

一部の施設では最近はポートアクセス法ミックス手術、MICS)にて小さい創での手術が可能となっています。

私たちも少ない苦痛と早い社会復帰を考えて積極的にこの方法をもちいています。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

3) 心房中隔欠損症(ASD)へもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

IHSS(HOCM)の手術事例 2

Pocket

患者さんは59歳女性です。息切れを強く訴えておられました。

大動脈弁下狭窄症 (IHSS)(別名HOCM 閉塞性肥大型心筋症)大動脈弁狭窄症のためハートセンターへ紹介・来院されました。

発作性心房細動という頻脈発作をよく起こされ、手術まえにも何度も救急外来へ来られるという状態でした。

この病気はときに肥大型閉塞型心筋症HOCMと紛らわしいことがあります。

1

ともあれこのままでは患者さんは仕事や生活もままらなず、突然死の危険さえあるため手術することになりました。

体外循環・大動脈遮断下にまず左房を開けました。

左房は正常サイズでしたので、冷凍凝固を用いたメイズ手術を施行し(写真左)、左房を閉鎖しました。

写真は僧帽弁輪周囲部を治療しているところで、この部の治療の有無が重要というデータがセントルイスのグループから発表されています。

Aここで上行大動脈を切開しました。

大動脈弁は3尖で硬くなっており(写真左)、弁および石灰を摘除しました。

大動脈弁そのものの狭窄(狭くなること)も手術が必要なレベルでしたが、それ以上に弁の下、つまり左室の出口付近が狭くなっていましたので、異常に張り出した心筋を切除することにしました。

Ihss大動脈弁輪ごしに左室流出路を観察しました。

異常心筋の張り出しが著明でした(写真左)。

写真で左室の出口の大半が異常心筋で覆われ、普通なら見える左室内部がほとんど見えません。

写真で左室の出口の下半分に見えているのは僧帽弁前尖です。

Ihss_2トロントのウィリアムズ先生直伝の方法(モロー手術の変法)で、異常心筋を切除しました。

左室の出口にあった異常心筋の張り出しは、心筋の切除のあとは大きく減り、奥の方に僧帽弁や乳頭筋が見えるまでになりました。

つまりそこではもう狭さくはないわけです。

このIHSS(HOCM)の異常心筋の切除に際しては、刺激伝導系(心臓内の神経)に注意しつつ、そこには触れないよう距離を置きました。

合計10x30x8mmの心筋を切除できました。深い部位の作業でしたが腱索・乳頭筋などへの損傷はありませんでした。

Avr生体弁(ウシ心膜弁)を用いて大動脈弁置換を行いました(写真左)。

人工弁越しに左室がよく見えるようになりました。

また人工弁はこの患者さんのご体格では十分ななサイズを満たしていました。

心拍動下に右房をメイズ切開し、冷凍凝固をもちいて右房Photoメイズ手術を施行しました。(写真左)

手術の後、経食道エコーにて大動脈弁(人工弁)には問題なく、

左室流出路の狭窄は大きく減少し、僧帽弁にも異常なく、血行動態も良好でした。

術後経過は順調で元気に退院されました。

手術前に頻発し患者さんを苦しめた不整脈発作は術後は出なくなり解決しました。

 

このIHSSに対する異常心筋切除術は患者さんの安全やQOL生活の質の向上におおいに役立つのですが、日本ではこの手術の経験が豊富なチームが少なく、遠方からも患者さんが来られます。

IHSSはかなり安全に治せる病気ですのでご相談いただければと思います。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

IHSSのページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 心室中隔欠損症と大動脈弁閉鎖不全症

Pocket

患者さんは30台後半の男性。

健診で心室中隔欠損症VSD大動脈弁閉鎖不全症を指摘されハートセンターへ来院されました。

1心室中隔欠損症は I 型と呼ばれる心室中隔の高い部位に発生したもので、

その欠損(穴)に大動脈弁が落ち込んで次第に大動脈弁閉鎖不全症が発生してきていたため手術になりました。

体外循環・大動脈遮断下に主肺動脈を切開し、

肺動脈弁ごしに心室中隔欠損症にアプローチしました(写真左)。

2_vsd予想どおり、大動脈弁の一部が穴を覆い、

一見心室中隔欠 4_2損症の穴は小さくなっているように見えましたが、

実際には大動脈弁が徐々に壊れ始めているという所見でした

(写真左と右)。

そこで穴の周囲の筋肉組織や肺動脈弁の付け根のしっかりした組織を活用して糸をかけ、

ゴアテックスのパッチを縫いつけ、穴を閉じるとともに、

大動脈弁を守るようにしました(写真上右と下)。5_vsd

実際手術前には心エコーにて大動脈弁の一部が少し穴に落ち込み、

軽 い大動脈弁閉鎖不全症が発生していたのが見えていました。

それらが手術の後には治っていました。

もし必要なら大動脈弁の形成手術も準備してはいましたが、そうするまでもなく、きれいに治りました。

手術後、心室中隔欠損症は消え、大動脈弁も肺動脈弁も正常でした。

 

