上行大動脈瘤――治せる病気です、油断めされぬよう【2025年最新版】

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AscAoAneu最終更新日 2025年1月3日

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■手術が必要となるのは、、、

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上行大動脈瘤は

上行大動脈が拡張つまり大きく膨らんで、

破裂したり解離(壁が内外に裂けること)すると突然死する病気です。

瘤のでき方に、こぶができる真性瘤と最初から壁が裂ける解離性などがありますが、

ここでは真性瘤について解説します。

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上行大動脈は何らかの原因で拡張しこぶになります。

正常径の1.5倍の直径になると瘤と呼ばれるため、

その直径が45mmになればそれは瘤と言えましょう。

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上行大動脈瘤が発生する理由としてはさまざまなものがあります。

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解離は別項で解説するとして、

動脈硬化によるもの、

大動脈二尖弁(にせんべん)にともなうもの、

大動脈炎・高安病・ベーチェット病・梅毒などの炎症によるもの、

マルファン症候群などの結合組織疾患に由来するもの、

先天性、その他があります。

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Aneurysm rupture上行大動脈瘤の直径が5cmを超えると破裂する恐れがでてきて、注意が必要です。

通常その直径が6cmになれば心臓血管手術が必要ですが、

その拡張スピードや背景の疾患によっては5cm前後でもオペが必要になることがあります。マルファン症候群などの結合組織疾患の方は4.5 cmで手術する方向にあります。

瘤の形がいびつで破れやすいときも同様です。

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■その診断は、、、

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037上行大動脈瘤の診断は胸部レントゲンやエコーである程度めどがつきますが、

それぞれ上行大動脈瘤の診断には死角があり完全な検査法ではありません。

CTスキャンが役立ちます。

造影剤なしでもかなりのところまで診断がつきますから、

まず単純CTで調べるのが良いでしょう。

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福島原発事故以来、CTスキャンが被ばく量の多い検査法として有名になりましたが、

私たちのところでは技師諸君の工夫によってその6分の1あるいはそれ以下に下げることができます。

それよって早期診断がより安心してできるようになりました。

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■上行大動脈瘤の手術は

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その部を人工血管で取り換える、いわゆる上行大動脈置換術が基本です。

しかしその患者さんの状態に応じてさまざまな工夫ができます。

たとえば高齢者や全身状態の悪い方、あるいはエホバの証人の信者さんなど、

安全のためにあまり大きな手術にしたくない状況であれば、

こぶの部分を閉じるときに細くし、

さらにその外側に人工血管を巻いて大動脈を守るようにしています。ラッピングと呼びます。

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David & Bentallまた上行大動脈瘤が大動脈弁の形をゆがめて大動脈弁閉鎖不全症が合併しているときには

大動脈弁置換術または大動脈弁形成術を併せおこなったり、

デービッド手術で患者さん自身の弁を温存した大動脈基部再建をしたり、

弁が壊れているときにはベントール手術で大動脈基部をすべて取り換える手術を行います。

これらは心臓外科手術の中ではやや大きめのものとなりますが、

経験豊富なエキスパートならかなりの安全なオペとなっています。

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■さらに私たちの努力は

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私たちはこれをさらに進めて、なるべく小さい創で術後の痛みを減らし社会復帰をうながすよう、

ミックス手術(MICS手術つまり小切開低侵襲手術)法をつかって上記の手術を Median MICS行うようにつとめています。

右の図はミックス手術の皮膚切開の一例を示します。

 

新しいポートアクセス法MICSの経験の蓄積により、現在は上行大動脈置換には右小開胸をもちいた、いわゆるポートアクセスMICSでも手術できるようになりました。

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患者さんの安全確保とともに早い社会復帰や痛みの軽減、そして見えにくい傷跡でこころの傷も小さくなるなどのメリットがあり、今後が期待されています。

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■患者さんの想い出

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上行大動脈瘤はあまり大きくなると危険な病気です。

というのはもし破れてしまうと即死状態で病院まで行く時間がないことさえあるためです。

Aさんは70代女性で上行大動脈瘤のため私の外来へ来られました。

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弁はそう悪くないのですが、上行大動脈のみ悪くすでに直径 7㎝を超えて危険な状態でした。
手術ではこれを人工血管に取り換え、将来瘤になりそうなところも補強して万全を期しました。

術後経過は順調でまもなくお元気に退院されました。

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上行大動脈瘤だけではあまり症状もなく、理性で内容を判断し、私たちを信じてオペを受けて頂く必要があります。もちろん患者さんが十分納得いくように画像その他をお見せして証拠にもとづく医療というスタンスでお話しするようにしています。

手術で元気になられたAさんがこれから永く元気に暮らせることを楽しみにしています。外来で定期健診し安全を確認しながら進んでいきましょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

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セカンドオピニオンは患者さんの権利です。これを嫌がる医師には何らかの問題がある恐れさえあるのです
現代の医療は情報開示や患者さんの人権尊重が当然のことと受け容れられています。

それでも医師の中には患者さんが他病院でセカンドオピニオンをもらいたいとか

他病院へ移動したいと希望を出すと

怒ったり不愉快な態度をとったりしてなかば妨害しそうになるというケースがまだ散見されます。

それはその医師がご自分のやっている医療を他人に見られたくない、

他人に見せられない内容だからと言われてもしかたありません。

 

Ilm23_hf03006-s
以下の患者さんは

僧帽弁閉鎖不全症三尖弁閉鎖不全症心房細動それも脳梗塞既往に対する手術をもとめて長野県から来院されました。

やはり経験豊かなエキスパートが手術すべき状況で、

弁形成をちょっとかじっただけの外科医がやるべき状態ではありませんでした。

ご相談の結果、ご希望をいただき私どもで手術治療させて頂きました。

 

僧帽弁形成術三尖弁形成術メイズ手術

いつもどおり慣れた手順で、

正中ミックス手術(MICS手術)という創が小さくなる方法で手術させていただき、

お元気に退院されました。

僧帽弁閉鎖不全症の直接原因として、弁の複数個所が壊れていたため、

それぞれ修復しきれいに作動するようになりました。

 

以下はその患者さんのご家族からのお便りです。

これからは患者さんが勉強して医師を選ぶ、そういう時代です。

このことは僧帽弁形成術大動脈弁形成術などの、

経験を要する心臓手術の場合、とくに大切です。

医師はそのご期待に沿うべく、全力を尽くす、これがこれからの医療かと思います。

 

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米田正始先生様

PtLetter46米田先生・・・この度は母の命を救って下さいまして本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げましたらよろしいのでしょうか・・・本当に本当にありがとうございました。

**の病院で手術をする・・・という話になってから、「本当にここで手術をうけても大丈夫なのだろうか・・・?」とずっと不安な気持ちで毎日を過ごしていました。

カテーテルの検査をして、その結果を聞く時に、担当の先生が、「最初に言っておくけど、道路を歩いていても運悪く車にひかれて亡くなる人っているよね・・・それと一緒で、手術をしても運が悪ければ亡くなるって事があるっていう事を分かっておいてね。」と言われました。そして外科の担当の先生の診察の時には、「手術をして、脳卒中を起こしてしまう事があるので、そうなった時の家族でのサポート体制をよく話し合っておいて下さい。」とも言われました。