このタイプの心室中隔欠損症は時間とともに大動脈弁の閉鎖不全(逆流)という新たな病気が発生してくるため、通常はこどもの間に手術することが多いのですが、何らかの理由でその時期を逸し、大人になって手術を受けるケースが現在もちょくちょくあります。

 

健診などで心雑音を指摘されたら一度は心臓専門医に念のための診察を受けられるのが安全上、勧められます。

大動脈弁の破壊が高度になりますと人工弁が必要となり、その場合はワーファリンを一生飲む必要が生じるなどのリスクが出てきます。

やはり予防や早期治療が有利です。

なお当時は普通の創で手術しましたが、現在はミックス法にて約10cmの小さい創で手術することが多くなりました。患者さんの心の傷もより小さくなればと思います。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

心室中隔欠損症のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

6. 成人先天性心疾患―こどもの病気ですが大人にまで持ち越されると 【2022年最新版】

Pocket

最終更新日 2022年1月15日

1. はじめに

先天性心疾患つまり生まれた時からの心臓病は手術などの治療法が進歩し多くの患児たちが元気になり、立派な社会人として生活できるようになりつつあります。
先天性心疾患の手術や治療は全国のこども病院が主な舞台になって来ており、重症の患児は必要におうじてより小さい時期たとえば新生児や乳児の段階で病気を治す方向にあります。

しかし心臓の病気をこども時代に直しても、その後の人生で心臓に疲れや問題点が出てくることが少なくありません。
だからこそ、成人先天性心疾患としての長期間にわたるフォローアップや治療が大切なのです。
私たちはこの成人先天性心疾患にもちからを入れ、毎年多数の患者さんを全国から受け入れています。

成人先天性心疾患について何かご心配なおりにはいつでもご連絡・ご相談下さい。

ご連絡・ご相談はこちら

2. 先天性心疾患について

私どもは大人の患者さんのための病院ですのでここでは主に15歳以上の大人あるいはそれに近い状況の患者さんの先天性心疾患とその手術・治療について解説します…

続きを見る

1. もう一つのミックス(傷跡が見えにくい心臓手術)

医学的理由でミックスができない時でも、早い仕事復帰、クルマ運転復帰ができています…

続きを見る

3. 大動脈弁疾患(二尖弁など)

近年、大動脈二尖弁に対する認識が高まったこともあってか、大動脈二尖弁を背景とした大動脈弁膜症の患者さんが弁形成術を求めてよくご来院されるようになりました。
右図の右側が二尖弁の大動脈弁です。

二尖弁そ のものは病気とは言えないのですが、病気になりやすい傾向はあり、注意が必要です。
また近年の研究の結果、大動脈疾患としての病気の本態も解明され、大動脈瘤や解離になりやすいのです。

この観点からのフォローも大切です…

続きを見る

左側が三尖の大動脈弁、右側が二尖の大動脈弁です

1. ミックス手術

1. ミックス手術(MICS、低侵襲小切開 手術、ポートアクセス)による大動脈弁形成術大動脈弁置換術

自己心膜による大動脈弁再建(形成)術

右図の左は通常の正中切開、中はMICS、右は正中のMICSの創です。赤い点線で示しています

4. 僧帽弁疾患

先天性の僧帽弁疾患も少なからずあります。
先天性僧帽弁閉鎖不全症や狭窄症などですね。

他の疾患たとえば共通房室弁などと合併することもあります。
経験豊かなチームであれば多くの場合、弁形成ができ、患者さんのライフプラン設計に大きな利点があります…

続きを見る

1. ミックス手術

ミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術、ポートアクセス)による僧帽弁形成術僧帽弁置換術

痛みを軽減し、からだの創とこころの創を小さくし、早い学業復帰や仕事復帰を図ります

こどもの頃に僧帽弁手術を受けた方に

左側が通常の正中切開で傷跡の長さは25cm、右側がMICSの傷跡で長さは6cmです

5. 心房中隔欠損症(ASD)

先天性心疾患の代表例の一つである心房中隔欠損症は放置すれば成人してから、さらには中高年になればさまざまな問題を引き起こします。
中でも不整脈を合併し、心臓内に血栓ができ、それが脳に飛んで脳梗塞になるのは恐ろしいことです。
それは的確な手術によって避けることが可能です…

続きを見る

ASDのアスリートの手術をさせて戴いたことも何度かあります。心臓が大きくなって支障をきたしていました。最近では野球少年の手術をミックスで行いすぐ元気に学校生活や運動に戻られました。

1. ミックスによる心房中隔欠損症の根治手術

これによって、より苦痛が少なく、より早い社会復帰ができるようになりました…

続きを見る

2. 心房中隔欠損症の治療

心房中隔欠損症の治療、アンプラッツ法?ポートアクセス法?
正しい適応で最良の結果を

6. エプシュタイン病

エプシュタイン病はさまざまな重症度があり、中には成人してから次第に症状が出てくるかたもあります。
不整脈を起こしやすいことでも知られています。
心エコーで苦痛なく診断はつきますので疑いありと言われれば早目に専門医の診察を受けて下さい。
手術ではエプシュタイン病の中身のひとつひとつを治せる可能性大きいです。
心房中隔欠損症ASDや三尖弁はもちろん、WPW症候群や心房細動などの不整脈などが治療の対象となります…

続きを見る

1. MICSで行うコーン手術

エプシュタイン病の三尖弁形成術の成功率を飛躍的に高めたコーン手術を改良したものです。傷跡が見えにくく早く仕事に復帰できるため今後患者さんのお役に立てるでしょう…

続きを見る

7. 心室中隔欠損症(VSD)

心室中隔欠損症(略称VSD)もよくある先天性心疾患です。
自然に閉じるタイプもありますが、中には大動脈弁の逆流を誘発し弁膜症を合併するタイプもあります。
状況によってVSDのみ治すだけで十分なタイプから大動脈弁も形成術で治すタイプまであります…

続きを見る

1. 心室中隔欠損症に対するミックス手術(MICS手術)

できるだけ患者さんの肉体的・精神的負担を減らすために。右小開胸ポートアクセスで安全に手術できることが増えました…

続きを見る

8. 動脈管開存症(PDA)

動脈管開存症も動脈管が細めのときなどには大人になって症状があきらかになるタイプもあります。
感染性心内膜炎(IE)にもなりやすい傾向があります。

心臓への負担は少なくないことが多いため、PDAと言われたら早目に専門医に相談されるのを勧めます…

続きを見る

9. 肺動脈弁狭窄症(PS)

肺動脈弁が狭くなる肺動脈弁狭窄症は軽度であれば症状も軽く大人になってから次第に問題が出てくることがあります。

多くの場合、弁形成術で治せますので意義は大きいです…

続きを見る

10. 右室二腔症

右室二腔症は右室の中に筋肉が異常に発達して右室がほぼ二つに分かれる状態です。くびれが強いひょうたんのような形になります。その異常筋肉の部分がうんと狭くなり、血液が流れにくくなると危険な状況となることがあります。

とくに中高年ではその狭さが極端になり突然死の危険があることもあります。

経験あるチームなら手術で治せる病気ですので、放置して大 事に至るのは残念なことです…

続きを見る

1. 右室二腔症に対するミックス手術

この病気でも創が小さく痛みも少ないミックス手術ができます。安全性を確保しつつ、手術のメリットが大きくなるようにしています…

続きを見る

11. 左室緻密化障害

左室緻密化障害は比較的最近になって理解が進んだ病気です。
それ自体は心筋症・心不全になったり、血栓が左室内にできてそれが全身に飛んで問題になることが 知られています。
外科手術で病気の本質つまり左室筋肉がスポンジのようにすきまだらけで血栓ができるというのはかなり治せますし心不全も拡張した左室なら治せます。
その一 方治しづらい状態のときもあり、主治医と密な相談が必要です…

続きを見る

12. 特発性拡張型心筋症

この特発性拡張型心筋症も難病と言われる病気です。
しかしただ難病として手をこまねいていてはいけません。完全に解決はできていなくても治せる部分があるからです。手術を低侵襲化つまり患者さんに優しい短時間手術に改良しています…