そんなにリスクの高い心臓手術なら、しない方がいいのではないか・・・でもこのまま心臓病を放置したら、母はどんどん苦しくなっていくし、どうすればいいのだろう・・・と、毎日一人で悩んでいました。

私には6才上の兄がいるのですが、兄は脳卒中が起きるのを心配してか、母の心臓手術にはもともと大反対でした。母に手術をするようすすめた私に、「母にもしもの事があったら全ての責任をとれ!!」とまで私に言いました。

ある日、隣のお家の奥さんと話す機会がありまして、お互いの両親の話になりました。そして、母の心臓の手術を**病院でうけるのがものすごく心配だ・・・という事を話しましたら、「インターネットで“日本の名医”って入れて検索してみて!!絶対に日本のどこかにお母さんの心臓を治して下さる先生がいるはずだから・・・」と言われました。

八方塞りで、もうどうしていいか分からなかった私に隣の奥さんが、米田先生と出逢えるきっかけをつくってくれたのです。 私はすぐに家へかけこみ、パソコンを開きました。そして「日本の名医」で検索をしてみました。その中で、「心臓血管外科情報WEB」(註、現在の名称は心臓外科手術情報WEBです)というサイトに目がとまりました。読み始めますと、それは米田先生が心臓病について、とても詳しく説明して下さっているページでした。

病院で簡単に説明されるだけで、私自身が母の心臓の病気について、ほとんどよく理解していなかった事が分かりました。それから毎晩、米田先生のページを読んで、母の心臓の病気について学びました。

そして、母の病気は米田先生だったら絶対に治して頂ける!!と強く確信頂しまして、名古屋ハートセンターにお電話させて頂きました。すぐに予約を入れて頂きまして、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

9月12日、初めて米田先生に診察をして頂いて、長野に帰る電車の中で母は、「よかった・・・米田先生に診て頂けて本当によかった・・・よかった・・・」と何回も安心した様子で話していました。母が通院していた歯科医院の先生にも「名古屋ハートセンターで手術をして頂く事になった」と話したところ、先生が「それはよかったですね、最高の先生の元で手術をするのが一番ですよ!!」と言われたと話していました。

兄達も、米田先生の手術の説明の後で、「すごくいい先生だね、米田先生ならおばあちゃん絶対大丈夫だね!!」と、その時初めて手術に賛成してくれました。
そして、手術のあとに、「あんなに素晴らしい先生を、この広い世界から見つけてくれてありがとう・・・」と兄からメールが届きました。
米田先生・・・本当に本当にありがとうございました。

母は、手術から目覚めた後私に、「本当によかった・・・米田先生のおかげで本当によかった・・・これで山へまた山菜とりに出かけられるね・・・!!」と嬉しそうに話してくれました。

米田先生に救って頂いた母の命を大切に、これから末長く親孝行をしたいと思います。
本当にありがとうございました。

*****の娘
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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お便り45 僧帽弁形成術とメイズ手術でさらに前向きに生きられる80代半ばの女性患者さん

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かつて80歳代といえば

もうご高齢でゆうゆう自適、ご隠居さんというイメージがありましが。

しかし現代は違います。

平均寿命から考えても80代は人生の中ではまだまだ現役なのです。

 

Ilm2010_044-s以下のお手紙をくださった患者さんも、

弁膜症僧帽弁閉鎖不全症と心房細動)を治してまた元気に活発な生活をしたいと希望し、ご来院されました。

名古屋からはやや遠方の福井県からお越し下さいましたが、

これもまた現代的で、

ネットを活用し自分の病気に適したドクターをもとめて全国どこへでも行きますという前向きのご姿勢で来られました。

 

かつては近くの病院におまかせで、

その病院での心臓手術の実績やどういう医師が治療してくれるかなどはまったく知らない状態の患者さんが多かったのですが、

それではいけないと知り、みずからアクションを起こす賢患者さんが増えました。

 

以下はその患者さんからのお便りです。

僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術心房細動に対してメイズ手術を行いました。

Ilm17_aa05003-s弁の逆流も消え、長年の心房細動も正常リズムにもどりました。

 

いっぱんに僧帽弁形成術のあとは回復も早いのですが、

実際、術後も直後からどんどん歩行運動して下さりまもなくお元気に退院されました。

外来でも活発なお姿を拝見しうれしく思っています。

 

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Ptletter45日中はまだ29度の暑さですが朝夕の風が少しさわやかになりました
入院中は大変お世話になりまして誠とに有難うございました

今日は手術後一ヶ月体力も少しづつ回復に向い幸を感じて居ります

これもひとえに先生の施術のお蔭と有難く感謝の他ございません

高齢で手術をすることに不安心配がありましたが先生のお力を信じてそのお蔭で痛もなく無事今日迎えることが出来ました


ハートセンターへ寄せていただき先生にお目にかかったこと本当に幸運であった今しみ々と思って居ります


勉学研究に頑張っていただいたなればこそ医学の進歩があり私達助けられるその思い今信頼とお蔭を強く致しました


また入院中私なりに感じましたことひとつ看護士さん方々の笑顔と言葉の優しさ行動がすごく患者の心を癒してくれました

本当によく指導されていること強く感じました
‘ハート病院は本当に良い病院です’
心から誰にでも話することが出来ます

先生のお蔭で生かされた生命を又ハート病院で受けた数々の思いを私も残された人生の中にただ生きるので無くよく生きることへ人生の中に活かして行きたいと思って居ります


先生も何卒いつまでもお元気で益々のご活躍を心よりお祈り申しあげております


本当に本当にありがとうございました

末筆になりましたがお世話になりました
他の先生方達にもよろしく申し上げて下さいませ

かしこ

米田先生

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第64回日本胸部外科学会総会にて

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この10月9日から12日までの間、名古屋国際会議場にて日本胸部外科学会総会が開催されました。この会は心臓血管外科領域では最高峰に位置する学会ですでに64回を重ねる歴史をもっています。今回の会長は畏友かつ大先輩でもある上田裕一教授(名古屋大学胸部外科)でした。

64JATS2011伝統ある学会であまり斬新なことはやりづらいというのが世の常ですが、上田先生はテーマをProfessionalismプロフェッショナリズム(註:プロの精神やあり方)とされ、学会が単なる勉強の場にとどまらぬ、もっと高い視野で社会貢献や仲間の支援あるいは後進の育成などができる組織になることを願った内容でした。

その哲学と姿勢は上田先生の会長講演に凝縮されていました。プロと呼ばれるに値する外科医とその集まりである学会のなすべきこと、進むべき方向性を示されたと思います。なかでも指導者レベルの胸部外科医に対するリーダーシップ教育、最近話題のnon-surgical skill教育の重要性にも言及されました。アメリカの胸部外科領域の最高峰、指導的位置にあるアメリカ胸部外科学会AATSでもこのテーマが近年積極的に取り入れられ、いかにしてプロにふさわしい外科医になるかの教育が進められています。私もそれに参加して反省と発奮の塊になっていたのを覚えています。日本の学会でもかつての勉強中心の場から脱皮して社会貢献を果たす場になる時が来たように感じます。