続きを見る

13. バルサルバ洞瘤

バルサルバ洞は大動脈弁のついている付近の大動脈のふくらみ部分を指します。
ここが瘤つまりこぶのようになって右房などに突出し破れるととつぜん心不全で倒 れることがあります。
またこのバルサルバが外側へ向いて大きくなると心臓の周囲へ破裂すれば危険ですし、大動脈弁の形がゆがんで弁が逆流すると心不全になります。
マルファン症候群などの場合におこりやすいです。いずれの場合でも手術で治せる病気です。
とくに大動脈弁が壊れ始めたらあまり変化が強くないうちに弁形成術・自己弁温存手術で治すのが有利です…

続きを見る

1. バルサルバ洞破裂に対するミックス手術(MICS)

手術経験の蓄積によって創が小さく夏服が着易いミックス手術ができるようになりました…

続きを見る

14. 冠動脈ろう

冠動脈は心臓に血液を送る大切な動脈ですが、これが何らかの原因で静脈や右心房などの圧の低い部屋に交通(冠動脈ろう)したり、瘤(こぶのような形)になる ことがあります。
これらの病気では心臓の筋肉に血液が十分届かないため狭心症になったり、血栓ができてそれが動脈を詰めると心筋梗塞になり危険です。
いざ必要となれば 手術等で治せる病気ですのでまず状態を正確に把握することが大切です…

続きを見る

1. 冠動脈ろうのミックス手術

冠動脈ろうの手術の大半は体外循環を使わないオフポンプで行いますが、それをなるべく小さい創で行うようにしています。早い社会復帰とこころの創を小さくするのに役立っています…

続きを見る

15. 冠動脈瘤

上記の冠動脈ろうに合併することもありますが、瘤つまりこぶが単独で発生することもあります。
心筋梗塞や瘤破裂で死に至ることもあり、定期検診や早期発見が大切です。とくに川崎病の既往のある方は油断なきようにお願いします…

続きを見る

16. 肥大型閉塞性心筋症 HOCM

別名IHSS、特発性肥厚型大動脈弁下狭窄症は重くなれば突然死の危険もある病気です。
中には後天性と思われるものも見られます。
ともあれ失神発作や僧帽弁の逆流などを合併すれば積極的に治療することが必要となります。
軽症であればカテーテルで治療できることもよくあるのですが、重症や治りにくいタイプでは手術が活躍します。
手術は職人芸的な一面があり、慣れた術者が手術すれば確実に、かつ安全に治せます…

続きを見る

1. HOCMに対するミックス手術

手術後の痛みの軽減や早い回復に役立っています。創が目立ちにくいのもこころの負担を軽くするようです…

続きを見る

2. 左室中部狭窄によるHOCM

近年話題です。一般に手術が難しいと言われますが、私たちはMICS技術を応用して解決し、小さい傷跡で行けることが増えました…

続きを見る

3. 心尖部肥大型HCM

肥大型心筋症の特殊なタイプですが、お薬だけでは突然死が意外に多く、要注意です。エキスパートによる心臓外科手術で治せるようになりました。左室形成術の経験が役立っています…

続きを見る

17. 修正大血管転位症

修正大血管転位症にはさまざまなタイプがあり、こどもの時期に付随病変たとえば心室中隔欠損症VSDや肺動脈弁狭窄症PSなどを手術することも多いのですが、それらが強くなければそのまま、あるいは診断がつかない形で治療もフォローも受けない形で年月が経過することもあります。

しかし年齢とともに心不全や 三尖弁閉鎖不全症などが悪化することが知られています。
そのままでは予後不良ですが、拡張型心筋症の手術や治療の経験を加味すればかなり有効な手が打てるものです…

続きを見る

1. 修正大血管転位症にともなう三尖弁閉鎖不全症に対するMICS

より良い心機能と生活の質を目指して…

続きを見る

18. 三心房心

三心房心には異常隔壁と穴の位置や心房中隔欠損症などの状態により、さまざまなタイプがあります。
右図はその一例です。
症状が強いときや心臓への負担が大きい場合には手術が必要となります。
成人期では心房細動などの二次的問題が発生することもあります。
熟練チームであれば安全な心臓手術が可能です…

続きを見る

19. ファロー四徴症

成人になってから根治術を行うことは少ないですが、こども時代に根治術した部位が成長とともに悪化したり、ケースによって人工血管や人工弁が狭くなり付け替えが必要になることがあります。
また右室などの心筋が肥大して再狭窄を起こしたときなどにも追加手術が必要となることがあります…

続きを見る

20. 参考1:川崎病(略 称MCLS)

川崎病(略 称MCLS)は後天性の冠動脈瘤や冠動脈疾患(重症では心筋梗塞や死亡)を合併する病気ですので、先天性心疾患ではありません。
ただこどもの時期に起こる病気ですので、注意が必要です。そして10代さらに大人になってからも、定期健診は有益です…

続きを見る

写真:故・川崎富作先生です

21. 参考2:病診連携講演会

病診連携講演会の一部です。マルファン症候群と成人先天性心疾患の解説を簡単に行っています。医療者向けです。音声が小さいため字幕をつけました。ご参考になれば幸いです。ちかぢか一般の方向けをUpします。

心臓手術のお問い合わせはこちら患者さんの声はこちら
Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

12) 肥大型閉塞性心筋症 HOCM―突然死に注意、しかし治せる病気です 【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月10日

.

■HOCMとは?

図4 IHSS日本語

肥大型閉塞性心筋症(Hypertrophic Obstructive Cardiomyopathy:HOCM

、別名 IHSS 特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症) は、左心室の出

口付近(流出路)が心筋の肥厚によりトンネル状に狭くなる病気です。

.

.

主な症状

  • 運動時の息切れや動悸

  • 胸痛

  • 失神発作

  • 病状が進むと突然死のリスクも

軽度であれば経過観察や薬物療法で対応できますが、重症化すると左室の出口が「蓋をされたように」塞がり、強い心不全や致死的不整脈を起こす可能性があります。

 .

■HOCMの外科治療

異常心筋の形態に応じて治療法が選択されます。

  • 膜様の狭窄 → 膜の切除+周囲の異常心筋を除去IHSS術前後エコー

  • 繊維筋症による狭窄 → 広範囲の心筋切除(モロー手術:Morrow procedure)+必要に応じて僧帽弁形成

.

手術効果(症例画像より)

  • 術前:心室中隔の肥厚とSAM(僧帽弁前尖の収縮期前方移動)で流出路が狭窄

  • 術後:左室流出路が広がり、僧帽弁の動きも正常化

.

■カテーテル治療(PTSMA)の位置づけ

経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)では、冠動脈からアルコールを注入して異常心筋を縮小させます。

ただし課題もあります:

  • 冠動脈と肥厚部位の位置が合わないと効果が不十分

  • 過剰焼灼で壁が薄くなりすぎる可能性

  • 約10%で完全房室ブロック → 永久ペースメーカーが必要

したがって症例ごとの適応判断が重要です。

.

■HOCMに見られるSAMとは?

SAM(Systolic Anterior Motion:僧帽弁前尖収縮期前方移動) はHOCMでよく見られる現象です。

血流が僧帽弁前尖を吸い込み、弁が閉じなくなるため僧帽弁閉鎖不全を引き起こします。
これは異常心筋による構造的問題であり、心筋切除術によって弁の動きが自然に改善することが多いです。 (事例1 )

.

Williams pic
ウィリアムズ先生は先天性心疾患の外科で世界的に高名な心臓外科医ですが、優れた教育者としても知られています.

.

A307_116当院の経験と手術技術

  • トロント総合病院 Prof. W.G. Williams (右)直伝のモロー手術を継承

  • 術前シミュレーションに基づく設計 → 狭窄の完全解除、再発ほぼゼロ

  • 日本国内外での発表・学会報告を通じて技術を研鑽

  • 高齢者から若年者まで幅広い症例に対応

これまでに多くの患者さんが息切れ・胸痛・失神発作から解放さ

れ、社会復帰されています

.

■日本の現状と課題

193237727.

残念ながら、HOCMの認知度は低く、循環器内科医でも十分な対応ができないケースがあります。

  • 失神発作を放置 → 心内膜炎から脳梗塞・死亡に至った例

  • 「治せない病気」と説明されたが、外科手術で改善できた例

👉 専門性の高い心臓外科医による評価と経験豊富なチームでの手術が不可欠です

.

■今後の展望

  • 技術の進歩により、左室流出路だけでなく心室中部・心尖部まで安全に形成可能

  • 必要に応じて大動脈弁狭窄症や不整脈(心房細動)などの合併症も同時に治療(事例2 へ)

  • 患者さん一人ひとりに合わせた包括的な手術戦略が可能になっています

■まとめ

  • HOCMは突然死を起こし得る重い病気

  • しかし、熟練した専門チームによる外科治療で改善できる病気です

  • 息切れ・胸痛・失神などの症状がある場合は、早めに専門医へご相談ください

 .

患者さんの想い出

.