Ilm17_ca05007-sこの方向性は元ハーバード大学准教授(天理病院レジデントの同窓生でもあります)の李啓充先生の特別講演とも密にリンクし、理解を深めるのに役立ったと思います。医師や病院が有するある種の権限は、もともと持っている固有のものではなく、社会貢献したおかげで社会から与えられたものであり、正当な貢献ができなくなれば当然権限は減らされていくものです。つまり医師は医師だから偉いのではなく、社会に貢献し、評価され、感謝されてはじめて何らかの権限や尊敬を与えられる。常に謙虚に社会貢献つまり患者への貢献に邁進しなければならないというわけで、100%その通りと感じ入りました。しかし医学にも医師にも完璧医療はなかなか難しいもので、だからこそそれを追及する飽くなき情熱が求められるとも言えましょう。

その時に会場から前向きのご質問があり、公務員制度のもとでどのようにしてプロフェッショナリズムを遂行できようか、もっと構造を改革しなければならないというご意見には皆共鳴されるところがあったものと思います。公務員制度のもとでは勤勉なものは不遇な状態になりがちで、滅私奉公で日々頑張っても9時ー5時の給与待遇しか得られない、頑張れば頑張るほど組合系の人たちに嫌われる、などの問題があり、今後も続くでしょう。こうしたインフラから始まる根底的問題を医師だけのプロフェッショナリズムでどこまで解決できるか、まだまだ考え、努力すべきことは多いようです。当然コメディカルのプロフェッショナリズムも検討されていますが。

話は少し飛躍しますが、民間の病院なら比較的自由度が高いため、プロフェッショナリズムを実践しやすいように感じています。もちろん経営を成り立たせながらという別の課題も背負い込むのですが。民間病院がいくつかの突破口を開けることができれば、それもまた立派な社会貢献かも知れません。ハートセンターで断らない医療、(あまり)待たせない医療、満足度の高い医療、質の高い医療を行うなかで自分たちなりにお役に立てるということを感じています。外来ひとつをとってみても、公的病院では患者さんが何度も往復しないと治療方針が立たないときでも、民間なら一往復で方針がしっかりと立ちますし、手術を例にとっても、公的病院ではがんの患者さんを何か月も待たせたりするのが慣例となっているところもあります。患者中心ではない、プロフェッショナルでないと言われても致し方ない状態です。民間のほうがはるかにプロフェッショナルと言えましょう。

上田先生の会長講演の話にもどりますと、この講演は、これまでの日本の学会にありがちな、会長あるいは教室の業績を披露するレベル(それはそれで聴く側の姿勢によっては大いに有益ではあるのですが)から脱皮し、日本の学会や医療をいかにして社会に役立ち評価されるものにするかという信念に沿って組み立てられたもので、講演のあとも、周囲の先生方から格調高い、立派な内容という声が聞かれました。

余談ながら講演の終わりごろ、人生の転機に指導や支援を下さった恩師の先生方の話になって上田先生が思わず声がつまってしまったのには聴いていた私もジーンとしてしまいました。昨年の胸部外科学会会長の佐野俊二先生の会長講演のときには、その類まれな貢献と仕事を支えたご家族に言及したときに声が詰まってしまい、ちょうどその講演を一緒に拝聴していた上田先生に、「先生、来年は泣かないでくださいね!」と私が余計なことを言ってしまったのがたたっのではないかと反省しきりの一日でした。実際、あとで上田先生から「君のせいだ」と笑いながらのお叱りを頂戴してしまいました。そのあとの田林晄一先生の理事長講演ではこれまで着実に積み重ねて来られた立派なお仕事のサマリーのような、地味でも良心的で内容豊かなものでした。プロフェッショナリズムにも言及されていました。これが展開するのはこれからの努力次第かと感じました。

学術集会そのものは多くの優れた発表や、世界から参集された一流の演者の先生方のおかげで充実したものでした。個々の内容には触れませんが、イブニングビデオの大動脈セッションではHimanshu Patel先生や畏友John Ikonomidis(サウスカロライナ大学教授)らの講演を司会させて頂き、たくさんの有益な質問やコメントを頂き、感謝しております。それ以外のセッションでも時代の流れをくんで、カテーテル弁(TAVI)やステントグラフト(EVAR)、カテーテル冠動脈治療PCIとくに薬剤溶出性ステントDESバイパス手術の位置づけ、弁膜症とくに弁形成手術や自己弁温存手術、低侵襲手術つまりミックス手術(MICS)とくにポートアクセス手術その他のホットトピックスでは活発な議論がなされました。午前7:45分からのクリニカルビデオセッションでは早朝にもかかわらず熱い議論が交わされ、私もつい自分のつらい経験や楽しい経験を知って頂こうといろいろしゃべりすぎたような気がしています。ともあれ良いものに多く触れることができたように思います。

学会の最終日には、グリーンセッションと称して、Johnと仲間とゴルフに行って参りました。私はトロントに留学していた20年ほど昔に下手なゴルフを時々やっていて、2回ばかりJohnと一緒に回ったことがあり、それ以来のラウンドでした。相変わらずジェット機のような球を打つJohnのゴルフに感心しました。遊んでいても、手術や勉強の話でにぎわうあたりは20年前の修業時代と同じで、うれしく思いました。

その前日に招待外国人演者の先生方とのパーティがあり、上記の先生方やAlfieri先生、Woo先生、Taweesak先生、Sundt先生、肺外科・食道外科の先生方はじめ皆さんとゆっくり話できました。海外との交流は年々盛んになっており、大変好ましいことですが、研修の仕組みでは日本が一番立ち遅れています。そこに経験例数の問題があり、そのベースに公務員や組合の問題なども垣間見えます。皆でProfessionalの英知を出し合って解決すべき時期が来ていることをまた痛感しました。

第64回日本胸部外科学会総会は胸部外科の領域に新たな歴史の一ページを刻んだ学会となったように感じます。上田先生、名古屋大学の先生方、胸部外科学会の皆様に一会員として敬意を表したく存じます。ありがとうございました。

平成23年10月19日記

 

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クアラルンプール・バルブ(弁膜症)サミット印象記 2

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弁膜症サミットは一日目から盛り上がり、勉強になるというよりはクラブ活動のような雰囲気でした。僧帽弁を中心にさまざまな観点から検討しました。

二日目は大動脈弁を中心に幅広く討論しました。まずエコーとMRIを中心とした画像診断の最近の成果が講演されました。エコーはKhanderia先生のいつもの親切・丁寧で熱いお話しでした。弁膜症の画像診断は現時点でもほぼ満足できるレベルにあると個人的には思っていますが、さらにその精度やわかりやすさが進歩しそうで楽しみです。

KLVSfaculty診断関係のお話しのあとに、不肖私、米田正始がデービッド手術つまり自己弁を温存する大動脈基部再建の手術を供覧しました。私はデービッド先生がこの手術を開発された1980年代の終わりごろからその手術を直接学び、ある意味、この手術を一番草創期から知っている一人なのですが、弁尖が弱そうなケースも多く、この術式がどれぐらい長持ちする良い術式か、確信がなく、日本に帰ってからはほとんど行っていませんでした。しかしデービッド先生らの遠隔成績が出て、世界のあちこちからそれを支持する報告が相次ぎ、また自信を回復させてこのところ積極的に行っています。患者さんが自己弁での手術を大変喜んで下さり、楽しい手術のひとつになっています。こつこつと遠隔成績を出して下さった先生方に感謝してこの手術をやっています。(写真は海外からの招待講演者のリストです)