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

HOCMの手術ガイドライン

心筋症・心不全のトップページにもどる

先天性心疾患の扉ページにもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

11) 冠動脈瘻(ろう)―心不全・感染などが起こるまでに、、【2025年最新版】

Pocket

最終更新日 2025年9月17日

.

◆ 冠動脈瘻とは?

.

冠動脈瘻(かんどうみゃくろう) とは、心臓の冠動脈に異常な血管(瘻)ができ、本来とは違う経路で血液が肺動脈や右心房など圧の低い部位に流れ込んでしまう病気です。
正常な血流が「ショートカット」されてしまうため、心臓に十分な血液が届かず心不全や狭心症に似た症状を引き起こします。

.

◆ 発生の原因

Fotosearch_CAR05007.

冠動脈瘻は多くの場合、胎生期(お母さんのお腹の中)に存在していた血管の名残 が原因です。
胎児の心筋に血流を送っていた海綿状組織が冠動脈と異常につながることで発生します。

  • 生まれつき存在することが多い

  • 青年期以降に異常血管が拡大することもある

  • 約3割の患者さんで 冠動脈瘤(こぶのような拡張) を合併

検査(冠動脈造影)で見つかる頻度は 0.2%程度 と比較的まれな病気です。

.

◆ 症状と合併症

.

術前CT冠動脈瘻を通る血液の量(シャント量)が多いと、次のような症状が出ます:

.

  • 息切れや動悸などの 心不全症状

  • 心筋への血流不足による 狭心症様の胸痛

  • 感染性心内膜炎の合併

  • 冠動脈瘤の破裂による突然死の危険

.

血液が「漏れる」だけでなく、本来冠動脈を流れるべき血流が奪われるため、心筋の酸素不足(虚血) も問題になります。(手術事例 冠動脈瘤)

.

◆ 診断方法

.

  • CT検査:異常血管の位置や範囲を可視化CAVFyn1

  • 心エコー:血流の異常を確認

  • 冠動脈造影:詳細な血流の経路を評価

必要に応じてMRIや心臓カテーテル検査を行い、心筋虚血や心不全の有無を判断します。

.

◆ 治療法 ― カテーテル治療と手術

.

● カテーテル治療

コイルやプラグを用いて瘻を閉じる方法です。

  • 低侵襲で体への負担が少ない

  • 軽症例に有効
    ⚠️ ただし、血管がもろい場合は破裂のリスクもあり注意が必要です。

.

● 外科手術

カテーテル治療が難しい場合や重症例では手術を行います。

  • 瘻の 入口と出口を縫合閉鎖

  • 必要に応じて瘤全体を閉鎖

  • オフポンプバイパス(人工心肺を使わない方法) による低侵襲手術も選択可能

近年では、MICS(小切開低侵襲手術) による冠動脈瘻閉鎖も行っており、術後の痛みが少なく社会復帰が早い点がメリットです。

.

◆ 私たちの手術の工夫

.

  • 9-27b術中高速エコー(15MHz) を直接心臓に当て、血液の漏れがないか徹底確認(文献129をご参照)

  • 「第2の眼」で心臓内部までチェックし、再発を防止

  • 世界的学会(Annals of Thoracic Surgery, 2017年)にも新しい術式を発表(英語論文267をご参照)

これらの工夫により、冠動脈瘻をより安全に、再発なく根治できる可能性を高めています。

.

◆ 予後と生活への影響

.

冠動脈瘻は適切に治療すれば完治可能な病気です。
特にMICSやオフポンプ手術を組み合わせることで、術後の回復が早く、早期の仕事復帰や運転再開も期待できます。

ただし放置すると心不全・感染・瘤破裂といった重大リスクにつながるため、早めの専門医相談が大切です。

.

◆ まとめ

.

  • 冠動脈瘻は 生まれつきの異常血管 が原因で起こる稀な心臓病

  • 症状が進行すると 心不全・心筋虚血・感染・瘤破裂 の危険あり

  • カテーテル治療外科手術(オフポンプ・MICS) で治療可能 (ハートチーム)

  • 術中エコーを用いた丁寧な確認で 再発予防・安全性向上 を実現

.

.

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

12) 大動脈 弁下狭窄症 IHSS へ進む

6. 先天性心 疾患 の扉ページへもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

10) バルサルバ洞瘤―破裂するまでにきちんと治しましょう 【2025年最新版】

Pocket

バルサルバ洞の位置をしめします。ここがこぶのように膨らむと破れる危険ができたり大動脈弁に支障をきたしたりします最終更新日 2025年1月4日

.