ただ手術を供覧するだけでは皆さんに申し訳ないため、新しい日本製の人工血管で、しかもそれを難なくこなすシャープな針をもつ日本製のポロプロピレン糸という組み合わせでできる、いくつかの工夫と成果をご紹介しました。何人もの人たちに私も同じ方法でやってみたい、とお褒めいただき、うれしく思いました。この領域の世界的権威、ジョンスホプキンス大学のCameron先生も評価して下さり、私も使いたいと言って下さるなど、光栄なことでした。

引き続いてライブ手術でペリエ先生(もとはフランス、現在はドイツです)の僧帽弁形成術でした。バーロー症候群の予定でしたが、たまたまぴったりの症例がなかったのか、普通の僧帽弁逸脱・MRへの形成術でした。しかしペリエ先生は弁評価法の基本から掘り起し、系統的に評価する実際を供覧されました。多くの若い先生方の参考になったと思います。こうした教育セッションも今後使えると感心しました。

それからEdwards社の畏友Duhay先生(企業勤務とは言っても立派な心臓外科医です)が縫合しない生体弁AVRを供覧されました。いわばカテーテル弁TAVIを開心術の形で行うもので、いったんなれれば大動脈遮断時間つまり心臓を止める時間はごく短くなり、しかも脳梗塞などはTAVIよりもかなり低く抑えられる可能性があると個人的に期待していたものですが、実際かなり使えるという印象を得ました。こうしたさまざまな選択肢を内科外科の弁膜症の一体化チームで自由自在に選択したり組み合わせたりして最高の成績を上げることができれば素晴らしいと思います。

それからTAVIのセッションでビデオライブなどが供覧され、ちょっと飽きて来た感もありながら、この治療法のさまざまな側面を熟知する良い機会と思いました。ハイブリッド手術室のありかたなどの発表もあり、参考になりました。外科医の姿はこれからダイナミックに変わっていくのでしょう。ランチオンでも同様の議論が行われました。Partnerトライアルの結果が論じられ、有望な結果とともに、脳梗塞がやはり多すぎること、弁周囲の逆流・リークがまだまだ多いこと、TAVIが使えない状況がかなりあること、などなど今後検討すべき課題が多く論じられました。

午後には大動脈弁のシンポジウムで私もModerator、日本でいうコメンテーターで仕事させて頂きました。大御所のDuke Cameron先生のビデオライブはやはり貫禄もので頭の中が整理され勉強になりました。私のDavid手術の発表も何度か引用いただき、光栄なことでした。

それからライブでカテーテルによる腎動脈周囲の神経ブロックが供覧されました。これまで見たことのないカテーテル治療法でなかなか面白いものでした。こうした方法がどんどん実用化するとまた治療成績が向上するでしょう。新しいデバイスや方法がすぐに使えるアジアの友人たちがうらやましいとも思いました。日本は官僚の保身のために、多くの患者さんが犠牲になっているという一面があり、原発事故をきっかけにこうしたこれまでの構造をあらためる機運が生まれると良いのですが。

それから一見、低い圧較差のAS大動脈弁狭窄症の検討がなされました。ASを評価するときに常に念頭におくべき必須の事項でした。つづいて、麻酔をかけずに行うAVR大動脈弁置換術がトルコのOto先生によって紹介されました。硬膜外麻酔をうまく活用する方法で、たしかに患者さんは手術中も話ができるほどの状態で、体外循環・大動脈遮断下にAVRはきちんと行われていました。経済的に必ずしも恵まれない開発途上国のほうがこうした実用的で安価な職人芸が生まれやすい印象があり、大いに参考になりました。

SANY0242それやこれやで一日中大動脈弁の勉強をして二日目は終わり、関係者で中華海鮮のディナーに行きました(写真)。レベルの高い、きわめて美味な店で、舌鼓をうちながらまた勉強の続編をやっていました。

ライブできれいな手術を見せてくださったペリエ先生やヤクブ先生を皆でねぎらいながら、これからの弁膜症外科の在り方を相談しました。

いろいろ馬鹿話をしているなかでひとつ面白いと思ったことがありました。それは北京の安全病院、年間7000例も心臓手術を行う立派な病院ですが、そこの畏友Haibo先生が、弁形成をあまりやれないというのです。どうしたん?と聞きますと、毎日4例も手術する必要があり、一例に十分な時間が確保できないので、複雑な弁形成をやるなら短時間で終わる弁置換になるというわけです。こういう悩みもあるのだと感心してしまいました。いろいろ工夫して打開できると思いますし、ぜひそうしてほしくお願いしておきました。

最後の3日目にも朝から僧帽弁のビデオセッションがあり、十分な時間がとってあるため良い検討や討論ができました。複雑僧帽弁形成術のための、ゴアテックス人工腱索のよりうまい使い方や、リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症に対する心膜などを活用した積極的な弁形成、ミックス手術(MICS手術)ポートアクセス手術などによるより低侵襲な手術など、最近の弁膜症治療の進歩が十分反映された楽しいセッションでした。

それからマルファン症候群のシンポジウムがありました。病気のメカニズムから全身各部、さらに心臓血管までの病気の説明から治療や手術、そして例の自己弁を温存する大動脈基部再建手術つまりデービッド手術まで系統的なシンポジウムとなりました。デービッド手術ではCameron先生が講演され、その中でデービッド手術が患者さんにとって福音であること、しかし同時に人工弁を使うベントール手術も素晴らしい長期成績をあげており、これらをうまく活用することが患者さんの幸せにつながることを話されました。私の話も引用して下さったので、お礼に、「かつてデービッド手術ではなくベントール手術を行った患者さんにも胸を張って話できます、先生のおかげです」とお礼を述べたところ、大うけでした。

閉会式で何度か名前を呼んでいただき、光栄なことでした。皆さん、ずいぶん実績と自信をつけ、産業全般と同様、これからはアジアが世界に貢献する時代であることを感じました。

午後はエコーの実践教室や弁膜症心臓手術のウェットラボがあり、私はホテルの部屋で山積している仕事をやっていました。

3日間の弁膜症サミットは楽しく充実した内容で幕を閉じました。皆さんありがとうございました。

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機能性僧帽弁閉鎖不全症とは?――心臓のパワー確保がたいせつ 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年1月8日

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◾️まず機能性僧帽弁閉鎖不全症とは?

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機能性僧帽弁閉鎖不全症とは、僧帽弁そのものは壊れていないのに左室がパワーダウンして形がゆがむために僧帽弁まで歪んで逆流が発生するという病気です。かつては不思議な病気と思われていましたが、

現代はこの病気の原因や状態、治療法なども格段に進歩しています。

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◾️機能性僧帽弁閉鎖不全症は大きく2つに分けられます

(1)ひとつは心筋梗塞や狭心症などに伴う虚血性僧帽弁閉鎖不全症、 いまひとつは

(2)心筋症や心不全にともなう非虚血性僧帽弁閉鎖不全症です。

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◾️虚血性僧帽弁閉鎖不全症の場合は

Fotosearch_CCP01042

心筋梗塞や虚血つまり心臓への血液の流れが不足して心臓が酸欠状態となり、左室の形や動きが悪くなり、僧帽弁を支える糸(腱索と呼びます)が左心室に引っ張られて弁が閉じなくなります。左図は冠動脈の主な3系統を示します。

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そのため虚血そのものをバイパス手術やカテーテル治療PCIあるいはお薬などで改善し、

またすでに心筋梗塞などで左室がかなり壊れている場合には僧帽弁形成術左室形成術などを併用して弁がきちんと作動するように治します。

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近年この虚血性僧帽弁閉鎖不全症が増加傾向にあり、日頃の健康管理から、胸が痛い・苦しいなどのときに早期診断・早期治療することが命を救います。あまり重症になると心筋が多く失われていて、それらは今の医学では簡単には回復できないため心機能不足が解決しづらくなるのです。

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Fotosearch_CCP01051◾️非虚血性僧帽弁閉鎖不全症の場合は

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原因になっている病気を見つけ、治すことが必要です。冠動脈は正常範囲内です。たとえば大動脈閉鎖不全症僧帽弁閉鎖不全症などの心臓弁膜症などが長期間そのままになっているとこの状態になることがあります。

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そうなるまでに心臓手術で治すことが患者さんの安全上有利なため、
日米の主要学会が作っているガイドラインでも、

適切なタイミングでのオペを推薦しているわけです。

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図 DCMと正常弁膜症以外では特発性拡張型心筋症に代表される心筋症が(2)の原因として重要です。

この場合は塩分制限、適度な運動、お薬から始まり、

それらで不足する場合は両室ペーシング(略称CRT)や

必要に応じて左室形成術バチスタ手術ドール手術セーブ手術など)その他の方法をもちいて左室を治します。

近年、私たちのチームではこの左室形成術が進化し、限界点がかなり高くなりました。

なおこれらでも対処できないほど重症になれば、

補助循環つまり人工心臓さらには心移植も考慮する必要が出てきます。

 .

◾️そこで方針

このように機能性僧帽弁閉鎖不全症は

左心室が壊れた、あるいは弱った状態ですので、

早期診断と早期の適切な治療が患者さんを救います。

.

Ilm09_ad09001-s患者さんから見れば、

階段を登るとき息切れが強くなったとか、

足がむくみやすいとか、

体がえらい、疲れやすいなどのときにまずかかりつけの先生に相談されるのが良いでしょう。

心臓が大きいと言われたら、心臓専門医にご相談されるのが安全です。

.

また健診で心雑音を指摘されたり、

生活のなかで胸が痛くなるとか胸が不快な感じがするときなどにも早めに相談されることが勧められます。

なお、心臓専門家の間でもこの病気は治せない、看取りする病気というお考えの先生も少なくありません。もしそう言われたら、諦める前に米田までお問い合わせください。できれば寝たきりになるまでに、つまりまだ体力が少しは残されているうちにご相談いただければ幸いです。

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患者さんの想い出はこちら:

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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クアラルンプール・バルブ(弁膜症)サミット印象記 1

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この10月6日から9日まで、マレーシアはクアラルンプールのバルブサミット(弁膜症の国際シンポジウムです)に講演のため行って参りました。例によって学会の印象記は一般の方々にはわかりにくいかも知れませんが熱い雰囲気を感じ取って頂ければ幸いです。

KLVS1心臓血管外科の手術関係のなかで今一番熱いのは弁膜症ではないかと思います。冠動脈バイパス手術は今なお健在といっても数の上では薬剤溶出ステントDESに代表されるカテーテル治療PCIに押され、大動脈はステントグラフト(EVAR)にある程度置き換わりつつあり、弁膜症が外科らしい心臓外科の最後の砦という感があるからでしょう。しかしながら弁膜症にもカテーテルベースの治療が入りつつあり一層関心が高まっていることも一因と思います。

心臓弁膜症の手術では長年欧米が世界をリードして来ましたが、このところ少し変化が見られます。というのはアジア諸国が力をつけ、近代化を進めた結果、心臓外科も大きく進歩し、弁膜症では弁形成術が難しいリウマチ性のものがアジアではいまだに多いため、おのずと弁形成の技術が磨かれるからと思います。

そういう背景もあって3日間のサミットは熱気に包まれたものでした。地元マレーシアはもちろん、シンガポール、タイ、インドネシア、オーストラリア、インド、中国などからの参加も多く、加えて欧米の実力派の先生が多数参加しておられたことも一因かと思います。

一日目の朝はまず心エコーやMRIなどの画像診断のセッションがありました。そして僧帽弁閉鎖不全症のシンポジウムが行われ、さっそくカテーテル治療であるMitraClipの発表と議論が行われました。まず内科からアメリカのCedars Sinai病院のSaibal Kar先生が、ついで外科からドイツのPerierペリエ先生が解説されました。この治療法はカテーテルで僧帽弁の前尖と後尖をクリップでパチンとはさみ、逆流口を小さくするというもので、EVEREST IIトライアルの結果などをもとに議論が進みました。治療法としてはかなり雑で不十分なことは大方の認めるところですが、何しろ低侵襲であるため高齢者や全身状態の悪い患者さんには使えると思いました。

しかしこれは現在アメリカではFDAによって「さし止め」になっているため、まだまだ課題が多いものと感じました。弁そのものが変化している通常の僧帽弁閉鎖不全症よりも、弁は正常でただ閉じなくなっているだけの機能性僧帽弁閉鎖不全症に好適かという議論もありました。私もそう考え、先日重症の患者さんで時間を短縮するためにこのクリップと同様のAlfieriという心臓手術を行ったところ、全然良くならないので急きょ他の弁形成操作を加えてきれいに治ったという経験があり、単なるクリップでどこまで行けるか、ちょっと疑問があることを提議しました。

それに続いてメルボルンのAlmeida先生はロボットによるミックス手術での僧帽弁形成術を講演されました。以前からよく知っている先生で、ロボットを使わない弁膜症ミックス手術(MICS手術)も多数やっておられるため偏らない議論ができました。その中で、普通のミックス手術で十分小さい創で手術ができても、ロボットを使うことでより発展性のある手術ができるという印象を持ちました。これからの楽しみということでしょうか。

SANY0225早朝セッションが終わったところで開会式がありました。マレーシアの厚生大臣(写真前列の黒髪の男性)が来られ、握手してくれたので私も思わず日本をよろしくなどと言ってしまいました。日本の心臓外科の学会に厚生労働大臣が来られることはまずないため、海外では心臓外科医や循環器内科医、さらには医療者が大切にされているのだなあとうらやましく思いました。

コーヒーブレイクのあと、機能性僧帽弁閉鎖不全症とリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症のシンポジウムがありました。つまり弁形成や手術が難しい僧帽弁閉鎖不全症MRのセッションという位置づけです。