■バルサルバ洞瘤とは

.

大動脈の根元の部分(心臓に近いところ)のポケット状に膨らんだ部分(左図で「バ洞」と示します)がバルサルバ洞です。

これが瘤(こぶ)状に拡張したものがバルサルバ洞瘤です。

一番多い右冠動脈洞のバルサルバ洞瘤は通常右室に破れ、次に多い無冠動脈洞のバルサルバ洞瘤は右房に破裂します。また心臓の外側に破裂することもあります(これは最も危険です)。

診断は心エコーやCTで容易につきます。

.

■瘤が破れたら、、、

.

A318_067破裂口が大きいと胸痛や呼吸困難、心不全が急に出現します。外側に破れる場合は命に関わることが多いです。

その場合は緊急手術が必要なケースもあります(心臓手術事例:バルサルバ洞の再破裂例)。

手術では体外循環下に破裂口を直接またはパッチで閉鎖し、必要に応じて大動脈弁の形成などを行います。

またそれ以外の病気(心室中隔欠損症など)が合併している場合はそれらも併せて修復します。

外側に破れた場合は緊急手術も間に合わないことが多く、前もって検診などで見つけ、治して置くのが一番です。

 .

■手術の問題点・課題は

.

手術のリスクは状態が落ち着いているときの手術であればたとえ大動脈弁の形成や置換が必要なケースでもそう高いリスクではありません。

年齢や他の内臓疾患にもよりますが、1-2%以内のことが多いです。

ただし大動脈弁形成術の豊富な経験をもっているチームは少なく、またバルサルバ洞瘤そのものの手術経験はもちろん、大動脈基部再建術のノウハウをあまりもっていないチームではきちんとした再建・形成手術が困難になりがちです。

.

そのため他で手術を受け、バルサルバ洞瘤が再破裂してから私たちのところへ来られたというケースが複数あります。いずれもバルサルバ洞の弱い組織ではなく心臓の基本骨格を活かした再建手術できれいに治っておられます。この手術は国際学会などでも発表し評価を受けました。すでに術後10年を超えている患者さんも6名に達しましたが全員、破裂部はきれいに閉じた状態で安定しておられ、心不全なくお元気です。

.

おなじバルサルバ洞瘤の破裂でも、すでにショック状態で人工呼吸器に長く乗り、肺炎を併発したり他臓器にも障害が起こり、となればリスクは上がります。また瘤が心臓の外側に破れる場合は手術室にたどり着くまでに死亡されることも多く、厳しいです。

早目のご相談が患者さんにとって安全で有利な展開に結びつきます。

.

■結合組織疾患の患者さんの場合は

.

なおマルファン症候群大動脈二尖弁その他の患者さんで大David & Bentall動脈基部が拡張し、とくにバルサルバ洞が瘤化するという意味でのバルサルバ洞瘤が近年は増えました。

この場合は破裂すると心不全ではなく突然死になってしまうため要注意です。

.

このタイプのバルサルバ洞瘤は必ずしも先天性心疾患ではありませんが。

この場合、瘤が破裂するまでに手術で治すことが望ましく、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が理想的です。

弁尖つまり弁の可動部分以外をすべて安定した人工血管で取り換えるわけです。

いったん手術できれいな形が確保できれば、これによって長年ワーファリンなしの生活が期待できます。

.

A303_057また若い患者さんが多いため、創のちいさい、MICS手術(ミックス手術、低侵襲心臓手術)を行っています。手術後のこころの負担を軽くするのに役立っているようです。

.

◾️患者さん自身の弁がひどく壊れている場合は

.

自己弁がひどく壊れてしまっている場合はベントール手術が適応となります。

大動脈の基部や弁をすべて代えて、病気を根治してしまうわけです。

年齢や患者さんのライフスタイル、ご希望などに応じて機械弁生体弁を使い分けます。

.

しかしそれはやむを得ない場合のはなしで、極力、患者さんご自身の弁にこだわる事を基本方針としています。

いずれにせよ、バルサルバ洞瘤は早期発見と的確な治療が大切な病気です。

.

◆ニュース(2016.9.)

バルサルバ洞破裂に対する手術は世界的にも再発や遺残が少なくなく、課題になっていました。

.

その原因は、破裂した組織の近辺にある組織もまた脆弱で、せっかくパッチなどを縫い付けて修復しても、その付け根のところで組織が裂けるところにありました。下記の患者さんの想い出のコーナーをご参照ください。

%e8%ab%96%e6%96%87264figure%e3%81%8b%e3%82%892.