このシンポの目玉商品ともいえるライブ手術を畏友Taweesak Chotivatanapong先生(タイ)が執刀されました。彼のリウマチ性MRへの手術は私もその長期データを検討しながら参考にさせて頂いているため楽しみにしていましたが、なぜかMRはリウマチ性ではなくバーロー症候群のそれでした。たぶんぴったりしたケースがなかったのでしょう。前尖逸脱が主なためゴアテックス人工腱索を数本立てて、大きめのリングで弁輪形成しおよそきれいにまとまりました。それは良かったのですが、皆さんリウマチ性の難手術を議論したかったので少し拍子抜けしてしまいました。しかしまずはGood Job!ということで皆で讃えました。

リウマチ性MR弁形成というタイトルで地元クアラルンプールのAzhari Yakub先生が講演され、自己心膜パッチ形成などを軸にしてこれまでの方針をさらに進め、完成度を上げようという雰囲気でみな勇気づけられたと思います。たしかに数年ぐらい前まではリウマチ性MRはどちらかと言えばあまり無理せずに弁置換するのが患者さんへの親切という印象があったため、時代の変化を感じました。

ここから機能性MRの話題となり、アメリカ・メイヨクリニックのKhandheria先生のいつもの元気いっぱいで親切なエコーの講演がありました。それを受けて、不肖私、米田正始が機能性MRへの新しい手術法であるBileaflet Optimization両弁尖形成法をご紹介しました。京大病院時代に当時の仲間たちと開発したChordal Translocation腱索転位法という方法をさらに発展させたもので、これは現在の共同研究チームである川崎医大循環器内科吉田清教授や尾長谷喜久子先生、斉藤顕先生らのお力により手術と評価検討そしてさらに改良というサイクルがきれいに回ったおかげです。感謝しながらの講演でした。半年前にアメリカ胸部外科学会AATSの前にMitral Conclaveという僧帽弁シンポジウムで発表してから例数も3倍近くになり複数の検討ができたこともあってか、反響は多く、ぜひ使いたい、コツを教えてと言ってくれる先生が多く、光栄なことでした。

ランチオンセミナーではTAVIつまりカテーテルで入れる大動脈弁の発表がいくつかありました。TAVIはどんどん進化し、今後ハイリスクの患者さんはもちろん普通の患者さんにも使えるとする意見もでていました。もちろん普通の患者さんは現在でも安全に手術ができ、TAVIで高率に弁周囲逆流が発生していることや二尖弁その他TAVIが禁忌になっている患者さんも少なくないことから、弁膜症の外科がさらに進化することでできる貢献は多いとも感じました。MICSポートアクセス心臓手術でより小さな創と早い社会復帰が推進できればより貢献度があがると思いました。

午後には心室中隔欠損症VSD+大動脈弁閉鎖不全症ARのライブ手術がYakub先生の執刀で行われました。この病気はアジアに多いため欧米からも問い合わせがあるほどの領域ですが、立派な形成手術でした。私たちの手術方法と共通するところが多いのですが、弁のちょうつがいの部分の扱いが少し違うため質問し、参考になるご意見を戴きました。名古屋でも若い患者さんで大動脈弁形成術を喜んで下さるかたが多く、さらに精進する意欲がわいた一日でした。

それからカテーテルで行う簡単な僧帽弁形成術、さらに同じく左心耳閉鎖のライブがありました。カテーテルでの弁膜症治療が複雑になればなるほど、心臓外科の協力が必要ですし、外科医もこうした低侵襲技術を若手を中心にどんどん学び、老若男女・低高リスクを問わずすべての弁膜症の患者さんが元気に社会復帰できるような、総合循環器科を創る夢がまた膨らみました。循環器内科の先生方の中にもこうした考えに賛同協力して下さるかたが増え、これから積極的に進めたいものです。

毎晩アジアの友人たちに欧米の招待演者の先生らを交えてディナーパーティで楽しく遊ばせていただき、感謝の塊になっていました。

 

(長くなりましたので、次回につづきます)

 

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執筆:米田 正始
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ミックスの心臓手術で社会復帰が早いわけは?【2020年最新版】

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CIMG2209bCIMG2210b最終更新日2020年2月25日

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◾️ミックスの後の仕事復帰、社会復帰は

.

ミックスの手術(略称MICS)とくにポートアクセスのあとは

患者さんの社会復帰が早い傾向が見られます。

写真は同法による僧帽弁形成術、1か月後の創です。

左写真で向かって左端に見える小さい線が創です。

 .

たしかに私たちの経験ではミックス手術のあとは痛みも多くの場合軽く、

退院も通常の正中切開つまり胸の真ん中を大きく切る場合よりも

3日以上早くなって平均10日で退院されてい112881910ます。

私たちの心臓外科へは全国からつまり遠方から 飛行機や新幹線などで来られる方も多いため、

余裕をもって退院して戴いていることを考えると、かなり早い回復と言えましょう。

 .

それではなぜミックスとくにポートアクセスの心臓手術のあとは早く元気になれるのでしょうか。

.

◾️ミックスの術後社会復帰が早いわけ、その1

.

まず考えられるのは骨を全然または一部しか切らないからです。

右小開胸のミックスでは骨はまったく切りません。

皮膚や脂肪や筋肉は小さく切りますがこれらは1週間ほどで治ります。

 .

Ilm12_ab02075-s 心臓手術で骨とくに胸骨を大きく切るのは50年以上前からの、いわば「常識」でした。

しかし考えてみれば、

スポーツ選手でも、たとえばプロ野球選手を例にとれば、

試合中などにケガをして骨折したらそのシーズンを棒に振るなどの大きな影響がでます。

でも擦り傷やねんざ程度ならまもなく復帰して来ます。

骨が折れるあるいは骨を切るということは回復や復帰に大変時間を要するのです。

ミックスMICSが患者さんに有利なのは当然かも知れません。

 .

右の小開胸はもちろんですが、

胸骨部分切開でも患者さんの復帰は早いという印象があります。

これは胸骨の下半分はまったく切らないため、

骨の安定が良く、痛みも軽く、治りも早くなるためと思われます。

.

◾️ミックスの術後社会復帰が早いわけ2

.

 もうひとつ考えら 199696376れるのは、やはり痛みが少ないためでしょう。 

患者さんは前向きに積極的に仕事やスポーツなどの社会復帰に意欲がわくのです。

 .

これは上記のように骨を切らないあるいは

切っても一部であるため

骨からの痛みが少ないことが影響しているようです。

  .A302_078

さらに、皮膚からの痛みが大きく減ります。

皮膚を切る長さが半分から3分の1まで減るわけですから理解できることです。

これに加えてポートアクセス法などの右小開胸では肋間神経ブロックを行い、しばらくの間、肋間神経をマヒさせますから、痛みはやわらぐわけです。

皮膚は痛みの神経が多数ついており、

体の中でも一番痛みに敏感な臓器ですから

皮膚にやさしい心臓手術は患者さんにやさしくなるわけです。

.

◾️ミックスの術後社会復帰が早いわけ3

.

さらに皮膚や骨を小さくしか切らないあ 209281729るいは全然切らないため、

ばい菌による感染が減り、

また心臓への刺激が少なくなり不整脈の発生も多少とも抑えやすいことが可能性として考えられます。

.

これはまだ検証が必要ですが、

少なくとも骨をまったく切らない右小開胸の場合、

骨の感染はゼロですから

縦隔炎などの危険な合併症が未然に防げるという大きなメリットが考えられます。

.

◾️ミックスの術後社会復帰が早いわけ4

 .

もう一点、意外に見落としがちなのは、 139763113

小さな創をみて

患者さんがこんな小さな創なら大丈夫!

と自信をつけられることがあります。

気持ちが後ろ向きにならず、

どんどん健康生活を取り返す意欲がわくというのは大切と思います。

 .

A301_066たとえばゴルフなどのスポーツにも早く復帰できますし、

ゴルフのあと仲間と一緒にお風呂に入っても

創が見えにくいためお互いあまり気にもならないし

聞かれることも少ないので精神的ストレスが小さい

というご感想を頂いたことがあります。

.

身内に大きな正中切開による心臓手術を受けたかたで、

そのストレスをよく御存じだったようです。

若い患者さんの場合は、海へ泳ぎに行ってもあまり気にならない、ストレスを感じないという声もありました。

.

◾️ミックスの術後社会復帰、まとめ

.

このようにミックス(MICS)やポ A301_071ートアクセスによる心臓手術では

早い社会復帰が得られやすく、

今後も安全が確保できるケースではどんどん進めて行きたく考えています。

 .

なお現在私たちのチームで何らかのミックス手術が使える手術は以下の通りです:

僧帽弁形成術同置換術

大動脈弁形成術同置換術

デービット手術ベントール手術

メイズ手術三尖弁形成術同置換術

ASD心房中隔欠損症VSD心室中隔欠損症三心房心、その他です。心臓弁膜症だけでなく先天性心疾患など多岐にわたります。

ミックスの代表例ともいえるポートアクセス法による僧帽弁形成術の標準的手術事例をしめします。また視野出しがやや難しい事例比較的複雑な弁形成事例もご参照ください。

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  その位置づけ
  
  同法が前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

  ハートポートとは
  
  ミックスは危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成術

  同、弁置換術

  同、メイズ手術

  ポートアクセスによる弁形成術

大動脈弁

  ミックスによる弁置換術

  同、弁形成術

  同、デービッド手術

ポートアクセス法による弁置換術

 
三尖弁

  ミックス法による弁形成術

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法のオペを受けられた患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り62: 同、弁形成術と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートの複雑弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同、弁形成で元気になられた患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り67: ミックスで右室二腔症の手術を受けられた患者さん

お便り68: ポートアクセスでの形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

お便り71: 同法で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術を同法で受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動を同法で克服

お便り74: ポートで弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

 

 

 

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両弁尖形成術(Bileaflet Optimization)とは――難病克服への努力を

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両弁尖形成術(Bileaflet  Optimizaiton)は

虚血性僧帽弁閉鎖不全症あるいは機能性僧帽弁閉鎖不全症の解決のために私たちが開発した新しい心臓手術です。

これはこれまでに発表して参りました腱索転位法Chordal Translocationをさらに改良し、

より高い効果をより安全にあげるための手術法です。

できるだけ患者さんの体力に負担をかけないようにすること、

そしてしかも左室の保護やパワーアップに役立つようにすること、

の2点を考えた結果です。

 

虚血性僧帽弁閉鎖不全症の患者さんは心筋梗塞の後の状態で、

かつ弁の逆流のため心機能も全身も弱っておられます。

しかも弁の修復が通常の僧帽弁閉鎖不全症とは違うため

これまで成績がなかなか改善しませんでした。

 

腱索転位法 Chordal Translocationを2000年代の半ばに開発し、

治療の成績がかなり安定しました。

しかしそのころ次第に明らかにされた僧帽弁後尖のテント化が逆流の再発をおこし、

課題になっていました。

転位法では乳頭筋を前方へ吊り上げるため、

他の方法よりも後尖のテント化が起こりにくく、

左室を拡張から守るというメリットもあり(実験でも証明しました)

これまでは一番安定した成績を上げやすいと考えていました。

これは海外の主要ジャーナルでも発表しました(英語論文187番、193番、225番、232番、236番など。開発の歴史のページをご参照ください)。

一般に行われているリングをもちいた僧帽弁形成術よりは

明らかに良好な成績をあげていました。

 

Bileaflet Optimization しかしそれでも

重症例になると後尖のテント化の治療には十分とは言えず、

そこから開発したのが両弁尖形成術 Bileaflet Optimization法です

(左図の真ん中の方法、右側が従来の僧帽弁輪形成術です)。

 

  この両弁尖形成術 Bileaflet Optimizationは僧帽弁を支える2つの乳頭筋つまり前乳頭筋と後乳頭筋が

それぞれ前尖をささえる枝(しばしばヘッドと呼びます)と後尖を支えるヘッドを持っていることに着目し、

まず前尖ヘッドと後尖ヘッドをつなぎ、

あとはこれまでの腱索転位と同様に前つまり僧帽弁輪前中央へ吊り上げるのです。

 

これにより僧帽弁は前尖だけでなく後尖まできれいに開くようになり、

逆流の解決のみならず弁が狭くなることも防げるのです。

 

しかも、この両弁尖形成術 Bileaflet Optimization法では左室の大きさや形を守る作用もあるため、

虚血性僧帽弁閉鎖不全症の病気の本質である心室の弱さをある程度治すあるいは守るというメリットもあるのです。

もちろん弁の逆流を解消することで心室がうんと楽になり、

良くなることは言うまでもありません。

共同研究チームである川崎医大循環器内科の吉田清教授や

尾長谷喜久子先生、斉藤顕先生らのお力添えは極めて大きいものがあり

この場を借りて感謝申し上げます。

 

Mysterious IMR この手術法は2011年の米国胸部外科学会の僧帽弁シンポジウムとも言われるMitral Conclaveにて発表させていただきました。

さらに同年の日本心臓病学会のパネルディスカッションで

共同研究者の尾長谷先生が、

また教育講演(右写真はそのときの表紙のスライドです)で私、米田正始が詳しく発表し

多くの先生方からありがたいコメントを頂きました。

 

このようにいいことずくめのような両弁尖形成術 Bileaflet Optimizationですが、

課題もまだあります。

たとえばこの手術は左室の中での操作が多く、深いところでの作業となるため、

僧帽弁形成術と虚血の心臓に熟練した心臓外科医でなければできないほど

デリケートな一面があります。

 

また患者さんによっては乳頭筋の構造がこの術式に合わないことがまれにあります。

現在その課題を解決すべく手術法を改良しており、すでに実績が上がりつつあります。

こうして今後さらに安全性と効果の安定性を向上させるつもりです。

 

なおこの手術術式は、専門家の先生方のご意見をいただき、乳頭筋先端形成術または乳頭筋適正化手術(Papillary Heads Optimization、略称PHO)と改名いたしました。

この方がより正確に手術内容を示しているからです。今後はこちらの名前で呼んで頂けましたら幸いです。こちらをご覧ください

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第59回日本心臓病学会の印象記

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59thJCCpresident 日本の臨床心臓病のトップの学会と言われる日本心臓病学会が