この問題を解決する新術式を発表いたしました。心臓外科では世界のトップジャーナルである Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌の Surgical Techniqueのところです。右図はその抜粋です。

.

米田正始の英語論文の264番です。解説をつけたビデオも付いています。若い先生方のご参考になれば幸いです。

この新術式ではしっかりした組織を用いて修復するため、今後、治療成績の改善が期待されます。

 .

患者さんの想い出はこちら:

.

.

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

11) 冠動脈ろう と冠動脈瘤 へ進む

6. 先天性心 疾患 の扉ページへもどる

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

9) こどもさんの特発性拡張型心筋症―いざという時、手術が役立つケースも 【2020年最新版】

Pocket

最終更新日 2020年2月17日

.

◾️特発性拡張型心筋症とは

.

原因不明の、心筋(心臓の筋肉)の病気で左室の筋肉が壊れ、左室壁が薄くなり左室の拡張や動きの低下を引き起こし、心不全になる病気です。

拡張型心筋症(右図)では健康心(左図)とくらべて丸く大きくなります。そのために心臓の力が落ちたり、僧帽弁が逆流して一層心不全が強くなったりします心筋症・心不全のページをご覧ください。

運動時の息切れや動悸、下肢のむくみなどの症状が出て、病気が重くなれば横になっていても息切れがし、命に関わる状態になってしまいます。

.

◾️拡張型心筋症の治療は

.

まず減塩やお薬、心臓リハビリなどの内科的治療を行います。お薬ではβ遮断剤、ACE阻害剤かARB、抗アルドステロン剤などが中心になります。

内科的治療が限界になれば外科治療が検討されることがあります。ただしこうした外科治療をできる病院は限られるためその機会は多くないのが現状です。内科的治療が限界になれば一気に補助循環や心移植へと進むのが現状ですが、こどものドナー心は極めて不足しており、チャンスが多いとは言えません。

原因不明とされる特発性拡張型心筋症や、心筋炎の後遺症としての拡張型心筋症、あるいは左室緻密化障害に続発する拡張型心筋症などが外科手術の対象となることがあります。

 .

◾️拡張型心筋症、私たちの工夫は

.

小さいこどもさんの拡張型心筋症でも拡張が高度であったり、心筋がやられている部位がより明確なケースでは左室形成術によって大変良くなることを経験しています。

小児の左室形成術 事例

そうしたケースでは以前から小児科・小児心臓外科・循環器内科の専門の先生方と協力して治療にあたるようにしています。

拡張型心筋症は大人になってから心不全が悪化することもよくありますので。

筋ジストロフィーもそのタイプや経過によっては心臓手術が役立つことはときにあります。なお進行が速いドゥシャンヌ型よりはベッカー型のほうが有利という印象があります。

要は心機能がどこまで改善するか、そしてそれがどのくらいの期間守れるか、個々の患者さんの特徴に応じた評価が大切です。

FMRは心室疾患.

また拡張型心筋症と心不全による二次的な僧帽弁閉鎖不全症(機能性僧帽弁閉鎖不全症)を外科手術で効果的に治すことも経験豊かなチームでは可能で、これだけでもかなりの改善が図れるケースがあります。

 .

心筋症イコールお薬か移植というのではなく、手術を含めた多様な治療法が効果的なケースもあります。

多角的に検討し治療することが安全と成績向上につながると思います。

.

■ お断り: 現在、米田正始のチームは小さいこどもさんの心臓手術を行う態勢が整っておらず、赤ちゃんや小さいこどもさんは信頼できるこども病院などにご紹介させて戴くようにしています。15歳以上あるいは身体が大人サイズの方でしたら直接ご相談に乗らせていただきます。ただご相談や検査でしたら10代前半でも受け入れております。

.

Heart_dRR
お問い合わせはこちらへどうぞ.

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

バルサルバ洞瘤へ進む

先天性心疾患の扉ページへもどる

.

■患者さんの想い出: 拡張型心筋症で絶対絶命というなかで、このまま座して死を待つよりも全力を尽くそう、先端的手術にかけようと、患児やご家族と相談のうえ、手術を行ったことが何度かあります。いわゆる手遅れ状態からのスタートのため体力がもたず涙を呑んだこともありますが、皆が驚くような回復を遂げられたケースも少なからずあります。

その一例をご紹介します。こちらをどうぞ。手術から11年が経過しますが現在もお元気に暮らしておられます。次の再会を楽しみにしています。

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。