この9月23日から25日まで神戸で開催されました。

会長は川崎医科大学循環器科教授の吉田清先生(写真)で、

臨床や臨床研究にちからを入れて来られた吉田先生のスタンスがよく反映された、

患者さんのための心臓病学を意識した内容でした。

メインテーマ「臨床心臓病学を極める」は

まさに同先生のライフワークそのもので充実感あふれる学術集会になったと思います。

 

  私自身が直接関与させて頂いたセッションの印象記を以下にお書きします。

 

まずYIAつまり若い先生方の将来性ある研究のコンテストでは

臨床研究から基礎研究まで優れた、興味深い研究が多く、

予選の段階から優劣をつけるのが申し訳ない気持ちになるような力作ぞろいでした。

しかしコンテストですから客観的に点数をつけ、

4人の若手が最終選考に残られました。

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の新たな方法や、

iPS細胞から誘導した心筋細胞がQT延長症候群の治療に役立つことを示唆したもの、

あるいは周産期心筋症の発生と高血圧の関連を示した全国レベルの臨床研究、

そして薬剤溶出ステントの再狭窄の早期発見に血漿BNPが役立つことを示した研究などがあり、

いずれも優れた内容をもっていました。

最終的にアブレーションの研究が選ばれました。

どの方々にも益々の進展を期待したく思いました。

 

一日目午後のパネルディスカッション2「最新の弁膜症治療:外科治療からカテーテル治療まで」では

優れた演題に交じって私たちと川崎医大循環器内科の先生方(尾長谷先生、斉藤顕先生、吉田清先生ら)との共同研究も発表されました。

同科の尾長谷喜久子先生が機能性僧帽弁59thJCC閉鎖不全症に対する両弁尖形成法(Bileaflet Optimization法)を3次元エコーや手術ビデオを含めて発表され、

良い反響を戴きました。

 

このパネルディスカッションでは

産業医大の竹内正明先生が3D経食エコーの有用性を弁膜症からTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)への応用まで含めて講演されました。

心エコーもここまで進化したと感慨深いものがありました。

 

また鹿児島大学の窪田佳代子先生は

虚血性僧帽弁閉鎖不全症のテザリングとくに拡張期のそれが機能性僧帽弁狭窄を発生させることを示され、

同チームのこれまでのご研究をもとにして上記のBileaflet Optimizationを開発し

問題の解決に取り組んできた私たちにとっても貴重なご発表でした。

 

北海道大学の松居喜郎先生は虚血性MRに対する乳頭筋接合術や左室形成術の有効性を発表されました。

また乳頭筋の吊り上げに対しても必要に応じて使用しておられ、

同じ方向性で努力しておられることをうれしく思いました。

虚血性MRは弁膜症の顔をした左室の病気であるため、

私たちも賛同できることが多く、力を頂いたように思います。

 

榊原記念病院の加瀬川均先生は心膜で作成したステントレス弁の臨床試験例を報告されました。

私(米田正始)もこの僧帽弁ステントレス弁をトロント時代に研究していたため、

大変興味深く拝聴し、今後共同研究に参加させて頂くことになりそうです。

将来的には弁形成術とならぶ弁膜症手術の軸になるよう努めたいものです。

 

最後に大阪大学の倉谷徹先生がハイリスクの大動脈弁狭窄症に対するTAVIの臨床試験の結果を報告され、

今後有望な治療法であることを示されました。

 

このように弁膜症治療の新たな展開が見られるだけでなく、

内科と外科あるいは大学や病院が協力してより進化した弁膜症治療を求める素晴らしいパネルだったと思います。

 

その日の午後に教育講演として、私、米田正始が「虚血性僧帽弁閉鎖不全症」のお話をさせて頂きました。

広義の弁膜症のなかでもっとも複雑で不思議なこの病気を、

シルクロードで旅人を迷わせたロプノール湖にたとえてお話しさせていただきました。

そして1960年代のBurch先生の乳頭筋不全から始まり、

1980年代からは心エコーが病態解明に大きな貢献をし、

今日の進んだ僧帽弁形成術に至った経過をお話ししました。

さらに現在残された課題のひとつである後尖のテザリングに対して

私たちが川崎医大の先生方と共同開発した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization)を解説し、

今後さらに進めていくべき方向性にまで言及させていただきました。

 

弁膜症といってもこの病気は心筋症・心不全という左心室の病気でもあり、

この解明と解決には内科、外科、はじめ集学的なチーム医療が必要であることもお話ししました。

 

講演のあと、多くの先生方から前向きのご質問やコメントをいただき、

そのあと別のところでも講演を聴かせてもらったよと激励のお言葉を頂戴し、

光栄に思った一日でした。

 

一日目夜の会長主催ディナーでは多くの先生方と懇談できうれしいことでした。

私のテーブルは外科の先生がほとんどで、仲間内で好きなことを雑談できました。

そのときにStanford大学のPeter Fitzgerald先生と久しぶりにお話することができ、

大学病院から民間専門病院へ移って具体的にどういう進展があったか質問いただき、

ここまで実現できたことをお話しし、喜んで頂けたのは光栄なことでした。

優れたエコーが外科医を育てることをお話ししますとガッツポーズを戴きました。

川崎医大の大倉先生と英語のきれいな女医さん(お名前わからずすみません)の軽快な司会が光っていました。

 

翌日の朝いちばんには若い先生方がこれから大きく展開されることを願ったキャリアパスのシンポジウムが行われ、

和歌山医大の赤坂教授と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

鹿児島大学の尾辻豊先生、府中恵仁会病院の本江純子先生、スタンフォード大学の本多康浩先生、そして湘南鎌倉総合病院の斉藤滋先生という、

錚々たる、しかも多様な顔ぶれでした。

 

個々のの先生方はそれぞれユニークな道を歩んでこられたとも言えますが、

困難に直面しても夢を失わず、努力や工夫を重ねて問題を解決し、

人生を切り拓いていかれたことは見事に共通していました。

座長の特権でちょっとつまらぬコメントをさせて頂きました。

それは、私の研修医時代にある先輩から「どんなところでも育つひとは育つよ」という一言でした。

これは教える立場の人が言ってはいけないことと思いますが、

学ぶ立場の人にはぜひ知っておいて戴きたいことで、

このシンポジウムの4名の先生方はおそらくどんな環境でも展開されるだけの夢や情熱、信念を持っておられたからこそ今日の姿がある、

ということをお伝えしたくコメント致しました。

 

この学会ではその他にも多数の優れたセッションぞろいでした。

たとえばDES(薬剤溶出ステント)時代の冠動脈生理やアジアエコー、

冠動脈CT・MRI・RIのセッション、

大阪大学の小室一成先生と医仁会武田総合病院の河合忠一先生らによる循環器タイムトラベルフォーラム、

心房細動への最新アプローチ、

左主幹部病変に対する治療はPCIか外科治療かのセッション、

心臓移植の現状、

そしてもちろん吉田清先生の会長講演など山のような内容でした。

 

立派な機会を下さった吉田先生はじめ川崎医大の先生方と日本心臓病学会の先生方に厚く御礼申し上げます。

ありがとうございました。

2011年9月25日記

 

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